(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024016438
(43)【公開日】2024-02-07
(54)【発明の名称】農業用水管理システム
(51)【国際特許分類】
A01G 25/00 20060101AFI20240131BHJP
F03B 15/14 20060101ALI20240131BHJP
H02P 9/04 20060101ALI20240131BHJP
H02P 101/10 20150101ALN20240131BHJP
【FI】
A01G25/00 501E
F03B15/14
H02P9/04 D
H02P101:10
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022118564
(22)【出願日】2022-07-26
(71)【出願人】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】山田 順之
【テーマコード(参考)】
3H073
5H590
【Fターム(参考)】
3H073AA02
3H073BB19
3H073CC02
3H073CC08
3H073CE22
3H073CE23
5H590CA11
5H590CD01
5H590EB11
5H590HA12
5H590HA18
5H590HA22
(57)【要約】
【課題】水路における水位を安定して制御することが可能な農業用水管理システムを提供する。
【解決手段】 水路3は、複数の田5に沿って配置され、それぞれの田5への取水部7を有する。それぞれの取水部7には、堰9が配置される。発電装置11は、水路3の取水部7よりも下流側に設置され、発電装置11は、水路3を流れる水流によって発電を行うことが可能である。発電装置11の上流側の水路3の水位又は発電装置11の上流側の田5の水位を測定可能な水位センサを用い、制御部によって、発電装置11の回転負荷を調整することで、発電装置11を通過する水の通水抵抗を制御することができる。このため、水位センサの水位情報に基づいて発電装置11の上流側の水路3の水位を調整することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
田への取水部を有する水路に形成される農業用水管理システムであって、
前記水路の前記取水部よりも下流側に設置され、前記水路を流れる水流によって発電可能な発電装置と、
前記発電装置に対する回転負荷を調整することが可能である制御部と、
を具備し、
前記制御部によって前記発電装置の回転負荷を調整することで、前記発電装置を通過する水の通水抵抗を制御し、前記発電装置の上流側の前記水路の水位を調整することが可能であることを特徴とする農業用水管理システム。
【請求項2】
前記発電装置は、回転軸の外周部にらせん状に羽が形成されたスクリュウ型であり、前記回転軸を前記水路の水流方向に向けて配置されることを特徴とする請求項1記載の農業用水管理システム。
【請求項3】
前記発電装置の上流側の前記水路の水位又は前記発電装置の上流側の田の水位を測定可能な水位センサを有し、
前記制御部は、前記水位センサの水位情報に基づいて前記水路の水位を調整可能であることを特徴とする請求項1記載の農業用水管理システム。
【請求項4】
前記制御部、前記水路又は田の水位を測定可能な水位センサ、前記水路の流量センサ、田の撮像装置、前記取水部に配置された堰の作動部、又は田へ給水する水を加温する加温装置の少なくともいずれかが、前記発電装置によって発電された電力を利用して稼働することを特徴とする請求項1記載の農業用水管理システム。
【請求項5】
前記水路の内壁と、前記発電装置との隙間に、水の流れを遮蔽する遮蔽部が設けられることを特徴とする請求項1記載の農業用水管理システム。
【請求項6】
前記制御部は、前記遮蔽部によって塞がれる流路面積を制御することが可能であることを特徴とする請求項5記載の農業用水管理システム。
【請求項7】
前記取水部に配置される可動堰と、
田の水位を測定可能な水位センサと、を有し、
前記制御部は、前記水位センサの水位情報に基づいて前記可動堰を動作させて、田の水位を調整可能であることを特徴とする請求項1記載の農業用水管理システム。
