(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024164042
(43)【公開日】2024-11-26
(54)【発明の名称】タンパク質と細胞のグリカン分析
(51)【国際特許分類】
G01N 27/62 20210101AFI20241119BHJP
C07K 16/18 20060101ALI20241119BHJP
G01N 33/66 20060101ALI20241119BHJP
【FI】
G01N27/62 V
C07K16/18
G01N33/66 Z
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024127869
(22)【出願日】2024-08-02
(62)【分割の表示】P 2021516863の分割
【原出願日】2019-06-03
(31)【優先権主張番号】62/679,202
(32)【優先日】2018-06-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】519342839
【氏名又は名称】エムユーエスシー ファウンデーション フォー リサーチ ディベロップメント
(71)【出願人】
【識別番号】520472527
【氏名又は名称】バン アンデル リサーチ インスティテュート
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100170852
【弁理士】
【氏名又は名称】白樫 依子
(72)【発明者】
【氏名】アナンド メータ
(72)【発明者】
【氏名】リチャード アール.ドレイク
(72)【発明者】
【氏名】ブライアン ハアブ
(72)【発明者】
【氏名】ペッギ エム.エンジェル
(57)【要約】
【課題】本発明は、生体試料中のタンパク質及び細胞を含む複合溶液中のグリカン分析のための方法及び組成物を提供する。
【解決手段】前記方法は、多重分析用にタンパク質及び細胞を捕捉するための基板の調製を含む。細胞及びタンパク質は、抗体アレイ、培養、又は直接沈着によって捕捉され得る。本発明はさらに、病状及び疾患進行の診断及びスクリーニングにおけるタンパク質及び細胞グリカン分析の使用に関する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの試料のグリカン分析ための方法であって、
複数の抗体がスポットされた表面を有する基板を提供する工程、
ブロッキング溶液中で前記基板をインキュベートする工程、
少なくとも1つの試料で前記基板をインキュベートする工程、
前記基板に酵素放出溶液を噴霧する工程、及び
質量分析によって前記基板をスキャンして、グリカンの存在を検出及び識別する工程、
を含む、方法。
【請求項2】
前記少なくとも1つの試料が、少なくとも1つのタンパク質溶液を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも1つの試料が、少なくとも1つの細胞集団を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも1つの細胞集団が、前記基板に酵素放出溶液を噴霧する工程の前に、固定剤及びリンス剤中でインキュベートされる、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記固定及びリンス剤が、ホルマリン、カルノア液、パラホルムアルデヒド、エタノール系固定剤、及びポリエチレングリコール系固定剤からなる群から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記基板がガラス又はプラスチックの顕微鏡スライド又はマルチウェルプレートである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記ブロッキング溶液が血清である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記血清が、PBS及び洗浄剤中の1%BSAである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記ブロッキング溶液が、3×PBS浴及び1×水浴を含む洗浄工程で除去される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記少なくとも1つの試料が、湿度チャンバー内で室温で2時間インキュベートされる、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記酵素放出溶液がPNGaseFを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記質量分析は、マトリックス支援レーザー脱離イオン化イメージングフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(MALDI-FTICR)質量分析、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型(MALDI-TOF)質量分析、走査型マイクロプローブMALDI(SMALDI)質量分析、赤外線マトリックス支援レーザー脱離エレクトロスプレーイオン化(MALD-ESI)質量分析、表面支援レーザー脱離イオン化(SALDI)質量分析、脱離エレクトロスプレーイオン化(DESI)質量分析、二次イオン質量分析(SIMS)、及びイージーアンビエントソニックスプレーイオン化(EASI)質量分析からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記スキャンする工程は、前記基板にMALDIマトリックス材料を噴霧する工程が先行する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記MALDIマトリックス溶液が、2,5-ジヒドロキシ安息香酸、α-シアノ-4-ヒドロキシ桂皮酸、シナピン酸、1,5-ジアミノナフタレン、及び9-アミノアクリジンからなる群から選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記複数の抗体が、A1AT、フェチュイン-A、ヘモペキシン、Apo-J、LMWキニノーゲン、HMWキニノーゲン、apo-H、トランスフェリン、IgG、IgM、IgA、フィブロネクチン、ラミニン、セルロプラスミン、フィブリン、アンギオテンシノーゲン、フィブリリン-1、TIMP1、トロンボスポンジン1、ガレクチン-3結合タンパク質、補体C1R、クラステリン、ガレクチン1、α-2-マクログロブリン、ビタミンD結合タンパク質、ヒスチジンリッチ糖タンパク質、ヒスチジンリッチ糖タンパク質、CD109、CEA、カテプシン、AFP、GP731、及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるタンパク質に特異的に結合する、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記抗体が肝細胞癌の存在を検出するのに有用である、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
少なくとも1つの細胞集団のグリカン分析ための方法であって、
少なくとも1つの細胞集団を基板の表面に付着させる工程、
前記少なくとも1つの細胞集団を固定及びリンスする工程、
前記基板に酵素放出溶液を噴霧する工程、及び
質量分析によって前記基板をスキャンして、グリカンの存在を検出及び識別する工程、
を含む、方法。
【請求項18】
前記少なくとも1つの細胞集団が、培養、沈着、塗布、塗抹、又は遠心分離によって接着される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記固定剤及びリンス剤が、ホルマリン、カルノア液、パラホルムアルデヒド、エタノール系固定剤、及びポリエチレングリコール系固定剤からなる群から選択される、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記基板がガラス又はプラスチックの顕微鏡スライド又はマルチウェルプレートである、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
前記基板表面が、インジウムスズオキシドコーティング、ゼラチンコーティング、コラーゲンコーティング、ポリ-L-リジンコーティング、ポリ-オルニチンコーティング、細胞外マトリックスコーティング、タンパク質コーティング、及び表面イオン化の1又は複数を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項22】
前記酵素放出溶液がPNGaseFを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項23】
前記質量分析は、マトリックス支援レーザー脱離イオン化イメージングフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(MALDI-FTICR)質量分析、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型(MALDI-TOF)質量分析、走査型マイクロプローブMALDI(SMALDI)質量分析、赤外線マトリックス支援レーザー脱離エレクトロスプレーイオン化(MALD-ESI)質量分析、表面支援レーザー脱離イオン化(SALDI)質量分析、脱離エレクトロスプレーイオン化(DESI)質量分析、二次イオン質量分析(SIMS)、及びイージーアンビエントソニックスプレーイオン化(EASI)質量分析からなる群から選択される、請求項17に記載の方法。
【請求項24】
前記スキャンする工程は、前記基板にMALDIマトリックス材料を噴霧する工程が先行する、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記MALDIマトリックス溶液が、2,5-ジヒドロキシ安息香酸、α-シアノ-4-ヒドロキシ桂皮酸、シナピン酸、1,5-ジアミノナフタレン、及び9-アミノアクリジンからなる群から選択される、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
タンパク質試料のグリカン分析用キットであって、
少なくとも1つの基板であって、各基板が複数の抗体がスポットされた表面を有する、少なくとも1つの基板、
少なくとも1つのブロッキング溶液、
少なくとも1つの酵素放出溶液、及び
少なくとも1つのMALDIマトリックス材料、
を含む、キット。
【請求項27】
前記基板がガラス又はプラスチックの顕微鏡スライド又はマルチウェルプレートである、請求項24に記載のキット。
【請求項28】
前記ブロッキング溶液が血清である、請求項24に記載のキット。
【請求項29】
前記血清が、PBS及び洗浄剤中の1%BSAである、請求項24に記載のキット。
【請求項30】
前記酵素放出溶液がPNGaseFを含む、請求項24に記載のキット。
【請求項31】
前記MALDIマトリックス溶液がα-シアノ-4-ヒドロキシ桂皮酸である、請求項24に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の参照
本出願は、2018年6月1日に出願された米国特許仮出願第62/679,202号明細書の優先権を主張し、その内容は、参照によりその全体が本明細書に援用される。
【0002】
連邦政府が後援する研究又は開発に関する声明
本発明は、米国国立がん研究所(National Cancer Institute、NCI)によって提供された助成金番号R21CA225474の下で米国政府の支援を受けてなされた。米国政府は本発明において一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
細胞表面及び分泌タンパク質のN-結合型グリコシル化の変化は、多くの癌で発生することが知られている。実際に、これらのグリカンはしばしば癌細胞とその環境との間の相互作用を媒介する。現在使用されている癌のバイオマーカーのほとんどは、癌胎児性抗原(carcinoembryonic antigen、CEA)などの糖タンパク質又はCA-19-9などのグリカン自体である。ただし、タンパク質及びそのタンパク質上のグリカンの同一性が推定されるグライコプロテオミクス(glycoproteomics)には固有の難しさがあるため、ほとんどの糖タンパク質バイオマーカーアッセイは、CEAの場合のようにタンパク質自体のみ、又はCA-19-9の場合は、グリカン自体のみを対象とする。最近の研究では、特定のタンパク質上の特定のグリカンが癌のバイオマーカーとして機能する場合があり、多くの場合、タンパク質単独よりも優れたマーカーであることが示されている。しかしながら、このグリカン情報を取得することは煩雑かつ困難である。
【0004】
現在、グリカンは、個々のタンパク質、又は血清や尿などの大きなタンパク質プールで検査されるが、グリカン情報は取得されても、タンパク質情報は失われる。したがって、妥協点は、グリカン結合部位を使用して1つずつ分析されたいくつかのタンパク質についてグリカン情報を取得できること、又はタンパク質群若しくはグリカン群(共にではなく)についてデータを取得できることである。この問題に対処する試みである1つのアプローチは、抗体レクチンアレイの使用である。この場合、特定のタンパク質に対する抗体がスライドガラス上にスポットされ(spotted)、捕捉された糖タンパク質上のグリカンが糖結合タンパク質(レクチン)で調べられる。このデータは特定の構造モチーフのエビデンスを提供するが、タンパク質におけるグリカンの多様性に対する真の洞察を提供するものでも、真の構造情報を提供するものでもない。
【0005】
複合溶液中の特定の糖タンパク質の構造グリカン情報を提供する方法の必要性が依然として存在する。本発明はこの必要性を満たす。
【発明の概要】
【0006】
一態様では、本発明は、少なくとも1つの試料のグリカン分析ための方法であって、複数の抗体がスポットされた表面を有する基板を提供する工程、
ブロッキング溶液中で前記基板をインキュベートする工程、
少なくとも1つの試料で前記基板をインキュベートする工程、
前記基板に酵素放出溶液を噴霧する工程、及び
質量分析によって前記基板をスキャンして、グリカンの存在を検出及び識別する工程、を含む、前記方法を提供する。
【0007】
一実施形態では、前記少なくとも1つの試料が、少なくとも1つのタンパク質溶液を含む。一実施形態では、前記少なくとも1つの試料が、少なくとも1つの細胞集団を含む。一実施形態では、前記少なくとも1つの細胞集団が、前記基板に酵素放出溶液を噴霧する工程の前に、固定及びリンス剤(a fixing and rinsing agent)中でインキュベートされる。一実施形態では、前記固定及びリンス剤が、ホルマリン、カルノア液(Carnoy’s solution)、パラホルムアルデヒド、エタノール系固定剤、及びポリエチレングリコール系固定剤からなる群から選択される。
【0008】
一実施形態では、前記基板がガラス又はプラスチックの顕微鏡スライド又はマルチウェルプレートである。一実施形態では、前記ブロッキング溶液が血清である。一実施形態では、前記血清が、PBS及び洗浄剤中の1%BSAである。一実施形態では、前記ブロッキング溶液が、3×PBS浴及び1×水浴を含む洗浄工程で除去される。一実施形態では、前記少なくとも1つの試料が、湿度チャンバー内で室温で2時間インキュベートされる。一実施形態では、前記酵素放出溶液がPNGaseFを含む。
【0009】
一実施形態では、前記質量分析は、マトリックス支援レーザー脱離イオン化イメージングフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(MALDI-FTICR)質量分析、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型(MALDI-TOF)質量分析、走査型マイクロプローブMALDI(SMALDI)質量分析、赤外線マトリックス支援レーザー脱離エレクトロスプレーイオン化(MALD-ESI)質量分析、表面支援レーザー脱離イオン化(SALDI)質量分析、脱離エレクトロスプレーイオン化(DESI)質量分析、二次イオン質量分析(SIMS)、及びイージーアンビエントソニックスプレーイオン化(EASI)質量分析からなる群から選択される。一実施形態では、前記スキャンする工程は、前記基板にMALDIマトリックス材料を噴霧する工程が先行する。一実施形態では、前記MALDIマトリックス溶液が、2,5-ジヒドロキシ安息香酸、α-シアノ-4-ヒドロキシ桂皮酸、シナピン酸、1,5-ジアミノナフタレン、及び9-アミノアクリジンからなる群から選択される。
【0010】
一実施形態では、前記複数の抗体が、A1AT、フェチュイン-A、ヘモペキシン、Apo-J、LMWキニノーゲン、HMWキニノーゲン、apo-H、トランスフェリン、IgG、IgM、IgA、フィブロネクチン、ラミニン、セルロプラスミン、フィブリン、アンギオテンシノーゲン、フィブリリン-1、TIMP1、トロンボスポンジン1、ガレクチン-3結合タンパク質、補体C1R、クラステリン、ガレクチン1、α-2-マクログロブリン、ビタミンD結合タンパク質、ヒスチジンリッチ糖タンパク質、ヒスチジンリッチ糖タンパク質、CD109、CEA、カテプシン、AFP、GP731、及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるタンパク質に特異的に結合する。一実施形態では、前記抗体が肝細胞癌の存在を検出するのに有用である。
【0011】
別の態様では、本発明は、少なくとも1つの細胞集団のグリカン分析ための方法であって、少なくとも1つの細胞集団を基板の表面に付着させる工程、前記少なくとも1つの細胞集団を固定及びリンスする工程、前記基板に酵素放出溶液を噴霧する工程、及び
質量分析によって前記基板をスキャンして、グリカンの存在を検出及び識別する工程、を含む、前記方法を提供する。
【0012】
一実施形態では、前記少なくとも1つの細胞集団が、培養、沈着、塗布、塗抹、又は遠心分離によって接着される。一実施形態では、前記固定及びリンス剤が、ホルマリン、カルノア液(Carnoy’s solution)、パラホルムアルデヒド、エタノール系固定剤、及びポリエチレングリコール系固定剤からなる群から選択される。
【0013】
一実施形態では、前記基板がガラス又はプラスチックの顕微鏡スライド又はマルチウェルプレートである。一実施形態では、前記基板表面が、インジウムスズオキシドコーティング、ゼラチンコーティング、コラーゲンコーティング、ポリ-L-リジンコーティング、ポリ-オルニチンコーティング、細胞外マトリックスコーティング、タンパク質コーティング、及び表面イオン化の1又は複数を含む。一実施形態では、前記酵素放出溶液がPNGaseFを含む。
【0014】
一実施形態では、前記質量分析は、マトリックス支援レーザー脱離イオン化イメージングフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(MALDI-FTICR)質量分析、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型(MALDI-TOF)質量分析、走査型マイクロプローブMALDI(SMALDI)質量分析、赤外線マトリックス支援レーザー脱離エレクトロスプレーイオン化(MALD-ESI)質量分析、表面支援レーザー脱離イオン化(SALDI)質量分析、脱離エレクトロスプレーイオン化(DESI)質量分析、二次イオン質量分析(SIMS)、及びイージーアンビエントソニックスプレーイオン化(EASI)質量分析からなる群から選択される。一実施形態では、前記スキャンする工程は、前記基板にMALDIマトリックス材料を噴霧する工程が先行する。一実施形態では、前記MALDIマトリックス溶液が、2,5-ジヒドロキシ安息香酸、α-シアノ-4-ヒドロキシ桂皮酸、シナピン酸、1,5-ジアミノナフタレン、及び9-アミノアクリジンからなる群から選択される。
【0015】
本発明は、タンパク質試料のグリカン分析のためのキットであって、少なくとも1つの基板であって、各基板が複数の抗体がスポットされた表面を有する、少なくとも1つの基板、少なくとも1つのブロッキング溶液、少なくとも1つの酵素放出溶液、及び少なくとも1つのMALDIマトリックス材料、を含む、前記キットに関する。
【0016】
一実施形態では、前記基板がガラス又はプラスチックの顕微鏡スライド又はマルチウェルプレートである。一実施形態では、前記ブロッキング溶液が血清である。一実施形態では、前記血清が、PBS及び洗浄剤中の1%BSAである。一実施形態では、前記酵素放出溶液がPNGaseFを含む。一実施形態では、前記MALDIマトリックス溶液がα-シアノ-4-ヒドロキシ桂皮酸である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
本発明の実施形態の以下の詳細な説明は、添付の図面と併せて読むとよりよく理解されるであろう。しかしながら、本発明は、図面に示される実施形態の詳細な配置及び手段に限定されないことを理解されたい。
【0018】
【
図1】
図1は、本発明の例示的な方法の概要を示す図である。従来の抗体マイクロアレイと同様に、抗体はスライドガラスにコーティングされている。第1の工程では、スライド全体に組換えPNGase Fをスプレーして、抗体の固有のグリコシル化を排除し、1時間のインキュベーション後、スライドを1×PBSで洗浄する。続いて、試料(血清混合物やタンパク質など)をスライド全体に加え、再度洗浄し、組換えPNGase Fをスプレーする。マトリックスを加え、MALDI-FTICRMSを実施する。構造グリカン情報は、補足された各タンパク質について、スポット(spot)ごとに得られる。
【
図2】
図2は、本発明の例示的な方法のフローチャートを示す図である。
【
図3】
図3は、本発明の別の例示的な方法のフローチャートを示す図である。
【
図4】
図4は、グリカン-MALDIイメージングの例を示す図である。遺伝的サブタイプS3(高分化型、増殖が遅い)の原発性肝癌をMALDI質量イメージングで分析した。スライド(組織)上に空間的に配置された多数のグリカンが観察できる。
【
図5A】
図5Aは、抗体に捕捉されたタンパク質の検出を示す図である。順相HPLCによるA1ATのN結合グリカンプロファイル。主要なグリカンが示されている。
【
図5B】
図5Bは、抗体に捕捉されたタンパク質の検出を示す図である。ガラススライド上にスポットされたA1AT及びMALDI-FTICR MSによって検出されたN結合型グリカン。コアフコシル化された二分岐グリカン(m/z=1809.639)が示されている。
【
図5C】
