(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024163860
(43)【公開日】2024-11-22
(54)【発明の名称】大型ターボ過給式2ストロークユニフロークロスヘッド内燃機関用燃料弁
(51)【国際特許分類】
F02M 61/04 20060101AFI20241115BHJP
【FI】
F02M61/04 C
F02M61/04 F
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024075041
(22)【出願日】2024-05-07
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-09-17
(31)【優先権主張番号】PA202330026
(32)【優先日】2023-05-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DK
(71)【出願人】
【識別番号】597061332
【氏名又は名称】エムエーエヌ・エナジー・ソリューションズ・フィリアル・アフ・エムエーエヌ・エナジー・ソリューションズ・エスイー・ティスクランド
(74)【代理人】
【識別番号】100127188
【弁理士】
【氏名又は名称】川守田 光紀
(72)【発明者】
【氏名】フラルプ ヨハンズ
(72)【発明者】
【氏名】ブーア マッズ
【テーマコード(参考)】
3G066
【Fターム(参考)】
3G066AA07
3G066AA08
3G066AA11
3G066AB02
3G066AB03
3G066BA17
3G066BA23
3G066BA46
3G066CA23U
3G066CC01
3G066CC23
(57)【要約】 (修正有)
【課題】大型ターボ過給式2ストロークユニフロークロスヘッド内燃機関の燃焼室に燃料を噴射する燃料弁が開示される。
【解決手段】燃料弁は、長手方向軸、後端及び前端を有する縦長の燃料弁ハウジングと、ボア及び閉鎖端を有する縦長のノズルとを有し、前記ボアは、ノズルの少なくとも1つの貫通開口部45に開口しており、ノズルはハウジングの前端に配置され、貫通開口部へのアクセスを開閉するために、中空カットオフシャフト37を有する軸方向に変位可能な弁針が、前記ボア内で開位置と閉位置との間で軸方向に変位可能に受容され、前記中空カットオフシャフトは、開位置においてノズルの貫通開口部をカットオフシャフトの内部に連通させ、閉位置において前記貫通開口部をその内部から切り離すように、複数の孔49を備え、これら複数の孔の総断面積が、前記貫通開口部の総断面積よりも小さいことを特徴とする。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
大型ターボ過給式2ストロークユニフロークロスヘッド内燃機関の燃料弁であって、
長手方向軸、後端、及び前端を有する縦長の燃料弁ハウジングと;
ボア及び閉鎖端を有する縦長のノズルと;
を有し、
前記ボアは、前記ノズルの少なくとも1つの貫通開口部に開口しており、
前記ノズルは前記ハウジングの前端に配置され、前記少なくとも1つの貫通開口部へのアクセスを開閉するために、中空カットオフシャフトを有する軸方向に変位可能な弁針が、前記ノズル内の前記ボア内で開位置と閉位置との間で軸方向に変位可能に受容され、
前記中空カットオフシャフトは、前記中空カットオフシャフトの前記開位置において前記ノズルの前記少なくとも1つの貫通開口部を前記中空カットオフシャフトの内部に連通させ、前記中空カットオフシャフトの前記閉位置において前記ノズルの前記少なくとも1つの貫通開口部を前記中空カットオフシャフトの内部から切り離すように、複数の孔を備え
前記中空カットオフシャフトの前記複数の孔は、前記少なくとも1つの貫通開口部の総断面積よりも小さい総断面積を有することを特徴とする、
燃料弁。
【請求項2】
前記中空カットオフシャフトの前記複数の孔は、前記中空カットオフシャフトの前記開位置において、前記少なくとも1つの貫通開口部の周内に位置するように設けられている、請求項1に記載の燃料弁。
