(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024163870
(43)【公開日】2024-11-22
(54)【発明の名称】改質セルロース繊維及び該改質セルロース繊維を含有する樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
D06M 13/328 20060101AFI20241115BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20241115BHJP
C08K 7/02 20060101ALI20241115BHJP
C08L 1/02 20060101ALI20241115BHJP
D06M 13/388 20060101ALI20241115BHJP
D06M 13/392 20060101ALI20241115BHJP
C08B 15/06 20060101ALN20241115BHJP
【FI】
D06M13/328
C08L101/00
C08K7/02
C08L1/02
D06M13/388
D06M13/392
C08B15/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024076405
(22)【出願日】2024-05-09
(31)【優先権主張番号】P 2023079571
(32)【優先日】2023-05-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095832
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 芳徳
(74)【代理人】
【識別番号】100187850
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 芳弘
(72)【発明者】
【氏名】平 涼斉
(72)【発明者】
【氏名】大和 恭平
【テーマコード(参考)】
4C090
4J002
4L033
【Fターム(参考)】
4C090BA34
4C090BB62
4C090CA35
4C090DA11
4C090DA32
4J002AB01W
4J002BG02X
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4L033AA02
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4L033AC15
4L033BA45
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4L033BA67
4L033BA68
4L033CA03
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4L033DA07
(57)【要約】
【課題】分散性に優れた改質セルロース繊維及び該改質セルロース繊維を含有する樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】鎖式炭化水素基又は脂環式炭化水素基を有する2種以上のアミンとアニオン変性セルロース繊維とがイオン結合又はアミド結合を介して結合してなる改質セルロース繊維、並びにかかる改質セルロース繊維と有機媒体を含有する改質セルロース繊維分散体、かかる改質セルロース繊維と有機溶剤を含有する改質セルロース繊維分散液、及びかかる改質セルロース繊維と樹脂を含有する樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鎖式炭化水素基又は脂環式炭化水素基を有する2種以上のアミンとアニオン変性セルロース繊維とがイオン結合又はアミド結合を介して結合してなる、改質セルロース繊維。
【請求項2】
前記アミンが第2級アミン及び第3級アミンを含む、請求項1に記載の改質セルロース繊維。
【請求項3】
前記第3級アミンに対する第2級アミンのモル比(第2級アミン/第3級アミン)が10/90以上90/10以下である、請求項2に記載の改質セルロース繊維。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の改質セルロース繊維と有機媒体を含有する改質セルロース繊維分散体。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1項に記載の改質セルロース繊維と有機溶剤を含有する改質セルロース繊維分散液。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか1項に記載の改質セルロース繊維と樹脂を含有する樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改質セルロース繊維及び該改質セルロース繊維を含有する樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有限な資源である石油由来のプラスチック材料が多用されていたが、近年、環境に対する負荷の少ない技術が脚光を浴びるようになり、かかる技術背景の下、天然に多量に存在するバイオマスであるセルロース繊維を用いた材料が注目されている。
【0003】
例えば、セルロースナノファイバー(CNF)は強度に優れていることから、少量の添加で樹脂等と複合化させた場合に補強材として作用することが知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現在利用されている樹脂には様々なタイプがあり、それぞれ異なった特徴や性質を有する。セルロース繊維を樹脂と複合化させる場合、樹脂中での分散性が悪ければ凝集物が生成することがあり、強度の低下につながるおそれがあることから、セルロース繊維の分散性の更なる改善が求められている。
本発明は、分散性に優れた改質セルロース繊維及び該改質セルロース繊維を含有する樹脂組成物に関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、下記〔1〕~〔6〕に関する。
〔1〕 鎖式炭化水素基又は脂環式炭化水素基を有する2種以上のアミンとアニオン変性セルロース繊維とがイオン結合又はアミド結合を介して結合してなる、改質セルロース繊維。
〔2〕 前記アミンが第2級アミン及び第3級アミンを含む、前記〔1〕に記載の改質セルロース繊維。
〔3〕 前記第3級アミンに対する第2級アミンのモル比(第2級アミン/第3級アミン)が10/90以上90/10以下である、前記〔2〕に記載の改質セルロース繊維。
〔4〕 前記〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載の改質セルロース繊維と有機媒体を含有する改質セルロース繊維分散体。
〔5〕 前記〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載の改質セルロース繊維と有機溶剤を含有する改質セルロース繊維分散液。
