(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024164395
(43)【公開日】2024-11-27
(54)【発明の名称】蓄電デバイス用負極、及び蓄電デバイス
(51)【国際特許分類】
H01M 4/13 20100101AFI20241120BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20241120BHJP
H01G 11/06 20130101ALI20241120BHJP
H01G 11/38 20130101ALI20241120BHJP
H01G 11/26 20130101ALI20241120BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/62 Z
H01G11/06
H01G11/38
H01G11/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023079842
(22)【出願日】2023-05-15
(71)【出願人】
【識別番号】322004083
【氏名又は名称】株式会社ENEOSマテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100168860
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 充史
(72)【発明者】
【氏名】本多 達朗
【テーマコード(参考)】
5E078
5H050
【Fターム(参考)】
5E078AA01
5E078AA03
5E078AA05
5E078AA10
5E078AB02
5E078AB06
5E078BA06
5E078BA42
5E078BA49
5E078BA62
5H050AA07
5H050AA08
5H050BA17
5H050CA08
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050CB29
5H050DA03
5H050DA11
5H050EA28
5H050FA02
5H050HA01
5H050HA05
(57)【要約】
【課題】負極集電体と負極合材層との接着力及び活物質同士の結着力を向上させることにより、電極膨張を効果的に抑制させ、かつ、電極の内部抵抗を低減させることができる蓄電デバイス用負極を提供する。
【解決手段】本発明に係る蓄電デバイス用負極は、負極集電体と、前記負極集電体上に形成された負極合材層とを備え、前記負極合材層は、前記負極集電体上に形成された第1層と、前記第1層上に形成された第2層とを含み、前記第1層は、第1負極活物質と、重合体(A)とを含み、前記重合体(A)中に含まれる繰り返し単位の合計を100質量%としたときに、前記重合体(A)が、不飽和カルボン酸に由来する繰り返し単位(a1)を5質量%以上、20質量%以下含有し、前記第2層は、第2負極活物質と、重合体(B)とを含み、前記重合体(B)中に含まれる繰り返し単位の合計を100質量%としたときに、前記重合体(B)が、不飽和カルボン酸に由来する繰り返し単位(a1)を0.1質量%以上、5質量%未満含有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極集電体と、前記負極集電体上に形成された負極合材層と、を備え、
前記負極合材層は、前記負極集電体上に形成された第1層と、前記第1層上に形成された第2層と、を含み、
前記第1層は、第1負極活物質と、重合体(A)と、を含み、
前記重合体(A)中に含まれる繰り返し単位の合計を100質量%としたときに、前記重合体(A)が、不飽和カルボン酸に由来する繰り返し単位(a1)を5質量%以上、20質量%以下含有し、
前記第2層は、第2負極活物質と、重合体(B)と、を含み、
前記重合体(B)中に含まれる繰り返し単位の合計を100質量%としたときに、前記重合体(B)が、不飽和カルボン酸に由来する繰り返し単位(a1)を0.1質量%以上、5質量%未満含有する、蓄電デバイス用負極。
【請求項2】
前記重合体(A)中に含まれる繰り返し単位の合計を100質量%としたときに、前記重合体(A)が、芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位(a3)を1質量%以上、20質量%未満含有し、
前記重合体(B)中に含まれる繰り返し単位の合計を100質量%としたときに、前記重合体(B)が、芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位(a3)を20質量%以上、40質量%未満含有する、請求項1に記載の蓄電デバイス負極。
【請求項3】
前記重合体(A)中に含まれる繰り返し単位の合計を100質量%としたときに、前記重合体(A)が、共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位(a2)を15質量%以上、60質量%以下含有し、
前記重合体(B)中に含まれる繰り返し単位の合計を100質量%としたときに、前記重合体(B)が、共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位(a2)を15質量%以上、60質量%以下含有する、請求項1または請求項2に記載の蓄電デバイス負極。
【請求項4】
前記重合体(A)中に含まれる繰り返し単位の合計を100質量%としたときに、前記重合体(A)が、不飽和カルボン酸エステルに由来する繰り返し単位(a4)を1質量%以上、20質量%以下含有し、
前記重合体(B)中に含まれる繰り返し単位の合計を100質量%としたときに、前記重合体(B)が、不飽和カルボン酸エステルに由来する繰り返し単位(a4)を1質量%以上、20質量%以下含有する、請求項1または請求項2に記載の蓄電デバイス負極。
【請求項5】
前記重合体(A)中に含まれる繰り返し単位の合計を100質量%としたときに、前記重合体(A)が、α,β-不飽和ニトリル化合物に由来する繰り返し単位(a5)を5質量%以上、40質量%以下含有し、
前記重合体(B)中に含まれる繰り返し単位の合計を100質量%としたときに、前記重合体(B)が、α,β-不飽和ニトリル化合物に由来する繰り返し単位(a5)を5質量%以上、40質量%以下含有する、請求項1または請求項2に記載の蓄電デバイス負極。
【請求項6】
前記重合体(A)及び前記重合体(B)がそれぞれ粒子であり、
前記重合体(A)の粒子の数平均粒子径が150nm以上、300nm以下であり、
前記重合体(B)の粒子の数平均粒子径が50nm以上、150nm未満である、請求項1または請求項2に記載の蓄電デバイス用負極。
【請求項7】
請求項1または請求項2に記載の蓄電デバイス用負極を備える蓄電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電デバイス用負極、及び該負極を備える蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
モバイル機器に関する技術開発と需要の増加に伴い、エネルギー源としての二次電池の需要が急激に増加している。このような二次電池の中でも、高いエネルギー密度と電圧を有するリチウムイオン二次電池が商用化されている。
【0003】
現在、リチウムイオン二次電池の各種課題を克服するため、リチウムイオン二次電池に用いられる電極を多層化し、各層は互いに異なる物性を有する技術が検討されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の蓄電デバイス用負極においては、リチウムイオン吸蔵量が大きく、しかもリチウムイオンの吸蔵・放出に伴う体積変化が大きいケイ素材料に代表される新たな活物質を実用化するにあたり密着性が十分とは言えなかった。このような蓄電デバイス用負極では、充放電を繰り返すことにより負極活物質が脱落するなどして電極が劣化するため、実用化に必要な耐久性が十分に得られないという課題があった。
【0006】
本発明に係る幾つかの態様は、負極集電体と負極合材層との接着力及び活物質同士の結着力を向上させることにより、電極膨張を効果的に抑制させ、かつ、電極の内部抵抗を低減させることができる蓄電デバイス用負極を提供するものである。また、本発明に係る幾つかの態様は、かかる蓄電デバイス負極を備えることにより、容量及びサイクル特性を向上させた蓄電デバイスを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下のいずれかの態様として実現することができる。
【0008】
本発明に係る蓄電デバイス用負極の一態様は、
負極集電体と、前記負極集電体上に形成された負極合材層と、を備え、
前記負極合材層は、前記負極集電体上に形成された第1層と、前記第1層上に形成された第2層と、を含み、
前記第1層は、第1負極活物質と、重合体(A)と、を含み、
前記重合体(A)中に含まれる繰り返し単位の合計を100質量%としたときに、前記重合体(A)が、不飽和カルボン酸に由来する繰り返し単位(a1)を5質量%以上、20質量%以下含有し、
前記第2層は、第2負極活物質と、重合体(B)と、を含み、
前記重合体(B)中に含まれる繰り返し単位の合計を100質量%としたときに、前記重合体(B)が、不飽和カルボン酸に由来する繰り返し単位(a1)を0.1質量%以上、5質量%未満含有する。
【0009】
前記蓄電デバイス用負極の一態様において、
