(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024164441
(43)【公開日】2024-11-27
(54)【発明の名称】建造物の劣化状態計測方法および建造物の劣化状態計測装置
(51)【国際特許分類】
G01H 1/00 20060101AFI20241120BHJP
G01H 13/00 20060101ALI20241120BHJP
【FI】
G01H1/00 G
G01H13/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023079915
(22)【出願日】2023-05-15
(71)【出願人】
【識別番号】000005119
【氏名又は名称】カナデビア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104433
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 博一
(72)【発明者】
【氏名】秦 彰宏
(72)【発明者】
【氏名】岡田 潤
(72)【発明者】
【氏名】本間 真
【テーマコード(参考)】
2G064
【Fターム(参考)】
2G064AA05
2G064AB02
2G064AB11
2G064AB22
2G064BA02
2G064BA08
2G064BA14
2G064BA21
2G064CC58
(57)【要約】
【課題】建造物の劣化状態の判断の精度を向上させることが可能な建造物の劣化状態計測方法を提供する。
【解決手段】この建造物Cの劣化状態計測方法は、建造物Cの健全時の固有振動数である初期固有振動数F0を取得する振動数取得工程と、錘部3の共振曲線における振幅の谷部7に初期固有振動数F0が位置するように、錘部3の質量とバネ部4のバネ定数とを調整して、錘部3の固有振動数を決定する調整決定工程と、錘部3の固有振動数が決定された劣化状態計測装置100を建造物Cに設置して、建造物Cの劣化状態を判断するための指標値としての第1振動センサ5の計測振幅値を出力する出力工程と、を備える。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
錘部と、一端が前記錘部に接続されるとともに他端が建造物側に接続される接続部と、前記錘部の振動の振幅を計測する第1振動センサとを備える劣化状態計測装置を用いて、前記建造物の劣化状態を判断するための計測を行う前記建造物の劣化状態計測方法であって、
前記建造物の健全時の固有振動数である初期固有振動数を取得する振動数取得工程と、
前記錘部の共振曲線における振幅の谷部に前記初期固有振動数が位置するように、または、前記錘部の前記共振曲線における振幅の山部に前記初期固有振動数が位置するように、前記錘部の質量と、前記錘部の振動状態に影響を及ぼす値である前記接続部の振動関連値とを調整して、前記錘部の固有振動数を決定する調整決定工程と、
前記錘部の固有振動数が決定された前記劣化状態計測装置を前記建造物に設置して、前記建造物の劣化状態を判断するための指標値としての前記第1振動センサの計測振幅値を出力する出力工程と、を備える、建造物の劣化状態計測方法。
【請求項2】
前記劣化状態計測装置は、前記錘部が異なる複数の固有振動数を有する多自由度系に構成され、
前記調整決定工程は、前記共振曲線において隣接する前記錘部の2つの固有振動数の間において、前記錘部の前記共振曲線における振幅の前記谷部に前記初期固有振動数が位置するように、前記錘部の質量と前記接続部の前記振動関連値とを調整して、前記錘部の前記2つの固有振動数を決定する工程を含む、請求項1に記載の建造物の劣化状態計測方法。
【請求項3】
前記接続部は、前記振動関連値であるバネ定数を有するバネ部を含み、
前記錘部は、第1錘部と、前記第1振動センサが設けられる第2錘部とを含み、
前記バネ部は、一端が前記第1錘部に接続されるとともに他端が前記建造物側に接続される第1バネ部と、一端が前記第2錘部に接続されるとともに他端が前記第1錘部に接続される第2バネ部とを含み、
前記劣化状態計測装置は、前記第2錘部が異なる2つの固有振動数を有する2自由度系に構成され、
前記調整決定工程は、前記2つの固有振動数の間において、前記第2錘部の前記共振曲線における振幅の前記谷部に前記初期固有振動数が位置するように、前記第1錘部および前記第2錘部の質量と前記第1バネ部および前記第2バネ部のバネ定数とを調整して、前記第2錘部の前記2つの固有振動数を決定する工程を含む、請求項2に記載の建造物の劣化状態計測方法。
【請求項4】
前記第2錘部の前記2つの固有振動数を決定する前記調整決定工程は、前記2つの固有振動数の間において、前記第2錘部の前記共振曲線における振幅の前記谷部の谷底に前記初期固有振動数が位置するように、前記第1錘部および前記第2錘部の質量と前記第1バネ部および前記第2バネ部のバネ定数とを調整して、前記第2錘部の前記2つの固有振動数を決定する工程を含む、請求項3に記載の建造物の劣化状態計測方法。
【請求項5】
前記出力工程は、前記第1振動センサである加速度センサ、速度センサまたは位置の変位センサの計測振幅値を出力して、前記錘部の加速度の振幅、前記錘部の速度の振幅、または、前記錘部の変位の振幅を取得するための工程を含む、請求項1に記載の建造物の劣化状態計測方法。
【請求項6】
前記劣化状態計測装置は、前記建造物の振動の振幅を計測する第2振動センサをさらに含み、
前記出力工程は、前記第1振動センサの計測振幅値と前記第2振動センサの計測振幅値との比を出力する工程を含む、請求項1に記載の建造物の劣化状態計測方法。
【請求項7】
建造物に設置され、前記建造物の劣化状態を判断するための計測を行う前記建造物の劣化状態計測装置であって、
錘部と、
一端が前記錘部に接続されるとともに他端が前記建造物側に接続される接続部と、
前記錘部に設けられ、前記錘部の振動の振幅を計測する振動センサとを備え、
前記錘部の共振曲線における振幅の谷部に前記建造物の健全時の固有振動数である初期固有振動数が位置するように、または、前記錘部の前記共振曲線における振幅の山部に前記初期固有振動数が位置するように、前記錘部の質量と、前記錘部の振動状態に影響を及ぼす値である前記接続部の振動関連値とを調整して前記錘部の固有振動数を決定して、前記建造物の劣化状態を判断するための指標値としての前記振動センサの計測振幅値を出力するように構成されている、建造物の劣化状態計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建造物の劣化の進行具合である劣化状態を判断するための建造物の劣化状態計測方法および建造物の劣化状態計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建造物の劣化の進行具合である劣化状態を判断するための建造物の劣化状態計測装置が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
