(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024163798
(43)【公開日】2024-11-22
(54)【発明の名称】甲状腺ホルモンの分析方法、分析システム、および、検出システム
(51)【国際特許分類】
G01N 30/06 20060101AFI20241115BHJP
G01N 27/62 20210101ALI20241115BHJP
G01N 30/88 20060101ALI20241115BHJP
G01N 30/72 20060101ALI20241115BHJP
G01N 33/78 20060101ALI20241115BHJP
【FI】
G01N30/06 Z
G01N27/62 V
G01N27/62 X
G01N30/88 E
G01N30/72 C
G01N33/78
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023079688
(22)【出願日】2023-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】596175810
【氏名又は名称】公益財団法人かずさDNA研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000126676
【氏名又は名称】株式会社アデランス
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】池田 和貴
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 亨平
(72)【発明者】
【氏名】瀧田 千恵
(72)【発明者】
【氏名】太田 あつ子
【テーマコード(参考)】
2G041
2G045
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041EA04
2G041FA10
2G041HA01
2G041LA08
2G045AA25
2G045BB03
2G045CB16
2G045DA56
2G045FB06
(57)【要約】
【課題】精度よく甲状腺ホルモンを測定する技術を実現する。
【解決手段】生体試料中に含まれる甲状腺ホルモンを分析する分析方法は、前記生体試料を溶媒と混合し、0.1時間以上、12時間以下の間、20℃以上、80℃以下に温度制御して、抽出液を作製する工程と、液体クロマトグラフィにより、前記抽出液中の分析成分を分離する工程と、分離した前記分析成分を質量分析する工程とを包含する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体試料中に含まれる甲状腺ホルモンを分析する分析方法であって、
前記生体試料を溶媒と混合し、0.1時間以上、12時間以下の間、20℃以上、80℃以下に温度制御して、抽出液を作製する工程と、
液体クロマトグラフィにより、前記抽出液中の分析成分を分離する工程と、
分離した前記分析成分を質量分析する工程と
を包含する、分析方法。
【請求項2】
前記分離する工程において、前記抽出液を精製カラムに注入し、前記抽出液中の分析成分を分離する、請求項1に記載の分析方法。
【請求項3】
前記分離する工程において、精製カラム上の前記分析成分を溶出した溶出液を取得し、
前記質量分析する工程において、前記溶出液を質量分析する、請求項1または2に記載の分析方法。
【請求項4】
前記生体試料は、毛または爪である、請求項1または2に記載の分析方法。
【請求項5】
前記質量分析により得られた甲状腺ホルモンの測定値を、甲状腺疾患の指標として提示する工程をさらに包含する、請求項1または2に記載の分析方法。
【請求項6】
生体試料中に含まれる甲状腺ホルモンを分析する分析システムであって、
前記生体試料に溶媒を添加し、0.1時間以上、12時間以下の間、20℃以上、80℃以下に温度制御して作製した抽出液中の分析成分を、液体クロマトグラフィにより分離する装置、および
分離した前記分析成分を質量分析する質量分析装置
を備えた、分析システム。
【請求項7】
甲状腺疾患を検出する検出システムであって、
生体試料に溶媒を添加し、0.1時間以上、12時間以下の間、20℃以上、80℃以下に温度制御して作製した抽出液中の分析成分を、液体クロマトグラフィにより分離する装置、および
分離した前記分析成分を質量分析する質量分析装置
