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特開2024-163718リアクトルの磁気バイアス制御方法及びリアクトルの磁気バイアス制御装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024163718
(43)【公開日】2024-11-22
(54)【発明の名称】リアクトルの磁気バイアス制御方法及びリアクトルの磁気バイアス制御装置
(51)【国際特許分類】
   H01F 27/00 20060101AFI20241115BHJP
   H01F 29/14 20060101ALI20241115BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20241115BHJP
   H01F 41/00 20060101ALI20241115BHJP
   H01F 37/00 20060101ALI20241115BHJP
   H02M 3/155 20060101ALI20241115BHJP
【FI】
H01F27/00 J
H01F29/14 A
H01F41/02 Z
H01F41/00 G
H01F37/00 M
H01F37/00 A
H01F37/00 Z
H02M3/155 Y
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023079564
(22)【出願日】2023-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100170575
【弁理士】
【氏名又は名称】森 太士
(72)【発明者】
【氏名】坂本 駿弥
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 健介
【テーマコード(参考)】
5E059
5H730
【Fターム(参考)】
5E059AA10
5H730AS04
5H730AS05
5H730AS08
5H730BB13
5H730BB14
5H730DD03
5H730EE59
5H730FD31
(57)【要約】
【課題】リアクトルを双方向の電力変換装置に用いた場合でもリアクトルのコアの磁気飽和を適切に抑制できるようにする。
【解決手段】磁気バイアス制御方法は、コイル33を巻回した磁性材のコア31に挿入された永久磁石32の着磁状態を制御するコントローラ120によって、リアクトル30の磁気バイアスを制御する。コントローラ120は、コイル33に流れる電流72を検出する電流センサ110から、検出したコイル33の電流72を取得する。コントローラ120は、取得した電流72に基づいて、永久磁石32の着磁状態を変更するか否かを判定する。コントローラ120は、着磁状態を変更すると判定した場合に、着磁電流1_80又は着磁電流2_79をコイル33に流して、永久磁石32によるバイアス磁束75とは磁界の向きが反対で、かつ、永久磁石32の保磁力Hcjを超える強さの外部磁界71を、コイル33に一時的に発生させる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイルを巻回した磁性材のコアに挿入された永久磁石の着磁状態を制御するコントローラによって、リアクトルの磁気バイアスを制御する方法であって、
前記コントローラは、
前記コイルに流れる電流を検出したセンサから、検出した前記コイルの電流を取得し、
取得した前記コイルの電流に基づいて、前記永久磁石の着磁状態を変更するか否かを判定し、
前記着磁状態を変更すると判定した場合に、所定の電流を前記コイルに流して、前記永久磁石によるバイアス磁束とは磁界の向きが反対で、かつ、前記永久磁石の保磁力を超える強さの外部磁界を、前記コイルに一時的に発生させる、
リアクトルの磁気バイアス制御方法。
【請求項2】
前記コントローラは、取得した前記コイルの電流と、前記バイアス磁束に対応する所定の閾値との比較に基づいて、前記着磁状態を変更するか否かを判定する、請求項1に記載のリアクトルの磁気バイアス制御方法。
【請求項3】
前記所定の閾値は、前記着磁状態を変更する場合の変更後における前記永久磁石の極性に対応して設定された第1の閾値を含んでおり、
前記コントローラは、取得した前記コイルの電流が、前記変更後における前記永久磁石の極性に対応する符号の値であって、かつ、絶対値において前記第1の閾値を上回る値となった場合に、前記着磁状態を変更すると判定する、請求項2に記載のリアクトルの磁気バイアス制御方法。
【請求項4】
前記所定の閾値は、前記着磁状態を変更する場合の変更前における前記永久磁石の極性に対応して設定された第2の閾値を含んでおり、
前記コントローラは、取得した前記コイルの電流が、前記変更前における前記永久磁石の極性に対応する符号の値であって、かつ、絶対値において所定時間以上連続して前記第2の閾値を下回る値となった場合に、前記着磁状態を変更すると判定する、請求項2に記載のリアクトルの磁気バイアス制御方法。
【請求項5】
前記所定の閾値は、値が異なる2つ以上の判定用閾値を含んでおり、
前記コントローラは、取得した前記コイルの電流と各判定用閾値との比較結果のうち少なくとも1つに基づいて、前記着磁状態を変更するか否かを判定する、請求項2に記載のリアクトルの磁気バイアス制御方法。
【請求項6】
前記リアクトルは、保磁力が異なる2種類以上の前記永久磁石を有しており、
前記コントローラは、前記着磁状態を変更すると判定した場合に、取得した前記コイルの電流により前記コイルに発生する磁束と2種類以上の前記永久磁石によるバイアス磁束の合計との比較に基づいて、前記所定の電流の値を決定し、決定した前記所定の電流を前記コイルに一時的に流して、2種類以上の前記永久磁石の前記着磁状態を、保磁力が低い種類から順に変更させる、請求項1に記載のリアクトルの磁気バイアス制御方法。
【請求項7】
前記リアクトルは、前記コアに発生する主磁束と平行な方向における厚さが異なる2種類以上の前記永久磁石を有しており、
前記コントローラは、
前記着磁状態を変更すると判定した場合に、取得した前記コイルの電流により前記コイルに発生する磁束と2種類以上の前記永久磁石によるバイアス磁束の合計との比較に基づいて、前記所定の電流の値を決定し、
決定した前記所定の電流を前記コイルに一時的に流して、2種類以上の前記永久磁石の前記着磁状態を、前記主磁束と平行な方向における厚さが小さい種類から順に変更させる、請求項1に記載のリアクトルの磁気バイアス制御方法。