【請求項3】
前記ノズルの前記少なくとも1つの貫通開口部は、細長いスロットの形状を有する1つの開口部で構成され、前記細長いスロットは、前記中空カットオフシャフトの前記開位置において、前記中空カットオフシャフトの全ての孔を囲む、請求項1に記載の燃料弁。
【請求項4】
前記少なくとも1つの貫通開口部は複数の開口部により構成される、請求項1に記載の燃料弁。
【請求項5】
前記複数の開口部の各々は、前記中空カットオフシャフトの前記開位置において、前記中空カットオフシャフトの2つ以上の孔を囲む、請求項4に記載の燃料弁。
【請求項6】
前記複数の開口部の各々は、前記中空カットオフシャフトの前記開位置において、前記中空カットオフシャフトの1つの孔を囲む、請求項4に記載の燃料弁。
【請求項7】
前記少なくとも1つの貫通開口部の縁の中で前記中空カットオフシャフトの前記孔から最も離れたところに位置する縁が、前記中空カットオフシャフトの孔を頂点とし、少なくとも10°、好ましくは少なくとも15°、最も好ましくは少なくとも20°の円錐角を有する仮想円錐の外側に配置され、前記仮想円錐は、前記中空カットオフシャフトのそれぞれの孔と同心である、請求項1に記載の燃料弁。
【請求項8】
前記少なくとも1つの貫通開口部は、前記中空カットオフシャフトに近い端部から他方の端部に向かう方向に断面積が増大する、傾斜した内面を備える、請求項1に記載の燃料弁。
【請求項9】
前記内面は、前記中空カットオフシャフトのそれぞれの孔を貫通する中心線に対して好ましくは少なくとも5°、より好ましくは少なくとも7°、最も好ましくは少なくとも10°の角度、傾斜している、請求項8に記載の燃料弁。
【請求項10】
請求項1から9のいずれかに記載の燃料バルブを備える、大型ターボ過給式2ストロークユニフロークロスヘッド内燃機関。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大型ターボ過給式2ストロークユニフロークロスヘッド内燃機関の燃焼室内に燃料を噴射する燃料弁に関する。この燃料弁は、
長手方向軸、後端、及び前端を有する縦長の燃料弁ハウジングと;
ボア及び閉鎖端を有する縦長のノズルと;
を有し、
前記ボアは、前記ノズルの少なくとも1つの貫通開口部に開口しており、
前記ノズルは前記ハウジングの前端に配置され、前記少なくとも1つの開口部へのアクセスを開閉するために、中空カットオフシャフトを有する軸方向に変位可能な弁針が、前記ノズル内の前記ボア内で開位置と閉位置との間で軸方向に変位可能に受容され、
前記中空カットオフシャフトは、前記中空カットオフシャフトの前記開位置において前記ノズルの前記少なくとも1つの開口部を前記中空カットオフシャフトの内部に連通させ、前記中空カットオフシャフトの前記閉位置において前記ノズルの前記少なくとも1つの開口部を前記中空カットオフシャフトの内部から切り離すように、複数の孔を備える。
【0002】
本発明はまた、このような燃料弁を有する、クロスヘッド式大型2ストロークターボ過給式ユニフロー掃気内燃機関を運転する方法に関する。
【発明の背景】
【0003】
冒頭で述べたタイプの燃料弁は、EP2378109A1で知られている。本発明は、請求項1の特徴部分に記載された特徴によって、この公知の燃料弁と異なる。
【0004】
大型ターボ過給式2ストロークユニフロークロスヘッド内燃機関は、通常、コンテナ船などの大型外航船や発電所の原動機として使用される。このタイプの機関は、重油や燃料油で運転されることが非常に多い。
【0005】
このタイプの機関のシリンダには、シリンダカバー即ちシリンダの上部の中央に排気弁が1つだけ設けられ、シリンダライナの下部には掃気ポートがリング状に設けられている。掃気ポートはピストンの動きにより制御されている。シリンダ内のガス輸送方向は常に下から上に向かっており、それゆえユニフロー掃気という呼称がある。通常、掃気ポートは斜めに配置されている。これは、燃焼室内のガスに渦巻きを発生させるためである。
【0006】
