(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024163800
(43)【公開日】2024-11-22
(54)【発明の名称】フィルタおよび通信装置
(51)【国際特許分類】
H03H 9/64 20060101AFI20241115BHJP
H03H 7/01 20060101ALI20241115BHJP
H03H 9/25 20060101ALI20241115BHJP
【FI】
H03H9/64 Z
H03H7/01 A
H03H9/25 C
H03H9/25 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023079690
(22)【出願日】2023-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】笠松 直史
【テーマコード(参考)】
5J024
5J097
【Fターム(参考)】
5J024AA01
5J024BA11
5J024CA02
5J024DA01
5J024DA25
5J024EA05
5J024KA01
5J097AA13
5J097BB15
5J097CC05
5J097EE08
5J097GG07
(57)【要約】
【課題】フィルタの周波数特性を改善する。
【解決手段】単一の通過帯域または阻止帯域を有するフィルタは、第1圧電体層上に位置する第1IDT電極を有する第1弾性波共振子と、第1圧電体層よりも薄い前記第2圧電体層上に位置する第2IDT電極を有する第2弾性波共振子と、を備えている。フィルタは、(i)前記第1弾性波共振子に直列に接続されたインダクタンス成分を有する第1回路、および、(ii)前記第2弾性波共振子に直列に接続されたキャパシタンス成分を有する第2回路、のうちの少なくとも一方を含む付加回路をさらに備えている。前記インダクタンス成分および前記キャパシタンス成分は、前記弾性波共振子の共振角周波数に関する所定の条件を満たしている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単一の通過帯域または阻止帯域を有するフィルタであって、
圧電体層と、前記圧電体層上に位置するIDT電極と、を有する弾性波共振子を備えており、
前記圧電体層は、第1圧電体層と、前記第1圧電体層よりも薄い第2圧電体層と、を含んでおり、
前記弾性波共振子は、前記第1圧電体層上に位置する第1IDT電極を有する第1弾性波共振子と、前記第2圧電体層上に位置する第2IDT電極を有する第2弾性波共振子と、を含んでおり、
前記フィルタは、(i)前記第1弾性波共振子に直列に接続されたインダクタンス成分を有する第1回路、および、(ii)前記第2弾性波共振子に直列に接続されたキャパシタンス成分を有する第2回路、の少なくとも一方を含む付加回路をさらに備えており、
前記インダクタンス成分をLsとして表し、前記キャパシタンス成分をCsとして表し、
前記付加回路が前記第1回路を含んでいる場合、Lsについて、下記の式(1)に示す条件が成立しており、
【数1】
…(1)
前記付加回路が前記第2回路を含んでいる場合、Csについて、下記の式(2)に示す条件が成立しており、
【数2】
…(2)
Δfminは、下記の式(3)によって与えられ、
Δfmin=11.16exp(-6.342T) …(3)
Δfmaxは、下記の式(4)によって与えられ、
Δfmax=28.7exp(-6.636T) …(4)
Tは、前記圧電体層の厚みを前記IDT電極の電極指ピッチの2倍値によって除算することにより規格化された値であり、
dfrは、下記の式(5)によって与えられ、
dfr=ωr’/ωr …(5)
ωrは、前記付加回路が前記弾性波共振子に直列に接続される前の、前記弾性波共振子の共振角周波数であり、
ωr’は、前記付加回路が前記弾性波共振子に直列に接続された後の、前記弾性波共振子の共振角周波数であり、
C2は、下記の式(6)によって与えられ、
【数3】
…(6)
Zf0は、f0におけるインピーダンスであり、
f0は、下記の式(7)によって与えられ、
【数4】
…(7)
ωaは、前記付加回路が前記弾性波共振子に直列に接続される前の、前記弾性波共振子の反共振角周波数である、フィルタ。
【請求項2】
前記付加回路は、前記第1弾性波共振子と前記第2弾性波共振子との間に位置している、請求項1に記載のフィルタ。
【請求項3】
前記IDT電極は、板波を励振するように構成されている、請求項1に記載のフィルタ。
【請求項4】
前記IDT電極は、バルク波を励振するように構成されている、請求項1に記載のフィルタ。
【請求項5】
前記圧電体層は、LTまたはLNを材料として含んでいる、請求項1に記載のフィルタ。
【請求項6】
前記第1圧電体層と前記第2圧電体層とは一体の部材である、請求項1に記載のフィルタ。
【請求項7】
前記第1圧電体層と前記第2圧電体層とは別体の部材である、請求項1に記載のフィルタ。
【請求項8】
前記付加回路は、前記圧電体層の外部に位置している、請求項1に記載のフィルタ。
【請求項9】
支持基板と、
前記支持基板と前記圧電体層との間に位置する音響反射膜と、をさらに有している、請求項1に記載のフィルタ。
【請求項10】
前記音響反射膜は、第1音響反射膜と、前記第1音響反射膜とは異なる音響特性を有する第2音響反射膜と、を含んでおり、
前記第1弾性波共振子は、前記第1音響反射膜を有しており、
前記第2弾性波共振子は、前記第2音響反射膜を有している、請求項9に記載のフィルタ。
【請求項11】
支持基板と、
前記支持基板と前記圧電体層とによって囲まれた中空部を有するメンブレン構造と、をさらに有している、請求項1に記載のフィルタ。
【請求項12】
前記圧電体層は、前記第1圧電体層および前記第2圧電体層とは異なる厚みを有する第3圧電体層をさらに含んでおり、
前記弾性波共振子は、前記第3圧電体層上に位置する第3IDT電極を有する第3弾性波共振子をさらに含んでいる、請求項1に記載のフィルタ。
【請求項13】
前記付加回路は、前記第1回路を含んでおり、
前記弾性波共振子は、前記第1圧電体層上に位置する第4IDT電極を有する第4弾性波共振子をさらに含んでおり、
前記第4弾性波共振子は、前記第1回路に直列に接続されている前記第1弾性波共振子とは異なる帯域幅を有している、請求項1に記載のフィルタ。
【請求項14】
前記付加回路は、前記第2回路を含んでおり、
前記弾性波共振子は、前記第2圧電体層上に位置する第5IDT電極を有する第5弾性波共振子をさらに含んでおり、
前記第5弾性波共振子は、前記第2回路に直列に接続されている前記第2弾性波共振子とは異なる帯域幅を有している、請求項1に記載のフィルタ。
【請求項15】
請求項1に記載のフィルタを備えている、通信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の一態様は、弾性波共振子を有するフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
下記の特許文献1には、弾性波共振子を有するフィルタの構成例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
