(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024163688
(43)【公開日】2024-11-22
(54)【発明の名称】全固体電池
(51)【国際特許分類】
H01M 50/152 20210101AFI20241115BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20241115BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20241115BHJP
H01M 50/531 20210101ALI20241115BHJP
H01M 50/528 20210101ALI20241115BHJP
H01M 50/107 20210101ALI20241115BHJP
H01M 50/119 20210101ALI20241115BHJP
H01M 50/559 20210101ALI20241115BHJP
H01M 50/179 20210101ALI20241115BHJP
H01M 50/184 20210101ALI20241115BHJP
H01M 50/167 20210101ALI20241115BHJP
H01M 50/586 20210101ALI20241115BHJP
H01M 50/593 20210101ALI20241115BHJP
H01M 50/545 20210101ALI20241115BHJP
【FI】
H01M50/152
H01M10/0562
H01M10/052
H01M50/531
H01M50/528
H01M50/107
H01M50/119
H01M50/559
H01M50/179
H01M50/184 D
H01M50/167
H01M50/586
H01M50/593
H01M50/545
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023079519
(22)【出願日】2023-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】000005810
【氏名又は名称】マクセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 剛
【テーマコード(参考)】
5H011
5H029
5H043
【Fターム(参考)】
5H011AA10
5H011CC06
5H011DD15
5H011EE04
5H011FF03
5H011GG02
5H011HH02
5H029AJ14
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL01
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM12
5H029DJ09
5H029EJ05
5H029EJ07
5H043AA19
5H043BA20
5H043CA03
5H043CA13
5H043DA03
5H043EA15
5H043EA16
5H043EA18
5H043GA22
5H043GA24
5H043HA08
5H043JA01
5H043JA02
5H043KA07E
5H043KA08E
5H043KA09E
5H043KA45E
(57)【要約】
【課題】電池成形体を空気中の水分と反応することが抑制された状態で電池缶内に収容する。持続可能な開発目標の「9産業と技術革新の基盤をつくろう」に貢献する。
【解決手段】全固体電池1は、正極201、負極202及び正極201と負極202との間に介在する固体電解質層203を有する電池成形体20と、正極給電板30と、負極給電板40と、電池成形体20、正極給電板30及び負極給電板40を収容する導電性材の電池缶10と、電池缶10の一方端に設けられる缶蓋部50と、を備える。缶蓋部50は、正極給電板30又は負極給電板40と電気的に接続される導電材の正極端子62と、非導電性材のガスケット66と、導電性材のキャップ61とを有する。正極端子62とガスケット66とキャップ61とは一体成形され、正極端子62はガスケット66を介してキャップ61に取り付けられる。キャップ61は、電池缶10の一方端を封口する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極、負極及び前記正極と前記負極との間に介在する固体電解質層を有する電池成形体と、
前記電池成形体の前記正極と接続される正極給電板と、
前記電池成形体の前記負極と接続される負極給電板と、
前記電池成形体、前記正極給電板及び前記負極給電板を収容する導電性材の電池缶と、
前記電池缶が延びる延伸方向において、前記電池缶の一方端に設けられる缶蓋部と、を備え、
前記缶蓋部は、前記正極給電板又は前記負極給電板と電気的に接続される導電性材の電極端子と、非導電性材のガスケットと、導電性材のキャップとを有し、
前記電極端子と前記ガスケットと前記キャップとが一体成形されることにより、前記電極端子が前記ガスケットを介して前記キャップに取り付けられ、
前記キャップは、前記電池缶の前記一方端を封口する、全固体電池。
【請求項2】
請求項1に記載の全固体電池において、
前記缶蓋部は、
前記キャップの内部に設けられ、前記正極給電板又は前記負極給電板と接触する導電性材の電極接点と、
前記電極端子と前記電極接点との間に設けられ、前記延伸方向に沿った力を前記電極接点へ作用させる導電性弾性体と、を更に有する、全固体電池。
【請求項3】
請求項2に記載の全固体電池において、
前記缶蓋部は、前記電池缶の内部に設けられ、前記電極接点を支持する非導電性材の支持部材を更に有する、全固体電池。
【請求項4】
請求項3に記載の全固体電池において、
前記支持部材の前記延伸方向と交差する面には、前記電極接点が挿通される支持開口部が形成される、全固体電池。
【請求項5】
請求項4に記載の全固体電池において、
前記支持部材は非導電性材であり、
前記支持部材は、前記電池缶の内周面に沿って設けられた段差部上に載置される、全固体電池。
【請求項6】
請求項1に記載の全固体電池において、
前記キャップの外周縁と前記電池缶の前記一方端とがかしめられることにより、前記電池缶の前記一方端が封口される、全固体電池。
【請求項7】
請求項1に記載の全固体電池において、
前記電池成形体は、前記正極と接続された正極タブと、前記負極と接続された負極タブとを有し、
前記正極タブは前記正極給電板と接続し、前記負極タブは前記負極給電板と接続する、全固体電池。
【請求項8】
請求項1に記載の全固体電池において、
前記電池缶の内部には、複数の前記電池成形体が前記延伸方向に沿って配列される、全固体電池。
【請求項9】
請求項8に記載の全固体電池において、
複数の前記電池成形体のそれぞれは、絶縁板を介して配列される、全固体電池。
【請求項10】
請求項1に記載の全固体電池において、
前記電池缶の内周面には、前記電池缶の内部に向けて突出する突起部が形成され、
前記突起部は、前記電池成形体と接触して、前記電池成形体を前記電池缶内に固定する、全固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、全固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話又はノート型パソコン等の携帯電子機器の発達、及び、電気自動車の実用化等に伴い、小型及び軽量、かつ、高容量及び高エネルギー密度の二次電池の必要性が増している。
