(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024164376
(43)【公開日】2024-11-27
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池廃棄物の処理方法
(51)【国際特許分類】
C22B 7/00 20060101AFI20241120BHJP
C22B 23/00 20060101ALI20241120BHJP
C22B 3/14 20060101ALI20241120BHJP
C22B 3/16 20060101ALI20241120BHJP
B09B 3/70 20220101ALI20241120BHJP
B09B 5/00 20060101ALI20241120BHJP
H01M 10/54 20060101ALI20241120BHJP
B09B 3/80 20220101ALI20241120BHJP
B09B 101/16 20220101ALN20241120BHJP
【FI】
C22B7/00 C ZAB
C22B23/00 102
C22B3/14
C22B3/16
B09B3/70
B09B5/00 Z
H01M10/54
B09B3/80
B09B101:16
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023079806
(22)【出願日】2023-05-15
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-03-05
(71)【出願人】
【識別番号】000114488
【氏名又は名称】メック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村岸 建吾
(72)【発明者】
【氏名】松本 啓佑
【テーマコード(参考)】
4D004
4K001
5H031
【Fターム(参考)】
4D004AA23
4D004BA05
4D004CA04
4D004CA13
4D004CA22
4D004CA34
4D004CB13
4D004CC06
4D004CC12
4D004CC15
4K001AA02
4K001AA07
4K001AA09
4K001AA16
4K001AA19
4K001AA34
4K001BA22
4K001CA01
4K001CA11
4K001DB06
4K001DB09
4K001DB16
4K001DB23
5H031RR02
(57)【要約】
【課題】ニッケルおよびコバルトなどの所望の有価金属の回収率に優れたリチウムイオン電池廃棄物の処理方法を提供すること。
【解決手段】リチウムイオン電池廃棄物を湿式処理することにより、少なくともコバルトおよびニッケルが溶解した浸出液を得るリチウムイオン電池廃棄物の処理方法であって、リチウムイオン電池廃棄物に対し、アンモニアおよびその塩、ならびにアミン化合物およびその塩からなる群より選択される少なくとも1種の化合物(1)を添加し、混合することにより、少なくともコバルトおよびニッケルが溶解した浸出液を得る湿式処理工程と、湿式処理工程後、浸出液に溶解しない金属の少なくとも一部を固液分離により除去する固液分離工程とを備えるリチウムイオン電池廃棄物の処理方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン電池廃棄物を湿式処理することにより、少なくともコバルトおよびニッケルが溶解した浸出液を得るリチウムイオン電池廃棄物の処理方法であって、
前記リチウムイオン電池廃棄物に対し、アンモニアおよびその塩、ならびにアミン化合物およびその塩からなる群より選択される少なくとも1種の化合物(1)を添加し、混合することにより、少なくとも前記コバルトおよび前記ニッケルが溶解した前記浸出液を得る湿式処理工程と、
前記湿式処理工程後、前記浸出液に溶解しない金属の少なくとも一部を固液分離により除去する固液分離工程とを備えることを特徴とするリチウムイオン電池廃棄物の処理方法。
【請求項2】
前記湿式処理工程において、前記化合物(1)に加えて酸を添加し、混合する請求項1に記載のリチウムイオン電池廃棄物の処理方法。
【請求項3】
前記酸が、モノカルボン酸系有機酸および無機酸からなる群より選択される少なくとも1種の化合物(2)である請求項2に記載のリチウムイオン電池廃棄物の処理方法。
