(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024163674
(43)【公開日】2024-11-22
(54)【発明の名称】鋳造装置
(51)【国際特許分類】
B22D 17/22 20060101AFI20241115BHJP
B22C 9/24 20060101ALI20241115BHJP
B22C 9/06 20060101ALI20241115BHJP
【FI】
B22D17/22 H
B22C9/24 A
B22C9/06 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023079493
(22)【出願日】2023-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100176304
【弁理士】
【氏名又は名称】福成 勉
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 大地
(72)【発明者】
【氏名】重里 政考
【テーマコード(参考)】
4E093
【Fターム(参考)】
4E093NA01
4E093UA02
4E093UA08
(57)【要約】
【課題】一対の鋳抜きピンを突き合わせて鋳抜き通路を形成する鋳造装置において、突合せ荷重を大きくすることなく突合せ部分の開きを抑制することを目的とする。
【解決手段】鋳造装置における溶湯流入口は、該溶湯流入口からキャビティへの溶湯の流入方向と第1鋳抜きピン11および第2鋳抜きピン12の軸方向とが交差するように配置されている。第1鋳抜きピン11および第2鋳抜きピン12は、型締め時にそれらの先端部同士が突き合されることによってシリンダブロックにおける潤滑油通路となる連通孔を形成するための中子を構成する。第1鋳抜きピン11および第2鋳抜きピン12の先端部のうちの少なくとも一方の先端部は、型締め時に他方の先端部に接触する接触面11cと、接触面11cと隣接する位置に配置され、他方の先端部との接触を避けるように凹む非接触部分である円形の溝11bとを有する。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
連通孔を有する鋳造品を鋳造する鋳造装置であって、
第1鋳抜きピンを備える第1側方金型と、
前記第1側方金型と対向して配置され、前記第1鋳抜きピンと同じ軸線上に沿って延びる第2鋳抜きピンを備える第2側方金型と、
型締め時に前記第1側方金型と前記第2側方金型と共にキャビティを形成するとともに、当該キャビティに溶湯を注入するための溶湯流入口が形成された第3金型と、
を備えており、
前記溶湯流入口は、該溶湯流入口から前記キャビティへの溶湯の流入方向と前記第1鋳抜きピンおよび前記第2鋳抜きピンの軸方向とが交差するように配置され、
前記第1鋳抜きピンおよび前記第2鋳抜きピンは、型締め時にそれらの先端部同士が突き合されることによって前記鋳造品の前記連通孔を形成するための中子を構成し、
前記第1鋳抜きピンおよび第2鋳抜きピンの先端部のうちの少なくとも一方の先端部は、前記型締め時に他方の先端部に接触する接触面と、前記接触面と隣接する位置に配置され、突合せ方向と反対方向に凹むことにより前記他方の先端部と非接触になる非接触部分とを有する、
ことを特徴とする鋳造装置。
【請求項2】
前記請求項1記載の鋳造装置において、
前記第1鋳抜きピンの先端部は、当該第1鋳抜きピンの軸方向に突出する凸部を有し、
前記第2鋳抜きピンの先端部は、前記型締め時に前記凸部に嵌合可能な凹部を有し、
前記接触面および前記非接触部分は、前記非接触部分が前記接触面と前記凸部の間に位置するように、前記第1鋳抜きピンの先端部に配置されている、
こと特徴とする鋳造装置。
【請求項3】
請求項2記載の鋳造装置において、
前記非接触部分は、前記凸部を取り囲む円形の溝である、
ことを特徴とする鋳造装置。
【請求項4】
請求項3記載の鋳造装置において、
前記円形の溝は、前記凸部の周縁に形成されている、
ことを特徴とする鋳造装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の鋳造装置において、
上記の鋳造装置において、前記鋳造品はエンジンのシリンダブロックであり、
前記連通孔は、潤滑油通路である、
