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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024163808
(43)【公開日】2024-11-22
(54)【発明の名称】エンジン再始動システム
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/06 20060101AFI20241115BHJP
   B60K 6/48 20071001ALI20241115BHJP
   B60K 6/54 20071001ALI20241115BHJP
   B60W 10/02 20060101ALI20241115BHJP
   B60W 20/00 20160101ALI20241115BHJP
   F02D 29/00 20060101ALI20241115BHJP
   F02D 29/02 20060101ALI20241115BHJP
   F02N 11/04 20060101ALI20241115BHJP
   F02N 11/08 20060101ALI20241115BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20241115BHJP
   F02D 17/00 20060101ALI20241115BHJP
【FI】
B60W10/06 900
B60K6/48 ZHV
B60K6/54
B60W10/02 900
B60W20/00 900
F02D29/00 C
F02D29/02 321A
F02N11/04 D
F02N11/08 K
F02D45/00 362
F02N11/08 L
F02D17/00 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023079708
(22)【出願日】2023-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】田中 悠一
【テーマコード(参考)】
3D202
3G092
3G093
3G384
【Fターム(参考)】
3D202AA08
3D202BB05
3D202BB37
3D202CC08
3D202CC12
3D202CC35
3D202CC37
3D202CC42
3D202DD07
3D202DD18
3D202DD45
3D202FF04
3D202FF12
3G092AC02
3G092CA01
3G092EA14
3G092FA03
3G092GA01
3G092HE01Z
3G092HF02Z
3G092HF12Z
3G092HF14Z
3G093AA07
3G093BA28
3G093CA02
3G093DB01
3G093DB10
3G093DB11
3G093DB19
3G093EA01
3G384AA28
3G384BA39
3G384BA43
3G384CA02
3G384DA03
3G384FA56Z
3G384FA66Z
3G384FA72Z
3G384FA73Z
(57)【要約】
【課題】エンジンと走行用モータを備えた車両において、エンジンの再始動を行う際に、ユーザによる操作性を向上することができるエンジン再始動システムを提供する。
【解決手段】エンジン10、トルクコンバータ16、エンジン切り離しクラッチ18、走行用モータ14及びトランスミッション20を備え、EVモードにてシフトレバー43が前進レンジである場合にロックアップクラッチ16aを締結し、後進レンジである場合に前記ロックアップクラッチを解放するエンジン再始動システム。該システムの制御部40は、前記EVモードで所定の要件を満たし且つ前記シフトレバーが前記後進レンジにある状況で、前記エンジンの回転数が所定値以上かつ完爆回転数未満である場合に、スタータモータ22によって前記エンジンの回転数を上昇させ、前記エンジンの回転数が前記所定値未満の場合に、前記スタータモータによる前記エンジンの再始動を停止する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンから駆動輪への動力伝達経路において、前記エンジン側から順に、トルクコンバータ、エンジン切り離しクラッチ、走行用モータ及びトランスミッションを備え、
前記走行用モータを駆動源として車両が走行するEVモードにて、