上記特許文献1には、構造物の劣化の進行具体を示す健全度を判断するための固有振動数同定装置が開示されている。また、上記特許文献1には、構造物の健全度の低下に伴い、固有振動数が変化することが開示されている。上記の固有振動数同定装置は、構造物に設置されて、構造物の振動を計測するためのセンサを備えている。固有振動数同定装置は、センサの計測値から振動数解析を利用して構造物の固有振動数を導出して、構造物の健全度の判断を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1の固有振動数同定装置では、構造物自体の固有振動数の変化から構造物の健全度(劣化状態)の判断を行っているが、構造物を劣化させる経過時間に伴う構造物の固有振動数の変化は極めて小さいため、構造物の劣化状態を示す健全度の判断の精度が低いという問題点がある。すなわち、構造物の固有振動数を、劣化状態を判断するための指標値とした場合、構造物の健全度の判断の精度が低いという問題点がある。
【0006】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、建造物の劣化状態の判断の精度を向上させることが可能な建造物の劣化状態計測方法および建造物の劣化状態計測装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の建造物の劣化状態計測方法では、錘部と、一端が錘部に接続されるとともに他端が建造物側に接続される接続部と、錘部の振動の振幅を計測する第1振動センサとを備える劣化状態計測装置を用いて、建造物の劣化状態を判断するための計測を行う建造物の劣化状態計測方法であって、建造物の健全時の固有振動数である初期固有振動数を取得する振動数取得工程と、錘部の共振曲線における振幅の谷部に初期固有振動数が位置するように、または、錘部の共振曲線における振幅の山部に初期固有振動数が位置するように、錘部の質量と、錘部の振動状態に影響を及ぼす値である接続部の振動関連値とを調整して、錘部の固有振動数を決定する調整決定工程と、錘部の固有振動数が決定された劣化状態計測装置を建造物に設置して、建造物の劣化状態を判断するための指標値としての第1振動センサの計測振幅値を出力する出力工程と、を備える。上記「健全時」とは、少なくとも、建造物の建造当初、および、建造物が補修されて劣化状態が解消した時を含んでいて、建造物が正常であると判断される状態である。
【0008】
この発明の建造物の劣化状態計測方法では、上記のように、錘部の共振曲線における振幅の谷部に建造物の健全時の固有振動数である初期固有振動数が位置するように、または、錘部の共振曲線における振幅の山部に初期固有振動数が位置するように、錘部の質量と、錘部の振動状態に影響を及ぼす値である接続部の振動関連値とを調整して、錘部の固有振動数を決定する調整決定工程と、錘部の固有振動数が決定された劣化状態計測装置を建造物に設置して、建造物の劣化状態を判断するための指標値としての第1振動センサの計測振幅値を出力する出力工程とを設ける。これによって、建造物の固有振動数を劣化状態を判断するための指標値とするのではなく、第1振動センサの計測振幅値を劣化状態を判断するための指標値とすることができる。また、共振曲線の谷部に建造物の初期固有振動数が位置する場合、建造物の劣化に伴い、建造物自体の固有振動数を、振幅の山部のピークを取る錘部の固有振動数に近づけることができる。すなわち、建造物の劣化に伴い、建造物と錘部との振動状態を、共振しない非共振状態から共振状態に向けて変化させることができる。また、共振曲線の山部に建造物の初期固有振動数が位置する場合、建造物の劣化に伴い、振幅の山部のピーク付近の値を取る錘部の固有振動数と建造物の固有振動数とが略一致する状態から、振幅の山部のピーク付近の値を取る錘部の固有振動数と建造物の固有振動数との差を拡大することができる。すなわち、建造物の劣化に伴い、建造物と錘部との振動状態を、共振する共振状態から非共振状態に向けて変化させることができる。以上の結果、建造物の劣化に伴い、振動の振幅の大きな変化を得ることができるので、建造物の劣化状態の判断の精度を向上させることができる。
【0009】
上記建造物の劣化状態計測方法において、好ましくは、劣化状態計測装置は、錘部が異なる複数の固有振動数を有する多自由度系に構成され、調整決定工程は、共振曲線において隣接する錘部の2つの固有振動数の間において、錘部の共振曲線における振幅の谷部に初期固有振動数が位置するように、錘部の質量と接続部の振動関連値とを調整して、錘部の2つの固有振動数を決定する工程を含む。
【0010】
この場合、好ましくは、接続部は、振動関連値であるバネ定数を有するバネ部を含み、錘部は、第1錘部と、第1振動センサが設けられる第2錘部とを含み、バネ部は、一端が第1錘部に接続されるとともに他端が建造物側に接続される第1バネ部と、一端が第2錘部に接続されるとともに他端が第1錘部に接続される第2バネ部とを含み、劣化状態計測装置は、第2錘部が異なる2つの固有振動数を有する2自由度系に構成され、調整決定工程は、2つの固有振動数の間において、第2錘部の共振曲線における振幅の谷部に初期固有振動数が位置するように、第1錘部および第2錘部の質量と第1バネ部および第2バネ部のバネ定数とを調整して、第2錘部の2つの固有振動数を決定する工程を含む。
【0011】
この場合、好ましくは、第2錘部の2つの固有振動数を決定する調整決定工程は、2つの固有振動数の間において、第2錘部の共振曲線における振幅の谷部の谷底に初期固有振動数が位置するように、第1錘部および第2錘部の質量と第1バネ部および第2バネ部のバネ定数とを調整して、第2錘部の2つの固有振動数を決定する工程を含む。
【0012】
上記建造物の劣化状態計測方法において、好ましくは、出力工程は、第1振動センサである加速度センサ、速度センサまたは位置の変位センサの計測振幅値を出力して、錘部の加速度の振幅、錘部の速度の振幅、または、錘部の変位の振幅を取得するための工程を含む。
【0013】
上記建造物の劣化状態計測方法において、好ましくは、劣化状態計測装置は、建造物の振動の振幅を計測する第2振動センサをさらに含み、出力工程は、第1振動センサの計測振幅値と第2振動センサの計測振幅値との比を出力する工程を含む。
【0014】
この発明の建造物の劣化状態計測装置では、建造物に設置され、建造物の劣化状態を判断するための計測を行う建造物の劣化状態計測装置であって、錘部と、一端が錘部に接続されるとともに他端が建造物側に接続される接続部と、錘部に設けられ、錘部の振動の振幅を計測する振動センサとを備え、錘部の共振曲線における振幅の谷部に建造物の健全時の固有振動数である初期固有振動数が位置するように、または、錘部の共振曲線における振幅の山部に初期固有振動数が位置するように、錘部の質量と、錘部の振動状態に影響を及ぼす値である接続部の振動関連値とを調整して錘部の固有振動数を決定して、建造物の劣化状態を判断するための指標値としての振動センサの計測振幅値を出力するように構成されている。
