(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024163838
(43)【公開日】2024-11-22
(54)【発明の名称】回転機及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H02K 1/22 20060101AFI20241115BHJP
H02K 55/04 20060101ALI20241115BHJP
【FI】
H02K1/22 Z
H02K55/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023193661
(22)【出願日】2023-11-14
(31)【優先権主張番号】10-2023-0061586
(32)【優先日】2023-05-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(71)【出願人】
【識別番号】591251636
【氏名又は名称】現代自動車株式会社
【氏名又は名称原語表記】HYUNDAI MOTOR COMPANY
【住所又は居所原語表記】12, Heolleung-ro, Seocho-gu, Seoul, Republic of Korea
(71)【出願人】
【識別番号】500518050
【氏名又は名称】起亞株式会社
【氏名又は名称原語表記】KIA CORPORATION
【住所又は居所原語表記】12, Heolleung-ro, Seocho-gu, Seoul, Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100198029
【弁理士】
【氏名又は名称】綿貫 力
(72)【発明者】
【氏名】ジャン、ヒョンクワン
(72)【発明者】
【氏名】イ、テギュ
(72)【発明者】
【氏名】ミン、ビョンホ
(72)【発明者】
【氏名】ホン、ウンピョ
【テーマコード(参考)】
5H601
【Fターム(参考)】
5H601AA05
5H601CC01
5H601CC15
5H601CC30
5H601HH21
(57)【要約】 (修正有)
【課題】超電導モータ等のような回転機において、固定子と回転子との間の空隙を減らして出力を極大化する。
【解決手段】本発明は、例えば、超電導モータ等のような回転機において、固定子と回転子との間の空隙を減らして出力を極大化することができる回転機及びその製造方法に関するものであって、回転機は、固定子と、上記固定子と空隙を挟んで配置されて回転可能な回転子と、互いに対向する上記固定子の第1対向面及び上記回転子の第2対向面のうち少なくとも一つに形成されたコーティング層と、を含むことができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定子と、
前記固定子と空隙を挟んで配置されて回転可能な回転子と、
互いに対向する前記固定子の第1対向面及び前記回転子の第2対向面のうち少なくとも一つに形成されたコーティング層と、を含む、回転機。
【請求項2】
前記固定子は、固定子コアと、前記固定子コアに巻線されたコイルとを含み、
前記回転子は、回転子コアと、前記回転子コアに挿入された複数の磁石とを含み、
前記固定子コアの内周面が前記第1対向面として作用し、前記回転子コアの外周面が前記第2対向面として作用する、請求項1に記載の回転機。
【請求項3】
前記回転子コアの外周部には、放射状の外側に突出し、前記回転子コアの円周方向に沿って離隔して配列された複数の突出部が形成され、
各突出部は湾曲面を含み、
前記固定子コアの内周面が前記第1対向面として作用し、前記湾曲面が前記第2対向面として作用する、請求項2に記載の回転機。
【請求項4】
前記回転子コアの外周部に嵌合固定されて結合されたスリーブをさらに含み、
前記固定子コアの内周面が前記第1対向面として作用し、前記スリーブの外周面が前記第2対向面として作用する、請求項2又は3に記載の回転機。
【請求項5】
前記スリーブの外周面は、Ra0.05μm以下の表面粗さを有する、請求項4に記載の回転機。
【請求項6】
前記コーティング層は、非金属系材料で形成されている、請求項1に記載の回転機。
【請求項7】
前記コーティング層は、炭素を含有した炭素系コーティング層を含む、請求項6に記載の回転機。
【請求項8】
前記コーティング層は、ダイヤモンド状炭素(Diamond-Like Carbon)コーティングにより形成されている、請求項7に記載の回転機。