フィルタの周波数特性の改善が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様に係るフィルタは、単一の通過帯域または阻止帯域を有するフィルタであって、圧電体層と、前記圧電体層上に位置するIDT電極と、を有する弾性波共振子を備えており、前記圧電体層は、第1圧電体層と、前記第1圧電体層よりも薄い第2圧電体層と、を含んでおり、前記弾性波共振子は、前記第1圧電体層上に位置する第1IDT電極を有する第1弾性波共振子と、前記第2圧電体層上に位置する第2IDT電極を有する第2弾性波共振子と、を含んでおり、前記フィルタは、(i)前記第1弾性波共振子に直列に接続されたインダクタンス成分を有する第1回路、および、(ii)前記第2弾性波共振子に直列に接続されたキャパシタンス成分を有する第2回路、の少なくとも一方を含む付加回路をさらに備えており、前記インダクタンス成分をLsとして表し、前記キャパシタンス成分をCsとして表し、前記付加回路が前記第1回路を含んでいる場合、Lsについて、下記の式(1)に示す条件が成立しており、
【数1】
…(1)
前記付加回路が前記第2回路を含んでいる場合、Csについて、下記の式(2)に示す条件が成立しており、
【数2】
…(2)
Δfminは、下記の式(3)によって与えられ、
Δfmin=11.16exp(-6.342T) …(3)
Δfmaxは、下記の式(4)によって与えられ、
Δfmax=28.7exp(-6.636T) …(4)
Tは、前記圧電体層の厚みを前記IDT電極の電極指ピッチの2倍値によって除算することにより規格化された値であり、
dfrは、下記の式(5)によって与えられ、
dfr=ωr’/ωr …(5)
ωrは、前記付加回路が前記弾性波共振子に直列に接続される前の、前記弾性波共振子の共振角周波数であり、
ωr’は、前記付加回路が前記弾性波共振子に直列に接続された後の、前記弾性波共振子の共振角周波数であり、
C2は、下記の式(6)によって与えられ、
【数3】
…(6)
Zf0は、f0におけるインピーダンスであり、
f0は、下記の式(7)によって与えられ、
【数4】
…(7)
ωaは、前記付加回路が前記弾性波共振子に直列に接続される前の、前記弾性波共振子の反共振角周波数である。
【発明の効果】
【0006】
本開示の一態様によれば、フィルタの周波数特性を改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施形態1におけるフィルタの第1構成例を示す。
【
図2】実施形態1におけるフィルタの第2構成例を示す。
【
図3】実施形態1におけるフィルタの第3構成例を示す。
【
図4】実施形態1におけるフィルタの第4構成例を示す。
【
図5】実施形態1のフィルタにおける弾性波共振子の一構成例を示す。
【
図6】実施形態1のフィルタにおける弾性波共振子の別の構成例を示す。
【
図7】弾性波共振子に関するシミュレーション結果の例を示す。
【
図8】
図7の結果に基づき導出されたΔfの近似式について説明するための図である。
【
図10】Ls直列接続ユニットの等価回路表現の例を示す。
【
図11】Cs直列接続ユニットの等価回路表現の例を示す。
【
図12】実施形態2における通信装置の概略的な構成を例示する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
〔実施形態1〕
実施形態1について以下に説明する。説明の便宜上、実施形態1にて説明したコンポーネント(構成要素)と同じ機能を有するコンポーネントについては、以降の各実施形態では同じ符号を付し、その説明を繰り返さない。簡潔化のため、公知の技術事項についても説明を適宜省略する。
【0009】
本明細書において述べる各コンポーネント、各材料、および各数値はいずれも、内容上矛盾のない限り、単なる例示である。それゆえ、内容上矛盾のない限り、例えば各コンポーネントの位置関係および接続関係は各図の例に限定されない。また、各図は必ずしもスケール通りに図示されていない。本明細書では、特に矛盾のない限り、2つの数AおよびBについての表記「A~B」は、「A以上かつB以下」を表す。
【0010】
本明細書における「接続されている」という記載は、電気回路の文脈においては、「電気的に接続されている」ことを意味する。したがって、「接続されている」という記載は、物理的な接続を必ずしも意味しない。
【0011】
(フィルタ100の構成例)
図1~
図4はそれぞれ、実施形態1のフィルタ100の構成例を示す。
図1~
図4に示されているフィルタの構成例をそれぞれ、第1構成例~第4構成例と称する。フィルタ100は、単一の通過帯域または阻止帯域を有するフィルタであってよい。フィルタ100は、複数の弾性波共振子1を有していてよい。実施形態1では、ラダー型フィルタとしてのフィルタ100を例示する。ただし、当業者であれば明らかである通り、本開示の一態様に係るフィルタのタイプは、ラダー型に限定されない。
【0012】
まず、
図1を参照する。フィルタ100は、弾性波共振子1として、直列腕に位置する弾性波共振子である直列共振子を有していてよい。
図1の例では、フィルタ100は、4つの直列共振子1S-1~1S-4を有している。本明細書では、直列共振子1S-1~1S-4を総称的に、直列共振子1Sとも称する。直列腕は、フィルタ100の第1端子TM1および第2端子TM2に接続されていてよい。
図1の例では、第1端子TM1から近い順に、直列共振子1S-1~1S-4がこの順に位置している。
【0013】
また、フィルタ100は、弾性波共振子1として、並列腕に位置する弾性波共振子である並列共振子を有していてもよい。
図1の例では、フィルタ100は、3つの並列共振子1P-1~1P-3を有している。本明細書では、並列共振子1P-1~1P-3を総称的に、並列共振子1Pとも称する。
図1の例では、1つの並列腕は、互いに隣り合う2つの直列共振子1Sとの間から分岐しており、かつ、1つの並列共振子1Pを介して接地端子に接続されている。
【0014】
続いて、
図5を参照する。
図5は、フィルタ100における弾性波共振子1の一構成例を示す。
図5では、弾性波共振子1の積層構造が正面視にて模式的に示されている。
図5の弾性波共振子1は、SAW(Surface Acoustic Wave,弾性表面波)素子の例である。
【0015】
本明細書では、説明の便宜上、
図5に示す直交座標系(D1・D2・D3座標系)を導入する。実施形態1の例におけるD1方向は、弾性波共振子1の圧電体層2内を伝搬する弾性波の伝搬方向である。
図1に示す通り、弾性波共振子1の複数の電極指32は、D1方向に配列されていてよい。D2方向は、D1方向と交差する方向の例である。電極指32は、D2方向に延在していてよい。D3方向は、フィルタ100の各部の厚み方向である。本明細書では、D3方向の正の向きを上方向として説明する。したがって、D3方向の負の向きは下方向である。
【0016】