【請求項8】
前記水路には、複数の田に対してそれぞれ前記取水部が設けられ、
それぞれの前記取水部の下流側に、前記発電装置がそれぞれ配置され、
それぞれの田毎に水位を設定可能であり、前記制御部は、一の前記発電装置が設置された田又は前記水路の水位と、当該発電装置の下流側の田又は前記水路の水位とから、田毎に設定されたそれぞれの前記発電装置の回転負荷を制御することを特徴とする請求項1記載の農業用水管理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、田んぼへの給水量を制御することが可能な農業用水管理システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
田んぼには、給水のための用水路等が配置され、通常は一つの用水路が複数の田んぼへの給水に利用される。用水路からそれぞれの田んぼへの給水には、給水口に設けられた堰や給水バルブの開閉によって行われる。
【0003】
一方、田植え期などにおいて、水路への水の供給量に対して田んぼへの水の需要量が増えると、水路の水位が下がる。田んぼへの給水口から田んぼへ水を供給するためには、水路にはある程度の水位が必要である。このため、給水口の下流側に堰や土嚢などを配置して、給水口における水路の水位を上昇させるなどの作業が必要となる。
【0004】
しかし、水路への水の供給量は天候などによって変化するため、堰や土嚢の設置によって水位を安定させるのは困難である。このため、水路の水位に応じて、流量を適切に調整可能であることが望まれる。
【0005】
このような水路の水位調整を行う方法として、水車を上下させて水車の浸漬深さを調整することで、水車を通過する水の量を調整し、水路の水位調整を行う方法が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、水車を上下動させる機構は、水流による抵抗に耐えるために所定以上の強度が必要であるなど、構造が大型化する要因となる。また、水量が減少し、水位が極めて低くなると、水車によって水の抵抗を得ることが困難となり、水位を上昇させることはできない。
【0008】
本発明は、前述した問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とすることは、水路における水位を安定して制御することが可能な農業用水管理システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述した目的を達成するために本発明は、田への取水部を有する水路に形成される農業用水管理システムであって、前記水路の前記取水部よりも下流側に設置され、前記水路を流れる水流によって発電可能な発電装置と、前記発電装置に対する回転負荷を調整することが可能である制御部と、を具備し、前記制御部によって前記発電装置の回転負荷を調整することで、前記発電装置を通過する水の通水抵抗を制御し、前記発電装置の上流側の前記水路の水位を調整することが可能であることを特徴とする農業用水管理システムである。
【0010】
前記発電装置は、回転軸の外周部にらせん状に羽が形成されたスクリュウ型であり、前記回転軸を前記水路の水流方向に向けて配置されてもよい。
【0011】
前記発電装置の上流側の前記水路の水位又は前記発電装置の上流側の田の水位を測定可能な水位センサを有し、前記制御部は、前記水位センサの水位情報に基づいて前記水路の水位を調整可能であってもよい。
【0012】
前記制御部、前記水路又は田の水位を測定可能な水位センサ、前記水路の流量センサ、田の撮像装置、前記取水部に配置された堰の作動部、又は田へ給水する水を加温する加温装置の少なくともいずれかが、前記発電装置によって発電された電力を利用して稼働させてもよい。
【0013】
前記水路の内壁と、前記発電装置との隙間に、水の流れを遮蔽する遮蔽部が設けられてもよい。
【0014】
前記制御部は、前記遮蔽部によって塞がれる流路面積を制御することが可能であってもよい。
【0015】
前記取水部に配置される可動堰と、田の水位を測定可能な水位センサと、を有し、前記制御部は、前記水位センサの水位情報に基づいて前記可動堰を動作させて、田の水位を調整可能であってもよい。