【請求項9】
前記コーティング層の厚さは、1μm~100μmの範囲を有する、請求項1に記載の回転機。
【請求項10】
前記固定子と前記回転子との間の距離dは、0.01mm~1mmの範囲を有する、請求項9に記載の回転機。
【請求項11】
前記固定子と前記回転子との間の空隙内には潤滑油が充填されている、請求項1に記載の回転機。
【請求項12】
固定子コア及び回転子コアを準備する段階と、
前記固定子コア及び/又は前記回転子コアを洗浄する段階と、
互いに対向する前記固定子コアの第1対向面及び前記回転子コアの第2対向面のうち少なくとも一つにコーティング層を形成する段階と、を含む、回転機の製造方法。
【請求項13】
前記第1対向面として作用する前記固定子コアの内周面及び/又は前記第2対向面として作用する前記回転子コアの外周面が、所定値の表面粗さを有するように研磨される段階をさらに含む、請求項12に記載の回転機の製造方法。
【請求項14】
前記回転子コアの外周部にスリーブが嵌合固定されて結合される段階をさらに含み、
前記コーティング層は、前記固定子コアの内周面及び/又は前記スリーブの外周面のうち少なくとも一つに形成される、請求項12に記載の回転機の製造方法。
【請求項15】
前記固定子コアにコイルを巻線し、前記回転子コアに着磁された磁石を挿入する段階と、
固定子及び回転子を組み立てる段階と、をさらに含む、請求項12に記載の回転機の製造方法。
【請求項16】
前記回転子コアに着磁された磁石を挿入する段階は、前記回転子コアに前記コーティング層が形成された後に行われる、請求項15に記載の回転機の製造方法。
【請求項17】
前記回転子コアに着磁された磁石を挿入する段階は、前記回転子コアに未着磁の磁石が挿入され、前記コーティング層が形成された後に前記磁石を着磁させる、請求項15に記載の回転機の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、超電導モータ等のような回転機において、固定子と回転子との間の空隙を減らして出力を極大化できるようにした回転機及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、超電導モータ等のような回転機の内部には固定子と回転子が設けられる。誘導電流の生成、又は磁力による回転力の生成のために、固定子にはコイルが備えられ、回転子には磁石が備えられる。
【0003】
回転機の回転子が円滑に回転するためには、固定子との摩擦が生じてはならないため、固定子と回転子との間に空隙が存在する。空隙の放射状の長さ、すなわち、固定子と回転子との間の距離は、回転機の容量と大きさ、作製性、使用環境、冷却性能などを考慮して決定される。
【0004】
しかしながら、そのような空隙は、回転機の出力と性能を制限する要素として作用する。言い換えれば、空隙が大きくなるほど、固定子と回転子との間の磁力が減少し、出力が減少する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、例えば、超電導モータ等のような回転機において、固定子と回転子との間の空隙を減らして出力を極大化することができる回転機及びその製造方法を提供することにその目的がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る回転機は、固定子と、上記固定子と空隙を挟んで配置されて回転可能な回転子と、互いに対向する上記固定子の第1対向面及び上記回転子の第2対向面のうち少なくとも一つに形成されたコーティング層と、を含むことができる。
【0008】
上記固定子は、固定子コアと、上記固定子コアに巻線されたコイルを含み、上記回転子は、回転子コアと、上記回転子コアに挿入された複数の磁石とを含み、上記固定子コアの内周面が上記第1対向面として作用し、上記回転子コアの外周面が上記第2対向面として作用することができる。
【0009】
上記回転子コアの外周部には、放射状の外側に突出し、上記回転子コアの円周方向に沿って離隔して配列された複数の突出部が形成され、各突出部は湾曲面を含み、上記固定子コアの内周面が上記第1対向面として作用し、上記湾曲面が上記第2対向面として作用することができる。
【0010】
上記回転機は、上記回転子コアの外周部に嵌合固定されて結合されたスリーブをさらに含み、上記固定子コアの内周面が上記第1対向面として作用し、上記スリーブの外周面が上記第2対向面として作用することができる。