フィルタ100は、圧電体層2と、当該圧電体層2上に位置しているIDT(Interdigital Transducer)電極3とを有していてよい。したがって、弾性波共振子1は、圧電体層2とIDT電極3を有していてよい。IDT電極3は、複数の弾性波共振子1のそれぞれに個別であってよい。その一方、IDT電極3以外の各コンポーネントは、複数の弾性波共振子1によって共有されていてよい。
【0017】
フィルタ100は、フィルタ100の各部を支持する支持基板6を有していてよい。支持基板6は、当該各部よりも下側に位置している。例えば、支持基板6は、Siを材料として含んでいてよい。
【0018】
圧電体層2は、圧電体の単結晶材料によって構成されていてよい。例えば、圧電体層2は、タンタル酸リチウム(LiTaO3:LTとも称される)またはニオブ酸リチウム(LiNbO3:LNとも称される)を材料として含んでいてよい。
【0019】
IDT電極3は、弾性波を励振する。このことから、IDT電極3は、励振電極とも称される。IDT電極3は、複数の電極指32を有していてよい。本開示の一態様におけるIDT電極3は、板波またはバルク波を励振するように構成されていればよい。
図5の例におけるIDT電極3は、板波を励振するように構成されていてよい。例えば、当該IDT電極3は、A1ラム波(lamb wave)を励振しうる。
【0020】
複数の電極指32のそれぞれは、圧電体層2上において、D1方向に概ね一定の間隔を有するように、交互に繰り返して位置していてよい。本明細書では、電極指32のピッチをpとして表す。pは、IDT電極3の電極指ピッチとも称される。pは、例えば、隣り合う2つの電極指32の中心間の、D1方向におけるピッチ(繰り返し間隔)であってよい。一例として、pは、IDT電極3によって励振される弾性波の波長λの半値(λ/2)と等しく設定されてよい。この場合、λは、pの2倍の長さ(2倍値)として規定されてよい。そこで、実施形態1では、λ=2pである場合を例示する。
【0021】
本明細書では、D1方向における電極指32の長さを、電極指32の幅wと称する。wは、pに応じて設定されてよい。pに対するwの比率(w/p)は、電極指32のduty(デューティ)とも称される。一例として、dutyを変更することにより、弾性波共振子1の周波数特性を制御できる。したがって、例えば、フィルタ100が有する複数の弾性波共振子1のそれぞれのdutyを変更することにより、フィルタ100の周波数特性が制御されうる。
【0022】
図5に示す寸法tは、圧電体層2の厚みを表す。実施形態1では、tが十分に小さい場合、すなわち圧電体層2が十分に薄い場合を例示する。一例として、実施形態1におけるtは、λ以下(すなわち、2p以下)であってよい。後述の通り、弾性波共振子1の周波数特性は、tにも依存しうる。
【0023】
フィルタ100は、圧電体層2と支持基板6との間に位置する音響反射膜5を有していてよい。音響反射膜5は、(i)圧電体層2よりも低い音響インピーダンスを有する低音響インピーダンス層5aと、(ii)低音響インピーダンス層5aよりも高い音響インピーダンスを有する高音響インピーダンス層5bと、が交互に積層された多層膜であってよい。このことから、
図5の弾性波共振子1は、多層膜タイプの弾性波共振子と称されてもよい。
【0024】
音響反射膜5は、1つの低音響インピーダンス層5aと1つの高音響インピーダンス層5bとが積層されて成る積層ユニットであってよい。
図1の例では、フィルタ100は、4つの積層ユニットを含んでいる。低音響インピーダンス層5aの材料の例としては、SiO
2を挙げることができる。高音響インピーダンス層5bの材料の例としては、HfO
2を挙げることができる。
【0025】
再び
図1を参照する。フィルタ100における圧電体層2は、第1圧電体層2Aと、当該第1圧電体層2Aよりも薄い第2圧電体層2Bと、を含んでいてよい。本明細書では、第1圧電体層2Aの厚みをt1と表記し、第2圧電体層2Bの厚みをt2と表記する。上記の通り、t1>t2である。本明細書では、フィルタ100において、第1領域内に第1圧電体層2Aが位置しており、当該第1領域とは異なる第2領域内に第2圧電体層2Bが位置しているものとする。
【0026】
一例として、第1圧電体層2Aと第2圧電体層2Bとは一体の部材であってよい。したがって、例えば、単一の圧電体に厚みが異なる領域を設けることにより、第1圧電体層2Aと第2圧電体層2Bとが具現化されてよい。
【0027】
別の例として、第1圧電体層2Aと第2圧電体層2Bとは別体の部材であってもよい。したがって、例えば、異なる厚みを有する個別の圧電体によって、第1圧電体層2Aと第2圧電体層2Bとがそれぞれ具現化されてもよい。
【0028】
フィルタ100における弾性波共振子1は、第1圧電体層2A上に位置する第1IDT電極を有する第1弾性波共振子と、第2圧電体層2B上に位置する第2IDT電極を有する第2弾性波共振子と、を含んでいてよい。本明細書では、第1IDT電極の電極指ピッチをp1と表記し、第2IDT電極の電極指ピッチをp2と表記する。p1とp2との大小関係は、特に限定されない。実施形態1では、p1=p2である場合を例示する。
【0029】
図1の例では、直列共振子1S-3~1S-4および並列共振子1P-3が第1領域内に位置している。したがって、
図1の例における第1弾性波共振子は、直列共振子1S-3~1S-4および並列共振子1P-3のうちの任意の1つであってよい。
【0030】
また、
図1の例では、直列共振子1S-1~1S-2および並列共振子1P-1~1P-2が第2領域内に位置している。したがって、
図1の例における第2弾性波共振子は、直列共振子1S-1~1S-2および並列共振子1P-1~1P-2のうちの任意の1つであってよい。
【0031】
フィルタ100は、第1弾性波共振子および第2弾性波共振子の少なくとも一方に直列に接続された付加回路FKをさらに備えていてよい。付加回路FKは、(i)第1弾性波共振子に直列に接続されたインダクタンス成分を有する第1回路K1、および、(ii)第2弾性波共振子に直列に接続されたキャパシタンス成分を有する第2回路K2、のうちの少なくとも一方を含んでいてよい。
【0032】
図1の例におけるフィルタ100は、付加回路FKとして第1回路K1のみを含んでいる。実施形態1では、説明の平明化のために、第1回路K1が1つのインダクタLsのみを有している場合を例示する。本明細書では、インダクタLsのインダクタンス成分(以下、インダクタンスと略記する場合もある)についてもLsとも表記する。
図1に示す通り、付加回路FKは、圧電体層2の外部に位置していてよい。言い換えれば、付加回路FKは、第1領域および第2領域の外部に位置していてよい。
【0033】
また、
図1の例では、インダクタLsは、直列共振子1S-2と直列共振子1S-3との間に位置している。このことから明らかである通り、付加回路FKは、第1弾性波共振子と第2弾性波共振子との間に位置していてよい。
【0034】
本明細書における「ある弾性波共振子が付加回路に直列に接続されている」とは、「当該弾性波共振子と付加回路との間に分岐点が存在していない」ことを意味すると解釈されてよい。以下、当該解釈に基づいて、インダクタLsと各弾性波共振子との接続関係について述べる。
【0035】
図1の例におけるインダクタLsは、直列共振子1S-2~1S-3と並列共振子1P-2とに接続されている。ただし、