ことを特徴とする鋳造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンのシリンダブロックには、オイル通路用メインギャラリが形成された構造が知られている。メインギャラリは、エンジン内部のクランクシャフトやピストン裏面に向けられたオイルジェットに潤滑油を供給する気筒配列方向に沿って延びる長い通路である。直列の多気筒(例えば6気筒以上の)エンジンのような気筒配列方向に長いシリンダブロックの場合には、シリンダブロックを鋳造した後にドリルなどによる機械加工によりメインギャラリを形成することが一般的に行われる。しかし、この場合、鋳造と別に機械加工を行うため製造コストがかかる。
【0003】
そこで鋳造時において鋳抜きピンを用いてメインギャラリを形成してコストアップを抑制することが考えられる。鋳造時には、メインギャラリは、気筒配列方向に互いに突き合わせた一対の射抜きピンによって形成される。しかし、その場合、気筒配列方向から直交した方向から溶湯が注入される時に溶湯が鋳抜きピンを直撃して鋳抜きピンが変形するおそれがある。そのため、金型内部のキャビティに溶湯を注入する溶湯流入口側とは離れた位置、具体的には、各シリンダライナを挟んで溶湯流入口とは反対側の位置に鋳抜きピンを配置することにより、鋳抜きピンへの溶湯の直撃を避けるようにしている。
【0004】
近年において、エンジンの燃費やエミッションの改善などの目的のために、運転状況に応じて使用されるメインギャラリの本数を変える技術が提案されている。このようなメインギャラリを2本以上備えたシリンダブロックの場合には、溶湯流入口側にもメインギャラリをさらに追加せざるを得ない。そのため、溶湯流入口側のメインギャラリを形成する射抜きピンは溶湯の直撃を避けられず、鋳抜きピンが変形するおそれがある。
【0005】
このような鋳抜きピンの変形を防止するための先行技術として、特許文献1には、一対の鋳抜きピンの先端部同士を突き合わせる鋳造装置において、一方の鋳抜きピンの先端面に凸部を形成し、他方の鋳抜きピンの先端面に上記凸部に対応した形状を有する凹部を形成した構造が知られている。この構造では、突き合わせた上記の先端部同士における凸部と凹部の嵌合により溶湯の直撃による鋳抜きピンの変形防止を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記の構造であっても、溶湯注入口側の一対の鋳抜きピンの突合せ部分に鋳込み時の溶湯が直撃することにより、突合せ部分では直交方向からの溶湯の衝突によって曲げ荷重を受ける。それとともに急激な熱膨張(具体的には溶湯注入口に近い側と遠い側における偏熱膨張)が発生する。そのため、一対の鋳抜きピンの凸部と凹部が嵌合していても突合せ部分が開くおそれがある。溶湯注入時に突合せ部分が開くと、鋳造後のシリンダブロックに鋳抜き通路にバリが発生する原因になる。
【0008】
ここで、溶湯注入時における突合せ部分の開きを防止するために、一対の鋳抜きピン同士の突合せ荷重を大きくすることが考えられる。しかし、突合せ荷重を過度に大きくすると鋳抜きピンが塑性変形し、破断することが考えられるので、突合せ荷重を過度に大きくすることも難しい。
【0009】
本発明は、前記のような事情に鑑みてなされたものであり、一対の鋳抜きピンを突き合わせて鋳抜き通路を形成する鋳造装置において、突合せ荷重を大きくすることなく突合せ部分の開きを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために本発明の鋳造装置は、連通孔を有する鋳造品を鋳造する鋳造装置であって、第1鋳抜きピンを備える第1側方金型と、前記第1側方金型と対向して配置され、前記第1鋳抜きピンと同じ軸線上に沿って延びる第2鋳抜きピンを備える第2側方金型と、型締め時に前記第1側方金型と前記第2側方金型と共にキャビティを形成するとともに、当該キャビティに溶湯を注入するための溶湯流入口が形成された第3金型と、を備えており、前記溶湯流入口は、該溶湯流入口から前記キャビティへの溶湯の流入方向と前記第1鋳抜きピンおよび前記第2鋳抜きピンの軸方向とが交差するように配置され、前記第1鋳抜きピンおよび前記第2鋳抜きピンは、型締め時にそれらの先端部同士が突き合されることによって前記鋳造品の前記連通孔を形成するための中子を構成し、前記第1鋳抜きピンおよび第2鋳抜きピンの先端部のうちの少なくとも一方の先端部は、前記型締め時に他方の先端部に接触する接触面と、前記接触面と隣接する位置に配置され、突合せ方向と反対方向に凹むことにより前記他方の先端部と非接触になる非接触部分とを有する、ことを特徴とする。
【0011】
