(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024164415
(43)【公開日】2024-11-27
(54)【発明の名称】構造体および立設構造
(51)【国際特許分類】
E04B 1/94 20060101AFI20241120BHJP
【FI】
E04B1/94 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023079869
(22)【出願日】2023-05-15
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】藤生 直人
(72)【発明者】
【氏名】榎本 浩之
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 博則
(72)【発明者】
【氏名】田村 純太朗
【テーマコード(参考)】
2E001
【Fターム(参考)】
2E001DE01
2E001FA02
2E001GA63
2E001GA66
2E001HA21
2E001HA32
2E001HB02
2E001HC01
(57)【要約】
【課題】施工性の高い構造体および立設構造を提供する。
【解決手段】立設構造10は、下部構造体11、上部構造体12、および、構造体30を有する。構造体30は、鋼材31と、鋼材31を囲繞する耐火被覆層32と、耐火被覆層32を囲繞する空気層33と、空気層33を囲繞する木質耐火被覆材34と、を有する。構造体30は、下部構造体11のスラブ15によって下端部が保持され、上部構造体12の梁18の木質耐火被覆材34によって上端部が保持される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼材と、前記鋼材を囲繞する耐火被覆層と、前記耐火被覆層を囲繞する空気層と、前記空気層を囲繞する木質耐火被覆材と、を有する
構造体。
【請求項2】
前記空気層は、連続した空気のみを有する
請求項1に記載の構造体。
【請求項3】
前記空気層を貫通し、一端が前記鋼材に接続され、他端が前記木質耐火被覆材に埋設され、前記木質耐火被覆材の熱を前記鋼材に熱伝達する熱伝達材を有する
請求項1に記載の構造体。
【請求項4】
前記熱伝達材の他端の小口に埋木を有し、前記埋木は、前記木質耐火被覆材の一部として機能する
請求項3に記載の構造体。
【請求項5】
前記鋼材は鋼管材であり、前記鋼管材の内側にコンクリート材を有し、前記鋼管材と前記コンクリート材で鋼管コンクリート構造を形成している
請求項1~4のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項6】
構造体と、前記構造体が立設する下部構造体と、前記下部構造体に設けられ、前記構造体の下端部を保持する下端部保持部材と、を有し、
前記構造体は、鋼材と、前記鋼材を囲繞する耐火被覆層と、前記耐火被覆層を囲繞する空気層と、前記空気層を囲繞する木質耐火被覆材と、を有する
立設構造。
【請求項7】
前記構造体の上端部が当接する上部構造体と、前記上部構造体に設けられ、前記上端部を保持する上端部保持部材と、を有する
請求項6に記載の立設構造。
【請求項8】
前記空気層は、連続した空気のみを有する
請求項6または7に記載の立設構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼材を取り囲むように木質材が配設される構造体、および、該構造体を有する立設構造に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1には、鋼材を取り囲むように木質材が配設される構造体として、損傷抑制材が周囲に配置された鋼管に対して、該鋼管を取り囲むように一対の半割木質材を嵌合させた構造体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の構造体においては、施工現場において鋼管に半割木質材を嵌合させることは困難である。そのため、完成品を施工現場へと搬入しなければならず、施工性に改善の余地があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する構造体は、鋼材と、前記鋼材を囲繞する耐火被覆層と、前記耐火被覆層を囲繞する空気層と、前記空気層を囲繞する木質耐火被覆材と、を有する構造体。この構成によれば、構造体の施工性を向上させることができる。
【0006】
上記構成の構造体において、前記空気層は、連続した空気のみを有していてもよい。この構成によれば、空気層が断熱層として機能することで木質板部が熱分解するまで耐火被覆層が熱影響を受けにくい。