〔6〕 前記〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載の改質セルロース繊維と樹脂を含有する樹脂組成物。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、分散性に優れた改質セルロース繊維及び該改質セルロース繊維を含有する樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明者らは、様々な樹脂と改質セルロース繊維との配合を検討した結果、硬化剤を使用する樹脂に改質セルロース繊維を配合した場合、改質セルロース繊維の分散性が低下して凝集物が生成することがあることを見出した。
本発明者らが更に検討を進めたところ、鎖式炭化水素基又は脂環式炭化水素基を有する2種以上のアミンを使用して調製された改質セルロース繊維は、意外にも硬化剤を使用する樹脂との分散性に優れ、凝集物の生成を低減できることを見出した。
【0009】
本発明の改質セルロース繊維がこのような優れた分散性を発揮するという効果が発現するメカニズムは定かではないが、以下のようなものが推定される。即ち、2種以上のアミンの内、樹脂のような疎水性媒体との相溶性が高いアミンとセルロース繊維上のアニオン性基とのイオン性相互作用が、セルロース繊維間の斥力を発現させると考えられる。他方、疎水性媒体との相溶性が低いアミンが、セルロース繊維以外の酸又はセルロースの改質に用いられるアミン以外のアルカリと相互作用することにより、セルロース繊維以外の酸又はセルロースの改質に用いられるアミン以外のアルカリが、前記イオン性相互作用を妨害することを防ぐことが考えられる。このような2種以上のアミンの有する疎水性媒体との相溶性の相違が上記効果を発現する要因の一つであると推定される。
【0010】
〔改質セルロース繊維〕
本発明における改質セルロース繊維とは、鎖式炭化水素基又は脂環式炭化水素基を有する2種以上のアミンがアニオン変性セルロース繊維と結合してなるセルロース繊維であって、該アミンはイオン結合又はアミド結合を介してアニオン変性セルロース繊維と結合してなるものである。なお、本明細書において、鎖式炭化水素基又は脂環式炭化水素基を「修飾基」と称することがある。
【0011】
該アミンは、イオン結合又はアミド結合を介してアニオン変性セルロース繊維のアニオン性基に結合していることが好ましく、アニオン変性セルロース繊維を構成するグルコース単位のC6位のヒドロキシメチル基(-CH2OH)がカルボキシ基(-COOH)に変換されたそのカルボキシ基に結合していることがより好ましい。
【0012】
本明細書における「グルコース部分」とは、グルコース単位からなる部分を意味し、未修飾セルロース繊維の場合はグルコース単位の全体であり、アニオン変性セルロース繊維の場合は、グルコース単位に結合したアニオン性基を含めたグルコース単位の全体であり、改質セルロース繊維の場合は、グルコース単位に結合した鎖式炭化水素基又は脂環式炭化水素基を除いたグルコース単位の全体である。即ち、本明細書におけるグルコース単位は、ヒドロキシメチル基がカルボキシ基に変換されたグルコース単位も含む。
【0013】
アミンとしては、好ましくは第1級アミン、第2級アミン、第3級アミンが挙げられる。
第1級アミンがイオン結合を介してカルボキシ基に結合している場合、下記式aのような結合様式となり、第2級アミンがイオン結合を介してカルボキシ基に結合している場合、下記式bのような結合様式となり、第3級アミンがイオン結合を介してカルボキシ基に結合している場合、下記式cのような結合様式となる。修飾基1~3は鎖式炭化水素基又は脂環式炭化水素基である。式bの修飾基1~2は同一でも異なっていてもよいが、同一の場合が好ましい。式cの修飾基1~3は同一でも異なっていてもよいが、同一の場合が好ましい。
【0014】
【0015】
第1級アミンがアミド結合を介してカルボキシ基に結合している場合、下記式dのような結合様式となり、第2級アミンがアミド結合を介してカルボキシ基に結合している場合、下記式eのような結合様式となる。修飾基1~2は鎖式炭化水素基又は脂環式炭化水素基である。式eの修飾基1~2は同一でも異なっていてもよいが、同一の場合が好ましい。
【0016】
【0017】
(修飾基)
本発明における修飾基は鎖式炭化水素基又は脂環式炭化水素基である。これらの修飾基は1種又は2種以上が組み合わさって、アニオン変性セルロース繊維に結合してもよい。
【0018】
(a)炭化水素基
鎖式炭化水素基としては、一価のもの、例えば、直鎖又は分岐鎖の鎖式飽和炭化水素基、直鎖又は分岐鎖の鎖式不飽和炭化水素基が挙げられる。脂環式炭化水素基としては、一価のもの、例えば飽和又は不飽和の脂環式炭化水素基が挙げられ、飽和の脂環式炭化水素基が好ましい。
それぞれの炭化水素基の炭素数は、凝集物の生成を抑制する観点から、好ましくは6以上、より好ましくは7以上、更に好ましくは8以上であり、同様の観点から、好ましくは22以下、より好ましくは18以下、更に好ましくは14以下である。炭化水素基は、後述する置換基を有していてもよく、炭化水素基の一部が窒化水素基に置換されていてもよい。
【0019】
直鎖又は分岐鎖の鎖式飽和炭化水素基は、凝集物の生成を抑制する観点から、好ましくは直鎖の鎖式飽和炭化水素基である。鎖式飽和炭化水素基としては、例えば、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、tert-ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、オクタデシル基、ドコシル基、オクタコサニル基等が挙げられる。
【0020】
鎖式不飽和炭化水素基としては、例えば、プロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基、イソプレニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、オクタデセニル基が挙げられる。
【0021】
飽和の脂環式炭化水素基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基、シクロドデシル基、シクロトリデシル基、シクロテトラデシル基、シクロオクタデシル基等が挙げられる。
【0022】
(b)更なる置換基
なお、修飾基はさらに置換基を有するものであってもよい。置換基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基等の炭素数1~6のアルコキシ基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基、イソブトキシカルボニル基、sec-ブトキシカルボニル基、tert-ブトキシカルボニル基、ペンチルオキシカルボニル基、イソペンチルオキシカルボニル基等のアルコキシ基の炭素数が1以上6以下のアルコキシ-カルボニル基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;アセチル基、プロピオニル基等の炭素数1以上6以下のアシル基;アラルキル基;アラルキルオキシ基;炭素数1以上6以下のアルキルアミノ基;アルキル基の炭素数1以上6以下のジアルキルアミノ基;ヒドロキシ基が挙げられる。
