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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024164368
(43)【公開日】2024-11-27
(54)【発明の名称】シール材
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/10 20060101AFI20241120BHJP
   B60J 10/17 20160101ALI20241120BHJP
   B29C 45/00 20060101ALI20241120BHJP
【FI】
C09K3/10 Z
B60J10/17
B29C45/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023079787
(22)【出願日】2023-05-15
(71)【出願人】
【識別番号】000158840
【氏名又は名称】鬼怒川ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100205682
【弁理士】
【氏名又は名称】高嶋 一彰
(72)【発明者】
【氏名】林田 聡美
【テーマコード(参考)】
3D201
4F206
4H017
【Fターム(参考)】
3D201AA01
3D201AA21
3D201AA26
3D201AA37
3D201BA01
3D201CA03
3D201EA02B
3D201EA02C
3D201EA02D
3D201EA11
3D201FA04
4F206AA15
4F206AA45
4F206AB07
4F206AB11A
4F206AB11B
4F206AB17B
4F206AB26
4F206AH18
4F206AR12
4F206AR15
4F206AR20
4F206JA07
4F206JF02
4H017AA25
4H017AA26
4H017AB10
4H017AB17
4H017AD03
4H017AE05
(57)【要約】
【課題】シール材において比重のバラツキを抑制して低比重化でき、表面平滑性に貢献することも可能な技術を提供する。
【解決手段】シール材において、少なくとも熱可塑性エラストマーと中空状のガラス粉体とを配合し混練して得た弾性材料を用い、その弾性材料を射出成形して成るものとする。弾性材料は、熱可塑性エラストマー100重量部に対してガラス粉体が5~50重量部の割合で配合されているものとする。ガラス粉体は、真密度が0.20~0.60g/cmで平均粒径が20~60μmであるものとする。シール材の比重は、0.40~1.20であるものとする。また、ガラス粉体は、例えばソーダ石灰硼酸ガラスを用いて成るものであって、耐圧強度が60MPa~200MPaのものを適用する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも熱可塑性エラストマーと中空状のガラス粉体とを配合し混練して得た弾性材料を射出成形して成るシール材であって、
前記弾性材料は、前記熱可塑性エラストマー100重量部に対して前記ガラス粉体が5~50重量部の割合で配合されており、
前記ガラス粉体は、真密度が0.20~0.60g/cmで平均粒径が20~60μmであり、
前記シール材の比重は、0.40~1.20であることを特徴とするシール材。
【請求項2】
前記ガラス粉体は、ソーダ石灰硼酸ガラスを用いて成り、耐圧強度が60MPa~200MPaであることを特徴とする請求項1記載のシール材。
【請求項3】
前記熱可塑性エラストマーは、ポリ塩化ビニル樹脂を主成分とすることを特徴とする請求項1または2記載のシール材。
【請求項4】
前記熱可塑性エラストマーは、ポリ塩化ビニル樹脂100重量部に対し、可塑剤が40~130重量部、炭酸カルシウムが20~60重量部、の割合で配合されており、
シール材のショアA硬度が60~80であることを特徴とする請求項1または2記載のシール材。
【請求項5】
前記ポリ塩化ビニル樹脂は、温度150℃における複素粘性率が1.0~2.0kPa・sであることを特徴とする請求項4記載のシール材。
【請求項6】
