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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024163906
(43)【公開日】2024-11-22
(54)【発明の名称】滑り案内面用潤滑油組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/04 20060101AFI20241115BHJP
   C10M 137/04 20060101ALN20241115BHJP
   C10M 133/06 20060101ALN20241115BHJP
   C10N 40/02 20060101ALN20241115BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20241115BHJP
【FI】
C10M169/04
C10M137/04
C10M133/06
C10N40:02
C10N30:06
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024078249
(22)【出願日】2024-05-13
(31)【優先権主張番号】P 2023079719
(32)【優先日】2023-05-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】398053147
【氏名又は名称】コスモ石油ルブリカンツ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】植町 ゆかり
(72)【発明者】
【氏名】山本 邦治
(72)【発明者】
【氏名】糸魚川 文広
(72)【発明者】
【氏名】前川 覚
(72)【発明者】
【氏名】日比野 公亮
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BA02A
4H104BA04A
4H104BA07A
4H104BB08A
4H104BB33A
4H104BB34A
4H104BB41A
4H104BE02C
4H104BH03C
4H104CB14A
4H104DA02A
4H104LA03
4H104PA01
(57)【要約】
【課題】低湿度下及び高湿度下のいずれにおいても優れた摩擦特性を示す滑り案内面用潤滑油組成物を提供する。
【解決手段】基油と、下記一般式(1)で表される構造を有する酸性リン酸モノエステル及び酸性リン酸ジエステルからなる酸性リン酸エステル混合物と、第三級直鎖脂肪族モノアミンと、を含有する滑り案内面用潤滑油組成物である。一般式(1)中、R及びRは、各々独立に、水素原子又は炭素数1~30の飽和若しくは不飽和の直鎖脂肪族炭化水素基を表し、R及びRが同時に水素原子となることはない。

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油と、下記一般式(1)で表される構造を有する酸性リン酸モノエステル及び酸性リン酸ジエステルからなる酸性リン酸エステル混合物と、第三級直鎖脂肪族モノアミンと、を含有する滑り案内面用潤滑油組成物。
【化1】

[一般式(1)中、R及びRは、各々独立に、水素原子又は炭素数1~30の飽和若しくは不飽和の直鎖脂肪族炭化水素基を表し、R及びRが同時に水素原子となることはない。]
【請求項2】
前記第三級直鎖脂肪族モノアミンの含有量が、組成物全量基準で0.01質量%~0.7質量%である請求項1に記載の滑り案内面用潤滑油組成物。
【請求項3】
前記酸性リン酸エステル混合物の含有量が、組成物全量基準で0.12質量%~0.60質量%である請求項1又は請求項2に記載の滑り案内面用潤滑油組成物。
【請求項4】
