IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人名古屋大学の特許一覧

<>
  • 特開-アクチュエータ 図1
  • 特開-アクチュエータ 図2
  • 特開-アクチュエータ 図3
  • 特開-アクチュエータ 図4
  • 特開-アクチュエータ 図5
  • 特開-アクチュエータ 図6
  • 特開-アクチュエータ 図7
  • 特開-アクチュエータ 図8
  • 特開-アクチュエータ 図9
  • 特開-アクチュエータ 図10
  • 特開-アクチュエータ 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024163796
(43)【公開日】2024-11-22
(54)【発明の名称】アクチュエータ
(51)【国際特許分類】
   H02K 33/02 20060101AFI20241115BHJP
   G06F 3/01 20060101ALI20241115BHJP
【FI】
H02K33/02 A
G06F3/01 560
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023079684
(22)【出願日】2023-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】部矢 明
(72)【発明者】
【氏名】井上 剛志
(72)【発明者】
【氏名】檀 佑次朗
【テーマコード(参考)】
5E555
5H633
【Fターム(参考)】
5E555AA08
5E555BA38
5E555BB38
5E555DA24
5E555FA00
5H633BB07
5H633BB16
5H633BB20
5H633GG02
5H633GG08
5H633GG13
5H633HH17
5H633HH24
5H633JA02
(57)【要約】
【課題】磁石フリーの3自由度のアクチュエータを提供する。
【解決手段】固定子20と、固定子20と第1方向隙間を介して第1方向に対向する可動子22と、固定子20および可動子22のいずれかに保持される複数のコイル24と、固定子20および可動子22の一方に接続され、固定子20および可動子22の他方と、第2方向隙間を介して、第1方向と異なる第2方向に対向する対向部26と、複数のコイル24のそれぞれに供給する電流を制御し、固定子20と可動子22とを通る磁路であって、固定子20と可動子22との間に吸引力を発生させる磁路を形成する制御装置12と、を備える。制御装置12は、第1方向隙間を経由し、第2方向隙間を経由しない第1磁路と、第2方向隙間を経由する第2磁路と、を形成可能である。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定子と、前記固定子と第1方向隙間を介して第1方向に対向する可動子と、前記固定子および前記可動子のいずれかに保持されるn個(n≧2)のコイルと、前記固定子および前記可動子の一方に接続され、前記固定子および前記可動子の他方と、第2方向隙間を介して、前記第1方向と異なる第2方向に対向する対向部と、を含むアクチュエータ本体と、
前記n個のコイルのそれぞれに供給する電流を制御し、前記固定子と前記可動子とを通る磁路であって、前記固定子と前記可動子との間に吸引力を発生させる磁路を形成する制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、前記第1方向隙間を経由し、前記第2方向隙間を経由しない第1磁路と、前記第2方向隙間を経由する第2磁路と、を形成可能であるアクチュエータ装置。
【請求項2】
前記第1方向隙間の幅は、前記第2方向隙間の幅よりも短い、請求項1に記載のアクチュエータ装置。
【請求項3】
前記アクチュエータ本体は、n回回転対称に形成される、請求項1に記載のアクチュエータ装置。
【請求項4】
前記固定子および前記可動子は筒状である請求項1に記載のアクチュエータ装置。
【請求項5】
前記対向部は、円板状であり、前記固定子および前記可動子の前記一方の端部に接続される、請求項4に記載のアクチュエータ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