自動車の車体パネルと窓ガラスとの間に取り付け可能なクオーターガラスシールであることを特徴とする請求項1または2記載のシール材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シール材に係るものであって、例えば自動車の車体パネルと窓ガラスとの間に適用可能な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車の車体に取り付けられるシール材(例えば、車体パネルと窓ガラスとの間をシールするシール材)等の弾性体は、当該自動車の電動化に伴い、また近年の地球環境対策(例えば自動車の燃費向上等)に貢献できるように、軽量化(低比重化)を図ることが求められている。
【0003】
シール材の軽量化の一例としては、化学発泡剤や熱膨張性バルーン等の発泡性材料が配合されている弾性材料を用い、その弾性材料を所定温度で成形して当該発泡性材料を発泡(例えばソリッド部等を微発泡)させることにより、シール材内部に発泡セルを形成して低比重化することが挙げられる。
【0004】
しかしながら、前記のように弾性材料に配合されている発泡性材料は、シール材の成形条件(成形温度,成形圧力)の影響を受け易いため、所望通りに発泡しないことがある。
【0005】
例えば、シール材の表面付近で発泡セルが形成されると、当該シール材の表面が凹凸状になり、表面平滑性が低くなってしまうことが考えられる。また、発泡性材料が不均一に発泡すると、シール材における比重(例えばシール材の各部位の比重)のバラツキが生じ易くなることが考えられる。このような場合、特に平滑な表面肌を要求される製品においては、その製品の歩留まりの低下を招くことも考えられる。
【0006】
そこで、特許文献1では、発泡性材料の替わりに中空状ガラス粉体(以下、単に中空ガラス粉体と適宜称する)が配合されている弾性材料を押出成形することにより、前記のような発泡セルを形成することなくシール材を低比重化する試みが検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006-56491号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1のように単に中空ガラス粉体が配合されている弾性材料を押出成形して得たシール材の場合、例えば当該中空ガラス粉体がシール材内部で不均一に分散し、当該シール材の比重のバラツキが大きくなってしまうおそれがある。
【0009】
本発明は、前述のような技術的課題に鑑みてなされたものであって、シール材において比重のバラツキを抑制して低比重化でき、表面平滑性に貢献することも可能な技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明に係るシール材は、前記課題の解決に貢献できるものであり、その一態様としては、少なくとも熱可塑性エラストマーと中空状のガラス粉体とを配合し混練して得た弾性材料を射出成形して成るシール材であって、前記弾性材料は、前記熱可塑性エラストマー100重量部に対して前記ガラス粉体が5~50重量部の割合で配合されており、前記ガラス粉体は、真密度が0.20~0.60g/cmで平均粒径が20~60μmであり、前記シール材の比重は、0.40~1.20であることを特徴とする。
【0011】
前記一態様において、前記ガラス粉体は、ソーダ石灰硼酸ガラスを用いて成り、耐圧強度が60MPa~200MPa(好ましくは80MPa~200MPa)であることを特徴としてもよい。また、前記熱可塑性エラストマーは、ポリ塩化ビニル樹脂を主成分とすることを特徴としてもよい。
【0012】
また、前記熱可塑性エラストマーは、ポリ塩化ビニル樹脂100重量部に対し、可塑剤が40~130重量部、炭酸カルシウムが20~60重量部、の割合で配合されており、シール材のショアA硬度が60~80であることを特徴としてもよい。
【0013】
また、前記ポリ塩化ビニル樹脂は、温度150℃における複素粘性率が1.0~2.0kPa・sであることを特徴としてもよい。
【0014】
また、前記シール材は、自動車の車体パネルと窓ガラスとの間に取り付け可能なクオーターガラスシールであることを特徴としてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、シール材において比重のバラツキを抑制して低比重化でき、表面平滑性に貢献することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】製品試料Sを説明するための外観図。
