IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立オートモティブシステムズ株式会社の特許一覧

特開2024-164443内燃機関制御装置及び内燃機関制御方法
<>
  • 特開-内燃機関制御装置及び内燃機関制御方法 図1
  • 特開-内燃機関制御装置及び内燃機関制御方法 図2
  • 特開-内燃機関制御装置及び内燃機関制御方法 図3
  • 特開-内燃機関制御装置及び内燃機関制御方法 図4
  • 特開-内燃機関制御装置及び内燃機関制御方法 図5
  • 特開-内燃機関制御装置及び内燃機関制御方法 図6
  • 特開-内燃機関制御装置及び内燃機関制御方法 図7
  • 特開-内燃機関制御装置及び内燃機関制御方法 図8
  • 特開-内燃機関制御装置及び内燃機関制御方法 図9
  • 特開-内燃機関制御装置及び内燃機関制御方法 図10
  • 特開-内燃機関制御装置及び内燃機関制御方法 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024164443
(43)【公開日】2024-11-27
(54)【発明の名称】内燃機関制御装置及び内燃機関制御方法
(51)【国際特許分類】
   F02M 59/36 20060101AFI20241120BHJP
   F02M 59/44 20060101ALI20241120BHJP
   F02M 51/00 20060101ALI20241120BHJP
【FI】
F02M59/36
F02M59/44 P
F02M51/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023079917
(22)【出願日】2023-05-15
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】弁理士法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】有冨 俊亮
(72)【発明者】
【氏名】根本 雅史
(72)【発明者】
【氏名】向原 修
(72)【発明者】
【氏名】青野 俊宏
【テーマコード(参考)】
3G066
【Fターム(参考)】
3G066AA02
3G066AB02
3G066AC08
3G066BA22
3G066CA09
3G066CA15S
3G066CE02
3G066DC18
(57)【要約】
【課題】内燃機関の運転条件の変化によらず、高圧燃料ポンプを静音制御することが可能な内燃機関制御装置を提供する。
【解決手段】ECU114Aは、高圧燃料ポンプ103の間欠加圧ごとの燃料配管内における圧力変化分を算出する圧力変化算出部802と、圧力変化分に基づいて燃料ポンプの電磁弁の動作状態を判定する動作判定部803と、動作状態が電磁弁の閉弁動作の失敗であると判定された場合に、電磁弁に印加される電流印加量を変更し、電磁弁の閉弁動作が可能な電流印加量の下限値を学習する電流印加量学習部804と、を備える。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料を間欠加圧して燃料配管内に吐出する燃料ポンプと、間欠加圧されている前記燃料を噴射する燃料噴射弁とを備えた内燃機関を制御する内燃機関制御装置であって、
前記燃料ポンプの間欠加圧ごとの前記燃料配管内における圧力変化分を算出する圧力変化算出部と、
前記圧力変化分に基づいて前記燃料ポンプの電磁弁の動作状態を判定する動作判定部と、
前記動作状態が前記電磁弁の閉弁動作の失敗であると判定された場合に、前記電磁弁に印加される電流印加量を変更し、前記電磁弁の閉弁動作が可能な電流印加量の下限値を学習する電流印加量学習部と、を備える
内燃機関制御装置。
【請求項2】
前記圧力変化算出部は、前記燃料ポンプを駆動するカムシャフトの回転位相に同期する信号を入力値とし、前記燃料ポンプの間欠加圧ごとの圧力変化分を算出する
請求項1に記載の内燃機関制御装置。
【請求項3】
前記燃料ポンプの間欠加圧期間中に前記噴射弁による前記燃料の噴射が実施される場合に、前記動作判定部は、前記燃料の噴射後に前記電磁弁の動作状態を判定する
請求項2に記載の内燃機関制御装置。
【請求項4】
前記電流印加量学習部は、前記内燃機関が運転されている間に予め前記下限値を学習する
請求項3に記載の内燃機関制御装置。
【請求項5】
前記動作判定部は、前記電磁弁の動作状態として、前記電磁弁の閉弁動作の不足を判定する
請求項4に記載の内燃機関制御装置。
【請求項6】
前記電流印加量学習部は、前記内燃機関が定常運転している間に予め前記下限値を学習する
請求項3に記載の内燃機関制御装置。
【請求項7】
前記燃料ポンプが稼働する前記内燃機関の運転条件を判定する運転条件判定部と、
前記運転条件判定部により前記燃料ポンプが静音運転条件で稼働されていると判定された期間では、前記電磁弁の電流印加量を所定の制御値から前記下限値に変更する切替部と、を備える
請求項3に記載の内燃機関制御装置。
【請求項8】
前記電流印加量学習部は、前記内燃機関の複数の電圧条件において予め前記下限値を学習し、
前記切替部は、前記運転条件判定部によって前記燃料ポンプが静音運転条件で稼働されていると判定された場合に、前記電磁弁の電流印加量を所定の制御値から、前記電圧条件に応じた前記下限値に変更する
請求項7に記載の内燃機関制御装置。
【請求項9】
燃料を間欠加圧して燃料配管内に吐出する燃料ポンプと、間欠加圧されている前記燃料を噴射する燃料噴射弁とを備えた内燃機関を制御する内燃機関制御方法であって、
前記燃料ポンプの間欠加圧ごとの前記燃料配管内における圧力変化分を算出するステップと、
前記圧力変化分に基づいて前記燃料ポンプの電磁弁の動作状態を判定するステップと、
前記動作状態が前記電磁弁の閉弁動作の失敗であると判定された場合に、前記電磁弁に印加される電流印加量を変更し、前記電磁弁の閉弁動作が可能な電流印加量の下限値を学習するステップと、を備える