前記トランスミッションを操作するためのシフトレバーの位置が前進レンジである場合に、前記トルクコンバータに設けられたロックアップクラッチを締結し、前記シフトレバーの位置が後進レンジである場合に、前記ロックアップクラッチを解放するように構成され、
前記ロックアップクラッチが解放されている状態で、前記エンジンを補機バッテリに接続されたスタータモータによって始動可能なエンジン再始動システムにおいて、
前記車両が前記EVモードであって前記エンジンを再始動させる所定の要件を満たし且つ前記シフトレバーの位置が前記前進レンジにある状況で、前記エンジン切り離しクラッチを締結して前記走行用モータによって前記エンジンを再始動させる制御部を備え、
前記制御部は、前記EVモードであって前記所定の要件を満たし且つ前記シフトレバーの位置が前記後進レンジにある状況で、
前記エンジンの回転数が所定値以上かつ完爆回転数未満である場合に、前記スタータモータによって前記エンジンの回転数を上昇させ、前記エンジンの回転数が前記所定値未満の場合に、前記スタータモータによる前記エンジンの再始動を停止する、後進レンジ時エンジン再始動制御を行うことを特徴とするエンジン再始動システム。
【請求項2】
前記制御部は、前記シフトレバーの位置に基づいて予め設定されたガレージ操作が行われたと判定した場合に、前記EVモードであって前記所定の要件を満たし且つ前記シフトレバーの位置が前記後進レンジにある状況で、前記後進レンジ時エンジン再始動制御を行うことを特徴とする請求項1に記載のエンジン再始動システム。
【請求項3】
前記制御部は、前記後進レンジ時エンジン再始動制御において、前記エンジンの回転数が前記所定値未満の場合に、前記エンジン切り離しクラッチを締結して前記走行用モータによって前記エンジンを再始動する、又は、前記エンジンの再始動を停止することを特徴とする請求項2に記載のエンジン再始動システム。
【請求項4】
前記制御部は、前記後進レンジ時エンジン再始動制御において、前記エンジンの回転数が前記所定値未満の場合に、前記エンジン切り離しクラッチを締結して前記走行用モータによって前記エンジンを再始動し、該エンジンの回転数が前記所定値に達した際に、前記スタータモータによって前記エンジンの回転数を上昇させることを特徴とする請求項1又は2に記載のエンジン再始動システム。
【請求項5】
前記所定の要件は、前記走行用モータに接続された高電圧バッテリの充電量が所定の充電閾値以下になることであることを特徴とする請求項1又は2に記載のエンジン再始動システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン再始動システムに関し、特に、エンジンと走行用モータとを備えた車両に用いられるエンジン再始動システムに関する。
【0002】
エンジンとともに車両走行用のモータを駆動源として走行するハイブリッド車両は、エンジンの駆動力を走行用モータによってアシストすることによって、排気ガスを減少させるとともに、燃費を改善することができるという利点を有している。このようなハイブリッド車両においては、アクセル開度や車速などの車両の走行状態を検出してエンジンと走行用モータとの使用分担を制御することが行われている。
【0003】
ハイブリッド車両には、エンジンから駆動輪までの間において、エンジン側から順に、トルクコンバータ、エンジン切り離しクラッチ、走行用モータ、トランスミッションを配置した駆動系を備えるものがある。ここで、トルクコンバータは、滑らかなクラッチ機能とトルク増幅機能という2つの有利な点を有する反面、オイルを媒体として動力を伝達するため、摩擦クラッチなどの機械式クラッチに比べて動力伝達効率が低くなる。
【0004】
そこで、トルクコンバータにおいてトルク増幅効果が薄れる領域、すなわち、ポンプインペラとタービンランナの回転速度が近づくためにトルク増幅機能を必要としない領域においては、入出力軸を直結して高い動力伝達効率を確保している。具体的には、トルクコンバータにロックアップクラッチを設けて、ロックアップクラッチを締結することにより入出力軸を直結している。
【0005】
このようなハイブリッド車両では、走行モードが電気のみで走行するEVモードであって、且つトランスミッションを操作するためのシフトレバーの位置が前進レンジである場合、エンジンが停止している状態であっても、トルクコンバータのロックアップクラッチの締結を維持しておく制御が行われている。一方、走行モードがEVモードであって、且つシフトレバーの位置が後進レンジである場合には、ロックアップクラッチが解放される。
【0006】