【請求項8】
前記コイルを流れる電流は、電動車両のパワートレインの力行状態及び回生状態において双方向DCDCコンバータと前記パワートレインとの間を流れる負荷電流である請求項1~7のいずれか1項に記載のリアクトルの磁気バイアス制御方法。
【請求項9】
コイルを巻回した磁性材のコアに永久磁石を挿入したリアクトルの磁気バイアス制御装置であって、
前記コイルに流れる電流を検出するセンサと、
前記センサから取得した前記コイルの電流に基づいて、前記永久磁石の着磁状態を変更するか否かを判定する判定部と、
前記着磁状態を変更すると判定した場合に、所定の電流を前記コイルに流して、前記永久磁石によるバイアス磁束とは磁界の向きが反対で、かつ、前記永久磁石の保磁力を超える強さの外部磁界を、前記コイルに一時的に発生させる制御部と、
を備えるリアクトルの磁気バイアス制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リアクトルの磁気バイアス制御方法及びリアクトルの磁気バイアス制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では、コアのギャップ部に磁気バイアス用の永久磁石を配置したリアクトルが提案されている。このリアクトルでは、コアに巻回したコイルに発生する磁束と永久磁石に発生するバイアス磁束との打ち消し合いによってコア内の磁束を減らすことで、コアの磁気飽和の抑制を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8-316049号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のリアクトルは、磁気飽和の抑制に対応できる方向が、永久磁石の磁極の配置に対応する一方向に限られる。例えば、モータが力行状態と回生状態とを繰り返す電動車両で用いる双方向DCDCコンバータに接続して用いるリアクトルでは、モータの力行状態と回生状態との両方でコアの磁気飽和に対策する必要がある。仮に、特許文献1のリアクトルを双方向DCDCコンバータに接続すると、モータの力行状態と回生状態とのうちどちらか一方の状態では、直流リアクトルがコアの磁気飽和を助長する方向に機能してしまう。
【0005】
本発明は前記事情に鑑みなされたもので、本発明の目的は、リアクトルを双方向の電力変換装置に接続した場合でもリアクトルのコアの磁気飽和を適切に抑制できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために、本発明の一つの態様に係るリアクトルの磁気バイアス制御方法では、コイルを巻回した磁性材のコアに挿入された永久磁石の着磁状態を制御するコントローラによって、リアクトルの磁気バイアスを制御する。コントローラは、コイルに流れる電流を検出するセンサから、検出したコイルの電流を取得する。コントローラは、取得したコイルの電流に基づいて、永久磁石の着磁状態を変更するか否かを判定する。コントローラは、着磁状態を変更すると判定した場合に、所定の電流をコイルに流して、永久磁石によるバイアス磁束とは磁界の向きが反対で、かつ、永久磁石の保磁力を超える強さの外部磁界を、コイルに一時的に発生させる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、リアクトルを双方向の電力変換装置に接続した場合でもリアクトルのコアの磁気飽和を適切に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本発明の実施形態に係るリアクトルの磁気バイアス制御装置を有する、電動車両のパワートレインに対する電力供給部の概略的な構成の一例を示す図である。
図2図2は、第1実施形態に係るリアクトルの磁気バイアス制御装置が磁気バイアスを制御するリアクトルの構成の一例を示す図である。
図3図3は、図2の永久磁石のJ-H曲線を示す図である。
図4図4は、図1のパワートレインに流れる負荷電流と、電流センサが検出したコイルの電流と、コイルに流れる電流によりコイルに発生する磁束と、永久磁石のバイアス磁束との関係の一例を時系列で示す図である。
図5図5は、図1の判定部が永久磁石の着磁状態の要否を判定する対象のイベントと電流制御部が行う永久磁石の着磁状態の変更内容との関係の一例を示す図である。
図6図6は、図1のコントローラが行う処理手順の一例を示すフローチャートである。
図7図7は、第2実施形態に係るリアクトルの磁気バイアス制御装置が磁気バイアスを制御するリアクトルの構成の一例を示す図である。
図8図8は、図7の厚さが小で低保磁力の永久磁石のJ-H曲線の一部を示す図である。
図9図9は、図7の厚さが中で低保磁力の永久磁石のJ-H曲線の一部を示す図である。
図10図10は、図7の厚さが大で高保磁力の永久磁石のJ-H曲線の一部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。図1を参照して、本発明の実施形態に係るリアクトルの磁気バイアス制御装置の概略的な構成を説明する。以下、「リアクトルの磁気バイアス制御装置」を「磁気バイアス制御装置」と略して呼ぶことがある。実施形態に係る磁気バイアス制御装置10は、不図示の電動車両のパワートレイン20に対する電力供給部で用いるリアクトル30の磁気バイアスを制御する。電力供給部は、電動車両の電源40から供給される高電圧の直流電源を双方向DCDCコンバータ50で変圧し、負荷駆動回路60により交流電圧に変換してパワートレイン20に供給する。
【0010】
双方向DCDCコンバータ50は、ハイサイド及びローサイドの半導体スイッチ51、52を有している。半導体スイッチ51、52は、所謂パワートランジスタである。半導体スイッチには、例えば、バイポーラトランジスタであるIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、ユニポーラトランジスタであるMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)を用いることができる。本実施形態では、IGBTを半導体スイッチ51、52に用いている。パワートレイン20は、例えば、三相交流モータを有していてもよい。パワートレイン20が三相交流モータを有する場合、負荷駆動回路60は、例えば、所謂三相インバータ回路を有するものとすることができる。双方向DCDCコンバータ50が電源40の直流電源を変圧するために行う半導体スイッチ51、52のスイッチングは、例えば、磁気バイアス制御装置10の後述するコントローラ120によって制御することができる。コントローラ120とは別の装置が、電源40の直流電源を変圧するための半導体スイッチ51、52のスイッチングを制御してもよい。
