(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024163795
(43)【公開日】2024-11-22
(54)【発明の名称】ボールバランサ
(51)【国際特許分類】
F16F 15/32 20060101AFI20241115BHJP
F16F 15/18 20060101ALI20241115BHJP
【FI】
F16F15/32 K
F16F15/18 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023079683
(22)【出願日】2023-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】部矢 明
(72)【発明者】
【氏名】井上 剛志
(72)【発明者】
【氏名】福田 駿也
(57)【要約】
【課題】静かで安全に自励振動を抑制できるボールバランサを提供する。
【解決手段】ボールバランサは、環状の通路12を有するボディと、通路12内に移動可能に収容されるボール14と、を備える。ボールバランサは、ボールの移動に伴ってボールに、磁束密度変化に基づく磁気減衰力が作用するように構成される。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状の通路を有するボディと、
前記通路内に移動可能に収容されるボールと、
を備え、
前記ボールの移動に伴って前記ボールに、磁束密度変化に基づく磁気減衰力が作用するように構成される、ボールバランサ。
【請求項2】
前記ボールは、導電部材であり、
前記ボディは、前記通路内に周方向の磁束密度変化を生じさせる磁束密度変化部を含む、請求項1に記載のボールバランサ。
【請求項3】
前記磁束密度変化部は、
前記通路に沿って配置された環状の磁石であって、その軸方向に着磁された磁石と、
前記磁石と前記通路との間に、通路に沿って周方向に間隔をあけて配置された磁性体の複数のティースを含む、請求項2に記載のボールバランサ。
【請求項4】
前記磁束密度変化部は、前記磁石と前記複数のティースとの間に、磁性体の環状部をさらに含み、
前記複数のティースは、前記環状部から前記通路に向かって突出するように前記環状部に接続されている、請求項3に記載のボールバランサ。
【請求項5】
前記複数のティースの周方向における長さと、前記複数のティースの間の複数の隙間の周方向における長さが同じである、請求項3に記載のボールバランサ。
【請求項6】
前記複数のティースおよび前記複数の隙間の周方向における長さは、前記ボールの半径の0.75倍以上、1.25倍以下である、請求項5に記載のボールバランサ。
【請求項7】
前記ボールは、磁石を含み、
前記ボディは、前記通路を画成する導電部材を含む、
請求項1に記載のボールバランサ。
【請求項8】
前記導電部材の厚みは、前記ボールの半径以上である、
請求項7に記載のボールバランサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ボールバランサに関する。
【背景技術】
【0002】
自動的に回転体のバランスをとるボールバランサが知られている(例えば特許文献1)。ボールバランサは、遠心分離機、洗濯機、光ディスク装置などの様々な回転機械に用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ボールバランサは、ボールの回転運動を減衰させないと危険速度付近で自励振動が発生するという欠点がある。自励振動を抑制するために様々な対策が講じられているが、静かで安全な振動抑制方法は確立されていない。例えば、仕切り壁を設けてボールの回転範囲を制限する方法や、ボールの減衰剤としてオイルを充填する方法が提案されているが、仕切り壁とボールの接触による騒音や、オイル漏れのリスクが問題になっている。
【0005】
本開示は、このような課題に鑑みてなされ、その目的は、静かで安全に自励振動を抑制できるボールバランサを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示のある態様のボールバランサは、環状の通路を有する本体部と、通路内に移動可能に収容されるボールと、を備える。ボールの移動に伴ってボールに、磁束密度変化に基づく磁気減衰力が作用するように構成される。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、静かで安全に自励振動を抑制できるボールバランサを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1の実施の形態のボールバランサの斜視断面図である。