【0011】
上記スリーブの外周面は、Ra0.05μm以下の表面粗さを有することができる。
【0012】
上記コーティング層は、非金属系材料で形成されることができる。
【0013】
上記コーティング層は、炭素を含有した炭素系コーティング層を含むことができる。
【0014】
上記コーティング層は、ダイヤモンド状炭素(Diamond-Like Carbon)コーティングによって形成されることができる。
【0015】
上記コーティング層の厚さは、1μm~100μmの範囲を有することができる。
【0016】
上記固定子と上記回転子との間の距離dは、0.01mm~1mmの範囲を有することができる。
【0017】
上記固定子と上記回転子との間の空隙内には、潤滑油が充填されることができる。
【0018】
本発明に係る回転機の製造方法は、固定子コア及び回転子コアを準備する段階と、上記固定子コア及び/又は上記回転子コアを洗浄する段階と、互いに対向する上記固定子コアの第1対向面及び上記回転子コアの第2対向面のうち少なくとも一つにコーティング層を形成する段階と、を含むことができる。
【0019】
上記回転機の製造方法は、上記第1対向面として作用する上記固定子コアの内周面及び/又は上記第2対向面として作用する上記回転子コアの外周面が所定値の表面粗さを有するように研磨される段階をさらに含むことができる。
【0020】
上記回転機の製造方法は、上記回転子コアの外周部にスリーブが嵌合固定されて結合される段階をさらに含み、上記コーティング層は、上記固定子コアの内周面及び/又は上記スリーブの外周面のうち少なくとも一つに形成されることができる。
【0021】
上記回転機の製造方法は、上記固定子コアにコイルを巻線し、上記回転子コアに着磁された磁石を挿入する段階と、固定子及び回転子を組み立てる段階と、をさらに含むことができる。
【0022】
上記回転子コアに着磁された磁石を挿入する段階は、上記回転子コアに上記コーティング層が形成された後に行われることができる。
【0023】
上記回転子コアに着磁された磁石を挿入する段階は、上記回転子コアに未着磁の磁石が挿入され、上記コーティング層が形成された後に上記磁石を着磁させることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の実施形態によれば、固定子と回転子との間にコーティング層を配置することにより、固定子と回転子との間の空隙を減らして回転機の出力を極大化することができる効果が得られる。
【0025】
また、本発明の実施形態によれば、出力が増加するにつれて回転機のサイズを小さくすることができるため、回転機のコストを削減することができ、コーティング層により、回転機の損傷又は破損を防止することができ、回転機の商品性及び信頼性を向上できる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る回転機を示す図である。
【
図2】本発明の第2実施形態に係る回転機を示す図である。
【
図3】本発明の第2実施形態に係る回転機において、コーティング前の回転子(a)と、コーティング後にコーティング層が形成されたスリーブを備えた回転子(b)を示す写真である。
【
図4】本発明に係る回転機の製造方法を示すフローチャートである。
【
図5】従来技術に係る回転機と本発明に係る回転機の出力試験結果を比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を例示的な図面を通じて詳細に説明する。各図面の構成要素に参照符号を付加するにあたり、同一の構成要素については、例え、他の図面上に表示されていても可能な限り同一の符号を付していることに留意すべきである。
【0028】
図1は、本発明の第1実施形態に係る回転機を示す図である。
【0029】
本発明の第1実施形態に係る回転機は、固定子10、回転子20及びコーティング層30を含むことができる。
【0030】
固定子10は、固定子コア11と、固定子コアに巻線されるコイル12とを含む。固定子は、シャフト40が貫通可能な形態になっていてもよく、回転機のハウジング(図示せず)に固定されるように支持されることができる。
【0031】
しかし、固定子10の固定及び配置関係は必ずしも上述の例に限定されず、例えば、シャフト40が固定され、固定子がシャフトの外周面に固定されて結合されてもよい。
