IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 多摩川精機株式会社の特許一覧

特開2024-163960光集積回路、その製造方法、および光変調器
<>
  • 特開-光集積回路、その製造方法、および光変調器 図1
  • 特開-光集積回路、その製造方法、および光変調器 図2
  • 特開-光集積回路、その製造方法、および光変調器 図3
  • 特開-光集積回路、その製造方法、および光変調器 図4
  • 特開-光集積回路、その製造方法、および光変調器 図5
  • 特開-光集積回路、その製造方法、および光変調器 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024163960
(43)【公開日】2024-11-25
(54)【発明の名称】光集積回路、その製造方法、および光変調器
(51)【国際特許分類】
   G02B 6/122 20060101AFI20241118BHJP
   G02B 6/13 20060101ALI20241118BHJP
【FI】
G02B6/122
G02B6/13
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023079736
(22)【出願日】2023-05-13
(71)【出願人】
【識別番号】000203634
【氏名又は名称】多摩川精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119264
【弁理士】
【氏名又は名称】富沢 知成
(72)【発明者】
【氏名】松井 友弘
【テーマコード(参考)】
2H147
【Fターム(参考)】
2H147AB02
2H147BE13
2H147CA10
2H147GA25
(57)【要約】      (修正有)
【課題】光集積回路において、回路形成がなされている面に対するコーティングを施すことなく、また、基板の折れや破損の恐れがなく、導波路への光混入を効果的に防止できる、実用性の高い技術を提供すること。
【解決手段】光集積回路10は、基板1と、その少なくとも一面に形成された導波路2とを有し、導波路2が形成された面である導波路形成面1Cの全面に、ただし導波路2を除いて、反射を抑制する反射抑制構造5が形成されている構成とする。導波路2によってY分岐3が形成されている。反射抑制構造は、導波路形成面1Cの裏面1Rにも形成することがより望ましい。この構造は、導波路2を保護するレジスト処理を行った上での全面ブラスト処理を行うことで形成することができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板とその少なくとも一面に形成された導波路とを有する光集積回路であって、
該導波路が形成された面であるところの導波路形成面全体に、該導波路を除いて、
反射を抑制する反射抑制構造が形成されている
ことを特徴とする、光集積回路。
【請求項2】
前記反射抑制構造が前記導波路形成面の裏面にも形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の光集積回路。
【請求項3】
前記導波路を有する面の反射抑制構造は、ブラスト処理により形成されていることを特徴とする、請求項1、2のいずれかに記載の光集積回路。
【請求項4】
請求項1、2のいずれかに記載の光集積回路を備えていることを特徴とする、光変調器。
【請求項5】
基板上に導波路を含む所定の回路が作成される前過程と、
該導波路にこれを保護するレジストが施されるレジスト処理過程と、
その後、該基板にブラスト処理がなされるブラスト処理過程と、
その後、レジストが除去されるレジスト除去過程と、
からなることを特徴とする、光集積回路製造方法。
【請求項6】
前記ブラスト処理過程では、少なくとも前記導波路形成面およびその裏面にブラスト処理がなされ、各面に反射抑制構造が形成されることを特徴とする、請求項5に記載の光集積回路製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光集積回路、その製造方法、および光変調器に係り、特に、光集積回路の基板の内部を伝播する光が導波路に混入しないようにする構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光集積回路は、基板の上面に受動素子・制御素子・光源・受光器などの光機能素子を集積化して形成される回路である。その基本構造は薄膜による導波路であり,半導体・強誘電体・ガラスなどを材料とした透明な絶縁基板上に、屈折率のわずかに高い部分を作ることで形成されている。この導波路によってY分岐が形成されている。
