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特開2024-163753運転支援システムおよび運行支援方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024163753
(43)【公開日】2024-11-22
(54)【発明の名称】運転支援システムおよび運行支援方法
(51)【国際特許分類】
   B61L 25/02 20060101AFI20241115BHJP
【FI】
B61L25/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023079619
(22)【出願日】2023-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】牧 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】三田寺 剛
【テーマコード(参考)】
5H161
【Fターム(参考)】
5H161AA01
5H161BB20
5H161GG04
5H161GG11
5H161GG22
(57)【要約】
【課題】鉄道において、駅間走行終了後だけでなく駅間走行の途中段階においても、消費電力量の評価結果を提示できる運転支援システム、運転支援方法を提供することができる。
【解決手段】列車の走行に伴う消費電力量である実績駅間消費電力量152を算出する消費電力量算出部102と、列車が走行している駅間の残区間における走行パターンである残区間予測走行パターン158を予測する残区間走行パターン予測部106と、残区間予測走行パターン158に基づき、残区間における予測消費電力量である残区間消費電力量予測値159を予測する残区間消費電力量予測部107と、実績駅間消費電力量152および残区間消費電力量予測値159に基づき、次の停車駅に到着する前において列車の消費電力量についての評価結果156を生成する評価指標比較部104と、を備える運転支援システム1。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
列車の走行に伴う消費電力量である実績駅間消費電力量を算出する消費電力量算出部と、
列車が走行している駅間の残区間における走行パターンである残区間予測走行パターンを予測する残区間走行パターン予測部と、
前記残区間予測走行パターンに基づき、残区間における予測消費電力量である残区間消費電力量予測値を予測する残区間消費電力量予測部と、
前記実績駅間消費電力量および前記残区間消費電力量予測値に基づき、次の停車駅に到着する前において列車の消費電力量についての評価結果を生成する評価指標生成部と、
を備える運転支援システム。
【請求項2】
前記評価指標生成部は、前記評価結果を、駅間の消費電力量の評価用基準値と、前記実績駅間消費電力量および前記残区間消費電力量予測値の和と、の比較により生成する請求項1に記載の運転支援システム。
【請求項3】
前記評価用基準値は、比較用運行データを基に生成する請求項2に記載の運転支援システム。
【請求項4】
前記比較用運行データは、過去の運行データの中から求められる、最も消費電力量が小さい走行をした運行データ、平均的な消費電力量で走行した運行データ、および運行シミュレーションにより求められる、最も消費電力量が小さい走行をした運行データの少なくとも1つである請求項3に記載の運転支援システム。
【請求項5】
過去の運行データの中から求められる、最も消費電力量が小さい走行をした運行データ、平均的な消費電力量で走行した運行データ、および運行シミュレーションにより求められる、最も消費電力量が小さい走行をした運行データ、のそれぞれによる消費電力量の少なくとも1つと、次の停車駅に到着する前における列車の消費電力量と、についての評価結果を並べて提示する評価結果提示部をさらに備える請求項4に記載の運転支援システム。
【請求項6】
前記評価結果は、前記評価用基準値と前記和との差分、前記差分を基にした点数および合否の少なくとも1つである請求項2に記載の運転支援システム。
【請求項7】
前記残区間走行パターン予測部は、前記残区間予測走行パターンを、列車を駅間の目標残走行時分に近い走行時分で残区間を走行することを条件として求める請求項1に記載の運転支援システム。
【請求項8】
前記残区間走行パターン予測部は、前記残区間予測走行パターンを、過去の運行データの中から、列車位置、列車速度および前記目標残走行時分が一致する運行データを抽出し、さらに前記残区間予測走行パターンの生成タイミングまでの運転履歴の特徴が類似している運行データを選ぶことで求める請求項7に記載の運転支援システム。
【請求項9】
前記残区間予測走行パターンは、運行シミュレーションにより生成され、前記残区間予測走行パターンの生成タイミングまでの運転傾向を、残区間において継続した場合の走行パターンである請求項7に記載の運転支援システム。
【請求項10】
前記残区間走行パターン予測部は、前記残区間予測走行パターンを、運転操作の切り替えが少ないと予想されるタイミングで求める請求項1に記載の運転支援システム。
【請求項11】
前記タイミングは、計画時点の走行パターンに基づき求められる請求項10に記載の運転支援システム。
【請求項12】
前記評価指標生成部は、次の停車駅に到着した後は、駅間の列車の消費電力量についての評価結果を生成する請求項1に記載の運転支援システム。
【請求項13】
前記評価指標生成部は、さらに駅間の走行時分についての評価結果を生成する請求項12に記載の運転支援システム。
【請求項14】
プロセッサがメモリに記録されたプログラムを実行することにより、
列車の走行に伴う消費電力量である実績駅間消費電力量を算出し、
列車が走行している駅間の残区間における走行パターンである残区間予測走行パターンを予測し、
前記残区間予測走行パターンに基づき、残区間における予測消費電力量である残区間消費電力量予測値を予測し、
前記実績駅間消費電力量および前記残区間消費電力量予測値に基づき、次の停車駅に到着する前において列車の消費電力量についての評価結果を生成する、
運行支援方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転支援システム、運行支援方法に関する。本発明は、特に、列車の消費電力量を評価することができる運行支援システム等に関する。
【背景技術】
【0002】
環境問題対応や運行コスト低減のため、鉄道事業者では列車運行に伴う消費電力量の低減が課題となっている。列車運行に伴う消費電力量を低減する方法のひとつとして、駅間走行中における速度パターン(以降、走行パターンと記す)の適正化が挙げられる。
【0003】