【0011】
[第1実施形態]
第1実施形態に係る磁気バイアス制御装置10は、図2に示すリアクトル30の磁気バイアスを制御する。リアクトル30は、磁性材のコア31、コア31に挿入された永久磁石32、及び、コア31に巻回したコイル33を有している。本実施形態では、コア31及び永久磁石32は、全体でリング状となる形状を有している。リアクトル30は、他の形状のコアを有していてもよく、コア及びコイルを複数有する磁気結合リアクトルであってもよい。
【0012】
永久磁石32はバイアス磁束を発生する。バイアス磁束は、永久磁石32の着磁状態に対応する向きと、永久磁石32の保磁力に対応する磁界の強さとを有している。コイル33の一端は電源40に接続されている。コイル33の他端は、双方向DCDCコンバータ50のハイサイドの半導体スイッチ51とローサイドの半導体スイッチ52との中点に接続されている。コイル33には、電源40から双方向DCDCコンバータ50及び負荷駆動回路60を介してパワートレイン20に供給される負荷電流が流れる。負荷電流は、パワートレイン20の力行状態において、電源40から双方向DCDCコンバータ50に流れる向きとなる。負荷電流は、パワートレイン20の回生状態において、双方向DCDCコンバータ50から電源40に流れる向きとなる。
【0013】
コイル33を流れる負荷電流により、コイル33には磁界が発生する。コイル33に発生する磁界の向きは、コイル33を流れる負荷電流の向きに対応する。永久磁石32によるバイアス磁束の磁界が、コイル33に発生しコア31の内部を通過する磁界の向きと反対の向きであれば、負荷電流によりコイル33に発生する磁束とバイアス磁束とが打ち消し合い、バイアス磁束がコア31の磁気飽和の発生を抑制する。永久磁石32によるバイアス磁束の磁界が、コイル33に発生しコア31の内部を通過する磁界の向きと同じ向きであると、負荷電流によりコイル33に発生する磁束とバイアス磁束とが打ち消し合わなくなる。この状態では、バイアス磁束はコア31の磁気飽和の発生を抑制することができない。
【0014】
第1実施形態の磁気バイアス制御装置10は、永久磁石32のバイアス磁束の磁界がコア31の磁気飽和を抑制するのに適切な向き又は強さでなくなった場合に、リアクトル30の磁気バイアスを制御して、永久磁石32の着磁状態を変更する。磁気バイアス制御装置10は、永久磁石32の着磁状態を変更することで、リアクトル30におけるバイアス磁束の磁界の向きを変更する。磁気バイアス制御装置10は、電流センサ110とコントローラ120とを有する。電流センサ110は、コイル33を流れる負荷電流を検出する。電流センサ110は、例えば、双方向DCDCコンバータ50と負荷駆動回路60との間で負荷電流を検出することができる。
【0015】
コントローラ120は、例えば、汎用のマイクロコントローラを有している。マイクロコントローラは、CPU(Central Processing Unit )及びメモリを備える。メモリは、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)を含む。マイクロコントローラは、メモリに記憶させたプログラムをCPUが実行することで、複数の情報処理回路を仮想的に構築することができる。複数の情報処理回路は、磁気バイアス制御装置10の判定部121及び制御部122を構成することができる。本実施形態では、マイクロコントローラに構築される複数の情報処理回路をソフトウェアによって実現する例を示す。もちろん、各部121、122の以下に示す各情報処理を実行するための専用のハードウェアを用意して、情報処理回路を構成することも可能である。また、複数の情報処理回路を個別のハードウェアにより構成してもよい。専用のハードウェアは、各部121、122の機能を実行するようにアレンジされた特定用途向け集積回路(ASIC;Application Specific Integrated Circuit )、従来型の回路部品のような装置を含む。
【0016】
判定部121は、電流センサ110が検出したコイル33の電流に基づいて、永久磁石32の着磁状態を変更するか否かを判定する。永久磁石32は、クニック点を超える外部磁界が加わると不可逆減磁を起こす。図3は、縦軸に永久磁石32の磁化の強さJを取り横軸に永久磁石32の外部磁界の強さHを取った、永久磁石32のJ-H曲線を示している。永久磁石32の外部磁界71が、クニック点70を超えて永久磁石32の保磁力Hcjを上回ると、永久磁石32の着磁状態が逆の極性に変更される。永久磁石32の着磁状態が逆の極性に変更されると、永久磁石32のバイアス磁束の磁界が着磁状態の変更前とは逆の向きに変わる。永久磁石32の着磁状態を逆の極性に変更させるには、下記の式1に示す一般式を満たす右辺の外部磁界71が永久磁石32に加わればよい。リアクトル30にコイル33以外の起磁力源が存在しない場合は、式1中のコイル33以外の起磁力源による磁界を示すHexは「0」となる。式1の相関を満たすように、永久磁石32の材料、形状と、コイル33の仕様とを決定することで、コイル33に流れる電流によって、永久磁石32の着磁状態を逆の極性に変更させる外部磁界71を発生させることができる。
【0017】
【数1】
【0018】
図4の上段は、図1のパワートレイン20に流れる負荷電流73と電流センサ110が検出したコイル33の電流72との関係の一例を時系列で示している。図4の下段は、コイル33に流れる電流72によりコイル33に発生する磁束74と永久磁石32のバイアス磁束75との関係の一例を時系列で示している。図4の上段の縦軸は電流を示し、図4の下段の縦軸は磁束を示す。磁束の量は、その磁束が存在する場所の磁界の強さと考えることができる。図4の上段及び下段の横軸は時間を示す。パワートレイン20の負荷電流73は、図1のパワートレイン20が力行状態である場合にプラスとなり、パワートレイン20が回生状態である場合にマイナスとなる。
【0019】
