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2024-163721ラテックスビーズ懸濁液貯留マイクロチップ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024163721
(43)【公開日】2024-11-22
(54)【発明の名称】ラテックスビーズ懸濁液貯留マイクロチップ
(51)【国際特許分類】
   G01N 35/08 20060101AFI20241115BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20241115BHJP
【FI】
G01N35/08 A
G01N37/00 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023079568
(22)【出願日】2023-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】000224101
【氏名又は名称】ZACROS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】酒居 一雄
(72)【発明者】
【氏名】萱野 蒔人
(72)【発明者】
【氏名】細川 和也
【テーマコード(参考)】
2G058
【Fターム(参考)】
2G058AA09
2G058CC08
2G058CC14
2G058CC19
(57)【要約】      (修正有)
【課題】内部にラテックスビーズ懸濁液を安定的に貯留及び封入し、使用時に該懸濁液に対して通液することで簡便に検査等に使用可能なマイクロチップを提供する。
【解決手段】内部に流路と、ラテックスビーズ懸濁液を貯留したラテックスビーズ懸濁液貯留部を有する液体試料分析用マイクロチップであって、前記流路を形成する溝と、前記溝の一部に設けられ、前記ラテックスビーズ懸濁液貯留部を形成する窪みであって、ラテックスビーズ懸濁液を貯留した窪みと、が設けられた接合面を有する基材と、前記基材の接合面に貼り合わされ、前記溝および窪みを覆うことにより前記流路及び前記ラテックスビーズ懸濁液貯留部を形成するフィルムと、前記接合面のうち前記溝と、前記窪みとを除く領域に塗布され、前記基材の前記接合面と前記フィルムとを接着するための接着剤または粘着剤、により形成される接着部と、を備えるマイクロチップ。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に流路と、ラテックスビーズ懸濁液を貯留したラテックスビーズ懸濁液貯留部を有する液体試料分析用マイクロチップであって、
前記流路を形成する溝と、前記溝の一部に設けられ、前記ラテックスビーズ懸濁液貯留部を形成する窪みであって、ラテックスビーズ懸濁液を貯留した窪みと、が設けられた接合面を有する基材と、
前記基材の接合面に貼り合わされ、前記溝および窪みを覆うことにより前記流路及び前記ラテックスビーズ懸濁液貯留部を形成するフィルムと、
前記接合面のうち前記溝と、前記窪みとを除く領域に塗布され、前記基材の前記接合面と前記フィルムとを接着するための接着剤または粘着剤、により形成される接着部と、
を備えるマイクロチップ。
【請求項2】
前記基材には、さらに、前記流路の前記ラテックスビーズ懸濁液貯留部の上流側に相当する位置において、前記ラテックスビーズ懸濁液貯留部から前記流路への前記ラテックスビーズ懸濁液の流出を遮る壁部が設けられ、
前記壁部の端面と前記フィルムとの間には、加圧によって前記壁部の端面と前記フィルムとが剥離することにより液体を通液させる接着剤または粘着剤が塗布されている、請求項1に記載のマイクロチップ。
【請求項3】
前記基材または前記フィルムは、前記基材と前記フィルムとを貼り合せて形成される前記流路の始端の位置に、液体を導入するための流入口となる貫通孔を有する、
請求項1に記載のマイクロチップ。
【請求項4】
前記フィルムの、前記ラテックスビーズ懸濁液貯留部を覆う部分の一部には通気口となる孔が設けられ、当該孔は通気性を有し、液体を通過させないフィルターで封止されている、請求項1に記載のマイクロチップ。
【請求項5】
前記基材および前記フィルムは光透過素材からなる、請求項1に記載のマイクロチップ。
【請求項6】
前記基材はシクロオレフィンポリマー(COP)樹脂、シクロオレフィンコポリマー(COC)樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、又はポリスチレン樹脂を素材とする、請求項1に記載のマイクロチップ。
【請求項7】
前記フィルムは水蒸気透過性が1.5g/m2・day以下の防湿性を有するフィルムである
、請求項1に記載のマイクロチップ。
【請求項8】
前記フィルムはシクロオレフィンポリマー(COP)樹脂、シクロオレフィンコポリマー(COC)樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂又はポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂を素材とする、請求項1に記載のマイクロチップ。
【請求項9】
前記ラテックスビーズは、表面に抗体が担持されている、請求項1に記載のマイクロチップ。
【請求項10】
前記ラテックスビーズ懸濁液は粘度を与える物質を含む、請求項1に記載のマイクロチップ。
【請求項11】
前記ラテックスビーズ懸濁液は2~20%のポリビニルアルコール(PVA)を含む、請
求項1に記載のマイクロチップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部にラテックスビーズ懸濁液を貯留し、封入したラテックスビーズ貯留部を有するマイクロチップに関する。
