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特開2024-164419リグノセルロースナノファイバーを含む紫外線透過抑制材
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  • 特開-リグノセルロースナノファイバーを含む紫外線透過抑制材 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024164419
(43)【公開日】2024-11-27
(54)【発明の名称】リグノセルロースナノファイバーを含む紫外線透過抑制材
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/00 20060101AFI20241120BHJP
   C08L 97/02 20060101ALI20241120BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20241120BHJP
   C09D 5/32 20060101ALI20241120BHJP
   C09D 101/00 20060101ALI20241120BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20241120BHJP
   C09D 7/48 20180101ALI20241120BHJP
   C08J 3/20 20060101ALI20241120BHJP
【FI】
C09K3/00 104Z
C08L97/02
C08K3/013
C09D5/32
C09D101/00
C09D201/00
C09D7/48
C08J3/20 B CEP
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023079877
(22)【出願日】2023-05-15
(71)【出願人】
【識別番号】592071679
【氏名又は名称】モリマシナリー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002206
【氏名又は名称】弁理士法人せとうち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 顕弘
(72)【発明者】
【氏名】東山 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】八代田 素己
(72)【発明者】
【氏名】内田 哲也
【テーマコード(参考)】
4F070
4J002
4J038
【Fターム(参考)】
4F070AA02
4F070AA15
4F070AA66
4F070AB03
4F070AB11
4F070AC72
4F070AC96
4F070AD02
4F070AE01
4F070FA03
4F070FB06
4F070FB07
4J002AH001
4J002DE076
4J002DE136
4J002DE186
4J002DE236
4J002DJ006
4J002DJ016
4J002DJ036
4J002DJ046
4J002FD016
4J002GA00
4J002GC00
4J002GH00
4J002GJ00
4J002GL00
4J002GN00
4J038BA022
4J038CB091
4J038KA08
4J038KA12
4J038KA19
4J038NA19
(57)【要約】
【課題】紫外線透過抑制効果が高く、毒性がなく、環境負荷が低いリグノセルロースナノファイバーを含む紫外線透過抑制材を提供する。
【解決手段】リグノセルロースナノファイバー(LCNF)を含む紫外線透過抑制材である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リグノセルロースナノファイバー(LCNF)を含む紫外線透過抑制材。
【請求項2】
さらに充填材を含み、当該充填材とLCNFとの質量比(充填材/LCNF)が0.3/1~12/1である請求項1に記載の紫外線透過抑制材。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の紫外線透過抑制材が配合されてなる樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の紫外線透過抑制材が配合されてなる樹脂ペレット。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の紫外線透過抑制材が配合されてなる塗膜材。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の紫外線透過抑制材が配合されてなる塗料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リグノセルロースナノファイバーを含む紫外線透過抑制材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、再生可能資源としてセルロースが利用されている。