ハイブリッド車両では、走行モードがEVモードにある場合に、走行用モータに電力を供給する高電圧バッテリの充電量(SOC)が低下すると、発電のためにエンジンを再始動させている。このような状況において、シフトレバーの位置が前進レンジである場合、ロックアップクラッチが締結されていることから、エンジン切り離しクラッチを締結することで、エンジンと走行用モータとを直結させて、エンジンを走行用モータの駆動力によって再始動させることができる。
【0007】
一方、シフトレバーの位置が後進レンジである場合には、ロックアップクラッチが解放状態にあるため、エンジン切り離しクラッチを締結しても、トルクコンバータでトルクが減衰されて、走行用モータの駆動力ではエンジンを完爆させることができなくなる。それ故、走行モードがEVモードであって、シフトレバーの位置が後進レンジである場合には、補機バッテリに接続されたエンジン始動用のスタータモータによって、エンジンを再始動させている。
【0008】
スタータモータに電力を供給する補機バッテリは、他の電装部品にも接続されており、スタータモータの使用により補機バッテリの電圧が低下すると、これに接続された電装部品の動作が一時的に不安定になることがある。それ故、従来のハイブリッド車両では、シフトレバーの位置が後進レンジの場合に、停車時に限定してスタータモータによるエンジンの再始動を行うようにしているが、ユーザによる操作性が低下するという問題がある。
【0009】
ユーザによる操作性を向上するために、特許文献1には、エンジンと走行用モータを備えた車両に搭載されるエンジンの再始動装置において、シフトレバーの位置が後進レンジにある場合に、エンジンの停止を禁止することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2000-320365号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1に記載のエンジン再始動装置では、シフトレバーが後進レンジの場合にエンジンを停止させないことで、ユーザによる操作性を向上させている。しかしながら、このエンジン再始動装置では、エンジンとトルクコンバータとの間に走行用モータが配置されていることから、エンジンと走行用モータとの間にトルクコンバータを配置した構成の車両には適用することができない。
【0012】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたもので、その目的は、エンジンと走行用モータを備えた車両において、エンジンの再始動を行う際に、ユーザによる操作性を向上することができるエンジン再始動システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明の一実施形態は、
エンジンから駆動輪への動力伝達経路において、前記エンジン側から順に、トルクコンバータ、エンジン切り離しクラッチ、走行用モータ及びトランスミッションを備え、
前記トルクコンバータに設けられたロックアップクラッチが解放されている状態で、前記エンジンを補機バッテリに接続されたスタータモータによって始動可能であって、
前記走行用モータを駆動源として車両が走行するEVモードにて、
前記トランスミッションを操作するためのシフトレバーの位置が前進レンジである場合に、前記トルクコンバータに設けられたロックアップクラッチを締結し、前記シフトレバーの位置が後進レンジである場合に、前記ロックアップクラッチを解放するように構成されたエンジン再始動システムにおいて、
前記車両が前記EVモードであって前記エンジンを再始動させる所定の要件を満たし且つ前記シフトレバーの位置が前記前進レンジにある状況で、前記エンジン切り離しクラッチを締結して前記走行用モータによって前記エンジンを再始動させる制御部を備え、
前記制御部は、前記EVモードであって前記所定の要件を満たし且つ前記シフトレバーの位置が前記後進レンジにある状況で、
前記エンジンの回転数が所定値以上かつ完爆回転数未満である場合に、前記スタータモータによって前記エンジンの回転数を上昇させ、前記エンジンの回転数が前記所定値未満の場合に、前記スタータモータによる前記エンジンの再始動を停止する、後進レンジ時エンジン再始動制御を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明のエンジン始動システムにエンジンと走行用モータを搭載した車両において、エンジンの再始動性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態に係るエンジン再始動システムの構成を示すブロック図である。