図1の例では、インダクタLsと直列共振子1S-2および並列共振子1P-2との間に分岐点が存在している。したがって、
図1における直列共振子1S-2および並列共振子1P-2は、インダクタLsと直列には接続されていない。
【0036】
その一方、
図1の例では、インダクタLsと直列共振子1S-3との間に分岐点が存在していない。したがって、直列共振子1S-3は、インダクタLsと直列に接続されている。本明細書では、第1回路K1に直列に接続されている第1弾性波共振子を、特定第1弾性波共振子1Aと称する。
図1の例では、直列共振子1S-3が、特定第1弾性波共振子1Aに該当する。したがって、
図1の例における第1IDT電極は、直列共振子1S-3のIDT電極3であってよい。
【0037】
続いて
図2を参照する。
図2の例におけるフィルタ100は、付加回路FKとして第2回路K2をさらに含んでいる。実施形態1では、説明の平明化のために、第2回路K2が1つのキャパシタCsのみを有している場合を例示する。本明細書では、キャパシタCsのキャパシタンス成分(以下、キャパシタンスと略記する場合もある)についてもCsとも表記する。
【0038】
図2の例では、直列共振子1S-3~1S-4および並列共振子1P-2~1P-3が第1領域内に位置している。したがって、
図2の例における第1弾性波共振子は、直列共振子1S-3~1S-4および並列共振子1P-2~1P-3のうちの任意の1つであってよい。
【0039】
図2の例におけるインダクタLsは、直列共振子1S-4と第2端子TM2とに接続されている。
図2の例では、インダクタLsと直列共振子1S-4との間に分岐点が存在していない。したがって、直列共振子1S-4は、インダクタLsと直列に接続されている。このことから、
図2の例では、直列共振子1S-4が、特定第1弾性波共振子1Aに該当する。したがって、
図2の例における第1IDT電極は、直列共振子1S-4のIDT電極3であってよい。
【0040】
図2の例では、直列共振子1S-1~1S-2および並列共振子1P-1が第2領域内に位置している。したがって、
図2の例における第2弾性波共振子は、直列共振子1S-1~1S-2および並列共振子1P-1のうちの任意の1つであってよい。
【0041】
図2の例におけるキャパシタCsは、直列共振子1S-2~1S-3と並列共振子1P-2とに接続されている。ただし、
図2の例では、キャパシタCsと直列共振子1S-3および並列共振子1P-2との間に分岐点が存在している。したがって、
図2における直列共振子1S-3および並列共振子1P-2は、キャパシタCsと直列には接続されていない。
【0042】
その一方、
図2の例では、キャパシタCsと直列共振子1S-2との間に分岐点が存在していない。したがって、直列共振子1S-2は、キャパシタCsと直列に接続されている。本明細書では、第2回路K2に直列に接続されている第2弾性波共振子を、特定第2弾性波共振子1Bと称する。
図2の例では、直列共振子1S-2が、特定第2弾性波共振子1Bに該当する。したがって、
図2の例における第2IDT電極は、直列共振子1S-2のIDT電極3であってよい。
【0043】
フィルタ100におけるインダクタLsおよびキャパシタCsの少なくとも一方は、ディスクリート部品(例:チップ素子)によって具現化されていてよい。別の例として、インダクタLsおよびキャパシタCsの少なくとも一方は、フィルタ100の実装基板における配線パターンまたは電極パターンによって具現化されていてもよい。
【0044】
続いて
図3を参照する。
図3の例における各弾性波共振子と第1領域および第2領域との位置関係は、
図1の例と同じである。ただし、
図3におけるフィルタ100は、付加回路FKとして第2回路K2をさらに含んでいる。
【0045】
図3の例におけるインダクタLsは、並列共振子1P-3と接地端子とに接続されている。
図3の例では、インダクタLsと並列共振子1P-3との間に分岐点が存在していない。したがって、並列共振子1P-3は、インダクタLsと直列に接続されている。このことから、
図3の例では、並列共振子1P-3が、特定第1弾性波共振子1Aに該当する。したがって、
図3の例における第1IDT電極は、並列共振子1P-3のIDT電極3であってよい。
【0046】
図3の例におけるキャパシタCsは、並列共振子1P-1と接地端子とに接続されている。
図3の例では、キャパシタCsと並列共振子1P-1との間に分岐点が存在していない。したがって、並列共振子1P-1は、キャパシタCsと直列に接続されている。このことから、
図3の例では、並列共振子1P-1が、特定第2弾性波共振子1Bに該当する。したがって、
図3の例における第2IDT電極は、並列共振子1P-1のIDT電極3であってよい。
【0047】
続いて
図4を参照する。
図4の例におけるフィルタ100は、付加回路FKとして第1回路K1のみを含んでいる。
図4の例では、並列共振子1P-1~1P-3が第1領域内に位置している。したがって、
図4の例における第1弾性波共振子は、並列共振子1P-1~1P-3のうちの任意の1つであってよい。また、
図4の例では、直列共振子1S-1~1S-4が第2領域内に位置している。したがって、
図4の例における第2弾性波共振子は、直列共振子1S-1~1S-4のうちの任意の1つであってよい。
【0048】
図4の例においても、
図3の例と同じく、インダクタLsは、並列共振子1P-3と接地端子とに接続されている。そして、インダクタLsと並列共振子1P-3との間に分岐点が存在していない。したがって、
図4の例においても、
図3の例と同じく、並列共振子1P-3が特定第1弾性波共振子1Aに該当する。
【0049】
以上の通り、本開示の一態様に係る第1弾性波共振子および第2弾性波共振子は、直列共振子であってもよいし、並列共振子であってもよい。第1領域および第2領域のそれぞれに属する直列共振子および並列共振子の数も限定されない。
【0050】
また、当業者であれば明らかである通り、フィルタ100は、付加回路FKとして第2回路K2のみを含んでいてもよい。このことから明らかである通り、フィルタ100は、特定第1弾性波共振子1Aおよび特定第2弾性波共振子1Bの少なくとも一方を有していればよい。
【0051】
図5を再び参照する。音響反射膜5は、第1音響反射膜と、当該第1音響反射膜とは異なる音響特性を有する第2音響反射膜とを含んでいてよい。一例として、第1弾性波共振子は第1音響反射膜を有していてよく、第2弾性波共振子は第2音響反射膜を有していてよい。
【0052】
一例として、第2音響反射膜は、第1音響反射膜と異なる数の積層ユニットを有していてよい。別の例として、第2音響反射膜は、第1音響反射膜とは異なる材料を含んでいてもよい。さらに別の例として、第2音響反射膜は、第1音響反射膜とは異なる厚みを有していてもよい。
【0053】
続いて、
図6を参照する。
図6は、フィルタ100における弾性波共振子1の別の構成例を示す。
図6に示す通り、弾性波共振子1は、圧電体層2と支持基板6とによって囲まれた中空部MAを有するメンブレン構造を含んでいてよい。このことから、