【
図2】
図1のボールバランサの環状の通路とその周辺を示す分解斜視図である。
【
図3】
図1の磁束密度変化部とその周辺を展開した展開図である。
【
図5】振動の時間履歴より得られた減衰係数を示す図である。
【
図6】ボールバランサの運動方程式の解析結果を示す図である。
【
図7】第1の変形例の磁束密度変化部とその周辺を示す展開図である。
【
図8】第2の変形例の磁束密度変化部とその周辺を示す展開図である。
【
図9】第3の変形例の磁束密度変化部とその周辺を示す展開図である。
【
図10】第4の変形例の磁束密度変化部とその周辺を示す展開図である。
【
図11】第5の変形例の磁束密度変化部とその周辺を示す展開図である。
【
図12】第2の実施の形態のボールバランサのボディの通路とその周辺を示す展開図である。
【
図13】振動の時間履歴(シミュレーション結果)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(第1の実施の形態)
図1は、第1の実施の形態のボールバランサ1の斜視断面図である。
図1は、ボールバランサ1を、その回転中心である回転軸Rを含む平面で切断した斜視断面図である。
図2は、
図1のボールバランサ1の環状の通路12とその周辺を示す分解斜視図である。ボールバランサ1は、回転機械における回転体とともに回転して、回転体のバランスをとる装置である。ボールバランサ1は、遠心分離機、洗濯機、光ディスク装置をはじめとする様々な回転機械に利用できる。
【0010】
以下、ボールバランサ1の回転軸Rに平行な方向を軸方向沿った方向を「軸方向」とし、回転軸Rを中心とする円の円周方向を「周方向」とする。また、便宜的に、軸方向の一方側(
図1、2において上側)を上側とし、他方側(
図1、2において下側)を下側とする。これらの表記は、ボールバランサ1が使用される姿勢を制限するものではなく、ボールバランサ1は任意の姿勢で使用されうる。
【0011】
ボールバランサ1は、環状の通路12を有するボディ10と、通路12内に移動可能に収容される少なくとも1つ(典型的には複数)のボール14と、を備える。
【0012】
ボディ10は、上面部材38と、下面部材40と、内周部材20と、外周部材22と、上カバー24と、下カバー26と、磁束密度変化部28と、を含む。
【0013】
上面部材38は、通路12の上側の内壁面である上側内壁面12aを画成する環状かつ板状の部材である。上面部材38は、後述する上側ヨーク34の複数のティース44の下面に固定される。下面部材40は、通路12の下側の内壁面である下側内壁面12bを画成する環状かつ板状の部材である。下面部材40は、後述する下側ヨーク36の複数のティース50の上面に固定される。上面部材38および下面部材40は、非磁性体であり、例えばステンレスで形成される。
【0014】
内周部材20は、通路12の内側(中心軸Rに近い側)の内壁面である内側内壁面12cを画成する円柱状あるいは円筒状の部材である。外周部材22は、通路12の外側(中心軸Rから遠い側)の内壁面である外側内壁面12dを画成する筒状の部材である。外周部材22は、内周部材20、上カバー24、下カバー26および磁束密度変化部28を環囲する。内周部材20および外周部材22は、非磁性体であり、例えばステンレスで形成される。
【0015】
上カバー24は、ボディ10の上側を塞ぐ円板状の部材である。上カバー24は、内周部材20に固定される。下カバー26は、ボディ10の下側を塞ぐ円板状の部材である。下カバー26は、内周部材20に固定される。上カバー24および下カバー26は、所定の磁性材料により形成される磁性体である。上カバー24および下カバー26は、好ましくは、透磁率の高い材料、すなわち軟磁性材料により形成される軟磁性体である。例えば、上カバー24および下カバー26は、電磁軟鉄であってもよい。
【0016】
内周部材20、上カバー24、下カバー26には、それらの中央を上下に貫通する挿通穴20a、24a、26aが形成されている。図示しない回転機械の回転軸がこれらの挿通穴20a、24a、26aされ、内周部材20に固定される。これにより、内周部材20ひいてはボールバランサ1は、回転機械の回転軸とともに回転する。
【0017】
磁束密度変化部28は、通路12内に周方向の磁束密度変化を生じさせる。磁束密度変化部28は、上側磁石30と、下側磁石32と、上側ヨーク34と、下側ヨーク36と、を含む。