VRやメタバースへの没入感を高める技術として、ハプティクスと呼ばれる力覚提示技術が注目を集めている。非特許文献1は、力覚提示のためのアクチュエータ装置を開示する。このアクチュエータ装置は、3自由度のアクチュエータ装置であり、単一の装置で3自由度の駆動を実現できる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Ryosuke Nakamura, Akira Heya, Katsuhiro Hirata "Performance Analysis of a Compact Three-Degree-of-Freedom Oscillatory Actuator for Haptic Device" IEEJ TRANSACTIONS ON ELECTRICAL AND ELECTRONIC ENGINEERING, vol.17, p.881-889, 2022.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、磁石フリーの3自由度のアクチュエータに想到した。
【0005】
本開示はこうした状況に鑑みてなされ、その目的は、磁石フリーの3自由度のアクチュエータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示のある態様のアクチュエータは、固定子と、固定子と第1方向隙間を介して第1方向に対向する可動子と、固定子および可動子のいずれかに保持される複数のコイルと、固定子および可動子の一方に接続され、固定子および可動子の他方と、第2方向隙間を介して、第1方向と異なる第2方向に対向する対向部と、複数のコイルのそれぞれに供給する電流を制御し、固定子と可動子とを通る磁路であって、固定子と可動子との間に吸引力を発生させる磁路を形成する制御装置と、を備える。制御装置は、第1方向隙間を経由し、第2方向隙間を経由しない第1磁路と、第2方向隙間を経由する第2磁路と、を形成可能である。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、磁石フリーの3自由度のアクチュエータを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施の形態のアクチュエータの構成を示す図である。
図2図1のアクチュエータ本体の斜視図である。
図3図1のアクチュエータ本体の側面図である。
図4図3のA矢視図である。
図5図4のB-B線断面図である。
図6図3のA-A線断面図である。
図7図7(a)、(b)は、図1のアクチュエータ装置の動作原理を説明する図である。
図8図8(a)、(b)は、図1のアクチュエータ装置の動作原理を説明する図である。
図9】変形例に係るアクチュエータ本体を示す断面図である。
図10】変形例に係るアクチュエータ本体を示す断面図である。
図11図11(a)~(c)はそれぞれ、変形例に係るアクチュエータ本体10を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は、実施の形態のアクチュエータ装置1の構成を示す図である。アクチュエータ装置1は、アクチュエータ本体10と、制御装置12と、を備える。本実施の形態では、アクチュエータ装置1を力覚提示装置として機能させる。アクチュエータ本体10は、指輪型に構成されており、指にはめて使用される。
【0010】
図2~6は、アクチュエータ本体10を示す図である。図2は、アクチュエータ本体10の斜視図である。図2では、可動子22を半透明で示す。図3は、アクチュエータ本体10の側面図である。図4は、図3のA矢視図である。図4は、アクチュエータ本体10の正面図ともいえる。図5は、図4のC-C線断面図である。図6は、図3のB-B線断面図である。図5、6では、ばね26,28の表示を省略している。
【0011】
以下、アクチュエータ本体10の中心軸Oに平行な方向を「軸方向」とし、中心軸Oを中心とする円の半径方向を「径方向」とし、中心軸Oを中心とする円の円周方向を「周方向」とする。また、便宜的に、軸方向の一方側(図3において右側)を右側とし、他方側(図3において左側)を左側とする。これらの表記は、アクチュエータ本体10が使用される姿勢を制限するものではなく、アクチュエータ本体10は任意の姿勢で使用されうる。