図4の上段に示す例では、太い実線で示すコイル33の電流72が、大半の時間帯で、太い破線で示すパワートレイン20の負荷電流73と一致している。コイル33の電流72が負荷電流73と一致している時系列の冒頭の期間において、負荷電流73は、力行状態に対応するプラスの範囲で変動した後、回生状態に対応するマイナスの値に変化している。図4の下段に示すように、負荷電流73と一致する電流72がコイル33に流れている間、コイル33には、負荷電流73に対応する磁束74が発生する。コイル33の磁束74は、負荷電流73がプラスの間は正極性(N)となり、負荷電流73がマイナスに変化すると負極性(S)に変化する。
【0020】
図4の下段に示す例では、永久磁石32が、時系列の冒頭の期間において、負極性のバイアス磁束75を発生する着磁状態となっている。負荷電流73がプラスでコイル33に正極性の磁束74が発生している間は、逆極性のコイル33の磁束74とバイアス磁束75とが打ち消し合うので、図2のコア31が磁気飽和するのを抑制できる。負荷電流73がプラスからマイナスに変化した後は、コイル33の磁束がバイアス磁束75と同じ極性となり、コイル33の磁束74とバイアス磁束75とが打ち消し合わなくなる。この状態のままでは、コア31が磁気飽和するのをバイアス磁束75によって抑制できなくなる。負荷電流73がプラスからマイナスに変化した場合は、図4の下段のように、永久磁石32の着磁状態を現在とは逆の状態に変更する。永久磁石32の着磁状態を変更すると、永久磁石32のバイアス磁束75が負極性から正極性に反転する。マイナスの負荷電流73によりコイル33に発生する磁束74は負極性であり、着磁状態を変更した後のバイアス磁束75とコイル33の磁束74とは逆極性となる。逆極性のコイル33の磁束74とバイアス磁束75とが打ち消し合うので、負荷電流73がプラスからマイナスに変化しても、図2のコア31が磁気飽和するのを抑制できる。
【0021】
図4の上段に示す例では、負荷電流73が力行状態のプラスから回生状態のマイナスに変化した後、再び力行状態のプラスに変化している。図4の下段のように、負荷電流73が流れるコイル33の磁束74は、負荷電流73のマイナスからプラスへの変化に伴って、負極性から正極性に反転する。正極性に反転したコイル33の磁束74は、着磁状態を変更した後の正極性のバイアス磁束75と同じ極性となり、コイル33の磁束74とバイアス磁束75とが打ち消し合わなくなる。この状態のままでは、コア31が磁気飽和するのをバイアス磁束75によって抑制できなくなる。負荷電流がマイナスからプラスに変化した場合は、再び、図4の下段のように、永久磁石32の着磁状態を現在とは逆の状態に変更する。永久磁石32の着磁状態を変更すると、永久磁石32のバイアス磁束75が正極性から負極性に反転する。プラスの負荷電流73によりコイル33に発生する磁束74は正極性であり、着磁状態を再び変更した後のバイアス磁束75とコイル33の磁束74とは逆極性となる。逆極性のコイル33の磁束74とバイアス磁束75とが打ち消し合うので、永久磁石32の着磁状態を変更した後に負荷電流73がマイナスからプラスに変化しても、図2のコア31が磁気飽和するのを抑制できる。
【0022】
判定部121は、電流センサ110が検出したコイル33の電流に基づいて、コイル33の電流72がプラスからマイナスに変化した場合、あるいは、マイナスからプラスに変化した場合に、永久磁石32の着磁状態を変更すると判定してもよい。判定部121は、この判定に、コイル33の電流72と比較する所定の閾値を用いてもよい。所定の閾値は、永久磁石32のバイアス磁束75に対応する値とすることができる。永久磁石32の現在のバイアス磁束75が負極性である場合は、所定の閾値として、コイル33の電流72がプラスからマイナスに変化したことを検出する閾値を用いることができる。永久磁石32の現在のバイアス磁束が正極性である場合は、所定の閾値として、コイル33の電流72がマイナスからプラスに変化したことを検出する閾値を用いることができる。
【0023】
コイル33の電流72がマイナスからプラスに変化したことを検出する閾値は、例えば、図4の上段に示すプラスの値の閾値1とすることができる。コイル33の電流72がプラスからマイナスに変化したことを検出する閾値は、例えば、図4の上段に示すマイナスの値の閾値2とすることができる。閾値1、閾値2の値は、コイル33の電流72の極性の継続的な変化を検出し、電流72の極性の一時的な変化を検出対象から除外するために、ゼロから少し離れた値としてもよい。コイル33の電流72のプラスからマイナスへの変化とマイナスからプラスへの変化とに異なる特徴がある場合は、閾値1と閾値2とを異なる絶対値の値にそれぞれ設定してもよい。
【0024】
電流センサ110が検出したコイル33の電流72が、プラスの値の閾値1を上回ると、マイナスだったコイル33の電流72が一時的でなく継続的にプラスに変化したと考えられる。プラスの電流72が流れるコイル33には正極性の磁束74が発生する。永久磁石32が、マイナスの電流72が流れていたコイル33の負極性の磁束74と打ち消し合う正極性のバイアス磁束75を発生する着磁状態であると、コイル33の磁束74とバイアス磁束75とが同じ極性となる。極性が同じコイル33の磁束74とバイアス磁束75とは、打ち消し合えない。永久磁石32を、負極性のバイアス磁束75が発生する着磁状態に変更すれば、コイル33の磁束74とバイアス磁束75とが打ち消し合う状態にすることができる。判定部121は、コイル33の電流72がプラスの閾値1を上回ったことを検出することで、コイル33の電流72がマイナスからプラスに変化し、永久磁石32の着磁状態を変更する状態になったことを検出することができる。閾値1は、永久磁石32の変更後の着磁状態が、バイアス磁束75が正極性となる着磁状態である場合に対応する閾値である。判定部121が、コイル33の電流72と閾値1との比較結果に基づいて、バイアス磁束75が正極性となる着磁状態に永久磁石32の着磁状態を変更するか否かを判定する場合、閾値1は第1の閾値に該当する。
【0025】