図6の弾性波共振子1は、メンブレンタイプの弾性波共振子と称されてもよい。
図6の弾性波共振子1は、
図5の例における弾性波共振子1とは異なり、音響反射膜5を有していなくともよい。
【0054】
図6の弾性波共振子1におけるIDT電極3は、例えばバルク波を励振するように構成されていてよい。一例として、当該IDT電極3は、圧電体層2の厚み方向(
図6の例では、下方向)に進行する、厚み滑りモードのバルク波を励振しうる。
【0055】
(弾性波共振子1の周波数特性についての検討)
フィルタ100の周波数特性(以下、フィルタ特性とも称する)は、弾性波共振子1の周波数特性に依存する。したがって、例えば、弾性波共振子1の共振周波数frおよび反共振周波数faを適切に設定することにより、所望のフィルタ特性を実現できる。
【0056】
一例として、pを変化させることにより、所望のfrを得ることができる。ただし、IDT電極3によって励振される弾性波の周波数が高い場合には、pの変化に対するfrの変化率が小さくなりうる。そこで、pの変化とは別のアプローチによって、所望のfrを得ることが考えられる。
【0057】
一例として、pを一定に維持し、tを変化させることによっても、所望のfrを得ることができる。この場合、pの増加に伴う弾性波共振子1の幅方向のサイズ増加が生じない。したがって、tを変化させるアプローチは、弾性波共振子1のサイズ低減に有益となりうる。
【0058】
しかしながら、tの変化に伴って、弾性波共振子1におけるΔfも変化しうる。本明細書におけるΔfは、下記の式(8)、
Δf=(fa-fr)/fr …(8)
によって与えられる。Δfは、faとfrとの差(すなわち、弾性波共振子1における帯域幅)を、frによって規格化した値である。
【0059】
当業者であれば明らかである通り、式(8)は、
Δf=(ωa-ωr)/ωr …(8’)
と書き換えることもできる。ωrは弾性波共振子1の共振角周波数であり、ωaは弾性波共振子1の反共振角周波数である。
【0060】
フィルタ特性の設計を容易化するためには、tの変化の前後において、Δfをなるべく一定に維持することが望まれる。そこで、一案として、付加回路Kを弾性波共振子1に直列に接続することにより、tの変化に伴うΔfの変化を補償(より具体的には、相殺)することが考えられる。
【0061】
後述の通り、Δfは、tの増加に伴って単調減少しうる。そこで、一例として、tをより大きい値に変化させる場合には、上述の第1回路K1が弾性波共振子1に直列に接続されてよい。一般的に、弾性波共振子1に直列に接続されたインダクタンス(例:Ls)は、frの減少に寄与する。したがって、当該インダクタンスは、Δfの増加に寄与する。このことから、第1回路K1を弾性波共振子1に直列に接続することにより、tの増加に伴うΔfの減少を相殺できる。
【0062】
別の例として、tをより小さい値に変化させる場合には、上述の第2回路K2が弾性波共振子1に直列に接続されてよい。一般的に、弾性波共振子1に直列に接続されたキャパシタンス(例:Cs)は、frの増加に寄与する。したがって、当該キャパシタンスは、Δfの減少に寄与する。このことから、第2回路K2を弾性波共振子1に直列に接続することにより、tの減少に伴うΔfの増加を相殺できる。
【0063】
以上のことから、実施形態1において、第1弾性波共振子は特定第1弾性波共振子1Aであってよく、第2弾性波共振子は特定第2弾性波共振子1Bであってよい。上述の通り、特定第1弾性波共振子1Aは、第2圧電体層2Bよりも厚い第1圧電体層2Aに対応しており、かつ、第1回路K1に直列に接続されている。その一方、特定第2弾性波共振子1Bは、第1圧電体層2Aよりも薄い第2圧電体層2Bに対応しており、かつ、第2回路K2に接続されていている。
【0064】
一般的に、弾性波共振子1の周波数特性は、弾性波共振子1のタイプ(以下、共振子タイプと称する)によっても異なりうる。また、弾性波共振子1の周波数特性は、圧電体層2の材料(以下、圧電体層材料と称する)によっても異なりうる。
【0065】
そこで、本願の発明者ら(以下、「発明者ら」と略記)は、共振子タイプおよび圧電体層材料とΔfとの関係について、シミュレーションによる検討を行った。具体的には、発明者らは、多層膜タイプおよびメンブレンタイプの2通りの共振子タイプについて、シミュレーションによりΔfを導出した。より具体的には、発明者らは、圧電体層材料がLTである場合、および、圧電体層材料がLNである場合のそれぞれについて、各共振子共振子タイプおけるΔfを導出した。
【0066】
図7は、上記シミュレーション結果の例を示す。
図7において、符号700Aは圧電体層材料がLTである場合における結果を示し、符号700Bは圧電体層材料がLNである場合における結果を示す。本明細書では、例えば、共振子タイプが多層膜タイプであり、かつ、圧電体層材料がLTであるケースを、「多層膜タイプ+LT」と表記する。
【0067】
図7のグラフにおける横軸はtであり、縦軸はΔfである。符号700AにおけるtはLTの厚みを表し、符号700BにおけるtはLNの厚みを表す。
図7に示す通り、上記シミュレーションでは、duty=0.5、p=1.0μmとして設定されている。
【0068】
図7に示す通り、いずれの共振子タイプおよび圧電体層材料においても、tの増加に伴ってΔfが単調減少する傾向が見出された。加えて、Δfのトレンドは、共振子タイプおよび圧電体層材料に応じて異なることが見出された。
【0069】
具体的には、符号700Aに示す通り、「多層膜タイプ+LT」を採用することにより、Δfを最小化できることが見出された。加えて、符号700Bに示す通り、「メンブレンタイプ+LN」を採用することにより、Δfを最大化できることが見出された。
【0070】
続いて、発明者らは、
図7のグラフにおけるtを規格化することにより、さらなる検討を行った。具体的には、発明者らは、下記の式(9)、
T=t/λ=t/2p …(9)
に従ってtをTへと換算した。そして、発明者らは、
図7の例における「多層膜タイプ+LT」および「メンブレンタイプ+LN」のそれぞれについて、Δfの近似式(補間式)を導出した。
【0071】
式(9)に示す通り、Tは、tを2p(IDT電極3の電極指ピッチの2倍値)によって除算することにより規格化された値である。Tは、tをλ単位に換算した値とも表現できる。本明細書におけるTは、圧電体層2の規格化厚みと称されてもよい。本明細書では、第1弾性波共振子におけるTをT1と表記し、第2弾性波共振子におけるTをT2と表記する。T1は第1圧電体層2Aの規格化厚みであり、T2は第2圧電体層2Bの規格化厚みである。
【0072】
図8は、発明者らによって導出されたΔfの近似式について説明するための図である。
図8において、符号800Aは「多層膜タイプ+LT」の場合のグラフを示し、符号800Bは「メンブレンタイプ+LN」の場合のグラフを示す。
図8のグラフにおける横軸はTである。符号800AにおけるTはLTの規格化厚みを表し、符号800BにおけるTはLNの規格化厚みを表す。上述の通り、p=1.0μmであるので、例えば
図7におけるt=0.6μmは、
図8におけるT=0.3に対応する。
【0073】