【請求項4】
前記化合物(1)が、アミノ基を有するアミン化合物およびその塩からなる群より選択される少なくとも1種の化合物である請求項1に記載のリチウムイオン電池廃棄物の処理方法。
【請求項5】
前記化合物(1)が、アミノ基を2以上有するキレート系アミン化合物およびその塩からなる群より選択される少なくとも1種の化合物である請求項1に記載のリチウムイオン電池廃棄物の処理方法。
【請求項6】
前記リチウムイオン電池廃棄物がアルミニウムを含有するものであり、前記固液分離工程において、少なくとも前記アルミニウムの一部を除去する請求項1に記載のリチウムイオン電池廃棄物の処理方法。
【請求項7】
前記リチウムイオン電池廃棄物が鉄を含有するものであり、前記固液分離工程において、少なくとも前記鉄の一部を除去する請求項1に記載のリチウムイオン電池廃棄物の処理方法。
【請求項8】
前記リチウムイオン電池廃棄物がマンガンを含有するものであり、前記固液分離工程において、少なくとも前記マンガンの一部を除去する請求項1に記載のリチウムイオン電池廃棄物の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池廃棄物の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
SDGsの観点から、リチウムイオン電池廃棄物からコバルトおよびニッケルなどの有価金属を回収・再利用することが広く検討されている。
【0003】
リチウムイオン電池廃棄物からコバルトおよびニッケルなどの有価金属を回収する場合、リチウムイオン電池廃棄物に対し、焙焼・粉砕などの処理を行い、得られるリチウムイオン電池粉を酸性溶液に添加し、リチウム、銅、コバルト、ニッケル、鉄、アルミニウム、マンガンなどが溶解した浸出液を得る。次いで、固液分離や溶媒抽出を繰り返し行うことで、所望の有価金属、例えばコバルトやニッケルなどが溶解した溶液を得る。最後に、ニッケルおよびコバルトは各溶液から電気分解などを実施することで回収する。
【0004】
例えば、下記特許文献1では、リチウムイオン電池廃棄物に湿式処理を施して得られ、少なくともコバルト、ニッケル、マンガンおよびアルミニウムが溶解した酸性溶液に対し、pHを4.0~6.0に中和し、アルミニウムの一部を沈殿させ、固液分離により当該アルミニウムの一部を除去する前段中和工程と、前段中和工程の後、pHを11.0以上に中和し、アルミニウムの残部を液中に残し、固液分離によりコバルト、ニッケルおよびマンガンを含む中和残渣を得る後段中和工程とを行うことを含む、リチウムイオン電池廃棄物の処理方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らが前記特許文献1に記載の処理方法について鋭意検討した結果、除去対象であるアルミニウムや鉄を浸出液から効率よく除去することが困難であり、ニッケルおよびコバルトなどの所望の有価金属を高浸出率で浸出するには、さらなる改良の余地があることが判明した。
【0007】
上記に鑑み、本発明の課題は、ニッケルおよびコバルトなどの所望の有価金属の回収率に優れたリチウムイオン電池廃棄物の処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は下記構成により解決し得る。すなわち本発明は、リチウムイオン電池廃棄物を湿式処理することにより、少なくともコバルトおよびニッケルが溶解した浸出液を得るリチウムイオン電池廃棄物の処理方法であって、前記リチウムイオン電池廃棄物に対し、アンモニアおよびその塩、ならびにアミン化合物およびその塩からなる群より選択される少なくとも1種の化合物(1)を添加し、混合することにより、少なくとも前記コバルトおよび前記ニッケルが溶解した前記浸出液を得る湿式処理工程と、前記湿式処理工程後、前記浸出液に溶解しない金属の少なくとも一部を固液分離により除去する固液分離工程とを備えることを特徴とするリチウムイオン電池廃棄物の処理方法(1)に関する。
【0009】
上記リチウムイオン電池廃棄物の処理方法(1)において、前記湿式処理工程において、前記化合物(1)に加えて酸を添加し、混合するリチウムイオン電池廃棄物の処理方法(2)が好ましい。
【0010】