電流センサ110が検出したコイル33の電流72が、マイナスの値の閾値2を下回ると、プラスだったコイル33の電流が一時的でなく継続的にマイナスに変化したと考えられる。マイナスの電流72が流れるコイル33には負極性の磁束74が発生する。永久磁石32が、プラスの電流72が流れていたコイル33の正極性の磁束74と打ち消し合う負極性のバイアス磁束75を発生する着磁状態であると、コイル33の磁束74とバイアス磁束75とが同じ極性となる。極性が同じコイル33の磁束74とバイアス磁束75とは、打ち消し合えない。永久磁石32を、正極性のバイアス磁束75が発生する着磁状態に変更すれば、コイル33の磁束74とバイアス磁束75とが打ち消し合う状態にすることができる。判定部121は、コイル33の電流72がマイナスの閾値2を下回ったことを検出することで、コイル33の電流72がプラスからマイナスに変化し、永久磁石32の着磁状態を変更する状態になったことを検出することができる。閾値2は、永久磁石32の変更後の着磁状態が、バイアス磁束75が負極性となる着磁状態である場合に対応する閾値である。判定部121が、コイル33の電流72と閾値2との比較結果に基づいて、バイアス磁束75が負極性となる着磁状態に永久磁石32の着磁状態を変更するか否かを判定する場合、閾値2は第1の閾値に該当する。
【0026】
判定部121は、プラスの値の閾値1を、コイル33の電流72がプラスからマイナスに変化したことを検出する閾値として用いてもよい。図4の上段に示すように、コイル33の電流72が所定時間t以上連続してプラスの値の閾値1を下回ると、プラスだったコイル33の電流72がマイナスに変化したと推定することができる。永久磁石32が負極性のバイアス磁束75を発生する着磁状態であると、マイナスの電流72が流れるコイル33に発生する負極性の磁束74とバイアス磁束75とが打ち消し合えなくなる。永久磁石32を、正極性のバイアス磁束75が発生する着磁状態に変更すれば、コイル33の磁束74とバイアス磁束75とが打ち消し合う状態にすることができる。判定部121は、コイル33の電流がプラスの閾値1を所定時間t以上連続して下回ったことを検出することで、コイル33の電流72がプラスからマイナスに変化し、永久磁石32の着磁状態を変更する状態になったことを検出することができる。閾値1は、永久磁石32の変更前の着磁状態が、バイアス磁束75が正極性となる着磁状態である場合に対応する閾値である。判定部121が、コイル33の電流72と閾値1との比較結果に基づいて、バイアス磁束75が負極性となる着磁状態に永久磁石32の着磁状態を変更するか否かを判定する場合、閾値1は第2の閾値に該当する。
【0027】
判定部121は、マイナスの閾値2を、コイル33の電流72がマイナスからプラスに変化したことを検出する閾値として用いてもよい。コイル33の電流が所定時間t以上連続してマイナスの値の閾値2を上回ると、マイナスだったコイル33の電流72がプラスに変化したと推定することができる。永久磁石32が正極性のバイアス磁束75を発生する着磁状態であると、プラスの電流72が流れるコイル33に発生する正極性の磁束74とバイアス磁束75とが打ち消し合えなくなる。永久磁石32を、負極性のバイアス磁束75が発生する着磁状態に変更すれば、コイル33の磁束74とバイアス磁束75とが打ち消し合う状態にすることができる。判定部121は、コイル33の電流72がマイナスの閾値2を所定時間t以上連続して上回ったことを検出することで、コイル33の電流72がマイナスからプラスに変化し、永久磁石32の着磁状態を変更する状態になったことを検出することができる。閾値2は、永久磁石32の変更前の着磁状態が、バイアス磁束75が負極性となる着磁状態である場合に対応する閾値である。判定部121が、コイル33の電流72と閾値2との比較結果に基づいて、バイアス磁束75が正極性となる着磁状態に永久磁石32の着磁状態を変更するか否かを判定する場合、閾値2は第2の閾値に該当する。
【0028】
判定部121は、コイル33の電流72と閾値1、閾値2との比較結果のうち少なくとも1つに基づいて、永久磁石32の着磁状態を変更するか否かを判定してもよい。判定部121がこのように永久磁石32の着磁状態を変更するか否かを判定する場合、閾値1及び閾値2は判定用閾値に該当する。
【0029】
図1の制御部122は、判定部121が永久磁石32の着磁状態を変更すると判定した場合に、所定の電流をコイル33に一時的に流す。制御部122は、例えば、双方向DCDCコンバータ50のハイサイド及びローサイドの半導体スイッチ51、52に対するゲート信号を制御することで、所定の電流をコイル33に流すことができる。図4の上段には、所定の電流をコイル33に一時的に流す場合として、3つの例を示している。図4の時系列順に挙げると、1つ目の例は、図4の符号76の時点で、コイル33の電流72が閾値2以上の値から閾値2を下回る値に減った場合である。2つ目の例は、図4の符号77の時点で、コイル33の電流72が閾値1以下の値から閾値1を上回る値に増えた場合である。3つ目の例は、コイル33の電流72が閾値1以上の値から閾値1を下回る値に減った状態が、図4の符号78の時点で、所定時間t以上連続した場合である。
【0030】
1つ目及び3つ目の例の場合、判定部121は、永久磁石32の着磁状態を、負極性のバイアス磁束75を発生する着磁状態Aから正極性のバイアス磁束75を発生する着磁状態Bに変更すると判定する。制御部122は、判定部121の判定結果に基づいて、所定の電流として着磁電流2_79をコイル33に一時的に流す。着磁電流2_79はプラスの電流であり、永久磁石32の保磁力Hcjを上回る強さの正極性の起磁力をコイル33に発生させる大きさであればよい。着磁電流2を一時的に流したコイル33には、永久磁石32の保磁力Hcjを上回る強さの正極性の磁束74が発生する。この磁束74により、永久磁石32に加わる外部磁界はクニック点70を超え、永久磁石32の着磁状態は、負極性のバイアス磁束75を発生する着磁状態Aから正極性のバイアス磁束75を発生する着磁状態Bに変更される。2つ目の例の場合、判定部121は、永久磁石32の着磁状態を、正極性のバイアス磁束75を発生する着磁状態Bから負極性のバイアス磁束75を発生する着磁状態Aに変更すると判定する。制御部122は、判定部121の判定結果に基づいて、所定の電流として着磁電流1_80をコイル33に一時的に流す。着磁電流1_80はマイナスの電流であり、永久磁石32の保磁力Hcjを上回る強さの負極性の起磁力をコイル33に発生させる大きさであればよい。着磁電流1_80を一時的に流したコイル33には、永久磁石32の保磁力Hcjを上回る強さの負極性の磁束74が発生する。この磁束74により、永久磁石32に加わる外部磁界はクニック点70を超え、永久磁石32の着磁状態は、正極性のバイアス磁束75を発生する着磁状態Bから負極性のバイアス磁束75を発生する着磁状態Aに変更される。
【0031】
