(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024016439
(43)【公開日】2024-02-07
(54)【発明の名称】アモルファス合金軟磁性粉末、圧粉磁心、磁性素子および電子機器
(51)【国際特許分類】
B22F 1/08 20220101AFI20240131BHJP
C22C 45/02 20060101ALI20240131BHJP
B22F 3/00 20210101ALI20240131BHJP
H01F 1/153 20060101ALI20240131BHJP
H01F 1/20 20060101ALI20240131BHJP
H01F 27/255 20060101ALI20240131BHJP
B22F 9/08 20060101ALN20240131BHJP
B22F 9/10 20060101ALN20240131BHJP
【FI】
B22F1/08
C22C45/02 A ZNM
B22F3/00 B
H01F1/153 108
H01F1/20
H01F1/153 158
H01F27/255
B22F9/08 A
B22F9/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022118565
(22)【出願日】2022-07-26
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091292
【弁理士】
【氏名又は名称】増田 達哉
(74)【代理人】
【識別番号】100173428
【弁理士】
【氏名又は名称】藤谷 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【弁理士】
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】中村 敦
(72)【発明者】
【氏名】榎本 拓馬
(72)【発明者】
【氏名】北村 開
(72)【発明者】
【氏名】阿部 隼也
(72)【発明者】
【氏名】大本 正幸
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
5E041
【Fターム(参考)】
4K017AA04
4K017BA06
4K017BB04
4K017BB13
4K017BB16
4K017DA02
4K017DA05
4K017ED06
4K017FA16
4K017FA17
4K017FA24
4K017FA25
4K018BA13
4K018BB07
4K018BD01
4K018KA43
4K018KA44
4K018KA61
5E041AA11
5E041BD03
5E041NN01
5E041NN12
5E041NN14
(57)【要約】
【課題】高い透磁率と低い保磁力とを両立するアモルファス合金軟磁性粉末、かかるアモルファス合金軟磁性粉末を含む圧粉磁心および磁性素子、ならびに、高出力化が可能な電子機器を提供すること。
【解決手段】原子数比で表された組成式(Fe
1-xCr
x)
a(Si
1-yB
y)
100-a-bC
b[ただし、x、y、aおよびbは、0<x≦0.06、0.3≦y≦0.7、70.0≦a≦81.0、0<b≦3.0である。]の組成を有する粒子で構成され、分析深さをバルクに設定してXAFS測定を行ったとき、得られるFe-K吸収端XANESスペクトルは、7113±1eVの範囲内に存在するピークAを含む第1吸収端構造と、第1吸収端構造よりも高エネルギー側に位置する第1連続帯構造と、を有し、7113eVにおけるピークAの強度は、第1連続帯構造の強度を1としたとき、0.60以上0.90以下であるアモルファス合金軟磁性粉末。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子数比で表された組成式(Fe1-xCrx)a(Si1-yBy)100-a-bCb
[ただし、x、y、aおよびbは、
0<x≦0.06、
0.3≦y≦0.7、
70.0≦a≦81.0、
0<b≦3.0である。]
の組成を有する粒子で構成され、
前記粒子に対し、分析深さをバルクに設定してXAFS測定を行ったとき、得られるFe-K吸収端XANESスペクトルは、
エネルギーが7113±1eVの範囲内に存在するピークAを含む第1吸収端構造と、
前記第1吸収端構造よりも高エネルギー側に位置する第1連続帯構造と、
を有し、
エネルギーが7113eVにおける前記ピークAの強度は、前記第1連続帯構造の強度を1としたとき、0.60以上0.90以下であることを特徴とするアモルファス合金軟磁性粉末。
【請求項2】
前記粒子に対し、分析深さを表面に設定してXAFS測定を行ったとき、得られるFe-K吸収端XANESスペクトルは、
エネルギーが7113±1eVの範囲内に存在するピークBを含む第2吸収端構造と、
前記第2吸収端構造よりも高エネルギー側に位置する第2連続帯構造と、
を有し、
エネルギーが7113eVにおける前記ピークBの強度は、前記第2連続帯構造の強度を1としたとき、0.10以上0.38以下である請求項1に記載のアモルファス合金軟磁性粉末。
【請求項3】
前記粒子に対し、分析深さをバルクに設定してXAFS測定を行い、Fe-K吸収端EXAFSスペクトルを得た後、前記Fe-K吸収端EXAFSスペクトルをフーリエ変換して得られる動径分布関数は、
原子間距離が0.10nm以上0.14nm以下の範囲内に存在するピークCと、
原子間距離が0.18nm以上0.22nm以下の範囲内に存在するピークDと、
を有し、
前記ピークCの強度をCとし、
前記ピークDの強度をDとするとき、
強度比C/Dが0.7以上である請求項1または2に記載のアモルファス合金軟磁性粉末。
【請求項4】
前記粒子に対し、分析深さを表面に設定してXAFS測定を行い、Fe-K吸収端EXAFSスペクトルを得た後、前記Fe-K吸収端EXAFSスペクトルをフーリエ変換して得られる動径分布関数は、
原子間距離が0.10nm以上0.14nm以下の範囲内に存在するピークEと、
原子間距離が0.18nm以上0.22nm以下の範囲内に存在するピークFと、
を有し、
前記ピークEの強度をEとし、
前記ピークFの強度をFとするとき、
強度比E/Fが0.20以上0.70以下である請求項1または2に記載のアモルファス合金軟磁性粉末。
【請求項5】
測定周波数100kHzにおける透磁率は、20.0以上であり、
保磁力は、24[A/m]以上(0.3[Oe]以上)199[A/m]以下(2.5[Oe]以下)である請求項1または2に記載のアモルファス合金軟磁性粉末。
【請求項6】
請求項1または2に記載のアモルファス合金軟磁性粉末を含むことを特徴とする圧粉磁心。
【請求項7】
請求項6に記載の圧粉磁心を備えることを特徴とする磁性素子。
【請求項8】
請求項7に記載の磁性素子を備えることを特徴とする電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アモルファス合金軟磁性粉末、圧粉磁心、磁性素子および電子機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、組成式(Fe(1-(α+β))X1αX2β)(1-(a+b+c+d+e+f))MaBbPcSidCeSfからなる主成分を有する軟磁性合金粉末であって、X1はCoおよびNiからなる群から選択される1つ以上、X2はAl,Mn,Ag,Zn,Sn,As,Sb,Cu,Cr,Bi,N,Oおよび希土類元素からなる群より選択される1つ以上、MはNb,Hf,Zr,Ta,Mo,W,TiおよびVからなる群から選択される1つ以上であり、0≦a≦0.160、0.020≦b≦0.200、0≦c≦0.150、0≦d≦0.060、0≦e≦0.030、0.0010≦f≦0.030、0.005≦f/b≦1.50、α≧0、β≧0、0≦α+β≦0.50であることを特徴とする軟磁性合金粉末が開示されている。そして、このような構成によれば、軟磁気特性に優れ、かつ、低保磁力である軟磁性合金粉末が得られることが開示されている。
【0003】
また、特許文献1には、アトマイズ法で粉体を作製した後、熱処理を行わない場合、非晶質相からなる軟磁性合金粉末が得られることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、高い透磁率と低い保磁力とを両立させるという点で、特許文献1に記載の軟磁性合金粉末は、依然として改善の余地がある。具体的には、軟磁性粉末において透磁率を高めようとすると、保磁力を十分に低下させることが困難になる傾向がある。このため、高い透磁率と低い保磁力とを両立する軟磁性粉末を実現することが課題となっている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の適用例に係るアモルファス合金軟磁性粉末は、
原子数比で表された組成式(Fe1-xCrx)a(Si1-yBy)100-a-bCb
[ただし、x、y、aおよびbは、
0<x≦0.06、
0.3≦y≦0.7、
70.0≦a≦81.0、
0<b≦3.0である。]
の組成を有する粒子で構成され、
前記粒子に対し、分析深さをバルクに設定してXAFS測定を行ったとき、得られるFe-K吸収端XANESスペクトルは、
エネルギーが7113±1eVの範囲内に存在するピークAを含む第1吸収端構造と、
前記第1吸収端構造よりも高エネルギー側に位置する第1連続帯構造と、
を有し、
エネルギーが7113eVにおける前記ピークAの強度は、前記第1連続帯構造の強度を1としたとき、0.60以上0.90以下である。
【0007】
本発明の適用例に係る圧粉磁心は、
本発明の適用例に係るアモルファス合金軟磁性粉末を含む。
【0008】
本発明の適用例に係る磁性素子は、
