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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024164438
(43)【公開日】2024-11-27
(54)【発明の名称】超音波検査装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/06 20060101AFI20241120BHJP
【FI】
G01N29/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023079905
(22)【出願日】2023-05-15
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】弁理士法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北澤 聡
(72)【発明者】
【氏名】坂田 聡
【テーマコード(参考)】
2G047
【Fターム(参考)】
2G047AA05
2G047BA03
2G047BC07
2G047CA01
2G047EA10
2G047GA18
2G047GB02
2G047GB17
2G047GG34
2G047GG47
2G047GH06
2G047GJ22
(57)【要約】
【課題】検査対象の曲率が連続的に変化する場合でも精度よく曲率分布を得ることができ、それに基づいて精度良く検査対象を計測可能な超音波検査装置を提供する。
【解決手段】超音波検査措置は、可撓性を有する板状の支持部材と、前記支持部材に離散的に備えられる複数の超音波素子と、前記超音波素子が配置された前記支持部材の領域の変形を検出するために前記支持部材に離散的に備えられる複数の歪み感知素子と、からなる超音波アレイセンサと、検査対象の表面に前記支持部材を接触させたときに出力される前記歪み感知素子の出力信号から前記超音波素子の相対位置座標を算出し、前記相対位置座標に基づいて前記超音波アレイセンサによる反射信号を画像化する画像処理部と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性を有する板状の支持部材と、前記支持部材に離散的に備えられる複数の超音波素子と、前記超音波素子が配置された前記支持部材の領域の変形を検出するために前記支持部材に離散的に備えられる複数の歪み感知素子と、からなる超音波アレイセンサと、
検査対象の表面に前記支持部材を接触させたときに出力される前記歪み感知素子の出力信号から前記超音波素子の相対位置座標を算出し、前記相対位置座標に基づいて前記超音波アレイセンサによる反射信号を画像化する画像処理部と、
を備えることを特徴とする超音波検査装置。
【請求項2】
請求項1に記載の超音波検査装置において、
前記歪み感知素子の配列が、前記超音波素子の配列方向と平行に配置されることを特徴とする超音波検査装置。
【請求項3】
請求項1に記載の超音波検査装置において、
前記歪み感知素子の配列が前記超音波素子の配列を挟んで、前記支持部材の両側に備えられたことを特徴とする超音波検査装置。
【請求項4】
請求項1に記載の超音波検査装置において、
前記歪み感知素子の配列が二列以上で、かつ、千鳥配列となっていることを特徴とする超音波検査装置。
【請求項5】
請求項1に記載の超音波検査装置において、
前記超音波アレイセンサの変形部の曲率もしくは曲率半径と、前記変形部に位置する前記歪み感知素子の出力から、前記出力と前記曲率もしくは曲率半径の関係を求めておき、前記相対位置座標の算出に用いることを特徴とする超音波検査装置。
【請求項6】
請求項5に記載の超音波検査装置において、
曲率が一定の形状を一つ以上備えた物体に前記超音波アレイセンサを沿わせて変形させることで、前記関係を求めることを特徴とする超音波検査装置。
【請求項7】
請求項1に記載の超音波検査装置において、
前記支持部材は、本体と、前記本体から脱着可能な可変形状の第二の部材とを有し、
前記歪み感知素子が、前記第二の部材に備えられており、前記第二の部材は前記本体に装着された状態で前記本体とともに変形可能であることを特徴とする超音波検査装置。
【請求項8】
請求項7に記載の超音波検査装置において、