【0018】
磁石30,32は、環状かつ板状の永久磁石である。磁石30,32は、その軸方向に着磁されている。すなわち、磁石30,32は、軸方向における両端が互いに異なる磁極となるように着磁されている。詳しくは、磁石30,32は、一方の磁極面であるN極が上側に位置し、他方の磁極面であるS極が下側に位置する。なお、磁石30,32のN極とS極とが逆であってもよい。
【0019】
磁石30,32は、通路12に沿って存在する。上側磁石30は、上面部材38ひいては通路12より上側に配置され、上カバー24の下面に固定される。下側磁石32は、下面部材40ひいては通路12より下側に配置され、下カバー26の上面に固定される。
【0020】
ヨーク34,36は、環状の磁性体である。ヨーク34,36は、好ましくは、軟磁性体である。例えば、ヨーク34,36は、電磁軟鉄であってもよい。
【0021】
上側ヨーク34は、上面部材38ひいては通路12と、上側磁石30との間に配置される。上側ヨーク34は、環状かつ板状の環状部42と、環状部42の下面から下側に突出する複数のティース44と、を含む。環状部42は、通路12に沿って延在する。環状部42は、例えば接着により、上側磁石30の下面に固定される。複数のティース44は、周方向に沿った長さが互いに同じであり、隙間46を挟んで周方向に等間隔に配置される。
【0022】
下側ヨーク36は、下面部材40ひいては通路12と、下側磁石32との間に配置される。下側ヨーク36は、環状かつ板状の環状部48と、環状部48の上面から上側に突出する複数のティース50と、を含む。環状部48は、通路12に沿って延在する。環状部48は、例えば接着により、下側磁石32の上面に固定される。複数のティース50は、周方向に沿った長さが互いに同じであり、隙間52を挟んで周方向に等間隔に配置される。なお、下側ヨーク36は、上側ヨーク34を上下逆さまにした形状を有する。つまり、下側ヨーク36の環状部48、複数のティース50はそれぞれ、複数のティース50が環状部48の上面から上側に突出することを除いて、上側ヨーク34の環状部42、複数のティース44と同様に構成される。
【0023】
上側ヨーク34および下側ヨーク36は、ティース44とティース50とが軸方向で対向し、隙間46と隙間52とが軸方向で対向するように(ティース44,50と隙間46,52とが軸方向で対向しないように)配置される。
【0024】
複数のティース44,50のそれぞれの周方向に沿った長さと、複数の隙間(溝)46,52のそれぞれの周方向に沿った長さは、その限りでないが、同じとする。
【0025】
ヨーク34,36は、例えば切削により、環状の磁性体に溝すなわち隙間46,52を掘ることで形成されてもよい。この場合、ヨーク34,36を比較的容易に製造できる。
【0026】
なお、ヨーク34,36が環状部42,48を備えなくてもよい。この場合、複数のティース44,50が磁石30,32に直接に固定される。ただし、ヨーク34,36が環状部42,48を備えた方が、部品点数が少なくなる。
【0027】
また、ボディ10が上面部材38および下面部材40を備えない構成も考えられる。この場合、上側ヨーク34の複数のティース44の下面が通路12の上側内壁面12aを画成し、下側ヨーク36の複数のティース50の上面が通路12の下側内壁面12bを画成する。この場合、隙間46,52は、ボールが隙間46,52に入り込まない程度の長さに形成されてもよい。すなわち、隙間46,52の周方向に沿った長さは、ボール14の直径よりも短くても、例えばボール14の直径の0.8倍以下であってもよい。
【0028】
ボール14は、通路12内に、周方向に移動可能に収容される。ボール14は、導電部材である。ボール14は、好ましくは非磁性体であり、例えばアルミニウムで形成される。ボール14が非磁性体である場合、ボール14と磁石30,32との間で磁気吸引力が生じるのを避けられる。
【0029】
以上がボールバランサ1の基本構成である。続いて、ボール14に磁気減衰力が作用するメカニズムについて説明する。
【0030】
図3は、磁束密度変化部28とその周辺を示す展開図である。通路12に沿って周方向Dに、ティース44,50が存在する領域R
1と、ティース44,50が存在しない(隙間46,52が存在する)領域R
2とが交互に並んでいる。
【0031】