本発明の適用例に係る圧粉磁心を備える。
【0009】
本発明の適用例に係る電子機器は、
本発明の適用例に係る磁性素子を備える。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】回転水流アトマイズ法によりアモルファス合金軟磁性粉末を製造する装置の一例を示す縦断面図である。
【
図2】トロイダルタイプのコイル部品を模式的に示す平面図である。
【
図3】閉磁路タイプのコイル部品を模式的に示す透過斜視図である。
【
図4】実施形態に係る磁性素子を備える電子機器であるモバイル型のパーソナルコンピューターを示す斜視図である。
【
図5】実施形態に係る磁性素子を備える電子機器であるスマートフォンを示す平面図である。
【
図6】実施形態に係る磁性素子を備える電子機器であるディジタルスチルカメラを示す斜視図である。
【
図7】サンプルNo.1(実施例)およびサンプルNo.15(比較例)のアモルファス合金軟磁性粉末について、分析深さをバルクに設定して得られたFe-K吸収端XANESスペクトルである。
【
図8】サンプルNo.1(実施例)およびサンプルNo.15(比較例)のアモルファス合金軟磁性粉末について、分析深さを表面に設定して得られたFe-K吸収端XANESスペクトルである。
【
図9】サンプルNo.1(実施例)およびサンプルNo.15(比較例)のアモルファス合金軟磁性粉末について、分析深さをバルクに設定して得られたFe-K吸収端EXAFSスペクトルに基づく動径分布関数である。
【
図10】サンプルNo.1(実施例)およびサンプルNo.15(比較例)のアモルファス合金軟磁性粉末について、分析深さを表面に設定して得られたFe-K吸収端EXAFSスペクトルに基づく動径分布関数である。
【
図11】サンプルNo.1(実施例)およびサンプルNo.15(比較例)のアモルファス合金軟磁性粉末について、X線回折装置で取得したX線回折プロファイルである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のアモルファス合金軟磁性粉末、圧粉磁心、磁性素子および電子機器を添付図面に示す好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0012】
1.アモルファス合金軟磁性粉末
実施形態に係るアモルファス合金軟磁性粉末は、軟磁性を示すアモルファス合金粉末である。アモルファス合金軟磁性粉末は、いかなる用途にも適用可能であるが、例えば、粒子同士を結着させて成形される。これにより、磁性素子に用いられる圧粉磁心が得られる。
【0013】
実施形態に係るアモルファス合金軟磁性粉末は、原子数比で表された組成式(Fe1-xCrx)a(Si1-yBy)100-a-bCb[ただし、x、y、aおよびbは、0<x≦0.06、0.3≦y≦0.7、70.0≦a≦81.0、0<b≦3.0である。]の組成を有する粒子で構成された粉末である。
【0014】
そして、粒子に対する分析深さをバルクに設定してXAFS測定を行ったとき、得られるFe-K吸収端XANESスペクトルは、エネルギーが7113±1eVの範囲内に存在するピークAを含む第1吸収端構造と、第1吸収端構造よりも高エネルギー側に位置する第1連続帯構造と、を有する。また、エネルギーが7113eVにおけるピークAの強度は、第1連続帯構造の強度を1としたとき、0.60以上0.90以下である。
【0015】
このようなアモルファス合金軟磁性粉末は、高い透磁率と低い保磁力とを両立する。このため、かかるアモルファス合金軟磁性粉末を用いることにより、磁性素子の小型化および高出力化を図ることができる。
【0016】
1.1.組成
以下、アモルファス合金軟磁性粉末が有する組成について詳述する。実施形態に係るアモルファス合金軟磁性粉末は、前述したように、組成式(Fe1-xCrx)a(Si1-yBy)100-a-bCbで表される組成を有する。この組成式は、Fe、Cr、Si、BおよびCの5元素からなる組成における原子数での比率を表している。
【0017】
Fe(鉄)は、実施形態に係るアモルファス合金軟磁性粉末の基本的な磁気特性や機械的特性に大きな影響を与える。
【0018】
Feの含有率は、特に限定されないが、アモルファス合金軟磁性粉末においてFeが主成分、すなわち原子数の比率が最も高くなるように設定される。本実施形態に係るアモルファス合金軟磁性粉末では、Feの含有率が、70.0原子%以上78.0原子%以下であるのが好ましく、71.0原子%以上77.0原子%以下であるのがより好ましく、72.0原子%以上75.0原子%以下であるのがさらに好ましい。なお、Feの含有率が前記下限値を下回ると、組成によっては、アモルファス合金軟磁性粉末の透磁率が低下するおそれがある。一方、Feの含有率が前記上限値を上回ると、組成によっては、アモルファス構造を安定的に形成することが困難になるおそれがある。
【0019】
Cr(クロム)は、アモルファス合金軟磁性粉末の耐食性を向上させるよう作用する。耐食性の向上によって粒子の酸化が抑えられ、酸化に伴う磁気特性の低下を抑制することができる。また、不働態皮膜は、粒子の絶縁性を高め、磁性素子の渦電流損失を抑制することにも寄与する。
【0020】
xは、Feの原子数とCrの原子数の合計を1としたとき、合計の原子数に対するCrの原子数の割合を表す。本実施形態に係るアモルファス合金軟磁性粉末では、0<x≦0.06である。また、好ましくは0.01≦x≦0.05であり、より好ましくは0.02≦x≦0.04である。xが前記下限値を下回ると、耐食性が低下する。一方、xが前記上限値を上回ると、磁気特性が低下する。
【0021】
aは、FeとCrの合計の比率を表し、70.0≦a≦81.0であるが、好ましくは73.0≦a≦80.0であり、より好ましくは75.0≦a≦77.0である。aが前記下限値を下回ると、磁気特性または耐食性が低下する。一方、aが前記上限値を上回ると、アモルファス合金軟磁性粉末の製造時に結晶化しやすくなる。
【0022】
Si(ケイ素)は、アモルファス合金軟磁性粉末を原材料から製造するとき、非晶質化を促進するとともに、アモルファス合金軟磁性粉末の透磁率を高める。これにより、高透磁率化と低保磁力化とを図ることができる。
【0023】
B(ホウ素)は、アモルファス合金軟磁性粉末を原材料から製造するとき、非晶質化を促進する。特にSiとBとを併用することによって、両者の原子半径の差に基づき、相乗的に非晶質化を促進することができる。これにより、高透磁率化および低保磁力化を十分に図ることができる。
【0024】
yは、Siの原子数とBの原子数の合計を1としたとき、合計の原子数に対するBの原子数の割合を表す。本実施形態に係るアモルファス合金軟磁性粉末では、0.3≦y≦0.7であるが、好ましくは0.4≦y≦0.6である。これにより、Siの原子数とBの原子数のバランスを最適化することができる。なお、yが前記下限値を下回ったり、前記上限値を上回ったりすると、Siの原子数とBの原子数のバランスが崩れるため、例えばFeの比率を高めて磁気特性を高めようとした場合に、非晶質化が困難になる。
【0025】
Siの含有率は、好ましくは8.0原子%以上13.5原子%以下であり、より好ましくは10.5原子%以上12.0原子%以下である。
【0026】
Bの含有率は、好ましくは8.0原子%以上13.5原子%以下であり、より好ましくは10.5原子%以上12.0原子%以下である。
【0027】
C(炭素)は、アモルファス合金軟磁性粉末の原料を溶融したとき、溶融物の粘性を下げ、非晶質化および微粉化を容易にする。これにより、小径で透磁率が高いアモルファス合金軟磁性粉末を得ることができる。その結果、高周波域においても、渦電流損失を抑制することができる。
【0028】
bは、Cの含有率を表し、0<b≦3.0であるが、好ましくは1.0≦b≦2.8であり、より好ましくは1.5≦b≦2.5である。bが前記下限値を下回ると、溶融物の粘性が十分に下がらず、粒子の形状が異形状になる。このため、圧粉時の充填性が低下し、圧粉体の飽和磁束密度や透磁率を十分に高めることができないおそれがある。一方、bが前記上限値を上回ると、アモルファス合金軟磁性粉末の製造時に結晶化しやすくなる。
【0029】
実施形態に係るアモルファス合金軟磁性粉末は、以上のような組成式(Fe1-xCrx)a(Si1-yBy)100-a-bCbで表される組成の他、微量の添加元素を含んでいてもよい。微量の添加元素としては、例えば、S(硫黄)、P(リン)等が挙げられる。これらを含むことにより、溶融物の粘性を特に低下させることができる。その結果、粒子の球形化を図ることができ、充填性を高めることができる。また、これらの元素は、半金属元素であり、アモルファス形成能の向上に寄与する。したがって、これらの添加元素を含むことにより、前述した特徴を持つスペクトルを取得可能なアモルファス合金軟磁性粉末を得やすくなる。このようなアモルファス合金軟磁性粉末は、Feの含有率が高くても、高い非晶質化度を有するものとなり、高い透磁率と低い保磁力とを両立させ得る。
【0030】
Sの含有率は、特に限定されないが、0.0010質量%以上0.0100質量%以下であるのが好ましく、0.0015質量%以上0.0080質量%以下であるのがより好ましく、0.0040質量%以上0.0070質量%以下であるのがさらに好ましい。Sの含有率が前記下限値を下回る場合、球形化の促進やアモルファス形成能の向上といった効果が十分に得られない場合がある。一方、Sの含有率が前記上限値を上回る場合、添加量が過剰になり、球形化の促進やアモルファス形成能の向上を阻害するおそれがある。
【0031】