【0015】
この発明の建造物の劣化状態計測装置では、上記のように、錘部の共振曲線における振幅の谷部に建造物の健全時の固有振動数である初期固有振動数が位置するように、または、錘部の共振曲線における振幅の山部に初期固有振動数が位置するように、錘部の質量と、錘部の振動状態に影響を及ぼす値である接続部の振動関連値とを調整して錘部の固有振動数を決定して、建造物の劣化状態を判断するための指標値としての振動センサの計測振幅値を出力する。これによって、建造物の固有振動数を劣化状態を判断するための指標値とするのではなく、振動センサの計測振幅値を劣化状態を判断するための指標値とすることができる。また、共振曲線の谷部に建造物の初期固有振動数が位置する場合、建造物の劣化に伴い、建造物自体の固有振動数を、振幅の山部のピークを取る錘部の固有振動数に近づけることができる。すなわち、建造物の劣化に伴い、建造物と錘部との振動状態を、共振しない非共振状態から共振状態に向けて変化させることができる。また、共振曲線の山部に建造物の初期固有振動数が位置する場合、建造物の劣化に伴い、振幅の山部のピーク付近の値を取る錘部の固有振動数と建造物の固有振動数とが略一致する状態から、振幅の山部のピーク付近の値を取る錘部の固有振動数と建造物の固有振動数との差を拡大することができる。すなわち、建造物の劣化に伴い、建造物と錘部との振動状態を、共振する共振状態から非共振状態に向けて変化させることができる。以上の結果、建造物の劣化に伴い、振動の振幅の大きな変化を得ることができるので、建造物の劣化状態の判断の精度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、上記のように、建造物の劣化状態の判断の精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施形態による建造物の劣化状態計測装置を建造物である煙突に設置した状態を示した図である。
【
図2】
図1の建造物の劣化状態計測装置を示すA部の拡大図である。
【
図3】実施形態による調整前の共振曲線を示した図である。
【
図4】実施形態による調整後の共振曲線を示した図であり、共振曲線の縦軸を加速度の振幅とした図である。
【
図5】実施形態による調整後の共振曲線を示した図であり、共振曲線の縦軸を加速度の振幅の比とした図である。
【
図6】実施形態による建造物の劣化状態計測方法の各工程について説明するための図である。
【
図7】変形例による調整後の共振曲線を示した図である。
【
図8】変形例による建造物の劣化状態計測装置を建造物である煙突に設置した状態を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、実施形態を図面に基づいて説明する。
【0019】
[実施形態]
(劣化状態計測装置の構成)
図1~
図5を参照して、本実施形態による建造物Cの劣化状態計測装置100および建造物Cの劣化状態計測方法について説明する。本実施形態では、建造物Cが煙突である例について説明する。
【0020】
図1および
図2に示すように、劣化状態計測装置100は、建造物Cである煙突に設置され、建造物Cの劣化状態を判断するための計測に用いられる。詳細には、建造物Cである煙突は、健全時からの時間経過とともに筒身が減肉していくことや、表面のライニングが劣化していくことが知られている。また、経過時間に対する筒身の減肉量である減肉速度は、略一定になることが知られている。そこで、建造物Cの劣化の進行具合を適切に把握して、建造物Cの必要な補修や解体などを行う適切なタイミングを判断するために劣化状態計測装置100が用いられる。
【0021】
また、上記の通り、減肉速度は略一定であることから、劣化状態計測装置100の計測結果を利用して、将来的な筒身の減肉量を予測することにより、建造物Cの交換が必要となる寿命予測などを行うことも可能である。
【0022】
劣化状態計測装置100は、風などの影響により建造物Cである煙突が振動した際の劣化状態計測装置100の後述する第2錘部31の振動の振幅を計測するように構成されている。第2錘部31の振動の振幅とは、第2錘部31の加速度の振幅である。第2錘部31の加速度の振幅は、第2錘部31に設けられた後述する第1振動センサ5である加速度センサにより直接計測することができる。第1振動センサ5は、特許請求の範囲に記載の「振動センサ」の一例である。
【0023】
なお、建造物Cを振動させる要因には、上記風の他に、建造物Cの近くに設置された各種の機械から発生する振動や、建造物Cの近くを通る車両から発生する振動、地震などが考えられる。
【0024】
ここで、建造物Cの固有振動数は、建造物Cの減肉などの劣化に伴い僅かずつではあるが変動していく。この場合、建造物Cの劣化に伴って、固有振動数が減少する場合、および、増加する場合のいずれの場合も起こり得る。
【0025】
従来より、建造物に加速度センサを設けて、建造物の固有振動数の変化から劣化を直接判断する方法が知られている。このような従来の判断方法には、固有振動数の変化が極めて小さいことに起因する計測精度の問題点があるとともに、加速度センサの計測結果から建造物の固有振動数を得るために、高速フーリエ変換などの振動数解析が必要となり、劣化状態を判断するための指標値としての建造物の固有振動数を容易に得ることができないという問題点などがある。上記の振動数解析は、劣化状態を判断する毎に繰り返し行う必要がある。なお、劣化状態計測装置100の計測結果を利用して、建造物Cの劣化状態を判断する場合、振動数解析は不要である。
【0026】
劣化状態計測装置100(後述する筐体2)は、取り付けブラケットBを介して建造物Cである煙突に設置されている。このため、建造物Cが風などによって振動した際に、煙突に対して筐体2が揺れ動くことはない。取り付けブラケットBは、所定の固定部材B1によって劣化状態計測装置100を煙突に固定している。一例ではあるが、所定の固定部材B1は、ボルトおよびナットなどである。この他に、溶接などにより劣化状態計測装置を煙突に固定してもよい。
【0027】
劣化状態計測装置100は、建造物Cである煙突の上端面C1に設置されている。すなわち、劣化状態計測装置100は、建造物Cに振動が発生した場合に、振動の「腹」となる片持ち梁状の煙突の自由端に設置されている。この他に、劣化状態計測装置を煙突の上端面近傍の側面などに設置してもよい。
【0028】