前記重合体(A)中に含まれる繰り返し単位の合計を100質量%としたときに、前記重合体(A)が、芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位(a3)を1質量%以上、20質量%未満含有し、
前記重合体(B)中に含まれる繰り返し単位の合計を100質量%としたときに、前記重合体(B)が、芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位(a3)を20質量%以上、40質量%未満含有してもよい。
【0010】
前記蓄電デバイス用負極のいずれかの態様において、
前記重合体(A)中に含まれる繰り返し単位の合計を100質量%としたときに、前記重合体(A)が、共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位(a2)を15質量%以上、60質量%以下含有し、
前記重合体(B)中に含まれる繰り返し単位の合計を100質量%としたときに、前記重合体(B)が、共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位(a2)を15質量%以上、60質量%以下含有してもよい。
【0011】
前記蓄電デバイス用負極のいずれかの態様において、
前記重合体(A)中に含まれる繰り返し単位の合計を100質量%としたときに、前記重合体(A)が、不飽和カルボン酸エステルに由来する繰り返し単位(a4)を1質量%以上、20質量%以下含有し、
前記重合体(B)中に含まれる繰り返し単位の合計を100質量%としたときに、前記重合体(B)が、不飽和カルボン酸エステルに由来する繰り返し単位(a4)を1質量%以上、20質量%以下含有してもよい。
【0012】
前記蓄電デバイス用負極のいずれかの態様において、
前記重合体(A)中に含まれる繰り返し単位の合計を100質量%としたときに、前記重合体(A)が、α,β-不飽和ニトリル化合物に由来する繰り返し単位(a5)を5質量%以上、40質量%以下含有し、
前記重合体(B)中に含まれる繰り返し単位の合計を100質量%としたときに、前記重合体(B)が、α,β-不飽和ニトリル化合物に由来する繰り返し単位(a5)を5質量%以上、40質量%以下含有してもよい。
【0013】
前記蓄電デバイス用負極のいずれかの態様において、
前記重合体(A)及び前記重合体(B)がそれぞれ粒子であり、
前記重合体(A)の粒子の数平均粒子径が150nm以上、300nm以下であり、
前記重合体(B)の粒子の数平均粒子径が50nm以上、150nm未満であってもよい。
【0014】
本発明に係る蓄電デバイスの一態様は、
前記いずれかの態様の蓄電デバイス用負極を備える。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る蓄電デバイス用負極によれば、負極合材層におけるレベリング性の向上により負極集電体と負極合材層との接着力が向上するので電極膨張を効果的に抑制することができ、かつ、活物質同士の結着力が向上するので電極の内部抵抗を低減させることができる。その結果、蓄電デバイスの容量及びサイクル特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態に係る蓄電デバイス用負極の構造を模式的に示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、下記に記載された実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形例も含むものとして理解されるべきである。
【0018】
本明細書において、「(メタ)アクリル酸~」とは、「アクリル酸~」又は「メタクリル酸~」を表し、「~(メタ)アクリレート」とは、「~アクリレート」又は「~メタクリレート」を表す。
【0019】
本明細書において、「X~Y」のように記載された数値範囲は、数値Xを下限値として含み、かつ、数値Yを上限値として含むものとして解釈される。
【0020】
1.蓄電デバイス用負極
図1は、本発明の一実施形態に係る蓄電デバイス用負極100の構造を模式的に示す断面図である。
図1に示すように、本実施形態に係る蓄電デバイス用負極100は、負極集電体10と、負極集電体10上に形成された負極合材層20とを備える。負極合材層20は、負極集電体10上に形成された第1層20aと、第1層20a上に形成された第2層20bとを含む。第1層20aは、第1負極活物質と、重合体(A)とを含み、前記重合体(A)中に含まれる繰り返し単位の合計を100質量%としたときに、前記重合体(A)が、不飽和カルボン酸に由来する繰り返し単位(a1)を5質量%以上、20質量%以下含有する。第2層20bは、第2負極活物質と、重合体(B)とを含み、前記重合体(B)中に含まれる繰り返し単位の合計を100質量%としたときに、前記重合体(B)が、不飽和カルボン酸に由来する繰り返し単位(a1)を0.1質量%以上、5質量%未満含有する。
【0021】
なお、
図1は、本発明の一実施形態を説明するための一例にすぎず、本発明がこれに限定されるものではない。以下、本実施形態に係る蓄電デバイス用負極について詳細に説明する。
【0022】
1.1.負極集電体
負極集電体10としては、銅箔、ニッケル箔、ステンレス鋼箔、チタン箔、ニッケル発泡体、銅発泡体、伝導性金属がコーティングされたポリマー基材、及びこれらの組み合わせからなる群から選択されるものが使用できる。これらの中でも、銅箔、銅発泡体が好ましい。
【0023】
負極集電体10の厚さは、好ましくは1μm~50μmであり、より好ましくは5μm~30μmであり、特に好ましくは8μm~20μmである。
【0024】
1.2.負極合材層
負極合材層20は、負極集電体10上に形成された第1層20aと、第1層20a上に形成された第2層20bとを含む。
【0025】
本実施形態に係る蓄電デバイス用負極100は、負極集電体10上に、第1負極活物質及び重合体(A)を含む第1層20aを形成するステップ(ステップ1)と、前記第1層20a上に、第2負極活物質及び重合体(B)を含む第2層20bを形成するステップ(ステップ2)と、を含む方法により製造されることができる。
【0026】
ステップ1は、負極集電体10上に第1層20aを形成するステップである。第1層20aは、負極集電体10上に、第1負極活物質及び重合体(A)を液状媒体中に溶解又は
分散させることによって製造された第1蓄電デバイス負極用スラリーをコーティングして乾燥するか、又は、第1蓄電デバイス負極用スラリーを別の支持体上にコーティングした後、この支持体から剥離して得た第1蓄電デバイス負極用スラリーのフィルムを負極集電体10上にラミネートすることにより形成される。
【0027】
負極集電体10上に第1蓄電デバイス負極用スラリーをコーティングする工程は、常法により行われることができ、具体的には、バーコーティング、キャスティング、又は噴霧などの方法により行われることができる。
【0028】
また、第1蓄電デバイス負極用スラリーをコーティングした後に乾燥する工程は、スラリー中に含まれた液状媒体を除去するための工程であって、熱風乾燥、自然乾燥、又は加熱などの通常の乾燥方法により行われることができる。
【0029】
次に、ステップ2は、前記ステップ1で形成された第1層20a上に、第2負極活物質及び重合体(B)を含む第2層20bを形成するステップである。第2層20bは、第1層20a上に、第2負極活物質及び重合体(B)を液状媒体中に溶解又は分散させることによって製造された第2蓄電デバイス負極用スラリーをコーティングして乾燥するか、又は、第2蓄電デバイス負極用スラリーを別の支持体上にコーティングした後、この支持体から剥離して得たフィルムを第1層20a上にラミネートすることにより形成される。
【0030】
上述の構成を有する負極合材層20は、第1層20a及び第2層20bの全厚さに対する第1層20aの厚さ比が0.5以下であってもよい。第1層20aの厚さ比が0.5以下である場合、第1層20aの重合体(A)のマイグレーションを抑制でき、負極集電体10と第1負極活物質との密着性が低下することを防ぐことができる。重合体(A)の移動の減少、及びそれによる負極集電体10と第1負極活物質との密着性の改善効果の顕著性を考慮すると、第1層20a及び第2層20bの全厚さに対する第1層20aの厚さ比は、好ましくは0.1~0.5であり、より好ましくは0.1~0.4である。
【0031】
また、上述の厚さ比の範囲を満たす条件下で、第1層20aの平均厚さは10μm~1000μmであってもよい。第1層20aが前記範囲内の厚さを有する場合、第1層20aの重合体(A)のマイグレーションを減少させることができ、少量のバインダーを用いて負極集電体10と第1負極活物質との密着性及び蓄電デバイスの性能をともに向上させることができる。重合体(A)の移動の減少、及びそれによる負極集電体10と第1負極活物質との密着性の改善効果の顕著性を考慮すると、第1層20aの平均厚さは、好ましくは20μm~500μmである。
【0032】
本実施形態に係る蓄電デバイス用負極の負極合材層20において、第1層20aは、相対的に酸量が多い重合体(A)を含有し、第2層20bは、相対的に酸量が少ない重合体(B)を含有している。第1層20aを形成する際に用いられる第1蓄電デバイス負極用スラリーは、相対的に酸量が多い重合体(A)を含有するので粘性が高くなり、塗工乾燥時に第1層20a表面の平滑性(レベリング性)が劣る場合がある。一方、第2層20bを形成する際に用いられる第2蓄電デバイス負極用スラリーは、相対的に酸量が少ない重合体(B)を含有するので粘性が低くなり、塗工性が良好となるため、負極合材層20の平滑性(レベリング性)を改善することができる。このように、第2蓄電デバイス負極用スラリーの塗工性が良好となることで、負極集電体10と負極合材層20との密着性に優れ、蓄電デバイス用負極のサイクル特性を向上させることができるものと考えられる。特に第1層20aに含まれる重合体(A)の使用によって、第1負極活物質と導電助剤、及び第1負極活物質同士の結着性を助ける役割を担うことができ、蓄電デバイス用負極の内部抵抗を減少させることができる。
