(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024163679
(43)【公開日】2024-11-22
(54)【発明の名称】溶接ワイヤ送給装置および溶接装置
(51)【国際特許分類】
B23K 9/133 20060101AFI20241115BHJP
【FI】
B23K9/133 501Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023079501
(22)【出願日】2023-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】脇田 淳一
(57)【要約】
【課題】消費電力を一層低減することが可能な溶接ワイヤ送給装置および溶接装置を提供する。
【解決手段】ワイヤ送給装置20は、溶接ワイヤ2のスプール3が取り付け可能であり、スプール3と一体に回転するように構成された回転軸21と、回転軸21の回転によって発電する発電機25と、発電機25が発電した電力を蓄電する蓄電装置27と、蓄電装置27の電力を使用する負荷装置28とを備える。好ましくは、ワイヤ送給装置20は、溶接ワイヤ2をスプール3から引き出して溶接トーチ50に送給する送給ロール23と、送給ロール23を駆動する送給モータ24と、送給モータ24と発電機25とを制御する制御装置100とをさらに備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接ワイヤのスプールが取り付け可能であり、前記スプールと一体に回転するように構成された回転軸と、
前記回転軸の回転によって発電する発電機と、
前記発電機が発電した電力を蓄電する蓄電装置と、
前記蓄電装置の電力を使用する負荷装置とを備える、ワイヤ送給装置。
【請求項2】
前記溶接ワイヤを前記スプールから引き出して溶接トーチに送給する送給ロールと、
前記送給ロールを駆動する送給モータと、
前記送給モータと前記発電機とを制御する制御装置とをさらに備える、請求項1に記載のワイヤ送給装置。
【請求項3】
前記負荷装置は、前記送給モータの回転を検知する検知装置を含む、請求項2に記載のワイヤ送給装置。
【請求項4】
前記負荷装置は、前記ワイヤ送給装置に配置された照明を含む、請求項1に記載のワイヤ送給装置。
【請求項5】
前記ワイヤ送給装置は、ガス容器から供給されるシールドガスを溶接トーチに流すガス流路をさらに備え、
前記負荷装置は、前記ガス流路に設けられた電磁弁を含む、請求項1に記載のワイヤ送給装置。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載のワイヤ送給装置と、
前記溶接ワイヤが前記ワイヤ送給装置から送給される溶接トーチと、
前記溶接トーチに保持された前記溶接ワイヤに溶接電流を供給する溶接電源とを備える、溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、消耗電極である溶接ワイヤを溶接トーチに送給する溶接ワイヤ送給装置およびそれを備える溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
消耗電極として溶接ワイヤを用いるガスシールドアーク溶接においては、一般に設定した溶接電流に対応する速度で、溶接ワイヤをトーチに送給するように制御が行なわれる。
【0003】
特開2021-49548号公報(特許文献1)には、溶接ワイヤをトーチに送給する送給装置の一例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
溶接機器の電源は、溶接電流等に関するパワー系、各種制御装置に供給される制御系ともに、商用電源から供給される。脱炭素社会実現のために電力消費を抑えた製品が求められており、溶接機器にも同様な要求がある。
【0006】
従来、消費電力の低減については、主として、溶接電源をインバータ化してパワー系の電力効率を高めることにより実現していた。しかし、他の部分についても消費電力を低減させる余地が残る。
【0007】
本開示は、このような課題を解決するものであって、消費電力を一層低減することが可能な溶接ワイヤ送給装置および溶接装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、ワイヤ送給装置に関する。ワイヤ送給装置は、溶接ワイヤのスプールが取り付け可能であり、スプールと一体に回転するように構成された回転軸と、回転軸の回転によって発電する発電機と、発電機が発電した電力を蓄電する蓄電装置と、蓄電装置の電力を使用する負荷装置とを備える。
【発明の効果】
【0009】
