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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024164334
(43)【公開日】2024-11-27
(54)【発明の名称】クレーン振れ止め制御システム
(51)【国際特許分類】
   B66C 13/22 20060101AFI20241120BHJP
【FI】
B66C13/22 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021165423
(22)【出願日】2021-10-07
(71)【出願人】
【識別番号】503002732
【氏名又は名称】住友重機械搬送システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162640
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 康樹
(72)【発明者】
【氏名】小林 雅人
【テーマコード(参考)】
3F204
【Fターム(参考)】
3F204AA02
3F204AA03
3F204AA04
3F204CA03
3F204EA06
(57)【要約】
【課題】クレーンの状況に応じて適切な振れ止め制御を行うことができるクレーン振れ止め制御システムを提供する。
【解決手段】選択部12は、クレーン1の吊点SPの加減速パターンの複数のテンプレートから、振れ止めに関する情報に基づいて、適用するテンプレートを選択する。また、動作制御部13は、選択されたテンプレートに基づいて、クレーン1の動作を制御する。このように、選択部12が複数のテンプレートから選択することができるため、クレーン1の状況に合わせて、適切なテンプレートを選択することができる。また、選択部12は、一から加減速パターンを演算しなくとも、予め準備されたテンプレートを用いることで、容易に加減速パターンを取得することができる。
【選択図】図2

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物を吊部材及び吊部で吊るクレーンを制御して、前記吊部の振れ止めを行うクレーン振れ止め制御システムであって、
前記クレーンの吊点の加減速パターンの複数のテンプレートから、振れ止めに関する情報に基づいて、適用するテンプレートを選択する選択部と、
選択された前記テンプレートに基づいて、前記クレーンの動作を制御する動作制御部と、を備える、クレーン振れ止め制御システム。
【請求項2】
前記選択部は、選択した前記テンプレートにおける前記加減速パターンのパラメータを演算する、請求項1に記載のクレーン振れ止め制御システム。
【請求項3】
前記複数のテンプレートには、加速及び減速の一方を行い、その直後に他方を行うインチングテンプレートが含まれる、請求項1又は2に記載のクレーン振れ止め制御システム。
【請求項4】
選択された前記テンプレートに基づく前記クレーンの制御内容と、当該制御内容の実行結果と、に基づいて強化学習を行う学習部を更に備える、請求項1~3の何れか一項に記載のクレーン振れ止め制御システム。
【請求項5】
前記クレーンは、前記対象物を吊った状態で旋回動作、及び引き込み動作を行うクレーンであり、
前記動作制御部は、前記旋回動作、及び引き込み動作に対して、振れ止めの制御を行う、請求項1~4の何れか一項に記載のクレーン振れ止め制御システム。
【請求項6】
前記吊部材の長さが変化する場合、前記選択部は、前記吊部材の長さの変化に基づいて、前記テンプレートの加減速パターンにおける加速度、及び加減速の切り替えタイミングを補正する、請求項1~5の何れか一項の記載のクレーン振れ止め制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クレーン振れ止め制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、対象物を吊部材及び吊部で吊るクレーンを制御して、前記吊部の振れ止めを行うクレーン振れ止め制御システム(例えば、特許文献1参照)が知られている。このクレーン振れ止め制御システムは、ある地点から、目標地点までの移動において、最短の移動時間で移動する際の吊部の振れを止めている。このシステムは、移動中の振れの状態を測定し、当該測定結果に基づいて、速度パターンを補正している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011-126689号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、クレーンの吊点は、状況に応じて様々な移動態様にて移動する。また、それに伴って吊部の振れも様々な態様で発生する。クレーン振れ止め制御システムが、様々なクレーンの状況に応じて、クレーンの振れ止めに最適な速度、加速度のパターンを演算しようとする場合、十分に振れ止めを行うことができないことがある。あるいは、振れ止め制御のために演算の負荷が大きくなることがある。
【0005】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、クレーンの状況に応じて適切な振れ止め制御を行うことができるクレーン振れ止め制御システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るクレーン振れ止め制御システムは、対象物を吊部材及び吊部で吊るクレーンを制御して、吊部の振れ止めを行うクレーン振れ止め制御システムであって、クレーンの吊点の加減速パターンの複数のテンプレートから、振れ止めに関する情報に基づいて、適用するテンプレートを選択する選択部と、選択されたテンプレートに基づいて、クレーンの動作を制御する動作制御部と、を備える。
【0007】
クレーン振れ止め制御システムにおいて、選択部は、クレーンの吊点の加減速パターンの複数のテンプレートから、振れ止めに関する情報に基づいて、適用するテンプレートを選択する。また、動作制御部は、選択されたテンプレートに基づいて、クレーンの動作を制御する。このように、選択部が複数のテンプレートから選択することができるため、クレーンの状況に合わせて、適切なテンプレートを選択することができる。また、選択部は、一から加減速パターンを演算しなくとも、予め準備されたテンプレートを用いることで、容易に加減速パターンを取得することができる。以上により、クレーンの状況に応じて適切な振れ止め制御を行うことができる。
【0008】