前記酸性リン酸エステル混合物に対する、前記第三級直鎖脂肪族モノアミンのモル比が、0.1~6.0である請求項1又は請求項2に記載の滑り案内面用潤滑油組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、滑り案内面用潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械は金属の切削・研削加工を行う機械であり、機械構造中の案内面として、滑り案内面(摺動面)が多く採用されている。この滑り案内面は面接触のため摩擦係数が大きく、特に低速時にスティックスリップを生じやすいが、スティックスリップを生じると加工精度や工具寿命への影響が懸念される。そのため、工作機械の滑り案内面用潤滑油(摺動面油とも呼ばれる)には、摩擦係数が十分に低く、スティックスリップ抑制性が良好(すなわち摩擦特性が良好)であることや、金属腐食防止性や貯蔵安定性が良好であることが求められる。
【0003】
上記の特性に着目した工作機械の滑り案内面用潤滑油として、潤滑油基油に、特定構造の酸性リン酸エステルと特定構造のアミン化合物を特定量で含有させた潤滑油組成物が提案されている(例えば、特許文献1~2参照)。
【0004】
また、工作機械の加工精度は一般的に内外の温度変化に伴う機械の熱変形の影響を受けることが知られている。そのため、高い加工精度を実現するには、工作機械の恒温室内設置や、仕上げ工程を別工程で実施する等といった現場における対応や工作機械自身の熱変形対策及び変位補正技術といったハード側・ソフト側の対策が行われている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-235266号公報
【特許文献2】特開2011-68801号公報
【特許文献3】特開2012-240137号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の通り、特許文献3に記載されるようなハード側・ソフト側においては、加工環境の温度変化に伴う熱変位の対策は行われているが、加工環境の湿度変化に伴う滑り案内面への影響は、ほとんど検討が行われてこなかった。
しかしながら、本発明者らの検討において、高湿度環境では低湿度環境に比べて滑り案内面における摩擦係数が増大し、加工精度に影響を及ぼす可能性があることが確認されている。
また、特許文献1又は特許文献2に記載される潤滑油組成物は、高湿度下における摩擦特性に着目するものではない。
【0007】
本開示の一態様が解決しようとする課題は、上記課題を克服する観点からなされたもので、低湿度下及び高湿度下のいずれにおいても優れた摩擦特性を示す滑り案内面用潤滑油組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意研究を重ねた結果、基油に、特定の構造を有する酸性リン酸モノエステル及び酸性リン酸ジエステルの混合物と、第三級直鎖脂肪族モノアミンとを配合することによって、低湿度下における良好な摩擦特性を、高湿度下においても発現する潤滑油組成物となることを見出し、本開示を完成させるに至った。すなわち、以下の発明が提供される。
【0009】
<1> 基油と、下記一般式(1)で表される構造を有する酸性リン酸モノエステル及び酸性リン酸ジエステルからなる酸性リン酸エステル混合物と、第三級直鎖脂肪族モノアミンと、を含有する滑り案内面用潤滑油組成物である。
【0010】
【化1】
【0011】
一般式(1)中、R及びRは、各々独立に、水素原子又は炭素数1~30の飽和若しくは不飽和の直鎖脂肪族炭化水素基を表し、R及びRが同時に水素原子となることはない。
【0012】
<2> 第三級直鎖脂肪族モノアミンが、組成物全量基準で0.01質量%~0.7質量%含有する<1>に記載の滑り案内面用潤滑油組成物である。
【0013】
<3> 酸性リン酸エステル混合物が、組成物全量基準で0.12質量%~0.60質量%含有する<1>又は<2>に記載の滑り案内面用潤滑油組成物である。
【0014】
<4> 酸性リン酸エステル混合物に対する、第三級直鎖脂肪族モノアミンのモル比が、0.1~6.0である<1>~<3>のいずれか1つに記載の滑り案内面用潤滑油組成物である。
【発明の効果】
【0015】
本開示の一態様によれば、低湿度下及び高湿度下のいずれにおいても優れた摩擦特性を示す滑り案内面用潤滑油組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例で用いた摩擦係数測定試験機及びシステムを示す概略構成図である。