機械的強度の向上等を目的として、セルロースを微細化して得られるナノセルロース繊維を樹脂等に配合することが行われている。ナノセルロース繊維としては、繊維長が長いセルロースナノファイバー(CNF)、繊維長が短く針状結晶のセルロースナノクリスタル(CNC)が挙げられ、酢酸菌などのセルロース生産菌が産生するバクテリアセルロースナノファイバー、セルロースとは異なるがキチンナノファイバーやキトサンナノファイバーなども知られている。ナノセルロース繊維を得る方法としては、木材から得られるセルロースを化学的解繊処理、機械的解繊処理、及びこれらを組み合わせて解繊する方法、酢酸菌などのセルロース生産菌を用いて合成する方法などが挙げられる。化学的解繊処理としては、TEMPO酸化法、リン酸エステル化法、酵素加水分解法等が知られており、機械的解繊処理としては、高圧ホモジナイザー法、マイクロフリュダイザー法、グラインダー摩砕法、凍結粉砕法、強剪断力混練法、ボールミル粉砕法等が知られている。
【0003】
特許文献1には、水とナノセルロース繊維を含む微小セルロース繊維と脂肪酸類で表面処理した充填材とを剪断力を加えながら混合する工程と、混合物を乾燥する工程と、乾燥後の固形分を粉砕する工程とを含む樹脂材料強化材の製造方法が記載されている。これによれば、微小セルロース繊維を乾燥させる過程において微小セルロース繊維が凝集するのを防止して容易に樹脂材料強化材を製造することができ、樹脂材料強化材を樹脂材料に配合した際には従来よりも樹脂材料の強度を大きく向上させることができるとされている。しかしながら、紫外線透過を効果的に抑制できることについての報告はなかった。
【0004】
一方、特許文献2には、(A)ポリオレフィンに対し、(B)有機シラン化合物で表面処理したタルク、(C)ヒンダードアミン系安定剤、(D)紫外線吸収剤を添加してなるポリオレフィン樹脂組成物が記載されている。これによれば、有機シラン化合物で表面処理したタルク、ヒンダードアミン系安定剤及び紫外線吸収剤を併用することにより、耐候性に優れたポリオレフィン樹脂組成物を提供できるとされている。しかしながら、用いられる紫外線吸収剤に毒性があったり、廃棄時の環境負荷低減のために中和が必要な場合もあり、安全性の高い紫外線吸収剤が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-144614号公報
【特許文献2】特開平6-220261号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、紫外線透過抑制効果が高く、毒性がなく、環境負荷が低いリグノセルロースナノファイバーを含む紫外線透過抑制材を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、リグノセルロースナノファイバー(LCNF)を含む紫外線透過抑制材を提供することによって解決される。
【0008】
このとき、さらに充填材を含み、当該充填材とLCNFとの質量比(充填材/LCNF)が0.3/1~12/1であることが好適である。
【0009】
前記紫外線透過抑制材が配合されてなる樹脂組成物が好適な実施態様であり、前記紫外線透過抑制材が配合されてなる樹脂ペレットが好適な実施態様であり、紫外線透過抑制材が配合されてなる塗膜材が好適な実施態様であり、前記紫外線透過抑制材が配合されてなる塗料も好適な実施態様である。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、紫外線透過抑制効果が高く、毒性がなく、環境負荷が低いリグノセルロースナノファイバーを含む紫外線透過抑制材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1、比較例1及び2で得られたポリプロピレンシートの光透過率測定結果を示した図である。
図2】実施例1~5で得られたポリプロピレンシートの光透過率測定結果を示した図である。
図3】実施例1及び比較例2で得られたポリプロピレンペレットを用いて耐候性試験後の引張試験を行った結果を示した図である。
図4】実施例6及び比較例3で得られたポリプロピレンペレットを用いて耐候性試験後の引張試験を行った結果を示した図である。
図5】LCNF含有ニスとニスのみの光透過率測定結果を示した図である。
図6】メタルハライド試験における赤色塗料が塗布された円形の鉄板プレートのA~Fの領域を示した図である。
