(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024163701
(43)【公開日】2024-11-22
(54)【発明の名称】マイクロ波パルス生成器及び量子コンピュータ
(51)【国際特許分類】
G06N 10/20 20220101AFI20241115BHJP
H03L 7/08 20060101ALI20241115BHJP
G06F 7/38 20060101ALI20241115BHJP
【FI】
G06N10/20
H03L7/08 210
H03L7/08 220
G06F7/38 510
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023079534
(22)【出願日】2023-05-12
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、ムーンショット型研究開発事業「(1)大規模集積シリコン量子コンピュータの研究開発 (2)2次元量子ビットアレイ (3)量子ビット高精度制御・高感度読み出し回路 (4)システムアーキテクチャ」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】乗松 崇泰
(72)【発明者】
【氏名】和智 勇介
(72)【発明者】
【氏名】菅野 雄介
【テーマコード(参考)】
5J106
【Fターム(参考)】
5J106AA04
5J106BB03
5J106BB08
5J106CC01
5J106CC21
5J106CC41
5J106CC52
5J106DD13
5J106DD32
5J106DD35
5J106GG01
5J106HH02
5J106KK05
(57)【要約】
【課題】
量子ビットとマイクロ波パルスとの位相誤差を削減しつつマイクロ波パルスの周波数切替による位相ずれを補正することができる技術を提供する。
【解決手段】
マイクロ波パルス生成器101は、設定されたパルス幅及びパルス振幅のパルスデータ213を出力する論理回路203と、選択された量子ビットと同じ周波数を有する正弦波211,212を出力する周波数生成器201と、パルスデータ213をアナログ信号に変換し正弦波211で変調して正弦波の周波数を中心周波数に持つ信号をマイクロ波パルス111として出力するRFDAC204と、正弦波212の周波数を分周したシステムクロック124を出力する分周器202とを有し、周波数生成器201は、マイクロ波パルス111出力時以外は選択された量子ビット以外の量子ビットと同じ周波数で動作し、論理回路203は、システムクロック124に同期して動作する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の量子ビットを有する量子ビットアレイと、
前記量子ビットアレイから量子操作する量子ビットを選択して角周波数をシフトさせる量子ビット選択器と、
前記選択された量子ビットと同じ周波数を持ち、設定されたパルス幅及びパルス振幅のマイクロ波パルスを出力するマイクロ波パルス生成器と、を有する量子コンピュータにおいて、
前記マイクロ波パルス生成器は、
前記設定されたパルス幅及びパルス振幅のパルスデータを出力する論理回路と、
前記選択された量子ビットと同じ周波数を有する正弦波を出力する周波数生成器と、
前記パルスデータをアナログ信号に変換し前記正弦波で変調して前記正弦波の周波数を中心周波数に持つ信号をマイクロ波パルスとして出力する変換器と、
前記正弦波の周波数を分周したシステムクロックを出力する分周器と、を有し、
前記周波数生成器は、前記マイクロ波パルス出力時以外は前記選択された量子ビット以外の量子ビットと同じ周波数で動作し、
前記論理回路は、前記システムクロックに同期して動作する量子コンピュータ。
【請求項2】
請求項1記載の量子コンピュータにおいて、
前記論理回路は、前記選択された量子ビットの周波数に基づいて周波数変調信号を出力し、
前記周波数生成器は、前記周波数変調信号に基づいて前記正弦波を出力する量子コンピュータ。
【請求項3】
請求項2記載の量子コンピュータにおいて、
前記論理回路は、前記設定されたパルス幅及び前記選択された量子ビットの周波数に基づいて位相ずれ量を計算し、前記位相ずれ量に基づいて周波数変調信号を出力する量子コンピュータ。
【請求項4】
請求項2記載の量子コンピュータにおいて、
前記論理回路は、前記選択された量子ビットの周波数に基づいて周波数変調信号を出力した後に、前記選択された量子ビットの周波数にマイナスを掛けた値に基づいて周波数変調信号を出力する量子コンピュータ。
【請求項5】
請求項2に記載の量子コンピュータにおいて、
