(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024164458
(43)【公開日】2024-11-27
(54)【発明の名称】遠心脱水機の運転方法
(51)【国際特許分類】
B04B 13/00 20060101AFI20241120BHJP
C02F 11/127 20190101ALI20241120BHJP
B04B 1/20 20060101ALI20241120BHJP
【FI】
B04B13/00
C02F11/127 ZAB
B04B1/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023079943
(22)【出願日】2023-05-15
(71)【出願人】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】東 隆司
(72)【発明者】
【氏名】名越 収二郎
【テーマコード(参考)】
4D057
4D059
【Fターム(参考)】
4D057AA11
4D057AB01
4D057AC01
4D057AC06
4D057AE03
4D057AF01
4D057BB14
4D057BC16
4D057CA01
4D057CB05
4D059AA03
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4D059BE37
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4D059BE57
4D059BE58
4D059BE59
4D059CB06
4D059CB07
4D059DA16
4D059DA17
4D059DA23
4D059DA24
4D059EA02
4D059EA20
4D059EB20
(57)【要約】
【課題】脱水対象物の脱水の際に、脱水分離液への固形分の流出が抑えられるとともに、得られる脱水物の含水率が低減され、含水率の変動が少ない脱水物を得ることができる遠心脱水機の運転方法を提供する。
【解決手段】外筒とスクリューコンベアを有する遠心脱水機を用い、負荷調整工程をn回繰り返してスクリューコンベアの負荷値Xを決定する遠心脱水機の運転方法であって、負荷調整工程は脱水工程と計測工程を含み、k回目(ただしkは1からnの整数)の脱水工程は、脱水対象物を遠心脱水機に供給し、外筒を一定の回転数で回転させ、スクリューコンベアを負荷値X
kとなるように回転数を調整して回転させて脱水し、脱水分離液を得るものであり、k回目の計測工程は、k回目の脱水工程で得られた脱水分離液の固形分濃度S
kまたは濁度T
kを得るものであり、所定の規則に従い負荷値X
kを定め、n回目の負荷調整工程の負荷値X
nに基づき負荷値Xを定める。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転駆動する外筒と、前記外筒の内部に設けられ、前記外筒の回転軸と同軸で回転駆動するスクリューコンベアとを有する遠心脱水機を用い、負荷調整工程をn回(ただしnは2以上の整数)繰り返して、前記スクリューコンベアの負荷値Xを決定する遠心脱水機の運転方法であって、
前記負荷調整工程は脱水工程と計測工程を含み、
k回目(ただしkは1からnの整数)の脱水工程は、脱水対象物を前記遠心脱水機に供給し、前記外筒を一定の回転数で回転させ、前記スクリューコンベアを負荷値Xkとなるように回転数を調整して回転させ、前記遠心脱水機で前記脱水対象物の脱水を行うとともに脱水分離液を得るものであり、
k回目の計測工程は、k回目の脱水工程で得られた前記脱水分離液の固形分濃度Skまたは濁度Tkを得るものであり、
下記規則(A1)~(A3)に従いk回目の脱水工程における負荷値Xkを定め、
n回目の負荷調整工程は下記規則(A3)に従って行われるとともに、固形分濃度Snまたは濁度Tnが基準値未満となり、
n回目の負荷調整工程の負荷値Xnに基づき前記負荷値Xを定めることを特徴とする遠心脱水機の運転方法。
(A1)1回目の負荷調整工程では、負荷値X1を任意に定める。
