(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024016407
(43)【公開日】2024-02-07
(54)【発明の名称】トロイダル型無段変速機
(51)【国際特許分類】
F16H 15/38 20060101AFI20240131BHJP
【FI】
F16H15/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022118493
(22)【出願日】2022-07-26
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104547
【弁理士】
【氏名又は名称】栗林 三男
(74)【代理人】
【識別番号】100206612
【弁理士】
【氏名又は名称】新田 修博
(74)【代理人】
【識別番号】100209749
【弁理士】
【氏名又は名称】栗林 和輝
(74)【代理人】
【識別番号】100217755
【弁理士】
【氏名又は名称】三浦 淳史
(72)【発明者】
【氏名】岩瀬 正典
【テーマコード(参考)】
3J051
【Fターム(参考)】
3J051AA03
3J051BA03
3J051BB02
3J051BD01
3J051BE09
3J051CA05
3J051CB07
3J051EB03
3J051EC02
3J051FA02
(57)【要約】
【課題】軸受支持構造における介挿部材と軸方向支持部材との接触面で発生する滑り摩擦を低減して軸方向支持部材が破損するのを防止できるトロイダル型無段変速機を提供する。
【解決手段】トロイダル型無段変速機では、出力側ディスク3と入力シャフト1との間に介挿される軸受5を軸方向で支持するように入力シャフト1に取り付けられる止め輪90と、止め輪90と軸受5との間に介挿されるシム92とによって、軸受5の軸方向の移動を規制する軸受支持構造80が構成される。シム92は、少なくとも止め輪90と接触する接触面92aが、止め輪90との滑り摩擦を低減する摩擦低減面Sとして形成されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力シャフトと、
前記入力シャフト上に同心的に設けられるとともに、軸方向に互いに離隔した状態で同期して回転する、それぞれが入力側ディスク及び出力側ディスクのうちの一方のディスクである、一対の外側ディスクと、
前記両外側ディスク同士の間で前記入力シャフト上に前記両外側ディスクと同心的に且つこれら両外側ディスクに対する相対回転を自在に設けられる、入力側ディスク及び出力側ディスクのうちの他方のディスクである、内側ディスクと、
前記両外側ディスク及び前記内側ディスクの互いに対向する側面同士の間にそれぞれ複数個ずつ配置されたパワーローラと、
を備えるダブルキャビティ型のトロイダル型無段変速機において、
前記内側ディスクを前記入力シャフトに対して回転可能に支持する軸受と、
前記軸受を軸方向で支持するように前記内側ディスク又は前記入力シャフトのいずれかに取り付けられる軸方向支持部材と、該軸方向支持部材と前記軸受との間に介挿される介挿部材とによって、前記軸受の軸方向の移動を規制する軸受支持構造と、
を有し、
前記介挿部材は、少なくとも前記軸方向支持部材と接触する接触面が、前記軸方向支持部材との滑り摩擦を低減する摩擦低減面として形成されていることを特徴とするトロイダル型無段変速機。
【請求項2】
前記摩擦低減面は、前記介挿部材の前記接触面を表面処理することによって摩擦低減作用をもたらすことを特徴とする請求項1に記載のトロイダル型無段変速機。
【請求項3】
前記摩擦低減面は、前記介挿部材の前記接触面に表面加工を施すことによって摩擦低減作用をもたらすことを特徴とする請求項1に記載のトロイダル型無段変速機。
【請求項4】
前記介挿部材は、前記軸方向支持部材よりも摩擦係数が小さい材料によって形成されていることを特徴とする請求項1に記載のトロイダル型無段変速機。
【請求項5】