内燃機関制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関制御装置及び内燃機関制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の内燃機関には、高効率、低排気、高出力が求められる。これらをバランスよく解決する手段として、直噴内燃機関が普及して久しい。自動車メーカやサプライヤは、その製品価値向上に絶えず努力を払ってきたが、その中で、重要な課題の一つに、高圧燃料ポンプの静音化がある。高圧燃料ポンプを静音化するためには、高圧燃料ポンプの駆動電流を低減すればよいが、駆動電流を低減しすぎると高圧燃料ポンプは燃料を吐出できない。静音化のために最適な電流印加量は、高圧燃料ポンプの個体によって異なる。従来の高圧燃料ポンプの静音制御では、燃料の吐出を失敗しない範囲で、最小の電流印加量をポンプの個体ごとに調べるために、以下の特許文献1に開示された技術等が用いられていた。
【0003】
従来のポンプの静音制御の一例として、特許文献1の請求項1には、「内燃機関のアイドル状態において、電磁弁の作動音を低減する作動音低減制御を実施する低減部を備え、低減部は、駆動電流を、吸入弁が全開の状態において、アーマチャをストッパの方向へ移動させることのできる第1電流に制御する第1電流部と、第1電流の供給後、駆動電流を、第1電流よりも小さい第2電流に制御する第2電流部と、第2電流の供給後、所定時間経過してから、駆動電流を第2電流よりも小さい第3電流に制御する第3電流部と、吸入弁の閉弁作動が不足しているか否かを判定する判定部と、判定部により閉弁作動が不足していると判定された場合に、1電流、第2電流及び第3電流のうち2電流のみを上昇させる電流制御部と、を備える、高圧燃料ポンプの電磁弁の制御装置」という発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-53247号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された高圧燃料ポンプの電磁弁の制御方法では、電流(特許文献1に記載された記載の技術では第2電流)を低減することで静音化が実現されていた。しかし、電流を低減しすぎると、閉弁動作が不足する。そこで、蓄圧容器内の実燃圧が目標燃圧より所定値以上低下した場合、電流を増加することにより、弁動作不足を解消していた。
【0006】
しかしながら、例えば内燃機関の運転条件が変化することにより、弁動作は不足していないものの燃料圧力が過渡変化した場合などに、実燃圧が目標燃圧より所定値以上低下することで、弁動作が不足としていると判定される懸念があった。この結果、電流が十分に低減されず、静音効果が低下してしまう可能性があった。そこで本発明では、上記の課題を回避するための、高圧燃料ポンプの制御方法を提供する。
【0007】
本発明はこのような状況に鑑みて成されたものであり、燃料ポンプを静音制御することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る内燃機関制御装置は、燃料を間欠加圧して燃料配管内に吐出する燃料ポンプと、間欠加圧されている燃料を噴射する燃料噴射弁とを備えた内燃機関を制御する内燃機関制御装置であって、燃料ポンプの間欠加圧ごとの燃料配管内における圧力変化分を算出する圧力変化算出部と、圧力変化分に基づいて燃料ポンプの電磁弁の動作状態を判定する動作判定部と、動作状態が電磁弁の閉弁動作の失敗であると判定された場合に、電磁弁に印加される電流印加量を変更し、電磁弁の閉弁動作が可能な電流印加量の下限値を学習する電流印加量学習部と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、間欠加圧ごとの圧力変化分に基づいて電磁弁の動作状態を判定することで、電磁弁の動作状態を精度よく判定し、動作状態の判定結果を用いて、電磁弁の閉弁動作が可能な電流印加量の下限値を学習するので、燃料ポンプの静音制御が可能となる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の各実施の形態に共通する直噴内燃機関の概略構成を示す図である。
図2】本発明の各実施の形態に共通する高圧燃料ポンプの構造例を示す図である。
図3】本発明の各実施の形態に共通する高圧燃料ポンプの動作を説明するタイムチャートである。
図4】本発明の各実施の形態に共通する高圧燃料ポンプの吐出量を制御するECUの構成例を示す図である。
図5】本発明の各実施の形態に共通する吸入弁とアンカの変位の例を示す図である。
図6】閉弁成功時と閉弁失敗時の燃料配管圧力とプランジャ変位の例を示す図である。
図7】本発明の第1実施の形態に係るECUの構成例を示すブロック図である。
図8】本発明の第1実施の形態に係るECUの動作例を示すフローチャートである。
図9】本発明の第1実施の形態に係るECUの処理が実行されたことによる閉弁動作の判定結果の概念図である。
図10】本発明の第1実施の形態に係るECUが学習値である下限値に切り替える動作例を示すブロック図である。
図11】本発明の第2実施の形態に係る加圧期間内で燃料噴射が行われる場合における燃料配管圧力の様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態を説明するが、本実施形態は、各図面に記載の実施形態に限定されるものではない。また、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能又は構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複する説明を省略する。
【0012】
以下に説明する本発明の各実施の形態に係る制御装置は、ノーマルオープン型の高圧燃料ポンプの制御に適用したものである。ノーマルオープン型の高圧燃料ポンプは、ソレノイドに電流を流さないときは弁体(後述する図2に示す吸入弁203)が開弁していて、ソレノイドに電流を流すと弁体が閉弁する。ノーマルオープン型の高圧燃料ポンプでは、弁体が閉弁することでプランジャの上昇により圧縮された燃料が低圧配管側に戻ることを妨げ、燃料を高圧配管側に吐出する。以下の説明では、各実施の形態に係る制御装置がノーマルオープン型の燃料ポンプを制御する例について述べるが、閉弁と開弁を置き換えれば、通電方法を変更することで、ノーマルクローズ型のポンプにも適用できる。