選択部は、選択したテンプレートにおける加減速パターンのパラメータを演算してよい。この場合、選択部は、選択したテンプレートに対し、クレーンの状況に応じてより適切なパラメータを設定することができる。
【0009】
複数のテンプレートには、加速及び減速の一方を行い、その直後に他方を行うインチングテンプレートが含まれてよい。このようなインチングテンプレートは、吊点の移動距離を抑制しつつ、振れ止めを行うことができる。選択部は、このようなインチングテンプレートを選択することで、クレーンの状況に対応させることができる。
【0010】
クレーン振れ止め制御システムは、選択されたテンプレートに基づくクレーンの制御内容と、当該制御内容の実行結果と、に基づいて強化学習を行う学習部を更に備えてよい。この場合、選択部は、学習部の学習結果を用いることで、クレーンの状況に応じて、より適切なテンプレートを選択することができる。
【0011】
クレーンは、対象物を吊った状態で旋回動作、及び引き込み動作を行うクレーンであり、動作制御部は、旋回動作、及び引き込み動作に対して、振れ止めの制御を行ってよい。この場合、クレーン振れ止め制御システムは、旋回動作及び引き込み動作に伴って発生する振れを、クレーンの状況に応じて適切に振れ止めすることができる。
【0012】
吊部材の長さが変化する場合、選択部は、吊部材の長さの変化に基づいて、テンプレートの加減速パターンにおける加速度、及び加減速の切り替えタイミングを補正してよい。この場合、吊部材の長さが変化して、単振り子のモデルの前提が成り立たない状況であっても、選択部は、吊部材の長さの変化に応じて、テンプレートを適切な形に補正した上で、適切な振れ止め制御を行うことができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、クレーンの状況に応じて適切な振れ止め制御を行うことができるクレーン振れ止め制御システムを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態に係るクレーン振れ止め制御システム100、及び制御対象となるクレーン1を示す図である。
図2】クレーン振れ止め制御システム100のブロック構成図である。
図3】テンプレートの基本原理である、単振り子の物理モデルについて説明するための図である。
図4】台形型の加減速パターンのテンプレートについて説明するための図である。
図5】1段インチングテンプレートについて説明するための図である。
図6】往復インチングテンプレートについて説明するための図である。
図7】2段加減速テンプレートについて説明するための図である。
図8】3段加減速テンプレートについて説明するための図である。
図9】3段加減速テンプレートについて説明するための図である。
図10】クレーン振れ止め制御システム100の処理内容を示すフローチャートである。
図11】振れを減衰させるためのパターンを示す位相平面を示す図である。
図12】クレーン振れ止め制御システムを適用されたジブクレーンについて説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の実施形態に係るクレーン振れ止め制御システム100、及び制御対象となるクレーン1を示す図である。ここでは、クレーン1として天井クレーンが例示されている。図1に示すように、クレーン1は、吊荷SL(対象物)を吊部6で保持して吊部材23で吊るし、当該吊部6及び吊部材23を吊荷SLと共に移動させる装置である。なお、クレーン1は、天井クレーンに限定されず、ホイストクレーン、門型クレーン、橋形クレーン、ジブクレーン等であってもよい。また、吊荷SLも特に限定されず、コイル、スラブ、結束棒鋼、鉄板など、様々な物品が採用されてもよい。
【0016】
図1に示すように、クレーン1は、レール2、ガーダ3、トロリ4、吊部6、走行装置7、横行装置8、及び巻上装置9を備える。
【0017】
レール2は、ガーダ3及びトロリ4を介した吊部6の走行方向D1の移動をガイドする部材である。レール2は、横行方向D2に互いに離間すると共に、走行方向D1に平行に延びる一対のガイド部材である。レール2は、クレーン1が設けられる建屋の天井に固定されている。ガーダ3は、トロリ4を介した吊部6の横行方向D2の移動をガイドする一対の部材である。ガーダ3は、走行方向D1に互いに離間すると共に、一対のレール2に架け渡されるように横行方向D2に平行に延びる一対のガイド部材である。ガーダ3は、後述の走行装置7によって、レール2に沿って走行方向D1へ走行可能である。トロリ4は、ガーダ3に支持された状態で、吊部6を吊り下げる。トロリ4は、後述の横行装置8によって、ガーダ3に沿って横行方向D2へ横行可能である。
【0018】
走行装置7は、ガーダ3をレール2に沿って走行させるための装置である。走行装置7は、ガーダ3の横行方向D2の両端にそれぞれ設けられる。各走行装置7は、車輪21を有する。横行装置8は、トロリ4をガーダ3に沿って横行させるための装置である。横行装置8は、トロリ4に設けられた車輪22を有する。
【0019】
吊部6は、吊荷SLを吊ることによって保持する。吊部6は、吊部材23によってトロリ4から吊り下げられている。吊部6は、トロリ4に設けられた巻上装置9と吊部材23を介して接続されている。従って、巻上装置9は、吊部材23を巻き上げることで、吊部6を上昇させることができる。なお、巻上装置9において、吊部材23の振幅の基点となる箇所を「吊点SP」と称する場合がある。
【0020】
クレーン振れ止め制御装置10は、クレーン1全体を総合的に制御する装置である。クレーン振れ止め制御装置10は、クレーン1を制御して、吊部材23の振れ止めを行う。クレーン振れ止め制御装置10は、プロセッサ、メモリ、ストレージ、通信インターフェース及びユーザインターフェースを備え、一般的なコンピュータとして構成されている。プロセッサは、CPU(Central Processing Unit)などの演算器である。メモリは、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)などの記憶媒体である。ストレージは、HDD(Hard Disk Drive)などの記憶媒体である。通信インターフェースは、データ通信を実現する通信機器である。ユーザインターフェースは、液晶やスピーカなどの出力器、及び、操縦レバー、ボタン、キーボードやタッチパネルやマイクなどの入力器である。プロセッサは、メモリ、ストレージ、通信インターフェース及びユーザインターフェースを統括し、後述する機能を実現する。クレーン振れ止め制御装置10では、例えば、ROMに記憶されているプログラムをRAMにロードし、RAMにロードされたプログラムをCPUで実行することにより各種の機能を実現する。クレーン振れ止め制御装置10は、複数のコンピュータから構成されていてもよい。