図2】検証例1の摩擦特性の観測方法を示す概略説明図。
図3】製品試料SM3の断面をSEM撮影した状態を示す写真(製品試料SM3の断面を400倍に拡大した断面写真)。
図4】温度変化に対する複素粘性率特性図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施形態によるシール材は、例えば単に中空ガラス粉体が配合されている弾性材料を押出成形して得た構成(以下、単に従来構成と適宜称する)とは、全く異なるものである。
【0018】
すなわち、本実施形態のシール材においては、少なくとも熱可塑性エラストマーと中空ガラス粉体とを配合し混練して得た弾性材料を用いたものであって、当該弾性材料を射出成形して成るものである。弾性材料においては、熱可塑性エラストマー100重量部に対して、真密度0.20~0.60g/cm,平均粒径20~60μmの中空ガラス粉体が、5~50重量部の割合で配合されているものとする。
【0019】
このような本実施形態のシール材によれば、弾性材料に配合した中空ガラス粉体により、当該シール材内部に発泡セルを形成することなく低比重化(例えば比重0.40~1.20となるように形成)でき、所望の表面平滑性が得られ易くもなる。また、中空ガラス粉体においては、当該シール材内部にて均一分散するように分布し、当該シール材の比重のバラツキを抑制することが可能となる。これにより、製品の歩留まりに十分貢献できる可能性がある。
【0020】
本実施形態のシール材は、前述のように熱可塑性エラストマーに対して所定の中空ガラス粉体が適宜配合された弾性材料を射出成形したものであればよく、多様な設計変更が可能である。
【0021】
すなわち、種々の分野(例えば射出成形分野,シール材分野,熱可塑性エラストマー分野,中空ガラス粉体分野等)の技術常識を適宜適用し、必要に応じて先行技術文献等を適宜参照して設計変形することが可能であり、その一例として以下に示す実施例が挙げられる。
【0022】
≪実施例≫
<シール材に適用可能な弾性材料の一例>
シール材に適用する弾性材料においては、少なくとも、当該弾性材料の基材となる熱可塑性エラストマーと、真密度0.20~0.60g/cm,平均粒径(メジアン径(d50))20~60μmの中空ガラス粉体と、を配合し適宜混練して射出成形できるものであって、当該熱可塑性エラストマー100重量部に対して当該中空ガラス粉体が5~50重量部の割合で配合されているものであればよい。
【0023】
熱可塑性エラストマーは、例えば自動車のシール材に適用されているものであれば適宜適用でき、その一例としてゴム材料や樹脂等を主成分とするものが挙げられ、具体例としてはポリ塩化ビニル樹脂やTPV等を主成分とするものが挙げられる。
【0024】
ポリ塩化ビニル樹脂の一例としては、大洋塩ビ社製のTH-800、カネカ社製のS1008、信越化学工業社製のTK-800等が挙げられ、射出成形に適したものを適用することが好ましい。
【0025】
中空ガラス粉体は、熱可塑性エラストマーに配合した後の混練時(以下、単に混練時と適宜称する)や射出成形時において破壊されない程度の強度を有するものであって、当該射出成形後のシール材中において適宜分散して分布できるものであればよく、種々の態様を適用することが可能である。このような中空ガラス粉体としては、ソーダ石灰硼珪酸ガラスを用いて中空状の粉体に形成されたものであって、耐圧強度(中空粉体の非破壊残存率が90%以上の場合)が60MPa~200MPaの範囲のものが挙げられる。
【0026】
中空ガラス粉体の耐圧強度が60MPa未満で低くなり過ぎると、当該中空ガラス粉体は、混練時や射出成形時に作用し得る応力(例えば混練時のせん断力)に耐えることが困難となり、少なからず破壊され易くなる。この破壊された中空ガラス粉体がシール材内部に多く存在してしまうと、目的とするシール材を所望通りに低比重化できなくなる。また、当該破壊された中空ガラス粉体がシール材内部で不均一に分布する可能性があり、その場合には当該シール材の比重のバラツキが大きくなってしまうことも考えられる。このため、中空ガラス粉体においては、好ましくは耐圧強度が60MPa以上のものを適用、より好ましくは耐圧強度が80MPa以上することが挙げられる。
【0027】
一方、中空ガラス粉体の耐圧強度の上限は、特に限定されるものではないが、200MPaを超えない範囲内であれば、当該中空ガラス粉体が混練時や射出成形時に破壊されないように、かつ当該中空ガラス粉体がシール材内部で不均一に分散しないように、十分抑制することが可能となる。