(A2)2回目以降のk回目の負荷調整工程では、k-1回目の負荷調整工程の固形分濃度Sk-1または濁度Tk-1が基準値未満の場合に、負荷値Xk-1より大きい負荷値Xkを定める。
(A3)2回目以降のk回目の負荷調整工程では、k-1回目の負荷調整工程の固形分濃度Sk-1または濁度Tk-1が基準値以上の場合に、負荷値Xk-1より小さい負荷値Xkを定める。
【請求項2】
前記遠心脱水機は、前記外筒と前記スクリューコンベアに回転差を与える差速装置を有し、
前記負荷値Xkは、前記差速装置が油圧式の場合の油圧値、または、前記差速装置がギア式の場合の電流値から求める請求項1に記載の遠心脱水機の運転方法。
【請求項3】
前記負荷調整工程をn回繰り返して前記負荷値Xを決定することを、前記遠心脱水機からの脱水分離液の固形分濃度または濁度が基準値以上となったときに行う請求項1に記載の遠心脱水機の運転方法。
【請求項4】
前記負荷調整工程をn回繰り返して前記負荷値Xを決定することを、少なくとも6時間に1回行う請求項1に記載の遠心脱水機の運転方法。
【請求項5】
前記負荷調整工程をn回繰り返して前記負荷値Xを決定した後、脱水対象物への凝集剤の添加率を調整する請求項1に記載の遠心脱水機の運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は遠心脱水機の運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、遠心脱水機により脱水対象物を脱水する方法が知られている。遠心脱水機による脱水では、適切に固液分離がされるとともに、得られる脱水物の含水率ができるだけ低減されることが望ましく、そのために遠心脱水機の運転条件を適切に設定することが求められる。例えば特許文献1には、高速回転される外筒内に、この外筒と相対速度差をもって回転されるスクリューコンベアを収容した遠心脱水機により、汚泥の固液分離を行うにあたって、遠心脱水機より排出される分離液の濁度を測定し、その測定値に基づいて、スクリューコンベアに相対速度差を付与する差速装置に送油する油圧モータの回転を自動的に制御する遠心脱水機の制御方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の遠心脱水機の制御方法によれば、遠心脱水機より排出された分離液の濁度を検知し、その測定結果に基づいて、差速装置へ送油する油圧モータを制御することにより、脱水物の含水率を低く保つことができるとともに、分離液の濁度を低く抑えることができる。この際、得られる脱水物については、含水率の変動が少ないことが望ましく、これにより脱水後の脱水物の処理の安定化を測ることができる。例えば脱水物をさらに焼却ないし焼成したりする場合に、安定した焼却または焼成を実現することができる。
【0005】
本発明は前記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、脱水対象物を脱水する際に、脱水分離液への固形分の流出が十分に抑えられるとともに、得られる脱水物の含水率ができるだけ低減され、含水率の変動が少ない脱水物を得ることができる遠心脱水機の運転方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決することができた本発明の遠心脱水機の運転方法は下記の通りである。
[1] 回転駆動する外筒と、前記外筒の内部に設けられ、前記外筒の回転軸と同軸で回転駆動するスクリューコンベアとを有する遠心脱水機を用い、負荷調整工程をn回(ただしnは2以上の整数)繰り返して、前記スクリューコンベアの負荷値Xを決定する遠心脱水機の運転方法であって、
前記負荷調整工程は脱水工程と計測工程を含み、
k回目(ただしkは1からnの整数)の脱水工程は、脱水対象物を前記遠心脱水機に供給し、前記外筒を一定の回転数で回転させ、前記スクリューコンベアを負荷値Xkとなるように回転数を調整して回転させ、前記遠心脱水機で前記脱水対象物の脱水を行うとともに脱水分離液を得るものであり、
k回目の計測工程は、k回目の脱水工程で得られた前記脱水分離液の固形分濃度Skまたは濁度Tkを得るものであり、
