(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024163909
(43)【公開日】2024-11-22
(54)【発明の名称】衣料
(51)【国際特許分類】
A41D 27/00 20060101AFI20241115BHJP
A41B 9/06 20060101ALI20241115BHJP
【FI】
A41D27/00 C
A41B9/06 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024097406
(22)【出願日】2024-06-17
(62)【分割の表示】P 2023550604の分割
【原出願日】2023-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】505406486
【氏名又は名称】トラタニ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087653
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴江 正二
(72)【発明者】
【氏名】虎谷 生央
【テーマコード(参考)】
3B035
3B128
【Fターム(参考)】
3B035AA03
3B035AB05
3B035AB12
3B035AD04
3B128FB01
3B128FC04
(57)【要約】
【課題】猫背対策の機能に致命的な悪影響を及ぼさずに息苦しさを改善できる衣料を提供する。
【解決手段】衣料100は、前身頃400と後身頃500と左右の脇線260、270とを含む伸縮性の身頃200であって、着用者の脇の下側において着用者の前面、左右側面及び後面を覆う伸縮性の筒状の身頃200が備えられ、脇の下側に、ウエストWの箇所Dにおける周長よりも短い周長になるように絞り部300が形成されており、絞り部300は、最上部の箇所をA、絞りが最大で周長が最短となる箇所をB、絞りがウエストW側に近づくにつれて周長が増大により広がる外形線の箇所をC、ウエストWの箇所をDとした時、着用者への左右側面の着圧Pr(hPa)がB>Dの関係になるように構成されているとともに、Bの箇所は左右側面が着用者の第6肋骨R6から第10肋骨R10の領域に位置されるように構成されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
衣料であって、
前中心線を境に左右対称となる形状を有する伸縮性の前身頃と、後中心線を境に左右対称となる形状を有する伸縮性の後身頃と、前記前身頃と前記後身頃とを左右で接合している左右の脇線とを含む伸縮性の身頃であって、着用者の脇の下側において着用者の前面、左右側面、及び後面を覆う伸縮性の筒状の身頃が備えられ、
前記脇の下側に、ウエストの箇所における周長よりも短い周長になるように絞り部が形成されており、
前記絞り部は、最上部の箇所をA、絞りが最大で周長が最短となる箇所をB、絞りがウエスト側に近づくにつれて周長が増大により広がる外形線の箇所をC、ウエストの箇所をDとした時、着用者への左右側面の着圧がB>Dの関係になるように構成されているとともに、
前記Bの箇所は左右側面が着用者の第6肋骨から第10肋骨の領域に位置されるように構成されている、ことを特徴とする衣料。
【請求項2】
前記前身頃は、縦地の目と前記縦地の目と垂直な横地の目とを有する第1の編地であって、前記縦地の目が前記横地の目よりも伸び縮みしにくい第1の編地からなり、前記前中心線と平行に設定された縦地の目線が前記第1の編地の前記縦地の目に一致するように形成され、
前記後身頃は、縦地の目と前記縦地の目と垂直な横地の目とを有する第2の編地であって、前記縦地の目が前記横地の目よりも伸び縮みしにくい第2の編地からなり、後中心線と垂直に設定された縦地の目線が前記第2の編地の縦地の目に一致するように形成されている、ことを特徴とする請求項1に記載の衣料。
【請求項3】
前記Bの箇所における前記左右の脇線は、前記左の脇線が、左の第6肋骨から第10肋骨までの左の5本の肋骨における左端の部位から後内方へ回り込んだ先にある肋骨角までの部位に対応する位置を通過し、前記右の脇線が、右の第6肋骨から第10肋骨までの右の5本の肋骨における右端の部位から後内方へ回り込んだ先にある肋骨角までの部位に対応する位置を通過するように構成されている、ことを特徴とする請求項2に記載の衣料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、猫背対策の構成に悪影響を及ぼさずに息苦しさを改善できる衣料に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の発明者は、猫背対策として、前身頃と後身頃とを含む伸縮性の身頃、伸縮性の左袖および伸縮性の右袖を備え、左袖の背面と右袖の背面との間に、着用者の左右の肩甲骨が互いから離れることを阻む伸縮性の規制部を設け、これによって円背の胸椎を起こして猫背を改善させる衣料の上半身部を提供した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これらの開発品は、販売の結果、多くの人々に好評を博している状況にあるが、たとえ猫背対策を施したとしても、胸郭の個人差によっては、改善する余地がまだ残されていることが判明した。
【0005】
すなわち、鋭意研究を進めてみると、猫背対策によって外観上は円背が解消されて正しい姿勢になったように見えても、個人差によっては胸郭、特に肋骨の下部側が正常な状態になっていないことや横隔膜の動きが悪いことがはじめて知見された。このような状態の人は、たとえ正しい姿勢になったように見えても、相変わらず呼吸が浅いままの状態になり息苦しさが残るという問題になることが判明したのである。
【0006】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたもので、猫背対策を施したものであっても、また、猫背対策を施していないものであっても、息苦しさを改善することができる衣料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、衣料であって、
前中心線を境に左右対称となる形状を有する伸縮性の前身頃と、後中心線を境に左右対称となる形状を有する伸縮性の後身頃と、前記前身頃と前記後身頃とを左右で縫合している左右の脇線とを含む伸縮性の身頃であって、着用者の脇の下側において着用者の前面、左右側面及び後面を覆う伸縮性の筒状の身頃が備えられ、