図2】実施例で用いた摩擦係数測定試験機における潤滑性能評価装置の一部断面を示した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本開示の滑り案内面用潤滑油組成物について詳細に説明する。なお、本明細書中、数値範囲を表す「~」はその上限及び下限の数値を含む範囲を表す。また、「~」で表される数値範囲において上限値のみに単位が記載されている場合は、下限値も同じ単位であることを意味する。
本明細書において、組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0018】
本明細書において「高湿度」とは、25℃70%RH以上を意味し、「低湿度」とは25℃30%RH以下を意味する。
【0019】
本開示の滑り案内面用潤滑油組成物は、基油と、下記一般式(1)で表される構造を有する酸性リン酸モノエステル及び酸性リン酸ジエステルの混合物(以下、「(A)成分」又は「酸性リン酸エステル混合物」と総称する場合がある。)と、第三級直鎖脂肪族モノアミン(以下、「(B)成分」という場合がある。)と、を含有するものである。
【0020】
【化2】
【0021】
一般式(1)中、R及びRは、各々独立に、水素原子又は炭素数1~30の飽和若しくは不飽和の直鎖脂肪族炭化水素基を表し、R及びRが同時に水素原子となることはない。
【0022】
本開示の滑り案内面用潤滑油組成物は、特定の構造を有する酸性リン酸エステルの混合物((A)成分)と、第三級直鎖脂肪族モノアミン((B)成分)と、を選択的に組み合わせて配合することによって、低湿度下及び高湿度下のいずれにおいても優れた摩擦特性が発揮される。このため、本開示によれば、低湿度下における使用のみならず、高湿度下(例えば、梅雨時、夏場など)においても、摩擦特性を低下させずに使用できる滑り案内面用潤滑油を提供することができる。
【0023】
本開示の滑り案内面用潤滑油組成物が、上記の効果を発揮する作用機構については明確ではないが、以下のように推測される。
本開示の滑り案内面用潤滑油組成物において含有される酸性リン酸エステルのモノエステル及びジエステルの混合物((A)成分)は、低湿度下において摩擦係数を大幅に低下させる効果を発揮する一方で、高湿度下においては摩擦係数を低下させる効果が減少する傾向がある。
このことは、摺動面における摩擦係数の低下に寄与していると考えられる(A)成分により形成される皮膜が、高湿度下においては形成されにくい、あるいは形成されても皮膜を維持されにくいためであると推測される。その一方で、第三級直鎖脂肪族モノアミン((B)成分)は、低湿度下において摩擦係数を低減させる作用が低い。潤滑油組成物中に(A)成分と共に(B)成分を選択的に組み合わせて含有されていることで、高湿度下において優れた摩擦特性を発揮する。
このことは、(B)成分が、高湿度下において潤滑油組成物中に含まれる水分子を捕捉することで、水分濃度が調節され、(A)成分による摺動面における皮膜形成作用を顕著に促進又は維持されるためであると推測される。
【0024】
<基油>
本開示の滑り案内面用潤滑油組成物に用いる基油としては特に制限はなく、鉱油系潤滑油基油であっても、合成油系潤滑油基油であってもよい。
【0025】
鉱油系潤滑油基油としては、例えば、原油を常圧蒸留して得られる常圧蒸留残油を、減圧蒸留、油剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、硫酸洗浄、白土精製、及び水素化精製等を適宜組み合わせることにより精製したものなどが挙げられる。
【0026】
合成油系潤滑油基油としては、例えば、炭素数3~12のα-オレフィンの重合体であるα-オレフィンオリゴマー、2-エチルヘキシルセバケート、ジオクチルセバケートを始めとするセバケート、アゼレート、アジペートなどの炭素数4~12のジアルキルジエステル類、1-トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールと炭素数3~12の一塩基酸から得られるエステルを始めとするポリオール類、炭素数9~40のアルキル基を有するアルキルベンゼン類、ブチルアルコールをプロピレンオキシドと縮合させることにより得られるポリグリコールなどのポリグリコール類、約2~5個のエーテル連鎖及び約3~6個のフェニル基を有するポリフェニルエーテルなどのフェニルエーテル類などが挙げられる。
