(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024164447
(43)【公開日】2024-11-27
(54)【発明の名称】画像処理装置、画像処理方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 6/46 20240101AFI20241120BHJP
A61B 6/03 20060101ALI20241120BHJP
【FI】
A61B6/03 360Z
A61B6/03 360J
A61B6/03 360D
A61B6/03 360Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023079923
(22)【出願日】2023-05-15
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【弁理士】
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 亜希
(72)【発明者】
【氏名】松木 直紀
【テーマコード(参考)】
4C093
【Fターム(参考)】
4C093AA22
4C093AA26
4C093CA17
4C093FF04
4C093FF08
4C093FF17
4C093FF19
4C093FF27
4C093FF35
(57)【要約】
【課題】画像所見を観察する際に、ユーザの画像調整に係る手間を軽減する。
【解決手段】画像処理装置において、診断対象の医用画像に対して、第1の画像所見群として複数の画像所見を取得する所見取得手段と、該複数の画像所見から少なくとも1つの画像所見を選択する所見選択手段と、選択された画像所見に対して、画像所見の観察に適した画像処理条件を決定する決定手段と、決定された画像処理条件を満たす表示用画像を取得する画像取得手段と、を配する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
診断対象の医用画像に対して、第1の画像所見群として複数の画像所見を取得する所見取得手段と、
前記複数の画像所見から少なくとも1つの画像所見を選択する所見選択手段と、
前記選択された画像所見に対して、画像所見の観察に適した画像処理条件を決定する決定手段と、
前記決定された画像処理条件を満たす表示用画像を取得する画像取得手段と、
を備える画像処理装置。
【請求項2】
前記所見取得手段は、前記医用画像に対する推論による画像所見を取得する、請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記所見選択手段は、前記所見取得手段によって推論される画像所見の尤度に基づいて、前記画像所見を選択する、請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記所見取得手段は、前記診断対象の医用画像の画像特徴量を前記尤度が付された前記第1の画像所見群に変換する、請求項3に記載の画像処理装置。
【請求項5】
前記所見取得手段によって推論される画像所見の診断への影響度を取得する影響度取得手段をさらに備え、
前記所見選択手段は、前記取得される影響度に基づいて、前記画像所見を選択する、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項6】
画像所見を入力として診断名を推論する診断推論手段をさらに備え、
前記影響度取得手段は、前記推論された診断名に対する画像所見の影響度を、前記診断への影響度として取得する、請求項5に記載の画像処理装置。
【請求項7】
前記診断対象の医用画像に対応する医用画像であって、撮影時期が異なる医用画像に対応する少なくとも1つの第2の画像所見を取得する所見取得手段をさらに備え、
前記所見選択手段は、前記第1の画像所見群と前記第2の画像所見とに基づいて、前記少なくとも1つの画像所見を選択する、請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項8】
前記所見選択手段は、前記第1の画像所見群と、前記診断対象の医用画像に対応する医用画像に基づいて得られた第2の画像所見とに基づいて、前記少なくとも1つの画像所見を選択する、請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項9】
前記診断対象の医用画像に対して、異常陰影を特定する特定手段をさらに備え、
前記決定手段は、前記異常陰影に関連する画像所見に対する前記画像処理条件を決定し、
前記画像取得手段は、前記画像処理条件を満たし、且つ、前記異常陰影を含む画像を表示用画像として取得する、請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項10】
前記決定手段は、前記選択された画像所見の項目及び画像所見の値に基づいて、前記画像処理条件を決定する、請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項11】
前記画像取得手段は、前記決定手段によって決定された前記画像処理条件に基づく画像処理が適用された前記診断対象の医用画像を、前記表示用画像として取得する、請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項12】
前記画像処理条件に基づく画像処理は、輝度レベルの変更処理と、階調変換処理と、解像度変換処理と、切り出し処理のうち、少なくとも1つである、請求項11に記載の画像処理装置。
【請求項13】
前記画像取得手段は、互いに異なる画像処理が適用された複数の画像から、前記画像処理条件に基づいて前記表示用画像を取得する、請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項14】
前記診断対象の医用画像を表示手段に表示させる表示制御手段をさらに備える、請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項15】
前記表示制御手段は、前記診断対象の医用画像を表示する際に、前記画像所見に対応する領域を含む部分医用画像を、前記表示用画像から生成して前記表示手段に表示させる、請求項14に記載の画像処理装置。
【請求項16】
前記表示制御手段は、前記診断対象の医用画像の表示に適用されている画像処理条件が、前記決定手段によって決定された前記部分医用画像の画像処理条件と異なる場合に、前記部分医用画像を該診断対象の医用画像に対して重畳した重畳画像を前記表示手段に表示させる、請求項15に記載の画像処理装置。
【請求項17】
前記表示制御手段は、前記診断対象の医用画像の表示に適用されている画像処理条件が、前記決定手段によって決定された前記部分医用画像の画像処理条件と異なる場合に、前記部分医用画像を該診断対象の医用画像と対比可能に前記表示手段に表示させる、請求項15に記載の画像処理装置。
【請求項18】
前記診断対象の医用画像の表示に適用されている画像処理条件が、前記決定手段によって決定された画像処理条件と異なる場合に、前記表示用画像を前記診断対象の医用画像と対比可能に表示手段に表示させる表示制御手段をさらに備える、請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項19】