前記論理回路は、
設定された位相から位相ずれ量を引いた位相設定信号を外部から取得し、前記取得した位相設定信号に基づいて周波数変調信号を出力する量子コンピュータ。
【請求項6】
請求項2記載の量子コンピュータにおいて、
前記論理回路は、前記選択された量子ビットの周波数の周波数オフセット設定信号と、前記選択された量子ビットの周波数にマイナスを掛けた周波数オフセット信号と、を外部から取得し、前記取得した周波数オフセット信号に基づいて前記周波数変調信号を出力する量子コンピュータ。
【請求項7】
請求項2記載の量子コンピュータにおいて、
前記量子ビットアレイが有する前記複数の量子ビットの周波数ずれを補正する位相補正データをさらに有し、
前記周波数生成器は、前記選択された量子ビットの前記位相補正データに基づいて前記正弦波を出力する量子コンピュータ。
【請求項8】
請求項2記載の量子コンピュータにおいて、
前記変換器はRFDACである請求項1記載の量子コンピュータ。
【請求項9】
請求項2記載の量子コンピュータにおいて、
前記変換器は、
前記パルスデータをアナログ信号に変換するDACと、
前記アナログ信号を前記正弦波で変調して前記正弦波の周波数を中心周波数に持つ信号をマイクロ波パルスとして出力するミキサと、
を有する量子コンピュータ。
【請求項10】
複数の量子ビットを有する量子ビットアレイと、
前記量子ビットアレイから量子操作する量子ビットを選択して角周波数をシフトさせる量子ビット選択器と、
前記選択された量子ビットと同じ周波数を持ち、設定されたパルス幅及びパルス振幅のマイクロ波パルスを出力するマイクロ波パルス生成器と、を有する量子コンピュータにおいて、
前記マイクロ波パルス生成器は、
設定された位相及び周波数を持つコサイン波とサイン波を生成し、前記設定されたパルス幅及びパルス振幅のパルスにそれぞれ掛け合わせて、I変調データ及びQ変調データをそれぞれ出力する論理回路と、
前記I変調データ及び前記Q変調データをデジタルデータからアナログに変換してI変調信号及びQ変調信号を出力するDACと、
周波数設定信号で設定された周波数の互いに90°位相差があるLO出力サイン波及びLO出力コサイン波を生成する周波数生成器と、
前記I変調信号及び前記Q変調信号をそれぞれ前記LO出力サイン波及び前記LO出力コサイン波と掛け合わせ、位相変調したマイクロ波パルスを出力するIQ変調器と、
前記周波数生成器の出力周波数を分周したシステムクロックを出力する分周器と、を有し、
前記周波数生成器は、前記マイクロ波パルス出力時以外は前記選択された量子ビット以外の量子ビットと同じ周波数で動作し、
前記論理回路は、前記システムクロックに同期して動作する量子コンピュータ。
【請求項11】
請求項10記載の量子コンピュータにおいて、
前記マイクロ波パルスに前記LO出力サイン波及び前記LO出力コサイン波とを掛け合わせ、I復調信号とQ復調信号に復調するIQ復調器と、
前記I復調信号及び前記Q復調信号をアナログからデジタルデータに変換してI復調データ及びQ復調データを出力するADCと、
前記I復調データ及び前記Q復調データを取得し、IQのゲイン誤差と位相誤差を計算してIQ補正データを前記論理回路に出力するキャリブレーション回路と、を有し、
前記論理回路は、前記IQ補正データを用いて前記コサイン波及び前記サイン波を補正する量子コンピュータ。
【請求項12】
量子ビットアレイから選択され、角周波数をシフトされた量子ビットを量子操作するマイクロ波パルスを出力するマイクロ波パルス生成器において、
設定されたパルス幅及びパルス振幅のパルスデータを出力する論理回路と、
前記選択された量子ビットと同じ周波数を有する正弦波を出力する周波数生成器と、
前記パルスデータをアナログ信号に変換し前記正弦波で変調して前記正弦波の周波数を中心周波数に持つ信号をマイクロ波パルスとして出力する変換器と、
前記正弦波の周波数を分周したシステムクロックを出力する分周器と、を有し、
前記周波数生成器は、前記マイクロ波パルス出力時以外は前記選択された量子ビット以外の量子ビットと同じ周波数で動作し、
前記論理回路は、前記システムクロックに同期して動作するマイクロ波パルス生成器。
【請求項13】
請求項12記載のマイクロ波パルス生成器において、
前記論理回路は、前記選択された量子ビットの周波数に基づいて周波数変調信号を出力し、
前記周波数生成器は、前記周波数変調信号に基づいて前記正弦波を出力するマイクロ波パルス生成器。
【請求項14】
請求項13記載のマイクロ波パルス生成器において、
前記論理回路は、前記設定されたパルス幅及び前記選択された量子ビットの周波数に基づいて位相ずれ量を計算し、前記位相ずれ量に基づいて周波数変調信号を出力するマイクロ波パルス生成器。