【0033】
第2層20b中の重合体(B)の含有量は、第2層20bの総質量に対して、好ましくは1質量%~20質量%である。重合体(B)が第2層20b中に前記範囲内の量で含まれることで、電解液に対する含浸性に優れるとともに、第2層20b中における負極活物質同士の密着性に優れるため、第2層20b内の電気伝導度及びエネルギー密度などを向上させることができる。第2層20b中に重合体(B)が含まれることによる密着性の向上、並びに負極内の電気伝導度及びエネルギー密度の改善効果の顕著性を考慮すると、重合体(B)の含有量は、第2層20bの総質量に対して、好ましくは1質量%~10質量%であり、より好ましくは1質量%~7質量%である。
【0034】
上記のような構成を有する第2層20bは、第1層20aの平均厚さに対する厚さ比が1を超える平均厚さを有してもよい。負極内の厚さによって要求されるバインダーの特性を最適化することによる改善効果の顕著性を考慮すると、第1層20aと第2層20bとの厚さ比は、好ましくは1~3:5~9である。
【0035】
また、上述の厚さ比の範囲を満たす条件下で、第2層20bの平均厚さは、好ましくは10μm~1000μmであり、より好ましくは20μm~500μmであり、特に好ましくは30μm~300μmである。
【0036】
本実施形態に係る蓄電デバイス用負極は、第1層20a及び第2層20bの全厚さに対する第1層20aの厚さ比が0.1~0.5であり、第1層20aの厚さと第2層20bの厚さとの比が1~3:5~9であってもよい。
【0037】
上述のような本実施形態に係る蓄電デバイス用負極において、第1層20a及び第2層20b中に含まれる第1負極活物質及び第2負極活物質の総ローディング量は、好ましくは50mg/25cm2~1000mg/25cm2であり、より好ましくは50mg/25cm2~500mg/25cm2である。
【0038】
また、本実施形態に係る蓄電デバイス用負極は、粒子状の第1負極活物質及び第2負極活物質とともに、重合体(A)及び重合体(B)を含むことで、それぞれの活物質層内に微細気孔が形成されていてもよい。具体的には、本実施形態に係る蓄電デバイス用負極は、第1層20a及び第2層20bの総体積に対して、好ましくは10体積%~50体積%、より好ましくは20体積%~40体積%の気孔度を有することができる。
【0039】
本発明において、気孔度は、BET(Brunauer-Emmett-Teller)測定法又は水銀ポロシメトリー法(Hg porosimetry)によって測定することができる。
【0040】
以下、上述の第1及び第2蓄電デバイス負極用スラリーについて詳細に説明する。
【0041】
1.2.1.第1蓄電デバイス負極用スラリー
第1蓄電デバイス負極用スラリーは、重合体(A)と、第1負極活物質とを含有する。
【0042】
1.2.1.1.重合体(A)
重合体(A)は、第1負極活物質同士の結合能力、負極集電体と第1層との密着能力、及び第2層と第1層との密着能力を発現するためのバインダーとして機能する。第1蓄電デバイス負極用スラリーに含まれる重合体(A)は、液状媒体中に分散されたラテックス状であってもよいし、液状媒体中に溶解された状態であってもよいが、液状媒体中に分散されたラテックス状であることが好ましい。重合体(A)が液状媒体中に分散されたラテックス状であると、第1蓄電デバイス負極用スラリーの安定性が良好となり、該スラリーの負極集電体10への塗布性が良好となるため好ましい。
【0043】
第1蓄電デバイス負極用スラリー中の重合体成分の含有割合は、第1負極活物質100質量部に対し、好ましくは1~8質量部であり、より好ましくは1~7質量部であり、特に好ましくは1.5~6質量部である。重合体成分の含有割合が前記範囲内にあると、スラリー中の第1負極活物質の分散性が良好となり、スラリーの塗布性も優れたものとなる。ここで、重合体成分には、重合体(A)、必要に応じて添加される重合体(A)以外の重合体、及び増粘剤等が含まれる。以下、重合体(A)を構成する繰り返し単位、重合体(A)の物性、製造方法の順に説明する。
【0044】
<重合体(A)を構成する繰り返し単位>
重合体(A)は、該重合体(A)中に含まれる繰り返し単位の合計を100質量%としたときに、不飽和カルボン酸に由来する繰り返し単位(a1)(以下、単に「繰り返し単位(a1)」ともいう。)を5質量%以上、20質量%以下含有する。繰り返し単位(a1)の含有割合は、好ましくは6質量%以上であり、より好ましくは7質量%以上である。繰り返し単位(a1)の含有割合は、好ましくは19質量%以下であり、より好ましくは18質量%以下である。重合体(A)が繰り返し単位(a1)を前記範囲内で含有することにより、スラリー中の粘度を上昇させ、マイグレーションを抑制することができる。また、負極集電体と第1層との密着性を向上させることができる。
【0045】
不飽和カルボン酸としては、特に限定されないが、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の、モノカルボン酸及びジカルボン酸(無水物を含む。)を挙げることができ、これらの中から選択される1種以上を使用することができる。不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸から選択される1種以上を使用することが好ましい。
【0046】
重合体(A)は、繰り返し単位(a1)の他に、それと共重合可能な他の単量体に由来する繰り返し単位を含有してもよい。このような繰り返し単位としては、例えば、共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位(a2)(以下、単に「繰り返し単位(a2)」ともいう。)、芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位(a3)(以下、単に「繰り返し単位(a3)」ともいう。)、不飽和カルボン酸エステルに由来する繰り返し単位(a4)(以下、単に「繰り返し単位(a4)」ともいう。)、α,β-不飽和ニトリル化合物に由来する繰り返し単位(a5)(以下、単に「繰り返し単位(a5)」ともいう。)、(メタ)アクリルアミドに由来する繰り返し単位(a6)(以下、単に「繰り返し単位(a6)」ともいう。)、スルホン酸基を有する化合物に由来する繰り返し単位(a7)(以下、単に「繰り返し単位(a7)」ともいう。)等が挙げられる。
【0047】
共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位(a2)の含有割合は、重合体(A)中に含まれる繰り返し単位の合計を100質量%としたときに、15質量%以上、60質量%以下であることが好ましい。繰り返し単位(a2)の含有割合は、より好ましくは17質量%以上であり、特に好ましくは20質量%以上である。繰り返し単位(a2)の含有割合は、より好ましくは57質量%以下であり、特に好ましくは55質量%以下である。重合体(A)が繰り返し単位(a2)を前記範囲内で含有することにより、第1負極活物質の分散性が良好となり、均質な第1層の作製が可能となるため、電極板の構造欠陥がなくなり、良好な繰り返し充放電特性を示す場合がある。また、第1負極活物質の表面を被覆した重合体(A)に伸縮性を付与することができ、重合体(A)が伸縮することで密着性を向上できるので、良好な充放電耐久特性を示す場合がある。
【0048】
共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位(a2)は、油層水素化法又は水層水素化法により水素化されていないものであることが好ましい。重合体(A)が水素化されていない共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位(a2)を含有することにより、重合体(A
)に伸縮性を付与することができ、重合体(A)が伸縮することで密着性をより向上できる場合がある。
【0049】
共役ジエン化合物としては、特に限定されないが、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2-クロロ-1,3-ブタジエン等を挙げることができ、これらの中から選択される1種以上を使用することができる。これらの中でも、1,3-ブタジエンが特に好ましい。
【0050】
芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位(a3)の含有割合は、重合体(A)中に含まれる繰り返し単位の合計を100質量%としたときに、1質量%以上、20質量%未満であることが好ましい。繰り返し単位(a3)の含有割合は、より好ましくは2質量%以上であり、特に好ましくは3質量%以上である。繰り返し単位(a3)の含有割合は、より好ましくは19質量%以下であり、特に好ましくは18質量%以下である。重合体(A)が繰り返し単位(a3)を前記範囲内で含有することにより、電極中に分散された重合体(A)同士の融着を抑制し、電解液の浸透性を向上させるため、繰り返し充放電特性が向上する場合がある。さらに、第1負極活物質として用いられ得るグラファイト等に対して良好な密着性を示す場合がある。