前記軸受が円筒ころ軸受又はケージアンドローラであり、前記軸方向支持部材が止め輪であり、前記介挿部材がシムであることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のトロイダル型無段変速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機や自動車などで用いられるトロイダル型無段変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、例えば航空機や自動車などに用いられる変速機として、ダブルキャビティ式トロイダル型無段変速機が知られている。このダブルキャビティ式トロイダル型無段変速機は、例えば、
図3及び
図4に示されるように構成されている。すなわち、
図3に示されるように、ケーシング150の内側には入力シャフト1が回転可能に支持されており、この入力シャフト1の外周には、2つの入力側ディスク2,2と2つの出力側ディスク3,3とが取り付けられている。
【0003】
なお、一般に、ダブルキャビティ式トロイダル型無段変速機では、入力側ディスク及び出力側ディスクのうちのいずれか一方である一対の外側ディスクと、これらの外側ディスク同士の間に該外側ディスクに対して同心的に且つ相対回転自在に設けられるとともに、入力側ディスク及び出力側ディスクのうちの他方である一対の内側ディスクとが、入力シャフト1に沿って配置されるが、ここでは、外側ディスクが入力側ディスクであり、内側ディスクが出力側ディスクである構造の一例について説明する。
【0004】
この無段変速機において、入力シャフト1の中間部の外周には出力歯車4が回転可能に支持されている。この出力歯車4の中心部に設けられた円筒状のフランジ部4a,4aには、出力側ディスク3,3がスプライン結合によって連結されている。入力シャフト1は、図中左側に位置する入力側ディスク2とカム板(ローディングカム)7との間に設けられたローディングカム式の押圧装置12を介して、駆動軸22により回転駆動されるようになっている。また、出力歯車4は、2つの部材の結合によって構成された中間壁13を介してケーシング150内に支持されており、これにより、入力シャフト1の軸線Oを中心に回転できる一方で、軸線O方向の変位が阻止されている。
【0005】
図3に示されるように、出力側ディスク3,3は、入力シャフト1との間に介在された軸受5,5によって、入力シャフト1の軸線Oを中心に回転可能に支持されている。また、図中左側の入力側ディスク2は、入力シャフト1にボールスプライン6を介して支持され、図中右側の入力側ディスク2は、入力シャフト1にスプライン結合されており、これらの入力側ディスク2は入力シャフト1とともに回転するようになっている。また、入力側ディスク2,2の内側面(凹面;トラクション面とも言う)2a,2aと出力側ディスク3,3の内側面(凹面;トラクション面とも言う)3a,3aとの間には、パワーローラ11(
図4参照)が回転可能に挟持されている。
【0006】
一例として、
図3中右側に位置する入力側ディスク2の内周面2cには、段差部2bが設けられ、この段差部2bに、入力シャフト1の外周面1aに設けられた段差部1bが突き当てられるとともに、入力側ディスク2の背面(
図3の右面)は、入力シャフト1の外周面に形成されたネジ部に螺合されたローディングナット9に突き当てられている。これによって、入力側ディスク2の入力シャフト1に対する軸線O方向の変位が実質的に阻止されている。また、カム板7と入力シャフト1の鍔部1dとの間には、皿ばね8が設けられており、この皿ばね8は、各ディスク2,2,3,3の凹面2a,2a,3a,3aとパワーローラ11,11の周面11a,11aとの当接部に押圧力(予圧)を付与する。
【0007】
図4は、
図3のA-A線に沿う断面図である。
図4に示されるように、ケーシング150の内側には、入力シャフト1に対し捻れの位置にある一対の枢軸14,14を中心として揺動する一対のトラニオン15,15が設けられている。なお、
図4においては、入力シャフト1の図示は省略している。各トラニオン15,15は、支持板部16の長手方向(
図4の上下方向)の両端部に、この支持板部16の内側面側に折れ曲がる状態で形成された一対の折れ曲がり壁部20,20を有している。そして、この折れ曲がり壁部20,20によって、各トラニオン15,15には、パワーローラ11を収容するための凹状のポケット部Pが形成される。また、各折れ曲がり壁部20,20の外側面には、各枢軸14,14が互いに同心的に設けられている。