劣化状態計測装置100は、送信部1と、箱型の筐体2と、第1錘部30および第2錘部31を含む錘部3と、第1バネ部40および第2バネ部41を含むバネ部4と、第1振動センサ5と、第2振動センサ6とを備えている。なお、第1振動センサ5および第2振動センサ6は、ともに加速度センサとして構成されている。バネ部4は、特許請求の範囲の「接続部」の一例である。
【0029】
(送信部の構成)
送信部1は、無線通信により情報を送信可能な無線送信部である。送信部1は、第1振動センサ5および第2振動センサ6の計測結果を、ユーザが保有する端末Tに無線送信により出力するように構成されている。端末Tは、建造物Cの劣化状態をユーザが確認するために用いられる。なお、送信部は、所定のケーブルを介して、第1振動センサおよび第2振動センサの計測結果を端末に有線送信するように構成されていてもよい。端末Tは、パーソナルコンピュータや、タブレットなどの汎用の端末であってもよいし、劣化状態計測装置100専用の端末であってもよい。送信部1から端末Tに送信された計測結果のデータは、端末Tのメモリに保存され、新たな計測結果との比較に利用される。
【0030】
送信部1の端末Tへの計測結果の送信は、自動で行われる。送信部1による端末Tへの計測結果の送信は、数時間間隔または数日間隔などの所定間隔で定期的に行われる。なお、送信部の端末への計測結果の送信は、常時行われてもよいし、ユーザからの送信要求に応じて行われてもよい。
【0031】
送信部1は、地震や強風などに起因する突発的かつ大きな建造物Cの振動が第2振動センサ6により計測されている場合には、端末Tに第1振動センサ5および第2振動センサ6の計測結果を出力しないように構成されている。この他に、地震や強風などに起因する突発的かつ大きな建造物の振動が第2振動センサにより計測されている場合には、端末側において第1振動センサおよび第2振動センサの計測結果を、建造物の劣化状態の判断に採用しないなどの処理を行ってもよい。
【0032】
ここで、劣化状態計測装置100は、建造物Cである煙突に直接設置される構成自体(計測装置本体)のみによって構成されていてもよいし、計測装置本体に加えて上記端末Tを含むユニットとして構成されていてもよい。送信部1は、第1振動センサ5および第2振動センサ6に対して、有線または無線のいずれかにより接続されている。送信部は、第1振動センサおよび第2振動センサに対して1つのみ設けられるのではなく、第1振動センサおよび第2振動センサの各々に対して1つずつ設けられていてもよい。
【0033】
(筐体の構成)
筐体2は、直方体形状の箱型に形成されている。筐体2は、中空であり、内部に雨水やゴミなどが浸入しないように密閉されている。筐体2は、振動により変形しにくい剛性を有する材料により形成されている。一例ではあるが、筐体2は、金属材料により形成されている。
【0034】
筐体2は、内部に、第1錘部30、第2錘部31、第1バネ部40、第2バネ部41、第1振動センサ5、および、第2振動センサ6が収容されている。
【0035】
筐体2は、第1バネ部40、第1錘部30、第2バネ部41、および、第2錘部31が、水平方向に並ぶ向きで収容された状態で煙突の上端面C1に設置されている。一例ではあるが、筐体2は、第1バネ部40、第1錘部30、第2バネ部41、および、第2錘部31が、建造物Cである煙突の半径方向に並ぶ向きで収容された状態で煙突の上端面C1に設置されている。
【0036】
筐体2の内表面には、第2振動センサ6が設けられている。第2振動センサ6は、筐体2の内表面に直接固定されている。第2振動センサ6は、建造物Cの振動(加速度)の振幅を計測するように構成されている。
【0037】
(第1錘部および第2錘部の構成)
第1錘部30は、車輪を有する移動体30aと、移動体30a内に積載される錘30bとを含んでいる。
【0038】
筐体2の下部には、車輪を有する移動体30aの移動をガイドする直線状のガイドレール(図示せず)が設けられている。なお、移動体の所定方向への移動が筐体の側面などの他の構成によってガイドされるのであれば、ガイドレールはなくてもよい。
【0039】
錘30bは、移動体30a内に積載される総重量を細かく調整することが可能である。一例ではあるが、錘30bは、所定重量を有する複数のプレートまたはブロックにより構成されている。錘30bは、移動体30a内に積載された状態で移動体30aに対して移動することがないように、移動体30aに対する移動が規制されている。
【0040】
錘30bの重量調整は、建造物Cである煙突の健全時の固有振動数である初期固有振動数F0(
図3~
図5参照)に基づいて調整される。錘30bによる重量の調整は、劣化状態計測装置100を建造物Cである煙突に設置する前の後述する調整決定工程において行われる。一例ではあるが、調整決定工程は、劣化状態計測装置100の製造工場などで行われる。
【0041】
なお、上記「健全時」とは、少なくとも、建造物Cの建造当初、および、建造物Cが補修されて劣化状態が解消した時を含んでいて、建造物が正常であると判断される状態である。このため、後述する振動数取得工程により建造物Cの建造当初の初期固有振動数F0を取得した後、劣化が進行して建造物Cを補修した場合などにおいては、再度の振動数取得工程により建造物Cの初期固有振動数F0を改めて取得し直してもよい。この場合、振動数取得工程の後工程である後述する調整決定工程および出力工程も改めて行われる。
【0042】
第2錘部31は、車輪を有する移動体31aと、移動体31a内に積載される錘31bとを含んでいる。第2錘部31には、第2錘部31の振動(加速度)の振幅を計測する第1振動センサ5が設けられている。第1振動センサ5は、移動体31aに直接固定されている。第2錘部31は、第1錘部30と同様に構成されているため、これ以上の説明を省略する。
【0043】
(第1バネ部および第2バネ部の構成)
バネ部4は、一端が錘部3に接続されるとともに他端が建造物C側に接続されている。バネ部4の他端は、筐体2を介して建造物Cに接続されている。
【0044】
詳細には、第1バネ部40は、一端が第1錘部30に接続されるとともに他端が建造物C側の筐体2に接続されている。第2バネ部41は、一端が第2錘部31に接続されるとともに他端が第1錘部30に接続されている。すなわち、劣化状態計測装置100は、錘部3が異なる複数の固有振動数を有する多自由度系に構成されている。具体的には、劣化状態計測装置100は、第2錘部31が互いに異なる2つの固有振動数を有する2自由度系に構成されている。一例ではあるが、第1バネ部40および第2バネ部41は、ともにコイルバネにより形成されている。
【0045】
第1バネ部40および第2バネ部41のバネ定数(バネ剛性)は、建造物Cである煙突の健全時の固有振動数である初期固有振動数F0に基づいて調整される。バネ定数は、錘部3の振動状態に影響を及ぼす値であり、特許請求の範囲の「振動関連値」の一例である。第1バネ部40および第2バネ部41のバネ定数の調整は、劣化状態計測装置100を建造物Cに設置する前の後述する調整決定工程において行われる。第1バネ部40および第2バネ部41のバネ定数の調整は、第1錘部30および第2錘部31の質量の調整と同じタイミングで行われる。