【背景技術】
【0002】
臨床検査では、抗体を固相化したラテックスビーズを用いた免疫アッセイが普及している。抗体を固相化したラテックスビーズに抗原を反応させ、ラテックスビーズの凝集反応に基づく吸光度の変化等により抗原量を定量的に測定する方法である。
【0003】
一方、液体試料をマイクロチップ内の流路に導入し、流路の途中に設けられた反応部で抗体などの試薬と反応させて液体試料中の成分を分析することが知られている。そして、特許文献1では、内部に抗体を結合したラテックスビーズを収容したマイクロチップが開示されている。しかしこのようなマイクロチップでは、ラテックスビーズが乾燥状態で収容されており、使用前に水などの液体を導入してラテックスビーズを分散させたのちに使用されるため、乾燥させたラテックスビーズが凝集し、検体を添加しても迅速な再分散が困難であるという問題がある。
したがって、マイクロチップ内でラテックスビーズを用いた検査をする場合には、ラテックスビーズを液状で保管し、さらに測定時に検体と混和される必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-055841
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、内部にラテックスビーズ懸濁液を安定的に貯留し、使用時に通液することで簡便に検査等に使用可能なマイクロチップを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討を行った。その結果、流路を形成する溝と、前記溝の一部において設けられ、ラテックスビーズ懸濁液貯留部を形成する窪みと、が設けられた接合面を有する基材を用意し、前記基材の前記接合面に貼り合わされ、前記溝および窪みを覆うことにより流路およびラテックスビーズ懸濁液貯留部を形成するフィルムを用意し、前記接合面のうち前記溝と前記窪みとを除く領域に接着剤や粘着剤を塗布して前記基材と前記フィルムとを接着することで内部にラテックスビーズ懸濁液を安定的に貯留(封入)したマイクロチップを簡便に製造でき、得られたマイクロチップは、流路から加圧や毛細管現象等によって通液することにより前記ラテックスビーズ懸濁液貯留部へ簡易に通液できることを見出した。
さらに、前記基材において、前記ラテックスビーズ懸濁液貯留部から前記流路への液体の流出を遮る壁部を設け、前記壁部の端面と前記フィルムとの間に、加圧によって前記壁部の端面と前記フィルムとが剥離することにより液体を通液させる接着剤または粘着剤を塗布することで、流路から加圧通液することにより前記壁部の端面と前記フィルムとの接着を剥離させ、前ラテックスビーズ懸濁液貯留部へ簡易に通液できることを見出した。
さらに、前記ラテックスビーズ懸濁液貯留部にラテックスビーズ懸濁液を貯留させる際に、ポリビニルアルコールを加えることで、当該貯留部に貯留された液体が輸送などの振動などで飛び散ることを防ぎ、安定に保存可能であることを見出した。
さらに、前記フィルムを防湿性のフィルムとすることで、貯留した液体の蒸発を防ぐこ
とができることを見出した。
さらに、前記フィルムのラテックスビーズ懸濁液貯留部を覆う部分の一部に通気口となる孔を設け、当該孔を、通気性を有し、液体を通過させないフィルターで封止することで、通液した液体がラテックスビーズ懸濁液貯留部をみたし通気口に到達した段階で検体の注入が止まるので、通液量を制御できることを見出した。
以上の知見に基づき、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明の第一の態様は、
内部に流路と、ラテックスビーズ懸濁液を貯留したラテックスビーズ懸濁液貯留部を有する液体試料分析用マイクロチップであって、
前記流路を形成する溝と、前記溝の一部に設けられ、前記ラテックスビーズ懸濁液貯留部を形成する窪みであって、ラテックスビーズ懸濁液を貯留した窪みと、が設けられた接合面を有する基材と、
前記基材の接合面に貼り合わされ、前記溝および窪みを覆うことにより前記流路及び前記ラテックスビーズ懸濁液貯留部を形成するフィルムと、
前記接合面のうち前記溝と、前記窪みを除く領域に塗布され、前記基材の前記接合面と前記フィルムとを接着するための接着剤または粘着剤、により形成される接着部と、
を備えるマイクロチップである。
【0008】
前記基材には、さらに、前記流路の前記ラテックスビーズ懸濁液貯留部の上流側に相当する位置において、前記ラテックスビーズ懸濁液貯留部から前記流路への前記ラテックスビーズ懸濁液の流出を遮る壁部が設けられ、前記壁部の端面と前記フィルムとの間には、加圧によって前記壁部の端面と前記フィルムとが剥離することにより液体を通液させる接着剤または粘着剤が塗布されていてもよい。
さらに、ラテックスビーズ懸濁液貯留部は、横方向又は縦方向からの波長500~1000n
mのレーザーの透過により濁度変化を検出する検出部を有してもよい。
また、ラテックスビーズ懸濁液貯留部は、ラテックスビーズとともに、検体とラテックスビーズを混合するための攪拌子を含んでもよい。
また、前記基材または前記フィルムは、前記基材と前記フィルムとを貼り合せて形成される前記流路の始端の位置に、液体を導入するための流入口となる貫通孔を有してもよい。
また、前記フィルムの、前記ラテックスビーズ懸濁液貯留部を覆う部分の一部には通気口となる孔が設けられ、当該孔は通気性を有し、液体を通過させないフィルターで封止されていてもよい。
また、前記基材および前記フィルムは光透過素材からなることが好ましく、前記基材はシクロオレフィンポリマー(COP)樹脂、シクロオレフィンコポリマー(COC)樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、又はポリスチレン樹脂を素材とすることが好ましく、前記フィルムは、水蒸気透過性が1.5g/m2・day以下の防湿性を有するフィルム