【請求項15】
請求項13記載のマイクロ波パルス生成器において、
前記論理回路は、前記選択された量子ビットの周波数に基づいて周波数変調信号を出力した後に、前記選択された量子ビットの周波数にマイナスを掛けた値に基づいて周波数変調信号を出力するマイクロ波パルス生成器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、量子ビットを操作するための位相調整可能なマイクロ波を生成するマイクロ波パルス生成器及び量子コンピュータに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体微細化の限界が見えつつある中、半導体微細化に頼ってフォン・ノイマン型のコンピュータを改善していくことは限界に来つつある。そのため、フォン・ノイマン型と異なる原理で動作し、特定の問題について高速に解くことのできるコンピュータに注目が集まりつつある。その一つとして、量子コンピュータの開発が進められている。
【0003】
量子コンピュータは、量子ビットと呼ばれる状態の重ね合わせが可能なデバイスのエネルギー状態などを情報として利用し、量子ビットの状態確率を操作することで計算を行う。量子ビットには超電導を利用したものや電子スピンを利用したものなどが存在する。電子スピンについては、2つのエネルギー状態を情報として利用する。
【0004】
電子はある磁気モーメントを持った歳差運動をしているが、外部から電子に強磁場をかけることで、上向きスピンと下向きスピンといった2つのエネルギー状態が生じる。この際、電子は磁場の強さによりスピンの角周波数が変化する。コヒーレンス時間中は上向きスピンと下向きスピンが重ね合わせの状態にあり、この角周波数と同じ周波数のRF(Radio Frequency)磁場を加えることにより、2つのエネルギー状態の確率を操作することができる。RF磁場を与えた際に2つのスピン状態確率は与えたエネルギーにより正弦波で変化するラビ振動を行うため、必要な状態確率に操作するためにRF磁場のエネルギーと位相を管理する必要がある。
【0005】
マイクロ波パルス照射によりRF磁場を生成するマイクロ波パルス生成器は、位相の制御もできるようにするため、IQ変調器が用いられる(特許文献1、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許出願公開第2018/0013426号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2020/0034736号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1、特許文献2のマイクロ波パルス生成器は、IQ変調器は90°位相の異なるRF信号の振幅を変えることで位相を制御することができるが、90°の位相差が若干ずれたり、I側とQ側の信号振幅のずれが生じたりするため、位相誤差が生じる。量子ビットのコヒーレンス時間中に何回か量子操作を行うことになるが、マイクロ波パルスと量子ビットの歳差運動との位相差は一定に保たれてある必要があるため、この位相誤差は量子操作の精度の劣化につながる。
【0008】
また、マイクロ波パルスを照射する場合、空間的に広がって照射されるため、量子ビットを集積化した場合複数の量子ビットが同時に操作されてしまう。そのため、操作したい量子ビットとそれ以外の量子ビットとで角周波数を変化させるように制御を行う。その際、マイクロ波パルス生成器の出力位相も周波数切替により変わってしまう。
【0009】
電子スピンを利用した量子コンピュータにおいて、量子操作を行うマイクロ波パルスは、コヒーレンス時間中に量子ビットとの位相差を保持しつつ、量子操作時の位相誤差を最小にする必要がある。さらに量子操作を行う際に周波数切替も行うことにより位相がずれてしまうことが課題となる。
【0010】
そこで、本発明は、量子ビットとマイクロ波パルスとの位相誤差を削減しつつマイクロ波パルスの周波数切替による位相ずれを補正することができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、代表的な本発明の量子コンピュータの一つは、複数の量子ビットを有する量子ビットアレイと、量子ビットアレイから量子操作する量子ビットを選択して角周波数をシフトさせる量子ビット選択器と、選択された量子ビットと同じ周波数を持ち、設定されたパルス幅及びパルス振幅のマイクロ波パルスを出力するマイクロ波パルス生成器とを有する量子コンピュータにおいて、マイクロ波パルス生成器は、設定されたパルス幅及びパルス振幅のパルスデータを出力する論理回路と、選択された量子ビットと