下記規則(A1)~(A3)に従いk回目の脱水工程における負荷値Xkを定め、
n回目の負荷調整工程は下記規則(A3)に従って行われるとともに、固形分濃度Snまたは濁度Tnが基準値未満となり、
n回目の負荷調整工程の負荷値Xnに基づき前記負荷値Xを定めることを特徴とする遠心脱水機の運転方法。
(A1)1回目の負荷調整工程では、負荷値X1を任意に定める。
(A2)2回目以降のk回目の負荷調整工程では、k-1回目の負荷調整工程の固形分濃度Sk-1または濁度Tk-1が基準値未満の場合に、負荷値Xk-1より大きい負荷値Xkを定める。
(A3)2回目以降のk回目の負荷調整工程では、k-1回目の負荷調整工程の固形分濃度Sk-1または濁度Tk-1が基準値以上の場合に、負荷値Xk-1より小さい負荷値Xkを定める。
[2] 前記遠心脱水機は、前記外筒と前記スクリューコンベアに回転差を与える差速装置を有し、前記負荷値Xkは、前記差速装置が油圧式の場合の油圧値、または、前記差速装置がギア式の場合の電流値から求める[1]に記載の遠心脱水機の運転方法。
[3] 前記負荷調整工程をn回繰り返して前記負荷値Xを決定することを、前記遠心脱水機からの脱水分離液の固形分濃度または濁度が基準値以上となったときに行う[1]または[2]に記載の遠心脱水機の運転方法。
[4] 前記負荷調整工程をn回繰り返して前記負荷値Xを決定することを、少なくとも6時間に1回行う[1]~[3]のいずれかに記載の遠心脱水機の運転方法。
[5] 前記負荷調整工程をn回繰り返して前記負荷値Xを決定した後、脱水対象物への凝集剤の添加率を調整する[1]~[4]のいずれかに記載の遠心脱水機の運転方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の遠心脱水機の運転方法によれば、遠心脱水機により脱水対象物を脱水した際に、脱水分離液への固形分の流出が十分に抑えられ、適切な固液分離を実現できるとともに、得られる脱水物の含水率が低減され、含水率の変動が少ない脱水物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】本発明の遠心脱水機の運転方法の処理フローを表す。
【
図3】本発明の実施の形態に係る遠心脱水機の運転方法の一例を表す。
【
図4】本発明の実施の形態に係る遠心脱水機の運転方法の他の一例を表す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の遠心脱水機の運転方法について説明するに当たり、まず遠心脱水機の構成例について
図1を参照して説明する。
図1には、遠心脱水機の内部構造の概略図を示した。
図1には、直胴型の遠心脱水機の概略図が示されているが、遠心脱水機は、例えばデカンタ型の遠心脱水機であってもよい。
【0010】
遠心脱水機1は、長手軸方向に延びる外筒2と、外筒2の内部に設けられ、長手軸方向に延びるスクリューコンベア3とを有する。外筒2は、長手軸方向を中心に回転駆動するように構成され、スクリューコンベア3は外筒2の回転軸と同軸で回転駆動するように構成されている。外筒2は、例えば、円筒形、円錐形またはこれらを組み合わせた形状で形成される。スクリューコンベア3は、スクリュー軸4の外面にらせん状に延びるスクリュー5が設けられて構成されている。
【0011】
遠心脱水機1は、外筒2とスクリューコンベア3の間に、脱水対象物が保持される空間(以下、「処理空間」と称する)を有する。外筒2が回転駆動することにより、処理空間内の脱水対象物に遠心力がかかり比重分離され、脱水対象物が脱水物と脱水分離液とに分離される。
【0012】
遠心脱水機1は、脱水対象物を処理空間に供給する導入部6と、処理空間から脱水物を排出する脱水物排出部7と、処理空間から脱水分離液を排出する分離液排出部8を有する。遠心脱水機1において、脱水物排出部7は外筒2の長手軸方向の一方側に設けられ、分離液排出部8は外筒2の長手軸方向の他方側に設けられ、導入部6は長手軸方向において脱水物排出部7と分離液排出部8の間に位置するように設けられることが好ましい。脱水対象物を処理空間に供給する導入部6はスクリューコンベア3のスクリュー軸4に形成されることが好ましく、スクリュー軸4は導入部6と外筒2の外とに連通した内腔を有することが好ましい。スクリュー軸4は外筒2の外まで延び、スクリュー軸4の内腔を通して脱水対象物を外筒2の外から導入部6まで搬送できるように構成されていることが好ましい。
