(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024163673
(43)【公開日】2024-11-22
(54)【発明の名称】光学系および撮像装置
(51)【国際特許分類】
G02B 13/02 20060101AFI20241115BHJP
G02B 13/18 20060101ALI20241115BHJP
【FI】
G02B13/02
G02B13/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023079491
(22)【出願日】2023-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110412
【弁理士】
【氏名又は名称】藤元 亮輔
(74)【代理人】
【識別番号】100104628
【弁理士】
【氏名又は名称】水本 敦也
(74)【代理人】
【識別番号】100121614
【弁理士】
【氏名又は名称】平山 倫也
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 匠
【テーマコード(参考)】
2H087
【Fターム(参考)】
2H087KA01
2H087KA06
2H087LA02
2H087MA07
2H087NA07
2H087PA11
2H087PA12
2H087PA13
2H087PA16
2H087PB16
2H087PB17
2H087QA02
2H087QA06
2H087QA07
2H087QA12
2H087QA21
2H087QA26
2H087QA34
2H087QA37
2H087QA39
2H087QA41
2H087QA42
2H087QA46
2H087RA04
2H087RA05
2H087RA12
2H087RA13
2H087RA32
2H087RA44
(57)【要約】
【課題】十分な口径比を有しつつも諸収差を良好に補正できる小型の光学系を提供する。
【解決手段】光学系は、正の屈折力の第1レンズ群L1と、負の屈折力の第2レンズ群L2と、後レンズ群LRからなる。第1レンズ群は、第1部分レンズ群L1Aと、第2部分レンズ群L1Bと、第3部分レンズ群L1Cを有し、第1部分レンズ群と第2部分レンズ群との間には第1レンズ群内で最大の光軸上の空気間隔があり、第2部分レンズ群と第3部分レンズ群との間には第1レンズ群内で2番目に広い光軸上の空気間隔がある。第2レンズ群L2はフォーカシングに際して移動する。第1レンズ群の焦点距離f1、第1部分レンズ群の焦点距離f1Aおよび第2部分レンズ群の焦点距離f1Bは、1.0≦f1A/f1≦2.0および-0.6≦f1A/f1B<0なる条件を満足する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体側から像側へ順に配置された、正の屈折力の第1レンズ群と、負の屈折力の第2レンズ群と、後レンズ群からなる光学系であって、
前記第1レンズ群は、物体側から像側へ順に配置された、第1部分レンズ群と、第2部分レンズ群と、第3部分レンズ群を有し、前記第1部分レンズ群と前記第2部分レンズ群との間には前記第1レンズ群内で最大の光軸上の空気間隔があり、前記第2部分レンズ群と前記第3部分レンズ群との間には前記第1レンズ群内で2番目に広い光軸上の空気間隔があり、
前記第2レンズ群L2はフォーカシングに際して移動し、
前記第1レンズ群の焦点距離をf1、前記第1部分レンズ群の焦点距離をf1A、前記第2部分レンズ群の焦点距離をf1Bとするとき、
1.0≦f1A/f1≦2.0
-0.6≦f1A/f1B<0
なる条件を満足することを特徴とする光学系。
【請求項2】
前記光学系の焦点距離をfとするとき、
0.30≦f1A/f≦0.75
なる条件を満足することを特徴とする請求項1に記載の光学系。
【請求項3】
前記第1部分レンズ群と前記第2部分レンズ群との間の前記空気間隔をD1AB、前記第2部分レンズ群と前記第3部分レンズ群との間の前記空気間隔をD1BCとするとき、
1.3≦D1AB/D1BC≦7.0
なる条件を満足することを特徴とする請求項1に記載の光学系。
【請求項4】
前記第2レンズ群L2の焦点距離をf2とするとき、。
-0.95≦f2/f1≦-0.40
なる条件を満足することを特徴とする請求項1に記載の光学系。
【請求項5】
前記光学系の光学全長をLD、前記光学系の焦点距離をfとするとき、
0.5≦LD/f≦1.2