を備えた、検出システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、甲状腺ホルモンの分析方法、分析システム、および、検出システムに関する。
【背景技術】
【0002】
生体から採取した血液や組織等に含まれる特定の成分を、健康や病気の指標(バイオマーカー)として質量分析計(MS)により検出することで、健康状態や疾患を予想又は診断する技術が知られている。このような生体成分の中で、甲状腺から分泌される甲状腺ホルモンは、全身の新陳代謝を調節する重要な役割を有しており、バセドウ病、橋本病、甲状腺がんのような種々の疾患との関連性も知られている。そのため、甲状腺ホルモンの分析を効率よく行うことができれば有利である。
【0003】
甲状腺ホルモン分泌を分析する方法として、非特許文献1~3には、ヒトの毛髪から甲状腺ホルモン値を測定する技術が記載されている。非特許文献1~3に記載された技術においては、ヒトの毛髪から抽出した成分を液体クロマトグラフィにより分離し、分離した測定成分を質量分析計により測定する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】N.Grova et. al., Journal of Chromatography A, Volume 1612, 8 February 2020, 460648
【非特許文献2】Wei Gao et al., Psychoneuroendocrinology, Volume 106, August 2019, Pages 129-137
【非特許文献3】Feng-Jiao Peng et al., Eur J Endocrinol, 2022 May 1; 186(5):K9-K15
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1~3に記載された技術において分析に用いられている毛髪は、採取が容易であると共に、採取の際の侵襲性が低く、甲状腺ホルモンを測定するための生体試料として非常に優れている。しかしながら、毛髪中に含まれる甲状腺ホルモンは微量であることから、精度よく測定することは困難である。そのため、精度のよい甲状腺ホルモンの測定技術の開発が求められている。
【0006】
本発明の一態様は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、精度よく毛髪から甲状腺ホルモンを測定する技術を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る分析方法は、生体試料中に含まれる甲状腺ホルモンを分析する分析方法であって、前記生体試料を溶媒と混合し、0.1時間以上、12時間以下の間、20℃以上、80℃以下に温度制御して、抽出液を作製する工程と、液体クロマトグラフィにより、前記抽出液中の分析成分を分離する工程と、分離した前記分析成分を質量分析する工程とを包含する。
【0008】
本発明の一態様に係る分析システムは、生体試料中に含まれる甲状腺ホルモンを分析する分析システムであって、前記生体試料に溶媒を添加し、0.1時間以上、12時間以下の間、20℃以上、80℃以下に温度制御して作製した抽出液中の分析成分を、液体クロマトグラフィにより分離する装置、および、分離した前記分析成分を質量分析する質量分析装置を備えている。
【0009】
本発明の一態様に係る検出システムは、甲状腺疾患を検出する検出システムであって、前記生体試料に溶媒を添加し、0.1時間以上、12時間以下の間、20℃以上、80℃以下に温度制御して作製した抽出液中の分析成分を、液体クロマトグラフィにより分離する装置、および、分離した前記分析成分を質量分析する質量分析装置を備えている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、精度よく甲状腺ホルモンを測定する技術を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る分析システムの要部構成を示すブロック図である。
【
図2】実施例において、毛髪から抽出したT3およびT4の分析結果を、甲状腺疾患に罹患していない被験者と罹患していた被験者とで比較した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
〔分析方法〕