【0003】
従来、この必要性を満たす二次電池として、リチウム二次電池、特にリチウムイオン二次電池が用いられている。しかしながら、リチウムイオン電池は、非水電解質として可燃性物質である有機溶媒を含んでいる。また、上述した機器及び電気自動車等の発達によってリチウムイオン二次電池が高エネルギー密度化し、また、可燃性物質である有機溶媒の量が増加傾向にある。その結果、リチウムイオン二次電池には、より一層信頼性が求められている。
【0004】
このような状況において、有機溶媒を用いない全固体型のリチウム二次電池(全固体二次電池)が注目されている。全固体二次電池は、従来の有機溶媒系電解質に代えて、有機溶媒を用いない固体電解質の成形体を用いる。全固体二次電池では、正極層と負極層と固体電解質層とが積層された積層体として構成される。
【0005】
特許文献1には、積層体が筐体と蓋体とで形成される空間内に収容された電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の電池では、封止材を用いて筐体に蓋体が取り付けられている。しかしながら、積層体は水分と容易に反応するため、積層体が収容される空間内のより高い気密性を確保し、積層体を空気中の水分と反応させないことが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願において開示される実施の形態のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、以下の通りである。
【0009】
一実施の形態による全固体電池は、正極、負極及び前記正極と前記負極との間に介在する固体電解質層を有する電池成形体と、前記電池成形体の前記正極と接続される正極給電板と、前記電池成形体の前記負極と接続される負極給電板と、前記電池成形体、前記正極給電板及び前記負極給電板を収容する導電性材の電池缶と、前記電池缶が延びる延伸方向において、前記電池缶の一方端に設けられる缶蓋部と、を備える。前記缶蓋部は、前記正極給電板又は前記負極給電板と電気的に接続される導電性材の電極端子と、非導電性材のガスケットと、導電性材のキャップとを有する。前記電極端子と前記ガスケットと前記キャップとが一体成形されることにより、前記電極端子が前記ガスケットを介して前記キャップに取り付けられる。前記キャップは、前記電池缶の前記一方端を封口する。
【発明の効果】
【0010】
一実施の形態によれば、電池成形体を空気中の水分と反応することが抑制された状態で電池缶内に収容できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施の形態の全固体電池の外観斜視図である。
【
図2】
図1のA-A線における全固体電池の断面図である。
【
図3】
図1のB-B線における全固体電池の断面図である。
【
図5】セルアッセンブリを電池缶へ収容する工程を説明する図である。
【
図6】個々の電池成形体の構造を説明する図である。
【
図8】正極給電板及び負極給電板が取り付けられたセルアッセンブリの外観斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら本開示の実施の形態を詳細に説明する。図面において、同一部には原則として同一符号を付し、繰り返しの説明を省略する。図面において、構成要素の表現は、発明の理解を容易にするために、実際の位置、大きさ、形状、および範囲等を表していない場合がある。
【0013】
<実施の形態>
以下に図面を参照して、本開示の実施の形態の全固体電池について説明する。
図1は、実施の形態の全固体電池1の外観斜視図である。
図2は、
図1のA-A線における全固体電池1の断面図である。
図3は、
図1のB-B線における全固体電池1の断面図である。尚、以下の実施の形態の説明において、全固体電池という用語を使っているが、この用語の代わりに、積層型固体電池、電池モジュールなどと表現しても構わない。
【0014】
全固体電池1は、電池缶10と、電池成形体20と、正極給電板30と、負極給電板40と、缶蓋部50と、を備える。
【0015】
<電池缶10>
電池缶10は、一方が開口し、他方が閉鎖している有底の筒形状である。具体的には、図に示されるように、電池缶10は有底の円筒形状に形成された円筒缶である。電池缶10の内部には、詳細を後述する電池成形体20、正極給電板30及び負極給電板40が収容される。
【0016】
尚、電池缶10は円筒缶であるものに限定されず、内部に収容される電池成形体20の形状に応じて、断面が矩形等の角筒缶であってもよい。
【0017】
電池缶10は、底面101と側面102とを有する。側面102は、底面101と連接し、底面101と交差する方向、置き方により高さ方向又は横方向、より特定的には直交する方向に沿って延びる。以後の説明では、側面102が延びる方向、すなわち電池缶10が延びる方向を延伸方向A1と呼ぶ。また、図に示される延伸方向A1の基点側(すなわち、電池缶10の底面101側)を下方、先端側(すなわち、電池缶10の底面101から離間する側)を上方と呼ぶことがある。
【0018】
電池缶10は、導電性材、例えばアルミニウム、ステンレス、ニッケル合金等の金属材により形成される。電池缶10が後述する負極又は正極と電気的に接続する場合には、電池缶10の腐食やリチウムイオンとの合金化による材料の変質が起こらないように、電池缶10の材料が選定されるとよい。
【0019】
電池缶10の側面102の外周面には、下端部から延伸方向A1に沿って上方へ延びる複数の凹部104が、例えばプレス等により形成されている。このため、
図3に示されるように、電池缶10の側面102の内周面には、凹部104が形成された位置に、電池缶10の内部に向けて突出する突起部103が形成される。この突起部103は、後述する電池成形体20が電池缶10の内部に収容されると、電池成形体20の側面と接触する。これにより、電池成形体20が電池缶10の内部で振動することが抑制される。
【0020】
尚、電池缶10の側面102の内周面に突起部103が形成されていなくてもよい。この場合、電池成形体20と電池缶10の側面102の内周面とは接着により固定されるとよい。もしくは、電池成形体20と電池缶10の側面102の内周面との間の隙間に、例えば樹脂材等の非導電性材により形成されるシール部材等を配置して、上記隙間を埋めてもよい。
【0021】
<電池成形体20>
図2に示されるように、本実施の形態の全固体電池1は、4個の電池成形体20を有する。尚、電池成形体20の個数は4個に限定されるものではなく、4個より多くてもよいし、少なくてもよい。尚、以下の説明では、個々の電池成形体20をセルと呼び、複数のセルが組み合わされたものをセルアッセンブリ21と呼ぶことがある。
【0022】
各電池成形体20は、正極201の成形体(層)と、負極202の成形体(層)と、固体電解質層203とが積層された積層体211として構成される。すなわち、電池成形体20では、正極201と負極202との間に介在する固体電解質層203が積層される。
【0023】
<正極201>