図7に示す通り、「多層膜タイプ+LT」において、Δfの最小値が得られる。そして、
図8の符号800Aに示す通り、「多層膜タイプ+LT」におけるΔfの近似式は、
Δf=11.16exp(-6.342T) …(10)
として表される。したがって、式(10)は、Δfの最小値を与える式の一例である。上述の式(3)によって与えられるΔfminは、このように発明者らによって導出された。
【0074】
また、
図7に示す通り、「メンブレンタイプ+LN」において、Δfの最大値が得られる。そして、
図8の符号800Bに示す通り、「メンブレンタイプ+LN」におけるΔfの近似式は、
Δf=28.7exp(-6.636T) …(11)
として表される。したがって、式(11)は、Δfの最大値を与える式の一例である。上述の式(4)によって与えられるΔfmaxは、このように発明者らによって導出された。
【0075】
(弾性波共振子1の等価回路表現に基づく検討)
続いて、発明者らは、弾性波共振子1の等価回路表現に基づいて、付加回路FKが弾性波共振子1の周波数特性に与える影響について検討を行った。
図9は、弾性波共振子1の等価回路表現の例を示す。
図9に示す通り、1つの弾性波共振子1は、LC共振回路として等価的に表現可能である。一例として、当該弾性波共振子1は、2つのキャパシタC1およびC2と1つのインダクタL1とによって構成される3要素LC共振回路に置き換えることができる。
【0076】
図9の例において、キャパシタC1は、インダクタL1に対して並列に接続されている。本明細書では、キャパシタC1とインダクタL1とが並列に接続されることにより構成された回路部分を、並列ユニットと称する。
図9の例において、キャパシタC2は、並列ユニットに直列に接続されている。
【0077】
当業者であれば明らかである通り、3要素LC共振回路における反共振角周波数ωaは、下記の式(12)、
【数5】
…(12)
によって与えられる。ωaは、付加回路FKが弾性波共振子1に直列に接続される前の、弾性波共振子1の反共振角周波数を表す。
【0078】
また、当業者であれば明らかである通り、3要素LC共振回路における共振角周波数ωrは、下記の式(13)、
【数6】
…(13)
によって与えられる。ωrは、付加回路FKが弾性波共振子1に直列に接続される前の、弾性波共振子1の共振角周波数を表す。
【0079】
そして、上述の式(12)および(13)によれば、下記の式(14)、
【数7】
…(14)
が得られる。
【0080】
(Ls直列接続ユニットに関する検討)
続いて、発明者らは、弾性波共振子1にインダクタLsが直列に接続された回路部分(以下、Ls直列接続ユニットと称する)の等価回路表現について検討した。
図10は、Ls直列接続ユニットの等価回路表現の例を示す。
図10に示す通り、Ls直列接続ユニットは、
図9の3要素LC共振回路にインダクタLsが直列に接続された回路構成に置き換えることができる。
【0081】
加えて、
図10に示す通り、3要素LC共振回路におけるキャパシタC2にインダクタLsが直列に接続された回路部分は、1つのキャパシタC2’によって置き換えることもできる。当該回路部分とキャパシタC2’とのインピーダンスの等価性を考慮すれば、下記の式(15)、
【数8】
…(15)
が得られる。
【0082】
そして、式(15)をC2’について解くことにより、下記の式(16)、
【数9】
…(16)
が得られる。
【0083】
(Cs直列接続ユニットに関する検討)
発明者らは、弾性波共振子1にキャパシタCsが直列に接続された回路部分(以下、Cs直列接続ユニットと称する)の等価回路表現についても検討した。
図11は、Cs直列接続ユニットの等価回路表現の例を示す。
図11に示す通り、Cs直列接続ユニットは、
図9の3要素LC共振回路にキャパシタCsが直列に接続された回路構成に置き換えることができる。
【0084】
加えて、
図11に示す通り、3要素LC共振回路におけるキャパシタC2にキャパシタCsが直列に接続された回路部分は、1つのキャパシタC2’’に置き換えることもできる。当該回路部分とキャパシタC2’’とのインピーダンスの等価性を考慮すれば、下記の式(17)、
【数10】
…(17)
が得られる。
【0085】
そして、式(17)をC2’’について解くことにより、下記の式(18)、
【数11】
…(18)
が得られる。
【0086】
(C1およびC2についての補足)
ところで、上述の式(14)をC1について解くことにより、下記の式(19)、
【数12】
…(19)
が得られる。
【0087】
そして、式(14)によれば、上述の式(8’)は、
Δf=(ωa-ωr)/ωr
=(ωa/ωr)-1
=df0-1 …(20)
と書き換えることができる。
【0088】
このことから、df0は、
df0=Δf+1…(21)
として表すこともできる。
【0089】
したがって、式(19)および式(21)によれば、下記の式(22)、
【数13】
…(22)
が得られる。このように、C1は、C2およびΔfを用いて表現できる。
【0090】
また、当業者であれば明らかである通り、C2は、例えば上述の式(6)によって与えられてよい。
【0091】
(Ls直列接続ユニットに関するさらなる検討)
当業者であれば明らかである通り、
図10のLs直列接続ユニットにおける共振角周波数ωr’は、下記の式(23)、
【数14】
…(23)
によって与えられる。式(23)におけるωr’は、上述の式(5)におけるωr’の一例である。具体的には、式(23)におけるωr’は、インダクタLsが弾性波共振子1に直列に接続された後の、弾性波共振子1の共振角周波数を表す。
【0092】
上述の式(5)におけるdfrは、弾性波共振子1に付加回路Kが直列に接続されることによる、弾性波共振子1の共振角周波数の変化率を表す規格化された値である。dfrは、弾性波共振子1に付加回路Kが直列に接続されることによる、弾性波共振子1の共振周波数の変化率を表す規格化された値と読み替えることもできる。
【0093】
ωr’は、フィルタ100の設計者によって与えられる設計値であってよい。したがって、ωr’は、任意の値を取りうる。このため、ωr’に応じた任意のdfrが定められうる。
【0094】
ところで、上述の式(13)および式(23)を用いることにより、式(5)におけるdfrは、下記の式(24)、
【数15】
…(24)
として表すこともできる。このように、dfrは、C1、C2、およびC2’を用いて表現することもできる。
【0095】
そして、式(24)におけるC1に上述の式(22)を代入することにより、下記の式(25)、
【数16】
…(25)
が得られる。
【0096】
次いで、式(25)の両辺を2乗するとともに、式(25)におけるC2’に上述の式(16)を代入することにより、下記の式(26)、
【数17】
…(26)
が得られる。
【0097】
式(26)をωLsについて解くことにより、下記の式(27)、
【数18】
…(27)
が得られる。
【0098】