上記リチウムイオン電池廃棄物の処理方法(2)において、前記酸が、モノカルボン酸系有機酸および無機酸からなる群より選択される少なくとも1種の化合物(2)であるリチウムイオン電池廃棄物の処理方法(3)が好ましい。
【0011】
上記リチウムイオン電池廃棄物の処理方法(1)~(3)のいずれかにおいて、前記化合物(1)が、アミノ基を有するアミン化合物およびその塩からなる群より選択される少なくとも1種の化合物であるリチウムイオン電池廃棄物の処理方法(4)が好ましい。
【0012】
上記リチウムイオン電池廃棄物の処理方法(1)~(4)のいずれかにおいて、前記化合物(1)が、アミノ基を2以上有するキレート系アミン化合物およびその塩からなる群より選択される少なくとも1種の化合物であるリチウムイオン電池廃棄物の処理方法(5)が好ましい。
【0013】
上記リチウムイオン電池廃棄物の処理方法(1)~(5)のいずれかにおいて、前記リチウムイオン電池廃棄物がアルミニウムを含有するものであり、前記固液分離工程において、少なくとも前記アルミニウムの一部を除去するリチウムイオン電池廃棄物の処理方法(6)が好ましい。
【0014】
上記リチウムイオン電池廃棄物の処理方法(1)~(6)のいずれかにおいて、前記リチウムイオン電池廃棄物が鉄を含有するものであり、前記固液分離工程において、少なくとも前記鉄の一部を除去するリチウムイオン電池廃棄物の処理方法(7)が好ましい。
【0015】
上記リチウムイオン電池廃棄物の処理方法(1)~(7)のいずれかにおいて、前記リチウムイオン電池廃棄物がマンガンを含有するものであり、前記固液分離工程において、少なくとも前記マンガンの一部を除去するリチウムイオン電池廃棄物の処理方法(8)が好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るリチウムイオン電池廃棄物の処理方法によれば、アンモニアおよびその塩ならびにアミン化合物およびその塩からなる群より選択される少なくとも1種の化合物を添加し、混合することにより、少なくともコバルトおよびニッケルが溶解した浸出液を得る湿式処理工程を備えることで、少なくともコバルトおよびニッケル以外の回収目的ではないアルミニウムや鉄やマンガンなどを例えば固液分離などの単純作業で除去することができるため、ニッケルおよびコバルトなどの所望の有価金属を高い回収率で回収することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、リチウムイオン電池廃棄物を湿式処理することにより、少なくともコバルトおよびニッケルが溶解した浸出液を得るリチウムイオン電池廃棄物の処理方法であって、少なくとも湿式処理工程と固液分離工程とを備える。
【0018】
リチウムイオン電池廃棄物は、電気自動車や携帯電話・パソコンなどの種々の機器で使用されるリチウムイオン電池の廃棄物である。リチウムイオン電池は通常、コバルト酸リチウムなどを主活物質として有する正極、特殊カーボンを主活物質とする負極、セパレータなどが電解液を含んだ状態で積層または渦巻き状に巻回され、さらにアルミニウムなどの外装材の中に配置されている。
【0019】
リチウムイオン電池廃棄物は、湿式処理工程前に通常、焙焼、破砕などの前処理が施される。焙焼処理では、リチウムイオン電池を例えば500~1000℃の範囲で数時間加熱保持される。加熱保持する際は、炉内で行っても大気中で行ってもよい。破砕処理では、サンプルミルやハンマーミル、ハンマークラッシャーなどの粉砕機が用いられる。本発明においては、必要に応じて湿式処理工程前に焙焼、破砕以外の前処理を実施してもよい。例えば、焙焼・粉砕などの前処理を経て、リチウムイオン電池廃棄物を微粉末状のリチウムイオン電池粉とした後、例えばイオン交換水などと接触させることにより、リチウムイオン電池粉から一定量のリチウムを回収してもよい。
【0020】