特許文献1には、列車運転シミュレータについて記載されている。この列車運転シミュレータで、エネルギー情報算出部は、運転シミュレーションの実行中、列車の走行に係る消費電力の算出および消費電力量の積算を行う。エネルギー画面表示制御部は、走行位置毎の走行速度をグラフで表示制御するとともに、走行位置毎の消費電力をグラフ表示制御する。個別評価部は、走行時刻を時刻表に基づき評価するとともに、消費電力量を基準消費電力量に基づき評価する。総合評価部は、個別評価部による評価結果に基づいて、運転シミュレーションの総合評価を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-134757号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
鉄道は定時運行が重要であるため、駅間の走行時分を考慮したうえで消費電力量の評価を行う必要がある。したがって、駅間走行の実績をもとに消費電力量を評価するためには、走行時分が確定する駅間走行終了後のタイミングでしか評価を行うことができず、運転士への省エネ運転の意識づけの機会が限られるという課題があった。
本発明は、鉄道において、駅間走行終了後だけでなく駅間走行の途中段階においても、消費電力量の評価結果を提示できる運転支援システム、運転支援方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため本発明は、列車の走行に伴う消費電力量である実績駅間消費電力量を算出する消費電力量算出部と、列車が走行している駅間の残区間における走行パターンである残区間予測走行パターンを予測する残区間走行パターン予測部と、残区間予測走行パターンに基づき、残区間における予測消費電力量である残区間消費電力量予測値を予測する残区間消費電力量予測部と、実績駅間消費電力量および残区間消費電力量予測値に基づき、次の停車駅に到着する前において列車の消費電力量についての評価結果を生成する評価指標生成部と、を備える運転支援システムを提供する。この場合、鉄道において、駅間走行終了後だけでなく駅間走行の途中段階においても、消費電力量の評価結果を提示できる。
【0007】
ここで、評価指標生成部は、評価結果を、駅間の消費電力量の評価用基準値と、実績駅間消費電力量および残区間消費電力量予測値の和と、の比較により生成することができる。この場合、評価指標の比較として、より適切なものを適用できる。
また、評価用基準値は、比較用運行データを基に生成するようにできる。この場合、評価用基準値がより実態に合ったものとなる。
さらに、比較用運行データは、過去の運行データの中から求められる、最も消費電力量が小さい走行をした運行データ、平均的な消費電力量で走行した運行データ、および運行シミュレーションにより求められる、最も消費電力量が小さい走行をした運行データの少なくとも1つにすることができる。この場合、比較用運行データとしてより適切なものを選択できる。
またさらに、過去の運行データの中から求められる、最も消費電力量が小さい走行をした運行データ、平均的な消費電力量で走行した運行データ、および運行シミュレーションにより求められる、最も消費電力量が小さい走行をした運行データ、のそれぞれによる消費電力量の少なくとも1つと、次の停車駅に到着する前における列車の消費電力量と、についての評価結果を並べて提示する評価結果提示部をさらに備えるようにできる。この場合、評価結果をわかりやすく提示することができる。
また、評価結果は、評価用基準値と和との差分、差分を基にした点数および合否の少なくとも1つにすることができる。この場合、より適切な評価結果を選択することができる。
さらに、残区間走行パターン予測部は、残区間予測走行パターンを、列車を駅間の目標残走行時分に近い走行時分で残区間を走行することを条件として求めることができる。この場合、残区間の走行パターンをより正確に求めることができる。
またさらに、残区間走行パターン予測部は、残区間予測走行パターンを、過去の運行データの中から、列車位置、列車速度および目標残走行時分が一致する運行データを抽出し、さらに残区間予測走行パターンの生成タイミングまでの運転履歴の特徴が類似している運行データを選ぶことで求めることができる。この場合、過去の運行データの中から、より適した残区間の走行パターンを求めることができる。
そして、残区間予測走行パターンは、運行シミュレーションにより生成され、残区間予測走行パターンの生成タイミングまでの運転傾向を、残区間において継続した場合の走行パターンにすることができる。この場合、運行シミュレーションによって、より適した残区間の走行パターンを求めることができる。
また、残区間走行パターン予測部は、残区間予測走行パターンを、運転操作の切り替えが少ないと予想されるタイミングで求めることができる。この場合、乗務員にとって支援情報の受容性が向上し、省エネ効果の向上に寄与する。
さらに、タイミングは、計画時点の走行パターンに基づき求めるようにできる。この場合、より適切なタイミングを予め求めることができる。
またさらに、評価指標生成部は、次の停車駅に到着した後は、駅間の列車の消費電力量についての評価結果を生成することができる。この場合、駅間を走行した後の確定した消費電力に対する評価結果を提示することができる。
そして、評価指標生成部は、さらに駅間の走行時分についての評価結果を生成することができる。この場合、駅間の走行時分についての評価結果をさらに提示することができる。
【0008】
また、本発明は、プロセッサがメモリに記録されたプログラムを実行することにより、列車の走行に伴う消費電力量である実績駅間消費電力量を算出し、列車が走行している駅間の残区間における走行パターンである残区間予測走行パターンを予測し、残区間予測走行パターンに基づき、残区間における予測消費電力量である残区間消費電力量予測値を予測し、実績駅間消費電力量および残区間消費電力量予測値に基づき、次の停車駅に到着する前において列車の消費電力量についての評価結果を生成する、運行支援方法を提供する。この場合、鉄道において、駅間走行終了後だけでなく駅間走行の途中段階においても、消費電力量の評価結果を提示できる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、鉄道において、駅間走行終了後だけでなく駅間走行の途中段階においても、消費電力量の評価結果を提示できる運転支援システム、運転支援方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態の運転支援システムの全体構成を示したブロック図である。
図2】1種類目の評価結果を示した図である。
図3】1種類目の評価結果を示した図である。
図4】1種類目の評価結果を示した図である。
図5】1種類目の評価結果をグラフ化して表示した提示例である。
図6】走行時分に関する点数のつけ方の一例を示した図である。
図7】消費電力量に関する点数のつけ方の一例を示した図である。
図8】2種類目の評価結果の提示例を示した図である。
図9】3種類目の評価結果の提示例を示した図である。
図10】1種類目の評価結果を示した図である。
図11】1種類目の評価結果を示した図である。
図12】1種類目の評価結果を示した図である。
図13】1種類目の評価結果をグラフ化して表示した提示例である。
図14】2種類目の評価結果の提示例を示した図である。
図15】3種類目の評価結果の提示例を示した図である。