シリンダカバーには、中央に配置された排気弁の周りに、2つ又は3つの燃料弁が配置されている。燃料弁のノズルは燃焼室内に突出している。燃料弁は、シリンダカバーの周辺部に配置される。つまり中心部には配置されない。ノズルのノズル孔は、燃焼室内へと、渦(スワール)の方向を向くように配されており、シリンダ壁から遠ざかる方向に向けられる。時には、ノズルの1つのノズル孔が燃焼室内の渦に逆らうように向けられることもある。
【0007】
燃料弁は、縦長のハウジングを有する。このハウジングはシリンダカバーを貫通しており、後端部がシリンダカバーの上面から突出している。燃焼室内に突出する縦長の燃料弁ハウジングの前端に取り付けられ、燃料弁はノズルを備える。
【0008】
クロスヘッド式大型2ストロークディーゼル機関用の公知のノズルは、典型的には縦長のボディを有する。このノズルボディは、まっすぐなメインボアを有する円筒部を有する。このメインボアは、ノズルボディの後端にあるノズルの基端から、ノズルボディの前端部の近傍に位置するノズル孔へと通じる。先端部は丸くても平らでもよいが、閉じている。これは、(ピストンが上死点にあるとき、すなわち圧縮着火機関の燃料噴射の瞬間、ピストンの上面がノズルの先端に非常に近いため、)ノズル孔がピストンに対して下向きであってはならないからである。このため、ノズル孔はノズル/燃料弁の中心軸に対して主に横方向に向けられており、典型的には機関シリンダの中心軸に対してほぼ直角である。典型的には、各ノズルは3~7個のノズル孔を備えている。これらは全てメインボアに接続されている。
【0009】
典型的には、液体燃料を噴射するための公知の燃料弁は、ノズルへの燃料の流れを制御するために、円錐形の弁座と、これに協働する軸方向に変位可能な弁針を備えている。弁針の前方部分は、メインボア内に隙間なく受容されるカットオフシャフトを有し、弁針が閉位置にあるときにノズル孔を閉鎖するためのスライド弁として作用する。それによって、いわゆるサックボリューム、つまり、ノズル内のメインボアによって形成される空間内の燃料の残留量(residual volume,RV)を著しく減少させる。このようなスライド弁構造がなければ、メインボア内(及びノズル孔内)の残留燃料量は、燃料噴射終了後に燃焼室内に滴下し、燃料消費、信頼性、及び排出ガスに悪影響を及ぼす。
【0010】
ノズルボディは燃焼室内に突出しているため、燃焼室の高温の燃焼ガスにさらされ、ノズルボディの一部はかなりの高温に達する。近年、大型2ストロークディーゼル機関において、例えばメタノール、LPG、アンモニアなどの、これまでとは異なる種類の燃料を扱えるようにすることが求められてきている。このような代替燃料は、大型低速ユニフローターボ過給式2ストローク内燃機関の燃料として使用した場合、例えば重油を燃料として使用した場合と比較して、排ガス中の亜硫酸成分、NOx、CO2が大幅に低減されるため、比較的クリーンな燃料であると言える。
【0011】
このような代替燃料がノズルボアを通してシリンダの燃焼室に噴射されると、燃料の蒸発が起こり、蒸発熱のために温度が劇的に低下する。このため、ノズルボアを通ってノズルを出るメインボア内の流入燃料は、ノズルボディの外面を取り囲む燃焼ガスよりもかなり低い温度になっている。そのため、ノズルボディの構成物質はかなりの温度勾配にさらされ、ノズルの構成物質にストレスが発生する。燃焼室内の高い作動温度のガスと、噴射された燃料の高い冷却効果とに曝されると、ノズルの中でノズル孔が位置する領域に亀裂が発生する危険性が高くなる。
【0012】
現在、アンモニアは内燃機関の代替燃料として非常に高い関心を集めている。その主な理由は、太陽、風、波エネルギーなどの再生可能エネルギー源からの電力を使用して環境にやさしい方法で製造できること、またアンモニアの燃焼自体が二酸化炭素などの温室効果ガスを含まないためである。
【0013】
本発明はまた、上に説明され添付の特許請求の範囲に記載される燃料弁を備える大型ターボ過給式2ストロークユニフロークロスヘッド内燃機関に関する。
【発明の概要】