図7】分散性評価における偏光顕微鏡観察結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の紫外線透過抑制材は、リグノセルロースナノファイバー(以下、「LCNF」と略記する場合がある)を含むことを特徴とするものである。ナノセルロース繊維としては、LCNFの他に、セルロースナノファイバー(CNF)、セルロースナノクリスタル(CNC)、バクテリアセルロースナノファイバー、セルロースとは異なるがキチンナノファイバーやキトサンナノファイバー等が知られているが、本発明者らが鋭意検討を行った結果、LCNFを含むことにより紫外線透過抑制効果が高い紫外線透過抑制材が得られることが明らかとなった。後述する紫外線促進試験における実施例と比較例との対比から、LCNFを含まない比較例2のポリプロピレンペレット及びCNFを含む比較例1のポリプロピレンペレットは、紫外線促進試験後に数平均分子量Mnが低下し、重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比であるMw/Mn(分散度)がブランクPPと比べて大きいことから、分子量分布の広がりが大きいことが分かる。すなわち、紫外線促進試験によりポリプロピレンが分解して、低分子量ポリプロピレンが生成したと考えられる。これに対し、LCNFを含有する実施例1のポリプロピレンペレットは、紫外線促進試験後に分子量が低下しておらず、Mw/Mn(分散度)がブランクPPと比べてほとんど変化がなく、紫外線透過抑制効果が高いことが分かる。このことについて本発明者らは、本発明の紫外線透過抑制剤を樹脂等に添加することにより、樹脂等内部への紫外線侵入が抑制されたため、樹脂等の紫外線劣化(分解および力学的性質の低下)が抑制されたことを明らかにしている。
【0013】
本発明で用いられるLCNFは、高圧ホモジナイザー法、マイクロフリュダイザー法、グラインダー摩砕法、凍結粉砕法、強剪断力混練法、ボールミル粉砕法、ウォータージェット法等、公知の方法により得られたものを使用することができる。LCNFは、リグニンを一定量含むものであり、この点でリグニンを含まないCNFと区別される。LCNFに含まれるリグニンとしては1~80質量%であることが好ましく、2~70質量%であることがより好ましく、3~60質量%であることが更に好ましい。本発明で用いられるLCNFは、リグニン以外にセルロースとヘミセルロースを含むものであり、LCNFに含まれるセルロースとしては、15~80質量%であることが好ましく、20~70質量%であることがより好ましく、30~60質量%であることが更に好ましい。また、LCNFに含まれるヘミセルロースとしては、5~40質量%であることが好ましく、8~35質量%であることがより好ましく、12~30質量%であることが更に好ましい。本発明で用いられるLCNFは、更に灰分と有機溶媒可溶分を一定量含んでいてもよい。LCNFに含まれる灰分としては、0.01~3質量%であることが好ましく、0.05~2質量%であることがより好ましく、0.1~1.5質量%であることが更に好ましい。LCNFに含まれる有機溶媒可溶分としては、0.1~10質量%であることが好ましく、0.5~8質量%であることがより好ましく、1~5質量%であることが更に好ましい。
【0014】
本発明で用いられるLCNFの繊維幅(繊維太さ)としては、2nm~50μmであることが好ましく、5nm~30μmであることがより好ましく、10nm~10μmであることが更に好ましく、15nm~1μmであることが特に好ましい。また、本発明で用いられるLCNFの繊維長さとしては、10nm~5mmであることが好ましく、50nm~2mmであることがより好ましく、100nm~1mmであることが更に好ましく、500nm~500μmであることが特に好ましい。
【0015】
本発明の紫外線透過抑制材は、さらに充填材を含み、当該充填材とLCNFとの質量比(充填材/LCNF)が0.3/1~12/1であることが好適な実施態様である。前記質量比(充填材/LCNF)がこのような範囲にあることで、LCNFが凝集することを防ぐとともに、紫外線透過抑制材を樹脂等に混合した際に均一な組成物が得られる利点を有する。前記質量比(充填材/LCNF)は、0.5/1~10/1であることがより好ましく、0.8/1~8/1であることが更に好ましく、1/1~6/1であることが特に好ましく、1.2/1~4/1であることが最も好ましい。
【0016】
充填材としては、ゴム若しくはプラスチックなどの合成樹脂材料の成形体に配合される充填材や、塗料などの合成樹脂組成物に配合される充填材を使用することができる。例えば、炭酸カルシウム、タルク、シリカ、クレー、ウォラストナイト、チタン酸カリウム、ゾノライト、酸化チタン、酸化マグネシウムなどが挙げられる。中でも、脂肪酸及び/又は脂肪酸塩で表面処理した充填材が好適に用いられる。例えば、充填材と水とを混合して得たスラリーを50~70℃程度に加熱しながら撹拌し、そこに脂肪酸及び/又は脂肪酸塩を投入してさらに撹拌する。これをプレスして脱水後、乾燥したものを使用することができる。充填材は、脂肪酸及び/又は脂肪酸塩に加えて、その他の成分で処理したものであってもよい。その他の成分としては、例えば、シランカップリング剤が挙げられる。
【0017】