図16】運転操作が忙しくないタイミングの例を示した図である。
図17】予測処理実行タイミング用の位置を定義したデータベースの例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照し、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
本実施形態では、運転支援システム1は、駅間走行中および駅間走行終了後のタイミングにおいて、当該駅間走行に伴う消費電力量や走行時分に関して評価を行い、運転士に対して評価結果を提示する。駅間走行終了後においては、駅間走行全体における消費電力量および走行時分の実績値と、評価用の閾値となる消費電力量および走行時分が比較される。一方、駅間走行中に評価をする場合、評価用の閾値となる消費電力量と比較される消費電力量は、前停車駅発車後から当該評価タイミングまでの消費電力量実績値と当該評価タイミングから次停車駅到着までの消費電力量予測値の和である。なお、駅間走行中においては、駅間走行全体の走行時分は確定しないため、評価のための比較はしない。
【0012】
<運転支援システム1の全体説明>
図1は、本実施形態の運転支援システム1の全体構成を示したブロック図である。
図1に示すように、本実施形態の運転支援システム1は、運行データ記録部101、消費電力量算出部102、走行時分算出部103、評価指標比較部104、評価結果提示部105、残区間走行パターン予測部106、および残区間消費電力量予測部107から構成される。
【0013】
運行データ記録部101は、列車の運行に関連するデータを記録する。運行データ記録部101の具体的な装置例として、運転状況記録装置が挙げられる。運行データ記録部101は、少なくとも、運行に伴う電力消費に関する情報である電力消費情報151、列車の駅間における位置である列車位置153、列車の速度である列車速度154、駅間の目標残走行時分157、運転操作内容160について、時系列にデータを記録し、出力することができる。これらの情報を時系列に記録することができる装置であれば、運行データ記録部101は運転状況記録装置に限らず、どのような装置でもよい。
【0014】
目標残走行時分157の定義例として、当該列車の次停車駅における目標到着時刻から、現在時刻を差し引いた時間とすることが考えられる。目標残走行時分157の別の定義例としては、前停車駅から次停車駅までの駅間全体の目標走行時分から、前停車駅発車タイミングから現在時刻までの経過時間を差し引いた時間とすることも考えられる。目標走行時分は、前停車駅から次停車駅の間を走行するときに要する時間として目標となる時間であり、例えば、計画時点の走行パターンによって予め定めることができる。また、運転操作内容160には少なくとも、ノッチの操作内容および定速走行用スイッチの操作内容が含まれる。
【0015】
消費電力量算出部102は、運行データ記録部101から、電力消費情報151、列車位置153および列車速度154を受信する。そして、消費電力量算出部102は、これらの情報を基に瞬時瞬時の列車の消費電力を算出する。
【0016】
電力消費情報151の例としては、列車内の各インバータの入力電圧と入力電流が挙げられる。よって、消費電力量算出部102は、列車に搭載されている全インバータについて入力電圧と入力電流の積を合計することで、列車の消費電力を算出することができる。またさらに、消費電力量算出部102は、対象としている駅間走行の時間範囲について消費電力を積算することで、実績駅間消費電力量152を算出する。即ち、実績駅間消費電力量152は、列車が対象としている駅間の発車駅を発車してから現時点までの列車の走行に伴う消費電力量である。なお、消費電力量算出部102において列車位置153および列車速度154は、対象としている駅間走行の時間範囲を決めるために用いられる。すなわち、列車位置153および列車速度154を用い、列車が対象としている駅間の発車駅位置において速度がゼロから正になった時刻から、停車駅位置において速度が正からゼロになった時刻までを当該駅間走行の時間範囲として求めることができる。
なお、消費電力量算出部102における消費電力の算出においては、入力電流が正の場合のみ、すなわち回生電力を除いた力行電力についてのみを電力算出の対象としてもよい。このようにすることで、他列車の在線状況や制駆動状態の影響を排除して、自列車単独の電力消費を評価対象とすることができる。
【0017】
走行時分算出部103は、運行データ記録部101から、列車位置153および列車速度154を受信する。そして、走行時分算出部103は、これらの情報を基に実績駅間走行時分155を算出する。実績駅間走行時分155は、発車駅を発車してから停車駅に停車するまでの時間である。走行時分算出部103は、例えば、対象としている駅間走行の発車駅位置に列車位置153があって列車速度154がゼロから正になった時刻から、列車位置153が停車駅位置にあって列車速度154が正からゼロになった時刻までを、実績駅間走行時分155として算出する。
【0018】
ここまでに記した、運行データ記録部101、消費電力量算出部102、走行時分算出部103の処理は、常時、一定周期で実行されている。前提とする処理周期は、消費電力量算出および評価の観点で、必要な精度が確保できることを条件に、シミュレーションなどによって決められる。
【0019】
残区間走行パターン予測部106は、運行データ記録部101から、列車位置153、列車速度154、目標残走行時分157および運転操作内容160を受信する。そして、残区間走行パターン予測部106は、これらの情報に基づき、駅間走行の途中段階において、残区間の走行パターンである残区間予測走行パターン158を生成する。残区間走行パターン予測部106は、列車が走行している駅間の残区間における走行パターンである残区間予測走行パターン158を予測する、と言うこともできる。ここで走行パターンのデータは、時系列データであり、データ項目として時刻、位置、速度、運転操作内容、各インバータの入力電圧と入力電流が含まれる。当該予測処理の方法については後述する。予測結果である残区間予測走行パターン158は、残区間消費電力量予測部107と運行データ記録部101へ送信される。運行データ記録部101において、残区間予測走行パターン158の内容を、実績の走行パターンと共に記録しておくことで、これら2種類の走行パターンの比較分析に基づき予測処理内容の改善を図ることができる。
【0020】
残区間消費電力量予測部107は、残区間走行パターン予測部106から残区間予測走行パターン158を受信する。そして、残区間消費電力量予測部107は、残区間予測走行パターン158に基づき、区間の消費電力の予測値である残区間消費電力量予測値159を生成する。残区間消費電力量予測部107は、残区間予測走行パターン158に基づき、残区間における予測消費電力量である残区間消費電力量予測値159を予測する、と言うこともできる。残区間消費電力量予測部107は、列車に搭載されている全インバータについて、残区間予測走行パターン158に含まれている入力電圧と入力電流の積を合計することで、瞬時瞬時の列車の消費電力を算出し、次駅までの時間範囲について積算することで、残区間消費電力量予測値159を算出する。