【0003】
従来の光集積回路は少なくとも1つのY分岐を含み、このY分岐から光の一部が洩れ、基板内に放射される。放射された光は基板内で結合して干渉し、再び導波路に戻り、導波路を伝播する光に不要成分として含まれることとなる。一般に、基板内を伝播する光が存在するとそれが導波路に侵入し、導波路を伝播する光に混入されることとなる。それによって、導波路を伝播する光が搬送している信号にノイズが生ずる。
【0004】
光集積回路の導波路への光混入防止技術については従来、特許出願等もなされている。たとえば後掲特許文献1には、光集積回路においてモードフィルタ機能や偏光分離機能を提供するために、導波路を横断するように溝が形成され、溝内に薄い板状の光学素子が挿入されている構造が開示されている。光学素子としてはモードフィルタ、積層型偏光子、モードフィルタ機能付き積層型偏光子が例示されている。
【0005】
また特許文献2にも、溝入れによる遮断帯形成技術が開示されている。すなわち、光集積回路の基板に遮断帯を設け、基板の内部を伝播する光を遮断し、導波路に混入しないようにする構造である。この光集積回路を光ファイバジャイロに用いることにより、ノイズを含まないジャイロ信号が得られるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8-297217号公報「光集積回路及び光ファイバジャイロ」
【特許文献2】特開平7-181045光集積号公報「回路及び光ファイバジャイロ」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、光集積回路において漏れ出した光が導波路へ混入することを防ぐ技術としては従来、反射防止膜のコーティング方式や、溝入れによる遮断帯の形成方式がある。前者によれば、漏れた光が内部へ戻ってくることは無いが、しかし、回路形成がなされている上面に対してコーティングを施すことは難しく、容易に採用し難い。また後者は、遮断効果と溝深さがトレードオフとなるため、加工時に、折れや破損のリスクが高い。また、微細な加工には適していない。これら問題のあるコーティング方式や溝形成方式を用いることなく、導波路への光混入を効果的に防止できる、より実用性の高い技術が求められる。
【0008】
そこで本発明が解決しようとする課題は、かかる従来技術の問題点をなくし、光集積回路において、回路形成がなされている面に対するコーティングを施すことなく、また、基板の折れや破損の恐れがなく、導波路への光混入を効果的に防止できる、実用性の高い技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者は上記課題について検討した。その結果、光集積回路製造時において、端面反射を抑制するために行う表面を荒らす加工をする際、導波路にレジストで保護膜を形成した状態で、表面全体にサンドブラスト等の吹付け処理を行う方式に想到した。この方式によれば、導波路以外の表面全体に荒らす加工が施され、上記課題を解決することができる。本発明はかかる検討結果に基づいて完成された。すなわち、上記課題を解決するための手段として本願で特許請求される発明、もしくは少なくとも開示される発明は、以下の通りである。
【0010】
〔1〕 基板とその少なくとも一面に形成された導波路とを有する光集積回路であって、該導波路が形成された面であるところの導波路形成面全体に、該導波路を除いて、反射を抑制する反射抑制構造が形成されていることを特徴とする、光集積回路。
〔2〕 前記反射抑制構造が前記導波路形成面の裏面にも形成されていることを特徴とする、〔1〕に記載の光集積回路。
〔3〕 前記導波路を有する面の反射抑制構造は、ブラスト処理により形成されていることを特徴とする、〔1〕、〔2〕のいずれかに記載の光集積回路。
【0011】
〔4〕 〔1〕、〔2〕のいずれかに記載の光集積回路を備えていることを特徴とする、光変調器。