【0021】
次に、図2を参照して、クレーン振れ止め制御システム100の詳細な構造について説明する。図2に示すように、クレーン振れ止め制御システム100は、クレーン振れ止め制御装置10と、検出部41と、駆動部42と、を備える。クレーン振れ止め制御装置10は、検出部41に電気的に接続されており、検出部41で検出された検出情報を受信する。また、クレーン振れ止め制御装置10は、駆動部42に電気的に接続されており、駆動部42に対して動作指令の信号を出力する。
【0022】
検出部41は、クレーン1の各位置に設けられており、振れ止め制御に必要な各種情報を検出する機器である。検出部41は、例えば、吊部材23及び吊部6の振れを検出する振れ検出センサを含む。このような検出センサは、例えば、トロリ4に設けられた撮影部によって、吊部6に設けられたターゲットを撮影することによって、当該画像から振れ角などを検出してよい。あるいは、検出部41は、吊部6に配置された加速度計によって吊部6の加速度を計測したり、走行、横行において駆動するモータのトルクを計測する計測器によってトルクを計測するなどによって、振れ止め制御に必要な情報を検出してよい。検出部41は、例えば、トロリ4に設けられて吊点SPの速度、加速度を検出するセンサを含む。駆動部42は、クレーン1の駆動力を発生する機器であり、走行装置7、横行装置8、及び巻上装置9の駆動機構によって構成される。
【0023】
クレーン振れ止め制御装置10は、クレーン1の吊点SPの加減速パターンをテンプレートとして複数用意している。そして、クレーン振れ止め制御装置10は、振れ止め制御開始前の振れ振幅と吊点SPの移動距離に基づき、適切なものを選択する。また、クレーン振れ止め制御装置10は、吊部材23の振れ振幅及び振れ周期と、吊点SPの移動距離とに基づいて、選択したテンプレートの加減速パターンのパラメータを演算する。クレーン振れ止め制御装置10は、出力パターンを出力する振れ位相のタイミングを演算し、演算結果に係るタイミングにて、出力パターンを出力する。ここで、クレーン振れ止め制御装置10は、吊点SPの移動完了後に、開始時よりも振れ振幅が小さくなるように、加減速パターンのパラメータを演算する。このようなパラメータの演算は、単振り子の物理モデルにおいて、振れ角と振れ角速度を直交軸にとった位相平面を考慮して行われる。そして、クレーン振れ止め制御装置10は、上述のようなテンプレートに基づく出力パターンによる振れ止め制御を、振れ振幅が目標値の範囲内に入り、及び吊点SPが目標位置の範囲に入るまで、繰り返し行う。
【0024】
具体的に、クレーン振れ止め制御装置10は、条件確認部11と、選択部12と、動作制御部13と、学習部14と、記憶部16と、を備える。
【0025】
条件確認部11は、検出部41から受信した検出情報に基づいて、吊部6の振れ振幅及び振れ周期と、吊点SPの目標位置までの移動距離を取得する。また、条件確認部11は、振れ振幅が目標値の範囲内に入っているか否かの条件を判定し、且つ、吊点SPが目標位置の範囲に入っているか否かの条件を判定する。条件確認部11は、振れ止め制御を行う前のタイミング、及び振れ止め制御を行った後のタイミングでこれらの条件の確認を行う。
【0026】
選択部12は、クレーン1の吊点SPの加減速パターンの複数のテンプレートから、振れ止めに関する情報に基づいて、適用するテンプレートを選択する。選択部12は、クレーン1の状況に応じて、一つのテンプレートを選択してもよく、複数のテンプレートを選択してもよい。選択部12は、複数のテンプレートを選択した場合、テンプレートの順序も調整する。また、選択部12は、選択したテンプレートにおける加減速パターンのパラメータを演算する。選択部12は、このように加減速パターンのパラメータを演算することによって、動作制御部13が制御に用いる最終的な出力パターンを作成する。なお、加減速パターンのテンプレートの具体例については後述する。選択部12は、振れ止めに関する情報として、条件確認部11が取得した吊部6の振れ振幅及び振れ周期と、吊点SPの目標位置までの移動距離の情報を用いる。また、選択部12は、作成した出力パターンを出力するための、振れ位相のタイミングを演算する。なお、テンプレートの具体例については、後述する。
【0027】
動作制御部13は、選択部12で選択されたテンプレートに基づいて、クレーン1の動作を制御する。動作制御部13は、選択部12によりテンプレートに基づいて作成された出力パターンを用いて、クレーン1の動作を制御する。動作制御部13は、出力パターンを出力する振れ位相のタイミング(出力タイミングと称する場合がある)を選択部12から取得する。動作制御部13は、検出部41の検出情報に基づいて、吊部6の振れ位相を推定する。そして、動作制御部13は、推定した振れ位相と、出力タイミングの振れ位相とが一致したタイミングにて、駆動部42へ出力パターンを出力する。
【0028】
学習部14は、選択されたテンプレートに基づくクレーン1の制御内容と、当該制御内容の実行結果と、に基づいて強化学習を行う。学習部14は、例えば、状態条件を「初期状態の吊点SPの目標位置までの距離、吊部6の振れ振幅及び振れ周期」とし、行動条件を「テンプレートの選択」とし、報酬条件を「パターン出力に要した時間」として、強化学習を行う。なお、パターン出力に要した時間とは、振れ止め制御を開始してから、振れ振幅が目標値の範囲内に入り、及び吊点SPが目標位置の範囲に入るまでに要する時間である。後述の図10のフローチャートのスタートからエンドまでに要する時間である。上述の選択部12は、学習部14の学習結果を利用して、テンプレートの選択、及び出力パターンの作成を行ってよい。
【0029】
記憶部17は、クレーン振れ止め制御装置10の動作に必要な各種情報を記憶する。記憶部17は、選択部12によって選択される複数のテンプレートを記憶する。
【0030】
次に、図3図9を参照して、選択部12が選択するテンプレートについて説明する。
【0031】
まず、図3を参照して、テンプレートの基本原理である、単振り子の物理モデルについて説明する。図3(a)は、クレーン1を単振り子の物理モデルとして示した図である。ここでは、X軸方向が水平方向、すなわち走行方向D1、及び横行方向D2の何れか一方の方向を示している。Y軸方向が上下方向を示している。「吊荷座標」の原点は、吊荷SLの重心である。吊点SPが水平移動を可能とする場合の単振り子の運動方程式は、x軸方向が式(1)となり、y軸方向が式(2)となる。なお、「時間:t」、「重力加速度:g」とする。