脂肪酸としては、飽和脂肪酸、及び不飽和脂肪酸のいずれでもよいが、不飽和脂肪酸は酸化して変質しやすいため、飽和脂肪酸を使用することが好ましい。脂肪酸の炭素数が小さいと、臭気が強くなる。このため脂肪酸の炭素数は6以上であることが好ましく、10以上であることがより好ましい。炭素数が大きいと融点が高くなるため、炭素数は30以下であることが好ましく、24以下であることがより好ましい。脂肪酸としては、例えば、カプロン酸、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、オレイン酸などが挙げられる。脂肪酸塩としては、例えば、上記の脂肪酸のナトリウム塩や上記の脂肪酸のカリウム塩が挙げられる。
【0018】
充填材の粒径は、LCNFの繊維幅と同程度とすることで、混合工程において充填材とLCNFとを均一に混合させることが可能になる。これにより、樹脂材料等に配合した際に、均一な組成物を得ることが可能である。充填材の平均粒径は、2~100μmであることが好ましく、2~50μmであることがさらに好ましい。充填材の平均粒径はレーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径をいう。
【0019】
本発明の紫外線透過抑制材がさらに充填材を含む場合、ペースト状のLCNFと充填材とを剪断力を加えながら湿式混合して混合物を得ることが好適な実施態様である。乾式混合した場合にはLCNFが空気中に拡散してしまうおそれがある。湿式混合することによってLCNFが空気中に拡散して歩留まりが低下することを防ぐことができる。そして、剪断力を加えることによってLCNFと充填剤とが均一に混ざり合う。剪断力を加えることによって、LCNFと充填剤とが、相互に物理的に結合して一体化すると推測される。剪断力を加えながら混合するには、ミキサー、ボールミル、マスコロイダー等の石臼型のミル、ホモジナイザーなどを使用して混合すればよい。
【0020】
前記混合物を得た後、乾燥工程を行って前記混合物の含水率を低下させて乾燥物を得ることが好適な実施態様である。乾燥する方法としては特に限定されず、例えば、任意の容器に前記混合物を入れて、当該容器を温風乾燥機内に収納しておく方法が挙げられる。温風乾燥機に替えて真空乾燥器を使用してもよい。真空乾燥器を使用すれば、沸点を降下させてより短時間で含水率を低下させることができる。
【0021】
前記乾燥物を得た後、粉砕工程を行うことにより本発明の紫外線透過抑制材を好適に得ることができる。粉砕する方法としては特に限定されず、例えば、ミキサー、ピンミル、ローラーミル、ハンマーミルなどの装置を使用して簡単に粉砕することが可能である。任意の方法で粉砕することで粉末状の本発明の紫外線透過抑制材を容易に得ることが可能である。
【0022】
本発明の紫外線透過抑制材は、種々の材料に配合することができる。例えば、本発明の紫外線透過抑制材を、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂;ナイロンなどのポリアミド樹脂;ポリスチレン樹脂;エポキシ樹脂;アセタール樹脂;フッ素系樹脂等の樹脂に配合して、樹脂組成物や樹脂ペレットを製造することが可能である。したがって、紫外線透過抑制材が配合されてなる樹脂組成物が好適な実施態様であり、紫外線透過抑制材が配合されてなる樹脂ペレットも好適な実施態様である。
【0023】
また、本発明の紫外線透過抑制材を、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリル-ブタジエン共重合ゴム、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合ゴム、ウレタン系ゴム、シリコーン系ゴム、フッ素系ゴムなどゴムに配合することも可能であり、スチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマーなどの熱可塑性エラストマーに配合することも可能である。したがって、紫外線透過抑制材が配合されてなるゴムが好適な実施態様であり、紫外線透過抑制材が配合されてなる熱可塑性エラストマーも好適な実施態様である。
【0024】
さらに、本発明の紫外線透過抑制材を、塗料に配合することも可能である。本発明において塗料とは、トップコートとして使用される塗膜材を含むものである。したがって、紫外線透過抑制材が配合されてなる塗料が好適な実施態様であり、紫外線透過抑制材が配合されてなる塗膜材も好適な実施態様である。前記塗料には、必要に応じて、樹脂、溶剤等が配合されてなることが好適な実施態様である。樹脂としては、酢酸ビニル系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリウレア樹脂などが挙げられる。