【0032】
固定子コア11は、電磁鋼板を所定の形状に成形した固定子コア板が複数備えられ、複数の固定子コア板が軸方向に積層されて形成されることができる。
【0033】
固定子コア11は、中央に回転子20が収容可能であるように軸方向に延びて形成された回転子収容孔13を含むことができる。また、固定子コアは、回転子収容孔の周りに交互に形成された複数のスロット14及び複数のポール(Pole)15を含むことができる。
【0034】
複数のポール15が固定子コア11の円周方向に沿って同じ間隔で配置されることができ、互いに隣接した2つのポールの間にスロット14が形成されることができる。
【0035】
コイル12は、両側のスロット14においてポール15の周りに巻線される。固定子コア11のポールごとにコイルが巻線されることにより固定子10を構成することができる。
【0036】
回転子20は、回転子コア21と、回転子コアに挿入される複数の磁石22とを含む。回転子は、シャフト40が貫通した状態でシャフトの外周面に固定されて結合されることができ、固定子10の回転子収容孔13に収容されてシャフトと共に回転することができる。
【0037】
この場合、シャフト40は回転子20と共に回転し、回転子の回転力を外部に伝達するか、又は外部から印加されることができる。
【0038】
しかし、回転子20の配置関係は、必ずしも上述の例に限定されず、例えば、固定子10がシャフト40の外周面に固定されて結合され、回転子が固定子を囲んで固定子の周りを回転するように配置されてもよい。
【0039】
回転子コア21には、電磁鋼板を所定の形状に成形した回転子コア板が複数備えられ、複数の回転子コア板が軸方向に積層されて形成されることができる。
【0040】
回転子コア21は、中央にシャフト40が挿入可能であるように軸方向に延びて形成されたシャフト挿入孔23を含むことができる。また、回転子コアは、シャフト挿入孔の周りに形成され、磁石22が挿入される複数の磁石挿入孔24を含むことができる。
【0041】
例えば、回転子コア21は環状に形成され、回転子コアの内周部にシャフト40が挿入及び貫通され、回転子コアの外周部に複数の磁石22が挿入及び配列されることができる。
【0042】
複数の磁石挿入孔24は、同じ形状に形成され、互いに離隔しながら回転子コア21の円周方向に沿って同じ間隔で配列されることができる。
【0043】
磁石22は、磁石挿入孔24の断面形状に対応する断面形状を有するように形成されてもよく、複数の磁石も同じ形状に形成されてもよい。回転子コア21の磁石挿入孔ごとに磁石が挿入及び配列されることにより、回転子20を構成することができる。
【0044】
固定子10と回転子20との間に空隙31が存在する。しかし、空隙を増加させると、固定子と回転子との間の磁力が減少し、回転機の電気的な出力又は機械的なトルクの出力が減少する。
【0045】
コーティング層30は、互いに対向する固定子10の第1対向面及び回転子20の第2対向面のうち少なくとも一つに形成されることができる。言い換えれば、固定子と回転子間の互いに摩擦する領域にコーティング層が形成されることができる。
【0046】
例えば、回転子20が固定子10の回転子収容孔13に収容されてシャフト40と共に回転するように構成された場合、固定子コア11の内周面が第1対向面として作用し、回転子コア21の外周面が第2対向面として作用することができる。
【0047】
コーティング層30は、例えば、非金属系材料で形成された層で構成されることができる。非金属系材料としては、酸化アルミニウム、窒化ケイ素、酸化ケイ素、窒化メタンなどのセラミック系、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂などの樹脂系、そしてダイヤモンド状炭素(Diamond-Like Carbon、以下DLCという)、シリコン含有DLC、四面体非晶質炭素(Tetrahedral Amorphous Carbon)などの炭素系を含むことができる。
【0048】
セラミックコーティングは、金属酸化物系バインダー(Binder)と無機質フィラー(Filler)とを均一に分散させて液化した後、対向面に塗布し、低温や高温で加熱処理することにより無機質膜を形成することができる。
【0049】