【数1】
【0032】
上記式(1)(2)を展開し、振れ角度θが十分小さいとしてcosθを1と近似し、sinθを0と近似すると、式(3)のように展開できる。更に、吊部材23の長さが変化しない前提である場合、式(3)の左辺第二項は0となり、「ω=√(g/l)」として両辺を積分すると、式(4)が成り立つ。ここで「C」は積分定数であり、吊部材23の長さlと加速度αが一定の時には、右辺を定数rとすることで、式(5)と表現することができる。この式(5)は、図3(b)に示す位相平面において、吊荷SLが(-α/ω,0)を中心とする円の軌跡を描くことを示している。なお、位相平面の横軸は振れ角θであり、縦軸は振れ角速度を振れ角周波数ωで割ったものである。また、図3(b)に示す回転角度φの微分を計算すると「-ω」となるので、この軌跡は時計回りに角周波数ωで回転する事となる。選択部12が選択するテンプレートは、図3(b)に示す位相平面に基づいて設定される。
【数2】
【0033】
なお、選択部12は、走行方向D1の振れを止めるときは、吊点SPの走行方向D1への移動の加減速に対してテンプレートを適用する。また、選択部12は、横行方向D2の振れを止めるときは、吊点SPの横行方向D2への移動の加減速に対してテンプレートを適用する。また、走行方向D1及び横行方向D2の両方の成分を有する振れを止めるときは、吊点SPの走行方向D1への移動の加減速に対するテンプレート、及び吊点SPの横行方向D2への移動の加減速に対するテンプレートの両方を適用する。
【0034】
次に、図4を参照して、簡単な例として、台形型の速度出力での加減速パターンのテンプレートについて説明する。図4(b)に示す台形型の速度出力は図4(c)に示すような加減速のON・OFFパターンと等価となり加速をONとした加速時間t1(時点tp1~tp2)、加減速をOFFとした定速時間t2(時点tp2~tp3)、及び減速をONとした減速時間t3(時点tp3~tp4)を設定する。初期振れが無い場合、このような加減速パターンを位相平面で示すと、図4(a)に示すように、加速時間t1の位相は、原点(振れ角振幅が0の状態)から開始する(時点tp1)。このときの位相は、加速度αであるため、(-α/ω,0)を中心とした円の軌跡を描く。加速時間t1での回転角度θは、回転の角周波数が前述の原理説明のようにωとなるので、加速時間(V/α)にωを掛けたものとなる。加速時間t1から定速時間t2に切り替わるとき(時点tp2)、加速度は0となる。従って、位相は、原点を中心とした円を描く軌跡に切り替わる。次に、定速時間t2から減速時間t3に切り替わるとき(時点tp3)、位相は、(α/ω,0)を中心とした円の軌跡を描く。そして、減速時間t3の位相は、速度が0となって減速が終了したときに原点に復帰する(時点tp4)。停止中は加速度が0であるので位相が回転中心と一致する。従って、振れの停止した状態が維持される。なお、加速時間t1において、加速度の符号と振れ角の符号が逆になっているのは、加速の方向と逆方向に振れが発生している事を意味している。
【0035】
なお、選択部12が図4(b)に示すテンプレートにおける加減速パターンのパラメータを演算するときは、検出部41の検出情報に基づいて振れ周期T、振れ角周波数ωを演算する。また、選択部12は、クレーン1の仕様による制約の範囲内で、吊点の定速時の移動速度V、及び加速度αを設定する。選択部12は、加速時間t1、定速時間t2、及び減速時間t2の長さを設定する。このとき、選択部12は、図4(a)に示すような位相の軌跡が描かれるように、パラメータを設定する。このように選択部12がパラメータを設定することで、台形状の出力パターンが作成される。動作制御部13は、初期振れが無い場合の任意のタイミングにて、出力パターンを駆動部42へ出力する。なお、選択部12によるパラメータの設定、及び動作制御部13の出力タイミングについては、特に説明が無い場合は、上記説明と同趣旨の演算が行われる。
【0036】
本実施形態では、以上のように、基本となる加減速のON/OFFのパターンのテンプレートを作図的手法で複数用意する。これは、振れ止めで重視するポイントが運用の条件により異なるため、それらのポイントに適合するようなパターンを用意する必要があるためである。例えば、図4(b)に示す例では、吊点SPの移動距離となる台形の面積は、「TV」となるが、上記説明のように振れ周期が固定(吊部材23の長さの変化が無い)の前提では、移動距離が短い場合には移動速度Vの値が小さくなり、移動時間が長くなってしまう。また、初期の振れが0でないときには振れが止まらない可能性がある。従って、各種状況に対応できるように、複数種類のテンプレートを用意することが好ましい。
【0037】
次に、図5を参照して、「1段インチングテンプレート」について説明する。この1段インチングテンプレートは、開始位相を定め、加速を行い、その直後に減速を行うことで、一度の加減速によって振れを止めようとするテンプレートである。図5(b)(c)に示すように、加速をONとした加速時間t1(時点tp1~tp2)、及び減速をONとした減速時間t2(時点tp2~tp3)を設定する。このテンプレートは初期振れがある前提で位置合わせよりも振れ止めを優先する場合に用いられる。
【0038】
この加減速パターンでは、減速が完了した時の位相が位相平面上の原点に来るように加速時間、減速時間及び加速を開始する位相が計算される。このような加減速パターンを位相平面で示すと、図5(a)に示すように、開始位相φsの状態から加速を開始する(時点tp1)。開始位相は、縦軸の正側を基準として回転角度φsで示される位置に設定される。このときの位相は、加速度αであるため、(-α/ω,0)を中心とした円の軌跡を描く。回転角度φ1となって加速時間t1から減速時間t2に切り替わるとき(時点tp2)、加速度は-αとなる。従って、減速時間t2の位相は(α/ω,0)を中心とした円の軌跡を描く。そして、減速時間t2の位相は、回転角度φ2のときに速度が0となって減速が終了して停止したときに原点に復帰する(時点tp3)。
【0039】
1段インチングテンプレートでは、選択部12は、開始位相φs、加速時間t1及び減速時間t2の長さを設定する。動作制御部13は、位相が図5(a)に示す時点tp1での開始位相となるタイミングにて、出力パターンを駆動部42へ出力する。
【0040】