ここで、領域R1の非磁性体層の厚みt1は、領域R2における非磁性体層の厚みt2に比べ、磁性体であるティース44,50が存在する分だけ薄くなっている。したがって、下側磁石32のN極から出で上側磁石30のS極に入る磁束は、領域R2よりも領域R1を流れやすい。そのため、通路12内には、周方向に、磁束密度の高い領域R1と磁束密度が低い領域R2とが交互に発生する。つまり、通路12内には、周方向の磁束密度変化が生じている。なお、ティース44,50の周方向に沿った長さと、隙間46,52の周方向に沿った長さが同じであることにより、正弦波に近い磁束密度変化を生じさせることができる。
【0032】
ボール14が通路12内を周方向に移動すると、すなわち領域R1、領域R2、領域R1、領域R2、・・・と移動すると、ボール14の表面の磁束密度が変化する。ボール14の表面の磁束密度が変化すると、ボール14に渦電流が発生し、磁束密度の変化を打ち消す方向に新たな磁束が発生する。この渦電流と、新たに発生した磁束により、ボール14の進行方向とは逆方向の磁気的減衰力がボール14に作用する。
【0033】
ボールバランサは、理論上、ボールがアンバランスを打ち消す位置に移動することで、危険速度の高速側で自動で回転機械のバランスが達成される。しかしながら、実際には、共振点を越えたすぐの高速側ではボールが通路内を移動し、その結果、自励振動、すなわち変動する振幅をもつ大きなふれまわり運動が発生する。本実施の形態のボールバランサ1では、共振点を越えたすぐの高速側でボール14が通路内を移動すると、ボール14に磁気的減衰力が作用する。これにより、ボール14の移動、ひいては自励振動が抑えられる。
【0034】
続いて、本発明者は、ボール14に磁気的減衰力が作用することを確かめるためのシミュレーションを行った。詳しくは、ボール14に仮想的にバネ性を持たせ、ボール14に所定の初速を与えたときのボール14の振動をシミュレーションした。ボール14の質量は0.001kgとした。バネ定数は、固有振動数が10Hzとなるように、3.975N/mとした。ボール14に与える初速は5m/sとした。
【0035】
図4は、振動の時間履歴(シミュレーション結果)を示す図である。
図4において、横軸は時間である。縦軸は周方向におけるボール14の位置である。縦軸は振動の振幅と捉えることもできる。グラフ60,62,64はそれぞれ、モデルA,B,Cについての振動の時間履歴を示す。モデルA,B,Cは、ティース44,50および隙間46,52の周方向に沿った長さが互いに異なるボールバランサ1である。当該長さが、モデルAはボール14の直径の2.5倍であり、モデルBはボール14の直径の1.25倍であり、モデルCはボール14の直径の0.625倍である。
図4より、いずれのモデルでもボール14の振動が減衰していること、すなわちボール14に減衰力が作用することが分かる。
【0036】
図5は、振動の時間履歴より得られた減衰係数を示す図である。
図5において、縦軸は減衰係数である。横軸は周方向における分割数であり、n(nは自然数)分割はnセットのティース44,50および隙間46,52を備えることを意味する。
図5には、分割数が12(モデルA)、15、18、21、24(モデルB)、30、36、42、48(モデルC)の9つのモデルについての減衰係数を示す。各分割数において、ボール14の直径に対するティース44,50および隙間46,52の周方向に沿った長さの割合は、(30/n)倍である。
【0037】
グラフ66は、多項式近似によって求めた回帰曲線を示す。
図5より、減衰係数は分割数が24以上、40以下の範囲で比較的大きく、分割数が30で最大になることがわかる。言い換えると、減衰係数は、ティース44,50および隙間46,52の周方向に沿った長さがボール14の直径の0.75倍以上、1.25倍以下の範囲で比較的大きく、1倍で最大になることが分かる。なお、ティース44,50および隙間46,52の周方向に沿った長さが短い場合に減衰係数が小さいのは、ボール14が周方向に移動したときの磁束密度の変化が小さいためであり、長い場合に減衰係数が小さいのは、ボール14が周方向に移動したときの磁束密度の変化の頻度が少ないためである。
【0038】
本発明者はさらに、
図5において得られた最大の減衰係数をボールバランサ1の運動方程式に導入し、その運動方程式を解くことにより、ボールバランサ1の振動を解析した。
【0039】
図6は、ボールバランサの運動方程式の解析結果を示す図である。
図6において、横軸は回転数であり、縦軸は振幅である。グラフ68は、本実施の形態のボールバランサ1の解析結果であり、グラフ70は、比較例のボールバランスの解析結果である。比較例のボールバランサは、ボールに磁気的減衰力が与えられないボールバランサのである。