【0007】
上記構成の構造体は、前記空気層を貫通し、一端が前記鋼材に接続され、他端が前記木質耐火被覆材に埋設され、前記木質耐火被覆材の熱を前記鋼管材に熱伝達する熱伝達材を有していてもよい。この構成によれば、鋼材と木質耐火被覆材とが熱伝達材によって取り付けられるため、構造体の施工性をより向上させることができる。
【0008】
上記構成の構造体は、前記熱伝達材の他端の小口に埋木を有し、前記埋木は、前記木質耐火被覆材の一部として機能してもよい。この構成によれば、小口に埋木が配設されることによって、その小口付近における耐火性の低下を抑えることができる。
【0009】
上記構成の構造体において、前記鋼材は鋼管材であり、前記鋼管材の内側にコンクリート材を有し、前記鋼管材と前記コンクリート材で鋼管コンクリート構造を形成していてもよい。この構成によれば、鋼材が受けた熱の一部をコンクリート材に伝熱することができる。これにより、鋼材の耐火性、ひいては構造体の耐火性を向上させることができる。
【0010】
上記課題を解決する立設構造は、構造体と、前記構造体が立設する下部構造体と、前記下部構造体に設けられ、前記構造体の下端部を保持する下端部保持部材と、を有し、前記構造体が上述した構造体である。この構成によれば、構造体の下端部が下端部保持部材で保持されるため、構造体および立設構造の施工性を向上させることができる。
【0011】
上記構成の立設構造は、前記構造体の上端部が当接する上部構造体と、前記上部構造体に設けられ、前記上端部を保持する上端部保持部材と、を有していてもよい。この構成によれば、構造体の上端部を上端保持部材で保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第1実施形態における立設構造および構造体を模式的に示す断面図である。
【
図2】第1実施形態において、構造体の後段面を模式的に示す図である。
【
図3】第1実施形態において構造体の施工方法の一例を模式的に示す図であって、(a)鋼材が設置された状態を示す図であり、(b)鋼材に耐火被覆材が設けられた状態を示す図であり、(c)木質板部41が配設された状態を示す図であり、(d)下端部保持部材および上部保持部材が配設された状態を示す図である。
【
図4】第2実施形態における立設構造および構造体を模式的に示す断面図である。
【
図5】第2実施形態において、構造体の横断面を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(第1実施形態)
図1~
図3を参照して、構造体および立設構造の第1実施形態について説明する。
図1に示すように、立設構造10は、下部構造体11、上部構造体12、および、構造体30を有する。本実施形態において、構造体30は、四角柱形状の外見を有して下部構造体11と上部構造体12とを繋ぐように設置される柱である。
【0014】
下部構造体11は、例えば、仕口部材13、梁14、スラブ15などで構成されている。仕口部材13は、梁14と構造体30とを接続する部材である。梁14は、構造体30と同様の構造を用いて形成されている。スラブ15は、例えばコンクリートで形成される。なお、梁14については、構造体30と同様の構造を有することから、構造体30を構成する各部分と同様の符号(31,32,33,34)を紙面の左上部分に記載している。
【0015】
上部構造体12は、例えば、下部構造体11と同様に、仕口部材17、梁18、図示されないスラブなどで構成されている。仕口部材17は、梁18と構造体30とを接続する部材である。梁18は、構造体30と同様の構造を用いて形成されている。なお、梁18については、構造体30と同様の構造を有することから、構造体30を構成する各部分と同様の符号(31)を紙面の左下部分に記載している。
【0016】
(構造体)
構造体30は、鋼材31、耐火被覆層32、空気層33、および、木質耐火被覆材34を有する。
【0017】
鋼材31は、例えば断面矩形状の鋼管材である。鋼材31の下端は、下部構造体11の仕口部材13に接続されている。また、鋼材31の下端部は、スラブ15に取り囲まれている。鋼材31の上端は、上部構造体12の仕口部材17に当接して接合されている。
【0018】
なお、鋼材31が鋼管材である場合、鋼材31の内側にコンクリート材が形成されることにより、鋼管材とコンクリート材とによって鋼管コンクリート構造が構成されてもよい。また、鋼材31は、鉄鋼製であればよく、例えばH鋼などであってもよい。
【0019】