【0012】
アクチュエータ本体10は、固定子20と、可動子22と、第1コイル24a、第2コイル24bおよび第3コイル24c(以下、特に区別しない場合には「コイル24」という)と、対向部26と、3つの径方向支持ばね27と、3つの軸方向支持ばね28と、を備える。
【0013】
固定子20は、両端が開口した筒部30と、それぞれ筒部30の外周面30bから径方向外向きに突出する第1突起34a、第2突起34bおよび第3突起34c(以下、特に区別しない場合には「突起34」という)と、を含む。固定子20、すなわち筒部30および3つの突起34は、所定の磁性材料により形成される磁性体である。固定子20は、好ましくは、透磁率の高い材料、すなわち軟磁性材料により形成される軟磁性体である。
【0014】
筒部30は、円筒状に形成される。変形例として、筒部30は、筒部30を径方向に貫通する切り欠きや穴を有していてもよい。筒部30は、磁路を避けた位置、例えば後述の磁路Mab,Mac,Maz,Mbz,Mczを避けた位置に、切り欠きや穴を有していてもよい。
【0015】
3つの突起34は、円柱状に形成される。なお、3つの突起34は、四角柱状などの角柱状や、その他の形状に形成されてもよい。第1突起34a、第2突起34b、第3突起34cはそれぞれ、第1コイル24a、第2コイル24b、第3コイル24cを保持する。3つの突起34ひいては3つのコイル24は、互いに異なる周方向位置に配置される。言い換えると、3つの突起34ひいては3つのコイル24は、軸方向(第2方向)に並ばないように配置される。3つの突起34ひいては3つのコイル24は、特に限定されないが、互いに同じ軸方向位置に形成されてもよい。つまり、3つの突起34ひいては3つのコイル24は、同一円周上に設けられてもよい。3つの突起34ひいては3つのコイル24は、特に限定されないが、同一円周上において周方向に等間隔(すなわち120°間隔)に設けられてもよい。この場合、固定子20ひいてはアクチュエータ本体10は、中心軸Oまわりに3回回転対称の形状を有する。
【0016】
可動子22は、円筒状に形成される。可動子22は、所定の磁性材料により形成される磁性体である。可動子22は、好ましくは、透磁率の高い材料、すなわち軟磁性材料により形成される軟磁性体である。可動子22は、径方向(第1方向)隙間Gを介して、固定子20と径方向(第1方向)に対向する。なお、固定子20と可動子22とが対向する方向を、第1方向と捉えることもできる。可動子22は、径方向隙間Gを介して、3つの突起34ひいては筒部30を環囲する。可動子22は、この例では、3つのコイル24を環囲している。
【0017】
可動子22の左側の端面22aは、軸方向(第2方向)隙間Gを介して、対向部26の右側を向いた主表面26aと軸方向(第2方向)に対向する。なお、第1方向に直交する方向であって、対向部26の法線と平行な方向を、第2方向と捉えることもできる。可動子22の右側の端面22bは、図示の例のように筒部30の右側の端面30aと面一であってもよいし、筒部30の右側の端面30aよりも右側に突出していてもよい。あるいは、筒部30の右側の端面30aが可動子22の右側の端面22bよりも右側に突出していてもよい。
【0018】
変形例として、可動子22は、可動子22を径方向に貫通する切り欠きや穴を有していてもよい。可動子22は、磁路を避けた位置、例えば後述の磁路Mab,Mac,Maz,Mbz,Mczを避けた位置に、切り欠きや穴を有していてもよい。
【0019】
対向部26は、所定の磁性材料により形成される磁性体である。対向部26は、好ましくは、透磁率の高い材料、すなわち軟磁性材料により形成される軟磁性体である。対向部26は、筒部30の左端に接続される。対向部26は、円板状に形成され、筒部30から径方向外向きに張り出している。なお、対向部26は、周方向に間欠的に形成されてもよい。この場合、対向部26は、少なくとも、突起34あるいはコイル24と軸方向において対向する範囲に、間欠的に設けられてもよい。
【0020】