前記脇の下側に、ウエストの箇所における周長よりも短い周長になるように絞り部が形成されており、
前記絞り部は、最上部の箇所をA、絞りが最大で周長が最短となる箇所をB、絞りがウエスト側に近づくにつれて周長が増大により広がる外形線の箇所をC、ウエストの箇所をDとした時、着用者への左右側面の着圧がB>Dの関係になるように構成されているとともに、
Bの箇所は左右側面が着用者の第6肋骨から第10肋骨の領域に位置されるように構成されている、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、上記のような構成を採用することにより、着用状態では、左右の脇線の部分が前身頃の伸張と後身頃の伸張とで互いに相反する方向へ引っ張られて、この左右の脇線の部分が特に絞り部の箇所において着用者の身体の左右側部に対し強く押し付け(
図10の白抜き矢印参照。)、これによって絞り部がBの箇所で異常に左右方向に広がった状態の第6肋骨から第10肋骨を正しい方向に効果的に修正変位させることができる。その結果、猫背対策を施したものであっても、また、猫背対策を施していないものであっても、正しい方向の肋骨の修正により、息苦しさをより効果的に改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態1に係る衣料の平置き状態での正面図である。
【
図2】実施形態1に係る衣料の平置き状態での背面図である。
【
図3】実施形態1に係る衣料の着用状態での正面図である。
【
図4】実施形態1に係る衣料の着用状態での背面図である。
【
図5】実施形態1に係る衣料の前身頃の型紙を示す平面図(紙面表面が肌に当接する面)である。
【
図6】実施形態1に係る衣料の後身頃の型紙を示す展開図(紙面表面が肌に当接する面)である。
【
図7】
図7Aは実施形態1に係る衣料の前身頃を形成する第1の編地の地の目を示す平面図、
図7Bは実施形態1に係る衣料の後身頃を形成する第2の編地の地の目を示す平面図である。
【
図8】標準体型の着用者のウエストWを示す正面図である。
【
図10】第6肋骨R6を上側から見た平面図である。
【
図11】実施形態2に係る衣料の絞り部を示す着用状態での要部正面図である。
【
図12】実施形態2に係る衣料の絞り部を示す着用状態での要部背面図である。
【
図13】実施形態2に係る衣料の平置き状態での正面図である。
【
図14】実施形態2に係る衣料の平置き状態での背面図である。
【
図15】実施形態2に係る衣料の猫背対策を示す立体形状での平面図である。
【
図16】実施形態2に係る衣料の縫合前の前身頃の左半部を示す正面図と後身頃の左半部を示す背面図とを並べた図である。
【
図17】実施形態3に係る衣料の平置き状態での正面図である。
【
図18】実施形態3に係る衣料の縫合前の左前身頃の正面図と後身頃の左半部を示す背面図とを並べた図である。
【
図19】実施形態4に係る衣料を示す要部の正面図である。
【
図20】実施形態5に係る衣料を示す要部の正面図である。
【
図21】(A)は実施形態6に係る衣料の平置き状態での背面図、(B)は絞り部材の取り付けを示す説明図である。
【
図22】実施形態6に係る衣料の絞り部材を取り付ける前の元の衣料の平置き状態での背面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[実施形態1]
以下、本発明の実施形態1に係る衣料100について
図1から
図10を参照しながら説明する。「平置き」とは、その衣料を平面の上にしわのないように広げて置くことを意味する。この明細書において、上下、左右及び前後の方向は着用者を基準としたものである。
【0011】
先ず、衣料100が備える技術的特徴について説明する。
衣料100は、
図1から
図6に示すように、
(1A)前中心線CFを境に左右対称となる形状を有する伸縮性の前身頃400と、後中心線CBを境に左右対称となる形状を有する伸縮性の後身頃500と、前身頃400と後身頃500とを左右で接合している左右の脇線260、270とを含む伸縮性の身頃200であって、着用者の脇の下側において着用者の前面、左右側面及び後面を覆う伸縮性の筒状の身頃200が備えられ、
(1B)脇の下側に、ウエストW(
図8参照)の箇所における周長よりも短い周長になるように絞り部300が形成されており、
(1C)絞り部300は、最上部の箇所をA、絞りが最大で周長が最短となる箇所をB、絞りがウエストW側に近づくにつれて周長が増大により広がる外形線の箇所をC、ウエストWの箇所をDとした時、着用者への左右側面の着圧Pr(hPa)がB>Dの関係になるように構成されているとともに、
(1D)Bの箇所は左右側面が着用者の第6肋骨から第10肋骨R10の領域(
図8、
図9参照)に位置されるように構成されている、ことを特徴とする。
【0012】
「着圧」とは、衣料を着用した際に、着用者の表面にかかる圧力を意味する。
【0013】
なお、着用者のウエストWは、
図8に示すように、着用者の胴体のうち、胴体上部にある肋骨Rと胴体下部にある骨盤Pとの間の一番くびれた(一番細い)部分である。肋骨Rは、
図8、
図9に示すように、胸椎T、胸骨Sとともに胸郭を構成する骨であり、最上部の第1肋骨R1から最下部の第12肋骨R12まで、左右12対あり、合計24本存在する。第1肋骨R1から第5肋骨R5はそれぞれ、後端で胸椎Tに連結し、前端は肋軟骨Raを介して個別に胸骨Sに連結している。第6肋骨R6から第10肋骨R10はそれぞれ、後端で胸椎Tに連結し、前端は肋軟骨Raを介してまとまって胸骨Sに連結している。第11肋骨R11と第12肋骨R12はそれぞれ、後端で胸椎Tに連結し、前端は胸骨Sに連結せずに遊離している。肋骨Rの左右への張り出し量は、第1肋骨R1から第7肋骨までは漸次大きくなり、それ以下の第8肋骨R8から第12肋骨は、ふたたびしだいに小さくなる。第1肋骨R1から第5肋骨R5の内部に左右の肺(図示省略)があり、第6肋骨R6から第10肋骨R10の内部に横隔膜(図示省略)がある。正常な状態の肋骨Rは、左右の肋骨弓Rbの間にできる肋骨下角Rcが90度から70度になっている。
【0014】
また、衣料100は、
図1から
図6に示すように、