さらに、フィッシャー・トロプシュ合成で得られたワックス等の原料を水素化分解処理及び水素化異性化処理して得られる基油なども挙げられる。
【0027】
本開示の滑り案内面用潤滑油組成物に用いる基油の動粘度は特に制限はないが、40℃ における動粘度が10mm/s~300mm/sであることが好ましく、20mm/s~250mm/sであることがより好ましく、30mm/s~100mm/sであることが更に好ましい。
本明細書における基油の動粘度は、JIS K 2283:2000年「動粘度試験方法」により測定される値である。
【0028】
鉱油系潤滑油基油及び合成油系潤滑油基油等の基油は、1種単独で用いてもよいし、2種以上併せて用いてもよい。
本開示の滑り案内面用潤滑油組成物中の基油の含有量は、特に制限はないが、組成物全量に対して、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上が更に好ましい。
【0029】
<酸性リン酸エステル混合物>
本開示の滑り案内面用潤滑油組成物は、下記一般式(1)で表される構造を有する酸性リン酸モノエステル及び酸性リン酸ジエステルからなる酸性リン酸エステル混合物((A)成分)を含む。
【0030】
【化3】
【0031】
一般式(1)中、R及びRは、各々独立に、水素原子又は炭素数1~30の飽和若しくは不飽和の直鎖脂肪族炭化水素基を表し、R及びRが同時に水素原子となることはない。
【0032】
又はRで表される直鎖脂肪族炭化水素基の炭素数は1~30であり、好ましくは4~22であり、より好ましくは8~18である。
又はRで表される直鎖脂肪炭化水素基は、飽和であっても不飽和であってもよく、炭素数1~30の直鎖アルキル基又は炭素数2~30の直鎖アルケニル基であることが好ましい。
【0033】
又はRで表される直鎖アルキル基の好適な例としては、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、及びオクタデシル基等が挙げられる。
又はRで表される直鎖アルケニル基の好適な例としては、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基、及びオレイル基等が挙げられる。
【0034】
(A)成分の具体例としては、オクチル酸性リン酸エステルのモノ及びジエステルの混合物、オレイル酸性リン酸エステルのモノ及びジエステルの混合物等が挙げられる。
(A)成分における酸性リン酸モノエステル(x)に対する、酸性リン酸ジエステル(y)の混合比(y/x)は、摩擦特性の観点から、モル比で、10/90~90/10が好ましく、20/80~80/20がより好ましく、30/70~70/30がさらに好ましい。
【0035】
(A)成分である酸性リン酸エステル混合物を構成する酸性リン酸モノエステル及び酸性リン酸ジエステルは、それぞれ1種類ずつの酸性リン酸モノエステル及び酸性リン酸ジエステルを含むものであってもよいし、複数種類の酸性リン酸モノエステル及び酸性リン酸ジエステルが組み合わされたものであってもよい。
【0036】
酸性リン酸モノエステルが有する直鎖脂肪族炭化水素基(R又はR)と、酸性リン酸ジエステルが有する2つの直鎖脂肪族炭化水素基(R又はR)とは、同一であってもよく、異なっていてもよい。
酸性リン酸ジエステルの一分子中に存在する2つの直鎖脂肪族炭化水素基は、同一の直鎖脂肪族炭化水素基である。即ち、(A)成分である酸性リン酸エステル混合物においては、1種類又は2種類以上の酸性リン酸ジエステルが含まれ得るが、一分子の酸性リン酸ジエステルにおけるR及びRは同一の直鎖脂肪族炭化水素基である。
【0037】
(A)成分は、前記一般式(1)においてR又はRで表される直鎖脂肪炭化水素基として、同一の直鎖脂肪炭化水素基を有する酸性リン酸モノエステル及び酸性リン酸ジエステルの混合物であることが好ましい。また、(A)成分は、同一の直鎖脂肪炭化水素基を有する酸性リン酸モノエステル及び酸性リン酸ジエステルの組み合わせを、1種又は2種以上含む混合物であってもよい。