図5Cは、抗体に捕捉されたタンパク質の検出を示す図である。抗体によるA1ATの捕捉に続いて検出されたコアフコシル化二分岐グリカン。対照として、ヒトフェチュイン-Aに対する抗体も使用した。値(0、1.0、0.1、0.01、0.001、0.0001)は、添加したタンパク質のμgでの値である。
【
図6】
図6は、捕捉されたIgGからN-グリカンを検出する実験の結果を示す図である。N-グリカンは、ピーク強度(例えば、存在量)の順に列挙されている(左)。IgGのHPLCプロファイルを比較して示す(右)。
【
図7】
図7は、多重化アレイスライドの例を示す図である。各象限は、個々のタンパク質に対する32の抗体からなる。象限は同一であってもよく、異なるように処理してもよい。
【
図8】
図8は、アレイスポットの脱グリコシル化を示す図である。抗体の脱グリコシル化の予備的エビデンス。左の画像はPNGaseF無しのアレイを示し、右の画像はPNGase F有りのアレイを示す。スライドには、MUC5AC、MUC3、エンドレペリン、及びビオチン化IgGに対する抗体がプリントされている。付着した抗体のフコースは、青枯病菌レクチン(Ralstonia solanacearum lectin、RSL)で検出した。PNGase Fで処理した後、全ての固有のレクチン結合が無効になる。ビオチン化IgGからのシグナルは、ローディング・コントロールとして機能する。
【
図9】
図9は、別の多重化アレイスライド及び本発明の方法の概略図を示す図である。
【
図10】
図10は、抗体に直接スポットされた脱シアル化変性A1ATの捕捉の結果を示す図である。
【
図11】
図11は、7μLの試料からのIgGの捕捉を示しており、ウェルごとに1つの抗体がスポットされていることを示す図である。
【
図12A】
図12Aは、単純化されたMALDI MSワークフローを介した内皮細胞(endothelial cell、EC)単一細胞層のN-グリカンプロファイリングを実証する実験の結果を示す図である。脱脂前。
【
図12B】
図12Bは、単純化されたMALDI MSワークフローを介した内皮細胞(endothelial cell、EC)単一細胞層のN-グリカンプロファイリングを実証する実験の結果を示す図である。脱脂後。
【
図12C】
図12Cは、単純化されたMALDI MSワークフローを介した内皮細胞(endothelial cell、EC)単一細胞層のN-グリカンプロファイリングを実証する実験の結果を示す図である。ECの単一細胞層から得られた複雑なN-グリカンプロファイル。
【
図12D】
図12Dは、単純化されたMALDI MSワークフローを介した内皮細胞(endothelial cell、EC)単一細胞層のN-グリカンプロファイリングを実証する実験の結果を示す図である。細胞チャンバーの画像データ。G1ピークは、既知のIgGパターンと一致する細胞培地でも(より低いレベルで)見られることに留意されたい。
【
図13A】
図13Aは、IMSによって検出された細胞培養における安定同位体標識(SILAC)を実証する実験の結果を示す図である。15N標識は、14N又は15Nグルタミン培地のいずれかで1週間培養された10,000個の大動脈内皮細胞に適用した。
【
図13B】
図13Bは、IMSによって検出された細胞培養における安定同位体標識(SILAC)を実証する実験の結果を示す図である。15Nは、3.9895Daの質量シフトである、複合N-グリカンの4つのGlcNAc残基全てに組み込まれている。
【
図13C】
図13Cは、IMSによって検出された細胞培養における安定同位体標識(SILAC)を実証する実験の結果を示す図である。標識N-グリカンG1FのIMS検出。
【
図13D】
図13Dは、IMSによって検出された細胞培養における安定同位体標識(SILAC)を実証する実験の結果を示す図である。標識N-グリカンの強力な実証する単一スペクトル。
【
図14A】
図14Aは、免疫捕捉された糖タンパク質から放出されたN-グリカンのMALDIイメージングのための新規ワークフローを示すダイアグラムを示す図である。抗体アレイは、ニトロセルロースでコーティングされたスライドに対して、1.5μLのスポットあたり200ngで抗体をスポットすることによって作成する。スライドはBSAでブロックし、試料をそれぞれの抗体による糖タンパク質の捕捉のために添加する。
【
図14B】
図14Bは、免疫捕捉された糖タンパク質から放出されたN-グリカンのMALDIイメージングのための新規ワークフローを示すダイアグラムを示す図である。スライドアレイを、局所的な方法でのN-グリカンの酵素遊離及びそれに続くマトリックス適用によって、MALDI MSI用に調製する。
【
図14C】
図14Cは、免疫捕捉された糖タンパク質から放出されたN-グリカンのMALDIイメージングのための新規ワークフローを示すダイアグラムを示す図である。MALDI FT-ICR MSを使用してスライドをイメージングし、各m/zピークの全体的なスペクトル及び個々の画像を取得し、アレイ全体の2次元での各N-グリカンの存在量を示す。
【
図15】
図15は、スポットされたタンパク質のMALDI MSIによってヒトA1AT及びIgGで観察されたN-グリカンプロファイルを示す図である。糖タンパク質をスライドにスポットし(各500ng)、各タンパク質のN-グリカンを検出するためにMALDIFT-ICRで画像化した。各N-グリカン種の百分率は、ピーク下面積を全てのN-グリカンピーク面積の合計で除することにより計算した。各タンパク質のN-グライコームの1%超(>1%)を含む全ての種に対して構造案を上に示す。2つのタンパク質間に見られるN-グリカン構造の違いは明らかである。N-グリカンの組成を、N-アセチルグルコサミンの青色四角、マンノースの緑色丸、フコースの赤色三角、及びガラクトースの黄色丸で表す。
【
図16A】
図16Aは、免疫捕捉されたA1ATのMALDI MSIによるN-グリカン検出の結果を示す図である。A1ATを、ブロッキングなし(上)及び1%BSAでブロッキング後(下)でスライドにスポット(1μL)した。図示した画像データは、A1ATで観察された最も多いN-グリカンからのものであり、ブロッキングした試料からは有意に検出可能ではない。
【
図16B】
図16Bは、免疫捕捉されたA1ATのMALDI MSIによるN-グリカン検出の結果を示す図である。A1ATを、隣接するスポットとして抗A1AT及び抗IgGの両方を含むウェルに100μLの容量で添加した。抗体の位置を強調するために、赤色及び青色の円を追加した。
【
図16C】
図16Cは、免疫捕捉されたA1ATのMALDI MSIによるN-グリカン検出の結果を示す図である。A1AT標準溶液の希釈系列を100μLの容量でその抗体に3連で加えた。イメージングデータを250μMで取得し、スライド全体の総イオン数に対して正規化した。N-グリカンシグナルは抗体スポットで見られ、糖タンパク質が添加されるにつれて色強度の増加が観察されている。
【
図16D】
図16Dは、免疫捕捉されたA1ATのMALDI MSIによるN-グリカン検出の結果を示す図である。
図16Cにおけるイメージングデータの定量化を、各試料のピーク下面積を計算して実施した。各データポイントは、3つの試料の平均+/-標準偏差を表す。
【
図16E】
図16Eは、免疫捕捉されたA1ATのMALDI MSIによるN-グリカン検出の結果を示す図である。スポットされたA1AT及び捕捉されたA1ATのN-グリカンプロファイルを比較し、強い一致が認められた。各N-グリカン種の百分率は、ピーク下面積を全てのN-グリカンピーク面積の合計で除することにより計算した。A1ATで最も多いN-グリカンの構造案を上に示す。N-グリカンの組成を、N-アセチルグルコサミンの青色四角、マンノースの緑色丸、フコースの赤色三角、及びガラクトースの黄色丸で表す。
【
図17A】
図17Aは、標準溶液及びストックヒト血清からのA1AT及びIgGの並行捕捉の結果を示す図である。ニトロセルロースでコーティングした顕微鏡スライドで使用する24ウェルモジュールのテンプレート。各ウェル内で、抗A1AT及び抗IgGの両方を1.5μLスポットあたり200ngで隣接してスポットした。IgG関連N-グリカンが各ウェルの右側に局在しているのが観察され、抗IgGによるこの糖タンパク質の特異的捕捉を示している。
【
図17B】
図17Bは、標準溶液及びストックヒト血清からのA1AT及びIgGの並行捕捉の結果を示す図である。A1AT標準物質及びIgG標準物質の両方の混合物を含む溶液を、2つの抗体を含むウェルに3連で加えた。赤色及び青色の円は、それぞれ抗A1AT及び抗IgGの位置を示すために追加している。イメージングデータを250μMで取得し、スライド全体の総イオン数に対して正規化した。A1AT関連N-グリカンが各ウェルの左側に局在しているのが観察され、抗A1ATによるこの糖タンパク質の特異的捕捉を示している。
【
図17C】
図17Cは、標準溶液及びストックヒト血清からのA1AT及びIgGの並行捕捉の結果を示す図である。A1AT標準物質及びIgG標準物質の両方の混合物を含む溶液を、2つの抗体を含むウェルに3連で加えた。赤色及び青色の円は、それぞれ抗A1AT及び抗IgGの位置を示すために追加している。イメージングデータを250μMで取得し、スライド全体の総イオン数に対して正規化した。A1AT関連N-グリカンが各ウェルの左側に局在しているのが観察され、抗A1ATによるこの糖タンパク質の特異的捕捉を示している。
【
図17D】
図17Dは、標準溶液及びストックヒト血清からのA1AT及びIgGの並行捕捉の結果を示す図である。ストックヒト血清をPBSで希釈し、100μLウェルあたりわずか1μLの血清で各ウェルに3連で添加した。A1AT及びIgGの両方からのN-グリカンシグナルが、それぞれの抗体に局在して再び検出された。N-グリカンの組成を、N-アセチルグルコサミンの青色四角、マンノースの緑色丸、フコースの赤色三角、及びガラクトースの黄色丸で表す。
【
図17E】
図17Eは、標準溶液及びストックヒト血清からのA1AT及びIgGの並行捕捉の結果を示す図である。ストックヒト血清をPBSで希釈し、100μLウェルあたりわずか1μLの血清で各ウェルに3連で添加した。A1AT及びIgGの両方からのN-グリカンシグナルが、それぞれの抗体に局在して再び検出された。N-グリカンの組成を、N-アセチルグルコサミンの青色四角、マンノースの緑色丸、フコースの赤色三角、及びガラクトースの黄色丸で表す。
【
図18A】
図18Aは、患者の血清試料中の変化したN-グリコシル化を検出した結果を示す図である。上記で示すように、ストックヒト血清及び肝硬変を有する5人の患者からプールされた血清を、抗A1AT及び抗IgGの両方を含むウェルに3連で加えた。各ウェルに添加するために、1μLの血清を100μLのPBSで希釈した。イメージングデータを250μMで取得し、スライド全体の総イオン数に対して正規化した。IgG関連N-グリカンは、既に報告されたストック血清と比較して、肝硬変試料で増加することが観察された。
【
図18B】
図18Bは、患者の血清試料中の変化したN-グリコシル化を検出した結果を示す図である。ストックヒト血清及び肝硬変患者血清中のIgG N-グリカンプロファイルは、
図18Aからの非ガラクトシル化フコシル化二分岐N-グリカンの増加及びそれに続くガラクトシル化フコシル化二分岐N-グリカンの減少を示す。各N-グリカン種の百分率は、ピーク下面積を全てのN-グリカンピーク面積の合計で除することにより計算した。
【
図18C】
図18Cは、患者の血清試料中の変化したN-グリコシル化を検出した結果を示す図である。ストックヒト血清及び肝硬変患者血清中のIgG N-グリカンプロファイルは、
図18Aからの非ガラクトシル化フコシル化二分岐N-グリカンの増加及びそれに続くガラクトシル化フコシル化二分岐N-グリカンの減少を示す。各N-グリカン種の百分率は、ピーク下面積を全てのN-グリカンピーク面積の合計で除することにより計算した。
【
図18D】
図18Dは、患者の血清試料中の変化したN-グリコシル化を検出した結果を示す図である。A1AT関連N-グリカンは、この糖タンパク質がまた、ストック血清及び肝硬変患者血清の両方から特異的に捕捉されたことを説明するために示されている。
【
図19A】
図19Aは、A1AT及びIgGのHPLCプロファイルを示す図である。N-グリカンプロファイルの直交比較のために、A1AT及びIgGを溶液中でPNGase Fで消化した後、HPLC分析を実施した。
【
図19B】
図19Bは、A1AT及びIgGのHPLCプロファイルを示す図である。N-グリカンプロファイルの直交比較のために、A1AT及びIgGを溶液中でPNGase Fで消化した後、HPLC分析を実施した。
【
図19C】
図19Cは、A1AT及びIgGのHPLCプロファイルを示す図である。各N-グリカン種の百分率は、ピーク面積を全てのN-グリカンピーク面積の合計で除することにより計算した。
【
図19D】
図19Dは、A1AT及びIgGのHPLCプロファイルを示す図である。各N-グリカン種の百分率は、ピーク面積を全てのN-グリカンピーク面積の合計で 除することにより計算した。
【
図20A】
図20Aは、
図17B~
図17Eでそれぞれ観察されたN-グリカンピークの定量化を示す図である。各領域のピーク値下面積を求めた。バーは3つの試料の平均+/-標準偏差を表し、抗体バックグラウンドシグナルのシグナルを超えて各試料から有意なN-グリカンシグナルが観察されたことを強調している。
【
図20B】
図20Bは、
図17B~
図17Eでそれぞれ観察されたN-グリカンピークの定量化を示す図である。各領域のピーク値下面積を求めた。バーは3つの試料の平均+/-標準偏差を表し、抗体バックグラウンドシグナルのシグナルを超えて各試料から有意なN-グリカンシグナルが観察されたことを強調している。
【
図20C】
図20Cは、
図17B~
図17Eでそれぞれ観察されたN-グリカンピークの定量化を示す図である。各領域のピーク値下面積を求めた。バーは3つの試料の平均+/-標準偏差を表し、抗体バックグラウンドシグナルのシグナルを超えて各試料から有意なN-グリカンシグナルが観察されたことを強調している。
【
図20D】
図20Dは、
図17B~
図17Eでそれぞれ観察されたN-グリカンピークの定量化を示す図である。各領域のピーク値下面積を求めた。バーは3つの試料の平均+/-標準偏差を表し、抗体バックグラウンドシグナルのシグナルを超えて各試料から有意なN-グリカンシグナルが観察されたことを強調している。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、生体試料中のタンパク質及び細胞を含む複合溶液中のグリカン分析のための方法及び組成物を提供する。前記方法は、多重分析用にタンパク質及び細胞を捕捉するための基板の調製を含む。細胞及びタンパク質は、抗体アレイ、培養、又は直接沈着によって捕捉され得る。本発明はさらに、病状及び疾患進行の診断及びスクリーニングにおけるタンパク質及び細胞グリカン分析の使用に関する。
【0020】
定義
別段の定義がない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明が関連する当業者によって通常理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に記載されているものと類似又は同等の任意の方法及び材料を本発明の試験の実施に使用することができるが、例示的な材料及び方法が本明細書に記載されている。本発明を説明及び特許請求する際に、以下の用語が使用される。
【0021】
本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を説明することのみを目的としており、限定することを意図するものではないことも理解されたい。
【0022】
単数の冠詞「1つ(a/an)」は、本明細書では、冠詞の文法的目的語の1又は複数(すなわち、少なくとも1つ)を指すために使用される。例として、「1つの要素」は、1つの要素又は複数の要素を意味する。
【0023】
量や経時的持続時間などの測定可能な値を指すときに本明細書で使用される「約」は、特定の値から±40%又は±20%又は±10%、±5%、±1%、又は±0.1%の非限定的な変動を包含することを意味し、このような変動は適切である。
【0024】
生物、組織、細胞、又はそれらの構成要素の文脈で使用される場合の「異常」という用語は、「正常な」(予測される)それぞれの特性を示す生物、組織、細胞、又はそれらの成分から、少なくとも1つの観察可能又は検出可能な特性(例えば、年齢、処置、日数)が異なる生物、組織、細胞、又はその構成要素を指す。1つの細胞又は組織タイプでは正常又は予測される特性は、別の細胞又は組織タイプでは異常である場合がある。
【0025】
「バイオマーカー」及び「マーカー」という用語は、本明細書では互換的に使用される。それらは、生物学的プロセス、生物学的事象、及び/又は病的状態の特徴的な指標である物質を指す。
【0026】
「身体試料」又は「生体試料」という句は、本明細書ではその最も広い意味で使用される。試料は、本発明のバイオマーカーをアッセイし得る任意の生物学的組織又は流体のものであり得る。このような試料の例には、血液、唾液、口腔塗抹標本、糞便、リンパ液、尿、婦人科液、生検、羊水、及び塗抹標本が挙げられるが、これらに限定されない。本質的に液体である試料は、本明細書では「体液」と称される。身体試料は、例えば、ある領域を擦き取る又は拭き取るか、又は針を使用して体液を吸引することを含む、様々な技術によって患者から得ることができる。様々な身体試料を採取するための方法は、当技術分野で周知である。多くの場合、試料は「臨床試料」、すなわち患者に由来する試料となる。このような試料には、細胞を含む又は含まない体液、例えば、血液(例えば、全血、血清、又は血漿)、尿、唾液、組織又は細針生検試料、及び公知の診断、治療、及び/又は結果の履歴を付したアーカイブ試料が挙げられるが、これらに限定されない。生体試料又は身体試料には、組織学的目的で採取された凍結切片などの組織の切片も含まれ得る。試料には、生体試料又は身体試料ルを処理することによって得られた任意の材料も包含される。派生材料には、試料から単離された細胞(又はそれらの子孫)、試料から抽出されたタンパク質又は核酸分子が含まれるが、これらに限定されない。生体試料又は身体試料の処理は、濾過、蒸留、抽出、濃縮、干渉成分の不活性化、試薬の添加などのうちの1又は複数を含み得る。
【0027】
本明細書で使用される場合、「炭水化物」という用語は、多価アルコールのアルデヒド又はケトン誘導体のクラスのいずれかを含むことを意図している。したがって、炭水化物には、デンプン、セルロース、ガム、及び糖類が含まれる。説明のために、「糖」又は「グリカン」という用語は本明細書の他の場所で使用されているが、これは限定することを意図するものではない。本明細書で提供される方法は、任意の炭水化物を対象とし得るものであり、特定の炭水化物の使用は、その炭水化物のみに限定することを意味するものではないことが意図されている。
【0028】
本明細書で使用される場合、「細胞表面糖タンパク質」という用語は、糖タンパク質を指し、その少なくとも一部は細胞の外面に存在する。いくつかの実施形態では、細胞表面糖タンパク質は、グリカン構造の少なくとも1つが細胞の外面に存在するように細胞表面に配置されるタンパク質である。
【0029】
本発明の文脈において、「対照」という用語は、対象を特徴付けるために使用される場合、非限定的な例として、健康な対象、そうでない場合は疾患を診断されていない患者を指す。「対照試料」という用語は、健康な対象から、又は正常な結腸などの非疾患組織から得られた1又は複数の試料を指す。
【0030】
「対照又は参照標準」という用語は、本発明の1又は複数のマーカー(又はバイオマーカー)の1又は複数のマーカー(又はバイオマーカー)発現産物を含まないか、又は正常、低、若しくは高レベルで含む材料を説明し、対照又は参照標準が、試料を比較可能な比較基準として機能する。
【0031】
「差次的に増加したレベル」とは、対照と比較して少なくとも1%、2%、3%、4%、5%、10%以上(% or more)、例えば、5%、10%、20%、30%、40%、又は50%、60%、70%、80%、90%以上(% higher or more)、及び/又は0.5倍、1.1倍、1.2倍、1.4倍、1.6倍、1.8倍以上(fold higher or more)のバイオマーカーレベルを指す。
【0032】
「差次的に減少したレベル」とは、対照と比較して少なくとも1%、2%、3%、4%、5%、10%以上(% or more)、例えば、5%、10%、20%、30%、40%、又は50%、60%、70%、80%、90%以下(% lower or less)、及び/又は0.9倍、0.8倍、0.6倍、0.4倍、0.2倍、0.1倍以下(fold or less)のバイオマーカーレベルを指す。
【0033】
「疾患」とは、動物が恒常性を維持できず、疾患が改善されない場合、動物の健康が悪化し続ける動物の健康状態である。対照的に、動物の「障害」は、動物が恒常性を維持できる健康状態であるが、動物の健康状態は、障害がない場合よりも好ましくない健康状態である。治療せずに放置しても、障害が必ずしも動物の健康状態をさらに低下させるとは限らない。
【0034】
疾患又は障害の徴候又は症状の重症度、そのような徴候又は症状が患者によって経験される頻度、又はその両方が軽減される場合、疾患又は障害は「緩和」される。
【0035】
「有効量」及び「薬学的有効量」という用語は、所望の生物学的結果を提供するのに充分な量の薬剤を指す。その結果は、疾患又は障害の兆候、症状、又は原因の軽減及び/又は緩和、あるいは生物システムの他の望ましい変化であり得る。個々の場合における適切な有効量は、日常的な実験を用いて当業者によって決定され得る。
【0036】
本明細書で使用される場合、「内因性」は、生物、細胞、組織、又はシステムから、又はそれらの内部で生成される任意の材料を指す。
【0037】
本明細書で使用される「発現」という用語は、そのプロモーターによって駆動される特定のヌクレオチド配列の転写及び/又は翻訳として定義される。
【0038】
1又は複数のバイオマーカーの「レベル」は、試料中のバイオマーカーの絶対的又は相対的な量又は濃度を意味する。「レベル」という用語は、試料中のバイオマーカーのグリコシル化の絶対量又は相対量も指す。
【0039】