【0028】
また、中空ガラス粉体は、弾性材料に配合した場合の熱可塑性エラストマーとの密着性を高めるように、予め当該中空ガラス粉体の外周面を表面処理してから適用してもよい。
【0029】
弾性材料は、熱可塑性エラストマーや中空ガラス粉体の他に、例えば弾性材料の混練性や中空ガラス粉体の分散性等を考慮して種々の添加剤を配合してもよく、その一例としては可塑剤,充填剤を配合することが挙げられる。
【0030】
可塑剤,充填剤等の添加剤の種類や配合量は、例えば目的とするシール材のショアA硬度が60~80程度の範囲内となるように適宜設定すればよく、これにより当該シール材に求められる諸機能(例えばシール性、取付性)を十分発揮することが可能となる。
【0031】
具体例として、可塑剤においてはフタル酸ジイソノニル(DINP;例えば、花王社製のビニサイザー90、新日本理化社製のサンソサイザーDINP、ジェイ・プラス社製のDINP等),フタル酸ジ2-エチルヘキシル(DOP;例えば、花王社製のビニサイザー80、新日本理化社製のサンソサイザーDOP、ジェイ・プラス社製のDOP等),フタル酸ジ-n-デシル(DDP;例えば、花王社製のビニサイザー105等),フタル酸ジイソデシル(DIDP;例えば、新日本理化のサンソサイザーDIDP)等が挙げられ、熱可塑性エラストマー100重量部に対して40~130重量部の範囲内で配合することが挙げられる。また、充填剤においては、炭酸カルシウム(例えば、ポリ塩化ビニルに適した炭酸カルシウムとしては、日東粉化社製のNITOREX♯23PSやNCC・P♯2300、近江化学工業社製のサクセス200R等)等が挙げられ、熱可塑性エラストマー100重量部に対して20~60重量部の範囲内で配合することが挙げられる。
【0032】
前記のように可塑剤を配合した弾性材料によれば、混練性が高められるため、当該弾性材料に配合された中空ガラス粉体は、射出成形後のシール材内部にて均一分散するように分布し易くなり、当該シール材の比重のバラツキをより抑制することが可能となる。
【0033】
また、前記のように可塑剤を配合する他には、熱可塑性エラストマー自体の粘度を小さく設定(例えば後述の検証例4のように温度150℃における複素粘性率が1.0~2.0kPa・sとなるように設定)することも挙げられる。
【0034】
<射出成形の一例>
弾性材料の射出成形においては、目的とするシール材に応じた形状のキャビティを有している金型等を用い、そのキャビティ内に弾性材料を射出して当該シール材を形成できればよい。一例としては、型締め工程,弾性材料射出工程,型開き工程,成形品取り出し工程等の各工程を順に行うことが挙げられる。
【0035】
具体例として、弾性材料射出工程は、金型のキャビティ内に所定の圧力(一次圧力)で弾性材料を射出して充填する充填工程と、当該キャビティ内に弾性材料が満たされている状態を所定の圧力(二次圧力)で保持する保圧工程と、当該キャビティ内の弾性材料を降温させて固化する冷却工程と、を有したものが挙げられる。
【0036】
射出成形の各工程の条件は、特に限定されるものではなく、例えば中空ガラス粉体を適用しないシール材(ソリッド成形体)の場合と同様の条件に設定することができる。ただし、キャビティの形状(すなわち、目的とするシール材の形状)等によっては、射出成形後のシール材において比重バランスが不均一になり易くなったり、意図しない模様(ジェッティング,フローマーク等)が形成され易くなる可能性はある。このような可能性がある場合には、各工程条件を適宜設定(例えば、弾性材料の射出速度,温度等や、金型の温度等を設定)する他に、弾性材料自体の粘度を低減(例えば、可塑剤を配合したり、熱可塑性エラストマー自体の粘度を小さく設定)することにより、弾性材料の混練性や中空ガラス粉体の分散性を高めて対応することが挙げられる。
【0037】
<シール材の一例>
シール材の形状等の態様は、特に限定されるものではなく、一例として自動車の任意の位置に取り付け可能なものであって、当該取り付け箇所において所望の諸機能を発揮できる態様であればよい。一例として、自動車の車体パネル,ドアパネル,サッシュ等に取り付け可能な態様が挙げられ、具体例としては、車体パネル(クオーターパネル)と窓ガラス(クオーターガラス)との間に取り付け可能なクオーターガラスシールが挙げられる。