図2】車両をガレージに入れる動作を説明する図である。
図3】車両をガレージに入れる動作を説明する図である。
図4】エンジン再始動の動作を説明するフローチャート図である。
図5】本実施形態のエンジン再始動システムによってエンジンを再始動させた際のエンジン回転数の時間変化と、各時間におけるシフトレバーの位置を示すグラフである。
図6】従来のシステムによってエンジンを再始動させた際のエンジン回転数の時間変化と、各時間におけるシフトレバーの位置を示すグラフである。
図7】エンジン再始動の動作を説明するフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は本発明の本発明の一実施形態に係るエンジン再始動システム10の構成を示すブロック図である。本実施の形態では、一例として、車両を走行させる駆動源としてエンジン12と走行用モータ14とを備えた図2に示すハイブリッド車両50にエンジン再始動システムを搭載した例を示している。図2及び図3では、ハイブリッド車両50(以下、単に「車両50」とも称する)をガレージ52に入れる動作を示している。図1に示すように、車両50に搭載されるエンジン再始動システム10は、エンジン12から駆動輪Wへの動力伝達経路において、エンジン側から順に、トルクコンバータ16、エンジン切り離しクラッチ18、走行用モータ14、及び、トランスミッション20と、を備えており、トランスミッション20は、駆動輪Wに繋がっている。図1では、エンジン12をENG、トルクコンバータ16をTC、エンジン切り離しクラッチ18をCL、走行用モータ14をMG、トランスミッション20をTMと記載している。
【0017】
トルクコンバータ16は、クラッチ機能とトルク増幅機能を有する流体継ぎ手であり、エンジン12とエンジン切り離しクラッチ18との間に配置されている。トルクコンバータ16には、図示していない油圧制御機構から油圧の供給を受けて締結状態となって、入出力軸を直結するロックアップクラッチ16aが設けられている。
【0018】
エンジン切り離しクラッチ18は、車両50がEVモードで走行する場合、すなわち、エンジン12が停止された状態で走行用モータ14の駆動力のみで走行する場合に、エンジン12と走行用モータ14とを切り離すものである。
【0019】
ロックアップクラッチ16a及びエンジン切り離しクラッチ18は、油圧制御機構から供給される油圧によって締結状態と解放状態とに切り替えられる。
【0020】
走行用モータ14は、車両50の走行に必要な動力を発生するものである。走行用モータ14には、インバータ30を介して高電圧バッテリ28が接続されており、高圧バッテリ28供給される電力によって駆動される。高電圧バッテリ28には、例えばリチウムイオン電池などを用いることができる。高電圧バッテリ28からの直流電流は、インバータ30によって交流電流に変換されて走行用モータ14に供給される。
インバータ30は、制御装置40によって制御され、高電圧バッテリ28からの直流電圧を交流電圧に変換するか、または走行用モータ14からの交流電圧を直流電圧に変換する。
【0021】
トランスミッション20は、走行用モータ14の出力軸から入力される回転を車両50の走行状態に応じて所定の変速比で変速するものである。トランスミッション20には、例えば、変速比を無段階に変化させることができる無段変速機(CVT(Continuously Variable Transmission))を用いることができる。無段変速機は、駆動側のドライブプーリと従動側のドリブンプーリとの間に無端状の金属ベルトやチェーンを巻き掛けて構成されており、ドライブプーリとドリブンプーリに油圧によって作用する軸方向の推力を調整することによって、これらのドライブプーリとドリブンプーリへの金属ベルトなどの巻き掛け径を変化させて変速比を連続的に変化させる。なお、トランスミッション20には、複数の変速ギヤの噛み合いを変更して変速比を段階的に変化させる有段式のものを使用することもできる。
【0022】
図1に示すように、エンジン再始動システム10は、さらに、スタータモータ22と、補機バッテリ24とを備えるとともに、車両50の動作を制御する制御部であるECU(Electronic Control Unit)40を備えている。ECU40は制御装置の一例である。図1では、スタータモータ22をST、補機バッテリ24をABTと記載している。