本開示の溶接ワイヤ送給装置および溶接装置によれば、スプールの回転エネルギーを捨てることなく電力に変換するので、さらなる消費電力の低減が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施の形態に係る溶接装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。以下では、複数の変形例を含む実施の形態について説明するが、各実施の形態で説明された構成を適宜組み合わせることは出願当初から予定されている。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0012】
図1は、本実施の形態に係る溶接装置の構成を示すブロック図である。
図1に示す溶接装置1は、消耗電極として溶接ワイヤ2を用いるガスシールドアーク溶接を行なう溶接装置である。
【0013】
溶接装置1は、溶接電源装置10と、ワイヤ送給装置20と、溶接トーチ50とを備える。
【0014】
溶接電源装置10は、電流検知部14と、電圧検知部15と、溶接電源11とを含む。
溶接トーチ50は、溶接ワイヤ2に電圧を与えるためのコンタクトチップ51と、ガスボンベ40からシールドガスが供給されるノズル52とを含む。
【0015】
ワイヤ送給装置20は、送給モータ24と、送給ロール23と、加圧ロール22と、回転軸21と、発電機25と、充電部26と、蓄電装置27と、負荷装置28とを含む。
【0016】
ワイヤ送給装置20は、少なくとも送給モータ24と発電機25とを制御する制御装置100をさらに含む。なお制御装置100は、必ずしもワイヤ送給装置20に搭載されていなくても良く、たとえば、溶接電源装置10に配置されていても良い。
【0017】
ワイヤ送給装置20は、さらに、ガス流路32を含む。
シールドガスは、ガスボンベ40から流量調整装置41を経由してワイヤ送給装置20内部のガス流路32に供給される。ガス流路32の一端に設けられたガスコネクタ31はガスボンベ40に接続され、他端に設けられたガスコネクタ34は、ガスホース42によって溶接トーチ50のノズル52に接続される。シールドガスとしては、たとえば、アルゴン、CO2などおよびこれらを含む混合ガスが用いられる。
【0018】
ワイヤ送給装置20は、さらに、電力配線36を含む。電力配線36の一端に設けられたパワーコネクタ35は溶接電源11のパワーケーブル12と接続され、他端に設けられたパワーコネクタ37は溶接トーチ50のコンタクトチップ51とパワーケーブル13によって接続される。また、溶接電源11は、接地ケーブル16によって母材17と接続される。電流検知部14は接地ケーブル16に流れる電流を検知する。電圧検知部15は、接地ケーブル16とパワーケーブル12との間の電圧を検知する。溶接電源11は、電圧検知部15および電流検知部14の出力に基づいて溶接電流Iwおよび溶接電圧Vwを制御しアーク18を適切な状態に保つ。
【0019】
ワイヤ送給装置20には、溶接ワイヤが巻回されたスプール3が取り付けられる。そして送給ロール23と加圧ロール22との間に挟持された溶接ワイヤ2は、溶接電流Iwに対応する速度でスプール3から引き出される。これによりスプール3は回転する。スプール3にはたとえば約20kgの溶接ワイヤが巻かれており、慣性モーメントが比較的大である。
【0020】
溶接を中断すると、慣性力によってスプール3は回転を続けようとするので、何もしないと溶接ワイヤ2がワイヤ送給装置20の内部で曲がってしまう。このため溶接中断時にはスプール3の回転にブレーキをかけるか、またはスプール3にブレーキを軽く効かせた状態で溶接ワイヤを送給することが好ましい。
【0021】
しかし、ブレーキとして摩擦ブレーキを用いるのでは、スプール3が有する回転エネルギーを熱として捨ててしまうことになる。そこで、本実施の形態では、スプール3を装着する回転軸21に発電機25を設け、スプール3の慣性力により発電し、蓄電装置27に充電する。
【0022】
充電部26は、蓄電装置27の充電状態を監視し、充電状態が閾値レベルまで低下すると、外部電源(たとえば商用電源AC100Vなど)から受電をして蓄電装置27を充電する。一方、充電状態が閾値レベルまで低下していなければ、充電部26は、外部電源から受電せずに、発電機25で発電された電力によって蓄電装置27を充電する。
【0023】
発電機25の発電量は、制御装置100によって制御される。たとえば、発電量を常時一定としてスプール3の回転にブレーキをかけるようにしても良い。また溶接中断指令が有った場合には送給モータ24の送給停止とともに発電機25の発電量を増加させブレーキ力を強く働かせるようにしても良い。
【0024】
蓄電装置27が満充電状態となった場合には、制御装置100は、発電機25の内部で熱として慣性力によるエネルギーを消費させる。または、蓄電装置27が満充電状態となった場合には、充電部26または負荷装置28が熱、光等として発電電力を消費しても良い。