なる条件を満足することを特徴とする請求項1に記載の光学系。
【請求項6】
前記光学系の焦点距離をfとするとき、
0.20≦f1/f≦0.50
なる条件を満足することを特徴とする請求項1に記載の光学系。
【請求項7】
前記第1部分レンズ群と前記第2部分レンズ群との間の前記空気間隔をD1AB、前記第2部分レンズ群と前記第3部分レンズ群との間の前記空気間隔をD1BC、前記空気間隔D1ABと空気間隔をD1BCの和をD1Air、前記第1レンズ群の光軸上の厚さをD1とするとき、
0.6≦D1Air/D1<1.0
なる条件を満足することを特徴とする請求項1に記載の光学系。
【請求項8】
前記第3部分レンズ群における最も物体側に正レンズが配置され、該正レンズのd線における屈折率をnd1CPとするとき、
1.30≦ Nd1CP≦1.65
なる条件を満足することを特徴とする請求項1に記載の光学系。
【請求項9】
前記第3部分レンズ群における最も物体側に正レンズが配置され、該正レンズのd線を基準とするアッベ数をνd1CPとするとき、
65.00≦ νd1CP≦90.00
なる条件を満足することを特徴とする請求項1に記載の光学系。
【請求項10】
前記第3レンズ群は非球面を有するレンズを含み、該非球面の非球面量の最大値の絶対値をDRMAXとするとき、
0.000<DRMAX≦0.080
なる条件を満足することを特徴とする請求項1に記載の光学系。
【請求項11】
前記第1レンズ群に含まれる1つ以上のレンズのうち正の屈折力が最も強いレンズの物体側のレンズ面の曲率半径をR1、像側のレンズ面の曲率半径をR2とするとき、
-2.00≦(R2+R1)/(R2-R1)≦-0.08
なる条件を満足することを特徴とする請求項1に記載の光学系。
【請求項12】
前記光学系が無限遠に合焦した状態での該光学系のバックフォーカスをsk、前記光学系の光学全長をLDとするとき、
0.05≦sk/LD≦0.24
なる条件を満足することを特徴とする請求項1に記載の光学系。
【請求項13】
前記第1部分レンズ群は正の屈折力を有し、前記第2部分レンズ群は負の屈折力を有し、前記第3部分レンズ群は正の屈折力を有することを特徴とする請求項1に記載の光学系。
【請求項14】
前記第2部分レンズ群は、1つの負レンズと2つの正レンズからなることを特徴とする請求項1に記載の光学系。
【請求項15】
前記第3部分レンズ群は、最も像側に非球面レンズを有することを特徴とする請求項1に記載の光学系。
【請求項16】
前記第2レンズ群L2は、1つの負レンズからなることを特徴とする請求項1に記載の光学系。
【請求項17】
前記後レンズ群における最も像側のレンズの像側のレンズ面は、像側に向かって凸形状の面であることを特徴とする請求項1に記載の光学系。
【請求項18】
前記第2レンズ群は、最も物体側に開口絞りを有することを特徴とする請求項1に記載の光学系。
【請求項19】
前記開口絞りに対して像側において隣り合うレンズは、正レンズと負レンズの接合レンズであることを特徴とする請求項1に記載の光学系。
【請求項20】
前記後レンズ群は、正または負の屈折力を有することを特徴とする請求項1に記載の光学系。
【請求項21】
請求項1から20のいずれか一項に記載の光学系と、
該光学系を通して被写体を撮像する撮像素子とを有することを特徴とする撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタルスチルカメラ、ビデオカメラ、監視用カメラおよび車載カメラ等の撮像装置に好適な光学系に関する。
【背景技術】
【0002】
小型の望遠レンズとして、物体側から像側へ順に配置された、正の屈折力の第1レンズ群、負の屈折力を有してフォーカシングにおいて移動する第2レンズ群および正の屈折力の第3レンズ群を有する光学系が開示されている。また、動画撮像や防塵防滴に有利な光学系として、最も物体側の第1レンズ群よりも像側のレンズ群を移動させてフォーカシングを行うインナーフォーカス方式またはリアフォーカス方式を採用した光学系が開示されている。これらの光学系は、球面収差や色収差等の諸収差を良好に補正している。また、光学系には、手振れ等のカメラ振れに起因する像振れを低減(補正)するための防振機能を有する場合がある。さらにこれらの光学系には、大口径比と高い光学性能を有することも求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6961441号公報