【0014】
本発明の目的は、冒頭で述べた種類の燃料弁であって、ノズルの亀裂の発生に関する上述の課題が少なくとも著しく低減された、燃料弁を提供することである。
【0015】
上述の課題やその他の課題が、独立請求項に記載の特徴により解決される。より具体的な実装形態は、従属請求項や明細書、図面から明らかになるだろう。
【0016】
第1の捉え方によれば、大型ターボ過給式2ストロークユニフロークロスヘッド内燃機関の燃焼室内に燃料を噴射するための燃料弁が提供される。この燃料弁は、
長手方向軸、後端、及び前端を有する縦長の燃料弁ハウジングと;
ボア及び閉鎖端を有する縦長のノズルと;
を有し、
前記ボアは、前記ノズルの少なくとも1つの貫通開口部に開口しており、
前記ノズルは前記ハウジングの前端に配置され、前記少なくとも1つの開口部へのアクセスを開閉するために、中空カットオフシャフトを有する軸方向に変位可能な弁針が、前記ノズル内の前記ボア内で開位置と閉位置との間で軸方向に変位可能に受容され、
前記中空カットオフシャフトは、前記中空カットオフシャフトの前記開位置において前記ノズルの前記少なくとも1つの開口部を前記中空カットオフシャフトの内部に連通させ、前記中空カットオフシャフトの前記閉位置において前記ノズルの前記少なくとも1つの開口部を前記中空カットオフシャフトの内部から切り離すように、複数の孔を備え
前記カットオフシャフトの前記複数の孔は、前記少なくとも1つの開口部の総断面積よりも小さい総断面積を有することを特徴とする。
【0017】
ノズルの1つ又は複数の開口部の総断面積をカットオフシャフトの孔よりも大きくすることにより、カットオフシャフトの孔が実際のノズルの孔となり、ノズルの亀裂の発生に関する問題が低減される。これは、開口部に近いノズル材に対する蒸発燃料の冷却効果が小さくなるため、ノズル材が曝される温度勾配が実質的に小さくなり、ノズル材のストレスが小さくなり、ノズルの開口部領域で亀裂が発生する危険性が低くなるためである。
【0018】
前記カットオフシャフトの前記複数の孔は、前記中空カットオフシャフトの前記開位置において、前記少なくとも1つの開口部の周内に位置するように設けられていることが好ましい。
【0019】
本発明の一実施形態では、前記ノズルの前記少なくとも1つの開口部は、細長いスロットの形状を有する1つの開口部で構成されてもよい。前記細長いスロットは、前記中空のカットオフシャフトの開位置において、前記カットオフシャフトの全ての孔を囲む。
【0020】
本発明の別の実施形態では、前記ノズルの前記少なくとも1つの開口部は、複数の開口部で構成されてもよい。このような複数の開口部は、それぞれ、前記中空カットオフシャフトがその開位置にあるときに、前記中空カットオフシャフトの2つ以上の孔を取り囲む細長いスロットであってもよいし、前記中空カットオフシャフトの1つの孔を囲む穴であってもよい。この場合、ノズルの複数の開口部の間に仕切り壁が設けられ、ノズルの構造が強化される。
【0021】
本発明による燃料弁では、中空カットオフシャフトの孔で構成されるノズル孔から噴射される燃料は、典型的には、それぞれのノズル孔から出るときに円錐状に発散する。円錐角は、典型的には10°より大きく、しばしば約20°又はそれ以上である。また、ノズルの少なくとも1つの開口部を囲むノズル材に対する噴射された燃料の冷却効果の悪影響を低減するために、前記少なくとも1つの開口部の大きさは、噴射された燃料が前記開口部の内面と接触しないように寸法決めされることが好ましい。これを実現するために、前記少なくとも一つの開口部は、その内面が、中空カットオフシャフトの孔を頂点とし、少なくとも10°、好ましくは少なくとも15°、最も好ましくは少なくとも20°の円錐角を有する仮想円錐の外側に位置するように、設けられるべきである。前記仮想円錐は、好ましくは、前記中空カットオフシャフトのそれぞれの孔と同心である。
【0022】
