(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024164362
(43)【公開日】2024-11-27
(54)【発明の名称】製造評価装置および製造評価方法
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/04 20120101AFI20241120BHJP
G05B 19/418 20060101ALI20241120BHJP
【FI】
G06Q50/04 ZAB
G05B19/418 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023079780
(22)【出願日】2023-05-15
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000198
【氏名又は名称】弁理士法人湘洋特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西川 顕二
(72)【発明者】
【氏名】吉井 有紀
(72)【発明者】
【氏名】洪 允晶
【テーマコード(参考)】
3C100
5L049
5L050
【Fターム(参考)】
3C100AA29
3C100AA56
3C100BB02
3C100BB06
3C100BB13
3C100BB15
3C100BB29
5L049CC03
5L050CC03
(57)【要約】
【課題】製品の設計段階において製造環境のエネルギー消費および環境負荷を予測しながら設計を実施可能とする技術を提供する。
【解決手段】 製造評価装置であって、少なくとも部品の形状および寸法を含む形状データと、部品の材質を含む部品構成データと、を用いて部品の製造工程を特定する製造工程特定部と、製造工程におけるリードタイムを算出するリードタイム算出部と、リードタイムに応じて工程時間を特定する工程時間特定部と、工程時間に応じて環境負荷を特定する環境負荷特定部と、環境負荷を示す画面を生成する画面生成部と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも部品の形状および寸法を含む形状データと、前記部品の材質を含む部品構成データと、を用いて前記部品の製造工程を特定する製造工程特定部と、
前記製造工程におけるリードタイムを算出するリードタイム算出部と、
前記リードタイムに応じて工程時間を特定する工程時間特定部と、
前記工程時間に応じて環境負荷を特定する環境負荷特定部と、
前記環境負荷を示す画面を生成する画面生成部と、
を備えることを特徴とする製造評価装置。
【請求項2】
請求項1に記載の製造評価装置であって、
前記製造工程特定部は、前記部品の設計仕様を受け付け、
前記リードタイム算出部は、前記部品の材質、前記設計仕様における前記部品の形状および寸法を実現するのに必要な加工時間を前記リードタイムとして算出する、
ことを特徴とする製造評価装置。
【請求項3】
請求項2に記載の製造評価装置であって、
前記製造工程特定部は、前記設計仕様として、少なくとも前記部品の公差および表面粗さのいずれかまたは両方を受け付ける、
ことを特徴とする製造評価装置。
【請求項4】
請求項3に記載の製造評価装置であって、
前記製造工程特定部は、前記材質を用いて前記部品の形状および寸法を満たす製造プロセスを決定し、該製造プロセスを適用して前記設計仕様を満たす加工条件を決定し、
前記加工条件には、前記製造プロセスに用いる設備の制御パラメータを含む、
ことを特徴とする製造評価装置。
【請求項5】
請求項4に記載の製造評価装置であって、
前記リードタイム算出部は、前記加工条件における前記加工時間を算出する、
ことを特徴とする製造評価装置。
【請求項6】
請求項1に記載の製造評価装置であって、
前記工程時間特定部は、前記リードタイムと、準備時間および待ち時間と、を用いて前記工程時間を特定する、
ことを特徴とする製造評価装置。
【請求項7】
請求項1に記載の製造評価装置であって、
前記工程時間における消費電力量を特定する消費電力量特定部を備え、
前記環境負荷特定部は、前記消費電力量特定部が算出した前記消費電力量に応じて前記環境負荷を特定する、
ことを特徴とする製造評価装置。
【請求項8】
請求項1に記載の製造評価装置であって、
前記画面生成部は、前記環境負荷に影響の大きい前記部品または前記製造工程を示す情報を、前記環境負荷を示す画面に含める、