正極201は、正極合剤を加圧(プレス)することによって形成された円柱形状の成形体(層)である。尚、正極201は円柱形状の層であるものに限定されず、角柱状の層であってもよい。正極合剤は、例えば、リチウムイオン二次電池に用いられる正極活物質、すなわちリチウムイオンを吸蔵,放出可能な物質であれば特に制限はない。具体的には、LiMxMn2-xO4(ただし、Mは、Li、B、Mg、Ca、Sr、Ba、Ti、V、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Al、Sn、Sb、In、Nb、Mo、W、Y、RuおよびRhよりなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、0.01≦x≦0.5)で表されるスピネル型リチウムマンガン複合酸化物、LixMn(1-y-x)NiyMzO(2-k)Fl(ただし、Mは、Co、Mg、Al、B、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Zr、Mo、Sn、Ca、SrおよびWよりなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、0.8≦x≦1.2、0<y<0.5、0≦z≦0.5、k+l<1、-0.1≦k≦0.2、0≦l≦0.1)で表される層状化合物、LiCo1-xMxO2(ただし、Mは、Al、Mg、Ti、Zr、Fe、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Nb、Mo、Sn、SbおよびBaよりなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、0≦x≦0.5)で表されるリチウムコバルト複合酸化物、LiNi1-xMxO2(ただし、Mは、Al、Mg、Ti、Zr、Fe、Co、Cu、Zn、Ga、Ge、Nb、Mo、Sn、SbおよびBaよりなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、0≦x≦0.5)で表されるリチウムニッケル複合酸化物、LiM1-xNxPO4(ただし、Mは、Fe、MnおよびCoよりなる群から選択される少なくとも1種の元素で、Nは、Al、Mg、Ti、Zr、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Nb、Mo、Sn、SbおよびBaよりなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、0≦x≦0.5)で表されるオリビン型複合酸化物、Li4Ti5O12で表されるリチウムチタン複合酸化物などが挙げられ、これらのうちの1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0024】
正極活物質の平均粒子径は、1μm以上であることが好ましく、2μm以上であることがより好ましく、また、10μm以下であることが好ましく、8μm以下であることがより好ましい。なお、正極活物質は一次粒子でも一次粒子が凝集した二次粒子であってもよい。平均粒子径が前記範囲の正極活物質を使用すると、固体電解質との界面を多くとれるため、電池の負荷特性がより向上する。
【0025】
正極活物質は、その表面に、固体電解質との反応を抑制するための反応抑制層を有していることが好ましい。
【0026】
正極合剤の成形体内において、正極活物質と固体電解質とが直接接触すると、固体電解質が酸化して抵抗層を形成し、成形体内のイオン伝導性が低下する虞がある。正極活物質の表面に、固体電解質との反応を抑制する反応抑制層を設け、正極活物質と固体電解質との直接の接触を防止することで、固体電解質の酸化による成形体内のイオン伝導性の低下を抑制することができる。
【0027】
反応抑制層は、イオン伝導性を有し、正極活物質と固体電解質との反応を抑制できる材料で構成されていればよい。反応抑制層を構成し得る材料としては、例えば、Liと、Nb、P、B、Si、Ge、TiおよびZrよりなる群から選択される少なくとも1種の元素とを含む酸化物、より具体的には、LiNbO3などのNb含有酸化物、Li3PO4、Li3BO3、Li4SiO4、Li4GeO4、LiTiO3、LiZrO3などが挙げられる。反応抑制層は、これらの酸化物のうちの1種のみを含有していてもよく、また、2種以上を含有していてもよく、さらに、これらの酸化物のうちの複数種が複合化合物を形成していてもよい。これらの酸化物の中でも、Nb含有酸化物を使用することが好ましく、LiNbO3を使用することがより好ましい。
【0028】
反応抑制層は、正極活物質:100質量部に対して0.1~1.0質量部で表面に存在することが好ましい。この範囲であれば正極活物質と固体電解質との反応を良好に抑制することができる。
【0029】
正極活物質の表面に反応抑制層を形成する方法としては、ゾルゲル法、メカノフュージョン法、CVD法、PVD法などが挙げられる。
正極合剤における正極活物質の含有量は、60~95質量%であることが好ましい。
【0030】
正極201の導電助剤としては、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛)、グラフェン、カーボンブラック、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブなどの炭素材料などが挙げられる。正極合剤における導電助剤の含有量は、1~10質量%であることが好ましい。
【0031】
正極201の固体電解質には、負極202に使用し得るものとして後述する各種の硫化物系固体電解質、水素化物系固体電解質および酸化物系固体電解質のうちの1種または2種以上を使用することができる。電池特性をより優れたものとするためには、硫化物系固体電解質を含有させることが望ましい。
正極合剤における固体電解質の含有量は、4~30質量%であることが好ましい。
【0032】
正極合剤には、樹脂製のバインダは含有させなくてもよく、含有させてもよい。樹脂製のバインダとしては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などのフッ素樹脂などが挙げられる。ただし、樹脂製のバインダは正極合剤中において抵抗成分として作用するため、その量はできるだけ少ないことが望ましい。よって、正極合剤においては、樹脂製のバインダを含有させないか、含有させる場合にはその含有量を0.5質量%以下とすることが好ましい。正極合剤における樹脂製のバインダの含有量は0.3質量%以下であることがより好ましく、0質量%である(すなわち、樹脂製のバインダを含有させない)ことがさらに好ましい。
【0033】
正極201に集電体を使用する場合、その集電体としては、アルミニウムやステンレス鋼などの金属の箔、パンチングメタル、網、エキスパンドメタル、発泡メタル、カーボンシート等を用いることができる。
【0034】
正極合剤の成形体は、例えば、正極活物質、導電助剤および固体電解質、さらには必要に応じて添加されるバインダなどを混合して調製した正極合剤を、加圧成形などによって圧縮することで形成することができる。
【0035】
集電体を有する正極の場合には、前記のような方法で形成した正極合剤の成形体を集電体と圧着するなどして貼り合わせることで製造することができる。
【0036】
正極合剤の成形体の厚み(集電体を有する正極201の場合は、集電体の片面あたりの正極合剤の成形体の厚み。以下、同じ。)は、電池の高容量化の観点から、200μm以上であることが好ましい。また、正極合剤の成形体の厚みは、通常、2000μm以下である。
【0037】
正極201には、正極タブ206が取り付けられる。正極タブ206は、例えばアルミニウム等の金属材である。正極タブ206は、後述する正極給電板30と溶接によって接合される。
【0038】
<負極202>