前記表示制御手段は、複数の画像所見が選択され、前記複数の画像所見の各々に対して画像処理条件が決定された場合に、複数の前記画像処理条件の各々を満たす表示用画像を、前記診断対象の医用画像と共に、切り替え可能に前記表示手段に表示させる、請求項14に記載の画像処理装置。
【請求項20】
診断対象の医用画像に対して、第1の画像所見群として複数の画像所見を取得することと、
前記複数の画像所見から少なくとも1つの画像所見を選択することと、
前記選択された画像所見に対して、画像所見の観察に適した画像処理条件を決定することと、
前記決定された画像処理条件を満たす表示用画像を取得することと、
を含む画像処理方法。
【請求項21】
コンピュータによって実行されると、請求項20に記載の画像処理方法の各工程を実行する、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書の開示は、画像処理装置、画像処理方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
医療の分野では、X線CT装置(Computer Tomography)やMRI装置(Magnetic Resonance Imaging)等の撮影装置により得られた医用画像に基づいて診断する「画像診断」が行われている。ここで、医用画像を観察して診断を導きだす作業を「読影」という。画像診断では、例えば主治医からの依頼に応じて、画像診断を専門とする医師である読影医が読影を行う。読影医は、診断の根拠の一部となり得る画像の性状を表す画像所見や各種の測定値から総合的に判断して、医用画像に描出される病変や被検体である患者の症状を特定する。そして、読影医は、画像所見や測定値を利用してその診断に至った経緯を読影レポートに記載し、依頼元の主治医へ返答する。
【0003】
昨今、多様な医用情報が診断に活用されており、コンピュータで医用画像をはじめとする医用情報を解析し、得られた結果を医師等のユーザが診断する際の補助として利用するシステムへの期待が高まっている。特許文献1には、肺結節画像から画像所見及び診断名を推論するシステムにおいて、推論された診断名の根拠となる画像所見の位置をユーザが把握しやすくするために、肺結節画像中の該当画像所見を示す領域の位置情報を提示する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
医師等のユーザが画像所見を把握するためには、その位置を知るだけではなく画像の性状を観察する必要がある。しかしながら、特許文献1に開示される方法では、画像の表示条件が、画像の性状の観察に適さない場合があった。このような場合、ユーザは、画像調整を行いながら画像所見を観察しなければならなくなる。
【0006】
本開示は、このような状況に鑑みたものであって、画像所見を観察する際に、ユーザの画像調整に係る手間を軽減することをその目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本開示の一態様に係る画像処理装置は、
診断対象の医用画像に対して、第1の画像所見群として複数の画像所見を取得する所見取得手段と、
前記複数の画像所見から少なくとも1つの画像所見を選択する所見選択手段と、
前記選択された画像所見に対して、画像所見の観察に適した画像処理条件を決定する決定手段と、
前記決定された画像処理条件を満たす表示用画像を取得する画像取得手段と、
を備える。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一態様によれば、画像所見を観察する際に、ユーザの画像調整に係る手間を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示の第1の実施形態に係る画像処理装置のハードウェア構成の一例である。
【
図2】第1の実施形態に係る画像処理装置の機能構成の一例である。
【
図3】第1の実施形態に係る画像処理装置による処理の一例を示すフローチャートである。
【
図4】第1の実施形態に係る画像処理装置で生成する入力情報の一例である。
【
図5】第1の実施形態に係る画像処理装置で参照する所見と優先度の対応表の一例である。
【
図6(a)】第1の実施形態に係る画像処理装置で参照する所見と表示条件の対応表の一例である。
【
図6(b)】第1の実施形態の変形例に係る画像処理装置で参照する所見と表示条件の対応表の一例である。
【
図7】第1の実施形態に係る画像処理装置による表示方法の一例である。
【
図8】第1の実施形態に係る画像処理装置による表示方法の一例である。
【
図9】第2の実施形態に係る画像処理装置の機能構成の一例である。
【
図10】第2の実施形態に係る画像処理装置による処理の一例を示すフローチャートである。
【
図11】第3の実施形態に係る画像処理装置による表示方法の一例である。
【
図12】第3の実施形態に係る画像処理装置の機能構成の一例である。
【
図13】第3の実施形態に係るレポートの保存方法の一例である。
【
図14】第3の実施形態に係る画像処理装置による処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示に係る画像処理装置、画像処理方法、及びプログラムに関する実施形態について、図面を参照して説明する。以下の実施形態は、特許請求の範囲に係る本開示を限定するものでない。なお、以下の実施形態において示す構成は一例に過ぎず、本開示は図示された構成に限定されるものではない。また、実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが本開示に必須のものとは限らず、また複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。また、図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0011】
[第1の実施形態]
第1の実施形態に係る画像処理装置ついて以下に説明する。第1の実施形態では、読影医が読影を行う作業の過程で、画像所見の観察に最適な画像を自動的に決定して表示する。以下では、第1の実施形態に係る画像処理装置について、ハードウェア構成の一例、機能構成の一例、処理フローの一例の順で説明する。
【0012】
(ハードウェア構成)
図1は、本実施形態における画像処理装置100のハードウェア構成の一例を示す図である。本実施形態における画像処理装置は、例えばCPU(Central Processing Unit)11、主メモリ12、磁気ディスク13、表示メモリ14、モニタ15、マウス16、及びキーボード17を備える。そして、これら構成は、共通バス18により通信可能に接続されている。
【0013】