図2に示すように、耐火被覆層32は、鋼材31を囲繞している。耐火被覆層32は、耐火性や断熱性に優れたものが好ましい。耐火被覆層32は、ロックウール、ケイ酸カルシウム板、マキベエ(登録商標)などである。ロックウールは、粒状のロックウール繊維を主原料として硬化材としてセメントを含んだ流動体である吹付けロックウールであってもよい。
【0020】
空気層33は、耐火被覆層32と木質耐火被覆材34との間の空間である。空気層33は、耐火被覆層32を囲繞している。空気層33の厚さは、耐火被覆層32の厚さよりも大きいことが好ましい。
【0021】
木質耐火被覆材34は、鋼材31および耐火被覆層32を内包する四角筒形状に形成されている。木質耐火被覆材34は、空気層33を囲繞するように設けられている。木質耐火被覆材34は、複数の木質板部41で構成されている。木質板部41は、構造体30の各側面部を構成する仕上げ材である。木質板部41は、例えばCLT(Cross Laminated Timber)板で形成される。なお、木質板部41は、CLT材のほか、集成材、製材、合板などであってもよい。木質板部41は、耐火被覆材であるため、構造性能を確保する必要がない。このことから、JAS(Japanese Agricultural Standard)認定材以外の材料、例えば2ply以下のCLT材も利用可能である。その結果、製作コストの抑制と木材利用の促進とを図ることができる。
【0022】
各木質板部41は、空気層33側に配置される面を上面とするとき、その右端部において隣り合う木質板部41に対して板部接合材42で接合されている。板部接合材42は、例えばビスである。板部接合材42は、木質板部41に形成された接合用小口43に挿入されたのち、当該木質板部41を貫通するように打ち込まれる。木質板部41の接合後、接合用小口43には、板部接合材42を覆い隠すように埋木44が配設される。この埋木44は、木質耐火被覆材34の一部として機能する。
【0023】
(構造体の施工方法)
構造体30の施工方法の一例について説明する。
まず、
図3(a)に示すように、下部構造体11の仕口部材13と上部構造体12の仕口部材17とに接合された状態で構造体30の鋼材31が設置される。なお、この時点において、下部構造体11の仕口部材13には、梁14の鋼材31が接合されている。また、下部構造体11の仕口部材17には、梁18の鋼材31が接合されている。
【0024】
次に、
図3(b)に示すように、構造体30の鋼材31を取り囲むようにして、下部構造体11のスラブ15が形成される。これにより、構造体30の下端部は、スラブ15を下端部保持部材として下部構造体11に保持される。その後、
図3(c)に示すように、構造体30の鋼材31および梁18の鋼材31に耐火被覆層32が形成される。
【0025】
次に、
図3(d)に示すように、構造体30について、耐火被覆層32を囲繞するように木質板部41が配置される。木質板部41は、隣り合う木質板部41に対して板部接合材42で接合される。これにより、構造体30の木質耐火被覆材34が形成される。その後、梁18について、耐火被覆層32を囲繞するように木質板部41が配置され、隣り合う木質板部41が板部接合材42で接合される。これにより、梁18の木質耐火被覆材34が形成される。
【0026】
そして、構造体30の木質耐火被覆材34と梁18の木質耐火被覆材34とが図示されない金具などによって接合されたのち、接合用小口43に埋木44が配設される。すなわち、構造体30の上端部は、梁18の木質耐火被覆材34を上端部保持部材として上部構造体12に保持される。こうして梁18とともに構造体30が設置される。
【0027】
(作用)
構造体30においては、鋼材31、耐火被覆層32、および、木質耐火被覆材34を構成する木質板部41、これらが個別に施工現場に搬入される。また、火災発生時、空気層33が断熱層として機能することで木質板部41が熱分解するまで耐火被覆層32が熱影響を受けにくい。木質板部41が熱分解したとしても耐火被覆層32が熱分解してから鋼材31が熱影響を受ける。
【0028】
第1実施形態の効果について説明する。
(1-1)構造体30は、鋼材31と、鋼材31を囲繞する耐火被覆層32と、耐火被覆層32を囲繞する空気層33と、空気層33を囲繞する木質耐火被覆材34と、を有する。これにより、構造体30の耐火性および施工性を向上させることができる。
【0029】
(1-2)空気層33によって、木質耐火被覆材34から鋼材31への過度な伝熱が防止される。これにより、熱影響による鋼材31の耐力低下を抑制することができる。すなわち、木質板部41、耐火被覆層32、および、空気層33の組合せによって構造体30全体としての耐火性を効果的に向上させることができる。そのうえ、木質板部41の厚さや耐火被覆層32の厚さ、空気層33の厚さなどについての自由度も高いため、1時間耐火や2時間耐火など、所望の耐火構造を得るのも容易である。また、空気層33の厚さが耐火被覆層32の厚さよりも大きいことにより、熱影響による鋼材31の耐力低下を効果的に抑制することができる。
