(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024164431
(43)【公開日】2024-11-27
(54)【発明の名称】反射抑制シートおよびその製造方法、ならびに反射抑制塗料および添加剤
(51)【国際特許分類】
G02B 5/00 20060101AFI20241120BHJP
B32B 5/18 20060101ALI20241120BHJP
C08J 9/33 20060101ALI20241120BHJP
G02B 1/111 20150101ALI20241120BHJP
【FI】
G02B5/00 B
B32B5/18
C08J9/33
G02B1/111
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023079895
(22)【出願日】2023-05-15
(71)【出願人】
【識別番号】000005359
【氏名又は名称】富士紡ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100156199
【弁理士】
【氏名又は名称】神崎 真
(74)【代理人】
【識別番号】100124497
【弁理士】
【氏名又は名称】小倉 洋樹
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 基文
(72)【発明者】
【氏名】小池 堅一
(72)【発明者】
【氏名】新門 秀明
【テーマコード(参考)】
2H042
2K009
4F074
4F100
【Fターム(参考)】
2H042AA03
2H042AA11
2H042AA15
2H042AA22
2H042BA02
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2H042BA15
2H042BA16
2K009AA02
2K009CC01
2K009CC35
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4F100AD11B
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4F100JN06
(57)【要約】
【課題】 反射抑制効果の高い反射抑制シート1およびその製造方法、ならびに反射抑制塗料およびこれらに好適な添加剤を提供する。
【解決手段】 基材層2と、バインダー樹脂4および多孔質樹脂粒子5を有する樹脂層3とから構成された反射抑制シート1、バインダー樹脂4および多孔質樹脂粒子5を含んだ反射抑制塗料、多孔質樹脂粒子5を含んだ添加剤に関する。
そして上記多孔質樹脂粒子5は、カーボンブラックを含むポリウレタン樹脂発泡体切片によって構成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層と、バインダー樹脂および多孔質樹脂粒子を有する樹脂層とから構成された反射抑制シートであって、
上記多孔質樹脂粒子は、カーボンブラックを含むポリウレタン樹脂発泡体切片からなることを特徴とする反射抑制シート。
【請求項2】
上記多孔質樹脂粒子は少なくとも樹脂層表面に点在し、
また各多孔質樹脂粒子の内部に上記バインダー樹脂が浸透した状態で凝集したものを含むことを特徴とする請求項1に記載の反射抑制シート。
【請求項3】
基材層と、バインダー樹脂および多孔質樹脂粒子を有する樹脂層とから構成される反射抑制シートの製造方法であって、
湿式成膜法によりカーボンブラックを含んだポリウレタン樹脂シートを得る工程と、
上記ポリウレタン樹脂シートを研削し、多孔質樹脂粒子としてのポリウレタン樹脂発泡体切片を得る工程と、
上記多孔質樹脂粒子をバインダー樹脂と混合して反射抑制塗料を得る工程と、
上記反射抑制塗料を基材に塗布して上記樹脂層を形成する反射抑制シートを得る工程とを有することを特徴とする反射抑制シートの製造方法。