前記少なくとも1つの開口部の内面が、前記燃料弁ハウジングの長手方向軸線に対して垂直な母線のみを有する場合、最も重要な点は、前記少なくとも1つの開口部の縁部の点であって、前記中空カットオフシャフトの孔から最も離れて位置する点である。この縁部は、中空カットオフシャフトの孔を頂点とし、少なくとも10°、好ましくは少なくとも15°、最も好ましくは少なくとも20°の円錐角を有する仮想円錐の外側に配置されることが好ましい。前記仮想円錐は、好ましくは、前記中空カットオフシャフトのそれぞれの孔と同心である。
【0023】
本発明の別の実施形態では、前記少なくとも1つの開口部は、前記中空カットオフシャフトに近い端部から他方の端部に向かう方向に断面積が増大する、傾斜した内面を備えてもよい。このような実施形態において、開口45の内面は、中空カットオフシャフトのそれぞれの孔を貫通する中心線に対して好ましくは少なくとも5°、より好ましくは少なくとも7°、最も好ましくは少なくとも10°の角度、傾斜している。中空カットオフシャフトのそれぞれの孔を通る中心線は、典型的には、燃料弁ハウジングの長手方向軸線に対して数度傾斜している。
【0024】
ノズルのノズル孔は、ノズルの径方向に、好ましくは軸方向にも分布してもよい。これらのノズル孔は、ノズルの軸方向先端付近に配置されてもよい。この先端は好ましくは閉じられている。これらのノズル孔は好ましくは、ノズルの外周の比較的狭い範囲に位置していてもよい。例えば約50°~120°の間に位置していてもよい。またノズル孔の径方向の向きは、シリンダライナによって画定される燃焼室の壁から離れる方向に向いてもよい。さらにノズル孔は、掃気ポートの構造によって引き起こされる燃焼室内の掃気の渦の方向とほぼ同じ方向になるように方向付けられてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0025】
以下、図面に示される例示的な実施形態を参照しつつ、本発明をより詳細に説明する。
【
図1】例示的な実施形態による大型2ストロークユニットフロー掃気ターボ機関の前面と一方の側面を示す斜視図である。
【
図2】
図1の機関の後面(aft end)と他方の側面を示す斜視図である。
【
図3】
図1の機関の吸気系と排気系を図式化したものである。
【
図4】
図1から
図3の機関に使用する燃料弁の一実施形態を示す断面図である。
【
図5】
図1から
図3の機関に使用する燃料弁の他の実施形態を示す断面図である。
【
図7】
図6のノズルの断面図である。燃料ジェットの円錐が描かれている。
【
図8】
図6のノズルの先端部の断面図であり、弁針の遠位端の円筒部が閉位置にある場合の断面図である。
【
図9】これも
図6のノズルの先端部の断面図であるが、弁針の遠位端の円筒部は開位置にある。
【
図10】シリンダカバー内の
図5の燃料弁のノズルの位置を、ピストン側から見た図であり、ノズル孔の向きと、その結果生じる燃料の噴流を示している。
【詳細説明】
【0026】
以下の詳細説明では、例示的実施形態によって、燃料弁、及び燃料弁30が使用される大型2ストローク機関について説明する。
図1から3は、ターボ過給式大型低速2ストローク内燃機関を描いている。この機関はクランクシャフト22及びクロスヘッド23を有する。
図3は、ターボ過給式大型低速2ストローク内燃機関を、その吸気システム及び排気システムと共に略図により表現したものである。この例示的実施形態において、機関は直列に6本のシリンダを有する。各シリンダはシリンダライナ1から形成される。ターボ過給式大型2ストローク内燃機関は通常、直列に配される5本から16本のシリンダを有する。これらのシリンダはエンジンフレーム24に担持される。またこのような機関は、例えば、外洋航行船の主機関や、発電所において発電機を動かすための固定型の機関として用いられることができる。機関の全出力は、例えば5000~110000kWの範囲でありうる。
【0027】