Pの含有率は、特に限定されないが、0.0010質量%以上0.0200質量%以下であるのが好ましく、0.0015質量%以上0.0180質量%以下であるのがより好ましく、0.0050質量%以上0.0150質量%以下であるのがさらに好ましい。Pの含有率が前記下限値を下回る場合、球形化の促進やアモルファス形成能の向上といった効果が十分に得られない場合がある。一方、Pの含有率が前記上限値を上回る場合、添加量が過剰になり、球形化の促進やアモルファス形成能の向上を阻害するおそれがある。
【0032】
また、SおよびPの双方を添加することで、アモルファス形成能を特に高めることができる。この場合、Pの含有量に対するSの含有量の比S/Pは、0.2以上0.8以下であるのが好ましく、0.3以上0.6以下であるのがより好ましい。S/Pを前記範囲内に設定することで、SおよびPの各含有量を抑えつつ、球形化の促進やアモルファス形成能の向上を図ることができる。つまり、各含有量を抑えることで、アモルファス合金軟磁性粉末の磁気特性が低下するのを抑えることができ、その一方、非晶質化度の低下を抑えることもできる。
【0033】
また、実施形態に係るアモルファス合金軟磁性粉末は、以上のような元素の他、添加元素や不純物を問わず、その他の元素を含んでいてもよい。その他の元素の含有率は、合計が1.0質量%以下であるのが好ましく、0.2質量%以下であるのがより好ましく、0.1質量%以下であるのがさらに好ましい。この範囲内であれば、その他の元素によって本発明の効果を阻害されにくいので、含有が許容できる。
【0034】
以上、実施形態に係るアモルファス合金軟磁性粉末の組成について詳述したが、上記組成および不純物は、以下のような分析手法により特定される。
【0035】
分析手法としては、例えば、JIS G 1257:2000に規定された鉄及び鋼-原子吸光分析法、JIS G 1258:2007に規定された鉄及び鋼-ICP発光分光分析法、JIS G 1253:2002に規定された鉄及び鋼-スパーク放電発光分光分析法、JIS G 1256:1997に規定された鉄及び鋼-蛍光X線分析法、JIS G 1211~G 1237に規定された重量・滴定・吸光光度法等が挙げられる。
【0036】
具体的には、例えばSPECTRO社製固体発光分光分析装置、特にスパーク放電発光分光分析装置、モデル:SPECTROLAB、タイプ:LAVMB08Aや、株式会社リガク製ICP装置CIROS120型が挙げられる。
【0037】
また、特にC(炭素)およびS(硫黄)の特定に際しては、JIS G 1211:2011に規定された酸素気流燃焼(高周波誘導加熱炉燃焼)-赤外線吸収法も用いられる。具体的には、LECO社製炭素・硫黄分析装置、CS-200が挙げられる。
【0038】
さらに、特にN(窒素)およびO(酸素)の特定に際しては、JIS G 1228:1997に規定された鉄及び鋼-窒素定量方法、JIS Z 2613:2006に規定された金属材料の酸素定量方法通則も用いられる。具体的には、LECO社製酸素・窒素分析装置、TC-300/EF-300が挙げられる。
【0039】
1.2.XAFS測定による粉末の評価
実施形態に係るアモルファス合金軟磁性粉末を構成する粒子に対してXAFS測定を行うと、X線吸収スペクトルが得られる。XAFS測定は、X線吸収微細構造測定のことであり、元素ごとに特有のX線の吸収に基づいて、粒子に含まれる元素の化学状態や局所構造を調べる分析手法である。XAFS測定では、XANES(X-ray Absorption Near Edge Structure)スペクトルと、EXAFS(Extended X-ray Absorption Fine Structure)スペクトルと、を取得できる。XANESスペクトルからは、主に、吸収原子の価数のような化学状態(電子状態)等が得られる。また、EXAFSスペクトルからは、主に、吸収原子の周りの局所構造(配位環境)が得られる。
【0040】
1.2.1.特徴(1)
粒子に対し、分析深さをバルクに設定してXAFS測定を行ったとき、得られるFe-K吸収端XANESスペクトルは、特徴(1)として、ピークAを含む第1吸収端構造st1と、第1吸収端構造st1よりも高エネルギー側に位置する第1連続帯構造st2と、を有する。このピークAは、エネルギーが7113±1eVの範囲内に存在するピークであって、以下の強度比を満たす。エネルギー7113eVにおけるピークAの強度は、第1連続帯構造st2の強度を1としたとき、0.60以上0.90以下とされる。
【0041】
このような特徴(1)を満たすことは、粒子において非晶質化度が高いことを示している。ピークAは、Feの電子がX線のエネルギーを吸収して、1s軌道からdp混成軌道への遷移に対応していると考えられる。この遷移は、非晶質化度が高いほど生じやすくなると考えられる。したがって、特徴(1)は、例えばFeの含有率が高められた場合でも、原子が十分にランダムに配置されている状態を反映していると考えられる。よって、特徴(1)を満たすアモルファス合金軟磁性粉末は、Feの含有率が高くても、高い非晶質化度を有するものとなり、高い透磁率と低い保磁力とを両立させ得る。また、特徴(1)を有するXANESスペクトルは、分析深さをバルクに設定して得られたスペクトルであることから、粒子は、その全体において高い非晶質化度を有することを裏付けている。
【0042】
なお、ピークAの強度が前記下限値を下回ると、原子配列のランダム性が低下し、磁化反転が起こりにくくなるため、保磁力が高くなる。一方、ピークAの強度が前記上限値を上回ると、金属特有のピーク形状から外れてくることになり、透磁率や飽和磁束密度等の磁気特性が低下しやすくなる場合がある。
【0043】
なお、上述したFe-K吸収端XANESスペクトルは、粒子に対する分析深さをバルク(深さ数10μm程度)に設定して得られるスペクトルである。具体的には、検出する信号としてX線を選択した場合には、測定の深さをバルクに設定することができ、検出する信号として電子を選択した場合には、測定の深さを表面に設定することができる。また、本明細書におけるXANESスペクトルの「ピークの強度」とは、XANESスペクトルが有するピークの、プリエッジラインからの高さのことである。さらに、本明細書における「連続帯構造の強度」とは、第1連続帯構造st2のような、吸光度の強度が連続している構造に対してフィッティングされた直線(ポストエッジライン)と、前述したプリエッジラインと、の差のうち、吸収端の位置から+150eVの位置における差のことをいう。なお、吸収端構造における吸収端の位置とは、XANESスペクトルが急激に立ち上がる吸収端構造の最も低エネルギー側に存在する変曲点の位置のことをいう。換言すれば、XANESスペクトルの一次微分が持つ極大点のうち、吸収端構造の最も低エネルギー側にある極大点の位置である。
【0044】
また、XANESスペクトルにおけるプリエッジラインは、各ピークにおける吸収端の位置から相対値で-150eVのデータ点と-30eVのデータ点とを通る直線とする。また、XANESスペクトルにおけるポストエッジラインは、各ピークにおける吸収端の位置から相対値で+150eVから+450eVの範囲内でフィッティング処理を行ったとき、得られる直線とする。
【0045】
また、本明細書における「ピーク」には、頂点を持つ明瞭な上に凸の形状の他、ショルダー構造のような上に凸ではない形状も含む。また、上に凸の形状やショルダー構造のいずれも存在しない場合には、規定範囲内の最大値の強度を、各ピークの強度とみなす。
【0046】
1.2.2.特徴(2)
粒子に対し、分析深さを表面に設定してXAFS測定を行ったとき、得られるFe-K吸収端XANESスペクトルは、特徴(2)として、ピークBを含む第2吸収端構造st3と、第2吸収端構造st3よりも高エネルギー側に位置する第2連続帯構造st4と、を有することが好ましい。このピークBは、エネルギーが7113±1eVの範囲内に存在するピークであって、以下の強度比を満たす。エネルギー7113eVにおけるピークBの強度は、第2連続帯構造st4の強度を1としたとき、0.10以上0.38以下であるのが好ましく、0.20以上0.35以下であるのがより好ましい。
【0047】
このような特徴(2)を満たすことは、酸化しやすいCrの影響により、粒子表面に酸化物が析出し、原子間距離が変化した結果、Feの1s軌道からdp混成軌道への遷移が、バルクに比べて減少していることを示していると考えられる。つまり、ピークBも、Feの電子がX線のエネルギーを吸収して、1s軌道からdp混成軌道への遷移に対応していると考えられる。そして、この遷移がバルクにおいて優位である場合、相対的に、表面においてはこの遷移が劣位になると考えられる。したがって、特徴(2)を満たすことは、粒子において非晶質化度が高いことを示している。
【0048】
したがって、特徴(2)は、例えばFeの含有率が高められた場合でも、原子が十分にランダムに配置されている状態を反映していると考えられる。よって、特徴(2)を満たすアモルファス合金軟磁性粉末は、Feの含有率が高くても、高い非晶質化度を有するものとなり、高い透磁率と低い保磁力とを両立させ得る。
【0049】
なお、ピークBの強度が前記下限値を下回ると、原子配列のランダム性が低下し、磁化反転が起こりにくくなるため、保磁力が高くなるおそれがある。一方、ピークBの強度が前記上限値を上回ってもよいが、製造難易度が高くなるため、品質の安定化を図る難易度が高くなるおそれがある。
【0050】
また、上述したFe-K吸収端XANESスペクトルは、粒子に対する分析深さを表面に設定して得られるスペクトルである。
【0051】
1.2.3.特徴(3)
粒子に対し、分析深さをバルクに設定してXAFS測定を行ったとき、得られるFe-K吸収端EXAFSスペクトルをフーリエ変換して得られる動径分布関数は、特徴(3)として、ピークCおよびピークDを有することが好ましい。
【0052】