3つのコイル24に電流が供給されていない状態における、3つの突起34のそれぞれと可動子22との径方向隙間Gの幅は、いずれも同じであって、幅Lである(図5、6参照)。また、3つのコイル24に電流が供給されていない状態における、可動子22の左側の端面22aと対向部26の右側を向いた主表面26aとの軸方向における距離は、距離Lである(図5参照)。距離Lは、距離Lよりも短い。つまり、アクチュエータ本体10は、距離Lが距離Lよりも短くなるように形成されている。
【0021】
3つの径方向支持ばね27は、コイルばねであり、可動子22と筒部30との間に、径方向に伸縮可能に配置される。詳しくは、3つの径方向支持ばね27はそれぞれ、一端が筒部30の外周面30bに接続され、他端が可動子22の内周面22cに接続される。3つの径方向支持ばね27は、互いに同じ軸方向位置に設けられてもよい。つまり、3つの径方向支持ばね27は、同一円周上に設けられてもよい。3つの径方向支持ばね27は、同一円周上において周方向に等間隔に設けられてもよい。3つの径方向支持ばね27はそれぞれ、周方向で隣り合うコイル24とコイル24の間に設けられてもよい。3つの径方向支持ばね27を介して、筒部30は可動子22を径方向に支持する。
【0022】
3つの軸方向支持ばね28は、コイルばねであり、可動子22と筒部30との間に、軸方向に伸縮可能に配置される。詳しくは、3つの軸方向支持ばね28はそれぞれ、一端が対向部26の主表面26aに接続され、他端がばね固定部材40の対向部26と対向する対向面40aに接続される。ばね固定部材40は、可動子22の内周面22cに固定されている。ばね固定部材40は、可動子22と一体に形成されてもよい。
【0023】
制御装置12は、アクチュエータ本体10に電流を供給して固定子20に対する可動子22の移動を制御する。具体的には、制御装置12は、3つのコイル24への電流の供給を制御する。制御装置12の構成は特に限定されないが、典型的には駆動回路を含みうる。
【0024】
続いて、アクチュエータ装置1の動作原理を説明する。ここでは、筒部30および可動子22は切り欠きや穴を有しない円筒であり、3つの突起34ひいては3つのコイル24は同一円周上において周方向に等間隔(すなわち120°間隔)に設けられているものとする。
【0025】
図7(a)、(b)は、可動子22を固定子20に対して径方向に移動させる場合について説明する図である。図7(a)は図6に対応し、図7(b)は図5に対応する。
【0026】
第1コイル24aに電流を供給すると、第1コイル24aは磁束を発生し、磁路Mab,Macが形成される。磁路Mabは、第1突起34a、第1突起34aと可動子22との径方向隙間G1a、可動子22、可動子22と第2突起34bとの径方向隙間G1b、第2突起34bおよび筒部30を通る閉ループである。磁路Macは、第1突起34a、第1突起34aと可動子22との径方向隙間G1a、可動子22、可動子22と第3突起34cとの径方向隙間G1c、第3突起34cおよび筒部30を通る閉ループである。
【0027】
なお、可動子22と対向部26との間の軸方向における距離Lが突起34と可動子22との間の径方向における距離Lよりも長いため、突起34、可動子22、軸方向隙間G、対向部26および筒部30を通る磁路は形成されない。
【0028】
磁路Mabの磁束により、第1突起34aと可動子22との径方向隙間G1aに、その径方向隙間G1aを縮める方向の吸引力(リラクタンス力)fa1が生じ、第2突起34bと可動子22との径方向隙間G1bに、その径方向隙間G1bを縮める方向の吸引力fが生じる。
【0029】
磁路Macの磁束により、第1突起34aと可動子22との径方向隙間G1aに、その径方向隙間G1aを縮める方向の吸引力fa2が生じ、第3突起34cと可動子22との径方向隙間G1cに、その径方向隙間G1cを縮める方向の吸引力fが生じる。
【0030】
可動子22には、これらの4つの吸引力(fa1、fa2、f、f)の合力が働く。この合力は、第1突起34aと可動子22との径方向隙間G1aを縮める方向の力であり、したがって可動子22は径方向隙間G1aを縮める方向に移動する。第1コイル24aへの電流の供給を停止すると、可動子22に吸引力は働かなくなり、可動子22は径方向支持ばね27の復元力によって元の位置に戻る。
【0031】
なお、ここでは径方向隙間G1aを縮める方向に可動子22を移動させる場合について説明したが、3つのコイル24のそれぞれに供給する電流を制御することにより、径方向における任意の方向に可動子22を移動させることができる。