ことを特徴とする製造評価装置。
【請求項9】
請求項1に記載の製造評価装置であって、
前記製造工程、前記形状データ、前記部品構成データまたは前記環境負荷を他の装置と共有可能に記憶する記憶部、
を備えることを特徴とする製造評価装置。
【請求項10】
情報処理装置を用いた製造評価方法であって、
前記情報処理装置は、
少なくとも部品の形状および寸法を含む形状データと、前記部品の材質を含む部品構成データと、を用いて前記部品の製造工程を特定する製造工程特定ステップと、
前記製造工程におけるリードタイムを算出するリードタイム算出ステップと、
前記リードタイムに応じて工程時間を特定する工程時間特定ステップと、
前記工程時間に応じて環境負荷を特定する環境負荷特定ステップと、
前記環境負荷を示す画面を生成する画面生成ステップと、
を実施することを特徴とする製造評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製造評価装置および製造評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンニュートラル等、環境課題の解決が企業に求められる現在、製品の設計時に環境アセスメントを実施し、製品の環境負荷を明確にすることが製造業者に求められている。従来、設計者は製品の品質、コスト、納期等を評価KPIとして製品設計を行うことが通常となっている。しかし、環境評価もKPIとして今後求められることで、設計者への更なる負担となりうる。一方で、近年では、製造業においては、製造設備の省エネルギー化とその可視化を進めつつある。具体的には、特許文献1に示すように、エンジニアリングチェーンの下流部分にあたる製造工程では、製造設備の消費電力や、温室効果ガスの直接排出量などの環境負荷情報の実績値を得ることができるようになりつつある。
【0003】
特許文献1には、「計測点設定データに基づいて、エネルギー消費に係る計測データを収集するとともに、前記計測データを集計して処理するエネルギー消費計測データ処理装置であって、エネルギー系統に沿った集計データであるエネルギー系統集計データを処理するエネルギー系統集計データ処理部を備え、前記エネルギー系統集計データ処理部は、エネルギー系統設定データと、前記エネルギー系統設定データと前記計測点設定データとの対応関係を設定したエネルギー系統計測点対応関係設定データとから、前記エネルギー系統集計データを生成するか、または、前記エネルギー系統集計データを生成するための設定を出力することを特徴とするエネルギー消費計測データ処理装置。」が記載されている。
【0004】
このような装置を用いることで、具現化された製造工程・製造設備のエネルギー消費を実際に計測することが可能になり、製造環境のエネルギー消費実態の現状把握が可能と考えられる。一方で、エンジニアリングチェーンのより上流となる製品設計段階において、このような環境負荷の計測を行うことについての言及はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような背景において、さらに一歩進んだ省エネルギー化の実現のためには、より上流の設計段階において製造環境の環境負荷を低減することを支援する仕組みの提供が重要である。
【0007】
本発明の目的は、製品の設計段階において製造環境のエネルギー消費および環境負荷を予測しながら設計を実施可能とすることで、持続性のある社会の実現に近づける技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願は、上記課題の少なくとも一部を解決する手段を複数含んでいるが、その例を挙げるならば、以下のとおりである。上記の課題を解決する本発明の一態様に係る製造評価装置は、少なくとも部品の形状および寸法を含む形状データと、前記部品の材質を含む部品構成データと、を用いて前記部品の製造工程を特定する製造工程特定部と、前記製造工程におけるリードタイムを算出するリードタイム算出部と、前記リードタイムに応じて工程時間を特定する工程時間特定部と、前記工程時間に応じて環境負荷を特定する環境負荷特定部と、前記環境負荷を示す画面を生成する画面生成部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、製品の設計段階において製造環境のエネルギー消費および環境負荷を予測しながら設計を実施可能とする技術を提供することができる。上記した以外の課題、構成および効果は、以下の発明を実施するための形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】製造評価処理の処理フローの例を示す図である。