前記第二の部材は、検査対象の表面に対向する一方の側に複数の切込みを備え、他方の側では連結しており、前記歪み感知素子は前記切込みの延長線上にある連結部に配置されることを特徴とする超音波検査装置。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載の超音波検査装置において、
検査対象が、鉄道車両の構体の隅肉溶接部もしくは開先溶接部であることを特徴とする超音波検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波探傷(以下、UTと略記する)は、鋳鋼品や溶接部の内部に存在する欠陥の検出に用いられる代表的な非破壊検査手法であるが、欠陥検出だけでなく接着や剥離の検査等、様々な用途で使用されている。UTは基本的には、センサ(探触子、プローブ、トランスデューサとも呼ばれる)から発信された超音波が内部の傷等の欠陥から反射し、再度センサに戻ってくるまでの時間(伝播時間)と、その際の信号強度を測定し、欠陥の位置や大きさを評価するものである。
【0003】
欠陥の評価方法として、Aスコープと呼ばれる波形に現れるピーク信号(エコー)を用いて評価する方法や、送受信の位置やタイミングをずらした複数のAスコープから探傷画像を生成し、画像から欠陥を評価する方法が、UTの主力技術となっている。画像から欠陥を評価する方法では、フェーズドアレイ法(PA法)が代表的な手法となっており、PA法による欠陥評価が既に様々な産業分野で用いられている。
【0004】
また、近年はフルマトリクスキャプチャ法(Full Matrix Capture:FMC法)と呼ばれる新たな手法も注目されており、適用が広がりつつある。PA法とFMC法では、超音波を送受信するための素子が複数内蔵されたアレイセンサが用いられる。かかる素子として、電圧を力に変換する、もしくは加えられた力を電圧に変換する圧電効果を利用した圧電素子が通常用いられる。
【0005】
素子の数、寸法、配列方法は用途に応じて様々であるが、例えば、鋼材中の1mm程度の欠陥を検出する目的では数十から百数十個の素子を一列に配列したリニアアレイセンサが用いられる。配列方向の素子の寸法とピッチは概ね1mm以下である。PA法は、アレイセンサの各素子から発振される超音波の位相を制御することにより、その合成波である超音波ビームを任意方向に走査したり、焦点の位置を変化させたりすることができる技術である。
【0006】
FMC法は、アレイセンサの各素子の送受信の組合せに対応する波形を個別に全て収録し、送受信素子の位置に対応した波形合成処理をソフトウェア上で施すことにより、高精細な画像を得る技術である。FMC法については、例えば特許文献1に記載されている。
【0007】
これらのアレイセンサを用いる検査手法では、探傷面は必ずしも平面である必要はない。探傷面が任意形状であっても各素子の座標が既知であれば、原理的にこれらの手法を適用することは可能であるからである。この場合、PA法では位相制御が複雑になるため現実的ではないが、FMC法の場合は座標を計算に用いることで容易に画像を生成することが可能である。
【0008】
このような理由から、近年はフレキシブルアレイセンサと呼ばれる探傷面が曲面でも追従可能な柔軟性のあるアレイセンサが実用化され、FMC法と共に用いられる事例が増えている。フレキシブルアレイセンサを用いると、例えば、溶接ビードのような曲面を有する部分の表面にセンサを沿わせて直接接触させ、溶接部内部を探傷して結果を容易に映像化することが可能である。
【0009】
ここで、溶接ビードを擁する部品の代表例として、鉄道車両の構体の溶接部の例を用いて説明する。構体は台枠、骨組、外板などで構成されており、内部には乗客が搭乗するための座席が設置されるため、構体には多くの場合、扉や窓などが設けられている。材質はステンレスやアルミニウム合金(以下、アルミ合金)が主に用いられており、特に高速車両では軽量化のためにアルミ合金が用いられる例が多い。アルミ合金は複雑な断面の押出成形が可能なため、外板と骨組の一部が一体となり、かつ、外板が段ボールのように表裏にあるダブルスキン構造と呼ばれる形材が、新幹線等で用いられるようになっている。構体下部の台枠には強度を保つための枕梁が設けられており、ダブルスキン構造の外板と溶接されている。この他にも、構体には枕梁以外にもダンパ受け等の複数のアルミ部材が溶接されており、その多くは開先溶接や隅肉溶接が使われている。
【0010】
これらの溶接部には安全性の観点から高い健全性が求められており、例えば溶着金属の厚さ(以下、溶金厚さ)が設計通りに十分に確保されているか、適切に検出することが望まれている。
