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特開2024-164016有機溶媒なしでPBIフィルムを製造するための新規な方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024164016
(43)【公開日】2024-11-26
(54)【発明の名称】有機溶媒なしでPBIフィルムを製造するための新規な方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20241119BHJP
   C08G 73/18 20060101ALI20241119BHJP
   H01M 50/414 20210101ALI20241119BHJP
   H01M 50/489 20210101ALI20241119BHJP
   H01M 8/18 20060101ALI20241119BHJP
   H01M 8/103 20160101ALI20241119BHJP
   H01M 8/1067 20160101ALI20241119BHJP
【FI】
C08J5/18 CEZ
C08G73/18
H01M50/414
H01M50/489
H01M8/18
H01M8/103
H01M8/1067
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024119265
(22)【出願日】2024-07-25
(62)【分割の表示】P 2021514415の分割
【原出願日】2019-09-13
(31)【優先権主張番号】62/731,152
(32)【優先日】2018-09-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/731,156
(32)【優先日】2018-09-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】16/569,983
(32)【優先日】2019-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】591049136
【氏名又は名称】ユニバーシティー オブ サウス カロライナ
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マードック,ローラ エー.
(72)【発明者】
【氏名】ファン,フェイ
(72)【発明者】
【氏名】ワン,リーフイ
(72)【発明者】
【氏名】ベニスウィックズ,ブライアン シー.
(57)【要約】
【課題】PPAプロセスで重合及びキャストしたゲルPBI膜から出発するPBIフィルムを製造するための新規な方法を提供することを課題とする。
【解決手段】酸を吸収させたゲルPBIが、一連の水浴中で中和され、基材と共に制御された乾燥を受けて、有機溶媒を用いることなくPBIフィルムを得る方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
25MPa以上の破断応力を有する、乾燥PBIフィルム。
【請求項2】
PBIが以下の繰り返し単位:
【化1-1】

【化1-2】

【化1-3】

のうちの1以上を含み、式中、n及びmは、各々独立して、1以上である、請求項1に記載の乾燥PBIフィルム。
【請求項3】
VOSO透過率が2.6×10-9cm/s~4.89×10-7cm/sである、請求項1又は2に記載の乾燥PBIフィルム。
【請求項4】
架橋されている、請求項1~3のいずれか一項に記載の乾燥PBIフィルム。
【請求項5】
支持電解質を吸収させた請求項1に記載の乾燥PBIフィルムを含む、レドックスフロー電池。
【請求項6】
前記支持電解質が硫酸を含む、請求項5に記載のレドックスフロー電池。
【請求項7】
前記支持電解質の濃度が0.1M~25Mで存在する、請求項5又は6に記載のレドックスフロー電池。
【請求項8】
バナジウムレドックスフロー電池である、請求項5~7のいずれか一項に記載のレドックスフロー電池。
【請求項9】
前記PBIフィルムが100mA/cm~450mA/cmの電池サイクル電流密度下で98%以上のクーロン効率を示す、請求項5~8のいずれか一項に記載のレドックスフロー電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
米国連邦政府による資金提供を受けた研究に関する記載
本発明は、エネルギー省によって与えられたDE-AR0000767の下、政府の援助によって行われた。政府は、本発明において一定の権利を有する。
【0002】
1)発明の分野
本発明は、PPAプロセスで重合及びキャストしたゲルPBI膜から出発するPBIフィルムを製造するための新規な方法であって、酸を吸収させたゲルPBIが、一連の水浴中で中和され、所望に応じて基材又は多孔質材料と共に、制御された乾燥を受けて、有機溶媒を用いることなくPBIフィルムを得る方法に関する。
【背景技術】
【0003】
2)関連技術についての記載
ポリベンズイミダゾール(PBI)は、特に優れた熱安定性(427℃のTg)、広範な耐化学薬品性、及びプロトン受容体又はプロトン供与体として機能する能力を有するガラス状熱可塑性物質である。PBIは、プロトン、水素、及び水を移動させるのに適するという独特の性質を有する。これらの理由により、PBIは、高温で使用されることの多い、H/CO分離膜、燃料電池プロトン交換膜、及び有機化学物質の浸透気化脱水膜に非常に適している。
【0004】
高分子量PBIを製造するための新規な合成プロセス、「PPAプロセス」は、BASF Fuel Cell GmbHからの協力の下、Rensselaer Polytechnic Instituteで開発された。この方法によるPBIの一般的な合成では、乾燥環境中でのポリリン酸(PPA)中のテトラアミンとジカルボン酸との組み合わせが必要である。逐次重縮合反応は、典型的には、窒素雰囲気中、約200℃で16~24時間行われ、高分子量のポリマーが製造される。この溶液は、基材上の薄フィルムとしてPPAから直接キャストされ、水を吸収すると、PPAはその場で加水分解して、リン酸を形成する。PBIにとって、PPAは良溶媒であるが、PAは貧溶媒であることに留意されたい。制御された加水分解条件下で、リン酸が高度にドープされた力学的に安定なPBIゲル膜が製造される。
【0005】
1つの商業的利用では、PAがドープされたm-PBI燃料電池膜が製造されており、高温での運転中に熱安定性及び物理的安定性を維持する。PPAプロセスでは、プロトン拡散係数及び導電率が非常により高い膜が製造され、従来のようにして吸収させたPBI膜よりも優れたプロトン輸送構造を有する膜が作られる。加えて、固有粘度データから、PPAプロセスによって、分子量が非常により高いポリマーが製造されることが示される。改善された膜形態及び増加された分子量によって、ポリマーが、従来のキャストPBI膜よりも非常に多くのリン酸を保持可能となることが示された。PAのドープレベルの増加は、典型的には、膜の導電率を向上させ、さらには電池の性能も高め得る。
【0006】
PBIフィルムは、高温安定性、不燃性、及び高い耐化学薬品性などの非常に優れた特性を有することが知られている。これまでのところ、PBIフィルムの製造方法は、重合、得られたポリマーのジメチルアセトアミド(DMAc)などの有機溶媒への溶解、フィルムのキャスティング、及び一連の洗浄による溶媒の除去、が関与するものであった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本開示の目的は、PPAプロセスで重合され、キャストされたゲルPBI膜から開始してPBIフィルムを製造するための新規で改善された方法を提供することである。本開示で以下に説明するように、酸を吸収させたゲルPBIは、一連の水浴中で中和されてよく、制御された乾燥を受けてよく、所望に応じて2枚の多孔質材料の間又は適切な基材上に適用されて、有機溶媒を使用又は利用することなくPBIフィルムが得られ得る。加えて、PPAプロセスで合成されたPBIゲルは、より広範なモノマーを、有機溶媒への溶解度が低いことに起因して使用することができる。したがって、本発明は、フィルムへと処理することができるより広範囲のPBI化学物質へのアクセスを初めて提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的は、1つの実施形態において、PBIフィルムを製造するための方法を提供することによって、本開示に従って達成される。この方法は、PPAプロセスを介してゲルPBI膜を形成すること、ゲルPBI膜をリンスすること、ゲルPBI膜を、少なくともX-Y面方向に拘束すること、リンスしたゲルPBI膜を乾燥すること、を含んでよく、方法全体を通して有機溶媒が用いられない。さらに、ゲルPBI膜は、洗浄液でリンスされてもよい。なおさらに、リンスしたゲルPBI膜は、少なくとも1つの基材に適用されてもよい。なおさらに、リンスしたゲルPBI膜は、多孔質基材に適用されてもよい。なおさらに、PBI膜の拘束は、PBI膜に対して、X、Y、又はZ面方向に張力を掛けてよい。なおさらに、PBIフィルムは、連続形成プロセスを介して形成されてよい。なおさらに、PBIフィルムのポリベンズイミダゾールは、以下の繰り返し単位:
【化1-1】

【化1-2】

のうちの1若しくは複数、又はこれらのいずれかの組み合わせを含み、式中、n及びmは
、各々独立して、1以上、約10以上、又は約100以上である。なおさらに、この方法は、フィルムを形成することができる。
【0009】
さらなる実施形態では、PBIフィルムが形成される。フィルムは、PPAプロセスを介してゲルPBI膜を形成すること、ゲルPBI膜をリンスすること、ゲルPBI膜を、少なくともX-Y面方向に拘束すること、リンスしたゲルPBI膜を乾燥してPBIフィルムを形成すること、を含んでよく、フィルムを形成するための方法全体を通して有機溶媒が用いられない。なおさらに、フィルムは、コーティングとして用いられてよい。なおさらに、フィルムは、5~150μmの厚さを有していてよい。なおさらに、フィルムは、少なくとも25MPaの破断応力を有する。なおさらに、PBIフィルムのポリベンズイミダゾールは、以下の繰り返し単位:
【化2-1】