リチウムイオン電池廃棄物は、リチウム、銅、コバルト、ニッケル、鉄、アルミニウム、マンガンなどを含有する。リチウムイオン電池廃棄物中に含まれる各金属の濃度は、例えば以下の方法により測定可能である。具体的には、焙焼・粉砕などの前処理を経て、リチウムイオン電池廃棄物を微粉末状のリチウムイオン電池粉とした後、例えば王水(塩酸/硝酸=3/1溶液)中にリチウムイオン電池粉を添加することで、リチウム、銅、コバルト、ニッケル、鉄、アルミニウム、マンガンなどが溶解した浸出液を得る。浸出液は、リチウムイオン電池粉を王水などの酸性溶液で浸出したものが好ましい。王水添加後の浸出液のpHとしては、例えば0.0~1.0が好ましい。浸出液を得る条件としては、例えば王水50.0~500.0g当たりリチウムイオン電池粉を1.0~10.0g加え、25~80℃で1~72時間、250~1500rpmの撹拌速度で浸出する条件が例示可能である。浸出後に吸引ろ過機などを用いて固液分離を行い、得られたろ液中の各金属の濃度を測定する。浸出液中の各金属の濃度は、例えばICP発光分光分析装置(Inductively coupled plasma optical emission spectrometer;ICP-OES)などにより測定可能である。本発明において、コバルトおよびニッケルなどの回収率は、リチウムイオン電池廃棄物に対し、王水添加後の浸出液(ろ液)を基準にして算出する。この点については後述する。
【0021】
(湿式処理工程)
湿式処理工程では、リチウムイオン電池廃棄物に対し、アンモニアおよびその塩、ならびにアミン化合物およびその塩からなる群より選択される少なくとも1種の化合物(1)を添加し、混合することにより、少なくともコバルトおよびニッケルが溶解した浸出液を得る。
【0022】
化合物(1)は、アンモニアおよびその塩、ならびにアミン化合物およびその塩からなる群より選択される少なくとも1種の化合物である。アンモニアの塩(アンモニウム塩)としては例えば、塩化アンモニウムなどが挙げられる。アミン化合物としては例えば、エチレンジアミン、トリス(2-エチルアミノ)アミン、イミダゾール、2-ピペラジン、トリエタノールアミン、L-リシン、アミノグアニジンなどが挙げられる。アミン化合物の塩としては例えば、エチレンジアミン二塩酸塩、2-ピペラジン塩酸塩、2-ピペラジン塩酸塩・1水和物、システアミン塩酸塩、トリエタノールアミン塩酸塩、L-リシン塩酸塩、アミノグアニジン塩酸塩などが挙げられる。アンモニアおよびその塩、ならびにアミン化合物およびその塩は単独で使用してもよく、組み合わせて使用してもよい。例えば、アンモニウム塩とアンモニアとを組み合わせてもよく、アミン化合物の塩とアンモニアとを組み合わせてもよい。より具体的には例えば、塩化アンモニウムとアンモニアとを組み合わせてもよく、2-ピペラジン塩酸塩・1水和物とアンモニアとを組み合わせてもよく、システアミン塩酸塩とアンモニアとを組み合わせてもよく、エチレンジアミン二塩酸塩とアンモニアとを組み合わせてもよく、トリエタノールアミン塩酸塩とアンモニアとを組み合わせてもよく、L-リシン塩酸塩とアンモニアとを組み合わせてもよく、アミノグアニジン塩酸塩とアンモニアとを組み合わせてもよい。
【0023】
本発明においては、化合物(1)の中でも、アミノ基を有するアミン化合物およびその塩からなる群より選択される少なくとも1種の化合物が好ましく、アミノ基を2以上有するキレート系アミン化合物およびその塩からなる群より選択される少なくとも1種の化合物がさらに好ましい。具体的には例えばエチレンジアミン、トリス(2-エチルアミノ)アミン、2-ピペラジン塩酸塩・1水和物、エチレンジアミン二塩酸塩、L-リシン塩酸塩を使用した場合、ニッケルおよびコバルトなどの所望の有価金属の回収率をより高められるため好ましい。
【0024】
ニッケルおよびコバルトなどの所望の有価金属の回収率を高めるために、湿式処理工程では、リチウムイオン電池廃棄物に対し、化合物(1)に加えて、酸を添加し、混合することにより、コバルトおよび前記ニッケル以外の金属の少なくとも一部を除去することが好ましく、酸として、モノカルボン酸系有機酸および無機酸からなる群より選択される少なくとも1種の化合物(2)を添加し、混合することにより、コバルトおよびニッケル以外の金属の少なくとも一部を除去することがさらに好ましい。モノカルボン酸系有機酸としては例えば、ギ酸、酢酸などが例示可能である。また、無機酸としては例えば、塩酸、臭化水素酸などが例示可能である。
【0025】
湿式処理工程において、化合物(1)に加えて化合物(2)を添加する場合、化合物(2):化合物(1)をモル比で1:1~1:6にすることが好ましく、1:1~1:2にすることがより好ましい。かかる範囲に設定することにより、ニッケルおよびコバルトなどの所望の有価金属の回収率をさらに高めることができる。
【0026】