同じ周波数を有する正弦波を出力する周波数生成器と、パルスデータをアナログ信号に変換し正弦波で変調して正弦波の周波数を中心周波数に持つ信号をマイクロ波パルスとして出力する変換器と、正弦波の周波数を分周したシステムクロックを出力する分周器とを有し、周波数生成器は、マイクロ波パルス出力時以外は選択された量子ビット以外の量子ビットと同じ周波数で動作し、論理回路は、システムクロックに同期して動作する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、量子ビットとマイクロ波パルスとの位相誤差を削減しつつマイクロ波パルスの周波数切替による位相ずれを補正することができる。
上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施例1の量子コンピュータの構成の一例を示すブロック図である。
【
図2】実施例1のマイクロ波パルス生成器101の構成の一例を示す図である。
【
図3】
図2の周波数生成器201の構成の一例を示す図である。
【
図4】
図2の論理回路203の第1の構成例を示す図である。
【
図5】
図4の論理回路203の動作の一例を示す図である。
【
図6】
図5の動作をシミュレーションした結果の一例を示す図である。
【
図7】
図2の論理回路203の第2の構成例を示す図である。
【
図8】
図7の論理回路203の動作の一例を示す図である。
【
図9】
図2の論理回路203の第3の構成例を示す図である。
【
図10】
図9の論理回路203の動作の一例を示す図である。
【
図11】
図9の論理回路203の動作の他の一例を示す図である。
【
図12】実施例2のマイクロ波パルス生成器101の構成の一例を示す図である。
【
図13】実施例3のマイクロ波パルス生成器101の構成の一例を示す図である。
【
図14】
図13の論理回路1303の構成の一例を示す図である。
【
図15】
図14の論理回路1303の通常動作の一例を示す図である。
【
図16】
図14の論理回路1303のキャリブレーション時の動作の一例を示す図である。
【
図17】実施例4の量子コンピュータの構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、実施例を図面を用いて説明する。
【実施例0015】
図1は、実施例1の量子コンピュータの構成の一例を示すブロック図である。
【0016】
量子コンピュータは、情報を保持する量子ビットアレイ102、量子ビットアレイ102を操作するマイクロ波パルス生成器101、量子ビットアレイ102の中から操作する量子ビットを選択する量子ビット選択器103、量子ビットアレイ102中の選択された量子ビットからマイクロ波パルス生成器101で操作された結果を読み出す量子ビット読出し器104を有する。
【0017】
量子ビットアレイ102は複数の量子ビットがアレイ状に配置され、量子ビット選択信号120で選択された量子ビットにマイクロ波パルス111を照射して操作を行い、操作された量子ビット状態123を量子ビット読出し器104で読み出す。
【0018】
マイクロ波パルス生成器101は、参照クロック112、周波数設定信号113、パルストリガー信号114、パルス波形設定信号115、パルス幅設定信号116、位相設定信号117、周波数オフセット設定信号118が入力される。
【0019】
マイクロ波パルス生成器101は、周波数設定信号113と周波数オフセット設定信号118を足し合わせた中心周波数を持ち、位相設定信号117で設定された位相オフセットを持ち、パルス幅設定信号116で設定されたパルス幅で、パルス波形設定信号115で設定された振幅を含むパルス形状を持つマイクロ波パルス111を、パルストリガー信号114の入力タイミングで出力する。
【0020】
マイクロ波パルス111は、選択された量子ビットに合わせた周波数を持たせることで共振させ、パルス幅とパルス振幅により選択された量子ビットの状態確率を操作する。
【0021】
また、マイクロ波パルス生成器101はシステムクロック124も出力し、論理動作をする回路に同期用のクロックを供給する。
【0022】
量子ビット選択器103は、量子ビットアドレス信号119を入力され、量子ビット選択信号120を出力し、量子ビットアレイ102から量子操作する量子ビットを選択する。その際、選択する量子ビットの角周波数をシフトさせるなどして選択可能とする。
【0023】
量子ビット読出し器104は、制御信号121を入力され、量子ビットアレイ102から量子ビット状態123を読み出し、量子ビット読出し結果122を出力する。
【0024】
図2は、実施例1のマイクロ波パルス生成器101の構成の一例を示す図である。