であることが好ましく、前記フィルムはシクロオレフィンポリマー(COP)樹脂またはシクロオレフィンコポリマー(COC)樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂又はポリスチレン樹脂を素材とすることが好ましい。
また、前記ラテックスビーズは、表面に抗体が担持されていることが好ましい。
また、前記ラテックスビーズ懸濁液は10~30%のポリビニルアルコール(PVA)を含む
ことが好ましい。
ラテックスビーズ懸濁液貯留部は10~200μLの容積であり、2~100μLのラテックスビ
ーズ懸濁液が貯留されていることが望ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、内部にラテックスビーズ懸濁液を安定した状態で貯留し、使用時に簡
易にラテックスビーズ懸濁液貯留部に通液し、検査等に使用することができるマイクロチップを提供することができる。本発明によれば、マイクロピペットなどを用いて手作業でラテックスビーズ懸濁液を流路内に導入するといった煩雑な操作は軽減されるだけでなく、ラテックスビーズの非特異的な凝集に基づく測定の不正確性の問題を避けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】接着剤塗布前のマイクロチップの基材を示す図である。
図2】接着剤塗布後のマイクロチップの基材を示す図である。
図3】マイクロチップのフィルムを示す図である。
図4】基材にフィルムを貼り合わせたマイクロチップの完成図である。
図5】マイクロチップのA-A断面の一部を示す図である。
図6】接着剤が剥離して液体貯留部に通液された状態のマイクロチップを示す図である。
図7】液体貯留部に通液されたマイクロチップのB-B断面の一部を示す図(ラテックス凝集前)である。
図8】液体貯留部に通液されたマイクロチップのB-B断面の一部を示す図(ラテックス凝集後)である。
図9】ラテックスビーズ懸濁液の粘度と保持可能な液量の関係を示すグラフである。
図10】バイオチップ封入ラテックス試薬によるヒトCRP測定結果を示すグラフである。
図11】バイオチップ封入ラテックス試薬における検量線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一態様は、流路と、流路の一部に形成され、ラテックスビーズ懸濁液を貯留し封入したラテックスビーズ懸濁液貯留部と、を内部に有し、ラテックスビーズ懸濁液貯留部へ液体試料を通液させ、抗原抗体反応(免疫反応)等を起こして検査等に使用することができるマイクロチップである。
【0012】
マイクロチップ内の流路の一部には、ラテックスビーズ懸濁液を貯留する領域であるラテックスビーズ懸濁液貯留部が形成され、ラテックスビーズ懸濁液は、あらかじめラテックスビーズ懸濁液貯留部に貯留されている。
【0013】
ラテックスビーズ懸濁液は、検体中の目的(検出対象)物質に特異的に結合する抗体などの物質を表面に担持したラテックスビーズであることが好ましい。ラテックスビーズは通常のラテックス凝集反応に基づく検査試薬に用いられるラテックスビーズが使用でき、そのサイズは通常直径0.1~0.5μmである。
【0014】
例えば、ラテックスビーズ懸濁液貯留部へ液体試料を通液させ、液体試料中の抗原とラテックスビーズの表面の抗体を反応させ、これにより、ラテックスビーズが凝集するので、凝集による吸光度変化を測定することにより、液体試料中の抗原の濃度を調べることができる。
【0015】
本発明の一態様は、流路と、流路の一部に形成され、ラテックスビーズ懸濁液を貯留したラテックスビーズ懸濁液貯留部と、を有する基材と、前記基材を覆うフィルムと、前記基材と前記フィルムを貼り合わせる接着剤または粘着剤によって形成される接着部を有する、保管時にはラテックスビーズ懸濁液貯留部内のラテックスビーズ懸濁液を密封し、使用時に加圧等によって流路から液体試料等を導入することで、ラテックスビーズ懸濁液貯留部へ液体試料等の液体を通液させ、免疫反応等を起こして検査等に使用することができ
るマイクロチップである。
【0016】
具体的には、内部に流路と、ラテックスビーズ懸濁液を貯留したラテックスビーズ懸濁液貯留部を有する液体試料分析用マイクロチップであって、
前記流路を形成する溝と、前記溝の一部に設けられ、前記ラテックスビーズ懸濁液貯留部を形成する窪みであって、ラテックスビーズ懸濁液を貯留した窪みと、が設けられた接合面を有する基材と、
前記基材の接合面に貼り合わされ、前記溝および窪みを覆うことにより前記流路及び前記ラテックスビーズ懸濁液貯留部を形成するフィルムと、
前記接合面のうち前記溝と、前記窪みとを除く領域に塗布され、前記基材の前記接合面と前記フィルムとを接着するための接着剤または粘着剤、により形成される接着部と、
を備えるマイクロチップ、が挙げられる。
【0017】
上記のように、本発明の一態様に係るマイクロチップによれば、保管時にはラテックスビーズを懸濁液の状態で安定に保存でき、使用時には液体試料などの液体を、簡易な操作でラテックスビーズ懸濁液貯留部に導入することができるので、抗原抗体反応などを簡便に行うことができ、かつ、正確な測定が可能である。
【0018】
本発明のより好ましい一態様に係るマイクロチップは、
内部に流路と、ラテックスビーズ懸濁液を貯留したラテックスビーズ懸濁液貯留部を有する液体試料分析用マイクロチップであって、
前記流路を形成する溝と、前記溝の一部に設けられ、前記液体貯留部を形成する窪みと、前記流路の前記液体貯留部の上流側及び/又は下流側に相当する位置において、前記液体貯留部から前記流路への前記液体の流出を遮る壁部と、が設けられた接合面を有する基材と、