樹脂コーティングは、樹脂の殆どを塗料化して噴霧又は塗布した後、一定温度で加熱焼成すると、不活性のコーティング層が形成されることができる。しかし、これに限定されず、例えば、コーティングされる表面を火炎プラズマ処理し、当該表面に樹脂溶液を塗布した後、紫外線を照射してコーティング層を形成することもできる。
【0050】
本発明の第1実施形態に係る回転機は、固定子10の第1対向面と回転子20の第2対向面のうち少なくとも一つに炭素系コーティング層30が形成されることができる。炭素の含有量によって硬度、摩擦係数、耐熱性などの特性が異なるため、使用環境に適したコーティング層を形成すればよい。
【0051】
より具体的に、炭素系コーティング層30のうち代表的なDLCコーティングは、ダイヤモンドの主成分である炭素成分のガスを用いて真空状態でプラズマを発生させることにより、固定子及び/又は回転子の対向面に炭素膜を蒸着させて形成することができる。当該対向面にはダイヤモンドと類似の構造の炭素膜が形成され、炭素膜は非晶質構造を有することになる。
【0052】
DLCコーティングの形成方法としては、物理的蒸着法(PVD、Physical Vaper Deposition)、プラズマ強化化学気相蒸着法(PECVD、Plasma Enhanced Chemical Vapor Deposition)、プラズマ補助化学気相蒸着法(PACVD、Plasma Assisted Chemical Vapor Deposition)などが使用されることができる。コーティング時の温度は約150℃~500℃の範囲を有することができる。
【0053】
DLCコーティングによるコーティング層30は、高い硬度と高い防水性、そして低い摩擦係数と低い伝導性を有することができる。
【0054】
コーティング層30の厚さは約1μm~100μmの範囲を有することができる。例えば、コーティング層の厚さが1μm未満であると、コーティング層が薄すぎてコーティング層の耐久性が低下し、容易に損傷又は破損するおそれがある。一方、コーティング層の厚さが100μmを超えると、コーティング層の厚さが増加するほど潤滑性は向上するものの、コーティング層の均一度が低下し、厚さ偏差が増加して潤滑性に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0055】
固定子10の第1対向面及び回転子20の第2対向面のうち少なくとも一つにコーティング層30が形成されることにより、空隙31の放射状の長さ、すなわち、固定子と回転子との間の距離dは約0.01mm~1mmの範囲を有することができる。
【0056】
選択的に、固定子10と回転子20との間の空隙内には潤滑性能及び/又は冷却性能を向上させるために潤滑油が充填されてもよい。加圧されて供給された潤滑油は、空隙内でシャフトの軸方向に沿って流動しながら、固定子又は回転子と熱交換し、固定子又は回転子を冷却させることができる。また、潤滑油は、空隙内に潤滑膜を形成することにより、固定子と回転子との間の摩擦を緩和させることができ、これにより回転機を冷却させる効果を得ることができる。
【0057】
このようなコーティング層30が適用された固定子10及び/又は回転子30の対向面では、摩擦が減少し、摩耗及び損傷を防止することができる。さらに、固定子と回転子との間の空隙31を最小化することができ、ほとんど空隙のない無空隙の回転機を提供することができる。
【0058】
例えば、回転機がモータである場合に、固定子10と回転子20との間の空隙31が最小化されると、シャフト40の中心である原点から空隙の中間部までの距離である空隙直径が増加し、これによって、磁石22による鎖交磁束が増大し、これに伴って機械的なトルク出力を増大させることができる。
【0059】
図2は、本発明の第2実施形態に係る回転機を示す図であり、
図3は、本発明の第2実施形態に係る回転機において、コーティング前の回転子(a)と、コーティング後にコーティング層が形成されたスリーブを備えた回転子(b)を示す写真である。
【0060】
本発明の第2実施形態に係る回転機は、固定子10、回転子20、スリーブ50及びコーティング層30を含むことができる。
【0061】
図2に示す第2実施形態は、回転子コア21の形状と、スリーブ50が付加された点のみが異なり、残りの構成要素は第1実施形態の構成要素と同様である。そこで、第2実施形態の回転機を説明するにあたり、上述した第1実施形態に係る回転機と同一の構成要素については、同一の符号を付し、その構成及び機能に対する詳細な説明は省略する。