【0016】
前記水路には、複数の田に対してそれぞれ前記取水部が設けられ、それぞれの前記取水部の下流側に、前記発電装置がそれぞれ配置され、それぞれの田毎に水位を設定可能であり、前記制御部は、一の前記発電装置が設置された田又は水路の水位と、当該発電装置の下流側の田又は水路の水位とから、田毎に設定されたそれぞれの前記発電装置の回転負荷を制御してもよい。
【0017】
本発明によれば、発電装置の回転負荷を調整することで、発電装置を通過する水の通水抵抗を制御し、発電装置の上流側の水路の水位を調整することが可能である。このため、発電装置を上下動させる機構が不要である。
【0018】
特に、発電装置が、回転軸の外周部にらせん状に羽が形成されたスクリュウ型であり、回転軸が水路の水流方向に向くように発電装置を配置することで、水位が低下しても安定して発電を行うことができる。例えば、発電装置を上下させることで水量を調整する場合、水量が多くなると水車を上昇させて浸漬量を減らすが、その後水位が下がると、水車が水上に露出してしまい、回転による発電が行われなくなる。このため、発電を利用した上下動の制御では、水位変動に追従させることが困難である。一方、発電装置がスクリュウ型であれば、水に常に浸漬させた状態で使用されるため、水位変動にも容易に追従可能である。
【0019】
また、発電装置がスクリュウ型であれば、水路の上部に発電装置や、発電装置の上下動機工を配置する必要がないため設置の自由度が高く、水路上に回転体が露出することがないため、人との接触の機会も低くなり安全である。
【0020】
また、発電装置の上流側の水路の水位又は発電装置の上流側の他の水位を測定可能な水位センサを用いることで、水位センサの水位情報に基づいて水路の水位を調整可能である。
【0021】
また、発電装置で発電された電気は、田んぼを管理するための各種の機器の稼働に利用することができる。
【0022】
また、水路の内壁と発電装置との隙間に、水の流れを遮蔽する遮蔽部を設けることで、より確実に発電装置へ水を流すことができる。
【0023】
この際、制御部によって遮蔽部で塞がれる流路面積を制御することが可能であれば、発電に利用せずに後方に流す水の量を調整することができる。
【0024】
また、取水部に配置される可動堰を、田の水位を測定可能な水位センサの水位情報に基づいて動作させることで、田の水位をより確実に調整することができる。
【0025】
また、水路に複数の田に対してのそれぞれ取水部が設けられる場合において、それぞれの取水部の下流側に発電装置を配置して流量調整を行うことで、それぞれの田毎に水位を個別に設定して調整を行うことができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、水路における水位を安定して制御することが可能な農業用水管理システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図2】農業用水管理システム1の構成を示すブロック図。
【
図8】発電装置11への漂流物の流入防止方法を示す図。
【
図9】農業用水管理システム1の他の構成を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
[第1の実施形態]
以下、図面に基づいて本発明の第1の実施形態について詳細に説明する。
図1は農業用水管理システム1を示す図であり、
図2は、農業用水管理システム1の構成を示すブロック図である。農業用水管理システム1は、田5への取水部7を有する水路3等に形成され、主に、堰9、発電装置11、水位センサ13a、13b、制御部17(
図2参照)等から構成される。
【0029】
水路3は、複数の田5に沿って配置され、それぞれの田5への取水部7を有する。それぞれの取水部7には、堰9が配置される。本実施形態では、堰9は、堰作動部15(
図2参照)によって開閉動作が行われる可動堰である。なお、堰9としては、上下動による開閉動作を行う可動堰に限られず、開閉バルブ等であってもよい。
【0030】
発電装置11は、水路3の取水部7よりも下流側に設置される。
図3は、発電装置11の構造を示す図である。発電装置11は、回転軸21の外周部にらせん状に連続した羽23が形成されたスクリュウ型である。発電装置11としては、例えば、特許第584598号に開示された技術を利用することができる。
