(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024163760
(43)【公開日】2024-11-22
(54)【発明の名称】耐火物レンガの処理方法
(51)【国際特許分類】
B09B 5/00 20060101AFI20241115BHJP
【FI】
B09B5/00 Z
B09B5/00 J ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023079631
(22)【出願日】2023-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(74)【代理人】
【識別番号】100195556
【弁理士】
【氏名又は名称】柿沼 公二
(72)【発明者】
【氏名】塩飽 達宏
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 成人
【テーマコード(参考)】
4D004
【Fターム(参考)】
4D004AA16
4D004AA43
4D004BA02
4D004CA32
4D004CB31
4D004CC03
4D004DA03
4D004DA06
4D004DA20
(57)【要約】
【課題】耐火物レンガの表面に付着したスラグを、当該耐火物レンガの歩留まりを確保しつつ効果的に分離することが可能な、耐火物レンガの処理方法を提供する。
【解決手段】表面にスラグが付着した耐火物レンガの処理方法であって、前記耐火物レンガに水を取り込んだのち、凍結及び解凍を複数回繰り返すことにより、該耐火物レンガからスラグを分離する、ことを特徴とする、耐火物レンガの処理方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面にスラグが付着した耐火物レンガの処理方法であって、
前記耐火物レンガに水を取り込んだのち、凍結及び解凍を複数回繰り返すことにより、該耐火物レンガからスラグを剥離する、ことを特徴とする、耐火物レンガの処理方法。
【請求項2】
前記凍結の温度が-20℃以下である、請求項1に記載の耐火物レンガの処理方法。
【請求項3】
前記繰り返しの凍結及び解凍の処理時間の合計が、1時間以上である、請求項1又は2に記載の耐火物レンガの処理方法。
【請求項4】
前記凍結及び解凍の繰り返し回数が4回以上である、請求項1又は2に記載の耐火物レンガの処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐火物レンガの処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、製鉄におけるリサイクル効率の向上の一環として、製銑プロセスで使用される耐火物レンガを再利用することが提案されている。耐火物レンガには、トピードレンガ、転炉レンガ等がある。
【0003】
一般的に、耐火物レンガの稼働面(溶鋼やスラグと接触する面)には、耐火物中の気孔を通して鉄やスラグが付着し、また、それ以外の一部の面には、モルタルが付着している場合がある。このような耐火物レンガをリサイクルする場合、上記の付着物が混入すると、リサイクル品の耐火物としての耐用性が著しく低下し、使用に耐えられなくなる。そのため、耐火物レンガをリサイクルするに際しては、スラグ等の上記付着物を取り除くことが必要である。
【0004】
現在の耐火物レンガリサイクルの手法は、手作業の打撃によって耐火物レンガ一つ一つの表面に付着したスラグを分離し、その後破砕している。この手法は、耐火物レンガの一部しか再利用に供することができず、その上、作業の能率及びランニングコスト等の面でも十分に満足のいくものではない。そのため、耐火物レンガのリサイクルを効率的に実施するために、耐火物レンガ表面からのスラグ等の付着物の分離を自動化かつ大量に実施できることが望まれている。
【0005】
これに対し、例えば特許文献1では、搬送されるワークに対し、ジェットノズルで水を吹き付けることでケレン処理(表面付着物を除去する処理)を施す、ウォータージェット式のケレン装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した特許文献1に記載の装置では、高速の水吹き付けにより、表面のケレン処理だけでなく,母材自体を削ってしまうこともある。即ち、上記の装置は、歩留まりが低下してしまう問題がある。
【0008】
本発明は、かかる事情に鑑みなされたものであり、耐火物レンガの表面に付着したスラグを、当該耐火物レンガの歩留まりを確保しつつ効果的に分離することが可能な、耐火物レンガの処理方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らが上記課題を解決するために鋭意検討した結果、耐火物レンガに水を含ませて凍結及び解凍を複数回繰り返すことにより、耐火物レンガとスラグとに隙間が形成されて、スラグが剥がれ易くなることを見出し、本発明をするに至った。
【0010】
本発明の要旨構成は、以下の通りである。
【0011】
[1] 表面にスラグが付着した耐火物レンガの処理方法であって、
