IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大同特殊鋼株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-表面疵の深さ推定方法 図1
  • 特開-表面疵の深さ推定方法 図2
  • 特開-表面疵の深さ推定方法 図3
  • 特開-表面疵の深さ推定方法 図4
  • 特開-表面疵の深さ推定方法 図5
  • 特開-表面疵の深さ推定方法 図6
  • 特開-表面疵の深さ推定方法 図7
  • 特開-表面疵の深さ推定方法 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024164416
(43)【公開日】2024-11-27
(54)【発明の名称】表面疵の深さ推定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/91 20060101AFI20241120BHJP
   G06T 7/00 20170101ALI20241120BHJP
   G01N 21/88 20060101ALI20241120BHJP
【FI】
G01N21/91 B
G06T7/00 610Z
G06T7/00 350C
G01N21/88 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023079871
(22)【出願日】2023-05-15
(71)【出願人】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107700
【弁理士】
【氏名又は名称】守田 賢一
(72)【発明者】
【氏名】山腰 浩平
(72)【発明者】
【氏名】湯藤 隆夫
(72)【発明者】
【氏名】森 大輔
【テーマコード(参考)】
2G051
5L096
【Fターム(参考)】
2G051AA07
2G051AB02
2G051EB05
2G051EC01
2G051GB02
2G051GC04
2G051GC18
2G051GD02
5L096AA06
5L096BA03
5L096CA02
5L096DA02
5L096EA13
5L096EA43
5L096FA02
5L096FA17
5L096HA11
5L096KA04
(57)【要約】
【課題】磁粉探傷において金属材の表面疵の疵種に応じた疵深さを正確に推定することが可能な表面疵の深さ推定方法を提供する。
【解決手段】磁粉探傷で得られる金属材の磁粉模様画像を、処理装置2内に構成された画像認識部21の畳み込みニューラルネットワークに入力させて当該磁粉模様画像中の疵画像に対応する疵種の表面疵の深さを推定する。この場合、上記疵画像の画像サイズ情報と上記疵種の情報を畳み込みニューラルネットワークの出力層を構成する全結合層23に入力させる。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁粉探傷で得られる金属材の磁粉模様画像を学習済みの畳み込みニューラルネットワークに入力させて当該磁粉模様画像中の疵画像に対応する疵種の表面疵の深さを推定することを特徴とする表面疵の深さ推定方法。
【請求項2】
前記疵画像の画像サイズ情報と前記疵種の情報を前記畳み込みニューラルネットワークの出力層を構成する全結合層に入力させる請求項1に記載の表面疵の深さ推定方法。
【請求項3】
前記磁粉模様画像を前記畳み込みニューラルネットワークに入力させるに際して、前記磁粉模様画像の縁辺に適宜ゼロ埋め画像を付加してこれら磁粉模様画像の画像サイズを全て同一にした請求項1又は2に記載の表面疵の深さ推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は表面疵の深さ推定方法に関し、特に磁粉探傷で得られる金属材の磁粉模様画像から当該金属材の表面疵の深さを推定する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では、磁化された金属材の表面に蛍光磁粉を散布して、当該蛍光磁粉で描かれる磁粉模様画像より疵部位を判別し、疵部位の縦横比から疵種を判定している。そして、上記疵部位の平均幅に平均輝度を乗じた深さ指標値を得て、当該指標値に、疵種に応じて予め得られた係数を乗じて疵深さを算出し推定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9-210969