次に、図6を参照して、「往復インチングテンプレート」について説明する。この往復インチングテンプレートは、加速を行い、その直後に減速を行うことで一回目のインチングを行い、所定時間の加減速OFFの後、減速を行い、その直後に加速を行うことで二回目のインチングを行うテンプレートである。往復インチングテンプレートでは、移動距離に応じて、二回のインチングの時間と移動の向きを設定する。二回目のインチングの方向を一回目と逆向きにすることで、位置移動無しの振れ止め制御を行うことができる。このテンプレートは、移動無しの場合を含めた小移動時の振れ止め移動時に用いられる。
【0041】
図6(b)(c)に示すように、加速をONとした加速時間t1(時点tp1~tp2)、減速をONとした減速時間t2(時点tp2~tp3)、加減速をOFFとした停止時間t3(時点tp3~tp4)、減速をONとした減速時間t4(時点tp4~tp5)、及び加速をONとした加速時間t5(時点tp5~tp6)を設定する。
【0042】
このような加減速パターンを位相平面で示すと、図6(a)に示すように、加速時間t1の位相は、初期振れが無い場合、原点から開始する(時点tp1)。このときの位相は、加速度αであるため、(-α/ω,0)を中心とした円の軌跡を描く。回転角度φ1となって加速時間t1から減速時間t2に切り替わるとき(時点tp2)、加速度は-αとなる。従って、減速時間t2の位相は(α/ω,0)を中心とした円の軌跡を描く。そして、減速時間t2の位相は、回転角度φ2のときに速度が0となる。減速時間t2から停止時間t3に切り替わるとき(時点tp3)、加速度は0となる。従って、停止時間t3の位相は、原点を中心とした円の軌道を描く。回転角度φ3となって停止時間t3から減速時間t4に切り替わるとき(時点tp4)、加速度は-αとなる。従って、加速時間t4の位相は(α/ω,0)を中心とした円の軌跡を描く。回転角度φ4となって減速時間t4から加速時間t5に切り替わるとき(時点tp5)、加速度はαとなる。従って、加速時間t5の位相は(-α/ω,0)を中心とした円の軌跡を描く。回転角度φ5となって減速が終了して停止したときに原点に復帰する(時点tp6)。
【0043】
往復インチングテンプレートでは、選択部12は、加速時間t1,t5、減速時間t2,t4、及び停止時間t3の長さを設定する。また、選択部12は、初期振れがある時には2回目の減速完了(時点tp6)時の残留振れ振幅が小さくなる様に開始位相と停止時間t3の長さを計算して設定する。動作制御部13は、選択部12によって設定された位相となるタイミングにて、出力パターンを駆動部42へ出力する。
【0044】
次に、図7を参照して、「2段加減速テンプレート」について説明する。この2段加減速テンプレートは、「V/2」の速度で定速の移動を挟んだ二段階の加速を行い、定速で移動した後、「V/2」の速度で定速の移動を挟んだ二段階の減速を行うテンプレートである。2段加減速テンプレートは、最大速度まで出せるような長距離移動を行うときに用いられる。
【0045】
図7(b)(c)に示すように、加速をONとした加速時間t1(時点tp1~tp2)、加減速をOFFとした定速時間t2(時点tp2~tp3)、加速をONとした加速時間t3(時点tp3~tp4)、加減速をOFFとした定速時間t4(時点tp4~tp5)、減速をONとした減速時間t5(時点tp5~tp6)、加減速をOFFとした定速時間t6(時点tp6~tp7)、及び減速をONとした減速時間t7(時点tp7~tp8)を設定する。
【0046】
このような加減速パターンを位相平面で示すと、図7(a)に示すように、初期振れが無い場合、加速時間t1の位相は、原点から開始する(時点tp1)。このときの位相は、加速度αであるため、(-α/ω,0)を中心とした円の軌跡を描く。回転角度φ1となって加速時間t1から定速時間t2に切り替わるとき(時点tp2)、加速度は0となる。従って、定速時間t2の位相は原点を中心とした円の軌跡を描く。回転角度φ2となって定速時間t2から加速時間t3に切り替わるとき(時点tp3)、加速度αとなる。従って、加速時間t3の位相は(-α/ω,0)を中心とした円の軌跡を描く。回転角度φ3となって加速時間t3から定速時間t4に切り替わるとき(時点tp4)、加速度は0となる。また、このとき位相は原点に復帰する。従って、定速時間t4では、位相が原点で維持される。定速時間t4から減速時間t5に切り替わるとき(時点tp5)、減速度-αとなる。従って、減速時間t5の位相は(α/ω,0)を中心とした円の軌跡を描く。回転角度φ5となって減速時間t5から定速時間t6に切り替わるとき(時点tp6)、加速度は0となる。従って、定速時間t6の位相は原点を中心とした円の軌跡を描く。回転角度φ6となって定速時間t6から減速時間t7に切り替わるとき(時点tp7)、加速度-αとなる。従って、減速時間t7の位相は(α/ω,0)を中心とした円の軌跡を描く。回転角度φ7となって加速が終了して停止したときに原点に復帰する(時点tp8)。
【0047】
2段加減速テンプレートでは、選択部12は、加速時間t1,t3、減速時間t5,t7、及び定速時間t2,t4,t6の長さを設定する。また、選択部12は、初期振れがある時には2回目の減速完了(時点tp8)時の残留振れ振幅が小さくなる様に開始位相と定速時間t2、t4の長さを調整して設定する。動作制御部13は、選択部12によって設定された位相となるタイミングにて、出力パターンを駆動部42へ出力する。
【0048】
次に、図8及び図9を参照して、「3段加減速テンプレート」について説明する。この3段加減速テンプレートは、台形型の速度パターンが3回出力される加減速パターンのテンプレートである。3段加減速テンプレートは、最大速度まで出せない中~短距離移動に用いられる。
【0049】
図9(a)(b)に示すように、加速をONとした加速時間tа1(時点tp1~tp2)、加減速をOFFとした定速時間tc1(時点tp2~tp3)、及び減速をONとした減速時間td1(時点tp3~tp4)を設定する。また、加減速をOFFとした定速時間tc2(時点tp4~tp5)の後、加速をONとした加速時間tа2(時点tp5~tp6)、加減速をOFFとした定速時間tc0(時点tp6~tp7)、及び減速をONとした減速時間td2(時点tp7~tp8)を設定する。また、加減速をOFFとした定速時間tc3(時点tp8~tp9)の後、加速をONとした加速時間tа3(時点tp9~tp10)、加減速をOFFとした定速時間tc4(時点tp10~tp11)、及び減速をONとした減速時間td3(時点tp11~tp12)を設定する。なお、時点tp1~tp3の時間の長さ、時点tp3~tp5の時間の長さ、時点tp8~tp10の時間の長さ、及び時点tp10~tp12の時間の長さは初期振れが無い場合、振り子の固有周期Tに対して「T/6」となる。時点tp5~tp8の時間の長さは任意の長さに設定される。