【0023】
スタータモータ22は、エンジン12を始動するためのモータであり、補機バッテリ24から電力の供給を受けて駆動する。補機バッテリ24には、スタータモータ22の他に、車両50に搭載される電装部品26が電気的に接続されている。
【0024】
ECU40は、車両50の走行制御に係る各種演算処理を行う演算処理回路、及び、制御用のプログラムやデータが記憶されたメモリ等を備えた電子制御ユニットである。
【0025】
ECU40は、エンジン12及び走行用モータ14の駆動を制御する。ECU40は、例えばエンジン12のスロットル開度、点火時期、燃料噴射量等を制御することにより、エンジン12のトルクや回転数を制御する。また、ECU40は、図示していない油圧制御機構の制御を通じて、ロックアップクラッチ16a、エンジン切り離しクラッチ18及びトランスミッション20の駆動制御を行う。また、ECU40は、インバータ30を制御して、走行用モータ14と高電圧バッテリ28との間での電力の授受量を調整し、走行用モータ14の回転数やトルクを制御する。
【0026】
ECU40には、シフトポジションセンサ42、SOCセンサ44及びクランク角センサ46等から、センサ信号が入力される。シフトポジションセンサ42は、トランスミッション20を操作するためのシフトレバー43の位置を検出することで、選択されているシフトレンジ、具体的には、前進レンジ、後進レンジ、ニュートラルレンジ、パーキングレンジの何れであるかを検出する。SOCセンサ44は、高電圧バッテリ28の残量を検出する。
【0027】
クランク角センサ46は、エンジン12のクランクシャフトの回転速度を検出する。ECU40は、クランク角センサ46の出力によって検出されたクランクシャフトの回転位置の変化からエンジン12の回転数を算出する
【0028】
ECU40は、ハイブリッド車両50を電気走行モード(以下、「EVモード」とも称する)と、ハイブリッド走行モードとで走行させることができる。EVモードでは、ECU40は、エンジン切り離しクラッチ18を解放し、走行用モータ14を車両走行用の駆動源とする。ハイブリッドモードでは、エンジン切り離しクラッチ18及びロックアップクラッチ16aを締結して、少なくともエンジン12を駆動源として走行することができる。また、ハイブリッドモードでは、エンジン12により走行用モータ14を回生運転させることにより、発電しながらエンジン12を走行用駆動力源として走行することができる。
【0029】
上述したエンジン再始動システム10では、トルクコンバータ16のロックアップクラッチ16aが締結されている状態では、エンジン切り離しクラッチ18を締結することで、エンジン12を走行用モータ14によって始動する、すなわち、エンジン12を完爆回転数まで到達させることができる。また、ロックアップクラッチ16aが解放されている状態では、走行用モータ14によってエンジン12を完爆回転数まで到達させることができないため、スタータモータ22によってエンジン12を完爆回転数まで到達させる。
【0030】
本実施の形態のエンジン再始動システム10を搭載したハイブリッド車両50では、車両50がEVモードである場合に、エンジン12を再始動させるための所定の要件が満たされると、ECU40がエンジン12を再始動させる制御を実施する。本実施の形態では、所定の要件をSOCセンサ44により検出された高電圧バッテリ28の充電量が所定の充電閾値以下となることとしている。ECU40は、SOCセンサ44により検出された高電圧バッテリ28の充電量が所定の充電閾値以下となると、高電圧バッテリ28の充電のためにエンジン12を再始動させる。エンジン12を再始動するための制御は、シフトポジションセンサ42が検出したシフトレバー43の位置が、前進レンジ又は後進レンジの場合に実施される。
【0031】
図2に示すように、車両50をガレージ52に入れる場合、車両50を、車両50Aの位置から、前進レンジで車両50Bの位置へ移動させ、さらに、後進レンジで車両50Dの位置へ移動させる。また、車両50を一度でガレージ52へ入れることが出来ない場合には、さらに、図3において車両50C及び車両50Dに示すように、車両50を前後に移動させる操作が行われる。このような状況で、シフトレバー43が後進レンジにあり、スタータモータ22によってエンジン12を再始動させようとすると、再始動の開始時にスタータモータ22に接続された補機バッテリ24の電圧が瞬間的に低下する。補機バッテリ24には他の電装部品26が接続されているため、補機バッテリ24が電圧低下すると、電装部品26の動作が不安定になることがある。本実施の形態のエンジン再始動システム10では、車両50が移動している状況、すなわち、シフトレバー43が前進レンジ又は後進レンジにある状況において、電装部品26の動作が不安定になることを防止するため、ロックアップクラッチ16aが解放される後進レンジである場合に、以下に説明するように、スタータモータ22を補助的に活用するように制御している。