【化2-2】

のうちの1若しくは複数、又はこれらのいずれかの組み合わせを含んでよく、式中、n及
びmは、各々独立して、1以上、約10以上、又は約100以上である。なおさらに、フィルムは、有機溶媒に実質的に不溶なPBIポリマーを含んでよい。なおさらに、フィルムは、有機若しくは無機の酸又は塩基を吸収して、イオン伝導性膜を形成してもよい。
【0010】
本発明を実施するために設計された構造について、本発明の他の特徴と合わせて以降で記載する。本発明は、以下の明細書を読むことによって、及び本発明の一部を形成し、本発明の例が示される添付の図面を参照することによって、より容易に理解される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本開示の膜におけるセルサイクル電流(cell cycling current)のグラフを示す。
図2図2は、本開示の膜におけるセルサイクル電流のさらなるグラフを示す。
図3図3は、本開示の膜におけるVRFBの酸化安定性試験(VRFB Oxidative Stability Test)を示す。
図4図4は、PPA中のs-PBIの重合スキーム及び膜の架橋改質反応を示す。
図5図5は、表1-緻密(dense)m-PBIフィルムと比較したs-PBIゲル膜の装置外特性(ex-situ properties)を示す。
図6図6は、市販の膜と比較した本開示の膜の性能を示す。
図7図7は、典型的なPBIゲル膜と比較した本開示の膜の測定した装置外特性のグラフを示す。
図8図8は、本開示の膜の装置外測定全体を示す。
図9図9は、パラ-PBIに対する導電率と比較した透過率を示す。
図10図10は、M-r-p PBIにおける導電率と比較した透過率を示す。
図11図11は、本開示に従って形成された膜のセル試験結果を示す。
図12図12は、1.7×延伸パラ-PBIに対する電圧効率(VE)、クーロン効率(CE)、及びエネルギー効率(EE)を示す。
図13図13は、1.5×延伸パラ-PBIに対する電圧効率(VE)、クーロン効率(CE)、及びエネルギー効率(EE)を示す。
図14図14は、乾燥パラ-PBIに対する電圧効率(VE)、クーロン効率(CE)、及びエネルギー効率(EE)を示す。
図15図15は、延伸s-PBIに対する電圧効率(VE)、クーロン効率(CE)、及びエネルギー効率(EE)を示す。
図16図16は、乾燥s-PBIに対する電圧効率(VE)、クーロン効率(CE)、及びエネルギー効率(EE)である。
図17図17は、従来のようにして吸収させた緻密m-PBIの比較例1のVRB試験セルにおける電圧効率(VE)、クーロン効率(CE)、及びエネルギー効率(EE)を示す。
図18図18は、PPAプロセスを介して形成され、本開示の方法を介して処理されたパラ-PBIフィルムの力学的特性を示す。
図19図19は、本開示に従って形成されたDi-OH-PBIフィルムの力学的特性を示す。
図20図20は、本開示に従って形成されたs-PBIコポリマーフィルムの力学的特性を示す。
図21図21は、本開示に従って形成されたメタ/パラ-PBIコポリマーフィルムの力学的特性を示す。
図22図22は、有機溶液でキャストしたm-PBIを用いた比較例を示す。
図23図23は、本開示で用いることができる連続PBI膜形成プロセスを示す。
図24図24は、本明細書で開示される方法で製造した膜が、標準的なPPAプロセス膜よりも低い耐クリープ性を呈したことを示す。
図25図25は、H/空気中での分極曲線を示す。
図26図26は、H/O中での分極曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
当業者であれば、本発明の1又は複数の態様によって、ある特定の目的を満たすことができ、一方1又は複数の他の態様によって、ある特定の他の目的を満たすことができることは理解される。各目的は、そのあらゆる点において、本発明のすべての態様に対して同等に当てはまるわけではない可能性がある。このため、前述の目的は、本発明のいずれか1つの態様に関して選択的なものとして見なされ得る。本発明のこれらの及び他の目的並びに特徴は、添付の図面及び例と合わせて以下の詳細な記述を読むことによってより充分に明らかとなる。しかし、前述の本発明の概要及び以下の詳細な記述は、好ましい実施形態のものであり、本発明又は本発明の他の別の選択肢としての実施形態を限定するものではないことは理解されたい。特に、本発明が、いくつかの具体的な実施形態を参照して本明細書において記載されるが、その記述は、本発明の例示であって、本発明を限定するものとして構成されていないことは理解される。当業者であれば、添付の請求項によって記載される本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、様々な改変及び応用を思い付くであろう。同様に、本発明の他の目的、特徴、有益性、及び利点も、この概要及び以下で述べるある特定の実施形態から明らかとなり、当業者であれば容易に明らかとなるであろう。そのような目的、特徴、有益性、及び利点は、添付の例、データ、図面、及びそれらから導き出されるすべての合理的な推定と合わせて上記から、単独で、又は本明細書に援用される参考文献の考慮と共に、明らかとなるであろう。
【0013】
図面を参照して、以降で本発明についてより詳細に記載する。特に定めのない限り、本明細書で用いられるすべての技術的及び科学的用語は、本開示の主題が属する技術分野の当業者に一般的に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書で述べるものと類似する又は同等であるいずれの方法、デバイス、及び材料が、本明細書で開示される主題の実践又は試験で用いられてもよいが、本明細書では、代表的な方法、デバイス、及び材料について述べる。
【0014】
特に断りのない限り、本文書で用いられる用語及び語句、並びにそれらの変化形は、特に明示的に断りのない限り、限定的ではなく非限定的な意味として解釈されるべきである。同様に、接続詞「及び」で連結された項目の群は、これらの項目の各々すべてがその集団に存在することを必要とするとして解釈されるべきではなく、特に明示的に断りのない限り、むしろ「及び/又は」として解釈されるべきである。同様に、接続詞「又は」で連結された項目の群は、その群の中で相互に排他的であることを必要とするとして解釈されるべきではなく、これも、特に明示的に断りのない限り、むしろ「及び/又は」として解釈されるべきである。
【0015】
さらに、本開示の項目、要素、又は成分は、単数形で記載又は請求される場合があるが、単数への限定が明示的に記載されていない限り、複数形も本開示の範囲内であると考えられる。いくつかの場合における「1又は複数の」、「少なくとも」、「限定されないが」、又は他の類似の語句などの、意味を広げる単語及び語句の存在は、そのような意味を広げる語句が存在しない可能性のある場合において、より狭いケースが意図される又は必要とされることを意味するものと解釈してはならない。
【0016】
本発明では、有機溶媒を用いることなくPBIフィルムを製造するための新規な方法について詳細に述べる。有機溶媒の必要性を排除することにより、これまでの方法よりも安価で、所要時間が短く、作業者の曝露を大きく低減し、化学廃棄物の発生量が少ない、PBIフィルムの新規な製造経路が提供される。この新規な非溶媒プロセスは、スケールア
ップが可能であり、また、これまでの有機溶媒の使用が、PBI膜中に組み込むことのできる化学物質を制限していたことから、より広範なPBI化学物質をフィルムとすることも可能とするものである。
【0017】
本明細書では、有機溶媒を用いることなく初めて合成される耐化学薬品性及び熱安定性PBIフィルムを得るための方法及びプロセスが提供される。これまでは、PBIフィルムの合成は、苛酷な化学薬品が関与する高価で時間の掛かるプロセスであった。本開示は、有機溶媒を使用する必要のない方法を提供し、それによって、この方法は、「よりグリーン」な、より環境にやさしい方法となる。この方法はまた、作業者の有機溶媒への曝露を低減することから、より安全であるとも見なされる。有機溶媒の必要性を克服することによって、PBIフィルムの製造方法は、より安く、所要時間も短くなる。
【0018】
有機溶媒なしで製造されるPBIフィルムは、付随する溶媒購入コストを低減し、有機溶媒の使用から発生する有害廃棄物の高価で時間の掛かる廃棄を排除する。PBIフィルムを得るための本開示の方法は、よりシンプルであり、これまで利用可能であったものよりも広範囲のPBI化学物質を提供する。重要なことには、本開示の商業的用途としては、限定されないが、航空宇宙用コーティング、ワイヤコーティング、マイクロエレクトロニクスパッケージング、保護窓及びガラスコーティング、ガス分離膜、高温材料/フィルム、高耐化学薬品性フィルム、並びにイオン交換膜が挙げられる。
【0019】
本開示の1つの態様では、スルホン化ポリベンズイミダゾール(s-PBI)ゲル膜が製造され、濃硫酸及び強酸化バナジウム(oxidative vanadium)(V)溶液中で高い安定性を有することが示された。これらの膜は、バナジウムレドックスフロー電池での使用の候補と見なされ、一般的に用いられている「従来のようにして吸収させた」、N,N’-ジメチルアセトアミド(DMAc)溶液からキャストしたメタ-ポリベンズイミダゾール(m-PBI)膜と比較した。s-PBI膜は、高い導電率及びセル内試験における低い性能低下を呈した。
【0020】
レドックスフロー電池は、電気エネルギーを化学エネルギーに変換するために用いられる。その化学エネルギーは、その後、必要に応じて、また電気エネルギーに変換することができる。これらのデバイスは、送電網スケールの量のエネルギーを貯蔵することができる。しかし、現時点では、デバイス製造のコストが高いことによって、フロー電池を広く採用することが制限されている。しかし、このコストは、電気化学スタックのサイズを小さくすることによって軽減することができる。これを効果的に実現し、高出力密度を維持するために、電池は、高電流負荷の下での運転が可能でなければならない。フロー電池に用いられている従来の膜は、不充分なイオン伝導体であり、これらの条件下での運転を維持することができず、したがって、より大型のスタックが必要である。本開示は、部分的に、高電流負荷条件下で高い性能での電池の運転を可能とする、高い導電率及び低いセル内抵抗を有するPBIベースの高性能電池を提供する。これらの特性によって、より小さく低コストの電気化学スタックを用いることができる。
【0021】
PPAプロセスから合成されたPBIゲル膜を中和し、フロー電池に一般的に用いられる電解質を吸収させてよい。PBI膜のこの確立されたプロセス及び使用は、そのような用途に用いられる優れた物理的特性を活用するものである。
【0022】
1つの場合では、PBIゲル膜を、レドックスフロー電池に一般的に用いられる硫酸電解質と共に用いるために製造した。これらの膜は、本主題に関して過去に報告されたいずれの文献よりも高いイオン伝導率を有しており、これらの膜は、再生可能エネルギー分野のための、及び/又は現行の送電網でのピーク使用時におけるバックアップのための/送エネルギー中断低減のための電池で用いることができる。
【0023】
本開示は、高電流負荷下で運転するより高性能なフロー電池を可能とする。これらの運転条件は、大型の電気化学スタックの必要性を軽減し、それによって、商業的なフロー電池デバイスの全体としてのコストを低減する。さらに、本開示の膜は、その高いイオン伝導率によって、優れた性能を呈する。そしてこれは、必要なスタックサイズを減らすことによって、全体としての構築コストを低減する。
【0024】
図1及び2は、より高い電流密度で、PBIゲル膜の性能が向上したことを示す。本質的により高いイオン伝導率を有するこれらの膜を用いたデバイスを使用し、製造することによって、電池のレート特性の向上が可能となる。全体としての電池のコストは、必要なスタックサイズがより小さいことによって、劇的に低減可能である。注:示したデータは、「BOM」とマークされたもの以外はすべてPBI膜である。
【0025】
さらに、本開示の膜は、酸化バナジウム(V)溶液中での分解を示さない。本願出願人らは、この程度の化学的安定性を有する炭化水素膜は存在しないと理解しており、PBIゲル膜が、長期使用デバイスにとって有利な膜であることを示唆している。図3は、本開示の膜におけるVRFBの酸化安定性試験を示す。
【0026】
エネルギー分野への需要が増加していることにより、送電網管理及びバックアップ電力においてさらなる意味を持ち、同時に新たな再生可能エネルギーデバイスとシームレスに一体化される大型のエネルギー保存デバイスに対する新規なニーズが生み出されてきた。レドックスフロー電池は、大量のエネルギーを効率的に保存し、さらにはコストへの期待を満たすという両方の可能性を有している。バナジウムレドックスフロー電池(VRB)では、コストの主たる部分は、バナジウム電解質に帰する。このコストは、より安価なセルスタック設計によって相殺することができる。現在、市販のVRBでは、PFSA膜がスタックコンポーネントに用いられており、このことが、その選択性の低さとコストの高さのため、そのさらなる発展が制限されている。VRBのコストを低減し、全体的な性能を向上させるために、VRBに特有のニーズに合わせた膜開発の動きが急増してきた。
【0027】
リン酸(PA)をドープしたポリベンズイミダゾール(PBI)膜は、高温ポリマー電解質膜(HT-PEM)でのその性能が最もよく知られている。しかし、PBI膜は、電気化学的水素分離、SO脱分極電気分解装置(SO2depolarized electrolyzers)、及びレドックスフロー電池などの複数の新規デバイスのための好ましい候補であることが示されてきた。
【0028】
現在までのところ、フロー電池のためのPBI膜に関する研究は、メタ-ポリベンズイミダゾール(m-PBI)及びその誘導体周辺にフォーカスしており、膜は、N,N’-ジメチルアセトアミド(DMAc)中での溶液キャスティングによって緻密フィルム(dense film)を形成し、その後形成したフィルムに所望の電解質を吸収させることによって製造され、「従来の吸収プロセス」の語で称される。この方法で製造された膜は、典型的には、0.5nm~2.0nmの範囲内の細孔サイズを有し、これは、PFSA(例:ナフィオン(商標))型の膜で見られる細孔サイズ(2~4nm)よりも非常に小さい。この空隙の減少は、PFSA膜と比較してバナジウムイオンの透過率を劇的に低下させることを可能とするものであるが、一般的なVRB電解質溶液を吸収させた場合のその極めて低い導電率(<20mS・cm-1)の原因にもなる。これらの最近の研究の焦点は、m-PBI緻密フィルムの本質的に低い透過率を維持しながら、プロトン伝導率を高めることである。これらの技術は、硫酸でドープする前に濃リン酸でPBIフィルムを予め膨潤させること、蒸気誘起相反転法及び非溶媒誘起相分離を用いてスポンジ状多孔質構造を作り出すこと、並びにPBIポリマー主鎖に様々な置換基をグラフトすること、を含む。本願出願人の知り得る限りでは、レドックスフロー電池用の代替膜としてのPPAプロセス
から形成されたPBIゲル膜の使用についての研究は行われていない。
【0029】
PBI膜の従来の吸収プロセスは、時間が掛かり、環境にやさしくなく、膜製造プロセスにコストがかかる技術である。しかし、Xiao et al.は、ポリリン酸(PPA)中のPBIポリマーを含む重合溶液を直接キャストすることから成る、PBIゲル膜を製造するための新規なPPAプロセスを開発した。続いて、キャストした溶液を大気中の水分、又は室温での制御された湿度条件にさらすことによって、PBIの良溶媒であるPPA溶媒が、PBIの貧溶媒であるリン酸(PA)に加水分解される。このプロセスは、溶液に、本質的にリン酸を吸収したPBIゲル膜を形成するゲル転移を誘発する。これらの膜は、リン酸を「予め吸収させた状態」であるが、吸収させた電解質の酸交換を受けることができることが示されている。Garrick et al.は、水素の製造に用いられるSO脱分極電気分解装置で試験するために、スルホン化パラ-ポリベンズイミダゾール(s-PBI)膜中のリン酸を、50重量%の硫酸溶液で交換した。この膜は、120℃であっても、濃硫酸中で高い安定性を呈した。さらに、SO脱分極電気分解装置中での膜抵抗は、アノード過電圧と比較してほとんど無視できるほどであることが見出され、これは、s-PBIの高いイオン伝導率に起因する。PBI誘導体の特に優れた安定性及びその高い導電率のために、s-PBIポリマーゲル膜は、レート特性を向上したバナジウムレドックスフロー電池のための考え得る代替膜として想定される。
【実施例0030】
材料
3,3’,4,4’-テトラアミノビフェニル(TAB、ポリマーグレード、約97.5%)は、BASF Fuel Cell,Inc.から寄贈を受け、入手したまま用いた。2-スルホテレフタル酸一ナトリウム(純度>98.00%)は、TCIから購入し、入手したまま用いた。ポリリン酸(115%)は、FMC Corporationからの供給を受け、入手したまま用いた。a,a’-ジクロロ-p-キシレン(純度>98.0%)は、TCIから購入し、入手したまま用いた。
【0031】
ポリマー合成及び膜製造
典型的な重合は、10.71gのテトラアミノビフェニル(TAB、50mmol)及び13.44gの2-スルホテレフタル酸一ナトリウム(s-TPA、50mmol)を580gのポリリン酸に添加し、オーバーヘッドスターラーで混合し、乾燥窒素でパージすることから成る。内容物を、高温シリコーン油浴で加熱し、温度は、ランプ機能及びソーク機能を有するプログラム可能な温度コントローラによって制御した。典型的な重合では、最終反応温度は、およそ195℃であり、12時間保持した。反応が完了し、粘度を目視で確認した後、ドクターブレードを用いて、ゲートの厚さを15ミルに制御しながら、ポリマー溶液を透明ガラス板上にキャストした。キャストした溶液を、25℃で55%RHに制御した湿度室中で加水分解して膜とした。
【0032】
酸交換
キャストした膜を、DI水浴中に入れ、pH試験紙を用いて水のpHをモニタリングした。pH7が記録されるまで、水浴を8時間ごとに交換した。この時点で、膜を2.6モル濃度の硫酸浴中に24時間入れて酸ドープの平衡を確保したか、又は膜を架橋反応によってさらに改質した。
【0033】
膜形成後架橋
PBIゲル膜からPAを除去した後、膜を、メタノール中0.0523Mのa,a’-ジクロロ-p-キシレン溶液の浴中に浸漬した。この浴を覆い、30℃に加熱し、マグネティックスターラーバーで撹拌した。架橋反応は、典型的には、6時間進行させた。次に、膜をDI水及びメタノールで、少なくとも3回繰り返し洗浄した。次に、膜を2.6M
の硫酸(SA)浴中に24時間移して、酸をドープした。
【0034】
膜組成
硫酸ドープPBI膜の組成を、膜中のポリマー固形分、水、及び酸の相対量を測定することによって特定した。膜の硫酸(SA)含有量は、Metrohm 888 DMS Titrando自動滴定器を用いて、膜サンプルを水酸化ナトリウムの標準溶液(0.10M)で滴定することによって特定した。滴定後、サンプルをDI水で充分に洗浄し、120℃で一晩減圧乾燥した。次に、乾燥サンプルを秤量して、膜のポリマー固形分を特定した。
【0035】
式1及び2を用いて、ポリマーの重量パーセント及び硫酸の重量パーセントをそれぞれ特定することができる:
【数1】