【0062】
回転子20は、回転子コア21と、回転子コアに挿入される複数の磁石22とを含む。回転子は、シャフト40が貫通した状態でシャフトの外周面に固定されて結合されることができ、固定子10の回転子収容孔13に収容されてシャフトと共に回転することができる。
【0063】
回転子コア21は、電磁鋼板を所定の形状に成形した回転子コア板が複数備えられ、複数の回転子コア板が軸方向に積層されて形成されることができる。
【0064】
回転子コア21は、中央にシャフト40が挿入可能であるように軸方向に延びて形成されたシャフト挿入孔23を含むことができる。また、回転子コアは、シャフト挿入孔の周りに形成され、磁石22が挿入される複数の磁石挿入孔24を含むことができる。
【0065】
例えば、回転子コア21は環状に形成され、回転子コアの内周部にシャフト40が挿入及び貫通され、回転子コアの外周部に複数の磁石22が挿入及び配列されることができる。
【0066】
複数の磁石挿入孔24は、同じ形状に形成され、互いに離隔しながら回転子コア21の円周方向に沿って同じ間隔で配列されることができる。
【0067】
磁石22は、磁石挿入孔24の断面形状に対応する断面形状を有するように形成されることができ、複数の磁石も同じ形状に形成されることができる。回転子コア21の磁石挿入孔ごとに磁石が挿入及び配列されることにより、回転子20を構成することができる。
【0068】
選択的に、回転子コア21の外周部には複数の突出部25が形成されてもよい。複数の突出部は、回転子コアの円周方向に沿って同じ間隔で配列されてもよい。
【0069】
各突出部25は、回転子コア21の外周先端から放射状の外側に突出するように形成されてもよく、各突出部において回転子コアの中心から離れた遠位面は略円弧状の湾曲面26で形成されてもよい。互いに隣接した2つの突出部の間に溝部27が形成されてもよい。
【0070】
また、複数の磁石挿入孔が設けられた場合に、磁石挿入孔24と突出部25とが一つずつ対応するように設置することができる。これにより、各突出部には少なくとも一つの磁石22が配置されることができる。
【0071】
回転子コアが突極構造を有するように形成されると、各突出部25の湾曲面26を第2対向面とすることができる。
【0072】
このように、回転子コア21が突極構造を有するように形成されると、全円状(Whole Circle Shape)の回転子コアに比べて、回転子極間の磁場漏洩が防止でき、回転子コアの効率が向上できるという利点を有する。
【0073】
スリーブ50は、両側が開放された略円形断面の管状部材であって、例えば、ステンレス鋼やニッケル等のような金属で作製されることができる。
【0074】
スリーブ50は、回転子コア21の外周部に嵌合固定されて結合されることができる。また、回転子コアが突極構造を有するように形成されると、スリーブは、各突出部25の湾曲面26に接しながら嵌合固定されて結合されることができる。
【0075】
このように、スリーブ50が回転子コア21に固定して装着された場合に、固定子コア11の内周面が第1対向面として作用し、スリーブ50の外周面が第2対向面として作用することができる。すなわち、コーティング層30は、互いに対向する固定子10の内周面及び/又は回転子20を構成するスリーブの外周面のうち少なくとも一つに形成されることができる。
【0076】
例えば、回転子コア21の外周面にDLCコーティング等のような炭素系コーティング層30を形成するためには、当該表面に所定値以下の表面粗さが要求される。電磁鋼板が積層されて形成された回転子コアに直接DLCコーティング等のような炭素系コーティング層を形成しにくい場合がある。
【0077】
そこで、本発明の第2実施形態に係る回転機では、約0.2mm程度の厚さを有して少なくとも外周面が、例えばRa0.05μm以下の表面粗さを有するスリーブ50を別途製造し、スリーブを回転子コア21に固定して装着した後、スリーブの外周面にDLCコーティング等のような炭素系コーティング層30を形成することができる。
【0078】
また、回転子コア21に突極構造が採択された場合、各突出部25の湾曲面26にのみDLCコーティング等のような炭素系コーティング層50を形成しようとすると、コーティングがかなり煩雑で必要とされる工数及び時間が増加する。
【0079】