【0038】
(A)成分である酸性リン酸エステル混合物の具体的な態様としては、下記の(1)~(3)に示す態様が挙げられる。
【0039】
(1)Rが炭素数1~30の飽和若しくは不飽和の直鎖脂肪族炭化水素基から選択されたいずれか一つの直鎖脂肪族炭化水素基であり、かつ、Rが水素原子である酸性リン酸モノエステルと、該酸性リン酸モノエステルにおけるRと同一の直鎖脂肪族炭化水素基をR及びRとして有する酸性リン酸ジエステルと、をそれぞれ1種類含む混合物である態様が挙げられる。
本態様の例としては、オクチル酸性リン酸エステルのモノエステル及びジエステルの混合物、オレイル酸性リン酸エステルのモノエステル及びジエステルの混合物などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0040】
(2)Rが炭素数1~30の飽和若しくは不飽和の直鎖脂肪族炭化水素基から選択されたいずれか一つの直鎖脂肪族炭化水素基であり、かつ、Rが水素原子である酸性リン酸モノエステルと、該酸性リン酸モノエステルにおけるRと同一の直鎖脂肪族炭化水素基をR及びRとして有する酸性リン酸ジエステルと、をそれぞれ1種類含む混合物を、2種類又は2種類以上含む態様が挙げられる。
本態様の例としては、オクチル酸性リン酸エステルのモノエステル及びジエステルの混合物とオレイル酸性リン酸エステルのモノエステル及びジエステルの混合物との併用態様などが挙げられるが、これに限定されない。
【0041】
(3)Rが炭素数1~30の飽和若しくは不飽和の直鎖脂肪族炭化水素基から選択されたいずれか一つの直鎖脂肪族炭化水素基であり、かつ、Rが水素原子である酸性リン酸モノエステルと、該酸性リン酸モノエステルにおけるRとは異なる直鎖脂肪族炭化水素基をR及びRとして有する酸性リン酸ジエステルと、をそれぞれ1種類又は2種類以上含む混合物である態様が挙げられる。
本態様の例としては、オクチル酸性リン酸エステルのモノエステルとオレイル酸性リン酸ジエステルとの混合物、オレイル酸性リン酸エステルのモノエステルとオクチル酸性リン酸ジエステルとの混合物などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0042】
(A)成分としては、一般式(1)においてR又はRで表される直鎖脂肪族炭化水素基として、同一の直鎖脂肪族炭化水素基を有する酸性リン酸モノエステル及び酸性リン酸ジエステルの混合物(上記(1)及び(2)に示す態様の混合物。)であることが好ましい。
【0043】
本開示の滑り案内面用潤滑油組成物中の(A)成分の含有量は、低湿度下における摩擦特性の観点から、組成物全量に対して、0.12質量%~0.60質量%が好ましく、0.15質量%~0.45質量%であることがより好ましい。
【0044】
<第三級直鎖脂肪族モノアミン>
本開示の滑り案内面用潤滑油組成物は、第三級直鎖脂肪族モノアミン((B)成分)を含む。
【0045】
(B)成分である第三級直鎖脂肪族モノアミンは、分子内に飽和又は不飽和の直鎖脂肪族炭化水素基を3つ有する脂肪族モノアミンであり、下記一般式(2)で表されるアルキルアミンであることが好ましい。
【0046】
【化4】
【0047】
一般式(2)において、R、R及びRは、各々独立に、炭素数3~22の直鎖アルキル基を表す。
【0048】
本開示におけるR、R及びRは直鎖アルキル基の炭素数は、3~22であり、中でも4~18であることが好ましい。この範囲内であることにより、摩擦特性に優れる。
、R及びRで表される直鎖アルキル基の好適な例としては、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、及びオクタデシル基等が挙げられる。
【0049】
本開示における(B)成分としては、コストの観点から、R、R、及びRがいずれもが炭素数3~22の直鎖アルキル基から選択された同一の直鎖アルキル基である第3級モノアミンであることが好ましい。
【0050】
(B)成分である第三級直鎖脂肪族モノアミンの好適な例としては、トリヘキシルアミン、及びトリオクチルアミン等が挙げられる。