式中、Wsampleは、滴定前のサンプルの重量であり、Wdryは、滴定後の最終乾燥サンプルの重量であり、Macidは、硫酸の分子量であり、VNaoH及びcNaoHは、硫酸を最初の当量点まで中和するのに要した水酸化ナトリウム溶液の体積及び濃度である。硫酸の第二のプロトンは、第一のプロトンよりも非常に低い酸性ではあるが、それでも、両プロトンの同時滴定を起こすのに充分に強い酸であり、pKa1=-3及びpKa2=2であることに留意することは重要である。
【0036】
PBIの繰り返し単位1モルあたりの硫酸のモル数(又は、SAドープレベル、X)を、以下の式から算出した:
【数2】

式中、VNaOH及びcNaOHは、硫酸を最初の当量点まで中和するのに要した水酸化ナトリウム溶液の体積及び濃度であり、Wdryは、滴定後の乾燥サンプルの最終重量であり、Mpolymerは、ポリマーの繰り返し単位の分子量である。
【0037】
導電率
2.6M硫酸溶液、及び1.5M VOSO+2.6M硫酸の溶液にそれぞれ浸漬することによって、膜に硫酸及びV4+イオンを吸収させた。膜の面内導電率を、FuelCon(TrueData EIS PCM)電気化学ワークステーションを用いた4端子電気化学インピーダンス分光(EIS)法によって、1Hzから50kHzの周波数範囲で測定した。典型的な形状である1.0cm×4.0cmの膜サンプルを、この測定法の測定用4電極ヘッドに固定した。膜の導電率を、以下の式を用いて算出した:
【数3】

式中、dは、2つの内側端子間の距離であり、lは、膜の厚さであり、wは、膜の幅であり、Rは、モデルフィッティングによって特定されたオーム抵抗である。導電率測定は、バナジウムレドックスフロー電池の通常運転条件を再現するために、室温で行った。
【0038】
バナジウム透過率
バナジウム(IV)(VOSO)の貫通(crossover)を、PermeGear「サ
イドバイサイド型」直接透過セルを用いて測定した。このセルは、試験対象の膜によって分離された容積45mLの2つのチャンバーを有する。チャンバーの温度は、循環式水浴で25℃に制御した。典型的な試験実験では、2.6M硫酸中の1.5M VOSOをドナーチャンバーに入れ、2.6M硫酸中の1.5M MgSOをレセプターチャンバーに入れた。バナジウム(IV)は、248nmに強い吸収特性を有しており、この特性を利用して、レセプターチャンバーの濃度を、Shimadzu UV-2450 UV/Vis分光計を用いて様々な時間間隔で測定した。VO2+の透過率は、フィックの拡散法則の式5を用いて算出することができる。
【数4】

式中、c(t)は、時間tでのレセプターVOSO濃度であり、c(0)は、ドナーの初期VOSO濃度であり、Vは、ドナー及びレセプターの溶液体積であり、dは、膜の厚さであり、Aは、膜の作用面積であり、Ptは、塩の透過率である。
【0039】
図4は、PPA中のs-PBIの重合スキーム及び膜の架橋改質反応を示す。フロー電池のレート特性は、膜の導電率に大きく依存している。従来の吸収プロセスから製造されたm-PBI膜は、比較的低い導電率を有しており、そのことが、高い電流密度での安定した運転を制限している。本明細書において、本発明者らは、高プロトン伝導性膜であるs-PBIの使用を、バナジウムレドックスフロー電池に使用することを検討している。
【0040】
図5は、表1-緻密m-PBIフィルムと比較したs-PBIゲル膜の装置外特性を示す。
【0041】
s-PBIゲル膜(未架橋及び架橋後の両方)及び従来の吸収プロセスから形成したm-PBI膜に対する装置外膜特性を、表1に示す。図5を参照されたい。膜の室温導電率を、典型的なセル運転時の条件で見られる2.6M硫酸及びV(IV)/H溶液の両方で評価した。s-PBIゲル膜は、硫酸及び酸電解質溶液の両方で、m-PBI膜と比較して驚くべき高い導電率を呈しており、それぞれ、13.1mS・cm-1と比較して537~593mS・cm-1、及び12.2mS・cm-1と比較して240~242mS・cm-1である。2つのs-PBI膜間での僅かな相違は、恐らくは架橋の結果である。表1のs-PBI-xは、膜の加水分解後に架橋改質を受けたs-PBIフィルムである。架橋剤は、イミダゾール窒素と結合を形成し、水素結合ネットワークを通してのプロトン経路を僅かに阻害し得る。吸収される溶液と比較した場合、バナジウム電解質溶液中でのゲル膜の導電率の低下は、2つの因子から発生するものと考えられる。第一は、バナジウムイオンが、負に帯電したスルホネート基(pKa約-2)との引力によって膜と
相互作用を起こし、プロトンの流れを阻害している可能性である。なおさらには、PBIゲル膜の導電率の劇的な低下は、バナジウムイオンを含有する電解質溶液の固有の導電率に起因する可能性が最も高い。
【0042】
プロトン伝導性の主たる要因はイオンの移動度であることから、バナジウム濃度の増加が、電解質溶液の粘度上昇のみに関連して、電解質溶液のプロトン伝導率を減少させることは驚きではない。PBIゲル膜は、Grotthuss機構によるプロトン輸送を可能とすることによってだけでなく、膜中の電解質の移動度によってもプロトン伝導率を高める非常に開いた形態を有しており、したがって、膜を通してのプロトン輸送は、バナジウムイオンの組み込み(incorporation)による粘度上昇によっても影響されることになる
【0043】
とは言え、PBIゲル膜中での電解質の移動度は、バナジウムの透過率が対応する緻密膜よりも著しく高い理由についての議論としては妥当である。この結果は、膜のポリマー固形分を考えた場合でも、予想外なものではない。表1を見ると、s-PBIは、m-PBIと比較して、膜中に電解質の量あたり比較的少量のポリマーを有していることが明らかである。PBIゲル膜がバナジウムイオンの高い貫通性を有することを考えて、本発明者らは、PBI鎖を一緒に化学的に架橋して空隙を埋め、鎖運動性を制限することができる軽減手段を考案した。一見してs-PBI-xの透過率は、理想ほどではないが、この僅かな改質が、導電率に劇的な影響を与えることなく、未改質型と比較した場合に影響を有している。この技術は、選択するPBI誘導体に影響されないため、必要に応じて、PBI膜の特性を向上させるために用いることができる。現時点では、一般的な重量測定及びレオロジー技術は、キャストした状態の吸収ゲル膜の場合に誤差が大きいことから、本発明者らは、ゲル膜の架橋密度を特定するための容易な方法を見出していない。しかし、架橋が発生したことを確認するために、中和乾燥膜の50mgのサンプルを、800mLのN,N’-ジメチルアセトアミド中で48時間にわたって加熱還流した。これらの条件下では、架橋サンプルでは膜の劣化も溶液の変色も観察されなかったが、初期のままのポリマーフィルムでは溶解が観察された。さらに、架橋膜と未架橋膜の膨潤率を比較すると、注目すべき結果が得られる。不要な溶媒ポリマー相互作用を確実に抑制するために、非酸溶媒(N,N’-ジメチルアセトアミド)を用いると、未架橋ゲル(3.94重量%増加)が、架橋膜(3.25重量%増加)よりもおよそ0.75重量%多い量の溶媒を吸収したことが見出された。化学架橋による鎖運動性の制限が、ポリマーゲルの溶媒膨潤を阻害し、その結果、溶媒の取り込みによる重量増加が少なくなる。
【0044】
s-PBIゲル膜を、PPAプロセスを介して合成し、硫酸及び酸化性V(V)溶液中で安定な膜を得た。この膜は、高い導電率及び良好なセル性能を、特に高い電流密度で呈した。しかし、これらの膜は、開いた形態及び低いポリマー固形分に起因して、本質的に高いバナジウムイオン貫通性を有する。バナジウムの貫通は、化学架橋によって阻害されることが示されたが、緻密膜と比較して依然として高い。しかし、この架橋法は、多くのPBI化学物質に応用可能であり、これを用いて、プロトン伝導率を大きく損なうことなく、PBIゲル膜での貫通性をさらに低減することができる。
【0045】
現時点で、フロー電池に用いられるPBIゲル膜は、文献に記載されたものよりも優れた性能を提供する。しかし、レドックス種の貫通は、電池の長期的な全体としての効率を低下させてしまう。本開示の1つのさらなる態様は、性能を大きく損なうことなく、典型的な膜の高い貫通輸送特性を軽減する。
【0046】
PBIゲル膜は、レドックスフロー電池において特に優れた性能を呈した。このプロセスを介して形成された膜は、これらの用途で用いられる一般的な電解質で中和し、ドープすることができる。これらの膜の使用は、高電流負荷運転下での使用を可能とする、これ
らの膜の本質的に高いイオン伝導率により、文献の膜と比較して、コスト上の利点を有する。これらの条件下では、スタックのサイズを大きく低減することができ、商業化のための非常に高いコストが軽減される。そのまま用いられる膜は、高い性能を提供するが、そのレドックス対の透過性が、長期的な効率を阻害している。
【0047】
新規な一方向及び二方向延伸法を通して、レドックス対の輸送機構を、全体としての性能を大きく損なうことなく阻害することができる。
【0048】
本開示の1つの態様では、レドックスフロー電池に用いられる新規な膜に対する、後改質(post-modification)を介した改善が提供される。これらの処理技術の下、膜の輸送
特性が、プロトンのイオン伝導率に影響を与えることなく変化される。
【0049】
本開示は、1つの態様において、高電流負荷下で機能することができ、電池全体のコストを低減することができ、及びレドックス活性種の貫通を低減することによって長期的な効率を改善する膜を提供する。そのような膜は、再生可能エネルギー分野で、及び/又は現行の送電網でのピーク使用時におけるバックアップのために/送エネルギー中断低減のために、用いることができる。
【0050】
形成した膜の新規な処理技術は、反応性種の輸送の低減によって、性能向上を可能とする。これらの膜は、現行の市販バナジウムレドックスフロー電池に一般的に用いられている膜よりも優れた性能を有する。市販の非PBI膜と比較した本開示の膜の性能を示す図6を参照されたい。注:示したデータは、「BOM」とマークされたもの以外はすべてPBI膜である。
【0051】
図7は、一般的なPBIゲル膜と比較した本開示の膜の測定した装置外特性のグラフを示す。新規な処理技術によって、膜特性を大きく変化させることが可能である。これらの種類の変化は、市販の膜では一般的ではなく、新規デバイスの設計時又は既存デバイスの改造時に、エンドユーザーに柔軟性を与える。以下の開示の膜の透過率は、以下によって特徴付けることができる:
【数5】