【0011】
溶金厚さの測定には通常はUTが用いられる。たとえば開先溶接の場合の溶金厚さは溶接部表面からルート部までの距離となる。隅肉溶接の場合は溶接部表面から二つの部材の接触点までの距離である。超音波センサをビード面に接触させ、センサから発せられた超音波がルート部で反射して再びセンサで受信されるまでの時間に基づいて、溶金厚さが見積もられる。
【0012】
溶接ビードの表面は一般的に平坦ではなく、波打った複雑な曲面を形成している。ただし、外観を良くするためにグラインダで表面を切削して滑らかな曲面に仕上げることも多い。
【0013】
素子面が平坦なセンサを用いると、ビード面とセンサ素子面の間に隙間が空いてしまい、超音波が溶接部に伝播しなくなることがある。これに対し、隙間に接触媒質を大量に塗布することで超音波を溶接部内に伝播させることも可能であるが、この場合は、隙間で超音波が多重反射し、それに起因するピークがノイズとなって欠陥信号に重畳するため、溶金厚さが正確に測れないという問題が生じる。
【0014】
このような問題は前述のフレキシブルアレイセンサを用いることで解決される。フレキシブルアレイセンサを用いれば、厚さ数ミクロン程度の接触媒質層を介してビード面と素子面が密着した状態となり、多重反射に起因するノイズも発生しにくいというメリットがある。
【0015】
ここで、FMC法を用いて溶接ビード上から直接、溶金厚さを計測する場合を考察する。その理由は前述のとおり、フレキシブルアレイセンサとFMC法を組み合わせることで、任意曲面に直接接触させての探傷が可能となるからである。ただし、その際にはフレキシブルアレイセンサ上の各素子の位置座標が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2019-158876号公報
【特許文献2】特開2022-10909号公報
【特許文献3】特許第3663501号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
フレキシブルアレイセンサの各素子の位置座標を得る方法としては、例えば特許文献2において、曲げ感知FPCをフレキシブルアレイセンサに両面接着シートで貼り付けた例が開示されている。曲げ感知センサの出力電圧は曲げ領域の曲率に比例して変化する。フレキシブルアレイセンサを曲面に押し付けると、その出力電圧から曲率を推定することができる。
【0018】
しかし、曲げ領域で発生した電圧の積分値が出力されるため、円筒形状などの曲率一定の検査対象の場合は問題ないが、曲げ領域内で連続的に曲率が変化している場合は、検査対象の曲率分布を得ることはできないという課題がある。
【0019】
また、特許文献3においては、超音波探触子を構成する各振動子片を複数個ずつ組にした状態で、可撓性の基板上に複数組一列に取付け、その隣り合った組間の中間位置に基板の撓み度を検出する撓み検出センサを配置したことを特徴とする超音波探触子が開示されている。また特許文献3に、撓み検出センサとしては歪み検出素子が適用できることも開示されている。
【0020】
しかし、振動子が複数組取り付けられた局所部は平面になっているため、検査対象の曲面部に追従することはできず、連続的に曲率が変化する溶接ビードのような形状では、ビード面とセンサの間に隙間が生じてしまい、また、連続的に変化する曲面形状を推定することもできないという問題がある。
【0021】
本発明は、検査対象の曲率が連続的に変化する場合でも精度よく曲率分布を得ることができ、それに基づいて精度良く検査対象を計測可能な超音波検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記課題を解決するために、代表的な本発明の超音波検査装置の一つは、
可撓性を有する板状の支持部材と、前記支持部材に離散的に備えられる複数の超音波素子と、前記超音波素子が配置された前記支持部材の領域の変形を検出するために前記支持部材に離散的に備えられる複数の歪み感知素子と、からなる超音波アレイセンサと、
検査対象の表面に前記支持部材を接触させたときに出力される前記歪み感知素子の出力信号から前記超音波素子の相対位置座標を算出し、前記相対位置座標に基づいて前記超音波アレイセンサによる反射信号を画像化する画像処理部と、を備えることにより達成される。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、検査対象の曲率が連続的に変化する場合でも精度よく曲率分布を得ることができ、それに基づいて精度良く検査対象を計測可能な超音波検査装置を提供することができる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、実施形態1における超音波検査装置であるフレキシブルアレイセンサの構造を模式的に示した図である。