かかる構成によれば、互いに突き合わされる第1鋳抜きピンおよび第2鋳抜きピンの先端部のうちの少なくとも一方の先端部は、型締め時に他方の先端部に接触する接触面ととともに突合せ方向と反対方向に凹むことにより前記他方の先端部と非接触になる非接触部分を有する。そのため、当該一方の先端部における他方の先端部との接触面積が小さくなるので、突合せ荷重を上げなくても第1鋳抜きピンおよび第2鋳抜きピンの突合せ時の面圧を高めることが可能になる。その結果、鋳込み時の溶湯の衝撃による曲げ荷重および溶湯の熱による偏熱膨張により、第1鋳抜きピンおよび第2鋳抜きピンの突合せ部分が開くことを抑制することが可能である。
【0012】
上記の鋳造装置において、前記第1鋳抜きピンの先端部は、当該第1鋳抜きピンの軸方向に突出する凸部を有し、前記第2鋳抜きピンの先端部は、前記型締め時に前記凸部に嵌合可能な凹部を有し、前記接触面および前記非接触部分は、前記非接触部分が前記接触面と前記凸部の間に位置するように、前記第1鋳抜きピンの先端部に配置されているのが好ましい。
【0013】
かかる構成によれば、前記第1鋳抜きピンの先端部の凸部と前記第2鋳抜きピンの先端部の凹部を嵌合することにより、型締め時において第1鋳抜きピンおよび第2鋳抜きピンの先端部同士が突き合されたときに第1鋳抜きピンおよび第2鋳抜きピンの中心合わせをすることができる。この構成において、接触面および非接触部分は、凸部を有する第1鋳抜きピンの先端部に配置されているので、非接触部分を凸部に近づけて配置することができ、型締め時に接触面に応力を集中することが可能である。
【0014】
また、第2鋳抜きピンの先端部は、上記の凸部と嵌合する凹部を有するが非接触部分を有しない。そのため、第2鋳抜きピンの先端部では、凸部を安定してガイド可能な凹部の幅を確保することが可能である。
【0015】
上記の鋳造装置において、前記非接触部分は、前記凸部を取り囲む円形の溝であるのがこのましい。
【0016】
かかる構成によれば、非接触部分が円形の溝であるので、第1鋳抜きピンの先端部に非接触部分を加工しやすく、非接触部分を広範囲に形成することが可能になる。それに伴って第1鋳抜きピンの先端部の接触面の面積を確実に減らすることが可能になるので、型締め時には接触面では圧縮応力を増加に伴う圧縮ひずみを増加させることが可能である。その結果、突合せ部分の開きを確実に抑制することが可能である。
【0017】
上記の鋳造装置において、前記円形の溝は、前記凸部の周縁に形成されているのが好ましい。
【0018】
かかる構成によれば、円形の溝が凸部の周縁に形成されているので、接触面は第1鋳抜きピンの先端部において円形の溝の外周側に円周状に連続して配置される。そのため、接触面が円形の溝によって分断されない(すなわち接触面が分散しない)ので、接触面の圧縮ひずみを確実に増加させ、突合せ部分の開きを確実に抑制することが可能である。
【0019】
上記の鋳造装置において、前記鋳造品はエンジンのシリンダブロックであり、前記連通孔は、潤滑油通路であるのが好ましい。
【0020】
かかる構成によれば、シリンダブロックの成型時での溶湯が直撃する溶湯流入口側に第1鋳抜きピンおよび第2鋳抜きピンを用いて潤滑油通路を成形することが可能になる。そのため、潤滑油通路を形成するための追加の機械加工が不要になる。
【発明の効果】
【0021】
以上のように、本発明の鋳造装置によれば、一対の鋳抜きピンを突き合わせて鋳抜き通路を形成する鋳造装置において、突合せ荷重を大きくすることなく突合せ部分の開きを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の実施形態に係る鋳造装置の全体構成を示す斜視図である。
【
図2】
図1のキャビティ内部における第1~第4鋳抜きピンの配置を示す拡大斜視図である。
【
図3】
図1のキャビティ内部における第1~第4鋳抜きピンの配置を示す拡大平面図である。
【
図4】
図3の第1鋳抜きピンと第2鋳抜きピンの先端部同士を突き合わせた突合せ部分に溶湯が衝突する状態を示す説明図である。
【
図5】
図4の第1鋳抜きピンと第2鋳抜きピンのそれぞれの先端部を示す拡大斜視図である。
【
図6】
図4の第1鋳抜きピンの先端部の縦断面図である。
【
図7】
図3の第1鋳抜きピンと第2鋳抜きピンの先端部同士を突き合わせた突合せ部分の縦断面図である。
【
図8】
図1の鋳造装置で鋳造されるシリンダブロックを備えたエンジン内部の潤滑油の通路であって、2本のメインギャラリを備えた潤滑構造を示す斜視説明図である。
【
図9】本発明の比較例である円形の溝を有しない第1鋳抜きピンと