式中、V=右貯留部(reservoir)の溶液;CB(t)=右セル中のVO2+濃度;
CA(t)=左セル中のVO2+濃度;A=有効面積;L=膜の厚さ;P=VO2+の透過率、である。
【0052】
図8は、本開示の膜の装置外測定全体を示す。
【0053】
図9は、パラ-BPIに対する導電率と比較した透過率の比較を示す。
【0054】
図10は、M-r-p BPIにおける導電率と比較した透過率の比較を示す。図11は、本開示に従って形成された膜のセル試験結果を示す。全体として、本開示に従って形成されたPBI膜は、高い導電率及び濃SA中での安定性を示した。さらに、パラ-PBI膜の透過率は、4.55E-08cm/sに低下させることができ、一方プロトン伝導率は、2.6MのSAで246mS/cmに維持されている。また、改質パラ-PBI膜で運転したVRBは、100~450mA/cmの範囲内の高サイクル電流密度下で、98%以上のクーロン効率を示している。
【0055】
例1:パラ-PBI、延伸率=1.7
PPAプロセスによって製造したパラ-PBI膜を、まず一連の脱イオン水浴でリンスしてリン酸を除去した。進める前に、pH指示紙を用いて、すべての酸が除去されたことを確認した。膜を10cm×12cmの寸法に切断し、2回折り畳んで4層とした。Instron 5843引張試験機を用いて、膜を元の長さの1.7倍に延伸した。次に、それを2枚の多孔質ガラスプレート間に挟み、周辺部をクランプ固定してx-y方向の寸法を維持し、一晩乾燥させた。翌日、乾燥した緻密PBIフィルムを取り出し、2.6Mの硫酸溶液中に24時間入れた後に、特性評価した。面内イオン伝導率は、室温で175mS/cmと測定された。
【0056】
バナジウム(VOSO)の貫通を、PermeGear「サイドバイサイド型」直接透過セルを用いて測定した。セルは、膜サンプルによって分離される容積45mLのチャンバーを2つ含有している。試験温度は、循環式水浴で25℃に制御した。試験実験では、2.6M硫酸中の1.5M VOSOをドナーチャンバーに入れ、2.6M硫酸中の1.5M MgSO4をレセプターチャンバーに入れた。レセプターチャンバー中のバナジウム(IV)濃度を、248nmでの吸光度として、Shimadzu UV-2450 UV/Vis分光計を用いて様々な時間間隔で測定した。次に、VO2+の透過率を、フィックの拡散法則を用いて算出した:
【数6】

式中、cr(t)は、時間tでのレセプターチャンバー中のVOSOの濃度であり、cr(0)は、ドナーチャンバー中のVOSOの初期濃度であり、Vは、ドナー及びレセプターチャンバー中の溶液体積であり、dは、膜の厚さであり、Aは、膜の作用面積であり、Psは、塩の透過率である。VOSOの透過率は、1.93×10-8cm/sであると測定された。
【0057】
VRB(バナジウムレドックスフロー電池)試験セルを、24cmの作用面積で組み立て、液体電解質用に、カーボンプレートに機械加工した互いに組み合わされた流路(interdigitated flow fields)を用いた。膜を、空気中400℃で30時間熱処理した同じ市販のカーボンペーパー電極で挟み、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルムをガスケットとした。セルは、それぞれの側に、平均3.55の酸化状態を有する1.60Mのバナジウム種と4.2Mの総硫黄含有量から成る100mLの電解質溶液を入れた2つの貯留部を備えていた。電解質は、2つの耐酸性膜ポンプによって120mL/分の一定流量でセル内を循環させた。充電/放電サイクル性能を、マルチチャネルポテンショスタット(Model BT2000、Arbin Instruments Inc.、College Station、TX)を用いて72mA/cm~484mA/cmの範囲内の一定電流密度で測定した。電圧効率(VE)、クーロン効率(CE)、及びエネルギー効率(EE)を測定、記録した。図12を参照されたい。
【0058】
例2:パラ-PBI、延伸率=1.5
PPAプロセスによって製造したパラ-PBI膜を、まず一連の脱イオン水浴でリンスしてリン酸を除去した。進める前に、pH指示紙を用いて、すべての酸が除去されたことを確認した。次に、中和した膜を10cm×12cmに切断し、2回折り畳んで4層とした。Instron 5843引張試験機を用いて、膜を元の長さの1.5倍に延伸した。次に、それを2枚の多孔質ガラスプレート間に挟み、周辺部をクランプ固定してx-y
方向の寸法を維持し、一晩乾燥させた。翌日、乾燥した緻密PBIフィルムを取り出し、2.6Mの硫酸溶液中に24時間入れた後に、特性評価した。面内イオン伝導率は、室温で207.6mS/cmと測定された。VOSOの透過率を例1に記載のようにして試験し、4.55×10-8cm/sであることが分かった。
【0059】
VRB試験セルを、本明細書に記載のようにして組み立てた。電圧効率(VE)、クーロン効率(CE)、及びエネルギー効率(EE)を測定、記録した。図13を参照されたい。
【0060】
例3:パラ-PBI、延伸率=0
PPAプロセスによって製造したパラ-PBI膜を、まず一連の脱イオン水浴でリンスしてリン酸を除去し、進める前に、pH指示紙を用いて、すべての酸が除去されたことを確認した。湿潤厚さ(wet thickness)は、356.67±5.8umとして測定され、
膜を45.72cm×30.48cmの寸法に切断した。湿潤膜を2枚の多孔質ポリエチレンシート間に挟み、周辺部をクランプ固定してx-y方向の寸法を維持した。挟んだ膜を、ベンチトップ上に直立させて置き、室温で乾燥させた。24時間後、クランプと多孔質シートを取り外して、乾燥した緻密PBIフィルムを得た。このフィルムは、30μmの均一な厚さを有していた。
【0061】
例3A:2.6MのSAでドープしたフロー電池データ
乾燥フィルムを2.6Mの硫酸に24時間入れ、その後特性評価した。面内イオン伝導率は、室温で95.17mS/cmと測定された。VOSOの透過率を例1に記載のようにして試験し、2.65×10-8cm/sと測定された。
【0062】
VRB試験セルを、例1に記載のようにして組み立てた。電圧効率(VE)、クーロン効率(CE)、及びエネルギー効率(EE)を測定、記録した。図14を参照されたい。
【0063】
例3B:85重量%のリン酸でのドープ
乾燥フィルムを85重量%のリン酸に24時間入れ、その後特性評価した。厚さ方向(through-plane)のイオン伝導率を、4端子ACインピーダンス分光法により、Zahn
er IM6e分光計を用い、5mVの振幅で1Hz~100kHzの周波数範囲にわたって測定した。オーム抵抗とコンデンサを並列とした二成分モデルを用いて、実験データのフィッティングを行った。異なる温度での膜の導電率を、モデルシミュレーションから得た膜抵抗から、以下の式を用いて算出した:
【数7】