【0023】
(アニオン変性セルロース繊維)
アニオン変性セルロース繊維とは、アニオン性基、例えばカルボキシ基、(亜)リン酸基及びスルホン酸基からなる群より選択される1種以上の基を分子内に有するセルロース繊維である。入手容易性及び効果の観点から、アニオン性基としてカルボキシ基を有するアニオン変性セルロース繊維(「酸化セルロース繊維」と称する。)が好ましく、セルロース繊維を構成するグルコース単位のC6位のヒドロキシメチル基(-CH2OH)が選択的にカルボキシ基に変換されたアニオン変性セルロース繊維(「TEMPO酸化セルロース繊維」と称する。)がより好ましい。なお、アニオン性基の対となるイオン(カウンターイオン)は、好ましくはプロトンである。
【0024】
アニオン変性セルロース繊維におけるアニオン性基含有量としては、安定な修飾基導入の観点から、好ましくは0.1mmol/g以上、より好ましくは0.4mmol/g以上、更に好ましくは0.6mmol/g以上、更に好ましくは0.7mmol/g以上、更に好ましくは0.8mmol/g以上である。また、取り扱い性を向上させる観点から、好ましくは3mmol/g以下、より好ましくは2.5mmol/g以下、更に好ましくは2mmol/g以下、更に好ましくは1.9mmol/g以下、更に好ましくは1.8mmol/g以下である。なお、「アニオン性基含有量」とは、セルロース繊維を構成するグルコース部分中のアニオン性基の総量を意味し、具体的には後述の実施例に記載の方法により測定される。
【0025】
〔改質セルロース繊維の製造方法〕
改質セルロース繊維は、例えば、原料のセルロース繊維にアニオン性基を導入してアニオン変性セルロース繊維を製造し(工程1)、次いで、アニオン変性セルロース繊維と2種以上のアミンとを結合させること(工程2)によって、製造することができる。
【0026】
(工程1)
(a)原料のセルロース繊維
アニオン変性セルロース繊維の原料であるセルロース繊維としては、環境面から天然セルロースが好ましく、例えば、針葉樹系パルプ、広葉樹系パルプ等の木材パルプ;コットンリンター、コットンリントのような綿系パルプ;麦わらパルプ、バガスパルプ等の非木材系パルプ;バクテリアセルロース等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0027】
原料のセルロース繊維の平均繊維径は特に限定されないが、取扱い性及びコストの観点から、好ましくは5μm以上、より好ましくは7μm以上であり、同様の観点から、好ましくは500μm以下、より好ましくは300μm以下である。原料のセルロース繊維の平均繊維径は後述の実施例に記載の方法で求められる。
【0028】
また、原料のセルロース繊維の平均繊維長は特に限定されないが、入手性及びコストの観点から、好ましくは5μm以上、より好ましくは25μm以上であり、同様の観点から、好ましくは5,000μm以下、より好ましくは3,000μm以下である。原料のセルロース繊維の平均繊維長は、後述の実施例に記載の方法に従って測定することができる。
【0029】
(b)アニオン性基の導入方法
セルロース繊維にアニオン性基としてカルボキシ基を導入する方法としては、例えばセルロース繊維のヒドロキシ基を酸化してカルボキシ基に変換する方法や、セルロース繊維のヒドロキシ基に、カルボキシ基を有する化合物、カルボキシ基を有する化合物の酸無水物及びそれらの誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種を反応させる方法が挙げられる。
【0030】
セルロース繊維のヒドロキシ基を酸化処理する方法としては、例えば、特開2015-143336号公報又は特開2015-143337号公報に記載の、2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジン-N-オキシル(TEMPO)を触媒として、次亜塩素酸ナトリウム等の酸化剤及び臭化ナトリウム等の臭化物を原料のセルロース繊維と反応させる方法が挙げられる。TEMPOを触媒としてセルロース繊維の酸化を行うことにより、セルロース繊維を構成するグルコース単位中のC6位のヒドロキシメチル基が選択的にカルボキシ基に変換され、前述のTEMPO酸化セルロース繊維を得ることができる。
【0031】
セルロース繊維にアニオン性基としてスルホン酸基を導入する方法としては、セルロース繊維に硫酸を添加し加熱する方法等が挙げられる。
セルロース繊維にアニオン性基として(亜)リン酸基を導入する方法としては、乾燥状態又は湿潤状態のセルロース繊維に、(亜)リン酸又は(亜)リン酸誘導体の粉末や水溶液を混合する方法や、セルロース繊維の分散液に(亜)リン酸又は(亜)リン酸誘導体の水溶液を添加する方法等が挙げられる。セルロース繊維にアニオン性基としてリン酸基を導入する方法としては、例えば、特許第7196051号公報に記載の、原料のセルロース繊維に、リン酸二水素アンモニウムと尿素の混合水溶液を含浸し、セルロース繊維のヒドロキシ基をリン酸エステル化する方法が挙げられる。
これらの方法を採用した場合、一般的に、(亜)リン酸又は(亜)リン酸誘導体の粉末や水溶液を混合または添加した後に、脱水処理及び加熱処理等を行う。
【0032】
(工程2)
アニオン変性セルロース繊維と2種以上のアミンとの結合は、アニオン性基に修飾基を導入するための化合物であるアミン(「修飾用化合物」とも称する。)とアニオン変性セルロース繊維とを反応させることで達成される。工程2においてアミンを2種以上使用することが本発明の特徴の一つである。アニオン変性セルロース繊維と2種以上のアミンとの反応の順序は特に限定されず、例えば、分子量の小さいアミンを先に反応させてもよく、分子量の大きいアミンを先に反応させてもよく、あるいはすべてのアミンを同時に反応させてもよい。好ましくは、最初に第3級アミンを反応させ、次いで第2級アミンを反応させる態様である。
【0033】
修飾基を結合させる方法としては、(1)イオン結合を介して結合させる場合は特開2015-143336号公報を参考にすることができ、(2)アミド結合を介して結合させる場合は特開2015-143337号公報を参考にすることができる。
工程2の終了後、未反応の化合物等を除去するために、後処理を適宜行ってもよい。後処理の方法としては、例えば、ろ過、遠心分離、透析等を用いることができる。
【0034】
(アミン)
本発明では2種以上のアミンを使用するものであり、生産上の観点から、2~4種のアミンを使用することが好ましく、2種のアミンを使用することがより好ましい。
アミンとしては、好ましくは第1級アミン、第2級アミン、第3級アミン等の、アミノ基及び鎖式炭化水素基又は脂環式炭化水素基を有する化合物であり、凝集物の生成を抑制する観点から、第2級アミン及び第3級アミンを含むものがより好ましい。鎖式炭化水素基又は脂環式炭化水素基の好ましい具体例は上述のとおりである。