当技術分野で公知であり、本明細書で使用されるように、「グリカン」は糖(例えば、オリゴ糖及び多糖)である。グリカンは、本明細書では「連結」とも称されるグリコシド結合によって典型的に結合された糖残基のモノマー又はポリマーであり得る。いくつかの実施形態において、「グリカン」、「オリゴ糖」、及び「多糖」という用語は、複合糖質(例えば、糖タンパク質、糖脂質、又はプロテオグリカン)の炭水化物部分を指すために使用され得る。グリカンには、天然の糖残基(例えば、グルコース、N-アセチルグルコサミン、N-アセチルノイラミン酸、ガラクトース、マンノース、フコース、ヘキソース、アラビノース、リボース、キシロースなど)及び/又は修飾糖(例えば、2’-フルオロリボース、2’-デオキシリボース、ホスホマンノース、6’-スルホN-アセチルグルコサミンなど)が含まれ得る。「グリカン」という用語には、糖残基のホモポリマー及びヘテロポリマーが含まれる。「グリカン」という用語はまた、複合糖質のグリカン成分(例えば、糖タンパク質、糖脂質、プロテオグリカンなど)を包含する。この用語はまた、切断されたかそうでない場合は複合糖質から放出されたグリカンを含む、遊離グリカンを包含する。
【0040】
本明細書で使用される場合、「抗体アレイ」という用語は、アレイ基板に連結された複数の異なる抗体のいずれかと相互作用するタンパク質上のグリカンを同定するために使用されるツールを指す。いくつかの実施形態において、抗体アレイは、本明細書において「抗体スポット(antibody spots)」と呼ばれる、複数の固定化抗体を含む。いくつかの実施形態では、グリカンアレイは、少なくとも2、少なくとも5、少なくとも10、少なくとも20、少なくとも30、少なくとも40、少なくとも50、少なくとも60、少なくとも70、少なくとも80、少なくとも90、少なくとも100、少なくとも150、少なくとも350、少なくとも1000、又は少なくとも1500の抗体スポットを含む。いくつかの実施形態において、抗体アレイは、抗体スポットの所望のセットを提示するようにカスタマイズされ得る。
【0041】
本明細書で使用される「複合糖質」という用語は、少なくとも1つの糖部分が少なくとも1つの他の部分に共有結合している全ての分子を包含する。この用語は、例えば、N結合型糖タンパク質、O結合型糖タンパク質、糖脂質、プロテオグリカンなどを含む、共有結合した糖部分を有するすべての生体分子を具体的に包含する。
【0042】
「グリコフォーム」という用語は、本明細書では、特定の形態の複合糖質を指すために使用される。すなわち、複合糖質の一部である同じ骨格部分(例えば、ポリペプチド、脂質など)が、異なるグリカン又はグリカンのセットに連結される可能性がある場合、複合糖質のそれぞれの異なるバージョン(すなわち、前記骨格がグリカンの特定のセットに連結されている)は、「グリコフォーム」と称される。
【0043】
本明細書で使用される「グリコシダーゼ」という用語は、グリカン中の連続する糖の間、又は糖と骨格部分との間(例えば、糖と糖タンパク質のペプチド骨格との間)の共有結合を切断する物質を指す。いくつかの実施形態において、グリコシダーゼは酵素である。特定の実施形態において、グリコシダーゼは、1又は複数のポリペプチド鎖を含むタンパク質(例えば、タンパク質酵素)である。特定の実施形態において、グリコシダーゼは、化学的切断剤である。
【0044】
「糖タンパク質調製物」は、その用語が本明細書で使用される場合、個々の糖タンパク質分子のセットを指し、それぞれ、特定のアミノ酸配列(アミノ酸配列が少なくとも1つのグリコシル化部位を含む)及び少なくとも1つのグリコシル化部位に共有結合している少なくとも1つのグリカンを含む。糖タンパク質調製物内の特定の糖タンパク質の個々の分子は、通常、同一のアミノ酸配列を有するが、少なくとも1つのグリコシル化部位の占有率及び/又は少なくとも1つのグリコシル化部位に連結されたグリカンの同一性が異なる場合がある。すなわち、糖タンパク質調製物は、特定の糖タンパク質の単一のグリコフォームのみを含み得るが、より典型的には、複数のグリコフォームを含む。同じ糖タンパク質の異なる調製物は、存在するグリコフォームの同一性(例えば、ある調製物に存在するグリコフォームが別の調製物には存在しない場合がある)及び/又は異なるグリコフォームの相対量が異なる場合がある。
【0045】
本明細書で使用される「レクチン」という用語は、炭水化物に対して特異的な結合親和性を有する任意のアミノ酸及びペプチド結合ベースの化合物を包含する。典型的には、レクチンは、特定の炭水化物結合を特徴とする自然界に見られる非抗体ポリペプチドに関連している。「レクチン」という用語は、機能的断片及びその誘導体を含み、後者の用語は、抗体の文脈で使用される同じ用語と同様に定義される。
【0046】
「測定する(こと)」若しくは「測定」又は「検出する(こと)」若しくは「検出」とは、臨床試料又は対象由来の試料内の特定の物質の存在、不在、分量又は量(有効量であり得る)を評価することを意味し、そのような物質の定性的又は定量的濃度レベルの導出を含むか、そうでない場合は対象の臨床パラメーターの値又は分類を評価することを含む。
【0047】
本明細書で使用される「N-グリカン」という用語は、複合糖質から放出されたが、それ以前は窒素結合を介して複合糖質に連結されていた糖のポリマーを指す。N結合型グリカンは、N/X(プロリンを除く任意のアミノ酸)/S又はT(セリン又はスレオニン)の保存されたタンパク質構造モチーフ内のアスパラギン残基で窒素結合を介して複合糖質に結合しているグリカンである。N-結合型グリカンには様々な種類があるが、通常は共通のコア五糖(Man)3(GlcNAc)(GlcNAc)に基づく。
【0048】
物に適用される「天然に存在する」とは、その物が自然界に存在し得るという事実を指す。例えば、自然界の供給源から単離することができ、人為的に意図的に改変されていない、生物(ウイルスを含む)に存在するポリペプチド又はポリヌクレオチド配列は、天然に存在する配列である。
【0049】
「核酸」とは、デオキシリボヌクレオシド又はリボヌクレオシドで構成されているかどうか、及びホスホトリエステル、ホスホルアミデート、シロキサン、カーボネート、カルボキシメチルエステル、アセトアミデート、カルバメート、チオエーテル、架橋ホスホルアミデート、架橋メチレンホスホネート、ホスホロチオエート、メチルホスホネート、ホスホロジチオエート、架橋ホスホロチオエート又はスルホン結合、及びそのような結合の組み合わせなどのホスホジエステル結合又は修飾された結合で構成されているかどうかに関わらず、任意の核酸を意味する。核酸という用語はまた、生物学的に存在する5つの塩基(アデニン、グアニン、チミン、シトシン、及びウラシル)以外の塩基から構成される核酸も具体的に含む。「核酸」という用語は、通常、大きなポリヌクレオチドを指す。
【0050】
本明細書では、ポリヌクレオチド配列を説明するために従来の表記法を使用している。一本鎖ポリヌクレオチド配列の左端は5’末端であり、二本鎖ポリヌクレオチド配列の左側方向は、5’方向と称される。
【0051】
新生RNA転写物へのヌクレオチドの5’から3’の付加の方向は、転写方向と称される。mRNAと同じ配列を持つDNA鎖を「コード鎖」と称する。DNAの参照点の5’に位置するDNA鎖上の配列は、「上流配列」と称される。DNA上の参照点の3’にあるDNA鎖上の配列は、「下流配列」と称される。
【0052】
本明細書で使用される「O-グリカン」という用語は、複合糖質から放出されたが、それ以前は酸素結合を介して複合糖質に連結されていた糖のポリマーを指す。O-結合型グリカンは、酸素結合を介して複合糖質に結合しているグリカンである。O-結合型グリカンは通常、N-アセチル-D-ガラクトサミン(GalNAc)又はN-アセチル-D-グルコサミン(GlcNAc)を介して糖タンパク質に結合し、L-セリン(Ser)又はL-スレオニン(Thr)のヒドロキシル基に結合する。一部のO-結合型グリカンには、アセチル化や硫酸化などの修飾もある。場合によっては、O-結合型グリカンはフコース又はマンノースを介して糖タンパク質に結合し、L-セリン(Ser)又はL-スレオニン(Thr)のヒドロキシル基に結合する。
【0053】
「前癌性」又は「前新生物性(腫瘍性)」という用語及びそれらの均等物は、悪性形質転換を受けている任意の細胞増殖性障害を意味すると解釈されるべきである。そのような状態の例として、結腸直腸細胞増殖性障害との関連で、高度の異形成を伴う細胞増殖性障害及び以下のクラスの腺腫が挙げられる:レベル1:ポリープ頭部内の粘膜筋層から粘膜下組織への悪性腺の貫通、レベル2:同じ粘膜下浸潤があるが、頭部と茎部の接合部に存在する、レベル3:茎部の浸潤、及びレベル4:結腸壁への接続部での茎基部への浸潤。場合によっては、前新生物性は腫瘍を形成する正常組織を説明するために使用される。
【0054】
本明細書で使用される場合、「素因」は、細胞増殖性障害に感受性であるという特性を指す。細胞増殖性障害の素因を有する対象は、細胞性増殖性障害を有さないが、細胞性増殖性障害を有する可能性が高い対象である。
【0055】
「ポリヌクレオチド」は、核酸の一本鎖又は平行鎖及び逆平行鎖を意味する。したがって、ポリヌクレオチドは、一本鎖又は二本鎖のいずれかの核酸であり得る。本発明の文脈において、通常存在する核酸塩基についての以下の略語が使用される。「A」はアデノシン、「C」はシチジン、「G」はグアノシン、「T」はチミジン、「U」はウリジンを指す。
【0056】
「オリゴヌクレオチド」という用語は、典型的には、通常約60ヌクレオチド以下の短いポリヌクレオチドを指す。ヌクレオチド配列がDNA配列(すなわち、A、T、G、C)によって表される場合、「T」が「U」に置換されるRNA配列(すなわち、A、U、G、C)が含まれることが理解されよう。
【0057】
本明細書で使用される場合、「予後を提供する」という用語は、重症度、期間、回復の可能性などの予測を含む、結腸直腸癌の予想される経過及び結果の予測を提供することを指す。この方法はまた、例えば、状態が依然として早期にあるかどうか、又は状態が積極的な治療が効果がない段階に進んだかどうかを示すことによって、適切な治療計画を考案するために使用され得る。
【0058】
バイオマーカーの「参照レベル」は、バイオマーカーのレベル、例えば、特定の病状、表現型、又はその欠如、並びに病状、表現型、又は欠如の組み合わせを示すグリカンのタイプのレベルを意味する。バイオマーカーの「陽性」参照レベルは、特定の病状又は表現型を示すレベルを意味する。バイオマーカーの「陰性」参照レベルは、特定の病状又は表現型の欠如を示すレベルを意味する。
【0059】
本明細書で使用される場合、「糖」という用語は、1又は複数の単糖基を含むポリマーを指す。したがって、糖類には、単糖類、二糖類、三糖類、及び多糖類(又はグリカン)が含まれる。グリカンは分岐又は分岐し得る。グリカンは、脂質やタンパク質(複合糖質として)などの非糖部分に共有結合していることが理解される。これらの共有結合体には、糖タンパク質、糖ペプチド、ペプチドグリカン、プロテオグリカン、糖脂質、及びリポ多糖が含まれる。こうした記載は説明の目的で提供されているため、これらの用語のいずれかを使用することも、限定することを意図するものではない。複合糖質の一部として見出されるグリカンに加えて、グリカンはまた、遊離形態であり得る(すなわち、別の部分から分離され、結合していない)。
【0060】
本明細書で使用される「特異的に結合する」という用語は、別の分子又は特徴を認識して結合するが、試料中の他の分子又は特徴を実質的に認識しない又は結合しない抗体などの分子を意味する。
【0061】
本明細書で使用される「標準対照値」は、所定のグリカンレベルを指す。標準対照値は、試料中に存在する目的のグリカンの量を比較するために、本発明の方法の使用に適している。標準対照として機能する確立された試料は、性別、年齢、民族性、病歴など、背景が合理的に一致する平均的で健康な人に典型的な、目的のグリカンの平均量を与える。標準対照値は、目的のバイオマーカー及び試料の性質によって異なる場合がある。
【0062】
本明細書で使用される場合、「対象」という用語は、ヒト又は別の哺乳動物(例えば、霊長類、イヌ、ネコ、ヤギ、ウマ、ブタ、マウス、ラット、ウサギなど)を指す。本発明の多くの実施形態では、対象はヒトである。そのような実施形態では、対象はしばしば「個人」又は「患者」と称される。「個人」及び「患者」という用語は、特定の年齢を示すものではない。
【0063】
範囲:本開示全体を通して、本発明の様々な態様は範囲形式で提示される場合がある。範囲形式での説明は、単に便宜上及び簡潔にするためのものであり、本発明の範囲に対する柔軟性のない制限として解釈されるべきではないことを理解されたい。したがって、範囲の説明は、その範囲内の個々の数値だけでなく、全ての可能な部分的範囲を具体的に開示していると見なされるべきである。例えば、1~6などの範囲の記述は、1~3、1~4、1~5、2~4、2~6、3~6などの部分的範囲並びにその範囲内の個々の数値(例えば、1、2、2.7、3、4、5、5.3、及び6など)を具体的に開示していると見なされるべきである。これは、範囲の幅に関係なく適用される。
【0064】
説明
本発明は、複合混合物中に見られる何百及び何千の個々のタンパク質及び細胞のグリカン分析を可能にする新規の方法及び装置に部分的に基づいている。前記方法は、抗体アレイを使用した特定のタンパク質の捕捉、捕捉されたタンパク質の高活性組換えPNGase Fによる処理、及び質量分析によるスポットごとの特定の捕捉タンパク質のグリカン分析に関する。前記方法はまた、抗体アレイを使用した細胞の捕捉又は基板への細胞の沈着、細胞の固定及び処理、並びに質量分析による細胞のグリカン分析にも関する。特定の場合において、これらの方法は、様々な疾患又は障害に関連するバイオマーカーを検出するための診断プラットフォームとして有用である。したがって、本発明は、癌などの疾患の検出、診断、及び予後のためのグリカン分析用の組成物及び方法を提供する。
【0065】
様々な実施形態において、タンパク質及び細胞は、質量分析を使用してプロファイリングされる。別の実施形態では、タンパク質及び細胞は、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)を使用してプロファイリングされる。別の実施形態では、タンパク質及び細胞は、質量分析を使用して特徴付けられる。別の実施形態では、タンパク質及び細胞は、MALDIフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(MALDI-FTICR)質量分析を使用して特徴付けられる。別の実施形態では、タンパク質及び細胞は、MALDI飛行時間型(MALDI-TOF)質量分析を使用して特徴付けられる。
【0066】
抗体アレイ中のタンパク質のグリカン分析
本発明は、何百もの個々の糖タンパク質標的についての構造的グリカン情報の生成を可能にする抗体アレイを部分的に提供する。前記抗体アレイは、特定のタンパク質の捕捉、捕捉されたタンパク質の高活性組換えPNGase Fによる処理、及び質量分析によるスポットごとの特定の捕捉タンパク質のグリカン分析を可能にする効率的なワークフローを利用する。本発明はまた、抗体アレイ上に捕捉され得る多くのタンパク質から構造的グリカン情報を決定するためのプラットフォームを提供する。
【0067】
ここで
図1及び
図2を参照すると、タンパク質のグリカン分析のための例示的なワークフローの方法100の工程を列挙する概略図及びフローチャートがそれぞれ示されている。方法100は、工程102から始まり、この工程で複数の抗体がスポットされた表面を有する基板が提供される。前記基板は、ガラス又はプラスチックの顕微鏡スライド又はマルチウェルプレートなどの任意の適切な基板であり得る。工程104において、前記基板はブロッキング溶液中でインキュベートされる。前記ブロッキング溶液は、PBS及び洗浄剤中の1%BSAなどの血清溶液であり得、インキュベーションは1時間であり得る。工程106において、前記基板は、少なくとも1つの試料中でインキュベートされる。いくつかの実施形態では、前記試料はタンパク質試料である。前記タンパク質試料は、湿度チャンバー内で室温で2時間インキュベートしてもよい。工程108において、前記基板は、酵素放出溶液で噴霧される。前記基板にPNGaseFを噴霧し、一晩インキュベートしてもよい。工程110において、前記基板は、グリカンの存在を検出及び識別するために、質量分析によってスキャンされる。特定の実施形態では、前記基板は、PBS浴、PBS及び洗浄剤浴、水浴、及びそれらの組み合わせなどにより工程間で洗浄される。
【0068】
前記基板上にスポットされた抗体アレイにより、数百から数千の異なるタンパク質の捕捉とグリカン分析が可能になる。したがって、本発明の抗体アレイは、それぞれが目的の1つのタンパク質に特異的な数百から数千の異なる抗体を含むことができる。特定の実施形態において、本発明の抗体アレイは、目的の分泌されたタンパク質に特異的に結合する。
【0069】
抗体のスポッティングは、任意の適切な技術によって達成可能であり、インクジェット印刷、ファインプリントスポッティング、機能化基板へのフローパターニング、機能化ガラス基板へのコンタクト印刷、コーティングされた基板(ニトロセルロースコーティングなど)でのインキュベーション、又はエポキシコーティングされたガラス基板若しくはポリアミンガラス基板を使用した非常に細かいフィーチャ解像度の印刷用針若しくはストリップによるマイクロ印刷が挙げられるが、これらに限定されない。
【0070】
抗体アレイは、任意のグリッド又はパターンで配置され得る。特定の実施形態において、個々の抗体スポットは、行及び/又は列のアレイにおいて横方向及び縦方向に間隔を置いて配置される。一実施形態では、個々の抗体スポットは、分離して約10~100μmで規則的に間隔を空けられている。一実施形態では、抗体アレイは、約10~1000,000の個々の抗体スポットを含む。別の実施形態では、抗体アレイは、約500~500,000個の個々の抗体スポットを含む。別の実施形態では、抗体アレイは、約100~100,000の個々の抗体スポットを含む。一実施形態では、抗体アレイは、1cm2あたり約200個の抗体スポット~1cm2あたり約20,000個の抗体スポットの密度の抗体スポットを含む。様々な実施形態において、抗体スポットの配列は、ウェルスライドモジュールなどの1又は複数のグリッドの使用によって支援され得る。
【0071】
特定の実施形態では、各スポットは単一の特異的抗体を含む。別の実施形態では、各スポットは、2、3、5、10、又はそれ以上の異なる抗体を含む。これらの実施形態において、特徴の範囲内の特定の抗体への特異的結合は、捕捉剤の第2のセット上の異なる検出可能な標識を使用することによって決定され得、各標識は特定の抗体に対応する。
【0072】
様々な実施形態において、抗体アレイは、抗体、抗体断片、又はそれらの組み合わせを含み得る。そのような抗体には、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、Fab及びそれらの一本鎖Fv(scFv)断片、二重特異性抗体、ヘテロコンジュゲート、ヒト及びヒト化抗体が含まれる。そのような抗体は、ハイブリドーマ培養、細菌又は哺乳動物細胞培養での組換え発現、及びトランスジェニック動物での組換え発現を含む、様々な方法で産生され得る。製造方法の選択は、所望の抗体構造、抗体上の炭水化物部分の重要性、培養や精製の容易さ、及びコストを含むいくつかの要因に依存する。全長抗体、Fab断片及びFv断片などの抗体断片、並びに異なる種からの成分を含むキメラ抗体を含む、多くの異なる抗体構造を標準的な発現技術を使用して生成可能である。
【0073】
任意の適切な質量分析イメージング技術を使用してもよい。非限定例としては、マトリックス支援レーザー脱離イオン化イメージングフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(MALDI-FTICR)質量分析、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型(MALDI-TOF)質量分析、走査型マイクロプローブMALDI(SMALDI)質量分析、赤外線マトリックス支援レーザー脱離エレクトロスプレーイオン化(MALD-ESI)質量分析、表面支援レーザー脱離イオン化(SALDI)質量分析、脱離エレクトロスプレーイオン化(DESI)質量分析、二次イオン質量分析(SIMS)、イージーアンビエントソニックスプレーイオン化(easy ambient sonic spray ionization、EASI)質量分析などが挙げられる。様々な実施形態において、基板に、質量分析イメージングの直前にマトリックス溶液を噴霧してもよい。2,5-ジヒドロキシ安息香酸、α-シアノ-4-ヒドロキシ桂皮酸、シナピン酸、1,5-ジアミノナフタレン、9-アミノアクリジンなどを含むがこれらに限定されない任意の適切な溶液を使用してもよい。
【0074】
前記方法では抗体アレイの使用を説明しているが、当業者によって理解されるように、目的のタンパク質に親和性を有する任意の適切な捕捉分子を使用してタンパク質を捕捉できることを理解されたい。例えば、抗体は、1又は複数の抗原、アプタマー、アフィボディ、タンパク質、ペプチド、核酸、カーボンナノチューブ、及びそれらの断片で置換又は補足することができる。前記捕捉分子はまた、アレイパターンに限定されず、所望の任意の形状又は形態で提供され得る。
【0075】
細胞集団のグリカン分析
本発明はまた、少なくとも1つの細胞集団からの構造的グリカン情報の生成を可能にする方法を部分的に提供する。いくつかの実施形態では、前記少なくとも1つの細胞集団は、本明細書の他の場所に記載されている抗体アレイを介して選択的に捕捉される。いくつかの実施形態において、前記少なくとも1つの細胞集団は、基板に付着している。様々な実施形態において、前記方法は、少なくとも1つの細胞集団を固定及び脱脂し、前記少なくとも1つの細胞集団を高活性組換えPNGase Fで処理し、質量分析によってスポットごとに前記少なくとも1つの細胞集団に対してグリカン分析を実施する効率的なワークフローを利用する。
【0076】
図2を参照すると、方法100は、細胞分析に適合し得るものであり、工程102の複数の抗体は、所望の細胞集団に結合するように選択可能であり、工程106の少なくとも1つの試料は、少なくとも1つの細胞集団を含む。例えば、抗CD4抗体を使用して試料からCD4陽性T細胞を捕捉し、抗CD8抗体を使用して試料からCD8陽性T細胞を捕捉することが可能である。工程106に続き、工程108の前に、前記少なくとも1つの細胞集団が固定され、リンスされる。固定剤及びリンス剤は、ホルマリン、カルノア液、パラホルムアルデヒド、エタノール系固定剤、ポリエチレングリコール系固定剤などを含むがこれらに限定されない任意の適切な薬剤であり得る。リンスは、捕捉されていない粒子を一掃するのに役立つだけでなく、分析対象を選択的に除去して、N-グリカンの検出を促進する。例えば、前記適切な薬剤は、細胞の形態を破壊することなく、細胞を固定及び脱脂する。
【0077】