【0051】
本開示における(A)成分と(B)成分との好適な組合せ例としては、摩擦特性の観点から、オレイル酸性リン酸のモノエステル及びジエステルの混合物と、トリヘキシルアミン及びトリオクチルアミンから選択される少なくとも1種の第三級直鎖脂肪族モノアミンとの組合せが挙げられる。
【0052】
(B)成分である第三級直鎖脂肪族モノアミンは、1種単独で用いてもよく、2種以上併せて用いてもよい。
本開示の滑り案内面用潤滑油組成物中の(B)成分の含有量は、本開示の滑り案内面用潤滑油としての機能を確保する観点、並びに、低湿度下及び高湿度下における摩擦特性を両立させる観点から、組成物全量に対して、0.01質量%~0.7質量%であることが好ましく、組成物全量に対して、0.02質量%~0.6質量%であることがより好ましく、組成物全量に対して、0.02質量%~0.14質量%であることがさらにより好ましい。
(B)成分の含有量が、0.01質量%以上であると本開示の滑り案内面用潤滑油として機能を好適に発揮し、0.7質量%以下であると低湿度下及び高湿度下における摩擦特性を好適に両立させることができる。
【0053】
さらに、低湿度下及び高湿度下において摩擦特性を両立させる観点から、酸性リン酸エステル混合物(A)に対する、第三級直鎖脂肪族モノアミン(B)のモル比(第三級直鎖脂肪族モノアミン/酸性リン酸エステル混合物=B/A)が、0.1~6.0であることが好ましく、0.1~5.5であることがより好ましく、0.1~1.2であることがさらにより好ましい。
【0054】
本開示の滑り案内面用潤滑油組成物において、酸性リン酸エステル混合物(A)に対する、第三級直鎖脂肪族モノアミン(B)の含有比(B/A[モル比])は、以下のようにして確認する。
まず酸性リン酸エステル混合物について、酸性リン酸エステル混合物が上記(1)の態様である場合、(A)のモル量は、酸性リン酸エステル混合物の含有量を、混合物に含まれる酸性リン酸モノエステル及び酸性リン酸ジエステルの平均分子量で除して算出される。酸性リン酸エステル混合物が上記(2)の態様である場合(R及びRが同一である酸性リン酸エステル混合物が2種類以上含まれる場合)、(A)のモル量は、各酸性リン酸エステル混合物のモルの和として算出される。酸性リン酸エステル混合物が上記(3)の態様である場合、(A)のモル量は、混合物に含まれる1種の酸性リン酸モノエステルの含有量を、対応する酸性リン酸モノエステルの分子量で除したものと、混合物中に含まれる1種の酸性リン酸ジエステルの含有量を、対応する酸性リン酸ジエステルの分子量で除したもの、のそれぞれ1種又は2種以上の和として算出される。
次に、第三級直鎖脂肪族モノアミン(B)のモル量は、第三級直鎖脂肪族モノアミンの含有量を、直鎖脂肪族モノアミンの分子量で除して算出される。
そして、酸性リン酸エステル混合物に対する、第三級直鎖脂肪族モノアミンのモル比(B/A)は、第三級直鎖脂肪族モノアミン(B)のモル量を、酸性リン酸エステル混合物(A)のモル量で除して算出される。2種以上の第三級直鎖脂肪族モノアミンが含まれる場合の(B)のモル量は、各第三級直鎖脂肪族モノアミンのモル量の和として算出される。
【0055】
<その他の添加剤>
本開示の滑り案内面用潤滑油組成物には、さらに各種性能を高める目的で、さらに公知の潤滑油添加剤が含まれてもよい。潤滑油添加剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上併せて用いてもよい。
本開示の滑り案内面用潤滑油組成物に潤滑油添加剤を含有させる場合の含有量は、例えば、組成物全量に対して、0.01質量%~10質量%であってもよい。
【0056】
潤滑油添加剤としては、例えば、酸化防止剤、金属不活性化剤、流動点降下剤、消泡剤、抗乳化剤、及び防錆剤等が挙げられる。
【0057】
酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、及びリン酸系酸化防止剤等が挙げられる。酸化防止剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上併せて用いてもよい。