【特許文献2】国際公開第2021/220612号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の光学系は、口径比は大きいものの全体として大型である。口径比を適切に設定したままでの光学系の小型化は困難である。
【0005】
特許文献2の光学系は、小型ではあるが口径比が小さい。口径比を拡大すると、球面収差や色収差の増加を招き、高い光学性能を確保することが困難となる。
【0006】
本発明は、十分な口径比を有しつつも諸収差を良好に補正できる小型軽量の光学系を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面としての光学系は、物体側から像側へ順に配置された、正の屈折力の第1レンズ群と、負の屈折力の第2レンズ群と、後レンズ群からなる。第1レンズ群は、物体側から像側へ順に配置された、第1部分レンズ群と、第2部分レンズ群と、第3部分レンズ群を有し、第1部分レンズ群と第2部分レンズ群との間には第1レンズ群内で最大の光軸上の空気間隔があり、第2部分レンズ群と第3部分レンズ群との間には第1レンズ群内で2番目に広い光軸上の空気間隔がある。第2レンズ群L2はフォーカシングに際して移動する。第1レンズ群の焦点距離をf1、第1部分レンズ群の焦点距離をf1A、第2部分レンズ群の焦点距離をf1Bとするとき、
1.0≦f1A/f1≦2.0
-0.6≦f1A/f1B<0
なる条件を満足することを特徴とする。なお、上記光学系を通して被写体を撮像する撮像装置も、本発明の他の一側面を構成する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、十分な口径比を有しつつも諸収差を良好に補正できる小型軽量の光学系を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図16】非球面形状に対する条件式の算出方法を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施例について図面を参照しながら説明する。具体的な実施例1~7の説明に先立って、各実施例に共通する事項について、実施例1の光学系を示す
図1を用いて説明する。
【0011】
各実施例の光学系は、ビデオカメラ、デジタルスチルカメラ、放送用カメラ、監視用カメラ、車載カメラおよび銀塩フィルムカメラ等の撮像装置に撮像光学系として用いられる。である。ただし、各実施例の光学系を画像投射装置(プロジェクタ)の投射光学系として用いることもできる。
【0012】
各実施例の光学系において、レンズ群はフォーカシングやズーミングに際して不動の又は移動する1または複数のレンズのまとまりであり、フォーカシングやズーミングに際して隣り合うレンズ群の間隔が変化する。レンズ群は、開口絞りを含んでもよい。また、フォーカシングにおける無限遠側の端と至近側の端はそれぞれ、フォーカシングに際して移動するレンズ群が光軸上を機構上または制御上、移動可能な範囲の両端の位置する状態を示す。
【0013】
図1において、撮像光学系では、左側が物体側(前側)で、右側が像側(後側)である。また、iを物体側から数えたレンズ群の順番とすると、Liは第iレンズ群を示す。なお、投射光学系においては、物体側を拡大共役側と言い換え、像側を縮小共役側と言い換える。
【0014】
各実施例の光学系は、物体側から像側へ順に配置された、正の屈折力(屈折力は焦点距離の逆数)の第1レンズ群L1と、負の屈折力の第2レンズ群L2と、後レンズ群LRとを有する。第1レンズ群L1は、物体側から像側へ順に配置された、第1部分レンズ群L1Aと、第2部分レンズ群L1Bと、第3部分レンズ群L1Cとを有する。第1部分レンズ群L1Aと第2部分レンズ群L1Bは第1レンズ群L1内で最大の光軸上の空気間隔を隔てて配置されており、第2部分レンズ群L1Bと第3部分レンズ群L1Cは光学系内で2番目に広い光軸上の空気間隔を隔てて配置されている。各実施例の光学系は、単焦点レンズである。
【0015】
無限遠から至近へのフォーカシングに際して、第2レンズ群L2が物体側から像側へ移動する。「Focus」を付した矢印は、無限遠から至近へのフォーカシングに際して第2レンズ群の移動方向を示している。
【0016】
SPは開放Fナンバー(Fno)の光束を決定(制限)する開口絞りである。IPは像面である。像面IPには、CCDセンサやCMOSセンサ等の固体撮像素子(光電変換素子)の撮像面や銀塩フィルムのフィルム面に相当する感光面が配置される。
【0017】