ピークCは、原子間距離が0.10nm以上0.14nm以下の範囲内に存在するピークである。ピークDは、原子間距離が0.18nm以上0.22nm以下の範囲内に存在するピークである。ピークCの強度をCとし、ピークDの強度をDとするとき、強度比C/Dは0.7以上であるのが好ましく、0.9以上2.5以下であるのがより好ましく、1.1以上2.0以下であるのがさらに好ましい。
【0053】
ピークCは、吸収原子であるFe原子に隣接するO原子(第一近接O原子)に帰属される構造である。ピークDは、吸収原子であるFe原子に隣接するFe原子(第一近接Fe原子)に帰属される構造、または、吸収原子であるFe原子に隣接するSi原子(第一近接Si原子)に帰属される構造である。
【0054】
強度比C/Dが前記範囲内にあることは、酸化しやすいCrの影響により、Feの酸化物に由来するFe-O原子対がFe-Si原子対やFe-Fe原子対に比べて相対的に多いことを示している。これは、結晶状態の原子配置からずれた原子が比較的多いことを裏付けていると考えられる。したがって、特徴(3)を満たす粒子は、Feの含有率が高くても、高い非晶質化度を有するものとなり、高い透磁率と低い保磁力とを両立させ得る。また、特徴(3)を有する動径分布関数は、分析深さをバルクに設定して得られたものであることから、粒子は、その全体において高い非晶質化度を有することを裏付けていると考えられる。
【0055】
1.2.4.特徴(4)
粒子に対し、分析深さを表面に設定してXAFS測定を行ったとき、得られるFe-K吸収端EXAFSスペクトルをフーリエ変換して得られる動径分布関数は、特徴(4)として、ピークEおよびピークFを有することが好ましい。
【0056】
ピークEは、原子間距離が0.10nm以上0.14nm以下の範囲内に存在するピークである。ピークFは、原子間距離が0.18nm以上0.22nm以下の範囲内に存在するピークである。ピークEの強度をEとし、ピークFの強度をFとするとき、強度比E/Fが0.20以上0.70以下であるのが好ましく、0.30以上0.50以下であるのがより好ましい。
【0057】
ピークEは、吸収原子であるFe原子に隣接するO原子(第一近接O原子)に帰属される構造である。ピークFは、吸収原子であるFe原子に隣接するFe原子(第一近接Fe原子)に帰属される構造、または、吸収原子であるFe原子に隣接するSi原子(第一近接Si原子)に帰属される構造である。
【0058】
強度比E/Fが前記範囲内にあることは、酸化しやすいCrの影響により、Feの酸化物に由来するFe-O原子対がFe-Si原子対やFe-Fe原子対に比べて相対的に多いことを示している。これは、結晶状態の原子配置からずれた原子が比較的多いことを裏付けていると考えられる。したがって、特徴(4)を満たす粒子は、Feの含有率が高くても、高い非晶質化度を有するものとなり、高い透磁率と低い保磁力とを両立させ得る。
【0059】
1.3.XAFS測定方法
XAFS測定は、以下の条件で行うことができる。
【0060】
・測定施設:あいちシンクロトロン光センター
・加速エネルギー:1.2GeV
・蓄積電流値:300mA
・単色化条件:ベンディングマグネットからの白色X線を二結晶分光器により単色化し、測定に利用する
・利用ビームライン(BL)および測定領域:BL5S1
・試料への入射角:15°(上記入射角は、試料面の法線を基準とするX線の入射角度である。)
・エネルギー校正:XAFS測定を行う前に、Fe-foil(参照試料)について透過測定を行い、エネルギー軸の校正を行う。
・測定方法:転換電子収量(CEY)と部分蛍光収量(PFY)の同時測定
・測定準備:He大気圧チェンバーに導入し、測定前に30分程度Heガス置換
・I0測定方法:Au-メッシュ
【0061】
・動径分布関数を得るためのデータ処理:
XAFSスペクトルデータの取得は、QuickXAFS法により行う。得られたXAFSスペクトルデータから、定法によりバックグラウンドノイズを差し引く。各スペクトルのK吸収端のエネルギーE0(x軸)は、X線吸収スペクトルにおけるK吸収端付近のスペクトルにおいて、その一階微分係数が最大となるエネルギー値(x軸)とする。続いて、吸収端エネルギーE0を原点として、例えば-150eV~-30eVの範囲内における平均強度がゼロとなるような強度軸ゼロのベースラインを設定する。また、+150eV~+450eVの範囲内における平均強度が1となるような強度軸1のベースラインも設定する。続いて、これらの2つのベースラインを用いて波形を調整する。
【0062】
次に、上記のようにして調製されたX線吸収スペクトルから、次のようにして、FeのK吸収端のEXAFSスペクトルを得るとともに動径分布関数を得る。まず、調整されたX線吸収スペクトルデータに対し、EXAFS解析ソフトAthenaを用いてEXAFS振動の解析を行う。各スペクトルにつき、Spline Smoothing法により孤立原子の吸光度(μ0)を見積もり、EXAFS関数χ(k)を抽出する。最後に、k3で重み付けしたEXAFS関数k3χ(k)について、例えば、kが3.0から12.0Å-1の範囲でフーリエ変換する。これにより、動径分布関数が求められる。
【0063】
1.4.その他の特性
アモルファス合金軟磁性粉末における非晶質化度は、結晶化度に基づいて特定することができる。アモルファス合金軟磁性粉末における結晶化度は、アモルファス合金軟磁性粉末についてX線回折により取得されたスペクトルから、以下の式に基づいて算出される。
結晶化度={結晶由来強度/(結晶由来強度+非晶質由来強度)}×100
【0064】
また、X線回折装置としては、例えば株式会社リガク製のRINT2500V/PCが用いられる。
【0065】
このような方法で測定された結晶化度は、70%以下であるのが好ましく、60%以下であるのがより好ましい。これにより、非晶質化に伴う軟磁性の向上がより顕著になる。その結果、十分に低保磁力化が図られたアモルファス合金軟磁性粉末が得られる。換言すれば、アモルファス合金軟磁性粉末では、全てが非晶質化されているのが好ましいが、例えば70%以下の体積比率で結晶組織が含まれていてもよい。
【0066】
アモルファス合金軟磁性粉末の平均粒径D50は、特に限定されないが、3.0μm以上60.0μm以下であるのが好ましく、5.0μm以上50.0μm以下であるのがより好ましい。このようなアモルファス合金軟磁性粉末は、平均粒径が比較的小さいため、渦電流損失の小さい磁性素子の実現に寄与する。
【0067】
また、特に、平均粒径D50を20.0μm以上40.0μm以下とした場合、それよりも平均粒径の小さい他の軟磁性粉末と混ぜて使用するのに適したアモルファス合金軟磁性粉末が得られる。つまり、平均粒径D50がこの範囲にあるアモルファス合金軟磁性粉末は、より小径の他の軟磁性粉末と混ぜて圧粉成形されたとき、それぞれ単独で圧粉成形された場合に比べて、圧粉磁心のさらなる高密度化に寄与する。しかも、平均粒径D50が前記範囲内にあるアモルファス合金軟磁性粉末は、大径であっても非晶質化度が高いため、高透磁率および低保磁力の磁性素子の実現に寄与する。
【0068】
一方、平均粒径D50を5.0μm以上10.0μm以下とした場合、渦電流損失が特に小さい磁性素子の実現に寄与する。
【0069】
なお、アモルファス合金軟磁性粉末の平均粒径D50は、レーザー回折法により取得された体積基準の粒度分布において、小径側から累積50%となるときの粒径として求められる。
【0070】
また、アモルファス合金軟磁性粉末の平均粒径が前記下限値を下回ると、粒径が小さくなりすぎるため、圧粉成形時の充填性を十分に高められないおそれがある。一方、アモルファス合金軟磁性粉末の平均粒径が前記上限値を上回ると、粒径が大きくなりすぎるため、非晶質化度を十分に高められないおそれがある。
【0071】
さらに、アモルファス合金軟磁性粉末について、レーザー回折法により取得された体積基準の粒度分布において、小径側から累積10%となるときの粒径をD10とし、小径側から累積90%となるときの粒径をD90としたとき、(D90-D10)/D50は1.3以上3.0以下程度であるのが好ましく、1.5以上2.5以下程度であるのがより好ましい。(D90-D10)/D50は粒度分布の広がりの程度を示す指標であるが、この指標が前記範囲内であることにより、アモルファス合金軟磁性粉末の充填性が特に良好になる。これにより、特に透磁率が高い磁性素子を製造可能なアモルファス合金軟磁性粉末が得られる。
【0072】
実施形態に係るアモルファス合金軟磁性粉末の保磁力は、24[A/m]以上(0.3[Oe]以上)199[A/m]以下(2.5[Oe]以下)であるのが好ましく、40[A/m]以上(0.5[Oe]以上)175[A/m]以下(2.2[Oe]以下)であるのがより好ましく、56[A/m]以上(0.7[Oe]以上)159[A/m]以下(2.0[Oe]以下)であるのがさらに好ましい。
【0073】
このように保磁力が低いアモルファス合金軟磁性粉末を用いることにより、ヒステリシス損失を十分に抑制可能な磁性素子を製造することができる。
【0074】
なお、保磁力が前記下限値を下回る場合、そのような低保磁力のアモルファス合金軟磁性粉末を安定して製造することが難しくなるとともに、保磁力を追求しすぎると、透磁率に影響が及ぶおそれがある。一方、保磁力が前記上限値を上回ると、ヒステリシス損失を増大させるため、圧粉磁心の鉄損が大きくなるおそれがある。
【0075】
アモルファス合金軟磁性粉末の保磁力は、例えば、株式会社玉川製作所製、TM-VSM1230-MHHLのような振動試料型磁力計により測定することができる。
【0076】
実施形態に係るアモルファス合金軟磁性粉末の飽和磁束密度は、1.60[T]以上2.20[T]以下であるのが好ましく、1.60[T]以上2.10[T]以下であるのがより好ましく、1.65[T]以上2.00[T]以下であるのがさらに好ましい。