【
図3】製造評価処理の製造工程特定ステップ内の処理フローの例を示す図である。
【
図4】製造評価処理の環境負荷特定ステップ内の処理フローの例を示す図である。
【
図8】製造評価装置のハードウェア構成の例を示す図である。
【
図9】製造評価処理の処理フローの変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。実施例は、本発明を説明するための例示であって、説明の明確化のため、適宜、省略および簡略化がなされている。本発明は、他の種々の形態でも実施することが可能である。特に限定しない限り、各構成要素は単数でも複数でも構わない。
【0012】
図面において示す各構成要素の位置、大きさ、形状、範囲などは、発明の理解を容易にするため、実際の位置、大きさ、形状、範囲などを表していない場合がある。このため、本発明は、必ずしも、図面に開示された位置、大きさ、形状、範囲などに限定されない。
【0013】
各種情報の例として、「テーブル」、「リスト」、「キュー」等の表現にて説明することがあるが、各種情報はこれら以外のデータ構造で表現されてもよい。例えば、「XXテーブル」、「XXリスト」、「XXキュー」等の各種情報は、「XX情報」としてもよい。識別情報について説明する際に、「識別情報」、「識別子」、「名」、「ID」、「番号」等の表現を用いるが、これらについてはお互いに置換が可能である。また、これらの表現で説明される識別情報は、実施例において記号、数値、自然言語、又はそれらの組み合わせ等を用いて表すが、識別情報はこれら以外の形式でもよい。
【0014】
同一あるいは同様の機能を有する構成要素が複数ある場合には、同一の符号に異なる添字を付して説明する場合がある。また、これらの複数の構成要素を区別する必要がない場合には、添字を省略して説明する場合がある。
【0015】
実施例において、プログラムを実行して行う処理について説明する場合がある。ここで、計算機は、プロセッサ(例えばCPU、GPU)によりプログラムを実行し、記憶資源(例えばメモリ)やインターフェースデバイス(例えば通信ポート)等を用いながら、プログラムで定められた処理を行う。そのため、プログラムを実行して行う処理の主体を、プロセッサとしてもよい。同様に、プログラムを実行して行う処理の主体が、プロセッサを有するコントローラ、装置、システム、計算機、ノードであってもよい。プログラムを実行して行う処理の主体は、演算部であれば良く、特定の処理を行う専用回路を含んでいてもよい。ここで、専用回路とは、例えばFPGA(Field Programmable Gate Array)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)、CPLD(Complex Programmable Logic Device)等である。
【0016】
プログラムは、プログラムソースから計算機にインストールされてもよい。プログラムソースは、例えば、プログラム配布サーバまたは計算機が読み取り可能な記憶メディアであってもよい。プログラムソースがプログラム配布サーバの場合、プログラム配布サーバはプロセッサと配布対象のプログラムを記憶する記憶資源を含み、プログラム配布サーバのプロセッサが配布対象のプログラムを他の計算機に配布してもよい。また、実施例において、2以上のプログラムが1つのプログラムとして実現されてもよいし、1つのプログラムが2以上のプログラムとして実現されてもよい。
【0017】
また、本発明は典型的には情報処理装置により実現されるものであるが、本発明の機能を有するプラットフォームとして実現されてもよい。
【0018】
図1は、製造評価装置の構成例を示す図である。例えば、製造評価装置100は、記憶部110と、処理部120と、入力受付部130と出力処理部140と、通信部150と、を備える情報処理装置である。
【0019】
製造評価装置100は、主に生産量、部品構成、部品形状、寸法等の製品の設計情報を用いて、効率の良い製造工程を実施する時間に応じてエネルギー消費および環境負荷を予測する。そのため、設計者は、予測された環境負荷を参照して設計情報を変更することができるようになる。つまり、製造工程における環境負荷を抑えて製品の設計を行うことができる。