前記基材の接合面に貼り合わされ、前記溝および窪みを覆うことにより前記流路及び前記液体貯留部を形成するフィルムと、
前記接合面のうち前記溝と、前記窪みとを除く領域に塗布され、前記基材の前記接合面と前記フィルムとを接着するための接着剤または粘着剤、および前記壁部の端面と前記フィルムとの間に存在し加圧によって前記壁部の端面と前記フィルムとが剥離することにより液体を通液させる接着剤または粘着剤により形成される接着部と、
を備えるマイクロチップ、である。
【0019】
ここで、ラテックスビーズ懸濁液貯留部と流路の間に設けられた壁部は、壁部の端面に塗布された接着剤または粘着剤がフィルムと接着することにより、マイクロチップ保管時には、貯留部から流路への液体の流出を遮る。したがって、壁部と接着剤または粘着剤によって液体を封入する液体封入構造を有することにより、保管時は液体を安定的に貯留させることができる。
【0020】
一方、使用時には、加圧して流路内に液体を導入することで、前記壁部の端面とフィルムとが剥離し、液体は流路から貯留部に通液される。これにより、導入された液体試料とラテックスビーズ懸濁液貯留部にあらかじめ貯留されたラテックスビーズ懸濁液が混合され、免疫反応等を生じさせることができる。そして、免疫反応を検出することで、液体試料の分析を行うことができる。
【0021】
以下、図面を参照して本発明のラテックスビーズ懸濁液貯留マイクロチップについて説明する。ただし、以下はあくまでも一例にすぎず、本発明のマイクロチップは以下の態様に限定されない。
【0022】
図1から図4は、マイクロチップ100の製造過程における形態例を示す概念図である
図1は、接着剤塗布前のマイクロチップ100の基材110を示す図である。図2は、接着剤塗布後のマイクロチップ100の基材110を示す図である。図4は、基材110にフィルム120を貼り合わせたマイクロチップ100の完成図である。
【0023】
図1は、マイクロチップ100の流路111を形成する溝111aが表面に掘られた基材110の平面図を示す。溝111aの一部において、ラテックスビーズ懸濁液を貯留する領域であるラテックスビーズ懸濁液貯留部116となる窪みが設けられている。ラテックスビーズ懸濁液貯留部116と、溝111aの間には、液体の流出を遮る壁部114が設けられている。壁部114のうち、貼り合わされるフィルム120に対向する面は、端面114aとも称される。溝111aが掘られた表面は、フィルム120と貼り合わされる面であり、接合面115とも称される。
【0024】
壁部114よりも液体貯留部116側の溝111aの一端には、液体を加圧するための流入口112となる貫通孔が設けられている。流入口から液体試料等を導入する際には、例えば、マイクロシリンジまたはポンプなどを使用して流入口から加圧通液により流路内により液体試料等が導入される。なお、流入口112を塞いだ指での押圧によっても、液体試料等の加圧導入は可能である。
【0025】
なお、流路111は2つ以上設けられてもよい。流路111の形状は問わず、直線状でも曲線状でもよい。また、流路111は分岐を有していてもよい。その場合、流入口112、液体貯留部116、および/または壁部114は2つ以上存在してもよい。
【0026】
なお、流入口112は、基材110とフィルム120のどちら側に設けられてもよい。例えば、基材110上には流路111となる溝111aを設け、溝111aの両端に重なる位置に貫通孔を有するフィルム120を用意して基材110に貼り合わせてもよい。
【0027】
流路111となる溝111aの断面形状は、凹字状、U字状、V字状等任意である。また、流路111となる溝111aの深さは10~500μmであることが好ましく、幅は10μm~3mmであることが好ましい。壁部114の厚み(流路111の長手方向の長さ)を含む流路111に相当する部分の長さは、例えば3mm~5cmである。また、溝111aの幅は一定でもよいが、変化してもよい。また、溝111aの深さも一定でもよいが、変化してもよい。
【0028】
溝111aの幅(流路111の幅)は、壁部114の幅より狭くなるようにしてもよい。壁部114の幅を流路111の幅よりも幅広くすることで、壁部114の端面114aとフィルム120との隙間を通過する液体の流量が増加し、液体は流れやすくなる。
【0029】
液体貯留部116となる窪みは、所望の量の液体(ラテックスビーズ懸濁液)を収容するのに十分な大きさであればよく、その形状も特に制限されないが、例えば、円柱状または角柱状であり、面積と深さを大きくすることで、より多くの液体を貯留可能である。窪みの面積は例えば0.1~50mmであり、円形の液体貯留部116の場合その直径は例えば0.2~6mmである。ただし、面積は溝の深さに応じて変化してもよく、例えばすり鉢状の窪みでもよい。窪みの深さは流路となる溝の深さより深いことが好ましく、例えば20μm~3mmである。
【0030】
ラテックスビーズ懸濁液貯留部には、ラテックスビーズ懸濁液が貯留されている。
ラテックスビーズの濃度は例えば、0.1~1%である。
なお、ラテックスビーズ懸濁液を安定的に貯留するために、ラテックスビーズ懸濁液は粘度を与える物質(増粘剤)を含んでもよい。増粘剤としては、ポリビニルアルコール(PVA)、グァーガム、ヒアルロン酸Na、アラビアゴム、タマリンドガム、カルボキシメ
チルセルロース(CMC)、カルボキシメチルデキストリン(CMD)、マルトデキストリン、デキストリン、でんぷん分解物、還元でんぷん分解物、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ(ビニルメチルエーテル)、グリセロールなどが挙げられる。PVAなどを添加することで、液体貯留部に微量の液体が、輸送などの振動などで液体が飛び散ることを防ぐことが可能になる。