CPU11は、主として各構成要素の動作を制御する。主メモリ12は、例えば、CPU11が実行する制御プログラムを格納し、CPU11によるプログラム実行時の作業領域を提供する。磁気ディスク13は、例えば、オペレーティングシステム(OS)、周辺機器のデバイスドライバ、及び後述する処理等を行うためのプログラムを含む各種アプリケーションソフトを実現するためのプログラムを格納する。CPU11が主メモリ12、又は磁気ディスク13に格納されているプログラムを実行することにより、本実施形態における画像処理装置の機能(ソフトウェア)が実現される。
【0014】
表示メモリ14は、例えばモニタ15に表示させるための表示用データを一時記憶する。モニタ15は、例えばCRT(Cathode Ray Tube)モニタや液晶モニタ等であり、表示メモリ14からのデータに基づいて画像やテキスト等の表示を行う。マウス16及びキーボード17は、ユーザによるポインティング入力及び文字等の入力をそれぞれ行う。
【0015】
なお、画像処理装置100の構成は上記に限定しない。例えば、画像処理装置100は複数のプロセッサを有していてもよい。また、GPU(Graphic Processing Unit)や、一部の処理をプログラムしたFPGA(Field-Programmable Gate Array)を有していてもよい。
【0016】
(機能構成)
図2は、本実施形態において診断支援を行う画像処理装置の機能構成の一例を示す図である。画像処理装置100は、症例情報端末200と通信可能に接続されている。画像処理装置100は、所見取得部104と、所見選択部110と、決定部112と、画像取得部114と、表示制御部116とを有する。画像処理装置100の各機能構成は内部バス等で接続されている。
【0017】
症例情報端末200は、診断対象である症例に関する情報をサーバ(不図示)から取得する。症例に関する情報とは、例えば医用画像や電子カルテに記載された臨床情報といった医用情報である。症例情報端末200は、例えばHDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、CDドライブ、及びDVDドライブといった外部記憶装置(不図示)と接続し、それらの外部記憶装置から医用画像を取得するようにしてもよい。
【0018】
また、症例情報端末200は、表示制御部116を介して、取得した医用画像のうちの一つをユーザに選択させるGUI(Graphical User Interface)を提供する。選択された医用画像は、モニタ15に大きく表示される。症例情報端末200は、当該GUIを介してユーザが選択した医用画像を、ネットワーク等を介して画像処理装置100へと送信する。
【0019】
所見取得部104は、症例情報端末200から画像処理装置100へ送信された読影の対象となる医用画像(以下、対象画像)に基づいて、当該対象画像に関する画像所見を取得する。まず、所見取得部104は、対象画像に対して画像処理を行い、当該対象画像の画像特徴量を取得する。次に、所見取得部104は、取得した画像特徴量に基づいて、当該対象画像に関する画像所見の推論を行い、推論した画像所見を出力する。画像所見の推論は、画像特徴量に基づいて画像所見を推論する推論器を予め深層学習等で構築して用いる。なお、所見取得部104の構成は、これに限らず、同様の機能を提供する外部のサーバ(不図示)から、当該対象画像に関する画像所見を取得する構成でもよい。なお、所見取得部104は、ユーザによって入力・選択された画像所見を取得しても、他の画像処理装置から送信された画像所見を取得してもよく、画像処理装置100による推論による取得に限定されるものではない。
【0020】
所見選択部110は、所見取得部104が出力した画像所見の中から、表示の対象となる画像所見(以下、選択画像所見)を選択し、当該選択画像所見の情報を出力する。決定部112は、所見選択部110が出力した選択画像所見に基づいて対象画像の表示条件を決定し、当該表示条件の情報を出力する。画像取得部114は、決定部112が出力した表示条件に基づいて、対象画像に関する表示用の画像(以下、表示用画像)を取得又は生成し、表示制御部116を介してモニタ15に表示させる。表示制御部116は、画像取得部114が生成した表示用画像や、ユーザが操作するためのGUIをモニタ15に表示する。
【0021】
(処理フロー)
次に、上述した画像処理装置100により行われる処理の一例を示すフローチャートである
図3を参照し、処理フローについて説明する。なお、第1の実施形態では、CPU11が主メモリ12に格納されている各部の機能を実現するプログラムを実行することにより
図3に示す処理(画像処理方法)が実現される。
【0022】
なお、以下の説明では、対象画像に関する画像特徴量をIm(m=1~M)、画像所見の項目(所見項目)をFn(n=1~N)で表す。Mは画像特徴量の項目数を、Nは画像所見の項目数を表す。ここで、ImとFnの各項目は値を持つ。Imの各項目は連続値を取り、Fnは項目により連続値又は離散値(カテゴリ値)を取るものとする。Fnが離散値を取る場合、各離散値をfnkで表すこととする。すなわち、k個の要素(カテゴリ)のいずれであるかを識別する情報が、当該所見項目の値となる。なお、kは各Fnにより様々な値を取るものとする。また、画像特徴量Im,画像所見Fnが連続値を取る場合、その値をim,fnで表すものとする。
【0023】
第1の実施形態では、一例として、胸部CT画像中の結節様陰影の画像を対象画像とした場合について説明する。このとき、画像所見として、
図4に例示したような項目(所見項目)と値(所見の値)を扱うものとする。例えば、所見項目F
1の「形状」であれば、要素はf
11「球形」,f
12「分葉状」,f
13「多角形」,f
14「不整形」の4値のいずれかである。所見項目F
2の「結節内石灰化比率」であれば、要素はf
21「67~100%」,f
22「34~66%」,f
23「0~33%」の3値のいずれかである。なお、第1の実施形態では、画像所見の要素は全て離散値であるとする。
【0024】
実際の処理フローが開始されると、ステップS301において、所見取得部104は、まず対象画像に基づいて画像処理を行い、当該対象画像の画像特徴量を取得する。ここで取得する画像特徴量は、画像の処理対象領域内における濃度(輝度)の平均値や分散などの一般的な画像特徴量であってもよいし、フィルタ出力に基づく画像特徴量であってもよい。
【0025】
次に、所見取得部104は、当該画像特徴量を尤度付きの画像所見群に変換する。例えば、画像特徴量{i1,i2,…,iM}を元に、画像所見「形状」を推論する。より具体的には、所見項目F1「形状」の値がf11、f12、f13、f14のいずれであるかを、それぞれの要素f1kの尤度を求めることで推論する。ここで、f1kの尤度をL(f1k)と表すものとすると、L(f11)+L(f12)+L(f13)+L(f14)=1.0となる。画像所見の推論には、尤度付きで値を出力できる様々な手法を利用できる。第1の実施形態においては、多値ニューラルネットワークを用いるものとする。なお、ここで述べた画像所見の推論方法は一例であり、画像から画像所見を推論する方法として、公知のいずれの方法を用いてもよい。
【0026】
ステップS302において、所見選択部110は、ステップS301で推論した複数の画像所見(項目とその値)から少なくとも一つを選択し、選択画像所見として取得する。以下、選択画像所見の取得の詳細について説明する。