【0050】
このような加減速パターンを位相平面で示すと、図8(a)に示すように、初期振れが無い場合、加速時間t1の位相は、原点から開始する(時点tp1)。このときの位相は、加速度αであるため、(-α/ω,0)を中心とした円の軌跡を描く。回転角度φa1となって加速時間ta1から定速時間tc1に切り替わるとき(時点tp2)、加速度は0となる。従って、位相は、原点を中心とした円を描く軌跡に切り替わる。次に、定速時間tc1から減速時間td1に切り替わるとき(時点tp3)、位相は、(α/ω,0)を中心とした円の軌跡を描く。回転角度φd1となって減速時間td1から定速時間tc2に切り替わるとき(時点tp4)、加速度は0となる。従って、位相は、原点を中心とした円を描く軌跡に切り替わる。回転角度φc2となって定速時間tc2から加速時間ta2に切り替わるとき(時点tp5)、加速度はαとなる。従って、位相は、(-α/ω,0)を中心とした円を描く軌跡に切り替わる。回転角度φa2となって加速時間ta2から定速時間tc0に切り替わるとき(時点tp6)、加速度は0となる。また、このとき位相は原点に復帰する。従って、定速時間tc0では、位相が原点で維持される。
【0051】
次に、図8(b)に示すように、定速時間tc0から減速時間td2に切り替わるとき(時点tp7)、位相は、(α/ω,0)を中心とした円の軌跡を描く。回転角度φd2となって減速時間td2から定速時間tc3に切り替わるとき(時点tp8)、加速度は0となる。従って、位相は、原点を中心とした円を描く軌跡に切り替わる。回転角度φc3となって定速時間tc3から加速時間ta3に切り替わるとき(時点tp9)、加速度はαとなる。従って、位相は、(-α/ω,0)を中心とした円を描く軌跡に切り替わる。回転角度φa3となって加速時間ta3から定速時間tc4に切り替わるとき(時点tp10)、加速度は0となる。従って、位相は、原点を中心とした円を描く軌跡に切り替わる。次に、定速時間tc4から減速時間td3に切り替わるとき(時点tp11)、位相は、(α/ω,0)を中心とした円の軌跡を描く。回転角度φd3となって加速が終了して停止したときに原点に復帰する(時点tp12)。
【0052】
3段加減速テンプレートでは、選択部12は、加速時間ta1,ta2、ta3、減速時間td1、td2、td3、及び定速時間tc1,tc2,tc0,tc3,tc4の長さを設定する。また、選択部12は、初期振れがある時には3回目の減速完了(時点tp12)時の残留振れ振幅が小さくなる様に開始位相と定速時間tc1,tc2の長さを調整して設定する。動作制御部13は、選択部12によって設定された位相となるタイミングにて、出力パターンを駆動部42へ出力する。
【0053】
次に、図10を参照して、クレーン振れ止め制御システム100の処理内容について説明する。まず、条件確認部11は、検出部41から受信した検出情報に基づいて、吊部6の振れ振幅及び振れ周期と、吊点SPの目標位置までの移動距離を確認する(ステップS110)。次に、条件確認部11は、完了条件が成立しているか否かを判定する(ステップS120)。ここでは、条件確認部11は、振れ振幅が目標値の範囲内に入っているか否かの条件を判定し、且つ、吊点SPが目標位置の範囲に入っているか否かの条件を判定する。ステップS120において、完了条件が成立していると判断された場合、図10に示す処理は終了する。
【0054】
一方、ステップS120において、完了条件が成立していないと判断された場合、選択部12は、複数のテンプレートから、適用するテンプレートを選択し、且つ、出力パターンを作成する(ステップS130)。具体的に、選択部12は、クレーン1の吊点SPの加減速パターンの複数のテンプレートから、ステップS110で取得した情報に基づいて、適用するテンプレートを選択する。また、選択部12は、選択したテンプレートにおける加減速パターンのパラメータと、パターンを出力する開始位相と、を演算し、最終的な出力パターンを作成する。
【0055】
次に、動作制御部13は、ステップS130で作成された出力パターンを出力することで、クレーン1の動作を制御する(ステップS140)。このとき、動作制御部13は、検出部41の検出情報に基づいて、吊部6の振れ位相を推定する。そして、動作制御部13は、推定した振れ位相と、出力タイミングの振れ位相とが一致したタイミングにて、駆動部42へ出力パターンを出力する。
【0056】
なお、ステップS130において、選択部12が複数のテンプレートを選択した場合、一回目のループのテンプレートについてのみ出力パターンを作成し、二回目以降のループのテンプレートについての出力パターンの作成は待機してよい。この場合、ステップS140で動作制御部13が一回目のループの出力パターンを出力した後、当該タイミングにおける状況を考慮して、選択部12は、二回目のループのテンプレートについて出力パターンを作成する。このように、選択部12は、二回目以降のループについては、前回のループによる出力パターンの結果を反映した上で、パラメータの演算を行ってよい。
【0057】
ステップS140が完了したら、ステップS110から再び処理を繰り返す。これにより、条件確認部11は、ステップS130,S140の処理によって、完了条件が成立したかを確認することができる。そして、完了条件が成立していない場合は、ステップS130,S140の処理が繰り返し行われる。
【0058】
具体的な振れ止め処理の一例について説明する。ここでは、大きな初期振れがある状態で、長距離の移動をする場合の例について説明する。まず、選択部12は、一回目のループとして「1段インチングテンプレート(図5)」を選択し、二回目のループとして「2段加減速テンプレート(図7)」を選択する。一回目のループの「1段インチングテンプレート」は、初期振れが大きいので初期振れを押さえる目的で選択される。二回目のループの「2段加減速テンプレート」は、一回目のループを行うことで初期振れが小さく、移動距離が長い状況となったため、長い移動距離に対応する目的で選択される。選択部12は、クレーンの仕様に応じて、各テンプレートに対する出力パターンを作成する。動作制御部13は、演算した開始位相になったタイミングで、「1段インチングテンプレート」に基づく出力パターンを出力する。次に、動作制御部13は、位相が選択部12が設定した開始位相となったタイミングで、「2段加減速テンプレート」に基づく出力パターンを出力する。なお、定速移動の状態で振れがある場合、選択部12は、時点tp3の加速開始と時点tp5の減速開始のタイミングを調整する。
【0059】