負極202は、負極合剤を加圧(プレス)することにより形成された円柱形状の成形体(層)である。尚、負極は円柱形状の層であるものに限定されず、角柱状の層であってもよい。負極合剤は、リチウムイオン二次電池に用いられる負極活物質を用いて構成することができる。負極活物質は、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な材料であれば特に制限はなく、例えば、黒鉛、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素類、有機高分子化合物の焼成体、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、炭素繊維などのリチウムを吸蔵・放出可能な炭素系材料;Si、Sn、Ge、Bi、Sb、Inなどのリチウムとの合金を形成可能な元素の単体又はその酸化物あるいはその合金;Co、Ni、Mn、Fe、Cr、Ti、及び、Wなどの遷移金属とリチウムとを含有した窒化物;金属リチウム;リチウム-アルミニウム合金などのリチウム合金;リチウムニオブ酸化物、リチウムチタン酸化物などのリチウム含有遷移金属酸化物、などである。リチウムチタン酸化物としては、例えば、下記一般組成式(1)で表されるものが挙げられる。
Li[Li1/3-aM1
aTi5/3-bM2
b]O4 (1)
【0039】
一般組成式(1)中、M1は、Na、Mg、K、Ca、SrおよびBaよりなる群から選択される少なくとも1種の元素で、M2は、Al、V、Cr、Fe、Co、Ni、Zn、Ym、Zr、Nb、Mo、TaおよびWよりなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、0≦a<1/3、0≦b≦2/3である。
【0040】
すなわち、一般組成式(1)で表されるリチウムチタン酸化物においては、Liのサイトの一部が元素M1で置換されていてもよい。ただし、一般組成式(1)において、元素M1の比率を表すaは、1/3未満であることが好ましい。一般組成式(1)で表されるリチウムチタン酸化物において、Liは元素M1で置換されていなくてもよいため、元素M1の比率を表すaは0でもよい。
【0041】
また、一般組成式(1)で表されるリチウムチタン酸化物において、元素M2はリチウムチタン酸化物の電子伝導性を高めるための成分であり、元素M2の比率を表すbが、0≦b≦2/3である場合には、その電子伝導性向上効果を良好に確保することができる。
【0042】
負極活物質には、前記例示の材料の1種又は2種以上を使用することができる。例えばリチウムチタン酸化物を用いる場合には、リチウムチタン酸化物以外の負極活物質を、リチウムチタン酸化物とともに使用することもできる。ただし、負極活物質全量中のリチウムチタン酸化物以外の負極活物質の割合は、30質量%以下であることが好ましい。
【0043】
負極202の固体電解質としては、リチウムイオン伝導性を有していれば特に限定されず、例えば、硫化物系固体電解質、水素化物系固体電解質、酸化物系固体電解質などが使用できる。
【0044】
硫化物系固体電解質としては、例えば、Li2S-P2S5、Li2S-SiS2、Li2S-P2S5-GeS2、Li2S-B2S3系ガラスなどが挙げられる他、近年、リチウムイオン伝導性が高いものとして注目されているLi10GeP2S12(LGPS系)やLi6PS5Cl(アルジロダイト系)も使用することができる。これらの中でも、特にリチウムイオン伝導性が高く、化学的に安定性の高いアルジロダイト系材料が好ましく用いられる。
【0045】
水素化物系固体電解質としては、例えば、LiBH4、LIBH4と下記のアルカリ金属化合物との固溶体(例えば、LiBH4とアルカリ金属化合物とのモル比が1:1~20:1のもの)などが挙げられる。前記固溶体におけるアルカリ金属化合物としては、ハロゲン化リチウム(LiI、LiBr、LiF、LiClなど)、ハロゲン化ルビジウム(RbI、RbBr、RbiF、RbClなど)、ハロゲン化セシウム(CsI、CsBr、CsF、CsClなど)、リチウムアミド、ルビジウムアミドおよびセシウムアミドよりなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0046】
酸化物系固体電解質としては、例えば、Li7La3Zr2O12、LiTi(PO4)3、LiGe(PO4)3、LiLaTiO3などが挙げられる。
【0047】
固体電解質は、先に例示したもののうちの1種または2種以上を使用することができる。上記に例示された固体電解質の中でも、リチウムイオン伝導性が高く、また、負極合剤の成形性を高める機能を有していることから、硫化物系固体電解質を用いることがより好ましい。
【0048】
負極202の導電助剤としては、例えば、カーボンブラックなどの炭素材料などが使用できる。
【0049】
負極合剤には、バインダを含有させてもよく、含有させなくてもよい。負極合剤にバインダを含有させる場合には、そのバインダとしては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などのフッ素樹脂などが使用できる。
【0050】
負極202に集電体を用いる場合、その集電体としては、銅製やニッケル製、ステンレス鋼製、アルミニウム製の箔、パンチングメタル、網、エキスパンドメタル、発泡メタル、カーボンシート、などを用いることができる。
【0051】
負極202は、活物質であるリチウムチタン酸化物の粒子、固体電解質および導電助剤などを、例えば溶媒を使用せずに混合して負極合剤を調製し、これをペレット状などに成形することで製造できる。また、前記のようにして得られた負極合剤の成形体を集電体と貼り合わせて負極202としてもよい。
【0052】
また、上記の負極合剤と溶媒とを混合して負極合剤含有組成物を調製し、これを集電体や負極202と対向させる固体電解質層203といった基材上に塗布し、乾燥した後にプレス処理を行うことで、負極合剤の成形体を形成してもよい。
【0053】
負極合剤含有組成物に使用する溶媒は、固体電解質を劣化させ難いものを選択することが好ましい。特に、硫化物系固体電解質や水素化物系固体電解質は、微少量の水分によって化学反応を起こすため、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、デカリン、トルエン、キシレンなどの炭化水素溶媒に代表される非極性非プロトン性溶媒を使用することが好ましい。特に、含有水分量を0.001質量%(10ppm)以下とした超脱水溶媒を使用することがより好ましい。また、三井・デュポンフロロケミカル社製の「バートレル(登録商標)」、日本ゼオン社製の「ゼオローラ(登録商標)」、住友3M社製の「ノベック(登録商標)」などのフッ素系溶媒、並びに、ジクロロメタン、ジエチルエーテルなどの非水系有機溶媒を使用することもできる。
【0054】
負極合剤の組成としては、例えば、負極活物質の含有量が50~80質量%であることが好ましく、固体電解質の含有量が20~50質量%であることが好ましく、導電助剤の含有量が0.1~10質量%であることが好ましい。また、負極合剤にバインダを含有させる場合には、その含有量は0.1~10質量%であることが好ましい。さらに、負極合剤の成形体(負極が集電体を有しない場合、および集電体を有する場合の両者を含む)の厚みは、50~1000μmであることが好ましい。
【0055】