上記構成を有する各実施例の光学系は、第1レンズ群L1の焦点距離をf1、第1部分レンズ群L1Aの焦点距離をf1A、第2部分レンズ群L1Bの焦点距離をf1Bとするとき、以下の条件を満足する。
【0018】
1.0≦f1A/f1≦≦2.0 (1)
-0.6≦f1A/f1B<0 (2)
各実施例の光学系は、その光学全長(以下、レンズ全長という)を短縮しつつ、諸収差を良好に補正するために、物体側から順に、正、負および正の屈折力を有するレンズ群が配置された構成を有する。第1レンズ群L1は、球面収差、コマ収差および色収差(倍率色収差等)を効果的に補正する。また、物体側のレンズほど大径化するため、光学系の軽量化のために、第1部分レンズ群L1Aを構成するレンズの数を削減し、第2部分レンズ群L1Bや第3部分レンズ群L1Cに多くの数のレンズを配置することで、球面収差や色収差の補正と軽量化とを両立している。また、第3部分レンズ群L1Cに、アッベ数と部分分散比が高い硝材を用いた非球面レンズを配置することで、球面収差と色収差に対する強い補正効果を持たせている。これにより、第1レンズ群L1に含まれるレンズの数をより削減して、さらに小型軽量化している。
【0019】
また、負の屈折力を有する第2レンズ群L2をフォーカシング群とすることで、フォーカシング群を軽量化している。特に、第1レンズ群L1で効果的に球面収差や軸上色収差の発生を抑制することで、フォーカシング群を単一レンズで構成することができ、さらなる軽量化が可能となる。
【0020】
式(1)の条件は、第1レンズ群L1内の第1部分レンズ群L1Aの焦点距離f1Aと第1レンズ群L1の焦点距離f1との比の適切な範囲を示しており、小型化と高い光学性能の確保を両立するために満足すべき条件である。f1A/f1が式(1)の上限を上回ると、球面収差等の抑制は可能となるが、第1部分レンズ群L1Aの屈折力が弱くなりすぎて光学系全体の小型化が困難となるため、好ましくない。f1A/f1が式(1)の下限を下回ると、第1部分レンズ群L1Aの屈折力が強くなりすぎて、小型化は可能となるが、球面収差等の抑制が困難となるため、好ましくない。
【0021】
式(2)は、第1レンズ群L1内の第1部分レンズ群L1Aの焦点距離f1Aと第2部分レンズ群L1Bの焦点距離f1Bとの比の適切な範囲を示し、小型化と高い光学性能の確保を両立するために満足すべき条件である。f1A/f1Bが式(2)の上限を上回ると、球面収差等の抑制は可能となるが、第1部分レンズ群L1Aと第2部分レンズ群L1Bのテレフォト効果が弱まり、光学系全体の小型化が困難となるため好ましくない。f1A/f1Bが式(2)の下限を下回ると、第1部分レンズ群L1Aと第2部分レンズ群L1Bのテレフォト効果が強まることで小型化は可能となるが、球面収差等の抑制が困難となるため、好ましくない。
【0022】
なお、式(1)、(2)の数値範囲を以下のように設定するとより好ましい。
【0023】
1.10≦f1A/f1≦1.95 (1a)
-0.56≦f1A/f1B≦-0.05 (2a)
また、式(1)、(2)の数値範囲を以下のように設定するとさらに好ましい。
【0024】
1.15≦f1A/f1≦1.90 (1b)
-0.52≦f1A/f1B≦-0.10 (2b)
式(1a)、(1b)の条件を満足することにより、軸上色収差を抑えつつ球面収差やコマ収差を抑制する効果がより得られる。また式(2a)、(2b)の条件を満足することにより、色収差の発生を抑えつつレンズ全長を短縮する効果がより得られる。
【0025】
以上のように、各レンズ群の配置と構成を適切とし、式(1)、(2)の条件を同時に満足することにより、十分な口径比を有しつつも球面収差や色収差等の諸収差を良好に補正できる小型軽量の光学系を実現することができる。
【0026】
各実施例の光学系は、式(1)、(2)の条件に加えて、以下の式(1)~(13)の条件のうち少なくとも1つを満足することが好ましい。以下、光学系の焦点距離をf、第2レンズ群L2の焦点距離をf2とする。第1レンズ群L1内の第1部分レンズ群L1Aと第2部分レンズ群L1B間の光軸上の空気間隔をD1AB、第2部分レンズ群L1Bと第3部分レンズ群L1C間の光軸上の空気間隔をD1BCとする。
【0027】
光学系の全長であるレンズ全長をLDとする。レンズ全長は、光学系における最も物体側のレンズ面(最前面)から像面IPまでの光軸上の距離である。第1レンズ群L1内の空気間隔D1ABと空気間隔D1BCの和をD1Air、第1レンズ群L1の光軸上の厚さをD1とする。