【0032】
図8(a)、(b)は、可動子22を固定子20に対して軸方向に移動させる場合について説明する図である。図8(a)は図6に対応し、図8(b)は図5に対応する。
【0033】
3つのコイル24に同じ大きさの電流を供給すると、第1コイル24a,第2コイル24b,第3コイル24cはそれぞれ磁束を発生し、磁路Maz,Mbz,Mczが形成される。磁路Mazは、第1突起34a、可動子22、軸方向隙間G、対向部26および筒部30を通る閉ループである。磁路Mbzは、第2突起34b、可動子22、軸方向隙間G、対向部26および筒部30を通る閉ループである。磁路Mczは、第3突起34c、可動子22、軸方向隙間G、対向部26および筒部30を通る閉ループである。
【0034】
なお、この例では、互いに相殺し合うため、実質的に周方向に磁束は流れない。
【0035】
磁路Mazの磁束により、第1突起34aと可動子22との径方向隙間G1aに、その径方向隙間G1aを縮める方向の吸引力fが生じ、対向部26と可動子22との軸方向隙間Gに、その軸方向隙間Gを縮める方向の吸引力fazが生じる。
【0036】
磁路Mbzの磁束により、第2突起34bと可動子22との径方向隙間G1bに、その径方向隙間G1bを縮める方向の吸引力fが生じ、対向部26と可動子22との軸方向隙間Gに、その軸方向隙間Gを縮める方向の吸引力fbz(図示せず)が生じる。
【0037】
磁路Mczの磁束により、第3突起34cと可動子22との径方向隙間G1cに、その径方向隙間G1cを縮める方向の吸引力fが生じ、対向部26と可動子22との軸方向隙間Gに、その軸方向隙間Gを縮める方向の吸引力fcz(図示せず)が生じる。
【0038】
可動子22には、これらの6つの吸引力(f、f、f、faz、fbz、fcz)の合力が働く。この合力は、可動子22と対向部26との軸方向隙間Gを縮める方向の力であり、したがって可動子22は軸方向隙間Gを縮める方向すなわち軸方向に移動する。3つのコイル24への電流の供給を停止すると、可動子22に吸引力は働かなくなり、可動子22は軸方向支持ばね28の復元力によって元の位置に戻る。
【0039】
つまり、制御装置12が3つのコイル24のそれぞれに供給する電流を制御することにより、径方向隙間Gを経由し、軸方向隙間Gを経由しない磁路が形成され、固定子20と可動子22との間に径方向の吸引力を生じ、可動子22が径方向に移動する。
【0040】
また、制御装置12が3つのコイル24のそれぞれに供給する電流を制御することにより、軸方向隙間Gを経由する磁路が形成され、固定子20と可動子22との間に軸方向の吸引力を生じ、可動子22が軸方向に移動する。
【0041】
なお、制御装置12は、3つのコイル24のそれぞれに供給する電流を制御することにより、径方向隙間Gを経由し軸方向隙間Gを経由しない磁路と、軸方向隙間Gを経由する磁路とを同時に形成することも可能である。この場合、軸方向と交差する任意の方向に可動子22を移動させることができる。
【0042】
以上がアクチュエータ装置1の構成である。続いてその動作を説明する。
【0043】
可動子22を移動させるために、コイル24に電流を供給する。コイル24に電流が供給されると、コイル24は磁束を発生し、磁路が形成される。この磁路の磁束により、固定子20と可動子22との間に吸引力(リラクタンス力)が生じ、可動子22が固定子20に対して移動する。コイル24への電流の供給を停止すると、ばねの復元力によって可動子22は元の位置に戻る。コイル24への電流の供給と、供給の停止とを繰り返すことで、可動子22を振動させることができる。詳しくは、可動子22を偏加速度振動させることで、力覚提示を実現することができる。
【0044】
続いて、第1コイル24a、第2コイル24b、第3コイル24cに印加すべき電流の計算方法について説明する。ここでは、便宜的に、アクチュエータ本体10の中心軸Oをz軸とし、中心軸Oに直交する方向をそれぞれx軸、y軸とするxyz座標系を設定する。
【0045】
第1コイル24a、第2コイル24b、第3コイル24cの印加電流と、第1コイル24a、第2コイル24b、第3コイル24cの鎖交磁束には、以下の式(1)の関係が成立する。
【数1】
【0046】