式中、dは、2つの内側端子間の距離であり、lは、膜の厚さであり、wは、膜の幅であり、RΩは、モデルフィッティングによって特定されたオーム抵抗である。膜サンプルを、180℃までの2つの加熱勾配(heating ramp)に掛けた。第二の加熱勾配での180℃で測定した導電率は、215.68mS/cmであった。
【0064】
例4:s-PBI、延伸率=1.5
11.0824gの3,3’,4,4’-テトラアミノビフェニル(TAB、51.72mmol)、13.9034gの2-スルホテレフタル酸一ナトリウム塩(2STPA、51.85mmol)、及び600gのポリリン酸(PPA)を、オーバーヘッドメカニカルスターラーを備えた1000mLの反応釜に添加した(4重量%のモノマー投入量
)。窒素雰囲気中、220℃で48時間にわたって重合した。溶液を、ドクターブレードによって20ミルのゲート厚さでガラス基材に塗布し、続いて24時間加水分解した。リン酸を吸収させたs-PBI膜を、一連の脱イオン水浴でリンスしてリン酸を除去した。進める前に、pH指示紙を用いて、すべての酸が除去されたことを確認した。それを10cm×12cmの寸法に切断し、2回折り畳んで4層とした。Instron 5843引張試験機を用いて、膜を元の長さの1.5倍に延伸した。次に、それを2枚の多孔質ガラスプレート間に挟み、周辺部をクランプ固定してx-y方向の寸法を維持し、一晩乾燥させた。翌日、乾燥した緻密PBIフィルムを取り出し、2.6Mの硫酸溶液中に24時間入れた後に特性評価した。面内イオン伝導率は、室温で179.7mS/cmと測定された。VOSOの透過率を例1に記載のようにして試験し、2.60×10-9cm/sと測定された。
【0065】
VRB試験セルを、例1に記載のようにして組み立てた。電圧効率(VE)、クーロン効率(CE)、及びエネルギー効率(EE)を測定、記録した。図15を参照されたい。
【0066】
例5:s-PBI、延伸率=0
11.0824gの3,3’,4,4’-テトラアミノビフェニル(TAB、51.72mmol)、13.9034gの2-スルホテレフタル酸一ナトリウム塩(2STPA、51.85mmol)、及び600gのポリリン酸(PPA)を、オーバーヘッドメカニカルスターラーを備えた1000mLの反応釜に添加した(4重量%のモノマー投入量)。窒素雰囲気中、220℃で48時間にわたって重合した。溶液を、ドクターブレードによって20ミルのゲート厚さでガラス基材に塗布し、続いて24時間加水分解した。リン酸を吸収させたs-PBI膜を、一連の脱イオン水浴でリンスしてリン酸を除去した。進める前に、pH指示紙を用いて、すべての酸が除去されたことを確認した。湿潤厚さは、251.8±34umと測定された。湿潤膜を2枚の多孔質ポリエチレンシート間に挟み、周辺部をクランプ固定してx-y方向の寸法を維持し、一晩乾燥させた。24時間後、クランプと多孔質シートを取り外して、乾燥した緻密PBIフィルムを得た。このフィルムは、37.7umの均一な厚さを有していた。乾燥フィルムを2.6Mの硫酸に24時間入れ、その後特性評価した。面内イオン伝導率は、室温で65.71mS/cmと測定された。VOSOの透過率を本明細書に記載のようにして試験し、7.76×10-9cm/sと測定された。
【0067】
VRB試験セルを、本明細書に記載のようにして組み立てた。電圧効率(VE)、クーロン効率(CE)、及びエネルギー効率(EE)を測定、記録した。図16を参照されたい。
【0068】
例6:Di-OH-PBI、延伸率=0
6.615gの3,3’,4,4’-テトラアミノビフェニル(TAB、30.87mmol)、6.119gの2,5-ジヒドロキシテレフタル酸(DiOH-TPA、30.88mmol)、及び401.29gのポリリン酸(PPA)を、反応釜に添加し、窒素雰囲気下、オーバーヘッドメカニカルスターラーで撹拌した。窒素雰囲気中、220℃で24時間にわたって重合した。溶液を、ドクターブレードによって20ミルのゲート厚さでガラス基材に塗布し、続いて24時間加水分解した。リン酸を吸収させた膜を、一連の脱イオン水浴でリンスしてリン酸を除去した。進める前に、pH指示紙を用いて、すべての酸が除去されたことを確認した。湿潤厚さは、404.44±10umと測定された。湿潤膜を2枚の多孔質ポリエチレンシート間に挟み、周辺部をクランプ固定してx-y方向の寸法を維持し、一晩乾燥させた。24時間後、クランプと多孔質シートを取り外して、乾燥した緻密PBIフィルムを得た。このフィルムは、31.1umの均一な厚さを有していた。乾燥フィルムを2.6Mの硫酸に24時間入れ、その後特性評価した。面内イオン伝導率は、室温で218.48mS/cmと測定された。VOSOの透過率を本
明細書に記載のようにして試験し、3.92×10-8cm/sと測定された。
【0069】
比較例1(ゲルのパラ-PBI)
PPAプロセスによって製造したパラ-PBI膜を、まず脱イオン水浴で複数回リンスしてリン酸を除去した。進める前に、pH指示紙を用いて、すべての酸が除去されたことを確認した。次に、中和した膜を2.6Mの硫酸溶液中に少なくとも24時間入れ、その後特性評価した。VOSOの透過率を本明細書に記載のようにして試験し、5.73×10-7cm/sと測定された。
【0070】
比較例2(ゲルのs-PBI)
11.0824gの3,3’,4,4’-テトラアミノビフェニル(TAB、51.72mmol)、13.9034gの2-スルホテレフタル酸一ナトリウム塩(2STPA、51.85mmol)、及び600gのポリリン酸(PPA)を、オーバーヘッドメカニカルスターラーを備えた1000mLの反応釜に添加した(4重量%のモノマー投入量)。窒素雰囲気中、220℃で48時間にわたって重合した。溶液を、ドクターブレードによって20ミルのゲート厚さでガラス基材に塗布し、続いて24時間加水分解した。リン酸を吸収させたs-PBI膜を、一連の脱イオン水浴でリンスしてリン酸を除去した。pH指示紙を用いて、すべての酸が除去されたことを確認した。s-PBI膜を2.6Mの硫酸に24時間入れ、その後特性評価した。VOSOの透過率を本明細書に記載のようにして試験し、4.89×10-7cm/sと測定された。
【0071】
比較例3(ゲルのdi-OH-PBI)
6.615gの3,3’,4,4’-テトラアミノビフェニル(TAB、30.87mmol)、6.119gの2,5-ジヒドロキシテレフタル酸(diOH-TPA、30.88mmol)、及び401.29gのポリリン酸(PPA)を、反応釜に添加し、窒素雰囲気下、オーバーヘッドメカニカルスターラーで撹拌した。窒素雰囲気中、220℃で24時間にわたって重合した。溶液を、ドクターブレードによって20ミルのゲート厚さでガラス基材に塗布し、続いて24時間加水分解した。リン酸を吸収させた膜を、一連の脱イオン水浴でリンスしてリン酸を除去した。pH指示紙を用いて、すべての酸が除去されたことを確認した。膜を2.6Mの硫酸に24時間入れ、その後特性評価した。VOSOの透過率を例1に記載のようにして試験し、7.23×10-7cm/sと測定された。
【0072】
比較例4(メタ-PBI)
N,N-ジメチルアセトアミド溶液のキャスト及び乾燥から製造された市販のメタ-PBIフィルムを入手したまま用いた。フィルムを2.6Mの硫酸溶液に24時間入れ、その後特性評価した。面内イオン伝導率は、室温で13.1mS/cmと測定された。
【0073】
VRB試験セルを、例1に記載のようにして組み立てた。電圧効率(VE)、クーロン効率(CE)、及びエネルギー効率(EE)を、72mA/cm2で測定、記録した。図17を参照されたい。より高い電密度では、セルは、実用的な性能を持たず、運転不可能であった。これは、電圧が膜の導電率と関連しているからであり、この膜の場合、導電率は非常に低い。
【0074】
本開示のなお別の態様は、PBI成膜方法を洗練させることを含む。PBIフィルムは、高温安定性、不燃性、及び高い耐化学薬品性などの非常に優れた特性を有することが知られている。これまでのところ、PBIフィルムの製造方法は、重合、得られたポリマーのジメチルアセトアミド(DMAc)などの有機溶媒への溶解、フィルムのキャスティング、及び一連の洗浄による溶媒の除去、が関与するものであった。
【0075】
本開示は、1つの態様において、PPAプロセスで重合され、キャストされたゲルPBI膜から開始してPBIフィルムを製造するための新規な方法を提供する。酸を吸収させたゲルPBIを、一連の水浴で中和し、多孔質材料間で制御された乾燥に掛けて、有機溶媒を用いることなくPBIフィルムを得る。加えて、PPAプロセスで合成されたPBIゲルは、より広範なモノマーを、有機溶媒への溶解度が低いことに起因して使用することができる。したがって、本発明は、フィルムへと加工することができるより広範囲のPBI化学物質へのアクセスを初めて提供するものである。
【0076】
本明細書で提供される改善された方法は、ポリベンズイミダゾール(PBI)膜に、より詳細には、PBIゲル膜に基づいている。本明細書で用いられる場合、「ゲル」の用語は、高含有量の液体を組み込むことができ、自立性の構造を維持することができるポリマーマトリックス全般を意味する。例えば、本明細書で述べるPBIゲル膜は、ポリマーマトリックスの構造を損なうことなく、複合膜(固体プラス液体含有量の合計)の重量基準で、約60重量%以上、約65重量%以上、約75重量%以上、約80重量%以上、又は約85重量%以上の液体を組み込むことができる。1つの実施形態では、PBIゲル膜は、自立性の半剛性構造を維持しながら、約60重量%~約95重量%の液体を組み込むことができる。すなわち、ポリマーマトリックスの構造を損なうことなく、操作して柔軟性を示すことができる。加えて、PBIゲル膜は、処理によってゲルから液体を除去することができ、続いて液体を再度吸収させて、ポリマーマトリックスの構造を損なうことなく、再膨潤させることができる。
【0077】
本発明の方法によって形成された膜は、1つの態様では、高い導電率及び低い抵抗を提供して、高電流負荷条件下での高い性能での運転を可能とし、このことは、他の技術と比較して同じ又はより良好な性能を提供する、より小さくより安価な電気化学スタックを用いた電池などの用途に繋げることができる。例えば、記載されるレドックスフロー電池膜は、いくつかの実施形態では、2.6Mの硫酸溶液中、約100mS/cm以上、約200mS/cm以上、又は約300mS/cm以上の面内イオン伝導率を呈することができる。架橋膜は、約300mS/cm以上、約400mS/cm以上、又は約500mS/cm以上などの極めて高い面内イオン伝導率を呈することができる。例えば、レドックスフロー電池は、いくつかの実施形態では、2.6Mの硫酸溶液中、約100mS/cm~約600mS/cmの面内イオン伝導率を呈することができる。
【0078】