(2A)前身頃400は、縦地の目G1と縦地の目G1と垂直な横地の目G2とを有する第1の編地600であって、縦地の目G1が横地の目G2よりも伸び縮みしにくい第1の編地600(
図7A参照)からなり、前中心線CFと平行に設定された縦地の目線FGLが編地600の縦地の目G1に一致するように形成され、
(2B)後身頃500は、縦地の目G1と縦地の目G1と垂直な横地の目G2とを有する第2の編地700であって、縦地の目G1が横地の目G2よりも伸び縮みしにくい第2の編地700(
図7B参照)からなり、後中心線CBと垂直に設定された縦地の目線BGLが編地700の縦地の目G1に一致するように形成されている、ことを特徴とする。
【0015】
さらに、衣料100は、
図1から
図4に示すように、
(3A)Bの箇所における左右の脇線260、270は、左の脇線261が、左の第6肋骨R6から第10肋骨R10までの左の5本の肋骨における左端の部位Rdから後内方へ回り込んだ先にある肋骨角Reまでの部位Rf(
図10参照)に対応する位置を通過し、右の脇線271が、右の第6肋骨R6から右の第10肋骨R10までの右の5本の肋骨における右端の部位Rdから後内方へ回り込んだ先にある肋骨角Reまでの部位Rf(
図10参照)に対応する位置を通過するように構成されている、ことを特徴とする。
【0016】
さらに詳しく衣料100について説明する。
衣料100は、
図1から
図4に示すように、着用者の胴体を包み込むように構成されている袖なしのシャツである。なお、衣料は、袖なし(スリーブレス)のシャツタイプに限られず、半袖或いは長袖等の袖付きのシャツタイプのものであっても、本発明は適用することができる。すなわち、(1A)の技術的特徴を備えている衣料であれば、本発明は適用することができる。
【0017】
[技術的特徴(1A)について]
衣料100は、身頃200を備えている。身頃200は、筒状であり、着用者の胴体を包み込むように構成されている。身頃200は、前身頃400と、後身頃500とを備えている。前身頃400は、身頃200のうち、着用者の脇の下側において着用者の前面、左右側面、及び後面の左右側部に対向する部分と、着用者の脇の上側において着用者の前面に対向する部分であり、それらの部分を覆うように形成されている。後身頃500は、身頃200のうち、着用者の脇の下側と上側において前身頃400で覆われていない着用者の後面に対向する分であり、その部分を覆うように形成されている。
【0018】
前身頃400は、
図5に示すように、前中心線CFを境に左右対称となる形状を有するとともに、伸縮性を有する。前身頃400の外形(縫合代は省略)は、前衿ぐり線410、左右の前肩線420、430、左右の前アームホール440、450、左右の前脇線460、470及び前裾線480により形成されている。
【0019】
後身頃500は、
図6に示すように、後中心線CBを境に左右対称となる形状を有するとともに、伸縮性を有する。後身頃500の外形(縫合代は省略)は、後衿ぐり線510、左右の後肩線520、530、左右の後アームホール540、550、左右の後脇線560、570及び後裾線580により形成されている。
【0020】
前身頃400と後身頃500とは、左の前肩線420と左の後肩線520とが左の肩線220により縫合され、右の前肩線430と右の後肩線530とが右の肩線230により縫合され、左の前脇線460と左の後脇線560とが左の脇線260により縫合され、右の前脇線470と右の後脇線570とが右の脇線270により縫合され、この縫合によって身頃200が形成されている。
【0021】
本実施形態では、前身頃400と後身頃500との接合方法として縫合が採用されているが、本発明は縫合に限定されるものではない。すなわち、接合方法としては、糸で縫い合わせる縫合の他、接着剤による接着或いは熱溶着による溶着であってもよい。身頃200は、前身頃400と後身頃500との2パーツに代えて、前身頃、左右の脇身頃及び後身頃の4パーツで構成されていてもよい。この場合、本発明では、左右の脇身頃が着用者の前面を覆う前身頃と別体であっても前身頃の一部として解釈し取り扱うものである。
【0022】
身頃200は、
図1から
図4に示すように、左右の肩線220、230、左右の脇線260、270を備えるとともに、襟ぐり210、左右のアームホール240、250、裾280を備えている。襟ぐり210は、身頃200が成す筒形の上側の開口部に相当し、裾280は下側の開口部に相当する。裾280の長さは自由に設定可能である。実施形態1では、裾280の長さは着用者の臀部の上部までを覆う長さに設定されている。その他に、裾280の長さは臀部を全体的に覆う長さ、或いは、それよりも長い長さであってもよい。
【0023】
[技術的特徴(1B)(1C)(1D)について]
身頃200は、上部領域200a、下部領域200bを備えるとともに、これらの間に中央領域として絞り部300が備えられている。上部領域200aは、絞り部300の最上部の箇所Aより上側の部分であり、襟ぐり210、左の肩線220、右の肩線230、左右のアームホール240、250を備えている。下部領域200bは、絞り部300の最上部の箇所Aより下側の部分であり、絞り部300の周長が一番短くなる箇所Bや、周長が増大して広くなっていく外形線の箇所C及びウエストWの箇所Dを含み、裾280まで備えている。
【0024】
絞り部300は、身頃200における脇の下側からウエストWの箇所Dまで形成されているが、これに限られず、絞り部300の終端の箇所(すなわち、周長が増大して広くなる外形線Cの終わりの箇所)はウエストWの箇所Dの上側で終えるようにしてもよい。また、絞り部300の終端の箇所Cでの周長は、ウエストWの箇所Dの周長と同等にする場合に限られず、ウエストWの箇所Dの周長よりも短くしたり、或いは、ウエストWの箇所Dの周長よりも長くしたりする場合であってもよい。これらの場合の絞り部300においては、その外形線が、平置き状態における左右の側部に凹状(具体的には内方に膨らんだ弓状)の左外形線310、右外形線320を有することになり、周長がB<AでかつB<Dの関係を有する。
【0025】
これによって、絞り部300は、着用者への左右側の着圧Pr(hPa)がB>AでかつB>Dの関係になるように構成することができるとともに、Bの箇所を左右の側部が着用者の第6肋骨R6から第10肋骨R10の領域、好ましくは第7肋骨R7から第9肋骨R9の領域に位置されるように構成することができる。
【0026】