本発明の一態様に係る分析方法は、甲状腺ホルモンの分析方法であって、生体試料中に含まれる分析成分である甲状腺ホルモンを分析する分析方法である。本分析方法は、生体試料から分析成分を抽出する抽出液を作製する工程と、抽出液中の分析成分を分離する工程と、分離した分析成分を質量分析する工程とを包含する。本分析方法において分析する甲状腺ホルモンの例として、トリヨードサイロニン(T3)、リバースT3、サイロキシン(T4)等が挙げられる。なお、本分析方法において分析する甲状腺ホルモンはタンパク質に結合していないフリーの甲状腺ホルモン(FT3、FT4等)であってもよい。また、本分析方法においては、甲状腺ホルモンを構成するヨウ素を分析することで、甲状腺ホルモンを分析してもよい。
【0013】
<試料>
本分析方法の対象となる生体試料は、特に限定されないが、甲状腺ホルモンを含有する可能性のある試料であり得る。生体試料は、ヒトまたは動物から採取または調製した試料であり得る。生体試料は、毛、爪、皮膚、臓器、組織、細胞、血液、尿、髄液、糞便、および盲腸内容物からなる群より選択されるものであり得、一例として、毛または爪である。毛は、毛髪ともいい、頭髪及び体毛も含む。また、毛には、皮膚の外側の毛幹部分及び皮膚の内側の毛根部分と共に、毛嚢(又は毛包)内において毛根の周囲に存在する毛根鞘や毛母等の毛の産生に関与する部分も含まれる。
【0014】
(抽出液を作製する工程)
抽出液を作製する工程においては、生体試料を溶媒と混合して抽出液を作製する。抽出液は、溶媒抽出、固相抽出等の公知の方法により、生体試料から甲状腺ホルモンを抽出したものであり得る。
【0015】
生体試料に添加する溶媒は、甲状腺ホルモンに溶解性を持つ溶媒であることが好ましく、一例として、例えば、メタノール、ヘプタン、酢酸エチル、ブタノール、クロロホルム等が挙げられる。このような溶媒中に生体試料を懸濁して攪拌することにより、抽出液を作製することができる。
【0016】
生体試料が固体試料である場合、溶媒中に懸濁する生体試料の量は、特に限定されないが、一例として、1mg以上、10mg以下である。
【0017】
生体試料を懸濁する溶媒の量は、一例として、50μL以上、200μL以下;50μL以上、150μL以下;または;50μL、100μLである。生体試料が固体試料である場合、切断または破砕した生体試料を溶媒中に懸濁してもよい。
【0018】
抽出液を作製する工程においては、溶媒と混合した生体試料を、20℃以上、80℃以下に温度制御する。溶媒と混合した生体試料の温度は、40℃以上、70℃以下に制御してもよく、50℃以上、60℃以下に制御してもよい。また、抽出液を作製する工程においては、溶媒と混合した生体試料を、0.1時間以上、12時間以下の間、温度制御する。溶媒と混合した生体試料の温度制御時間は、1時間以上、8時間以下であってもよく、2時間以上、5時間以下であってもよい。
【0019】
抽出液を作製する工程において作製した抽出液は、上清回収および乾固処理を施すことなく、そのまま、次の液体クロマトグラフィに供することができる。抽出液を作製する工程においては、生体試料から甲状腺ホルモンを抽出するために使用する溶媒の量が少なく、抽出された成分の濃度の高い抽出液が得られる。したがって、上清回収および乾固処理により抽出成分を濃縮することなく、分析に供することが可能な抽出液を作製することができる。なお、作製した抽出液は、さらに溶媒および液体クロマトグラフィ用蒸留水を混合して溶媒の濃度を調整して、液体クロマトグラフィに供する試料としてもよい。
【0020】
(分析成分を分離する工程)
分析成分を分離する工程においては、液体クロマトグラフィにより、抽出液中の分析成分を分離する。分析成分を分離する工程においては、上述した抽出液を作製する工程において作製した抽出液を、液体クロマトグラフィの精製カラムに注入し、抽出液中の分析成分である甲状腺ホルモンを分離する。分析成分を分離する工程においては、抽出液を作製する工程において作製した抽出液をそのまま用いて、液体クロマトグラフィに供する。液体クロマトグラフィは、一例として、逆相液体クロマトグラフィである。
【0021】
液体クロマトグラフィに用いる精製カラムは、一例として、逆相カラム(C8)である。液体クロマトグラフィにおける移動層の流速は、一例として、100~400μL/分である。液体クロマトグラフィにおいて用いる溶媒は、水と溶媒との混合溶媒であり得る。溶媒としては、例えば、メタノール、アセトニトリル、2-プロパノール等を好適に用いることができる。精製カラムに注入する抽出液の量は、一例として、50μL以上、200μL以下;50μL以上、150μL以下;または;50μL以上、100μL以下である。
【0022】