【0008】
支持板部16の中央部には円孔21が形成され、この円孔21には変位軸(ピボット軸)23の基端部を成す支持軸部23aが支持されている。そして、各枢軸14,14を中心として各トラニオン15,15を揺動させることにより、これらの各トラニオン15,15の中央部に支持された変位軸23の傾斜角度を調節できるようになっている。また、各トラニオン15,15の内側面から突出する変位軸23の先端部を成す枢支軸部23bの周囲には、各パワーローラ11がラジアルニードル軸受(例えば、後述するスラスト玉軸受24の内輪(パワーローラ11)に作用する押付荷重を受ける(ラジアル方向の荷重を支承する)針状ころ軸受;ケージアンドローラ)35を介して回転可能に支持されており、各パワーローラ11,11は、各入力側ディスク2,2及び各出力側ディスク3,3の間に挟持されている。なお、各変位軸23,23の支持軸部23aと枢支軸部23bとは、互いに偏心している。
【0009】
また、各トラニオン15,15の枢軸14,14はそれぞれ、一対のヨーク23A,23Bに対して揺動自在及び軸方向(
図4の上下方向)に変位自在に支持されており、各ヨーク23A,23Bにより、トラニオン15,15はその水平方向の移動を規制されている。各ヨーク23A,23Bは鋼等の金属のプレス加工あるいは鍛造加工により矩形状に形成されている。各ヨーク23A,23Bの四隅には円形の支持孔18が4つ設けられており、これらの支持孔18にはそれぞれ、トラニオン15の両端部に設けた枢軸14がラジアルニードル軸受30を介して揺動自在に支持されている。また、ヨーク23A,23Bの幅方向(
図4の左右方向)の中央部には、円形の係止孔19が設けられており、この係止孔19の内周面は円筒面として、球面ポスト64,68を内嵌している。すなわち、上側のヨーク23Aは、ケーシング150に固定部材52を介して支持されている球面ポスト64によって揺動自在に支持されており、下側のヨーク23Bは、球面ポスト68及びこれを支持する駆動シリンダ(シリンダボディ)31の上側シリンダボディ61によって揺動自在に支持されている。
【0010】
なお、各トラニオン15,15に設けられた各変位軸23,23は、入力シャフト1に対し、互いに180度反対側の位置に設けられている。また、これらの各変位軸23,23の枢支軸部23bが支持軸部23aに対して偏心している方向は、両ディスク2,2,3,3の回転方向に対して同方向(
図4で上下逆方向)となっている。また、偏心方向は、入力シャフト1の配設方向に対して略直交する方向となっている。したがって、各パワーローラ11,11は、入力シャフト1の長手方向に若干変位できるように支持される。その結果、ローディングカム式の押圧装置12が発生するスラスト荷重に基づく各構成部材の弾性変形等に起因して、各パワーローラ11,11が入力シャフト1の軸方向に変位する傾向となった場合でも、各構成部材に無理な力が加わらず、この変位が吸収される。
【0011】
また、パワーローラ11の外側面(大端面)11bとトラニオン15の支持板部16の内側面16aとの間には、パワーローラ11の外側面11bの側から順に、スラスト転がり軸受であるスラスト玉軸受(スラスト軸受)24と、スラストニードル軸受25とが設けられている。このうち、スラスト玉軸受24は、各パワーローラ11に加わるスラスト方向の荷重を支承しつつ、これらの各パワーローラ11の回転を許容するものである。このようなスラスト玉軸受24はそれぞれ、複数個ずつの玉(転動体)26,26と、これらの各転動体26,26を転動可能に保持する円環状の保持器27と、円環状の外輪28とから構成されている。また、各スラスト玉軸受24の内輪軌道面24aは各パワーローラ11の外側面11bに、外輪軌道面24bは各外輪28の内側面にそれぞれ形成されている。
【0012】
また、スラストニードル軸受25は、トラニオン15の支持板部16の内側面16aと外輪28の外側面との間に挟持されている。このようなスラストニードル軸受25は、パワーローラ11から各外輪28に加わるスラスト荷重を支承しつつ、これらのパワーローラ11及び外輪28が各変位軸23の支持軸部23aを中心として揺動することを許容する。