ラテックスビーズ懸濁液の粘度の範囲は10~1000mPa・s、より好ましくは50~500mPa・sが好ましい。増粘剤にPVAを用いる場合の濃度は2~20%が好ま
しい。
【0031】
ラテックスビーズ懸濁液貯留部へのラテックスビーズ懸濁液の貯留量は特に制限されず、ラテックスビーズ懸濁液貯留部を満たす量であってもよいが、流路から導入された液体とあらかじめ貯留部に貯留されたラテックスビーズ懸濁液が貯留部で混合されて反応等が行われるように、あらかじめ貯留部に貯留されるラテックスビーズ懸濁液は、当該貯留部の容積の1~50%であることが好ましい。
なお、ラテックスビーズ懸濁液貯留部には、混合液を撹拌するために撹拌子が設置されていてもよい。
【0032】
壁部114は、ラテックスビーズ懸濁液貯留部116に収容したラテックスビーズ懸濁液が流路111に流出するのを遮るために設けられる。壁部114の端面114aと、壁部114の端面114aを覆うフィルム120との隙間は、端面114aに塗布される接着剤117bにより密封される。接着剤117bで密封された状態では、貯留部116内のラテックスビーズ懸濁液は、流路111へは流出しない。
【0033】
壁部114の厚み(流路111の長手方向の長さ)は、流路から加圧導入された液体が、壁部114の端面114aとフィルム120とを剥離させ、流路111からラテックスビーズ懸濁液貯留部116に通液されるような厚みであればよい。壁部114の厚みは一定でもよいが、変化してもよい。壁部114の高さは、接合面115と略同じ高さに形成されてもよいし、接合面115より低く形成されてもよい。
【0034】
壁部114の端面114aとフィルム120との剥離は、接着剤117b層の凝集破壊であってもよいし、壁部114の端面114aと接着剤117b層との界面剥離であってもよいし、接着剤117b層とフィルム120との界面剥離であってもよい。
【0035】
流入口112となる貫通孔の大きさは、マイクロシリンジまたはアダプタで接続されたポンプなどを使用して、ラテックスビーズ懸濁液貯留部116の液体を加圧できるような大きさであればよい。流入口112となる貫通孔の大きさは、例えば、直径0.2~3mmである。
【0036】
マイクロチップ100の材質は、金属、ガラスやプラスチック、シリコーン等が使用できるが、ラテックスビーズ凝集反応を光学的に検出する観点からは透明な材質が好ましく、透明なプラスチックがより好ましい。マイクロチップ100の材質は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、シクロオレフィンポリマー、シクロオレフィンコポリマー、ポリフェニレンオキサイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂、ポリ2-メトキシエチルアクリレート(PMEA)樹脂などが挙げられる。
この中ではCOP、COC、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、又はポリスチレン樹脂が特に好ましい。これらの樹脂を用いることで、チップからの液体の漏出又は液体成分の吸着を抑制することが可能である。
【0037】
なお、マイクロチップ100の基材110に設けられる溝111aや貫通孔は、刃物やレーザー光線で掘ることもできるが、マイクロチップ100の材質がプラスチックである場合は、射出成型で形成することもできる。射出成型で形成すると、マイクロチップ100は、一定した品質で効率よく作製できるので好ましい。
【0038】
加圧によって剥離する接着剤117bが塗布される壁部の端面114aおよびフィルム120の端面114aを覆う部分は、接着剤117bの接着力を低下させる表面処理が施されてもよい。
【0039】
接着力を低下させる表面処理(疎水化処理)としては、疎水化試薬の塗布またはプラズマ処理によるフッ素膜コーティングが好ましい。疎水化試薬は、例えば、フロロサーフFS-1610C-4.0(株式会社フロロテクノロジー)、撥水撥油フッ素コーティング剤GF03(ガストジャパン株式会社)、ガードサーフAZ-6000(株式会社ハーベス)、フッ素コーティング剤INTシリーズ(株式会社野田スクリーン)などが挙げられる。具体的条件としては、壁部の端面の水接触角が、例えば110°以上となる条件が挙げられる。
【0040】
液体の流れの向きを制御するため、フィルム120および/または基材110の一部は親水化されてもよい。例えば、基材110の流路111となる溝111a、フィルム120の流路111を覆う部分、壁部114の両側の壁面などが親水化される。また、親水化処理は、液体貯留部116となる窪みおよびフィルム120の液体貯留部116を覆う部分に施されてもよい。
【0041】
親水化処理としては、親水化試薬の塗布またはプラズマ処理が好ましい。親水化試薬は、例えば、S-1570(ショ糖脂肪酸エステル:三菱ケミカルフーズ株式会社)、LWA-1570(ショ糖ラウリン酸エステル:三菱ケミカルフーズ株式会社)、ポエムDL-100(ジグリセリン モノラウレート:理研ビタミン株式会社)、リケマールA(シ
ョ糖脂肪酸エステル:理研ビタミン株式会社)などの非イオン性界面活性剤、セラアクアNS235-N1(島貿易株式会社)、アミノイオン(日本乳化剤株式会社)、LAMBIC-771W(大阪有機化学工業株式会社)、LAMBIC-1000W(大阪有機化学工業株式会社)、SPRA-101(東京応化工業株式会社)、SPRA-202(東京応化工業株式会社)などが挙げられる。具体的条件としては、基材表面の水接触角が、例えば55°以下となる条件が挙げられる。
【0042】