【0035】
アミンの分子量としては、凝集物の生成を抑制する観点から、好ましくは100以上、より好ましくは200以上、更に好ましくは300以上であり、一方、同様の観点から、好ましくは10,000以下、より好ましくは2,000以下、更に好ましくは1,000以下、より更に好ましくは500以下である。
【0036】
かかるアミンの具体例としては、好ましい第1級アミンとしては、ヘキサデシルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン等が挙げられ、好ましい第2級アミンとしては、ジデシルアミン、ジオクチルアミン、ジドデシルアミン、ジトリデシルアミンが挙げられ、好ましい第3級アミンとしては、トリヘキシルアミン、トリオクチルアミン、トリデシルアミン、トリドデシルアミンが挙げられる。
【0037】
アミンとして第2級アミンと第3級アミンを使用する場合、両者の比率としては、凝集物の生成を抑制する観点から、第3級アミンに対する第2級アミンのモル比(第2級アミン/第3級アミン)が好ましくは10/90以上、より好ましくは20/80以上、更に好ましくは40/60以上であり、一方、同様の観点から、好ましくは90/10以下、より好ましくは80/20以下、更に好ましくは60/40以下である。
【0038】
(微細化工程)
改質セルロース繊維の製造方法のいずれかの段階(例えば、工程1の前、工程2の前及び工程2の後)においてセルロース繊維を微細化することにより、マイクロメータースケールのセルロース繊維をナノメータースケールに微細化することができる。平均繊維径をナノメートルサイズにまで小さくすることによって、樹脂中での分散性が向上するため、好ましい。
【0039】
微細化処理は公知の微細化処理方法を採用することができる。例えば、平均繊維径がナノメートルサイズの改質セルロース繊維を得る場合は、マスコロイダー等の磨砕機を用いた処理方法や、媒体中で高圧ホモジナイザー等を用いた処理方法を実施すればよい。
【0040】
媒体としては、例えば水;メタノール、エタノール、プロパノール、1-メトキシ-2-プロパノール(PGME)等の炭素数1~6、好ましくは炭素数1~4のアルコール;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等の炭素数3~6のケトン;酢酸エチル、酢酸ブチル等の炭素数2~4のエステル;炭素数1~6の飽和炭化水素又は不飽和炭化水素;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素;塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素;炭素数2~5の低級アルキルエーテル;N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド等の極性溶媒等が例示される。これらは、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。媒体の使用量は、微細化対象のセルロース繊維を分散できる量であればよく、対象のセルロース繊維に対して、好ましくは1質量倍以上、より好ましくは2質量倍以上、好ましくは500質量倍以下、より好ましくは200質量倍以下である。
【0041】
微細化処理で使用する装置としては、高圧ホモジナイザー以外にも、公知の分散機が好適に使用される。例えば、離解機、叩解機、低圧ホモジナイザー、グラインダー、マスコロイダー、カッターミル、ボールミル、ジェットミル、短軸押出機、2軸押出機、超音波攪拌機、家庭用ジューサーミキサー等を用いることができる。また、微細化処理における対象のセルロース繊維の固形分含有率は50質量%以下が好ましい。
【0042】
(短繊維化処理)
改質セルロース繊維の製造方法のいずれかの段階において、セルロース繊維を短繊維化処理してもよい。
短繊維化処理は、対象のセルロース繊維を、次の(i)~(iii)に規定される処理方法を単独で又は組み合わせて実施することで達成できる。
(i)アルカリ処理
(ii)酸処理
(iii)熱処理、紫外線処理、電子線処理、機械処理及び酵素処理からなる群から選ばれる1種以上の処理方法
【0043】
〔改質セルロース繊維の性質〕
本発明における改質セルロース繊維の主な性質は以下の通りである。
【0044】
(結晶構造)
改質セルロース繊維は、分離膜の強度発現の観点から、セルロースI型結晶構造を有するものが好ましい。改質セルロース繊維の結晶化度は、分離膜の強度発現の観点から、好ましくは10%以上、より好ましくは15%以上、更に好ましくは20%以上である。また、原料入手性の観点から、好ましくは90%以下、より好ましくは85%以下、更に好ましくは80%以下、更に好ましくは75%以下である。なお、本明細書において、セルロース繊維の結晶化度は、X線回折法による回折強度値から算出したセルロースI型結晶化度であり、後述の実施例に記載の方法に従って測定することができる。なお、セルロースI型とは天然セルロースの結晶形のことであり、セルロースI型結晶化度とは、セルロース繊維全体のうち結晶領域量の占める割合のことを意味する。セルロースI型結晶構造の有無は、X線回折測定において、2θ=22.6°にピークがあることで判定することができる。
【0045】
(平均繊維径)
改質セルロース繊維は、ナノメートルサイズになるように微細化処理を受けたものが好ましい。従って、改質セルロース繊維の平均繊維径は、取扱い性、入手性、及びコストの観点から、好ましくは1nm以上、より好ましくは2nm以上であり、取扱い性及び分散性を高める観点から、好ましくは300nm以下、より好ましくは200nm以下、更に好ましくは150nm以下、更に好ましくは120nm以下である。
【0046】
(平均繊維長)
改質セルロース繊維の平均繊維長としては、分離膜の強度発現の観点から、好ましくは10nm以上、より好ましくは30nm以上、更に好ましくは50nm以上であり、一方、吐出性、取り扱い性の観点から、好ましくは1000nm以下、より好ましくは500nm以下、更に好ましくは300nm以下である。
【0047】
(平均アスペクト比)
改質セルロース繊維の平均アスペクト比としては、分離膜の強度発現の観点から、好ましくは5以上、より好ましくは10以上、更に好ましくは20以上であり、一方、吐出性及び取り扱い性の観点から、好ましくは300以下、より好ましくは200以下、更に好ましくは100以下である。
改質セルロース繊維の平均繊維径、平均繊維長及び平均アスペクト比は、後述の実施例に記載の方法によって求められる。
【0048】
(修飾基の結合量及び導入率)
改質セルロース繊維における修飾基の結合量は、分離膜に含まれる樹脂成分との親和性の観点から、好ましくは0.01mmol/g以上であり、同様の観点から、好ましくは3.0mmol/g以下である。修飾基として任意の2種以上の修飾基が同時に改質セルロース繊維に導入されている場合、修飾基の結合量の合計が前記範囲内であることが好ましい。