図4では、制御部122が、所定の電流として、コイル33の最大起磁力に相当する電流をコイル33に流した場合を示している。図4では、図面の見やすさのために、所定の電流をコイル33に流した期間を誇張して示している。所定の電流をコイル33に流す期間は、コイル33に発生する磁束74によって永久磁石32の着磁状態を逆の極性に変更できる長さであればよく、実際には図4で示した期間よりも短い期間としてもよい。着磁状態A及び着磁状態Bにおける永久磁石32のバイアス磁束75は、リアクトル30の起磁力源が永久磁石32のみである場合は同じ大きさとなる。リアクトル30に永久磁石32以外の起磁力源が存在する場合、永久磁石32以外の起磁力源の着磁状態がコイル33の外部磁界により変更されないときは、バイアス磁束75の大きさが着磁状態Aと着磁状態Bとで異なってもよい。
【0032】
図5は、永久磁石32の着磁状態を変更するか否かを判定部121によって判定する対象のイベントの内容と、判定部121の判定結果に対応して制御部122が行う永久磁石32の着磁状態の変更内容との関係の一例を示している。永久磁石32が着磁状態Aであるとき、コイル33の電流72が閾値2を下回るか、所定時間t以上連続して閾値1を下回ると、制御部122が着磁電流2_79をコイル33に一時的に流し、永久磁石32を着磁状態Bに変更させる。永久磁石32が着磁状態Bであるとき、コイル33の電流72が閾値1を上回るか、所定時間t以上連続して閾値2を上回ると、制御部122が着磁電流1_80をコイル33に一時的に流し、永久磁石32を着磁状態Aに変更させる。
【0033】
コントローラ120は、例えば、図6のフローチャートに一例を示す処理手順を実行することで、本発明の第1実施形態に係るリアクトルの磁気バイアス制御方法を実行することができる。コントローラ120は、永久磁石32の着磁フラグが「1」であるか否かを確認する(ステップS101)。着磁フラグは、永久磁石32の現在の着磁状態を示すフラグである。本実施形態では、永久磁石32が着磁状態Aである場合に着磁フラグが「1」となり、永久磁石32が着磁状態Bである場合に着磁フラグが「2」となる。着磁フラグが「1」でない場合は(ステップS101でNO)、後述するステップS113に移行する。
【0034】
着磁フラグが「1」である場合は(ステップS101でYES)、コントローラ120は、電流センサ110が検出したパワートレイン20の負荷電流73を取得する(ステップS103)。コントローラ120は、判定部121により、取得した負荷電流73が閾値2を下回っているか否かを確認し(ステップS105)、負荷電流73が閾値2を下回っている場合は(ステップS105でYES)、後述するステップS109に移行する。負荷電流73が閾値2を下回っていない場合は(ステップS105でNO)、コントローラ120は、判定部121により、取得した負荷電流73が所定時間t以上連続して閾値1を下回っているか否かを確認する(ステップS107)。負荷電流73が所定時間t以上連続して閾値1を下回っていない場合は(ステップS107でNO)、一連の処理を終了する。負荷電流73が所定時間t以上連続して閾値1を下回っている場合は(ステップS107でYES)、ステップS109に移行する。ステップS109では、コントローラ120は、制御部122により、着磁電流2_79をコイル33に一時的に流し、永久磁石32を着磁状態Bに変更させる。コントローラ120は、永久磁石32の着磁フラグを「1」から「2」に変更させて(ステップS111)、一連の処理を終了する。
【0035】
ステップS113では、コントローラ120は、電流センサ110が検出したパワートレイン20の負荷電流73を取得する。コントローラ120は、判定部121により、取得した負荷電流73が閾値1を上回っているか否かを確認し(ステップS115)、負荷電流73が閾値1を上回っている場合は(ステップS115でYES)、後述するステップS119に移行する。負荷電流73が閾値1を上回っていない場合は(ステップS115でNO)、コントローラ120は、判定部121により、取得した負荷電流73が所定時間t以上連続して閾値2を上回っているか否かを確認する(ステップS117)。負荷電流73が所定時間t以上連続して閾値2を上回っていない場合は(ステップS117でNO)、一連の処理を終了する。負荷電流73が所定時間t以上連続して閾値2を上回っている場合は(ステップS117でYES)、ステップS119に移行する。ステップS119では、コントローラ120は、制御部122により、着磁電流1_80をコイル33に一時的に流し、永久磁石32を着磁状態Aに変更させる。コントローラ120は、永久磁石32の着磁フラグを「2」から「1」に変更させて(ステップS121)、一連の処理を終了する。
【0036】
以上に説明した本実施形態の磁気バイアス制御装置10では、電流センサ110が検出したコイル33の電流72により、コイル33の磁束74が正極性か負極性かを判別できる。判別した磁束74の極性が永久磁石32のバイアス磁束75と同じ極性か否かを判別し、判別した極性の異同に基づいて、判定部121が、永久磁石32の着磁状態を変更するか否かを判定する。制御部122は、判定部121が永久磁石32の着磁状態を変更すると判定した場合に、コイル33に着磁電流1_80又は着磁電流2_79を一時的に流す。制御部122は、着磁電流1_80又は着磁電流2_79をコイル33に流すことで、永久磁石32の着磁状態を現在の着磁状態Aから着磁状態Bに変更させ、又は、現在の着磁状態Bから着磁状態Aに変更させる。コイル33の電流72の変化によりコイル33の磁束74の極性が反転してバイアス磁束75と同じ極性になっても、永久磁石32の着磁状態の変更によりバイアス磁束75の極性を反転させて、コイルの磁束74と打ち消し合うようにすることができる。よって、リアクトル30を双方向DCDCコンバータ50に接続した場合でも、コア31の磁気飽和を適切に抑制することができる。コア31の断面積を増やさずにコア31の磁気飽和を抑制できるので、リアクトルサイズを抑制することができる。判定部121は、電流センサ110が検出したコイル33の電流72と閾値1、閾値2との比較により、コイル33の電流72に対応するコイル33の磁束74の極性と閾値1、閾値2に対応する永久磁石32のバイアス磁束75の極性との関係を判別できる。判定部121は、判別したコイル33の磁束74の極性とバイアス磁束75の極性との関係に基づいて、永久磁石32の着磁状態を変更するか否かを判定することができる。
【0037】