図3に示すように、フィルムには、ラテックスビーズ懸濁液貯留部を覆う部分の一部に通気口121となる孔が設けられ、当該孔は通気性を有し、液体を通過させないフィルター122で封止されている。これにより、液体を加圧導入する際の通気口として機能するとともに、ラテックスビーズ懸濁液を漏出させることなく貯留できる。
【0043】
フィルム120の素材としては透明なプラスチックが好ましく、例えば、シクロオレフィンポリマー(COP)樹脂、シクロオレフィンコポリマー(COC)樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリスチレン(PS)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリメチルメタクリレート(PMMA)樹脂が使用できる。
また、フィルムとして防湿性のフィルムを用いることで、貯留した液体の蒸発を防ぐことができるので好ましい。防湿性の程度は、例えば、水蒸気透過性が1.5g/m2・day以
下であり、水蒸気透過性が0.25~1.5g/m2・dayであることが好ましく、0.25
~0.5g/m2・dayであることがより好ましい。防湿性フィルムとしては、ポリテトラフ
ルオロエチレン(PCTFE)を含む多層構造のフィルムでも、蒸着フィルムでもよく、PCTFEを含む多層構造のフィルムとしては、例えば、最外層からPCTFE、無水マレイン酸変性ポ
リエチレン(MAPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LL)、シクロオレフィンポリマー(COP)樹脂から成る4層のフィルム、最外層からPCTFE、MAPE、エチレンビニルアルコール共重合樹脂(EVOH)、MAPE、COPから成る5層のフィルムなどが挙げられる。防湿性を得る
ためには、PCTFE層の厚みは、10μm以上であることが好ましく、20μmであること
がより好ましい。
蒸着フィルムの例としては、ポリエチレンテフタレート(PET)にアルミを蒸着したフ
ィルム、ナイロンにアルミを蒸着したフィルム等が挙げられる。
防湿性フィルムは上記に限定されず、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFE)などのフィルムの1種または2種以上を含む多層構造のフィルムであっても良い。
フィルム120の厚さは例えば50~200μmが好ましく、100~200μmがより好ましい。
【0044】
フィルム120を基材110上に貼り合わせるためには接着剤および/または粘着剤を
用いる。接着剤としては、(メタ)アクリル樹脂系接着剤、天然ゴム接着剤、ウレタン樹脂系接着剤、エチレン-酢酸ビニル樹脂エマルジョン接着剤、エチレン-酢酸ビニル樹脂系接着剤、エポキシ樹脂系接着剤、塩化ビニル樹脂溶剤系接着剤、クロロプレンゴム系接着剤、シアノアクリレート系接着剤、シリコーン系接着剤、スチレン-ブタジエンゴム溶剤系接着剤、ニトリルゴム系接着剤、ニトロセルロース系接着剤、フェノール樹脂系接着剤、変性シリコーン系接着剤、ポリエステル系接着剤、ポリアミド系接着剤、ポリイミド系接着剤、オレフィン樹脂系接着剤、酢酸ビニル樹脂エマルジョン系接着剤、ポリスチレン樹脂溶剤系接着剤、ポリビニルアルコール系接着剤、ポリビニルピロリドン樹脂系接着剤、ポリビニルブチラール系接着剤、ポリベンズイミダゾール接着剤、ポリメタクリレート樹脂溶剤系接着剤、メラミン樹脂系接着剤、ユリア樹脂系接着剤、レゾルシノール系接着剤等が挙げられる。接着剤は、1種単独または2種以上を混合して使用することができる。
【0045】
また、フィルム120を基材110上に貼り合わせるために、接着剤の一種である粘着剤が用いられてもよい。粘着剤としては、例えば、ゴム系粘着剤、(メタ)アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ビニルアルキルエーテル系粘着剤、ポリビニルアルコール系粘着剤、ポリビニルピロリドン系粘着剤、ポリアクリルアミド系粘着剤、セルロース系粘着剤等を挙げることができる。このような粘着剤は、単独で使用してもよいし、または2種以上を混合して使用してもよい。
【0046】
接着剤または粘着剤としては、光硬化型(ラジカル反応性でもカチオン重合性でもよい)であることが好ましく、紫外線硬化型(UV硬化型)であることがより好ましい。UV硬化型接着剤あるいは粘着剤であれば、塗布工程後に、UVを照射することで速やかに硬化反応が開始され接合することが可能である。UV硬化型接着剤は、例えばUVX-8204(デンカ株式会社製)、UVX-8400(デンカ株式会社)、SX-UV100A(セメダイン株式会社製)、SX-UV200(セメダイン株式会社製)、BBX-UV300(セメダイン株式会社製)、U-1340(ケミテック株式会社)、U-1455B(ケミテック株式会社)、U-1558B(ケミテック株式会社)、アロニックスUV-3000(東亞合成株式会社)、TB3094(株式会社スリーボンド)、ヒタロイド7975D(日立化成株式会社)などのアクリル系UV硬化型接着剤がより好ましい。UV硬化型粘着剤は、例えばUV-3630ID80(三菱ケミカル株式会社)、UX-3204(日本化薬株式会社)、ファインタックRX-104(DIC株式会社)などのアクリル系UV硬化型粘着剤がより好ましい。アクリル系UV硬化型接着剤および粘着剤であれば、幅広いプラスチック材料に対して良好な接着性を示し、UV照射後は速やかな強度発現を得ることができる。フィルム120を基材110上に貼り合わせるために用いる接着剤および粘着剤の粘度は、例えば2,000~31,000mPa・sが好ましい。
【0047】