【0032】
次に、上述したエンジン再始動システム10によって車両50がEVモードの場合に実施されるエンジン再始動の動作について説明する。図4は、車両50がEVモードの場合にエンジン再始動システム10が実施するエンジン再始動の動作を説明するフローチャート図である。
【0033】
まず、ECU40は、SOCセンサ44からの信号に基づいて、高電圧バッテリ28の充電量が所定の充電閾値以下であるか否かを判定する(ステップS10)。充電量が所定の充電閾値を超えている場合(ステップS10:No)には、エンジン12の再始動を実施せずに終了する。充電量が所定の充電閾値以下の場合(ステップS10:Yes)、シフトポジションセンサ42が検出したシフトレバー43の位置が前進レンジ(Dレンジ)であるか、後進レンジ(Rレンジ)であるかを判定する(ステップS12)。
【0034】
シフトレバー43の位置が前進レンジ(Dレンジ)である場合(ステップS12:Yes)、既述のとおり、トルクコンバータ16のロックアップクラッチ16aは締結状態にある。ECU40は、この状態で、さらにエンジン切り離しクラッチ18を締結させ、走行用モータ14によってエンジン12を再始動させる(ステップS17)。
【0035】
ステップS12において、検出したシフトレバー43の位置が後進レンジ(Rレンジ)である場合(ステップS12:No)、既述のとおり、トルクコンバータ16のロックアップクラッチ16aは解放状態にある。この際、ECU40は、クランク角センサ46からの信号に基づき、エンジン12の回転数が、完爆回転数よりも小さい予め設定された所定値以上であるか否かを判定する(ステップS14)。ここで、判定の基準となるエンジン回転数の所定値は、例えば、完爆回転数が800~1000(rpm)の場合に、200~300(rpm)の範囲とすることができる。
【0036】
ステップS14において、エンジン12の回転数が、所定値未満の場合(ステップS14:No)、ECU40は、ロックアップクラッチ16aが解放で、エンジン切り離しクラッチ18を締結させ、走行用モータ14によってエンジン12を再始動させる(ステップS17)。ロックアップクラッチ16aが解放状態である場合、走行用モータ14ではエンジン12を完爆回転数まで到達させることはできないが、エンジン回転数をステップS14の判定基準となる所定値まで回転させることができる。この場合には、再びステップS11に戻って、制御をリスタートさせる。
【0037】
ステップS14において、エンジン12の回転数が、所定値以上の場合(ステップS14:Yes)、ECU40は、スタータモータ22を作動させてエンジン12の回転数を上昇させる。これによって、エンジン12を完爆回転数まで到達させることができる。
【0038】
上述したように、エンジン再始動システム10では、ハイブリッド車両50がEVモードである状況で、高電圧バッテリ28の充電量が所定の充電閾値以下となってエンジン12を再始動させる場合に、シフトレバー43の位置が後進レンジにある状況では、エンジン12の回転数が所定値以上であるか否かによって、スタータモータ22を作動させるか停止させるか判定する後進レンジ時エンジン再始動制御を行うことで、補機バッテリ24の電圧が瞬間的に低下して他の電装部品26に影響を与えることを防止することができる。
【0039】
具体的には、図5に示すように、エンジン回転数が所定値未満である場合には、前進レンジ(Dレンジ)であっても、後進レンジ(Rレンジ)であっても走行用モータ14によってエンジン12の再始動が実施される。その後、エンジン回転数が所定値以上となった場合に、後進レンジであれば、スタータモータ22を作動させて、エンジン回転数を完爆回転数Rまで上昇させることができる。このように、後進レンジ時におけるエンジン12の再始動において、スタータモータ22を補助的に活用することで、エンジン再始動の開始時、すなわち、エンジン12の回転数が零から立ち上がる際に、スタータモータ22の使用によって補機バッテリ24の電圧が瞬間的に大きく低下する事態を回避することができる。これにより、電装部品26の動作を安定させながら、車両50を停止させることなくエンジン12を再始動させることができる。