【0013】
外筒2とスクリューコンベア3はそれぞれ回転数を制御できるように構成されている。外筒2とスクリューコンベア3は、例えば2000rpm~5000rpmの回転数で回転する。遠心脱水機1は、外筒2とスクリューコンベア3に回転差を与える差速装置9を有することが好ましく、外筒2とスクリューコンベア3をともに回転させ、遠心脱水機1に備えられた差速装置9によって、スクリューコンベア3の回転数を外筒2の回転数と異なるように制御することにより、外筒2とスクリューコンベア3のそれぞれの回転数を調整することができる。
【0014】
差速装置9としては、油圧モータを用いる油圧式の差速装置や、ギアモータを用いるギア式の差速装置が挙げられる。油圧式の差速装置は、スクリューコンベア3の回転数が外筒2の回転数よりも多くなるように制御することができる。ギア式の差速装置は、スクリューコンベア3の回転数が外筒2の回転数よりも少なくなるように制御することができる。
【0015】
遠心脱水機1により脱水対象物を脱水する際、外筒2とスクリューコンベア3は同じ方向に回転し、かつスクリューコンベア3のスクリュー5が脱水物排出部7に向かって進むように、外筒2とスクリューコンベア3の回転を制御する。これによりスクリュー5によって脱水対象物が脱水物排出部7に向かって搬送され、搬送される間に脱水対象物の脱水が進行する。脱水対象物が脱水された脱水物は、脱水物排出部7から外筒2の外に排出される。脱水分離液はスクリュー5によって搬送されず、分離液排出部8から外筒2の外に排出される。
【0016】
図1に示した遠心脱水機1では、スクリューコンベア3のスクリュー軸4の径が、脱水物排出部7に向かって大きくなるように構成されている。これにより、脱水対象物が脱水物排出部7に向かって搬送される際の脱水性能を高めることができる。
【0017】
遠心脱水機1に投入する脱水対象物としては、無機系スラリーや有機系スラリーが挙げられる。無機系スラリーとしては、金属粉、セラミック粉、鉱物粉、研磨粉等を含むスラリーが挙げられる。有機系スラリーとしては、パルプ、食品屑を含むスラリーや汚泥等が挙げられる。汚泥としては、下水処理、し尿処理、食品工場や紙パルプ工場、化学工場等から発生する工場排水の処理、家畜糞尿等の畜産廃棄物の処理等により発生する汚泥が挙げられる。処理プロセスにおける汚泥の発生源は特に限定されず、例えば、初沈汚泥、余剰汚泥、混合生汚泥、活性汚泥、消化汚泥等を用いることができる。汚泥は好気性処理により得られた汚泥(好気性汚泥)であっても、嫌気性処理により得られた汚泥(嫌気性汚泥)であってもよい。
【0018】
遠心脱水機1には、脱水対象物とともに脱水助剤を供給してもよい。これにより、脱水対象物の脱水性を改善することができる。脱水助剤としては、無機系凝集剤や有機系凝集剤が挙げられる。無機系凝集剤としては、塩化第二鉄、硫酸第二鉄、ポリ硫酸第二鉄(ポリ鉄)等の鉄系凝集剤;塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム(硫酸バンド)等のアルミニウム系凝集剤等が挙げられる。有機系凝集剤としては、アニオン性、カチオン性、両性、ノニオン性等の高分子凝集剤等が挙げられる。
【0019】