【請求項4】
ポリウレタン樹脂シートを得る工程では、上記多孔質樹脂粒子100質量部に対して、1~35質量部のカーボンブラックを混合させることを特徴とする請求項3に記載の反射抑制シートの製造方法。
【請求項5】
上記多孔質樹脂粒子を得る工程では、
表面に最小フェレ径B2が1~50μmの開孔を有するとともに、上記開孔の最小フェレ径B2に対する最大フェレ径B1の比が1.5~5.0の開孔を含み、上記開孔は表面に開孔していない別の孔と通気する連通構造を備えたポリウレタン樹脂発泡体切片を作製することを特徴とする請求項3に記載の反射抑制シートの製造方法。
【請求項6】
バインダー樹脂および多孔質樹脂粒子を含んだ反射抑制塗料であって、
上記多孔質樹脂粒子はカーボンブラックを含むポリウレタン樹脂発泡体切片からなることを特徴とする反射抑制塗料。
【請求項7】
多孔質樹脂粒子を含んだ添加剤であって、
上記多孔質樹脂粒子は、複数の突起部を備えた、最大フェレ径Aが10~100μmのポリウレタン樹脂発泡体切片からなる粒子であって、
また上記多孔質樹脂粒子は、表面に最小フェレ径B2が1~50μmの開孔を有するとともに、上記開孔の最小フェレ径B2に対する最大フェレ径B1の比が1.5~5.0の開孔を含み、上記開孔は表面に開孔していない別の孔と通気する連通構造を備え、
かつ上記多孔質樹脂粒子は、当該多孔質樹脂粒子100質量部に対して、1~35質量部のカーボンブラックを含んでいることを特徴とする添加剤。
【請求項8】
上記多孔質樹脂粒子を構成するマトリクス樹脂は、ポリウレタン樹脂であって、100%モジュラスは1~40MPa、破断強度(kg/mm2)×破断伸度(%)は25~1500であることを特徴とする請求項7に記載の添加剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は反射抑制シートおよびその製造方法、ならびに反射抑制塗料および添加剤に関し、詳しくは基材層とバインダー樹脂および多孔質樹脂粒子を有する樹脂層とから構成された反射抑制シートおよびその製造方法、バインダー樹脂および多孔質樹脂粒子を含んだ反射抑制塗料、ならびに多孔質樹脂粒子を含んだ添加剤に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、カメラやビデオカメラ等の光学機器では、鏡筒等の光路部での乱反射や散乱による迷光が画質等に影響を与えることから、鏡筒部や絞り等の光路部に反射抑制シートを貼付したり、反射抑制塗料を塗布したりすることにより迷光対策を行っている。
また、このような反射抑制シートや反射抑制塗料は、例えば自動車のメータ類やいわゆるヘッドアップディスプレイ(HUD)にも用いられている。
そして、上記反射抑制シートを構成する樹脂層や、当該反射抑制シートを作成する際に使用される反射抑制塗料としては、バインダー樹脂と樹脂粒子とを含むものが知られている(特許文献1、2)。
上記特許文献1においては、上記樹脂粒子として多孔質で球状のPMMA微粒子を用いており、上記PMMA微粒子の少なくともその一部が、樹脂層の表面から突出する形でほぼ全面を覆う構成としている。また、上記特許文献2では上記樹脂粒子として複数の凸部を有する異形繊維を用いており、上記異形繊維の上記複数の凸部の先端を樹脂層の表面から突出させる構成としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5655387号公報
【特許文献2】特開2020-8843号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このように、反射抑制シートや反射抑制塗料、ならびにこれらに用いる添加剤としては様々なものが知られているが、依然として反射抑制効果の高いものが求められている。
