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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024164381
(43)【公開日】2024-11-27
(54)【発明の名称】歯車加工用工具
(51)【国際特許分類】
   B23F 21/10 20060101AFI20241120BHJP
   B23F 5/16 20060101ALI20241120BHJP
【FI】
B23F21/10
B23F5/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023079821
(22)【出願日】2023-05-15
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】東 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】井本 吉紀
(72)【発明者】
【氏名】加藤 浩平
【テーマコード(参考)】
3C025
【Fターム(参考)】
3C025AA03
3C025EE01
(57)【要約】
【課題】工具寿命を長くすることが可能な歯車加工用工具を提供する。
【解決手段】円周縁部に複数の工具刃を有する刃部を備え、工作物に歯切り加工を施す歯車加工用工具であって、工具刃において、刃部の軸方向の端面に構成されるすくい面の径方向の外側端部を含む刃先は、工作物に先行接触するリーディング側のリーディング部と、トレーリング側のトレーリング部と、リーディング部とトレーリング部との間に配置され、リーディング部とトレーリング部とにそれぞれ連続する刃底部と、を含む。リーディング部および刃底部には面取り加工がされており、刃底部の面取り加工量は、リーディング部の面取り加工量よりも大きい。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円周縁部に複数の工具刃を有する刃部を備え、工作物に歯切り加工を施す歯車加工用工具であって、
前記工具刃において、前記刃部の軸方向の端面に構成されるすくい面の径方向の外側端部を含む刃先は、
前記工作物に先行接触するリーディング側のリーディング部と、
トレーリング側のトレーリング部と、
前記リーディング部と前記トレーリング部との間に配置され、前記リーディング部と前記トレーリング部とにそれぞれ連続する刃底部と、を含み、
前記リーディング部および前記刃底部には面取り加工がされており、前記刃底部の面取り加工量は、前記リーディング部の面取り加工量よりも大きい、歯車加工用工具。
【請求項2】
前記刃底部における前記リーディング部寄りのリーディング部側刃底部の面取り加工量は、
前記刃底部における前記トレーリング部寄りのトレーリング部側刃底部の面取り加工量以上である、請求項1に記載の歯車加工用工具。
【請求項3】
前記面取り加工は、R面取り加工であって、
前記刃底部における前記リーディング部寄りのリーディング部側刃底部のR面取り加工された部位の曲率半径は、前記リーディング部のR面取り加工された部位の曲率半径の4倍以上である、請求項1に記載の歯車加工用工具。
【請求項4】
前記リーディング部のR面取り加工された部位の曲率半径は、5μm以上20μm以下の範囲である、請求項3に記載の歯車加工用工具。
【請求項5】
前記面取り加工は、R面取り加工であって、
前記刃底部における前記トレーリング部寄りのトレーリング部側刃底部のR面取り加工された部位の曲率半径は、前記リーディング部のR面取り加工された部位の曲率半径の2倍以上4倍以下である、請求項2に記載の歯車加工用工具。
【請求項6】
前記歯車加工用工具は、