図5の第2鋳抜きピンのそれぞれの先端部を示す拡大斜視図である。
【
図10】(a)は
図9の円形の溝を有しない第1鋳抜きピンと第2鋳抜きピンの突合せ部に溶湯が衝突した状態における、突合せ荷重F1、溶湯衝突による曲げ荷重F2、溶湯衝突側の温度T1、溶湯衝突側の裏側の温度T2、溶湯衝突側の合成ひずみε1、溶湯衝突側の裏側の合成ひずみε2を模式的に示す断面説明図、(b)は円形の溝を有しない第1鋳抜きピンと第2鋳抜きピンの突合せ部が開いた状態を示す断面説明図である。
【
図11】(a)は
図10(a)の円形の溝を有しない第1鋳抜きピンと第2鋳抜きピンの突合せ部における突合せ荷重F1によって発生する突合せ圧縮ひずみεF1を模式的に示す断面説明図、(b)は
図10(a)の突合せ部における溶湯衝突による曲げ荷重F2によって発生する溶湯衝突曲げひずみεF2を模式的に示す断面説明図、(c)は
図10(a)の突合せ部における溶湯衝突側の温度T1による熱膨張曲げひずみεT1、溶湯衝突側の裏側の温度T2による熱膨張曲げひずみεT2を模式的に示す断面説明図を示す図である。
【
図12】
図5の接触面の面積である締め代mを決定する手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態に係る鋳造装置について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0024】
以下、添付図面を参照しながら本発明の好ましい実施の一形態について詳述する。
【0025】
図1に示される鋳造装置1は、連通孔を有する鋳造品の一例としてエンジン50(
図8参照)のシリンダブロックBを鋳造する装置である。鋳造装置1によって鋳造されるシリンダブロックBの形状については本発明ではとくに限定しないが、例えば、直列多気筒(本実施形態では4気筒)エンジン用のシリンダブロックBが鋳造装置1によって製造される。
【0026】
(金型2~7の説明)
図1~3に示されるように、鋳造装置1は、シリンダブロックBの形状に対応する空間部であるキャビティ9を形成するために、6個の金型、すなわち、第1側方金型2、第2側方金型3、下側金型4(本発明の第3金型に対応)、前側金型5、後側金型6、および上側金型7を備える。これら6個の金型2~7が型締め時に組み合わされることにより、密閉されたキャビティ9が形成される。なお、
図1において、キャビティ9を視認可能にするために、前側金型5および上側金型7は2点鎖線を用いて簡略的に示されている。
【0027】
なお、第1側方金型2および第2側方金型3は、シリンダブロックBの気筒配列方向Xに互いに離間して対向して配置されている。下側金型4および上側金型7は、垂直方向Zに互いに離間して対向して配置されている。前側金型5および後側金型6は、気筒配列方向Xに直交する幅方向Yに互いに離間して対向して配置されている。前側金型5は、後述する溶湯流入口10の上側に配置されている。
【0028】
下側金型4には、キャビティ9に溶湯を圧入するための溶湯流入口10が形成されている。溶湯流入口10は、当該下側金型4を垂直方向Zに貫通する貫通孔である。溶湯流入口10は、流入ゲート16を通じてキャビティ9に連通している。流入ゲート16は、下側金型4と前側金型5との対向面によって形成され、斜め上方に延びる通路である。
【0029】
アルミ合金などの金属を溶かして形成された溶湯は、溶湯流入口10から流入ゲート16を介してキャビティ9に高温高圧の状態で圧入されることにより、キャビティ9の形状に対応するシリンダブロックBの鋳造(具体的には、ダイキャスト成形)が行われる。キャビティ9に流入した溶湯の残余分および空気は、図示しないベントを通してキャビティ9の外部に排出される。ベントは、流入ゲート16から離れた場所、例えば、下側金型4と後側金型6との間、前側金型5と上側金型7との間、および後側金型6と上側金型7との間にそれぞれ形成されている。
【0030】
(鋳抜きピン11~14の説明)
鋳造装置1は、シリンダブロックBに2本の潤滑油通路として第1メインギャラリ25および第2メインギャラリ26(
図8参照)を形成するために、4本の鋳抜きピン、すなわち、第1鋳抜きピン11、第2鋳抜きピン12、第3鋳抜きピン13、および第4鋳抜きピン14をさらに備える。
【0031】
なお、第1メインギャラリ25は、流入ゲート16に近い側の潤滑油通路であり、主として高速運転時または高温状態のときにエンジン内部のピストンの裏面に潤滑油を噴射するオイルジェット(噴射部)などに潤滑油を供給する通路である。第2メインギャラリ26(