負極202には、負極タブ207が取り付けられる。負極タブ207は、例えば銅等の金属材である。負極タブ207は、後述する負極給電板40と溶接によって接合される。
【0056】
<固体電解質層203>
固体電解質層203における固体電解質には、負極202の固体電解質として先に例示したものと同じもののうちの1種または2種以上を使用することができる。ただし、電池特性をより優れたものとするためには、硫化物系固体電解質を含有させることが望ましく、正極201、負極202及び固体電解質層203の全てに硫化物系固体電解質を含有させることがより望ましい。
固体電解質層203は、樹脂製の不織布などの多孔質体を支持体として有していてもよい。
【0057】
固体電解質層203は、固体電解質を加圧成形などによって圧縮(プレス)する方法により形成された円柱形状の成形体(層)である。尚、固体電解質層は円柱形状の層であるものに限定されず、角柱状の層であってもよい。また、固体電解質層は、固体電解質を溶媒に分散させて調製した固体電解質層203の形成用組成物を基材や正極、負極の上に塗布して乾燥し、必要に応じてプレス処理などの加圧成形を行う方法を用いて形成されてもよい。
【0058】
固体電解質層203の形成用組成物に使用する溶媒も、負極合剤含有組成物に使用する溶媒と同様に、固体電解質を劣化させ難いものを選択することが望ましく、負極合剤含有組成物用の溶媒として先に例示した各種溶媒を使用することが好ましく、含有水分量を0.001質量%(10ppm)以下とした超脱水溶媒を使用することが特に好ましい。固体電解質層203の厚みは、10~200μmであることが好ましい。
【0059】
<電池成形体20の製造>
各セルである電池成形体20の製造方法について説明する。上述した固体電解質を金型等に配置し、プレス機等を用いて加圧することにより、固体電解質層203の仮成形層が形成される。固体電解質層203の仮成形層上に負極202を構成する負極合剤を配置する。負極合剤が配置された後、負極合剤及び固体電解質層203の仮成形層をプレス機等を用いて加圧することにより、固体電解質層203の上部に負極202の仮成形層が形成される。
【0060】
その後、固体電解質層203の仮成形層と負極202の仮成形層とを上下反転させる。この場合、固体電解質層203の仮成形層と負極202の仮成形層とを金型から一旦取り出し、上下反転させたのち再度金型内に配置してもよい。そして、固体電解質層203の仮形成層上、すなわち固体電解質層203の仮成形層のうち負極202の仮成形層と対向しない面上に正極201を構成する正極合剤を配置する。正極合剤が配置された後、正極合剤と、固体電解質層203の仮成形層と、負極202の仮成形層とが、プレス機等を用いて加圧される。これにより、正極合剤と、固体電解質層203の仮成形層と、負極202の仮成形層とが圧縮され、固体電解質層203と、固体電解質層203の一方側に層状の負極202と、固体電解質層203の他方側に層状の正極201とを有する積層体211が形成される。
【0061】
正極201、負極202及び固体電解質層203が円柱形状を有することから、積層体211も円柱形状を有する。尚、正極201、負極202及び固体電解質層203が角柱形状を有するように形成された場合には、積層体211も角柱状となる。
【0062】
積層体211の一方側の面、すなわち正極201が形成された面には、極性シート201aが取り付けられる。極性シート201aは、円柱状の積層体211の形状に応じて、円板状に形成される。尚、積層体211が角柱状である場合には、極性シート201aも積層体211の形状に応じた多角形板状に形成される。この極性シート201aには、正極タブ206が、例えば溶接等によって接合される。また、積層体211の他方側の面、すなわち負極202が形成された面には、極性シート202aが取り付けられる。この極性シート202aには、負極タブ207が、例えば溶接等によって接合される。尚、極性シート202aも、積層体211の形状に応じた形状に形成される。
【0063】
積層体211の側面は、例えばポリエチレンや各種エラストマ等の高分子ポリマから製造された非導電性の熱収縮チューブ212によって被覆される。熱収縮チューブ212は、上述した正極タブ206及び負極タブ207がそれぞれ極性シート201a,202aに接合された後に取り付けられてもよい。あるいは、正極タブ206及び負極タブ207がそれぞれ極性シート201a,202aに接合される前に、熱収縮チューブ212が取り付けられてもよい。熱収縮チューブ212が取り付けられることにより、積層体211及び極性シート201a,202aが分離することが抑制される。また、熱収縮チューブ212が非電導性材からなるため、電池成形体20が電池缶10内に収容された際に、電池成形体20と金属製の電池缶10とを絶縁することが可能となる。
【0064】
<正極給電板30>
正極給電板30は、電池成形体20の正極201と、後述する缶蓋部50が有する電極端子とを電気的に接続させるニッケルやアルミニウム等の金属材である。正極給電板30は、タブ接続部301と、接点接続部302とを有する。
【0065】
タブ接続部301は、複数の電池成形体20のそれぞれの正極201に取り付けられた正極タブ206と溶接により接合される。接点接続部302は、タブ接続部301の上方と連接し、延伸方向A1と交わる面上に延在する。接点接続部302は、延伸方向A1に沿って配列された電池成形体20のうち最上部に配列された電池成形体20の上部に配置された絶縁板210に接着固定される。
【0066】
<負極給電板40>
負極給電板40は、電池成形体20の負極202と、電池缶10とを電気的に接続させる部材である。具体的には、負極給電板40は、延伸方向A1に沿う長辺を有する板状の部材である。負極給電板40は、例えばニッケルや銅等の金属材である。負極給電板40は、複数の電池成形体20のそれぞれの負極202に取り付けられた負極タブ207と溶接により接合される。負極給電板40の上方側の端部は、セルアッセンブリ21の上方端よりも上方に突出する。負極給電板40は、この上方に突出した上端部にて、電池缶10の側面102の内周面と溶接等により接合される。
<セルアッセンブリ21>
【0067】
図4は、セルアッセンブリ21の分解斜視図である。上記の様にして製造された複数のセルである電池成形体20と絶縁板210と延伸方向A1に沿って積層することにより、セルアッセンブリ21が製造される。すなわち、セルアッセンブリ21では、複数の電池成形体20が延伸方向A1に沿って配列される。これにより、筒形状を有する電池缶10に複数の電池成形体20を収容でき、全固体電池1の大型化を抑制できる。
【0068】
尚、
図2,
図4には、4個の電池成形体20a,20b,20c,20dが積層された場合が示されているが、積層される電池成形体20の個数は4個に限定されるものではなく、4個より少なくても多くてもよい。
【0069】
セルアッセンブリ21では、各電池成形体20の間に絶縁板210が配置される。絶縁板210は、各電池成形体20の円柱形状に応じて円板状に形成される。尚、絶縁板210は円板状に形成されるものに限定されず、電池成形体20の形状に応じた形状に形成される。例えば、電池成形体20が角柱形状の場合には、絶縁板210は多角形板状に形成される。
【0070】
上述したように、各電池成形体20の間には、絶縁板210が配置される。具体的には、電池成形体20aの上面と電池成形体20bの下面との間に絶縁板210aが配置される。電池成形体20bの上面と電池成形体20cの下面との間に絶縁板210bが配置される。電池成形体20cの上面と電池成形体20dの下面との間に絶縁板210cが配置される。これにより、電池成形体20a,20b,20c,20dが絶縁された状態での配列が可能となる。