【0038】
シール材と、他の樹脂製品(例えばガラスランのモール等)と、の両者が互いに近接して取り付けられる場合には、例えば当該両者の光沢性を同等にして、外観性の一体感を持たせることが好ましい。具体例として、一般的な自動車用のガラスランのモール等は、光沢性が低く抑えられた製品(例えばグロス値が5程度の製品)が多いことから、そのモールに近接するように取り付けられるシール材においては、同様に光沢性を低く抑えることが挙げられる。
【0039】
≪検証例1≫
まず、ポリ塩化ビニル樹脂100重量部に対して、中空ガラス粉体を5~40重量部の範囲内で配合し、オープンロールを用いて混練(ロール表面温度160℃,混練時間5分で混練)することにより、表1に示す種々の弾性材料M1~M4を得た。なお、ポリ塩化ビニル樹脂には、カネカ社製のS1008を適用(後述の検証例2~4でも同じく適用)、中空ガラス粉体には、3M社製のiM16K(真密度0.46g/cm,耐圧強度110MPa,平均粒径20μm)を適用した。また、参考例として、中空ガラス粉体を配合していない弾性材料P1も得た。
【0040】
そして、各弾性材料P1,M1~M4において、所望形状のキャビティを有している金型を用いて射出成形することにより、図1に示すように略四角状に延在した形状の市販車用クオーターガラスシールの製品試料SP1,SM1~SM4(以下、適宜纏めて単に製品試料Sと適宜称する。後述の製品試料SP2,SP3,SM5~SM10も同様に製品試料Sと適宜称する)を作成し、以下に示す方法により比重特性,摩擦特性,取付性をそれぞれ観測したところ、表1に示すような観測結果が得られた。なお、射出成形では、弾性材料射出工程において、充填工程(一次温度185℃,一次射出圧力60MPa),保圧工程(一次圧力30MPa),冷却工程(冷却時間17秒)を適宜実施した。また、図1に示す製品試料Sの4つの角部a~dのうち角部aは、金型におけるゲート側に最も近接した位置に形成されたものである。
【0041】
<比重特性>
JIS K 7112 A法に基づいた水中置換法により、各製品試料Sの比重をそれぞれ測定した。
【0042】
<摩擦特性>(特開2016-000485の図2参考)
まず、各製品試料Sにおいて、矩形平板状(5mm×100mm矩形の平板状)に打ち抜くことにより、図2に示す試験片20をそれぞれ作製した。次に、試験片20の一端面(後述の錘部材22を載置する側の面)の表面の汚れをアルコールで拭き取った後、図2に示すように摩擦係数測定機(新東科学製のHEIDON-14D)の支持台(試験台)21上に載置(基体が図示下方で被覆体が図示上方に位置するように載置)した。そして、R50球面ガラスを構成し0.98Nの荷重が加えられた錘部材22を、試験片20の一端面上に載置(R50球面側を載置)し、その錘部材22を水平方向(試験片20の長手方向;図示矢印方向)に対して速度1000mm/分で摺動(試験片20の一端面に接触しながら摺動)させることにより、静摩擦係数(μs),動摩擦係数(μd)を測定した。なお、摩擦係数測定機の触針には、触針先端半径2μmのものを使用した。
【0043】
<取付性>
実際の市販車用クオーターガラスシールの所定の取付位置に、各製品試料Sをそれぞれ手作業により取り付けて、その際の取付性を評価した。なお、表1中の取付性の項目において、記号「〇」は製品試料Sを取り付けできた場合、記号「◎」は記号「〇」の場合と比較して製品試料Sを容易に取り付けできた場合を示すものとする。
【表1】
表1に示す結果によると、製品試料SM1~SM4においては、製品試料SP1と比較して、中空ガラス粉体の配合量が増加するに連れて低比重化,低摩擦化し、取付性も向上した。製品試料SM1~SM4のように中空ガラス粉体の配合量が増加するに連れて低摩擦化した理由の一つとして、製品試料Sの表面に露出した中空ガラス粉体が当該低摩擦化に寄与していることが判った。
【0044】
≪検証例2≫
まず、ポリ塩化ビニル樹脂100重量部に対して、種々の中空ガラス粉体を適宜配合し、オープンロールを用いて混練(ロール表面温度160℃,混練時間5分で混練)することにより、表2に示す種々の弾性材料P2,M5~M7を得た。なお、中空ガラス粉体には、3M社製のK20(真密度0.20g/cm,耐圧強度3.4MPa,平均粒径60μm),S32HS(真密度0.32g/cm,耐圧強度41MPa,平均粒径25μm),iM16Kと、セイシン企業社製のY12000(真密度0.60g/cm,耐圧強度82MPa,平均粒径48μm)と、を適用した。