前記耐火物レンガに水を取り込んだのち、凍結及び解凍を複数回繰り返すことにより、該耐火物レンガからスラグを剥離する、ことを特徴とする、耐火物レンガの処理方法。
【0012】
[2] 前記凍結の温度が-20℃以下である、[1]に記載の耐火物レンガの処理方法。
【0013】
[3] 前記繰り返しの凍結及び解凍の処理時間の合計が、1時間以上である、[1]又は[2]に記載の耐火物レンガの処理方法。
【0014】
[4] 前記凍結及び解凍の繰り返し回数が4回以上である、[1]~[3]のいずれかに記載の耐火物レンガの処理方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の耐火物レンガの処理方法によれば、当該耐火物レンガの歩留まりを確保しつつ、耐火物レンガの表面に付着したスラグを効果的に分離することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の処理方法に従う一実施形態の処理フローの概要図である。
【
図2】本発明の処理方法による一作用を示す概要図である。
【
図3】実施例における処理後の耐火物レンガについて、表面に残存するスラグの圧壊強度及びスラグ含有率を、凍結及び解凍の処理時間(繰り返し回数)との関係でプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態の耐火物レンガの処理方法(「本実施形態の処理方法」と称することがある。)について説明する。なお、以下の説明は、本発明の一実施態様又は好適態様を示すものであり、本発明を何ら限定するものではない。
【0018】
本実施形態の処理方法は、表面にスラグが付着した耐火物レンガの処理方法であって、上記耐火物レンガに水を取り込んだのち、凍結及び解凍を複数回繰り返すことにより、該耐火物レンガからスラグを分離する、ことを特徴とするものである。
【0019】
より具体的に、本実施形態の処理方法は、表面にスラグが付着した耐火物レンガ(以下、「スラグ付き耐火物レンガ」と称することがある。)に水を取り込む工程(水取込工程)、次いで、耐火物レンガを凍結させる工程(凍結工程)、次いで、耐火物レンガを解凍する工程(解凍工程)を含むこと、並びに、上記の凍結工程及び解凍工程を複数回繰り返すこと、を要する。
【0020】
図1は、本実施形態に従う処理フローの概要図である。以下、
図1に基づき、各工程について詳細に説明する。
【0021】
(水取込工程)
水取込工程では、
図1の(A)に示すように、スラグ2付き耐火物レンガ1に、水5を取り込む。この水取込工程は、次の凍結工程及び乾燥工程においてスラグ2を剥がれ易くするために行うものである。また、この水取込工程では、上記の通りスラグ2を剥がれ易くするために、耐火物レンガ1と表面付着スラグ2との間に水分が浸透することが好ましい。その具体的な手法として、水取込工程では、
図1の(A)に示すように、スラグ2付き耐火物レンガ1を、水槽4に貯めた水5に浸漬させて行うことが好ましい。この場合の浸漬時間は、所望の効果を得るために8秒以上とすることが好ましく、また、処理効率の観点から20秒以下とすることが好ましい。
なお、例えばスプレー等により水を耐火物レンガの表面に吹き付ける手法は、耐火物レンガ1と表面付着スラグ2との間に水分が浸透し難い又は浸透しない(即ち、水が耐火物レンガに取り込まれない)虞がある。
【0022】
(凍結工程)
次いで、凍結工程では、
図1の(B)に示すように、上記水取込工程の後のスラグ2付き耐火物レンガ1を、冷凍庫6等を用いて凍結させる。この凍結工程では、耐火物レンガ1と表面付着スラグ2との間に浸透した水5が凍結して氷5’となり、その体積が膨張する。上記凍結(冷凍)の温度は、最終的にスラグ2が耐火物レンガ1からより剥がれ易くする観点から、-15℃以下であることが好ましく、-20℃以下であることがより好ましく、-25℃以下であることが更に好ましい。一方、上記凍結の温度は、水の体積膨張を十分に生じさせる(急速冷凍を回避する)観点から、-30℃以上であることが好ましく、-28℃以上であることがより好ましい。
なお、凍結の時間は、特に限定されないが、10~30分間程度とすることができる。
【0023】
(解凍工程)
次いで、解凍工程では、上記凍結工程後のスラグ2付き耐火物レンガ1を解凍する。上記解凍は、
図1の(C)に示すように、自然解凍とすることが好ましい。自然解凍の場合、解凍に要する時間は、およそ5~15分程度である。
【0024】
(凍結及び解凍の繰り返し)
そして、本実施形態の処理方法では、上述した凍結及び解凍を複数回繰り返すことを要する。凍結工程及び解凍工程を複数回繰り返すことで、都度、耐火物レンガ1と表面付着スラグ2との間に浸透した水5が氷5’となり、繰り返しの体積膨張が生じる(
図2参照)。更に、凍結工程及び解凍工程を複数回繰り返すことで、耐火物レンガ1の表面に付着したスラグ2の強度が低下する。これらの結果として、耐火物レンガ1からスラグ2が剥がれ易くなる(いわゆる凍結剥離)。このようにして、耐火物レンガ1の表面に付着したスラグ2を、効果的に剥離することができる。具体的に、本実施形態の処理方法によれば、耐火物レンガのスラグ含有率2.7質量%以下(特定のリサイクル先の要求に基づいて設定された目標値)を達成することも可能である。