このような問題に鑑み、本発明は反射抑制効果の高い反射抑制シートおよびその製造方法、ならびに反射抑制塗料およびこれらに好適な添加剤を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、請求項1の発明にかかる反射抑制シートは、基材層と、バインダー樹脂および多孔質樹脂粒子を有する樹脂層とから構成された反射抑制シートであって、
上記多孔質樹脂粒子は、カーボンブラックを含むポリウレタン樹脂発泡体切片からなることを特徴としている。
請求項3の発明にかかる反射抑制シートの製造方法は、基材層と、バインダー樹脂および多孔質樹脂粒子を有する樹脂層とから構成される反射抑制シートの製造方法であって、
湿式成膜法によりカーボンブラックを含んだポリウレタン樹脂シートを得る工程と、
上記ポリウレタン樹脂シートを研削し、多孔質樹脂粒子としてのポリウレタン樹脂発泡体切片を得る工程と、
上記多孔質樹脂粒子をバインダー樹脂と混合して反射抑制塗料を得る工程と、
上記反射抑制塗料を基材に塗布して上記樹脂層を形成する反射抑制シートを得る工程とを有することを特徴としている。
請求項6の発明にかかる反射抑制塗料は、バインダー樹脂および多孔質樹脂粒子を含んだ反射抑制塗料であって、
上記多孔質樹脂粒子はカーボンブラックを含むポリウレタン樹脂発泡体切片からなることを特徴としている。
請求項7の発明にかかる添加剤は、多孔質樹脂粒子を含んだ添加剤であって、
上記多孔質樹脂粒子は、複数の突起部を備えた、最大フェレ径Aが10~100μmのポリウレタン樹脂発泡体切片からなる粒子であって、
また上記多孔質樹脂粒子は、表面に最小フェレ径B2が1~50μmの開孔を有するとともに、上記開孔の最小フェレ径B2に対する最大フェレ径B1の比が1.5~5.0の開孔を含み、上記開孔は表面に開孔していない別の孔と通気する連通構造を備え、
かつ上記多孔質樹脂粒子は、当該多孔質樹脂粒子100質量部に対して、1~35質量部のカーボンブラックを含んでいることを特徴としている。
【発明の効果】
【0006】
上記発明によれば、反射抑制効果の高い反射抑制シート、反射抑制塗料、ならびにこれらに好適な添加剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本実施形態にかかる反射抑制シートの断面模式図
【
図5】反射抑制効果についての実験結果を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下図示実施例について説明すると、
図1は本発明にかかる反射抑制シート1の断面模式図を示しており、当該反射抑制シート1は、基材層2と樹脂層3とから構成され、上記樹脂層3はバインダー樹脂4と多孔質樹脂粒子5とから構成されている。
そして上記反射抑制シート1を製造する際には、以下に説明するように、バインダー樹脂4と多孔質樹脂粒子5とを含んだ本発明にかかる反射抑制塗料を用い、反射抑制塗料を調製する際には、上記多孔質樹脂粒子5を含んだ本発明にかかる添加剤を用いるようになっている。
【0009】
上記基材層2には例えば、高分子フィルムやフォーム材(スポンジ)、織布、不織布、編地等の繊維基材を用いることができる。これらの中でも、得られた反射抑制シート1を曲面や凹凸部に追従させて貼付けることができることから、フォーム材や繊維基材を用いることが好ましく、繊維基材の中でも不織布を用いることが好ましい。また上記繊維基材については樹脂含浸されていてもよい。
基材層2として不織布を用いる場合の厚さは10~5000μmが好ましく、50~2500μmがより好ましく、100~2000μmがさらにより好ましい。
また、基材層2として不織布を用いる場合の目付は5~2000g/m2が好ましく、10~1500g/m2がより好ましく、50~1300g/m2がさらにより好ましい。
基材層2に不織布を用いることで、樹脂層3と基材層2との界面において、不織布に用いられる繊維と樹脂層とが絡み合った状態を形成することとなるため、剥離を抑制することができる。