【0058】
金属不活性化剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系化合物、トリルトリアゾール系化合物、イミダゾール系化合物、チアジアゾール系化合物、及びピリミジン系化合物等が挙げられる。金属不活性剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上併せて用いてもよい。
【0059】
流動点降下剤としては、例えば、スチレン-ブタジエン水添加重合体、エチレンプロピレン重合体、ポリイソブチレン、及びポリメタクリレート等が挙げられる。流動点降下剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上併せて用いてもよい。
【0060】
消泡剤としては、例えば、シリコーン油、フルオロシリコーン、ポリアクリレート、及びポリジメチルシロキサン等が挙げられる。消泡剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上併せて用いてもよい。
【0061】
抗乳化剤としては、例えば、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、及びノニオン界面活性剤等が挙げられる。抗乳化剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上併せて用いてもよい。
【0062】
防錆剤としては、例えば、石油スルホネート、アルキルベンゼンスルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート、アルケニルコハク酸エステル、アルケニルコハク酸ハーフエステル等が挙げられる。防錆剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上併せて用いてもよい。
【実施例0063】
以下、本開示を実施例により更に具体的に説明するが、本開示はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0064】
(実施例1~4、比較例1~5)
表1に示す成分を混合し、滑り案内面用潤滑油組成物を調製した。調製に用いた基油と添加剤の詳細は以下の通りである。
【0065】
・基油:
溶剤精製パラフィン系鉱油(40℃動粘度:68mm/s、粘度指数100、引火点:224℃)
・(A)成分:
オレイル酸性リン酸モノエステルとオレイル酸性リン酸ジエステルとの混合物(混合モル比(60~50/40~50))
・(B)成分:
トリヘキシルアミン(第三級直鎖脂肪族モノアミン化合物)
トリオクチルアミン(第三級直鎖脂肪族モノアミン化合物)
・(B')成分:
ヘキシルアミン(第一級直鎖脂肪族モノアミン化合物)
オクチルアミン(第一級直鎖脂肪族モノアミン化合物)
ジヘキシルアミン(第二級直鎖脂肪族モノアミン化合物)
ジオクチルアミン(第二級直鎖脂肪族モノアミン化合物)
【0066】
各実施例及び比較例の滑り案内面用潤滑油組成物から分取した評価用サンプルを用いて、以下に記載する摩擦特性試験により高湿度下及び低湿度下での摩擦係数を測定し、摩擦特性を評価した。結果は表1に示す。
表1において、各成分の含有量を示す欄中の「-」は、その成分が含まれていないことを示す。また、摩擦係数を示す欄中の「-」は、スティックスリップ現象が生じ、摩擦係数が測定できなかったことを示す。
【0067】
<摩擦特性試験>
図1は、摩擦特性試験に用いた摩擦係数測定システムを示す概略構成図である。測定は、NC制御装置10によって制御され、自動運転される。測定試験において生じた摩擦力は、ひずみゲージを使用し構成された潤滑性能評価装置20によって検出され、A/D変換機30を介し、PC(パーソナルコンピュータ)40に出力され、PC40に測定値が記録される。
【0068】
図2は、図1に示す潤滑性能評価装置20の一部断面を示す概略図である。