【0025】
なお、解凍工程から凍結工程に移行するタイミングは、耐火物レンガ1の表面の氷が融けて水に戻った時、とすることができる。
【0026】
上記繰り返しの凍結及び解凍の処理時間の合計は、特に限定されないが、1時間以上であることが好ましい。この場合、より効果的に耐火物レンガの表面に付着したスラグを剥離することができる。同様の観点から、上記繰り返しの凍結及び解凍の処理時間の合計は、3時間以上であることがより好ましく、4時間以上であることが更に好ましい。一方、上記処理時間の合計は、過度に長くてもスラグの剥離量が飽和するため、7時間以下であることが好ましい。
【0027】
上記凍結及び解凍の繰り返し回数は、複数回(2回以上)であれば一定の効果が奏されるが、特には4回以上であることが好ましい。この場合、より効果的に耐火物レンガの表面に付着したスラグを剥離することができる。同様の観点から、上記凍結及び解凍の繰り返し回数は、6回以上であることがより好ましく、9回以上であることが更に好ましい。一方、上記繰り返し回数は、過度に多くてもスラグの剥離量が飽和するため、14回以下であることが好ましい。
【0028】
(篩工程)
本実施形態の処理方法では、繰り返しの凍結工程及び解凍工程の後、
図1の(D)に示すように、処理物(耐火物レンガ1及びスラグ2)を篩8にかけ、異なる複数の画分に分離して回収することができる。例えば、使用する篩8の網目を40mmとすることで、篩8上には40mm以上の耐火物レンガ1が残るので、篩8の下に落ちる剥離したスラグ2を含むそれ以外の物質との分離、ひいては処理済み耐火物レンガ1の回収が可能となる。
【0029】
なお、本実施形態の処理方法では、耐火物レンガを破砕したり削ったりする必要がないので、破砕の手間が省ける、耐火物レンガ1と剥離したスラグ2との篩分けが容易である、更に、篩分けの際の耐火物レンガ1の歩留まりを確保できる、等の利点を有する。具体的に、本実施形態の処理方法によれば、耐火物レンガの歩留まり90%以上を達成することが可能である。
【実施例0030】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0031】
以下では、凍結及び解凍の処理時間(繰り返し回数)、並びに、凍結温度を変更して、耐火物レンガからの表面付着スラグの剥離能力の比較を行った。
【0032】
(1)凍結及び解凍の処理時間(繰り返し回数)の評価
スラグ付き耐火物レンガ(スラグ含有率:約16質量%)を準備し、これを水に10秒程度浸漬させた。次いで、凍結(凍結温度:-20℃、凍結時間20分間)及び解凍(自然解凍、解凍時間:10分間)の組み合わせを1セット(計30分間)として、0セット(凍結を実施せず)~14セット(計7時間)の間で1セットずつ変えて、凍結及び解凍(の繰り返し)を行った(全15例)。
各例の凍結及び解凍(の繰り返し)の後の耐火物レンガについて、表面に残存するスラグの圧壊強度(MPa)を、リバウンドハンマーにより測定した。また、各例の凍結及び解凍(の繰り返し)の後の耐火物レンガについて、スラグ含有率(質量%)を、リバウンドハンマーにより測定した。これらの結果をプロットしたグラフを、
図3に示す。なお、いずれの例においても、耐火物レンガの歩留まりはほぼ100%であった。
【0033】
図3より、凍結及び解凍の繰り返し回数が多いほど、表面スラグの強度は低下すること、また、凍結及び解凍の繰り返しを十分に行うことにより、表面付着スラグは凍結剥離を起こし、最終的に耐火物レンガから全面的に剥離できることが分かる。
【0034】
(2)凍結温度の評価
スラグ付き耐火物レンガ(スラグ含有率:約16質量%)を準備し、これを水に10秒程度浸漬させた。次いで、凍結の温度を-5℃、-10℃、-15℃、-20℃、-25℃、-30℃で変えて、凍結(凍結時間20分間)及び解凍(自然解凍、解凍時間:10分間)の組み合わせを1セット(計30分間)として、最大で20セット(計10時間)の凍結及び解凍を行った(全6例)。
各例において、耐火物レンガのスラグ含有率が2.7質量%以下(特定のリサイクル先の要求に基づいて設定された目標値)となった時間を、凍結剥離完了とした。この時間を、表1に示す。なお、いずれの例においても、耐火物レンガの歩留まりはほぼ100%であった。
【0035】
【0036】
表1より、凍結の温度が-25℃である場合に、最も短時間で耐火物レンガのスラグ含有率を目標値まで低減できたことが分かる。なお、凍結の温度が-30℃である場合には、凍結剥離完了時間が少し延びたが、これは、温度の下げ過ぎにより急速冷凍が起こり、水の体積膨張が進行し難くなったためであると考えられる。
【0037】
以上より、本発明の耐火物レンガの処理方法によれば、当該耐火物レンガの歩留まりを確保しつつ、耐火物レンガの表面に付着したスラグを効果的に分離することができる。特に、本発明によれば、従来の手法では達成できなかった、耐火物レンガに残存するスラグ含有率2.7質量%以下、耐火物レンガの歩留まり90%以上、を達成できる見込みが得られた。