【0071】
また、最上部の電池成形体20dの上面には、絶縁板210dが配置される。絶縁板210dには、正極給電板30のタブ接続部301及び負極給電板40と対向する位置が直線状に切り欠かれた切欠き部210eが形成される。これにより、正極給電板30及び負極給電板40と絶縁板210dとが干渉することが抑制される。尚、絶縁板210dには、切欠き部210eが形成されていなくてもよい。
【0072】
<電池缶10内への収容>
電池成形体20、正極給電板30及び負極給電板40の電池缶10内への収容について説明する。
【0073】
図5は、正極給電板30及び負極給電板40が取り付けられたセルアッセンブリ21が電池缶10に収容される際の工程を示す外観斜視図である。
【0074】
正極給電板30と負極給電板40とが取り付けられたセルアッセンブリ21の側面は、例えばポリエチレンや各種エラストマ等の高分子ポリマから製造された非導電性の熱収縮チューブ213によって被覆される。すなわち、複数の電池成形体20と、正極給電板30と、負極給電板40とが、熱収縮チューブ213によって被覆される。ただし、セルアッセンブリ21の最上部に配置される絶縁板210dより上方は熱収縮チューブ213により被覆されていない。すなわち、正極給電板30のタブ接続部301(
図2)の上端部近傍及び接点接続部302と、負極給電板40の上端部近傍とは、熱収縮チューブ213に被覆されていない。
【0075】
セルアッセンブリ21の側面が熱収縮チューブ213により被覆されることにより、セルアッセンブリ21を構成する複数の電池成形体20を固定することができるので、電池成形体20が分離、脱落することが抑制される。また、正極タブ206と接合された正極給電板30の脱落、又は、負極タブ207と接合された負極給電板40の脱落が抑制される。また、熱収縮チューブ213により、セルアッセンブリ21が電池缶10内に収容されると、正極給電板30が電池缶10と直接接触することが抑制される。この結果、正極給電板30と電池缶10との接触による短絡の発生が抑えられる。
【0076】
また、正極給電板30のタブ接続部301の上端部近傍、すなわち接点接続部302と連接される位置の近傍には、正極絶縁シール215が、例えば接着により取り付けられる。これにより、セルアッセンブリ21が電池缶10内に収容された正極給電板30が電池缶10と接触することによる短絡の発生が抑制される。尚、正極給電板30のタブ接続部301の上端部近傍を上記の熱収縮チューブ213によって被覆することが可能である場合には、正極絶縁シール215は取り付けられなくてよい。
【0077】
熱収縮チューブ213及び正極絶縁シール215が取り付けられたセルアッセンブリ21は、電池缶10の上方から、延伸方向A1に沿って下方に移動されて、電池缶10内に挿入される。電池缶10内に挿入されたセルアッセンブリ21の側面は、電池缶10の側面102の内周面に形成された突起部103と接触する。これにより、セルアッセンブリ21が電池缶10の内部で振動することが抑制される。
【0078】
この状態で、負極給電板40の上端部近傍、すなわち負極給電板40のうち熱収縮チューブ213により被覆されていない位置が溶接等により電池缶10に接合される。これにより、負極給電板40によって、負極202と電池缶10とが電気的に接続される。その後、セルアッセンブリ21と電池缶10の側面102の内周面との隙間には、接着剤やゲル状の弾性樹脂等が充填される。
【0079】
尚、負極給電板40が電池缶10と接合される構成に限定されない。正極給電板30が電池缶10と接合されてもよい。この場合、負極給電板40が後述する缶蓋部50の一部の構成と接触する構成とすることができる。
【0080】
<缶蓋部50>
缶蓋部50は、延伸方向A1において、電池缶10の一方端である上方端に取り付けられることにより、電池缶10の開口を封口する。缶蓋部50は、例えば、圧延絞り、接着、かしめ等によって取り付けられて、電池缶10の開口を封止する。缶蓋部50には、全固体電池1が装着される装置等の電気接点等と接触する電極端子と、上述した正極給電板30と接触する電極接点とを含んで構成される。尚、正極給電板30が電池缶10と接合される場合には、負極給電板40が電極端子と接触する。
【0081】
[実施例]
以下、全固体電池1の実施例について説明する。
<電池缶10>
図2に示されるように、電池缶10の側面102の上端部の近傍は、電池缶10の底面101よりも内径が短い短径部105と、短径部105の下方と連接し、延伸方向A1に沿って上方にいくほど内径が徐々に短くなる絞り部106とが形成される。絞り部106の下方端側の内周面には、内周に沿って、段差部107が形成される。段差部107の内径は、絞り部106の下端部での内径よりも小さい。このため、段差部107は、延伸方向A1と交差する面を有する。この段差部107の面上には、後述する缶蓋部50が有する正極接点押さえ板65が配置される。
【0082】
<電池成形体20及びセルアッセンブリ21>
図4に示されるように、4個の電池成形体20a,20b,20c,20dは、下方から上方に向けて上記の順序で配置される。各電池成形体20は、負極202が下方側、正極201が上方側となるように配置される。尚、電池成形体20a,20b,20c,20dの負極202を下方側に向ける配列に限定されず、正極201を下方側に向ける配列としてもよい。
【0083】
図6(a)は、1個の電池成形体20(20a,20b,20c)の外観斜視図である。
図6(b)は、1個の電池成形体20(20d)の外観斜視図である。
【0084】
電池成形体20の正極201と接続される正極タブ206は、主部206aと、接続部206bとを有する。主部206aは、延伸方向A1と交差する方向に延びる板状に形成される。主部206aは、正極201に取り付けられた極性シート201aと接合されることにより、正極201と電気的に接続される。
【0085】
図6(a)に示されるように、電池成形体20a,20b,20cに設けられる接続部206bは、主部206aの端部と連接し、主部206aと交差する方向(具体的には直交する方向)である延伸方向A1に沿って延びる。
図6(b)に示されるように、最上部の電池成形体20dに設けられる正極タブ206では、上述した主部206aの端部から延伸方向A1に沿って上方に延びる立上り部206cを介して、接続部206bが形成される。接続部206bは、延伸方向A1と交差する方向(具体的には直交する方向)に延びる。換言すると、
図6(b)に示される正極タブ206は、
図6(a)に示される正極タブ206の接続部206bが主部206aに向けて折り曲げられた形状を有する。
【0086】
電池成形体20dでは、主部206aと接続部206bとは立上り部206cを介して連接していることから、主部206aと接続部206bとの間には、延伸方向A1に沿って空間が形成される。この空間に絶縁板210dが挿入されることにより、電池成形体20d上に絶縁板210dが配置される。このとき、絶縁板210dは、切欠き部210eが立上り部206cと対向する向きに配置される。これにより、電池成形体20dの正極タブ206の接続部206bは、絶縁板210d上に配置される。
【0087】
接続部206bは、正極給電板30と溶接によって接合される。これにより、電池成形体20の正極201と正極給電板30とが電気的に接続される。