式(27)は、ωLsとΔfとの関係を表す式の一例である。したがって、式(27)において、Δfに上述のΔfminを代入するとともに、ωにωrを代入することにより、式(1)における最左辺が得られる。また、式(27)において、Δfに上述のΔfmaxを代入するとともに、ωにωrを代入することにより、式(1)における最右辺が得られる。
【0099】
以上の通り、式(1)に示されているωrLsに関する不等式は、弾性波共振子1の等価回路表現に基づく、Ls直列接続ユニットに関する検討を通じて、発明者らによって導出された。
【0100】
(Cs直列接続ユニットに関するさらなる検討)
当業者であれば明らかである通り、
図11のCs直列接続ユニットにおける共振角周波数ωr’’は、下記の式(28)、
【数19】
…(28)
によって与えられる。
【0101】
式(28)におけるωr’’は、上述の式(5)におけるωr’の別の例である。具体的には、式(23)におけるωr’’は、キャパシタCsが弾性波共振子1に直列に接続された後の、弾性波共振子1の共振角周波数を表す。したがって、上述のωr’は、文脈上矛盾のない限り、ωr’’に適宜読み替えることができる。
【0102】
ところで、上述の式(13)および式(28)を用いることにより、上述の式(5)におけるdfrは、下記の式(29)、
【数20】
…(29)
として表すこともできる。このように、dfrは、C1、C2、およびC2’’を用いて表現することもできる。
【0103】
そして、式(29)におけるC1に上述の式(22)を代入することにより、下記の式(30)、
【数21】
…(30)
が得られる。
【0104】
次いで、式(30)の両辺を2乗するとともに、式(30)におけるC2’’に上述の式(18)を代入することにより、下記の式(31)、
【数22】
…(31)
が得られる。
【0105】
式(31)をωCsについて解くことにより、下記の式(32)、
【数23】
…(32)
が得られる。
【0106】
式(32)は、ωCsとΔfとの関係を表す式の一例である。したがって、式(32)において、Δfに上述のΔfminを代入するとともに、ωにωrを代入することにより、式(2)における最左辺が得られる。また、式(32)において、Δfに上述のΔfmaxを代入するとともに、ωにωrを代入することにより、式(2)における最右辺が得られる。
【0107】
以上の通り、式(2)に示されているωrCsに関する不等式は、弾性波共振子1の等価回路表現に基づく、Cs直列接続ユニットに関する検討を通じて、発明者らによって導出された。
【0108】
(実施形態1の効果)
上述の式(3)~(4)に示す通り、弾性波共振子1におけるTを与えることにより、ΔfminおよびΔfmaxを定めることができる。また、上述の式(5)~(6)に示す通り、弾性波共振子1におけるωrおよびωaを与えることにより、C2を定めることができる。
【0109】
したがって、例えば、所望のdfr(例:設計値)に対して、Lsが満たすべき数値範囲を、式(1)に基づいて評価できる。その結果、例えば、第1弾性波共振子に対して直列に接続すべきLsの値を、式(1)に基づいて選択できる。それゆえ、Lsの値を、従来よりも適切に選択できる。この場合、Tとしては上述のT1が使用されてよく、pとしては上述のp1が使用されてよい。
【0110】
また、所望のdfrに対して、Csが満たすべき数値範囲を、式(2)に基づいて評価することもできる。その結果、例えば、第2弾性波共振子に対して直列に接続すべきCsの値を、式(2)に基づいて選択することもできる。それゆえ、Csの値を、従来よりも適切に選択できる。この場合、Tとしては上述のT2が使用されてよく、pとしては上述のp2が使用されてよい。
【0111】
以上の通り、実施形態1によれば、所望のdfrに応じたLsを適切に選択できる。また、所望のdfrに応じたCsを適切に選択することもできる。その結果、フィルタ特性を効果的に改善することが可能となる。
【0112】
(フィルタ100の構成についての補足)
圧電体層2は、第1圧電体層2Aおよび第2圧電体層2Bとは異なる厚みを有する第3圧電体層をさらに含んでいてもよい。そして、弾性波共振子1は、第3圧電体層上に位置する第3IDT電極を有する第3弾性波共振子をさらに含んでいてよい。
【0113】
フィルタ100では、第1領域および第2領域とは異なる第3領域内に第3圧電体層が位置していればよい。したがって、第3弾性波共振子も、当該第3領域内に位置していればよい。
【0114】
付加回路FKが第1回路K1を含んでいる場合、弾性波共振子1は、第1圧電体層2A上に位置する第4IDT電極を有する第4弾性波共振子をさらに含んでいてよい。上述の各説明から明らかである通り、弾性波共振子1の周波数特性は、第1回路K1の接続の有無によって異なりうる。したがって、例えば、第4弾性波共振子は、特定第1弾性波共振子1Aとは異なる帯域幅を有しうる。一例として、
図1における第4弾性波共振子は、直列共振子1S-4または並列共振子1P-3の一方であってよい。
【0115】
また、付加回路FKが第2回路K2を含んでいる場合、弾性波共振子1は、第2圧電体層2B上に位置する第5IDT電極を有する第5弾性波共振子をさらに含んでいてよい。上述の各説明から明らかである通り、弾性波共振子1の周波数特性は、第2回路K2の接続の有無によっても異なりうる。したがって、例えば、第5弾性波共振子は、特定第2弾性波共振子1Bとは異なる帯域幅を有しうる。一例として、
図2における第5弾性波共振子は、直列共振子1S-1または並列共振子1P-1の一方であってよい。
【0116】
〔実施形態2〕
図12は、実施形態2における通信装置151の概略的な構成を例示する。通信装置151は、電波を利用した無線通信を行う。通信装置151は、本開示の一態様に係るフィルタ(例:フィルタ100)を含んでいてよい。
図12における送信フィルタ109Tおよび受信フィルタ111Rはいずれも、本開示の一態様に係るフィルタの例である。
【0117】
通信装置151において、送信すべき情報を含む送信情報信号TISは、RF-IC(Radio Frequency-Integrated Circuit)153によって変調および周波数の引き上げ(搬送波周波数を有する高周波信号への変換)がなされ、送信信号TSへと変換されてよい。バンドパスフィルタ155は、TSについて、送信用の通過帯以外の不要成分を除去してよい。次いで、不要成分除去後のTSは、増幅器157によって増幅された後、送信フィルタ109Tに入力されてよい。
【0118】
送信フィルタ109Tは、送信端子を介して入力された送信信号TSから、送信用の通過帯以外の不要成分を除去してよい。送信フィルタ109Tは、アンテナ端子ANTを介して、不要成分除去後のTSをアンテナ159に出力してよい。アンテナ159は、自身に入力された電気信号であるTSを、無線信号としての電波に変換し、当該電波を通信装置151の外部に送信してよい。
【0119】
また、アンテナ159は、受信した外部からの電波を、電気信号である受信信号RSに変換してよい。アンテナ159は、アンテナ端子ANTを介して、RSを受信フィルタ111Rに入力してよい。受信フィルタ111Rは、入力されたRSから受信用の通過帯以外の不要成分を除去してよい。受信フィルタ111Rは、不要成分除去後の受信信号RSを、受信端子を介して、増幅器161へ出力してよい。出力されたRSは、増幅器161によって増幅されてよい。バンドパスフィルタ163は、増幅後のRSについて、受信用の通過帯以外の不要成分を除去してよい。不要成分除去後のRSは、RF-IC153によって周波数の引き下げおよび復調がなされ、受信情報信号RISへと変換されてよい。