【0051】
芳香族ビニル化合物としては、特に限定されないが、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ビニルトルエン、クロロスチレン、ジビニルベンゼン等を挙げることができ、これらの中から選択される1種以上を使用することができる。
【0052】
重合体(A)中に含まれる繰り返し単位の合計を100質量%としたときに、繰り返し単位(a1)、繰り返し単位(a2)及び繰り返し単位(a3)の合計量は、50質量%以上であることが好ましく、55質量%以上であることがより好ましい。繰り返し単位(a1)、繰り返し単位(a2)及び繰り返し単位(a3)の合計量が前記範囲内であると、第1負極活物質の分散性が良好となり、かつ、電極中に分散された重合体(A)同士の融着を抑制でき、密着性や電解液の浸透性が向上するため、良好な繰り返し充放電特性かつ良好な充放電耐久特性を示す場合がある。
【0053】
不飽和カルボン酸エステルに由来する繰り返し単位(a4)の含有割合は、重合体(A)中に含まれる繰り返し単位の合計を100質量%としたときに、1質量%以上、20質量%以下であることが好ましい。繰り返し単位(a4)の含有割合は、より好ましくは2質量%以上であり、特に好ましくは3質量%以上である。繰り返し単位(a4)の含有割合は、より好ましくは18質量%以下であり、特に好ましくは15質量%以下である。重合体(A)が繰り返し単位(a4)を前記範囲内で含有することにより、重合体(A)と電解液との親和性が良好となり、蓄電デバイス中でバインダーが電気抵抗成分となることによる内部抵抗の上昇を抑制するとともに、電解液を過大に吸収することによる密着性の低下を防ぐことができる場合がある。
【0054】
不飽和カルボン酸エステルの中でも、(メタ)アクリル酸エステルを好ましく使用することができる。(メタ)アクリル酸エステルの具体例としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸n-アミル、(メタ)アクリル酸イソアミル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、ジ(メタ)アクリル酸エチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸プロピレングリコール、トリ(メタ)アクリル酸トリメチロールプロパン、テトラ(メタ)アクリル酸ペンタエリスリトール、ヘキサ(メタ)アクリル酸ジペンタエリスリトール、(メタ)アク
リル酸アリル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシメチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸5-ヒドロキシペンチル、(メタ)アクリル酸6-ヒドロキシヘキシル、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート等が挙げられ、これらの中から選択される1種以上を使用することができる。中でも、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、ジ(メタ)アクリル酸エチレングリコール及び(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチルから選択される1種以上であることが好ましく、(メタ)アクリル酸メチルであることが特に好ましい。
【0055】
α,β-不飽和ニトリル化合物に由来する繰り返し単位(a5)の含有割合は、重合体(A)中に含まれる繰り返し単位の合計を100質量%としたときに、5質量%以上、40質量%以下であることが好ましい。繰り返し単位(a5)の含有割合は、より好ましくは7質量%以上であり、特に好ましくは10質量%以上である。繰り返し単位(a5)の含有割合は、より好ましくは35質量%以下であり、特に好ましくは30質量%以下である。重合体(A)が繰り返し単位(a5)を前記範囲内で含有することにより、該重合体(A)の電解液への溶解を低減することが可能となり、電解液による密着性の低下を抑制できる場合がある。また、蓄電デバイス中で溶解した重合体成分が電気抵抗成分となることによる内部抵抗の上昇を抑制できる場合がある。
【0056】
α,β-不飽和ニトリル化合物としては、特に限定されないが、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α-クロロアクリロニトリル、α-エチルアクリロニトリル、シアン化ビニリデン等を挙げることができ、これらの中から選択される1種以上を使用することができる。これらの中でも、アクリロニトリル及びメタクリロニトリルよりなる群から選択される1種以上が好ましく、アクリロニトリルが特に好ましい。
【0057】
(メタ)アクリルアミドに由来する繰り返し単位(a6)の含有割合は、重合体(A)中に含まれる繰り返し単位の合計を100質量%としたときに、0~10質量%であることが好ましい。繰り返し単位(a6)の含有割合は、より好ましくは1質量%以上であり、特に好ましくは2質量%以上である。繰り返し単位(a6)の含有割合は、好ましくは8質量%以下であり、より好ましくは5質量%以下である。重合体(A)が繰り返し単位(a6)を前記範囲内で含有することにより、スラリー中の第1負極活物質の分散性が良好となる場合がある。また、得られる第1層の柔軟性が適度となり、負極集電体と第1層との密着性が向上する場合がある。さらに、グラファイトのような炭素材料やケイ素材料を含有する第1負極活物質同士の結合能力を高めることができるため、柔軟性や負極集電体に対する密着性がより良好な第1層が得られる場合がある。
【0058】
(メタ)アクリルアミドとしては、特に限定されないが、アクリルアミド、メタクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジメチルメタクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、N,N-ジエチルメタクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、N-メチロールメタクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、マレイン酸アミド、アクリルアミドtert-ブチルスルホン酸等を挙げることができ、これらの中から選択される1種以上を使用することができる。
【0059】
スルホン酸基を有する化合物に由来する繰り返し単位(a7)の含有割合は、重合体(A)中に含まれる繰り返し単位の合計を100質量%としたときに、0~10質量%であることが好ましい。繰り返し単位(a7)の含有割合は、より好ましくは0.5質量%以
上であり、特に好ましくは1質量%以上である。繰り返し単位(a7)の含有割合は、より好ましくは8質量%以下であり、特に好ましくは5質量%以下である。
【0060】
スルホン酸基を有する化合物としては、特に限定されないが、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、スルホエチル(メタ)アクリレート、スルホプロピル(メタ)アクリレート、スルホブチル(メタ)アクリレート、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-ヒドロキシ-3-アクリルアミドプロパンスルホン酸、3-アリロキシ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸等の化合物、及びこれらのアルカリ塩等が挙げられ、これらの中から選択される1種以上を使用することができる。
【0061】
<重合体(A)の物性>
(数平均粒子径)
重合体(A)が液状媒体中に分散されたラテックス状(粒子)である場合、該粒子の数平均粒子径は、好ましくは150nm以上300nm以下であり、より好ましくは150nm以上290nm以下であり、特に好ましくは150nm以上280nm以下である。重合体(A)の粒子の数平均粒子径が前記範囲内にあると、液状媒体との接触面積を小さくすることができ、第1負極活物質の表面に重合体(A)の粒子が吸着しやすくなるので、第1負極活物質の移動に伴って重合体(A)の粒子も追従して移動することができる。その結果、マイグレーションすることを抑制できるので、電気的特性の劣化を低減できる場合がある。
【0062】
なお、重合体(A)の粒子の数平均粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)により観察された粒子50個の画像より得られる粒子径の平均値である。透過型電子顕微鏡としては、例えば株式会社日立ハイテク製の「H-7650」等が挙げられる。
【0063】
<重合体(A)の製造方法>
重合体(A)の製造方法は、特に限定されないが、例えば公知の乳化剤(界面活性剤)、連鎖移動剤、重合開始剤などの存在下で行う乳化重合法によることができる。乳化剤(界面活性剤)、連鎖移動剤、及び重合開始剤としては、特許第5999399号公報等に記載された化合物を用いることができる。
【0064】
1.2.1.2.第1負極活物質
第1負極活物質としては、リチウムの可逆的な挿入及び脱離が可能な化合物を使用することができる。具体例としては、人造黒鉛、天然黒鉛、黒鉛化炭素繊維、非晶質炭素などの炭素質材料;Si、Al、Sn、Pb、Zn、Bi、In、Mg、Ga、Cd、Si合金、Sn合金、又はAl合金など、リチウムと合金化が可能な金属質化合物;SiOx(0<x<2)、SnO2、バナジウム酸化物、リチウムバナジウム酸化物など、リチウムをドープ及び脱ドープできる金属酸化物;Si-C複合体またはSn-C複合体のように、前記金属質化合物と炭素質材料とを含む複合物などが挙げられ、これらのうち何れか1つ又は2つ以上の混合物が使用可能である。