【0049】
改質セルロース繊維における修飾基の導入率は、分散性の観点から、好ましくは10mol%以上であり、高ければ高いほど好ましく、好ましくは100mol%である。修飾基として任意の2種以上の修飾基が同時に導入されている場合には、導入率の合計が上限の100mol%を超えない範囲において、前記範囲内となることが好ましい。
【0050】
修飾基の結合量及び導入率は、修飾用化合物であるアミンの種類や添加量、反応温度、反応時間、溶媒の種類等によって調整することができる。修飾基の結合量(mmol/g)及び導入率(mol%)とは、改質セルロース繊維において、アニオン性基に修飾基が導入された(結合した)量及び割合のことである。改質セルロース繊維における修飾基の結合量及び導入率は、例えば、アニオン性基がカルボキシ基の場合には、後述の実施例に記載の方法で算出される。
【0051】
〔改質セルロース繊維分散体〕
本発明の改質セルロース繊維は分散性に優れたものであるため、種々の有機媒体に配合することで、分散体の機械的強度を向上させることができる。
従って、本発明の改質セルロース繊維分散体は、本発明の改質セルロース繊維と有機媒体を含有するものである。
【0052】
(有機媒体)
本発明における有機媒体には、有機溶剤及び樹脂が包含される。
改質セルロース繊維と有機溶剤を含有するものを「改質セルロース繊維分散液」と称し、改質セルロース繊維と樹脂を含有するものを「樹脂組成物」と称する。なお、本発明の樹脂組成物には、さらに有機溶剤が含まれていてもよい。
【0053】
(a)樹脂
樹脂としては、用途や所望の特性又は物性に応じて選択でき、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂、熱可塑性樹脂のいずれであってもよい。本発明では、凝集物が生成しやすい熱硬化性樹脂であっても、効果的に凝集物の生成を抑制することができる。樹脂は単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0054】
本発明では、強度や熱的特性などの観点から、樹脂としては熱硬化性樹脂を含むものが好ましい。
熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アニリン樹脂、ポリイミド樹脂、ビスマレイミド樹脂などが挙げられる。これらの熱硬化性樹脂は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0055】
熱硬化性樹脂の中でもエポキシ樹脂が好ましい。エポキシ樹脂としては、例えば、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、アルケンオキシド類、トリグリシジルイソシアヌレートなどが挙げられる。エポキシ樹脂は、単独で又は2種以上組み合わせもよい。
【0056】
(b)有機溶剤
有機溶剤としては、一般的に使用される有機溶剤や反応性の官能基を含む有機性媒体が挙げられる。
【0057】
本発明に用いられる有機溶剤は、改質セルロース繊維の分散性の観点から、25℃における誘電率が好ましくは75以下であり、より好ましくは55以下であり、更に好ましくは45以下であり、好ましくは1以上であり、より好ましくは2以上であり、更に好ましくは3以上である。なお、溶剤の誘電率は、液体用誘電率計Model871(日本ルフト社製)を用い25℃にて測定することができる。
【0058】
有機溶剤の好ましい具体例としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、2-ブタノール、1-ペンタノール、オクチルアルコール、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルコール類;酢酸等のカルボン酸類;ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、流動パラフィン等の炭化水素類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド、アセトアニリド等のアミド類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン類;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のカーボネート類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酪酸メチル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル等のエステル類;ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等のポリエーテル類;ポリジメチルシロキサン等のシリコーンオイル類;アセトニトリル、プロピオニトリル、エステル油、サラダ油、大豆油、ヒマシ油等が挙げられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0059】
また、反応性の官能基を含む有機性媒体としては、例えば、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸n-へキシル、メタクリル酸n-へキシル、アクリル酸2-エチルヘキシル、メタアクリル酸2-エチルヘキシル、フェニルグリシジルエーテルアクリレート等のアクリレート類;ヘキサメチレンジイソシアネートウレタンプレポリマー、フェニルグリシジルエーテルアクリレートトルエンジイソシアネートウレタンプレポリマー等のウレタンプレポリマー類;n-ブチルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、ステアリン酸グリシジルエーテル、スチレンオキサイド、フェニルグリシジルエーテル、ノニルフェニルグリシジルエーテル、ブチルフェニルグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル等のグリシジルエーテル類;クロロスチレン、メトキシスチレン、ブトキシスチレン、ビニル安息香酸等が挙げられる。
【0060】
(その他成分)
本発明の改質セルロース繊維分散体には、前記以外の他の成分として、可塑剤、結晶核剤、充填剤(無機充填剤、有機充填剤)、加水分解抑制剤、難燃剤、酸化防止剤、炭化水素系ワックス類やアニオン型界面活性剤である滑剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、防曇剤、光安定剤、顔料、防カビ剤、抗菌剤、発泡剤、界面活性剤;でんぷん類、アルギン酸等の多糖類;ゼラチン、ニカワ、カゼイン等の天然たんぱく質;タンニン、ゼオライト、セラミックス、金属粉末等の無機化合物;香料;流動調整剤;レベリング剤;導電剤;紫外線分散剤;消臭剤等を、本発明の効果を損なわない範囲で含有することができる。また同様に、本発明の効果を阻害しない範囲内で他の高分子材料や他の樹脂組成物を添加することも可能である。