【0077】
このように飽和磁束密度が比較的高いアモルファス合金軟磁性粉末を用いることにより、磁性素子の小型化および高出力化を図ることができる。
【0078】
なお、飽和磁束密度が前記下限値を下回ると、磁性素子の小型化および高出力化が難しくなるおそれがある。一方、飽和磁束密度が前記上限値を上回る場合、そのような飽和磁束密度のアモルファス合金軟磁性粉末を安定して製造することが難しくなるとともに、飽和磁束密度を追求しすぎると、保磁力に影響が及んで、保磁力の上昇を招くおそれがある。
【0079】
アモルファス合金軟磁性粉末の飽和磁束密度は、以下の方法で測定される。
まず、全自動ガス置換式密度計、マイクロメリティックス社製、AccuPyc1330により、軟磁性粉末の真比重ρを測定する。次に、振動試料型磁力計、株式会社玉川製作所製VSMシステム、TM-VSM1230-MHHLにより、軟磁性粉末の最大磁化Mmを測定する。そして、以下の式により、飽和磁束密度Bsを算出する。
Bs=4π/10000×ρ×Mm
【0080】
実施形態に係るアモルファス合金軟磁性粉末の測定周波数100kHzにおける透磁率は、20.0以上であるのが好ましく、21.0以上であるのがより好ましい。このようなアモルファス合金軟磁性粉末は、高い磁界をかけた場合でも、磁束密度が飽和しにくいため、高い飽和磁束密度を持つ圧粉磁心や小さな圧粉磁心の実現に寄与する。なお、透磁率の上限値は、特に限定されないが、安定して製造することを考慮すれば、50.0以下とされる。
【0081】
アモルファス合金軟磁性粉末の透磁率は、例えば、トロイダル形状の圧粉磁心を作製し、閉磁路磁心コイルの自己インダクタンスから求められる比透磁率、すなわち実効透磁率として測定することができる。透磁率の測定には、例えば、アジレント・テクノロジー株式会社製 4194Aのようなインピーダンスアナライザーを用い、測定周波数は1MHzとする。また、励磁コイルの巻き数は7回、巻線の線径は0.6mmとする。
【0082】
実施形態に係るアモルファス合金軟磁性粉末では、見かけ密度およびタップ密度が所定の範囲内にあることが好ましい。具体的には、アモルファス合金軟磁性粉末の見かけ密度[g/cm3]を100としたとき、タップ密度[g/cm3]は103以上120以下であるのが好ましく、105以上115以下であるのがより好ましく、107以上113以下であるのがさらに好ましい。このようなアモルファス合金軟磁性粉末は、タップ(加振)されないときには比較的充填されにくく、タップされたときには充填されやすい粉末であるといえる。このことから、タップ密度が前記範囲内にある場合、異形状の粒子が比較的少なく、かつ、充填性が高い粒度分布を有する粉末であるといえる。このようなアモルファス合金軟磁性粉末は、高密度の圧粉磁心を製造することができ、したがって、磁性素子の飽和磁束密度および透磁率を特に高めることができる。
【0083】
アモルファス合金軟磁性粉末の見かけ密度は、4.55[g/cm3]以上4.80[g/cm3]以下であるのが好ましく、4.58[g/cm3]以上4.70[g/cm3]以下であるのがより好ましい。
【0084】
アモルファス合金軟磁性粉末のタップ密度は、4.95[g/cm3]以上5.30[g/cm3]以下であるのが好ましく、5.00[g/cm3]以上5.20[g/cm3]以下であるのがより好ましい。
【0085】
アモルファス合金軟磁性粉末の見かけ密度およびタップ密度が前記範囲内であることにより、磁性素子の飽和磁束密度および透磁率を特に高めることができる。
【0086】
なお、タップ密度の相対値が前記下限値を下回ると、アモルファス合金軟磁性粉末を圧粉して圧粉磁心を得るとき、アモルファス合金軟磁性粉末の充填性が低下するおそれがある。一方、タップ密度の相対値が前記上限値を上回ると、アモルファス合金軟磁性粉末を圧粉して圧粉磁心を得るとき、収縮率が大きくなるおそれがある。このため、圧粉磁心が変形し易くなり、寸法精度が低下するおそれがある。
【0087】
アモルファス合金軟磁性粉末の見かけ密度は、JIS Z 2504:2012に規定の金属粉-見掛密度測定方法に準拠して測定される。
【0088】
アモルファス合金軟磁性粉末のタップ密度は、JIS Z 2512:2012に規定の金属粉-タップ密度測定方法に準拠して測定される。
【0089】
1.5.実施形態が奏する効果
以上のように、実施形態に係るアモルファス合金軟磁性粉末は、原子数比で表された組成式(Fe1-xCrx)a(Si1-yBy)100-a-bCb[ただし、x、y、aおよびbは、0<x≦0.06、0.3≦y≦0.7、70.0≦a≦81.0、0<b≦3.0である。]の組成を有する粒子で構成される。
【0090】
このような粒子に対し、分析深さをバルクに設定してXAFS測定を行ったとき、得られるFe-K吸収端XANESスペクトルは、エネルギーが7113±1eVの範囲内に存在するピークAを含む第1吸収端構造st1と、この第1吸収端構造st1よりも高エネルギー側に位置する第1連続帯構造st2と、を有する。そして、エネルギーが7113eVにおけるピークAの強度は、第1連続帯構造st2の強度を1としたとき、0.60以上0.90以下である。
【0091】
このような構成の粒子は、非晶質化度が高いものとなる。したがって、高濃度のFeに起因して高透磁率化が図られていても、保磁力の低いアモルファス合金軟磁性粉末を実現することができる。つまり、高透磁率と低保磁力とが両立したアモルファス合金軟磁性粉末が得られる。
【0092】
また、上記のような第1吸収端構造st1および第1連続帯構造st2を有するXANESスペクトルは、分析深さをバルクに設定して得られたスペクトルである。したがって、このスペクトルが上記特徴を満たすことは、粒子がその全体において高い非晶質化度を有することを裏付けている。
【0093】
また、本実施形態に係るアモルファス合金軟磁性粉末では、粒子に対し、分析深さを表面に設定してXAFS測定を行ったとき、得られるFe-K吸収端XANESスペクトルが、エネルギーが7113±1eVの範囲内に存在するピークBを含む第2吸収端構造st3と、この第2吸収端構造st3よりも高エネルギー側に位置する第2連続帯構造st4と、を有する。そして、エネルギーが7113eVにおけるピークBの強度は、第2連続帯構造st4の強度を1としたとき、0.10以上0.38以下であることが好ましい。
【0094】
このような構成の粒子は、非晶質化度が高いものとなる。したがって、高濃度のFeに起因して高透磁率化が図られていても、保磁力の低いアモルファス合金軟磁性粉末を実現することができる。つまり、高透磁率と低保磁力とが両立したアモルファス合金軟磁性粉末が得られる。
【0095】
また、本実施形態に係るアモルファス合金軟磁性粉末では、粒子に対し、分析深さをバルクに設定してXAFS測定を行い、Fe-K吸収端EXAFSスペクトルを得た後、このFe-K吸収端EXAFSスペクトルをフーリエ変換して得られる動径分布関数が、ピークCと、ピークDと、を有する。ピークCは、原子間距離が0.10nm以上0.14nm以下の範囲内に存在するピークである。ピークDは、原子間距離が0.18nm以上0.22nm以下の範囲内に存在するピークである。そして、ピークCの強度をCとし、ピークDの強度をDとするとき、強度比C/Dが0.7以上であることが好ましい。
【0096】
このような構成の粒子は、Feの含有率が高くても、高い非晶質化度を有するものとなり、高い透磁率と低い保磁力とを両立させ得る。
【0097】
また、上記のような特徴を有する動径分布関数は、分析深さをバルクに設定して得られた曲線である。したがって、この曲線が上記特徴を満たすことは、粒子がその全体において高い非晶質化度を有することを裏付けている。
【0098】
また、本実施形態に係るアモルファス合金軟磁性では、粒子に対し、分析深さを表面に設定してXAFS測定を行い、Fe-K吸収端EXAFSスペクトルを得た後、このFe-K吸収端EXAFSスペクトルをフーリエ変換して得られる動径分布関数は、ピークEと、ピークFと、を有する。ピークEは、原子間距離が0.10nm以上0.14nm以下の範囲内に存在するピークである。ピークFは、原子間距離が0.18nm以上0.22nm以下の範囲内に存在するピークである。そして、ピークEの強度をEとし、ピークFの強度をFとするとき、強度比E/Fが0.20以上0.70以下であることが好ましい。
【0099】
このような構成の粒子は、Feの含有率が高くても、高い非晶質化度を有するものとなり、高い透磁率と低い保磁力とを両立させ得る。
【0100】
また、本実施形態に係るアモルファス合金軟磁性粉末は、測定周波数が100kHzにおける透磁率は、20.0以上であり、保磁力は、24[A/m]以上(0.3[Oe]以上)199[A/m]以下(2.5[Oe]以下)であることが好ましい。
【0101】
このようなアモルファス合金軟磁性粉末は、高透磁率と低保磁力とを特に高度に両立させ得る。
【0102】
2.アモルファス合金軟磁性粉末の製造方法
次に、実施形態に係るアモルファス合金軟磁性粉末を製造する方法について説明する。
【0103】
実施形態に係るアモルファス合金軟磁性粉末は、いかなる製造方法で製造されたものであってもよく、例えば、水アトマイズ法、ガスアトマイズ法、回転水流アトマイズ法のようなアトマイズ法、還元法、カルボニル法、粉砕法等の各種粉末化法により製造される。
【0104】
アトマイズ法には、冷却媒の種類や装置構成の違いによって、水アトマイズ法、ガスアトマイズ法、回転水流アトマイズ法等がある。このうち、アモルファス合金軟磁性粉末は、アトマイズ法により製造されたものであるのが好ましく、水アトマイズ法または回転水流アトマイズ法により製造されたものであるのがより好ましく、回転水流アトマイズ法により製造されたものであるのがさらに好ましい。アトマイズ法は、溶融させた原料を高速で噴射された液体または気体のような流体に衝突させることにより、微粉化するとともに冷却して、粉末を製造する方法である。