前記工作物の中心軸線まわりの前記工作物の回転と、前記歯車加工用工具の中心軸線まわりの前記歯車加工用工具の回転とを同期させながら、前記工作物と前記歯車加工用工具とを相対移動させて、前記工作物に歯車の歯を加工する、請求項1~請求項5のうちいずれか一項に記載の歯車加工用工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、歯車加工用工具に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車産業のEVシフトに伴い動力源(パワートレイン)の変化が急速に進み、その構成部品の一つである「歯車」には低NV(Noise・Vibration)化・小型化・低コスト化等の要求が高まっている。上記要求を達成するため、歯車の歯切り加工においては高能率、高精度、低コスト化が求められており、その加工法の1つとして、例えば特許文献1に記載されるような「ギヤスカイビング加工」が採用されている。上記特許文献1では、上記ギヤスカイビング加工を工作物に施すスカイビング加工用カッタにおいて、工作物に先行接触するリーディング側の刃先に面取部を形成している。これにより、リーディング側のエッジの損傷を抑制し、工具寿命を長くできるとされていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-39971号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、ギヤスカイビング加工は、多刃工具で歯溝を1溝ずつ加工する断続的な加工であること、また、溝部の加工開始から終了にかけて工具のすくい角が正から負に変化し、加工終了近傍で切削力、切削熱が大きくなることから、工具の摩耗や欠損が生じやすい。よって、上記特許文献1に記載のスカイビング加工用カッタにおいても、工具寿命を長くするという効果は不十分であった。このため、工具寿命が短くなることに起因して、加工精度が悪化したり、製品の加工一個当たりの工具コスト(工具原単位)が高騰したりするという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
【0006】
(1)本開示の一形態によれば、歯車加工用工具が提供される。この歯車加工用工具は、円周縁部に複数の工具刃を有する刃部を備え、工作物に歯切り加工を施す歯車加工用工具であって、前記工具刃において、前記刃部の軸方向の端面に構成されるすくい面の径方向の外側端部を含む刃先は、前記工作物に先行接触するリーディング側のリーディング部と、トレーリング側のトレーリング部と、前記リーディング部と前記トレーリング部との間に配置され、前記リーディング部と前記トレーリング部とにそれぞれ連続する刃底部と、を含み、前記リーディング部および前記刃底部には面取り加工がされており、前記刃底部の面取り加工量は、前記リーディング部の面取り加工量よりも大きい。
この形態の歯車加工用工具によれば、刃底部の面取り加工量は、リーディング部の面取り加工量よりも大きい。このため、面取り加工量の大きい刃底部においては、刃先強度を高めることができ、工具の寿命を延ばすことができる。ひいては、工具寿命が短くなることに起因する、加工精度の悪化や製品の加工一個当たりの工具コスト(工具原単位)の高騰といった問題を抑制できる。
(2)上記形態において、前記刃底部における前記リーディング部寄りのリーディング部側刃底部の面取り加工量は、前記刃底部における前記トレーリング部寄りのトレーリング部側刃底部の面取り加工量以上であってもよい。
この形態の歯車加工用工具によれば、リーディング部側刃底部の面取り加工量は、トレーリング部側刃底部の面取り加工量以上である。このため、刃底部において、より応力がかかることによって摩耗や欠損が生じる虞が高いリーディング部側刃底部の強度を高めることができる。刃先の部位によって加工時に作用する負荷は異なり、求められる強度や切れ味は異なるが、上記形態によれば、各部位においてより適した面取り加工量としているため、さらに工具の寿命を延ばすことができる。
(3)上記形態において、前記面取り加工は、R面取り加工であって、前記刃底部における前記リーディング部寄りのリーディング部側刃底部のR面取り加工された部位の曲率半径は、前記リーディング部のR面取り加工された部位の曲率半径の4倍以上であってもよい。この形態の歯車加工用工具によれば、刃先の各部位における面取り加工量の調整を、R値を異ならせて設定することにより行えるため、刃部の製作および加工量の調整が容易となる。
(4)上記形態において、前記リーディング部のR面取り加工された部位の曲率半径は、5μm以上20μm以下の範囲であってもよい。