加えて、開示される膜を組み込んだ電池は、高い電流密度、例えば約100mA/cm2以上、いくつかの実施形態では、約100mA/cm2~約500mA/cm2の電流密度で運転することができる。さらに、記載されるレドックスフロー電池膜を組み込んだ電池は、高い効率で運転することができる。例えば、242mA/cm2の電流密度では、記載される膜を組み込んだレドックスフロー電池は、約90%以上、例えば、いくつかの実施形態において約93%~約99%のクーロン効率(CE);約75%以上、例えば、いくつかの実施形態において、約78%~約85%のエネルギー効率(EE);及び約80%以上、例えば、約81%から約87%の電圧効率(VE)を呈することができる。483mA/cm2の電流密度では、記載されるレドックスフロー電池は、90%以上、例えば、いくつかの実施形態において約94%~約98%のCE;約65%以上、例えば、いくつかの実施形態において約65%~約75%のEE;及び約65%以上、例えば、約66%~約77%のVEを呈することができる。
【0079】
本明細書でさらに述べるように、開示されるゲル膜は、PPAポリマー溶媒の加水分解と、それに続く加水分解生成物(PA)中でのPBIポリマーの固化を含む方法に従って形成される。このin situ加水分解及びポリマーの固化が、有機溶媒の溶液としてキャストされ、続いて、例えば加熱を介して有機溶媒を除去することで固化される従来の有機溶液キャストPBI膜とは分子構造の異なる規則的なポリマーマトリックスの形成を
もたらすものと考えられる。特に、PBIゲル膜構造は、従来のPBI膜と比較してより開いた規則的なフレームワークを含み、そのPBIマトリックスのフレームワークが、記載したような改善された電気化学的特性を呈する安定なゲル膜を提供するものと考えられる。
【0080】
本開示の方法で用いられ得るPBIゲル膜を形成するために、PPA及び選択されたPBI形成化合物、例えば、PBI形成モノマーを含む重合組成物を形成することができる。重合組成物のモノマー含有量は、一般的には低くてよく、例えば、いくつかの実施形態では、約10重量%以下、約8重量%以下、又は約5重量%以下であってよい。
【0081】
PBIゲル膜のPBIポリマーは、本技術分野において一般的に知られるいかなるPBI構造を有していてもよく、少なくとも1つの芳香族又はヘテロ芳香族テトラアミノ化合物、及び少なくとも1つの芳香族又はヘテロ芳香族ポリカルボン酸又はそのエステル、無水物、若しくは酸塩化物、又は少なくとも1つの芳香族若しくはヘテロ芳香族ジアミノカルボン酸を含むPBI形成化合物の重合によって形成することができる。本明細書で包含されるヘテロ芳香族化合物は、少なくとも1つの窒素、酸素、硫黄、又はリン原子を芳香環に含有する芳香族系を含む。
【0082】
PBIゲル膜の形成に用いられ得る芳香族及びヘテロ芳香族テトラアミノ化合物の例としては、限定されないが、2,3,5,6-テトラアミノピリジン、3,3’,4,4’-テトラアミノジフェニルスルホン、3,3’,4,4’-テトラアミノジフェニルエーテル、3,3’,4,4’-テトラアミノビフェニル、1,2,4,5-テトラアミノベンゼン、3,3’,4,4’-テトラアミノベンゾフェノン、3,3’,4,4’-テトラアミノジフェニルメタン、及び3,3’,4,4’-テトラアミノジフェニルジメチル-メタン、並びにこれらの塩、例えばモノ-、ジ-、トリ-、及びテトラヒドロクロリド塩、さらには芳香族又はヘテロ芳香族テトラアミノモノマーのいずれかの組み合わせを挙げることができる。
【0083】
1つの実施形態では、芳香族ポリカルボン酸は、ジカルボン酸を含み得る。ジカルボン酸は、単独で、又は1若しくは複数の追加のポリカルボン酸化合物、例えばトリカルボン酸及び/又はテトラカルボン酸、と組み合わせて用いられてもよい。組み込む場合、トリカルボン酸又はテトラカルボン酸の含有量は、1又は複数のジカルボン酸化合物の量に基づいて、一般的に約30mol%以下、例えば、約0.1mol%~約20mol%、又は約0.5mol%~約10mol%であってよい。ポリカルボン酸のC1~C20アルキルエステル又はC5~C12アリールエステルなどのポリカルボン酸のエステルが用いられてもよい。ポリカルボン酸の無水物又はポリカルボン酸の酸塩化物が、開示される方法に従って重合されてもよい。
【0084】
芳香族ジカルボン酸の例としては、限定されないが、ピリジン-2,5-ジカルボン酸、ピリジン-3,5-ジカルボン酸、ピリジン-2,6-ジカルボン酸、ピリジン-2,4-ジカルボン酸、4-フェニル-2,5-ピリジンジカルボン酸、3,5-ピラゾールジカルボン酸、2,6-ピリミジンジカルボン酸、2,5-ピラジンジカルボン酸、2,4,6-ピリジントリカルボン酸、ベンズイミダゾール-5,6-ジカルボン酸、5-ヒドロキシイソフタル酸、4-ヒドロキシイソフタル酸、2-ヒドロキシテレフタル酸、5-アミノイソフタル酸、5-N,N-ジメチルアミノイソフタル酸、5-N,N-ジエチルアミノイソフタル酸、2,5-ジヒドロキシテレフタル酸、2,6-ジヒドロキシイソフタル酸、4,6-ジヒドロキシイソフタル酸、2,3-ジヒドロキシフタル酸、2,4-ジヒドロキシフタル酸、3,4-ジヒドロキシフタル酸、1,8-ジヒドロキシナフタレン-3,6-ジカルボン酸、ジフェニルスルホン-4,4’-ジカルボン酸、イソフタル酸、テレフタル酸、フタル酸、3-フルオロフタル酸、5-フルオロイソフタル酸、2
-フルオロテレフタル酸、テトラフルオロフタル酸、テトラフルオロイソフタル酸、テトラフルオロテレフタル酸、3-スルホフタル酸、5-スルホイソフタル酸、2-スルホテレフタル酸、テトラスルホフタル酸、テトラスルホイソフタル酸、テトラスルホテレフタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、ジフェン酸、ジフェニルエーテル4,4’-ジカルボン酸、ベンゾフェノン-4,4’-ジカルボン酸、ビフェニル-4,4’-ジカルボン酸、4-トリフルオロメチルフタル酸、2,2-ビス(4-カルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’-スチルベンジカルボン酸、及び4-カルボキシケイ皮酸、又はこれらのいずれかの組み合わせを挙げることができる。
【0085】
芳香族トリカルボン酸、並びにそのエステル、酸無水物、及び酸塩化物の例としては、限定されないが、1,3,5-ベンゼントリカルボン酸(トリメシン酸);1,2,4-ベンゼントリカルボン酸(トリメリット酸);(2-カルボキシフェニル)イミノジ酢酸、3,5,3’-ビフェニルトリカルボン酸;及び3,5,4’-ビフェニルトリカルボン酸;又はこれらのいずれかの組み合わせを挙げることができる。
【0086】
芳香族テトラカルボン酸、並びにそのエステル、酸無水物、及び酸塩化物の例としては、限定されないが、3,5,3’,5’-ビフェニルテトラカルボン酸;ベンゼン-1,2,4,5-テトラカルボン酸;ベンゾフェノンテトラカルボン酸;3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸;2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸;1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸;及び1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸;又はこれらのいずれかの組み合わせを挙げることができる。
【0087】
ヘテロ芳香族カルボン酸としては、ヘテロ芳香族ジカルボン酸、ヘテロ芳香族トリカルボン酸、及びヘテロ芳香族テトラカルボン酸を挙げることができ、ヘテロ芳香族カルボン酸のC1~C20アルキルエステル、C5~C12アリールエステルなどの対応するエステル、又は酸無水物、又は酸塩化物を含む。ヘテロ芳香族カルボン酸の例としては、限定されないが、ピリジン-2,5-ジカルボン酸、ピリジン-3,5-ジカルボン酸、ピリジン-2,6-ジカルボン酸、ピリジン-2,4-ジカルボン酸、4-フェニル-2,5-ピリジンジカルボン酸、3,5-ピラゾールジカルボン酸、2,6-ピリミジンジカルボン酸、2,5-ピラジンジカルボン酸、2,4,6-ピリジントリカルボン酸、ベンズイミダゾール-5,6-ジカルボン酸、及びさらにはそれらのC1~C20アルキルエステル若しくはそれらのC5~C12アリールエステル、又はそれらの酸無水物、又はそれらの酸塩化物、又はこれらのいずれかの組み合わせが挙げられる。
【0088】
1つの実施形態では、重合組成物は、ジアミノカルボン酸を含んでよく、その例としては、限定されないが、ジアミノ安息香酸並びに前記酸のモノ及びジヒドロクロリド誘導体、並びに1,2-ジアミノ-3’-カルボン酸4,4’-ジフェニルエーテル、又はこれらのいずれかの組み合わせが挙げられる。
【0089】
重合組成物に用いられ得るPPAは、例えばRiedel-de Haenから入手可能な市販のPPAであってよい。PPAは、100%を超えるPA(HPO)の濃縮グレードを含み得る。高い濃度では、個々のHPO単位は、脱水によって重合され、PPAは、式Hn+23n+1(n>1)によって表すことができる。
【0090】
PPA[Hn+23n+1(n>1)]は、酸滴定で算出した場合、いくつかの実施形態では、約70重量%以上、例えば約75重量%以上、又は約82重量%以上、例えば約70重量%~約86重量%のP含有量を有し得る。重合組成物は、一般的には、重合する化合物及び重合溶液のいずれかの追加成分の性質に応じて、PPA中で、モノマー/化合物の溶液、又はモノマー/化合物の分散液/懸濁液の形態であってよい。
【0091】
重合は、化合物の適切な重合が起こるまで、ある温度及びある時間にわたって行われてよく、重合の発生は一般的には、重合組成物の粘度の上昇によって判断することができる。粘度の上昇は、目視での確認により、固有粘度の特定を通して、又は他の適切ないずれかの手段によって特定することができる。例えば、重合組成物が約0.8dL/g以上、いくつかの実施形態では例えば約1.0dL/g以上、又は約1.5dL/g以上の固有粘度を示すまで、重合を続けてよい。重合温度は、一般的には、約220℃以下、例えば約200℃以下、いくつかの実施形態では約100℃~195℃であってよい。重合は、数分間(例えば、約5分間)から数時間(例えば、約100時間)までの時間にわたって行われてよい。1つの実施形態では、重合組成物は、3ステップ以上を例とする段階的な方法で加熱されてよく、各ステップは、約10分間~約5時間継続し、各ステップに対して温度を約15℃以上ずつ上昇させる。当業者であれば明らかであるように、当然、特定の重合条件は、当業者であれば明らかなように、一般的には特定のモノマーの反応性及び濃度に応じて変化させることができ、レドックスフロー電池膜の形成において特定の重合条件が必要とされるものではない。
【0092】
PBIゲル膜の例示的なPBIポリマー繰り返し単位としては、限定されないが:
【化3-1】
【化3-2】