遠心脱水機1では、スクリューコンベア3にかかる負荷と脱水物の脱水性との間に相関が見られる。脱水性が上がる、すなわち脱水物の含水率が減ると、スクリューコンベア3にかかる負荷が高くなる傾向となり、脱水性が下がる、すなわち脱水物の含水率が上がると、スクリューコンベア3にかかる負荷が低くなる傾向となる。遠心脱水機1で脱水対象物を脱水することにより得られる脱水物は、できるだけ含水率が一定になることが好ましく、これにより脱水物の処理の安定性を高めたり脱水物の取り扱い性を高めることができる。このような観点から、本発明の遠心脱水機の運転方法では、スクリューコンベア3にかかる負荷が一定値、すなわち一定の負荷値Xをとるように、運転条件を定める。一方、スクリューコンベア3にかかる負荷が一定値をとるように制御せず、例えば脱水分離液の固形分濃度や濁度に応じて随時スクリューコンベア3の差速を変えるような制御をした場合は、脱水物の含水率が安定せず、得られる脱水物の性状変動が大きいものとなる。
【0020】
スクリューコンベア3にかかる負荷は、スクリューコンベア3の差速(外筒2の回転数に対するスクリューコンベア3の回転数の差)を制御することにより、調整することができる。脱水対象物の供給量を一定にしてスクリューコンベア3の差速を上げると、脱水物の含水率が増え(脱水性が下がり)、スクリューコンベア3にかかる負荷が低くなる傾向となる。脱水対象物の供給量を一定にしてスクリューコンベア3の差速を下げると、脱水物の含水率が減り(脱水性が上がり)、スクリューコンベア3にかかる負荷が高くなる傾向となる。
【0021】
スクリューコンベア3にかかる負荷は、スクリューコンベア3のトルクや差速装置9のトルクから測ることができる。差速装置9のトルクはスクリューコンベア3のトルクに連動して変化する。スクリューコンベア3にかかる負荷は、例えば差速装置9が油圧式の場合は油圧値から求めることができ、差速装置9がギア式の場合は電流値から求めることができる。
【0022】
遠心脱水機による脱水では通常、脱水性が上がると、脱水分離液の固形分濃度または濁度が下がる傾向となり、脱水性が下がると、脱水分離液の固形分濃度または濁度が上がる傾向となる。しかし、スクリューコンベアの差速を下げすぎる、すなわちスクリューコンベアの負荷を上げすぎると、供給された脱水対象物が十分に固液分離されずに固形分が脱水分離液側に移行しやすくなる。その結果、脱水分離液の性状悪化すなわち脱水分離液中の固形分濃度の増加を招きやすくなる。従って、遠心脱水機による脱水では、脱水分離液の性状が大きく悪化しない範囲で、脱水物の脱水性をできるだけ高めるように、運転条件を適切に設定することが望ましい。
【0023】
そのために、本発明の遠心脱水機の運転方法では、スクリューコンベアにかかる負荷を適切に設定するための負荷調整工程が設けられる。本発明の遠心脱水機の運転方法では、負荷調整工程をn回(ただしnは2以上の整数)繰り返して、スクリューコンベアの負荷値Xを決定する。本発明によれば、脱水分離液への固形分の流出を十分に抑えることができる範囲で、脱水性を高めて脱水物の含水率を下げることができ、かつ含水率の変動が少ない脱水物を得ることができる遠心脱水機の運転条件を設定することができる。その結果、遠心脱水機による効率的な脱水が実現できるとともに、脱水後の脱水物の処理の安定化が期待できる。以下、1回目からn回目の任意の負荷調整工程を一般化して、k回目の負荷調整工程と称する。ただし、kは1からnの整数を表す。
【0024】
負荷調整工程は脱水工程と計測工程を含み、従って、k回目の負荷調整工程は、k回目の脱水工程とk回目の計測工程を含む。k回目の脱水工程では、脱水対象物を遠心脱水機に供給し、スクリューコンベアを負荷値Xkとなるように回転数を調整して回転させ、遠心脱水機で脱水対象物の脱水を行う。脱水対象物の脱水を行うことにより、脱水分離液が得られる。なお、k回目の脱水工程において、脱水対象物の遠心脱水機への供給量(単位時間あたりの供給量)は一定とすることが好ましく、また脱水対象物を連続的に遠心脱水機に供給することが好ましい。k回目の計測工程では、k回目の脱水工程で得られた脱水分離液の固形分濃度Skまたは濁度Tkを得る。
【0025】
k回目の脱水工程における負荷値Xkは、下記の規則(A1)~(A3)に従い定める。
(A1)1回目の負荷調整工程では、負荷値X1を任意に定める。
(A2)2回目以降のk回目の負荷調整工程では、k-1回目の負荷調整工程の固形分濃度Sk-1または濁度Tk-1が基準値未満の場合に、負荷値Xk-1より大きい負荷値Xkを定める。