【0027】
画像所見の選択に際し、まず所見選択部110は、各々の画像所見項目について、その要素のうち最も尤度が高い要素(を表す識別情報)を該画像所見の値とする。例えば、画像所見項目「形状」の要素(f11、f12、f13、f14)の尤度がそれぞれL(f11)=0.1,L(f11)=0.0,L(f12)=0.2,L(f13)=0.7,L(f14)=0.0であった場合、画像所見項目「形状」F1の値はf13(多角形)となる。
【0028】
次に、所見選択部110は、ステップS301で推論したそれぞれの画像所見(項目とその値)の優先度を、画像所見(項目とその値)に応じた優先度が保存されたデータベース(
図5に例示)に基づいて導出する。
図5は、例えば主メモリ12等に記憶されている医用情報であって、画像所見とそれに付随して予め定められている優先度との関係を示すデータベースの一例である。第1の実施形態において、優先度は、画像所見の確認の困難さに応じて設定されるものとする。例えば、結節内石灰化比率は、比率が大きいものに比べて小さいものは確認が困難であるため、優先度が高く設定される。なお、優先度は他の基準で設定されてもよく、例えば最終的な診断への影響度に応じて設定されてもよい。すなわち、それぞれの画像所見(項目と値の組合せ)について、診断への影響度が高い程、優先度が高くなるように設定されてもよい。また、画像所見項目ごとに優先度を設定する構成でもよい。
【0029】
次に所見選択部110は、ステップS301で推論した画像所見から、優先度に応じてひとつの画像所見を選択し、選択画像所見として取得する。第1の実施形態においては、最も優先度が高い画像所見を選択するものとする。なお、画像所見の選択方法はこれによらず、例えば、優先度が二番目に高いものを選択してもよい。また例えば、最も高い優先度と差が小さい(例えば優先度の差が5を下回る)画像所見が複数存在する場合に、複数の画像所見を表示するGUIを用意して、ユーザに画像所見を選択させるようにしてもよい。もしくは所見選択部110は、所定数の画像所見を優先度に応じて選択してもよい。
【0030】
ステップS302において画像所見が選択された後、ステップS303において、決定部112により表示条件が決定される。具体的には、決定部112は、予め画像所見(項目とその値)に応じて最適な表示条件が対応付けて保存されたデータベース(
図6(a)に例示)に基づき、ステップS302で取得した選択画像所見(項目とその値)に対応する表示条件を取得する。そして、取得した表示条件を、表示用画像を得る際の画像処理条件に決定する。
図6(a)は、例えば主メモリ等に記憶されている医用情報であって、画像所見とそれに付随して予め定められている表示条件との関係を示すデータベースの一例である。第1の実施形態では、表示条件の一例として、X線CT装置により得られた信号を再構成する際の再構成関数,スライス厚,WL(Window Level),WW(Window Width)を用いる。
【0031】
表示条件の決定後、ステップS304において、画像取得部114は、まずステップS303で取得した表示条件に対応する画像を表示用画像として取得する。第1の実施形態において、画像取得部114は、ステップS303で取得した表示条件に基づいて対象画像に画像処理を適用し、処理後の画像を表示用画像として取得する。例えば、画像のコントラストに係る表示条件であるWL,WWの値に基づいて、WL-WW/2が画像の値の最小値,WL+WW/2が画像の値の最大値となるように対象画像を調整し、調整後の画像を表示用画像として取得する。
【0032】
なお、画像取得部114は、ステップS303で取得した表示条件に対応する画像を不図示のサーバ等から取得するように構成してもよい。例えば、画像取得部114は、再構成関数やスライス厚の表示条件に合致する画像を、不図示のサーバから取得してもよい。このとき、該当する画像がサーバに存在しない場合は、撮影機器から再構成前の信号データを取得し、再構成した上で取得してもよい。
【0033】
また、画像取得部114は、ステップS303で取得した表示条件の一部が合致する画像を不図示のサーバ等から取得し、追加の処理を適用した上で表示用画像として取得してもよい。例えば、表示条件に再構成関数,スライス厚,WL,WLが含まれる場合、再構成関数とスライス厚のみが合致する画像を不図示のサーバから取得し、取得した画像に対してWL,WWの値に基づく調整を行ったものを表示用画像として取得してもよい。また、画像取得部114は、ステップS303で取得した表示条件と、対象画像の表示条件とが同一である場合に、対象画像を表示用画像として取得してもよい。
【0034】
表示用画像ステップS305において、表示制御部116は、ステップS304で取得した表示用画像を
図7(b)に示すようにモニタ15に表示させる。このとき、
図7(c)に示すように、表示条件に基づく画像処理を適用する前の対象画像と表示用画像を並べるなどして、比較可能に表示してもよい。なお、
図7は、第1の実施形態及び後述する第1の実施形態の変形例においてモニタ15に表示される画像処理後の画像の例である。
図7(a)は上述した画像処理が行われる前の対象画像の表示例であり、
図7(b)は第1の実施形態における画像処理後の画像の表示例であり、
図7(c)は処理前の画像と処理後の画像とを並べて表示する表示例を示す。
【0035】
以上に述べたように、本開示に係る画像処理装置は、所見取得部104と、所見選択部110と、決定部112と、画像取得部114と、を備える。所見取得部104は、本開示における所見取得手段として機能し、例えばステップS301で述べたように、診断対象の医用画像に対して、第1の画像所見群として複数の画像所見を取得する処理を実行する。本実施形態において、所見取得部104は、医用画像に対する推論による画像所見を取得する。所見選択部110は、本開示における所見選択手段として機能し、例えばステップS302で述べたように、ステップS301で推論された複数の画像所見から少なくとも1つの画像所見を選択する処理を実行する。決定部112は、本開示における決定手段として機能し、例えばステップS303で述べたように、ステップS302で選択された画像所見に対して、画像所見の観察に適した画像処理条件を決定する処理を実行する。画像取得部114は、本開示における画像取得手段として機能し、例えばステップS304で述べたように、ステップS303で決定された画像処理条件を満たす表示用画像を取得する処理を実行する。
【0036】
なお、上述した画像処理装置において、決定部112は、選択された画像所見の項目及び画像所見の値に基づいて、例えば
図6に例示されるデータベースを利用して、画像処理条件を決定することができる。また、画像取得部114は、決定部112によって決定された画像処理条件に基づく画像処理が適用された診断対象の医用画像を、表示用画像として取得することができる。なお、ステップS304について述べたように、表示用画像は条件に合致するものをサーバから取得してもよく、画像取得部114が画像処理部として機能して決定された画像処理条件を診断対象の医用画像に適用することで取得してもよい。また、適用する画像処理として、輝度レベルの変更処理と、階調変換処理と、解像度変換処理と、切り出し処理のうち、少なくとも1つを実行することができる。さらに、画像取得部114は、互いに異なる画像処理が適用された複数の画像から、決定された画像処理条件に基づいて表示用画像を取得してもよい。