図2に示すように、潤滑性能評価装置20は、基台(可動ベース1aと固定ベース1b及び1cと支柱a及びbとから構成される。)と、基台に固定されたサーボモータ2と、一端でサーボモータ2の回転が伝達され、他端に上部試験片Aを保持する回転体3aを取り付けた軸3と、軸3に取り付けたカップリング4と、上部試験試片Aの摩擦面と対向する位置で基台に対し昇降可能に設けられた可動ベース1aに設けられ摩擦面が上部試験片Aの摩擦面と対向する下部試験片Bと、上部試験片A及び下部試験片Bの間に潤滑油組成物(評価用サンプル)を供給する給油管5及び排出する排油管6と、上部試験片Aと下部試験片Bとを接触させた状態でサーボモータ2を回転させたときに試験片A及びB間に発生した摩擦力を検出する動力計7とからなる。
潤滑油組成物(評価用サンプル)は、ポンプ(不図示)によって下部試験片Bの下部より供給され、試験片中央部分から摩擦面へ送られる構造となっている。
上部試験片A及び下部試験片Bは、面-面接触をしながら回転し、発生した摩擦力は、ひずみゲージによって構成した動力計7によって摩擦トルクとして検出される。
【0069】
摩擦特性の測定は、上記図1に示すシステムを用い、下記試験片を用いた。
上部試験片:鋳鉄(JIS:FC300、硬度:535HV)
下部試験片:鋳鉄(JIS:FC300、硬度:700HV)
【0070】
摩擦特性の測定条件は、摺動速度:4.6×10-5mm/s~8.7×10mm/s、接触圧:0.31MPaにおいて、ならし運転8時間もしくは16時間行った後に実施した。
評価は、実施例及び比較例の各潤滑油組成物について、ならし運転8時間もしくは16時間時、摺動速度4.6×10-5mm/s時の摩擦係数を測定することにより行った。
【0071】
摩擦係数が、低湿度及び高湿度のいずれにおいても、0.055以下である場合、実用上問題のない優れた摩擦特性を有する潤滑油組成物であると評価する。
【0072】
【表1】
【0073】
上記表1の結果が示すように、基油に(A)成分である酸性リン酸エステル混合物及び(B)成分である第三級直鎖脂肪族モノアミンを含有する実施例1~実施例4の潤滑油組成物は、低湿度下及び高湿度下における摩擦特性に優れ、加工環境の湿度変化の影響が少ない滑り案内面用潤滑油であることが示された。
一方、(B)成分である第三級直鎖脂肪族モノアミンを含有しない比較例1は、高湿度下における摩擦特性が劣ることが示された。
(B)成分に代えて(B’)成分として第一級直鎖脂肪族モノアミン(ヘキシルアミン)を含有する比較例2は、高湿度下における摩擦特性が劣ることが示された。
また、(B’)成分として第一級直鎖脂肪族モノアミン(オクチルアミン)を含有する比較例3は、低湿度及び高湿度における摩擦特性が劣ることが示された。なお、高湿度下においては、スティックスリップ現象が生じた。
(B’)成分として第二級直鎖脂肪族モノアミン(ジヘキシルアミン)を含有する比較例4は、低湿度及び高湿度における摩擦特性が劣ることが示された。なお、高湿度下においては、スティックスリップ現象が生じた。
また、(B’)成分として第二級直鎖脂肪族モノアミン(ジオクチルアミン)を含有する比較例5は、低湿度下及び高湿度下においてスティックスリップ現象が生じ、摩擦特性が劣ることが示された。
【0074】
上記より、本開示においては、(A)成分及び(B)成分を配合することが、低湿度下及び高湿度下における摩擦特性の両方を達成する観点から、不可欠であることがわかる。
【0075】
また、直鎖脂肪族モノアミンの中でも、第三級直鎖脂肪族モノアミンが優れた摩擦特性を有する。これは、アルキル基の立体障害が影響していると推測される。
(B)成分は、(B’)成分と比較し、アルキル基が多く、立体障害の影響を大きく受ける。このため、(B)成分は、潤滑油組成物中に含まれる水分子を過剰に捕捉せず、(A)成分の加水分解を過剰に抑制しない。この結果、(A)成分が摺動面において皮膜を形成することができ、低湿度下及び高湿度下におけて優れた摩擦特性を発揮すると推測される。
【0076】
10・・・NC制御装置
20・・・潤滑性能評価装置
30・・・A/D変換機
40・・・PC(パーソナルコンピュータ)
1a・・・可動ベース、
1b、1c・・・固定ベース
a、b・・・支柱
2・・・サーボモータ
3・・・軸
3a・・・回転体
4・・・カップリング
5・・・給油管
6・・・排油管
7・・・動力計
図1
図2