【0013】
更に、各トラニオン15,15の一端部(
図4の下端部)にはそれぞれ駆動ロッド(トラニオン軸)29,29が設けられており、各駆動ロッド29,29の中間部外周面に駆動ピストン(油圧ピストン)33,33が固設されている。そして、これらの各駆動ピストン33,33はそれぞれ、上側シリンダボディ61と下側シリンダボディ62とによって構成された駆動シリンダ31内に油密に嵌装されている。これらの各駆動ピストン33,33と駆動シリンダ31とにより、各トラニオン15,15を、これらのトラニオン15,15の枢軸14,14の軸方向に変位させる駆動装置32を構成している。
【0014】
このように構成されたトロイダル型無段変速機の場合、入力シャフト1の回転は、ローディングカム式の押圧装置12を介して、各入力側ディスク2,2に伝えられる。そして、これら入力側ディスク2,2の回転が、一対のパワーローラ11,11を介して反対方向の回転として各出力側ディスク3,3に伝えられ、更に、これら各出力側ディスク3,3の回転が、出力歯車4より取り出される。
【0015】
入力シャフト1と出力歯車4との間の回転速度比を変える場合には、一対の駆動ピストン33,33を互いに逆方向に変位させる。これらの各駆動ピストン33,33の変位に伴って、一対のトラニオン15,15が互いに逆方向に変位する。例えば、
図4の左側のパワーローラ11が同図の下側に、同図の右側のパワーローラ11が同図の上側にそれぞれ変位する。
【0016】
その結果、これらの各パワーローラ11,11の周面11a,11aと各入力側ディスク2,2及び各出力側ディスク3,3の内側面2a,2a,3a,3aとの当接部に作用する接線方向の力の向きが変化する。そして、この力の向きの変化に伴って、各トラニオン15,15が、ヨーク23A,23Bに枢支された枢軸14,14を中心として、互いに逆方向に揺動(傾転)する。
【0017】
その結果、各パワーローラ11,11の周面11a,11aと各内側面2a,3aとの当接位置が変化し、入力シャフト1と出力歯車4との間の回転速度比が変化する。また、これら入力シャフト1と出力歯車4との間で伝達するトルクが変動し、各構成部材の弾性変形量が変化すると、各パワーローラ11,11及びこれらの各パワーローラ11,11に付属の外輪28,28が、各変位軸23,23の支持軸部23a,23aを中心として僅かに回動する。これら各外輪28,28の外側面と各トラニオン15,15を構成する支持板部16の内側面との間には、それぞれスラストニードル軸受25,25が存在するため、前記回動は円滑に行われる。したがって、前述のように各変位軸23,23の傾斜角度を変化させるための力が小さくて済む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
ところで、内側ディスク、すなわち、前述した構造例においては出力側ディスク3,3は、前述したように軸受5を介して入力シャフト1の軸線O周りに回転可能に支持されるが、この場合、軸受5として、ころ軸受、特に、保持器の複数のポケットに複数のころが配置されて成るケージアンドローラ(C&R)が使用される場合には、そのような形態の軸受は軸方向の移動規制手段を有していないため、その軸方向の移動を阻止するべく軸受5を軸方向で支持する必要がある。そのため、例えば、従来においては、
図5に示されるように、軸受5を軸方向で支持するように入力シャフト1側に取り付けられる軸方向支持部材としての止め輪90と、止め輪90と軸受50との間に介挿される介挿部材としてのシム92とによって、軸受5の軸方向の移動を規制している。
【0020】
しかしながら、このように止め輪90と軸受5との間にシム92を介挿して軸受5の軸方向の移動を阻止する支持形態は、シム92の介挿形態に起因して止め輪90が摩耗する虞があるという問題を伴う。
【0021】