【0028】
第1部分レンズ群L1Cにおいて最も物体側に配置された正の屈折力を有するレンズのd線における屈折率をnd1CP、同レンズのd線を基準とするアッベ数をνd1CPとする。d線を基準とするアッベ数νdは、フラウンホーファ線のd線(587.6nm)、F線(486.1nm)、C線(656.3nm)における屈折率をNd、NF、NCとするとき、νd=(Nd-1)/(NF-NC)で表される。
【0029】
第1レンズ群L1に含まれる非球面レンズの非球面量の絶対値の最大値をDRMAXとする。第1レンズ群L1に含まれるレンズのうち正の屈折力が最も強いレンズをGPとし、該レンズGPのシェープファクタをSF1APとする。レンズGPの物体側の曲率半径をGPR1、像側の曲率半径をGPR2とする。非球面量およびシェープファクタについては後述する。
【0030】
無限遠に合焦した状態での光学系のバックフォーカスをskとする。バックフォーカスは、光学系の最も像側のレンズ面(最終面)から像面IPまでの光軸上の距離である。光学系と像面IPとの間に屈折力が無い又は極めて弱いガラスブロック(光学フィルタやプリズム等)が配置されている場合は、バックフォーカスを、ガラスブロックの長さを空気換算して計算する。
【0031】
0.30≦f1A/f≦0.75 (3)
1.3≦D1AB/D1BC≦7.0 (4)
-0.95≦f2/f1≦-0.40 (5)
0.5≦LD/f≦1.2 (6)
0.20≦f1/f≦0.50 (7)
0.6≦D1Air/D1<1.0 (8)
1.30≦Nd1CP≦1.65 (9)
65.00≦νd1CP≦100.00 (10)
0.000<DRMAX≦0.080 (11)
-2.00≦(R2+R1)/(R2-R1)≦-0.08 (12)
0.05≦sk/LD≦0.24 (13)
図16を用いて非球面量について説明する。非球面量DRは、レンズの非球面における有効径位置Pと該レンズの面頂点とを結んだ球面である参照球面上の任意の位置Xと、その位置と同一高さにおける非球面における位置Xrとの光軸方向での差である。非球面量は。
図16に示すように、DR=X-Xrで表される。各実施例では、非球面レンズの非球面量の絶対値の最大値をDRMAXとする。
【0032】
また、第1レンズ群L1に含まれるレンズのうち正の屈折力が最も強いレンズGPのシェープファクタSF1APは、該レンズGPの物体側のレンズ面の曲率半径をR1、像側のレンズ面の曲率半径をR2とするとき、次式で定義される。
【0033】
SF1AP=(R2+R1)/(R2-R1)
レンズ面が非球面である場合は、曲率半径として、そのレンズ面のベース半径(基準となる2次曲面の半径)の曲率半径を用いる。
【0034】
式(3)の条件は、第1レンズ群L1内の第1部分レンズ群L1Aの焦点距離f1Aと光学系全系の焦点距離fとの比の適切な範囲を示し、小型化と高い光学性能の確保を両立するための条件である。f1A/fが式(3)の上限を上回ると、球面収差等の抑制は可能となるが、第1部分レンズ群L1Aの屈折力が弱くなりすぎて光学系全体の小型化が困難となるため、好ましくない。f1A/fが式(3)の下限を下回ると、第1部分レンズ群L1Aの屈折力が強くなりすぎて、小型化は可能となるが、球面収差等の抑制が困難となるため、好ましくない。
【0035】
式(4)の条件は、第1レンズ群L1内の第1部分レンズ群L1Aと第2部分レンズ群L1B間の空気間隔D1ABと第2部分レンズ群L1Bと第3部分レンズ群L1C間の空気間隔D1BCとの比の適切な範囲を示しており、小型化と高い光学性能の確保を両立するための条件である。D1AB/D1BCが式(4)の上限を超えると、第1部分レンズ群L1Bを像側に配置することとなり、小型化は可能となるが、第1部分レンズ群L1Bに入射する光線の高さが低くなって球面収差等の抑制が困難となるため、好ましくない。D1AB/D1BCが式(4)の下限を下回ると、第1部分レンズ群L1Bを物体側に配置することとなり、第1部分レンズ群L1Bに入射する光線の高さが高くなる。この結果、球面収差等の抑制は可能となるが、光学系の小型化が困難となるため、好ましくない。
【0036】
式(5)の条件は、第1レンズ群L1と第2レンズ群L2の焦点距離f1、f2の適切な範囲を示し、小型化と高い光学性能の確保を両立するための条件である。f2/f1が式(5)の上限を上回ると、テレフォト効果が強くなり、光学系の小型化は可能となるが、色収差等の抑制が困難となるため、好ましくない。f2/f1が式(5)の下限を下回ると、テレフォト効果が弱まり、色収差等の抑制は可能となるが、光学系の小型化が困難となるため、好ましくない。