【0105】
なお、本明細書における「水アトマイズ法」とは、冷却液として水または油のような液体を使用し、これを一点に集束する逆円錐状に噴射した状態で、この集束点に向けて溶融金属を流下させ、衝突させることにより、金属粉末を製造する方法のことを指す。
【0106】
一方、回転水流アトマイズ法によれば、溶湯を極めて高速で冷却することができるので、非晶質化を特に図りやすい。
【0107】
アモルファス合金軟磁性粉末を製造するとき、溶融金属の冷却速度は、106[K/秒]超であるのが好ましく、107[K/秒]以上であるのがより好ましい。これにより、非晶質化が十分に図られたアモルファス合金軟磁性粉末が得られる。つまり、Feの含有率が比較的高い組成であっても、非晶質化を図ることができ、XAFS測定により、前述した特徴を持つスペクトルを取得可能なアモルファス合金軟磁性粉末が得られる。特に回転水流アトマイズ法によれば、106[K/秒]超の冷却速度を容易に実現することができる。
【0108】
以下、回転水流アトマイズ法によるアモルファス合金軟磁性粉末の製造方法についてさらに説明する。
【0109】
回転水流アトマイズ法では、冷却用筒体の内周面に沿って冷却液を噴出供給し、冷却用筒体の内周面に沿って旋回させることにより、内周面に冷却液層を形成する。一方、アモルファス合金軟磁性粉末の原料を溶融し、得られた溶融金属を自然落下させつつ、これに液体または気体のジェットを吹き付ける。このようにして溶融金属を飛散させると、飛散した溶融金属は冷却液層に取り込まれる。その結果、飛散して微粉化した溶融金属が急速冷却されて固化し、アモルファス合金軟磁性粉末が得られる。
【0110】
図1は、回転水流アトマイズ法によりアモルファス合金軟磁性粉末を製造する装置の一例を示す縦断面図である。
【0111】
図1に示す粉末製造装置30は、冷却用筒体1と、坩堝15と、ポンプ7と、ジェットノズル24と、を備えている。冷却用筒体1は、内周面に冷却液層9を形成するための筒体である。坩堝15は、冷却液層9の内側の空間部23に溶融金属25を流下供給するための供給容器である。ポンプ7は、冷却用筒体1に冷却液を供給する。ジェットノズル24は、流下した細流状の溶融金属25を液滴に分断するガスジェット26を噴出する。溶融金属25は、アモルファス合金軟磁性粉末の組成に応じて調製されている。
【0112】
冷却用筒体1は円筒状をなし、筒体軸線が鉛直方向に沿うように、または鉛直方向に対して30°以下の角度で傾くように設置される。
【0113】
冷却用筒体1の上端開口は蓋体2によって閉塞している。蓋体2には、流下する溶融金属25を冷却用筒体1の空間部23に供給するための開口部3が形成されている。
【0114】
冷却用筒体1の上部には、冷却用筒体1の内周面に冷却液を噴出させる冷却液噴出管4が設けられている。冷却液噴出管4の吐出口5は、冷却用筒体1の周方向に沿って等間隔に複数個設けられている。
【0115】
冷却液噴出管4は、ポンプ7が接続された配管を介してタンク8に接続されており、ポンプ7で吸い上げられたタンク8内の冷却液が冷却液噴出管4を介して冷却用筒体1内に噴出供給される。これにより、冷却液が冷却用筒体1の内周面に沿って回転しながら徐々に流下し、それに伴って内周面に沿う冷却液層9が形成される。なお、タンク8内や循環流路の途中には、必要に応じて冷却器を介在させるようにしてもよい。冷却液としては水の他、シリコーンオイルのような油が用いられ、さらに各種添加物が添加されていてもよい。また、冷却液中の溶存酸素をあらかじめ除去しておくことにより、製造される粉末の酸化を抑えることができる。
【0116】
また、冷却用筒体1の下部には、円筒状の液切り用網体17が連設されており、この液切り用網体17の下側には漏斗状の粉末回収容器18が設けられている。液切り用網体17の周囲には液切り用網体17を覆うように冷却液回収カバー13が設けられ、この冷却液回収カバー13の底部に形成された排液口14は、配管を介してタンク8に接続されている。
【0117】
ジェットノズル24は、空間部23に設けられている。ジェットノズル24は、蓋体2の開口部3を介して挿入されたガス供給管27の先端に取り付けられ、その噴出口が、細流状の溶融金属25を指向するように配置されている。
【0118】
このような粉末製造装置30においてアモルファス合金軟磁性粉末を製造するには、まず、ポンプ7を作動させ、冷却用筒体1の内周面に冷却液層9を形成する。次に、坩堝15内の溶融金属25を空間部23に流下させる。流下する溶融金属25にガスジェット26を吹き付けると、溶融金属25が飛散し、微粉化された溶融金属25が冷却液層9に巻き込まれる。その結果、微粉化された溶融金属25が冷却固化し、アモルファス合金軟磁性粉末が得られる。
【0119】
回転水流アトマイズ法では、冷却液を連続供給することにより、極めて大きい冷却速度を安定的に維持することができるため、製造されるアモルファス合金軟磁性粉末の非晶質化が促進される。
【0120】
また、ガスジェット26によって一定の大きさに微細化された溶融金属25は、冷却液層9に巻き込まれるまで惰性落下するので、その際に液滴の球形化が図られる。その結果、粒度分布が良好で充填性に優れたアモルファス合金軟磁性粉末を製造することができる。
【0121】
例えば、坩堝15から流下させる溶融金属25の流下量については、装置サイズ等によって異なるが、1.0[kg/分]超20.0[kg/分]以下であるのが好ましく、2.0[kg/分]以上10.0[kg/分]以下であるのがより好ましい。これにより、一定時間に流下する溶融金属25の量を最適化することができるので、非晶質化が十分に図られ、XAFS測定により、前述した特徴を持つスペクトルを取得可能なアモルファス合金軟磁性粉末を効率よく製造することができる。また、単位量当たりの溶融金属25の冷却速度を高め、非晶質化度を高めることができる。
【0122】
また、ガスジェット26の圧力は、ジェットノズル24の構成に応じて若干異なるが、2.0MPa以上20.0MPa以下であるのが好ましく、3.0MPa以上10.0MPa以下であるのがより好ましい。これにより、溶融金属25を飛散させるときの粒径を最適化して、非晶質化が十分に図られ、XAFS測定により、前述した特徴を持つスペクトルを取得可能なアモルファス合金軟磁性粉末を製造することができる。すなわち、ガスジェット26の圧力が前記下限値を下回ると、十分に細かく飛散させることが難しくなり、粒径が大きくなりやすい。そうすると、液滴内部の冷却速度が低下して、非晶質化が不十分になるおそれがある。一方、ガスジェット26の圧力が前記上限値を上回ると、飛散後の液滴の粒径が小さくなりすぎるおそれがある。そうすると、液滴がガスジェット26で徐冷されてしまい、冷却液層9による急冷を行えなくなって、非晶質化が不十分になるおそれがある。
【0123】
また、ガスジェット26の流量は、特に限定されないが、1.0[Nm3/分]以上20.0[Nm3/分]以下であるのが好ましい。
【0124】
冷却用筒体1に供給する冷却液の噴出時の圧力は、好ましくは5MPa以上200MPa以下程度とされ、より好ましくは10MPa以上100MPa以下程度とされる。これにより、冷却液層9の流速の最適化が図られ、微粉化された溶融金属25が異形状になりにくくなる。その結果、より充填性に優れたアモルファス合金軟磁性粉末が得られる。また、冷却液による溶融金属25の冷却速度を十分に高めることができる。
以上のようにしてアモルファス合金軟磁性粉末が得られる。
【0125】
なお、アモルファス合金軟磁性粉末の粒径は、例えば、坩堝15から流下させる溶融金属25の流下量を減らす、ガスジェット26の圧力を高める、ガスジェット26の流量を高める、といった操作を行うことにより小さくすることができる。また、反対の操作を行うことにより、粒径を大きくすることができる。
【0126】
また、アモルファス合金軟磁性粉末の粒度分布は、例えば、溶融金属25の流下量、ガスジェット26の圧力および流量を、前記範囲内に設定することにより、狭くすることができる。なお、この設定により、アモルファス合金軟磁性粉末の見かけ密度に対するタップ密度の比を高めることができる。
【0127】
また、アモルファス合金軟磁性粉末には、必要に応じて分級処理を施すようにしてもよい。分級処理の方法としては、例えば、ふるい分け分級、慣性分級、遠心分級、風力分級のような乾式分級、沈降分級のような湿式分級等が挙げられる。
【0128】
また、必要に応じて、得られた軟磁性粉末の各粒子表面に絶縁膜を成膜するようにしてもよい。この絶縁膜の構成材料は、特に限定されないが、例えば、リン酸マグネシウム、リン酸カルシウム、リン酸亜鉛、リン酸マンガン、リン酸カドミウムのようなリン酸塩、ケイ酸ナトリウムのようなケイ酸塩等の無機材料等が挙げられる。
【0129】
3.圧粉磁心および磁性素子
次に、実施形態に係る圧粉磁心および磁性素子について説明する。
【0130】
実施形態に係る磁性素子は、例えば、チョークコイル、インダクター、ノイズフィルター、リアクトル、トランス、モーター、アクチュエーター、電磁弁、発電機等のような、磁心を備えた各種磁性素子に適用可能である。また、実施形態に係る圧粉磁心は、これらの磁性素子が備える磁心に適用可能である。
【0131】
以下、磁性素子の一例として、2種類のコイル部品を代表に説明する。
3.1.トロイダルタイプ
まず、実施形態に係る磁性素子であるトロイダルタイプのコイル部品について説明する。
【0132】
図2は、トロイダルタイプのコイル部品を模式的に示す平面図である。