分析成分を分離する工程において、精製カラム上の分析成分を溶出した溶出液を取得する。そして、後述する質量分析する工程において、得られた溶出液を質量分析する。精製カラムからの分析成分の溶出に用いる溶媒の量は、一例として、20μL以上、150μL以下;20μL以上、120μL以下;または;20μL以上、100μL以下である。
【0023】
分析成分を分離する工程において、精製カラムから分析成分を溶出した溶出液は、そのまま、後述する質量分析に供することができる。分析成分の溶出に用いる溶媒の量が少ないため、溶出された成分の濃度の高い溶出液が得られる。したがって、乾固処理により分析成分を濃縮することなく、質量分析に供することが可能な溶出液を作製することができる。なお、得られた溶出液は、乾固した後、溶媒に再溶解して質量分析に供することもできる。
【0024】
(質量分析する工程)
質量分析する工程においては、分析成分を分離する工程において分離した分析成分を質量分析する。質量分析する工程においては、三連四重極MS等の公知の質量分析装置を用いて、分析成分である甲状腺ホルモンを分析する。質量分析する工程においては、分析成分中の甲状腺ホルモンの有無を検出することができる。また、質量分析する工程においては、分析成分中の甲状腺ホルモンの量を測定することもできる。
【0025】
(甲状腺疾患の指標を提示する工程)
本分析方法は、質量分析により得られた甲状腺ホルモンの測定値を、甲状腺疾患の指標として提示する工程をさらに包含してもよい。甲状腺疾患の指標を提示する工程においては、予め定められた甲状腺ホルモンの測定値と甲状腺疾患の指標との関係を参照し、質量分析により得られた甲状腺ホルモンの測定値から甲状腺疾患の指標を取得する。そして、得られた甲状腺疾患の指標を、ユーザに提示する。甲状腺疾患の指標を提示する工程は、情報処理装置により実行されてもよい。
【0026】
甲状腺疾患の指標を提示する工程においては、一例として、甲状腺ホルモンの測定値が所定の基準範囲外である場合に、甲状腺疾患レベルが基準範囲外であることを表す指標を提示する。ここで、甲状腺疾患レベルは、一例として、甲状腺疾患に罹患している可能性を段階的に示すものであり得る。また、甲状腺疾患は、一例として、バセドウ病、橋本病などが挙げられる。
【0027】
甲状腺疾患の指標をユーザに提示する方法としては、特に限定されない。一例として、甲状腺ホルモンの測定値および甲状腺疾患の指標を、コンピュータディスプレイ、スマートフォンのようなモバイルデバイスのディスプレイなどに表示してもよい。また、甲状腺ホルモンの測定値および甲状腺疾患の指標を印刷した媒体をユーザに提供することにより、甲状腺疾患の指標を提示してもよい。
【0028】
〔分析システム〕
本発明の一態様に係る分析システムは、生体試料中に含まれる甲状腺ホルモンを分析する分析システムであって、生体試料を溶媒と混合し、0.1時間以上、12時間以下の間、20℃以上、80℃以下に温度制御して作製した抽出液中の分析成分を、液体クロマトグラフィにより分離する装置、および、分離した前記分析成分を質量分析する質量分析装置を備えている。すなわち、本発明の一態様に係る分析システムは、上述した本発明の一態様に係る分析方法を実行するシステムの一態様である。
【0029】
図1は、本発明の一実施形態に係る分析システムの要部構成を示すブロック図である。
図1に示すように、分析システム100は、液体クロマトグラフ(分離する装置)10、質量分析装置20、および演算装置30を備えている。なお、分析システム100において、液体クロマトグラフ10および質量分析装置20は、それぞれ独立した装置であってもよいし、それぞれの装置の機能を備える一体の装置としてもよい。液体クロマトグラフ10及び質量分析装置20の機能を備える一体の装置として、公知の逆相液体クロマトグラフィ-質量分析計(LC-MS)を用いることができる。
【0030】
(液体クロマトグラフ)
液体クロマトグラフ10は、逆相液体クロマトグラフィにより分析成分を分離する装置である。液体クロマトグラフ10は、従来公知の液体クロマトグラフ装置であり得、商業的に入手可能な装置を好適に使用可能である。液体クロマトグラフ10により分離する分析成分は、当該装置における分離に適した状態に調整した試料であり得、例えば、分析成分を溶媒により抽出した抽出液である。液体クロマトグラフ10により、抽出液中の分析成分である甲状腺ホルモンを分離することができる。液体クロマトグラフ10により分離された分析成分を含む溶出液は、質量分析装置20に導入される。
【0031】