図3を参照すると、付着した細胞集団のグリカン分析のための例示的なワークフローの方法200の工程を列挙するフローチャートが示されている。方法200は、工程202から始まり、少なくとも1つの細胞集団が、基板の表面に付着される。前記少なくとも1つの細胞集団は、培養、細胞スラリーの沈着、塗布、塗抹、遠心分離(例えば、サイトスピン)などを含むがこれらに限定されない、任意の適切な方法で付着させることができる。前記基板は、ガラス又はプラスチックの顕微鏡スライド又はマルチウェルプレートなどの任意の適切な基板であり得る。様々な実施形態において、基板表面は、細胞接着を増強するために機能化又はコーティングされ得る。例えば、基板表面は、インジウムスズオキシドコーティング、ゼラチンコーティング、コラーゲンコーティング、ポリ-L-リジンコーティング、ポリ-オルニチンコーティング、細胞外マトリックスコーティング、タンパク質コーティング(カドヘリン、免疫グロブリン、セレクチン、ムチン、インテグリンなど)、表面イオン化などされ得る。工程204において、前記少なくとも1つの細胞集団が固定され、リンスされる。適切な固定剤及びリンス剤として、ホルマリン、カルノア液、パラホルムアルデヒド、エタノール系固定剤、ポリエチレングリコール系固定剤などが挙げられるがこれらに限定されない。工程206において、前記基板は、酵素放出溶液で噴霧される。前記基板にPNGaseFを噴霧し、一晩インキュベートしてもよい。工程208において、前記基板は、グリカンの存在を検出及び識別するために、質量分析によってスキャンされる。特定の実施形態では、前記基板は、PBS浴、PBS及び洗浄剤浴、水浴、及びそれらの組み合わせなどにより工程間で洗浄される。
【0078】
前記少なくとも1つの細胞集団は、血液、リンパ液、尿、婦人科用体液、組織生検、羊水、骨髄吸引液などを含むがこれらに限定されない任意の所望の供給源から得てもよい。前記細胞の集団はまた、白血病、膀胱癌、骨癌、脳及び脊髄腫瘍、脳幹神経膠腫、乳癌、肺癌、リンパ腫、子宮頸癌、結腸癌、結腸直腸癌、食道癌、消化器癌、肝細胞(肝臓)癌、腎臓(腎細胞)癌、黒色腫、口腔癌、卵巣癌、前立腺癌などを含むがこれらに限定されない疾患又は障害を有する供給源から得てもよい。
【0079】
様々な実施形態において、前記少なくとも1つの細胞集団を培養して、細胞数を拡大するか、前記少なくとも1つの細胞集団を基板表面に付着させるか、又はその両方を行うことができる。当業者によって理解されるように、直接沈着は、接着細胞株及び浮遊細胞株に使用可能である一方、基板表面での細胞の培養は、接着細胞株に適している。通常、細胞は培地と接触して増殖する。培地は一般に、必要に応じて追加の成分が補充された基本培地を含む。基礎培地は、細胞に炭素及び/又はビタミン及び/又はミネラルの必須の供給源を供給する培地である。基礎培地はタンパク質を含む場合と含まない場合がある。細胞増殖を支持する培地製剤として、イーグル最小必須培地、ADC-1、LPM(ウシ血清アルブミンフリー)、F10(HAM)、F12 (HAM)、DCCM1、DCCM2、RPMI 1640、BGJ培地(フィットン-ジャクソン改変(Fitton-Jackson Modification)有り又は無し)、イーグル基礎培地(Basal Medium Eagle)(アール平衡塩添加BME)、ダルベッコ改変イーグル培地(Dulbecco’s Modified Eagle Medium)(無血清DMEM)、山根培地、IMEM-20、グラスゴー改変イーグル培地(Glasgow Modification Eagle Medium)(GMEM)、ライボビッツ(Leibovitz)L-15培地、マッコイ5A培地、M199培地(アール平衡塩添加M199E)、M199培地(ハンクス平衡塩添加M199H)、イーグル最小必須培地(アール平衡塩添加MEM-E)、イーグル最小必須培地(ハンクス平衡塩添加MEM-H)、及びイーグル最小必須培地(非必須アミノ酸添加MEM-NAA)などが挙げられるが、これらに限定されない。さらに、追加の成分が培地に添加され得ることが認識される。そのような成分として、抗生物質、抗真菌剤、アルブミン、増殖因子、アミノ酸、及び細胞培養のために当技術分野で公知の他の成分が挙げられるが、これらに限定されない。培地に添加され得る抗生物質として、ペニシリン及びストレプトマイシンが挙げられるが、これらに限定されない。しかしながら、本発明は、本発明の細胞を培養するための任意の1つの培地に限定されると決して解釈されるべきではない。むしろ、組織培養において本発明の細胞を支持可能な任意の培地を使用してもよい。細胞は、約100細胞/mL、500細胞/mL、1,000細胞/mL、5,000細胞/mL、10,000細胞/mL、15,000細胞/mL、20,000細胞/mLなどを含むがこれらに限定されない任意の所望の密度で培養することができる。
【0080】
前記少なくとも1つの細胞集団は、任意のグリッド又はパターンで配置され得る。特定の実施形態において、個々の細胞集団は、行及び/又は列のアレイにおいて横方向及び縦方向に間隔を置いた領域に配置される。一実施形態では、個々の細胞集団は、分離して約10~100μmで規則的に間隔を空けられた領域に配置される。一実施形態では、前記細胞の領域は、約10~1000,000の個々の細胞領域を含む。別の実施形態では、前記細胞の領域は、約500~500,000個の個々の細胞領域を含む。別の実施形態では、前記細胞の領域は、約100~100,000の個々の細胞領域を含む。一実施形態では、前記細胞の領域は、領域あたり約100細胞~約100,000細胞の密度の細胞を含む。様々な実施形態において、細胞領域の配列は、ウェルスライドモジュールなどの1又は複数のグリッドの使用によって支援され得る。
【0081】
細胞の培養は、細胞又は細胞集団を拡大して、ゲノム分析又は発現分析などの所望の分析方法に充分な数の細胞を生成するのに有用である。
【0082】
任意の適切な質量分析イメージング技術を使用してもよい。非限定例としては、マトリックス支援レーザー脱離イオン化イメージングフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(MALDI-FTICR)質量分析、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型(MALDI-TOF)質量分析、走査型マイクロプローブMALDI(SMALDI)質量分析、赤外線マトリックス支援レーザー脱離エレクトロスプレーイオン化(MALD-ESI)質量分析、表面支援レーザー脱離イオン化(SALDI)質量分析、脱離エレクトロスプレーイオン化(DESI)質量分析、二次イオン質量分析(SIMS)、イージーアンビエントソニックスプレーイオン化(EASI)質量分析などが挙げられる。様々な実施形態において、基板に、質量分析イメージングの直前にマトリックス溶液を噴霧してもよい。2,5-ジヒドロキシ安息香酸、α-シアノ-4-ヒドロキシ桂皮酸、シナピン酸、1,5-ジアミノナフタレン、9-アミノアクリジンなどを含むがこれらに限定されない任意の適切な溶液を使用してもよい。
【0083】
グリカン分析
N結合型グリカンの分析には、ほとんどの場合、精製された個々のタンパク質又はタンパク質の複合混合物の分析が含まれる。グリカンは多くの生物学的プロセスで多面的な役割を果たし、異常なグリコシル化は多くの病気に関連している。グリカンは、その他の機能において、細胞増殖、細胞質分裂、分化、転写調節、シグナル伝達、リガンド-受容体結合、細胞と他の細胞との相互作用、細胞外マトリックス、細菌及びウイルス感染などの機能に関与するタンパク質の翻訳後修飾である。グリカンの誤制御及び構造変化は、ヒトに影響を与えるほとんどの病気で発生する。
【0084】
本発明によって検出可能なグリカンには、直鎖及び分岐オリゴ糖、並びに天然に存在する合成グリカンが含まれる。例えば、前記グリカンは、糖アミノ酸、糖ペプチド、糖脂質、グリコサミノグリカン(GAG)、糖タンパク質、細胞全体、細胞成分、複合糖質、糖模倣体、糖リン脂質アンカー、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)結合複合糖質、細菌性リポ多糖、及びエンドトキシンであり得る。グリカンには、N-グリカン、β-グリカン、糖脂質、及び糖タンパク質も含まれ得る。
【0085】
場合によっては、本発明によって検出可能なグリカンは、2以上の糖単位を含む。本発明のグリカンには、例えば、アロース、アルトロース、アラビノース、グルコース、ガラクトース、グロース、フコース、フルクトース、イドース、リキソース、マンノース、リボース、タロース、キシロース、又は他の糖単位含む、任意のタイプの糖単位が存在し得る。そのような糖単位は、様々な修飾及び置換基を有し得る。例えば、糖単位は、ヒドロキシ置換基、カルボキシレート置換基、及びメチレンヒドロキシ置換基の代わりに様々な置換基を有し得る。したがって、低級アルキル部分は、本発明のグリカン中の糖単位のヒドロキシ置換基、カルボン酸置換基、及びメチレンヒドロキシ置換基からの水素原子のいずれかを置換し得る。例えば、アミノアセチルは、本発明のグリカン中の糖単位のヒドロキシ置換基、カルボン酸置換基、及びメチレンヒドロキシ置換基からの水素原子のいずれかを置換し得る。
【0086】
いくつかの実施形態では、本発明の方法は、糖タンパク質の糖プロファイルを決定することを含み得る。特性は、未変化の糖タンパク質のグリカンを分析することによって決定され得る。決定され得る前記グリカンの特性には、糖構造の一部又は全部の質量、糖の化学単位の電荷、糖の化学単位の同一性、糖の化学単位のコンフォメーション、糖の総電荷、糖の硫酸塩の総数、アセテートの総数、リン酸塩の総数、カルボン酸塩の存在と数、アルデヒド又はケトンの存在と数、糖の色素結合、糖の置換基の組成比、アニオン性糖と中性糖の組成比、ウロン酸の存在、酵素感受性、糖の化学単位間の結合、電荷、分岐点、分岐の数、各分岐の化学単位の数、分岐又は非分岐糖のコア構造、各分岐の疎水性及び/又は電荷/電荷密度、分岐糖のコアにおけるGlcNAc及び/又はフコースの有無、分岐糖の拡張コアにおけるマンノースの数、糖類の分岐鎖上のシアル酸の有無、糖類の分岐鎖上のガラクトースの有無が含まれる。
【0087】
グリカンの特性は、当技術分野で公知の任意の手段によって特定され得る。例えば、分子量は、質量分析を含むいくつかの方法によって決定することが可能である。グリカンの分子量を決定するための質量分析の使用は、当技術分野で周知である。質量分析は、生成された断片の質量を正確に報告するため(例えば、酵素的切断によって)、またわずかな試料濃度しか必要としないため、グリカンなどのポリマーを特徴付ける強力なツールとして使用されてきた。
【0088】
それらを特徴づけるためにグリカンを分析するための任意の分析方法は、グリカンの任意の試料に対して実施可能であり、そのような分析方法には、本明細書に記載されるものが含まれる。本明細書で使用される場合、グリカン又は他の分子を「特徴付ける」とは、その同一性、構造、組成、又は量を決定するために使用され得るデータを取得することを意味する。この用語が複合糖質に関連して使用される場合、それはまた、グリコシル化部位、グリコシル化部位占有率、グリカン及び/又は複合糖質の非糖部分の同一性、構造、組成、又は量、並びに特定のグリコフォームの同一性と量を含み得る。これらの方法には、例えば、質量分析、核磁気共鳴(NMR)(例えば、2D-NMR)、電気泳動、及びクロマトグラフィー法が含まれる。質量分析法の例として、高速原子衝撃質量分析(FAB-MS)、液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS)、液体クロマトグラフィータンデム質量分析(LC-MS/MS)、マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析(MALDI-MS)、マトリックス支援レーザー脱離イオン化タンデム質量分析(MALDI-MS/MS)などが挙げられる。NMR法には、例えば、相関分光法(COSY)、二次元核磁気共鳴分光法(TOCSY)、核オーバーハウザー効果分光法(NOESY)が含まれる。電気泳動には、例えば、レーザー誘導蛍光を用いたキャピラリー電気泳動(CE-LIF)、キャピラリーゲル電気泳動(CGE)、キャピラリーゾーン電気泳動(CZE)、COSY、TOCSY、及びNOESYが含まれ得る。
【0089】
質量分析イメージングは、様々なペプチド、タンパク質、脂質、及び代謝物を組織切片の基礎となる組織病理学と相関させる目的で使用されてきた強力なツールである。質量分析の急速な進歩を利用して、質量分析イメージングは糖鎖生物学研究の限界を推し進めることができる。質量分析イメージングは、レクチン組織化学の補完的手法としての使用をサポートする従来の方法に比べていくつかの利点を提供する。1つの重要な利点は、タンデム質量分析と組み合わせたマトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)イメージングにより、試料中のグリカンに関する詳細な構造情報が明らかになることである。質量分析イメージングにより、幅広い分子量を検出できる。また、高い質量分解能により、分子量が近い2つのピークを区別可能であるため、検出の特異性が向上する。さらに、1つの画像で数十又は数百のグリカンをフェムトモルレベルで検出可能であるため、低濃度の分子を検出できる。したがって、MALDIイメージングは、組織グリカンのハイスループット分析を容易にする。MALDIイメージングは、定量アッセイを実施する際にも使用できる。MALDIイメージングのもう1つの重要な利点は、分析対象の事前知識がない場合でも未知の化合物を検出できることである。したがって、この手法はバイオマーカー創出研究に特に適している。
【0090】
MALDIは、従来のイオン化法でイオン化すると壊れやすく断片化する傾向があるタンパク質、ペプチド、糖などの生体分子の分析に使用するのに適したソフトイオン化質量分析技術である。
【0091】
通常、MALDIは2段階のプロセスを含む。第1の工程では、紫外線(UV)レーザービームによって脱着がトリガーされる。マトリックス材料がUVレーザー放射を吸収することにより、マトリックス材料の上層が焼灼され、高温のプルームが生成される。ホットプルームには、中性ーイオン化マトリックス分子、プロトン化ー脱プロトン化マトリックス分子、マトリックスクラスター、及びナノ液滴といった、多くの種が含まれる。第2のステップでは、分析対象分子は、高温プルーム内でイオン化され、例えば、プロトン化又は脱プロトン化される。
【0092】
前記マトリックス材料は、UVレーザー放射を吸収可能な結晶化分子を含む。通常のマトリックス材料には、α-シアノ-4-ヒドロキシ桂皮酸、2,5-ジヒドロキシ安息香酸、2,5-ジヒドロキシ安息香酸/ 2-ヒドロキシ-5-メトキシ安息香酸、2,4,6-トリヒドロキシアセトフェノン、6-アザ-2-チオチミン、3-ヒドロキシピコリン酸、3-アミノキノリン、アントラニル酸、5-クロロ-2-メルカプトベンゾチアゾール、2,5-ジヒドロキシアセトフェノン、フェルラ酸、及び2-(4-ヒドロキシフェニルアゾ)安息香酸が含まれるが、これらに限定されない。前記マトリックス材料の溶液は、高度に精製された水及びアセトニトリルやエタノールなどの有機溶媒で作成される。いくつかの実施形態では、少量のトリフルオロ酢酸(TFA)を溶液に加えてもよい。
【0093】
次に、前記マトリックス溶液を分析対象、例えばタンパク質試料と混合してもよい。次に、この溶液をMALDIプレートに堆積させると、溶媒が気化し、MALDI結晶に埋め込まれた分析対象分子を含む再結晶マトリックスのみが残る。
【0094】
この方法で検出されるグリカンの特性は、グリカン又はユニットの任意の構造特性であり得る。例えば、グリカンの特性は、グリカンの分子量又は長さであり得る。他の実施形態では、前記特性は、置換基又は単位の組成比、多糖類の基本的な構成要素のタイプ、疎水性、酵素感受性、親水性、二次構造及び立体配座(すなわち、ヘリックスの位置)、置換基の空間分布、化学単位間の結合、分岐点の数、分岐多糖のコア構造、あるセットの修飾と別のセットの修飾の比率(すなわち、それぞれの位置での硫酸化、アセチル化、又はリン酸化の相対量)、及びタンパク質の結合部位であり得る。
【0095】
他のタイプの特性を識別する方法は、当業者には容易に識別可能であり、通常、特性のタイプ及びグリカンのタイプに依存し得る。そのような方法には、キャピラリー電気泳動(CE)、NMR、質量分析(MALDIとESIの両方)、及び蛍光検出を備えた高速液体クロマトグラフィー(HPLC)が含まれる、これらに限定されない。例えば、疎水性は逆相高圧液体クロマトグラフィー(RP-HPLC)を使用して決定され得る。酵素感受性は、グリカンを酵素に曝露し、そのような曝露後に存在する断片数を決定することによって特定され得る。キラリティーは円二色性を使用して決定され得る。タンパク質結合は、質量分析、等温熱量測定、及びNMRによって決定され得る。結合は、NMR及び/又はキャピラリー電気泳動を使用して決定され得る。酵素的修飾(分解ではない)は、酵素分解と同様の方法で、すなわち、基板を酵素に曝露し、MALDI-MSを使用して基板が修飾されているかどうかを決定することによって決定され得る。例えば、スルホトランスフェラーゼは、硫酸基を、80Daの付随的増加を有するオリゴ糖鎖に転移することが可能である。立体配座は、モデリング及び核磁気共鳴(NMR)によって決定され得る。硫酸化の相対量は、組成分析によって決定するか、ラマン分光法によって概算され得る。
【0096】
一実施形態によれば、本発明は、抗体アレイによって捕捉されたタンパク質からグリカンをプロファイリングするために開発された質量分析イメージング技術を提供する。捕捉されたタンパク質に離型剤を噴霧して、グリカンを放出することが可能である。一般的な酵素放出剤には、トリプシン、エンドグリコシダーゼH(Endo H)、エンドグリコシダーゼF(EndoF)、N-グリカナーゼF(PNGase F)、PNGase A、O-グリカナーゼ、及び/又は1又は複数のプロテアーゼ(例えば、トリプシン又はLysC)が含まれるが、これらに限定されないか、若しくは化学的に放出される(例えば、無水ヒドラジン(N)又は還元性若しくは非還元性ベータ除去(O)の使用)。
【0097】
他の実施形態では、特にMALDI-MSが分析に使用される場合、グリカンを修飾して、グリカンのイオン化を改善することが可能である。このような変更には、過メチル化が含まれる。グリカンのイオン化を増加させる別の方法は、MS又は液体クロマトグラフィー検出のためにグリカンを疎水性化学物質(AA、AB標識など)に結合させることである。他の実施形態では、スポット法を使用して、シグナル強度を改善することが可能である。
【0098】
本発明によって観察されるように、重要なシグナルのほとんどを含む実用的なm/z範囲は、これらよりも制限され得る。実用的な範囲には、約m/z400、約m/z500、約m/z600、及び約m/z700の下限が含まれ、約m/z4000、約m/z3500(特に陰イオンモードの場合)、約m/z3000(特に陰イオンモードの場合)、特に、少なくとも約m/z2500(陰又は陽イオンモード)及び陽イオンモードの場合は約m/z2000(陽イオンモード分析の場合)の上限が含まれる。前記範囲は試料グリカンのサイズによって異なる。分岐又は多糖類の含有量が多い試料、又はシア(リ)ル化レベルが高い試料は、陰イオンモードで説明したように、上限が高い範囲で分析可能である。上限及び下限を組み合わせて、最大サイズ及び最小サイズの範囲、又は最小下限及び最小上限、並びに他の制限を同様にサイズが増加する順に形成可能である。
【0099】
本開示の方法は、多種多様な生体試料から得られたタンパク質試料に適用され得る。生体試料は、本開示に従って分析される前又は後に、1又は複数の分析及び/又は精製工程に供してもよい。例えば、いくつかの実施形態において、生体試料中のグリカンは、例えば、質量分析又はNMRによる分析を容易にし得る1又は複数の検出可能なマーカー又は他の薬剤で標識される。様々な分離及び/又は単離工程のいずれかを、本開示に従って生体試料に適用してもよい。
【0100】
診断方法
グリコシル化の変化は、多くの病気に関連している。通常、これらの変化は、タンパク複合混合物のグリカン分析を通じて、又はいくつかの特定の個々のタンパク質の分析を通じて観察される。様々な実施形態において、本発明はまた、その存在又はレベル(絶対的又は相対的)が特定の病状(特定の疾患に対する感受性を含む)及び/又はそのようなグリカンの濃度の経時変化と相関している可能性がある1又は複数の特定のグリカンを検出することによって、病状若しくは障害状態又は病状若しくは障害状態の進行を診断するための方法を提供する。
【0101】
検出されたグリカン及び検出されたグリコシル化の変化は、様々な早期の疾患及び/又は癌の検出、治療、及び/又は予防に向けて使用することができる。いくつかの実施形態では、そのようなグリカンの存在は、癌の存在を示し、例えば、疾患が寛解しているのか、又はより侵攻性になっているのかなど、そのような疾患の予後に関する情報を提供することができる。癌の家族歴があり、よって疾患を発症するリスクが高い患者は、疾患の傾向をモニタリングするために定期的に検査することができる。
【0102】
いくつかの実施形態では、本発明の方法は、対象の疾患又は状態を診断する方法であって、対象からの生体試料に存在するグリカンを検出する工程、前記対象のグリカンプロファイルを確立する工程、前記対象からの前記グリカンプロファイルを正常試料又は罹患試料からのグリカンプロファイルと比較する工程、及び前記対象が疾患又は状態を有するかどうかを判断する工程を含み、グリカンは、本明細書の他の場所に記載されている現在開示されている方法を使用して検出される、前記方法を提供する。
【0103】
例えば、いくつかの実施形態では、前記方法は、肝細胞癌(HCC)を示すグリコシル化パターンを有する目的のタンパク質を捕捉するための抗体アレイを提供する。それにより、抗体アレイは、限定されるものではないが、以下の1又は複数に特異的に結合する抗体を含み得る:A1AT、フェチュイン-A、ヘモペキシン、Apo-J、LMWキニノーゲン、HMWキニノーゲン、apo-H、トランスフェリン、IgG、IgM、IgA、フィブロネクチン、ラミニン、セルロプラスミン、フィブリン、アンギオテンシノーゲン、フィブリリン-1、TIMP1、トロンボスポンジン1、ガレクチン-3結合タンパク質、補体C1R、クラステリン、ガレクチン1、α-2-マクログロブリン、ビタミンD結合タンパク質、ヒスチジンリッチ糖タンパク質、ヒスチジンリッチ糖タンパク質、CD109、CEA、カテプシン、AFP、及びGP73。対象の生体試料からのタンパク質の捕捉とその後のグリカン分析により、前記対象がHCCを有するかどうか、及びHCCの現在の進行段階を判断できる。
【0104】
診断は、病気や状態を有する、又は有すると思われる人において行うことができる。診断は、病気や状態のリスクがあると思われる人でも行うことができる。「リスクを有する人」とは、前記疾患又は状態を有する遺伝的素因を持っている人、あるいは前記疾患又は状態を発症するリスクを高める可能性のある要因に曝されている人である。
【0105】