機関は2ストロークユニフロー式ディーゼル機関(圧縮着火型機関)であることができ、シリンダライナ1の下部領域には、ピストンにより制御されるポートであるリング状の掃気ポート19が設けられ、シリンダライナ1の頂部中央には排気弁が配される。このため、燃焼室14内の流れは常に下から上に向かっており、機関はいわゆるユニフロー型である。掃気は、掃気受け2を通じて、各シリンダの掃気ポート19へと導かれる。なお、各シリンダは、それぞれシリンダライナ1により形成される。シリンダライナ1内の往復ピストン21が掃気を圧縮し、シリンダカバー26に配置された2つ又は3つの燃料弁30のノズルを通じて燃料が噴射される。燃焼が生じ、排気ガスが生成される。排気弁4が開くと、排気ガスは、シリンダ1に結びついた排気ダクト20を通って排気受け3へと流れ、更に第1の排気管18を通ってターボ過給器5のタービン6へと進む。そこから排気ガスは、第2の排気管7を通って排気される。タービン6は、シャフト8を介してコンプレッサ9を駆動する。コンプレッサ9には、空気入口10から空気が供給される。
【0028】
コンプレッサ9は、圧縮された掃気を、給気レシーバ2に繋がっている給気管11へと送り込む。掃気管11の掃気空気は、給気を冷却するためのインタークーラー12を通過する。冷却された給気は、電気モーター17により駆動される補助ブロワ16を通る。補助ブロワ16は、機関が低負荷又は部分負荷である場合に、給気レシーバ2へ向かう給気の流れを圧縮する。機関の負荷が高い場合は、ターボ過給器のコンプレッサ9が、十分に圧縮された掃気空気を供給することができるので、補助ブロワ16は、逆止弁15によってバイパスされる。
【0029】
シリンダはシリンダライナ1の中に形成される。シリンダライナ1はシリンダフレーム25によって担持される。シリンダフレーム25は期間フレーム24によって支持される。
【0030】
図4は、各シリンダのシリンダカバー26の貫通ボア内に装着される2つ又は3つの燃料弁30のうちの1つの実施形態を示す。燃料弁30は、後端31がシリンダカバー26の上側から突出し、ノズル40の前端が燃焼室内に僅かに突出した状態で、シリンダカバー26の貫通ボアに装着される。燃料弁30は、縦長の燃料弁ハウジング32を有する。燃料弁ボディ32は、その前端33にノズルホルダを有する。ノズルホルダは、ノズル40を縦長の燃料弁ボディ32に結合する。液体燃料(例えば、メタノール、LPG、アンモニア等)は、燃料弁30によって、ノズル40を通じて燃焼室14に供給される。液体燃料は、制御された形で、またタイミングを計って、燃焼室14に供給される。
図4に示す燃料弁30は、縦長の燃料弁ハウジング32を有する。ハウジング32はその後端31にヘッドを有し、このヘッドによって、(公知の方法で、)燃料弁30をシリンダカバー26に取り付けてもよく、また燃料弁30を内燃機関の燃料ポンプ(図示せず)と接続してもよい。
【0031】
後端31のヘッドは燃料入口81を有する。燃料入口83は、弁ボディ32を通って延びるダクトと流路が繋がっている。軸方向に変位可能な弁針35は、縦長の燃料弁ハウジング32内にジャーナルとして配置され、弁針35が(好ましくは円錐形)の弁座36から離座する開位置と、弁針35(の弁座36に対応する部分)が弁座36上に着座して弁を閉じる閉位置とを有する。弁針は、本実施形態では螺旋ばね83によって形成される弾性手段によって、閉位置に向かって弾性的に付勢されている。螺旋ばね83により付勢される力に抗する弁針35のリフトは、燃料弁30に供給される燃料の圧力によって引き起こされる。具体的には、当該圧力が、弁針35の表面に作用するか、弁針35を作動させるように弁針35に連結されたピストン又はプランジャに作用することによって、引き起こされる。弁針35を囲み、弁座36に開口する燃料室68が設けられる。燃料弁30の縦型の燃料弁ハウジング32は、その前端33にノズル40を担持している。ノズル40は、燃料弁30がシリンダカバー26に取り付けられているとき、機関シリンダライナ1の燃焼室14内に突出するように構成されている。
【0032】
本発明による燃料弁は、油圧制御タイプであってもよく、コモンレール燃料弁システムの一部であってもよい。
【0033】
本実施形態では、燃料弁は軸方向に可動な弁針35を備えている。弁針35は円錐形の部分を有し、この部分は、燃料弁30の縦長の燃料弁ハウジング32内の円錐形の座部36と協働する。