ニッケルおよびコバルトなどの所望の有価金属の回収率を高めるために、湿式処理工程において、化合物(1)のみを添加した後の浸出液、あるいは化合物(1)および化合物(2)を添加した後の浸出液のpHを3.0~12.5に調整することが好ましく、9.5~11.0に調整することがより好ましい。また、浸出液の温度を25~80℃に設定し、8~24時間、500~1000rpmの攪拌速度で攪拌することが好ましい。
【0027】
(固液分離工程)
湿式処理工程で得られた浸出液から、溶解しない金属の少なくとも一部を除去する除去方法としては、例えば少なくともコバルトおよびニッケルが溶解した浸出液と、除去対象である例えばアルミニウムや鉄の沈殿物とを固液分離により分別する方法が挙げられる。本発明に係るリチウムイオン電池廃棄物の処理方法では、ニッケルおよびコバルトなどの所望の有価金属を高い回収率で回収することが可能であり、具体的には例えば、湿式処理工程後、固液分離工程を実施する場合はその後に得られるコバルトおよびニッケルの回収率が50%以上となり、さらに好ましくは70%以上となる。なお、本発明において、コバルトおよびニッケルなどの回収率は、以下の式(1)により算出できる。
(各金属の回収率(%))=(湿式処理工程後に得られる浸出液(ろ液)中の金属濃度)/(リチウムイオン電池廃棄物に対し、王水添加後の浸出液(ろ液)中の金属濃度)×100 ・・・式(1)
【0028】
本発明に係るリチウムイオン電池廃棄物の処理方法では、リチウムイオン電池廃棄物がアルミニウムを含有するものであり、固液分離工程において、少なくともアルミニウムの一部を除去する場合、式(1)で算出したアルミニウムの回収率が低くなる、つまりアルミニウムの残存量が少なくなるため好ましい。具体的には例えば、湿式処理工程後のアルミニウムの残存率が30%以下となり、さらに好ましくは10%以下となる。
【0029】
本発明に係るリチウムイオン電池廃棄物の処理方法では、リチウムイオン電池廃棄物が鉄を含有するものであり、固液分離工程において、少なくとも鉄の一部を除去する場合、式(1)で算出した鉄の回収率が低くなる、つまり鉄の残存率が少なくなるため好ましい。具体的には例えば、湿式処理工程後の鉄の残存率が30%以下となり、さらに好ましくは10%以下となる。
【0030】
本発明に係るリチウムイオン電池廃棄物の処理方法では、リチウムイオン電池廃棄物がマンガンを含有するものであり、固液分離工程において、少なくともマンガンの一部を除去する場合、式(1)で算出したマンガンの回収率が低くなる、つまりマンガンの残存率が少なくなるため好ましい。具体的には例えば、湿式処理工程後のマンガンの残存率が30%以下となり、さらに好ましくは10%以下となる。
【0031】
本発明に係るリチウムイオン電池廃棄物の処理方法では、リチウムイオン電池廃棄物がリチウムを含有する場合であっても、固液分離工程において、式(1)で算出したリチウムの回収率が比較的高くなるため好ましい。具体的には例えば、湿式処理工程後のリチウムの回収率が10%以上となり、さらに好ましくは35%以上となる。
【0032】
本発明に係るリチウムイオン電池廃棄物の処理方法では、リチウムイオン電池廃棄物が銅を含有する場合であっても、固液分離工程において、式(1)で算出した銅の回収率が比較的高くなるため好ましい。具体的には例えば、湿式処理工程後の銅の回収率が10%以上となり、さらに好ましくは35%以上となる。
【0033】
本発明に係るリチウムイオン電池廃棄物の処理方法では、湿式処理工程後、固液分離工程を実施する場合はその後に得られた浸出液(ろ液)中に含まれた各金属のなかでも、コバルトおよびニッケルの回収率が高く、不要な金属、特にアルミニウムおよび鉄の残存率が小さくなる。したがって、本発明に係るリチウムイオン電池廃棄物の処理方法は、特にリチウムイオン電池廃棄物からコバルトおよびニッケルを回収する方法として有用である。例えば当業者に公知の抽出剤を使用して抽出作業を実施することにより、最終的に湿式処理工程後に得られたろ液から、コバルトのみ、あるいはニッケルのみを回収することができる。
【実施例0034】
以下に、本発明に係る実施形態の一例を説明するが、かかる説明に本発明は何ら限定されるものではない。
【0035】
(リチウムイオン電池廃棄物中に含まれる各金属の濃度測定)