〔5〕 基板上に導波路を含む所定の回路が作成される前過程と、該導波路にこれを保護するレジストが施されるレジスト処理過程と、その後、該基板にブラスト処理がなされるブラスト処理過程と、その後、レジストが除去されるレジスト除去過程と、からなることを特徴とする、光集積回路製造方法。
〔6〕 前記ブラスト処理過程では、少なくとも前記導波路形成面およびその裏面にブラスト処理がなされ、各面に反射抑制構造が形成されることを特徴とする、〔5〕に記載の光集積回路製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の光集積回路、その製造方法、および光変調器は上述のように構成されるため、これらによれば、光集積回路において、回路形成がなされている面に対してコーティングを施すことなく、また基板の折れや破損を発生させることもなく、基板内部を伝播する光が導波路へ混入することを効果的に防止することができる。
【0013】
面を荒らすための表面加工は導波路を傷つける可能性があるため、従来は、導波路形成面に対しては採用できない方法であった。しかし本発明では、レジスト処理による保護膜で導波路を保護した上で表面全体を荒らす加工を行うため、その懸念がない。しかもこのレジスト処理は、簡単に行える処理であるとともに、導波路形成時にも使用するものであるため、新たな設備の導入は不要である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の光集積回路の基本構成を模式的に示す斜視の説明図である。
図2】本発明の光集積回路のより望ましい構成を模式的に示す斜視の説明図である。
図3】本発明の光集積回路製造方法の基本構成を示すフロー図である。
図4】本発明光集積回路製造方法の過程において得られる回路形成済み基板を模式的に示す斜視の説明図である。
図5】本発明光集積回路製造方法の過程において得られるレジスト処理済み基板を模式的に示す斜視の説明図である。
図6】本発明光集積回路製造方法の過程において得られるブラスト処理済み基板を模式的に示す斜視の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面により本発明を詳細に説明する。
図1は、本発明の光集積回路の基本構成を模式的に示す斜視の説明図である。図示するように本光集積回路10は、基板1と、その少なくとも一面に形成された導波路2とを有する光集積回路であり、導波路2が形成された面である導波路形成面1Cの全体(全面)に、ただし導波路2を除いて、反射を抑制する反射抑制構造5が形成されていることを、主たる構成とする。なお、導波路2によってY分岐3が形成されている。また、図において左側面が光の入口となる。
【0016】
かかる構成の本光集積回路10では、左側面から入った光は、基板1の導波路形成面に形成された導波路2へと入るのだが、Y分岐3から光の一部が洩れ、基板1内に放射される。放射された光が基板1内で結合して干渉する現象が生じ、また、これに限らず基板1内を伝播する光が存在する場合にはそれらが導波路2に侵入し、導波路2を伝播する光に混入される恐れが従来はあったが、本発明では導波路形成面1Cの全面(導波路2を除く)に形成されている反射抑制構造5により、光の反射が抑制され、導波路2への光の混入が防止される。それにより、導波路2を伝播する光が搬送している信号におけるノイズ発生が防止される。
【0017】
光集積回路を形成する基板は鏡面加工されているため、極めて、良好に反射しやすい。しかし本発明光集積回路10に設けられる反射抑制構造5は、そのような良好な反射の発生を防止すべく、表面を粗さのある形態としたものである。この粗さのある表面を具体的な構造とする反射抑制構造5により、光の反射が抑制される。反射抑制構造5は導波路2には設けられないため、従来のコーティング方式とは異なって回路の機能を損なうことがなく、また、溝入れによる遮断帯形成方式とは異なって基板1の折れや破損の恐れがない。
【0018】
図2は、本発明の光集積回路のより望ましい構成を模式的に示す斜視の説明図であり、導波路形成面の裏面を示す。図示するように本光集積回路210は、上述した構成に加え、導波路形成面21Cの裏面21Rの全体(全面)にも反射抑制構造26が形成されている構成とすることができ、また、かかる構成とすることが望ましい。それにより、基板21内における光の反射をより良好に抑制でき、導波路22への光の混入をより良好に防止することができる。
【0019】