【0031】
発電装置11は、回転軸21が水路3の水流方向に向くように、水路3の底に配置される。水路3に対して、わずかでも水が流れており、羽23の一部が水に浸漬されていれば、水流を羽23が受け、回転軸21を回転させながら水を上流側から下流側に流すことができる。この際、回転軸21の回転によって発電機19で発電を行うことができる。なお、発電装置11は、水路に設けられた突起や掘り込み等によって下流側に移動しないように水路3へ固定される。
【0032】
制御部17には、水位センサ13a、13bが接続される。水位センサ13aは、田5における水位を検知することが可能である。また、水位センサ13bは、水路3における発電装置11の上流側(取水部7近傍)の水位を検知することができる。なお、水位センサ13a、13bの少なくとも一方のみであってもよい。
【0033】
制御部17は、水位センサ13a、13bからの情報に基づいて、発電装置11および堰作動部15を制御することが可能である。
図4は、堰9の動作を示す図である。
図4(a)に示すように、水位センサ13aによって、田5における水位が十分に高いと判断すると、制御部17は、堰作動部15を作動させて、堰9を閉じる。このため、水路3の水を下流側に流し、他の田5への水を供給することができる。
【0034】
一方、水位センサ13aによって、田5の水位が低下したと判断すると、
図4(b)に示すように、制御部17は、堰作動部15を作動させて、水位量に応じて堰9を開く。このため、取水部7より、当該田5へ水を供給することができる。このように、田5の水位を測定可能な水位センサ13aを用い、制御部17は、水位センサ13aの水位情報に基づいて堰9を動作させて、田5の水位を調整可能である。
【0035】
また、
図4(c)に示すように、水位センサ13aにより、田5の水位が低下して堰9を開いたが、水路3の水位が十分でない場合がある。この場合には、田5への給水が十分に行われない。このように、水位センサ13bによって水路3の水位が低下したと判断した場合には、制御部17は、発電装置11の回転負荷(例えば、回転当たりの発電量)を上げる。すなわち、水流による回転軸21の回転の負荷を上げて、回転しにくくする。なお、このような回転負荷の変更は、例えばコンバータを制御して発電負荷を高くしてもよく、またはギヤ等による制御でもよい。
【0036】
スクリュウ型の発電装置11では、水が羽23の回転によって上流側から下流側に移動させて発電装置11を流下する。このため、発電装置11の回転負荷が上がり、回転軸21の回転量が減ると、水の通水抵抗が増大し、時間当たりに下流側に移送される水の量が減少する。この結果、発電装置11の上流側における水路3の水位を上昇させることができる。このため、取水部7から田5へ水を供給することが可能となる。
【0037】
このように制御部17は、発電装置11に対する回転負荷を調整することが可能である。このように、発電装置11の上流側の水路3の水位又は発電装置11の上流側の田5の水位を測定可能な水位センサを用い、田5の水位又は水路3の水位が低下したと判断すると、制御部17によって、発電装置11の回転負荷を調整することで、発電装置11を通過する水の通水抵抗を制御し、発電装置11の上流側の水路3の水位を調整することができる。すなわち、水位センサの水位情報に基づいて田5又は水路3の水位を調整することができる。
【0038】
なお、発電装置11で発電された電気は、農業用水管理システム1で利用することができる。例えば、制御部17、水路3又は田5の水位を測定可能な水位センサ13a、13b、堰9を動作させる堰作動部15等の稼働に利用することができる。さらに、水路3の流量センサ、田5の撮像装置、又は田5へ給水する水を加温する加温装置の少なくともいずれかが、発電装置11によって発電された電力を利用して稼働するようにしてもよい。
【0039】
第1の実施形態の農業用水管理システム1によれば、発電装置11の回転負荷を調整することで、水路3の水位を調整することができる。このため、水路3の水位が低下しても、取水部7における水路3の水位を確保し、確実に田5へ水を供給することができる。