【0020】
記憶部110には、部品構成データ111と、部品形状データ112と、設備電力データ113と、環境負荷換算係数114と、が含まれる。部品構成データ111は、例えば、部品を構成する部品と、部品の材質と、を少なくとも含む部品構成情報(BOM:Bill Of Materials)である。部品構成データ111の詳細については、後述する。
【0021】
部品形状データ112は、例えば、少なくとも部品の形状および寸法を含む形状データである。具体的には、部品形状データ112は、いわゆる各種の3次元CADデータであるが、これに限られず、2次元CADデータであってもよい。
【0022】
設備電力データ113は、少なくとも製造設備ごとの稼働時間当たりの消費電力量を特定する情報を含む情報である。なお、設備電力データ113はこれに限られるものではなく、例えば、稼働時間当たりの消費電力量は、所定の日時の区分(例えば、月等)毎に設けられていてもよい。
【0023】
環境負荷換算係数114は、少なくとも消費電力量あたりの環境負荷(例えば、温室効果ガスの排出量)を特定する情報を含む情報である。なお、環境負荷換算係数114はこれに限られるものではなく、例えば、消費電力量あたりの環境負荷は、所定の日時の区分(例えば、昼間・夜間等)毎に設けられていてもよい。クリーンエネルギーには、自然現象を利用するものが含まれ、発電能力に日時の影響を受けるものが多くあるためである。例えば、夜間は太陽光発電の利用が見込めないため、環境負荷を高く換算するのが望ましい。
【0024】
また、温室効果ガスは、各種の温室効果があるとされる気体を包含する。代表的なものとしては、二酸化炭素(CO2)、メタン(CH4)、亜酸化窒素(N2O)、ハイドロフルオロカーボン類(HFCs)、パーフルオロカーボン類(PFCs)、六フッ化硫黄(SF6)が含まれるが、これらに限定されるものではなく、またこれらを必ずしも含む必要はなくいずれかであってもよいし、温室効果をいずれかの気体に換算したものであってもよい。
【0025】
処理部120には、製造工程特定部121と、リードタイム算出部122と、環境負荷特定部123と、工程時間特定部124と、消費電力量特定部125と、画面生成部126と、が含まれる。
【0026】
製造工程特定部121は、少なくとも部品の形状および寸法を含む形状データと、部品の材質を含む部品構成データと、を用いて部品の製造工程を特定する。また、製造工程特定部121は、部品の公差および表面粗さのいずれかまたは両方を含む部品の設計仕様を受け付ける。また、製造工程特定部121は、部品の材質を用いて部品の形状および寸法を満たす製造プロセスを決定し、該製造プロセスを適用して設計仕様を満たす加工条件を決定する。なお、加工条件には、製造プロセスに用いる設備の制御パラメータ(例えば、回転部の回転速度や回転角度、切削速度等)を含む。
【0027】
リードタイム算出部122は、製造工程におけるリードタイムを算出する。具体的には、リードタイム算出部122は、部品の材質、設計仕様における部品の形状および寸法を実現するのに必要な加工時間をリードタイムとして算出する。なお、リードタイム算出部122は、上述の加工条件(設備の制御パラメータ)の指定があれば、その加工条件における加工時間を算出する。
【0028】
環境負荷特定部123は、工程時間に応じて環境負荷を特定する。具体的には、環境負荷特定部123は、消費電力量特定部125が算出した消費電力量と、工程時間特定部124が特定した工程時間に応じて環境負荷を特定する。
【0029】
工程時間特定部124は、リードタイムに応じて工程時間を特定する。具体的には、工程時間特定部124は、リードタイムと、準備時間および待ち時間と、を用いて工程時間を特定する。
【0030】
消費電力量特定部125は、工程時間における消費電力量を特定する。
【0031】
画面生成部126は、環境負荷を示す画面を生成する。なお、画面生成部126は、環境負荷に影響の大きい部品または製造工程を示す情報を、環境負荷を示す画面に含める。
【0032】
入力受付部130は、各種データの入力を受け付ける。具体的には、入力受付部130は、製品の設計者から、部品構成データ111、部品形状データ112の設計情報等の入力を受け付ける。
【0033】
出力処理部140は、設計者に対して、入力された設計情報における環境負荷の情報を含む画面等を出力する。