【化3-3】

又はこれらのいずれかの組み合わせを挙げることができ、式中、いくつかの実施形態では、n及びmは、各々独立して、1以上、約10以上、又は約100以上である。
【0093】
本明細書で開示される膜のPBIポリマーは、本技術分野において一般的に公知であるいかなる誘導体化も含むいかなる繰り返し単位を含んでいてもよく、その例は、充分に当業者の知識の範囲内であり、その代表的な例は、例えば、参照により本明細書に援用されるBenicewicz,et al.による米国特許出願公開第2013/0183603号に記載されている。
【0094】
重合後、ポリマーは、PPA溶媒中に溶解した状態であってよく、このPBIポリマー溶液を処理して、所望の厚さを有するゲル膜前駆体を形成することができる。有益なことには、ポリマー溶液、さらにはポリマー溶液から形成されたゲル膜前駆体、及び最終的なゲル膜、及びレドックスフロー電池膜は、有機溶媒フリーとすることができる。
【0095】
膜前駆体は、適切ないかなる形成プロセスに従って形成されてもよく、限定されないが、キャスティング、スプレーコーティング、ナイフコーティングなどである。例えば、ゲル膜前駆体は、1つの実施形態では、約20マイクロメートル(μm)~約4000μmの厚さに形成されてよく、いくつかの実施形態では、約30μm~約3500μm、又は約50μm~約1000μmなどの厚さに形成されてよい。
【0096】
ポリマーを固化し、PBIゲル膜を形成するために、PBIポリマー溶液を、水及び/又は水分の存在下で処理して、溶液のPPAの少なくとも一部分を加水分解することができる。加水分解を行うと、PPAは、加水分解して、PA及び水を形成し、PBIポリマーはPPAに比べてPAに溶けにくいため、それによって、PBIポリマー溶液のゾル-ゲル転移及びポリマーの固化が引き起こされる。
【0097】
加水分解処理は、高い液体含有量(例えば、膜の固体及び液体の合計含有量の約60重量%以上の液体含有量)を保ちながら、ゲル膜が自立性となり破壊することなく操作できるように固化するのに充分な温度と時間で行われてよい。例えば、加水分解処理は、いくつかの実施形態では、約0℃~約150℃、例えば約10℃~約120℃、又は約20℃~約90℃の温度で、例えば周囲温度で行われてよい(例えば、約35%~100%の相対湿度接触環境で)。
【0098】
加水分解は、ゲル膜前駆体をHOと、例えば液体又は蒸気の形態で接触させることによって、及び/又は他の成分の存在下で行われてよい。例えば、ゲル膜前駆体を、水蒸気及び/又は液体の水及び/又はスチーム及び/又はPA水溶液(例:約10重量%~約90重量%、例えば約30重量%~約70重量%、又は約45重量%~約55重量%のPA濃度のPA溶液)と接触させてよい。処理は、標準圧力下で行われてよいが、これは形成プロセスの必要条件ではなく、いくつかの実施形態では、加水分解処理は変更された圧力下で行われてもよい。
【0099】
1つの実施形態では、加水分解は、HO含有量を緊密に制御することができる空調環境中で行われてよい。例えば、局所環境の水分含有量の制御が、前駆体膜と接触している流体の温度又は飽和度の制御を通して行われてよい。例えば、空気、窒素、二酸化炭素、又は適切な他のガスなどのキャリアガスが、前駆体膜と接触するための制御された量で、HO、例えばスチームを運んでよい。
【0100】
加水分解処理時間は、一般的に、例えばHO含有量、及び接触の形態、膜厚さ、接触温度などのパラメータに応じて変動し得る。一般的に、加水分解処理は、例えば加水分解処理が過熱スチームを用いる場合は、数秒間から数分間の時間にわたって行われてよく、又は別の選択肢として、例えば加水分解処理が周囲温度及び低い相対大気水分含有量で行われる場合は、数日間にわたって行われてよい。いくつかの実施形態では、加水分解処理は、約10秒間~約300時間、例えば約1分間~約200時間にわたって行われてよい。例として、PBIポリマー溶液のPPAの少なくとも部分的な加水分解が、室温(例えば、約20℃)で、約20%~100%、例えば約40%~約80%の相対大気水分(すなわち、相対湿度)含有量の周囲空気と共に行われる実施形態では、処理時間は、一般的に、約5時間~約200時間であってよい。
【0101】
PBIポリマー溶液のPPAの少なくとも一部分を加水分解すると、ポリマーは固化することができ、PBIゲル膜が形成される。PBIゲル膜は、1つの実施形態では、約15μm~約3000μm、例えば約20μm~約2000μm、又は約20μm~約1500μmの厚さを有していてよいが、いずれかの特定の膜厚さが不可欠というわけではない。いくつかの実施形態では、PBIゲル膜は、膜前駆体の厚さよりも小さい厚さを有していてよい。先に述べたように、加水分解後、PBIゲル膜は、高い液体含有量であっても、自立することができ、これは、固化されたポリマーマトリックス中に存在する分子内及び分子間のポリマー構造に起因するものと考えられる。
【0102】
形成されたままのPBIゲル膜は、1つの実施形態では、液体含有量を含む膜の総重量の約5重量%~約40重量%、例えば約8重量%~約30重量%又は約10重量%~約25重量%のPBI固形分を有し得る。形成されたままのPBIゲル膜は、自立性であり得るものであり、例えば、いくつかの実施形態では、厚さ403μm及びPBI含有量5重量%のPBIゲル膜(例えば、ポリベンズイミダゾール)について特定した場合に、約2.0MPa以上の、例えば約3.0MPa以上又は約4.5MPa以上のヤング率を有する。
【0103】
本開示の方法の1つの明らかな用途は、レドックスフロー電池膜であるが、本発明の方法は、この一面のみに限定されるものではなく、PBIフィルムだけでなく、繊維、フィブリッド、樹脂、樹脂ビーズ、ペーパー、微多孔質樹脂、サイジング剤、コーティング、及び成形樹脂の製造にも用いられ得る。さらに、本開示のPBIフィルムは、航空宇宙用構造体、接着剤、炭素繊維積層体、絶縁、シンタクチックフォーム、ファブリックにも用いられ得る。具体的な用途としては、限定されないが、航空機用防火シール、消火用保護具、ソックフード、高温用グローブ、アルミニウムで被覆した救難具、フライトスーツ、有害危険作業用カバーオール、ろ過システム、ガラス取り扱い用ベルト、エキスパンションジョイント、ガスケット、パッキン、樹脂フィラー、モーター絶縁、フィラメントワインディング成形複合体(filament wound composite)、強化繊維用レーシング(lacing)、樹脂マトリックス用のチョップド繊維強化材、酸捕捉剤用途、サイジング剤、熱シールド、トランスフォーマーラップ(transformer wrap)、代替アスベスト、複合体、電池用セパレータ、管用絶縁、マイクロエレクトロニクス加工、ワイヤコーティング、ガス分離フィルム、保護窓及びガラスコーティング、高温基材フィル(high temperature substrate fil)などが挙げられる。
【0104】
所望に応じて、PBIゲル膜は、架橋されてもよく、それによって、電池電解質溶液のレドックスイオン対の膜透過を、膜の望ましい電気化学的特性に大きく影響を与えることなく、低下させることができる。架橋の手法や、形成プロセス中の膜が架橋される時点は、特に限定されない。例えば、ゲル膜は、形成されたままのゲル膜のリンス/洗浄の後、及び支持電解質の膜への吸収の前に架橋されてよい。しかし、他の実施形態では、膜は、リンス/洗浄の前、又は支持電解質の膜への吸収の後に架橋されてもよい。
【0105】
1つの実施形態では、PBIゲル膜は、単に大気酸素の存在下での加熱によって架橋されてよい。架橋はまた、放射線の作用によって行われてもよく、例えば、近赤外(IR)線(約700~約2000nmの波長又は約0.6~約1.75eVの範囲内のエネルギーを有する放射線)を含むIR(約700nm~約1mmの波長を有する)が挙げられる。
【0106】
架橋を行うために、PBIポリマーは、それ自体と架橋するように、あるいは架橋剤、すなわち、PBIポリマーの1以上の官能基(例えば、アミン)と反応することができる多官能性化合物と一緒に架橋するように、ポリマー鎖に反応性官能基を含んでいてもよい。架橋剤は、架橋を行うための適切な任意の官能基を含んでいてもよい。適切な架橋剤は、特に限定されず、その例としては、限定されないが、エピクロロヒドリン、ジエポキシド、ジイソシアネート、α,ω-ジハロアルカン、ジアクリレート、及びビスアクリルアミドを挙げることができ、特定の例としては、限定されないが、α,α’-ジクロロ-p-キシレン、クロロメチルメチルエーテル、ビス(クロロメチル)エーテル、テレフタロイルクロリド、スクシニルクロリド、及びジメチルスクシネート、並びに架橋剤の組み合わせを挙げることができる。1つの実施形態では、利用可能な芳香族環あたり1~20当量の架橋剤が用いられてよいが、膜の架橋された実施形態は、いかなる特定の架橋密度にも限定されない。
【0107】
さらに、本開示のPBIには、支持電解質を吸収させてよい。支持電解質の選択は、一般的に、膜が用いられるレドックスフロー電池の特定の特性に依存し得るものであり、酸性支持電解質、塩基性支持電解質、さらには中性種(例えば、水)を挙げることができる。例えば、膜には、塩酸、硝酸、フルオロスルホン酸、若しくは硫酸、又はこれらの混合物などの無機酸(例えば、強無機酸)、又は酢酸、ギ酸、p-トルエンスルホン酸、若しくはトリフルオロメタンスルホン酸、又はこれらの混合物などの強有機酸、並びに異なる種類の酸の混合物、例えば無機酸と有機酸との組み合わせを吸収させてよい。膜に吸収させてよい支持電解質の他の例としては、限定されないが、塩化ナトリウム、塩化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、及びこれらの組み合わせを挙げることができる。例として、支持電解質としては、HSO、HBr、HBr/HCl混合物、HCl、NaS、NaS/NaBr混合物、HBr中のBr、HSO中のBr、HBr/HSO混合物中のBrなどを挙げることができる。1つの実施形態では、テトラアルキルアンモニウム支持カチオンを膜に吸収させてもよく、Et及びBuが2つの限定されない例である。テトラフルオロホウ酸(BF4-)、過塩素酸(ClO4-)、若しくはヘキサフルオロリン酸(PF6-)、又はこれらの組み合わせの溶液は、膜に吸収させてよい支持電解質のさらなる例である。
【0108】
膜中の支持電解質の濃度は、特に限定されず、一般的には、膜に吸収させる溶液は、いくつかの実施形態では、約25モル/リットル(M)までの濃度、例えば約0.1M~約25M、約0.5M~約10M、又は約1M~約5Mの濃度で支持電解質を含んでいてよい。
【0109】
フィルムには、適切ないかなる方法に従って支持電解質を吸収させてもよい。例えば、
フィルムへの支持電解質の吸収は、1つの実施形態では、フィルムを、数分間から数時間又は数日間の時間にわたって、所望に応じて温度を上げた環境中で、支持電解質の溶液中に浸漬することによって行われてよい。
【0110】
本開示では、有機溶媒を用いることなくPBIフィルムを製造するための新規な方法について詳細に述べる。有機溶媒の必要性を排除することにより、これまでの方法よりも安価で、所要時間が短く、化学廃棄物の発生量が少ない、PBIフィルムの新規な製造経路が提供される。この新規な無溶媒法はまた、より幅広い種類のPBI化学物質をフィルムにすることができる。
【0111】
本開示のPBIベースのフィルムの用途は、様々である。電気化学的用途におけるイオン伝導体として用いるためのフィルムの場合、ドライフィルムをさらに処理して、膜を「再膨潤」し、塩基、酸、又は他のイオン伝導体を吸収させてよく、したがって、フィルムは、レドックスフロー電池での用途だけに限定されない。再膨潤させると、フィルムは、レドックス対や他の材料に対して低い透過率を示し、依然として電気化学的用途のための高いイオン伝導率を示す。
【0112】
以下の例は、本開示をより良く説明するものである。
【0113】
例7:パラ-PBIフィルム
PPAプロセスによって製造したパラ-PBI膜を、まず洗浄剤でリンスしてリン酸を除去したが、洗浄剤は、弱塩基性水、脱イオン水、又は当業者に公知の他の適切な洗浄剤を含む様々な溶液を含んでよく、1つの実施形態では、洗浄剤は、一連の脱イオン水浴であってよく、進める前に、pH指示紙を用いて、すべての酸が除去されたことを確認した。図18を参照されたい。湿潤厚さは、356.67±5.8umとして測定され、膜を45.72cm×30.48cmの寸法に切断した。湿潤膜を2枚の多孔質ポリエチレンシート間に挟み、周辺部をクランプ固定してx-y方向の寸法を維持し、一晩乾燥させた。24時間後、ポリエチレンシートを取り外して、乾燥した緻密PBIフィルムを得た。このフィルムは、30μmの均一な厚さを有していた。このフィルムは、熱重量分析(TGA)により窒素雰囲気中500℃で測定して、85重量%超の残存率を示した。
【0114】
緻密フィルムの力学的特性を、Instron 5843引張試験機を用いて測定した。5つのサンプルを、ASTM D638(タイプV)規格に従って切り出し、弾性率(1%歪みでの傾きとして測定)、破断応力、及び破断歪みを測定した。図18は、本開示に従って製造したパラ-PBI膜の引張試験結果を示す。
【0115】
例8:Di-OH-PBIフィルム
401.30gのポリリン酸を、6.6161g(30.88mmol)の3,3’,4,4’-テトラアミノビフェニル及び6.1177g(30.88mmol)の2,5-ジヒドロキシテレフタル酸を投入した反応釜に添加した。窒素雰囲気下で撹拌しながら、重合を1時間にわたる40℃で開始し、2時間で140℃まで昇温し、140℃で4時間浸漬し、3時間で195℃まで昇温し、195℃で14時間浸漬した。次に、溶液を、ドクターブレードによってポリエステルフィルム上に塗布し、続いて室温及び相対湿度55%で加水分解した。
【0116】
次に、Di-OH-PBI膜を、一連の脱イオン水浴でリンスしてリン酸を除去し、進める前に、pH指示紙を用いて、すべての酸が除去されたことを確認した。湿潤厚さは、348.33±43.4umと測定された。湿潤膜を2枚の多孔質ポリエチレンシート間に挟み、周辺部をクランプ固定してx-y方向の寸法を維持し、一晩乾燥させた。24時間後、ポリエチレンシートを取り外して、乾燥した緻密PBIフィルムを得た。このフィ
ルムは、24.67±3.8umの厚さを有していた。
【0117】
緻密フィルムの力学的特性を、Instron 5843引張試験機を用いて測定した。4つのサンプルを、ASTM D638(タイプV)規格に従って切り出し、弾性率(1%歪みでの傾きとして測定)、破断応力、及び破断歪みを測定した。図19を参照されたい。
【0118】
例9:s-PBIフィルム
384gのポリリン酸を、7.1063g(33.17mmol)の3,3’,4,4’-テトラアミノビフェニル及び8.8937g(33.16mmol)の2-スルホテレフタル酸一ナトリウム塩を投入した反応釜に添加した。窒素雰囲気下で撹拌しながら、重合を190℃で48時間進行させた。次に、溶液を、ドクターブレードによってポリエステルフィルム上に塗布し、続いて室温及び相対湿度55%で加水分解した。
【0119】
次に、s-PBI膜を、一連の脱イオン水浴でリンスしてリン酸を除去し、進める前に、pH指示紙を用いて、すべての酸が除去されたことを確認した。湿潤厚さは、276.33±22.59umと測定された。湿潤膜を2枚の多孔質ポリエチレンシート間に挟み、周辺部をクランプ固定してx-y方向の寸法を維持し、一晩乾燥させた。24時間後、ポリエチレンシートを取り外して、乾燥した緻密PBIフィルムを得た。このフィルムは、33.0±3.0umの厚さを有していた。
【0120】
緻密フィルムの力学的特性を、Instron 5843引張試験機を用いて測定した。5つのサンプルを、ASTM D638(タイプV)規格に従って切り出し、弾性率(1%歪みでの傾きとして測定)、破断応力、及び破断歪みを測定した。図20を参照されたい。
【0121】
例10:メタ/パラ-PBIコポリマーフィルム
1027gのポリリン酸を、64.2810g(300.00mmol)の3,3’,4,4’-テトラアミノビフェニル、43.6118g(262.52mmol)のイソフタル酸、及び6.2303g(37.50mmol)のテレフタル酸を投入した反応釜に添加した。窒素雰囲気下で撹拌しながら、混合物を190℃で20時間重合した。次に、溶液を、ドクターブレードによってポリエチレンフィルム上に塗布し、続いて室温及び相対湿度55%で加水分解した。
【0122】
次に、メタ/パラ-PBIコポリマー膜を、一連の脱イオン水浴でリンスしてリン酸を除去し、進める前に、pH指示紙を用いて、すべての酸が除去されたことを確認した。湿潤厚さは、197±15.70umと測定された。湿潤膜を2枚の多孔質ポリエチレンシート間に挟み、周辺部をクランプ固定してx-y方向の寸法を維持し、一晩乾燥させた。24時間後、ポリエチレンシートを取り外して、乾燥した緻密PBIフィルムを得た。このフィルムは、62.67±7.97umの厚さを有していた。
【0123】
緻密フィルムの力学的特性を、Instron 5843引張試験機を用いて測定した。5つのサンプルを、ASTM D638(タイプV)規格に従って切り出し、弾性率(1%歪みでの傾きとして測定)、破断応力、及び破断歪みを測定した。図21を参照されたい。
【0124】
例11:1枚の支持基材で乾燥させたパラ-PBIフィルム
この例では、PPAプロセスによって製造したパラ-PBI膜を、まず一連の脱イオン水浴でリンスしてリン酸を除去し、進める前に、pH指示紙を用いて、すべての酸が除去されたことを確認した。湿潤厚さは、350□mと測定された。湿潤膜を、単一の支持基
材である、1枚の多孔質ポリエチレンシート上にクランプ固定してx-y方向の寸法を維持し、乾燥させた。8時間後、乾燥した緻密PBIフィルムが残り、これを多孔質ポリエチレンシートから取り外した。フィルムは、42□mの厚さであり、高品質であることが観察され、上記の例1で製造したフィルムと一致していると思われた。
【0125】
比較例5:有機溶媒からキャストした市販のメタ-PBIフィルム
(N,N-ジメチルアセトアミドから)溶液キャストした市販のm-PBIを入手し、入手したまま用いた。緻密フィルムの力学的特性を、Instron 5843引張試験機を用いて測定した。8個のサンプルを、ASTM D638(タイプV)規格に従って切り出し、1%歪みでの弾性率、降伏応力、降伏歪み、破断応力、及び破断歪みを測定した。図22を参照されたい。
【0126】
加えて、本開示に従って製造したPBI膜を、リン酸で再ドープしてもよい。これらの再ドープした膜は、より良好な耐クリープ性を呈し得るものであり、少なくとも燃料電池用途に直接適用可能であり得る。
【0127】
例12:85重量%のリン酸でドープした乾燥パラ-PBIフィルム
PPAプロセスによって製造したパラ-PBI膜を、まず一連の脱イオン水浴でリンスしてリン酸(PA)を除去し、進める前に、pH指示紙を用いて、すべての酸が除去されたことを確認した。湿潤厚さは、356.67±5.8μmとして測定され、膜を45.72cm×30.48cmの寸法に切断した。湿潤膜を2枚の多孔質ポリエチレンシート間に挟み、周辺部をクランプ固定してx-y方向の寸法を維持し、一晩乾燥させた。24時間後、ポリエチレンシートを取り外して、乾燥した緻密PBIフィルムを得た。このフィルムは、30μmの均一な厚さを有していた。乾燥フィルムを85重量%のリン酸に24時間入れ、その後特性評価及び燃料電池試験を行った。PAドープ後の膜厚さは、150μmであった。
【0128】
厚さ方向のイオン伝導率を、4端子ACインピーダンス分光法により、Zahner IM6e分光計を用い、5mVの振幅で1Hz~100kHzの周波数範囲にわたって測定した。オーム抵抗とコンデンサを並列とした二成分モデルを用いて、実験データのフィッティングを行った。異なる温度での膜の導電率を、モデルシミュレーションから得た膜抵抗から、以下の式を用いて算出した:
【数8】