図2図2は、フレキシブルアレイセンサの素子部を上面から見た図である。
図3図3は、歪み検出素子の設置方向を変えた例を示す図である。
図4図4は、歪み検出素子を、超音波素子の配列を挟んで両側に配置した例を示す図である。
図5図5は、歪み検出素子の電圧信号から超音波素子の相対座標を計算する方法を示すフローチャートである。
図6図6は、歪み検出素子の出力と曲率の関係を示したグラフである。
図7図7は、既知の曲率に対する計測値を求めるために使用する校正試験片の概略図である。
図8図8は、実施形態2におけるフレキシブルアレイセンサを示した斜視図(a)および断面図(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、本実施形態の超音波検査装置による検査対象が、鉄道車両の構体の隅肉溶接部もしくは開先溶接部であると好ましい。
【0026】
(実施形態1)
図1は、実施形態1における超音波検査装置であるフレキシブルアレイセンサの構造を模式的に示した図である。フレキシブルアレイセンサ(超音波アレイセンサ)1には、可撓性を有する板状の支持部材102の表面もしくは内部に、支持部材102の長手方向に沿って複数の超音波素子101が離散的に(例えば等ピッチで)備えられている。各超音波素子101からは所望のタイミングで超音波が発信される。支持部材102が可撓性を有するため、複数の超音波素子101は、隣接する素子面同士が傾動可能となるように配置されており、したがって検査対象の曲面形状に倣うようにして、複数の素子面を、たとえば開先溶接のビード面に正対させることができる。
【0027】
複数の超音波素子101は、超音波信号送受信部104からコネクタ部103を介して送られる電圧信号で個別に駆動制御されており、電圧信号に対応したタイミングで各素子が変形して振動し、超音波素子101に接触している物質を加振し、その結果として超音波を発生して送信することが可能となる。また、受信過程においては、送信と逆の過程であり、検査対象から反射した超音波による素子の変位が電圧信号に変換され、その信号がコネクタ部103を介して超音波信号送受信部104に送られることにより、受信波形が超音波信号収録・信号処理部105で収録される。送受信処理は超音波素子101の素子ごとに行われるため、波形も素子ごとに収録される。
【0028】
さらに、支持部材102の表面もしくは内部には、超音波素子101の並び方向に沿って(配列方向を平行にして)、複数の歪み検出素子(歪み感知素子)100が離散的に(例えば等ピッチで)備えられている。歪み検出素子100は、超音波素子101が配置された支持部材102の領域の変形を検出するために用いられる。歪み検出素子としては、例えば歪みゲージを用いるとよい。ただし、歪みゲージ以外でも歪みを検出できる素子であれば、それを用いても構わない。
【0029】
歪み検出素子100は、例えば自身に歪みが生じると抵抗値が変化する特性を有する。このため、歪み検出素子出力制御・収録部107に接続されて回路を構成したとき、歪み検出素子100の抵抗値が変化することに応じて、回路内の電圧値が変化する。この変化に応じた電圧信号が、歪み検出素子出力制御・収録部107で収録される。
【0030】
収録された電圧信号を用いて、超音波素子座標計算部108で各超音波素子の相対座標が計算される。計算方法は後で詳しく述べる。計算された相対座標は超音波信号収録・信号処理部105へ送られ、収録された受信波形と共に適切な信号処理が施され、その結果が探傷画像表示部106に表示される。ここで適切な信号処理とは、たとえば、前述のフルマトリクスキャプチャ法(方式)で、全素子の組み合わせに対応する波形を収録し、それらの波形をトータルフォーカシングメソッド法(TFM法)や開口合成法などで映像化する処理のことである。なお、超音波素子座標計算部108と、超音波信号収録・信号処理部105により、画像処理部を構成する。
【0031】