【0065】
上記例示した第1負極活物質の中でも金属質化合物及び/又は炭素質材料を含有するものであることが好ましく、ケイ素材料と炭素質材料の混合物であることがより好ましい。ケイ素材料は、単位重量当たりのリチウムの吸蔵量がその他の活物質と比較して大きいことから、得られる蓄電デバイスの蓄電容量を高めることができ、その結果、蓄電デバイスの出力及びエネルギー密度を高くすることができる。一方、炭素質材料は、充放電に伴う体積変化がケイ素材料よりも小さいので、負極活物質としてケイ素材料と炭素質材料の混合物を使用することにより、ケイ素材料の体積変化の影響を緩和することができ、負極集電体と負極合材層との密着性をより向上させることができる。
【0066】
シリコン(Si)を負極活物質として使用する場合、シリコンは、高容量である一方、リチウムを吸蔵する際に大きな体積変化を生じ得る。このため、ケイ素材料は膨張と収縮の繰り返しによって微粉化し、集電体からの剥離や、負極活物質同士の乖離を引き起こし、負極合材層内部の導電ネットワークが寸断されやすいという性質がある。この性質により、蓄電デバイスの充放電耐久特性が短時間で極端に劣化してしまうのである。
【0067】
本実施形態に係る蓄電デバイス用負極によれば、ケイ素材料を使用した場合でも上述のような問題が発生することなく、良好な電気的特性を示すことができる。この理由としては、重合体(A)がケイ素材料を強固に結着させることができると同時に、リチウムを吸蔵することによりケイ素材料が体積膨張しても重合体(A)が伸び縮みしてケイ素材料を強固に結着させた状態を維持できるからであると考えられる。
【0068】
第1負極活物質100質量%中に占めるケイ素材料の含有割合は、1質量%以上とすることが好ましく、2~50質量%とすることがより好ましく、3~45質量%とすることが更に好ましく、10~40質量%とすることが特に好ましい。第1負極活物質100質量%中に占めるケイ素材料の含有割合が前記範囲内にあると、蓄電デバイスの出力及びエネルギー密度の向上と充放電耐久特性とのバランスに優れた蓄電デバイスが得られる。
【0069】
第1負極活物質の形状は、粒子状であることが好ましい。第1負極活物質の平均粒子径は、0.1~100μmであることが好ましく、1~20μmであることがより好ましい。
【0070】
1.2.1.3.その他の成分
第1蓄電デバイス負極用スラリーには、上述した成分以外に、必要に応じてその他の成分を添加してもよい。このような成分としては、例えば重合体(A)以外の重合体、増粘剤、液状媒体、導電助剤、pH調整剤、腐食防止剤、セルロースファイバー等が挙げられる。
【0071】
<重合体(A)以外の重合体>
第1蓄電デバイス負極用スラリーは、重合体(A)以外の重合体を含有してもよい。このような重合体としては、特に限定されないが、不飽和カルボン酸エステル又はこれらの誘導体を構成単位として含むアクリル系重合体、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)等のフッ素系重合体等が挙げられる。これらの重合体は、1種単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。これらの重合体を含有することにより、柔軟性や密着性がより向上する場合がある。
【0072】
<増粘剤>
第1蓄電デバイス負極用スラリーは、増粘剤を含有してもよい。増粘剤を含有することにより、スラリーの塗布性や得られる蓄電デバイスの充放電特性等をさらに向上できる場合がある。
【0073】
増粘剤の具体例としては、例えばカルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース化合物;ポリ(メタ)アクリル酸;前記セルロース化合物又は前記ポリ(メタ)アクリル酸のアンモニウム塩もしくはアルカリ金属塩;ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体等のポリビニルアルコール系(共)重合体;(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸等の不飽和カルボン酸とビニルエステルとの共重合体の鹸化物等の水溶性ポリマーを挙げることができる。これらの中でも、カルボキシメチルセルロースのアルカリ金属塩、ポリ(メタ)アクリル酸のアルカリ金属塩等が好ましい。
【0074】
これら増粘剤の市販品としては、例えばCMC1120、CMC1150、CMC2200、CMC2280、CMC2450(以上、株式会社ダイセル製)等のカルボキシメチルセルロースのアルカリ金属塩を挙げることができる。
【0075】
第1蓄電デバイス負極用スラリーが増粘剤を含有する場合、増粘剤の含有割合は、第1蓄電デバイス負極用スラリーの全固形分量100質量部に対して、5質量部以下であることが好ましく、0.1~3質量部であることがより好ましい。
【0076】
<液状媒体>
第1蓄電デバイス負極用スラリーは、液状媒体を含有する。液状媒体としては、水を含有する水系媒体であることが好ましく、水であることがより好ましい。前記水系媒体には、水以外の非水系媒体を含有させることができる。この非水系媒体としては、例えばアミド化合物、炭化水素、アルコール、ケトン、エステル、アミン化合物、ラクトン、スルホキシド、スルホン化合物などを挙げることができ、これらの中から選択される1種以上を使用することができる。第1蓄電デバイス負極用スラリーは、液状媒体として水系媒体を使用することにより、環境に対して悪影響を及ぼす程度が低くなり、取扱作業者に対する安全性も高くなる。
【0077】
水系媒体中に含まれる非水系媒体の含有割合は、水系媒体100質量%中、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、実質的に含有しないことが特に好ましい。ここで、「実質的に含有しない」とは、液状媒体として非水系媒体を意図的に添加しないという程度の意味であり、第1蓄電デバイス負極用スラリーを調製する際に不可避的に混入する非水系媒体を含んでいてもよい。
【0078】
第1蓄電デバイス負極用スラリーにおける液状媒体の含有割合は、スラリー中の固形分濃度(スラリー中の液状媒体以外の成分の合計質量がスラリーの全質量に占める割合をいう。以下同じ。)が、30~70質量%となる割合とすることが好ましく、40~60質量%となる割合とすることがより好ましい。
【0079】
<導電助剤>
第1蓄電デバイス負極用スラリーは、導電性を付与するとともに、リチウムイオンの出入りによる第1負極活物質の体積変化を緩衝させることを目的として、導電助剤を更に含有してもよい。
【0080】
導電助剤の具体例としては、活性炭、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、黒鉛、炭素繊維、フラーレン、カーボンナノチューブ等のカーボンが挙げられる。これらの中でも、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、又はカーボンナノチューブを好ましく使用することができる。導電助剤の含有割合は、第1負極活物質100質量部に対して、好ましくは20質量部以下であり、より好ましくは1~15質量部であり、特に好ましくは2~10質量部である。
【0081】
<pH調整剤>
第1蓄電デバイス負極用スラリーは、第1負極活物質の種類に応じて負極集電体の腐食を抑制することを目的として、pH調整剤を更に含有してもよい。
【0082】
pH調整剤としては、例えば塩酸、リン酸、硫酸、酢酸、ギ酸、リン酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、ギ酸アンモニウム、塩化アンモニウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等を挙げることができる。これらの中でも、硫酸、硫酸アンモニウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好ましい。
【0083】
<腐食防止剤>
第1蓄電デバイス負極用スラリーは、第1負極活物質の種類に応じて負極集電体の腐食を抑制することを目的として、腐食防止剤を更に含有してもよい。
【0084】
腐食防止剤としては、メタバナジン酸アンモニウム、メタバナジン酸ナトリウム、メタバナジン酸カリウム、メタタングステン酸アンモニウム、メタタングステン酸ナトリウム、メタタングステン酸カリウム、パラタングステン酸アンモニウム、パラタングステン酸ナトリウム、パラタングステン酸カリウム、モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウム等を挙げることができ、これらの中でもパラタングステン酸アンモニウム、メタバナジン酸アンモニウム、メタバナジン酸ナトリウム、メタバナジン酸カリウム、モリブデン酸アンモニウムが好ましい。
【0085】
<セルロースファイバー>
第1蓄電デバイス負極用スラリーは、セルロースファイバーを更に含有してもよい。セルロールファイバーとしては公知のものを用いることができる。セルロースファイバーを含有することにより、第1負極活物質の負極集電体に対する密着性を向上できる場合がある。繊維状のセルロースファイバーが線接着又は線接触によって隣接する第1負極活物質同士を繊維状結着させることにより、第1負極活物質の脱落を防止できるとともに、負極集電体に対する密着性を向上できると考えられる。