癌の早期発見は、その効率的な治療に不可欠である。診断技術の進歩にもかかわらず、悪性細胞が周囲の組織に浸潤するか、全身に転移するまで、癌の多くの症例は診断及び治療されていない。現在の診断アプローチは癌の検出に大きく貢献しているが、それでも感度と特異性に問題がある。
【0106】
本発明の1又は複数の実施形態によれば、本明細書で提供される方法を使用して行い得る癌診断のタイプは、必ずしも限定されないことが理解されよう。本明細書の目的のために、癌は任意の癌であり得る。本明細書で使用される場合、「癌」という用語は、リンパ系又は血流を介して身体の他の部分に広がる可能性がある異常で制御されていない細胞分裂によって引き起こされる任意の悪性増殖又は腫瘍を意味する。
【0107】
癌は、転移性癌又は非転移性(例えば、限局性)癌であり得る。本明細書で使用される場合、「転移性癌」という用語は、癌の細胞が転移した癌を指し、例えば、癌は、癌細胞の転移を特徴とする。本明細書に記載されるように、転移は、局所転移又は遠隔転移であり得る。
【0108】
一実施形態によれば、本発明は、対象からのグリカンプロファイルを正常試料又は罹患試料からのグリカンプロファイルと比較すること及び対象の試料が疾患又は状態を有するかどうかを決定することを含む、対象における疾患又は状態を診断するために本明細書に開示される方法を使用して調製されたグリカンプロファイルの使用を提供する。
【0109】
本発明の方法によれば、「癌」又は「腫瘍」という用語はまた、副腎癌、胆道癌、膀胱癌、脳腫瘍、乳癌、子宮頸癌、絨毛癌、結腸癌、子宮内膜癌、食道癌、肝外胆管癌、胃癌、頭頸部癌、上皮内新生物、腎臓癌、白血病、リンパ腫、肝臓癌、肺癌(例えば、小細胞及び非小細胞)、黒色腫、多発性骨髄腫、神経芽細胞腫、口腔癌、卵巣癌、膵臓癌、前立腺癌、直腸癌、肉腫、皮膚癌、小腸癌、精巣腫瘍、甲状腺癌、子宮癌、尿道癌、及び腎癌、並びにその他の癌腫及び肉腫を含むが、これらに限定されない。
【0110】
癌の種類の広範なリストには、急性リンパ芽球性白血病(成人)、急性リンパ芽球性白血病(小児)、急性骨髄性白血病(成人)、急性骨髄性白血病(小児)、副腎皮質癌、副腎皮質癌(小児)、エイズ関連癌、エイズ関連リンパ腫、肛門癌、星状細胞腫(小児小脳)、星状細胞腫(小児脳)、基底細胞癌、胆管癌(肝外)、膀胱癌、膀胱癌(小児)、骨癌(骨肉腫/悪性線維性組織球腫)、脳幹神経膠腫(小児)、脳腫瘍(成人)、脳腫瘍-脳幹神経膠腫(小児)、脳腫瘍-小脳星状細胞腫(小児)、脳腫瘍-脳星状細胞腫/悪性神経膠腫(小児)、脳腫瘍-上衣腫(小児)、脳腫瘍-髄芽腫(小児)、脳腫瘍-テント上原始神経外胚葉性腫瘍(小児)、脳腫瘍-視覚経路及び視床下部神経膠腫(小児)、乳癌(女性、男性、小児)、気管支腺腫/カルチノイド(小児)、バーキットリンパ腫、カルチノイド腫瘍(小児)、カルチノイド腫瘍(胃腸)、原発部位不明の癌腫(成人及び小児)、中枢神経系リンパ腫(原発性)、小脳星状細胞腫(小児)、脳星状細胞腫/悪性神経膠腫(小児)、子宮頸癌、慢性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、慢性骨髄増殖性疾患、結腸癌、結腸直腸癌(小児)、皮膚T細胞リンパ腫、子宮内膜癌、上衣腫(小児)、食道癌、食道癌(小児)、ユーイング肉腫ファミリー腫瘍、頭蓋外胚細胞腫瘍(小児)、性腺外胚細胞腫瘍、肝外胆管がん、眼がん(眼内黒色腫及び網膜芽細胞腫)、胆嚢がん、胃癌、胃癌(小児)、消化管カルチノイド腫瘍、消化管間質腫瘍(GIST)、胚細胞腫瘍(頭蓋外(小児)、性腺外、卵巣)、妊娠性絨毛腫瘍、神経膠腫(成人)、神経膠腫(小児:脳幹、脳星状細胞腫、視覚経路及び視床下部)、有毛細胞白血病、頭頸部癌、肝細胞(肝臓)癌(成人原発及び小児原発)、ホジキンリンパ腫(成人及び小児)、妊娠中のホジキンリンパ腫、下咽頭癌、視床下部及び視覚経路神経膠腫(小児)、眼内黒色腫、膵島細胞癌(内分泌膵臓)、カポジ肉腫、腎臓(腎細胞)癌、腎臓癌(小児)、喉頭癌、喉頭癌(小児)、白血病-急性リンパ芽球性(成人及び小児)、白血病、急性骨髄性(成人及び小児)、白血病-慢性リンパ性、白血病-慢性骨髄性、白血病-有毛細胞、口唇癌及び口腔癌、肝臓癌(成人原発及び小児原発)、肺がん-非小細胞、肺がん-小細胞、リンパ腫-AIDS関連、リンパ腫-バーキットリンパ腫、リンパ腫-皮膚T細胞、リンパ腫-ホジキンリンパ腫(成人、小児、及び妊娠中)、リンパ腫-非ホジキンリンパ腫(成人、小児、及び妊娠中)、リンパ腫-原発性中枢神経系、ワルデンストレームマクログロブリン血症、骨/骨肉腫の悪性線維性組織球腫、髄芽腫(小児期)、黒色腫、黒色腫-眼内(眼)、メルケル細胞癌、中皮腫(成人)悪性、中皮腫(小児)、潜在性原発を伴う転移性扁平上皮頸部癌、多発性内分泌腺腫症候群(小児)、多発性骨髄腫/形質細胞新生物、菌状息肉腫、骨髄異形成症候群、骨髄異形成/骨髄増殖性疾患、骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病(成人及び小児)、急性多発性骨髄腫、慢性骨髄増殖性疾患、鼻腔及び副鼻腔癌、鼻咽頭癌、鼻咽頭癌(小児)、神経芽細胞腫、非小細胞肺癌、口腔癌(小児)、口腔癌及び口唇癌、中咽頭癌、骨肉腫/骨の悪性線維性組織球腫、卵巣癌(小児)、卵巣上皮癌、卵巣胚細胞腫瘍、卵巣低悪性度腫瘍、膵臓癌、膵臓癌(小児)、膵臓癌-膵島細胞、副鼻腔及び鼻腔癌、副甲状腺癌、陰茎癌、褐色細胞腫、松果体芽細胞腫及びテント上原始神経外胚葉性腫瘍(小児)、下垂体腫瘍、形質細胞新生物/多発性骨髄腫、胸膜肺芽腫、妊娠期乳癌、原発性中枢神経系リンパ腫、前立腺癌、直腸癌、腎細胞(腎臓)癌、腎細胞(腎臓)癌(小児)、腎盂及び尿管-移行上皮癌、網膜芽細胞腫、横紋筋肉腫(小児)、唾液腺癌、唾液腺癌(小児)、ユーイング肉腫ファミリー腫瘍、カポジ肉腫、肉腫-軟部組織(成人及び小児)、肉腫-子宮、セザリー症候群、皮膚癌(非黒色腫)、皮膚癌(小児)、皮膚癌(黒色腫)、皮膚癌-メルケル細胞、小細胞肺癌、小腸癌、軟部肉腫(成人及び小児)、扁平上皮がん、潜在性原発を伴う転移性扁平上皮頸部癌、胃癌、胃癌(小児)、テント上原始神経外胚葉性腫瘍(小児)、精巣癌、胸腺腫(小児)、胸腺腫及び胸腺癌、甲状腺癌、甲状腺癌(小児)、腎盂及び尿管の移行上皮癌、絨毛性腫瘍、妊娠期尿管及び腎盂の移行上皮癌、尿道癌、子宮癌-子宮内膜、子宮肉腫、膣癌、視覚経路及び視床下部神経膠腫(小児)、外陰癌、ワルデンストレームマクログロブリン血症、及びウィルムス腫瘍が含まれまるが、これに限定されない。
【0111】
特定のグリカンに結合したグリカンキャリアタンパク質
本発明はさらに、タンパク質の特異的精製によって、例えば、免疫沈降などの親和性法又は配列決定によって、ペプチドの配列決定及び認識を含む糖ペプチド、したがってグリカンに結合した捕捉されたタンパク質の質量分析配列決定によって、一体型(細胞結合/膜貫通)癌組織又は細胞放出タンパク質からなど、本発明の抗体アレイによって捕捉されたタンパク質のいずれかに付着したグリカンを同定し、グリカン構造に特定の担体タンパク質を割り当てる方法に関する。
【0112】
いくつかの実施形態において、癌の決定されたグリコシル化マーカーは、1又は複数の糖タンパク質バイオマーカー、すなわち、特定のタイプの癌に特異的な糖タンパク質を同定及び単離するために使用され得る。疾患の糖タンパク質バイオマーカーは、癌のグリコシル化マーカーを有する。癌の糖タンパク質バイオマーカーの単離は、レクチン又はモノクローナル抗体を使用して実施可能である。
【0113】
タンパク質のグリコシル化は、正常又は病状を示し得る。したがって、捕捉されたタンパク質又は捕捉されたタンパク質のセット(全グライコームなど)のグリコシル化の分析に基づく診断目的のための方法が提供される。本明細書で提供される方法は、特定のタンパク質のグリコシル化又はグリコシル化のパターンの変化を引き起こすか、その結果となる任意の疾患又は状態の診断に使用することができる。そして、これらのパターンを「正常」及び/又は「疾患」パターンと比較して、対象の診断及び治療を開発することができる。例えば、提供される方法は、癌、炎症性疾患、良性前立腺肥大症(BPH)などの診断に使用することができる。
【0114】
診断は、病気や状態を有する、又は有すると思われる人において行うことができる。診断は、病気や状態のリスクがあると思われる人でも行うことができる。「リスクを有する人」とは、前記疾患又は状態を有する遺伝的素因を持っている人、あるいは前記疾患又は状態を発症するリスクを高める可能性のある要因に曝されている人である。
【0115】
本発明は、癌に関連するグリコシル化マーカーを提供する。一実施形態では、グリコシル化マーカーは、別の表現型状態(例えば、疾患を有さない)の個人(個体)と比較して、ある表現型状態(例えば、疾患を有する)の個人から採取された試料中に示差的に存在する有機生体分子である。異なる個人におけるバイオマーカーの平均又は中央値の発現レベル(グリコシル化レベルを含む)が統計的に有意であると計算された場合、バイオマーカーは2個人間に異なって存在する。バイオマーカーは、単独で又は組み合わせて、個人が1つの表現型状態又は別の表現型状態に属する相対リスクの測定値を提供する。したがって、それらは、疾患、疾患の重症度、薬物の治療効果、及び薬物毒性の診断のためのマーカーとして有用である。
【0116】
一実施形態では、本発明の方法は、試験個体に由来する生体試料から複数のバイオマーカーの測定値のセットを取得すること、対照個体に由来する生体試料から複数のバイオマーカーの測定値のセットを取得すること、試験試料及び対照試料間で各バイオマーカーの測定値を比較すること、及び試験値及び参照値とも称される対照値の間で大幅に異なるバイオマーカーを特定することによって、実施される。
【0117】
測定値及び参照値を比較するプロセスは、本発明のバイオマーカーの測定値及び参照値のタイプに適切な任意の簡便な方法で実施可能である。例えば、「測定」は、定量的又は定性的な測定技術を使用して実施可能であり、測定値及び参照値を比較するモードは、使用する測定技術によって異なり得る。例えば、定性的比色分析を使用してバイオマーカーレベルを測定する場合、レベルは、着色反応生成物の強度を視覚的に比較することによって、又は着色反応生成物の濃度測定若しくは分光測定からのデータを比較することによって(例えば、測定装置から算出される棒グラフなどの数値データやグラフィックデータを比較することによって)比較してもよい。しかしながら、本発明の方法で使用される測定値は、最も一般的には定量値(例えば、濃度の定量測定)であると考えられる。他の例では、測定値は定性値である。定性的測定と同様に、比較は、数値データを検討することによって、又はデータの表現を検討する(例えば、棒グラフや折れ線グラフなどのグラフィック表現を検討する)ことによって行うことができる。
【0118】
測定値は、通常、参照値の少なくとも約95%である場合、参照値以上であると実質的に見なされる。測定値が参照値の約95%未満の場合、測定値は参照値未満と見なされる。測定値が参照値より少なくとも約5%大きい場合、測定値は参照値よりも大きいと見なされる。
【0119】
比較のプロセスは、手動(方法の実施者による目視検査など)でもよく、自動化してもよい。例えば、アッセイ装置(化学発光シグナルを測定するためのルミノメーターなど)は、測定値を所望のバイオマーカーの参照値と比較することを可能にする回路及びソフトウェアを含み得る。あるいは、別の装置(例えば、デジタルコンピューター)を使用して、測定値と参照値とを比較してもよい。比較のために自動化された装置は、測定されるバイオマーカーの保存された参照値を含み得るか、又は測定値を同時に測定された参照試料から得られた参照値と比較し得る。
【0120】
前記バイオマーカーをスクリーニングするための方法は、癌において、並びに癌に進行する組織の様々な異形成段階において示差的にグリコシル化されるバイオマーカーを見つけることができる。スクリーニングされたバイオマーカーは、癌のスクリーニング、リスクアセスメント、予後、疾患の特定、病期の診断、及び治療標的の選択に使用され得る。
【0121】
本発明の方法によれば、様々な段階又はフェーズでの癌の進行は、試料から得られた1又は複数のバイオマーカーのグリコシル化段階を決定することによって診断することができる。癌の各段階での試料からのバイオマーカーのグリコシル化段階を、組織の細胞増殖障害がない試料から単離された1又は複数のバイオマーカーのグリコシル化段階と比較することにより、試料中の癌の特定のステージを検出できる。一実施形態では、グリコシル化段階は、高グリコシル化であり得る。別の実施形態において、グリコシル化段階は、低グリコシル化であり得る。
【0122】
生体試料
本発明は、生体試料に由来するタンパク質溶液の分析に関する。いくつかの実施形態において、目的の生体試料は、良性及び/又は悪性の癌組織又は腫瘍などの癌性組織から供給される。
【0123】
一実施形態では、前記組織は、液体組織、細胞及び/又は多細胞固形腫瘍などのヒト組織又は組織部分であり、別の実施形態では、組織溶液に処理可能なヒト固形組織である。前記組織は、細胞表面に関連する局在化マーカーなどの細胞内及び細胞外を含む、組織からの特定のグリカンマーカー構造の分析及び/又は標的化に使用され得る。個々の細胞型の癌又は腫瘍には、白血病やリンパ腫などの血液由来の腫瘍が含まれる一方、固形腫瘍には、胃腸管組織などの固形組織、肝臓、腎臓、脾臓、膵臓、肺、性腺などの他の内臓、及び卵巣、睾丸、前立腺などの関連臓器に由来する固形腫瘍が含まれる。本発明はさらに、個々に又は多細胞的に提示された癌細胞からのマーカーを明らかにする。前記癌細胞には、腫瘍/癌から放出された転移細胞、並びに白血病及び/又はリンパ腫などの血球由来の癌が含まれる。固形組織腫瘍からの転移は、特定の特徴を持つ別のクラスの癌試料を形成する。
【0124】
本発明に従って分析される癌組織材料は、本発明では、組織材料又は単に細胞とも称される。なぜなら、全ての組織が細胞を含むが、本発明は、単細胞及び/又は多細胞で発現された癌細胞及び/又は固形腫瘍を別個の特徴として対象にすることができるからである。本発明はさらに、癌材料と比較される正常組織材料を明らかにする。本発明は、特に、形質転換された組織又は疑わしい癌試料の状態を明らかにするための本発明による方法に関する。この場合、前記試料に相関するシグナルの特定の構造の発現が、正常組織での発現に対応すると推定される発現レベルと比較するか、同一患者の同じ組織の健康な部分の組織試料など、同じ組織の標準試料の発現レベルと比較する。
【0125】
本発明は、いくつかの実施形態において、同一患者の癌組織及び対応する正常組織の両方からのマーカー構造及び/又はグリカンプロファイルの分析を対象とする。なぜなら、グリコシル化の一部には、例えば、(糖タンパク質/炭水化物の)グリコシル化における先天性障害及び/又はグリカン蓄積症などのまれなグリコシル化関連疾患に関連する個々の変化が含まれるからである。本発明はさらに、本発明による方法による特定の状態(例えば、原発性癌、転移性、癌に関連する良性形質転換)を所望により有する特定の癌及び/又は癌のサブタイプにおいて、グライコームにおける特定の構造/構造基又はグリカン基の重要性及び/又は変化を分析することを検証する方法に関する。
【0126】
診断検査
一実施形態では、本発明のバイオマーカー(例えば、グリカン)を使用する診断検査は、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、及び約100%の感度及び特異性を示す。場合によっては、本発明のスクリーニングツールは、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、及び約100%の高感度を示す。
【0127】
一実施形態では、感度は、約75%~約99%、約80%~約90%、又は約80%~約85%である。他の実施形態では、特異性は、約75%~約99%、約80%~約90%、又は約80%~約85%である。
【0128】
別の実施形態では、本発明は、癌、例えば膵臓癌の早期発見のためのリスクのある集団のスクリーニングを可能にする。さらに、特定の局面において、本発明は、新生物性(腫瘍性)(例えば、悪性)を良性(すなわち、非癌性)の細胞増殖性障害から区別することを可能にする。
【0129】
予後診断法は、癌患者又は癌のリスクのある患者を特定するために使用できる。このような患者には、内視鏡的ポリープ切除術又は摘除術を含む追加の適切な治療又は予防オプションが提供され、必要に応じて、外科的処置、化学療法、放射線、生物学的反応修飾因子、又は他の治療法が提供される。そのような患者はまた、結腸内視鏡検査、仮想結腸内視鏡検査、ビデオカプセル内視鏡検査、PET-CT、分子画像診断、又は他の画像診断技術の頻度の増加を含むがこれらに限定されない、さらなる診断又はモニタリング手順に関する推奨を受ける場合がある。
【0130】
本発明の方法による対象の診断に続いて、癌と診断された、又は癌などの増殖性疾患を有するリスクがあると診断された対象は、疾患に対して治療することができる。前記対象は、進行及び有効性をモニタリングするために、治療全体を通して診断検査を受けることができる。
【実施例0131】
以下の実施例を参照することにより、本発明をさらに詳細に説明する。これらの実施例は、説明のみを目的として提供されており、特に明記されていない限り、限定することを意図したものではない。したがって、本発明は、以下の実施例に限定されると決して解釈されるべきではなく、むしろ、本明細書で提供される教示の結果として明らかになる全ての変形を包含すると解釈されるべきである。
【0132】
さらなる説明なしに、当業者は、前述の説明及び以下の例示的な実施例を使用して、本発明の化合物を製造及び利用し、特許請求される方法を実施することができると考えられる。したがって、以下の実施例は、本発明の例示的な実施形態を具体的に指摘するものであり、本開示の残りの部分を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0133】
実施例1:MALDIイメージング質量分析を使用したグリカン分析(MALDI-IMS)
下記研究は、MALDI-IMSを使用した組織のグリカン分析のための新たな方法を提供する。この方法は、分析前の組織タンパク質の顕微解剖及び可溶化の必要性を回避する。MALDI-IMSは広く見直されており、通常マトリックス溶液(シナピン酸やジヒドロキシ安息香酸(DHB)など)を組織切片に直接沈着させ、可溶性分子を組織から抽出してマトリックスと共結晶化するスキームを採用している。マトリックスは組織切片全体に適用されるため、脱着はグリッドパターンの特定の「ポイント」を標的にしてデータをラスタライズできる。得られたスペクトルを使用して、組織切片の表面から直接、数百の分析対象の2次元分子マップを生成できる。これらの分子マップは、これらの分子の相対的な存在量及び空間分布を表示する。したがって、MALDI組織プロファイリングには、質量分析の分子詳細を分子組織学とリンクさせ、組織薄切片内の既知の位置に相関する質量スペクトルを生成する能力を有する。MALDI-IMS適用のほとんどは、タンパク質、脂質、及び薬物代謝物のプロファイリングに重点を置いているが、グリカンは重視されていない。本明細書では、組換えエンドグリコシダーゼPNGase Fの分子コーティングが、ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)組織にスプレーされ、組織からN結合型グリカンを除去するために使用される。
図4は、HCC組織及び隣接組織に対するこの方法論の例を示しており、同定されたN結合型グリカンのうち6つだけ(100超のうち)を示している。悪性組織に関連する特定のグリカンパターンが観察可能であることは明らかである。重要なことに、それらは組織内に局在化しており、組織内の特定の領域に各グリカンの局在化のレベルを付与できる。
【0134】
組織上のグリカンの空間的局在化により、スライドの特定の領域に捕捉されたグリカンの識別が可能になる。基本的な方法を
図1に示す。この方法論の重要な特徴は、特定のタンパク質の抗体捕捉及びMALDI-FTICR MSによるN結合型グリカンの分析(PNGase Fによる酵素放出後)である。スライドガラスにスポットした純粋なタンパク質をどの程度簡便に検出できるかを判断するために、システムの絶対感度は、スライドガラスに純粋な糖タンパク質をスポットした後、MALDI-FTICRMSを使用して決定した。
図5A~
図5Cは、グリカン検出の感度に関する予備的なエビデンスを示している。スポットしたα1抗トリプシン(A1AT)は、重要な構造グリカン情報を有する糖タンパク質であることから使用された。
図5Aは、0、1、又は2つのシアル酸を有する二分岐グリカンの存在を強調する、A1ATのHPLCグリカンプロファイルを示している。さらに、少量のコアフコシル化二分岐グリカンが存在する。
図5Bは、スライドガラス上に直接スポットした後の、マイナーピーク、コアフコシル化二分岐グリカン(m/z=1809.639)の検出を示す。重要なのは、0.1ngのスポットしたタンパク質で、このグリカンを検出可能なことである。A1ATで最も豊富なグリカンであるジシアル化二分岐ピークが、コアフコシル化二分岐グリカンに対して約12:1の比率で検出されたことに注目されたい。
【0135】
図5Cは、抗体を使用して捕捉されたA1AT上のグリカンを検出する能力を強調している。簡潔には、A1ATに対する抗体をスポットあたり300ngの濃度でスポットし、スライドを洗浄し、PBS中の2%BSAで一晩ブロックした。特異性対照として、ヒトフェチュイン-Aに対する抗体も300ng/スポットの濃度でスポットした。スライドにPNGaseFをスプレーして、捕捉抗体の固有のグリコシル化を除去し、洗浄した。スポットを様々な量のA1AT(1.0μg~0.0001μg)で覆い、1時間インキュベートした後、スライドをPBSで洗浄し、PNGAse Fをスプレーし、再度1時間インキュベートし、マトリックスをスプレーし、MALDI-FTICR MSで分析した。
図5Cに示すように、コアフコシル化二分岐グリカン(1809.639)は、0.1ngの捕捉されたA1ATから検出可能である。A1ATが添加されていない場合(0と表示)、又はフェチュインAに対する抗体がコーティングされた領域(非特異的タンパク質)にA1ATがスポットされている場合、非常に弱いシグナルが見られる。純粋なタンパク質と同様に、モノ及びジシアル化二分岐グリカンは、コアフコシル化二分岐ピークに対して12:1の比率で観察された(図示せず)。また、最低レベルのタンパク質のシグナル対ノイズ比は優れており、MS強度は二分岐グリカンでは100,000を超え、陰性対照スポットでは本質的にゼロである。このスポットにはタンパク質が含まれていなかったが、「陰性対照」スポットには脱グリコシル化されたタンパク質が含まれている。
【0136】
正常血清から捕捉された免疫グロブリンGから検出された最も豊富なタイプのN-グリカンを