【0040】
また、発電装置11がスクリュウ型であるため、常に水中に浸漬させて使用することができる。このため、少ない水量でも発電を行うことができる。また、通過する水の量を調整するために、発電装置11を上下動させる必要がなく、発電装置11の上下動機工などが不要であり、水路の上方に設置する必要のある構造を最小限とすることができる。また、スクリュウ型の発電装置11は非常に軽量なので、例えば、雪国においては冬期(積雪時)には一式退避させておくことが可能である。あるいは、冬期の積雪量や温度低下がさほど厳しくない条件では、水路内を流れる水や発電機機器を加温して越冬させることもできる。
【0041】
また、水位センサを用い、水路3の水位や田5の水位に応じて、発電装置11や堰9の動作を制御することで、より確実に田5の水位を所定の条件で制御することができる。
【0042】
また、発電装置11で発電した電力は、各種センサ等の動作や、制御部17の動作に用いることができる。このため、別途の電源等が不要となる。例えば、水路3に流量センサを配置し、流量情報に基づいて発電装置11や堰9の動作を制御してもよい。また、田5の撮像装置を設置し、所定時間ごとに田5の状況を撮像し、撮像データを無線(例えばLPWA通信など)で管理することができる。この他、田5の水温データに基づいて、冷害を避けるために田5へ給水する水を加温装置で加温してもよい。この他、電動農工具の充電用に用いることもできる。
【0043】
なお、前述したように、発電装置11は、羽23の一部が水に浸漬していれば、発電を行うことが可能であり、極めて少ない水量でも発電が可能である。しかし、発電装置11によって得られた電気を農業用水管理システム1に利用する場合において、水路3を流れる水の量が、発電に必要な最小限の水量を下回ると、発電が行われなくなり、各種センサや堰9の制御を行うことができなくなるおそれがある。
【0044】
このため、発電が行われなくなり、電気の供給が止まった際には、発電装置11は、最も回転負荷が高い状態に保持され、堰9は開放された状態で保持される。すなわち、発電装置11の回転負荷は、給電によって低減されており、給電が止まると自動的に回路又は機械的に回転負荷が高い状態に移行する。同様に、堰9は、給電によって閉じた状態となるが、給電が停止すると、自動的に機械的に開放する。
【0045】
このように、給電が停止した状態で、発電装置11の回転負荷が高い状態となるとともに堰9が開くため、水が発電装置11を通過しにくくなり、徐々に発電装置11の上流側の水位が上昇する。また、堰9は開いているため、所定の水位以上となると水は田5へ給水される。このため、水量が少なく発電量が十分でなくなった場合でも、田5へ水の供給が停止してしまうことを抑制することができる。また、水位がある程度高くなると、発電装置11の回転軸21の回転が始まり、発電が開始されるため、前述した各種のセンサ等による制御を行うことができる。なお、発電装置11による発電に加え、局所的な太陽光パネル設備との併用や、相互補完をおこなってもよい。
【0046】
[第2の実施形態]
以下、本発明の別の例について、第2の実施形態として説明する。第2の実施形態は第1の実施形態と異なる点について説明し、同様の構成については図等で同じ符号を付すなどして説明を省略する。また、各実施形態で説明する構成は必要に応じて組み合わせることができる。
【0047】
図5は、第2の実施形態にかかる発電装置11近傍の配置図である。本実施形態では、水路3の内壁と、発電装置11との隙間に、水の流れを遮蔽する遮蔽部25が設けられる。遮蔽部25を配置することで、水路3を流れる水を効率よく発電装置11へ導入させて、発電に寄与させることができる。
【0048】
特に、前述したように、水量が少なくなると発電装置11の回転負荷が高くなるため、発電装置11(発電装置11の筐体)と水路3の内壁に隙間が生じると、この隙間から水が流れてしまい、効率よく発電を行うことが困難となる。これに対し、遮蔽部25を配置することで、水が発電装置11以外の部位から流れることを抑制し、より確実に水位制御等を行うことができる。
【0049】