【0088】
電池成形体20の負極202と接続される負極タブ207は、主部207aと、接続部207bとを有する。主部207aは、延伸方向A1と交差する方向に延びる板状に形成される。主部207aは、負極202に取り付けられた極性シート202aと接合されることにより、負極202と電気的に接続される。
【0089】
接続部207bは、主部207aの端部と連接し、主部207aと交差する方向(具体的には直交する方向)である延伸方向A1に沿って延びる。接続部207bは、負極202の表面から延伸方向A1に沿って正極201に近接する方向に向けて延びている。
図6(a),
図6(b)に示されるように、負極タブ207の接続部207bと正極タブ206の接続部206bとが中心線Cに対して対称となる位置(すなわち、接続部206bと接続部207bとが互いに対向する位置)に、負極タブ207が取り付けられる。尚、中心線Cは、電池成形体20の中心を通り、延伸方向A1に沿って延びる仮想線である。接続部207bは、負極給電板40と溶接によって接合される。これにより、電池成形体20の負極202と負極給電板40とが電気的に接続される。
【0090】
図7は、上記の構成を有する電池成形体20a,20b,20c,20dが積層されて形成されたセルアッセンブリ21の外観斜視図である。セルアッセンブリ21では、各電池成形体20に取り付けられた負極タブ207の接続部207bが、延伸方向A1に沿って直線状に並ぶように、電池成形体20の積層時の向きが定められている。このため、電池成形体20a,20b,20c,20dの正極タブ206の接続部206bも、中心線Cに対して対称となる、負極タブ207の接続部207bと対向する位置にて、延伸方向A1に沿う直線状に並んでいる。
【0091】
<正極給電板30>
図8は、セルアッセンブリ21に正極給電板30及び負極給電板40が取り付けられた状態の外観斜視図である。
【0092】
正極給電板30は、上述したように、タブ接続部301と、接点接続部302とを有している。タブ接続部301は、延伸方向A1に沿う長辺を有する板状に形成される。タブ接続部301は、電池成形体20a,20b,20cに取り付けられた正極タブ206と接合される。接点接続部302の下面は、セルアッセンブリ21の最上部に配置された電池成形体20dの正極タブ206と接合される。
【0093】
<缶蓋部50>
図2の断面図に加えて、
図9(a)、
図9(b)を参照して缶蓋部50について詳細に説明する。
図9(a)は、缶蓋部50の分解斜視図である。
図9(b)は、
図2に示される領域Rを拡大して示す部分断面図である。缶蓋部50は、キャップ61と、電極端子である正極端子62と、電極接点である正極接点63と、導電性弾性体64と、正極接点押さえ板65と、ガスケット66と、を有する。
<キャップ61>
【0094】
キャップ61は、金属等の導電性材である。キャップ61には、後述する正極端子62と、正極接点63と、導電性弾性体64と、ガスケット66とが取り付けられる。キャップ61は、延伸方向A1と交わる、より特定的には直交する上面610と、上面610の外周縁に沿って形成される取付部611とを有する。上面610は、円筒缶である電池缶10の形状に応じた円板状に形成される。
【0095】
尚、キャップ61は円板形状に形成されるものに限定されず、電池成形体20の形状、すなわち電池缶10の形状に応じた形状に形成されてよい。例えば、電池缶10が角筒缶の場合には、キャップ61は角形板状に形成されてよい。
【0096】
上面610の中央部近傍には、開口部612が形成される。この開口部612に、後述する正極端子62及びガスケット66が取り付けられる。取付部611は、キャップ61が電池缶10に取り付けられる際に、電池缶10と側面102の上端部との取り付け加工が行われる部位である。
【0097】
<正極端子62>
正極端子62は、金属等の導電性材である。正極端子62は、上述したように、キャップ61の上面610に形成された開口部612に設けられている。具体的には、正極端子62は、樹脂等の非導電性材のガスケット66を介してキャップ61の開口部612に設けられている。具体的には、正極端子62とガスケット66とキャップ61とは、例えばインサート成形等によって一体成形されることにより、正極端子62と開口部612との間がガスケット66によって密閉されている。
【0098】
正極端子62は、上面620と、上面620と連接し、延伸方向A1に沿って下方に伸びる側面621とを有する中空の筒形状に形成される。尚、図においては、正極端子62が円筒形状の場合が示されているが、角筒形状であってもよい。上面620は、キャップ61の上面610及びガスケット66の上面よりも上方に突出している。正極端子62の内部には、導電性弾性体64が収容される。
【0099】
<ガスケット66>
ガスケット66は、上述したように樹脂等の非導電性材である。ガスケット66は、延伸方向A1に沿って延びる中空の円筒形に形成される。ガスケット66の内部には、正極端子62と、正極接点63と、導電性弾性体64とが収容される。上述したように、正極端子62とガスケット66とキャップ61とが一体成形されているため、ガスケット66の外周面は、キャップ61の開口部612と密接する。また、ガスケット66の内周面の上部には、正極端子62が隙間なく取り付けられる。
【0100】
<正極接点63>
正極接点63は、金属等の導電材であり、下面630と、下面630と連接し、延伸方向A1に沿って上方に延びる側面631とを有する、中空の筒形状に形成されている。尚、図においては、正極接点63が円筒形状の場合が示されているが、角筒形状であってもよい。正極接点63には、導電性弾性体64が収容される。下面630は、缶蓋部50が電池缶10に取り付けられると、上述した正極給電板30と接触する。
【0101】
<導電性弾性体64>
導電性弾性体64は、金属等の導電性材のコイルスプリング(コイルバネ)である。尚、導電性弾性体64は、例えば円柱コイルスプリングでもよいし、円錐コイルスプリングでもよい。また、導電性弾性体64は、コイルスプリングではなく板バネでもよい。
【0102】
導電性弾性体64は、筒形状を有する正極端子62の内部及び筒形状を有する正極接点63の内部に設けられる。具体的には、導電性弾性体64の上方側の端部は正極端子62の上面620に取り付けられ、導電性弾性体64の下方側の端部は正極接点63の下面630に取り付けられる。これにより、正極端子62と正極接点63とには、導電性弾性体64により反力が作用する。換言すると、正極接点63は、導電性弾性体64によって下方に向けて付勢される。また、正極端子62と、正極接点63と、導電性弾性体64とが金属材であるため、正極端子62と、正極接点63と、導電性弾性体64とは電気的に接続される、と言うことができる。
【0103】
<正極接点押さえ板65>
正極接点押さえ板65は、樹脂等の非導電性材の円板状の部材である。尚、正極接点押さえ板65は円板形状に形成されるものに限定されず、電池成形体20の形状、すなわち電池缶10の形状に応じた形状に形成されてよい。例えば、電池缶10が角筒缶の場合には、正極接点押さえ板65は角形板状に形成されてよい。
【0104】
正極接点押さえ板65は、中心線Cの近傍に支持開口部651を有する。支持開口部651には、上方から正極接点63が挿通される。支持開口部651に挿通された正極接点63は、下面630が正極接点押さえ板65の下面652よりも下方に突出する。