図2に示すコイル部品10は、リング状の圧粉磁心11と、この圧粉磁心11に巻回された導線12と、を有する。
【0133】
圧粉磁心11は、前述したアモルファス合金軟磁性粉末と結合材とを混合し、得られた混合物を成形型に供給するとともに、加圧、成形して得られる。すなわち、圧粉磁心11は、実施形態に係るアモルファス合金軟磁性粉末を含む圧粉体である。このような圧粉磁心11は、透磁率が高く、保磁力が低いものとなる。このため、圧粉磁心11を有するコイル部品10を電子機器等に搭載したとき、電子機器等の消費電力を低減するとともに、電子機器の小型化および高出力化を図ることができる。
【0134】
また、コイル部品10は、このような圧粉磁心11を備えている。このようなコイル部品10は、電子機器の小型化および高出力化に寄与する。
【0135】
圧粉磁心11の作製に用いられる結合材の構成材料としては、例えば、シリコーン系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂等の有機材料、リン酸マグネシウム、リン酸カルシウム、リン酸亜鉛、リン酸マンガン、リン酸カドミウムのようなリン酸塩、ケイ酸ナトリウムのようなケイ酸塩等の無機材料等が挙げられる。
【0136】
導線12の構成材料としては、導電性の高い材料が挙げられ、例えば、Cu、Al、Ag、Au、Ni等を含む金属材料が挙げられる。また、導線12の表面には、必要に応じて絶縁膜が設けられる。
【0137】
なお、圧粉磁心11の形状は、
図2に示すリング状に限定されず、例えばリングの一部が欠損した形状であってもよく、長手方向の形状が直線状である形状であってもよい。
【0138】
また、圧粉磁心11は、必要に応じて、前述した実施形態に係るアモルファス合金軟磁性粉末以外の軟磁性粉末や非磁性粉末を含んでいてもよい。その場合、各粉末を混合した混合粉末における前述したアモルファス合金軟磁性粉末の比率は、50質量%超であるのが好ましく、60質量%以上であるのがより好ましい。
【0139】
3.2.閉磁路タイプ
次に、実施形態に係る磁性素子である閉磁路タイプのコイル部品について説明する。
図3は、閉磁路タイプのコイル部品を模式的に示す透過斜視図である。
【0140】
以下、閉磁路タイプのコイル部品について説明するが、以下の説明では、トロイダルタイプのコイル部品との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
【0141】
図3に示すコイル部品20は、チップ状の圧粉磁心21と、この圧粉磁心21の内部に埋設され、コイル状に成形された導線22と、を有する。すなわち、圧粉磁心21は、実施形態に係るアモルファス合金軟磁性粉末を含む圧粉体である。このような圧粉磁心21は、透磁率が高く、保磁力が低いものとなる。
【0142】
また、コイル部品20は、このような圧粉磁心21を備えている。このようなコイル部品20は、電子機器の小型化および高出力化に寄与する。
【0143】
なお、圧粉磁心21は、必要に応じて、前述した実施形態に係るアモルファス合金軟磁性粉末以外の軟磁性粉末や非磁性粉末を含んでいてもよい。その場合、混合粉末における前述したアモルファス合金軟磁性粉末の比率は、50質量%超であるのが好ましく、60質量%以上であるのがより好ましい。
【0144】
4.電子機器
次いで、実施形態に係る磁性素子を備える電子機器について、
図4~
図6に基づいて説明する。
【0145】
図4は、実施形態に係る磁性素子を備える電子機器であるモバイル型のパーソナルコンピューターを示す斜視図である。
図4に示すパーソナルコンピューター1100は、キーボード1102を備えた本体部1104と、表示部100を備えた表示ユニット1106と、を備える。表示ユニット1106は、本体部1104に対しヒンジ構造部を介して回動可能に支持されている。このようなパーソナルコンピューター1100には、例えばスイッチング電源用のチョークコイルやインダクター、モーター等の磁性素子1000が内蔵されている。
【0146】
図5は、実施形態に係る磁性素子を備える電子機器であるスマートフォンを示す平面図である。
図5に示すスマートフォン1200は、複数の操作ボタン1202、受話口1204および送話口1206を備える。また、操作ボタン1202と受話口1204との間には、表示部100が配置されている。このようなスマートフォン1200には、例えばインダクター、ノイズフィルター、モーター等の磁性素子1000が内蔵されている。
【0147】
図6は、実施形態に係る磁性素子を備える電子機器であるディジタルスチルカメラを示す斜視図である。ディジタルスチルカメラ1300は、被写体の光像をCCD(Charge Coupled Device)等の撮像素子により光電変換して撮像信号を生成する。
【0148】
図6に示すディジタルスチルカメラ1300は、ケース1302の背面に設けられた表示部100を備える。表示部100は、被写体を電子画像として表示するファインダーとして機能する。また、ケース1302の正面側、すなわち図中裏面側には、光学レンズやCCDなどを含む受光ユニット1304が設けられている。
【0149】
撮影者が表示部100に表示された被写体像を確認し、シャッターボタン1306を押下すると、その時点におけるCCDの撮像信号が、メモリー1308に転送・格納される。このようなディジタルスチルカメラ1300にも、例えばインダクター、ノイズフィルター等の磁性素子1000が内蔵されている。
【0150】
なお、実施形態に係る電子機器としては、
図4のパーソナルコンピューター、
図5のスマートフォン、
図6のディジタルスチルカメラの他に、例えば、携帯電話、タブレット端末、時計、インクジェットプリンターのようなインクジェット式吐出装置、ラップトップ型パーソナルコンピューター、テレビ、ビデオカメラ、ビデオテープレコーダー、カーナビゲーション装置、ページャー、電子手帳、電子辞書、電卓、電子ゲーム機器、ワードプロセッサー、ワークステーション、テレビ電話、防犯用テレビモニター、電子双眼鏡、POS端末、電子体温計、血圧計、血糖計、心電図計測装置、超音波診断装置、電子内視鏡のような医療機器、魚群探知機、各種測定機器、車両、航空機、船舶の計器類、自動車制御機器、航空機制御機器、鉄道車両制御機器、船舶制御機器のような移動体制御機器類、フライトシミュレーター等が挙げられる。
【0151】
このような電子機器は、前述したように、実施形態に係る磁性素子を備えている。これにより、高透磁率および低保磁力という磁性素子の効果を享受し、電子機器の小型化および高出力化を図ることができる。
【0152】
以上、本発明のアモルファス合金軟磁性粉末、圧粉磁心、磁性素子および電子機器について、好適な実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、本発明に係る圧粉磁心および磁性素子は、前記実施形態の各部が同様の機能を有する任意の構成物に置換されたものであってもよく、前記実施形態に任意の構成物が付加されたものであってもよい。
【0153】
また、前記実施形態では、本発明のアモルファス合金軟磁性粉末の用途例として圧粉磁心を挙げて説明したが、用途例はこれに限定されず、例えば磁性流体、磁気遮蔽シート、磁気ヘッド等の磁性デバイスであってもよい。また、圧粉磁心や磁性素子の形状も、図示したものに限定されず、いかなる形状であってもよい。
【実施例0154】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
5.圧粉磁心の製造
5.1.サンプルNo.1
まず、原料を高周波誘導炉で溶融するとともに、回転水流アトマイズ法により粉末化してアモルファス合金軟磁性粉末を得た。この際、坩堝から流下させる溶融金属の流下量を10.0[kg/分]、ガスジェットの圧力を10.0MPa、ガスジェットの流量を10.0[Nm3/分]、冷却液の圧力を40MPaとした。また、回転水流アトマイズ法による冷却速度は107[K/秒]であった。
【0155】
次いで、目開き150μmのメッシュを用いた分級機により分級を行った。分級後のアモルファス合金軟磁性粉末の合金組成を表1に示す。なお、合金組成の特定には、SPECTRO社製固体発光分光分析装置、モデル:SPECTROLAB、タイプ:LAVMB08Aを用いた。
【0156】
次に、得られたアモルファス合金軟磁性粉末と、結合材であるエポキシ樹脂および有機溶媒であるトルエンと、を混合して、混合物を得た。なお、エポキシ樹脂の添加量は、アモルファス合金軟磁性粉末100質量部に対して2質量部とした。
【0157】
次に、得られた混合物を撹拌したのち、短時間乾燥させ、塊状の乾燥体を得た。次いで、この乾燥体を、目開き400μmのふるいにかけ、乾燥体を粉砕して、造粒粉末を得た。得られた造粒粉末を50℃で1時間乾燥させた。
【0158】
次に、得られた造粒粉末を、成形型に充填し、下記の成形条件に基づいて成形体を得た。
【0159】
<成形条件>
・成形方法 :プレス成形
・成形体の形状:リング状
・成形体の寸法:外径14mm、内径8mm、厚さ3mm
・成形圧力 :3t/cm2(294MPa)
【0160】
次に、成形体を、大気雰囲気中において、温度150℃で0.50時間加熱して、結合材を硬化させた。これにより、圧粉磁心を得た。
【0161】
5.2.サンプルNo.2~11
アモルファス合金軟磁性粉末として表1に示すものをそれぞれ用いるようにした以外は、サンプルNo.1と同様にして圧粉磁心を得た。なお、このとき、溶融金属の流下量を2.0[kg/分]以上10.0[kg/分]以下の範囲内で調整し、ガスジェットの圧力を3.0MPa以上10.0MPa以下の範囲内で調整することにより、表1に示すXAFS測定の結果が得られる粉末を製造するようにした。
【0162】
5.3.サンプルNo.12~14