すなわち、シム92は、軸受5と止め輪90との間に単に挟持された状態で介挿されているにすぎないため、一般に入力シャフト1との間に隙間を伴う。したがって、前述したように出力側ディスク3の回転の向きと入力シャフト1の回転の向きとが反対であることにより、そのような相対回転をケージアンドローラである軸受5が支持しなければならないとともに、そのような軸受5の保持器が出力側ディスク3の側で案内支持されることから、該軸受保持器も出力側ディスク3と共に回転することとなる状況では、入力シャフト1との間に隙間を存して止め輪90と軸受5との間に介挿されているにすぎないシム92も軸受保持器と共に入力シャフト1の回転方向と反対の向きで回転する可能性がある。その場合、シム92は、入力シャフト1側に取り付けられて入力シャフト1と共に回転する止め輪90に対して相対回転する状態となるため、シム92と止め輪90との接触面で滑り摩擦が発生し、シム92よりも硬度が小さい止め輪90(一般に、シム92は焼き入れ鋼により形成され、止め輪90はばね鋼により形成される)が摩耗するようになる。
【0022】
特に軸受5が支持する出力側ディスク3と入力シャフト1との間の相対回転数が最大30000rpm程度となり得る航空機用途(高速回転用途)では、軸受5の保持器もこれと同様の回転数で出力側ディスク3と共に回転する可能性があるため、シム92と止め輪90との接触面で発生する滑り摩擦が大きくなり、したがって、止め輪90の摩耗も激しくなる。
【0023】
また、出力側ディスク3及び入力シャフト1はトルクの変化により軸方向位置が変化し得る(
図5の矢印参照)ため、軸受5を軸方向で支持している止め輪90が前述したように摩耗して、その摩耗の進行により破損してしまうと、軸受5の軸方向支持がなくなり、軸受5が正規の位置から外れて、軸受5の破損、焼き付きが発生してしまう可能性がある。軸受5が破損すると、軸受5によって支持されている出力側ディスク3や入力シャフト1の振れが大きくなり、これらにより構成されるバリエータの非同期が発生して動力伝達が不可能になる虞がある。また、軸受5(保持器)の破損時に周辺部品に衝撃を与え出力側ディスク3や入力シャフト1の割れが発生する可能性もある。
【0024】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたもので、内側ディスクを入力シャフトに対して回転可能に支持する軸受を軸方向で支持する軸方向支持部材と、該軸方向支持部材と軸受との間に介挿される介挿部材とによって軸受の軸方向の移動を規制する軸受支持形態において、介挿部材と軸方向支持部材との接触面で発生する滑り摩擦を低減して軸方向支持部材が破損するのを防止できるトロイダル型無段変速機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
前記目的を達成するために、本発明は、入力シャフトと、前記入力シャフト上に同心的に設けられるとともに、軸方向に互いに離隔した状態で同期して回転する、それぞれが入力側ディスク及び出力側ディスクのうちの一方のディスクである、一対の外側ディスクと、前記両外側ディスク同士の間で前記入力シャフト上に前記両外側ディスクと同心的に且つこれら両外側ディスクに対する相対回転を自在に設けられる、入力側ディスク及び出力側ディスクのうちの他方のディスクである、内側ディスクと、前記両外側ディスク及び前記内側ディスクの互いに対向する側面同士の間にそれぞれ複数個ずつ配置されたパワーローラとを備えるダブルキャビティ型のトロイダル型無段変速機において、前記内側ディスクを前記入力シャフトに対して回転可能に支持する軸受と、前記軸受を軸方向で支持するように前記内側ディスク又は前記入力シャフトのいずれかに取り付けられる軸方向支持部材と、該軸方向支持部材と前記軸受との間に介挿される介挿部材とによって、前記軸受の軸方向の移動を規制する軸受支持構造とを有し、前記介挿部材は、少なくとも前記軸方向支持部材と接触する接触面が、前記軸方向支持部材との滑り摩擦を低減する摩擦低減面として形成されていることを特徴とする。
【0026】
上記構成によれば、介挿部材は、少なくとも軸方向支持部材と接触する接触面が、軸方向支持部材との滑り摩擦を低減する摩擦低減面として形成されているため、入力シャフトとの間に隙間を伴うことにより内側ディスクの回転に伴って(例えば軸受保持器と共に)連れ回りするような場合であっても、軸方向支持部材との接触面で発生する滑り摩擦を低減することができる。そのため、軸方向支持部材の硬度が介挿部材のそれよりも小さい場合に、前記滑り摩擦に伴う軸方向支持部材の破損を防止できる。これは、特に軸受が支持する出力側ディスクと入力シャフトとの間の相対回転数が最大30000rpm程度となり得る航空機用途(高速回転用途)において有益である。