【0025】
マイクロ波パルス生成器101は、周波数生成器201、分周器202、論理回路203、RFDAC204を有する。
【0026】
周波数生成器201は、参照クロック112、周波数設定信号113、周波数変調信号214を受けて、周波数設定信号113と周波数変調信号214で設定される中心周波数、位相を持つ正弦波211と正弦波212を出力する。
【0027】
分周器202は、正弦波212の周波数を分周したシステムクロック124を出力する。
【0028】
論理回路203はシステムクロック124に同期して動作し、パルストリガー信号114の立ち上がりタイミングで、パルス波形設定信号115とパルス幅設定信号116を基にパルスデータ213をRFDAC204に出力する。また、論理回路203は、パルストリガー信号114の立ち上がりタイミングで、位相設定信号117,周波数オフセット設定信号118を基に、パルス幅設定信号116を基にした期間に周波数変調信号214を周波数生成器201に出力する。
【0029】
RFDAC(Radio Frequency Digital to Analog Converter)204は、パルスデータ213を受け取り、パルスデータ213をアナログ信号に変換し正弦波211で変調して正弦波211の周波数を中心周波数に持つ信号をマイクロ波パルス111として出力する。
【0030】
周波数生成器201は、パルス出力時以外は選択された量子ビット以外の角周波数と同じ周波数で動作させ、位相差も一定とすることにより、量子ビットと疑似的に同期した動作をする。
【0031】
パルス幅はシステムクロック124で決められる値であることから、周波数変調信号214による位相ずれも計算してキャンセル可能である。そのため、周波数生成器201の中心周波数を選択量子ビットと同じとして、他の量子ビットの角周波数から変えた場合も元の位相差に戻すことが可能である。
【0032】
図3は、
図2の周波数生成器201の構成の一例を示す図である。
【0033】
周波数生成器201はPLL(Phase Locked Loop)の構成であり、位相を高速に切り替える必要があることから2ポイント変調方式を想定している。本例ではアナログのType2 PLLを一例に挙げているが、デジタルPLLやサブサンプリングPLLなどでも実装可能である。
【0034】
図3の周波数生成器201は、VCO(Voltage Controlled Oscillator)301、バッファ302、バッファ303、MMD(Multi Modulus Divider)304、SDM(Sigma Delta Modulator)305、PFD(Phase Frequency Detector)306,CP(Charge Pump)307、LPF(Low Pass Filter)308、加算器309、DAC(Digital to Analog Converter)310、SDM(Sigma Delta Modulator)311,ゲイン調整312、ゲイン調整313、加算器314を有する。
【0035】
周波数変調信号214は2つのパスに分かれて、片方はゲイン調整312でVCO301のゲインをキャンセルするようゲイン調整し、SDM311で変調した信号をDAC310で電圧に変換して加算器309を介してVCO301の周波数を変調し、もう片方はゲイン調整313でゲイン調整した後に加算器314で周波数設定信号113と足し合わせ、SDM305で変調した信号をMMD304に入力して分周数を変えて周波数変調を行う。
【0036】
PLLの動作としては、VCO301は入力電圧に応じた周波数で発振し、VCOの出力をMMD304で分周し、PFD306で参照クロック112とMMD304で分周した結果との位相を比較して電圧を高めるか下げるかの信号を出力し、CP307はPFDの信号を基に電流を流し込むか引き抜くかし、LPF308はCP307の信号の高周波成分を抑圧して安定した電圧にしてVCO301に供給する。
【0037】
参照クロック112とMMD304で分周したクロックとの位相が合うことから、VCO301の出力周波数は参照クロック112の周波数の分周数倍にロックする。VCO301からの出力正弦波はバッファ302を介して正弦波211として出力、バッファ303を介して正弦波212として出力される。
【0038】
次に、2ポイント変調について、DAC310を通るパスは高周波成分のみ通り、SDM305を通るパスは低周波成分のみ通ることから、これら2パスのタイミングとゲインを合わせられれば、周波数変調信号214はVCO301出力に対してオールパス特性となり、設定した位相やオフセット周波数を持つ正弦波が得られる。
【0039】
図4は、