図6に示す。これらのグリカンは同定されることが期待されたものであり(主に二等分及び二分岐)、慢性疾患について評価されたグリカンパネルと一致している。比較のために、PNGaseF消化及び2-AA標識された精製(変性)IgGからHPLCによって検出された最も豊富なN-グリカンを
図6の右側のパネルに示す。このゲル変性ワークフローには、2日間の準備期間を必要とした。全体として、抗体アレイ法によるIgGのスライド捕捉のアプローチは、最小限の試料(1μL)を使用し、低コストの抗体及び迅速な準備及びアッセイ時間(6時間という短時間)で、報告されたものと一致するデータをもたらした。IgG機能を調節することが知られているより炎症性のN-グリカン(例えば、G0グループ)及びシアル化N-グリカンを容易に検出することが可能である。
【0137】
溶液評価における場合と比較して(対応のあるスチューデントのT検定とブランド-アルトマン検定によってピークごとに決定)、同等のグリカン分析で100ng未満の免疫捕捉糖タンパク質のN結合型グリカン分析を実施する能力。さらに、シグナル対ノイズ比は少なくとも10倍である。
【0138】
本研究では、システムが最適化され、スポットされた抗体及びMS条件の正しいレベルが決定され、直接グリカン分析との最高レベルの感度、特異性、及び一致が可能になる。本研究の実験変数は、以下を含む:スポットされた抗体の量、洗浄条件に追加された抗原の量、PNGAseF濃度、及びインキュベーション条件(時間)。目的の最初の2つのタンパク質には、ヒトIgG(hIgG)及びA1ATが含まれ、hIgGは、非常によく特徴付けられている単一のグリコシル化部位を有する。A1ATは3つのグリコシル化部位を有し、同様に特徴づけられている。A1AT又はhIgGのいずれかに対する抗体は、
図5B及び
図5Cに示されるように、300ng~0.1ngまでの濃度でスライドガラス上にスポットされる。以前の抗体アレイ研究では、パラメーターには、スポットサイズが約80~100μm、沈着量が350pL、及び最終濃度がスポットあたり約70ngの抗体が含まれていた。捕捉抗体の固有のグリコシル化を除去するためのPNGAseF処理後、抗体スポット(A1AT又はhIgGのいずれか)をそれぞれのタンパク質又は特異性を制御する別のタンパク質(A1AT抗体上のIgG、逆もまた同様)で覆う。全ての場合において、蛍光標識された(IRE-800色素)タンパク質が使用され、これにより、スキャナーでイメージングすることにより、タンパク質が抗体に結合したかどうかを迅速に判断できる。さらに、スライドに添加される抗原のレベルは異なるが、全ての場合において、飽和量のタンパク質が最終的に使用される。本明細書での論理は、飽和量の抗体捕捉タンパク質からグリカンを調べることである。スライドはいくつかの方法を使用して洗浄される。最初の実験では1XPBSのみを使用するが、PBSは最大0.5%のTween(登録商標)20で試験される(最終洗浄は常に水)。正確な洗浄条件は経験的に決定され、結合の最大度及び結合の特異性に基づいて最適な条件が選択される(例えば、A1ATが抗IgG領域に結合しない、逆もまた同様)。タンパク質はIRE-800色素で標識されているため、これはLi-Cor OdysseyCLxリーダーを使用して検出される。
【0139】
続いて、HTX TM-Sprayer(商標)を使用してスライドにPNGaseF(0.1μg/μL)を噴霧し、37°Cの高湿度下で1時間から一晩の時間範囲内でインキュベートする。最適な時間は、遊離タンパク質で観察されたものと同一のグリカンプロファイルを維持しながら、スポット間の変動性の最低レベルを与えるインキュベーション時間である。
【0140】
MALDIマトリックスCHCA(50%ACN/0.1%TFA中7mg/mL)は、TM噴霧器を使用してスライドに噴霧される。続いて、MALDIFTICRを使用してグリカンを検出する(7T solariX、Bruker Daltonics社)(ブロードバンドモード:m/z 495~5000、陽イオンモード、空間分解能:20μm、スポットあたりのレーザーショットの数:20、データはfleximagingソフトウェアバージョン4.1で表示される)。全ての場合において、試料は20の複製で分析され(少なくとも)、平均値が比較に使用される。溶液中のグリカン分析は、MALDI FT-ICRでの直接分析と順相HPLC(グリカンを蛍光色素で標識した後)の両方で分析される。同様に、これはスライドベースの分析と一致するように20回の繰り返しで行われる。最初の作業には、PBSで希釈したタンパク質が含まれるが、動物の血清を利用して、潜在的な血清効果をテストし、血清使用の洗浄条件を最適化する。
【0141】
抗体で捕捉された抗原からの正確なグリカン情報に必要な条件を決定するために、結果を、この目的の「判断基準」と見なされる溶液内消化及び直接MS分析の方法と比較する。そのために、A1AT又はhIgGの各タンパク質について、上位10個のグリカンにパーセンタイルを与え、各グリカンには総グリカンのパーセンテージを与える。例えば、
図5AのHPLC分析では、ジシアル化二分岐グリカンは総グリカンプールの45%を表す一方、モノシアル化二分岐グリカンは31%を表し、以下同様である(10個のピークの合計は100%である)。グリカンのこのパーセンタイルは、HPLC、直接MS、及び本研究によって分析されたグリカンに対して行われる。全ての場合において、分析は(少なくとも)20回の繰り返しで行われるため、記述統計は、方法を比較するためにピークごとに(10個のピーク全てについて)使用される。最初に、データの分布、バイアス、及び変動を、ブランド-アルトマンプロット(BA-Aプロット)によって調べる。続いて、対応のあるスチューデントt検定(Graph-pad Prism 7.0を使用)を使用して、各方法の各グリカンピークの平均値を比較する。さらに、各方法からの各ピークの複製を使用して、各方法の変動係数(CV)を決定する。20%のCVは許容可能と見なされる。全ピークの検査は、全ての値の対数変換(一部のピークは他のピークよりもはるかに豊富であるため、データを正規化するのに役立つ)及び係数相関分析(ピアソン相関係数)及びB-Aプロットを使用して比較した、直接MS分析及び現行の方法からの全てのピークの分析後に行われる。全ての場合において、p<0.05が有意であると見なされる。
【0142】
捕捉の確認は、hIgG及びA1ATの両方をIRE-800色素で標識することによって達成される。このように、抗体への抗原の結合は、Li-Cor OdyesseyCLxプレートリーダーを使用して示され得る。
【0143】
シアル酸:従来のMALDI-TOFベースの方法の1つの主要な問題は、イオン化中のシアル酸の損失である。MALDI-FTICRでは、ソース構成及び冷却ガスにより、この損失は最小限に抑えられるが、2以上のシアル酸を含む構造を検出することは困難である。現行の方法のこの問題に対処するために、FFPE組織のN-グリカン質量分析イメージングのためのシアル酸の結合特異的インサイチュエチル化誘導体化からなる最近開発された方法が利用される。この方法は、結合特異的な方法でシアル酸の安定化を成功させることを可能にし、それによって検出範囲を拡大するだけでなく、生物学的関連性を追加する。これは穏やかな化学反応であり、糖タンパク質調製物の溶液又はスライド上で簡便に行うことが可能である。
【0144】
スポット間拡散:懸念される問題の1つは、スポット密度及びあるスポットから次のスポットへのグリカン情報の拡散である。これは、A1AT又はhIgGの比較捕捉を使用して試験される。これら2つのタンパク質を使用する論理は、それらが非常に異なるグリカンプロファイルを有するということである。ヒトIgGには、ガラクトース残基を欠くコアフコシル化二分岐グリカンが約30%含まれているほか、かなりの部分はガラクトース残基が1つしかない。これらの構造はA1ATには見られないため、スポットクロスコンタミネーションが発生していないことを示す指標として使用され得る。PNGase Fを適用するためのTM噴霧器の使用は、拡散の問題を減らすのに役立つと期待される。
【0145】
抗体の効率的な脱グリコシル化が起こったエビデンス:抗体の効率的な脱グリコシル化、それにより捕捉抗体からのシグナルが見られないことを確かにするために、グリカン検出の特異性のコントロールとして機能する試料が追加されていない捕捉スライドが利用される。
【0146】
抗体特異性のエビデンス:抗体の特異性を調べるために、PNGase Fを噴霧してグリカンを除去する代わりに、トリプシンを噴霧してスポットごとのタンパク質分析を可能にする。これは、抗体結合の特異性を確認するためにも使用される。ペプチドプロファイルは、MALDI-FTICRによって評価されるか、LC-MS(Orbitrap Elite社)によってオフスライド(off-slide)で評価される。
【0147】
オフスライド分析との相関:オンスライド(on-slide)タンパク質及びオフスライドタンパク質の間には相関関係が確立されている。これは、噴霧されたPNGase Fの量及びインキュベーション時間、並びに抗体スポットサイズ及び抗体濃度を変えることによって最適化される。
【0148】
実際のスポッティングのバリエーション:抗体のスポッティングは、IRE-800色素標識抗体を使用して6連で調べて、Li-Cor OdysseyCLxプレートリーダーで直接検査することにより抗体がどれだけ均一にスポットされているかを判断できる。
【0149】
複数のN-グリカン異性体が可能であり、特に分岐及び多フコシル化種の場合、可能である。最初の作業では、エキソグリコシダーゼを利用して異性体の分解を促す(例えば、コア対外腕のフコシル化など)。エキソグリコシダーゼは、溶液中の遊離グリカン及びタンパク質マイクロアレイ内の糖タンパク質の両方に使用できる。イオン移動度MS法の使用は追加オプションである。
【0150】
質量分析プラットフォーム:MALDI-FTICR機器は最大の感度を提供する。条件が最適化されると、アッセイでは、rapifleX MALDI-TOF(5ミクロン以下のレーザースポットサイズ機能を備えた新しいプラットフォーム)を含む線形及び/又は反射体測定が可能なMALDI-TOF(AutofleX III、一般的なMALDI-TOF機器)を使用できる。
【0151】
グリカン分析の感度は、配列された抗体で捕捉された抗原のレベルに直接関係している。予備的な結果では、1ngの抗体からグリカンが検出された。スポットサイズのバランスをさらにとることで、少なくとも1~10ngのタンパク質を確実に捕捉できる。
【0152】
実施例2:抗体で捕捉された血清タンパク質の質量分析
以下の研究では、肝細胞癌(HCC)でグリコシル化が変化することから特に興味深い32のタンパク質を調べる。8×4アレイを使用すると、様々な方法で処理できる4つの象限を有する単一のスライドを作成され得る。第1象限にはPNGaseFを噴霧しないままとし、第2象限にはPNGaseFの代わりにトリプシンを噴霧してタンパク質の捕捉を確認する。スポットされた抗体の効率的な脱グリコシル化をコントロールするために、第3象限を血清なしでインキュベートする。第4象限は、完全な実験セットとして使用される。タンパク質は複合混合物(ヒト血清)から補足され、グリカンデータは補足された個々のタンパク質から生成される。N-結合型グリカン分析は、健康な血清を用いた20回の分析から得られ、複数回の分析からのピーク定量の変動は20%未満である(ピークごとに)。
【0153】
実験計画:抗体は、ロボットアレイヤー(2470、Aushon Biosystems社、マサチューセッツ州ビレリカ)を使用して顕微鏡スライド(PATH、Grace Bio-Laboratories社、オレゴン州ベンド)にコーティングされる。各スライドには、アレイ間の間隔が2.25mmの8×4グリッドに配置された128個のスポットが含まれている。プリント後、疎水性の境界線をスライド(SlideIm-printer、The Gel Company社、カリフォルニア州サンフランシスコ)にインプリントして、アレイを分離し、各スライドで複数の別々の試料をインキュベートできるようにする。
図7に示すように、最初の3つの象限は3連の分析に使用でき、最後のアレイは非PNGaseF対照又は他のスライドのタンパク質同定用のトリプシン対照のいずれかに使用される。複数のスライドが分析に使用され、グリカンがスライド間で比較される。
【0154】
統計的考察:本研究の目的は、捕捉されたタンパク質の再現性のある分析を確実にすることである。20回繰り返されるタンパク質試料分析により、スポットからスポットへ、及びスライドからスライドへの複製データが生成される。上位10個のグリカンの分析は、各グリカンのパーセンタイル及び再現性とCVとを決定するために使用される値に使用される。この分析では、20%のCVが許容できると見なされる。
【0155】
糖タンパク質:スライドに配置された抗体のリストには、A1AT、フェチュイン-A、ヘモペキシン、Apo-J、LMWキニノーゲン、HMWキニノーゲン、apo-H、トランスフェリン、IgG、IgM、IgA、フィブロネクチン、ラミニン、セルロプラスミン、フィブリン、アンギオテンシノーゲン、フィブリリン-1、TIMP1、トロンボスポンジン1、ガレクチン-3結合タンパク質、補体C1R、クラステリン、ガレクチン1、α-2-マクログロブリン、ビタミンD結合タンパク質、ヒスチジンリッチ糖タンパク質、ヒスチジンリッチ糖タンパク質、CD109、CEA、カテプシン、AFP、及びGP73が含まれる。
【0156】
血清:精製A1ATのグリカン分析を事前に実施したHCC患者(n=9)からのアーカイブされた血清のセットに加えて、市販の正常なヒト血清(Sigma、Chemicals)を使用する。対照血清は、アッセイの再現性を確立するために20回繰り返して使用される。
【0157】
質量分析:全体的な方法及びワークフローは、
図1に示す通りである。唯一の違いは、スライド上の特定の場所にタンパク質をスポットする代わりに、スライド全体を希釈血清とともにインキュベートすることである。簡潔には、ヒト血清をバッファー(0.1%Tween(登録商標)20、0.1%Brij(登録商標)35、種特異的ブロッキング抗体、及びプロテアーゼ阻害剤を含む1×PBS)で2倍に希釈し、抗体アレイ上で4°Cで一晩インキュベートする。続いて、スライドを1×PBSで3回洗浄し、
図1のように処理する。以前と同様に、アレイセクションはグリカン特異性を示すためにPNGaseFで「未処理」とする。
【0158】
グリカン分析の検証:この大きなアレイでは、精製タンパク質の溶液中のグリカン分析を通じてグリカンデータが検証される。ほとんどのタンパク質は商用ベンダーから購入可能であるため、溶液中の分析でスライドベースの分析を検証できる。結果はまた、MALDI-FTICR MSを介して、レクチンマイクロアレイシステムを使用したレクチン分析を介して観察された結果と比較される。
【0159】
データ解析:MSスペクトルは、抗体で捕捉されたタンパク質ごとに生成される。データはSCiLsソフトウェアパッケージにインポートされ、各複製のグリカン分布を決定する。これから、各ピークの変動係数(CV)が決定される。
【0160】
グリカンを含むシアル酸の検出、スポットからスポットへのシグナルのブリーディング、抗体特異性の証拠などの問題を回避するために調整を行う。シアル酸含有タンパク質の場合、これは、シアル酸の結合特異的インサイチュエチル化誘導体化によって処理される。スポット間の汚染の問題は、既知のグリカン(IgGやA1ATなど)の比較を可能にする場所にスポットを配置することによってモニタリングされる。さらに、複製アレイ(他の象限)にトリプシンを噴霧して、スポットごとにタンパク質を捕捉できるようにする。使用する洗浄条件がストリンジェント性が低い場合、バックグラウンドが増加する場合がある。観察された高レベルの非特異的結合については、0.001~0.1%のTween(登録商標)20を含むPBSの形態よりストリンジェントな洗浄条件を使用し、続いてMilli-Q(登録商標)水で最後にリンスする。対照として、捕捉抗体からのグリカンシグナルについて対照に血清を添加せずにアレイを試験する(
図8に示されるものと同様)。
【0161】
本研究では、スライドガラス上の抗体を介して捕捉された複数のタンパク質に対してグリカン分析を実施可能であることを小規模に検証する。癌で観察されたグリカンの変化の多くはレクチンでは簡単に検出できないため、これを行う能力はバイオマーカーの発見と検証に多大な影響を及ぼす。さらに、このアッセイの簡単かつ迅速な性質には、大きな翻訳の可能性があり、独立したバイオマーカープラットフォームとなる可能性がある。
【0162】
実施例3:免疫細胞サブタイプに適用されるN-グリカン分析の開発
白血球のグリカン分析は、主に個々の細胞株、例えばTHP-1単球に依然として限定されており、IgGプロファイリングに類似した免疫細胞のグリカンプロファイリングを可能にする方法は報告されていない。以下の研究は、Glyco-Cell Typerと称される細胞N-グリカンプロファイリングの方法を提供し、指示された抗体捕捉を用いたスライド上の特定の細胞タイプの捕捉と、確立されたワークフローを使用したグリカン放出及び分析を含む。本研究では、明確に定義されたB細胞株、T細胞株、及びマクロファージ細胞株を利用する。Ficoll(登録商標)コレクションにより血液から分離された総白血球も評価する。
【0163】
特定の細胞標的に対する抗体は、特定の細胞タイプを捕捉するために最初に使用される様々なレベル(100~500ng)でスライドに適用される。抗CD4(MABF417、抗体CD4抗体(ヒト)、PE、クローンOKT4)を使用してCD4+T細胞を捕捉し、抗CD8(MABF1676、抗CD8(ヒト)PE、クローンSK1抗体)を使用してCD8+T細胞を捕捉し、抗CD19(CBL582、抗CD19抗体、クローンHD37)を使用してB細胞を捕捉し、抗CD14を使用して単球(MAB1219、抗CD14抗体、クローン2D-15C)を捕捉する。
【0164】
最初に、作業を培養細胞株で行う。CD4+T細胞はSup-T1細胞である(ATCC#SUP-T1[VB](ATCC(登録商標)CRL-1942)。CD8細胞はTALL-104細胞である(ATCC(登録商標)CRL-11386)。B細胞はC1R(neo)細胞である(ATCC(登録商標)CRL-2369(商標))。単球はTHP-1細胞株である(ATCC(登録商標)TIB-202(商標))。全白血球(すなわち、PBMC)は、Ficoll(登録商標)コレクションチューブと分画遠心分離を使用して血漿から分離される。
【0165】
前記抗体は、本明細書の他の場所で説明されているワークフローを使用してスライドに付着させる。細胞集団とのインキュベーション後、スライドを最初にPBSでリンスする。次の工程では、中性緩衝ホルマリンで固定した後、固定液及び脱脂液の両方を兼ねる細胞の形態を破壊しないカルノア液でリンスする。Ficoll(登録商標)層からの総PBMCは、細胞培養スライドと同様に、スライド上に直接塗抹し、乾燥する。培養細胞の抗体濃縮の有効性は、細胞塗抹標本(上記のように固定及び洗浄)のN-グリカンシグネチャーをHPLCによる従来の糖鎖分析と比較することによって評価される。評価した抗体のほとんどについて、PBMCのFicoll(登録商標)画分を使用して、構成免疫細胞集団を同時に糖鎖タイプ(glyco-type)解析できる。
【0166】
本研究は、細胞の捕捉及びグリカンの検出に必要な抗体の最小量を決定する。分析は3連で行い、変動係数(CV)を各ピーク(各糖タンパク質から)に対して計算する。10%のCVは許容可能と見なされる。
【0167】
本研究はまた、アレイの結果を液相分析の結果と比較する。細胞型のグリカン分析は「オフスライド」で実行され、スライドで検査されるのと同じ方法でMALDIFT-ICRによって検査される。結果は、複製スポット間で15%<CVのグリカンの存在と100%一致することを示すと予想される(平均値を使用)。すなわち、溶液ベースの分析でグリカンが観察された場合、「オンスライド」で検出する必要がある。全ての場合において、溶液ベースの分析は比較の判断基準として機能する。15%<CVは、溶液ベースの分析で通常観察される範囲内であるため、許容できると見なされる。
【0168】
グリカン分析の感度は、配列された抗体で捕捉された細胞の数に直接関係している。予備的な結果では、標準糖タンパク質からのグリカンは1ngの抗体から検出できた。細胞数は、各培養細胞タイプのLOIを決定するために滴定され、これを達成するためにスポットする必要がある抗体の量で評価される。PNGaseF処理前の捕捉及びリンス中の細胞の完全性の維持は、抗体結合後のホルマリンでの固定によって達成される。
【0169】
実施例4:スライド上の細胞株の直接N-グリカン分析
N-グリカンプロファイルは、培養細胞の簡単な試料調製から得ることができる。初代大動脈内皮細胞(Primary Aortic Endothelial Cells、ATCC)は、細胞増殖のために8つのチャンバーを備えたスライド上で増殖させた。細胞を1mLあたり5k、10k、及び20kの密度でプレーティングした。細胞を7日間増殖させた。細胞を中性緩衝ホルマリンで固定し、顕微鏡で画像化し、脱脂も行う固定剤であるカルノア液を使用して脱脂した(
図12A~
図12D)。データは、細胞が形態を破壊することなくスライド上の所定の位置に留まっていることを示している。次に、細胞をPNGase F(HTX Technologies社)の薄い分子層でコーティングし、2時間消化し、MALDImatrixの薄い皮膜でコーティングした。細胞は、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(Fourier Transform Ion Cyclotron Resonance、FT-ICR)質量分析計に結合されたMALDIによって、質量電荷比499~5,000、過渡現象1.20秒の陽イオン広帯域モードで分析した。
図12Cは、複雑なN-グリカンプロファイルが単層の細胞から得られることを示している。ほとんどのN-グリカンは溶媒ブランクに見られない(
図12D)。高次空間分解能の飛行時間型計器は、培養物からの単一細胞の標的イメージングを可能にする。
【0170】
安定同位体標識は、MALDIIMSによって単一細胞層から検出可能な細胞培養で調べた(
図13A~
図13D)。内皮細胞を調製し、1mLあたり10kでプレーティングした。ただし、N15標識グルタミン(アミド側鎖)を使用して、全てのGlcNac、シアル酸、及びGalNacに安定同位体を組み込んだ。細胞は5日後の増殖において差を示さなかった(
図13A)。m/z 1809 G2Fの天然の安定な同位体は、完全な取り込みの検出を示した。単一スペクトルの検査は、単一スペクトルレベルでの強度が全体的な強度に類似していることを示唆した。これは、MALDI IMSによって検出された簡略化されたワークフローの組み合わせを使用して、N-グリコシル化の定量的変化を検出できることを実証する。
【0171】