【0040】
また、従来のシステムでは、補機バッテリ24の電圧低下にともなう電装部品26の不具合を防止するために、後進レンジの場合に、停車時に限って、エンジン再始動を行っていた。具体的には、車両50が移動している状況では、図6に示すように、前進レンジ(Dレンジ)である場合のみ、エンジン再始動が行われており、その後、後進レンジ(Rレンジ)となった場合には、スタータモータ22による再始動が行われずに、エンジン12が失速していた。これに対し、本実施の形態のエンジン再始動システム10では、後進レンジにおいて、車両50を停止させることなく、エンジン12を再始動させることができるので、ユーザの操作性を向上させることができる。
【0041】
次に、上述したエンジン再始動システム10によって車両50がEVモードの場合に実施されるエンジン再始動の動作の他の実施の形態について説明する。本実施の形態では、ECU40が、シフトポジションセンサ42によるシフトレバー43の位置に基づいて、予め設定されたガレージ操作が行われたと判定した場合に、エンジン12の回転数によって、スタータモータ22によるエンジン再始動を実施するか否かを判定する後進レンジ時エンジン再始動制御を行うようにしている。
【0042】
図7は、車両50がEVモードの場合にエンジン再始動システム10が実施するエンジン再始動の動作を説明するフローチャート図である。車両50がEVモードである場合、ECU40は、まず、シフトレバー43の位置に基づいて予め設定されたガレージ操作が行われたか否かを判定する(ステップS20)。シフトレバー43の位置は、シフトポジションセンサ42からの信号によって検出される。本実施の形態では、比較的短い所定の時間内に、「前進レンジ、後進レンジ及び前進レンジ」の順でシフト操作が行われた場合に、ガレージ操作が行われたと判定する。
【0043】
ステップS20において、ガレージ操作が行われたと判定された場合、続くステップS21へ移行する。図7のフローチャートにおける、ステップS21、ステップS22、ステップS24、ステップS25、及び、ステップS27のそれぞれは、図4のフローチャートにおけるステップS11、ステップS12、ステップS14、ステップS16、及び、ステップS17のそれぞれと同様であるため、ここでは詳細を省略する。
【0044】
なお、図7に示すフローチャートのステップS24では、エンジン12の回転数が、所定値未満の場合(ステップS24:No)に、ECU40は、走行モータ14によるエンジン再始動を行わずに、処理を終了させてもよい。この場合、エンジン12の再始動が完了する、又は、車両50のシフトレバー43がパーキングレンジとなるまで、ステップS22へ戻る手順を繰り返すことができる。これにより、車両50が後進レンジから前進レンジへ切り替わった場合には、走行用モータ14によってエンジン12を再始動させることができ、車両50が後進レンジからパーキングレンジに切り替わって停車した場合には、エンジン12を再始動する必要がないため、再始動制御を終了させることができる。
【0045】
なお、ステップS20において、ガレージ操作がないと判定された状態で、高電圧バッテリ28の充電量が所定の充電閾値以下となり、エンジン12の再始動を行う場合、前進レンジが選択されている状況では、走行用モータ14によって再始動を行うことができる。また、後進レンジが選択されている状況では、停車時に限定して、スタータモータ22によりエンジン12を再始動させ、車両50の移動時には再始動させない構成とすることができる。
【0046】
なお、本発明は上述した実施の形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0047】
10 エンジン再始動システム
12 エンジン
14 走行用モータ
16 トルクコンバータ
16a ロックアップクラッチ
18 エンジン切り離しクラッチ
20 トランスミッション
22 スタータモータ
24 補機バッテリ
28 高電圧バッテリ
30 インバータ
40 ECU
42 シフトポジションセンサ
43 シフトレバー
44 SOCセンサ
46 クランク角センサ
50 車両
52 ガレージ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7