【0034】
通信部150は、ネットワークを介して他の装置との通信を行う。
【0035】
図2は、製造評価処理の処理フローの例を示す図である。製造評価処理は、製造評価装置100が、設計者等から開始指示を受けたときに開始される。あるいは、製造評価処理は、所定の日時(例えば、毎日午後1時)、あるいは所定の間隔で(例えば、1週間ごと)開始されるものであってもよい。
【0036】
製造評価処理は、BOM等の部品構成データ111、CAD等の部品形状データ112の設計情報等の入力を受け付けて製造工程とリードタイムを特定する製造工程特定ステップS01と、部品構成データ111に製造工程とリードタイムの情報を追加する製造データ追加ステップS02と、工程のリードタイムに基づいて工程時間、工程時間に基づいて消費電力量を特定し、消費電力量に基づいて環境負荷を特定する環境負荷特定ステップS03と、環境負荷のデータを部品構成データ111に追加する環境データ追加ステップS04と、環境負荷のデータを可視化して示す環境データ可視化ステップS05と、を主に実施する処理である。
【0037】
図3は、製造評価処理の製造工程特定ステップの処理フローの例を示す図である。まず、製造工程特定部121は、部品構成データ111および部品形状データ112を入力として読み込む(ステップS011)。
【0038】
また、製造工程特定部121は、計算前の前提情報として、製品の生産計画の入力を受け付ける(ステップS012)。生産計画は、所定期間ごとの製品の生産数の計画値を特定する情報である。生産数の計画値により、製造ラインを稼働させる時間が変化するためである。
【0039】
そして、製造工程特定部121は、部品ごとに大まかなプロセスの選択を受け付ける(ステップS013)。プロセスとは例えば、「切削加工(部品を切削加工で成形する)」、「ニアネットシェイプ(3Dプリンターで印刷する)」、「鍛造」等である。製造工程特定部121は、製品のある程度の製造プロセスの筋道を付けられるように、ここで設定を受け付ける。
【0040】
そして、製造工程特定部121は、公差、表面粗さ等の設計仕様の入力を受け付ける(ステップS014)。一般に、公差や、仕上げにおける表面粗さの値が低く設定されると、仕上げ加工や研磨など、追加工程が必要となることが推定され、リードタイムに影響がある。
【0041】
そして、製造工程特定部121は、現実的な工程候補を複数個(N個)生成する(ステップS015)。具体的には、製造工程特定部121は、部品の形状や寸法を用いて、CAM(Computer Aided Manufacturing)のツール等と連携して製造工程の候補を複数設計する。
【0042】
その際、製造工程特定部121は、部品の材質を用いて部品の形状および寸法を満たす製造プロセスを決定し、該製造プロセスを適用して設計仕様を満たす加工条件を決定する。
【0043】
そして、リードタイム算出部122は、i(iは1以上の整数)個目の工程候補を選択し(ステップS016)、設備のリードタイムを算出する(ステップS017)。そして、iがNと一致するまでiをインクリメントさせながらステップS016およびステップS017の処理を繰り返し行う(ステップS018)。
【0044】
そして、製造工程特定部121は、リードタイムが最小となる工程候補を特定する(ステップS019)。
【0045】
以上が、製造評価処理の製造工程特定ステップの処理フローの例である。製造工程特定ステップによれば、リードタイムが最小となる工程候補を特定することができる。
【0046】
図4は、製造評価処理の環境負荷特定ステップ内の処理フローの例を示す図である。まず、工程時間特定部124は、リードタイムに応じて工程時間を算出し特定する(ステップS031)。具体的には、工程時間特定部124は、選択された工程候補に含まれる各工程について、リードタイムと、準備時間および待ち時間と、を用いて工程時間を特定する。より具体的には、工程時間特定部124は、リードタイム算出部122がステップS017において算出したリードタイムに、例えば該工程と同様の工程の準備時間と待ち時間の統計値を加えて工程時間とする。なお、工程時間特定部124は、該工程と同様の工程の準備時間と待ち時間の統計値を用いるものに限られず、所定の準備時間と待ち時間を用いるものであってもよい。
【0047】