【0105】
正極接点押さえ板65が電池缶10内に収容されると、下面652の周縁が、電池缶10の絞り部106の下端部に形成された段差部107の上面に載置される。これにより、正極接点押さえ板65が電池缶10に支持される。
【0106】
<缶蓋部50の取り付け>
上記の構成を有する缶蓋部50の電池缶10への取り付けについて説明する。上述したように、セルアッセンブリ21と、正極給電板30と、負極給電板40とが電池缶10内に収容された後、缶蓋部50が電池缶10の上部から取り付けられる。まず、正極接点押さえ板65が電池缶10内に挿入される。上述したように、正極接点押さえ板65の下面652の周縁が、電池缶10の絞り部106の下端部に形成された段差部107の上面に載置される。その後、正極端子62と、正極接点63と、導電性弾性体64と、ガスケット66とが取り付けられたキャップ61が電池缶10の側面102の上端面に配置される。このとき、正極接点63の下面630は、正極接点押さえ板65の支持開口部651に挿通される。また、ガスケット66の下面が正極接点押さえ板65の上面653に載置される。これにより、ガスケット66と一体成形された正極端子62と導電性弾性体64を介して接続された正極接点63は、正極接点押さえ板65に支持された状態となる。すなわち、正極接点押さえ板65は、正極接点63を支持する支持部として機能する。
【0107】
この状態にて、キャップ61の取付部611と、電池缶10の側面102の上端部の短径部105とが、例えば巻締かしめ等のかしめ加工が行われることにより、キャップ61が電池缶10に取り付けられる。この結果、電池缶10に取り付けられたキャップ61によって、電池缶10の側面102の開口が封止される。
【0108】
上述したように、キャップ61に正極接点押さえ板65を介して支持された正極接点63は、導電性弾性体64により下方に付勢されている。このため、缶蓋部50が電池缶10に取り付けられると、正極接点63は、正極給電板30の上部の接点接続部302と接触する。この結果、上述したように正極端子62と、正極接点63とが電気的に接続されているため、正極端子62は、正極給電板30によって、正極201と電気的に接続される。
【0109】
また、正極接点63は、非導電性材の正極接点押さえ板65に支持されていることにより、正極接点押さえ板65が電池缶10と接触していても、負極202と電気的に接続された電池缶10と導通しない。また、正極端子62は、非電導性材のガスケット66を介して導電性材のキャップ61に支持されていることにより、キャップ61と電池缶10とが接触していても、電池缶10と導通しない。これにより、正極201と電気的に接続された正極端子62及び正極接点63と、負極202と電気的に接続された電池缶10とが絶縁された状態となる。
【0110】
尚、上述した缶蓋部50の正極端子62と、正極接点63と、導電性弾性体64とが、正極給電板30と電気的に接続されるものに限定されない。例えば正極給電板30が電池缶10と接合される場合には、缶蓋部50の電極端子である正極端子62と、電極接点である正極接点63と、導電性弾性体64とが、負極給電板40と電気的に接続されるとよい。
【0111】
上述した実施の形態及び実施例によれば、以下の作用効果のうちの少なくとも一つが得られる。
【0112】
(1)全固体電池1は、電池成形体20、正極給電板30及び負極給電板40を収容する導電性材の電池缶10と、電池缶10が延びる延伸方向A1おいて、電池缶10の一方端に設けられる缶蓋部50と、を備える。缶蓋部50は、正極給電板30又は負極給電板40と電気的に接続される導電性材の電極端子である正極端子62と、非導電性材のガスケット66と、キャップ61とを有している。正極端子62とガスケット66とキャップ61とが一体成形されることにより、正極端子62がガスケット66を介してキャップ61に取り付けられ、キャップ61は、電池缶10の一方端(上方側の端部)を封口する。これにより、電池成形体20の正極201と電気的に接続された正極端子62と、負極202と電気的に接続された電池缶10とがガスケット66によって絶縁された状態で、電池缶10の内部を密閉できる。この結果、電池缶10に収容された電池成形体20が空気中の水分と反応することが抑制され、電池性能の劣化を抑制できる。また、缶蓋部50のキャップ61が金属材等により形成されるので、缶蓋部50の強度を確保することができる。
【0113】
(2)キャップ61には、正極給電板30又は負極給電板40と接触する電極接点である正極接点63が設けられる。導電性弾性体64は、正極端子62と正極接点63との間に設けられ、延伸方向A1に沿った力を正極接点63に作用させる。これにより、正極端子62と正極接点63との間には反力が作用し、正極接点63は延伸方向A1に沿って下方に付勢される。この結果、正極接点63と、缶蓋部50に対して下方に配置される正極給電板30の接点接続部302との接触が維持される。
【0114】
また、導電性弾性体64が正極端子62と正極接点63とに取り付けられることから、正極端子62と正極給電板30とを電気的に接続することが可能となる。すなわち、正極端子62と電池成形体20の正極201とを電気的に接続することが可能となる。
【0115】
(3)缶蓋部50は、電池缶10の内部に設けられ、正極接点63を支持する非導電性材の支持部材である正極接点押さえ板65を有する。正極接点押さえ板65には、延伸方向A1と交差する面に、正極接点63が挿入される支持開口部651が形成される。これにより、正極接点63と正極給電板30との接触を維持した状態で、導電性材の正極接点63を電池缶10の内部に取り付けることが可能となる。
【0116】
(4)樹脂等の非導電性材である正極接点押さえ板65は、電池缶10の内周面に沿って設けられた段差部107上に載置される。これにより、簡単な構成により正極接点押さえ板65を導電性材の電池缶10に取り付けることが可能となる。
【0117】
以上、本開示の実施の形態を具体的に説明したが、前述の実施の形態に限定されず、要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。各実施の形態は、必須構成要素を除き、構成要素の追加・削除・置換などが可能である。特に限定しない場合、各構成要素は、単数でも複数でもよい。
【0118】
本実施の形態に係る技術では、複数のセルである電池成形体を電池缶内に密閉して収容することで、空気中の水分と反応することが抑制される。このような技術を提供する本発明によれば、国連の提唱する持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)の「9産業と技術革新の基盤をつくろう」に貢献できる。
【符号の説明】
【0119】
1 全固体電池、10 電池缶、20,20a,20b,20c,20d 電池成形体、21 セルアッセンブリ、30 正極給電板、40 負極給電板、50 缶蓋部、61 キャップ、62 正極端子、63 正極接点、64 導電性弾性体、65 正極接点押さえ板、66 ガスケット、102 側面、103 突起部、104 凹部、107 段差部、201 正極、202 負極、203 固体電解質層、206 正極タブ、207 負極タブ、210,210a,210b,210c,210d 絶縁板、211 積層体、301 タブ接続部、302 接点接続部、610 上面、611 取付部、612 開口部、620 上面、621 側面、630 下面、631 側面、651 支持開口部、652 下面