図2の論理回路203の第1の構成例を示す図である。
【0040】
周波数変調信号214は周波数生成器201の出力周波数を変えるため、選択しない量子ビット群との位相差をずらしてしまうため、周波数オフセット分による位相ずれをキャンセルする機構を論理回路203は持つ。
【0041】
論理回路203は、パルス波形データ生成部401,加算器402,差分器403、周波数オフセット制御器404、加算器405、位相ずれ補正器406、ゲイン調整407を有し、システムクロック124に同期して動作する。
【0042】
パルス波形データ生成部401は、パルス波形設定信号115とパルス幅設定信号116で設定されたパルス波形データをパルストリガー信号114がHighとなるタイミングをトリガーとして出力する。
【0043】
位相ずれ補正器406は、パルス幅設定信号116と周波数オフセット設定信号118を基に位相ずれ量を計算し、パルストリガー信号114からパルス幅+αの遅延後に位相キャンセル信号を出力する。
【0044】
加算器405は、位相ずれ補正器406が出力した位相キャンセル信号を位相設定信号117と加算する。ゲイン調整407は、加算器405で加算した結果の位相値をゲイン調整し、ゲイン調整出力412を出力する。
【0045】
差分器403はゲイン調整出力412の差分を計算する。加算器402は、差分器403の計算結果と周波数オフセット制御器404が出力した周波数オフセット411を加算して、周波数変調信号214を出力する。
【0046】
周波数オフセット制御器404は、周波数オフセット設定信号118をパルストリガー信号114のタイミングをトリガーとして、パルス幅設定信号116で設定されたパルス幅の期間出力し、それ以外は0とする。
【0047】
図5は、
図4の論理回路203の動作の一例を示す図である。
【0048】
周波数オフセット制御器404は、パルストリガー信号114をトリガーとして、周波数オフセット411をパルス幅分出力する。ゲイン調整出力412は、バルス幅分+αの遅延をもって位相ずれ補正が加えられた値に切り替わる。そのため、周波数変調信号214は、はじめ周波数オフセット411で設定される値を出力し、ゲイン調整出力412の差分を取った値を出力する。
【0049】
この時、周波数生成器201の出力位相は、周波数設定信号113で設定される周波数に対する出力相対位相501のように、変化した後に元の位相にキャンセルされる。
【0050】
図6は、
図5の動作をシミュレーションした結果の一例を示す図である。
【0051】
加算器402から出力される周波数変調信号214は、はじめ周波数オフセット411の周波数を出力し、ゲイン調整出力412が切り替わった際の差分が出力される。この時、周波数生成器201の出力周波数601は、周波数変調信号214に周波数設定信号113が加わった値となり、出力相対位相501はパルス出力後ある値で固定されるが、位相補正が加わり、パルス出力前の位相に戻る。
【0052】
図4~6で説明した論理回路203の第1の構成例によれば、位相ずれ補正器406は、パルス幅設定信号116と周波数オフセット設定信号118を基に位相ずれ量を計算し、パルストリガー信号114からパルス幅+αの遅延後に位相キャンセル信号を出力し、加算器405で位相設定信号117と加算するので、量子ビットとマイクロ波パルスとの位相誤差を削減しつつマイクロ波パルスの周波数切替による位相ずれを補正することができる。
【0053】
図7は、
図2の論理回路203の第2の構成例を示す図である。
【0054】
パルスを2回出力し、各々のパルスの周波数オフセットを正負反転させることにより位相ずれをキャンセルする方式である。
【0055】
図7の論理回路203は、パルス波形データ生成部701、加算器702、差分器703、周波数オフセット制御器704、掛け算器705、周波数オフセット正負切替器706、ゲイン調整707を有し、システムクロック124に同期して動作する。
【0056】
パルス波形データ生成部701は、パルス波形設定信号115とパルス幅設定信号116で設定されたパルス波形データを、パルストリガー信号114がHighとなるタイミングをトリガーとして出力する。
【0057】
周波数オフセット制御器704は、パルス幅設定信号116を基にパルス1回目から2日目の終わりまでの出力期間を計算し、パルストリガー信号114をトリガーとして、前記出力期間に周波数オフセット設定信号118を周波数オフセット信号711として出力し、それ以外の期間は0を出力する。
【0058】
周波数オフセット正負切替器706は、パルス幅設定信号116を基に正の出力期間、負の出力期間を計算し、パルストリガー信号114をトリガーとして、正の出力期間に正の信号の負の出力期間に負の信号の正負信号712を出力する。