【0046】
第1錘部30および第2錘部31の質量と、第1バネ部40および第2バネ部41のバネ定数との調整は、所定の演算ソフトなどを利用して行ってもよいし、ユーザが手作業で行ってもよい。また、第1錘部30の質量、第2錘部31の質量、第1バネ部40のバネ定数および第2バネ部41のバネ定数の4つのパラメータと、後述する共振曲線(
図3~
図5参照)の形状との関係を示す予め作成されたテーブルなどのデータを利用して調整してもよい。
【0047】
建造物Cの劣化状態計測装置100は、錘部3の共振曲線における振幅の谷部7に建造物Cの健全時の固有振動数である初期固有振動数F0が位置するように、錘部3の質量とバネ部4のバネ定数とを調整して錘部3の固有振動数を決定して、建造物Cの劣化状態を判断するための指標値としての第1振動センサ5の計測振幅値である加速度の振幅を出力するように構成されている。
【0048】
詳細には、建造物Cの劣化状態計測装置100は、第2錘部31の共振曲線における振幅の谷部7の谷底7aに建造物Cの健全時の固有振動数である初期固有振動数F0が位置するように、第1錘部30および第2錘部31の質量と第1バネ部40および第2バネ部41のバネ定数とを調整して第2錘部31の互いに異なる2つの固有振動数を決定して、建造物Cの劣化状態を判断するための指標値としての第1振動センサ5の計測振幅値である加速度の振幅を出力するように構成されている。
【0049】
共振曲線とは、振動系である劣化状態計測装置100に建造物Cを介して強制振動を加えた場合に、劣化状態計測装置100の第2錘部31に発生する共振の程度を示す曲線を示すグラフである。共振曲線の横軸は振動数であり、共振曲線の縦軸は振動(加速度)の振幅である。
【0050】
要するに、共振曲線の縦軸は、第2錘部31に設けられる第1振動センサ5の計測振幅値である。なお、共振曲線の縦軸を、第1振動センサ5の計測振幅値と、第2振動センサ6の計測振幅値との比とすることも可能である。
【0051】
第2錘部31の共振曲線は、第2錘部31が2自由度系であることから、互いに異なる2つの振幅の山部8のピーク8aを有する。第2錘部31の小さい方の固有振動数は1次固有振動数F1として、第2錘部31の小さい方の固有振動数を2次固有振動数F2とする。調整決定工程において行われる第1錘部30および第2錘部31の質量と第1バネ部40および第2バネ部41のバネ定数との調整の詳細については後述する。
【0052】
(建造物の劣化状態計測方法)
次に、建造物Cの劣化状態計測装置100を用いて建造物Cの劣化状態を判断するための計測を行う建造物Cの劣化状態計測方法について説明する。
【0053】
建造物Cの劣化状態計測方法は、振動数取得工程と、調整決定工程と、出力工程とを備えている(
図6参照)。建造物Cの劣化状態計測方法では、振動数取得工程、調整決定工程、出力工程の順に工程が進む。
【0054】
振動数取得工程は、建造物Cの健全時の固有振動数である初期固有振動数F0を取得する工程である。
【0055】
詳細には、振動数取得工程では、加速度センサを建造物Cに直接設置する。そして、振動数取得工程では、加速度センサにより計測した建造物Cの加速度について高速フーリエ変換などの振動数解析を行い、建造物Cの初期固有振動数F0を取得する。なお、振動数取得工程以降の工程では、振動数解析は要求されない。振動数取得工程は、劣化状態計測装置100を建造物Cに設置する前に行われる。
【0056】
調整決定工程は、錘部3の共振曲線における振幅の谷部7に初期固有振動数F0が位置するように、錘部3の質量と錘部3の振動状態に影響を及ぼす値であるバネ部4のバネ定数とを調整して、錘部3の固有振動数を決定する工程である。
【0057】
詳細には、調整決定工程は、第2錘部31の共振曲線における振幅の谷部7に初期固有振動数F0が位置するように、第1錘部30および第2錘部31の質量と第1バネ部40および第2バネ部41のバネ定数とを調整して、第2錘部31の互いに異なる2つの固有振動数を決定する工程である。
【0058】
より詳細には、調整決定工程は、共振曲線において隣接する第2錘部31の2つの固有振動数(1次固有振動数F1、2次固有振動数F2)の間において、第2錘部31の共振曲線における振幅の谷部7の谷底7aに初期固有振動数F0が位置するように、第1錘部30および第2錘部31の質量と第1バネ部40および第2バネ部41のバネ定数とを調整して、第2錘部31の2つの固有振動数を決定する工程である。
【0059】
上記調整の際、建造物Cの初期固有振動数F0自体は変わることがない。上記調整の結果、概ね、共振曲線の左右方向において、2つの振幅の山部8のピーク8aの中心位置に初期固有振動数F0が位置するようになる。
【0060】
図3および
図4を参照して、第1錘部30および第2錘部31の質量と第1バネ部40および第2バネ部41のバネ定数の具体的の調整方法について説明する。一例であるが、
図3に示すように、調整前の振動数取得工程において取得された初期固有振動数F0が、共振曲線において第2錘部31の2次固有振動数F2側に大きく片寄っている場合について説明する。すなわち、初期固有振動数F0が谷底7aから大きくずれている場合について説明する。
【0061】
調整では、共振曲線において、第2錘部31の2つの固有振動数(1次固有振動数F1、2次固有振動数F2)の略中間位置である谷部7の谷底7aに、建造物Cの初期固有振動数F0が位置するように、第1錘部30および第2錘部31の質量と第1バネ部40および第2バネ部41のバネ定数とを変化させる。具体的には、錘30bおよび31bの増減と、第1バネ部40および第2バネ部41を構成するバネの交換とが行われる。
【0062】
すなわち、共振曲線における第2錘部31の互いに異なる2つの振幅の山部8のピーク8aがより右方側に移動するように、第1錘部30および第2錘部31の質量と第1バネ部40および第2バネ部41のバネ定数とを変化させる。なお、第1バネ部40および第2バネ部41のバネ定数を大きくすると2つの振幅の山部8のピーク8aが右方側に移動し、第1バネ部40および第2バネ部41のバネ定数を小さくすると2つの振幅の山部8のピーク8aが左方側に移動する。
【0063】
また、調整では、2つの振幅の山部8のピーク8aの高さが略同じになるように、または、2つの振幅の山部8のピーク8aの高さの差が縮小されるように、第1錘部30および第2錘部31の質量と第1バネ部40および第2バネ部41のバネ定数とを変化させる。
【0064】