そして、消費電力量特定部125は、工程消費電力量を算出する(ステップS032)。具体的には、消費電力量特定部125は、設備電力データ113を参照して、選択された工程候補に含まれる各工程について、該工程を担う製造設備の稼働時間当たりの消費電力量を特定する情報を特定する。そして、消費電力量特定部125は、ステップS031において工程時間特定部124により特定された工程時間を稼働時間として、各工程の工程消費電力量を算出する。具体的には、消費電力量特定部125は、工程ごとに、工程時間と消費電力量の積を算出し、工程消費電力量とする。
【0048】
そして、環境負荷特定部123は、環境負荷を示す指標値を算出する(ステップS033)。具体的には、環境負荷特定部123は、環境負荷換算係数114を参照して、選択された工程候補に含まれる各工程の工程消費電力量を環境負荷に換算する。具体的には、環境負荷特定部123は、工程ごとに、消費電力量と環境負荷換算係数の積を算出し、環境負荷とする。例えば、環境負荷を示す指標のひとつであるCO2の排出量に換算する場合、環境負荷特定部123は、環境負荷換算係数114のうち、消費電力量とCO2排出係数の積を算出して環境負荷の指標値とする。
【0049】
以上が、製造評価処理の環境負荷特定ステップの処理フローの例である。環境負荷特定ステップによれば、リードタイムが最小となる工程候補を対象として、環境負荷を特定することができる。
【0050】
図5は、製造評価画面の例を示す図である。製造評価画面40は、製造評価処理全体を通じて画面生成部126により生成され、出力処理部140により表示される画面である。製造評価画面40は、各種の入力を受け付けると共に、入力の結果を反映させた内容に随時表示を更新する。製造評価画面40には、入力設定受付領域41と、解析手順受付領域42と、解析結果表示領域43と、が含まれる。
【0051】
入力設定受付領域41は、入力情報を受け付ける領域である。入力情報には、プロジェクトファイル名と、部品構成データ111の格納場所の指定入力を受け付ける部品構成データと、部品形状データ112の格納場所の指定入力を受け付ける部品形状データと、設備電力データ113の格納場所の指定入力を受け付ける設備電力データと、環境負荷換算係数114の格納場所の指定入力を受け付ける環境負荷換算係数と、が含まれる。
【0052】
解析手順受付領域42は、解析手順の指示を受け付ける領域である。解析手順の指示は、予め設けられる処理手順に応じたボタン等への入力により受け付けられる。例えば、解析手順受付領域42には、手順のステップが7つあり、それぞれ、開始、図番選択、工程特定、製造データ追加、環境負荷特定、環境データ追加、保存、の指示を受け付ける。利用者である設計者は、解析の手順に従い順にこれらのボタンを操作することで、設計情報から環境負荷の推定を行った結果を得られる。
【0053】
例えば、工程特定ボタンへの入力がなされると、製造工程特定ステップS01の処理が開始され、解析結果表示領域43の更新がなされて製造工程の候補が表示される。環境負荷特定ボタンへの入力がなされると、環境負荷特定ステップS03の処理が開始され、解析結果表示領域43の更新がなされて環境負荷を示す情報が表示される。特に、環境負荷を示す情報として、環境負荷に影響の大きい部品または製造工程を示す情報が含まれる。このような情報には、パレート図や円グラフが用いられることが望ましい。パレート図や円グラフにより示すことで、改善ポイントを把握しやすくなり、可視化の効果が高い。
【0054】
解析結果表示領域43は、解析手順によりなされた処理の結果を表示する領域である。解析結果表示領域43には、製造工程の候補を示す工程候補表示領域44と、環境負荷を示す環境負荷データ表示領域45と、が含まれる。環境負荷データ表示領域45には、上述のようにパレート図や円グラフが含まれる。特にパレート図は、影響の大きい要素が横軸に示され、縦軸には累積結果が示されることから、どの部品あるいは工程の要素が環境負荷の累積結果に支配的かを一目の元に把握できる。
【0055】
図6は、部品構成データの例を示す図である。部品構成データ111には、製品名111aと、部品名111bと、形式111cと、メーカ名111dと、数量111eと、仕様111fと、材質111gと、図番111hと、が対応付けられている。一般に、製品ごとに、製品名111aが設けられ、製品を構成する部品、および当該部品を構成する部品ごとに、形式111cと、メーカ名111dと、数量111eと、仕様111fと、材質111g、図番111hが構成される。特に材質111gは、製造工程を検討・選択する際に重要な判断材料のひとつとなる。また、図番111hは、部品の図面ファイルを参照するための番号である。部品構成データ111は、一般的なBOMとすることもできる。