図8参照)は、流入ゲート16から遠い側の潤滑油通路であり、エンジン駆動中は常時、エンジン内部のクランクジャーナルや上記のオイルジェットに潤滑油を供給する通路である。第1メインギャラリ25および第2メインギャラリ26には、
図8に示されるクランクケースCCに貯留された潤滑油がオイルフィルタ41によってろ過された後に第1供給通路42を介して供給される。それとともに潤滑油は、第2供給通路43を介してシリンダヘッドCHにおけるバルブ開閉機構用オイルギャラリ44にも供給される。
【0032】
図1~4に示される第1鋳抜きピン11は、流入ゲート16に近い第1メインギャラリ25(
図8参照)を形成するための中子の一方の部分であり、第1側方金型2におけるキャビティ9を向く面においてキャビティ9の内方であって気筒配列方向Xへ突出するように設けられている。
【0033】
図1~4に示される第2鋳抜きピン12は、上記の第1メインギャラリ25を形成するための中子の他方の部分であり、第2側方金型3におけるキャビティ9を向く面においてキャビティ9の内方であって気筒配列方向Xへ突出するように設けられている。第2鋳抜きピン12は、第1鋳抜きピン11と同じ軸線上(本実施形態では気筒配列方向Xに延びる軸線上)に沿って延びる。
【0034】
第1鋳抜きピン11および第2鋳抜きピン12は、型締め時にそれらの先端部同士が突合される(すなわち
図2~4、
図7の突合せ部分17が形成される)ことによってシリンダブロックBにおける潤滑油が流れる通路となる第1メインギャラリ25を形成するための中子を構成している。
【0035】
図1~3に示される第3鋳抜きピン13は、流入ゲート16から遠い第2メインギャラリ26(
図8参照)を形成するための中子の一方の部分であり、第1側方金型2におけるキャビティ9を向く面においてキャビティ9の内方であって気筒配列方向Xへ突出するように設けられている。
【0036】
図1~3に示される第4鋳抜きピン14は、上記の第2メインギャラリ26を形成するための中子の他方の部分であり、第2側方金型3におけるキャビティ9を向く面においてキャビティ9の内方であって気筒配列方向Xへ突出するように設けられている。第4鋳抜きピン14は、第3鋳抜きピン13と同じ軸線上(本実施形態では気筒配列方向Xに延びる軸線上)に沿って延びる。
【0037】
第3鋳抜きピン13および第4鋳抜きピン14は、型締め時にそれらの先端部同士が突合される(
図2~3の突合せ部分18が形成される)ことによってシリンダブロックBにおける潤滑油が流れる通路となる第2メインギャラリ26を形成するための中子を構成している。
【0038】
第3鋳抜きピン13および第4鋳抜きピン14は、
図2に示されるキャビティ9のシリンダ形成領域9aを挟んで第1鋳抜きピン11および第2鋳抜きピン12の反対側に位置している。
【0039】
ここで、第1鋳抜きピン11および第2鋳抜きピン12を基準にして上記の溶湯流入口10の位置を見た場合、
図1~2および
図4に示されるように、溶湯流入口10は、該溶湯流入口10からキャビティ9への溶湯Mの流入方向と第1鋳抜きピン11および第2鋳抜きピン12の軸方向(気筒配列方向Xと同じ方向)とが交差(
図1~2では直交)するように配置されている。
【0040】
図5~7に示されるように、第1鋳抜きピン11の先端部は、第2鋳抜きピン12の先端部に対向する先端面において、当該第1鋳抜きピン11の軸方向に突出する凸部11aと、第2鋳抜きピン12に接触しない非接触部分である円形の溝11bと、第2鋳抜きピン12に接触する円環状の接触面11cとを有する。
【0041】
凸部11aは、第1鋳抜きピン11の先端部の軸方向中心に配置され、軸方向に突出する円錐形状の突起である。
【0042】
円形の溝11bは、突合せ方向と反対方向に凹むことにより第2鋳抜きピン12の先端部と非接触になる非接触部分である。この円形の溝11bは、当該凸部11aと同心状に形成されている。具体的には、円形の溝11bは、凸部11aの周縁11a1に沿って凸部11aを取り囲むように形成されている。
【0043】
円形の溝11bの内周面における径方向外側および内側の角部には、円弧状の面取り部11b1が形成されている。この面取り部11b1により、第1鋳抜きピン11および第2鋳抜きピン12の先端部同士の突合せ時における溝11bの内周面の角部に作用する応力を分散させることが可能である。
【0044】