(5)上記形態において、前記面取り加工は、R面取り加工であって、前記刃底部における前記トレーリング部寄りのトレーリング部側刃底部のR面取り加工された部位の曲率半径は、前記リーディング部のR面取り加工された部位の曲率半径の2倍以上4倍以下であってもよい。
(6)上記形態において、前記歯車加工用工具は、前記工作物の中心軸線まわりの前記工作物の回転と、前記歯車加工用工具の中心軸線まわりの前記歯車加工用工具の回転とを同期させながら、前記工作物と前記歯車加工用工具とを相対移動させて、前記工作物に歯車の歯を加工してもよい。この形態の歯車加工用工具は、例えば、ギヤスカイビング加工やホブ加工に用いられるカッタであり、このようなカッタにおいて工具の寿命を延ばすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本開示の第1実施形態における歯車加工装置の概略構成を示す斜視図である。
図2】加工用工具の径方向に見た、ギヤスカイビングの動作を説明する図である。
図3】加工用工具の全体を示す斜視図である。
図4】すくい面の径方向外側の端部を含む一部の領域を拡大して示す図である。
図5】リーディング部における刃先形状を示す断面図である。
図6】リーディング部側刃底部における刃先形状を示す断面図である。
図7】トレーリング部側刃底部における刃先形状を示す断面図である。
図8】刃先曲率半径を変化させたときの、加工に際して工具に作用する応力、および切削力の変化を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
A.実施形態:
A1.歯車加工装置の全体構成:
歯車加工装置10の構成について図1を参照して説明する。図1は、本開示の第1実施形態における歯車加工装置10の概略構成を示す斜視図である。図1に示すように、歯車加工装置10は、例えば、工作物Wと歯車加工用工具T(以下、単に「加工用工具T」ともいう)の相対的な位置及び姿勢を変化させる駆動軸として、3つの直進軸及び2つの回転軸を有する5軸マシニングセンタである。本例では、歯車加工装置10は、直進軸としての直交3軸(X軸,Y軸,Z軸)、並びに、回転軸としてのB軸及びCw軸を有する。本例においては、B軸は、Y軸線に平行な回転テーブル14の中心軸線RB回りの回転軸であり、Cw軸は、工作物Wの中心軸線Rw回りの回転軸であるなお、歯車加工装置10は、加工用工具Tの中心軸線RT回りの回転軸であるCt軸を有し、Ct軸を含めると6軸マシニングセンタとなる。
【0009】
歯車加工装置10は、加工用工具Tを支持してCt軸に回転可能であり、且つ、Y軸方向及びZ軸方向にそれぞれ移動可能な工具主軸11を備える。さらに、歯車加工装置10は、工作物Wを支持してCw軸に回転可能であり、且つ、B軸に回転可能であり、X軸方向に移動可能な工作物主軸12を備える。歯車加工装置10は、歯車の歯の加工の動作制御を行う加工制御部13等を備える。本実施形態では、加工制御部13は、スカイビング加工により工作物Wに歯車の歯を加工する制御を行う場合について説明する。なお、上記構成に限定されず、工具主軸11と工作物主軸12は相対移動可能な構成であればよい。
【0010】
A2.スカイビング加工:
スカイビング加工について、図2を参照して説明する。図2は、加工用工具の径方向に見た、ギヤスカイビングの動作を説明する図である。スカイビング加工は、図2に示すように、加工用工具Tの中心軸線RTを工作物Wの中心軸線Rwに平行な軸線に対して交差角θを有する状態にする。また、X軸方向から見た場合に、加工用工具Tの中心軸線RTと工作物Wの中心軸線Rwとは平行である。
【0011】
そして、工作物Wの中心軸線Rw回りへの工作物Wの回転と加工用工具Tの中心軸線RT回りへの加工用工具Tの回転とを同期させながら、加工用工具Tを工作物Wに対して工作物Wの中心軸線Rw方向に送ることで、工作物Wに歯車の歯を加工する方法である。スカイビング加工においては、工作物Wが1回転する間に、工作物Wの各歯溝の部分が、加工用工具Tによって1回だけ加工される。
【0012】
A3.加工用工具Tの詳細構成:
次に、加工用工具Tの詳細構成について、図3を参照して説明する。図3は、加工用工具Tの全体を示す斜視図である。本実施形態の加工用工具Tは、工作物Wに歯切り加工を施すギヤスカイビングカッタである。図3に示すように、加工用工具Tは、母材の外面にヘリカル状の溝を形成する加工により、複数の工具刃21を放射状に配置した、はすば歯車状に形成されている。加工用工具Tは、刃部Taおよび軸部Tbを備える。
【0013】
刃部Taは、円周縁部に複数の工具刃21を有する。刃部Taにおける複数の工具刃21では、軸方向端面がすくい面22を構成し、工具刃21の径方向外面が前逃げ面23を構成する。本実施形態においては、刃部Taに外接する仮想面、すなわち前逃げ面23を構成する工具刃21の各径方向外面に接する仮想面は、円錐面の一部を構成する。ただし、刃部Taの外接面は、円筒面をなすように構成することもできる。さらに、前逃げ面23に連結され、かつ、刃溝方向に沿って延設される1対の側面は、側逃げ面24を構成する。
【0014】
軸部Tbは、円筒状部材である。軸部Tbは、刃部Taにおけるすくい面22とは反対側の端面に一体に設けられ、刃部Taと同軸上に設けられている。なお、「反対側」とは、加工用工具Tが歯車加工装置10に取り付けられた図1の状態においては、Z軸方向において工作物Wとは反対側と一致する。軸部Tbは、円筒外周面Tb1を有する。
【0015】
図4は、図3において破線で囲んで示す部分であって、すくい面22の径方向外側の端部を含む一部の領域を拡大して示す図である。なお、図4は、中心軸線RT方向において加工用工具Tを刃部Ta側から見たときの図である。すくい面22の径方向の外側端部を含む刃先30は、リーディング部31と、刃底部32と、トレーリング部33と、を有して構成されている。
【0016】
リーディング部31は、加工時において、工作物Wに先行接触するリーディング側の領域である。刃底部32は、リーディング部31に連続し、リーディング部31に続いて工作物Wに接触する領域である。トレーリング部33は、刃底部32に連続するトレーリング側の領域である。刃底部32は、リーディング部31とトレーリング部33とを接続する。
【0017】
なお、工作物Wの加工状態、例えば、溝の形成有無や、その溝の深さ等によっては、リーディング部31が工作物Wに先行接触するタイミングと大して変わらずにトレーリング部33が工作物Wに接触するケースもあり得る。切削加工では、基本的には、まず、リーディング部31が工作物Wに先行接触し、工具Tの姿勢変化を伴う過程で、続いて刃底部32が工作物Wに接触する。ただし、トレーリング部33が加工に全く作用しないわけではない。
【0018】
刃底部32は、さらに、リーディング部側刃底部34と、トレーリング部側刃底部35と、に区画できる。以下、リーディング部側刃底部34と、トレーリング部側刃底部35とを特に区別しないときは、単に「刃底部32」という。リーディング部側刃底部34は、リーディング部31と刃底部32との連続部36を含み、刃底部32においてリーディング部31寄りに位置する部位である。トレーリング部側刃底部35は、トレーリング部33と刃底部32との連続部37を含み、刃底部32においてトレーリング部33寄りに位置する部位である。
【0019】
本実施形態では、リーディング部側刃底部34と、トレーリング部側刃底部35とは、刃底部32を等分している。なお、図4では、簡単のため、リーディング部31およびトレーリング部33を傾斜した直線で描いている。
【0020】
リーディング部31、リーディング部側刃底部34、およびトレーリング部側刃底部35には、それぞれR面取り加工が施されている。刃底部32のR面取り加工量は、リーディング部31のR面取り加工量よりも大きい。図5は、リーディング部31における刃先形状を示す断面図であり、図6は、リーディング部側刃底部34における刃先形状を示す断面図であり、図7は、トレーリング部側刃底部35における刃先形状を示す断面図である。図5図7の各図に示すように、各部における刃先形状は、リーディング部31が最もシャープであり、次いで、トレーリング部側刃底部35、最後にリーディング部側刃底部34となっている。なお、各部位のエッジ形状は異なるが、その境界はステップ状になることなくなだらかに連続している。
【0021】