【0010】
上記樹脂層3は、黒色のバインダー樹脂4と、カーボンブラックを含む微細な多孔質樹脂粒子5とから構成されている。
図1に示すように、多孔質樹脂粒子5は樹脂層3の表面に点在しており、また各多孔質樹脂粒子5としては、その内部に上記バインダー樹脂が浸透した状態で凝集したものも含まれている。
上記バインダー樹脂4としては、カーボンブラック等の黒色顔料を含んだアクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、アルキド系樹脂、およびポリエステル系樹脂等を主成分として含む市販の黒色塗料を使用することができる。これらの黒色塗料は、単独または2種類以上を混合して用いることもできる。
【0011】
図2は上記多孔質樹脂粒子5を500倍に拡大した写真となっており、以下に詳述するように、最大フェレ径Aが10~100μm程度のポリウレタン樹脂発泡体切片となっており、各多孔質樹脂粒子5の外面には複数の突起部5aが形成され、また表面には多数の略楕円形状を有した小さな開孔が形成されている。
本発明における多孔質樹脂粒子5は、特許文献1、2に記載されるPMMAやポリエステル等からなる微粒子とは異なり、ポリウレタン樹脂発泡体からなる相対的に軟質の微粒子となっており、軟質かつスポンジ状であることから、バインダー樹脂が浸透し易く、多孔質樹脂粒子の内部に浸透した状態となっている。また、その一部は表面上で凝集した状態となっている。
【0012】
次に、上記多孔質樹脂粒子5を含んだ添加剤の製造方法を説明する。
図3は、上記添加剤を製造するための添加剤製造装置11を示し、ポリウレタン樹脂シートSを供給する供給ローラ12と、当該シートSの表面を研削するバフローラ13と、研削により生じた多孔質樹脂粒子5を回収する回収ボックス14と、研削後のシートSを回収する回収ローラ15とを備えている。
上記供給ローラ12には、上記多孔質樹脂粒子5を採取するためのポリウレタン樹脂シートSが巻回され、当該供給ローラ12から上記シートSを送り出しながら、上記回収ローラ15によって上記シートSを巻き取ることにより、所定の速度でシートSを移動させるようになっている。
また上記供給ローラ12と回収ローラ15との間には、上記バフローラ13に対向した位置に保持ローラ16が設けられており、上記シートSはバフローラ13と保持ローラ16との間を通過しながら、上記バフローラ13によって研削されるようになっている。
上記バフローラ13の外周には所要の粗さのサンドペーパーが装着され、当該バフローラ13を回転させながら上記シートSに押し当てることで、当該シートSの表面を研削し、その際に発生した粒子が上記多孔質樹脂粒子5となって、上記回収ボックス14に回収されるようになっている。
【0013】
上記多孔質樹脂粒子5を採取するために用いるポリウレタン樹脂シートSはポリウレタン樹脂発泡体であり、従来公知の湿式成膜法を用いて製造され、ポリウレタン樹脂溶液を調製する準備工程、ポリウレタン樹脂溶液を成膜基材に連続的に塗布し、水系凝固液中でポリウレタン樹脂をシート状に凝固再生させる凝固再生工程、凝固再生したポリウレタン樹脂を洗浄し乾燥させる洗浄・乾燥工程とを経て製造されるようになっている。
【0014】
上記準備工程では、ポリウレタン樹脂、ポリウレタン樹脂を溶解可能な水混和性の有機溶媒、所要の添加剤ならびにカーボンブラックを混合して、ポリウレタン樹脂を溶解させる作業を行う。
ポリウレタン樹脂は、ポリエステル系、ポリエーテル系、ポリカーボネート系等の樹脂から選択して用いることができ、DIC社製の商品名「クリスボン」や、三洋化成工業社製の商品名「サンプレン」、大日精化工業社製の商品名「レザミン」など、市場で入手可能な樹脂を用いてもよく、所望の特性を有する樹脂を自ら製造してもよい。