(質量分析装置)
質量分析装置20は、生体試料中の甲状腺ホルモンをMS分析する装置である。質量分析装置20は、液体クロマトグラフ10において得られた溶出液に含まれる分子をイオン化するイオン化部21と、イオン化した分子をMS分析し、溶出液中の甲状腺ホルモンを検出する検出部22とを有している。質量分析装置20は、従来公知の質量分析装置であり得、商業的に入手可能な装置を好適に使用可能である。
【0032】
質量分析装置20に導入された溶出液は、まず、イオン化部21に導入され、溶出液中の分子がイオン化される。検出部22は、イオン化部21においてイオン化された分子を、質量電荷比(m/z比)に応じて分離し、検出する。質量分析装置20における検出結果は、演算装置30に出力される。
【0033】
(演算装置)
演算装置30は、質量分析装置20から出力された検出結果に基づいて、溶出液中の甲状腺ホルモンのMS及びMS/MSスペクトルを生成し、ピーク領域を測定することで、溶出液中の甲状腺ホルモンの分子を定量する。
【0034】
演算装置30は、例えば、MS分析に係る演算を実行するソフトウェアが組み込まれており、演算結果を格納するメモリ、演算結果を表示するディスプレイ等を備えたコンピュータであり得る。
【0035】
<ソフトウェアによる実現例>
演算装置30による演算は、集積回路(ICチップ)等に形成された論理回路(ハードウェア)によって実現してもよいし、CPU(Central Processing Unit)を用いてソフトウェアによって実現してもよい。
【0036】
後者の場合、演算装置30は、各機能を実現するソフトウェアであるプログラムの命令を実行するCPU、上記プログラムおよび各種データがコンピュータ(又はCPU)で読み取り可能に記録されたROM(Read Only Memory)又は記憶装置(これらを「記録媒体」と称する)、上記プログラムを展開するRAM(Random Access Memory)などを備えている。そして、コンピュータ(又はCPU)が上記プログラムを上記記録媒体から読み取って実行することにより、本発明の目的が達成される。上記記録媒体としては、「一時的でない有形の媒体」、例えば、テープ、ディスク、カード、半導体メモリ、プログラマブルな論理回路などを用いることができる。また、上記プログラムは、該プログラムを伝送可能な任意の伝送媒体(通信ネットワークや放送波等)を介して上記コンピュータに供給されてもよい。なお、本発明は、上記プログラムが電子的な伝送によって具現化された、搬送波に埋め込まれたデータ信号の形態でも実現され得る。
【0037】
〔検出システムおよび検出方法〕
本発明の一態様に係る検出システムは、甲状腺疾患を検出する検出システムであって、生体試料に溶媒を添加し、0.1時間以上、12時間以下の間、20℃以上、80℃以下に温度制御して作製した抽出液中の分析成分を、液体クロマトグラフィにより分離する装置、および分離した前記分析成分を質量分析する質量分析装置を備えている。本発明の一態様に係る検出システムは、甲状腺疾患を検出する用途に用いる、上述した本発明の一態様に係る分析システムである。本発明の一態様に係る検出システムによれば、生体試料中の甲状腺ホルモン値を測定し、測定結果に基づき甲状腺疾患を検出する。本検出システムによれば、被験者から採取した生体試料中の甲状腺ホルモン値を測定することで、被験者における甲状腺疾患の罹患の有無を検出することができる。
【0038】
また、生体試料を溶媒と混合し、0.1時間以上、12時間以下の間、20℃以上、80℃以下に温度制御して、抽出液を作製する工程と、液体クロマトグラフィにより、前記抽出液中の分析成分を分離する工程と、分離した前記分析成分を質量分析する工程とを包含する、甲状腺疾患を検出する検出方法についても、本発明の範疇に含まれる。本検出方法によれば、被験者から採取した生体試料中の甲状腺ホルモン値を測定することで、被験者における甲状腺疾患の罹患の有無を検出することができる。
【0039】
〔付記事項1〕
本発明の態様1に係る分析方法は、生体試料中に含まれる甲状腺ホルモンを分析する分析方法であって、前記生体試料を溶媒と混合し、0.1時間以上、12時間以下の間、20℃以上、80℃以下に温度制御して、抽出液を作製する工程と、液体クロマトグラフィにより、前記抽出液中の分析成分を分離する工程と、分離した前記分析成分を質量分析する工程とを包含する。
【0040】
本発明の態様2に係る分析方法は、前記態様1において、前記分離する工程において、前記抽出液を精製カラムに注入し、前記抽出液中の分析成分を分離する。