【0037】
また、本開示に係る画像処理装置は、モニタ15に例示される表示手段に対して診断対象の医用画像を表示させる表示制御部116を備えてもよい。表示制御部116は、本開示における表示制御手段として機能する。表示制御部116は、診断対象の医用画像の表示に適用されている画像処理条件が、決定部112によって決定された画像処理条件と異なる場合に、例えば
図7(c)に例示するように、表示用画像を該診断対象の医用画像と対比可能にモニタ15に表示させることができる。
【0038】
以上で説明した処理を実行することにより、所見を観察するための画像処理条件を自動的に決定し、該画像処理条件を満たす画像を自動的に表示させることが可能となる。これにより、ユーザの画像調整に係る手間を軽減することができる。
【0039】
なお、上述した第1の実施形態で例示した対象画像は一例であって、本開示が対象とする診断対象となる対象画像はここでの例示に限られない。本開示が適用可能な診断対象部位としては、胸部の他には、例えば腹部、頭部、又は乳房等が考えられる。また、病変に関しても、例示した結節様陰影に限られず、例えばすりガラス状陰影、粒状陰影、及び浸潤影等も含む「異常陰影」の全てが対象となり得る。さらに、画像を得るモダリティに関しては、ここではX線CT装置を対象とする実施形態を例示しているが、超音波診断装置、MRI等も態様となり得、例えば、乳房超音波の腫瘍影や腹部CT画像の腫瘍影等がその他のモダリティから得た画像として例示される。
【0040】
(第1の実施形態の変形例1)
ステップS302において、所見選択部110は、画像所見の尤度に基づいて選択画像所見を取得してもよい。まず所見選択部110は、各々の画像所見について、その要素の尤度のうち最も高い尤度を該画像所見の尤度とする。例えば画像所見「形状」の要素(f11、f12、f13、f14)の尤度がそれぞれL(f11)=0.1,L(f12)=0.2,L(f13)=0.7,L(f14)=0.0であった場合、所見項目「形状」F1の尤度は0.7となる。同様に全ての画像所見の尤度を求め、尤度に基づいて選択した画像所見を選択画像所見として取得する。例えば、最も尤度が低い画像所見を選択することで、医師の確認が必要となる画像所見を選択画像所見として取得することが可能となる。
【0041】
なお、画像所見の選択方法はこれによらず、例えば、尤度が最も高い画像所見を選択してもよい。また例えば、尤度と優先度を併用してもよく、最も高い優先度との差が小さい(例えば優先度の差が5を下回る)画像所見が複数存在する場合には、その中から尤度が最も低い画像所見を選択してもよい。
【0042】
すなわち、本変形例において述べたように、所見選択部110は、所見取得手段(所見取得部104)によって推論される画像所見の尤度に基づいて、画像所見を選択する態様とすることもできる。なお、第1の実施形態におけるステップS301の説明中で述べたように、尤度は、所見取得部104が診断対象の医用画像の画像特徴量を尤度付きの画像所見群(第1の画像所見群)に変換することで得られることとすることができる。
【0043】
また、画像所見の尤度は、各要素の尤度が同じ値となる場合を最小値として正規化してもよい。例えば画像所見「形状」の要素(f11、f12、f13、f14)の尤度がそれぞれL(f11)=0.25,L(f12)=0.25,L(f13)=0.25,L(f14)=0.25である場合、全ての要素の尤度が同じであるため、値をひとつに特定することができない。このときの尤度を最小値とし、先述した所見項目「形状」F1の尤度0.7を最小値が0になるように正規化すると、所見項目「形状」F1の尤度は(0.7-0.25)/(1.0-0.25)となる。このように尤度を正規化することで、要素の数が異なる画像所見の尤度を比較することができるようになる。
【0044】
(第1の実施形態の変形例2)
ステップS302において、所見選択部110は、二つ以上の選択画像所見を取得してもよい。この場合、例えば画像所見とその値に応じた優先度が高い順に複数の画像所見を選択することができる。また、その場合には、続くステップS303,S304を通じて、複数の表示用画像が取得される。このように、複数の表示用画像が取得された場合の表示例を
図8に示す。
図8に例示する表示画面では複数の画像がサムネイル表示されており、矢印で示すカーソルを用いて選択した画像が拡大表示されている。すなわち、複数の画像所見が選択され、且つ該複数の画像所見の各々に対して画像処理条件が決定された場合、表示制御部116は、モニタ15に対して、診断対象の医用画像と共に、複数の画像処理条件各々を満たす表示用画像を切り替え可能に表示させることができる。
図8に示すようなGUIを提供し、ユーザの指定によって表示する画像を切り替えられるようにすることで、確認が必要となる複数の画像所見を容易に切り替えることができるようになる。
【0045】
(第1の実施形態の変形例3)
ステップS303において、決定部112が取得する表示条件は、画像全体ではなく、画像内の異常陰影部分に適用するものであってもよい。ここで、異常陰影とは、肺の結節影等、画像中の病変であることが疑われる部分を指す。対象画像中の異常陰影の領域は、ユーザの操作によって取得してもよいし、多値ニューラルネットワーク等により事前に学習されたモデルを用いて自動的に取得してもよい。ここでは、症例情報端末200が、画像中の異常陰影を矩形で囲うためのGUIを提供し、ユーザの操作によって異常陰影領域を取得するものとする。
【0046】
このとき、ステップS301において、所見取得部104は、対象画像内の異常陰影部分のみを用いて画像所見を推論する。また、ステップS305において、表示制御部116は、
図7(d)に示すように異常陰影の領域のみを画像処理後のものに差し替えてもよい。また、
図7(e)に示すように異常陰影領域のみを別のウィンドウで表示してもよい。
図7(e)では、異常陰影領域について、異なる画像処理を施すことで得た異常陰影領域についての部分画像を、別ウィンドウにおいて複数表示している。また、
図7(f)に示すように異常陰影領域を含む拡大画像を表示してもよい。これによりユーザは異常陰影部分の観察に集中することができるようになる。
【0047】
本開示に係る画像処理装置は、異常陰影を特定する特定手段(所見取得部104)をさらに備えてもよい。本変形例において、特定手段は、例えばユーザが異常陰影を特定した操作を入力としてもよく、多値ニューラルネットワーク等により事前に学習されたモデルを用いて自動的に特定してもよい。異常陰影を特定できる場合、決定部112は、該異常陰影に関連する画像所見に対する画像処理条件を決定することができる。そして、画像取得部114は、決定された画像処理条件を満たし、且つ、異常陰影を含む画像を表示用画像として取得することができる。
【0048】