【0021】
評価指標比較部104は、評価指標を生成する評価指標生成部の一例である。評価指標比較部104は、実績駅間消費電力量152、実績駅間走行時分155および残区間消費電力量予測値159を受信する。そして、評価指標比較部104は、これらの情報に基づき、評価結果156を生成する。評価結果156の生成方法は、詳しくは後述するが、駅間走行中と駅間走行後とで異なる。駅間走行中の場合、評価指標比較部104は、実績駅間消費電力量152および残区間消費電力量予測値159に基づき、次の停車駅に到着する前において列車の消費電力量についての評価結果156を生成する、と言うことができる。
【0022】
評価結果提示部105は、評価指標比較部104から、評価結果156を受信する。そして、評価結果提示部105は、評価結果156を、車両情報装置の運転台画面など、運転士が目視できる表示装置に表示する。
【0023】
<駅間走行後における評価結果156およびその提示例の説明>
次に、駅間走行後における評価結果156の具体例、および評価結果提示部105による評価結果156の提示例について説明する。
まず、駅間走行後における評価結果156の例として、3種類の例を示す。1種類目は、走行時分や消費電力量の数値を単純に比較した結果である。2種類目は、走行時分や消費電力量の数値の比較に基づいて点数化するものである。3種類目は、走行時分や消費電力量の数値の比較に基づいた評価結果156を合否判定するものである。
【0024】
1種類目の数値単純比較では、以下の[A]~[D]の比較をし、差分を計算する。

[A]駅間走行時分の評価用基準値(基準走行時分)と、実績駅間走行時分155との比較
[B]駅間消費電力量の評価用基準値(過去の運行データの検索による結果、省エネ)と、実績駅間消費電力量152との比較
[C]駅間消費電力量の評価用基準値(過去の運行データの検索による結果、平均)と、実績駅間消費電力量152との比較
[D]駅間消費電力量の評価用基準値(運行シミュレーションによる結果、省エネ)と、実績駅間消費電力量152との比較
【0025】
評価結果156には、各比較対象の数値とともに、計算された差分が含まれる。差分は、評価用基準値に対する差分である。ここで評価用基準値は、駅間走行時分や駅間の消費電力量を評価する上で比較の基準となる値である。評価用基準値は、評価指標比較部104の内部にデータベースとして存在するものであり、駅間走行時分に関する評価用基準値と、駅間消費電力量に関する評価用基準値が存在する。駅間走行時分に関する評価用基準値の例は、鉄道事業者にて定められている各駅間の基準走行時分である。駅間消費電力量の評価用基準値にはバリエーションがあり、過去の運行データの検索によって生成される場合と、運行シミュレーションによって生成される場合がある。これらの生成方法については後述する。
【0026】
図2図4は、上記1種類目の評価結果156を示した図である。このうち、図2は、[A]と[B]に関する評価結果156の例を示した図である。また、図3は、[A]と[C]に関する評価結果156の例を示した図である。さらに、図4は、[A]と[D]に関する評価結果156の例を示した図である。
上記1種類目の評価結果156である数値比較結果を受け取った評価結果提示部105では、車両情報装置の運転台画面など、運転士が目視できる表示装置において、図2図4の情報を表形式で数値を表示したり、これらの数値をグラフ化して表示する。これらの表示にあたっては、図2図4のすべての情報を表示する必要はなく、一部の情報のみを抜粋表示する形態でもよい。
【0027】
図5は、上記1種類目の評価結果156をグラフ化して表示した提示例である。
この例では、画面内左上に運行日および当該駅間の発着時刻実績がテキスト表示されており、画面内中央から下部に散布図が表示されている。散布図の横軸は駅間の走行時分、縦軸は消費電力量である。散布図には4つのデータ点がプロットされている。4つのデータ点とは、実績値(図では「実績」として表示)、過去実績の省エネ(図では「省エネ(過去実績)」として表示)、過去実績の平均(図では「平均(過去実績)」として表示)、および省エネシミュレーション(図では「省エネ(シミュレーション)」として表示)の結果である。
【0028】
2種類目の点数化では、走行時分と消費電力量のそれぞれについて、理想的な値に実績値が近いほど高得点となるように点数をつける。走行時分の理想的な値は、駅間走行時分の評価用基準値、すなわち、鉄道事業者にて定められている各駅間の基準走行時分である。
【0029】
図6は、走行時分に関する点数のつけ方の一例を示した図である。
図6で、横軸は、走行時分を表し、縦軸は、点数を表す。
この例では、評価用基準値の周辺に最高得点となる時分範囲H1を設けており、この範囲から離れるにつれて点数が下がるような点数のつけ方をしている。消費電力量の理想的な値は、駅間消費電力量の評価用基準値のうち、過去の運行データの検索による結果の省エネな値と、運行シミュレーションによる結果のいずれかを使用する。
【0030】
図7は、消費電力量に関する点数のつけ方の一例を示した図である。
図7で、横軸は、消費電力量で表し、縦軸は、点数を表す。
この例では評価用基準値の周辺に最高得点となる電力量範囲H2を設けており、この範囲よりも電力量が大きくなるにつれて点数が下がるような点数のつけ方をしている。
【0031】
上記2種類目の評価結果156である、走行時分と消費電力量に関する点数を受け取った評価結果提示部105では、車両情報装置の運転台画面など、運転士が目視できる表示装置において、これらの点数を表示する。表示にあたって、走行時分の点数と消費電力量の点数は、個別に表示されてもいいし、何らかの重み付けをして両者を加算した値を表示してもよい。
【0032】
図8は、上記2種類目の評価結果156の提示例を示した図である。
この例では、画面内左側に運行日および当該駅間の発着時刻実績がテキスト表示されており、画面内右側に評価結果156として、走行時分、消費電力量および総合評価の点数が表示されている。
【0033】
3種類目の合否判定では、2種類目の評価結果156の点数化結果を、予め定めた点数の基準値と比較して、基準値を上回る点数のときに合格とする方法が考えられる。あるいは、消費電力量に関して、駅間消費電力量の評価用基準値のうち、過去の運行データの検索による平均的な値と、実績駅間消費電力量152を比較して、後者が前者よりも小さかったときに合格とする方法が挙げられる。
【0034】
上記3種類目の評価結果156である合否判定結果を受け取った評価結果提示部105では、評価結果156が合格のときに、その旨を示す表示を行う。例えば、走行時分に関して「適正」、消費電力量に関して「ECO」といった表示が考えられる。
【0035】
図9は、上記3種類目の評価結果156の提示例を示した図である。