なお、本発明を適用した第1及び第2実施形態に係る制御装置について説明する前に、各実施形態に共通する高圧燃料ポンプ及び制御装置の構成及び動作の例について、図1乃至図3を参照して説明する。
【0013】
<<内燃機関の概要>>
図1は、直噴内燃機関10の概略構成を示す図である。
直噴内燃機関10では、燃料タンク101に蓄えられた燃料はフィードポンプ102で数気圧程度に加圧され、低圧配管111を経由して高圧燃料ポンプ103に流入する。そして、高圧燃料ポンプ103にて、燃料がさらに数十MPaに加圧される。加圧された燃料は、高圧配管104を経由し、直噴インジェクタ105から直噴内燃機関10の気筒106に噴射される。
【0014】
気筒106に噴射された燃料は、ピストン107の動作により気筒106に吸入された空気と混合される。この混合気は、点火プラグ108が生成する火花によって点火され、爆発する。爆発により生成される熱により気筒106内の混合気は膨張し、ピストン107を押し下げる。ピストン107を押し下げる力はリンク機構109を経由し、クランク軸110を回転させる。クランク軸110の回転はミッションを通して車輪に伝えられ、車両を動かす力となる。
【0015】
一般に内燃機関には、低燃費、高出力、排気浄化が主に求められ、さらなる付加価値として騒音と振動の低減が求められる。高圧燃料ポンプ103においては、燃料を吸入する吸入弁の開閉の際に、アンカ204(図2参照)が固定部206に衝突したり、吸入弁203がシート部207又はストッパ208に衝突したりすることで騒音が発生する。各自動車メーカ、サプライヤはその低騒音化に多くの努力をしている。以下に、本実施の形態に係る制御装置が制御対象とする高圧燃料ポンプ103の構造例について説明する。
【0016】
<<高圧燃料ポンプの構成>>
図2は高圧燃料ポンプ103の構造例を示す図である。
図2に示す高圧燃料ポンプ103は「ノーマルオープン型の高圧燃料ポンプ」と呼ばれる。本実施の形態ではノーマルオープン型について説明するが、開弁と閉弁を置き換えればノーマルクローズ型にも適用可能である。
【0017】
高圧燃料ポンプ103が備えるプランジャ202は、直噴内燃機関10のカム軸に取り付けられたカム201の回転により上下する。吸入弁203は、プランジャ202の上下運動に同期して、固定部206によりアンカ204が吸引されることで流入口225を開閉する。電流Iが通電されて電磁力を発生するソレノイド205は、吸入弁203の開閉動作を制御する。アンカ204は、ソレノイド205が生成する電磁力により固定コア(固定部206)に吸引され、吸入弁203の動作を制御する。吸入弁203とアンカ204を電磁アクチュエータ200とも呼ぶ。
【0018】
高圧燃料ポンプ103は、ケーシング223で囲まれ、内部に加圧室211が配置される。加圧室211とは、連通口221と流出口222で区切られる範囲の領域である。低圧配管111側から、流入口225と連通口221を通して加圧室211へ燃料が流入する。加圧室211に流入した燃料は、流出口222を通って高圧配管104側に吐出される。
【0019】
流出口222は、吐出弁210によって開閉される。吐出弁210は、ばね部226によって流出口222を閉弁する方向に常時付勢されている。加圧室211の圧力がばね部226のスプリング力を上回ると流出口222が開いて燃料が吐出される。
【0020】
高圧燃料ポンプ103では、ソレノイド205の通電のオン又はオフが制御されることでアンカ204の軸方向(図2の左右方向)の動作が制御される。ソレノイド205の通電がオフの状態においてアンカ204は、第1スプリング209によって開弁方向(図2の右方向)に常時付勢され、アンカ204に押された吸入弁203がストッパ208に接触して静止状態となることで吸入弁203は開弁位置に保たれる。図2では、開弁状態の吸入弁203の様子が示されている。図中に示す一点鎖線212は、低圧配管111から加圧室211への燃料の流入方向を表す。
【0021】
ソレノイド205の通電がオンになると、固定部206(磁気コア)とアンカ204との間に磁気吸引力Fmagが発生する。磁気吸引力Fmagにより、第1スプリング209のスプリング力Fspに抗して吸入弁203の基端(第1スプリング209の付け根の部分)側に設けられるアンカ204が閉弁方向(図2の左方向)に吸引され、アンカ204が加速される。
【0022】
アンカ204が固定部206に吸引された状態において吸入弁203は上流側と下流側との差圧及び第2スプリング215の付勢力に基づいて開閉するチェック弁となる。したがって、吸入弁203の下流側の圧力が上昇することにより吸入弁203は閉弁方向に移動する。吸入弁203が閉弁方向に設定されたリフト量だけ移動すると、吸入弁203の突起がシート部207に着座し、吸入弁203は閉弁状態となるため、加圧室211の燃料が低圧配管111側に逆流できなくなる。これによって、プランジャ202の上昇により圧縮された燃料は流出口222を通って高圧配管104に吐出される。
【0023】
高圧燃料ポンプ103の動作(主に、ソレノイド205への通電、アンカ204の移動)は、ECU114によって制御される。ECU114には、高圧燃料ポンプ103の動作情報(カム軸センサが検出したカム軸の回転角等)、各種センサが検出した情報等が入力される。
【0024】
<<高圧燃料ポンプ動作のタイムチャート>>
図3は、高圧燃料ポンプ103の動作を説明するタイムチャートである。タイムチャートの下側には、高圧燃料ポンプ103の動作の様子がタイミングt1乃至t8に対応付けて示される。
【0025】
図3の最上段に示すように、図2に示したECU114の吐出量制御部301(後述する図4を参照)は、高圧燃料ポンプ103が吐出する燃料の吐出量を制御する。例えば、ECU114は、吸入弁203がプランジャ202の上下(プランジャ変位)に同期して開閉動作する基準とするために、カム軸の回転角を検出する。吐出量制御部301は、例えば上死点(TDC:Top Dead Center)から決められた角度(図3の左下に示すP_ONタイミング)をカム201が回転した後に、不図示の電源がソレノイド205の両端に対して、図3の電圧波形で示す電圧Vを与え始める(タイミングt1)。タイミングt1では、アンカ204が第1スプリング209の付勢力により、吸入弁203に押し付けられた状態である。