【0045】
そして、各弾性材料P2,M5~M7自体の比重と、当該各弾性材料P2,M5~M7をプレス成形して得た場合の製品試料SP2,SM5~SM7の比重と、当該各弾性材料P2,M5~M7を検証例1と同様に射出成形して得た場合の製品試料SP2,SM5~SM7の比重と、をそれぞれ検証例1と同様の水中置換法により観測したところ、表2に示すような観測結果が得られた。なお、プレス成形においては、射出成形の場合と同様のキャビティを有するプレス成形用金型を用いて、一般的なプレス成形法によるプレス成形(金型のキャビティ内に弾性材料を充填し、圧力20MPa,加圧時間2分30秒のプレス成形)を適宜行った。
【表2】
表2に示す結果によると、製品試料SM5~SM7の各比重は、製品試料SP2の各比重と比較して、それぞれ低くなっていた。この理由としては、まず製品試料SP2の場合、弾性材料P2に配合した中空ガラス粉体の耐圧強度が低過ぎるため、当該弾性材料P2の混練時や成形時に当該中空ガラス粉体が破壊されたものと考えられる。一方、製品試料SM5~SM7においては、弾性材料M5~M7に配合した中空ガラス粉体が、混練時や成形時において破壊されないように抑制されたことが判った。
【0046】
≪検証例3≫
表1に示した製品試料SP1,SM3において、以下に示す方法により比重のバラツキ,寸法安定性,光沢性,色差を観測したところ、表3に示すような結果が得られた。また、製品試料SM3の断面をSEM撮影したところ、図3に示すような結果が得られた。
【0047】
<比重のバラツキ>
検証例1と同様の水中置換法により、各製品試料SP1,SM3の4つの角部a~dの比重を、それぞれ測定した。また、各製品試料SP1,SM3自体の重量も、それぞれ測定した。
【0048】
<寸法安定性(温度変化に対する形状安定性)>
各製品試料SP1,SM3において、-40℃~90℃の範囲内で温度変化する雰囲気下に配置した場合の変形量を測定して、それぞれの線膨張係数α(1/℃)を下記(1)式に基づいて導出した。なお、下記(1)式において、L0は温度23℃における製品試料Sの基準寸法、L1は温度-40℃における製品試料Sの寸法、L2は温度90℃における製品試料Sの寸法、Δtは温度差(-40℃~90℃)とする。
【0049】
α=((L0-L1)+(L2-L0))/(Δt×L0) ……(1)。
【0050】
<光沢性>
コニカミノルタ社製のグロス計(GM-60S)により、各製品試料SP1,SM3の表面を観測して、それぞれの光沢性のグロス値を導出した。
【0051】
<色差>
コニカミノルタ社製の分光測色計(CM-2600d)により、各製品試料SP1,SM3の表面を観測して、当該製品試料SP1を基準にした場合における当該製品試料SM3の色相差ΔE,ΔLを導出した。
【表3】
表3に示す結果によると、製品試料SM3においては、各角部a~dの比重が略同一となり、当該比重のバラツキは十分抑制(製品試料SP1の場合と同程度で抑制)されていることが判った。また、製品試料SM3は、製品試料SP1と比較すると、製品試料S自体の重量が軽く、寸法安定性が良好であった。
【0052】
さらに、製品試料SM3は、製品試料SP1と比較して光沢性が低く抑えられており(一般的な自動車用のガラスランのモールの光沢性(例えばグロス値5程度)に近似しており)、色相差ΔE,ΔLが十分小さい値であった。この理由としては、図3に示すように製品試料SM3の表面(図3中の符号Sで示す表面)が、中空ガラス粉体に由来する極めて微小な凹凸が僅かに形成されているものの、十分良好な表面平滑性を有し、また当該中空ガラス粉体の粒径は十分小さいため、当該表面の光沢性が十分抑制されていることが判った。
【0053】
≪検証例4≫
まず、ポリ塩化ビニル樹脂100重量部に対して、中空ガラス粉体(iM16K)50重量部を配合し、さらにフタル酸ジイソノニル,炭酸カルシウムをそれぞれ100~125重量部,25~50重量部の範囲内で配合して、検証例1と同様に適宜混練することにより、表4に示す種々の弾性材料M8~M10を得た。なお、フタル酸ジイソノニルには、花王社製のビニサイザー90を適用し、炭酸カルシウムには、日東粉化社製のNITOREX♯23PSを適用した。また、参考例として、中空ガラス粉体を配合していない弾性材料P3も得た。