この例では、画面内左側に運行日および当該駅間の発着時刻実績がテキスト表示されており、画面内右側に評価結果156として、走行時分、消費電力量それぞれについての合否判定が表示されている。走行時分については、「適正」、「早着」、「遅着」といった判定の選択肢が考えられる。消費電力量については、「ECO」、「非ECO」といった判定の選択肢が考えられる。
以上説明したように、評価指標比較部104は、次の停車駅に到着した後は、駅間の列車の消費電力量についての評価結果156を生成する。また、評価指標比較部104は、さらに駅間の走行時分についての評価結果156を生成する。
以上、駅間走行後における評価結果提示部105での評価結果156の提示例を説明した。
【0036】
<駅間走行中における評価結果156およびその提示例の説明>
次に、駅間走行中における評価結果156の具体例、および評価結果提示部105での評価結果156の提示例について説明する。
まず、駅間走行中における評価結果156の3種類の例を示す。なお、駅間走行中においては次駅までの残区間における走行パターンが確定しないため、走行時分の評価は行わず、消費電力量の評価のみを行う。即ち、上記[A]に対応する比較は行わない。
【0037】
1種類目は、消費電力量の数値を単純に比較した結果である。2種類目は、消費電力量の数値の比較に基づいて点数化するものである。3種類目は、消費電力量の数値の比較に基づいた評価結果156を合否判定するものである。
【0038】
1種類目の数値単純比較では、以下の[B’]、[D’]、[F’]の比較をし、差分を計算する。

[B’]駅間消費電力量の評価用基準値(過去の運行データの検索による結果、省エネ)と、評価時点における実績駅間消費電力量152および残区間消費電力量予測値159の和と、の比較
[D’]駅間消費電力量の評価用基準値(過去の運行データの検索による結果、平均)と、評価時点における実績駅間消費電力量152および残区間消費電力量予測値159の和と、の比較
[F’]駅間消費電力量の評価用基準値(運行シミュレーションによる結果、省エネ)と、評価時点における実績駅間消費電力量152および残区間消費電力量予測値159の和と、の比較
【0039】
評価結果156には、各比較対象の数値とともに、計算された差分が含まれる。差分は、評価用の基準値に対する差分である。ここで評価用の基準値は、評価指標比較部104の内部にデータベースとして存在するものであり、駅間消費電力量に関する基準値を用いる。駅間消費電力量に関する基準値は、上記の駅間走行後の評価で用いるものと同一である。
【0040】
図10図12は、上記1種類目の評価結果156を示した図である。このうち、図10は、[B’]に関する評価結果156の例を示した図である。また、図11は、[D’]に関する評価結果156の例を示した図である。さらに、図12は、[F’]に関する評価結果156の例を示した図である。
上記1種類目の評価結果156である数値比較結果を受け取った評価結果提示部105では、車両情報装置の運転台画面など、運転士が目視できる表示装置において、図10図12の情報を表形式で数値を表示したり、これらの数値をグラフ化して表示する。これらの表示にあたっては、図10図12のすべての情報を表示する必要はなく、一部の情報のみを抜粋表示する形態でもよい。
【0041】
図13は、上記1種類目の評価結果156をグラフ化して表示した提示例である。
なお、評価結果提示部105における表示には、駅間途中の推定値に基づく評価であることを明示することが望ましい。ここでは、「駅間途中の推定値」と表示することで明示している。
この例では、画面内上部に運行日および当該駅間の発車時刻実績がテキスト表示(到着は未定のため未採取と記載)されており、画面内中央から下部に棒グラフが表示されている。棒グラフの縦軸は消費電力量である。グラフには、推定値、過去実績の省エネ(図では「省エネ(過去実績)」として表示)、過去実績の平均(図では「平均(過去実績)」として表示)、および省エネシミュレーションの結果(図では「省エネ(シミュレーション)」として表示)、という4種類のデータが描かれている。
【0042】
2種類目の点数化では、評価時点における実績駅間消費電力量152と残区間消費電力量予測値159の和が、駅間消費電力量の理想的な値に近いほど高得点となるように点数をつける。消費電力量の理想的な値は、駅間消費電力量の評価用基準値のうち、過去の運行データの検索による結果の省エネな値と、運行シミュレーションによる結果のいずれかを使用する。
【0043】
消費電力量に関する点数のつけ方は、図7と同様である。即ち、評価用基準値の周辺に最高得点となる電力量範囲H2を設け、その範囲よりも電力量が大きくなるにつれて点数が下がるような点数のつけ方をする。
【0044】
上記2種類目の評価結果156である、消費電力量に関する点数を受け取った評価結果提示部105では、車両情報装置の運転台画面など、運転士が目視できる表示装置において、この点数を表示する。
【0045】
図14は、上記2種類目の評価結果156の提示例を示した図である。
評価結果提示部105における表示には、駅間途中の推定値に基づく評価であることを明示することが望ましい。ここでは、「駅間途中の推定値」と表示することで明示している。
この例では、画面内左側に運行日および当該駅間の発車時刻実績がテキスト表示(到着は未定のため未採取と記載)されており、画面内右側に評価結果156として、消費電力量の点数が表示されている。駅間の残区間の走行パターンが未定のため、走行時分と総合評価の欄は未判定と記載されている。
【0046】
3種類目の合否判定では、2種類目の評価結果156の点数化結果を、予め定めた点数の基準値と比較して、基準値を上回る点数のときに合格とする方法が考えられる。あるいは、消費電力量に関して、駅間消費電力量の評価用基準値のうち、過去の運行データの検索による平均的な値と、実績駅間消費電力量152を比較して、後者が前者よりも小さかったときに合格とする方法が挙げられる。
【0047】
上記3種類目の評価結果156である合否判定結果を受け取った評価結果提示部105では、評価結果156が合格のときに、その旨を示す表示を行う。例えば、消費電力量に関して「ECO」といった表示が考えられる。
【0048】
図15は、上記3種類目の評価結果156の提示例を示した図である。
評価結果提示部105における表示には、駅間途中の推定値に基づく評価であることを明示することが望ましい。ここでは、「駅間途中の推定値」と表示することで明示している。
この例では、画面内左側に運行日および当該駅間の発車時刻実績がテキスト表示(到着は未定のため未採取と記載)されており、画面内右側に評価結果156として、消費電力量についての合否判定が表示されている。駅間の残区間の走行パターンが未定のため、走行時分との欄は未判定と記載されている。なお、消費電力量については、「ECO」、「非ECO」といった判定の選択肢が考えられる。
以上説明したように、評価指標比較部104は、評価結果156を、駅間の消費電力量の評価用基準値と、実績駅間消費電力量152および残区間消費電力量予測値159の和と、の比較により生成する。また、上述した例では、評価結果156は、評価用基準値とこの和との差分、差分を基にした点数および合否の少なくとも1つである。