そこで、本発明の第2実施形態に係る回転機では、全円状の閉断面を有するスリーブ50を別途製造し、スリーブを回転子コア21に固定して装着した後、スリーブの外周面にDLCコーティング等のような炭素系コーティング層30を形成することにより、少なくともコーティングに要される工数及び時間を削減することができる。
【0080】
このように、スリーブ50を介してコーティング層30が適用された固定子10と回転子20との間の空隙31では、摩擦が減少し、摩耗及び損傷を防止することができる。さらに、固定子と回転子との間の空隙を最小化することができ、ほとんど空隙のない無空隙の回転機を提供することができる。
【0081】
図4は、本発明に係る回転機の製造方法を示すフローチャートである。
【0082】
本発明に係る回転機の製造方法は、固定子コア11及び回転子コア21を準備する段階S10と、固定子コア及び回転子コアを洗浄する段階S30と、固定子コアの第1対向面及び回転子コアの第2対向面のうち少なくとも一つにコーティング層30を形成する段階S50と、を含むことができる。
【0083】
固定子コア11は、電磁鋼板からなる複数の固定子コア板を軸方向に積層して形成されることにより準備することができ、回転子コア21は、電磁鋼板からなる複数の回転子コア板を軸方向に積層して形成されることにより準備することができる(S10)。
【0084】
固定子コア11は、回転子収容孔13と、複数のスロット14及び複数のポール15を含むことができる。回転子コア21は、シャフト挿入孔23と複数の磁石挿入孔24とを含むことができる。
【0085】
選択的に、少なくともコーティングされる表面、すなわち、第1対向面として作用する固定子コア11の内周面及び/又は第2対向面として作用する回転子コア21の外周面が所定値の表面粗さを有するように研磨されてもよい(S20)。
【0086】
次に、コーティングの際、複数の固定子コア板の間又は複数の回転子コア板の間で異物が流出することを防止するために、各コア11、21は、例えば、アルカリ洗浄又は超音波洗浄などによって洗浄されることができる(S30)。
【0087】
例えば、アルカリ性洗浄剤を使用して各コアから油分又は異物等が除去され、洗浄されたコアを水ですすぎ洗浄剤を除去し、イオン洗浄を経て各コアのコーティング密着力を増大させることができる。
【0088】
あるいは、化学的手段である洗浄剤と共に、物理的手段である超音波を用いて各コアから異物を除去することができる。超音波エネルギーが洗浄液に伝播する過程で、超音波の圧力により微細気泡が生成及び消滅するキャビテーション現象が発生し、キャビテーションのエネルギーが各コアの表面はもちろん微細溝まで浸透し、異物が除去されることができる。
【0089】
選択的に、スリーブ50が回転子コア21の外周部に嵌合固定されて結合されることができる(S40)。例えば、スリーブはステンレス鋼やニッケルなどのような金属からなり、約0.2mm程度の厚さを有して外周面はRa0.05μm以下の表面粗さを有することができる。
【0090】
次いで、固定子コア11の第1対向面及び/又は回転子コア21の第2対向面のうち少なくとも一つにコーティング層30が形成されることができる(S50)。選択的に、スリーブ50が採用されると、コーティング層は、互いに対向する固定子コアの内周面及び/又は回転子を構成するスリーブの外周面のうち少なくとも一つに形成されることができる。
【0091】
例えば、炭素系コーティング層のうち、DLCコーティングによるコーティング層が採択された場合に、コーティング層30は、ダイヤモンドの主成分である炭素成分のガスを用いて真空状態でプラズマを発生させることにより、固定子10及び/又は回転子20の対向面に非晶質の炭素膜を蒸着させて形成されることができる。
【0092】
このようにするためには、物理的蒸着法(PVD)、プラズマ強化化学気相蒸着法(PECVD)、プラズマ補助化学気相蒸着法(PACVD)などが用いられることができる。コーティング時の温度は約150℃~500℃の範囲を有することができる。
【0093】
コーティング層30の厚さは約1μm~100μmの範囲を有することができる。固定子10の第1対向面及び回転子20の第2対向面のうち少なくとも一つにコーティング層が形成されることにより、空隙の放射状の長さ、すなわち、固定子と回転子との間の距離dは約0.01mm~1mmの範囲を有することができる。
【0094】