接触面11cは、上記の凸部11aおよび円形の溝11bと同心状に形成されている。具体的には、接触面11cは、円形の溝11bの外周に沿って円環状に連続して形成されている。したがって、円形の溝11bは、円環状の接触面11cの内側に隣接している。接触面11cは、第1鋳抜きピン11と第2鋳抜きピン12との突合せ方向(第1鋳抜きピン11の軸方向)を向いている。
【0045】
図7に示されるように、接触面11cは、型締め時に第1鋳抜きピン11および第2鋳抜きピン12の先端部が突き合わされたとき(突合せ部分17が形成されたとき)には、突合せ部分17において、第2鋳抜きピン12の先端部の外周縁、具体的には、対向面12bの外周縁に面接触する。
【0046】
なお、本実施形態では、第1鋳抜きピン11および第2鋳抜きピン12の先端部のうちの少なくとも一方の先端部が、他方の先端部に対向する先端面において、型締め時に他方の先端部に接触する接触面と、接触面と隣接する位置に配置され、突合せ方向と反対方向に凹むことにより他方の先端部と非接触になる非接触部分(上記実施形態では円形の溝11b)とを有していればよい。
【0047】
非接触部分は、接触面に隣接する凹んだ部分であればよく、上記のような円形の溝11b以外でも、少なくとも1個の点状または円形状のくぼみ(ディンプル)または半円形の溝などであってもよい。
【0048】
本実施形態では、円形の溝11bが接触面11cと凸部11aの間に位置するように配置されているので、型締め時に接触面11cに応力を集中させることが可能である。
【0049】
第2鋳抜きピン12の先端部は、第1鋳抜きピン11の先端部に対向する先端面において、型締め時に第1鋳抜きピン11の凸部11aに嵌合可能な凹部12aと、第1鋳抜きピン11の接触面11cおよび円形の溝11b(非接触部分)に対向する対向面12bとを有する。
【0050】
凹部12aは、第2鋳抜きピン12の先端部の軸方向中心に配置され、軸方向に凹むとともに上記の凸部11aに対応する形状を有する円錐形状の凹部である。凹部12aは、型締め時において第1鋳抜きピン11および第2鋳抜きピン12を突き合わせたときに凸部11aと嵌合しながら第1鋳抜きピン11および第2鋳抜きピン12の中心合わせをするガイドの役割をする。したがって、突合せ完了時には凸部11aと凹部12aとはすきま嵌めの状態(クリアランスを許容した状態)で嵌合しており、凸部11aと凹部12aの内周面の間では押圧力が発生しない。
【0051】
対向面12bは、第2鋳抜きピン12の先端面における凹部12a以外の部分であり、円環状の面である。対向面12bは、円環状の接触面11cおよび円形の溝11b(非接触部分)の全面に対向する面積を有する。
【0052】
(本実施形態の特徴)
(1)
本実施形態の鋳造装置1では、互いに突き合わされる第1鋳抜きピン11および第2鋳抜きピン12の先端部のうちの第1鋳抜きピン11の先端部は、型締め時に他方の先端部に接触する接触面11cととともに突合せ方向と反対方向に凹むことにより第2鋳抜きピン12の先端部と非接触になる非接触部分として円形の溝11bを有する。そのため、第1鋳抜きピン11の先端部における第2鋳抜きピン12の先端部との接触面積が小さくなる。(具体的には、本実施形態の第1鋳抜きピン11および第2鋳抜きピン12の接触面積は、中心合わせのための凸部11aおよび凹部12aの占める面積を除いて考えた場合、円形の溝11bは鋳抜きピン11、12同士の接触に関与しないので、円環状の接触面11cの面積のみになる)。
【0053】
そのため、
図7に示されるように、第1鋳抜きピン11および第2鋳抜きピン12の先端部同士を付き合わる突合せ荷重F1を上げなくても第1鋳抜きピン11および第2鋳抜きピン12の突合せ時の接触面11cにおける面圧σF1を高めることが可能になる。すなわち、接触面11cにおける突合せ荷重F1による突合せ圧縮ひずみεF1を大きくすることが可能である。その結果、鋳込み時の溶湯の衝撃による曲げ荷重および溶湯の熱による偏熱膨張により、第1鋳抜きピン11および第2鋳抜きピン12の突合せ部分17が開くことを抑制することが可能である。
【0054】
<突合せ部分17の開く現象についての詳細説明>
以下、第1鋳抜きピン11および第2鋳抜きピン12の突合せ部分17が開く現象について詳細に説明する。
【0055】
ここで、突合せ部分17が開く現象をするサンプルとして、
図9に示される比較例のサンプルを用いる。
図9は、本発明の比較例である円形の溝11b(
図5~7)を有しない第1鋳抜きピン111と
図5の第2鋳抜きピン12のそれぞれの先端部を示す拡大斜視図である。