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで上記従来の疵深さ推定方法では疵種を疵部位の縦横比から判定しているが、実際には作業者は小さな波打ち模様や磁粉の局所的な濃淡変化等をも考慮に入れて疵深さを官能的に推定しており、疵部位の縦横比のみから疵種を一義的に定めることは困難であって、このため、疵深さの正確な推定も困難であるという問題があった。
【0005】
そこで、本発明はこのような問題を解決するもので、磁粉探傷において金属材の表面疵の疵種に応じた疵深さを正確に推定することが可能な表面疵の深さ推定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本第1発明では、磁粉探傷で得られる金属材の磁粉模様画像を学習済みの畳み込みニューラルネットワークに入力させて当該磁粉模様画像中の疵画像に対応する疵種の表面疵の深さを推定する。
【0007】
本第1発明によれば、学習済みの畳み込みニューラルネットワークに磁粉模様画像を入力させることによって、磁粉模様そのものを認識することができるため、金属材の表面疵の疵種に応じた疵深さを正確に推定することが可能である。
【0008】
本第2発明では、前記疵画像の画像サイズ情報と前記疵種の情報を前記畳み込みニューラルネットワークの出力層を構成する全結合層に入力させる。
【0009】
本第2発明によれば、畳み込みニューラルネットワークの全結合層に画像サイズ情報と疵種の情報を入力させることによって、畳み込みニューラルネットワークに入力させる際の磁粉模様画像の固定サイズ・固定アスペクトへのリサイズ(以下リサイズ)の影響を受けることなく、金属材の表面疵の疵種に応じた疵深さをさらに正確に推定することが可能である。
【0010】
本第3発明では、前記磁粉模様画像を前記畳み込みニューラルネットワークに入力させるに際して、前記磁粉模様画像の縁辺に適宜ゼロ埋め画像を付加してこれら磁粉模様画像の画像サイズを全て同一にする。
【0011】
本第3発明においては、畳み込みニューラルネットワークに入力させる際の磁粉模様画像のリサイズの影響を受けることなく、金属材の表面疵の疵種に応じた疵深さをさらに正確に推定することが可能である。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、本発明の表面疵の深さ推定方法によれば、磁粉探傷において金属材の表面疵の疵種に応じた疵深さを正確に推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】磁気探傷装置の概略構成を示す図である。
図2】畳み込みニューラルネットワークの要部の構成を示す図である。
図3】線状疵の磁粉模様画像のリサイズの様子を示す図である。
図4】ヘゲ疵の磁粉模様画像のリサイズの様子を示す図である。
図5】処理装置の構成を示す図である。
図6】サイズデータの取得・疵種判別を行う磁粉模様画像の一例を示す図である。
図7】作業者と処理装置による疵深さの予測値を比較した図である。
図8】磁粉模様画像にゼロ埋め画像を付加した様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
なお、以下に説明する実施形態はあくまで一例であり、本発明の要旨を逸脱しない範囲で当業者が行う種々の設計的改良も本発明の範囲に含まれる。
【0015】
(第1実施形態)
図1には本発明方法を使用する磁気探傷装置の概略構成を示す。探傷対象となる金属材たる角型鋼片Mが支持台S上に置かれており、その検査表面M1は、図示を省略する公知の磁化器によって磁化された後、蛍光磁粉液が散布されて磁粉模様が生じている。鋼片Mの上方には平行にその長手方向に沿ってレールRが設置されて、当該レールRに沿ってガイドローラR1により移動可能に探傷器1が設けられている。
【0016】
探傷器1内には鋼片Mの検査表面M1に向けてブラックライト11とカメラ12が設けられており、ブラックライト11から紫外線を照射されて蛍光を発した磁粉の磁粉模様がカメラ12で撮像される。そして、探傷器1が鋼片Mに沿って移動するのに伴って、鋼片Mの検査表面M1の磁粉模様画像が逐次処理装置2へ送られる。
【0017】
上記処理装置2はコンピュータを内設しており、学習済みのCNN(畳込みニューラルネットワーク)の要部で構成される画像認識部21と、疵サイズ・疵種入力部22で構成されている。画像認識部21のCNN要部の構成を図2に示し、必要数の畳み込み層211と必要数のプーリング層212が交互に設けられ、最後に平滑化層213が設けられて特徴抽出された2次元画像データ(カラー画像であれば3次元)が一次元データ列に変換され出力される。