例えば、基材110を用意し、スクリーン印刷等により接合面115に接着剤117aおよび接着剤117bを塗布することができる。接着剤117aおよび接着剤117bは、総称して接着剤117とも称される。なお、接着剤の一種である粘着剤によってフィルム120が基材110に貼り合わされる場合、粘着剤は、接着剤117と同様にして基材110に塗布されればよい。図2は、接着剤塗布後のマイクロチップ100の基材110を示す図である。
【0048】
以下、接着剤を例に説明するが、接着剤の代わりに粘着剤を使用する場合も同様である。したがって、「接着剤」の記載は「接着剤および/または粘着剤」と読み替えることができる。
【0049】
接着剤117aおよび接着剤117bは、同時に塗布されてもよいし、個別に塗布されてもよい。接着剤117aは、基材110の接合面115に設けられた溝111aと、液体貯留部116と、壁部114の端面114aとを除く領域に塗布される。接着剤117bは、壁部114の端面114aに塗布される。接着剤117aと接着剤117bとは、同じ種類の接着剤であってもよく、異なる種類の接着剤であってもよい。
【0050】
接着剤117aおよび接着剤117bを、それぞれの塗布領域により正確に塗布するため、接着剤117は、印刷技術により塗布されることが好ましく、接着剤117aおよび接着剤117bが同じ種類の接着剤である場合においては、特にスクリーン印刷によって塗布されることが好ましい。スクリーン印刷を用いることで、基材110の全面にあたる領域のスクリーン印刷版に接着剤117を充填した場合においても、スクリーン印刷版と接する塗布領域には接着剤117が転写されるが、接しない溝111aおよび貯留部116となる窪みには、接着剤117は転写されることはない。よって、接着剤117aおよび接着剤117bは、それぞれの塗布領域に良好に塗布することが可能となる。
基材110への接着剤117のその他の塗布方法として、インクジェット印刷やグラビア印刷、ディペンサーなどにより、接着剤117aおよび接着剤117bを、それぞれの塗布領域に精密に塗布することも可能である。
【0051】
基材110に塗布される接着剤117の膜厚は5~15μmになることが好ましい。接着剤117の膜厚制御のためには、スクリーンの1インチあたりのメッシュ数は、例えば500~730が好ましい。メッシュのオープニング率は、例えば39~47%が好ましい。メッシュの厚みは、例えば15~28μmが好ましい。それにより、塗布した接着剤117の膜厚は、5~15μmとなることが好ましい。
【0052】
接着剤117aは、基材110の接合面115に設けられた溝111aと、液体貯留部116と、壁部114の端面114aとを除く領域を親水化処理してから塗布されてもよい。
親水化処理としては、プラズマ処理またはコロナ処理が好ましい。基材110は接着剤117aをはじくことなく、接着剤117aは基材110上でぬれ広がって溝111aには流れ込まないように親水化処理をすることで、基材110とフィルム120とは、良好に貼り合わせることが可能である。
【0053】
次に、図2の接着剤が塗布された基材の貯留部となる窪みにラテックスビーズ113の懸濁液を添加し、図3のフィルム120を貼り合わせることで、マイクロチップが得られる。図4は、基材110の溝111aおよびラテックスビーズ懸濁液貯留部116が掘られた接合面115と、フィルム120とを接着剤または粘着剤で貼り合わせて得られるマイクロチップ100の平面図を示す。マイクロチップ100の内部に形成される流路111は、破線で示される。
【0054】
フィルム120を基材110上に積層して貼り合わせることで、溝111aおよびラテックスビーズ懸濁液貯留部116となる窪みの上部がフィルム120で覆われ、液体が通過する流路111、およびラテックスビーズ懸濁液貯留部116が形成される。
【0055】
接着剤117aおよび接着剤117bは、UV照射によって硬化し、接着部を形成する。このようにスクリーン印刷によって接着剤(117a、117b)を所定の塗布領域に塗布し、フィルム120を基材110上に積層して貼り合わせることで、基材110とフィルム120との接合と液体の流出を遮る構造の形成を同じ工程で実現することができる。
【0056】
また、基材110の貫通孔は、フィルム120を積層することで、接合面115側で封止され、接合面115と反対側の面のみが流入口となる。これにより、基材110の貫通孔は、流入口112として機能する。
【0057】
以下、図4~7を参照して、ラテックスビーズ懸濁液貯留部116に収容されているラテックスビーズ懸濁液に対する通液について説明する。図5は、図4に示すマイクロチップ100のA-A断面の一部を示す図である。
【0058】
例えば、液体試料中の目的物質に反応する抗体を表面に担持させたラテックスビーズ113(抗体は図示していない)の懸濁液がラテックスビーズ懸濁液貯留部116に収容されている。
そして、基材110にフィルム120が貼り合わされ、壁部114の端面114aとフィルム120との間の隙間は、接着剤117bで埋められている。ラテックスビーズ懸濁液貯留部116に収容されたラテックスビーズ懸濁液は、壁部114および接着剤117bによって密封されており、流路111には流出しない。なお、貯留部116の上部には通気口121が設けられ、フィルター122で封止されているので、ラテックスビーズ懸濁液は漏出しない。通気口を設けることで、液体を加圧導入する際には通気が可能となる。また、通気口をフィルターで封鎖することで、検体が貯留部をみたし通気口に到達した段階で検体の注入が止まるので検体に対するビーズの量を一定の比に保つことが可能となる。なお、ラテックスビーズ懸濁液貯留部の上部に通気口を設ける代わりに、ラテックスビーズ懸濁液貯留部の下流側に流路を設け、その終端側に通気口を設けてもよい。
【0059】