【0061】
(改質セルロース繊維分散体の調製方法)
本発明の改質セルロース繊維分散体は、前述の改質セルロース繊維や有機媒体を、必要により、硬化剤、硬化促進剤及び/又はその他成分と一緒に、高圧ホモジナイザーで分散処理を行うことにより調製することができる。あるいは、これらの原料を、ヘンシェルミキサー、自転公転式攪拌機等で攪拌、あるいは密閉式ニーダー、1軸もしくは2軸の押出機、オープンロール型混練機等の公知の混練機を用いて溶融混練することで、本発明の改質セルロース繊維分散体を調製することができる。
【0062】
〔改質セルロース繊維分散液〕
本発明の改質セルロース繊維分散液は改質セルロース繊維と上記有機溶剤を含有するものである。
【0063】
本発明の分散液における改質セルロース繊維の含有量は、生産性の観点から、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは1.0質量%以上であり、一方、分散性の観点から、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下、更に好ましくは5質量%以下、更に好ましくは3質量%以下である。
【0064】
本発明の分散液における改質セルロース中のグルコース部分の含有量は、生産性の観点から、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは1.0質量%以上であり、一方、分散性の観点から、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下、更に好ましくは5質量%以下、更に好ましくは2質量%以下である。
【0065】
本発明の分散液における有機溶剤の含有量は、分散性の観点から、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは95質量%以上であり、一方、生産性の観点から、好ましくは99.99質量%以下、より好ましくは99.9質量%以下、更に好ましくは99.5質量%以下である。
【0066】
〔樹脂組成物〕
本発明の樹脂組成物は改質セルロース繊維と上記樹脂を含有するものであり、さらに溶媒としての有機溶剤を含有してもよい。
【0067】
樹脂組成物が有機溶剤を含む場合、本発明の樹脂組成物における改質セルロース繊維の含有量は、樹脂の補強の観点から、好ましくは、0.1質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上、更に好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは1質量%以上であり、一方、分散性の観点から、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。
一方、樹脂組成物が有機溶剤を含まない場合、本発明の樹脂組成物における改質セルロース繊維の含有量は、樹脂の補強の観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上であり、一方、分散性の観点から、好ましくは80質量%以下、より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは25質量%以下である。
【0068】
樹脂組成物が有機溶剤を含む場合、本発明の樹脂組成物における改質セルロース繊維の含有量は、樹脂の補強の観点から、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上、更に好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは1質量%以上であり、一方、分散性の観点から、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下である。
一方、樹脂組成物が有機溶剤を含まない場合、本発明の樹脂組成物における改質セルロース繊維の含有量は、樹脂の補強の観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは10質量%以上であり、一方、分散性の観点から、好ましくは80質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは15質量%以下である。
【0069】
樹脂組成物が有機溶剤を含む場合、本発明の樹脂組成物における樹脂の含有量は、分散性の観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは3質量%以上、更に好ましくは5質量%以上であり、一方、樹脂の補強の観点から、好ましくは50質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは10質量%以下である。
一方、樹脂組成物が有機溶剤を含まない場合、本発明の樹脂組成物における樹脂の含有量は、分散性の観点から、好ましくは50質量%以上、更に好ましくは60質量%以上、更に好ましくは65質量%以上であり、一方、樹脂の補強の観点から、好ましくは90質量%以下、より好ましくは85質量%以下、更に好ましくは80質量%以下である。
【0070】
本発明の樹脂組成物は更に有機溶剤を含んでいてもよい。ここで言う有機溶剤とは、上記「(b)有機溶剤」の欄における有機溶剤である。有機溶剤を含む場合のその含有量は、分散性の観点から、好ましくは40質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは80質量%以上であり、一方、生産性の観点から、好ましくは99質量%以下、より好ましくは95質量%以下、更に好ましくは93質量%以下である。
【0071】
樹脂が熱硬化性樹脂の場合、本発明の樹脂組成物は硬化剤や硬化促進剤を含んでいてもよい。
硬化剤としては、樹脂の種類に応じて適宜選択でき、例えば、樹脂がエポキシ樹脂である場合の硬化剤としては、例えば、塩酸、硝酸、リン酸等の無機酸;水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属水酸化物;2-エチル-4-メチルイミダゾール等のアミン系硬化剤;トリアジン骨格含有フェノール等のフェノール樹脂系硬化剤;酸無水物系硬化剤;ポリメルカプタン系硬化剤;三フッ化ホウ素-アミン錯体、ジシアンジアミド、カルボン酸ヒドラジド等の潜在性硬化剤などが挙げられる。硬化剤は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。なお、硬化剤は、硬化促進剤として作用する場合もある。
【0072】
硬化促進剤も、樹脂の種類に応じて適宜選択でき、例えば、樹脂がエポキシ樹脂である場合の硬化促進剤としては、例えば、ホスフィン類、アミン類などが挙げられる。硬化促進剤は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0073】