式中、dは、2つの内側端子間の距離であり、lは、膜の厚さであり、wは、膜の幅であり、RΩは、モデルフィッティングによって特定されたオーム抵抗である。膜サンプルを、180℃までの2つの加熱勾配に掛けた。第二の加熱勾配での180℃で測定した導電率は、216mS/cmであった。
【0129】
圧縮クリープ性及びクリープ回復の試験を、TA Instrument RSAIII動的機械分析装置を用いて行った。直径約7mm及び厚さおよそ1.2~1.7mmの膜サンプルを切り出した。クリープ試験の前に、すべてのサンプルを、180℃で24時間にわたってプレコンディショニングした。典型的な実験では、0.1MPaの応力レベルに相当する一定の圧縮力をサンプルに掛け、20時間保持し、その後3時間にわたってこの力を除去した。すべての実験を180℃で行い、歪み及び応力を時間の関数として記録した。クリープコンプライアンスを、時間依存の歪みを印加した応力で割ることによっ
て算出した。この実験では、クリープ試験を、各膜に対して3回繰り返した。1つの実施形態では、本開示のフィルムは、少なくとも25MPaの破断応力を有し得る。図24は、本方法で製造した膜が、標準的なPPAプロセス膜よりも非常に良好な(低い)耐クリープ性を呈したことを示す。
【0130】
リン酸ドープパラ-PBI膜から成る膜電極接合体(MEA)を、10cmの単一セルハードウェアに組み立て、市販の燃料電池試験ステーション(Fuel cell Technology,Inc.)を用いて試験した。この装置を、自らプログラミングしたLabView software(National Instruments in Austin,TX)によって制御した。試験の前に、セルを、Hをアノードに供給し、空気をカソードに供給しながら160℃及び0.2A/cmの電流密度で運転することによって、少なくとも24時間の試運転を行った。分極曲線を、H/空気=1.2/2.0の化学量論流量及びH/O=1.2/2.0の化学量論流量により、160、180、及び200℃で記録した。図25は、H/空気での分極曲線を示し、図26は、H/Oでの分極曲線を示す。
【0131】
これらの例は、乾燥プロセス時にPBIゲル膜を多孔質シートなどの基材と接触させて配置することを開示している。基材は、多孔質又は非多孔質基材などの様々な材料を含んでよい。加えて、本開示は、様々なPBIゲルを2枚の多孔質シート間に挟んでよいが、多孔質シートと非多孔質シートとの間に挟んでもよく、又はPBIゲル膜の反対側にはシートを置かずに1枚の多孔質若しくは非多孔質シートと接触させるだけでもよいことも開示する。膜は、支持シートを使用して又は使用せずに、連続プロセスで乾燥してもよい。図23に示されるように、乾燥ガスの流れを、支持された膜又は自立した膜の片側又は両側に用いて、乾燥プロセスを促進してもよい。
【0132】
処理に関して、本開示のPBI膜は、X、Y、及びZ面方向に対して拘束されてよい、及び/又は張力を掛けられてよい。本明細書において、「拘束される」は、膜をその元の形状から延伸するための延伸力又は張力をPBI膜に掛けることなく、PBI膜を単に適切に固定することを意味するために用いられ得る。一方「張力を掛ける」は、BPI膜に延伸力又は張力を適用して、X及び/若しくはY面方向に対して膜面全体にわたって張った状態(taught)とすること、又はX及び/若しくはY面方向の長さを伸ばすこと、を意味するために用いられ得る。好ましい実施形態では、PBI膜は、X、Y、及びZ面方向に対して拘束される及び/又は張力を掛けられるが、Z面方向に対しては、拘束されず、張力も掛けられていない状態とされる。さらに、膜の乾燥は、単にPBI膜を空気乾燥させることであってもよい。しかし、さらなる実施形態では、拘束された又は張力を掛けられたフィルム上に乾燥ガス、空気、又は窒素などのガスを供給して、乾燥プロセスを促進してもよい。なおさらに、PBIフィルムは、幅方向に拘束され、乾燥ガス、空気、窒素が、張力を掛けられたフィルムのいずれかの片面又は両面上を通されてもよい。
【0133】
本開示はまた、本開示に従って形成されたPBIフィルムにおけるフィルム処理の適用に対して直接影響を与える。1つの実施形態では、本開示は、当業者に公知である連続成膜プロセスと組み合わされてよい。例えば、図23に示されるように、連続形成プロセス100を用いて、連続プロセスを介してPBI膜102を形成することができ、この場合、同時に又は別々に、フィルムをX、Y、及び/若しくはZ面方向に拘束することができる又はPBI膜102をX、Y、及び/若しくはZ面方向に引っ張ることによって張力を掛けることができるフィルムテンショナー表面104上に、予備形成PBI膜102が直接堆積されてよい。又は、その代わりに、PBI膜102は、溶液105として、クエンチドラム、エアローラー、多孔質面などの当業者に公知の基材表面106に塗布されて、PBI膜102が形成されてもよい。ゾルゲルプロセスを完了する補助となるリン酸と水との混合物を含有する浴中に、及び追加として、リン酸を除去してそれを水に置き換える
水浴中に、キャスト溶液と基材とを浸漬させる追加工程が加えられてもよい。したがって、本開示の方法は、すべてコントローラ108の命令の下、予め形成された又は新たに形成されたばかりのPBI膜102のいずれも、連続アセンブリプロセスに適応させることができる。矢印Aで表される乾燥ガスが、PBI膜の上面110に及び/又は下面112に、プロセス100全体を通して適用されてよい。さらに、蛇行ローラー(serpentine rolls)114が、PBI膜102が連続形成プロセス100に沿って通過する際に、張力を掛ける補助とするために、さらにはさらなる乾燥を可能とするために用いられてもよい。PBI膜102が張力を掛けられ、乾燥された後、膜は、さらに、PBI膜102を処理するために、当業者に公知の切断、巻き取りなどによって処理されてもよい116。
【0134】
本開示は、PBI産業に対して多くの有益性を提供する。第一には、形成プロセスにおいて有機溶媒が使用されないことである。第二には、本開示が、まさに有機溶媒に溶解することができなかったということのためにこれまで注目度の低かったPBIポリマーを対象とする道を開くということである。本方法によって、より広範な様々な化学物質を用いることが可能となる。
【0135】
さらに、本開示の方法を用いて、5~150ミクロン、より好ましくは5~100ミクロン、さらにより好ましくは10~50ミクロンの厚さのフィルムを形成することができる。
【0136】
本発明の主題について、具体的な実施形態及びその方法に関して詳細に記載してきたが、当業者であれば、上記内容を理解すれば、そのような実施形態に対する変更、変形、及び均等物を容易に得ることができることは理解される。したがって、本開示の範囲は、例であって、限定ではなく、本開示は、当業者であれば本明細書で開示される教示内容を用いることで容易に明らかであるような本発明の主題に対する改変、変形、及び/又は追加を含めることを排除するものではない。
図1
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