実施例5:直接グリカン測定のためのスライド上の培養細胞の分析
次の研究では、培養又は捕捉されたHEk293、CHO、及びヒト大動脈内皮細胞を分析し、固体基板上で培養又は捕捉された最小量の細胞からグリカンプロファイルを生成する。このワークフローにより、グリカンプロファイルの作成に必要な時間を要する作業が不要になり、必要な細胞の数が大幅に削減される。全ての場合において、細胞の総数は、細胞タイプのグリカンプロファイルの迅速な決定を可能にする全てのタイプのN-グリカンからのシグナルと比較され、予備データに基づくと、最低50個のN-グリカンが検出されると予想される。細胞培養の場合、プレートに播種された細胞は1,000~20,000細胞/mLの範囲で変化する。捕捉された細胞については、細胞スラリー、塗布、塗抹、及び細胞を固体基板に適用するためのサイトスピンなどの日常的な組織学的手法が検討される。
【0172】
培養又は捕捉された細胞の場合、検出可能性は、細胞培養と互換性のあるコーティング及び顕微鏡のスライド領域への細胞の付着によって決定される。ガラス及びインジウムスズ酸化物でコーティングされたスライド(MALDI TOFに使用)は、全てのラボで幅広い用途が評価されている。取り外し可能な接着性レチクルをスライド(例えば、FlexWell、Electron Microscopy Sciences社)上に配置し、続いてゼラチン、コラーゲン、又は細胞接着を促進する化学物質(ポリ-L-リジン、ポリオルニチン)などの細胞培養用コーティングを行う。N-グリカンの検出を制限する分析対象の選択的除去は、固定液及び脱脂液の両方を兼ねる細胞の形態を破壊しないカルノア液を使用するなどの洗浄技術を使用して行われる。細胞形態を破壊しない他の溶液には、中性緩衝ホルマリン、パラホルムアルデヒド、及びエタノールとポリエチレングリコールとに基づく細胞診固定液が含まれる。
【0173】
本研究では、細胞層に噴霧したPNGase Fの効果、消化時間、及びマトリックスコーティングについても検討している。細胞が形態を保持していることを確認するために、各工程の前後に細胞を検査する。これにより、細胞の下流の高空間分解能イメージングも容易になる。シグナルは、標準的なプロトコルで細胞ペレットをプロファイリングして得られたシグナルと比較する。通常、グリカンプロファイルは、65×25mmのスライド領域で1時間未満で検出される。細胞培養作業の場合、試験は、別々の培養皿で独立して増殖する少なくとも6つの複製で行う。組織学的方法によって捕捉された細胞について、複製は、比較のために同じ供給源からの六連で検査される。
【0174】
標的グリカンの単純化された定量化のためのアプローチの適応を検討する。安定同位体標識及び無標識アプローチを、IMSによって検出可能な細胞培養について試験することにより、遺伝子操作や合成経路の変化によって影響を受けるグリカンプロファイルの詳細な研究が容易になる。初代細胞は、アミド部位で
15N(Cambridge Isotopes社)で標識されたグルタミンを使用して増殖する。これにより、
15N標識がGlcNAc残基、シアル酸、及びN-アセチルガラクトサミン(GalNAc)に組み込まれる。このアプローチは、新たなN-グリカン代謝回転、新たな修飾GlcNAc及びSIAキャッピング、及び新たなGalNAc拡張(主にO-結合型)に関与するすべてのコアGlcNAcにタグを付け、残基の変化ごとに0.9970Daシフトをもたらす。
15N標識は、IMSによる下流検出のための細胞培養条件で行われる。
図13A~
図13Dは、ヒト初代内皮細胞培養物への
15N標識のIMS検出を示している。
【0175】
無標識定量法は、単一の標的グリカンとして、又はマトリックススプレーに追加され、内部標準としてスライドに捕捉された細胞に噴霧される重同位体標識グリカンの混合物として、スパイクされた重同位体標識グリカンによって試験される。これにより、細胞条件全体の標準と比較した定量化が可能になる。次に、一般的なグリカンの混合物が検量線として検出される。このアプローチでは、細胞にスポットされた標準グリカン(グリカン放出なし)を、独立した外部検量線としてスポットされたグリカンと比較する。細胞にスポットし細胞からのシグナルと比較することで、試料マトリックスによるイオン抑制効果の評価が可能になる。細胞ベースの作業のための無標識法の感度は、IMSによる細胞標的化と、特定の数の細胞を含むようにレーザーサイズを調整し、細胞数を段階的に減らして検出限界、定量限界、及び再現性を決定することによって決定される。グリカンの量は、総タンパク質含有量及び/又は細胞数に対して外挿される。
【0176】
本研究は、組織上で得られた同等のプロファイルをもたらす細胞の最小量を示している。予備データでは、生物学的作業のために60%の培養密度まで1週間の培養を要した5,000個の細胞から複雑なシグナルが検出された。これにより、3.3E6のFT-ICRからのシグナル数が提供される。細胞密度実験及び細胞捕捉実験中のグリカンプロファイルの評価では、15%未満のCVが許容可能と見なされ、現在の組織上及び溶液中の結果と一致している。検出限界は、固体基板上の細胞密度として計算される。
【0177】
実施例6:抗体アレイの質量分析イメージングによる患者の生体液からの多重化N-糖タンパク質バイオマーカー発見のための新規プラットフォーム
マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析イメージング(MALDI MSI)ワークフロー及び抗体アレイを使用した血清からのN-糖タンパク質分析のための新規プラットフォームについて説明する。血清N-糖タンパク質は、スライドガラス上の抗体によって特異的に免疫捕捉され、タンパク質特異的かつ多重化された方法でN-グリカン分析を可能にする。この技術の開発は、2つの豊富かつよく研究されたヒト血清糖タンパク質であるα1-アンチトリプシン及び免疫グロブリンGの特性評価に焦点を当てている。精製標準溶液及び1マイクロリットルのヒト血清を使用して、両方の糖タンパク質を免疫捕捉し、続いてPNGaseFによってN-グリカンを放出することができる。N-グリカンは、捕捉の特異性を維持しながら、濃度依存的にMALDIFT-ICR質量分析計で検出される。重要なことに、スライドベースの抗体捕捉によって検出されたN-グリカンは、スポットされた標準グリカンの直接分析によって決定されたものと同一であった。概念実証として、ワークフローを肝硬変患者の血清試料に適用し、IgGN-グリカンの特徴的な増加を正確に検出した。抗体アレイからのタンパク質特異的N-グリカン分析へのこの新規アプローチは、検証済みの抗体が存在する任意の糖タンパク質を含むようにさらに拡張してもよい。さらに、このプラットフォームは、抗体アレイで分析できるあらゆる生体液又は生体試料の分析に適合させ得る。
【0178】
グリコシル化は、最も一般的な翻訳後修飾の1つであり、多くの場合、アスパラギン(N結合型)又はセリン/スレオニン(O結合型)残基へのオリゴ糖(グリカン)の共有結合による付加からなる。N結合型グリカンは、癌やその他の疾患の進行に伴って変化することが確立されており(Kailemia MJ et al., Analytical and bioanalytical chemistry, 2017, 409(2), 395-410;Adamczyk B et al., Biochimica et Biophysica Acta (BBA)-General Subjects, 2012, 1820(9), 1347-1353;Kuzmanov U et al., BMC medicine, 2013, 11(1), 31;Ohtsubo K et al., Cell, 2006, 126(5), 855-867)、研究によると、糖タンパク質のN型グリカン成分は、タンパク質単独よりも特定の疾患バイオマーカーとして機能する場合がある(Adamczyk B et al., Biochimica et Biophysica Acta (BBA)-General Subjects, 2012, 1820(9), 1347-1353;Meany DL et al., Clinical proteomics, 2011, 8(1), 7)。これは、肝癌のバイオマーカーとしてのフコシル化α-フェトプロテイン(AFP)の成功で示されているが(Taniguchi N, Proteomics, 2008, 8(16), 3205-3208;Aoyagi Y et al., Cancer: Interdisciplinary International Journal of the American Cancer Society, 1998, 83(10), 2076-2082)、それでも、タンパク質バイオマーカーに存在するほとんどのN-グリカンは依然として探索されていない。N-グリカン及びそれらの担体タンパク質を分析するための現在の技術は、しばしば時間がかかるか、又は大量のサンプルを必要としており(Kailemia MJ et al., Analytical and bioanalytical chemistry, 2017, 409(2), 395-410;Kuzmanov U et al., BMC medicine, 2013, 11(1), 31; Marino K et al., Nature chemical biology, 2010, 6(10), 713;Geyer H et al., Biochimica et Biophysica Acta (BBA)-Proteins and Proteomics, 2006, 1764(12), 1853-1869)、これは、新規疾患バイオマーカーの発見のために多数の患者試料を分析する能力を制限する。ハイスループット法はまた、炭水化物の構造モチーフを同定するために異なるレクチン結合を利用している(Reatini BS et al., Analytical chemistry, 2016, 88(23), 11584-11592;Chen S et al., Nature methods, 2007, 4(5), 437;Hirabayashi J et al., Journal of biochemistry, 2008, 144(2), 139-147)。これらのアプローチは、ほとんどのレクチンの可変で低い結合親和性に限定されており、真の構造組成又はグリカン担体(つまり、N-グリカン、O-グリカン、又はスフィンゴ糖脂質)情報を報告するために使用することはできない(Reatini BS et al., Analytical chemistry, 2016, 88(23), 11584-11592;Chen S et al., Nature methods, 2007, 4(5), 437;Hirabayashi J et al., Journal of biochemistry, 2008, 144(2), 139-147)。
【0179】
マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)質量分析イメージング(MSI)の技術は、組織切片全体の分析対象の検出及び位置特定のための強力な技術となるために、最近の数十年で出現した(Caprioli RM et al., Analytical chemistry, 1997 69(23), 4751-4760;Seeley EH et al., Journal of Biological Chemistry, 2011, 286(29), 25459-25466;Buchberger AR et al., Analytical chemistry, 2017, 90(1), 240-265;Balluff B et al., Histochemistry and cell biology, 2011, 136(3), 227;Walch A et al., Histochemistry and cell biology, 2008, 130(3), 421)。この手法は、組織試料全体の分析対象の強度の2次元ヒートマップを作成する。組織切片中のN-グリカンの空間分析のためにこれまでに開発された方法は、世界中の多くの研究室によって実装及び適応されている。(Powers TW et al., PloS one, 2014, 9(9), e106255; Drake RR et al., In Advances in cancer research, 2017, (Vol. 134, pp. 85-116). Academic Press;Powers TW et al., Analytical chemistry, 2013, 85(20), 9799-9806;Powers T et al., Biomolecules, 2015, 5(4), 2554-2572;Heijs B et al., Analytical chemistry, 2016, 88(15), 7745-7753;Gustafsson OJ et al., Analytical and bioanalytical chemistry, 2015, 407(8), 2127-2139)。N-グリカンの酵素的放出に依存するあらゆる方法に共通しているように、N-グリカンのシグネチャーをそれらのキャリアタンパク質にリンクさせることは依然として労力を要する作業であり、広範な追加分析が必要である(Heijs B et al., Analytical chemistry, 2016, 88(15), 7745-7753;Angel PM et al., In Tissue Proteomics, 2017, (pp. 225-241). Humana Press, New York, NY)。MALDI MSIがスライド上の組織の固体表面からN-グリカンを検出できることを利用して、N-グリカンプロファイルはスライドベースの抗体マイクロアレイで捕捉された標的糖タンパク質から検出できると仮定された。アレイに沿って検出されたN-グリカンの位置は、それらがどの免疫捕捉糖タンパク質から放出されたかを示すため、この仮定はN-グリカンシグネチャーをそれらのタンパク質にリンクする際のギャップを埋める。以下の研究は、MALDI MSIの局在及び患者試料で使用する抗体アレイのタンパク質捕捉特異性を組み合わせることにより、糖タンパク質バイオマーカーを発見するための新しいプラットフォームを報告する。
【0180】
ここで、材料及び方法について説明する。
【0181】
材料
ニトロセルロースでコーティングされた顕微鏡スライド(PATHマイクロアレイスライド)及びウェルスライドモジュール(ProPlate(登録商標)Multi-Array Slide System、24ウェル)は、Grace Bio-Labs社(オレゴン州ベンド)から入手した。トリフルオロ酢酸、α-シアノ-4-ヒドロキシ桂皮酸、オクチル-β-D-グルコピラノシド、ヒトα1-アンチトリプシン、及びストックヒト血清は、Sigma Aldrich社(ミズーリ州セントルイス)から入手した。HPLCグレードの水、HPLCグレードのアセトニトリル、ウシ血清アルブミン(BSA)、及びリン酸緩衝生理食塩水(PBS)は、Fisher Scientific社(ニューハンプシャー州ハンプトン)から入手した。タンパク質標識用のICGNHSエステルは、カスタムIRDye800CW誘導体としてLi-corBiosciences社(ネブラスカ州リンカーン)から入手した。ペプチド-N-グリコシダーゼF(PNGaseF)Prime(商標)は、前述のように自家クローン化、発現、及び精製した(Powers TW et al., Analytical chemistry, 2013, 85(20), 9799-9806)。抗ヒトA1ATはGenwayBiotech社(カリフォルニア州サンディエゴ)から入手した。ヒト免疫グロブリンGはJackson ImmunoResearch社(ペンシルベニア州ウェスト・グローブ)から、抗ヒトIgGはBethyl Laboratories社(Montgomery、TX)から入手した。肝硬変患者の血清は、Amit Singal博士(テキサス大学サウスウエスタンメディカルセンター(University of Texas Southwestern Medical Center、TX)、テキサス州ダラス)から入手した。血清試料は、UTSW治験審査委員会によって承認された研究プロトコルを介して取得され、各被験者から書面によるインフォームドコンセントが得られた。肝硬変の診断は、肝臓の組織学又は臨床、検査、及び肝代償不全又は門脈圧亢進症の画像によるエビデンスに基づくものであった。各患者は正常な超音波検査を受け、血清AFPが上昇した場合、CT又はMRIは肝腫瘤を示さなかった。これらの試料に関する患者の詳細は、Wang M et al., Journal of immunological methods, 2018, 462, 59-64に記載されている。
【0182】
マイクロアレイの準備
ニトロセルロースでコーティングされた顕微鏡スライドが得られ、24ウェルスライドモジュールをスライドにクリップしてウェルを作成した。抗体は、1.5μLスポットあたり200ngでウェルに手動でスポットした。次に、ワイプオール(Wypall X60)ペーパータオル及び蒸留水で飽和させた2巻のキムワイプ(KimWipe)で裏打ちした12×9×3.5cmのウエスタンブロットインキュベーションボックスから作られた湿度チャンバー内で、スポットを4°Cで一晩接着させた。次に、スライドを室温で風乾し、1×PBS(以下「PBS-OGS」)中の0.1%オクチル-β-D-グルコピラノシドでリンスして、スライドから未結合のタンパク質を全て除去した。
【0183】
試料調製及びグリカン放出
スライドを1%BSA(PBS-OGSで調製)で1時間穏やかに振とうしながらブロックした。次に、スライドをPBS浴(3分間×2回)及び再蒸留水浴(1分間×1回)で洗浄し、空気乾燥させた。乾燥した時点で、試料をウェルに加え、穏やかに振とうしながら湿度チャンバー内で室温で2時間インキュベートした。全ての試料をPBSで希釈し、100μLの試料量をウェルに加えた。次に、スライドをPBS-OGS浴(1分間×1回)、PBS浴(3分間×2回)、及び再蒸留水浴(1分間×1回)で洗浄し、空気乾燥させた。スライドからウェルモジュールを取り外した後、追加のリンスを水で行って、残留塩を全て除去した。捕捉されたタンパク質からN-グリカンを切断するため、PNGaseF Prime(商標)(0.1μg/μL、HPLCグレードの水で調製)を自動噴霧器(M3 TM-Sprayer、HTX Technologies社、ノースカロライナ州チャペルヒル)を使用して適用し、45°C、10psi、流速25μL/分、速度1200mm/分で15パスの噴霧パラメーターで局在化を維持した。次に、スライドを、細胞培養皿で作られた湿度チャンバー内で、ワイプオール(Wypall X60)ペーパータオル及び蒸留水で飽和させた2巻のキムワイプ(KimWipe)を使用して37℃で一晩インキュベートした。
【0184】
質量分析試料の調製及びイメージング
MALDIマトリックスα-シアノ-4-ヒドロキシ桂皮酸(CHCA、50%アセトニトリル/0.1%トリフルオロ酢酸中7mg/mL)を、同じ自動噴霧器(M3 TM-Sprayer、HTX Technologies社、ノースカロライナ州チャペルヒル)を使用してスライドに適用した。アプリケーションパラメーターは、77°C、10psi、速度1300mm/分、流量100μL/分で2パスであった。スライドは、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)ソースを備えたsolariX Legacy(商標)7T FT-ICR(Bruker Daltonics社)質量分析計で画像化した。サンプリングは、25μmのレーザースポットサイズで2000Hzで動作するSmartBeamII(商標)レーザーを使用して行った。画像は、ピクセルあたり200のレーザーショットで250μMラスターのスマートウォークパターンを使用して収集した。試料は、500~5000のm/z範囲内の512kwordの時間領域を使用して、陽イオンブロードバンドモードで分析した。m/z=1501で58,000のオンスライド分解能が計算された。
【0185】
データ解析
N-グリカンの局在及び強度の画像は、FlexImaging v4.1(Bruker Daltonics社)を使用して視覚化され、FlexImagingにインポートされたデータは0.98ICR低減ノイズ閾値値に低減された。画像は総イオン電流に対して正規化され、N-グリカンのピークは理論上の質量値に基づいて手動で選択した。次に、データをSCiLS Labソフトウェア2017a(Bruker Daltonics社)にインポートして、個々のスポットのピークを定量化した。各スポットは一意の領域に指定され、目的の質量のピーク値下領域が各領域からMicrosoftExcelにエクスポートされた。
【0186】
HPLC直交確認
放出された標識N-グリカンのHPLC分析は、前述のようにWaters AllianceHPLCシステムを使用して実行した(Comunale MA et al., PloS one, 2010, 5(8), e12419)。
【0187】
結果について説明する。
【0188】
特定の糖タンパク質捕捉及び質量分析イメージング(MSI)のための新規のワークフローを
図14A~
図14Cに図示する。このワークフローは、組織のN-グリカンイメージング用の同様のMALDI MSIワークフロー(Powers TW et al., Analytical chemistry, 2013, 85(20), 9799-9806)に基づいており、主要な3工程からなる。第1工程(
図14Aに示される)は、それらの抗体スポットに局在化された抗体スポッティング及び糖タンパク質捕捉を含む。第2工程(
図14B)は、局在化された方法でのN-グリカンの酵素的放出及びスライドのマトリックスコーティングからなり、放出されたグリカンをそれらの放出領域に捕捉する。
図14Cは、スライドのMALDI MSI分析の第3工程を示し、ここで、全体的なスペクトルが、各m/zピークに相関する画像で得られる。MALDI MSIから取得した画像は、スライド全体のN-グリカンの存在量を色の濃さで示し、検出された各N-グリカンのヒートマップを作成する。これにより、免疫捕捉された糖タンパク質から放出されたN-グリカンをアレイタイプの形式で視覚化でき、目的のN-グリカンをタンパク質担体にリンクさせることができる。
【0189】