これらの処理により、フレキシブルアレイセンサ1の素子並び方向に沿った曲面での断層像に相当する超音波探傷画像が得られ、その画像が表示部106に表示される。近年の計算機を用いれば、これらの処理は十分に短い時間で行われるため、フレキシブルアレイセンサ1の位置に応じて、即時に画像が更新されて表示部106に表示される。もちろん、これ以外の映像化手法で映像化しても構わない。また、各素子の波形を個別に収録するのではなく、適切な遅延時間パターンに従いフェーズドアレイ法で収録し、映像化した画像を表示させても構わない。
【0032】
図1には示していないが、歪み検出素子の信号と超音波素子の信号は非同期で収録しても、同期させて収録しても構わない。収録速度が十分に速ければ、どちらの方法でも探傷画像にはほとんど影響はない。
【0033】
図2は、フレキシブルアレイセンサ1の素子部を上面から見た図である。図1では歪み検出素子100は一列に配置しているが、図2のように、支持部材102の長手方向に沿って千鳥配列で2列以上に配置しても構わない。2列に配列した歪み検出素子を符号200で示す。歪み検出素子の感知部は通常は素子中央であるため、千鳥配列にすることにより、歪み検出素子の感知部をより稠密に配置させることができ、曲率変化を精度良く検知することができる。千鳥配列とした歪み検出素子100を、支持部材102の両側に配置してもよい。
【0034】
図3は、歪み検出素子の設置方向を変えた例を示す図である。たとえば歪みゲージの場合は、短冊状の形状(長方形)を有しているものが多く、その短辺から信号線が伸びていることが一般的である。このため、図3に示すように、歪み検出素子の長手方向を支持部材102の幅方向に揃えるよう配列させる(符号300で示す)ことにより、稠密に配列できるとともに、信号線をフレキシブルアレイセンサ1の外側に向けることが可能となり、配線が容易となり、歪み検出素子が断線しにくくなる利点がある。
【0035】
図4は、歪み検出素子を、超音波素子の配列を挟んで両側に配置した例を示す図である。両側に対向して二列に並んだ歪み検出素子が、千鳥配列になるように(すなわち支持部材102の長手方向に沿って、一方の配列400aの歪み検出素子の端部が、他方の配列400bの歪み検出素子の略中央に位置するように)してある。これにより、歪み検出素子の感知部を稠密に配置させることができるとともに、フレキシブルアレイセンサ1の、図4上下方向(支持部材102の幅方向)の歪みも平均化することができる。
【0036】
図5のフローチャートを用いて、歪み検出素子の電圧信号から超音波素子の相対座標を計算する方法を説明する。検査対象に支持部材102を面接触させたとき、検査対象の曲面形状に倣うようにして支持部材102が曲がる。該曲面形状が任意曲面であった場合、歪み検出素子は、自身に対応する曲面に沿って曲がるため、それにより歪み検出素子の出力値(抵抗変化に応じた電圧信号)が変化する。
【0037】
歪み検出素子の出力値は、事前に求めた各歪み検出素子の校正直線を用いて、対応する曲率に変換される(ステップ501)。校正直線は各歪み検出素子の出力値と曲率との関係を表すものであり、各歪み検出素子の個体差を校正する役割も兼ねている。校正直線の求める手法については後述する。
【0038】
ステップ502において、各歪み検出素子の位置における離散的な曲率値を内挿処理(補間処理)することによって、超音波素子101が存在する範囲の曲率半径の連続的な分布(曲率半径分布)を得る。曲率と曲率半径は逆数の関係であり、曲率から曲率半径を容易に計算できるから、曲率半径分布から曲率分布を求めることも容易である。内挿処理には最小二乗法により求めた多項式や、スプライン法によって求めた曲線などを用いることができるが、もちろん他の内挿手法を用いても構わない。
【0039】
ステップ503において、中心座標が共通の区分的な円弧の座標をステップ502で求めた曲率半径分布に従って算出する。この際、円弧の区分ピッチは少なくとも超音波素子101間の距離より小さいことが望ましい。ステップ503の処理を1番目の超音波素子101から最後の超音波素子101まで行うことにより、任意の原点に対して、超音波素子101が存在する範囲の超音波素子101の相対位置座標を算出することができる。換言すれば、歪み検出素子により得られた支持部材の曲率分布が、超音波素子101の接する検査対象の曲率分布と推定できるから、この支持部材の曲率分布を用いて各超音波素子101の相対位置座標を算出し、これにFMC法を適用することで超音波素子101の信号に基づき、検査対象の例えば溶金厚さを精度よく測定することができる。
【0040】