有機溶媒としては、非プロトン性有機溶媒を挙げることができる。より具体的にはN,N-ジメチルホルムアミド(以下、DMFと略記する。)やN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルスルホキシド(DMSO)等を挙げることができるが、本例では、DMFを用いる。ここでは上記ポリウレタン樹脂を20~40質量%の範囲となるようにDMFに溶解させる。
上記添加剤としては、樹脂内に形成される開孔の大きさや量(個数)を制御するため、開孔を促進させる親水性添加剤、ポリウレタン樹脂の再生を安定化させる疎水性添加剤等を用いることができる。
【0015】
上記シートSを構成するポリウレタン樹脂は、1~40MPaの100%モジュラスを有することが好ましく、2~25MPaの100%モジュラスを有することがより好ましい。
100%モジュラスが上記範囲内であると、シートSの表面を研削する際にポリウレタン樹脂が伸びて開孔を略楕円形に変形させ易く、多孔質樹脂粒子5の空隙を大きくすることができるうえ、引き伸ばされて破断した部分が突起部5aとなって残存し易くなる。
なお、モジュラスとは、樹脂の硬さを表す指標であり、無発泡の樹脂シートを100%伸ばしたとき(元の長さの2倍に伸ばしたとき)に掛かる荷重を断面積で割った値である(以下、100%モジュラスと呼ぶことがある。)。この値が高い程、硬い樹脂である事を意味する。
【0016】
また、シートSを構成するポリウレタン樹脂のマトリックス成分は、破断強度(kg/mm2)×破断伸度(%)が25~1500であることが好ましく、35~1000であることがより好ましく、50~800であることがさらに好ましい。
ここで上記破断伸度は50~300%であることが好ましい。破断伸度は樹脂を破断するまで伸長させたときの伸長度合を示し、値が大きいほど伸び易く変形し易い。
また、破断強度は0.5~5.0kg/mm2であることが好ましい。破断強度は樹脂を破断するまで伸長させたときの応力を示し、値が大きいほど破断しにくい強靭な樹脂であり剛性が大きい。
そして、破断強度(kg/mm2)×破断伸度(%)の値が25~1500の範囲にあると、引き伸ばされて変形した樹脂が塑性変形し元に戻らず伸びたままの突起部5aを形成することができ、反射抑制効果を向上させることができる。
破断強度(kg/mm2)×破断伸度(%)の値が25より小さいと、樹脂がちぎれ易すく伸びにくいため、突起部5aが形成されにくい。反対に、破断強度(kg/mm2)×破断伸度(%)のが1500を超える場合は、引き伸ばされた樹脂が元に戻ってしまい、突起部5aが形成されにくい。
【0017】
破断伸度は、シートSを略ダンベル形状に打ち抜き、測定試料を測定機の上下エアチャックにはさみ、引張速度100mm/min、初期つかみ間隔50mmで測定を開始し、測定値がピーク(切断)に達した値を強力(最大荷重)として採用する。
n数2で行ない、破断強度(kgf/mm2)=強力(最大荷重)kgf/(厚さ(mm)×試料巾(10mm))より破断強度を算出し、その平均値から破断強度を算出した。
ポリウレタン樹脂シートの破断伸度は、上記引張り測定における破断した時の伸度であり、引張時の破断強度および伸度は万能試験機(エー・アンド・デイ社製、テンシロン万能試験機RTC-1210A)にて日本工業規格(JIS K6550)に準じた方法で測定した。
【0018】
上記カーボンブラックは、光の反射を抑制するための黒色顔料として機能するとともに、非弾性フィラーとして使用され、ポリウレタン樹脂溶液100質量部に対し、カーボンブラックを1~35質量部含むことが好ましく、3~30質量部含むことがより好ましく、5~25質量部含むことがさらにより好ましい。
カーボンブラックが上記範囲内である場合、得られる多孔質樹脂粒子が反射抑制に対して効果的に作用すると共に、カーボンブラックがポリウレタン樹脂シートに対して適当な脆性を付与するために、引き伸ばされた突起部5aや一定方向に延びた略楕円形状を有する小さな開孔が形成され易い。