【0026】
電圧Vにより、ソレノイド205に流れる電流Iは、次式(1)に従って増加する。
LdI/dt=V-RI・・・(1)
式(1)中のLは、ソレノイド205のインダクタンスを表し、Rは、配線の抵抗を表す。電流Iの増加に伴い、固定部206(磁気コア)がアンカ204を吸引する磁気吸引力Fmag(図2参照)も増加する。
【0027】
磁気吸引力Fmagが第1スプリング209の力Fspより大きくなると、スプリング力Fspにより押さえつけられていたアンカ204が固定部206に向かって移動を始める(タイミングt2)。アンカ204が移動すると、プランジャ202の上昇により加圧された燃料に押されて、吸入弁203もアンカ204に追従して固定部206に向かい移動する。
【0028】
図3の電流Iのグラフに示すように、ソレノイド205に通電される電流Iは、静止状態の吸入弁203に閉弁を開始するための勢いをつけるピーク電流Iaと、吸入弁203を閉弁状態で保持するためにピーク電流Iaの最大値より低い範囲でスイッチングする保持電流Ibとからなる。アンカ204と吸入弁203は慣性で移動するので、ECU114は吸入弁203が閉弁完了する前にピーク電流Iaを打ち切るように不図示の電源を制御する。なお、ピーク電流Iaは、タイミングt3で打ち切られる。以下の説明で「閉弁完了」とは、アンカ204が固定部206に衝突する途中で、吸入弁203の突起がシート部207に着座して、吸入弁203が閉弁するタイミングを意味する。図中の電流波形に斜線部で示すピーク電流Iaは、第1スプリング209に押さえつけられて開弁位置に静止している吸入弁203とアンカ204に、閉弁するための勢いをつけるため、ソレノイド205に通電される電流を表す。
【0029】
タイミングt3の後、ソレノイド205に保持電流Ibが通電される。図中の電流波形に横線部で示す保持電流Ibは、電圧をスイッチングすることでソレノイド205に通電される電流を表す。電圧のスイッチングは、固定部206に近づいたアンカ204を、固定部206に衝突するまで引き付け、衝突した後は、接触状態を維持するために行われる。電圧のスイッチングにより、この電流は一定の範囲で振動する。
【0030】
やがて吸入弁203の先端に設けられた突起がシート部207に衝突して、吸入弁203が着座する。この衝突により、図2に一点鎖線212で示した燃料の流路が塞がれる(タイミングt4)。プランジャ202の上昇により加圧された燃料は低圧配管111側に戻れなくなるので、加圧室211の圧力は上昇する。なお、アンカ204は吸入弁203がシート部207に衝突した後も動き続けるので、タイムチャートに破線で示すアンカ204の変位は、吸入弁203の変位よりも大きくなる。
【0031】
加圧室211の圧力が、吐出弁210を押さえるばね部226のスプリング力Fsp_out(図2を参照)および高圧配管104側の圧力より大きくなると、吐出弁210が開き、プランジャ202の上昇により加圧された燃料が高圧配管104に吐出される。その後、吐出量制御部301は、ソレノイド205に逆電圧を印加する(タイミングt5)。逆電圧が印加されると、ソレノイド205に供給されていた保持電流Ibが遮断される。このため、磁気吸引力より大きくなった第1スプリング209の力に押されてアンカ204が、図2の右方向に移動し始める。
【0032】
図3の上から5段目に示すように、カム角が上死点に到達後にプランジャ202が下降を始めると(タイミングt6)、図3の上から6段目に示すように加圧室211の燃圧は下がり始める。燃圧が、ばね部226のスプリング力Fsp_outおよび高圧配管104側の圧力より小さくなると吐出弁210は閉じて、燃料の吐出が終了する(タイミングt7)。
【0033】
また、加圧室211の燃圧低下により、吸入弁203と共にアンカ204が閉弁位置から開弁位置へ移動する(タイミングt7,t8)。
【0034】
このような動作により、高圧燃料ポンプ103は低圧配管111から高圧配管104に燃料を送る。この過程において、閉弁完了の後にアンカ204が固定部206に衝突する時(図3のタイミングt4)と、アンカ204および吸入弁203がストッパ208に衝突して開弁完了する時(図3のタイミングt8)とで主な騒音が発生する。特に、アンカ204が固定部206に衝突した時の騒音が大きい。この騒音は、特にアイドリング時においてドライバが不快に感じることがあり、自動車メーカや高圧燃料ポンプのサプライヤは、その騒音低減に取り組んでいる。そこで、本実施形態に係るECU114は、特に閉弁完了(図3のタイミングt4)の際に発生する騒音を低減することを目的として発明されたものである。
【0035】
<<ピーク電流Iaと保持電流Ib>>
ここで、ECU114が高圧燃料ポンプ103の駆動を静音制御するために、ソレノイド205に通電される電流について説明する。
上述したように、高圧燃料ポンプ103を駆動する電流は大まかに、ピーク電流Ia(図3の電流波形の斜線部)と保持電流Ib(図3の電流波形の横線部)の2つに分けられている。ピーク電流Iaを、図3に示したタイミングt1乃至t3の期間で積分するとピーク電流積分値が算出される。ピーク電流積分値は、図3に示したピーク電流Iaの供給開始のタイミングt1からピーク電流Iaの低減が開始するタイミングt3までにソレノイド205に通電される電流Iの積分値で定義される。
【0036】
ピーク電流Iaは、第1スプリング209に押さえつけられて開弁位置に静止している吸入弁203とアンカ204に、閉弁するための勢いをつけるためにソレノイド205に通電される。このため、ピーク電流積分値を低減すれば、閉弁の勢いは弱くなり、騒音を低減することができる。
【0037】
一方、保持電流Ibは、固定部206に近づいたアンカ204を、固定部206に衝突するまで引き付け、アンカ204が固定部206に衝突した後は、アンカ204の接触状態を維持する。ピーク電流印加量を低減すれば、閉弁の勢いは弱くなり、騒音は低減できる。しかし、ピーク電流印加量を低減しすぎると閉弁に失敗する。したがって、閉弁する範囲で可能な限りピーク電流印加量を低減することが求められている。