【0034】
図5は、別の実施形態による燃料弁30を示している。この実施形態は、燃料弁30に供給される燃料の圧力を増幅するブースターポンプを備えている点を除き、
図4の実施形態と同様である。ブースターポンプの主要構成部品は、ブースタープランジャ80である。本実施形態による燃料弁30の他の構成要素及びノズル40は、概念的に
図4の燃料弁と同一である。
【0035】
図10は、ノズル40がシリンダカバー26の辺縁部にどのように配置されているかを図示している。
図10はまた、燃料噴射の方向も図示している。燃料噴射の方向は、軸I,II,III,IV,Vの方向に対応する。燃焼室14内のガスの旋回方向は、湾曲した破線矢印66によって図示されている。
【0036】
図6から
図9は、ノズル40と弁針35の遠位部をより詳細に示している。
【0037】
ノズル40は、近位端の基部42から、ノズル40の先端を形成する閉じた遠位端44へと至るノズルボディを有する。ノズルボディの円筒部43は、基部から遠位端44へと延びている。ノズルボディは、適切な材料、例えば当該技術分野で周知の適切な合金から作られる。
【0038】
入口48は、弁針35が開位置にあるときに、燃料弁30の縦型の燃料弁ハウジング32から液体燃料を受け入れるために、基部42に開口している。単一の真っ直ぐなメインボア50が、入口48から上記ノズルボディ内へと長手方向に延びている。
【0039】
閉じた遠位端(先端)44は、円形又は楕円形の外形を有する実質的に平面状の端面47を有する。端面47は、湾曲又は丸みを帯びた移行面46を介して円筒部分に接続される。
【0040】
軸方向に変位可能な弁針35は、中空のカットオフシャフト37を有する。カットオフシャフト37は、弁針35と一体に動くシャンク(柄部)38によって担持された円筒状のエンドセクション(端部)39を有する。円筒状エンドセクション39は、真っ直ぐなメインボア50内にぴったりと嵌まっており、ボア50内において開位置と閉位置との間で軸方向に変位可能である。中空カットオフシャフト37には、円筒状エンドセクション39の遠位端の近くに複数の孔49が設けられている。中空カットオフシャフト37は、真っ直ぐなメインボア50内で回転可能であり、例えば図示しないピンによって適切な位置に保持される。
【0041】
本発明によるノズル40は貫通開口45を備える。貫通開口45は細長いスロット(溝穴)の形態を有する。この貫通開口45は、
図9に示されるように、中空カットオフシャフト37の開位置において、カットオフシャフトの全ての孔49を包囲する。このように、ノズル40の開口45は、中空カットオフシャフト37の開位置において、中空カットオフシャフト37の内部に連通する。一方、
図8に示されるように、中空カットオフシャフト37の閉位置においては、中空カットオフシャフト37の内部から切り離される。
【0042】
本発明の図示しない他の実施形態では、ノズルはより多くの開口45を含んでいてもよい。このような開口45は、中空カットオフシャフト37がその開位置にあるとき、中空カットオフシャフト37の2つ以上の孔49を包囲する細長のスロットであってもよいし、それぞれ中空カットオフシャフト37の1つの孔49をそれぞれ包囲する穴であってもよい。このようにして、ノズル40の複数の開口45の間に仕切り壁が設けられ、ノズル40の構造が強化される。
【0043】
本発明による燃料弁30では、カットオフシャフト37の孔49が、燃料が噴射されるノズル孔を構成する。噴射された燃料は出口から発散してノズル40の開口45を通じて燃焼室14に入る。
図7は、孔49から噴射される燃料ジェットを示しており、この燃料ジェットは、20°の円錐角を持つ円錐の形で燃焼室14に入る。
【0044】