また、調整では、劣化の進行具合と振幅の増加の程度との関係を考慮して、1次固有振動数F1と2次固有振動数F2との間の距離を増減するために、第1錘部30および第2錘部31の質量と第1バネ部40および第2バネ部41のバネ定数を変化させる。なお、バネ部4のバネ定数と錘部3との比を変化させることにより、1次固有振動数F1と2次固有振動数F2との間の距離が増減する。
【0065】
調整により決定した1次固有振動数F1と2次固有振動数F2との間の距離が小さい場合、すなわち、1次固有振動数F1と2次固有振動数F2との差が小さい場合、建造物Cと第2錘部31との振動状態が非共振状態から共振状態に変化するのに要する健全時からの期間が、比較的短くなる。
【0066】
一方、調整により決定した1次固有振動数F1と2次固有振動数F2との間の距離が大きい場合、すなわち、1次固有振動数F1と2次固有振動数F2との差が大きい場合、建造物Cと第2錘部31との振動状態が非共振状態から共振状態に変化するのに要する健全時からの期間が、比較的長くなる。
【0067】
出力工程は、第2錘部31の互いに異なる2つの固有振動数が決定された劣化状態計測装置100を建造物Cに設置して、建造物Cの劣化状態を判断するための指標値としての第1振動センサ5の計測振幅値を出力する工程である。
【0068】
上記の出力工程は、第1振動センサ5である加速度センサの計測振幅値を出力して、第2錘部31の加速度の振幅を取得するための工程を含んでいる。また、上記の出力工程は、第1振動センサ5の計測振幅値と第2振動センサ6の計測振幅値との比(
図5参照)を出力する工程を含んでいる。第1振動センサ5の計測振幅値と第2振動センサ6の計測振幅値との比を共振曲線の縦軸とすると、谷部7がエッジ状になっており、全く振動しない振動数(反共振点)が発生している。
【0069】
また、建造物Cの劣化状態の判断は、第1振動センサ5の計測振幅値と第2振動センサ6の計測振幅値との比に基づいて行われる。
【0070】
具体的な一例として、振動数取得工程の結果取得された建造物Cの初期固有振動数F0が0.488[Hz]であったとする。また、補修が必要となる建造物Cである煙突の減肉量が2[mm]であり、2[mm]の減肉により建造物Cの固有振動数が、初期固有振動数F0から0.005[Hz]だけ増加したとする。
【0071】
そして、外部から建造物Cを介して劣化状態計測装置100に強制振動が加わった場合の共振曲線が
図5に示すようになる。強制振動の振動数が0.488[Hz]の場合には
図5に示す共振曲線の縦軸の比は0となる一方、強制振動の振動数が0.493[Hz](0.488+0.005)の場合には
図5に示す共振曲線の縦軸の比は約3となる。一例ではあるが、この振幅の比である3を劣化状態の判断の閾値とする。劣化状態の判断は端末T側で行われる。
【0072】
なお、建造物Cの固有振動数が、初期固有振動数F0から0.005[Hz]だけ減少した場合について考えると、強制振動の振動数が0.483[Hz](0.488-0.005)の場合には
図5に示す共振曲線の縦軸の比は約5となる。しかしながら、安全側からより早い段階で劣化していると判断されるように、劣化状態の判断の閾値は、3に設定される。
【0073】
図5に示す共振曲線の縦軸の比が劣化状態の判断の閾値である3以上となる状態が、所定期間継続された場合に、劣化状態計測装置100は、初めてアラーム信号を発信する。なお、所定期間を待つことなく、共振曲線の縦軸の比が劣化状態の判断の閾値である3以上に到達した直後にアラーム信号を発信してもよい。
【0074】
アラーム信号は、劣化状態計測装置100から端末Tに送信される信号である。なお、アラーム信号は、端末側で発せられて、端末側で所定の警報処理がなされてもよい。
【0075】
(実施形態の建造物の劣化状態計測方法の効果)
本実施形態の建造物Cの劣化状態計測方法では、以下のような効果を得ることができる。
【0076】
本実施形態では、上記のように、錘部3の共振曲線における振幅の谷部7に建造物Cの健全時の固有振動数である初期固有振動数F0が位置するように、錘部3の質量と、錘部3の振動状態に影響を及ぼす値である接続部(バネ部4)の振動関連値(バネ定数)とを調整して、錘部3の固有振動数を決定する調整決定工程と、錘部3の固有振動数が決定された劣化状態計測装置100を建造物Cに設置して、建造物Cの劣化状態を判断するための指標値としての第1振動センサ5の計測振幅値を出力する出力工程とを設ける。これによって、建造物Cの固有振動数を劣化状態を判断するための指標値とするのではなく、第1振動センサ5の計測振幅値を劣化状態を判断するための指標値とすることができる。また、共振曲線の谷部7に建造物Cの初期固有振動数F0が位置する場合、建造物Cの劣化に伴い、建造物C自体の固有振動数を、振幅の山部8のピーク8aを取る錘部3の固有振動数に近づけることができる。すなわち、建造物Cの劣化に伴い、建造物Cと錘部3との振動状態を、共振しない非共振状態から共振状態に向けて変化させることができる。以上の結果、建造物Cの劣化に伴い、振動の振幅の大きな変化を得ることができるので、建造物Cの劣化状態の判断の精度を向上させることができる。また、第1振動センサ5によって計測される計測振幅値を劣化状態を判断するための指標値とすることができるので、従来のような建造物自体の固有振動数を得るための振動数解析を行うことなく、建造物Cの劣化状態の判断を容易に行うことができる。
【0077】
本実施形態では、上記のように、劣化状態計測装置100は、錘部3が異なる複数の固有振動数を有する多自由度系に構成され、調整決定工程は、共振曲線において隣接する錘部3の2つの固有振動数の間において、錘部3の共振曲線における振幅の谷部7に初期固有振動数F0が位置するように、錘部3の質量と接続部(バネ部4)の振動関連値(バネ定数)とを調整して、錘部3の2つの固有振動数を決定する工程を含む。これによって、錘部3の質量と接続部の振動関連値との調整の結果、錘部3の共振曲線における振幅の谷部7に初期固有振動数F0を配置して、振幅の山部のピーク8aを取る錘部3の固有振動数を、建造物Cの初期固有振動数F0から大きく外すことができるので、建造物Cの健全時初期において、劣化状態計測装置100に加わる振動負荷を抑制することができる。
【0078】
本実施形態では、上記のように、接続部は、振動関連値であるバネ定数を有するバネ部4を含み、錘部3は、第1錘部30と、第1振動センサ5が設けられる第2錘部31とを含み、バネ部は、一端が第1錘部30に接続されるとともに他端が建造物C側に接続される第1バネ部40と、一端が第2錘部31に接続されるとともに他端が第1錘部30に接続される第2バネ部41とを含み、劣化状態計測装置100は、第2錘部31が異なる2つの固有振動数を有する2自由度系に構成され、調整決定工程は、2つの固有振動数の間において、第2錘部31の共振曲線における振幅の谷部7に初期固有振動数F0が位置するように、第1錘部30および第2錘部31の質量と第1バネ部40および第2バネ部41のバネ定数とを調整して、第2錘部31の2つの固有振動数を決定する工程を含む。これによって、第2錘部31が異なる2つの固有振動数を有する2自由度系の劣化状態計測装置100を利用して、共振曲線において異なる2つの固有振動数(振幅の山部8)の間の谷部7に初期固有振動数F0が位置するように調整して、建造物Cの劣化状態の判断の精度をより向上させることができる。