【0086】
1.2.1.4.第1蓄電デバイス負極用スラリーの調製方法
第1蓄電デバイス負極用スラリーは、重合体(A)及び第1負極活物質を含有するものである限り、どのような方法によって製造されたものであってもよい。より良好な分散性及び安定性を有するスラリーを、より効率的かつ安価に製造する観点から、上記<重合体(A)の製造方法>により製造された重合体(A)の分散液に、第1負極活物質及び必要に応じて用いられる任意添加成分を加え、これらを混合することにより製造することが好ましい。具体的な製造方法としては、例えば特許第5999399号公報等に記載された方法が挙げられる。
【0087】
1.2.2.第2蓄電デバイス負極用スラリー
第2蓄電デバイス負極用スラリーは、重合体(B)と、第2負極活物質とを含有する。
【0088】
1.2.2.1.重合体(B)
重合体(B)は、第2負極活物質同士の結合能力、第1層と第2層との密着能力を発現するためのバインダーとして機能する。第2蓄電デバイス負極用スラリーに含まれる重合体(B)は、液状媒体中に分散されたラテックス状であってもよいし、液状媒体中に溶解された状態であってもよいが、液状媒体中に分散されたラテックス状であることが好ましい。重合体(B)が液状媒体中に分散されたラテックス状であると、第2蓄電デバイス負極用スラリーの安定性が良好となり、該スラリーの第1層への塗布性が良好となるため好ましい。
【0089】
第2蓄電デバイス負極用スラリー中の重合体成分の含有割合は、第2負極活物質100質量部に対し、好ましくは1~8質量部であり、より好ましくは1~7質量部であり、特に好ましくは1.5~6質量部である。重合体成分の含有割合が前記範囲内にあると、スラリー中の第2負極活物質の分散性が良好となり、スラリーの塗布性も優れたものとなる。ここで、重合体成分には、重合体(B)、必要に応じて添加される重合体(B)以外の重合体、及び増粘剤等が含まれる。以下、重合体(B)を構成する繰り返し単位、重合体(B)の物性、製造方法の順に説明する。
【0090】
<重合体(B)を構成する繰り返し単位>
重合体(B)は、該重合体(B)中に含まれる繰り返し単位の合計を100質量%としたときに、不飽和カルボン酸に由来する繰り返し単位(a1)を0.1質量%以上、5質量%未満含有する。繰り返し単位(a1)の含有割合は、好ましくは0.2質量%以上であり、より好ましくは0.3質量%以上である。繰り返し単位(a1)の含有割合は、好ましくは4質量%以下であり、より好ましくは3質量%以下である。重合体(B)が繰り返し単位(a1)を前記範囲内で含有することにより、スラリーの粘度を低下させることができるので、塗工乾燥時に負極合材層表面の平滑性(レベリング性)が良好となり、負極合材層の厚みを均一にすることができる。また、重合体(A)と重合体(B)の重合体組成が類似しているので、第1層20aと第2層20bとの密着性を向上させることができる。不飽和カルボン酸としては、重合体(A)の説明で列挙した化合物の中から選択される1種以上を使用することができる。
【0091】
重合体(B)は、繰り返し単位(a1)の他に、それと共重合可能な他の単量体に由来する繰り返し単位を含有してもよい。このような繰り返し単位としては、例えば、共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位(a2)、芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位(a3)、不飽和カルボン酸エステルに由来する繰り返し単位(a4)、α,β-不飽和ニトリル化合物に由来する繰り返し単位(a5)、(メタ)アクリルアミドに由来する繰り返し単位(a6)、スルホン酸基を有する化合物に由来する繰り返し単位(a7)等が挙げられる。
【0092】
共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位(a2)の含有割合は、重合体(B)中に含まれる繰り返し単位の合計を100質量%としたときに、15質量%以上、60質量%以下であることが好ましい。繰り返し単位(a2)の含有割合は、より好ましくは17質量%以上であり、特に好ましくは20質量%以上である。繰り返し単位(a2)の含有割合は、より好ましくは57質量%以下であり、特に好ましくは55質量%以下である。重合体(B)が繰り返し単位(a2)を前記範囲内で含有することにより、第2負極活物質の分散性が良好となり、均質な負極合材層の作製が可能となるため、電極板の構造欠陥がなくなり、良好な繰り返し充放電特性を示す場合がある。また、第2負極活物質の表面を被覆した重合体(B)に伸縮性を付与することができ、重合体(B)が伸縮することで密着性を向上できるので、良好な充放電耐久特性を示す場合がある。共役ジエン化合物としては、重合体(A)の説明で列挙した化合物の中から選択される1種以上を使用することができる。
【0093】
共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位(a2)は、油層水素化法又は水層水素化法により水素化されていないものであることが好ましい。重合体(B)が水素化されていない共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位(a2)を含有することにより、重合体(B)に伸縮性を付与することができ、重合体(B)が伸縮することで密着性をより向上できる場合がある。
【0094】
芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位(a3)の含有割合は、重合体(B)中に含まれる繰り返し単位の合計を100質量%としたときに、20質量%以上、40質量%未満であることが好ましい。繰り返し単位(a3)の含有割合は、より好ましくは21質量%以上であり、特に好ましくは22質量%以上である。繰り返し単位(a3)の含有割合は、より好ましくは35質量%以下であり、特に好ましくは30質量%以下である。重合体(B)が繰り返し単位(a3)を前記範囲内で含有することにより、電極中に分散された重合体(B)同士の融着を抑制し、電解液の浸透性を向上させるため、繰り返し充放電特性が向上する場合がある。さらに、第2負極活物質として用いられるグラファイト等に対して良好な密着性を示す場合がある。芳香族ビニル化合物としては、重合体(A)の説明で列挙した化合物の中から選択される1種以上を使用することができる。
【0095】
重合体(A)中に含まれる繰り返し単位の合計を100質量%としたときに、繰り返し単位(a1)、繰り返し単位(a2)及び繰り返し単位(a3)の合計量は、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることが特に好ましい。繰り返し単位(a1)、繰り返し単位(a2)及び繰り返し単位(a3)の合計量が前記範囲内であると、第2負極活物質の分散性が良好となり、かつ、電極中に分散された重合体(B)同士の融着を抑制でき、密着性や電解液の浸透性が向上するため、良好な繰り返し充放電特性かつ良好な充放電耐久特性を示す場合がある。
【0096】
不飽和カルボン酸エステルに由来する繰り返し単位(a4)の含有割合は、重合体(B)中に含まれる繰り返し単位の合計を100質量%としたときに、1質量%以上、20質量%以下であることが好ましい。繰り返し単位(a4)の含有割合は、より好ましくは2質量%以上であり、特に好ましくは3質量%以上である。繰り返し単位(a4)の含有割合は、より好ましくは18質量%以下であり、特に好ましくは15質量%以下である。重合体(B)が繰り返し単位(a4)を前記範囲内で含有することにより、重合体(B)と電解液との親和性が良好となり、蓄電デバイス中でバインダーが電気抵抗成分となることによる内部抵抗の上昇を抑制するとともに、電解液を過大に吸収することによる密着性の低下を防ぐことができる場合がある。不飽和カルボン酸エステルとしては、重合体(A)の説明で列挙した化合物の中から選択される1種以上を使用することができる。
【0097】
α,β-不飽和ニトリル化合物に由来する繰り返し単位(a5)の含有割合は、重合体(B)中に含まれる繰り返し単位の合計を100質量%としたときに、5質量%以上、40質量%以下であることが好ましい。繰り返し単位(a5)の含有割合は、より好ましくは7質量%以上であり、特に好ましくは10質量%以上である。繰り返し単位(a5)の含有割合は、より好ましくは35質量%以下であり、特に好ましくは30質量%以下である。重合体(B)が繰り返し単位(a5)を前記範囲内で含有することにより、該重合体(B)の電解液への溶解を低減することが可能となり、電解液による密着性の低下を抑制できる場合がある。また、蓄電デバイス中で溶解した重合体成分が電気抵抗成分となることによる内部抵抗の上昇を抑制できる場合がある。α,β-不飽和ニトリル化合物としては、重合体(A)の説明で列挙した化合物の中から選択される1種以上を使用することができる。
【0098】