【0120】
TISおよびRISは、適宜な情報を含む低周波信号(ベースバンド信号)であってよい。例えば、TISおよびRISは、アナログ音声信号であってもよいし、あるいはデジタル化された音声信号であってよい。無線信号の通過帯は、適宜に設定されてよく、公知の各種の規格に準拠しうる。
【0121】
〔まとめ〕
本開示の態様1に係るフィルタは、単一の通過帯域または阻止帯域を有するフィルタであって、圧電体層と、前記圧電体層上に位置するIDT電極と、を有する弾性波共振子を備えており、前記圧電体層は、第1圧電体層と、前記第1圧電体層よりも薄い第2圧電体層と、を含んでおり、前記弾性波共振子は、前記第1圧電体層上に位置する第1IDT電極を有する第1弾性波共振子と、前記第2圧電体層上に位置する第2IDT電極を有する第2弾性波共振子と、を含んでおり、前記フィルタは、(i)前記第1弾性波共振子に直列に接続された、インダクタンス成分を有する第1回路、および、(ii)前記第2弾性波共振子に直列に接続された、キャパシタンス成分を有する第2回路、の少なくとも一方を含む付加回路をさらに備えており、前記インダクタンス成分をLsとして表し、前記キャパシタンス成分をCsとして表し、前記付加回路が前記第1回路を含んでいる場合、Lsについて、上述の式(1)に示す条件が成立しており、前記付加回路が前記第2回路を含んでいる場合、Csについて、上述の式(2)に示す条件が成立しており、Δfminは、上述の式(3)によって与えられ、Δfmaxは、上述の式(4)によって与えられ、Tは、前記圧電体層の厚みを前記IDT電極の電極指ピッチの2倍値によって除算することにより規格化された値であり、dfrは、上述の式(5)によって与えられ、ωrは、前記付加回路が前記弾性波共振子に直列に接続される前の、前記弾性波共振子の共振角周波数であり、ωr’は、前記付加回路が前記弾性波共振子に接続された後の、前記弾性波共振子の共振角周波数であり、C2は、上述の式(6)によって与えられ、Zf0は、f0におけるインピーダンスであり、f0は、上述の式(7)によって与えられ、ωaは、前記付加回路が前記弾性波共振子に直列に接続される前の、前記弾性波共振子の反共振角周波数である。
【0122】
本開示の態様2に係るフィルタでは、前記態様1において、前記付加回路は、前記第1弾性波共振子と前記第2弾性波共振子との間に位置していてよい。
【0123】
本開示の態様3に係るフィルタでは、前記態様1または2において、前記IDT電極は、板波を励振するように構成されていてよい。
【0124】
本開示の態様4に係るフィルタでは、前記態様1または2において、前記IDT電極は、バルク波を励振するように構成されていてよい。
【0125】
本開示の態様5に係るフィルタでは、前記態様1から4のいずれか1つにおいて、前記圧電体層は、LTまたはLNを材料として含んでいてよい。
【0126】
本開示の態様6に係るフィルタでは、前記態様1から5のいずれか1つにおいて、前記第1圧電体層と前記第2圧電体層とは一体の部材であってよい。
【0127】
本開示の態様7に係るフィルタでは、前記態様1から5のいずれか1つにおいて、前記第1圧電体層と前記第2圧電体層とは別体の部材であってよい。
【0128】
本開示の態様8に係るフィルタでは、前記態様1から7のいずれか1つにおいて、前記付加回路は、前記圧電体層の外部に位置していてよい。
【0129】
本開示の態様9に係るフィルタは、前記態様1から8のいずれか1つにおいて、支持基板と、前記支持基板と前記圧電体層との間に位置する音響反射膜と、をさらに有していてよい。
【0130】
本開示の態様10に係るフィルタでは、前記態様9において、前記音響反射膜は、第1音響反射膜と、前記第1音響反射膜とは異なる音響特性を有する第2音響反射膜と、を含んでいてよく、前記第1弾性波共振子は、前記第1音響反射膜を有していてよく、前記第2弾性波共振子は、前記第2音響反射膜を有していてよい。
【0131】
本開示の態様11に係るフィルタは、前記態様1から8のいずれか1つにおいて、支持基板と、前記支持基板と前記圧電体層とによって囲まれた中空部を有するメンブレン構造と、をさらに有していてよい。
【0132】
本開示の態様12に係るフィルタでは、前記態様1から11のいずれか1つにおいて、前記圧電体層は、前記第1圧電体層および前記第2圧電体層とは異なる厚みを有する第3圧電体層をさらに含んでいてよく、前記弾性波共振子は、前記第3圧電体層上に位置する第3IDT電極を有する第3弾性波共振子をさらに含んでいてよい。
【0133】
本開示の態様13に係るフィルタでは、前記態様1から12のいずれか1つにおいて、前記付加回路は、前記第1回路を含んでいてよく、前記弾性波共振子は、前記第1圧電体層上に位置する第4IDT電極を有する第4弾性波共振子をさらに含んでいてよく、前記第4弾性波共振子は、前記第1回路に直列に接続されている前記第1弾性波共振子とは異なる帯域幅を有していてよい。
【0134】
本開示の態様14に係るフィルタでは、前記態様13において、前記態様1から13のいずれか1つにおいて、前記付加回路は、前記第2回路を含んでいてよく、前記弾性波共振子は、前記第2圧電体層上に位置する第5IDT電極を有する第5弾性波共振子をさらに含んでいてよく、前記第5弾性波共振子は、前記第2回路に直列に接続されている前記第2弾性波共振子とは異なる帯域幅を有していてよい。
【0135】
本開示の態様15に係る通信装置は、前記態様1から14のいずれか1つに係るフィルタを備えていてよい。
【0136】
〔付記事項〕
以上、本開示に係る発明について、諸図面および実施例に基づいて説明してきた。しかし、本開示に係る発明は上述した各実施形態に限定されるものではない。すなわち、本開示に係る発明は本開示で示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本開示に係る発明の技術的範囲に含まれる。つまり、当業者であれば本開示に基づき種々の変形または修正を行うことが容易であることに注意されたい。また、これらの変形または修正は本開示の範囲に含まれることに留意されたい。
【符号の説明】
【0137】
1 弾性波共振子(第1弾性波共振子~第5弾性波共振子)
1S-1~1S-4 直列共振子(弾性波共振子の一例)
1P-1~1P-3 並列共振子(弾性波共振子の別の例)
1A 特定第1弾性波共振子(第1回路に直列に接続された第1弾性波共振子)
1B 特定第2弾性波共振子(第2回路に直列に接続された第2弾性波共振子)
2 圧電体層
2A 第1圧電体層
2B 第2圧電体層
3 IDT電極(第1IDT電極~第5IDT電極)
5 音響反射膜(第1音響反射膜~第2音響反射膜)
5a 低音響インピーダンス層
5b 高音響インピーダンス層
6 支持基板
32 電極指
100 フィルタ
FK 付加回路
K1 第1回路
K2 第2回路
MA 中空部