さらに、表示制御部116は、診断対象の医用画像を表示する際に、画像所見に対応する領域を含む部分医用画像を、表示用画像から生成してモニタ15に表示させることができる。すなわち、画像所見に対応する領域として異常陰影を特定し、例えば
図7(d)に例示するように、異常陰影として特定された部分のみを部分医用画像として得た表示用画像、或いは該表示用画像から得た部分医用画像を、診断対象の医用画像と共に、モニタ15に表示させることができる。より詳細には、
図7(d)に示す例では、診断対象の医用画像の表示に適用されている画像処理条件が、決定部112によって決定された部分医用画像の画像処理条件と異なっている。このような場合には、表示制御部116は、部分医用画像を該診断対象の医用画像に対して重畳した重畳画像をモニタ15に表示させることができる。さらには、
図7(e)に示すように、部分医用画像を該診断対象の医用画像と対比可能にモニタ15に表示させてもよい。
【0049】
(第1の実施形態の変形例4)
上述した実施形態或いは変形例では、画像処理を行う際の対象とする表示条件の一例としてWW,WL,及び再構成関数について説明した。しかし、画像処理の実行時に調整される表示条件はこれらに限られず、その他の条件を使用してもよい。
【0050】
例えば、
図6(b)に示すように、上述した表示条件に加え、画像の切り出し範囲に関する条件を追加してもよい。切り出し範囲は、異常陰影に外接する矩形領域を100%とした場合の比率で指定する。切り出し範囲は画像所見により変えることもでき、例えば衛星結節のように異常陰影周辺の広い範囲に係る画像所見であれば広く、石灰化や脂肪のように異常陰影内部の性状に係るものであれば狭く設定する。
【0051】
また、例えば、対象画像に適用するフィルタ処理を表示条件として追加してもよい。適用するフィルタ処理は、他の表示条件と同様に、画像所見(項目とその値)によって異なる。例えば線状の胸膜陥入のように異常陰影の細かい形状を確認する必要がある画像所見に対しては、鮮鋭度を上げるような既知のフィルタ処理を適用してもよい。また例えば、形状や、胸膜陥入のように異常陰影の外形を確認する必要がある画像所見に対しては、二値化するような既知のフィルタ処理を適用してもよい。なお、二値化処理は、結節内石灰化比率や結節内脂肪比率のように異常陰影の内部の濃度を確認する必要がある画像所見に対しては適用しない。これらにより、所見に応じて最適な画像処理が適用された画像を表示することができるようになる。
【0052】
[第2の実施形態]
第1の実施形態では、読影医が読影を行う作業の過程で、画像所見の観察に最適な画像を自動的に決定して表示する場合について述べた。これに対し、第2の実施形態に係る画像処理装置として、ここでは読影医が診断を導き出す読影作業の過程で、診断への影響度が高い画像所見の観察に最適な画像を自動的に表示する場合について述べる。以下では、第2の実施形態に係る画像処理装置について、機能構成の一例、処理フローの一例の順で説明する。なお、ハードウェアの構成に関しては第1の実施形態と同様であることからここでの説明は割愛する。
【0053】
(機能構成)
図9は、第2の実施形態における画像処理装置の機能構成の一例を示す図である。本実施形態に係る画像処理装置900は、第1の実施形態に係る画像処理装置100の機能構成に加え、入力情報生成部102と、診断推論部106と、影響度取得部108と、をさらに備える。なお、以下で説明する機能以外については、第1の実施形態の説明において述べたとおりであるため、ここでの説明は割愛する。
【0054】
入力情報生成部102は、症例情報端末200から画像処理装置900へ送信された対象画像に基づいて、診断推論部106へ入力する入力情報を生成する。第2の実施形態においては、入力情報生成部102は対象画像を所見取得部104へと出力し、その結果として所見取得部104が出力した画像所見を取得する。そして入力情報生成部102は、取得した画像所見を入力情報として診断推論部106へ出力する。
【0055】
第2の実施形態における所見取得部104は、入力情報生成部102から出力された対象画像に基づいて画像所見を推論し、推論結果を出力する。画像所見の推論は第1の実施形態と同様の方法で行う。診断推論部106は、入力情報生成部102から出力された入力情報(第2の実施形態では画像所見)に基づいて診断名の推論を行い、推論結果を出力する。
【0056】
影響度取得部108は、入力情報生成部102から出力された入力情報と、診断推論部106から出力された推論結果とを用いて、入力情報に含まれる各要素が推論結果に与える影響度を取得し、当該影響度の情報を出力する。第2の実施形態における所見選択部110は、入力情報生成部102から出力された入力情報と、診断推論部106から出力された推論結果と、影響度取得部108から出力された影響度と、に基づいて選択画像所見を取得し、当該選択画像所見の情報を出力する。
【0057】
(処理フロー)
次に、上述した画像処理装置900により行われる処理の一例を示すフローチャートである
図10を参照し、処理フローについて説明する。なお、以下の説明で扱う画像特徴量I
m、画像所見F
nは、第1の実施形態において説明したものと同様であるとする。
【0058】
また、以下の説明ではIm、Fnの値を要素とする集合をEと表記し、入力情報をEfで表す。さらに、以下の説明では、診断名をDで表す。また、第2の実施形態では、診断推論部106が肺の異常陰影に関する診断名として、原発性肺癌、癌の肺転移、その他の3値のいずれであるかを推論する場合について例示するものとする。そして、原発性肺癌、癌の肺転移、その他、をそれぞれd1、d2、d3と表記し、診断推論部106への入力として入力情報Efが与えられた場合の診断名du(u=1,2,3)の推論確率を、P(du|Ef)と表記することとする。
【0059】
実際の処理フローが開始されると、ステップS1001において、入力情報生成部102は、症例情報端末200から画像処理装置100へ送信された対象画像を取得する。
【0060】
続くステップS1002においては、第1の実施形態における
図3のステップS301と同様の処理を行う。すなわち、所見取得部104は、ステップS1001で出力された対象画像から尤度付きの画像所見を取得する。
【0061】
次に、ステップS1003において、入力情報生成部102は、ステップS1002で取得した画像所見の集合を、入力情報として生成する。その際、画像所見は、尤度を保持したまま入力情報とされる。
【0062】
ステップS1004において、診断推論部106は、ステップS1003で生成した入力情報を基に、診断対象である肺の異常陰影に関する推論を実行する。すなわち、診断推論部106は、画像特徴量に基づいて取得された画像所見の情報を入力情報として推論を行う。第2の実施形態では、診断推論部106は、ベイジアンネットワークを利用して推論するものとするが、これに限らず、サポートベクターマシン、又はニューラルネットワークなどを用いて推論してもよい。
【0063】