本発明に係る回転機の製造方法は、固定子コア11にコイル12を巻線し、回転子コア21に着磁された磁石22を挿入する段階S60と、固定子10及び回転子20を組み立てる段階S70と、をさらに含むことができる。
【0095】
コイル12は、固定子コア11において隣接した両側のスロット14を介してポール15の周りに巻線される。固定子コアのポール毎にコイルが巻線されることによって固定子10が構成されることができる。
【0096】
着磁された磁石22は、回転子コア21に備えられた磁石挿入孔24毎に一つずつ挿入されることができる。これにより、回転子20が構成されることができる。
【0097】
例えば、炭素系コーティング層のうち、DLCコーティングによるコーティング層30が回転子コア21に適用された場合に、コーティング時の回転子コアは約150℃以上の高温に曝されるため、磁石の熱減磁を考慮して、回転子コアにコーティング層が形成された後、着磁された磁石22が回転子コアに挿入されることが好ましい。
【0098】
選択的に、回転子コア21にコーティング層が形成される前又は形成された後に回転子コアに未着磁の磁石が挿入され、いずれの場合でもコーティング層が形成された後に磁石22を着磁させることもできる。
【0099】
最後に、固定子10及び回転子20を組み立てることができる。固定子は回転機のハウジング(図示せず)に固定して設置され、回転子はシャフト40が貫通した状態でシャフトの外周面に固定されて結合されることができる。次いで、固定子の回転子収容孔13に回転子を挿入して回転機を完成させることができる。
【0100】
図5は、従来技術に係る回転機と、本発明の実施形態に係る回転機の出力試験結果を比較したグラフであって、回転機の回転速度(rpm)に対する直流制御による電流当たりのトルク(Nm/A)を示す。
【0101】
従来技術に係る回転機は、固定子と回転子との間にコーティング層のないモータであり、本発明の実施形態に係る回転機は、固定子10と回転子20との間にDLCコーティングによる炭素系コーティング層30が形成されたモータである。
【0102】
図5に示す試験結果によると、DLCコーティングによる炭素系コーティング層30が適用されたモータのトルク出力は、回転速度に関係なくコーティング層のないモータより増大したことが分かる。コーティング層が適用されたモータのトルク出力は、コーティング層のないモータに比べて最大80%まで向上することが確認できる。
【0103】
このような試験結果は、回転機の固定子10と回転子20との間にコーティング層30が形成されることにより、空隙31が減少し、磁石22による鎖交磁束が増加して機械的な出力が増大することを示す。
【0104】
以上のように、本発明の実施形態によれば、固定子と回転子との間にコーティング層を配置することにより、固定子と回転子との間の空隙を減らして回転機の出力を極大化することができる効果が得られる。特に、冷却構造により磁気空隙と機械空隙が非常に大きくなった超電導モータに適用される場合、モータの出力を極大化することができるという利点がある。
【0105】
また、本発明の実施形態によれば、出力が増加するにつれて回転機のサイズを小さくすることができるため、回転機のコストを削減することができ、固定子と回転子とが互いに摩擦しても、コーティング層により回転機の損傷又は破損を防止することができ、回転機の商品性及び信頼性を向上できる効果が得られる。
【0106】
以上の説明は、本発明の技術思想を例示的に説明したものに過ぎず、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者であれば、本発明の本質的な特性から逸脱しない範囲で様々な修正及び変形が可能である。
【0107】
したがって、本発明に開示された実施形態は、本発明の技術思想を限定するためのものではなく説明するためのものであり、このような実施形態によって本発明の技術思想の範囲が限定されるものではない。本発明の保護範囲は、以下の特許請求の範囲によって解釈されるべきであり、それと同等の範囲内にあるすべての技術思想は、本発明の権利範囲に含まれるものとして解釈されるべきである。
【符号の説明】
【0108】
10:固定子
11:固定子コア
12:コイル
13:回転子収容孔
14:スロット
15:ポール
20:回転子
21:回転子コア
22:磁石
23:シャフト挿入孔
24:磁石挿入孔
25:突出部
26:湾曲面
27:溝部
30:コーティング層
31:空隙
40:シャフト
50:スリーブ