第2の実施形態によれば、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。また、発電装置11と水路3の内壁との隙間から流れる水を遮蔽することで、より効率よく、水路3を流れる水による発電を行うことができるとともに、水路3の水位制御が容易となる。
【0050】
[第3の実施形態]
次に、第3の実施形態について説明する。
図6は、第3の実施形態にかかる発電装置11近傍の配置図である。本実施形態では、発電装置11が、水路3の取水部7が設けられる側の壁面側(図中左側)に配置され、他方の壁面側(図中右側)には、発電装置11と水路3の壁面との間に隙間が形成される。また、水路3の壁面との間に隙間が形成される側の発電装置11の側面の上流側への延長線上には、仕切り部材27が配置される。
【0051】
仕切り部材27は、水路3の底面から所定の高さまで設けられ、水路3を幅方向に仕切る板状の部材である。また、仕切り部材27は、発電装置11の上流側の端部から、取水部7よりも上流側まで範囲に配置される。
【0052】
前述したように、通常、水路3には複数の田5への取水部7が配置される。この際、上流側の田5へ十分な給水を行おうとすると、下流側の田5へはほとんど水が流れていかず、給水量を確保することが困難となる場合がある。
【0053】
本実施形態では、仕切り部材27で発電装置11に流れる側と、発電装置11に導入されずにそのまま下流側に流れるショートカットルートが形成されるため、所定量の水は、発電装置11の回転負荷とは関係なくそのまま下流側に流すことができる。このため、下流側への水の供給量を確保することができる。
【0054】
また、仕切り部材27で仕切られた発電装置11側には、水が溜められるため、取水部7における水位を、前述した発電装置11の回転負荷の制御によって調整することができる。すなわち、仕切り部材27の取水部7側では、水位を高くすることができ、仕切り部材27のショートカットルート側では、水を下流側に流すことが可能となる。
【0055】
第3の実施形態によれば、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。また、発電装置11と水路3の内壁との隙間からあえて所定量の水を下流側に流すことで、下流側の田5への給水量を確保するとともに、取水部7における水路3の水位を発電装置11によって調整することができる。
【0056】
[第4の実施形態]
次に、第4の実施形態について説明する。
図7は、第4の実施形態にかかる発電装置11近傍の配置図である。本実施形態では、第3の実施形態と同様に、発電装置11が、水路3の取水部7が設けられる側の壁面側(図中左側)に配置され、他方の壁面側(図中右側)には、発電装置11と水路3の壁面との間に隙間が形成される。また、水路3の壁面との間に隙間には、遮蔽部25aが配置される。
【0057】
図7(a)に示すように、遮蔽部25aは通常時は収縮した状態であり、この状態では、発電装置11と水路3の内壁面との間から水を下流側に流すことができる。一方、制御部17は、上流側の田5の水位を高くする必要がある場合には、遮蔽部25aを拡張させて発電装置11と水路3の内壁との隙間をなくすことができる。このように、制御部17は、遮蔽部25aによって塞がれる発電装置11と水路3の内壁との間の流路面積を制御することが可能である。
【0058】
なお、遮蔽部25aは、例えば内部に流体が導入される袋体や蛇腹部材等であり、ばねや磁石等で収縮させておき、制御部17による制御や電気が遮断されると、膨張可能な状態となる。
【0059】
第4の実施形態によれば、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。また、状況に応じて、制御部17は、遮蔽部25aによる流路面積を変更して、下流側に流す水の量を調整することができる。このため、例えば、発電装置11による発電が行われなくなった際には、遮蔽部25aを拡張させて、水路3を流れる水を確実に発電装置11に導入し、発電装置11を稼働させることができる。
【0060】
[第5の実施形態]
次に、第5の実施形態について説明する。