硬化剤の割合は、樹脂や硬化剤の種類などに応じて適宜選択できるが、例えば、樹脂100質量部に対して好ましくは0.1~300質量部である。
硬化促進剤の割合は、硬化剤の種類などに応じて適宜選択できるが、例えば、エポキシ樹脂100質量部に対して好ましくは0.01~100質量部である。
【実施例0074】
以下、実施例等を示して本発明を具体的に説明する。なお、下記の実施例は単なる本発明の例示であり、何ら限定を意味するものではない。なお、「常圧」とは101.3kPaを、「常温」とは25℃を示す。
【0075】
〔各種セルロース繊維の平均繊維径及び平均繊維長〕
測定対象のセルロース繊維のサイズによって、下記の二通りの測定方法のうちのいずれかを選択して測定した。
(1) 測定対象のセルロース繊維に脱イオン水又はN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)を加えて、その含有率が0.0001質量%の分散液を調製した。該分散液をマイカ(雲母)上に滴下して乾燥したものを観察試料として、原子間力顕微鏡(AFM)(Digital Instruments社製、Nanoscope II Tappingmode AFM;プローブはナノセンサーズ社製、Point Probe (NCH)を使用)を用いて、該観察試料中のセルロース繊維の繊維高さ(繊維のあるところとないところの高さの差)を測定した。その際、該セルロース繊維が確認できる顕微鏡画像において、セルロース繊維を100本抽出し、それらの繊維高さから平均繊維径を算出した。繊維方向の距離より、平均繊維長を算出した。
【0076】
(2) 測定対象のセルロース繊維に脱イオン水を加えて、その含有率が0.01質量%の分散液を調製した。該分散液を湿式分散タイプ画像解析粒度分布計(ジャスコインターナショナル社製、IF-3200)を用いて、フロントレンズ:2倍、テレセントリックズームレンズ:1倍、画像分解能:0.835μm/ピクセル、シリンジ内径:6515μm、スペーサー厚み:500μm、画像認識モード:ゴースト、閾値:8、分析サンプル量:1mL、サンプリング:15%の条件で測定した。そして、セルロース繊維を長方形と近似した際の短軸の長さを繊維径、長軸の長さを繊維長として、それぞれの値をセルロース繊維100本について測定し、平均値を算出した。
【0077】
〔アニオン変性セルロース繊維のアニオン性基含有量〕
乾燥質量0.5gの測定対象のセルロース繊維をビーカーにとり、脱イオン水又はメタノール/脱イオン水=2/1(体積比)の混合溶媒を加えて全体で55mLとし、ここに0.01M塩化ナトリウム水溶液5mLを加えて分散液を調製した。測定対象のセルロース繊維が十分に分散するまで該分散液を攪拌した。この分散液に0.1M塩酸を加えてpHを2.5~3に調整し、自動滴定装置(東亜ディーケーケー社製、AUT-701)を用い、0.05M水酸化ナトリウム水溶液を、待ち時間60秒の条件で該分散液に滴下し、1分ごとの電導度及びpHの値を測定した。pH11程度になるまで測定を続け、電導度曲線を得た。この電導度曲線から、水酸化ナトリウム滴定量を求め、次式により、測定対象のセルロース繊維のアニオン性基含有量を算出した。
アニオン性基含有量(mmol/g)=[水酸化ナトリウム水溶液滴定量(mL)×水酸化ナトリウム水溶液濃度(0.05M)]/[測定対象のセルロース繊維の質量(0.5g)]
【0078】
〔改質セルロース繊維の修飾基の結合量及び導入率〕
改質セルロース繊維の修飾基の結合量を次のIR測定方法により求め、下記式によりその結合量及び導入率を算出した。IR測定は、具体的には、乾燥させた改質セルロース繊維の赤外吸収スペクトルを赤外吸収分光装置(IR)(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製、Nicolet 6700)を用いATR法にて測定し、式AおよびBにより、修飾基の結合量及び導入率を算出した。以下はアニオン性基がカルボキシ基の場合、即ち、酸化セルロース繊維の場合を示す。以下の「1720cm-1のピーク強度」は、カルボニル基に由来するピーク強度である。なお、カルボキシ基以外のアニオン性基の場合は波数の値を適宜変更し、修飾基の結合量及び導入率を算出すればよい。
<式A-1(イオン結合の場合)>
修飾基の結合量(mmol/g)=a×(b-c)÷b
a:酸化セルロース繊維のカルボキシ基含有量(mmol/g)
b:酸化セルロース繊維の1720cm-1のピーク強度
c:改質セルロース繊維の1720cm-1のピーク強度
<式A-2(アミド結合の場合)>
修飾基の結合量(mmol/g)=d-e
d:酸化セルロース繊維のカルボキシ基含有量(mmol/g)
e:改質セルロース繊維のカルボキシ基含有量(mmol/g)
<式B>
修飾基の導入率(mol%)=100×f/g
f:修飾基の結合量(mmol/g)
g:酸化セルロース繊維のカルボキシ基含有量(mmol/g)
【0079】
〔各成分の含有量〕
各成分の含有量は各成分の配合量から算出した。
【0080】
〔各種セルロース繊維における結晶構造の確認〕
セルロース繊維、アニオン変性セルロース繊維や改質セルロース繊維等の各種セルロース繊維の結晶構造は、回折計(リガク社製、MiniFlexII)を用いて以下の条件で測定することにより確認した。
測定ペレット調製条件:錠剤成形機で10~20MPaの範囲で、対象のセルロース繊維に圧力を印加することで、面積320mm2×厚さ1mmの平滑なペレットを調製した。
X線回折分析条件:ステップ角0.01°、スキャンスピード10°/min、測定範囲:回折角2θ=5~40°
X線源:Cu/Kα-radiation、管電圧:15kv、管電流:30mA
ピーク分割条件:バックグラウンドノイズを除去した後、2θ=13-23°の間の誤差が5%以内に収まるようにガウス関数でフィッティングした。
【0081】
セルロースI型結晶構造の結晶化度は前述のピーク分割により得られたX線回折ピークの面積を用いて以下の式(A)に基づいて算出した。
セルロースI型結晶化度(%)=[Icr/(Icr+Iam)]×100 (A)
〔式中、Icrは、X線回折における格子面(002面)(回折角2θ=22-23°)の回折ピークの面積、Iamはアモルファス部(回折角2θ=18.5°)の回折ピークの面積を示す。〕
【0082】
調製例1(短繊維化アニオン変性セルロース繊維の調製)
〔アニオン変性セルロース繊維〕
原料として、表1に記載の物性値を有するアニオン変性セルロース繊維を用いた。
【0083】
【0084】
かかるアニオン変性セルロース繊維は、例えば下記のTEMPO酸化処理のようにして調製することができる。
【0085】
[TEMPO酸化処理]