図9における円形の溝11bを有しない第1鋳抜きピン111の先端面では、凸部111a以外の部分がすべて接触面111cとなる。接触面111cは、第2鋳抜きピン12の対向面12bの全面と接触することが可能である。
【0056】
図10(a)に示されるように、円形の溝11bを有しない第1鋳抜きピン111と第2鋳抜きピン12の突合せ部分17に溶湯が衝突した状態では、第1鋳抜きピン111および第2鋳抜きピン12が突合せ荷重F1を受けて突き合わせた状態で、突合せ部分17に直交する方向から高熱の溶湯Mが衝突する。
【0057】
このとき、第1鋳抜きピン111の接触面111cの溶湯衝突側の部分111cαおよび溶湯衝突側の裏側の部分111cβには、それぞれ、突合せ荷重F1、溶湯衝突による曲げ荷重F2、および溶湯衝突側の温度T1、溶湯衝突側の裏側の温度T2の温度差(T1>T2)による偏熱膨張の3つの要因によって発生するひずみ、すなわち合成ひずみε1、ε2が発生する。
【0058】
そのとき、
図10(b)に示されるように、溶湯衝突側の裏側の部分111cβにおける合成ひずみε2が0以下になった場合に、第1鋳抜きピン11および第2鋳抜きピン12の突合せ部分17が開く(隙間Gが発生する)と考えられる。突合せ部分17が開くと鋳造時にバリが発生する原因になるので、突合せ部分17の開きを抑制する必要がある。
【0059】
図11(a)に示されるように、突合せ荷重F1によって発生する突合せ圧縮ひずみεF1は、接触面111cの溶湯衝突側の部分111cαおよび溶湯衝突側の裏側の部分111cβに均一に発生すると考えられる。この
図11(a)に示される比較例の接触面111cは、上記の本実施形態における
図7の円形の溝11bを有する第1鋳抜きピン11の接触面11cよりも円形の溝11bの面積の分だけ広い。そのため、比較例の接触面111cにおける面圧を上げることができず、突合せ荷重F1による突合せ圧縮ひずみεF1も大きくすることができない。
【0060】
また、
図11(b)に示されるように、溶湯衝突による曲げ荷重F2によって発生するひずみεF2は、接触面111cの溶湯衝突側の部分111cαでは圧縮方向に発生し、溶湯衝突側の裏側の部分111cβでは引張方向に発生すると考えられる。
【0061】
さらに、
図11(c)に示されるように、溶湯衝突側の温度T1、溶湯衝突側の裏側の温度T2の温度差(T1>T2)による偏熱膨張によって発生するひずみは、接触面111cの溶湯衝突側の部分111cαでは温度T1に起因する熱膨張ひずみεT1が発生し、溶湯衝突側の裏側の部分111cβでは温度T2に起因する熱膨張ひずみεT2が発生する(εT1>εT2)と考えられる。
【0062】
<締め代(接触面積、溝深さ)の決定方法>
上記の
図10(b)に示される突合せ部分17の開きを抑制するために、本実施形態では、
図5~7に示される第1鋳抜きピン11の先端面に円形の溝11bを形成するとともに接触面11cを狭くしている。
【0063】
突合せ部分17の開きを抑制することが可能な第1鋳抜きピン11の接触面積(具体的には接触面11cの面積)および溝11bの深さは、決定方法の一例として、以下の
図12に示されるフローチャートの手順で決定される。
【0064】
まず、
図12のステップS1に示されるように、溶湯衝突による第1鋳抜きピン11の曲げたわみδ1(衝突曲げによる最大の変位量)を算出する。
【0065】
ついで、ステップS2に示されるように、溶湯衝突時の偏熱膨張による第1鋳抜きピン11の熱膨張たわみδ2(熱膨張による最大の変位量)を算出する。
【0066】
ついで、ステップS3に示されるように、溶湯衝突による曲げたわみδ1および熱膨張たわみδ2を相殺するために必要な突合せ圧縮たわみδ3(すなわち、第1鋳抜きピン11および第2鋳抜きピン12の突合せによって発生する接触面11cにおける圧縮変位量)を算出する。具体的には、突合せ圧縮たわみδ3は、曲げたわみδ1および熱膨張たわみδ2の和よりも大きくなるように設定される(すなわち、δ3>δ1+δ2)。
【0067】
最後に、ステップS4に示されるように、算出された突合せ圧縮たわみδ3に基づいて、第1鋳抜きピン11の接触面積(具体的には接触面11cの面積)および溝11bの深さを決定する。すなわち、算出された突合せ圧縮たわみδ3が得られる接触面11cの面積および溝11bの深さになるように、第1鋳抜きピン11を設計および製造すればよい。
【0068】