第2の実施形態においては、画像所見の値が尤度で示されているため、全ての画像所見の組み合わせについて推論を実行し、尤度を用いて推論結果を統合するものとする。ここでは、画像所見がFa{fa1,fa2}、Fb{fb1,fb2}である場合を例に説明する。まず、診断推論部106は入力情報に含まれる要素の全ての組み合わせを考慮した仮入力情報(Ez)を生成する。この例の場合、診断推論部106はE1={fa1,fb1}、E2={fa1,fb2}、E3={fa2,fb1}、E4={fa2,fb2}の4つの仮入力情報を生成する。そして診断推論部106は、それぞれの仮入力情報を用いてP(ds|Ez)を取得する。
【0064】
さらに、診断推論部106は、各P(d
s|E
z)に画像所見の尤度を積算し、その結果を加算したものを最終的な推論結果として取得する。上記の例では、診断推論部106は、L(f
a1)×L(f
b1)×P(d
s|E
1)+…+L(f
a2)×L(f
b2)×P(d
s|E
4)を最終的な推論結果P(d
s|E
f)とする。上述の例では、推論結果を式1で表すことができる。
【数1】
【0065】
すなわち、診断推論部106は、入力された情報に含まれる所見の情報のうち少なくとも一部の情報からなる仮入力情報を複数生成し、複数の仮入力情報に基づいてそれぞれ推論される結果と、尤度すなわち統計情報とに基づいて診断名を推論する。なお、取得量を減らすために、診断推論部106は閾値以下の尤度をもつ画像所見の値は考慮しないようにしてもよい。
【0066】
次に、ステップS1005において、影響度取得部108は、ステップS1002で生成した入力情報と、ステップS1004で実行した推論結果とを用いて、入力情報の各要素が推論結果に与える影響度を取得する。すなわち、影響度取得部108は診断推論部106により推論の入力として用いられる情報のそれぞれに対して、診断名の推論に与えた影響の度合いである影響度を取得する。
【0067】
第2の実施形態では、各診断名のうち最も推論確率が高かった診断名d
fに対する影響度を取得するものとする。具体的には、ある要素e
v(e
v∈E
f)の影響度を、入力情報E
fを用いて推論した場合のd
fの推論確率から、E
fからe
vのみを除去して推論した場合のd
fの推論確率を引いたものとする。要素の影響度をI(e
v)で表し、影響度を式2のように定義する。
【数2】
I(e
v)が正の場合は、e
vを入力情報に含めないことによりd
fの推論確率が減少したことを示す。したがって、e
vはd
fを肯定する情報と考えられる。一方、I(e
v)が負の場合は、e
vを入力情報に含めないことによりd
fの推論確率が増加したことを示す。したがって、e
vはd
fを否定する情報と考えられる。
【0068】
影響度が得られると、ステップS1006において、所見選択部110は、ステップS1002で取得した入力情報に含まれる画像所見のうち、ステップS1005で取得した影響度が最も高くなるものを、選択画像所見として取得する。なお、推論結果に対する負の影響度を考慮し、影響度の絶対値が最も高くなるものを選択画像所見として取得するように構成してもよい。
【0069】
なお、ステップS1007では、
図3のステップS303と同様の処理を行う。すなわち、決定部112は、ステップS303で取得した所見に対応する表示条件を取得する。
【0070】
ステップS1008では、
図3のステップS304と同様の処理を行う。すなわち、画像取得部114は、ステップS1007で取得した表示条件に対応する画像を表示用画像として取得する。
【0071】
表示用画像の取得後、ステップS1009において、表示制御部116は、ステップS1008で取得した表示用画像をモニタ15に表示させる。
【0072】
以上に述べたように、本開示に係る画像処理装置は、第1の実施形態で述べた構成に加え、さらに影響度取得部108を備えてもよい。影響度取得部108は、本開示における影響度取得手段として機能する。このような構成の場合、影響度取得部108は、所見取得部104や入力情報生成部102によって推論される画像所見の診断への影響度を取得する。また、その際に、所見選択部110は、取得される影響度に基づいて、画像所見を選択することができる。
【0073】
また、本開示に係る画像処理装置は、さらに診断推論部106を備えてもよい。診断推論部106は、本開示における診断推論手段として機能する。このような場合、診断推論部106は、画像所見を入力として診断名を推論することができる。また、上述した影響度取得部108は、推論された診断名の診断に対する画像所見の影響度を、診断への影響度として取得することができる。
【0074】
以上で説明した処理を実行することにより、診断の根拠となる画像所見を観察するための画像処理条件を自動的に決定し、該画像処理条件を満たす画像を自動的に表示させることが可能となる。これにより、ユーザの画像調整に係る手間を軽減することができる。
【0075】
(第2の実施形態の変形例1)
上述した第2の実施形態におけるステップS1006では、所見選択部110は、影響度の最も高い画像所見を選択することとしている。しかし、所見選択部110が選択する対象は、優先度が最も高い画像所見に限られない。例えば、影響度の高い順に複数の画像所見を選択して、これらを選択画像所見としてもよい。
【0076】
本変形例では、続くステップS1007,S1008を通じて複数の表示用画像が取得される。このため、例えば
図8に示すようなGUIを提供して、ユーザが表示する画像を切り替えることができるようにすればよい。なお、複数の画像の表示方法はこれに限ったものではなく、例えば
図7(c)に示すように並べて表示してもよいし、
図7(e)に示すように異常陰影の領域のみを並べて表示してもよい。これにより、確認が必要となる複数の画像所見を確認することができるようになる。
【0077】
(第2の実施形態の変形例2)
上述した第2の実施形態及びその変形例1では、ステップS1006において、所見選択部110は、選択画像所見を自動的に取得している。しかし、所見選択部110が所見を選択しない態様とすることもできる。例えば、ステップS1003で取得した入力情報に含まれる画像所見と、ステップS1005で取得した当該画像所見の診断への影響度の情報をユーザに提示し、手動で画像所見を選択させてもよい。その場合にモニタ15に表示される選択画面の一例を
図11に示す。
図11に例示するように画像所見とその値の一覧が表示され、ユーザは、症例情報端末200の操作を介して画像所見を選択することができる。これにより、医師が確認したい画像所見の確認に適した表示を行うことが可能となる。
【0078】
(第2の実施形態の変形例3)
上述した第2の実施形態では、ステップS1006において、所見選択部110は、診断推論の結果や影響度に基づいて選択画像所見を得ている。しかし、所見選択部110がこれら診断推論の結果や影響度に関わらず、画像所見の尤度のみで選択画像所見を取得してもよい。
【0079】
ここで、画像所見の尤度とは、画像所見の各要素の尤度のうち最も大きいものであるとする。例えば
図4に示す画像所見の所見項目F
1「形状」の場合、各要素の尤度L(f
11),L(f
12),L(f
13),L(f
14)のうち最も大きいものを、画像所見の所見項目F