次に、図6図7を用いて校正直線の求め方を説明する。図6は歪み検出素子の出力と曲率の関係を示したグラフである。歪み検出素子は、製造時の個体差や、フレキシブルアレイセンサ1への接着状態によって、出力と曲率半径の関係が異なる。よって、各歪み検出素子の出力から正しい曲率半径を得るためには、事前に校正直線を取得しておく必要がある。すなわち、フレキシブルアレイセンサ(支持部材)の変形部の曲率もしくは曲率半径と、変形部に位置する歪み検出素子の出力から、前記出力と前記曲率もしくは曲率半径の関係をあらかじめ求めておけば、前記相対位置座標の算出に用いることができる。
【0041】
図6には例として3つの歪み検出素子の校正直線601a,601b,601cを示している。図示のように、歪み検出素子の固体差のために、各直線の勾配は異なる。校正直線601a,601b,601cは、例えば、既知の曲率(図6ではk1、k2、k3)に対する計測値から最小二乗法によって求める。曲率ゼロ(原点)では歪み検出素子の出力は理想的にはゼロであるため、図6の直線は、その原点をゼロに設定しているが、必ずしも固定する必要はない。また、原理的に歪みと曲率は比例関係にあるため、校正は直線であることが好ましい。しかし、基本的には各歪み検出素子の出力と曲率の関係が得られるものであれば、直線でなくても構わない。
【0042】
既知の曲率に対する計測値は、例えば図7に示すような校正試験片701を用いて得られる。フレキシブルアレイセンサ1の超音波素子範囲を校正試験片701の曲率部に押し当て、その際の各歪み検出素子の出力を測定する。校正試験片701の曲率部702の曲率半径Rの逆数が曲率となる。曲率が一定の形状を一つ以上備えた物体(校正試験片701)にフレキシブルアレイセンサを沿わせて変形させることで、歪み検出素子の出力と、曲率もしくは曲率半径の関係を求めることができる。
【0043】
校正試験片701の材質は金属や樹脂など、フレキシブルアレイセンサ1を押し当てた際に変形しない材質であれば、いずれでも構わない。複数の曲率に対応した格子柄試験片を複数準備しておき、図6に示すような校正用グラフを作成する。既知の曲率に対する値は例えば二つから三つである。ただし、数が多い方が校正精度は高まる。また、少なくとも一つは必要である。一つの場合でも、原点をゼロに固定した直線で校正直線を求めることは可能である。
【0044】
本実施形態の超音波検査装置を用いて上記の検査方法を実行することにより、溶接ビード面にフレキシブルアレイセンサを接触させて溶金厚さを計測する超音波検査において、ビード面の曲率が連続的に変化する場合でも曲率分布を得ることができ、それに基づいて精度良く溶金厚さを計測することが可能となる。
【0045】
(実施形態2)
図8は、実施形態2におけるフレキシブルアレイセンサ2を示した斜視図(a)および断面図(b)である。フレキシブルアレイセンサ2においては、可撓性の板状の本体802における超音波素子801が配置された領域の幅方向一側もしくは両側に、歪み検出素子800を配列した形状可変部材(第二の部材)803が、本体802から脱着可能に設けられている。ここでは、本体802と形状可変部材803により支持部材を構成する。
【0046】
図8(a)はフレキシブルアレイセンサ2の片側だけに形状可変部材803が設けられている例を示す。形状可変部材803は、本体802に装着された状態でフレキシブルアレイセンサ2(本体802)の変形と共に自在に変形できるよう、図8(b)に示すような切込み804が裏面(検査対象に対向する表面と反対側の面)の複数個所に設けられている。
【0047】
形状可変部材803の材質は、例えばプラスチックであるが、切込み以外の部分が容易に変形可能な材質であれば、これ以外の材料であっても構わない。切込み804の奥端は形状可変部材803内に留まりおもて面に達しないため、形状可変部材803が分離することはない。歪み検出素子800は、切込み804の奥端に対応するおもて面の位置(切込み804の延長線上にある連結部)に配置されると好ましい。
【0048】
フレキシブルアレイセンサ2が曲面に押し付けられた際に、切込み804が開くことにより形状可変部材803の全体形状が凸状に変形する。切込み804は複数設けられているがその位置と数は検査対象の曲率に合わせて適当に設定する。一般的には細かいピッチで多くの溝を設けた方が、より柔軟性が増す構造となる。歪み検出素子800は切込み804の直上に配置するのが好ましい。この位置が最も歪みが大きくなるため、検出感度が高くなるためである。