絞り部300における凹状(具体的には内方に膨らんだ弓状)の左外形線310、右外形線320を形成するように、前身頃400における左の前脇線460が左の凹状(具体的には内方に膨らんだ弓状)前脇線461を含み、右の前脇線470が右の凹状(具体的には内方に膨らんだ弓状)前脇線471を含み、後身頃500における左の後脇線560が左の凹状(具体的には内方に膨らんだ弓状)後脇線561を含み、右の後脇線570が右の凹状(具体的には内方に膨らんだ弓状)後脇線571を含み、左の前脇線460と左の後脇線560とが左の凹状(具体的には内方に膨らんだ弓状)脇線261を含む左の脇線260により縫合され、右の前脇線470と右の後脇線570とが右の凹状(具体的には内方に膨らんだ弓状)脇線271を含む右の脇線270により縫合され、絞り部300を備えた身頃200が形成されている。
【0027】
本実施形態では、Bの箇所での左右の側部の着圧Pr(hPa)を最大に設定し、その他のA、Cの終端、Dの各箇所での左右の側部の着圧Pr(hPa)をB>AでかつB>Cの終端>Dの関係になるように設定されている。勿論、その他のA、Cの終端、Dの各箇所での左右の側部の着圧Pr(hPa)をB>AでかつB>Cの終端=Dの関係になるように構成してもよい。
【0028】
また、絞りが最大で周長が最短となる箇所Bは、上下方向(高さ方向)に幅をもつように構成してもよい。即ち、Aの箇所の周長をBの箇所と同等に絞り(箇所Bに上下方向(高さ方向)に幅を持たせ)、かつ、Bの箇所の周長がDの箇所の周長よりも短い関係を有し、左右の側部の着圧Pr(hPa)がA=Bで、かつ、B>Dの関係になるように構成してもよい。
【0029】
[技術的特徴(2A)(2B)について]
前身頃400を形成する第1の編地600及び後身頃500を形成する第2の編地700は、
図7A、
図7Bに示すように、縦糸と横糸を編んで作った布状のものである。第1の編地600及び第2の編地700において、地の目とは編地の織り目のことであり、縦地の目G1は編地の両端(耳)610、710と平行な縦の織り目、すなわち、編地の縦糸の方向(縦方向)を意味し、一般には単に「地の目」と呼ばれている。横地の目G2は編地の両端610、710と垂直な横の織り目、すなわち、横糸の方向(横方向)を意味する。第1の編地600及び第2の編地700における伸縮性は縦地の目G1と横地の目G2で異なり、縦地の目G1が横地の目G2よりも伸び縮みしにくい。
【0030】
前身頃400(の型紙)には、
図5に示すように、前中心線CFと平行に縦地の目線FGLが設定されており、この縦地の目線FGLと第1の編地600の縦地の目G1が平行になるように裁断することにより、前身頃400が形成されている。
【0031】
後身頃500(の型紙)には、
図6に示すように、後中心線CBと垂直に縦地の目線BGLが設定されており、この縦地の目線BGLと第2の編地700の縦地の目G1が平行になるように裁断することにより、後身頃500が形成されている。
【0032】
前身頃400を形成する第1の編地600と後身頃500を形成する第2の編地700には、同じ編地(ニット)が用いられても、別の編地(ニット)が用いられてもよい。後者の場合は、第1の編地600が第2の編地700と縦地の目G1において同等以上の伸縮性を有することになる編地が用いられる。
【0033】
[技術的特徴(3A)について]
本実施形態では、
図5、
図6に示すように、前身頃400の脇の下側(左右の前アームホール440、450より下側)における横幅(左右の前脇線460、470の相互間隔)が後身頃500の脇の下側(左右の後アームホール540、550より下側)における横幅(左右の後脇線560、570の相互間隔)よりも全体的に長く幅広に形成されていて、後面において左右の前脇線460、470と左右の後脇線560、570とが左右の脇線260、270により縫合されている。これにより、
図2、
図4に示すように、平置き状態、着用状態のいずれの状態においても、身頃200の左右の脇線260、270が後面のみに形成されていて前面からは見えず、
図10に示すように、絞り部300のBの箇所における左の脇線261が、左の第6肋骨R6から第10肋骨R10までの左の5本の肋骨における左端の部位Rdから後内方へ回り込んだ先にある肋骨角Reまでの部位Rfに対応する位置を通過し、右の脇線271が、右の第6肋骨R6から右の第10肋骨R10までの右の5本の肋骨における右端の部位Rdから後内方へ回り込んだ先にある肋骨角Reまでの部位Rfに対応する位置を通過するように構成されている。
【0034】
なお、前身頃400の脇の下側における横幅は、後身頃500の脇の下側における横幅よりも短く幅狭でない限り、同じ幅に形成されていても、前述のように長く幅広に形成されていてもよい。同じ幅に形成されている場合、左右の前脇線460、470と左右の後脇線560、570とが脇の下側の左右側面において左右の脇線260、270により縫合され、左右の脇線260、270は、脇の下側の左右側面に位置し、前面からも後面からも見えなくなるが、絞り部300のBの箇所における左の脇線261は、左の第6肋骨R6から第10肋骨R10までの左の5本の肋骨における左端の部位Rdに対応する位置を通過し、右の脇線271は、右の第6肋骨R6から右の第10肋骨R10までの右の5本の肋骨における右端の部位Rdに対応する位置を通過するようになる。
【0035】
次に、衣料100の技術的特徴による作用効果について説明する。衣料100は、前述のとおり、(1A)から(1D)の技術的特徴を備えている。
【0036】
猫背の人は、腰から胸椎Tまでの不自然な脊柱の湾曲を生じているため、肋骨Rは横隔膜を囲う第6肋骨R6から第10肋骨R10が左右方向に異常に広がっている(肋骨下角Rcが90°より大きい)ことが知見された。
【0037】
この場合、絞り部300がBの箇所の左右の側部で第6肋骨R6から第10肋骨R10のいずれかを一番強く締め付けることになるが、第6肋骨R6から第10肋骨R10は肋軟骨Raで連結されて胸骨Sに繋がっているため、第6肋骨R6から第10肋骨R10の左右の側部が一体的に窄まり、異常に左右方向に広がった状態の第6肋骨R6から第10肋骨R10の左右の側部に対して正しい方向に窄まるように変位させることができる。しかも、Bの箇所よりウエストD側はBの箇所よりも周長を次第に長くして締め付けを緩めていくため、肋骨の下部側が過度に下窄まりになるといった不都合がない。このため、その内部にある横隔膜が上下方向に十分に動作できるようになり、つまり、上方へドーム状に膨れ上がる緩み動作(呼気)と下方へ平ら状に縮まる収縮動作(吸気)が十分に行えるようになり、呼吸が浅く、息苦しいという状態が改善される。