【0030】
(1-3)鋼材31の内側にコンクリート材が形成されることにより、鋼材31が受けた熱の一部をコンクリート材へと伝えることができる。その結果、熱影響による鋼材31の耐力低下をより抑制することができる。
【0031】
(第2実施形態)
図4および
図5を参照して、構造体および立設構造の第2実施形態について説明する。なお、第2実施形態の構造体および立設構造は、第1実施形態における構造体および立設構造と主要な構成が同じである。そのため、第2実施形態においては、第1実施形態と異なる部分について詳細に説明し、第1実施形態と同様の部分については同様の符号を付すことによりその詳細な説明は省略する。
【0032】
図4に示すように、立設構造45において、構造体50は、取付部材51と取付材52とによって構成される熱伝達材によって、鋼材31に対して木質板部41が取り付けられている。熱伝達材は、空気層33を貫通し、一端が鋼材31に接続され、他端が木質耐火被覆材34に埋設され、木質耐火被覆材34の熱を鋼材31に熱伝達する。
【0033】
具体的には、
図5に示すように、取付部材51は、例えば紙面直交方向に延びるアングル材である。取付部材51は、例えば溶接などの接合法によって鋼材31に接続される。取付材52は、例えばビスである。取付材52は、木質板部41に形成された取付用小口53に挿入されたのち、木質板部41を貫通して取付部材51に接合される。木質板部41の取付後、取付用小口53には、取付材52を覆い隠すように埋木54が配設される。この埋木54は、木質耐火被覆材34の一部として機能する。
【0034】
(作用)
構造体50においては、鋼材31に取付部材51が接合された状態で施工現場へと搬入される。そして、取付材52によって木質板部41が取付部材51に取り付けられたのち、木質板部41同士が板部接合材42によって接合される。
【0035】
第2実施形態によれば、第1実施形態に記載した(1-1)~(1-3)の効果に準ずる効果に加えて、以下に記載する効果を得ることができる。
(2-1)鋼材31と木質耐火被覆材34は、取付部材51および取付材52によって構成される熱伝達材を介して接合されている。この熱伝達材を介して木質板部41から鋼材31へと熱が伝わるため、木質耐火被覆材34から鋼材31への過度な熱伝達を抑制しつつ木質板部41による耐火性能を高めることができる。
【0036】
(2-2)木質耐火被覆材34は、熱伝達材の他端側、すなわち取付材52の基端側において、木質板部41に形成された取付用小口53に埋木54を有する。これにより、取付用小口53の形成部分における耐火性の低下を抑えることができる。また、構造体50の美観性を向上させることもできる。
【0037】
以上、構造体および立設構造の第1~第2実施形態について説明したが、本発明は上記の第1~第2実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、第1~第2実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0038】
・構造体30,50は、壁に適用されてもよい。
・各小口43,53は、埋木44,54に代えて、耐火充填材などが充填されてもよいし、モルタルなどの高熱容量材が充填されてもよい。また、板部接合材42および取付材52は、木質耐火被覆材34の外周面から直接打ち込まれてもよい。
【0039】
・構造体は、断面における外形が多角形状であればよい。そのため、構造体30,50のように断面における外形が四角形状に限らず、三角形状であってもよいし、五角形状であってもよい。
【0040】
・構造体は、外見が四角柱形状に限らず、外見が三角柱形状であってもよいし、外見が五角柱形状であってもよい。また、構造体は、外見が円柱形状であってもよい。
【符号の説明】
【0041】
10…立設構造、11…下部構造体、12…上部構造体、13…仕口部材、14…梁、15…一部が下端部保持部材として機能するスラブ、17…仕口部材、18…一部が上端部保持部材として機能する梁、30…構造体、31…鋼材、32…耐火被覆層、33…空気層、34…木質耐火被覆材、41…木質板部、42…板部接合材、43…接合用小口、44…埋木、45…立設構造、50…構造体、51…熱伝達材を構成する取付部材、52…熱伝達材を構成する取付材、53…取付用小口、54…埋木。