【0059】
掛け算器705は、周波数オフセット信号711と正負信号712を掛け合わせ、加算器702に出力する。
【0060】
加算器702は、位相設定信号117をゲイン調整707でゲイン調整し差分器703で取った差分値を、加算器702の出力に足し合わせて周波数変調信号214を出力する。
【0061】
図8は、
図7の論理回路203の動作の一例を示す図である。
【0062】
周波数オフセット制御器704は、一定の値の周波数オフセット設定信号118が入力され、パルストリガー信号114をトリガーとして、周波数オフセット信号711を2パルス分の幅で出力する。
【0063】
周波数オフセット正負切替器706は、最初のパルス幅の期間に正の信号、次のパルス幅の期間に負の信号となる正負信号712を出力する。
【0064】
周波数変調信号214は、正のオフセット周波数と負のオフセット周波数を交互に同じ幅持つ。そのため、周波数生成器201の出力相対位相801は、同じ期間に上がって下がり、パルス出力前の位相と同等となる。
【0065】
図7,8で説明した論理回路203の第2の構成例によれば、周波数オフセット正負切替器706は、パルス幅設定信号116を基に正の出力期間、負の出力期間を計算し、パルストリガー信号114をトリガーとして、正の出力期間に正の信号の負の出力期間に負の信号の正負信号712を出力するので、量子ビットとマイクロ波パルスとの位相誤差を削減しつつマイクロ波パルスの周波数切替による位相ずれを補正することができる。
【0066】
図9は、
図2の論理回路203の第3の構成例を示す図である。
【0067】
第3の例では、信号を制御する回路を論理回路203の内部に持たず、論理回路203の外部のマイクロプロセッサや制御論理回路等で設定信号をパルスごとに切替える方式である。
【0068】
図9の論理回路203は、パルス波形データ生成器901、加算器902、差分器903、ゲイン調整904を有する。
【0069】
【0070】
図10は、
図9の論理回路203の動作の一例を示す図である。
【0071】
論理回路203の外部のマイクロプロセッサや制御論理回路等は、パルストリガー信号114をトリガーとして、周波数オフセット設定信号118をパルス幅の期間に設定したい周波数オフセット値にし、位相設定信号117をパルス幅の期間後に位相をパルス出力前と同じ値に戻すように変化させる。
【0072】
周波数変調信号214は、周波数オフセット設定信号118と位相設定信号117で決まる。そのため、周波数生成器201の周波数設定信号113で決められる周波数に対する出力相対位相1001は、周波数オフセット設定信号118により変化するが、位相設定信号117でキャンセルしてパルス出力前と同じ位相に戻る。
【0073】
図10の例によれば、論理回路203の外部のマイクロプロセッサや制御論理回路等は、パルストリガー信号114をトリガーとして、周波数オフセット設定信号118をパルス幅の期間に設定したい周波数オフセット値にし、位相設定信号117をパルス幅の期間後に位相をパルス出力前と同じ値に戻すように変化させるので、量子ビットとマイクロ波パルスとの位相誤差を削減しつつマイクロ波パルスの周波数切替による位相ずれを補正することができる。
【0074】
【0075】
図11は、
図9の論理回路203の動作の他の一例を示す図である。
【0076】
論理回路203の外部のマイクロプロセッサや制御論理回路等は、パルストリガー信号114をトリガーとして、周波数オフセット設定信号118を1回目と2回目のパルスで正負逆にして出力し、周波数オフセットによる位相のずれをキャンセルする。周波数オフセットを例えば1回目正とした場合、2回目は絶対値は同じで負とする。
【0077】
これにより出力相対位相1101は、1回目のパルス出力後に変化するが、2回目のパルス出力後に1回目のパルス出力前の位相に戻る。
【0078】
図11の例によれば、論理回路203の外部のマイクロプロセッサや制御論理回路等は、パルストリガー信号114をトリガーとして、周波数オフセット設定信号118を1回目と2回目のパルスで正負逆にして出力するので、量子ビットとマイクロ波パルスとの位相誤差を削減しつつマイクロ波パルスの周波数切替による位相ずれを補正することができる。
ミキサ1202は、DAC1201が出力したアナログ信号を正弦波211で変調して正弦波211の周波数を中心周波数に持つ信号をマイクロ波パルス111として出力する。
実施例2によれば、高速DACの代わりにDAC1201、ミキサ1202を有するので、設計が容易である。また、高速DACを使用しないので、消費電力を低減することができる。