【0056】
図7は、製造設備データの例を示す図である。製造設備データは、部品構成データ111の追加情報として、図番111hにより関連付けられることで部品構成データに追加されるデータである。製造設備データは、一般的なBOP(Bill Of Process)と呼ばれるシステムのデータであってもよい。製造設備データには、図番111hと、工程111jと、場所111kと、建屋111mと、設備111nと、設備情報111pというBOPのデータに加えて、環境データ111rが対応付けられる。環境データ111rは、環境負荷特定部123により特定された環境負荷の情報である。
【0057】
このうち、BOPのデータは、製造データ追加ステップS02において追加・補完された情報であり、環境データ111rは、環境データ追加ステップS04において追加・補完された環境負荷の情報である。
【0058】
なお、工程111jと、場所111kと、建屋111mと、設備111nと、設備情報111pの情報はそれぞれ、図番で示される部品製造の工程を特定する情報と、工程を実施する場所と、その詳細である建屋と、設備と、その他の設備と、を特定する情報である。これらの情報は、製造者ごとの製造環境に応じて定められるものであるため、予め定められるか、あるいは実績に応じて予め補完される。
【0059】
図8は、製造評価装置のハードウェア構成の例を示す図である。製造評価装置100は、プロセッサ901と、RAM(Random Access Memory)等のハードウェアのメモリ902と、ハードディスク装置(Hard Disk Drive:HDD)やSSD(Solid State Drive)などの外部記憶装置903と、CD(Compact Disk)やDVD(Digital Versatile Disk)などの可搬性を有する記憶媒体904に対して情報を読む読取装置905と、キーボードやマウス、バーコードリーダ、タッチパネルなどの入力装置906と、ディスプレイなどの出力装置907と、LANやインターネットなどの通信ネットワークを介して他のコンピュータと通信する通信装置908とを備えた一般的なコンピュータ900、あるいはこのコンピュータ900を複数備えたネットワークシステムで実現できる。なお、読取装置905は、可搬性を有する記憶媒体904の読取だけでなく、書き込みも可能なものであっても良い。
【0060】
プロセッサ901は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、あるいはGPU(Graphics Processing Unit)である。プロセッサ901は、外部記憶装置903からメモリ902にロードした所定の各種プログラムを実行することにより、各種処理を実行する。該プログラムは、例えば、OS(Operating System)プログラム上で実行可能なアプリケーションプログラムである。該プログラムは、例えば、読取装置905を介して可搬性を有する記憶媒体904から、外部記憶装置903にインストールされてもよいし、あるいは、通信装置908を介してネットワークからダウンロードされてプロセッサ901により実行されるようにしてもよい。
【0061】
例えば、製造工程特定部121と、リードタイム算出部122と、環境負荷特定部123と、工程時間特定部124と、消費電力量特定部125と、画面生成部126とは、外部記憶装置903に記憶されているプログラムをメモリ902にロードしてプロセッサ901で実行することで実現可能である。
【0062】
入力受付部130は、プロセッサ901が入力装置906と、通信装置908とを利用することで実現可能である。出力処理部140は、プロセッサ901が出力装置907と、通信装置908とを利用することで実現可能である。記憶部110は、プロセッサ901がメモリ902又は外部記憶装置903を利用することにより実現可能である。通信部150は、プロセッサ901が通信装置908を利用することにより実現可能である。
【0063】
以上が、本発明の実施形態に係る製造評価装置100の例である。なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。実施形態の構成の一部を他の構成に置き換えることが可能であり、また、実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、実施形態の構成の一部について、削除をすることも可能である。