【0038】
<<吐出量制御>>
図4は、高圧燃料ポンプ103の吐出量を制御するECU114の構成例を示す図である。
【0039】
高圧配管104には、燃圧センサ401が設けられる。燃圧センサ401は、高圧配管104内の燃圧を計測する機能を有する。
吐出量制御部301は、ECU114に設けられ、高圧燃料ポンプ103の吐出量を制御する機能を有する。このため、吐出量制御部301には、目標燃圧と、燃圧センサ401が計測した燃圧計測値が入力される。
回転角センサ302は、カム201の回転角を計測する。回転角の情報は、ECU114に出力される。
【0040】
高圧燃料ポンプ103の役割は、高圧配管104内の燃圧を目標値に保つように、低圧配管111の燃料を圧縮して高圧配管104に吐出することである。このため、吐出量制御部301は、燃圧センサ401で計測した、高圧配管104内の燃圧計測値が目標燃圧に追従するように、ソレノイド205に印加する電流の電流印加開始タイミングを制御する。
【0041】
吐出量制御部301は、燃圧計測値が目標燃圧より低いと判定した場合、燃料の吐出量を増やすために電流印加開始タイミングを早くすることで、燃圧が目標燃圧に達するように吐出量を制御する。一方、吐出量制御部301は、燃圧計測値が目標燃圧より高いと判定した場合、燃料の吐出量を減らすために電流印加開始タイミングは遅くすることで、燃圧が目標燃圧より低くなるように制御する。一般的には、吐出量制御部301では、PID(Proportional-Integral-Differential)制御が適用される。
【0042】
<<静音制御>>
ピーク電流Iaと保持電流Ibについて説明したように、ECU114がピーク電流印加量を低減すると、弁体(吸入弁)の閉弁時の速度が低減され、静音化が実現される。
【0043】
図5は、吸入弁203とアンカ204(図4参照)の変位の例を示す図である。
図5Aは、閉弁成功の場合における吸入弁203の弁体とアンカ204の変位の例を示す図である。図5Aは、図3に示した閉弁成功時における吸入弁203の弁体とアンカ204の変位のグラフと同じである。
【0044】
図5Aに示すように、ECU114がソレノイド205に十分な電流を与えると、吸入弁203とアンカ204が動き、閉弁が成功する。
【0045】
図5Bは、閉弁失敗の場合における吸入弁203とアンカ204の変位の例を示す図である。
ECU114は、ピーク電流印加量を低減するほど、吸入弁203とアンカ204の衝突音が抑えられるので高圧燃料ポンプ103を静音化できる。しかし、ECU114がピーク電流印加量を低減しすぎると、閉弁が失敗してしまう。図5Bに示すように、ECU114が不十分なピーク電流印加量しか与えられないと、磁気吸引力Fmagがスプリング力Fspより弱いので吸入弁203とアンカ204の閉弁動作が失敗する。
【0046】
図6は、閉弁成功時と閉弁失敗時の燃料配管圧力(以下、「燃圧」と略記する)とプランジャ変位の例を示す図である。図6の上側に燃圧の変化の様子が示され、図6の下側にプランジャ変位の様子が示される。プランジャ202が下死点から上死点まで移動する期間を加圧期間と呼ぶ。
【0047】
閉弁成功時には、弁体が加圧室211から低圧配管111に至る流路を塞ぐため、プランジャ202の上昇による加圧室211内の圧力上昇は高圧配管104に伝搬する。閉弁成功すると、圧力上昇の伝播により、プランジャ202の上昇に同期して、高圧配管104の圧力が領域21(右上がりの斜線領域)に示すように上昇する。一方、閉弁失敗すると、プランジャ202が上昇しても、加圧室211の燃料は低圧配管111に逃げてしまう。このため、領域22(右下がりの斜線領域)に示すように高圧配管104の圧力は上昇しない。
【0048】
そこで、図4に示した吐出量制御部301は、高圧配管104又はコモンレール(図示略)に配置した燃圧センサ401の圧力計測値に基づき、高圧配管104の圧力の違いを識別して電磁弁(吸入弁203とアンカ204)の動作判定を行う。吐出量制御部301は、電磁弁の動作判定結果を用いて、電磁弁の閉弁が成功すると電流印加量を低減し、電磁弁の閉弁が失敗すると電流印加量を加算する。吐出量制御部301は、低減又は加算した電流印加量を、電磁弁の閉弁動作が可能な下限値とする。その後、吐出量制御部301は、高圧燃料ポンプ103を静音化したい運転条件において、電流印加量を、この下限値に制御することで高圧燃料ポンプ103の閉弁時の騒音を低減する。
【0049】
[第1実施形態]
次に、上述した高圧燃料ポンプ103の静音制御を実施するための第1実施形態について、ECU114Aが電流印加量を学習する形態と、学習値を用いる形態とに分けて記載する。高圧燃料ポンプ103の静音制御は、プランジャ202の上昇に同期した燃圧の脈動を検知する必要があるため、この脈動を検出することができる十分に短い周期で実施される必要がある。図7に示すECU114Aは、図4に示したECU114に対して、第1実施形態の制御で必要な構成を加えたものである。
【0050】
(ECUが電流印加量を学習する形態)
始めに、第1実施形態に係るECU114Aが電流印加量を学習する形態について説明する。
図7は、第1実施形態に係るECU114Aの構成例を示すブロック図である。図7では、ECU114Aと共に高圧燃料ポンプ103も記載する。
【0051】
第1実施形態に係るECU114Aは、図7に示したように燃料を間欠加圧して燃料配管(高圧配管104)内に吐出する燃料ポンプ(高圧燃料ポンプ103)と、間欠加圧されている燃料を噴射する燃料噴射弁(図1に示す直噴インジェクタ105)とを備えた内燃機関(直噴内燃機関10)の動作を制御する。このECU114Aは、図4に示した吐出量制御部301に加えて、プランジャ動作判定部801、圧力変化算出部802、動作判定部803、電流印加量学習部804、及び学習値メモリ806を備える。
【0052】
プランジャ動作判定部801は、回転角センサ302から算出されたクランク角に基づいて、プランジャ202の動作(例えば、プランジャ202の位相角)を判定する。