コイル33の電流72が閾値1を上回るか、閾値2を下回ると、コイル33の電流72が、一時的でなく継続的に、永久磁石32のバイアス磁束75と同じ極性の磁束74を発生させる状態に変化したと考えられる。この状態では、コイル33の磁束74とバイアス磁束75とが打ち消し合えない。コイル33の電流72が閾値1を上回るか、閾値2を下回った場合に、判定部121が、永久磁石32の着磁状態を変更すると判定することで、パワートレイン20の状態の変化によるコア31の磁気飽和を適切に抑制できる。コイル33の電流72が所定時間t以上連続して閾値2を上回るか、所定時間t以上連続して閾値1を下回ると、コイル33の電流72が、永久磁石32のバイアス磁束75と同じ極性の磁束74を発生させる状態に変化したと推定される。この状態では、コイル33の磁束74とバイアス磁束75とが打ち消し合えない。コイル33の電流72が所定時間t以上連続して閾値2を上回るか閾値1を下回った場合に、判定部121が、永久磁石32の着磁状態を変更すると判定することで、パワートレイン20の状態の定常的な変化によるコア31の磁気飽和を適切に抑制できる。「定常的」とは、例えば、パワートレイン20の状態の変化が30秒(s)程度続く状態とすることができる。コイル33の電流72を閾値1、閾値2とそれぞれ比較すると、コイル33の電流72に対応するコイル33の磁束74の極性と閾値1、閾値2に対応する永久磁石32のバイアス磁束75の極性との関係を個別に判別できる。判別した各関係に基づいて、永久磁石32の着磁状態を変更するか否かを判定することで、パワートレイン20の状態の瞬時的な変化、定常的な変化等、複数の形態によるパワートレイン20の状態の変化によるコア31の磁気飽和を、適切に抑制することができる。
【0038】
リアクトル30のコイル33の電流72が、リアクトル30を接続した双方向DCDCコンバータ50を介して電動車両のパワートレイン20に供給される場合、リアクトル30には、パワートレイン20の力行状態と回生状態との負荷電流73が流れる。負荷電流73の向きは、パワートレイン20の力行状態と回生状態とで反転する。負荷電流73の向きが反転すると、例えば、反転前にはコア31の磁気飽和の抑制にとって適切であった永久磁石32のバイアス磁束75が、反転後にはコア31の磁気飽和の抑制にとって不適切になる場合がある。コイル33の電流72に基づいて永久磁石32の着磁状態を適宜変更することで、負荷電流73の向きが反転するようなパワートレイン20の状態の変化に対応して永久磁石32の着磁状態を変更し、コア31の磁気飽和を適切に抑制することができる。
【0039】
[第2実施形態]
第2実施形態に係る磁気バイアス制御装置10は、図7に示すリアクトル30の磁気バイアスを制御する。リアクトル30は、コア31に挿入された3つの永久磁石34、35、36を有する点で第1実施形態のリアクトル30と異なり、永久磁石34、35、36以外は第1実施形態のリアクトル30と同様に構成されている。3つの永久磁石34、35、36は、保磁力Hcjについて、低保磁力と高保磁力との2種類に分かれている。2つの永久磁石34、35は低保磁力であり、残る1つの永久磁石36は高保磁力である。3つの永久磁石34、35、36は、コア31に発生する主磁束と平行な方向における厚さについて、大中小の3種類に分かれている。2つの低保磁力の永久磁石34、35のうち一つは厚さが小であり、もう一つは厚さが中である。高保磁力の永久磁石36は厚さが大である。第2実施形態でも、リアクトル30は、他の形状のコアを有していてもよく、コア及びコイルを複数有する磁気結合リアクトルであってもよい。
【0040】
永久磁石34、35、36は、それぞれの保磁力Hcjに応じた大きさのバイアス磁束を発生する。永久磁石34、35、36は、それぞれの保磁力Hcjを超える逆極性の外部磁界を加えることで、負極性のバイアス磁束75を発生する着磁状態Aと正極性のバイアス磁束75を発生する着磁状態Bとのどちらか一方から他方に、個別に変更することができる。第1実施形態で説明した式1の最大瞬時電流imaxを、永久磁石の着磁状態を逆の極性に変更させるためにコイルに流す着減磁用電流icdに置き換えて、式1を移項すると、下記の式2が得られる。式2を満たす電流をコイル33に流すと、永久磁石34、35、36の着磁状態を逆の極性に変更させる外部磁界を永久磁石34、35、36に加えることができる。
【0041】
【数2】
【0042】
図8図10は、永久磁石34、35、36が同じ着磁状態である状態において、ある大きさの着減磁用電流icdをコイル33に流した場合の、永久磁石34、35、36の磁気特性と永久磁石34、35、36にそれぞれ加わる外部磁界との関係を示す。着減磁用電流icdを流したコイル33に発生する磁束74によって永久磁石34、35、36に加わる外部磁界は、上述した式2の関係から、厚さが薄い永久磁石ほど大きくなり、厚さが厚い永久磁石ほど小さくなる。厚さが小で一番大きい外部磁界81が加わる永久磁石34は、低保磁力であるため、図8に示すように、永久磁石34に加わる外部磁界81は永久磁石34の保磁力Hcjを上回りやすい。厚さが中の永久磁石35も低保磁力であるが、厚さが小の永久磁石34よりも加わる外部磁界が小さいので、図9に示すように、厚さが中の永久磁石35に加わる外部磁界82は、永久磁石35の保磁力Hcjを上回りにくい。厚さが大の永久磁石36は、高保磁力でかつ加わる外部磁界が一番小さいので、図10に示すように、厚さが大の永久磁石36に加わる外部磁界83は、永久磁石36の保磁力Hcjを最も上回りにくい。厚さが小の低保磁力の永久磁石34の着磁状態を変更した後、他の永久磁石35、36の着磁状態を変更するための着減磁用電流icdをコイル33に流す場合は、式2中の右辺の磁界Hexが「0」でなくなる。この場合は、着磁状態を変更した厚さが小の永久磁石34のバイアス磁束75が、コイル33以外の起磁力源による磁界Hexとして式2中の右辺に加わる。磁界Hexが「0」でなくなるので、他の永久磁石35、36の着磁状態を変更するための着減磁用電流icdは、厚さが小で低保磁力の永久磁石34の着磁状態を変更するための着減磁用電流icdよりも高い値となる。着減磁用電流icdの値が高くなっても、厚さが大の高保磁力の永久磁石36に加わる外部磁界83は、厚さが中の低保磁力の永久磁石35に加わる外部磁界82よりも低いので、高保磁力の永久磁石36では、外部磁界83が保磁力Hcjを上回りにくい。高保磁力の永久磁石36よりも低保磁力の永久磁石35の方が、外部磁界82が保磁力Hcjを上回りやすい。本実施形態の磁気バイアス制御装置10は、以上に説明した関係を利用して、3つの永久磁石34、35、36の着磁状態を、保磁力Hcjが低い種類、又は、厚さが薄い種類から順に変更させることができる。永久磁石34、35、36の着磁状態を順に変更させることで、リアクトル30の全体における磁界の向きを変更せず磁界の強さを変更することができる。