また、有限要素法を用いた解析により、周方向に等間隔(すなわち120°間隔)に第1コイル24a、第2コイル24b、第3コイル24cが設けられる場合について、第1コイル24a、第2コイル24b、第3コイル24cの鎖交磁束と、可動子22に働く力には、以下の式(2)の関係が成立する。
【数2】
【0047】
式(1)および式(2)より、第1コイル24a、第2コイル24b、第3コイルの鎖交磁束と、可動子22に働く力について、以下の式(3)の関係が得られる。
【数3】
【0048】
式(1)および式(2)を用い、さらに近似により式を簡略化することにより、第1コイル24a、第2コイル24b、第3コイル24cの印加電流は、第1コイル24a、第2コイル24b、第3コイル24cの鎖交磁束を用いて、以下の式(4)で表すことができる。
【数4】
【0049】
式(3)および式(4)より、目標とする力を可動子22に与えるために第1コイル24a、第2コイル24b、第3コイル24cに印加すべき電流を計算できる。
【0050】
なお、計算から得られる電流による力の方向を有限要素解析で測定したところ、目標とする力の方向との平均誤差は、7.43%であり、力覚提示目的としては許容範囲の結果が得られた。
【0051】
以上説明したように、本実施の形態のアクチュエータ装置1によれば、アクチュエータ本体10が磁石を備えない3自由度のアクチュエータ装置を実現できる。一般に磁石は脆いため、磁石を薄くするには限界がある。したがって、アクチュエータ本体10が磁石を含む場合、磁石の存在がアクチュエータ本体10の小型化の足かせとなる。これに対し、本実施の形態によれば、上述のように磁石を備えないため、小型化に有利である。
【0052】
また、本実施の形態によれば、アクチュエータ本体10が磁石を備えないため、その分、部品点数が少ないアクチュエータ装置1を実現でき、その製造コストを低減できる。
【0053】
また、本実施の形態によれば、アクチュエータ本体10は、3回回転対称に形成される。この場合、目標とする力を可動子22に与えるための電流の計算が、比較的容易になる。
【0054】
また、本実施の形態によれば、アクチュエータ本体10が指輪型に構成される。詳しくは、固定子20および可動子22が筒状に構成される。したがって、アクチュエータ本体10を指に装着できるため、例えばメタバースやVRへの応用に有利である。
【0055】
以上、本開示を実施の形態をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、その各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本開示の範囲にあることは当業者に理解されるところである。以下、変形例を示す。
【0056】
(第1変形例)
実施の形態では、コイル24が固定子20に保持される場合について説明したが、これには限定されず、コイル24は可動子22に保持されてもよい。例えば、可動子22の内周面22cに3つの突起34が設けられ、可動子22が3つのコイル24を保持してもよい。
【0057】
(第2変形例)
実施の形態および上述の変形例では、アクチュエータ本体10が3つのコイル24を備えたが、これには限定されず、アクチュエータ本体10は、複数、すなわちN(N≧2)個のコイルを備えていていればよい。この場合、好ましくは、アクチュエータ本体10は、N回回転対称の形状を有する。
【0058】
(第3変形例)
実施の形態および上述の変形例では、対向部26は固定子20に接続されていたが、対向部26は可動子22に接続されてもよい。図9は、変形例に係るアクチュエータ本体10を示す断面図である。図9は、図5に対応する。対向部26は、円板状に形成され、可動子22の左側の端面22aから径方向内向きに張り出している。対向部26は、周方向に間欠的に形成されてもよい。この場合、対向部26は、少なくとも、突起34あるいはコイル24と軸方向において対向する範囲に、間欠的に設けられてもよい。固定子20の筒部30の左端の端面30cは、軸方向隙間Gを介して、対向部26の右側を向いた主表面26aと軸方向に対向する。
【0059】
(第4変形例)