上述の二回目のループにて完了条件が成立していれば、振れ止め処理は終了する。一方、二回目のループのタイミング調整で移動距離が計算値からずれて残っている時には、選択部12は、残留振れの振幅に応じて、「一段インチングテンプレート(図5)」または「2段インチングテンプレート(図6)」を選択し、クレーンの仕様に応じて出力パターンを作成する。動作制御部13は、計算した開始位相になったら出力パターンを出力する。なお、「2段インチングテンプレート」の場合、選択部12は、振れを止める時には2回目のインチングの開始時間(図6の時点tp4)を調整する。以降、完了条件が成立するまで、繰り返しインチングを繰り返す。
【0060】
なお、駆動部42の制御特性により、加減速の指令をОNとした時に、速度の時間変化が直線にならない場合もある。このような場合、選択部12は、直線近似した一定加速度としてパターンの計算をする。また、上述の振れ止め制御で振れ振幅の評価を常時0とすると、従来の技術で振れ検出をしないものと同等のものになる。
【0061】
また、振れ振幅が大きすぎたり、移動距離の制限などで計算通りの加減速時間を確保できないような場合、確保可能な加減速時間に応じた振幅に応じたパターンを作り、その位相で出力すれば、振れの停止まではできなくとも振れを減衰させる事が出来る。例えば、図11は、図5(a)に示す位相平面と同等の加減速がなされているが、位相は時点tp3において原点に復帰していない。しかし、時点tp3での位相の原点からの距離R1は、初期の位相の原点からの距離R0よりも小さくなっており、振れが減衰している。従って、このような振れを減衰させる制御を繰り返せばよい。
【0062】
次に、本発明の実施形態に係るクレーン振れ止め制御システム100の作用・効果について説明する。
【0063】
クレーン振れ止め制御システム100において、選択部12は、クレーン1の吊点SPの加減速パターンの複数のテンプレートから、振れ止めに関する情報に基づいて、適用するテンプレートを選択する。また、動作制御部13は、選択されたテンプレートに基づいて、クレーン1の動作を制御する。このように、選択部12が複数のテンプレートから選択することができるため、クレーン1の状況に合わせて、適切なテンプレートを選択することができる。また、選択部12は、一から加減速パターンを演算しなくとも、予め準備されたテンプレートを用いることで、容易に加減速パターンを取得することができる。以上により、クレーン1の状況に応じて適切な振れ止め制御を行うことができる。
【0064】
選択部12は、選択したテンプレートにおける加減速パターンのパラメータを演算してよい。この場合、選択部12は、選択したテンプレートに対し、クレーンの状況に応じてより適切なパラメータを設定することができる。
【0065】
複数のテンプレートには、加速及び減速の一方を行い、その直後に他方を行うインチングテンプレートが含まれてよい。このようなインチングテンプレートは、吊点SPの移動距離を抑制しつつ、振れ止めを行うことができる。選択部12は、このようなインチングテンプレートを選択することで、クレーン1の状況に対応させることができる。
【0066】
クレーン振れ止め制御システム100は、選択されたテンプレートに基づくクレーン1の制御内容と、当該制御内容の実行結果と、に基づいて強化学習を行う学習部14を更に備えてよい。この場合、選択部12は、学習部14の学習結果を用いることで、クレーン1の状況に応じて、より適切なテンプレートを選択することができる。
【0067】
上述のような複数の振れ止め用のテンプレートには、それぞれ特徴があり、どの状況でどのテンプレートを選択するかという点に関し、数式で解を求めるのは困難である。そのため、学習部14が強化学習を行うことで、選択部12が容易、且つ適切にテンプレートの選択を行うことができる。
【0068】
本発明は、上述の実施形態に限定されるものではない。
【0069】
例えば、図12(a)に示すように、クレーン振れ止め制御装置10は、ジブクレーン150の吊部6の振れ止めを行ってよい。ジブクレーン150は、走行体31、塔体32、旋回体33、ジブ34、マスト35を備えている。ジブ34の基端部は旋回体33に接続される。ジブ34の先端部には吊点SPが設けられる。ジブクレーン150において、旋回体33は、塔体32を中心として旋回方向D3(図12(b)参照)に旋回する。そのため、ジブ34が旋回することで、吊点SPも旋回方向D3に移動する(図12(b)参照)。また、ジブ34は旋回体33との接続部を基点として起伏動作を行う。そのため、吊点DPは、引込方向D4へ移動する。
【0070】
このようなジブクレーン150に対するクレーン振れ止め制御装置10は、検出部41によって、旋回方向D3及び引込方向D4における吊部6の振れ角位相と振幅を検出する。また、クレーン振れ止め制御装置10は、検出情報に基づいて、旋回方向D3及び引込方向D4の2軸に対する加減速の出力パターンを繰り返し演算・出力して振れを止める。クレーン振れ止め制御装置10は、旋回方向D3、及び引込方向D4について、それぞれ独立に出力パターンを演算・出力して振れを止める。なお、クレーン振れ止め制御装置10は、出力パターンのテンプレートとして、前述の天井クレーンで用いたものと同様なものを用いよい。
【0071】
ここで、図12(b)に示すように、吊点SPの旋回前の旋回方向D3への振れが(SG1)、コリオリの力の影響により、吊点SPの旋回方向D3への移動に応じて引込方向D4への振れとなる場合がある(SG2)。また、図12(c)に示すように、吊点SPの旋回前の引込方向D4への振れが(SG3)、コリオリの力の影響により、吊点SPの旋回方向D3への移動に応じて旋回方向D3への振れとなる場合がある(SG4)。このように、旋回方向D3及び引込方向D4の各振れ成分は、旋回角度の変化に応じて方向が変わって行くため、非線形性が強くなり直線軌道を前提としている振れ止め制御が効かなくなる。
【0072】
吊点SPの旋回方向D3の長距離移動がある時には、上述のようなコリオリ力の影響が発生する。これに対し、クレーン振れ止め制御装置10は、加速中に振れを止め、定速中は振れ抑制動作を停止するパターンを選択することにより、定速移動中のコリオリ力の影響を低減する制御を行う。すなわち、クレーン振れ止め制御装置10は、旋回角度変化が小さい範囲で振れを止め、定速移動に入るように制御する事で、直線軌道に近似した形で直線軌道での出力パターンを適用出来るようにする。
【0073】