【0027】
また、このように軸方向支持部材の破損を防止できれば、軸方向支持部材による軸受の軸方向支持を常に確保できるため、トルク変化による内側ディスク及び入力シャフトの軸方向位置の変化に伴って軸受が正規の位置から外れて、軸受の破損、焼き付きが発生してしまうといった事態も回避できる。したがって、軸受の破損に伴う内側ディスクや入力シャフトの大きな振れ、それに起因するバリエータ非同期による動力伝達不可といった事態、或いは、軸受破損時の衝撃に伴う内側ディスクや入力シャフトの割れも回避できる。
【0028】
なお、上記構成において、軸受としては、どのような構造形態のものであってもよいが、例えば円筒ころ軸受やケージアンドローラを挙げることができる。このようなケージアンドローラ等は、軸方向の移動規制手段を有していないため、軸方向支持部材の設置が必須であることから、上記構成にしたがって軸方向支持部材の破損を防止できることは有益である。また、上記構成において、軸方向支持部材としては、例えば止め輪を挙げることができ、また、介挿部材としては、例えば環状のシムを挙げることができる。いずれにしても、本構成においては、軸受をその軸方向の両側で支持する必要があるが、そのような両側の軸受支持構造のうち少なくとも一方側で、前述した構成、すなわち、軸方向支持部材と摩擦低減面を有する介挿部材とから成る軸受支持構造が採用されさえすればよい(他方側の軸受支持構造は、軸方向支持部材及び介挿部材を伴わない他の支持構造であってもよい)。
【0029】
また、上記構成においては、外側ディスクが入力側ディスクで且つ内側ディスクが出力側ディスクであってもよく、或いは、その逆の形態、すなわち、外側ディスクが出力側ディスクで且つ内側ディスクが入力側ディスクであっても構わない。また、内側ディスクは、一対の外側ディスクのそれぞれに対応して一対設けられてもよいが、それらの対が一体となった1つの内側ディスクとして存在していても構わない。
【0030】
また、上記構成において、摩擦低減面は、軸方向支持部材と接触する介挿部材の接触面を表面処理することによって、或いは、前記接触面に表面加工を施すことによって摩擦低減作用をもたらしてもよい。前記表面処理としては、軸方向支持部材と介挿部材との接触面での滑り摩擦を低減し得る表面処理、例えば、リン酸マンガン処理被膜、リン酸亜鉛処理被膜、及び、リン酸亜鉛カルシウム等のリン酸処理被膜;二硫化モリブデン、PTFE、及び、DLC等の固体潤滑剤のコーティング層;窒化浴ベースの塩浴処理等による浸硫化処理皮膜;無電解ニッケルめっき;炭化物コーティング層;(CVD、PVD等の)蒸着・反応蒸着皮膜形成法により形成した、TiN、CrN等の金属の窒化物皮膜などを介挿部材の接触面上に形成する(施す)ことを挙げることができる。また、前記表面加工としては、例えば軸方向支持部材との接触面積を減らすような凹凸を介挿部材の接触面に形成する加工、例えばディンプル加工などを挙げることができる。いずれにしても、摩擦低減面は、介挿部材の少なくとも接触面で実現されていればよく、介挿部材のその他の表面で実現されていなくてもよい。勿論、介挿部材の全表面が摩擦低減面として形成されていても構わない。
【0031】
また、介挿部材の接触面を摩擦低減面として形成する他の手法としては、介挿部材自体を摩擦低減材料によって形成する(したがって、介挿部材の全表面が摩擦低減面として形成される)ことを挙げることができる。具体的には、例えば、軸方向支持部材よりも摩擦係数が小さい材料によって、例えばセラミック等によって介挿部材を形成してもよい。すなわち、介挿部材を軸方向支持部材とは別材質の異材により形成することにより、「ともがね」をなくすようにしてもよい。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、介挿部材は、少なくとも軸方向支持部材と接触する接触面が、軸方向支持部材との滑り摩擦を低減する摩擦低減面として形成されているため、介挿部材と軸方向支持部材との接触面で発生する滑り摩擦を低減して軸方向支持部材が破損するのを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】本発明の一実施形態に係るトロイダル型無段変速機の断面図である。