1の尤度とする。ここでは、全ての所見の尤度を求めた上で最も尤度が低い画像所見を、選択画像所見として取得する。
【0080】
また、尤度と、診断推論への影響度の情報とを組み合わせることもできる。例えば、診断推論の影響度が一定以上となる画像所見群の中から最も尤度が低いものを選択画像所見として取得してもよい。これにより、推論の尤度が低く、医師の確認が必要となる画像所見の確認に適した表示を行うことが可能となる
【0081】
[第3の実施形態]
第3の実施形態に係る画像処理装置は、対象画像について既に読影結果が存在する場合に、確認が必要となる画像所見の観察に最適な画像を自動的に表示する。既に読影結果が存在する場合とは、例えば過去画像とそれに関する読影結果が存在する場合や、異なる医師による読影結果が存在する場合である。以下では、第3の実施形態に係る画像処理装置について、機能構成の一例、処理フローの一例の順で説明する。なお、ハードウェアの構成に関しては第1の実施形態と同様であることからここでの説明は割愛する。
【0082】
(機能構成)
図12は、第3の実施形態における画像処理装置の機能構成の一例を示す図である。本実施形態に係る画像処理装置1200は、第2の実施形態の機能構成に加え、読影結果保存部118を備える。なお、以下で説明する機能以外については、第1及び第2の実施形態の説明において述べたとおりであるため、ここでの説明は割愛する。
【0083】
読影結果保存部118は、症例情報端末200を介したユーザの指示に従い、読影中の画像を特定する情報と、ユーザにより指定された異常陰影の座標情報及び所見情報を対応付け、読影結果として保存する。読影中の画像を特定する情報とは、例えば患者ID,症例ID,画像ID,及び撮影日(撮影時期)である。また、異常陰影の座標情報は、例えば異常陰影を囲う直方体の開始点及び終了点の座標(奥行,縦方向,及び横方向のピクセル値)であり、ユーザが手動で入力するものとする。また、所見情報は、所見取得部104で生成された所見情報を使用してもよいし、ユーザが手動で入力してもよい。読影結果は不図示のサーバに保存される。
図13に保存された読影結果の例を示す。
【0084】
(処理フロー)
上述した画像処理装置900により行われる処理の一例を示すフローチャートである
図14を参照し、第3の実施形態で行われる処理フローについて説明する。なお、第2の実施形態における
図10のフローチャートと一部の処理が重複するため、重複するステップで行われる処理ついては重複するステップを示し、ここでの説明を省略する。
【0085】
ステップS1401からS1405で行われる処理は、第2の実施形態におけるステップS1001からステップS1005で行われる処理と同様である。
【0086】
ステップS1406において、所見取得部104は、対象画像に対応する読影結果を不図示のサーバから取得する。第3の実施形態において、取得する読影結果は、患者IDが同一で撮影日(撮影時期)が異なるもの、すなわち同一患者の過去の読影結果とする。
【0087】
ステップS1407において、所見選択部110は、ステップS1406で取得した読影結果に含まれる全ての異常陰影の中から、ユーザが指定した異常陰影と同一の異常陰影を特定し、当該異常陰影に関する画像所見の情報を読影結果から取得する。なお、異常陰影の特定は、座標情報を比較することで行う。座標情報を比較する前に、読影結果に係る画像と読影中の画像の位置合わせや変形処理を行い、座標情報を補正してもよい。
【0088】
さらに、所見選択部110は、同一の異常陰影における各所見の要素を比較した際に、値が異なるものを選択画像所見として取得する。このとき、ステップS1405で取得する影響度の情報を用いて選択画像所見を絞ってもよい。また、異常陰影のサイズが大きくなっている等、増悪を表す変化がある所見を優先的に取得してもよい。
【0089】
以降のステップS1408からS1410で行われる処理は、第2の実施形態におけるステップS1007からS1009で行われる処理と同様である。
【0090】
以上に述べたように、本開示に係る画像処理装置は、第3の実施形態における機能構成で示したように、所見取得部104(所見取得手段)が、読影結果保存部118から第2の画像所見を得ることとしてもよい。この態様において、所見取得部104は、本開示における所見取得手段として機能する。この時、第2の画像所見には、例えば上述したステップS1406で取得した対応する読影結果が含まれる。所見選択部110は、第1の画像所見群とこの第2の画像所見とに基づいて、少なくとも1つの画像所見を選択することができる。また、上述したように、所見情報はユーザが手動で入力してもよく、この場合、所見取得部104は、複数の画像所見を推論ではない方法により取得することとなる。このように、所見取得部104は、例えば第1の実施形態で述べた推論による画像所見の取得に限られず、公知の種々の方法により画像所見を取得することができる。
【0091】
以上で説明した処理を行うことにより、時系列で変化がある画像所見等、医師の確認が必要となる画像所見の確認に適した画像処理条件を自動的に決定し、当該画像処理条件を満たす画像を自動的に表示させることが可能となる。これにより、ユーザの画像調整に係る手間を軽減することができる。
【0092】
(第3の実施形態の変形例1)
第3の実施形態で上述したステップS1406で取得する読影結果は、対応する読影結果であって不図示のサーバから取得できるものであるとした。しかし、取得する読影結果はサーバからのものに限られず、同一の対象画像に対して、ユーザ自身又は別のユーザが作成した読影結果であってもよい。これにより、所見取得部104が取得した所見が間違っている可能性があり、医師の確認が必要となる画像所見について、その確認に適した表示を行うことが可能となる。
【0093】
[変形例]
本開示は、上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【0094】
上述の各実施形態における画像処理装置は、単体の装置として実現してもよいし、複数の装置を互いに通信可能に組合せて上述の処理を実行する形態としてもよく、いずれも本発明の実施形態に含まれる。共通のサーバ装置あるいはサーバ群で、上述の処理を実行することとしてもよい。画像処理装置及び画像処理システムを構成する複数の装置は所定の通信レートで通信可能であればよく、また同一の施設内あるいは同一の国に存在することを要しない。
【0095】
したがって、実施形態に係る処理をコンピュータで実現するために、該コンピュータにインストールされるプログラムコード自体も本発明の実施形態の一つである。また、コンピュータが読みだしたプログラムに含まれる指示に基づき、コンピュータで稼働しているOSなどが、実際の処理の一部又は全部を行い、その処理によっても前述した実施形態の機能が実現され得る。さらに、上述の実施形態を適宜組み合わせた形態も、本開示の実施形態に含まれる。
【符号の説明】
【0096】
100: 画像処理装置
102: 入力情報生成部
104: 所見取得部
106: 診断推論部
108: 影響度取得部
110: 所見選択部
112: 決定部
114: 画像取得部
116: 表示制御部
200: 症例情報端末