(A3)2回目以降のk回目の負荷調整工程では、k-1回目の負荷調整工程の固形分濃度Sk-1または濁度Tk-1が基準値以上の場合に、負荷値Xk-1より小さい負荷値Xkを定める。
【0026】
負荷調整工程における脱水工程では、外筒を一定の回転数で回転させる。スクリューコンベアは、外筒と同じ方向に回転させるとともに、スクリューが脱水物排出部に向かって進むように、外筒に対する回転数を調整する。この際、スクリューコンベアにかかる負荷が一定の負荷値Xkとなるように、スクリューコンベアの回転数を調整する。通常、スクリューコンベアの回転数(差速)を上げると、スクリューコンベアにかかる負荷が低くなる傾向を示し、スクリューコンベアの回転数(差速)を下げると、スクリューコンベアにかかる負荷が高くなる傾向を示す。脱水工程では、スクリューコンベアにかかる負荷が負荷値Xkから外れた場合に、スクリューコンベアの回転数を適宜調整して、スクリューコンベアにかかる負荷が一定の負荷値Xkを取るように、フィードバック制御することが好ましい。
【0027】
負荷値Xkは、スクリューコンベアの負荷を計測することにより得られる。負荷値Xkは、スクリューコンベアの負荷を直接計測することにより求めてもよいが、差速装置の負荷から負荷値Xkを求めることが簡便である。例えば、差速装置が油圧式の場合は、油圧値から負荷値Xkを求めることができ、差速装置がギア式の場合は、電流値から負荷値Xkを求めることができる。
【0028】
上記の規則(A1)~(A3)に従い、スクリューコンベアの負荷値Xを求める方法について、
図2を参照して具体的に説明する。1回目の負荷調整工程における負荷値X
1は、適宜設定すればよい(規則(A1))。2回目以降のk回目の負荷調整工程における負荷値X
kは、1つ前のk-1回目の負荷調整工程における固形分濃度S
k-1または濁度T
k-1に基づき定める。k-1回目の負荷調整工程の固形分濃度S
k-1または濁度T
k-1が基準値未満の場合は、負荷値X
k-1より大きい負荷値X
kを定め(規則(A2))、k-1回目の負荷調整工程の固形分濃度S
k-1または濁度T
k-1が基準値以上の場合は、負荷値X
k-1より小さい負荷値X
kを定める(規則(A3))。
【0029】
固形分濃度Sk-1または濁度Tk-1が基準値未満の場合は、脱水分離液に脱水対象物中の固形分がほとんど移行せず、より脱水性を高めることが可能と判断できる。そのため、k回目の負荷調整工程では、k-1回目の負荷調整工程の負荷値Xk-1より大きい負荷値Xkを定め、スクリューコンベアの差速を下げる。一方、k-1回目の負荷調整工程の固形分濃度Sk-1または濁度Tk-1が基準値以上の場合は、脱水分離液に脱水対象物中の固形分がある程度移行し、固液分離性能が低下した状態と判断される。そのため、k回目の負荷調整工程では、k-1回目の負荷調整工程の負荷値Xk-1より小さい負荷値Xkを定め、スクリューコンベアの差速を上げる。その結果、脱水対象物が遠心脱水機内で過度に滞留することが抑えられ、脱水対象物中の固形分が脱水分離液側へ流出することが抑えられる。
【0030】
2回目以降のk回目の負荷調整工程において、負荷値Xkと負荷値Xk-1の差は一定であってもそうでなくてもよく、経験に基づき適宜設定すればよい。例えば、負荷値Xkを負荷値Xk-1に対して一定の差となるように設定してもよく、k-1回目の負荷調整工程における負荷値Xk-1あるいは固形分濃度Sk-1または濁度Tk-1に基づき、負荷値Xkと負荷値Xk-1の差を適宜変更してもよい。
【0031】
脱水分離液の固形分濃度Sk-1または濁度Tk-1の基準値は、脱水対象物の種類、脱水分離液に求められる固形分濃度または濁度等に基づき、適宜設定すればよい。当該基準値は、各負荷調整工程において一定の値(同じ値)を定めることが望ましい。
【0032】
負荷調整工程の計測工程では、脱水分離液の固形分濃度と濁度のうち一方のみを計測してもよく、両方計測してもよいが、どちらか一方のみを計測すれば十分である。固形分濃度または濁度はオンサイトで計測することが好ましく、例えばSS計や濁度計を用いて固形分濃度または濁度を計測することができる。なお、固形分濃度と濁度の両方を計測する場合は、固形分濃度Sk-1と濁度Tk-1の両方が基準値未満の場合に、負荷値Xk-1より大きい負荷値Xkを定め、固形分濃度Sk-1と濁度Tk-1の少なくとも一方が基準値以上の場合に、負荷値Xk-1より小さい負荷値Xkを定めることが好ましい。