図8は、第5の実施形態にかかる発電装置11近傍の配置図である。本実施形態では、第3の実施形態等と同様に、発電装置11が、水路3の取水部7が設けられる側の壁面側(図中左側)に配置され、他方の壁面側(図中右側)には、発電装置11と水路3の壁面との間に隙間が形成される。また、必要に応じて仕切り部材27が配置される。
【0061】
発電装置11(仕切り部材27)の上流側には、水路3の両側壁にまたがるように梁29が配置される。梁29は、仕切り部材27が配置される側が下流側に傾くように、水路3の幅方向に対して斜めに配置される。梁29には、所定の間隔で軸部材31が固定され、それぞれの軸部材31の外周には回転部材33が配置される。すなわち、回転部材33は、軸部材31の周囲で回転可能である。
【0062】
水路3の上流側から漂流物(水路3を流れる固体)が流れてきた際に、所定のサイズ以下の漂流物35aは、回転部材33同士の隙間をすり抜けて、そのまま発電装置11側へ流れる。一方、回転部材33同士の隙間を通り抜けることができない所定サイズ以上の漂流物35bは、回転部材33の回転によって仕切り部材27よりも水路壁面側に導かれ、発電装置11と水路の内壁面との隙間に流される。なお、回転部材33の回転動作に加えて、さらに回転部材33に振動を加えてもよい。このようにすることで、回転部材33への塵芥の絡み付きや付着を軽減することができる。また、所定時間ごとに発電装置11に対して、水噴射(例えば高圧洗浄機のような水噴射)を自動(又は遠隔操作)によって行い、洗浄機能を持たせてもよい。
【0063】
第5の実施形態によれば、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。また、所定サイズ以上の漂流物35bが発電装置11に導入されて、詰まりを生じることを抑制することができる。
【0064】
[第6の実施形態]
次に、第6の実施形態について説明する。
図9は、第6の実施形態にかかる農業用水管理システムの構成を示すブロック図である。前述したように、一つの水路3には、複数の田が取水部7を介して接続されている。ここで、簡単のため、上流側から順に、三つの田5a~5cが同一の水路に接続されている例について説明する。なお、
図9においては、田5aのみ構成を記載して5b、5cの構成を省略するが、田5b、5cも田5aと同様の構成である。
【0065】
前述したように、それぞれの田毎に農業用水管理システム1が配置されることで、それぞれの田毎に水路および田の水位等を制御することができる。一方、上流側の田5aは、制御の自由度が比較的高いが、下流側の田5cでは、流れてくる水の量が少なくなるため、制御の自由度が低下する。表1は、田5a~5cにおける水位のバランスのイメージを示す。
【0066】
【0067】
表中の%は水位を表し、必要な水位を満たしているものを100%とした際に、それぞれの田の水位を%で表したものであり、あくまでもイメージである。例えば、簡単のため、水位が90%であれば、品質・収穫量ともに所望の収穫を得ることができ、80%以上であれば、多少の品質低下又は収穫量の低下はあっても収穫ができるものであり、70%以上であれば、品質低下又は収穫量の低下により最低限の収穫となり、70%未満では収穫ができなくなるものとして、以下説明するが、表中の水位%の数値は、現実の田の水位と生育条件とに関連したものではない。
【0068】
パターン1は、田5a、5b、5cでそれぞれ通常の制御を行った場合の田の水位イメージを示す。それぞれの田で独立して制御を行うと、例えば最上流側の田5aでは必要な水位を十分に確保することができるが、一つ下流側の田5bでは、水路を流れる水量が減少するため、100%の水位を確保することが困難となる。さらに、田5cは、完全に水が不足して収穫を得ることができなくなる。
【0069】
このように、田毎に水位調整を自由に行ってしまうと、下流側の田5cで収穫ができなくなるおそれがある。そこで、本実施形態では、それぞれの田5a、5b、5cの制御部17を制御するための制御部17aが配置される。
【0070】
本実施形態は、水路3に複数の田5a~5cに対してそれぞれ取水部7が設けられる場合において、それぞれの取水部7の下流側に発電装置11をそれぞれ配置し、それぞれの田毎に水位を設定可能とするものである。この場合、制御部17aは、田毎に設定されたそれぞれの発電装置11の回転負荷及びそれぞれの堰9の開度を制御することで、田毎に異なる水位設定とすることができる。なお、制御部17に代えて、直接制御部17aのみで、それぞれの発電装置11等を制御してもよい。