【
図2】
図1のトロイダル型無段変速機の要部拡大断面図である。
【
図3】従来のトロイダル型無段変速機の一例を示す断面図である。
【
図5】従来の出力側ディスクと入力シャフトとの間に介挿される軸受の軸方向支持構造を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態について説明する。なお、本発明の特徴は、内側ディスクと入力シャフトとの間に介挿される軸受の軸方向支持構造にあり、その他の構成及び作用は前述した従来の構成及び作用と同様であるため、以下においては、本発明の特徴部分についてのみ言及し、それ以外の部分においては、
図3乃至
図5と同一の符号を付してその詳細な説明を省略又は簡略化することにする。
【0035】
図1には、本発明の一実施形態に係る特に航空機用のトロイダル型無段変速機が断面図で概略的に示されている。各部の構造形態や組み付け形態は前述した従来のトロイダル型無段変速機とは部分的に異なるが、便宜上、機能が同じ部分につき同じ参照符号が付されている。
【0036】
図示のように、本実施形態のトロイダル型無段変速機は、入力シャフト1と、入力シャフト1上に同心的に設けられるとともに、軸方向に互いに離隔した状態で同期して回転する外側ディスクとしての一対の入力側ディスク2,2と、両入力側ディスク2,2同士の間で入力シャフト1上に両入力側ディスク2,2と同心的に且つこれら両入力側ディスク2,2に対する相対回転を自在に設けられる内側ディスクとしての一対の出力側ディスク3,3と、両入力側ディスク2,2及び両出力側ディスク3,3の互いに対向する内側面2a,3a同士の間にそれぞれ複数個ずつ配置されたパワーローラ11とを有するダブルキャビティ型のものである。
【0037】
また、各出力側ディスク3と入力シャフト1との間には、一例として、保持器の複数のポケットに複数のころが配置されて成るケージアンドローラ(C&R)として形成される軸受5が介挿されている。この軸受5は、出力側ディスク3を入力シャフト1に対して回転可能に支持する。また、この軸受5の両側には、軸受5を軸方向で支持してその軸方向移動を規制する軸受支持構造80が設けられている。この軸受支持構造80は、
図2に明確に示されるように、軸受5を軸方向で支持するように入力シャフト1に取り付けられて(別の実施形態では、出力側ディスク3に取り付けられてもよい)入力シャフト1と一体で回転し得る軸方向支持部材としての環状の止め輪90と、止め輪90と軸受5(軸受5の保持器5a)との間に介挿される介挿部材としての環状のシム92とによって構成される。
【0038】
なお、軸受5は、その内輪転送面5bが入力シャフト1の外周面の軸受支持面1e上に位置決めされるとともに、その保持器5aが出力側ディスク3の側で案内支持されており、また、止め輪90は、例えばばね鋼により形成されて、軸受支持面1eに形成された環状溝1c内に部分的に嵌め付けられている。
【0039】
ここで、シム92は、軸受5と止め輪90との間に単に挟持された状態で介挿されているにすぎないため、入力シャフト1との間に隙間を伴い得る。したがって、出力側ディスク3の回転の向きと入力シャフト1の回転の向きとが反対であることにより、そのような相対回転をケージアンドローラである軸受5が支持しなければならないとともに、そのような軸受5の保持器5aが出力側ディスク3の側で案内支持されることから、保持器5aも出力側ディスク3と共に回転することとなる状況では、入力シャフト1との間に隙間を存して止め輪90と軸受5との間に介挿されているにすぎないシム92も保持器5aと共に入力シャフト1の回転方向と反対の向きで回転する可能性がある。この場合、シム92は、入力シャフト1側に取り付けられて入力シャフト1と共に回転する止め輪90に対して相対回転する状態となるため、シム92と止め輪90との接触面で滑り摩擦が発生し、シム92よりも硬度が小さい止め輪90が摩耗する虞がある。そのため、本実施形態では、そのような摩耗を引き起こす前記滑り摩擦を低減するべく、止め輪90と接触するシム92の接触面92aに特徴を有する。