このように、第1鋳抜きピン11を製造することにより、突合せ荷重F1が同じでも、第1鋳抜きピン11および第2鋳抜きピン12の接触面積を小さくして突合せ部分17の面圧を高め、突合せ圧縮たわみδ3を大きくすることができる。この突合せ圧縮たわみδ3により、鋳込み時における溶湯の衝撃による突合せ部分17に作用する曲げ荷重によるたわみδ1と、溶湯の熱による偏熱膨張によるたわみδ2との合成たわみを相殺することができる。その結果、突合せ部分17が開くことを抑制することが可能になる。
【0069】
なお、溝11bの深さはなるべく浅い方が、突合せ部分17の剛性の低下を抑制できる点で好ましい。
【0070】
(2)
また、本実施形態の鋳造装置1では、
図5~7に示されるように、第1鋳抜きピン11の先端部は、当該第1鋳抜きピン11の軸方向に突出する凸部11aを有する。第2鋳抜きピン12の先端部は、型締め時に凸部11aに嵌合可能な凹部12aを有する。接触面11cおよび非接触部分である円形の溝11bは、円形の溝11bが接触面11cと凸部11aの間に位置するように、第1鋳抜きピン11の先端部に配置されている。
【0071】
かかる構成によれば、第1鋳抜きピン11の先端部の凸部11aと第2鋳抜きピン12の先端部の凹部12aを嵌合することにより、型締め時において第1鋳抜きピン11および第2鋳抜きピン12の先端部同士が突き合されたときに第1鋳抜きピン11および第2鋳抜きピン12の中心合わせをすることができる。この構成において、接触面11cおよび円形の溝11bは、凸部11aを有する第1鋳抜きピン11の先端部に配置されているので、円形の溝11bを凸部11aに近づけて配置することができ、型締め時に接触面11cに応力を集中することが可能である。
【0072】
また、第2鋳抜きピン12の先端部は、上記の凸部11aと嵌合する凹部12aを有するが、非接触部分(溝など)を有しない。そのため、第2鋳抜きピン12の先端部では、凸部11aを安定してガイド可能な凹部12aの幅を確保することが可能である。
【0073】
なお、ガイド用の凹部12aがある第2鋳抜きピン12に溝を形成する場合、溝の加工がしにくく、また、所定の突合せ荷重が得られないおそれがある。また、突合せ荷重により凹部12aが開くおそれがある。これらの点を考慮しても、凸部11aがある第1鋳抜きピン11に溝11bがある方が好ましい。
【0074】
(3)
本実施形態の鋳造装置1では、第1鋳抜きピン11の非接触部分は、凸部11aを取り囲む円形の溝11bである。かかる構成によれば、非接触部分が円形の溝11bであるので、第1鋳抜きピン11の先端部に非接触部分を加工しやすく、非接触部分を広範囲に形成することが可能になる。それに伴って第1鋳抜きピン11の先端部の接触面11cの面積を確実に減らすることが可能になるので、型締め時には接触面11cでは圧縮応力を増加に伴う圧縮ひずみを増加させることが可能である。その結果、突合せ部分の開きを確実に抑制することが可能である。
【0075】
(4)
本実施形態の鋳造装置1では、円形の溝11bが凸部11aの周縁に形成されているので、接触面11cは第1鋳抜きピン11の先端部において円形の溝11bの外周側に円周状に連続して配置される。そのため、接触面11cが円形の溝11bによって分断されない(すなわち接触面11cが分散しない)ので、接触面11cの圧縮ひずみを確実に増加させ、突合せ部分の開きを確実に抑制することが可能である。
【0076】
(5)
本実施形態の鋳造装置1で鋳造される鋳造品は、エンジン50のシリンダブロックBであり、第1鋳抜きピン11および第2鋳抜きピン12によって形成される連通孔は潤滑油通路としての第1メインギャラリ25である。そのため、シリンダブロックBの成型時での溶湯が直撃する溶湯流入口10側に第1鋳抜きピン11および第2鋳抜きピン12を用いてシリンダブロックBの第1メインギャラリ25を成形することが可能になる。そのため、連通孔を形成するための追加の機械加工が不要になる。
【0077】
なお、本発明の鋳造装置は、連通孔を有する鋳造品の鋳造に広く適用することが可能であり、上記実施形態のエンジンのシリンダブロック以外の製品または部品を製造することが可能である。
【符号の説明】
【0078】
1 鋳造装置
2 第1側方金型
3 第2側方金型
4 下側金型(第3金型)
5 前側金型
6 後側金型
7 上側金型
9 キャビティ
10 溶湯流入口
11 第1鋳抜きピン
11a 凸部
11b 円形の溝(非接触部分)
11c 接触面
12 第2鋳抜きピン
12a 凹部
12b 対向面
16 流入ゲート
17 突合せ部分
25 第1メインギャラリ
26 第2メインギャラリ
50 エンジン
B シリンダブロック