【0043】
第2実施形態の磁気バイアス制御装置10でも、コントローラ120の判定部121は、電流センサ110が検出したコイル33の電流72に基づいて、永久磁石34、35、36の着磁状態を変更するか否かを判定する。判定部121は、電流センサ110が検出したコイル33の電流に基づいて、コイル33の磁束74に対してリアクトル30全体でのバイアス磁束75に余剰又は不足が生じた場合に、永久磁石34、35、36の着磁状態を変更すると判定してもよい。判定部121は、この判定に、コイル33の電流72と比較する閾値1、閾値2を用いてもよい。リアクトル30全体でのバイアス磁束75とは、3つの永久磁石34、35、36のバイアス磁束75の合計である。コントローラ120の制御部122は、永久磁石34、35、36の着磁状態を変更すると判定部121が判定した場合、バイアス磁束75が増減して余剰が減り又は不足が補われるように、永久磁石34、35、36の着磁状態を個別に変更する。判定部121は、例えば、電流センサ110が検出したコイル33の電流72と閾値1、閾値2との比較によって、リアクトル30全体でのバイアス磁束75に余剰又は不足が生じたか否かを判別してもよい。閾値1の値、閾値2の値は、第1実施形態とそれぞれ同じ値でもよく、どちらか一方又は両方とも第1実施形態と異なる値に変えてもよい。制御部122は、永久磁石34、35、36の着磁状態を順に変更する際に、着磁状態を変更する対象の永久磁石34、35、36の保磁力Hcjに対応する大きさの着磁電流1_80又は着磁電流2_79を、コイル33に一時的に流す。「一時的」とは、例えば、数百マイクロ秒(us)~数ミリ秒(ms)とすることができる。
【0044】
第2実施形態の磁気バイアス制御装置10のコントローラ120は、例えば、図6の例による処理手順を実行することで、本発明の第2実施形態に係るリアクトルの磁気バイアス制御方法を実行してもよい。例えば、高保磁力の永久磁石36の着磁状態を、低保磁力の2つの永久磁石34、35と同じ着磁状態に変更すると、リアクトル30全体でのバイアス磁束75の極性が反転する状態で、コントローラ120は、図6の処理手順を実行することができる。この場合、永久磁石36が着磁状態Aである場合に着磁フラグを「1」とし、永久磁石36が着磁状態Bである場合に着磁フラグを「2」とする。図6のステップS109では、コントローラ120は、制御部122により、着磁電流2_79をコイル33に一時的に流し、永久磁石36を着磁状態Bに変更させる。ステップS111では、コントローラ120は、永久磁石36の着磁フラグを「1」から「2」に変更させる。ステップS119では、コントローラ120は、制御部122により、着磁電流1_80をコイル33に一時的に流し、永久磁石36を着磁状態Aに変更させる。ステップS121では、コントローラ120は、永久磁石36の着磁フラグを「2」から「1」に変更させる。着磁電流2_79及び着磁電流1_80は、永久磁石36に加わる外部磁界83が永久磁石36の保磁力Hcjを超えるような磁束74をコイル33に発生させる大きさとする。例えば、保磁力が低い種類順又は厚さが小さい種類順に永久磁石34、35、36の着磁状態の変更によって、リアクトル30全体でのバイアス磁束75の極性が反転しない状態でも、コントローラ120は、図6の処理手順を実行することができる。この場合、コントローラ120は、例えば、着磁フラグを使用せず、ステップS101及びステップS111の処理と、ステップS121の処理とを省略してもよい。コントローラ120が、これらの処理を省略して図6の処理手順を実行すると、永久磁石34、35、36の着磁状態を個別に変更でき、バイアス磁束75の方向を変えずにバイアス磁束75を増減することができる。
【0045】
本実施形態の磁気バイアス制御装置10では、第1の磁気バイアス制御装置10と同様の効果を得ることができる。本実施形態の磁気バイアス制御装置10では、保磁力Hcjが小さい種類から順に、又は、厚さが小さい種類から順に、永久磁石34、35、36の着磁状態を変更させ、リアクトル30全体でのバイアス磁束75の磁界の強さを段階的に変化させる。パワートレイン20の状態によりコイル33の電流72が変化しても、コイル33の磁束74に合わせてバイアス磁束75の磁界の強さを段階的に変化させて、バイアス磁束75が過剰になるのを抑制しつつ、コア31の磁気飽和を適切に抑制することができる。コイル33の磁束74に対してバイアス磁束75が過剰な大きさのままとなり、リアクトルサイズが不必要に大きくなって損失が増加するのを抑制することができる。
【0046】
以上の第1及び第2実施形態では、双方向DCDCコンバータ50に接続したリアクトル30の磁気バイアスを制御する場合について説明した。本発明を適用して磁気バイアスを制御する対象のリアクトルは、双方向に電流が流れるコイルを有しているものであればよく、双方向DCDCコンバータ以外に接続して用いられるものあってもよい。リアクトル30の保磁力Hcjが異なる永久磁石34、35、36は2種類以上であればよく、3種類以上としてもよい。
【0047】
上述の実施形態は本発明の一例である。このため、本発明は、上述の実施形態に限定されることはなく、この実施形態以外の形態であっても、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計などに応じて種々の変更が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0048】
10 磁気バイアス制御装置
20 パワートレイン
30 リアクトル
31 コア
32、34~36 永久磁石
33 コイル
50 双方向DCDCコンバータ
71 外部磁界
72 電流
73 負荷電流
74 磁束
75 バイアス磁束
110 電流センサ
120 コントローラ
121 判定部
122 制御部
Hcj 保磁力
t 所定時間
図1
図2
図3
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図5
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図7
図8
図9
図10