圧力変化算出部(圧力変化算出部802)は、燃料ポンプ(高圧燃料ポンプ103)の間欠加圧ごとの燃料配管(高圧配管104)内における圧力変化分を算出する。この圧力変化算出部(圧力変化算出部802)は、燃料ポンプ(高圧燃料ポンプ103)を駆動するカムシャフトの回転位相に同期する信号を入力値とし、燃料ポンプ(高圧燃料ポンプ103)の間欠加圧ごとの圧力変化分を算出する。本実施形態では、高圧燃料ポンプ103を駆動するカムシャフトの回転位相に同期する信号が、回転角センサ302から算出されるクランク角であるとする。このため、圧力変化算出部802は、カムシャフトに接続されたプランジャ02の動作に合わせて圧力変化分を算出することが可能となる。
【0053】
動作判定部(動作判定部803)は、圧力変化分に基づいて燃料ポンプ(高圧燃料ポンプ103)の電磁弁の動作状態を判定する。ここで、動作判定部(動作判定部803)は、電磁弁の動作状態として、電磁弁の閉弁動作の不足を判定することができる。動作判定部803による電磁弁の動作状態の判定結果は、電流印加量学習部804に出力される。
【0054】
電流印加量学習部(電流印加量学習部804)は、動作状態が電磁弁の閉弁動作の失敗であると判定された場合に、電磁弁に印加される電流印加量を変更し、電磁弁の閉弁動作が可能な電流印加量の下限値を学習する。ここで、電流印加量学習部(電流印加量学習部804)は、内燃機関(直噴内燃機関10)が運転されている間に予め下限値を学習する。内燃機関(直噴内燃機関10)が運転されている間とは、例えば、直噴内燃機関10が駆動されている状態全般を含み、車両が走行している状態だけでなく、車両が停止している状態も含む。
【0055】
また、電流印加量学習部(電流印加量学習部804)は、内燃機関(直噴内燃機関10)が定常運転している間に予め下限値を学習する。内燃機関(直噴内燃機関10)が定常運転している間とは、例えば、アイドリング状態、一定速度で車両が走行している状態を含む。
学習値メモリ806は、電流印加量学習部804が学習した電流印加量の下限値を保存する。
【0056】
図8は、第1実施形態に係るECU114Aの動作例を示すフローチャートである。
【0057】
電流印加量の下限値の学習が開始されると、プランジャ動作判定部801は、回転角センサ302から算出されたクランク角と、不図示の可変動弁機構制御装置から受け取ったカム角との位相差に基づき、プランジャ202の位相角を算出する(S1)。プランジャ動作判定部801が算出したプランジャ202の位相角は、圧力変化算出部802に出力される。
【0058】
圧力変化算出部802は、プランジャ202の位相角に基づいて圧力変化を算出し、プランジャ202の位相角が、予め設定した燃圧変化算出範囲の開始角度に到達したか否かを判定する(S2)。プランジャ202の位相角が、予め設定した燃圧変化算出範囲の開始角度に到達していれば(S2のYES)、圧力変化算出部802は、燃圧計測値をプランジャ202の上昇開始時の燃圧とする(S3)。その後、次ステップ、すなわち、学習値を用いる形態に移る。
【0059】
一方、ステップS2にて、圧力変化算出部802は、プランジャ202の位相角が、予め設定した燃圧変化算出範囲の開始角度に到達していないと判定した場合(S2のNO)、プランジャ202の位相角が、予め設定した燃圧変化算出範囲の終了角度に到達したか否かを判定する(S4)。圧力変化算出部802は、プランジャ202の位相角が、予め設定した燃圧変化算出範囲の終了角度に到達していないと判定した場合(S4のNO)、次ステップ、すなわち、学習値を用いる形態に移る。
【0060】
一方、ステップS4にて、圧力変化算出部802は、プランジャ202の位相角が、予め設定した燃圧変化算出範囲の終了角度に到達していると判定した場合(S4のYES)、燃圧計測値をプランジャ202の上昇終了時の燃圧とする(S5)。次に、圧力変化算出部802は、上昇終了時の燃圧から上昇開始時の燃圧を減じることで、燃圧の変化量である燃圧変化分を算出し(S6)、燃圧変化分を動作判定部803に出力する。
【0061】
次に、動作判定部803は、燃圧変化分が閾値より大きいか否かを判定する(S7)。動作判定部803は、燃圧変化分が閾値より大きいと判定した場合(S7のYES)、閉弁成功と判定する(S8)。次に、吐出量制御部301は、電流印加量を低減し(S9)、電磁弁を動作させた後、次ステップに移行する。
【0062】
ステップS7にて、動作判定部803は、燃圧変化分が閾値以下であると判定した場合(S7のNO)、閉弁失敗と判定する(S10)。このため、吐出量制御部301は、電流印加量に所定値を加算し(S11)、電磁弁を動作させる。その後、電流印加量学習部804は、所定値が加算された電流印加量を学習値メモリ806に保存する(S12)。その後、次ステップ、すなわち、学習値を用いる形態に移る。
【0063】
図9は、第1実施形態に係るECU114Aの処理が実行されたことによる閉弁動作の判定結果の概念図である。図9に示すグラフは、横軸を時間、縦軸を燃料配管圧力としている。以下の図面では、閉弁動作の判定結果として、閉弁成功を丸印、閉弁失敗をバツ印で表す。
【0064】
図7に示した動作判定部803は、圧力変化算出部802が高圧燃料ポンプ103の加圧期間ごとに算出した燃圧の変化に基づいて、電磁弁の動作状態を2種類に切り分けて判定する。図9では、図6と同様に、閉弁成功の動作判定結果を領域21で表し、閉弁失敗の動作判定結果を領域22で表す。
【0065】
図9Aは、電磁弁の閉弁が失敗して燃料圧力が低下する場合の例を示す図である。閉弁成功であれば、高圧燃料ポンプ103が加圧されると、燃圧が上昇し、燃料噴射弁から燃料が噴射されると、燃圧が下降する動作が加圧期間ごとに繰り返される。しかし、閉弁失敗であれば、高圧燃料ポンプ103が加圧されるタイミングであっても、燃圧が上昇しない。また、燃料噴射弁から燃料が噴射されることで、さらに燃圧が下降する。
【0066】
図9Bは、電磁弁の閉弁が成功したにもかかわらず、燃料圧力が低下する場合の例を示す図である。この例では、高圧燃料ポンプ103が加圧され、燃料噴射弁から燃料が噴射される動作は正常であり、電磁弁の閉弁は加圧期間ごとに成功している。ただし、高圧燃料ポンプ103では、この一連の動作が行われる度に燃圧が下降する。このような燃圧の変化は、例えば、車両がアイドリング状態であるときに発生することがある。