なお、基板の側面に反射抑制構造を設ける必要はない。光集積回路の製造では、半導体・強誘電体・ガラスなど板をダイサーで切断する工程があるが、その際に側面には粗さが形成され、これが反射抑制機能を有するからである。
【0020】
本光集積回路210において、導波路22を有する面すなわち導波路形成面21Cの反射抑制構造22は、ブラスト処理により形成されているものとすることができる。ブラスト処理にも種々の方式があるが、本発明では特にサンドブラスト処理を好適に用いることができる。
【0021】
図3は、本発明の光集積回路製造方法の基本構成を示すフロー図である。また、
図4は本発明光集積回路製造方法の過程において得られる回路形成済み基板を模式的に示す斜視の説明図、図5は同じくレジスト処理済み基板を模式的に示す斜視の説明図、図6は同じくブラスト処理済み基板を模式的に示す斜視の説明図である。これらに示すように本光集積回路製造方法は、基板1上に導波路2を含む所定の回路が作成される前過程P1と、導波路2にこれを保護するレジスト4が施されるレジスト処理過程P2と、その後、基板1にブラスト処理がなされるブラスト処理過程P3と、その後、レジストが除去されるレジスト除去過程P4とからなることを、主たる構成とする。
【0022】
かかるフローの本光集積回路製造方法では、前過程P1において、基板1上に導波路2を含む所定の回路が作成されて回路形成済み基板7が得られ、ついでレジスト処理過程P2において、回路形成済み基板7の導波路2にこれを保護するレジスト(保護膜)4が施されてレジスト処理済み基板8が得られ、ついでブラスト処理過程P3において、レジスト処理済み基板8に対してブラスト処理がなされてブラスト処理済み基板9が得られ、最後にレジスト除去過程P4において、ブラスト処理済み基板9からレジストが除去されて、反射抑制構造5の形成された光集積回路10(前掲図1)が得られる。
【0023】
レジスト処理過程P2におけるレジスト処理は、ブラスト処理過程P2でのブラスト処理に先だって、回路形成済み基板7の保護必要部位を樹脂等により被覆し、保護膜(レジスト)とする処理である。この処理によって、保護必要部位がその後のブラスト処理過程P3におけるブラスト処理を受けてしまうことを防止できる。ブラスト処理過程P3後、保護膜を剥離することで、保護必要部位以外の箇所のみに反射抑制構造5を形成することができる。
【0024】
このように本発明光集積回路製造方法では、導波路2をレジスト4で保護した上で、基板1表面全体にサンドブラスト等を行い、簡単に面を荒らして粗さのある表面構造とすることができる。その後、レジスト4を除去することで、導波路2以外の表面が粗さのある状態になり、光の漏れは抑制され、端面反射による導波路2への漏れの混入を防ぐことができる。
【0025】
ブラスト処理過程P3では、レジスト処理済み基板8の少なくとも導波路形成面1C、およびその裏面1Rにブラスト処理がなされるものとすることができる。これにより、レジスト処理済み基板8の各側面には既に、前過程P1に基板1が供される時点でダイシングによる粗さのある表面が形成されていてこれが反射抑制機能を備えているため、レジスト処理済み基板8の各面すべてに反射抑制構造が形成されることとなり、導波路2への光混入防止作用を十分に得ることができる。
【0026】
なお、以上説明したいずれかの構成を備えた光集積回路10等を備えている光変調器、干渉型光ファイバジャイロ等も、本発明の範囲内である。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の光集積回路、その製造方法、および光変調器によれば、光集積回路において、回路形成がなされている面に対してコーティングを施すことなく、基板の折れや破損を発生させることもなく、導波路への光混入を効果的に防止することができる。したがって、光集積回路、光変調器、干渉型光ファイバジャイロの製造・使用分野および関連する全分野において、産業上利用性が高い発明である。
【符号の説明】
【0028】
1、21…基板
1C、21C…導波路形成面
1R、21R…導波路形成面の裏面
1S、21S…基板の側面
2…導波路
3…Y分岐
4…レジスト(保護膜)
5、25、26…反射抑制構造
7…回路形成済み基板
8…レジスト処理済み基板
9…ブラスト処理済み基板
10、210…光集積回路
図1
図2
図3
図4
図5
図6