【0038】
また、絞り部300は肺を囲む第4肋骨R4あるいは第5肋骨R5を締めないようにしているため、それを締めてしまうものに比べて、肺のふくらみを阻害することなく、吸気を十分にさせることができ、しかも、絞り部300はウエストWを締めないようにもしているため、それを締めてしまうものに比べて、お腹のふくらみを阻害して横隔膜を下がり難くすることなく、吸気を十分にさせることができ、より深い呼吸をさせることができる。
【0039】
さらに、着用者の脇の下側において着用者の前面、左右側面、及び後面を覆う伸縮性の筒状の身頃200を改良すればよいので、それより上に猫背対策が施されている場合であっても、猫背対策の機能に致命的な悪影響を及ぼさない。
【0040】
よって、猫背対策を施したものであっても、その猫背対策の機能に致命的な悪影響を及ぼさずに息苦しさを改善できる衣料を提供することができる。
【0041】
また、衣料100は、前述のとおり、(2A)(2B)の技術的特徴を備えていることにより、周方向において前身頃400が後身頃500よりも伸び縮みしやすくなる。肋骨Rは呼吸に伴い前側下部が最もよく動くため、周方向において前身頃400が後身頃500よりも伸び縮みしやすくなることにより、前述の(1A)から(1D)の技術的特徴による前述の呼吸についての作用効果をより顕著に発現させることができる。
【0042】
また、前身頃400を形成する第1の編地600と後身頃500を形成する第2の編地700とに同じ編地を用いても、周方向において前身頃400が後身頃500よりも伸び縮みしやすくできるため、コストを削減する上でも効果的である。
【0043】
また、衣料100は、前述のとおり、(3A)の技術的特徴を備えていることにより、絞り部300、特にBの箇所の左右の脇線261、271により、猫背で異常に左右方向に広がった状態の第6肋骨R6から第10肋骨R10の左右の側部に対して最適な方向から効果的に圧力を加えて正しい方向に窄まるように変位させることができ、前述の(1A)から(1D)の技術的特徴による前述の猫背対策についての作用効果をより顕著に発現させることができる。
【0044】
なお、本実施形態では、着用者の上半身部を覆う衣料に対して本発明を適用した場合を説明したが、本発明は、着用者の上半身部に加えて下半身部を部分的或いは全体的に覆う衣料に対しても広く適用することができる。すなわち、(1A)の技術的特徴を備えている衣料であれば、本発明は適用することができる。
【0045】
[実施形態2]
次に、実施形態2の衣料100について、
図11から
図16を参照しながら説明する。「立体形状」とは、その衣料のいずれの部分をも伸長させることなく、かつ折り曲げることなく、膨らませた状態における衣料の3次元的な形状を意味する。
【0046】
先ず、衣料100が備える技術的特徴について説明する。
衣料100は、
図16から
図14に示すように、
(10A)着用者の脇の下側において着用者の前面、左右側面、及び後面を覆う伸縮性の筒状の身頃200が備えられた衣料であって、
(10B)脇の下側に、ウエストWの箇所の周長よりも短い周長になるように絞り部300が形成されており、
(10C)絞り部300は、脇の下側の箇所であって、最上部の箇所をA、絞りが最大で周長が最短となる箇所をB、絞りがウエスト側に近づくにつれて周長の増大により広がる外形線の箇所をC、ウエストWの箇所をDとした時、着用者への左右側部の着圧Pr(hPa)がB>Dの関係になるように構成されているとともに、
(10D)Bの箇所は、身頃200の左右の側部が着用者の第7肋骨R7から第10肋骨R10の領域に位置されるように構成されている。
【0047】
なお、「着圧」とは、衣料を着用した際に、着用者の表面にかかる圧力を意味する。また、衣料は、袖付きシャツタイプのものに限られず、例えば袖なしのタンクトップやランニングシャツタイプのものであっても本発明は適用することができるものである。
【0048】
衣料100は、
図11から
図14に示すように、
(12A)絞り部300は、その外形線が、平置き状態における左右の側部に凹状の左外形線310、右外形線320を有し、周長がB<Aで、かつ、B<Dの関係を有し、着用者への左右側部の着圧Pr(hPa)がB>Aで、かつ、B>Dの関係になるように構成されている。
【0049】
また、衣料100は、
図12から
図14に示すように、
(13A)身頃200が、伸縮性の前身頃400、前身頃400と伸長力が同等または前身頃400よりも伸長力が大きい伸縮性の後身頃500を備え、
(13B)前身頃400は、着用者の脇の下側において着用者の前面、左右側面、及び後面の左右両側部を覆うように形成され、後身頃500は、着用者の脇の下側において前身頃400で覆われていない着用者の後面を覆うように形成されて、前身頃400と後身頃500との左右の縫合線である左脇線600、右脇線700が着用者の後面側に設けられており、
(13C)左脇線600、右脇線700のうち、絞り部300における左脇線部610、右脇線部710は、それぞれの形状が、絞り部300の左右幅方向の凹状の左外形線310、右外形線320と同等以上の曲率を有する凹状に形成されている。
【0050】
さらに、衣料100は、
図12から
図15に示されるように、
(14A)着用者の左上腕上部、右上腕上部を覆う伸縮性の筒状の左袖800、右袖900がさらに備えられ、
(14B)左袖800、右袖900は、それぞれの立体形状が、標準的な人体の両腕を覆う際の立体形状(
図15の2点鎖線参照。)よりも角度θ(図例は30度)だけ後方へ傾くように、それぞれの基端部が、絞り部300より上側の身頃200に縫合されている。
【0051】
図11から
図16を参照して、さらに詳しく衣料100について説明する。
衣料100は、
図13から
図15に示すように、着用者の胴体及び両上腕を包み込むように構成されている半袖のシャツである。
【0052】