【0033】
k回目の負荷調整工程における負荷値Xkは、所定値以上の範囲で定めることが好ましい。負荷値Xkが極端に低い場合、遠心脱水機内で脱水対象物の固液分離が不十分となり、得られる脱水物の含水率が高くなったり、脱水分離液側に移行する固形分量が増えるおそれがある。従って、1回目の負荷調整工程における負荷値X1を所定値以上の範囲で定めるとともに、2回目以降のk回目の負荷調整工程においても、負荷値Xkを所定値以上の範囲で定めることが好ましい。仮にk-1回目の負荷調整工程において負荷値Xk-1が当該所定値以上の範囲の下限値すなわち所定値(あるいはそれより小さい値)に定められ、固形分濃度Sk-1または濁度Tk-1が基準値以上となった場合は、k回目の負荷調整工程における負荷値Xkは、負荷値X1から負荷値Xk-1のいずれよりも高い値を設定することが好ましい。
【0034】
1回の負荷調整工程の実施時間は、遠心脱水機における脱水対象物の滞留時間に応じて適宜設定すればよい。k-1回目の負荷調整工程からk回目の負荷調整工程に移行し、遠心脱水機内の脱水対象物がある程度入れ替わり、脱水機の運転が安定状態となった後、k+1回目の負荷調整工程を行うことが好ましい。1回の負荷調整工程の実施時間は、例えば1分~60分の間、好ましくは3分~45分の間で適宜設定すればよい。
【0035】
最後の負荷調整工程、すなわちn回目の負荷調整工程は、規則(A3)に従って行われるとともに、固形分濃度Snまたは濁度Tnが基準値未満となる。換言すれば、k回目の負荷調整工程が規則(A3)に従って行われ、かつ固形分濃度Skまたは濁度Tkが基準値未満となったときに、当該k回目の負荷調整工程がn回目の負荷調整工程となる。そして、n回目の負荷調整工程の負荷値Xnに基づき、遠心脱水機を通常運転する際のスクリューコンベアの負荷値Xを定める。このように負荷値Xを決定することにより、遠心脱水機により脱水対象物を脱水した際に、脱水分離液への固形分の流出を十分に抑えることができるとともに、含水率の変動が抑えられ、含水率が安定して低下した脱水物を得ることができる。負荷値Xは、負荷値Xnと同じ値を定めるのが簡便かつ確実であり好ましいが、負荷値Xn以下かつ負荷値Xnから負荷値Xn-1と負荷値Xnの差分を引いた値よりも大きい範囲で、負荷値Xを定めてもよい。すなわち、2Xn-Xn-1<X≦Xnの関係を満たすように負荷値Xを設定してもよい。
【0036】
本発明の遠心脱水機の運転方法は、遠心脱水機による運転を行う中で定期的に実施することが好ましい。遠心脱水機に供給する脱水対象物は、処理の継続に伴い含水率や性状が変化する場合があり、その場合、一旦決定した負荷値Xが、その後の処理において最適値とならないことが起こりうる。このような観点から、負荷調整工程をn回繰り返して負荷値Xを決定することは、例えば少なくとも6時間に1回行うことが好ましい。負荷調整工程をn回繰り返して負荷値Xを決定することの間隔はこれもよりも短くてもよい。なお、負荷調整工程をn回繰り返して負荷値Xを決定することの間隔は、1回の負荷調整工程の実施時間よりも長いことが好ましく、1回の負荷調整工程の実施時間の2倍以上の長さで設定することが好ましく、3倍以上がより好ましい。
【0037】
本発明の遠心脱水機の運転方法は、遠心脱水機による運転を行う中で、脱水分離液の固形分濃度または濁度が基準値以上となったときに行うことも好ましい。遠心脱水機による脱水では、処理の継続に伴い遠心脱水機に供給する脱水対象物の含水率や性状が変化し、脱水分離液の性状が悪化することが起こりうる。この場合は、遠心脱水機から排出される脱水分離液の固形分濃度または濁度をモニターし、脱水分離液の固形分濃度または濁度が基準値以上となったときに、負荷調整工程をn回繰り返して負荷値Xを改めて決定することが好ましい。
【0038】