【0037】
式(6)は、レンズ全長LDと光学系全系の焦点距離fとの比の適切な範囲を示し、小型化と高い光学性能の確保を両立するための条件である。LD/fが式(6)の上限を上回ると、レンズ全長が長くなり、球面収差等の諸収差の抑制には効果的であるが、光学系の小型化が困難となるため、好ましくない。LD/fが式(6)の下限を下回ると、レンズ全長が短くなり、光学系の小型化は可能となるが、球面収差等の諸収差の抑制が困難となるため、好ましくない。
【0038】
式(7)は、第1レンズ群L1と光学系全系の焦点距離f1、fの比の適切な範囲を示し、小型化と高い光学性能の確保を両立するための条件である。f1/fが式(7)の上限を上回ると、球面収差等の抑制は可能となるが、第1レンズ群L1の屈折力が弱くなり、光学系の小型化が困難となるため、好ましくない。f1/fが式(7)の下限を下回ると、第1レンズ群L1の屈折力が強くなり、光学系の小型化は可能となるが、球面収差等の抑制が困難となるため、好ましくない。
【0039】
式(8)は、第1レンズ群L1内の空気間隔の総和(D1AB+D1BC)D1Airと第1レンズ群L1の厚さD1との比の適切な範囲を示し、軽量化と高い光学性能の確保を両立するための条件である。D1Air/D1が式(8)の上限を上回ると、レンズ数の削減による軽量化は期待できるが、球面収差や色収差等の諸収差の抑制が困難となるため、好ましくない。また、D1Air/D1が式(8)の下限を下回ると、レンズ数が増加することで、球面収差や色収差等の諸収差の抑制は可能となるが、軽量化が困難となるため、好ましくない。
【0040】
式(9)は、第1レンズ群L1内の第1部分レンズ群L1Cにおける最も物体側の正レンズの屈折率nd1CPの適切な範囲を示し、球面収差やコマ収差を良好に抑えつつ、小型化を図るための条件である。Nd1CPが式(9)の上限を上回るように正レンズの材料の屈折率が高くなると、諸収差の補正には有利であるが、アッベ数が不足して軸上色収差や倍率色収差の補正、特に二次スペクトルの補正が困難となる。この結果、所望の光学性能を確保するためには、全系の大型化やレンズ数の増加を招くため、好ましくない。Nd1CPが式(9)の下限を下回るように正レンズの材料の屈折率が低くなると、軸上色収差の補正には有利であるが、像面湾曲や歪曲収差の補正が困難になるため、好ましくない。
【0041】
式(10)は、第1レンズ群L1内の第1部分レンズ群L1Cにおける最も物体側の正レンズのアッベ数νd1CPの適切な範囲を示し、球面収差やコマ収差を良好に抑えつつ、小型化を図るための条件である。νd1CPが式(10)の上限を上回ると、軸上色収差の補正には有利であるが、ガラス材料として必要な屈折力を確保することが難しくなるため、好ましくない。νd1CPが式(10)の下限を下回ると、軸上色収差と倍率色収差の一次の色消しが難しくなるため、好ましくない。
【0042】
式(11)の条件は、後レンズ群LRに含まれる非球面レンズの非球面量(絶対値)の最大値DRMAXの適切な範囲を示している。DRMAXが式(11)の上限値を上回ると、非球面量が大きくなりすぎて、非球面レンズの製造が困難となるため、好ましくない。また、DRMAXが式(11)の下限を下回ると、非球面量が小さくなりすぎて、球面収差とコマ収差の補正が困難となるため、好ましくない。
【0043】
式(12)は、第1レンズ群L1内の第1部分レンズ群LIAに含まれる1つ以上のレンズのうち正の屈折力が最も強いレンズについて、その屈折率が最大となるシェープファクタの適切な範囲を示している。この条件は、広角域での球面収差やコマ収差を良好に補正するためのものである。シェープファクタが式(12)の上限を上回ると、球面収差を良好に補正することが難しくなり、またレンズが偏心した際に生じるコマ収差が大きくなるため、好ましくない。シェープファクタが式(12)の下限を下回ると、球面収差と軸上色収差が大きくなるため、好ましくない。
【0044】
式(13)は、無限遠にフォーカシングした際のバックフォーカスをskとレンズ全長LDとの比の適切な範囲を示している。sk/LDが式(13)の上限を上回ると、レンズ全長に対するバックフォーカスが長くなりすぎて、諸収差の発生を抑制するために適切にレンズを配置するための空間を確保することが困難となるため、好ましくない。また、sk/LDが式(13)の下限を下回ると、レンズ全長に対するバックフォーカスが短くなりすぎて、光学系(交換レンズ等)を撮像装置に装着するためのメカニカル部材を配置することが困難となるため、好ましくない。