【0067】
(ECUが所定値と学習値を切り替える形態)
ECU114Aは、上述した電磁弁の動作状態の違いに応じて、所定値と学習値を切り替える。
図10は、ECU114Aが学習値である下限値に切り替える動作例を示すブロック図である。ECU114Aは、閉弁失敗時に学習値メモリ806の学習値(下限値)を電流印加量の制御に反映する処理を行う。
【0068】
図10に示すように、ECU114Aは、図7に示した第1実施形態に係るECU114Aの各部を有し、さらに所定値メモリ807、運転条件判定部808、切替部809、及び電流印加量制御部810を有する。なお、図7に示した第1実施形態に係るECU114Aの各部のうち、一部の記載を省略する。
【0069】
運転条件判定部(運転条件判定部808)は、燃料ポンプ(高圧燃料ポンプ103)が稼働する直噴内燃機関10の運転条件を判定する機能を有する。運転条件判定部808は、予め設定した静音化したい運転条件であることを判定すると、切替指令を切替部809に出力する。この切替指令は、電流印加量制御部810が出力する電流印加量を所定値メモリ807に記憶されていた所定値から、学習値メモリ806に記憶されていた学習値である下限値に変更する指令である。その後、運転条件が変わると、切替部809が所定値メモリ807から所定値を読み出すように、切替部809に切替指令が出力される。閉弁失敗時には、電磁弁の閉弁動作が可能な下限値に切り替えられることで、電磁弁の閉弁動作が可能となる。
【0070】
切替部(切替部809)は、運転条件判定部(運転条件判定部808)により燃料ポンプ(高圧燃料ポンプ103)が静音運転条件で稼働されていると判定された期間では、電磁弁の電流印加量を所定の制御値から下限値に変更する。この際、切替部809は、学習値メモリ806に保存される学習値、又は、所定値メモリ807に保存される学習値のいずれかを読み出して電流印加量制御部810に出力する。通常、切替部809は、所定値メモリ807から読み出した所定値を電流印加量制御部810に出力する。しかし、運転条件判定部808から学習値を読み出すように切替指令が入力されると、切替部809は、学習値メモリ806から読み出した学習値を電流印加量制御部810に出力する。その後、運転条件判定部808から所定値を読み出すように切替指令が入力されると、切替部809は、所定値メモリ807から読み出した所定値を電流印加量制御部810に出力する。
【0071】
電流印加量制御部810は、切替部809が切り替えて読み出した所定値又は学習値に応じた電流印加量をソレノイド205に印加することで、高圧燃料ポンプ103の動作を制御する。
【0072】
図10に示す形態により、ECU114Aは、電磁弁の閉弁を成功させる最小値付近で電流印加量を制御し、高圧燃料ポンプ103を静音化して動作させることが可能となる。また、ECU114Aは、常時、電流印加量を変化させるのでなく、高圧燃料ポンプ103を静音化したい運転条件でのみ、予め学習しておいた学習値である下限値に切り替える。これにより、高圧燃料ポンプ103を加圧期間で確実に閉弁させることができ、高圧燃料ポンプ103の安定した制御を実現することが可能となる。高圧燃料ポンプ103の制御のために、例えば、直噴内燃機関10のアイドリング時など、定常運転時に下限値の学習が行われる。
【0073】
一般的に、直噴内燃機関10の運転条件がアイドリングである場合、高圧燃料ポンプ103以外の騒音が小さいため、高圧燃料ポンプ103の作動音が目立つ。そのため、アイドリング時の騒音低減が重要な課題となることが多い。そこで、ECU114Aは、高圧燃料ポンプ103を静音化したい運転条件であるアイドリング時に学習を行うことで、学習時の運転条件と、実際に静音制御を行う運転条件とが一致した場合に、より精度の高い静音制御を行うことができる。また、車両の定常運転時は燃圧も周期的な挙動となるため、動作判定部803による電磁弁の動作判定の精度が向上する効果も期待できる。
【0074】
さらに、電磁弁に供給される電圧によって電流印加量の下限値は影響を受けることが予想される。そこで、電流印加量学習部(電流印加量学習部804)は、内燃機関(直噴内燃機関10)の複数の電圧条件において予め下限値を学習する。切替部(切替部809)は、運転条件判定部(運転条件判定部808)によって燃料ポンプ(高圧燃料ポンプ103)が静音運転条件で稼働されていると判定された場合に、電磁弁の電流印加量を所定の制御値から、電圧条件に応じた下限値に変更する。このように高圧燃料ポンプ103が静音運転条件で稼働されている時には、電流印加量制御部810は、高圧燃料ポンプ103の制御時に検知された電圧に応じた下限値を用いることで、弁体の衝突速度が抑制され、高圧燃料ポンプ103の静音効果を一層高めることが可能である。
【0075】
また、電流印加量を下限値として制御する際の懸念点として、電磁弁の応答性低下が挙げられる。応答性低下の結果、同じ電流印加開始タイミングに対し、吐出量が変化する懸念がある。この対策として、ECU114Aは、電流印加量を低減した際の応答遅れを加味し電流印加開始タイミングを決定してもよい。
【0076】
以上説明した第1実施形態に係るECU114Aでは、既存の燃圧センサ401が計測した高圧配管104内の間欠加圧ごとの圧力変化分に基づいて電磁弁の動作状態を判定することで、電磁弁の動作状態を精度よく判定できる。この際、弁動作の不足による燃料圧力低下と運転条件変化などによる圧力低下を切り分けることができる。例えば、ECU114Aは、閉弁失敗して燃料圧力が低下する場合と、閉弁成功したが燃料圧力が低下する場合を切り分けることができる。従来は、運転条件に応じて電流印加量を変更する制御は行われていなかったのに対し、ECU114Aは、閉弁失敗して燃料圧力が低下する場合を判定すると、電流印加量を増加するように制御する。このため、ECU114Aは、確実に閉弁を成功させることが可能な電流印加量の下限値をソレノイド205に印加し、高圧燃料ポンプ103の静音化を実現することができる。
【0077】