図7では、中空カットオフシャフト37が長手方向に延びる孔34を有し、燃料は、孔34を通じて孔49に向かう方向に流れることが分かる。図示される実施形態では、孔34は燃料弁ハウジング32の長手方向軸Xに対して偏心して穿設されている。このようにすると、中空カットオフシャフト37の壁の厚さを、孔49の領域で厚くすることができる。このため、ノズル孔として機能するこれらの孔49の長さを長くすることができ、燃料の適切な噴射のためにより適切にすることができる。孔49の領域でノズル材を厚くすることの更なる利点は、ノズル材が燃焼室14内の高温の影響によりよく耐えることができることである。しかしながら、中空カットオフシャフト37の孔34は、燃料弁ハウジング32の長手方向軸Xに対して同心に穿設してもよい。
【0045】
図8では、軸方向に変位可能な弁針35がその閉鎖位置に示されており、中空遮断シャフト37の孔49がノズル40の内壁によって覆われているため、ノズル40の開口45と中空遮断シャフト37の内部とが遮断されている。
【0046】
図9では、軸方向に変位可能な弁針35がその開位置に示されており、中空カットオフシャフト37の孔49がノズル40の開口45に開口しているため、ノズル40の開口45と中空カットオフシャフト37の内部とが連通し、燃料が燃焼室14に噴射されることが可能になっている。
【0047】
噴射された燃料は蒸発し、ノズルのストレス及び亀裂の可能性に関連する上述の問題を伴って劇的な冷却を行うので、噴射された燃料がノズル材に接触しないか、又は少なくとも接触が低減されることは、非常に重要である。従って、本発明によれば、
図9に最も明瞭に示すように、カットオフシャフト37の孔49は、中空のカットオフシャフト37の開位置において開口45の周の内側にあるように設けられる。またカットオフシャフト37の孔49の総断面積は、開口45の総断面積よりも小さい。
【0048】
また、ノズル40の開口45を囲むノズル材に対する噴射された燃料の冷却効果の悪影響を低減するために、開口45の大きさは、噴射された燃料がノズル40の開口45の内面と接触しないように寸法決めされる。孔49を通して噴射される燃料は、典型的には10°より大きく、しばしば20°より大きい角度を有する円錐27の形をとって発散する。そこで、中空カットオフシャフト37の孔49にその頂点を有し、少なくとも10°、好ましくは少なくとも15°、最も好ましくは少なくとも20°の円錐角を有する仮想円錐27を考えると、開口45は好ましくは、その内面が、そのような仮想円錐の外側に位置するように設けられるべきである。この仮想円錐27は、好ましくは、中空カットオフシャフト37のそれぞれの孔49と同心である。
【0049】
典型的には、開口45の内面の上面28と下面29の母線は平行である。またこれらの母線は、燃料弁ハウジング32の長手方向軸線Xに対して僅かに傾斜している。従って、開口45の最も重要な点は、開口45の縁部52が中空カットオフシャフト37の孔49から最も離れた位置にある点である。このような場合、これらの点は、中空カットオフシャフト37の孔49を頂点とし、少なくとも10°、好ましくは少なくとも15°、最も好ましくは少なくとも20°の円錐角を有する仮想円錐の外側に配置されることが好ましい。この仮想円錐は、好ましくは、中空カットオフシャフト37のそれぞれの孔49と同心である。
【0050】
本発明の別の実施形態では、開口45は、中空カットオフシャフト37に近い端部から他方の端部に向かう方向に断面積が増大する、傾斜した内面を備えてもよい。このような実施形態は図示されていないが、開口45の内側の上面及び下面は、中空カットオフシャフト37のそれぞれの孔49を貫通する中心線に対して好ましくは少なくとも5°、より好ましくは少なくとも7°、最も好ましくは少なくとも10°の角度、傾斜している。
【手続補正書】
【提出日】2024-08-08
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項10
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項10】
請求項1から9のいずれかに記載の燃料弁を備える、大型ターボ過給式2ストロークユニフロークロスヘッド内燃機関。
【外国語明細書】