溶剤としては、水又は水を主成分とする水性溶媒;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノールなどのアルコール系溶媒;エチレングリコール、ジエチレングリコール、チオジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコールなどの多価アルコール系溶媒;トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒;ジメチルエーテル、エチルメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサンなどのエーテル系溶媒;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル系溶媒等が挙げられる。前記塗料としては、着色顔料を含む塗料であってもよいし、ニス等に代表される着色顔料を含まないクリア塗料であってもよい。中でも、着色顔料を含む水性塗料であることが好適な実施態様であり、トップコートとして使用される水性クリア塗料であることも好適な実施態様である。その他、本発明の効果を阻害しない範囲で、可塑剤、分散剤、沈降防止剤、乳化剤、増粘剤、消泡剤、防カビ剤、防腐剤、皮張り防止剤、たれ防止剤などの添加剤を配合してもよい。
【0025】
上述のように、本発明の紫外線透過抑制材は、種々の材料に配合することができるため、農業用樹脂シート;自動車用樹脂部品;洗濯バサミ、樹脂ロープなどの日用品;自動車、建材、文房具などの塗料(塗膜材を含む);住宅外壁に使われるシーリング材;潤滑剤;粘着剤などの紫外線で劣化することが考えられる各種用途に好適に用いることができる。なお、本発明の紫外線透過抑制材を種々の材料に配合する場合、紫外線透過抑制効果を阻害しない範囲で分散不良であってもよい。外観が良好であることが望ましい用途に使用する場合には分散状態が良好であることが好ましい。
【実施例0026】
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明する。以下の実施例で使用した原料は以下の通りである。
[原料]
リグノセルロースナノファイバー(LCNF;灰分0.3質量%、有機溶媒可溶分2.9質量%、リグニン34質量%、セルロース47質量%、ヘミセルロース15質量%)は、モリマシナリー株式会社製のセルフィムL100を使用した。繊維幅は30~300nm、繊維長は100μm以下である。
セルロースナノファイバー(CNF;リグニン0質量%、セルロース90質量%、ヘミセルロース10質量%)は、モリマシナリー株式会社製のセルフィムC500を使用した。繊維幅は20~200nm、繊維長は500μm以下である。
脂肪酸で表面処理した充填材は、白石工業株式会社の白艶華CCを使用した。この充填材は、脂肪酸で表面処理をした炭酸カルシウムであって、レーザー回折・散乱法によって測定した平均粒子径は21.1μmである。充填材は2次凝集体となっているためか、カタログ値よりも粒径が大きい。
ニス(固形分52.8%)は、和信ペイント株式会社製の水性ウレタンニスを使用した。
【0027】
実施例1
[紫外線透過抑制材]
含水率90質量%であるペースト状のLCNFと、脂肪酸で表面処理した充填材とを重量比率40:60でミキサー(株式会社カワタ製「スーパーミキサー:型番SMV-20」)を使用して混合した。前記混合して得られた混合物を温風乾燥機(株式会社松井製作所製「箱型乾燥機」)で温風乾燥し、ミキサー(株式会社カワタ製「スーパーミキサー:型番SMV-20」)を使用して回転数3600rpmで粉砕し、紫外線透過抑制材を粉末として得た。
【0028】
[ポリプロピレンペレットの作製]
ポリプロピレンの原料ペレットを混練機に投入して、加熱混練して溶融したところで、ポリプロピレン100重量部に対して1重量部の相溶化剤として無水マレイン酸変性ポリプロピレン(化薬アクゾ株式会社、カヤブリッド006PP)を投入し、その後、実施例で得られた紫外線透過抑制材を投入した。投入量は、ポリプロピレン、無水マレイン酸変性ポリプロピレン、及び紫外線透過抑制材を含む全重量に対してLCNFが4質量%となるように紫外線透過抑制材を投入した。その後、さらに混錬してLCNF含有ポリプロピレンペレットを作製した。
【0029】
[ポリプロピレンシートの作製]
得られたペレットをプレス機にセットして、180℃、15MPaで2分間プレス後、すぐに冷却してポリプロピレンシートを作製した。
【0030】
実施例2~5
実施例1において、LCNFの含有量がそれぞれ0.4質量%、1.2質量%、2質量%、2.8質量%となるようにLCNF含有ポリプロピレンペレットを作製し、当該ペレットを用いてポリプロピレンシートを作製した。
【0031】
実施例6
実施例1において、ポリプロピレンの原料ペレットの代わりにポリアミド(ナイロン6)の原料ペレットを使用した以外は同様にしてLCNF含有ポリアミドペレットを作製した。
【0032】
比較例1
実施例1において、LCNFの代わりにCNFを使用した以外は同様にして粉末を得て、CNF含有ポリプロピレンペレット及びポリプロピレンシートを作製した。