【0079】
本実施形態では、上記のように、第2錘部31の2つの固有振動数を決定する調整決定工程は、2つの固有振動数の間において、第2錘部31の共振曲線における振幅の谷部7の谷底7aに初期固有振動数F0が位置するように、第1錘部30および第2錘部31の質量と第1バネ部40および第2バネ部41のバネ定数とを調整して、第2錘部31の2つの固有振動数を決定する工程を含む。ここで、仮に、2つの固有振動数の間において、第2錘部の共振曲線における振幅の谷部の谷底から初期固有振動数F0が左右にずれているとすると、建造物の健全時初期において、劣化が進行した際に建造物の固有振動数が谷底側に向けて移動する場合、「建造物の固有振動数が谷底に移動するまでの間は第1振動センサが設けられる第2錘部の振動の振幅が減少し、谷底を越えてから第2錘部の振動の振幅が増加する」のような事象が発生する。そこで、上記のような構成によって、建造物Cの固有振動数が谷底7a側に向けて移動することがなくなり、上記事象の発生を回避することができる。したがって、建造物Cの健全時初期において、第2錘部31の振動の振幅の増加だけを考慮して劣化状態を判断することができるので、建造物Cの劣化状態の判断の精度をより一層向上させることができる。
【0080】
本実施形態では、上記のように、出力工程は、第1振動センサ5である加速度センサの計測振幅値を出力して、錘部3の加速度の振幅を取得するための工程を含む。これによって、第1振動センサ5により直接取得することができる錘部3の加速度の振幅を、建造物Cの劣化状態を判断するための指標値とすることができる。このため、容易に建造物Cの劣化状態を判断することができる。
【0081】
本実施形態では、上記のように、劣化状態計測装置100は、建造物Cの振動の振幅を計測する第2振動センサ6をさらに含み、出力工程は、第1振動センサ5の計測振幅値と第2振動センサ6の計測振幅値との比を出力する工程を含む。これによって、第1振動センサ5の計測振幅値と第2振動センサ6の計測振幅値との比を出力することによって、建造物Cに振動を発生させる外力である風などの不定外力の影響を除いて振動を評価することができる。その結果、建造物Cの劣化状態の判断の精度をより向上させることができる。
【0082】
(実施形態の建造物の劣化状態計測装置の効果)
また、本実施形態の建造物Cの劣化状態計測装置100では、以下のような効果を得ることができる。
【0083】
本実施形態では、上記のように、錘部3の共振曲線における振幅の谷部7に建造物Cの健全時の固有振動数である初期固有振動数F0が位置するように、または、錘部3の共振曲線における振幅の山部8に初期固有振動数F0が位置するように、錘部3の質量と、錘部3の振動状態に影響を及ぼす値である接続部(バネ部4)の振動関連値(バネ定数)とを調整して錘部3の固有振動数を決定して、建造物Cの劣化状態を判断するための指標値としての第1振動センサ5の計測振幅値を出力する。これによって、建造物Cの固有振動数を劣化状態を判断するための指標値とするのではなく、第1振動センサ5の計測振幅値を劣化状態を判断するための指標値とすることができる。また、共振曲線の谷部7に建造物Cの初期固有振動数F0が位置する場合、建造物Cの劣化に伴い、建造物C自体の固有振動数を、振幅の山部8のピーク8aを取る錘部3の固有振動数に近づけることができる。すなわち、建造物Cの劣化に伴い、建造物Cと錘部3との振動状態を、共振しない非共振状態から共振状態に向けて変化させることができる。また、共振曲線の山部8に建造物Cの初期固有振動数F0が位置する場合、建造物Cの劣化に伴い、振幅の山部8のピーク8a付近の値を取る錘部3の固有振動数と建造物Cの固有振動数とが略一致する状態から、振幅の山部8のピーク8a付近の値を取る錘部3の固有振動数と建造物Cの固有振動数との差を拡大することができる。すなわち、建造物Cの劣化に伴い、建造物Cと錘部との振動状態を、共振する共振状態から非共振状態に向けて変化させることができる。以上の結果、建造物Cの劣化に伴い、振動の振幅の大きな変化を得ることができるので、建造物Cの劣化状態の判断の精度を向上させることができる。また、第1振動センサ5によって計測される計測振幅値を劣化状態を判断するための指標値とすることができるので、従来のような建造物自体の固有振動数を得るための振動数解析を行うことなく、建造物Cの劣化状態の判断を容易に行うことができる。
【0084】
[変形例]
なお、今回開示された実施形態および変形例は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更(変形例)が含まれる。
【0085】
たとえば、上記実施形態では、本発明の建造物が煙突である例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、建造物が水門や橋梁、建築物などであってもよい。
【0086】
また、上記実施形態では、送信部により、第1振動センサおよび第2振動センサの計測振幅値を送信することによって出力した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、建造物に設置された劣化状態計測装置自体(本体)に設けられた警報ランプや音声を発するアラーム装置などにより、第1振動センサおよび第2振動センサの計測振幅値を出力してもよい。
【0087】
また、上記実施形態では、第1振動センサおよび第2振動センサが、加速度センサである例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、第1振動センサおよび第2振動センサが、速度センサや位置の変位センサなどであってもよい。
【0088】
また、上記実施形態では、錘部の共振曲線における振幅の谷部に初期固有振動数が位置するように、錘部の質量とバネ部のバネ定数とを調整した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、
図7に示すように、錘部の共振曲線における振幅のピーク近傍に初期固有振動数が位置するように、錘部の質量とバネ部のバネ定数とを調整してもよい。すなわち、初期固有振動数F0が、1次固有振動数F1および2次固有振動数F2のいずれか一方と略一致するように、錘部の質量とバネ部のバネ定数とを調整してもよい。
【0089】