【0018】
ところで、画像認識部21に磁粉模様画像を読み込ませる際には通常、磁粉模様画像を全て同じサイズに変換する、いわゆるリサイズが行われる。リサイズの一例を図3図4に示す。図3は線状疵、図4はヘゲ疵の例である。このために、磁粉模様画像のサイズ情報が失われて、表面疵の深さ推定の精度が損なわれる。そこで、本実施形態では、リサイズ前の疵模様画像中の疵画像サイズ(面積あるいは直径)を入力するとともに、併せて疵種データも入力する上記疵画像サイズ・疵種入力部22を設けている。
【0019】
処理装置2の構成を図5に再掲する。疵画像サイズ・疵種入力部22では、入力された疵画像サイズが連続値または二進数に変換され、また疵種はワンホットエンコーディング(当該疵であった場合に値「1」となり、他の場合は値「0」となる配列)される。そして、一次元のデータ列に変換された画像認識部21からの画像データと、連続値または二進数に変換された疵画像サイズデータおよびワンホットエンコーディングされた疵種データが、CNNの出力層を構成する、必要数設けられた全結合層23へ入力され、最終段の全結合層23から疵深さ予測データが出力される。
【0020】
なお、疵画像サイズデータは処理装置2内で磁粉模様画像から測定算出するようにしても良く、また疵種データは処理装置2内に別体のCNNを構成して、磁粉模様画像から疵種を判定出力する構成としても良い。別体のCNN例として、図6に示すように、物体検出技術(Object Detection)を取り入れることで、上記サイズデータの取得・疵種(A種、B種等)判別を同時に行うことが可能である。
【0021】
以上に説明した処理装置2のCNNに対して必要数の訓練データを与えて学習させる。訓練データの一例を表1に示し、磁粉模様画像と、これに対応する疵種および疵深さをセットにしたものである。なお、訓練データとして使用する疵画像サイズは磁粉模様画像から取得する。表2には学習仕様の一例を示す。
【0022】
【表1】
【0023】
【表2】
【0024】
上記仕様で訓練し学習させたCNNの予測性能を評価した結果を図7に示す。図7は横軸に作業者が予測した疵深さをとり、縦軸にCNNが予測した疵深さをとって、両疵深さをプロットしたものである。そのRMSE(Root Mean Squared Error)は表3に示すように0.375と、疵画像サイズ・疵種入力部を備えることによって疵深さの予測精度は十分に高い。この場合のコンピュータ(GPU)の処理時間は0.6msで(表3)、以下に説明する各実施形態と同一であった。
【0025】
(第2実施形態)
画像認識部21に磁粉模様画像を読み込ませる際に既述のようにリサイズを行うが、このリサイズによって図3に示すように、特に線状疵の場合には当該疵のアスペクト比も大きく変化してしまうという問題がある。そこで、図8に示すように、磁粉模様画像の縁辺(本実施形態では上下の縁辺)に輝度ゼロのゼロ埋め画像faを付加して、画像認識部21へ入力される磁粉模様画像のサイズを全て同じにしておく。
【0026】
このようにすると、リサイズ後の疵のアスペクト比が良く保持されるため、処理装置2から出力される疵深さ予測データのRMSEは、表3に示すように0.331とさらに向上する。
【0027】
(第3実施形態)
なお、疵画像サイズ・疵種入力部を設けることなく、磁粉模様画像の縁辺に輝度ゼロのゼロ埋め画像を付加して、画像認識部21へ入力される磁粉模様画像のサイズを全て同じにしておくだけでも、処理装置2から出力される疵深さ予測データのRMSEは、表3に示すように0.414となり、疵深さの予測精度は十分に高い。
【0028】
(第4実施形態)
疵画像サイズ・疵種入力部を備えず、かつゼロ埋め画像を付加することも行わない場合でも、処理装置2から出力される疵深さ予測データのRMSEは、表3に示すように 0.426となり、疵深さの予測精度は十分に高い。
【0029】
【表3】
【0030】
以上、第3、4実施形態では、CNNを取り入れた画像認識によって従来のルールベース処理に比して十分高い予測精度を獲得しており、さらに第1、2実施形態ではCNNの情報欠損を補完する処理によって、さらに高い精度を得ている。
【符号の説明】
【0031】
1…探傷器、11…ブラックライト、12…カメラ、2…処理装置、21…画像認識部、22…疵サイズ・疵種入力部、M…鋼片、R…レール、S…支持台。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8