回転水流アトマイズ法に代えて水アトマイズ法を用いるようにした以外は、サンプルNo.1と同様にして表1に示す組成のアモルファス合金軟磁性粉末を製造するとともに、圧粉磁心を得た。なお、水アトマイズ法による冷却速度は106[K/秒]であった。また、溶融金属の流下量を2.0[kg/分]以上10.0[kg/分]以下の範囲内で調整することにより、表1に示すXAFS測定の結果が得られる粉末を製造するようにした。
【0163】
5.4.サンプルNo.15~17
アモルファス合金軟磁性粉末として表1に示すものをそれぞれ用いるようにした以外は、サンプルNo.12と同様にして圧粉磁心を得た。なお、サンプルNo.15~17では、水アトマイズ法における条件を変更することにより、冷却速度は106[K/秒]未満であった。また、溶融金属の流下量をサンプルNo.12~14よりも多くすることにより、表1に示すXAFS測定の結果が得られる粉末を製造するようにした。
【0164】
なお、表1においては、各サンプルNo.のアモルファス合金軟磁性粉末のうち、本発明に相当するものについては「実施例」、本発明に相当しないものについては「比較例」と示した。
【0165】
6.アモルファス合金軟磁性粉末および磁性素子の評価
6.1.アモルファス合金軟磁性粉末のXAFS測定
各実施例および各比較例で得られたアモルファス合金軟磁性粉末を代表し、サンプルNo.1(実施例)およびサンプルNo.15(比較例)のアモルファス合金軟磁性粉末について、XAFS測定を行った。測定結果を
図7ないし
図10に示す。
【0166】
6.1.1.分析深さをバルクに設定して得られたFe-K吸収端XANESスペクトル
図7は、サンプルNo.1(実施例)およびサンプルNo.15(比較例)のアモルファス合金軟磁性粉末について、分析深さをバルクに設定して得られたFe-K吸収端XANESスペクトルである。
【0167】
図7に示すように、ピークAは、ショルダー構造になっている。このピークAについて、第1連続帯構造st2の強度を1としたとき、エネルギー7113eVにおけるピークAの強度の相対値、すなわち強度Aを算出した。算出結果を表1に示す。
【0168】
また、他の実施例および比較例のアモルファス合金軟磁性粉末についても、同様に、強度Aを算出した。算出結果を表1に示す。なお、
図7に示す各XANESスペクトルでは、Fe-K吸収端の位置が7109eVと見積もられる。
【0169】
6.1.2.分析深さを表面に設定して得られたFe-K吸収端XANESスペクトル
図8は、サンプルNo.1(実施例)およびサンプルNo.15(比較例)のアモルファス合金軟磁性粉末について、分析深さを表面に設定して得られたFe-K吸収端XANESスペクトルである。
【0170】
図8に示すように、ピークBは、ショルダー構造になっている。このピークBについて、第2連続帯構造st4の強度を1としたとき、エネルギー7113eVにおけるピークBの強度の相対値を算出した。算出結果を表1に示す。
【0171】
また、他の実施例および比較例のアモルファス合金軟磁性粉末についても、同様に、強度Bを算出した。算出結果を表1に示す。
【0172】
6.1.3.分析深さをバルクに設定して得られたFe-K吸収端EXAFSスペクトルに基づく動径分布関数
図9は、サンプルNo.1(実施例)およびサンプルNo.15(比較例)のアモルファス合金軟磁性粉末について、分析深さをバルクに設定して得られたFe-K吸収端EXAFSスペクトルに基づく動径分布関数である。
【0173】
図9に示すように、得られた動径分布関数には、ピークCおよびピークDが認められた。これらのピークの高さを取得し、強度比C/Dを算出した。算出結果を表1に示す。
【0174】
また、他の実施例および比較例のアモルファス合金軟磁性粉末についても、同様に、強度比C/Dを算出した。算出結果を表1に示す。なお、
図8に示す各XANESスペクトルでは、Fe-K吸収端の位置が7109eVと見積もられる。
【0175】
6.1.4.分析深さを表面に設定して得られたFe-K吸収端EXAFSスペクトルに基づく動径分布関数
図10は、サンプルNo.1(実施例)およびサンプルNo.15(比較例)のアモルファス合金軟磁性粉末について、分析深さを表面に設定して得られたFe-K吸収端EXAFSスペクトルに基づく動径分布関数である。
【0176】
図10に示すように、得られた動径分布関数には、ピークEおよびピークFが認められた。これらのピークの高さを取得し、強度比E/Fを算出した。算出結果を表1に示す。
【0177】
また、他の実施例および比較例のアモルファス合金軟磁性粉末についても、同様に、強度比E/Fを算出した。算出結果を表1に示す。
【0178】
【0179】
表1から明らかなように、各実施例のアモルファス合金軟磁性粉末では、いずれも、XANESスペクトルが有するピークの強度、および、動径分布関数が有するピークの強度比が、それぞれ所定の範囲内に収まっていた。これに対し、各比較例のアモルファス合金軟磁性粉末では、いずれも、これらの強度や強度比が所定の範囲から外れていた。
【0180】
6.2.アモルファス合金軟磁性粉末の結晶化度
また、得られたアモルファス合金軟磁性粉末について、X線回折装置により、結晶化度を測定した。測定結果を表2に示す。
【0181】
さらに、
図11には、サンプルNo.1(実施例)およびサンプルNo.15(比較例)のアモルファス合金軟磁性粉末について、X線回折装置で取得したX線回折プロファイルを示す。
図11に示すように、サンプルNo.1のアモルファス合金軟磁性粉末から取得されたX線回折プロファイルでは、ピークは認められず、十分な非晶質化が図られていることがわかった。これに対し、サンプルNo.15のアモルファス合金軟磁性粉末から取得されたX線回折プロファイルでは、ピークが認められたことから、結晶化が生じていることがわかった。
【0182】
6.3.アモルファス合金軟磁性粉末の粉末特性
次に、各実施例および各比較例で得られたアモルファス合金軟磁性粉末について、粒度分布測定を行った。なお、この測定は、レーザー回折方式の粒度分布測定装置である、日機装株式会社製マイクロトラック、HRA9320-X100により行った。そして、D10、D50、D90、および、(D90-D10)/D50をそれぞれ算出した。算出結果を表2に示す。
【0183】
また、各実施例および各比較例で得られたアモルファス合金軟磁性粉末について、見かけ密度ADおよびタップ密度TDを測定した。そして、見かけ密度ADを100としたときのタップ密度TDの相対値、すなわち見かけ密度に対するタップ密度の比を算出した。算出結果を表2に示す。
【0184】
6.4.アモルファス合金軟磁性粉末の保磁力
各実施例および各比較例で得られたアモルファス合金軟磁性粉末について、保磁力を測定した。測定結果を表2に示す。
【0185】
6.5.磁性素子の透磁率
各実施例および各比較例で得られた圧粉磁心を用い、以下の作製条件に基づいて磁性素子を作製した。
【0186】
・導線の構成材料:Cu
・導線の線径 :0.6mm
・巻き数(透磁率測定時) :7ターン
・巻き数(コアロス測定時):1次側36ターン、2次側36ターン
【0187】
次に、作製した磁性素子について、インピーダンスアナライザーを用い、周波数100kHzにおける透磁率を測定した。そして、得られた透磁率を、以下の評価基準に照らして評価した。
【0188】
A:透磁率が20以上である
B:透磁率が17以上20未満である
C:透磁率が14以上17未満である
D:透磁率が14未満である
評価結果を表2に示す。
【0189】
【0190】
表2に示すように、各実施例で得られたアモルファス合金軟磁性粉末は、各比較例で得られたアモルファス合金軟磁性粉末に比べて、透磁率が高く、かつ、保磁力が低いことが認められた。また、各実施例で得られたアモルファス合金軟磁性粉末は、各比較例で得られたアモルファス合金軟磁性粉末に比べて、結晶化度が低いことが認められた。
【0191】
以上のことから、XAFS測定の結果が所定の条件を満たすことにより、十分に非晶質化が図られ、高透磁率と低保磁力とを両立するアモルファス合金軟磁性粉末が得られることがわかった。
【0192】
また、(D90-D10)/D50、および、見かけ密度に対するタップ密度の比を、それぞれ最適化することにより、磁性素子の透磁率を高め得ることもわかった。
【0193】
さらに、各実施例のアモルファス合金軟磁性粉末におけるPの含有率は、0.0050質量%以上0.0150質量%以下の範囲内であり、かつ、比S/Pは、0.2以上0.8以下の範囲内であった。これに対し、各比較例のアモルファス合金軟磁性粉末では、比S/Pが0.2以上0.8以下の範囲から外れていた。これらの微量元素も、実施例と比較例の特性差に影響していると考えられる。なお、表1には、各実施例および各比較例についての比S/Pを示している。
1…冷却用筒体、2…蓋体、3…開口部、4…冷却液噴出管、5…吐出口、7…ポンプ、8…タンク、9…冷却液層、10…コイル部品、11…圧粉磁心、12…導線、13…冷却液回収カバー、14…排液口、15…坩堝、17…液切り用網体、18…粉末回収容器、20…コイル部品、21…圧粉磁心、22…導線、23…空間部、24…ジェットノズル、25…溶融金属、26…ガスジェット、27…ガス供給管、30…粉末製造装置、100…表示部、1000…磁性素子、1100…パーソナルコンピューター、1102…キーボード、1104…本体部、1106…表示ユニット、1200…スマートフォン、1202…操作ボタン、1204…受話口、1206…送話口、1300…ディジタルスチルカメラ、1302…ケース、1304…受光ユニット、1306…シャッターボタン、1308…メモリー、st1…第1吸収端構造、st2…第1連続帯構造、st3…第2吸収端構造、st4…第2連続帯構造