(メタ)アクリルアミドに由来する繰り返し単位(a6)の含有割合は、重合体(B)中に含まれる繰り返し単位の合計を100質量%としたときに、0~10質量%であることが好ましい。繰り返し単位(a6)の含有割合は、より好ましくは1質量%以上であり、特に好ましくは2質量%以上である。繰り返し単位(a6)の含有割合は、好ましくは8質量%以下であり、より好ましくは5質量%以下である。重合体(B)が繰り返し単位(a6)を前記範囲内で含有することにより、スラリー中の第2負極活物質の分散性が良好となる場合がある。また、得られる第2層の柔軟性が適度となり、第1層と第2層との密着性が向上する場合がある。さらに、グラファイトのような炭素材料やケイ素材料を含有する第2負極活物質同士の結合能力を高めることができるため、柔軟性や第1層に対する密着性がより良好な第2層が得られる場合がある。(メタ)アクリルアミドとしては、重合体(A)の説明で列挙した化合物の中から選択される1種以上を使用することができる。
【0099】
スルホン酸基を有する化合物に由来する繰り返し単位(a7)の含有割合は、重合体(B)中に含まれる繰り返し単位の合計を100質量%としたときに、0~10質量%であることが好ましい。繰り返し単位(a7)の含有割合は、より好ましくは0.5質量%以上であり、特に好ましくは1質量%以上である。繰り返し単位(a7)の含有割合は、より好ましくは8質量%以下であり、特に好ましくは5質量%以下である。スルホン酸基を有する化合物としては、重合体(A)の説明で列挙した化合物の中から選択される1種以
上を使用することができる。
【0100】
<重合体(B)の物性>
(数平均粒子径)
重合体(B)が液状媒体中に分散されたラテックス状(粒子)である場合、該粒子の数平均粒子径は、好ましくは50nm以上150nm未満であり、より好ましくは50nm以上145nm以下であり、特に好ましくは50nm以上140nm以下である。重合体(B)の粒子の数平均粒子径が前記範囲内にあると、第2蓄電デバイス負極用スラリーの粘性を下げることができるので、塗工乾燥時に第2層表面の平滑性(レベリング性)が良好となり、負極合材層全体の厚みが均一となる。その結果、負極合材層の密着性が向上し、良好な充放電耐久特性を示す場合がある。なお、重合体(B)の粒子の数平均粒子径は、重合体(A)の粒子の数平均粒子径測定と同様の方法により測定することができる。
【0101】
<重合体(B)の製造方法>
重合体(B)の製造方法は、特に限定されないが、例えば公知の乳化剤(界面活性剤)、連鎖移動剤、重合開始剤などの存在下で行う乳化重合法によることができる。乳化剤(界面活性剤)、連鎖移動剤、及び重合開始剤としては、特許第5999399号公報等に記載された化合物を用いることができる。
【0102】
1.2.2.2.第2負極活物質
第2負極活物質としては、第1負極活物質の説明で列挙した化合物の中から選択される1種以上を使用することができる。第2負極活物質は、第1負極活物質と同種であってもよく異種であってもよいが、同種であることが好ましい。
【0103】
1.2.2.3.その他の成分
第2蓄電デバイス負極用スラリーには、上述した成分以外に、必要に応じてその他の成分を添加してもよい。このような成分としては、例えば重合体(B)以外の重合体、増粘剤、液状媒体、導電助剤、pH調整剤、腐食防止剤、セルロースファイバー等が挙げられる。これらの成分については、第1蓄電デバイス負極用スラリーの説明で列挙した化合物の中から選択される1種以上を使用することができ、使用量についても同様とすることができる。
【0104】
2.蓄電デバイス
本発明の一実施形態に係る蓄電デバイスは、上述の蓄電デバイス用負極を備えるものである。本実施形態に係る蓄電デバイスは、前記蓄電デバイス用負極のほか、蓄電デバイス用正極及びセパレータをさらに備え、電解液を含有し、常法に従って製造することができる。本実施形態に係る蓄電デバイスの具体的な製造方法としては、例えば、蓄電デバイス用負極と蓄電デバイス用正極とをセパレータを介して重ね合わせ、これを電池形状に応じて巻く、折るなどして電池容器に収納し、該電池容器に電解液を注入して封口する方法などを挙げることができる。電池の形状は、コイン型、円筒型、角形、ラミネート型など、適宜の形状であることができる。
【0105】
上述の蓄電デバイスは、大電流密度での放電が必要なリチウムイオン二次電池、電気二重層キャパシタやリチウムイオンキャパシタ等に適用可能である。これらの中でもリチウムイオン二次電池が特に好ましい。本実施形態に係る蓄電デバイスにおいて、蓄電デバイス用負極以外の部材は、公知のリチウムイオン二次電池用、電気二重層キャパシタ用やリチウムイオンキャパシタ用の部材を用いることが可能である。
【0106】
3.実施例
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定
されるものではない。実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0107】
3.1.実施例1
3.1.1.重合体の合成及び物性評価
(1)重合体(A1)の合成
以下に示すような一段重合により、重合体(A1)の粒子分散液を得た。反応器に、水400質量部と、1,3-ブタジエン50質量部、スチレン15質量部、アクリル酸5質量部、メタクリル酸メチル5質量部、アクリロニトリル25質量部からなる単量体混合物と、連鎖移動剤としてtert-ドデシルメルカプタン0.1質量部と、乳化剤としてアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム2質量部と、重合開始剤として過硫酸カリウム0.2質量部とを仕込み、攪拌しながら70℃で24時間重合し、重合転化率98%で反応を終了した。このようにして得られた重合体(A1)の粒子分散液から未反応単量体を除去し、濃縮後10%水酸化ナトリウム水溶液及び水を添加して、固形分濃度20質量%、pH8.0の、重合体(A1)の粒子分散液を得た。
【0108】
(2)重合体(B1)の合成
以下に示すような一段重合により、重合体(B1)の粒子分散液を得た。反応器に、水400質量部と、アクリル酸0.1質量部、1,3-ブタジエン50質量部、スチレン24.9質量部、メタクリル酸メチル10質量部、アクリロニトリル15質量部からなる単量体混合物と、連鎖移動剤としてtert-ドデシルメルカプタン0.1質量部と、乳化剤としてアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム2質量部と、重合開始剤として過硫酸カリウム0.2質量部とを仕込み、攪拌しながら70℃で24時間重合し、重合転化率98%で反応を終了した。このようにして得られた重合体(B1)の粒子分散液から未反応単量体を除去し、濃縮後10%水酸化ナトリウム水溶液及び水を添加して、固形分濃度20質量%、pH8.0の、重合体(B1)の粒子分散液を得た。
【0109】
(3)数平均粒子径の測定
上記で得られた重合体の粒子分散液を0.1wt%に希釈したラテックスをコロジオン支持膜上にピペットで1滴滴下し、更に1wt%のリンタングステン酸溶液をピペットでコロジオン支持膜上に1滴滴下し、12時間風乾させ試料を準備した。このようにして準備した試料を、透過型電子顕微鏡(TEM、株式会社日立ハイテク製、型番「H-7650」)を用いて、倍率を10K(倍率)で観察し、HITACHI EMIPのプログラムにより画像解析を実施し、ランダムに選択した50個の重合体粒子の粒子径の平均値を算出し、その平均値を数平均粒子径とした。その結果を下表1に示す。
【0110】
3.1.2.蓄電デバイス負極用スラリーの調製
(1)ケイ素材料(負極活物質)の合成
粉砕した二酸化ケイ素粉末(平均粒子径10μm)と炭素粉末(平均粒子径35μm)の混合物を、温度を1100℃~1600℃の範囲に調整した電気炉中で、窒素気流下(0.5NL/分)、10時間の加熱処理を行い、組成式SiOx(x=0.5~1.1)で表される酸化ケイ素の粉末(平均粒子径8μm)を得た。この酸化ケイ素の粉末300gをバッチ式加熱炉内に仕込み、真空ポンプにより絶対圧100Paの減圧を維持しながら、300℃/hの昇温速度にて室温(25℃)から1100℃まで昇温した。次いで、加熱炉内の圧力を2000Paに維持しつつ、メタンガスを0.5NL/分の流速にて導入しながら、1100℃、5時間の加熱処理(黒鉛被膜処理)を行った。黒鉛被膜処理終了後、50℃/hの降温速度で室温まで冷却することにより、黒鉛被膜酸化ケイ素の粉末約330gを得た。この黒鉛被膜酸化ケイ素は、酸化ケイ素の表面が黒鉛で被覆された導電性の粉末(負極活物質)であり、その平均粒子径は10.5μmであり、得られた黒鉛被膜酸化ケイ素の全体を100質量%とした場合の黒鉛被膜の割合は2質量%であった。
【0111】
(2)第1蓄電デバイス負極用スラリーの調製
二軸型プラネタリーミキサー(プライミクス株式会社製、商品名「TKハイビスミックス 2P-03」)に、増粘剤(商品名「CMC2200」、株式会社ダイセル製)を1質量部(固形分換算値、濃度2質量%の水溶液として添加)、重合体(A1)を2質量部(固形分換算値、上記で得られた重合体(A1)の粒子分散液として添加)、負極活物質として結晶性の高いグラファイトである人造黒鉛(株式会社レゾナック製、商品名「MAG」)80質量部(固形分換算値)、上記で得られた黒鉛被膜酸化ケイ素の粉末を20質量部(固形分換算値)、導電助剤であるカーボン(デンカ株式会社製、アセチレンブラック)1質量部を投入し、60rpmで1時間攪拌を行い、ペーストを得た。得られたペーストに水を投入し、固形分濃度を48質量%に調整した後、攪拌脱泡機(株式会社シンキー製、商品名「泡とり練太郎」)を使用して、200rpmで2分間、1800rpmで5分間、さらに減圧下(約2.5×104Pa)において1800rpmで1.5分間攪拌混合することにより、負極活物質中にSiを19.6質量%含有する第1蓄電デバイス負極用スラリー(C/Si=80/20)を調製した。
【0112】
(3)第2蓄電デバイス負極用スラリーの調製