脱水対象物への凝集剤(脱水助剤)の添加率を変える場合は、負荷調整工程をn回繰り返して負荷値Xを決定した後、脱水対象物への凝集剤の添加率を調整することが好ましい。脱水性能への影響は、凝集剤の添加率よりもスクリューコンベアの負荷値の方が大きいため、まず負荷調整工程をn回繰り返してスクリューコンベアの負荷を最適値に収束させ、その後凝集剤の添加率を調整することで、効率的に適切な脱水条件を定めることができる。
【0039】
なお上記において、凝集剤の添加率を上げ脱水性能が向上した場合は、スクリューコンベアの負荷値の余裕代が増えていることが想定される。従ってこの場合は、凝集剤の添加率を調整した後、再度負荷調整工程をn回繰り返して負荷値Xを決定することが好ましい。この場合は、スクリューコンベアの負荷値Xの調整、凝集剤添加率の調整、スクリューコンベアの負荷値Xの調整を順次行うこととなる。
【0040】
次に、遠心脱水機の運転例について、
図3および
図4を参照して説明する。
図3および
図4には、遠心脱水機により脱水対象物を脱水する際の負荷値X
kと固形分濃度S
kまたは濁度T
kとの関係の例を示した。
図3および
図4では、負荷調整工程の順番を丸囲みの数字で示しており、固形分濃度Sと濁度Tの基準値を点線で表している。
【0041】
図3の運転例では、まず規則(A1)に基づき、1回目の負荷調整工程を行った。1回目の負荷調整工程では固形分濃度S
1または濁度T
1が基準値未満であったため、2回目の負荷調整工程では、規則(A2)に基づき、スクリューコンベアの負荷値を1回目の負荷調整工程の負荷値X
1よりも大きい負荷値X
2に設定し、遠心脱水機を運転した。
【0042】
2回目の負荷調整工程でも固形分濃度S2または濁度T2が基準値未満であったため、3回目の負荷調整工程では、規則(A2)に基づき、スクリューコンベアの負荷値を2回目の負荷調整工程の負荷値X2よりも大きい負荷値X3に設定し、遠心脱水機を運転した。
【0043】
3回目の負荷調整工程では固形分濃度S3または濁度T3が基準値以上となったため、4回目の負荷調整工程では、規則(A3)に基づき、スクリューコンベアの負荷値を3回目の負荷調整工程の負荷値X3よりも小さい負荷値X4に設定し、遠心脱水機を運転した。4回目の負荷調整工程では固形分濃度S4または濁度T4が基準値未満であったため、4回目の負荷調整工程の負荷値X4に基づき、最終的にスクリューコンベアの負荷値Xを決定した。
【0044】
図4の運転例では、まず規則(A1)に基づき、1回目の負荷調整工程を行った。1回目の負荷調整工程では固形分濃度S
1または濁度T
1が基準値以上であったため、2回目の負荷調整工程では、規則(A3)に基づき、スクリューコンベアの負荷値を1回目の負荷調整工程の負荷値X
1よりも小さい負荷値X
2に設定し、遠心脱水機を運転した。
【0045】
2回目の負荷調整工程でも固形分濃度S2または濁度T2が基準値以上であったため、3回目の負荷調整工程では、規則(A3)に基づき、スクリューコンベアの負荷値を2回目の負荷調整工程の負荷値X2よりも小さい負荷値X3に設定し、遠心脱水機を運転した。3回目の負荷調整工程では固形分濃度S3または濁度T3が基準値未満であったため、3回目の負荷調整工程の負荷値X3に基づき、最終的にスクリューコンベアの負荷値Xを決定した。
【0046】
図3および
図4に示した運転例のように、本発明の遠心脱水機の運転方法によれば、脱水分離液の固形分濃度または濁度が基準値未満の範囲で、脱水の際の脱水性を高め、脱水物の含水率を下げることができる。また、スクリューコンベアの負荷が負荷値Xの一定値をとるようにスクリューコンベアの差速を調整しながら遠心脱水機を運転することにより、含水率の変動が少ない脱水物を得ることができる。そのため、遠心脱水機による効率的な脱水が実現できるとともに、脱水後の脱水物の処理の安定化も図ることができる。
【符号の説明】
【0047】
1: 遠心脱水機
2: 外筒
3: スクリューコンベア
4: スクリュー軸
5: スクリュー
6: 導入部
7: 脱水物排出部
8: 分離液排出部
9: 差速装置