図6より、比較例では、危険速度(600rpm)より高い回転数の範囲で自励振動が発生していることがわかる。また、本実施の形態では、危険速度より高い回転数の範囲で自励振動が抑制されている。
【0040】
以上説明したように、本実施の形態によれば、ボール14の移動に伴ってボール14に磁気的減衰力が作用するため、自励振動の発生を抑えることができる。
【0041】
続いて、第1の実施の形態に関連する変形例を説明する。
【0042】
磁束密度変化部28は、通路12内に周方向の磁束密度変化を生じさせるものであればよく、第1の実施の形態の構成に限定されない。以下、磁束密度変化部28の変形例を説明する。
【0043】
図7は、第1の変形例の磁束密度変化部28とその周辺を示す展開図である。本変形例の磁束密度変化部28は、上側磁石30と、下側磁石32と、を含む。上側磁石30は、ハルバッハ配列に配置された複数の磁石30aを含む。下側磁石32は、ハルバッハ配列に配置された複数の磁石32aを含む。
【0044】
図8は、第2の変形例の磁束密度変化部28とその周辺を示す展開図である。本変形例の磁束密度変化部28は、上側磁石30と、下側磁石32と、を含む。上側磁石30は、周方向に並ぶ複数の磁石30aを含む。複数の磁石30aのそれぞれは、軸方向に着磁されており、特に、隣り合う磁石30aとは磁極の向きが異なるように着磁されている。下側磁石32は、周方向に並ぶ複数の磁石32aを含む。複数の磁石32aのそれぞれは、軸方向に着磁されており、特に、隣り合う磁石32aとは磁極の向きが異なるように着磁されている。
【0045】
図9は、第3の変形例の磁束密度変化部28とその周辺を示す展開図である。本変形例の磁束密度変化部28は、複数の上側磁石30と、複数の上側ヨーク34と、複数の下側磁石32と、複数の下側ヨーク36と、を含む。上側磁石30と上側ヨーク34は、周方向に交互に並んでいる。下側磁石32と下側ヨーク36は、周方向に交互に並んでいる。上側磁石30と下側磁石32が軸方向に対向し、上側ヨーク34と下側ヨーク36が軸方向に対向している。複数の上側磁石30のそれぞれは、周方向に着磁されており、特に、上側ヨーク34を挟んで隣り合う上側磁石30とは磁極の向きが異なるように着磁されている。複数の下側磁石32のそれぞれは、周方向に着磁されており、特に、下側ヨーク36を挟んで隣り合う下側磁石32とは磁極の向きが異なるように着磁されている。また、軸方向に対向する上側磁石30と下側磁石32とは着磁の向きが互いに異なっている。ヨーク34,36は、磁性体であり、好ましく軟磁性体であり、例えば電磁軟鉄であってもよい。
【0046】
図10は、第4の変形例の磁束密度変化部28とその周辺を示す展開図である。本変形例の磁束密度変化部28は、複数の上側磁石30と、複数の下側磁石32と、を含む。複数の上側磁石30は、例えば等間隔に、周方向に間隔を開けて配置される。複数の上側磁石30の間には、樹脂などの非磁性体が配置されてもよい。複数の下側磁石32は、例えば等間隔に、周方向に間隔を開けて配置される。複数の下側磁石32の間には、樹脂などの非磁性体が配置されてもよい。上側磁石30および下側磁石32は、図示の例では、いずれも上側の磁極面がN極で下側の磁極面がS極である。上側磁石30および下側磁石32は、N極とS極とが逆であってもよい。また、上側磁石30と下側磁石32とは、図示の例とは異なり磁極の向きが互いに異なっていてもよい。例えば、上側磁石30も下側磁石32も通路12側の磁極面がN極であってもよい。
【0047】
図11は、第5の変形例の磁束密度変化部28とその周辺を示す展開図である。本変形例の磁束密度変化部28は、第4の変形例をさらに変形させたものである。第4の変形例との相違点を中心に説明する。本変形例では、上側磁石30と下側磁石32とは、上下方向で対向しないように、周方向の位置が互いにずれている。
【0048】
上述の変形例の磁束密度変化部28は、通路12内に周方向の磁束密度変化を生じさせる。
【0049】
(第2の実施の形態)
図12は、第2の実施の形態のボールバランサ1の通路12とその周辺を示す展開図である。以下、第1の実施の形態との相違点を中心に説明する。
【0050】
本実施の形態のボールバランサ1は、第1の実施の形態とは異なり、磁束密度変化部28を備えていない。
【0051】
ボール14は、球状の磁石14aと、磁石14aをコーティングする球殻14bと、を含む。球殻14bは、非磁性体であり、例えばステンレスで形成される。
図12は、或るタイミングの磁石14aを示しており、磁石14aの磁極の向きは、ボール14が自転すれば、当然、変化する。