【0019】
上記凝固再生工程では、上記準備工程で得られたポリウレタン樹脂溶液を、常温下でナイフコータ等の塗布装置を用いて、帯状の成膜基材にシート状に略均一に塗布する作業を行う。
このとき、ナイフコータ等と成膜基材との間隙(クリアランス)を調整することで、ポリウレタン樹脂溶液の塗布厚み(塗布量)を調整する。本実施形態においては、乾燥後のポリウレタン樹脂シートの厚み(成膜厚み)が200~3000μmの範囲となるように、塗布厚みを調整する。
【0020】
続いて、成膜基材に塗布されたポリウレタン樹脂溶液を、ポリウレタン樹脂に対して貧溶媒である水を主成分とする凝固液(水系凝固液)中に連続的に案内する。
凝固液には、ポリウレタン樹脂の再生速度を調整するために、DMFやDMF以外の極性溶媒等の有機溶媒を添加してもよいが、本例では、水を使用する。
凝固液中では、まず、ポリウレタン樹脂溶液と凝固液との界面に皮膜が形成され、皮膜の直近のポリウレタン樹脂中にスキン層を構成する無数の微多孔が形成される。
その後、ポリウレタン樹脂溶液中のDMFの凝固液中への拡散と、ポリウレタン樹脂中への水の浸入との協調現象により、連続発泡構造を有するポリウレタン樹脂の再生が進行する。
【0021】
ここで、ポリウレタン樹脂の再生に伴う発泡形成について説明すると、凝固液中で被膜が形成された後、ポリウレタン樹脂では凝集力が大きくなるために皮膜の直近のポリウレタン樹脂中で急速に再生が進行し、スキン層が形成される。
このため、スキン層が形成された後では、凝固前のポリウレタン樹脂溶液中のポリウレタン樹脂がスキン層側に移動し凝集することとなる。これに伴い成膜基材側でポリウレタン樹脂量が減少するため、スキン層側と比べて成膜基材側が肥大化した発泡が形成される。
DMFのポリウレタン樹脂溶液からの脱溶媒、すなわち、DMFと水との置換により、大きな発泡が形成され、スキン層の微多孔、および、大きな発泡が小さな発泡と網目状に連通する。
図4は、500倍に拡大したシートSの表面写真を示しており、大きな開孔と大きな開孔との間の樹脂壁に、直径1~50μmの多数の小さな開孔が形成されており、これら大小の開孔が内部で表面に開孔していない別の孔と通気する連通構造が構成されている。
【0022】
上記洗浄・乾燥工程では、上記凝固再生工程で再生したポリウレタン樹脂シートSを水等の洗浄液中で洗浄して、ポリウレタン樹脂中に残留するDMFを除去した後、乾燥させる作業を行う。
ポリウレタン樹脂の乾燥には、本例では、内部に熱源を有するシリンダを備えたシリンダ乾燥機を用いる。ポリウレタン樹脂がシリンダの周面に沿って通過することにより乾燥するようになっている。
このようにして得られたポリウレタン樹脂シートSは、その後ロール状に巻き取られ、上記添加剤製造装置11の供給ローラ12として使用される。
【0023】
続いて、上記添加剤製造装置11を用いて、上記供給ローラ12から供給されるポリウレタン樹脂シートSより上記多孔質樹脂粒子5を得る工程を行い、これにより上記添加剤を製造する。
上記添加剤製造装置11における上記供給ローラ12によるシートSの送り速度は0.5~15m/minの範囲に設定され、バフローラ13には好ましくは粗さ100~350番手、より好ましくは粗さ150~250番手のサンドペーパーを装着し、当該バフローラ13を1000~3000rpmの回転数で回転させながら、当該バフローラ13をシートSに押し当てる。
本実施形態では、バフローラ13にサンドペーパーが使用されるが、ダイヤモンドバフローラー等、均一な処理(研削除去)ができるものであればいずれも使用することができる。
上記バフローラ13がポリウレタン樹脂シートSの表面に回転しながら接触すると、ポリウレタン樹脂シートSの表面ではバフローラ13との摩擦によってポリウレタン樹脂の一部が引っ張られて伸び、当該伸びた部分がさらに細くなってその後破断し、多孔質樹脂粒子5となって上記回収ボックス14に回収される。