以下、各部のR面取り加工された部位の曲率半径R(以下、単に「R値」ともいう)の選定に際して、本願発明者らが行った解析について説明する。図8は、刃先曲率半径Rを変化させたときの、加工に際して工具に作用する応力、および切削力の変化を説明するための図である。図8において、横軸は、刃先曲率半径Rを示し、縦軸は、応力および切削力としての背分力を示している。さらに、図8において、刃先曲率半径Rと応力との対応関係を実線で示し、刃先曲率半径Rと背分力との対応関係を破線で示している。
【0022】
図8に示すように、応力値は、刃先曲率半径Rが0に近い場合は大きく、0<R<R1の範囲において刃先曲率半径Rが徐々に大きくなるのに伴って、徐々に小さくなっている。そして、刃先曲率半径Rがさらに大きくなり、R>R1の範囲においては、ほぼ変化なく横ばいとなる。
【0023】
すなわち、刃先形状において刃先曲率半径RをR1以上にすることで、加工時の応力集中が緩和され、刃先強度を向上させることができると考えられる。他方、背分力は、刃先曲率半径Rが大きくなるのに伴い、徐々に大きくなっている。背分力が大きくなると、びびりが発生しやすくなり、切れ味が悪くなり、加工精度や生産性の低下が懸念される。よって、刃先曲率半径Rは、刃先強度と切れ味の2つの観点からバランスを見て総合的に選択することが好ましい。例えば、図8では、R1<R<R2の範囲であれば、応力、背分力共に低く、刃先強度と切れ味の双方の観点から好ましい。ただし、刃先30の部位によっては、より求められる観点が異なるため、以下、その点について詳細に説明する。
【0024】
本願発明者らは、刃先30の各部において、接触圧力、温度、および切り屑速度の3つのパラメータについて、共通のR面取り形状を有する従来の工具を用いて解析を行った。接触圧力、温度、および切り屑速度の各パラメータは、刃の摩耗に関連する重要なパラメータであり、いずれもその値が大きい場合には、摩耗や欠損の虞が高くなる。解析結果によれば、各パラメータの値はいずれも、リーディング部31、トレーリング部側刃底部35、リーディング部側刃底部34の順に大きくなっていた。すなわち、リーディング部31では、各パラメータの値は最も小さく、刃先の摩耗や欠損の虞が他部位と比較して小さかった。
【0025】
他方、リーディング部側刃底部34では、各パラメータの値は最も大きく、刃先の摩耗や欠損の虞が他部位と比較して最も大きかった。これは、リーディング部側刃底部34では、リーディング部31と刃底部32との境界から刃底部32へと工具の姿勢が変化しながら加工する形態となるため、リーディング部31と刃底部32との境界である連続部36を経過した付近において刃先にかかる負荷がより大きくなるものと考えられる。よって、このリーディング部側刃底部34は、最も刃先強度が求められる部位である。トレーリング部側刃底部35では、各パラメータの値は、中程度であった。
【0026】
以上より、摩耗や欠損の虞が最も小さいリーディング部31では、強度よりも切れ味を重視し、よりシャープなエッジ形状となるように、R値は相対的に小さくすることが好ましい。摩耗や欠損の虞が最も大きいリーディング部側刃底部34では、切れ味よりも強度を高めるために、R値は相対的に大きくすることが好ましい。摩耗や欠損の虞が中程度のトレーリング部側刃底部35では、切れ味と強度とのバランスの観点から、R値は相対的に中程度とすることが好ましい。
【0027】
具体的なR値として、リーディング部31のR値は、例えば5μm以上10μm以下である。トレーリング部側刃底部35のR値は、例えば20μm以上40μm以下である。リーディング部側刃底部34のR値は、例えば40μm以上である。上記具体的な数値として示したように、切れ味と強度のバランスが加味された本実施形態の刃先30の各部位の曲率半径は、以下の関係を満たす。
(i)リーディング部側刃底部34の曲率半径は、リーディング部31の曲率半径の4倍以上である。
(ii)トレーリング部側刃底部35の曲率半径は、リーディング部31の曲率半径の2倍以上4倍以下である。
(iii)リーディング部31の曲率半径は、5μm以上20μm以下の範囲である。
なお、上記具体的な数値は一例であり、その他の数値であってもよい。
【0028】