リチウムイオン電池廃棄物に対し、焙焼、破砕処理を施すことにより得られたリチウムイオン電池粉1.0gを王水(塩酸/硝酸=3/1)50.0gに添加し、25℃で24時間、撹拌速度500~750rpmの条件で混合することにより、浸出液を得た。吸引ろ過機を用いて浸出液の固液分離を行い、得られたろ液の金属濃度を測定した。なお、金属濃度測定には、ICPを用いた。結果を表1に示す。
【0036】
【0037】
(湿式処理工程・固液分離工程)
リチウムイオン電池粉1.0gを処理水50.0gに添加・混合した。処理水は、イオン交換水および化合物(1)のみ、あるいはイオン交換水と、化合物(1)および化合物(2)とを、表2および表3に記載の比率で調整したものを使用した。リチウム電池粉と処理水とを25℃で24時間、攪拌速度500~750rpmの条件で混合した後(湿式処理工程)、吸引ろ過機を用いて固液分離を行い(固液分離工程)、得られたろ液の金属濃度を測定した。濃度の測定にはICPを使用した。結果を表2および表3に示す。なお、表2および表3の各金属の回収率は前記式(1)を用いて算出し、以下の基準で評価した。
【0038】
・回収対象金属(コバルト(Co)およびニッケル(Ni))の回収率;70%以上を「〇」、50%以上70%未満を「△」、50%以下を「×」として評価した。
・回収対象外金属(鉄(Fe)、アルミニウム(Al)およびマンガン(Mn))の回収率;10%以下を「〇」、10%以上30%未満を「△」、30%以上を「×」として評価した。なお、回収対象外金属については、回収率が高いほど、回収対象金属とともにろ液に残存し回収されることになり、回収対象金属が選択的に回収できていないことになるため好ましくない。
・その他金属(リチウム(Li)および銅(Cu))の回収率;35%以上を「〇」、10%以上35%未満を「△」、10%以下を「×」として評価した。
【0039】
【0040】
比較例1-3は、従来から知られる有機酸または無機酸による処理方法であり、回収対象金属であるコバルトおよびニッケルだけでなく、回収対象外金属であるアルミニウム、鉄およびマンガンも同時に回収されており、コバルトおよびニッケルを選択的に回収できていないことがわかる。一方、実施例1-9は本発明に係るリチウムイオン電池廃棄物の処理方法であり、回収対象外金属であるアルミニウム、鉄およびマンガンの回収率を低下しつつ、回収対象金属であるコバルトおよびニッケルを選択的に回収できていることがわかる。特に、化合物(1)としてアミノ基を2以上有するキレート系アミン化合物と、化合物(2)としてモノカルボン酸系有機酸または無機酸とを使用した実施例3,4,6および8では、ニッケルおよびコバルトなどの所望の有価金属の回収率が特に優れた結果となった。
【0041】
【0042】
実施例10-19は本発明に係るリチウムイオン電池廃棄物の処理方法であり、回収対象外金属であるアルミニウム、鉄およびマンガンの回収率を低下しつつ、回収対象金属であるコバルトおよびニッケルを選択的に回収できていることがわかる。特に、塩化アンモニウムとアンモニアとを併用した実施例10、2-ピペラジン塩酸塩・1水和物とアンモニアとを併用した実施例12、システアミン塩酸塩とアンモニアとを併用した実施例13、エチレンジアミン二塩酸塩とアンモニアとを併用した実施例15、L-リシン塩酸塩とアンモニアとを併用した実施例18では、ニッケルおよびコバルトなどの所望の有価金属の回収率が特に優れた結果となった。
前記酸が、モノカルボン酸系有機酸および無機酸からなる群より選択される少なくとも1種の化合物(2)である請求項2に記載のリチウムイオン電池廃棄物の処理方法。
前記リチウムイオン電池廃棄物がアルミニウムを含有するものであり、前記固液分離工程において、少なくとも前記アルミニウムの一部を除去する請求項1に記載のリチウムイオン電池廃棄物の処理方法。
前記リチウムイオン電池廃棄物がマンガンを含有するものであり、前記固液分離工程において、少なくとも前記マンガンの一部を除去する請求項1に記載のリチウムイオン電池廃棄物の処理方法。
前記リチウムイオン電池廃棄物がアルミニウムを含有するものであり、前記固液分離工程において、少なくとも前記アルミニウムの一部を除去する請求項1に記載のリチウムイオン電池廃棄物の処理方法。
前記リチウムイオン電池廃棄物がマンガンを含有するものであり、前記固液分離工程において、少なくとも前記マンガンの一部を除去する請求項1に記載のリチウムイオン電池廃棄物の処理方法。