例えば、図4のように移動中に振れがあることを前提とする出力パターンの場合、コリオリ力が考慮されていないため、コリオリ力の影響がある場合の振れ止め制御には適用が出来なくなってしまう。これに対し、コリオリ力の影響がある場合に、加減速中に振れを止めるパターンとして、具体的には図7、及び図8,9に示す出力パターンを適用することができる。
【0074】
例えば、図7の出力パターンにおいて、天井クレーンの直線軌道では加速時間t1で加速動作に伴う振れが発生するが、定速時間t4に切り替わる時点tp4で振れは0になり、ここから減速時間t5に入るまでは、定速なので振れの発生は無い。減速時間t5に入ると再び時点tp5で振れが発生し減速時間t7の減速が完了すると時点tp8で振れが0となる。これをジブクレーン150の旋回軌道起動に適用すると、上記のコリオリの力が外乱要素となるが、加速または減速の角度変化が比較的小さい範囲でしか影響を受けないため、外乱による残留振れを小さく出来る。このように、クレーン振れ止め制御装置10は、ジブクレーン150のコリオリの力の影響がある振れ止め制御を行うときには、図7の出力パターンや、図8,9の出力パターンを適用して、振れ止めを行う。
【0075】
従来のジブクレーンの振れ止めに関する技術では、旋回動作のみで旋回方向の振れを止めていた。しかし、従来技術では、コリオリの力により旋回方向の振れが引込方向の振れに変わってしまう点(図12参照)を考慮していないため、十分な効果が期待できない。これに対し、クレーン振れ止め制御システム100では、コリオリの力を考慮して、旋回方向と引込方向の2軸の振れ止めとする事で、ジブクレーン150における問題点を解決することができる。また、旋回動作では、上記コリオリの力の影響による非線形性のため、振れ止めのパターンの計算が容易でない。そのため、クレーン振れ止め制御システム100は、直線軌道の振れ止めパターンの中でコリオリの力の影響を受けにくいパターンを選択する事で、近似的に直線軌道の振れ止めとして扱う事を可能としている。
【0076】
ここで、ジブクレーン150では、図12(d)に示すように、振れ止め制御を行っている途中に吊部材23の長さが変化(L2からL1)する場合がある。これに対し、クレーン振れ止め制御装置10は、吊点SPの移動中に吊部材23の長さが変化することで、演算した出力パターンの前提条件からずれても、振れ止め精度を悪化させないように制御を行う。
【0077】
具体的に、吊部材23の長さが変化する場合、動作制御部13は、吊部材23の長さの変化に基づいて、テンプレートの加減速パターンにおける加速度、及び加減速の切り替えタイミングを補正する。出力パターンを演算している時の加速度を「α0」、吊部材23の変化速度を「Vl」、振れ角速度を「dθ/dt」とすると、動作制御部13は、出力パターン出力時の加速度を調整して「α=α0-2Vl×dθ/dt」となるように指令を出す。また、出力パターンの出力時に、出力パターン作成時の振れ角周波数を「ω0」、加減速または定速の予定時間を「t0」とした時、動作制御部13は、現在の振れ角周波数「ω」の開始時間「ts」からの時間積分値が「ω0t0」となった時に、加減速を切替えるように、選択部12が設定した出力パターンを補正する。
【0078】
実際のジブクレーン150の運転では、水平方向の移動中に吊部材23の巻動作が加わり、吊部材23の長さが変わる事が一般的である。また、ジブクレーン150のように、吊部6を一定の高さとして水平移動をするには必然的に吊部材23の長さが変わってしまう。天井クレーンで説明した振れ止め制御は、吊部材23の長さが一定である前提となっているため、当該前提が崩れた状態でジブクレーン150の振れ止め制御を行うと、振れ止めの性能が悪化する。これを抑制する方法として最も簡単な方法は、前提となっている図3の基本モデルの状態を崩さない事である。
【0079】
そのために、まず式(3)に戻り、その左辺第1項と2項の和の部分である以下の式(6)の部分を、もともとの固定加速度である「α0」とすればよい。そのためには、「dv/dt」、すなわち加速度を変化させればよく、これをαとして式(7)のようにすればよい。
【数3】
【0080】
図3の基本モデルの前提では、位相平面での位相の回転角速度が「ω=√(l/g)」となっている。これを元に加減速の時間が決定されている。「l」の変化により、「ω」も時間変化するため、この部分の補正も必要となる。例えば、図5の一段インチングテンプレートにおいて、加速時間t1は、「ω」を固定(ω0)して、回転角がφ1となるように計算している(φ1=ω0×t1)。ここで、吊部材23の長さが変化すると、「ω」が時間変化するので、「ω」の時間積分が「φ1」となるように、出力のタイミングを修正する必要がある。具体的には、加減速のON/OFFを切り替える位相を同じにするため、加減速を切り替える時間の評価方法を変更する必要がある。具体的に、出力パターン演算時の切替の位相回転量は「φ0=ω0t0」となっているので、右辺の部分をωの時間積分とすればよい。すなわち、加減速の開始時間を「ts」とし、現在の時間を「t」として、選択部12は、式(8)で示すタイミングで加減速の切替を行うように補正すればよい。
【数4】
【0081】
以上より、ジブクレーン150は、吊荷SLを吊った状態で旋回動作、及び引き込み動作を行うクレーンであり、動作制御部13は、旋回動作、及び引き込み動作に対して、振れ止めの制御を行ってよい。この場合、クレーン振れ止め制御システム100は、旋回動作及び引き込み動作に伴って発生する振れを、ジブクレーン150の状況に応じて適切に振れ止めすることができる。
【0082】
吊部材23の長さが変化する場合、選択部12は、吊部材23の長さの変化に基づいて、テンプレートの加減速パターンにおける加速度、及び加減速の切り替えタイミングを補正してよい。この場合、吊部材23の長さが変化して、単振り子のモデルの前提が成り立たない状況であっても、選択部12は、吊部材23の長さの変化に応じて、テンプレートを適切な形に補正した上で、適切な振れ止め制御を行うことができる。すなわち、移動中に吊部材23の巻き動作が入ると、振れ周期変化外乱により振れ止めの性能が悪化する。従来技術では、あらかじめ巻高さの変化が分かっている前提(自動運転など)で近似的に補正を行う場合がある。これに対し、上記の方法によれば、リアルタイムに補正が可能で、巻き操作が手動運転でも対応できる。
【符号の説明】
【0083】
1…クレーン、12…選択部、13…動作制御部、14…学習部、100…クレーン振れ止めシステム、150…ジブクレーン。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10
図11
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