以上、駅間走行中における評価結果提示部105での評価結果156の提示例を説明した。
【0049】
<駅間消費電力量の評価用基準値の生成方法について説明>
次に、評価指標比較部104において使用される、駅間消費電力量の評価用基準値の生成方法について説明する。
駅間消費電力量の評価用基準値は、運転実績と比較するための比較用運行データを基に生成する。ここで、比較用運行データとは、対象駅間を走行する際に比較対象となる運行データである。比較用運行データは、時系列の運転データであり、速度、位置、ノッチ操作、およびそれに伴う消費電力の情報が含まれる。以降では、駅間消費電力量の評価用基準値のことを、参考駅間消費電力量と記す。参考駅間消費電力量は、比較用運行データに含まれる消費電力を駅間走行中に亘って積算することで算出する。
【0050】
以下に、比較用運行データの作成方法を説明する。比較用運行データの作成方法として、過去の運行データの検索と運行シミュレーションの2種類の方法が例として挙げられる。また、比較用運行データは大きく分けて2種類存在し、それは、対象駅間を走行する際の、「省エネな走行をする運行データ」と「平均的な消費電力量で走行する運行データ」である。
【0051】
<過去の運行データの検索による比較用運行データの作成方法>
過去の運行データの検索は、対象駅間について蓄積しておいた過去の運行データ群の存在が前提である。蓄積されている運行データは、時系列の運転データであり、速度、位置、ノッチ操作、消費電力の情報を含んでいる。運行データの蓄積は、運転状況記録装置に代表される運行データ記録部101からの、定期的なデータの取得によって実現することができる(図示しない)。
【0052】
蓄積されている運行データの中から、走行時分が所定範囲内であるデータを抽出し、その中で最も省エネな走行をした運行データと、平均的な消費電力量で走行した運行データを探し、それぞれの電力量を算出する。なお、消費電力量算出部102で、力行電力のみを対象とした消費電力量の算出を採用する場合は、比較対象を揃えるため、力行電力量の観点で省エネおよび平均的な電力量の運行データの検索を行う。走行時分に関する前記の所定範囲は定時運転とみなせる時分範囲である。当該時分範囲は、対象駅間の基準走行時分近辺に設定され、統計処理のサンプル数確保のために、例えば5~10秒程度の幅を持たせることが考えられる。
【0053】
<運行シミュレーションによる比較用運行データの作成方法>
運行シミュレーションに必要な条件設定として、車両条件(重量、走行抵抗特性、牽引力・制動力・電制力特性)や路線条件(駅キロ程、路線の勾配や曲率、トンネル有無、制限速度)、ダイヤ条件(駅間走行時分)、および運転方法の条件が挙げられる。これらの条件については、評価指標比較部104にて予め保持しておく。なお、車両条件に含まれる重量については、曜日や時間帯による乗車率変動によって影響を受けるため、シミュレーション対象の駅間走行における乗車率値を運行データ記録部101から追加取得して使用することで、速度パターンや電力消費量の観点でより高精度な運行シミュレーションが可能である(図示はしない)。また、車両条件に含まれる牽引力特性については、電気鉄道においては架線電圧によって影響を受けるため、シミュレーション対象の駅間走行における架線電圧値を運行データ記録部101から追加取得して使用することで、速度パターンや電力消費量の観点でより高精度な運行シミュレーションが可能である(図示はしない)。また、車両条件に含まれる電制力特性については、電気鉄道においては架線電圧によって影響を受けるため、シミュレーション対象の駅間走行における架線電圧値を運行データ記録部101から追加取得して使用することで、電力消費量の観点でより高精度な運行シミュレーションが可能である(図示はしない)。
【0054】
運転方法の条件とは、駅間走行中の走行速度パターンの決め方であり、ひいてはノッチ扱いの戦略である。運転方法の条件の違いで、走行時分や消費電力量は変化する。
比較用運行データ作成における運行シミュレーションでは、まず、駅間を最も短い時分で走行できる走行速度パターンを生成する。以降、この走行速度パターンを最速パターンと記す。最速パターンは、安全性や乗り心地を考慮して許容される最大加速度・最大減速度を活用し、制限速度を超過しない範囲の高い速度で走行する速度パターンである。最速パターンで駅間を走行した場合の走行時分が、ダイヤで定められた走行時分以上であれば、最速パターンを比較用運行データとする。
【0055】
最速パターンの走行時分が、ダイヤで定められた走行時分よりも短い場合には、走行時分の余裕を活用することで、走行速度パターンに自由度が生まれる。すなわち、ダイヤで定められた走行時分で走行したうえで、最速パターンから最高速度を低下させたり、惰行を増加させることで、最速パターンよりも省エネに駅間走行をすることができる。このような場合には、ダイヤで定められた走行時分で走行する、数理的に生成された省エネな走行パターン(以降、省エネパターン)を比較用運行データとする。省エネパターンの数理的な生成方法については、動的計画法を用いる方法や山登り法を用いる方法など、多くの既存研究があるため、それらの方法を活用することができる。
【0056】
生成された比較用運行データの駅間消費電力量は、走行パターンに沿って走行するために必要とした牽引力・電制力の大きさから、機器効率などを考慮して推定して求めた瞬時瞬時の消費電力を、駅間走行中に亘って積算することで算出できる。なお、消費電力量算出部102で、力行電力のみを対象とした消費電力量の算出を採用する場合は、ここでも、正の消費電力のみを積算することで、駅間の力行電力量を算出する。
【0057】
運行シミュレーションによる方法では、実運行における走行パターンのばらつきを表現することが難しいため、比較用運行データとして生成するのは、「省エネな走行をする運行データ」のみであり、「平均的な消費電力量で走行する運行データ」は生成しない。
【0058】
以上が、比較用運行データの作成方法に関する説明である。これらの作成方法によって、比較用運行データとして、「省エネな走行をする運行データ」が2種類(過去の運行データの検索による方法と運行シミュレーションによる方法)と、「平均的な消費電力量で走行する運行データ」が1種類(過去の運行データの検索による方法)作成され、それぞれについて参考駅間消費電力量が算出される。この場合、比較用運行データは、過去の運行データの中から求められる、最も消費電力量が小さい(省エネな)走行をした運行データ、平均的な消費電力量で走行した運行データ、および運行シミュレーションにより求められる、最も消費電力量が小さい(省エネな)走行をした運行データの少なくとも1つである、と言うこともできる。
【0059】
また、図10図13の形態は、評価結果提示部105が、過去の運行データの中から求められる、最も消費電力量が小さい(省エネな)走行をした運行データ、平均的な消費電力量で走行した運行データ、および運行シミュレーションにより求められる、最も消費電力量が小さい(省エネな)走行をした運行データ、のそれぞれによる消費電力量の少なくとも1つと、次の停車駅に到着する前における列車の消費電力量と、についての評価結果156を並べて提示する、と言うこともできる。