メカニカルスターラー、撹拌翼を備えた2LのPP製ビーカーに、原料の天然セルロース繊維としての針葉樹の漂白クラフトパルプ繊維10g、脱イオン水990gをはかり取り、25℃、100rpmで30分間撹拌する。次いで、該パルプ繊維10gに対し、2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジン-N-オキシル(TEMPO)を0.13g、臭化ナトリウム1.3g、10.5質量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液35.5gをこの順で添加する。次いで、自動滴定装置を用いてpHスタット滴定を行い、0.5M水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHを10.5に保持する。撹拌速度100rpmにて25℃で120分間反応を行う。次いで、撹拌しながら、それに0.01Mの塩酸を加えて、懸濁液のpHを2とする。次いで、吸引濾過で、固形分を濾別する。固形分を脱イオン水中に分散させ、吸引濾過で固形分を濾別する操作を、ろ液の伝導度が200μS/cm以下になるまで繰り返す。得られる固形分に対して脱水処理を行って、アニオン変性セルロース繊維を得ることができる。
【0086】
〔短繊維化アニオン変性セルロース繊維の調製〕
表1に記載の物性値を有するアニオン変性セルロース繊維のアルカリ加水分解処理及び熱水処理を行い、表2に記載の物性値を有する短繊維化アニオン変性セルロース繊維を調製した。
【0087】
【0088】
かかる短繊維化アニオン変性セルロース繊維は、例えば、下記のアルカリ加水分解処理及び熱水処理により調製することができる。
【0089】
[アルカリ加水分解処理]
固形分量144.5gの、表1に記載の物性値を有するアニオン変性セルロース繊維の懸濁液を1000gの脱イオン水で希釈し、これに35%過酸化水素水を1.4g(原料セルロース繊維の固形分量100質量部に対して過酸化水素1質量部)加え、1M水酸化ナトリウム水溶液でpH12に調整する。次いで、2時間、80℃でアルカリ加水分解処理を行う(アニオン変性セルロース繊維の懸濁液の固形分含有率4.3質量%)。懸濁液を常温まで冷却後、0.01Mの塩酸を加えて、懸濁液のpHを2とする。吸引濾過で、懸濁液の固形分を濾別する。
【0090】
[熱水処理]
前記アルカリ加水分解処理で得られる固形分を脱イオン水中に分散させ、吸引濾過で固形分を濾別する操作を、ろ液の伝導度が200μS/cm以下になるまで繰り返す。懸濁液中の固形分含有率が5質量%になるように該懸濁液に脱イオン水を添加し、95℃で12時間撹拌し、その後、常温まで冷却することにより、短繊維化アニオン変性セルロース繊維の水懸濁液を得ることができる。得られた短繊維化アニオン変性セルロース繊維の水懸濁液を遠心分離することにより、短繊維化アニオン変性セルロース繊維を得ることができる。
【0091】
実施例1(改質セルロース繊維及び樹脂組成物の調製)
表2に記載の物性値を有する前記短繊維化アニオン変性セルロース繊維17.5g(固形分量5g)に対して、エタノール481g、並びに表3に記載のアミン化合物1を表3に記載の質量比になるように添加し、室温で1時間撹拌した。
その後、得られたエタノール分散液を2軸高圧ホモジナイザー(ナノヴェイタL-ES、吉田機械興業社製)で150MPa 5pass処理した。
【0092】
ホモジナイザー処理後のエタノール分散液から採取した48.8gのエタノール分散液に対し、表3に記載のアミン化合物2を表3に記載の質量比になるように添加し、室温で30分間撹拌した。
撹拌終了後、更にシクロヘキサノン48.8gを添加し、得られた分散液から、エバポレーターを用いて、70℃減圧条件下で、溶媒を48.8g留去した。このようにして、イオン結合を介して鎖式炭化水素基を有する2種以上のアミンが結合してなる、改質セルロース繊維の分散液を調製した。得られた改質セルロース繊維は、トリオクチルアミンに由来するトリオクチル基と、ジトリデシルアミンに由来するジトリデシル基の2種の鎖式炭化水素基を、イオン結合を介して有するという構造であった。
【0093】
得られた分散液に表3に記載の質量比になるように樹脂を添加し、室温で30分間撹拌した。このようにして、本発明の樹脂組成物を調製した。
その後、溶媒の含有量が表3に記載の質量比になるまで、エバポレーターを用いて、85℃減圧条件下で、溶媒を留去した。
得られた分散液を室温まで放冷後、表3に記載の質量比になるように硬化剤を添加し、室温で撹拌して組成物を得た。このようにして得られた組成物も本発明の樹脂組成物に包含される。以下で評価する分散性については、ここで得られた組成物を試料として使用した。
【0094】
実施例2~6(改質セルロース繊維及び樹脂組成物の調製)
短繊維化アニオン変性セルロース繊維やアミン化合物等の各成分の質量比や種類を表3に記載された内容に変更したこと以外は実施例1と同じ方法で、各実施例の改質セルロース繊維及び樹脂組成物を調製した。
【0095】
比較例1~3(改質セルロース繊維及び樹脂組成物の調製)
短繊維化アニオン変性セルロース繊維やアミン化合物等の各成分の質量比や種類を表3に記載された内容に変更したこと以外は実施例1と同じ方法で、各比較例の改質セルロース繊維及び樹脂組成物を調製した。比較例においては、アミン化合物2を使用しなかったため、得られた改質セルロース繊維は、トリオクチルアミンに由来するトリオクチル基の1種の鎖式炭化水素基を、イオン結合を介して有するという構造であった。
【0096】
[分散性の評価方法]
改質セルロース繊維の分散性については、以下のようにして試料中の凝集物の最大長で評価した。凝集物の最大長が長いほど、分散性が悪いと言うことができる。
試料を一滴スライドグラスに滴下し、カバーグラスを載せた。倍率を150倍に設定したデジタルマイクロスコープ(キーエンス社製、VHX6000)を用いて、得られた視野内で試料中の凝集物を観察した。凝集物中の最大の凝集物の長辺の長さを各例における凝集物の最大長とした。
【0097】
下記の表3に、各実施例及び比較例の組成と評価結果等をまとめた。なお、表3に記載の質量比は各試薬の質量より算出した。
【0098】
【0099】
表3より、凝集物の最大長に関して、比較例の方が実施例よりも長いことが分かった。このことから、2種類の炭化水素基を有する改質セルロース繊維の方が分散性に優れていることが示された。
【0100】
[試薬]
なお、上記の実施例等においては、以下の試薬を特別の精製なく用いた。
・第3級アミン
トリオクチルアミン:富士フイルム和光純薬社製(分子量:354)
トリドデシルアミン:ファーミンT20(花王社製)(分子量:522)
・第2級アミン
ジトリデシルアミン:ファーミンD30I(花王社製)(分子量:382)
ジドデシルアミン:富士フイルム和光純薬社製(分子量:354)
ジオクチルアミン:富士フイルム和光純薬社製(分子量:241)
・樹脂及び硬化剤
エポキシ樹脂:jER828(三菱ケミカル社製)
0.1mol/L 塩酸、エタノール性:シグマアルドリッチジャパン社製
0.1mol/L 水酸化カリウム溶液(アルコール性):関東化学社製
本発明の改質セルロース繊維及び樹脂組成物は、家電部品、エレクトロニクス、航空宇宙、土木建築、自動車、車載向け用途等の各種成形品分野に利用することができる。