使用時に、流入口112から液体試料をシリンジ等で加圧導入することにより、液体試料は流路を通過してラテックスビーズ懸濁液貯留部の手前の壁部に到達する。ここで、加圧により壁部114の端面114aと前記フィルムとが剥離し、液体試料はラテックスビーズ懸濁液貯留部内に通液され、当該貯留部内にあらかじめ収容されたラテックスビーズ懸濁液と混合される(図6)。混合液は撹拌子118により撹拌される。
図7は、壁部114の端面114aとフィルム120とが剥離し、液体試料が流路111を通過してラテックスビーズ懸濁液貯留部116内に通液された図6に示すマイクロチップ100のB-B断面の一部を示す図である。液体試料とラテックスビーズ懸濁液の混合液がラテックスビーズ懸濁液貯留部を満たしている。
【0060】
液体試料とラテックスビーズ懸濁液が混合されることにより、液体試料内の物質とラテックスビーズ表面の抗体が反応し、それにより、ラテックスの凝集が生じる(図8)。このラテックス凝集反応を検出することにより、液体試料を分析することができる。すなわち、試料中の目的物質の量に応じてラテックス凝集反応が生じるので、当該反応を定量化することで、試料中の目的物質の量を測定することができる。ラテックス凝集反応は、ラテックス凝集物に光を照射し、濁度を測定する免疫比濁法などの光学的方法によって測定することができる。
したがって、マイクロチップのラテックスビーズ懸濁液貯留部に光を照射し、透過光を検出することで測定が可能である。なお、図7では、光をラテックスビーズ懸濁液貯留部116の垂直方向から照射する態様を示しているが、光はマイクロチップの水平方向から照射してもよい。すなわち、マイクロチップの流入口側からラテックスビーズ懸濁液貯留部に照射し、透過光を流入口とは反対側で検出してもよい。
【0061】
なお、液体試料は、血液や尿などの生体から得られる液体試料またはその希釈液、植物や動物などの生体からの抽出液、河川や海や降雨などの天然に存在する水、洗浄液、廃液等が挙げられる。試料中の成分(目的の測定対象物質)も特には制限されず、例えば、タンパク質、核酸、低分子化合物、糖などが例示される。
【0062】
以下、本発明を実施例を参照して具体的に説明するが、本発明は以下の態様には限定されない。
【実施例0063】
<マイクロチップの作製1>
図8に示す基材110(MCCアドバンスドモールディングス株式会社製射出成型品:COP樹脂)(サイズ59.4×26.2mm、厚さ3.0mm)を用意した。基材110においては、流路を形成する溝111の長さは47.4mm、深さは500μm、幅は流入部500μmとし、壁部114の端面114aとの間には接着剤117bが配置される。また、基材においては、流入口112および流出口121となる穴は内径2mmの断面円形の貫通孔とした。
【0064】
直径4mmの円を切断した半月形状の貯留部116には、マイクロピペットを用いてラテックスビーズ懸濁液を滴下し、撹拌子118を配置した。
【0065】
基材110とフィルムの貼り合わせは、接着剤を用いた。接着剤は、溶剤を含まないラジカル反応性のアクリル系UV硬化型接着剤であるUVX-8204とした。基材110の溝11aが設けられた面に、スクリーン印刷により接着剤を塗布した。使用したスクリーン版においては、メッシュ数は640、オープニング率は39%とし、接着剤の塗布
厚みは約7μmとした。
【0066】
基材110の接着剤塗布面はフィルムと積層し、UV-LED光源を用い、波長365nmの紫外線を10-20秒間照射することで、接着剤の硬化反応を開始し、基材110上にフィルムを接合した。
【0067】
<ラテックスビーズ懸濁液を安定的に貯留するために必要な粘度の検討>
抗ヒトCRP抗体を感作したラテックス試薬(日東紡メディカル株式会社)に重合度500のPVA(ナカライテスク株式会社)を溶解して種々の粘度を有するラテックスビーズ懸濁液を調製し、貯留部に安定的に保持するために必要な粘度と、保持可能な液量との関係について検討をおこなった。結果を図9に示す。
【0068】
結果、ラテックスビーズ懸濁液の粘度10~1000mPa・sの範囲において、1~25μLのラテックスビーズ懸濁液を貯留部に安定的に保持できることが判明した。
【0069】
<マイクロチップ封入ラテックス試薬の評価>
ラテックス濃度0.1%、粘度100mPa・sに調製した抗ヒトCRP抗体感作ラテックス試薬6μLを貯留部に撹拌子とともに塗布して、マイクロチップを製作した。ヒトCRPを0~40mg/dL含む試料を生理食塩水で希釈、120μLを貯留部に流入させ、貯留部内の撹拌子をマグネチックスターラーを用いて回転させ均質化。37℃にて15
分間、570nmにおける吸光度を測定した。その結果を図10に示した。
結果、CRPを40mg/dL含む試料では吸光度の上昇が見られ10~15分で飽和に達すること、CRPを含まない試料(CRP 0mg/dL)では非特異的な凝集は見ら
れないことが確認された。
【0070】
また、バイオチップ封入試薬における検量線を図11に示した。その結果、対照となる液体試薬と吸光度レベルは異なるものの、バイオチップ封入ラテックス試薬において0~40mg/dLの範囲でヒトCRPを検出可能であることが確認された。
【符号の説明】
【0071】
100・・・マイクロチップ、110・・・基材、111・・・流路、111a・・・溝、112・・・流入口、113・・・ラテックスビーズ、114・・・壁部、114a・・・端面、115・・・接合面、116・・・ラテックスビーズ懸濁液貯留部、117a・・・接着剤、117b・・・接着剤または粘着剤、118・・・撹拌子、120・・・フィルム、通気口・・・121、フィルター・・・122
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11