上記のような構成によって、建造物の劣化に伴い、振幅の山部のピーク付近の値を取る錘部の固有振動数と建造物の固有振動数とが略一致する状態から、振幅の山部のピーク付近の値を取る錘部の固有振動数と建造物の固有振動数との差を拡大することができる。すなわち、建造物の劣化に伴い、建造物と錘部との振動状態を、共振する共振状態から非共振状態に向けて変化させることができる。その結果、建造物の劣化に伴い、振動の振幅の大きな変化を得ることができるので、建造物の劣化状態の判断の精度を向上させることができる。
【0090】
また、上記実施形態では、建造物の劣化状態計測装置を、2つの錘部および2つのバネ部を備えるように構成(2自由度系に構成)した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、建造物の劣化状態計測装置を、1つの錘部および1つのバネ部を備えるように構成(1自由度系に構成)してもよいし、または、3つ以上の錘部および3つ以上のバネ部を備えるように構成(3自由度系以上に構成)してもよい。この場合、錘部とバネ部とは同数とする。なお、1自由度系に構成した場合、共振曲線において谷部ができないため、
図7を参照して説明した上記変形例のように錘部の共振曲線における振幅の山部8(すなわちピーク8a近傍)に初期固有振動数が位置するように、錘部の質量とバネ部のバネ定数とを調整する。
【0091】
一例ではあるが、上記の「ピーク8a近傍」とは、ピーク8a付近に予め決められた設定振動数範囲R(
図5参照)内に収まる位置という意味である。設定振動数範囲Rを設定する具体的な一例として、設定振動数範囲Rは、0.025[Hz]などの所定の大きさに設定されるとともに、ピーク8aを含む振動数の範囲に設定され、かつ、設定振動数範囲Rの中で最大の振動数における振幅と最小の振動数における振幅とが一致するように設定される。また、設定振動数範囲Rを設定する他の例として、「建造物の初期固有振動数が位置するように調整される山部のピークの振動数±((振動数が大きい方の山部の振動数-振動数が小さい方の山部の振動数)/2)の範囲」という式を利用して、設定することも可能である。
【0092】
なお、錘部の共振曲線における振幅の谷部(すなわち谷底近傍)に初期固有振動数が位置するように、錘部の質量とバネ部のバネ定数とを調整する場合においても、同様である。一例ではあるが、上記の「谷底近傍」とは、谷底付近に予め決められた設定振動数範囲内に収まる位置という意味である。設定振動数範囲を設定する具体的な一例として、設定振動数範囲は、0.025[Hz]などの所定の大きさに設定されるとともに、谷底を含む振動数の範囲に設定され、かつ、設定振動数範囲の中で最大の振動数における振幅と最小の振動数における振幅とが一致するように設定される。また、設定振動数範囲を設定する他の例として、「建造物の初期固有振動数が位置するように調整される谷部の谷底の振動数±((振動数が大きい方の山部の振動数-振動数が小さい方の山部の振動数)/2)の範囲」という式を利用して、設定することも可能である。
【0093】
また、上記実施形態では、錘部の質量およびバネ部のバネ定数の調整の結果、第2錘部の共振曲線における振幅の谷部の谷底に初期固有振動数を配置した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、錘部の質量およびバネ部のバネ定数の調整の結果、第2錘部の共振曲線における振幅の谷部の谷底からずれた位置に初期固有振動数を配置してもよい。この場合、少なくとも、1次固有振動数よりも谷底に近い位置で、かつ、2次固有振動数よりも谷底に近い位置に、初期固有振動数を配置する。
【0094】
また、上記実施形態では、建造物の劣化状態計測装置からユーザの端末に第1振動センサおよび第2振動センサの計測結果を送信して、端末側で建造物の劣化状態の判断を行った例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、建造物に設置された劣化状態計測装置自体(本体)がCPUなどを含む所定の制御部を備えており、建造物に設置された劣化状態計測装置の制御部が建造物の劣化状態の判断を行ってもよい。
【0095】
また、上記実施形態では、建造物の劣化状態計測装置を、バネ部が水平方向に伸縮するように構成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、建造物の劣化状態計測装置を、バネ部が垂直方向などに伸縮するように構成してもよい。
【0096】
また、上記実施形態では、建造物の劣化状態計測装置を、煙突の上端近傍(上端を含む)に設置した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、建造物の劣化状態計測装置を、煙突の上端近傍よりも下方側に設置してもよい。なお、建造物の劣化状態計測装置を、振動の「腹」の位置に設置することが好ましい。
【0097】
また、上記実施形態では、第2錘部に第1振動センサを設置した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、第1錘部などに第1振動センサを設置してもよい。
【0098】
また、上記実施形態では、建造物の劣化状態計測装置の接続部を、バネ部により構成して、バネ部によって錘部を直線状に往復移動させて振動させた例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、
図8に示すように、建造物Cの劣化状態計測装置200の接続部を、長さ方向に対して剛な細長い連結媒体204により構成して、連結媒体204によって錘部3を振り子状に往復移動させて振動させてもよい。連結媒体204は、振動関連値である長さを有する。具体的な一例として、連結媒体204は、一端が第1錘部30に接続されるとともに他端である上端が建造物C側に接続される第1連結部240と、一端が第2錘部31に接続されるとともに他端が第1錘部30に接続される第2連結部241とを含んでいる。第1連結部240の他端である上端は、筐体2内で筐体2の上部に接続されている。すなわち、第1錘部30および第2錘部31は、上方から吊り下げられている。調整決定工程では、第1錘部30および第2錘部31の質量と第1連結部240および第2連結部241の長さとを調整して、第2錘部31の固有振動数を決定する。なお、一例として、連結媒体は、ナイロン製のロープにより構成される。この他に、連結媒体を、金属棒やプラスチックなどの剛性が高い棒などにより構成してもよい。この場合、連結媒体の長さが振動関連値に相当し、調整決定工程においては錘部の質量と連結媒体の長さを調整することにより、錘部の固有振動数が決定される。
【符号の説明】
【0099】
3 錘部
4 バネ部(接続部)
5 第1振動センサ (振動センサ)
6 第2振動センサ
7 谷部
7a (谷部の)谷底
8 山部
30 第1錘部
31 第2錘部
40 第1バネ部
41 第2バネ部
100、200 建造物の劣化状態計測装置
204 連結媒体(接続部)
C 建造物