このとき多孔質樹脂粒子5に形成される複数の突起部5aは、ポリウレタン樹脂シートSに使用するポリウレタン樹脂のモジュラスに応じて、バフ番手や供給ローラ12とシートの送り速度、バフローラの回転数等を調整することにより得ることができる。
【0024】
このように、供給ローラ12から供給されるポリウレタンシートSを引き伸ばして破断させたことにより得られた上記多孔質樹脂粒子5は、複数の突起部5aを備えた、最大フェレ径Aが10~100μmの粒子となっている。
また上記多孔質樹脂粒子5の表面には、一定方向に延びた略楕円形状を有する1~50μmの小さな開孔が形成され、これら大小の開孔が内部で表面に開孔していない別の孔と通気する連通構造が構成されている。
さらに本実施形態の多孔質樹脂粒子5において、上記小さな開孔は、最小フェレ径B2が1~50μmであって、また最小フェレ径B2に対する最大フェレ径B1の比が1.5~5.0の開孔を含んでいる。最小フェレ径B2は1~30μmであることが好ましく、1~20μmであることがより好ましい。
上記多孔質樹脂粒子5の最大フェレ径A、および、多孔質樹脂粒子5の表面に存在する小さな開孔の最大フェレ径B1および最小フェレ径B2は、走査型電子顕微鏡(SEM)写真により求めることができる。
具体的には、SEMで観察を行った多孔質樹脂粒子5の画像ファイルを例えば画像解析用ソフトウェアImageJ(登録商標)を用いることにより、フェレ径を求めることができる。
多孔質樹脂粒子5の最大フェレ径Aとは、多孔質樹脂粒子5を平行線ではさんだ場合に、平行線の間隔が最も大きくなる径のことであり、任意30個の多孔質樹脂粒子5の最大フェレ径を測定し、これらの平均値を上記最大フェレ径Aとした。
また開孔の最大フェレ径B1とは、開孔を平行線ではさんだ場合に、平行線の間隔が最も大きくなる径のことであり、最小フェレ径B2とは、開孔を平行線ではさんだ場合に、平行線の間隔が最も小さくなる径のことをいい、多孔質樹脂粒子5に形成された任意30個の開孔について、それぞれ最大フェレ径および最小フェレ径を測定し、それらの平均値を最大フェレ径B1および最小フェレ径B2とした。また、上記任意30個の開孔について、最大フェレ径/最小フェレ径の値の平均値を最小フェレ径B2に対する最大フェレ径B1の比とした。
【0025】
また上記多孔質樹脂粒子5には、ポリウレタン樹脂から破断した部分が引き伸ばされることにより、塑性変形して尖った幾何学的な突起部5aが複数形成されている。
上記突起部5aのなかには、引き伸ばされる際に一方向に伸びた上記略楕円状の開孔が形成されたものもある。
【0026】
このようにして得られた多孔質樹脂粒子5は添加剤として用いられ、上記反射抑制塗料は、上述したバインダー樹脂4と上記多孔質樹脂粒子5からなる添加剤とをミキサーに投入し、これらを攪拌することで得ることができる。
本実施形態では、使用する黒色塗料(バインダー樹脂4)の100質量部に対して、多孔質樹脂粒子5を0.1~30質量部の範囲で含むことが好ましく、0.5~20質量部の範囲とすることがより好ましく、1~10質量部の範囲で含むことがさらにより好ましい。
30質量部以下とすることで、形成される樹脂層3からの多孔質樹脂粒子5の脱落を防止することが可能となる。また反射抑制塗料の過度な粘度上昇を抑制することができるため、塗布する際にムラとなることを防止することができる。0.1質量部以上とすることで、良好な反射抑制効果を得ることが可能となる。
【0027】
そして上記反射抑制塗料を用いて上記反射抑制シート1を作製する際には、上記反射抑制塗料を上記基材層2の表面に塗布する。その際にはスプレーガン等による噴霧や、刷毛やコーターによる塗布が挙げられる。
また種々の印刷手法を用いることもでき、例えば、凸版印刷の一種であるフレキソ印刷、凹版印刷の一種であるグラビア印刷、孔版印刷の一種であるスクリーン印刷による方法等を使用することができる。