【0041】
本発明の態様3に係る分析方法は、前記態様1または2において、前記分離する工程において、精製カラム上の前記分析成分を溶出した溶出液を取得し、前記質量分析する工程において、前記溶出液を質量分析する。
【0042】
本発明の態様4に係る分析方法は、前記態様1から3のいずれかにおいて、前記生体試料は、毛または爪である。
【0043】
本発明の態様5に係る分析方法は、前記態様1から4のいずれかにおいて、前記質量分析により得られた甲状腺ホルモンの測定値を、甲状腺疾患の指標として提示する工程をさらに包含する。
【0044】
本発明の態様6に係る分析システムは、生体試料中に含まれる甲状腺ホルモンを分析する分析システムであって、前記生体試料に溶媒を添加し、0.1時間以上、12時間以下の間、20℃以上、80℃以下に温度制御して作製した抽出液中の分析成分を、液体クロマトグラフィにより分離する装置、および、分離した前記分析成分を質量分析する質量分析装置を備えている。
【0045】
本発明の態様7に係る検出システムは、甲状腺疾患を検出する検出システムであって、生体試料に溶媒を添加し、0.1時間以上、12時間以下の間、20℃以上、80℃以下に温度制御して作製した抽出液中の分析成分を、液体クロマトグラフィにより分離する装置、および、分離した前記分析成分を質量分析する質量分析装置を備えている。
【0046】
〔付記事項2〕
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例0047】
毛髪中の甲状腺ホルモンを下記に示すように測定した。健常者およびバセドウ病罹患者のそれぞれから採取した毛髪を検体として用いた。
【0048】
(生体試料の取得)
被験者の頭部および頭皮近傍から毛髪を切断および採取した。切断した毛髪を、根元から切り分けて使用した。取得した毛髪を洗浄して室温で自然乾燥させた後、分析に用いた。
【0049】
(抽出液の作製)
上述した前処理を施した毛髪を抽出用容器にいれ、メタノール水を100μL添加し、60℃で4時間抽出した。メタノール濃度の調整のため、さらにメタノール水を添加し、抽出液を作製した。
【0050】
(溶出液の作製)
まず、精製用カラムのコンディショニングを行った。カラム上にメタノールをアプライし、シリンジを用いて空気で押し出した。さらに、カラム上に蒸留水をアプライし、同様に押し出した。
【0051】
上述したように作製した抽出液 100μLを、コンディショニング後のカラムに注入し、押し出した。次に、残りの抽出液も同様に押し出した。洗浄のため、ヘキサンを注入して押し出した後、空気だけを押し出してカラムを乾燥させた。
【0052】
その後、メタノールを100μL注入して押し出した液を溶出液として、新しい容器内に回収した。回収した溶出液に、窒素ガスを吹き付けて乾固した。乾固後の容器内にメタノールを添加して再溶解した。さらに、容器内に蒸留水を添加してよく混合し、質量分析に供した。
【0053】
(分析)
抽出した試料の逆相液体クロマトグラフィによる分離を、超高速液体クロマトグラフNEXERA X2(株式会社島津製作所製)において、以下の通り行った。逆相液体クロマトグラフィ用カラムの充填剤として、超高速液体クロマトグラフィ用の逆相充填剤を用いた。酸性条件下における逆相液体クロマトグラフィにて用いる移動相として2種の移動相を用い、グラジエント溶出を行った。分離した分子のイオン化を、三連四重極型LCMS-8060システム(株式会社島津製作所製)において、エレクトロスプレーイオン化法(ESI法)により行い、T3およびT4のMSスペクトルを生成し、計測した。
【0054】
健常者(Healthy Control)9名およびバセドウ病患者(Basedow)8名から採取した毛髪について、T3およびT4を計測した結果を
図2に示す。
図2は、毛髪から抽出したT3およびT4の分析結果を、甲状腺疾患に罹患していない被験者と罹患していた被験者とで比較した結果を示す図である。
図2に示すグラフにおいて、縦軸はT4の強度を示し、横軸はT3の強度を示す。
【0055】
図2に示すように、健常者およびバセドウ病患者共に甲状腺ホルモン値が測定可能であった。また、
図2に示すように、健常者とバセドウ病患者とで毛髪におけるT3およびT4の値が大きく二分化された。したがって、例えば、甲状腺ホルモンの正常値、異常値、要注意値等の基準値を設定し、被験者の甲状腺ホルモンの値を当該基準値と比較することで、甲状腺疾患のマーカーとして活用できる可能性が示唆された。