【0045】
なお、式(3)~(13)の数値範囲を以下のように設定するとより好ましい。
【0046】
0.35≦f1A/f≦0.70 (3a)
1.1≦D1AB/D1BC≦6.5 (4a)
-0.90≦f2/f1≦-0.45 (5a)
0.55≦LD/f≦1.00 (6a)
0.25≦f1/f≦0.45 (7a)
0.65≦D1Air/D1≦0.97 (8a)
1.35≦Nd1CP≦1.60 (9a)
70.00≦νd1CP≦97.00 (10a)
0.01≦DRMAX≦0.07 (11a)
-1.90≦(R2+R1)/(R2-R1)≦-0.9 (12a)
0.06≦sk/LD≦0.22 (13a)
また、式(3)~(13)の数値範囲を以下のように設定するとさらに好ましい。
【0047】
0.385≦f1A/f≦0.680 (3b)
1.25≦D1AB/D1BC≦6.00 (4b)
-0.85≦f2/f1≦-0.50 (5b)
0.625≦LD/f≦0.850 (6b)
0.30≦f1/f≦0.42 (7b)
0.70≦D1Air/D1≦0.93 (8b)
1.4≦Nd1CP≦1.55 (9b)
72.00≦νd1CP≦95.00 (10b)
0.020≦DRMAX≦0.062 (11b)
-1.80≦(R2+R1)/(R2-R1)≦-0.10 (12b)
0.08≦sk/LD≦0.20 (13b)
さらに各実施例の光学系は、以下の条件のうち少なくとも1つを満足することがこのましい。
【0048】
第1レンズ群L1内において、第1部分レンズ群L1Aは正の屈折力、第2部分レンズ群L1Bは負の屈折力、第3部分レンズ群L1Cは正の屈折力をそれぞれ有することが好ましい。これにより、物体側から正負のレンズ群配置、いわゆるテレフォト配置となり、光学系全体の小型化と色収差の低減が可能となる。また、正の第1部分レンズ群L1Cを配置することで、第1部分レンズ群L1Aの正の屈折力を適切に設定することが可能となる。
【0049】
第2部分レンズ群L1Bは、1つの負レンズと2つの正レンズからなることが好ましい。これにより、球面収差とコマ収差を良好に補正しつつ、軸上色収差を抑えることができる。また、第2部分レンズ群L1Bを3つのレンズ群により構成することで、第2部分レンズ群L1Bでの色消しを行う場合の硝材の選択自由度が増加し、諸収差の補正と群内の色消しが両立し易くなる。
【0050】
第3部分レンズ群L1Cは、非球面レンズを有することが好ましい。非球面レンズを第1レンズ群L1内に配置することで、球面収差とコマ収差を良好に補正しつつ、第1レンズ群L1内のレンズ数の削減による光学系の軽量化が可能となる。また、第3部分レンズ群L1Cに非球面レンズを配置することで、非球面レンズの小型化が可能となり、その製造が容易となる。さらに非球面レンズを、第3部分レンズ群L1Cにおける最も物体側に配置することが好ましい。
【0051】
フォーカシング群としての第2レンズ群L2は、1つの負レンズからなることが好ましい。これにより、フォーカシング群の軽量化が可能となり、フォーカシング時のフォーカシング群の移動速度を速くすることが可能となる。
【0052】
後レンズ群のうち最も像側のレンズは、像側に凸面(像側に向かって凸形状の面)を有するレンズであることが好ましい。これにより、バックフォーカスの確保が比較的容易となり、また撮像素子に起因する不要光(ゴースト)の集光を抑えることができる。
【0053】
また、各実施例において、第1レンズ群L1よりも物体側に、光学系の最も物体側のレンズを保護するための保護ガラスを配置してもよい。さらに、光学系の最も像側に配置されたレンズと像面IPとの間に保護ガラスやローパスフィルタを配置してもよい。光学系の最も物体側および最も像側に配置された保護ガラスやローパスフィルタ等の屈折力が無い又は極めて弱い部材は、光学系を構成するレンズとしては扱わないものとする。なお、「屈折力が極めて弱い」とは、例えば、その部材の焦点距離の絶対値が光学系全系の焦点距離の5倍以上である部材である。
【0054】
開口絞りSPは、第2レンズ群L2における最も物体側に配置されることが好ましい。これにより、開口絞りSPの小径化と周辺画角での光量の確保が両立し易くなる。
【0055】
開口絞りSPに対して像側において隣り合うレンズは、正レンズと負レンズの接合レンズであることが好ましい。これにより、像面湾曲の補正と倍率色収差の補正が両立し易くなる。