【0052】
上面部材38および下面部材40は、導電部材である。上面部材38および下面部材40は、好ましくは非磁性体であり、例えばアルミニウムで形成される。上面部材38および下面部材40が非磁性体である場合、上面部材38および下面部材40とボール14との間で磁気吸引力が生じるのを避けられる。
【0053】
ボール14が通路12内を周方向Dに移動すると、上面部材38および下面部材40の磁束密度が変化する。上面部材38および下面部材40の磁束密度が変化すると、上面部材38および下面部材40に渦電流が発生し、磁束密度の変化を打ち消す方向に新たな磁束が発生する。この渦電流と、新たに発生した磁束により、ボール14の進行方向とは逆方向の磁気的減衰力がボール14に作用する。
【0054】
上面部材38および下面部材40は、例えば、ボール14の半径以上の厚みであってもよい。この場合、ボール14が移動したときに、より確実に、上面部材38および下面部材40の磁束密度が変化する。
【0055】
続いて、本発明者は、本実施の形態のボールバランサ1においてボール14に磁気的減衰力が作用することを確かめるためのシミュレーションを行った。詳しくは、第1の実施の形態と同様に、ボール14に仮想的にバネ性を持たせ、ボール14に所定の初速を与えたときのボール14の振動をシミュレーションした。ボール14の質量は0.005kgとした。バネ定数は、固有振動数が10Hzとなるように、19.74N/mとした。ボール14に与える初速は5m/sとした。また、ボール14は自転せず、磁石14aのN極は常に水平方向を向いているものとした。ここで、磁石14aのN極が水平方向を向いた姿勢をとるときに上面部材38および下面部材40を貫く磁束密度量は、N極が上下方向を向いた姿勢をとるときやN極が斜め上あるいは斜め下を向いた姿勢をとるときに上面部材38および下面部材40を貫く磁束密度量よりも小さくなる。つまり、ボール14が磁気減衰力を最も得られにくい姿勢を常にとるものとした。
【0056】
図13は、振動の時間履歴(シミュレーション結果)を示す図である。
図13より、ボール14が磁気減衰力を最も得られにくい姿勢を常にとるものとしたにもかかわらず、ボール14の振動が減衰していること、すなわちボール14に減衰力が作用することが分かる。なお、減衰係数は0.60Ns/mであった。
【0057】
本実施の形態によれば、ボール14の移動に伴ってボール14に磁気的減衰力が作用するため、自励振動の発生を抑えることができる。
【0058】
以上、本開示を実施の形態をもとに説明した。これらの実施の形態は例示であり、その各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本開示の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0059】
(本開示の各態様)本開示のある態様のボールバランサは、環状の通路を有するボディと、通路内に移動可能に収容されるボールと、を備え、ボールの移動に伴ってボールに、磁束密度変化に基づく磁気減衰力が作用するように構成される。
【0060】
ある態様では、ボールは、導電部材であり、ボディは、通路内に周方向の磁束密度変化を生じさせる磁束密度変化部を含む。
【0061】
ある態様では、磁束密度変化部は、通路に沿って配置された環状の磁石であって、その軸方向に着磁された磁石と、磁石と通路との間に、通路に沿って周方向に間隔をあけて配置された磁性体の複数のティースを含む。
【0062】
ある態様では、磁束密度変化部は、磁石と複数のティースとの間に、磁性体の環状部をさらに含み、複数のティースは、環状部から通路に向かって突出するように環状部に接続されている。
【0063】
ある態様では、複数のティースの周方向における長さと、複数のティースの間の複数の空隙の周方向における長さが同じである。
【0064】
ある態様では、複数のティースおよび複数の空隙の周方向における長さは、ボールの半径の0.75倍以上、1.25倍以下である。
【0065】
ある態様では、ボールは、磁石を含み、ボディは、通路を画成する導電部材を含む。
【0066】
ある態様では、導電部材の厚みは、ボールの半径以上である。
【符号の説明】
【0067】
1 ボールバランサ、 10 ボディ、 12 通路、 14 ボール、 28 磁束密度変化部、 30 上側磁石、 32 下側磁石、 34 上側ヨーク、 36 下側ヨーク、 42,48 環状部、 44,50 ティース、 46,52 隙間。