衣料100は、身頃200、左袖800、及び右袖900を備えている。身頃200は筒状であり、着用者の胴体を包み込むように構成されている。身頃200は前身頃400、後身頃500を備えている。前身頃400は、身頃200のうち、着用者の脇の下側において着用者の前面、左右側面、及び後面の左右両側部に対向する部分と、着用者の脇の上側において着用者の前面に対向する部分であり、それらの部分を覆うように形成されている。
【0053】
後身頃500は、身頃200のうち、着用者の脇の下側において前身頃400で覆われていない着用者の後面に対向する部分であり、その部分を覆うように形成されている。前身頃400と後身頃500には周方向長さの伸び率が同等の生地(布)を使用しており、前身頃400と後身頃500の上下方向の伸び率についても両身頃400、500とも同等である。
【0054】
また、前身頃400と後身頃500の形状はいずれも左右対称である。左袖800は身頃200の左側に、また右袖900は身頃200の右側に、それぞれ設けられている。両袖800、900はいずれも身頃200よりは細い筒状であり、着用者の左右の上腕上部を包み込むように構成されている。両袖800、900は身頃200の左右方向における図示しない中心線に対して対称である。両袖800、900は長さ方向のサイズが自由に設定可能である。
【0055】
実施形態2では、両袖800、900は半袖に設定されている。その他に、両袖800、900は長袖でも七分袖であってもよい。また、身頃200は、前身頃400と後身頃500との2パーツに代えて、前身頃、左右の脇身頃、及び後身頃の4パーツで構成されていてもよい。この場合、本発明では、左右の脇身頃が着用者の前面を覆う前身頃と別体であっても前身頃の一部として解釈し取り扱うものである。
【0056】
また、前身頃400は
図16の一点鎖線で示す前中心線CFを対称軸として左右対称に形成され、後身頃500も
図16の一点鎖線で示す後中心線CBを対称軸として左右対称に形成されている。
図16において前身頃400と後身頃500のそれぞれの右半部の図示は省略している。前身頃400の外形は、
図16の実線に示すように、前衿ぐり線401、左右の前肩線402、左右の前袖ぐり線403、左右の前脇線404、及び前裾線405により形成され、後身頃500の外形は、同じく
図16の実線に示すように、後衿ぐり線501、左右の後肩線502、左右の後袖ぐり線503、左右の後脇線504、及び後裾線505により形成されている。そして、この前身頃400の左右の前肩線402、左右の前脇線404と、後身頃500の左右の後肩線502、左右の後脇線504とが、それぞれ縫合されて身頃200が形成されている。これにより身頃200は、
図13から
図15に示すように、左肩線210、右肩線220、左脇線600、及び右脇線700を備えつつ、襟ぐり230、裾240、左袖ぐり250、及び右袖ぐり260を備えている。襟ぐり230は、身頃200が成す筒形の上側の開口部に相当し、裾240は下側の開口部に相当する。裾240の長さは自由に設定可能である。実施形態2では、裾240の長さは着用者の臀部の上部までを覆う長さに設定されている。
【0057】
その他に、裾240の長さは臀部を全体的に覆う長さ、或いは、それよりも長い長さであってもよい。左袖ぐり250は、身頃200の左上側に開けられた穴の縁であり、右袖ぐり260は、身頃200の右上側に開けられた穴の縁である。左袖ぐり250には左袖800の基端部が縫合され、右袖ぐり260には右袖900の基端部が縫合されている。
【0058】
身頃200は、上部領域200a、下部領域200bを備えるとともに、これらの間に中央領域として絞り部300が備えられている。上部領域200aは、絞り部300の最上部の箇所Aより上側の部分であり、左肩線210、右肩線220、襟ぐり230、左袖ぐり250、及び右袖ぐり260を備えている。下部領域200bは、絞り部300の最上部の箇所Aより下側の部分であり、絞り部300の周長が一番短くなる箇所Bや、周長が増大して広くなっていく外形線の箇所C、更にウエストの箇所Dを含み、裾240まで備えている。
【0059】
絞り部300は、身頃200における脇の下側からウエストの箇所Dまで形成されているが、これに限られず、絞り部300の終端の箇所(すなわち、周長が増大して広くなる外形線Cの終わりの箇所)はウエストの箇所Dの上側で終えるようにしてもよい。また、絞り部300の終端の箇所Cでの周長は、ウエストの箇所Dの周長と同等にする場合に限られず、ウエストの箇所Dの周長よりも短くしたり、或いは、ウエストの箇所Dの周長よりも長くしたりする場合であってもよい。これらの場合の絞り部300においては、その外形線が、平置き状態における左右の側部に凹状の左外形線310、右外形線320を有することになり、周長がB<AでかつB<Dの関係を有する。これによって、絞り部300は、着用者への左右側部の着圧Pr(hPa)がB>AでかつB>Dの関係になるように構成することができるとともに、Bの箇所を左右の側部が着用者の第7肋骨R7から第10肋骨R10の領域に位置されるように構成することができる。
【0060】
図11から
図16に示す実施形態2では、Bの箇所での左右の側部の着圧Prを最大に設定し、その他のA、Cの終端、Dの各箇所での左右の側部の着圧PrをB>AでかつB>Cの終端>Dの関係になるように設定されている。勿論、その他のA、Cの終端、Dの各箇所での左右の側部の着圧PrをB>AでかつB>Cの終端=Dの関係になるように構成してもよい。
【0061】
また、絞りが最大で周長が最短となる箇所Bは、上下方向(高さ方向)に幅をもつように構成してもよい。即ち、実施形態1では、
図6の実線に示すように、絞り部300における左右の前脇線部4040が凹状に形成されて、絞り部300における前身頃400の横幅寸法がB<Aで、かつ、B<Dの関係を有し、絞り部300における左右の後脇線部5040も凹状に形成されて、絞り部300における後身頃400の横幅寸法がB<Aで、かつ、B<Dの関係を有し、絞り部300が、凹状の左外形線310、右外形線320と、その内側に凹状の左脇線部610、右脇線部710を備えているが、これに限られず、Aの箇所の周長をBの箇所と同等に絞り(箇所Bに上下方向(高さ方向)に幅を持たせ)、かつ、Bの箇所の周長がDの箇所の周長よりも短い関係を有し、左右の側部の着圧PrがA=Bで、かつ、B>Dの関係になるように構成してもよい。この場合の絞り部300は、前身頃400の前袖ぐり線403から前脇線部4040の上部の外形と後身頃500の後袖ぐり線503から後脇線部5040の上部の外形を、