【0054】
そして、各弾性材料P3,M8~M10において、以下に示す方法により複素粘性率をそれぞれ観測したところ、表4,図4示すような観測結果が得られた。また、各弾性材料P3,M8~M10において、検証例1と同様に射出成形することにより、製品試料SP3,SM8~SM10を作成し、それぞれの角部a側の外観性を観測したところ、表4に示すような観測結果が得られた。
【0055】
<複素粘性率>
前記粘弾性測定機(米国アルファテクノロジーズ社製のRPA2000)を用いて、温度150℃~190℃,速度50rad/s,歪量13.95における各弾性材料P3,M8~M10の複素粘性率η*(kPa・s)を、それぞれ測定した。
【0056】
<外観性>
製品試料Sの角部aを目視することにより、意図しない模様(ジェッティング,フローマーク等)の有無を観測した。
【表4】
表4,図4に示す結果によると、弾性材料M8~M10は、可塑剤の配合量が増加するに連れて複素粘性率η*が抑制され、混練性が良好になることが判った。特に弾性材料M10においては、当該弾性材料M10を射出成形して得た製品試料SM10の外観性が良好であることから、中空ガラス粉体の分散性も高いことが判った。
【0057】
そこで、弾性材料M10において、温度150℃における複素粘性率η*が1.0~2.0kPa・sとなる範囲内で適宜設計変更し、当該変更した場合の製品試料SM10を観測したところ、表4に示す結果と同様に良好な外観性が得られ、中空ガラス粉体の分散性が十分高いことを確認できた。
【0058】
以上、本発明において、記載された具体例に対してのみ詳細に説明したが、本発明の技術思想の範囲で多彩な変更等が可能であることは、当業者にとって明白なことであり、このような変更等が特許請求の範囲に属することは当然のことである。
【0059】
例えば、弾性材料に適用するポリ塩化ビニル樹脂,中空ガラス粉体,可塑剤,充填剤等においては、それぞれ検証例1~4に示した製品に限定されるものではなく、種々の製品を適用することが可能である。すなわち、当該検証例1~4に示した製品以外のものを適用(例えば、項目≪実施例≫で説明した製品を適宜適用)した場合であっても、少なくとも特許請求の範囲であればよく、それぞれ当該検証例1~4と同様の作用効果を奏することが可能である。
【符号の説明】
【0060】
S…製品試料(シール材)
…表面
a~d…角部
図1
図2
図3
図4
【手続補正書】
【提出日】2023-05-18
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも熱可塑性エラストマーと中空状のガラス粉体とを配合し混練して得た弾性材料を射出成形して成るシール材であって、
前記弾性材料は、前記熱可塑性エラストマー100重量部に対して前記ガラス粉体が5~50重量部の割合で配合されており、
前記ガラス粉体は、真密度が0.20~0.60g/cmで平均粒径が20~60μmであり、
前記シール材の比重は、0.40~1.20であることを特徴とするシール材。
【請求項2】
前記ガラス粉体は、ソーダ石灰硼酸ガラスを用いて成り、耐圧強度が60MPa~200MPaであることを特徴とする請求項1記載のシール材。
【請求項3】
前記熱可塑性エラストマーは、ポリ塩化ビニル樹脂を主成分とすることを特徴とする請求項1または2記載のシール材。
【請求項4】
前記熱可塑性エラストマーは、ポリ塩化ビニル樹脂100重量部に対し、可塑剤が40~130重量部、炭酸カルシウムが20~60重量部、の割合で配合されており、
シール材のショアA硬度が60~80であることを特徴とする請求項1または2記載のシール材。
【請求項5】
前記弾性材料は、温度150℃における複素粘性率が1.0~2.0kPa・sであることを特徴とする請求項1または2記載のシール材。
【請求項6】
自動車の車体パネルと窓ガラスとの間に取り付け可能なクオーターガラスシールであることを特徴とする請求項1または2記載のシール材。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0013
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0013】
また、前記弾性材料は、温度150℃における複素粘性率が1.0~2.0kPa・sであることを特徴としてもよい。