最初の実験を、充分に特徴付けられたN-グリコシル化部位を有するヒト血清中の豊富な糖タンパク質であるヒトα1-アンチトリプシン(A1AT)及び免疫グロブリンG(IgG)を使用して行った(Comunale MA et al., PloS one, 2010, 5(8), e12419;Clerc, F et al., Glycoconjugate journal, 2016, 33(3), 309-343;McCarthy C et al., Journal of proteome research, 2014, 13(7), 3131-3143;Mittermayr S et al., Journal of proteome research, 2011, 10(8), 3820-3829;Saldova R et al., Journal of proteome research, 2015, 14(10), 4402-4412)。これらの糖タンパク質は、
図15及び
図19A~
図19Dに示されるように、固有のN-グリカンプロファイルを示すHPLC直交が確認される互いに異なるN-グリカンプロファイルを有する。
図15のN-グリカンプロファイルは、スポットされたA1AT及びIgGのMALDI MSIから取得され、検出された全てのN-グリカンが全体のグリカンシグナルの1%超を含むことを示している。これらのN-グリカンの提案される構造が示され、この糖タンパク質のHPLC直交特性(
図19A~
図19D)並びに他の文献ソース(Mittermayr S et al., Journal of proteome research, 2011, 10(8), 3820-3829;Saldova R et al., Journal of proteome research, 2015, 14(10), 4402-4412)に基づいて割り当てられるIgG N-グリカン上のコアフコース結合を有する。糖タンパク質の抗体捕捉は、他のアレイフォーマットで使用される免疫測定手順と同様に実施した(Chen S et al., Nature methods, 2007, 4(5), 437;Wang J et al., PROTEOMICS-Clinical Applications, 2013, 7(5-6), 378-383)。抗体は、スポットあたり200ngで手動でピペッティングされ、各スポットは1.5μLの容量であった。ウェルは、クリップオン(clip-on)ウェルモジュール及びウェル内にスポットされた抗体を使用して作成した。スライド又は他の抗体への非特異的結合を防ぐために、スライドを1%BSAでブロックした。
図16Aは、タンパク質をスライドに直接スポットした後、未結合のタンパク質を除去するために洗浄した際に、スライドがA1AT結合を防ぐのに十分にブロックされていることを示している。A1ATを100μLのサンプルと同様に添加した場合、
図16Bに示すように、その抗体に対する捕捉特異性は、抗A1ATに局在するA1AT N-グリカンで見られたが、隣接する抗IgGスポットでは見られなかった。ウェル内のスポットされた抗A1AT(赤)及び抗IgG(青)の位置を示すために円を追加した。
図16Cには、抗体に添加した一連の希釈A1ATが含まれており、糖タンパク質の捕捉の成功及び捕捉スポットに局在するN-グリカンの検出を示している。主なN-グリカンシグネチャーは、m/z=2289.7346(Hex5HexNAc4NeuAc2+3Na)からのものであり、これを
図16Cに示す。このグリカンは、A1ATの総グリカンプールの約47%に相当し、このピークは、捕捉されたタンパク質50ngで簡単に観察できる。この事は、そのグリカンの約16フェムトモルと相関しており、このプラットフォームの感度を強調している。各スポット内のN-グリカンシグナル強度は、ピーク下面積を使用して定量化した。
図16Dに示すように、免疫捕捉されたA1ATからのN-グリカンシグナルが濃度依存的に検出され、抗体(200ngでスポット)が飽和するとシグナルプラトーが観察された。この捕捉された糖タンパク質で検出された最も豊富なN-グリカンのプロファイルは、スポットされた糖タンパク質で見られたものと強い一致を示した(
図16E)。ただし、m/z=1809.6923(Hex5dHex1HexNAc4+Na)のN-グリカンは、捕捉抗体が非常に豊富であり、スポットプロファイルと捕捉プロファイルとの比較を混乱させるため、この分析から除外した。A1ATのN-グリカンプロファイルの直交分析をHPLCで行った(
図19A~
図19D)。
【0190】
このプラットフォームが複数の糖タンパク質標的を同時に分析するための多重化アレイになる可能性を説明するために、2つの糖タンパク質を比較捕捉することを試験した。ヒトA1AT及びIgGを使用し、2つのタンパク質に対する抗体を、
図17Aに示すように、各ウェル内に並べてスポットした。標準A1AT及び標準IgGの両方を含む混合物を、抗体の位置を示すために赤及び青の円を追加した
図17B及び
図17Cに示される濃度で3連の100μL容量でウェルに加えた。N-グリカンは、
図4Bに示すA1ATに固有のN-グリカンシグネチャー(m/z=2289.7898、Hex5HexNAc4NeuAc2+3Na)及び
図4CのIgGに固有のN-グリカンシグネチャー(m/z=1485.5335、Hex3dHex1HexNAc4+Na)を有する個々の捕捉スポットに局在する両方の糖タンパク質から検出された。これらの画像のタンパク質シグナルを抗体バックグラウンドシグナルと比較するための定量化を
図20A~
図20Dに示す。捕捉の特異性は、反対側の抗体及び周囲のスライド自体にタンパク質特異的なN-グリカンシグナルがないことによって観察した。このプラットフォームの目標はバイオマーカー発見のための生体試料への適用であるため、保存ヒト血清は、より複雑な混合物からの糖タンパク質A1AT及びIgGの比較捕捉にも使用した。市販のヒト血清をPBS(1:100)で希釈し、前述のようにA1AT抗体及びIgG抗体の両方を含むウェルに添加した。
図17D及び
図17Eは、わずか1μLの血清から捕捉された両方の糖タンパク質に関連するN-グリカンの特徴を示しており、これもまた、捕捉の大きな特異性を示している。
【0191】
この新しいプラットフォームのアプリケーションは、患者の生体液試料から捕捉されたタンパク質のN-グリカンの疾患固有の変化の発見である。概念実証として、肝硬変の5人の患者から血清をプールし、プールした試料1μLを3連ずつアレイに添加した。血清試料は、ウェルに加える前にPBSで1:100に希釈した。糖タンパク質は、
図18A~
図18Dに示すイメージングデータ及びIgGの全体的なN-グリカンプロファイルを有する検出可能なレベルの別個のN-グリカンを有するそれらの抗体によって、再び特異的に捕捉された。特に、m/z=1485.5328(Hex3dHex1HexNAc4+Na)のIgG非ガラクトシル化N-グリカンの増加が、保存ヒト血清と比較して肝硬変血清で観察されたことを
図18A~
図18Cに示す。この特定のN-グリカンは、肝硬変血清で増加することが以前に報告されており(Mehta AS et al., Journal of virology, 2008, 82(3), 1259-1270;Lamontagne A et al., PloS one, 2013, 8(6), e64992)、この新しいプラットフォームはそれらの発見との一致を示した。ガラクトシル化二分岐N-グリカン(m/z=1809.6293、Hex5dHex1HexNAc4+Na及び1647.5545Hex4dHex1HexNAc4+Na)のその後の減少も観察された(
図18B及び
図18C)。
図18Dに示されるように、A1ATはまた、結合特異性を失うことなく、これらの肝硬変サンプルから首尾よく捕捉された。この実験は、バイオマーカーの目的で疾患に関連するN-グリカンの変化を検出するために、このプラットフォームを患者の試料に適用する将来の可能性を示している。さらに、これらの結果は、最小限の試料消費を必要とする臨床的に適切な方法での生体液試料からのタンパク質特異的N-グリカン分析のための新しいMALDIMSIプラットフォームの開発を示している。
【0192】
ここでは、生体試料からタンパク質特異的な方法でN-グリカンを多重化検出するための新しい質量分析イメージング(MSI)プラットフォームについて説明する。この技術の開発は、MALDIMSIの組織切片からN-グリカンを酵素的に放出するための確立されたプロトコルに基づいた(Powers TW et al., PloS one, 2014, 9(9), e106255;Powers TW et al., Analytical chemistry, 2013, 85(20), 9799-9806)。MSIによる検出を伴う2次元分析により、スライドベースの抗体アレイに沿ったN-グリカンシグナルのキャリアタンパク質へのマッピングが可能になる。このプラットフォームでは、ELISAと同様に、複雑な生体混合物から糖タンパク質標的を特異的に捕捉するために抗体が不可欠である。しかし、ELISAとは異なり、質量分析は異なるN-グリカンの高感度で特異的な検出を提供するため、この方法論には二次抗体やレクチンは必要ない。抗体の捕捉により、MS分析前の試料クリーンアップの必要性もなくなる(Kailemia MJ et al., Analytical and bioanalytical chemistry, 2017, 409(2), 395-410;Kuzmanov U et al., BMC medicine, 2013, 11(1), 31;Song T et al., Analytical chemistry, 2015, 87(15), 7754-7762;Ruhaak LR et al., Analytical chemistry, 2008, 80(15), 6119-6126;Reiding KR et al., Analytical chemistry, 2014, 86(12), 5784-5793)。さらに、罹患血清に存在するヘテロ親和性抗体による特異性の喪失に関する典型的な問題は観察されなかったが、これは、この技術の重要な利点である(Bolstad N et al., Best practice & research Clinical endocrinology & metabolism, 2013, 27(5), 647-661)。抗体捕捉は、以前はMALDIMS分析のために単一の標的タンパク質を捕捉するために使用されていた(Darebna P et al., Clinical chemistry, 2018, 64(9), 1319-1326;Pompach P et al., Clinical chemistry, 2016, 62(1), 270-278)。しかしながら、本発明の新規多重化技術は、1回のイメージング実行で潜在的に数百又は数千の異なるN-糖タンパク質の分析のために拡張することが可能である。アレイ上の各糖タンパク質に局在する可能性のある数百のN-グリカン種を示すスペクトルが収集されるため、実行ごとに膨大な量のデータが生成される。したがって、この方法は、多くの標的タンパク質にわたるN-グリコシル化を同時に特性評価するための有力な機能を有する。
【0193】
この新しい方法は、既存のN-グリカンバイオマーカー検出技術の機能を拡張する。レクチンマイクロアレイは、バイオマーカー設定でのN-グリカンの変化の検出に使用されてきた(Chen S et al., Nature methods, 2007, 4(5), 437;Yue T et al., Molecular & Cellular Proteomics, 2009, 8(7), 1697-1707;Nagaraj VJ et al., Biochemical and biophysical research communications, 2008, 375(4), 526-530;Patwa TH et al., Analytical chemistry, 2006, 78(18), 6411-6421)。しかしながら、本発明の新規MSI検出方法は、そのような分析から取得できる情報の量を大幅に増やす。レクチンはN-グリカンの構造モチーフに結合するが、MALDI MSI検出は、N-グリカンに可能性のある組成情報を提供する。この方法は、例えばイオン移動度などの他の機器の使用に容易に適合させることができ、これにより、N-グリコフォームの構成に関する報告が可能となるであろう。さらに、MALDI MSIは、各糖タンパク質捕捉スポットの完全なマススペクトルを取得し、標的化レクチン分析でプローブされる少数の選択とは対照的に、糖タンパク質標的ごとに数百のN-グリカン質量をプローブ可能になる。各タンパク質に存在するグリカンの不均一性の検出は、グリカン比の計算に使用でき、臨床的に利用できるタンパク質の全体的なグリコシル化における重要な変化を表している場合がある(Callewaert N et al., Nature medicine, 2004, 10(4), 429;Verhelst X et al., Clinical Cancer Research, 2017, 23(11), 2750-2758)。前述のように、組織のMSI分析は、疾患の存在下でのN-グリカンの変化を解明するために使用されてきた(Powers T et al., Biomolecules, 2015, 5(4), 2554-2572;Kunzke T et al., Oncotarget, 2017, 8(40), 68012;West CA et al., Journal of proteome research, 2018, 17(10), 3454-3462;Scott DA et al., PROTEOMICS-Clinical Applications, 2019, 13(1), 1800014)。組織ベースの分析は、予後診断や病理学的検査によく使用されるが、血清やその他の生体液のように、疾患を早期発見するためのアクセス可能な材料としては使用されない。本発明の新しいバイオマーカーの発見及び検証のプラットフォームは、血清や尿などの容易に利用可能な患者の体液で簡単に使用される。
【0194】
より多くの抗体を追加して、分析ごとにより多くの糖タンパク質をプローブできるようにしてもよい。この改善は、結合親和性及び特異性の両方において、これらの抗体の品質によって制限されるであろう。抗体に存在するN-グリカンを除去して、バックグラウンドシグナルを制限してもよい。この手法は、検出されたグリカンの追加の構造情報や、より臨床的にアクセス可能なMSI機器のために、他の質量分析プラットフォームに適用可能である。N-グリカンだけでなくペプチドの質量分析イメージングを使用して、各抗体での糖タンパク質結合特異性を確認できる。
【0195】
本研究で調査されたMSIプラットフォームは、バイオマーカー発見ツールとしての有用性と、容易に利用可能な臨床生体液試料中の多くの疾患の新しいスクリーニングプラットフォームとしての有用性を示している。このプラットフォームは、わずか1μLのヒト血清から捕捉された糖タンパク質上のN-グリカンを検出することができ、患者の試料消費を最小限に抑えてその有効性を示す。N-グリカン及びその疾患進行における役割は、生物医学研究の重要な新しいフロンティアとして急速に認識されるようになりつつある。ただし、この新しい手法のアプリケーションは、N-グリカンや生体液試料だけにとどまらず、このプラットフォームは、細胞上清などの液体で使用すること、他のクラスのグリカンや翻訳後修飾をプローブすることなども可能であろう。
【0196】
本明細書で引用された全ての特許、特許出願、及び刊行物の開示は、参照によりその全体が本明細書に援用される。
【0197】
本発明は特定の実施形態を参照して開示されてきたが、本発明の他の実施形態及び変形は、本発明の真の精神及び範囲から逸脱することなく、当業者によって考案され得ることは明らかである。添付の特許請求の範囲は、そのようなすべての実施形態及び同等の変形を含むと解釈されることを意図している。
本発明は特定の実施形態を参照して開示されてきたが、本発明の他の実施形態及び変形は、本発明の真の精神及び範囲から逸脱することなく、当業者によって考案され得ることは明らかである。添付の特許請求の範囲は、そのようなすべての実施形態及び同等の変形を含むと解釈されることを意図している。
本発明の態様の一部を以下に記載する。
1.少なくとも1つの試料のグリカン分析ための方法であって、
複数の抗体がスポットされた表面を有する基板を提供する工程、
ブロッキング溶液中で前記基板をインキュベートする工程、
少なくとも1つの試料で前記基板をインキュベートする工程、
前記基板に酵素放出溶液を噴霧する工程、及び
質量分析によって前記基板をスキャンして、グリカンの存在を検出及び識別する工程、
を含む、方法。
2.前記少なくとも1つの試料が、少なくとも1つのタンパク質溶液を含む、項目1に記載の方法。
3.前記少なくとも1つの試料が、少なくとも1つの細胞集団を含む、項目1に記載の方法。
4.前記少なくとも1つの細胞集団が、前記基板に酵素放出溶液を噴霧する工程の前に、固定剤及びリンス剤中でインキュベートされる、項目3に記載の方法。
5.前記固定及びリンス剤が、ホルマリン、カルノア液、パラホルムアルデヒド、エタノール系固定剤、及びポリエチレングリコール系固定剤からなる群から選択される、項目4に記載の方法。
6.前記基板がガラス又はプラスチックの顕微鏡スライド又はマルチウェルプレートである、項目1に記載の方法。
7.前記ブロッキング溶液が血清である、項目1に記載の方法。
8.前記血清が、PBS及び洗浄剤中の1%BSAである、項目7に記載の方法。
9.前記ブロッキング溶液が、3×PBS浴及び1×水浴を含む洗浄工程で除去される、項目1に記載の方法。
10.前記少なくとも1つの試料が、湿度チャンバー内で室温で2時間インキュベートされる、項目1に記載の方法。
11.前記酵素放出溶液がPNGaseFを含む、項目1に記載の方法。
12.前記質量分析は、マトリックス支援レーザー脱離イオン化イメージングフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(MALDI-FTICR)質量分析、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型(MALDI-TOF)質量分析、走査型マイクロプローブMALDI(SMALDI)質量分析、赤外線マトリックス支援レーザー脱離エレクトロスプレーイオン化(MALD-ESI)質量分析、表面支援レーザー脱離イオン化(SALDI)質量分析、脱離エレクトロスプレーイオン化(DESI)質量分析、二次イオン質量分析(SIMS)、及びイージーアンビエントソニックスプレーイオン化(EASI)質量分析からなる群から選択される、項目1に記載の方法。
13.前記スキャンする工程は、前記基板にMALDIマトリックス材料を噴霧する工程が先行する、項目12に記載の方法。
14.前記MALDIマトリックス溶液が、2,5-ジヒドロキシ安息香酸、α-シアノ-4-ヒドロキシ桂皮酸、シナピン酸、1,5-ジアミノナフタレン、及び9-アミノアクリジンからなる群から選択される、項目13に記載の方法。
15.前記複数の抗体が、A1AT、フェチュイン-A、ヘモペキシン、Apo-J、LMWキニノーゲン、HMWキニノーゲン、apo-H、トランスフェリン、IgG、IgM、IgA、フィブロネクチン、ラミニン、セルロプラスミン、フィブリン、アンギオテンシノーゲン、フィブリリン-1、TIMP1、トロンボスポンジン1、ガレクチン-3結合タンパク質、補体C1R、クラステリン、ガレクチン1、α-2-マクログロブリン、ビタミンD結合タンパク質、ヒスチジンリッチ糖タンパク質、ヒスチジンリッチ糖タンパク質、CD109、CEA、カテプシン、AFP、GP731、及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるタンパク質に特異的に結合する、項目1に記載の方法。
16.前記抗体が肝細胞癌の存在を検出するのに有用である、項目14に記載の方法。
17.少なくとも1つの細胞集団のグリカン分析ための方法であって、
少なくとも1つの細胞集団を基板の表面に付着させる工程、
前記少なくとも1つの細胞集団を固定及びリンスする工程、
前記基板に酵素放出溶液を噴霧する工程、及び
質量分析によって前記基板をスキャンして、グリカンの存在を検出及び識別する工程、
を含む、方法。
18.前記少なくとも1つの細胞集団が、培養、沈着、塗布、塗抹、又は遠心分離によって接着される、項目17に記載の方法。
19.前記固定剤及びリンス剤が、ホルマリン、カルノア液、パラホルムアルデヒド、エタノール系固定剤、及びポリエチレングリコール系固定剤からなる群から選択される、項目17に記載の方法。
20.前記基板がガラス又はプラスチックの顕微鏡スライド又はマルチウェルプレートである、項目17に記載の方法。
21.前記基板表面が、インジウムスズオキシドコーティング、ゼラチンコーティング、コラーゲンコーティング、ポリ-L-リジンコーティング、ポリ-オルニチンコーティング、細胞外マトリックスコーティング、タンパク質コーティング、及び表面イオン化の1又は複数を含む、項目17に記載の方法。
22.前記酵素放出溶液がPNGaseFを含む、項目17に記載の方法。
23.前記質量分析は、マトリックス支援レーザー脱離イオン化イメージングフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(MALDI-FTICR)質量分析、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型(MALDI-TOF)質量分析、走査型マイクロプローブMALDI(SMALDI)質量分析、赤外線マトリックス支援レーザー脱離エレクトロスプレーイオン化(MALD-ESI)質量分析、表面支援レーザー脱離イオン化(SALDI)質量分析、脱離エレクトロスプレーイオン化(DESI)質量分析、二次イオン質量分析(SIMS)、及びイージーアンビエントソニックスプレーイオン化(EASI)質量分析からなる群から選択される、項目17に記載の方法。
24.前記スキャンする工程は、前記基板にMALDIマトリックス材料を噴霧する工程が先行する、項目23に記載の方法。
25.前記MALDIマトリックス溶液が、2,5-ジヒドロキシ安息香酸、α-シアノ-4-ヒドロキシ桂皮酸、シナピン酸、1,5-ジアミノナフタレン、及び9-アミノアクリジンからなる群から選択される、項目24に記載の方法。
26.タンパク質試料のグリカン分析用キットであって、
少なくとも1つの基板であって、各基板が複数の抗体がスポットされた表面を有する、少なくとも1つの基板、
少なくとも1つのブロッキング溶液、
少なくとも1つの酵素放出溶液、及び
少なくとも1つのMALDIマトリックス材料、
を含む、キット。
27.前記基板がガラス又はプラスチックの顕微鏡スライド又はマルチウェルプレートである、項目24に記載のキット。
28.前記ブロッキング溶液が血清である、項目24に記載のキット。
29.前記血清が、PBS及び洗浄剤中の1%BSAである、項目24に記載のキット。
30.前記酵素放出溶液がPNGaseFを含む、項目24に記載のキット。
31.前記MALDIマトリックス溶液がα-シアノ-4-ヒドロキシ桂皮酸である、項目24に記載のキット。