図6の二点鎖線に示すように、それぞれのAの箇所の横幅寸法がBの箇所の横幅寸法と同等になるように変更することで構成することができる。
【0062】
次に、衣料100の技術的特徴による作用効果について説明する。衣料100は、前述のとおり、(11A)から(11D)の技術的特徴を備えている。
【0063】
猫背の人の肋骨Rは、横隔膜を囲う第6肋骨R6から第10肋骨R10が左右方向に異常に広がっている(肋骨下角Rcが90°より大きい)ことが知見された。
【0064】
この場合、絞り部300がBの箇所の左右の側部で第7肋骨R7から第10肋骨R10のいずれかを一番強く締め付けることになるが、第6肋骨R6から第10肋骨R10は肋軟骨Raで連結されて胸骨Sに繋がっているため、第6肋骨R6から第10肋骨R10の左右の側部が一体的に窄まり、異常に左右方向に広がった状態の第6肋骨R6から第10肋骨R10の左右の側部に対して正しい方向に窄まるように変位させることができる。しかも、Bの箇所よりウエストD側はBの箇所よりも周長を次第に長くして締め付けを緩めていくため、肋骨の下部側が過度に下窄まりになるといった不都合がない。このため、その内部にある横隔膜が上下方向に十分に動作できるようになり、つまり、上方へドーム状に膨れ上がる緩み動作(呼気)と下方へ平ら状に縮まる収縮動作(吸気)が十分に行えるようになり、呼吸が浅く、息苦しいという状態が改善される。
【0065】
また、絞り部300は肺を囲む第4肋骨R4あるいは第5肋骨R5を締めないようにしているため、それを締めてしまうものに比べて、肺のふくらみを阻害することなく、吸気を十分にさせることができ、しかも、絞り部300はウエストWを締めないようにもしているため、それを締めてしまうものに比べて、お腹のふくらみを阻害して横隔膜を下がり難くすることなく、吸気を十分にさせることができ、より深い呼吸をさせることができる。
【0066】
さらに、着用者の脇の下側において着用者の前面、左右側面、及び後面を覆う伸縮性の筒状の身頃200を改良すればよいので、それより上に猫背対策が施されている場合であっても、猫背対策の機能に致命的な悪影響を及ぼさない。
【0067】
よって、猫背対策を施したものであっても、その猫背対策の機能に致命的な悪影響を及ぼさずに息苦しさを改善できる衣料を提供することができる。
【0068】
また、衣料100は、(12A)の技術的特徴を備えていることにより、(11A)から(11D)の技術的特徴による前述の作用効果をより顕著に発現させることができる。
【0069】
また、衣料100は、(13A)から(13C)の技術的特徴を備えていることにより、絞り部300における凹状の左脇線部610、右脇線部710が前側(着用者の背中側)に突出することになり、特にBの箇所において最も前側に突出することになり、絞り部300は凹状の左脇線部610、右脇線部710で第6肋骨R7から第10肋骨R10を前方へ押圧することになる。
【0070】
吸気では横隔膜が収縮して肋骨Rの内部を上下方向に拡げる。そのとき、腹圧が上昇するのでお腹が前上方に膨らみ、それに伴い第6肋骨R6から第10肋骨R10も前上方に膨らむ。絞り部300が凹状の左脇線部610、右脇線部710で第6肋骨R6から第10肋骨R10を前方に押圧すると、吸気でのお腹と第6肋骨R6から第10肋骨R10の膨らみ動作を助け、吸気を十分にさせることができ、より深い呼吸をさせることができる。
【0071】
さらに、衣料100は、(14A)(14B)の技術的特徴を備えていることにより、両袖800、900の後方への傾きが猫背対策となり、身頃200の絞り部300より上側の部分(上部領域200a)で猫背対策を施すことができる。
【0072】
つまり、両袖800、900のそれぞれの立体形状が、標準的な人体の両腕を覆う際の立体形状よりも角度θだけ後方へ傾く結果、着用者は上腕上部、及び両肩が後方へ、かつ背面中央側へ引っ張られる。そのため、両腕が前面に中央側へ回るように両肩が前方へ出る姿勢(円背や猫背と呼ばれる姿勢)を着用者はとりづらくなる。
【0073】
なお、実施形態2では、猫背対策を施した衣料に対して本発明を適用した場合を説明したが、本発明は、猫背対策を施していない衣料に対しても広く適用することができるのは勿論である。また、猫背対策の構成も(14A)(14B)に限らず種々のものが存在するが、本発明であれば、各種の猫背対策が施されたものに対して広く適用することができる。更に、実施形態1、2では、着用者の上半身部を覆う衣料に対して本発明を適用した場合を説明したが、本発明は、着用者の上半身部に加えて下半身部を部分的或いは全体的に覆う衣料に対しても広く適用することができる。
【0074】
[実施形態3]
次に、実施形態3の衣料100について、
図17及び
図18を参照しながら説明する。
図17、18に示す実施形態2の衣料100は、基本、実施形態2による衣料と同じであり、さらに次の構成が備えられている。
【0075】
即ち、着用者の前面を覆う身頃200の左右中央部の部位であって、その上下方向に、布が膨らむ状態の弛み部Eが形成されている。この弛み部Eは、その左右方向の布の長さが、弛み部Eを形成しない場合に比べてより長く形成され、これによって膨らみが形成される。また、弛み部Eの上下方向の高さの範囲は、
図11、
図17に示すとおり、少なくとも第6肋骨R6の前端の高さR6Hから第10肋骨R10の前端の高さR10Hの範囲で形成されている。
【0076】
実施形態3についてさらに詳述すると、前身頃400は、互いに左右対称な左前身頃4Lと右前身頃4Rとを有し、これらの左前身頃4Lの右端縁4Laと右前身頃4Rの左端縁4Raとの縫合により一体化されているとともに、縫合前の右端縁4Laと左端縁4Raにおいては、
図8に示すとおり(但し
図18では右前身頃4Rは省略している。)、左前身頃4Lの右端縁4La及び右前身頃4Rの左端縁4Raの上下方向の部分(つまり、少なくとも第6肋骨R6の前端の高さR6Hから第10肋骨R10の前端の高さR10Hまで含む上下方向の高さの部分)が前身頃400としての左右中心線CFよりも左右方向に張出した形状に形成されている。
図17において、410は左前身頃4Lと右前身頃4Rとが左右中心線CFで縫い合わされた縫合線である。
【0077】