【0049】
歪み検出素子は超音波素子に比べて劣化しやすいため、このような形状可変部材803を用いれば、形状可変部材803とともに歪み検出素子を容易に交換することが可能となる。また、形状可変部材803は、切込み804のない面が連結された状態となっているため一体であるが、切込み804で完全に切断することで複数の小さな部材に分離されていても構わない。ただし、この場合は、これらの部材が使用時に離れないように、ワイヤで順次連結するなど別の保持機構を設ける必要がある。
【0050】
その他の構成および検査フローは、実施形態1と同様であるため説明は割愛する。
【0051】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、上記以外の様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0052】
本明細書は、以下の発明の開示を含む。
(第1の形態)
可撓性を有する板状の支持部材と、前記支持部材に離散的に備えられる複数の超音波素子と、前記超音波素子が配置された前記支持部材の領域の変形を検出するために前記支持部材に離散的に備えられる複数の歪み感知素子と、からなる超音波アレイセンサと、
検査対象の表面に前記支持部材を接触させたときに出力される前記歪み感知素子の出力信号から前記超音波素子の相対位置座標を算出し、前記相対位置座標に基づいて前記超音波アレイセンサによる反射信号を画像化する画像処理部と、
を備えることを特徴とする超音波検査装置。
【0053】
(第2の形態)
第1の形態の超音波検査装置において、
前記歪み感知素子の配列が、前記超音波素子の配列方向と平行に配置されることを特徴とする超音波検査装置。
【0054】
(第3の形態)
第1の形態又は第2の形態の超音波検査装置において、
前記歪み感知素子の配列が前記超音波素子の配列を挟んで、前記支持部材の両側に備えられたことを特徴とする超音波検査装置。
【0055】
(第4の形態)
第1の形態~第3の形態のいずれかの超音波検査装置において、
前記歪み感知素子の配列が二列以上で、かつ、千鳥配列となっていることを特徴とする超音波検査装置。
【0056】
(第5の形態)
第1の形態~第4の形態のいずれかの超音波検査装置において、
前記超音波アレイセンサの変形部の曲率もしくは曲率半径と、前記変形部に位置する前記歪み感知素子の出力から、前記出力と前記曲率もしくは曲率半径の関係を求めておき、前記相対位置座標の算出に用いることを特徴とする超音波検査装置。
【0057】
(第6の形態)
第5の形態の超音波検査装置において、
曲率が一定の形状を一つ以上備えた物体に前記超音波アレイセンサを沿わせて変形させることで、前記関係を求めることを特徴とする超音波検査装置。
【0058】
(第7の形態)
第1の形態~第6の形態のいずれかの超音波検査装置において、
前記支持部材は、本体と、前記本体から脱着可能な可変形状の第二の部材とを有し、
前記歪み感知素子が、前記第二の部材に備えられており、前記第二の部材は前記本体に装着された状態で前記本体とともに変形可能であることを特徴とする超音波検査装置。
【0059】
(第8の形態)
第7の形態の超音波検査装置において、
前記第二の部材は、検査対象の表面に対向する一方の側に複数の切込みを備え、他方の側では連結しており、前記歪み感知素子は前記切込みの延長線上にある連結部に配置されることを特徴とする超音波検査装置。
【0060】
(第9の形態)
第1の形態~第8の形態のいずれかの超音波検査装置において、
検査対象が、鉄道車両の構体の隅肉溶接部もしくは開先溶接部であることを特徴とする超音波検査装置。
【符号の説明】
【0061】
1、2:フレキシブルアレイセンサ
100:歪み検出素子
101:超音波素子
102:支持部材
103:コネクタ部
104:超音波信号送受信部
105:超音波信号収録・信号処理部
106:探傷画像表示部
107:歪み検出素子出力制御・収録部
108:超音波素子座標計算部
200:歪み検出素子の配列
300:歪み検出素子の配列
401a:歪み検出素子の配列
401b:歪み検出素子の配列
601a:校正直線
601b:校正直線
601c:校正直線
701:校正試験片
702:曲率部
800:歪み検出素子
801:超音波素子
802:支持部材の本体
803:形状可変部材
804:切込み
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8