重合体(A1)を重合体(B1)に変更した以外は、第1蓄電デバイス負極用スラリーと同様にして第2蓄電デバイス負極用スラリーを調製した。
【0113】
3.1.3.蓄電デバイス用負極の製造及び評価
(1)蓄電デバイス用負極の製造
厚み20μmの銅箔よりなる負極集電体の表面に、上記で得られた第1蓄電デバイス負極用スラリーを、乾燥後の膜厚が50μmとなるようにドクターブレード法によって均一に塗布し、60℃で10分間乾燥し、次いで120℃で10分間乾燥処理した。その後、層の密度が1.5g/cm3となるようにロールプレス機によりプレス加工することにより、第1層を得た。
【0114】
上記で得られた第1層上に、上記で得られた第2蓄電デバイス負極用スラリーを乾燥後の膜厚が50μmとなるようにドクターブレード法によって均一に塗布し、60℃で10分間乾燥し、次いで120℃で10分間乾燥処理した。その後、層の密度が1.5g/cm3となるようにロールプレス機によりプレス加工することにより、第1層及び第2層からなる負極合材層を有する蓄電デバイス用負極を得た。
【0115】
(2)負極合材層の密着強度の評価
上記で得られた蓄電デバイス用負極の表面に、ナイフを用いて負極合材層から負極集電体に達する深さまでの切り込みを2mm間隔で縦横それぞれ10本入れて碁盤目の切り込みを作った。この切り込みに幅18mmの粘着テープ(ニチバン(株)製、商品名「セロテープ」(登録商標)JIS Z1522:2009に規定)を貼り付けて直ちに引き剥がし、負極合材層の脱落の程度を目視判定で評価した。評価基準は以下の通りである。評価結果を下表1に示す。
(評価基準)
・5点:負極合材層の脱落が0個である。
・4点:負極合材層の脱落が1~5個である。
・3点:負極合材層の脱落が6~20個である。
・2点:負極合材層の脱落が21~40個である。
・1点:負極合材層の脱落が41個以上である。
【0116】
(3)負極合材層のレベリング性の評価
上記で得られた蓄電デバイス用負極の厚みを、第1及び第2蓄電デバイス負極用スラリ
ーの塗工方向と垂直の向きの塗布面に対して、両端の長さ10cmの範囲で10点測定した。測定した厚みのバラつきをレベリング性と評価した。評価基準は以下の通りである。評価結果を下表1に示す。
(評価基準)
・5点:標準偏差が2μm未満
・4点:標準偏差が2μm以上、3μm未満
・3点:標準偏差が3μm以上、4μm未満
・2点:標準偏差が4μm以上、5μm未満
・1点:標準偏差が5μm以上
【0117】
3.1.4.蓄電デバイスの製造及び評価
(1)対極(正極)の製造
二軸型プラネタリーミキサー(プライミクス株式会社製、商品名「TKハイビスミックス 2P-03」)に、電気化学デバイス電極用バインダー(株式会社クレハ製、商品名「KFポリマー#1120」)4質量部(固形分換算値)、導電助剤(デンカ株式会社製、商品名「デンカブラック50%プレス品」)3質量部、正極活物質として平均粒子径5μmのLiCoO2(ハヤシ化成株式会社製)100質量部(固形分換算値)及びN-メチルピロリドン(NMP)36質量部を投入し、60rpmで2時間攪拌を行った。得られたペーストにNMPを追加し、固形分濃度を65質量%に調整した後、攪拌脱泡機(株式会社シンキー製、商品名「泡とり練太郎」)を使用して、200rpmで2分間、1800rpmで5分間、さらに減圧下(約2.5×104Pa)において1800rpmで1.5分間攪拌混合することにより、蓄電デバイス正極用スラリーを調製した。アルミニウム箔よりなる正極集電体の表面に、この蓄電デバイス正極用スラリーを、溶媒除去後の膜厚が80μmとなるようにドクターブレード法によって均一に塗布し、120℃で20分間加熱して溶媒を除去した。その後、正極活物質層の密度が3.0g/cm3となるようにロールプレス機によりプレス加工することにより、対極(正極)を得た。
【0118】
(2)リチウムイオン電池セルの組立て
露点が-80℃以下となるようAr置換されたグローブボックス内で、上記で製造した蓄電デバイス用負極を直径16.16mmに打ち抜き成形したものを、2極式コインセル(宝泉株式会社製、商品名「HSフラットセル」)上に載置した。次いで、直径24mmに打ち抜いたポリプロピレン製多孔膜からなるセパレータ(セルガード株式会社製、商品名「セルガード#2400」)を載置し、さらに、空気が入らないように電解液を500μL注入した後、上記で製造した対極(正極)を直径15.95mmに打ち抜き成形したものを載置し、前記2極式コインセルの外装ボディーをネジで閉めて封止することにより、リチウムイオン電池セル(蓄電デバイス)を組み立てた。ここで使用した電解液は、エチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート=1/1(質量比)の溶媒に、LiPF6を1モル/Lの濃度で溶解した溶液である。
【0119】
(3)サイクル特性の評価
上記で製造したリチウムイオン電池セルにつき、25℃に調温された恒温槽にて、定電流(1.0C)にて充電を開始し、電圧が4.2Vになった時点で引き続き定電圧(4.2V)にて充電を続行し、電流値が0.05Cとなった時点を充電完了(カットオフ)とした。その後、定電流(1.0C)にて放電を開始し、電圧が3.0Vになった時点を放電完了(カットオフ)とし、1サイクル目の放電容量を算出した。このようにして300回充放電を繰り返した。下記式(1)により容量保持率を計算し、下記の基準で評価した。評価結果を下表1に示す。
容量保持率(%)=((300サイクル目の放電容量)/(1サイクル目の放電容量))×100 ・・・・・(1)
(評価基準)
・5点:容量保持率が95%以上。
・4点:容量保持率が90%以上~95%未満。
・3点:容量保持率が85%以上~90%未満。
・2点:容量保持率が80%以上~85%未満。
・1点:容量保持率が75%以上~80%未満。
・0点:容量保持率が75%未満。
【0120】
(4)膨張特性の評価
上記で製造したリチウムイオン電池セルにつき、45℃に調温された恒温槽にて、定電流(1.0C)にて充電を開始し、電圧が4.2Vになった時点で引き続き定電圧(4.2V)にて充電を続行し、電流値が0.05Cとなった時点を充電完了(カットオフ)とした。その後、定電流(1.0C)にて放電を開始し、電圧が3.0Vになった時点を放電完了(カットオフ)とし、1サイクル目の放電容量を算出した。このようにして300回充放電を繰り返した後のリチウムイオン電池セルを解体し、ジメチルカーボネートにより蓄電デバイス用負極を洗浄及び乾燥した後、下記式(2)により電極膨張の抑制率を計算し、膨張特性を下記の基準で評価した。評価結果を下表1に示す。
電極膨張の抑制率(%)=(1-((300サイクル目の負極膜厚)-(1サイクル目の負極膜厚))÷1サイクル目の負極膜厚)×100 ・・・・・(2)
(評価基準)
・5点:電極膨張の抑制率が95%以上。
・4点:電極膨張の抑制率が90%以上~95%未満。
・3点:電極膨張の抑制率が85%以上~90%未満。
・2点:電極膨張の抑制率が80%以上~85%未満。
・1点:電極膨張の抑制率が75%以上~80%未満。
・0点:電極膨張の抑制率が75%未満。
【0121】
3.2.実施例2~18、比較例1~6
上記「3.1.1.重合体の合成及び物性評価」の項において、各単量体の種類及び量をそれぞれ下表1~下表3に記載の通りとした以外は同様にして、固形分濃度20質量%、pH8.0の、重合体の粒子分散液をそれぞれ得た。それ以外は、実施例1と同様にして蓄電デバイス負極用スラリーを調製し、蓄電デバイス負極及び蓄電デバイスをそれぞれ作製し、実施例1と同様にして評価した。
【0122】
3.3.評価結果
下表1~下表3に、実施例1~18及び比較例1~6で使用した重合体組成、各物性測定結果、及び各評価結果を示す。なお、下表1~下表3中に示された重合体組成を表す数値は、質量部を表す。
【0123】
【0124】
【0125】
【0126】
なお、上表1~上表3における単量体は、それぞれ以下の化合物を表す。
<不飽和カルボン酸>
・AA:アクリル酸
・MAA:メタクリル酸
・TA:イタコン酸
<共役ジエン化合物>
・BD:1,3-ブタジエン
<芳香族ビニル化合物>
・ST:スチレン
<不飽和カルボン酸エステル>
・MMA:メタクリル酸メチル
<α,β-不飽和ニトリル化合物>
・AN:アクリロニトリル
【0127】
上表1~上表3の評価結果より、実施例1~18によれば、第1層が相対的に酸量が多い重合体(A)を含有し、第2層が相対的に酸量が少ない重合体(B)を含有することで、負極合材層におけるレベリング性に優れ、負極集電体と負極合材層との密着性が向上するため、電極膨張を効果的に抑制できていることがわかる。また、負極活物質同士の結着
力が向上しているので、蓄電デバイスのサイクル特性が向上していることがわかる。
【0128】
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的および効果が同一の構成)を包含する。また本発明は、上記の実施形態で説明した構成の本質的でない部分を他の構成に置き換えた構成を包含する。さらに本発明は、上記の実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成または同一の目的を達成することができる構成をも包含する。さらに本発明は、上記の実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成をも包含する。
【符号の説明】
【0129】
10…負極集電体、20…負極合材層、20a…第1層、20b…第2層、100…蓄電デバイス用負極