即ち、縫合前の裁断された状態の左前身頃4Lは、その右端縁4Laが、弧状の曲線で左右中心線CFより右側に張り出すように、即ち、張出部hに形成されている。右前身頃4Rにおいても、縫合前の裁断された状態においては、その左端縁4Raが、弧状の曲線で左右中心線CFより左側に張り出すように、即ち、張出部hに形成されている。この左右の前身頃4L,4Rどうしを左右の端縁4La,4Raで縫合して一体化した前身頃400においては、布がA,B,Cの箇所において膨らみ、弛み部Eが形成されることになる。
【0078】
しかし、弛み部Eが形成されていても、身頃200のA,B,C,Dの各箇所における周長は、B>C>DかつB>Aの関係となるように構成しているので、身頃200の周長は、
図7に示すとおり、A,B,C,Dの各箇所においてB>C>DかつB>Aの関係となるように維持されている。
【0079】
このように、身頃200のうち前身頃400においては、左右中央部の部位の上下方向に前記弛み部Eを形成しているので、着用者の前面から、少なくとも第6肋骨R6の前面から第10肋骨R10の前面への圧迫が緩和される。これによって、異常に左右方向に広がった第6肋骨R6から第10肋骨R10に対し正しい方向に向けて変位が促進されるとともに、呼吸時においては第6肋骨R6から第10肋骨R10の動きもよくなって横隔膜が楽に上下方向に動作できるようになる。さらには、座った時でも着用者の前面の圧迫感が緩和され、より効果的に呼吸の浅さ、息苦しさの改善を実現することができる。
【0080】
なお、着用者の前面における圧迫の緩和は、弛み部Eに限らず、着用者の前面を覆う身頃200(つまり前身頃400)の左右中央部の部位の上下方向に(つまり、
図7に示す弛み部Eの場所に)、弛み部Eに代えて、前身頃400よりも左右方向の伸びがよい(つまり、前身頃400よりも左右方向がより伸びやすい)伸長部EEを設け、この伸長部EEの上下方向の高さの範囲を、少なくとも第6肋骨R6の前端の高さから第10肋骨R10の前端の高さの範囲で設けるようにしてもよい。
【0081】
伸長部EEとしては、伸びやすい伸縮性の織物や編物を使用することが好適であり、この伸びやすい伸長部EEを
図17に示す弛み部Eの場所に縫合などにより設けることにより、弛み部Eと同様の改善を実現することができるものである。
【0082】
なお、伸長部EEは、
図17に示す弛み部Eの場所において、前身頃400よりも左右方向が伸びやすい変化織りまたは変化編みなどをして前身頃400に一体に設けることもできるものである。さらには、伸長部EEは、弛ませない状態で設けることも、弛ませた状態で設けることもできるものである。さらに加えて、弛み部E及び伸長部EEを設ける左右中央部の部位の幅は、本発明の請求項1に記載された周長及び着圧の趣旨から逸脱されない限り、適宜の幅や態様で設けることができるものである。
【0083】
なお、前述のとおり、絞り部300におけるAの箇所の周長をBの箇所と同等に絞った場合、その分だけ、
図18の二点鎖線に示すように、張出部hの張り出し量を多くすれば、着用者の肋骨Rの前面への圧迫を緩和することができる。また、
図18の実線に示すように、左前身頃4Lの右端縁4La及び右前身頃4Rの左端縁4RaのCの箇所からウエストの箇所Dのやや下側までに凹み部gをそれぞれ設け、着用者の前面を覆う身頃200の左右中央部の部位であって、着用者の臍の高さ位置に凹状の押圧部Gを形成することで、腹圧を高めることができ、より呼吸を促進させることができる。
【0084】
[実施形態4]
次に、実施形態4の衣料100について、
図19を参照しながら説明する。
図19に示す実施形態4の衣料100は、絞り部300の形状が実施形態1から実施形態3で示した形状に限られず、例えば、絞りがウエスト側に近づくにつれて広がる外形線Cの終端の箇所C1の周長が、Aの箇所の周長よりも長く、かつ、ウエストの箇所Dの周長よりも短くするものであってもよいことを示すものである(C1>A、C1<D)。また、
図19に2点鎖線で示す外形線Cであってもよいものである。さらには、絞りがウエスト側に近づくにつれて広がる外形線Cの終端の箇所C1の周長が、ウエストの箇所Dの周長と同等、または、ウエストの箇所Dの周長よりも少し長くするようにしてもよいものである(C1≧D)。
【0085】
[実施形態5]
次に、実施形態5の衣料100について、
図20を参照しながら説明する。
図20に示す実施形態5の衣料100は、絞り部300の形状として、さらに前述の形状のものに限られず、絞りがウエスト側に近づくにつれて広がる外形線Cの終端の箇所C2がウエストの箇所Dよりも下側で終わり、その終端の箇所C2の周長がウエストの箇所Dの周長よりも長くなるものであってもよいことを示すものである(C2>D)。また、
図20に2点鎖線で示す外形線Cであってもよいものである。
【0086】
[実施形態6]
次に、実施形態6の衣料100について、
図21及び
図22を参照しながら説明する。
図21に示す実施形態6の衣料100は、
図22に示すように、身頃200の脇の下側に裾240まで延びる直線状の左脇線600、右脇線700が備えられるものであって、絞り部300は、
図21(A)に示すように、箇所Bの高さ位置を中心にして脇の下側の左右側部から後面の左右両側部に至る所定の横幅寸法mの箇所に、伸長力が後身頃500と同等または伸長力が後身頃500よりも大きい伸縮性の当て布330、340を取り付けることで形成されている。即ち、当て布330、340は、
図21(B)に示すように、箇所Bの高さ位置を中心にして脇の下側の左右の側部から後面の左右両側部に至る所定の横幅寸法mの箇所に、その箇所の横幅寸法mをそれよりも短い横幅寸法nに縮めるように、各当て布330、340は、左右両端部と中間部が身頃200に対して縫合kされることによって取り付けられている。なお、この当て布は、身頃200の左右の脇の下側に左右独立して設ける場合に限られず、身頃200の左の脇の下側から後面に延びて右の脇の下側に至るような帯状の構成であってもよい。
【0087】
なお、前述したように身頃200に絞り部300が備えられた衣料100においては、身頃200が前面左右中央部でボタンやファスナーなどで開閉できる構造を備えていると、絞り部300の箇所Bにおいて肋骨Rの締め付け力をより増大したり、絞り部300の箇所Bに上下方向(高さ方向)の幅を持たせたりした場合に、衣料100の着にくさ及び脱ぎにくさを改善できる効果がある。
【符号の説明】
【0088】
100 衣料
200 身頃
300 絞り部
400 前身頃
500 後身頃
261 左の脇線
271 右の脇線