【0033】
比較例2
実施例1において、紫外線透過抑制材を使用しなかった以外は同様にしてポリプロピレンペレット及びポリプロピレンシートを作製した。
【0034】
比較例3
実施例1において、ポリプロピレンの原料ペレットの代わりにポリアミド(ナイロン6)の原料ペレットを使用し、紫外線透過抑制材を使用しなかった以外は同様にしてポリアミドペレットを作製した。
【0035】
[ポリプロピレンシートの透過率測定]
実施例1~5及び比較例1~2のポリプロピレンシートに対し、積分球を導入した紫外可視近赤外分光光度計(日本分光株式会社製「V-750」)で光透過率を測定した。得られた結果を図1及び2に示す。
【0036】
[キセノンウェザメータによる紫外線促進試験]
実施例1、比較例1及び2で得られたポリプロピレンペレットを用いて、210℃にて射出成形を行い、それぞれの成形体(サイズ:60mm×80mm×5mm)を得た。当該成形体に対し、キセノンウェザメータにより400時間の紫外線促進試験を行った。当該促進試験後の分子量変化を高温GPC装置(HLC-8321GPC/HT、検出器RI)で測定した。溶離液として1,2,4-トリクロロベンゼンを使用した。測定試料は、1,2,4-トリクロロベンゼンに溶解させ、不溶解物を除去したものを使用した。得られた結果を表1に示す。表1から分かるように、比較例2のポリプロピレンペレット(LCNF無添加)を用いた成形体は、紫外線促進試験後に分子量が低下した。Mw/Mn(分散度)は、ブランクPPと比べて大きいことから、分子量分布の広がりが大きいことが分かる。すなわち、紫外線促進試験によりポリプロピレンが分解して、低分子量ポリプロピレンが生成したと考えられる。また、比較例1のポリプロピレンペレット(CNF含有)を用いた成形体は、紫外線促進試験後に分子量が少し低下した。一方、実施例1のポリプロピレンペレット(LCNF含有)を用いた成形体は、紫外線促進試験後に分子量が低下していなかった。したがって、LCNFを含有することにより、紫外線透過抑制効果を奏することが分かった。
【0037】
【表1】
【0038】
[耐候性試験後の引張試験]
実施例1と比較例2で得られたポリプロピレンペレット、及び実施例6と比較例3で得られたポリアミドペレットを用いて、JIS K7161-2:2014に準拠して試験片(厚み4mm、幅10mm)を作成し、露天により暴露試験(0週、7週、21週、35週、49週、63週)を行った。JIS K7161-1:2014に準拠し、引張圧縮試験機(株式会社島津製作所製「AGS-5KNG」)を用いて試験速度2mm/minで引張試験を行い、応力、弾性率、伸びをそれぞれ求めた。得られた結果を表2、表3、図3及び図4に示す。
【0039】
【表2】
【0040】
【表3】
【0041】
[ニスに分散後の透過率測定]
ポリプロピレンの板上にニスのみを塗布し、乾燥後の当該ニスを剥離させた。また、ニス全量に対してLCNFが0.5質量%となるように、ニス中にLCNFを添加し、筆で攪拌してLCNF含有ニスを調製した。このLCNF含有ニスをポリプロピレンの板上に塗布し、乾燥後の当該LCNF含有ニスを剥離させた。積分球を導入した紫外可視近赤外分光光度計(日本分光株式会社製「V-750」)で光透過率を測定した。得られた結果を図5に示す。
【0042】
[メタルハライド試験後の色変化]
LCNFをそれぞれ0.25質量%、0.5質量%、1質量%及び1.5質量%含むニスを調製した。図6に示されるように、赤色塗料が塗布された円形の鉄板プレートをA~Fの領域に分け、E及びFの領域にはLCNFを含有するニスをトップコートし、C及びDの領域にはニスのみをトップコートし、A及びBの領域にはトップコートを行わなかった。そして、B、C及びEの領域のみ紫外線照度150mW/cmで24時間照射するメタルハライド試験を行い、カラーリーダー(コニカミノルタ株式会社製「CR-10」)を用いてA~Fの領域表面の色測定を行った。得られた結果を表4に示す。
【0043】
【表4】
【0044】
[分散性の評価]
実施例1において、温風乾燥後の粉砕を回転数1800rpmで粉砕し、粉砕が不十分な紫外線透過抑制材を粉末として得た。当該粉末を使用してLCNFの含有量が4質量%となるようにポリプロピレンペレットを作製し、当該ペレットを用いて分散不良のポリプロピレンシートを作製した。偏光顕微鏡(株式会社ニコン製「ECLIPSE Ci-POL」)を用いて観察した。観察は偏光板を用いずに行った。実施例1と比較例2のポリプロピレンシートについても同様に観察した。得られた結果を図7に示す。分散不良のポリプロピレンシートでは、100~300μm程度の凝集物が観察された。一方、実施例1のポリプロピレンシートでは、10~30μm程度の凝集物が観察された。LCNFを含まない比較例2のポリプロピレンシートでは、凝集物は観察されなかった。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7