また、ECU114Aは、高圧燃料ポンプ103の加圧区間ごとに算出した高圧配管104内の燃圧の変化分が閾値未満である場合に、閉弁失敗を判定できる。このため、ECU114Aは、閉弁失敗の判定後、予め学習した電流印加量の下限値をソレノイド205に印加することで、その後の加圧区間では閉弁成功させることができる。また、電流印加量制御部810は、下限値により電流印加量を制御するため、十分に電流を低減しつつ、高圧燃料ポンプ103を静音制御することが可能となる。
【0078】
また、電流印加量学習部804は、閉弁動作が可能な電流印加量の下限値を予め学習する。電流印加量の下限値は、高圧燃料ポンプ103の個体ごとに学習される。このため、従来のように高圧燃料ポンプ103の個体によらず一定の電流印加量がソレノイド205に印加されていた場合に比べて、高圧燃料ポンプ103の個体に応じた適切な下限値の電流印加量がソレノイド205に印加されるようになる。
【0079】
また、ECU114Aは、高圧燃料ポンプ103の時間経過とともに少しずつ高圧配管104内の燃圧が下がっていく状態であっても、電流印加量を、学習した下限値に制御し続けることで高圧燃料ポンプ103の閉弁時の騒音を低減できる。
【0080】
また、動作判定部803は、燃圧変化分が閾値より大きければ閉弁成功と判定し、燃圧変化分が閾値未満であれば閉弁失敗と判定する。このように閾値を設けたことで、閉弁失敗したにもかかわらず脈動等により燃圧変化分が生じた場合であっても、動作判定部803が閉弁失敗を確実に判定することができる。
【0081】
また、静音運転条件下で学習値により電流印加量制御部810が電流印加量を制御したにも関わらず、閉弁失敗した場合には、切替部809は所定値メモリ807から所定値を読み出すように切り替えてよい。この場合、電流印加量制御部810は、所定値により電流印加量を制御するので、確実に閉弁成功することができる。
【0082】
[第2実施形態:加圧期間内で燃料噴射が行われる場合]
次に、本発明の第2実施形態に係るECU114Aの動作例について説明する。第2実施形態では、直噴内燃機関10の運転条件に応じ、高圧燃料ポンプ103の加圧期間内で燃料噴射が行われる場合に高圧燃料ポンプ103を静音化する制御例について説明する。
【0083】
高圧燃料ポンプ103を駆動するカムシャフトは、燃焼サイクルと連動するクランクシャフトとは別の軸である。また、カムシャフトとクランクシャフトの間には、可変動弁機構制御装置が介在する場合もある。このため、カムシャフトとクランクシャフトの位相は一意に決定されず、高圧燃料ポンプ103の加圧期間内で燃料噴射が行われる可能性がある。そこで、第2実施形態に係るECU114Aでは、加圧期間内で燃料噴射が行われ、一時的に燃圧が低下した場合であっても、電磁弁の動作状態を正しく判定できるようにする。
【0084】
図11は、加圧期間内で燃料噴射が行われる場合における燃料配管圧力の様子を示す図である。
【0085】
閉弁成功であれば、加圧期間中に燃料噴射弁が燃料噴射をすることで、燃料配管圧力が低下する。その後、燃料が加圧され、加圧期間内に燃料噴射で低下した燃圧が加圧によって回復するような圧力挙動となる。図11においてドットで表される領域23の加圧期間では、圧力変化分が小さい。このように加圧期間の全体を圧力変化分の算出期間にすると、加圧期間であるにもかかわらず、ほぼ圧力変化が見られず、圧力変化分が閾値以下となる。このため、動作判定部803は、弁動作の失敗と誤判定する懸念があり、電磁弁の動作判定が困難であった。
【0086】
このような誤判定を防止するために、圧力変化算出部802は、燃料噴射弁が燃料噴射した直後である高圧燃料ポンプ103の加圧期間開始から加圧期間終了までの算出期間における圧力変化分を算出する。その後、燃料ポンプ(高圧燃料ポンプ103)の間欠加圧期間中に噴射弁による燃料の噴射が実施される場合に、動作判定部(図7に示す動作判定部803)は、燃料の噴射後に電磁弁の動作状態を判定する。例えば、動作判定部803は、領域24に示される圧力変化算出部802により算出された圧力変化分が閾値より大きくなったか否かを動作判定に用いる。この処理によって、噴射による圧力低下分を除外することができ、圧力変化分が大きい加圧期間では、動作判定部803は、加圧による圧力上昇を正確に捉えることができる。この結果、動作判定部803は、誤判定を防止することが期待できる。
【0087】
また、閉弁失敗した場合には、領域25に示すように、圧力変化分の算出期間では圧力変化分が増加しない。このため、動作判定部803は、閉弁失敗を正確に判定することができる。その後、領域26に示すように、圧力変化分の算出期間で算出された圧力変化分が閾値を超えていれば、動作判定部803は、閉弁成功したことを判定できる。
【0088】
なお、本発明は上述した各実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した本発明の要旨を逸脱しない限りその他種々の応用例、変形例を取り得ることは勿論である。
例えば、上述した各実施形態は本発明を分かりやすく説明するために装置及びシステムの構成を詳細かつ具体的に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されない。また、ここで説明した実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることは可能であり、さらにはある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加、削除、置換をすることも可能である。
また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。
【符号の説明】
【0089】
10…直噴内燃機関、103…高圧燃料ポンプ、104…高圧配管、111…低圧配管、114,114A…ECU、202…プランジャ、203…吸入弁、204…アンカ、205…ソレノイド、301…吐出量制御部、302…回転角センサ、401…燃圧センサ、801…プランジャ動作判定部、802…圧力変化算出部、803…動作判定部、804…電流印加量学習部、806…学習値メモリ、807…所定値メモリ、808…運転条件判定部、809…切替部、810…電流印加量制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11