上記第1実施形態の工具Tによれば、刃先30の部位に応じて、面取り加工量を異ならせており、刃底部32の面取り加工量は、リーディング部31の面取り加工量よりも大きい。よって、面取り加工量の大きい刃底部32においては、刃先強度を高めることができ、工具の寿命を延ばすことができる。このため、工具寿命が短くなることに起因する、加工精度の悪化や製品の加工一個当たりの工具コスト(工具原単位)の高騰といった問題を抑制できる。
【0029】
さらに、上記第1実施形態の工具Tによれば、リーディング部側刃底部34の面取り加工量は、トレーリング部側刃底部35の面取り加工量以上である。このため、刃底部32において、より応力がかかることによって摩耗や欠損が生じる虞が高いリーディング部側刃底部34の強度を高めることができる。すなわち、刃先30の部位によって加工時に作用する負荷は異なり、求められる強度や切れ味は異なるが、上記第1実施形態によれば、各部位においてより適した面取り加工量としているため、さらに工具の寿命を延ばすことができる。
【0030】
上記第1実施形態の工具Tでは、刃先30の各部位における面取り加工量の調整を、R値を異ならせて設定することにより行っている。このため、刃部Taの製作および加工量の調整が容易となる。
【0031】
B.他の実施形態:
(B1)上記第1実施形態では、面取り加工としてR面取り加工を用いたが、角部を斜め45度に落とすC面取り加工でもよい。この構成においても、刃底部32の面取り加工量を、リーディング部31の面取り加工量よりも大きくすることで、同様の効果を奏することができる。また、この形態においても、リーディング部側刃底部34の面取り加工量は、トレーリング部側刃底部35の面取り加工量以上であることが好ましい。C面取り加工量は、面取りの幅の大小で調整できる。
【0032】
(B2)上記第1実施形態の歯車加工用工具Tにおいて、軸部Tbは円筒状ではなく、円柱状や円錐状でもよい。また、歯車加工装置10に交換可能な歯車加工用工具Tとしては、上記ギヤスカイビングカッタの他、ホブカッタ、シェーパカッタなどでもよい。この構成における歯車加工装置10は、ホブ加工やシェーパ加工により加工対象物に歯形を加工する装置となる。
【0033】
(B3)上記第1実施形態の歯車加工用工具Tにおいて、リーディング部31およびトレーリング部33は、刃底部32を中心に互いに対称をなすものとしたが非対称でもよい。また、リーディング部側刃底部34と、トレーリング側刃底部32とは、刃底部32全体を等分していなくてもよい。リーディング部側刃底部34は、少なくともリーディング部31と接続する部分を含むリーディング部31寄りの部位であればよい。トレーリング部側刃底部35は、少なくともトレーリング部33と接続する部分を含むトレーリング部33寄りの部位であればよい。リーディング部側刃底部34と、トレーリング側刃底部32との比率は、例えば刃底部32全体に対していずれかが2~8割程度を有する範囲で適宜設定できる。
【0034】
(B4)上記第1実施形態の歯車加工用工具Tにおいて、リーディング部側刃底部34とトレーリング部側刃底部35とのR面取り加工量は同じでもよい。すなわち、少なくとも、刃底部32の面取り加工量がリーディング部31の面取り加工量より大きければよいので、刃底部32におけるR値は一定でもよい。
【0035】
本開示は、上記各実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する各実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0036】
10…歯車加工装置、11…工具主軸、12…工作物主軸、13…加工制御部、14…回転テーブル、21…工具刃、22…すくい面、23…前逃げ面、24…側逃げ面、30…刃先、31…リーディング部、32…トレーリング側刃底部、33…トレーリング部、34…リーディング部側刃底部、35…トレーリング部側刃底部、36…連続部、37…連続部、RT…中心軸線、Rw…中心軸線、T…歯車加工用工具、Ta…刃部、Tb…軸部、Tb1…円筒外周面、W…工作物
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8