【0060】
<残区間予測走行パターン158の生成方法の説明>
次に、残区間走行パターン予測部106における、残区間予測走行パターン158の生成方法の例について、詳細を記述する。
まず、残区間走行パターン予測部106における残区間予測走行パターン158の生成処理のタイミングについて記載する。残区間予測走行パターン158の生成処理は常時実行されるのではない。具体的には、当該生成結果に基づいた、評価結果提示部105における情報提示を、乗務員が受け入れやすいタイミングで提示できるように、離散的なタイミングで処理がなされる。ここで、乗務員が情報提示を受け入れやすいタイミングとは、運転操作が忙しくないタイミングであったり、分岐や曲線などによる速度制限に進入する区間でないタイミングのことである。こうしたタイミングでの情報提供とすることで、乗務員にとって支援情報の受容性が向上し、省エネ効果の向上に寄与する。
【0061】
運転操作が忙しくないタイミングの例として、加速を終えた後、惰行や定速走行による巡行をしているタイミングが挙げられる。この場合、残区間走行パターン予測部106は、残区間予測走行パターン158を、運転操作の切り替えが少ないと予想されるタイミングで求める、と言うこともできる。
図16は、運転操作が忙しくないタイミングの例を示した図である。
図16に記載している走行パターンは、実績ではなく、運転曲線図に代表される計画時点での走行パターンである。計画時点の走行パターン上で、惰行や定速走行による巡行が続く区間を予め抽出しておき、その区間を走行している間に、残区間走行パターン予測部106における予測処理が実行されるように制御される。図16では、この区間を矢印にて示している。運転操作が忙しくないタイミングを選定する方法は、計画時点の走行パターンを参考にする方法の他、過去の運転実績から、惰行や定速走行による巡行をしていることが多い区間を統計的に抽出する方法も例として考えられる。
【0062】
残区間走行パターン予測部106における予測処理のタイミングに関する判断例として、列車位置153に基づき、残区間走行パターン予測部106の内部に備えられた、予測処理実行タイミング用の位置を定義したデータベースを参照して判断する方法が挙げられる。
【0063】
図17は、予測処理実行タイミング用の位置を定義したデータベースの例を示した図である。
図示するデータベースは、「駅間」、「駅間中の予測番号」、「駅間走行位置」という3種類のデータから構成される。「駅間」は発駅と着駅の組合せを示す値が存在する。「駅間中の予測番号」は、同一駅間における複数の予測タイミングの区別するための番号を示す。「駅間走行位置」には、予測処理を行う位置を示す値が記載されており、列車位置153がその位置に達したタイミングにおいて、残区間走行パターン予測部106の処理が実行される。
【0064】
続いて、残区間走行パターン予測部106における、残区間予測走行パターン158の生成処理の内容について記載する。残区間予測走行パターン158の生成方法は、過去の運行データの検索と運行シミュレーションの2種類の方法が例として挙げられる。
【0065】
<過去の運行データの検索による残区間予測走行パターン158の生成方法>
過去の運行データの検索は、対象駅間について蓄積しておいた過去の運行データ群の存在が前提である。蓄積されている運行データは、時系列の運転データであり、速度、位置、ノッチ操作、消費電力の情報を含んでいる。運行データの蓄積は、運転状況記録装置に代表される運行データ記録部101からの、定期的なデータの取得によって実現することができる(図示しない)。
【0066】
まず、残区間予測走行パターン158の生成タイミングにおいて、蓄積されている過去の運行データの中から、列車位置153、列車速度154および目標残走行時分157が一致する運行データを抽出する。ここで、各要素の一致判断については、厳密に同一の値である必要はなく、所定の判断基準を設けて、近い値であることによって判断する方法でもよい。
【0067】
続いて、上記抽出済みの運行データ群の中から、残区間予測走行パターン158の生成タイミングまでの運転履歴の特徴を考慮して、運行データを更に絞り込み抽出し、最も運転履歴の特徴が類似している運行データを選ぶ。こうして選ばれた運行データにおける列車位置153以降の部分を、残区間予測走行パターン158とする。ここで、運転履歴の特徴の例としては、走行速度パターン形状の特徴や、運転操作の特徴が挙げられる。運転操作の特徴とは、ノッチ操作や定速走行用スイッチなど、車両の制駆動に関する運転士の操作に関する特徴である。走行速度パターン形状や運転履歴の特徴に基づく運行データの抽出方法例としては、運転履歴の特徴に関するパラメータ(速度、ノッチ、スイッチなど)の時系列データを用いた、パターンマッチングが挙げられる。これによって、残区間予測走行パターン158の生成タイミングまでにおける運転傾向を、残区間において継続した場合の走行パターンが過去の運行データから生成できる。
【0068】
<運行シミュレーションによる残区間予測走行パターン158の生成方法>
運行シミュレーションに必要な条件設定として、車両条件(重量、走行抵抗特性、牽引力・制動力・電制力特性)や路線条件(駅キロ程、路線の勾配や曲率、トンネル有無、制限速度)、ダイヤ条件(駅間走行時分)、および運転方法の条件が挙げられる。これらの条件については、残区間走行パターン予測部106にて予め保持しておく。なお、車両条件に含まれる重量については、曜日や時間帯による乗車率変動によって影響を受けるため、シミュレーション対象の駅間走行における乗車率値を運行データ記録部101から追加取得して使用することで、速度パターンや電力消費量の観点でより高精度な運行シミュレーションが可能である(図示はしない)。また、車両条件に含まれる牽引力特性については、電気鉄道においては架線電圧によって影響を受けるため、シミュレーション対象の駅間走行における架線電圧値を運行データ記録部101から追加取得して使用することで、速度パターンや電力消費量の観点でより高精度な運行シミュレーションが可能である(図示はしない)。また、車両条件に含まれる電制力特性については、電気鉄道においては架線電圧によって影響を受けるため、シミュレーション対象の駅間走行における架線電圧値を運行データ記録部101から追加取得して使用することで、電力消費量の観点でより高精度な運行シミュレーションが可能である(図示はしない)。
【0069】
運転方法の条件とは、駅間走行中の走行速度パターンの決め方であり、ひいてはノッチ扱いの戦略である。運転方法の条件の違いで、走行時分や消費電力量は変化する。残区間予測走行パターン158の生成における前提は、乗務員は定時運転をめざすはずであり、目標残走行時分157にできるだけ近い走行時分で残区間を走行する、という考え方である。
【0070】