【0025】
蓄電装置27の電力は、負荷装置28で使用される。負荷装置28は、照明30、エンコーダ38、電磁弁33のいずれか1つまたは複数を含んでいても良い。
【0026】
照明30は、たとえばスプール3の交換時に溶接ワイヤ2の先端を送給ロール23と加圧ロール22との間に通す際にワイヤ送給装置20の筐体内の視認性向上のために使用させる。
【0027】
エンコーダ38は、送給モータ24の回転速度を検出しモータ制御に用いるために使用される。エンコーダ38は、制御用電源が供給される部品の一例である。なお、制御用電源が供給される部品として制御装置100が蓄電装置27の電力を使用しても良い。
【0028】
電磁弁33はシールドガスの供給と遮断を制御する部品である。電磁弁33は、ガス流路32に設けられて溶接開始および溶接中断の指令に応じて電磁石を作動させることによって弁を開閉する。
【0029】
なお、負荷装置28として照明30、エンコーダ38および電磁弁33を例示したが、電気を使用する機器であれば負荷装置はどのようなものであっても良い。
【0030】
また溶接ワイヤ2の用途として消耗電極を例示したが、溶接ワイヤ2は、たとえば非消耗電極をアーク電極とする溶接装置等におけるフィラーワイヤであってもよい。
【0031】
以上説明した本実施の形態に係るワイヤ送給装置20および溶接装置1によれば、ワイヤ送給時に慣性力が付与されたスプール3から発電機25によって回生エネルギーを回収して蓄電装置27に貯蔵することができる。このため、負荷装置28で回生エネルギーを利用することができ、全体的な溶接装置1の消費電力を低減させることができる。
【0032】
[まとめ]
(1) 本開示はワイヤ送給装置に関する。
図1に示すワイヤ送給装置20は、溶接ワイヤ2のスプール3が取り付け可能であり、スプール3と一体に回転するように構成された回転軸21と、回転軸21の回転によって発電する発電機25と、発電機25が発電した電力を蓄電する蓄電装置27と、蓄電装置27の電力を使用する負荷装置28とを備える。このような構成とすることによって、スプール3の慣性エネルギーを電力として回収し、負荷装置28に使用することができる。
【0033】
(2) 第1項に記載のワイヤ送給装置20は、溶接ワイヤ2をスプール3から引き出して溶接トーチ50に送給する送給ロール23と、送給ロール23を駆動する送給モータ24と、送給モータ24と発電機25とを制御する制御装置100とをさらに備える。このような構成とすることによって、制御装置100によって送給モータ24の駆動状態に合わせて発電機25の発電量を調節することが可能である。
【0034】
(3) 第2項に記載のワイヤ送給装置20において、負荷装置28は、送給モータ24の回転を検知する検知装置であるエンコーダ38を含む。このような構成とすることによってエンコーダ38のための外部電源の供給を減らすことができる。
【0035】
(4) 第1項に記載のワイヤ送給装置20において、負荷装置28は、ワイヤ送給装置20に配置された照明30を含む。このような構成とすることによってメンテナンス時などに使用する照明30のための外部電源の供給を減らすことができる。
【0036】
(5) 第1項に記載のワイヤ送給装置20において、ワイヤ送給装置20は、ガスボンベ40から供給されるシールドガスを溶接トーチ50に流すガス流路32をさらに備える。負荷装置28は、ガス流路32に設けられた電磁弁33を含む。このような構成とすることによって電磁弁33を駆動するための外部電源の供給を減らすことができる。
【0037】
(6) 本開示は他の局面では溶接装置に関する。溶接装置1は、第1項から第5項のいずれかに記載のワイヤ送給装置20と、溶接ワイヤ2がワイヤ送給装置20から送給される溶接トーチ50と、溶接トーチ50に保持された溶接ワイヤ2に溶接電流を供給する溶接電源11とを備える。
【0038】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0039】
1 溶接装置、2 溶接ワイヤ、3 スプール、10 溶接電源装置、11 溶接電源、12,13 パワーケーブル、14 電流検知部、15 電圧検知部、18 アーク、20 送給装置、21 回転軸、22 加圧ロール、23 送給ロール、24 送給モータ、25 発電機、26 充電部、27 蓄電装置、28 負荷装置、30 照明、31,34 ガスコネクタ、32 ガス流路、33 電磁弁、35,37 パワーコネクタ、36 電力配線、38 エンコーダ、40 ガスボンベ、41 流量調整装置、42 ガスホース、50 溶接トーチ、51 コンタクトチップ、52 ノズル、100 制御装置。