【0071】
例えば、田5a、5b、5cのそれぞれの水位センサ13aの水位情報から、下流側の水位が所定以下となるような場合には、上流側の田5aでの目標水位を低下させて給水量を減少させてもよい。表1のパターン2は、それぞれの田5a~5cの水位を平均化するように制御した結果を示す。すなわち、田5a~5cのそれぞれの水位センサ13aの水位情報から、水位の低い田へ水を優先的に流すように、各発電装置11の回転負荷及びそれぞれの堰9の開度を制御する。例えば、5a~5cの目標水位を100%から80%にすることで、すべての田5a~5cに対して平均的に収穫が可能となる。
【0072】
また、表1のパターン3では、田5cでの収穫を断念して、田5bでの水位を確保するように制御したものである。例えば、
図7(b)に示すように、下流側の水の流れを完全に遮断して、田5bの発電装置11上流側の水位を上昇させることで、田5bの水位を確保する。このようにすることで、収穫量を落ちるが、品質を落とすことなく収穫を行うことができる。
【0073】
また、表1のパターン4では、田5aでは水位100%を目指すが、田5bでの目標水位を下げて、田5b、5cで最低限の収穫を行うものである。例えば、田5aでハイブランド米を収穫するような場合には、田5aでの品質を落とすことができず、また、田5b、5cは最低限の収穫ができればよいような場合には、このような制御を行うこともできる。
【0074】
以上、本実施の形態によれば、上流側の田の水位だけでなく、下流側の田の水位情報も考慮して、上流側の田の水位を再設定し、上流側から下流側の複数の田毎に水位を適切に設定することで、田毎に所望の水位を調整することができる。例えば、田5aへの取水部7の下流側に配置された発電装置11の制御を、田5aまたは当該発電装置11の上流側の水路3の水位によって制御するのみではなく、下流側の田5b又は田5bの取水部7における水路3の水位情報も考慮して、当該発電装置11の制御を行うことで、田毎に適切な水位に調整することができる。
【0075】
より詳細には、すべての田を平均化する場合には、表1のパターン2のように制御を行い、品質重視の場合には、パターン3の制御を行い、田によって優先順位をつける場合にはパターン4のように制御を行えばよい。利用者は、日々の田毎の水位を確認しながら、田毎の水位設定を見直して、制御部17によって各発電装置11および堰9等を制御することで、田毎の水位を調整することができる。
【0076】
以上、添付図面を参照しながら、本発明に係る好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0077】
例えば、上記の例では可動堰を用いて制御部17によって開閉動作を制御したが、取水部7に可動堰のかわりにサイフォンを使用してもよい。また、さらに、堰の開閉は手動であってもよい。
図10は手動の堰を用いた給水量の調整を行う方法の一例を示す図である。例えば、複数の板からなる堰9aを配置し、給水を行わない場合や給水量を少なくするためには、すべての板を用いて堰9aを高く設定し(
図10(a))、給水量を増やしたい場合には、上方の板を外して田への給水を行い(
図10(b))、さらに給水量を増やしたい場合には板をさらに外して給水量を増加させることができる(
図10(c))。
【0078】
この場合には、制御部17(17a)は発電装置11の上流側の水路3の水位によって発電装置11の回転負荷を調整し、取水部7における水位を調整すればよい。堰9aが所定の高さで設定されていれば、発電装置11の上流側の水位に応じて田への給水量を制御することができる。
【符号の説明】
【0079】
1………農業用水管理システム
3………水路
5、5a、5b、5c………田
7………取水部
9、9a………堰
11………発電装置
13a、13b………水位センサ
15………堰作動部
17、17a………制御部
19………発電機
21………回転軸
23………羽
25、25a………遮蔽部
27………仕切り部材
29………梁
31………軸部材
33………回転部材
35a、35b………漂流物