【0064】
例えば、上記した実施形態では、設計情報として部品構成および部品形状データを入力対象として例示したが、これに限られず、設計情報に対応して別途算出された製造工程と、リードタイム(あるいは工程時間)を入力対象とすることも可能である。また、環境負荷の指標についても、CO2に限られず、各種の温室効果ガスを含む。
【0065】
また例えば、上記した実施形態では、記憶部110に格納されるデータは、製造評価装置100において用いられるものであったが、これに限られない。例えば、製造評価装置100がネットワーク50を介して、他の装置に通信可能に接続され、記憶部110の情報のいずれかまたはすべてをアクセス可能にする、すなわち共有可能にするようにしてもよいし、クラウドストレージ等により他の装置と共有されるデータを用いるようにしてもよい。
【0066】
図9は、製造評価処理の処理フローの変形例を示す図である。このような変形例では、上述のようにクラウドストレージ等を用いて他の装置とのデータ共有を行う場合を説明する。処理部120は、環境データ可視化ステップS05の処理後に、データ共有化ステップS06を行う。具体的には、処理部120は、製造工程特定ステップS01にて特定された製造工程候補と、環境負荷特定ステップS03にて特定された環境負荷と、をクラウドストレージに複製する。
【0067】
図10は、製造評価データの利用例を示す図である。設計者10は、製品の設計を担当する者であり、製造評価装置100の利用者である。クラウドストレージ60には、製造評価装置100から共有された部品構成データ111と、部品形状データ112と、設備電力データ113と、環境負荷換算係数114と、に加えて、環境負荷61と、製造工程候補62と、が格納され共有されている。製造設備のオペレーションを実施する設備オペレータ11、生産設備のメンテナンス等を実施するライン保全係12、生産プロセスの設計・展開を担当するプロセス設計者13、材料の調達やコストの交渉をする調達担当14、完成した製品の営業を担当する製品営業担当15等の担当者から、クラウドストレージ60のデータを参照可能にされている。
【0068】
例えばプロセス設計者13は、環境負荷61を参照して、CO2排出量が多いプロセスに対して効率化を図るプロセス改善に活用することができる。あるいは、CO2排出量の効果的な削減効果を見出せる場合には、製品営業担当15が営業時のセールスポイントとして活用できる。
【0069】
その他にも、設備の新規導入があった場合は、ライン保全係12や設備オペレータ11に新規設備の消費電力などのデータを部品構成データ111や設備電力データ113に追加することで、設計者10やプロセス設計者13に共有して最新のデータで環境負荷の分析やプロセスのプログラム作成ができるようにする。このように、本システムを使うことで、サプライチェーンがシームレスになり、全体としての環境負荷をより低減させ、効果的な設計や製造を実現することにつなげることができる。
【0070】
上記の各部、各構成、機能、処理部等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各部、各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリや、ハードディスク等の記録装置、又は、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に置くことができる。
【0071】
なお、上述した実施形態にかかる制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際にはほとんど全ての構成が相互に接続されていると考えても良い。以上、本発明について、実施形態を中心に説明した。
【符号の説明】
【0072】
100:製造評価装置、110:記憶部、111:部品構成データ、112:部品形状データ、113:設備電力データ、114:環境負荷換算係数、120:処理部、121:製造工程特定部、122:リードタイム算出部、123:環境負荷特定部、124:工程時間特定部、125:消費電力量特定部、126:画面生成部、130:入力受付部、140:出力処理部、150:通信部。