実施の形態および上述の変形例では、筒部30および可動子22が円筒状である場合について説明したが、これには限定されず、筒部30および可動子22は、三角筒状や六角筒状などの角筒状であってもよい。図10は、変形例に係るアクチュエータ本体10を示す断面図である。図10は、図5に対応する。筒部30および可動子22は、六角筒状に形成されている。なお、筒部30と可動子22とが異なる形状であってもよい。例えば筒部30が円筒状に形成され、可動子22が六角筒状に形成されてもよい。
【0060】
(第5変形例)
実施の形態および上述の変形例では、固定子20が筒状、言い換えると中空である場合について説明したが、これには限定されず、固定子20は、円柱状あるいは角柱状、言い換えると中実であってもよい。
【0061】
(第6変形例)
実施の形態および上述の変形例では、可動子22が筒状である場合について説明したが、これには限定されない。図11(a)~(c)はそれぞれ、変形例に係るアクチュエータ本体10を示す図である。
【0062】
図11(a)の例では、固定子20は円筒状に形成され、可動子22は、軸方向に直交する断面がC字状に形成されている。
【0063】
図11(b)の例では、固定子20は三角筒状に形成され、可動子22は、軸方向に直交する断面が逆V字状に形成されている。
【0064】
図11(c)の例では、固定子20は四角筒状に形成され、可動子22は、軸方向に直交する断面が板状に形成されている。
【0065】
図11(a)~(c)において、複数の突起34ひいては複数のコイル24は、第2方向(紙面に垂直な方向)に並ばないように配置されている。複数の突起34ひいては複数のコイル24は、第2方向の位置が互いに異なっていてもよい。
【0066】
(第7変形例)
アクチュエータ装置1は、指輪型の複数のアクチュエータ本体10と、複数のアクチュエータ本体10を制御する制御装置12と、を備えてもよい。複数のアクチュエータ本体10はそれぞれ、別々の指にはめて使用されてもよい。制御装置12が複数のアクチュエータ本体10のそれぞれを独立に制御し、複数のアクチュエータ本体10が互いに独立に3自由度に力覚提示してもよい。
【0067】
(第8変形例)
実施の形態および上述の変形例のアクチュエータ装置1の技術思想は、力覚提示装置以外の様々な装置に適用することができる。例えばアクチュエータ装置1の技術思想は、位置決めのためのアクチュエータ装置に適用されてもよく、例えば微少な位置決めを行うためのアクチュエータ装置に適用されてもよい。また例えばアクチュエータ装置1の技術思想は、振動装置として、様々な産業機器および民生機器に適用されてもよい。
【0068】
(本開示の各態様)本開示のある態様のアクチュエータ装置は、固定子と、固定子と第1方向隙間を介して第1方向に対向する可動子と、固定子および可動子のいずれかに保持されるn個(n≧2)のコイルと、固定子および可動子の一方に接続され、固定子および可動子の他方と、第2方向隙間を介して、第1方向と異なる第2方向に対向する対向部と、を含むアクチュエータ本体と、n個のコイルのそれぞれに供給する電流を制御し、固定子と可動子とを通る磁路であって、固定子と可動子との間に吸引力を発生させる磁路を形成する制御装置と、を備える。制御装置は、第1方向隙間を経由し、第2方向隙間を経由しない第1磁路と、第2方向隙間を経由する第2磁路と、を形成可能である。
【0069】
ある態様では、第1方向隙間の幅は、第2方向隙間の幅よりも短い。
【0070】
これらの態様によれば、アクチュエータ本体が磁石を備えない3自由度のアクチュエータ装置を実現できる。
【0071】
ある態様では、アクチュエータ本体は、n回回転対称に形成される。
【0072】
この態様によれば、目標とする力を可動子に与えるための電流の計算が、比較的容易になる。
【0073】
ある態様では、固定子および可動子は筒状である。
【0074】
この態様によれば、アクチュエータ本体を、指に装着可能に構成できる。
【0075】
ある態様では、対向部は、円板状であり、固定子および可動子の一方の端部に接続される。
【符号の説明】
【0076】
1 アクチュエータ装置、 10 アクチュエータ本体、 12 制御装置、 20 固定子、 22 可動子、 24 コイル、 26 対向部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11