【0056】
光学系におけるいずれかのレンズ群の全体又は一部を、防振群として光軸に対して直交する成分を含む方向に移動させて、手振れ等の振れによる像振れを低減するようにしてもよい。この移動には、光軸上の点を中心とした回動を含む。この場合、特に、後レンズ群LRの一部を防振群とすることが好ましい。なお、防振群のレンズ数や形状に特に制限はないが、防振群は負の屈折力を有することが好ましい。また、防振群は、少なくとも2つの負レンズを有することが好ましい。
【0057】
光学系は、回折光学素子を含まないことが好ましい。光学系に回折光学素子を含ませると、色収差の補正には有利となるが、回折光学素子において回折フレアが発生するため、好ましくない。
【0058】
以下、実施例1~7について具体的に説明する。以下の説明において、レンズ群およびレンズの配置は、物体側から像側への順の配置である。
【実施例0059】
図1に示す実施例1の光学系は、正の屈折力の第1レンズ群L1と、負の屈折力の第2レンズ群L2と、正の屈折力の後レンズ群LRからなる。
【0060】
第1レンズ群L1は、正の屈折力の第1部分レンズ群L1Aと、負の屈折力の第2部分レンズ群L1Bと、正の屈折力の第3部分レンズ群L1Cからなる。第2部分レンズ群L1Bは、1つの正レンズと、負レンズおよび正レンズが接合された接合レンズからなる。第3部分レンズ群L1Cは、両面が非球面である1つの正レンズからなる。
【0061】
第2レンズ群L2は、最も物体側に配置された開口絞りSPと、その像側に配置された1つの負レンズにより構成されている。
【0062】
後レンズ群LRにおいて、その最も像側のレンズは、正レンズと負レンズが接合された接合レンズであり、その最も像側のレンズ面は凸面である。
【0063】
実施例7の後に、実施例1に対応する数値例1を示す。数値例1において、面番号iは物体側から数えたときの面の順番を示す。rは物体側からi番目の面の曲率半径(mm)、dはi番目と(i+1)番目の面間のレンズ厚または空気間隔(mm)、ndは第i面と第(i+1)面間の光学材料のd線における屈折率である。νdiは第i面と第(i+1)面間の光学材料のd線を基準とするアッベ数である。
【0064】
半画角は、近軸計算による半画角(°)を示す。BFはバックフォーカス(mm)であり、式(13)におけるskに相当する。レンズ全長は、式(13)におけるLDに相当する。
【0065】
面番号に付された「*」は、その面が非球面形状を有する面であることを意味する。非球面形状は、Xを光軸方向での面頂点からの変位量、Hを光軸に直交する方向における光軸からの高さ、光の進行方向を正とし、Rを近軸曲率半径、Kを円錐定数、A4,A6,A8を非球面係数とするとき、以下の式で表される。円錐定数と非球面係数の「e±x」は×10±xを意味する。
【0066】
【0067】
数値例1における式(1)~(13)に対応する値を表1にまとめて示す。なお、式(12)の(R2+R1)/(R2-R1)は表1にはSF1APと記載されている。数値例1は、式(1)~(13)の条件をすべて満足している。
【0068】
図2は、数値例1の光学系の無限遠に合焦した状態での縦収差(球面収差、非点収差、歪曲および色収差)を示している。球面収差図において、FnoはFナンバーを示し、実線はd線(波長587.6nm)に対する球面収差を、二点鎖線はg線(波長435.8nm)に対する球面収差をそれぞれ示している。非点収差図において、実線Sはサジタル像面での非点収差を、破線Mはメリディオナル像面での非点収差を示している。歪曲収差図は、d線における歪曲収差を示している。色収差図は、g線における倍率色収差を示している。ωは半画角(°)である。
【0069】
なお、上述した数値例および縦収差図に関する説明は、後述する他の数値例についても同じである。
第1レンズ群L1は、正の屈折力の第1部分レンズ群L1Aと、負の屈折力の第2部分レンズ群L1Bと、正の屈折力の第3部分レンズ群L1Cからなる。第2部分レンズ群L1Bは、正レンズおよび負レンズが接合された接合レンズと、1つの正レンズからなる。第3部分レンズ群L1Cは、両面が非球面である1つの正レンズと、負レンズおよび正レンズが接合された接合レンズからなる。
実施例7の後に、実施例2に対応する数値例2を示す。数値例2における式(1)~(13)に対応する値を表1にまとめて示す。数値例2は、式(1)~(13)の条件をすべて満足している。