その後、反射抑制塗料を塗布した基材層2を所定温度で所定時間乾燥させることで、反射抑制シート1を得ることができる。
また本実施形態の反射抑制塗料は、直接対象物の表面に塗布することも可能である。
【0028】
以下、上記実施例に基づいて作成した本発明にかかる実施例1、2についての反射抑制シート1と、上記多孔質樹脂粒子5からなる添加剤を含まない従来公知の比較例としての反射抑制シートについて、以下の実験を行った。
ここで反射抑制シート1に使用する多孔質樹脂粒子5の最大フェレ径A、最大フェレ径B1、最小フェレ径B2を以下のように測定する。
フェレ径は、多孔質樹脂粒子5を電子顕微鏡(日本電子社製、JMS-5500LV)にて観察し、任意30点の多孔質樹脂粒子5を測定用サンプルとして抽出する。
その後、抽出した画像を画像処理ソフトImageJにて解析し、画像の二値化を行い、多孔質樹脂粒子5の最大フェレ径A、多孔質樹脂粒子5表面に存在する小さな開孔の最大フェレ径B1、最小フェレ径B2を測定する。
最大フェレ径A、最大フェレ径B1、最小フェレ径B2は、任意の30点の最大フェレ径、最小フェレ径の平均値として求められる。また、最小フェレ径B2に対する最大フェレ径B1の比は任意の30点の最大フェレ径/最小フェレ径の値の平均値として求められる。
【0029】
実施例1
実施例1にかかる反射抑制シート1の樹脂層3は、バインダー樹脂4の100質量部に対し、上記製造方法に基づいて作成した多孔質樹脂粒子5からなる添加剤を2質量部混合したものとなっている。上記バインダー樹脂4として、市販の黒色塗料を用いた。
そして、上記添加剤としての多孔質樹脂粒子5を添加した上記バインダー樹脂溶液をミキサーで混合して反射抑制塗料を作製し、これを厚さ134μm、目付78g/m2の基材層2としての不織布の表面に、スクリーン印刷の手法を用いて塗布することで反射抑制シート1を得た。
【0030】
実施例2
実施例2にかかる反射抑制シート1は、実施例1の反射抑制シート1に対し、多孔質樹脂粒子5を5質量部混合させた以外、上記実施例1と同様の作業を用いて反射抑制シート1を得た。
【0031】
比較例
比較例には、上記実施例1、2に対し、上記添加剤を混合させず、多孔質樹脂粒子5を含まない樹脂層3を有する反射抑制シート1を用いた。
基材層2には実施例1、2と同じものを用い、また実施例1、2で用いたのと同じバインダー樹脂4からなる反射抑制塗料を用いて、同様の作業により反射抑制シート1を得た。
【0032】
図5は、上記実施例1、2および比較例についての、反射抑制機能を評価するための測定結果のグラフを示し、グラフの縦軸は反射抑制シート1の反射率(%)を、横軸は反射させた光の波長(nm)を示している。
実験では反射抑制シート1の全反射率を測定し、当該反射率測定には分光光度計(島津製作所社製、SolidSpec―3700DUV)を用い、波長250~2500nmの光を用いて測定を行った。
【0033】
実験結果によれば、実施例1、2の反射抑制シート1は比較例の反射抑制シートに対し、光の波長が長くなるにつれて良好な反射率を示すことが判明し、特に波長の長い赤外領域において良好な反射抑制効果が得られた。
作用機序は明らかとなっていないが、本発明にかかる添加剤を構成する多孔質樹脂粒子5に形成された突起部5aや、表面に形成された小さな開孔等のポリウレタン樹脂シートの延性破壊によって得られる特徴的な構造そのものや、反射抑制シートとした際に形成される多孔質樹脂粒子が少なくとも樹脂層表面に点在した凸部形状が、反射抑制シート1に入射した光の吸収・散乱に影響を与えたものと推察される。
また上記実験結果によれば、実施例2の反射抑制シート1のほうが、実施例1の反射抑制シート1に比べて、主に可視光領域における反射抑制効果が高いことが確認された。
【符号の説明】
【0034】
1 反射抑制シート 2 基材層
3 樹脂層 4 バインダー樹脂
5 多孔質樹脂粒子 5a 突起部