残区間予測走行パターン158の生成における運行シミュレーションでは、まず、残区間予測走行パターン158の生成タイミングにおける列車位置153、列車速度154を始点として、次停車駅までの残区間を最も短い時分で走行できる走行速度パターンを生成する。以降、この走行速度パターンを最速パターンと記す。最速パターンは、安全性や乗り心地を考慮して許容される最大加速度・最大減速度を活用し、制限速度を超過しない範囲の高い速度で走行する速度パターンである。最速パターンで残区間を走行した場合の走行時分が、目標残走行時分157以上であれば、最速パターンを比較用運行データとする。
【0071】
最速パターンの走行時分が、目標残走行時分157よりも短い場合には、走行時分の余裕を活用することで、走行速度パターンに自由度が生まれる。すなわち、目標残走行時分157で走行したうえで、最速パターンから最高速度を低下させたり、惰行を増加させることで、最速パターンよりも省エネに駅間走行をすることができる。
【0072】
このような場合には、残区間予測走行パターン158の生成タイミングまでの運転履歴の特徴を考慮して、目標残走行時分157で残区間を走行する走行パターンをシミュレーションで生成する方法が考えられる。ここで運転履歴の特徴として、ノッチ操作や定速走行用スイッチなど、車両の制駆動を行うときの運転操作に関する特徴が挙げられる。さらに具体的には、ノッチ操作の頻度や定速走行機能の使用有無である。こうした運転操作に関する特徴を、残区間予測走行パターン158の生成タイミングまでの運転履歴から判断し、残区間の運行シミュレーションをする際の運転士モデルとして組み込む。これによって、残区間予測走行パターン158の生成タイミングまでにおける運転傾向を、残区間において継続した場合の走行パターンが、運行シミュレーションによって生成できる。
【0073】
目標残走行時分157で残区間を走行する走行パターンをシミュレーションで生成する方法の別の例として、残区間を数理的に最適な省エネパターンで走行すると仮定して、走行パターンを生成する方法も考えられる。省エネパターンの数理的な生成方法については、動的計画法を用いる方法や山登り法を用いる方法など、多くの既存研究があるため、それらの方法を活用することができる。
【0074】
上述した例では、残区間走行パターン予測部106は、残区間予測走行パターン158を、列車を駅間の目標残走行時分に近い走行時分で残区間を走行することを条件として求める、と言うこともできる。
以上が、残区間走行パターン予測部106における、残区間予測走行パターン158の生成方法の例についての説明である。
【0075】
ここまでに説明した各処理部の設置場所について、消費電力量算出部102、走行時分算出部103、評価指標比較部104、残区間走行パターン予測部106、および残区間消費電力量予測部107については、地上と車上のどちらに設置されても構わず、必要に応じて地車間で通信を行ってデータの授受を行う。特に残区間走行パターン予測部106は処理が多く、かつ過去の運行データのデータベースを使用するため、高性能な地上サーバにて処理することで、車上装置のコスト低減・コンパクト化につながる。評価結果提示部105は、車上の運転台画面などに実装されて、駅間走行終了直後に運転士が確認する前提であるが、それ以外に、運転士が持ち運ぶタブレット端末や、地上で使用するコンピュータ端末などに実装する形態でも構わない。
【0076】
運転士の手動運転による走行パターンにはばらつきが存在し、それによって走行時分と消費電力量にばらつきが生じる。走行パターンのばらつきを低減し、定時性を遵守できる範囲の走行時分で、省エネな運転をすることによって、列車運行に伴う消費電力量の低減が可能である。
走行パターンのばらつき低減には、運転を自動化する自動列車運転装置の採用のほか、手動運転を前提としたうえで、省エネな運転方法の教育をすることや、運転操作をアドバイスする運転支援システムの導入が効果的である。手動運転を前提とした方法は、自動列車運転装置の採用に比べて導入コストが抑えられるため、将来的に自動運転が主流になるまでの間は、手動運転を前提とした走行パターンのばらつき低減が有効である。
【0077】
手動運転を前提とした走行パターンのばらつき低減を進めるうえでは、運転士のモチベーションの維持が大きな課題となる。多くの運転士にとっては、従来から慣れ親しんだ運転方法を修正することになるため、少なからず心理的な抵抗が存在する。そのため、省エネな運転方法の定着のためには、省エネ効果が目に見えて実感できる必要がある。この課題に対応する方法のひとつとして、駅間走行に伴う消費電力量や走行時分、および運転技能の評価結果を運転台画面などに表示する運転支援システムの導入が挙げられる。駅間走行ごとに自らの運転結果や評価結果を確認することで、運転方法の工夫に対するモチベーションが維持できる。
上述した形態による運転支援システム1によれば、駅間走行終了後だけでなく駅間走行の途中段階においても、消費電力量の評価結果を提示できる。そのため駅間走行中でも自らの運転結果や評価結果を確認することができる。そして、乗務員に対する省エネ運転への意識づけを強化でき、列車運行の省エネ化につながる。
【0078】
<運行支援方法の説明>
以上説明を行った運転支援システム1が行う処理は、ソフトウェアとハードウェア資源とが協働することにより実現される。即ち、運転支援システム1に設けられたコンピュータ内部のプロセッサが、上述した各機能を実現するソフトウェアをメモリにロードして実行し、これらの各機能を実現させる。
よって、運転支援システム1が行う処理は、プロセッサがメモリに記録されたプログラムを実行することにより、列車の走行に伴う消費電力量である実績駅間消費電力量152を算出し、列車が走行している駅間の残区間における走行パターンである残区間予測走行パターン158を予測し、残区間予測走行パターン158に基づき、残区間における予測消費電力量である残区間消費電力量予測値159を予測し、実績駅間消費電力量152および残区間消費電力量予測値159に基づき、次の停車駅に到着する前において列車の消費電力量についての評価結果156を生成する、運行支援方法と捉えることができる。
【0079】
以上、本実施の形態について説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、種々の変更または改良を加えたものも、本発明の技術的範囲に含まれることは、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0080】
1…運転支援システム、101…運行データ記録部、102…消費電力量算出部、103…走行時分算出部、104…評価指標比較部、105…評価結果提示部、106…残区間走行パターン予測部、107…残区間消費電力量予測部、151…電力消費情報、152…実績駅間消費電力量、153…列車位置、154…列車速度、155…実績駅間走行時分、156…評価結果、157…目標残走行時分、158…残区間予測走行パターン、159…残区間消費電力量予測値、160…運転操作内容、H1…時分範囲、H2…電力量範囲
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17