【0040】
すなわち、本実施形態において、シム92は、少なくとも止め輪90と接触するその接触面92aが、止め輪90との滑り摩擦を低減する摩擦低減面Sとして形成されている。特に本実施形態において、摩擦低減面Sは、接触面92aを表面処理することによって或いは接触面92aに表面加工を施すことによって摩擦低減作用をもたらすようになっている。
【0041】
具体的に、前記表面処理としては、接触面92aでの滑り摩擦を低減し得る表面処理、例えば、リン酸マンガン処理被膜、リン酸亜鉛処理被膜、及び、リン酸亜鉛カルシウム等のリン酸処理被膜;二硫化モリブデン、PTFE、及び、DLC等の固体潤滑剤のコーティング層;窒化浴ベースの塩浴処理等による浸硫化処理皮膜;無電解ニッケルめっき;炭化物コーティング層;(CVD、PVD等の)蒸着・反応蒸着皮膜形成法により形成した、TiN、CrN等の金属の窒化物皮膜などをシム92の接触面92a上に形成する(施す)ことを挙げることができる。また、前記表面加工としては、例えば止め輪90との接触面積を減らすような凹凸をシム92の接触面92aに形成する加工、例えばディンプル加工などを挙げることができる。このような表面処理又は表面加工は、シム92の少なくとも接触面92aで実現されていればよいが、本実施形態では、少なくとも止め輪90に面するシム92の片面の全体にわたって施されている。
【0042】
また、本実施形態では、シム92自体を摩擦低減材料によって形成してもよい(したがって、シム92の全表面が摩擦低減面として形成される)。具体的には、例えば、止め輪90よりも摩擦係数が小さい材料によって、例えばセラミック等によってシム92を形成する。すなわち、シム92を止め輪90とは別材質の異材により形成することにより、「ともがね」をなくすようにする。
【0043】
以上説明したように、本実施形態において、シム92は、少なくとも止め輪90と接触する接触面92aが、止め輪90との滑り摩擦を低減する摩擦低減面Sとして形成されているため、入力シャフト1との間に隙間を伴うことにより出力側ディスク3の回転に伴って軸受5の保持器5aと共に連れ回りするような場合であっても、止め輪90との接触面92aで発生する滑り摩擦を低減することができる。そのため、止め輪90の硬度がシム92のそれよりも小さい場合に、前記滑り摩擦に伴う止め輪90の破損を防止できる。これは、特に軸受5が支持する出力側ディスク3と入力シャフト1との間の相対回転数が最大30000rpm程度となり得る航空機用途(高速回転用途)において有益である。
【0044】
また、このように止め輪90の破損を防止できれば、止め輪90による軸受5の軸方向支持を常に確保できるため、トルク変化による出力側ディスク3及び入力シャフト1の軸方向位置の変化に伴って軸受5が正規の位置から外れて、軸受5の破損、焼き付きが発生してしまうといった事態も回避できる。したがって、軸受5の破損に伴う出力側ディスク3や入力シャフト1の大きな振れ、それに起因するバリエータ非同期による動力伝達不可といった事態、或いは、軸受5の破損時の衝撃に伴う出力側ディスク3や入力シャフト1の割れも回避できる。
【0045】
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明は、前述した実施の形態に限定されず、その要旨を逸脱しない範囲内において、種々の変形が可能である。例えば、前述の実施の形態では、軸方向支持部材が止め輪であり、介挿部材がシムであったが、軸受支持部材及び介挿部材はこれらに限定されない。また、本発明のトロイダル型無段変速機の用途は限定されず、自動車や航空機など、様々な分野に適用できる。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、前述した実施の形態の一部又は全部を組み合わせてもよく、あるいは、前述した実施の形態のうちの1つから構成の一部が省かれてもよい。
【符号の説明】
【0046】
1 入力シャフト
2 入力側ディスク
3 出力側ディスク
5 軸受
11 パワーローラ
80 軸受支持構造
90 止め輪(軸方向支持部材)
92 シム(介挿部材)
92a 接触面
S 摩擦低減面