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特開2024-164461プレス金型の製造方法、及びプレス金型
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024164461
(43)【公開日】2024-11-27
(54)【発明の名称】プレス金型の製造方法、及びプレス金型
(51)【国際特許分類】
   B21D 37/20 20060101AFI20241120BHJP
   B21D 53/88 20060101ALI20241120BHJP
   B23K 26/352 20140101ALI20241120BHJP
【FI】
B21D37/20 Z
B21D53/88 Z
B23K26/352
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023079947
(22)【出願日】2023-05-15
(71)【出願人】
【識別番号】000109875
【氏名又は名称】トーカロ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】横田 博紀
(72)【発明者】
【氏名】川井 大輔
(72)【発明者】
【氏名】中塚 勇輝
(72)【発明者】
【氏名】河野 雄志
【テーマコード(参考)】
4E050
4E168
【Fターム(参考)】
4E050JA01
4E050JB10
4E050JD03
4E050JD07
4E168AB01
4E168DA24
4E168DA26
4E168DA28
(57)【要約】
【課題】 成型品におけるスプリンバックの発生を抑制することができ、うねりが発生することもない、プレス金型の製造方法を提供すること。
【解決手段】 鋼板の成型に用いられるプレス金型の成型面の一部に粗面領域を形成する粗面化工程を有し、前記粗面化工程は、粗面化前の成型面より突出した凸部と粗面化前の成型面より凹んだ凹部とを有する粗面領域を形成する工程であって、前記凹部の平均深さが前記凸部の平均高さよりも大きい粗面領域を形成する、プレス金型の製造方法。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板の成型に用いられるプレス金型の成型面の一部に粗面領域を形成する粗面化工程を有し、
前記粗面化工程は、
粗面化前の成型面より突出した凸部と粗面化前の成型面より凹んだ凹部とを有する粗面領域を形成する工程であって、前記凹部の平均深さが前記凸部の平均高さよりも大きい粗面領域を形成する、プレス金型の製造方法。
【請求項2】
前記粗面領域として、表面粗さRzが500μm以下で、凸部の平均高さが12μm以上である粗面領域を形成する、請求項1に記載のプレス金型の製造方法。
【請求項3】
前記粗面領域として、表面粗さRsmは150μm以上である粗面領域を形成する、請求項1又は2に記載のプレス金型の製造方法。
【請求項4】
前記粗面化工程は、レーザを用いて行う、請求項1又は2に記載のプレス金型の製造方法。
【請求項5】
前記鋼板の厚さは、1.5mm以下である請求項1又は2に記載のプレス金型の製造方法。
【請求項6】
前記鋼板は、自動車用鋼板である請求項1又は2に記載のプレス金型の製造方法。
【請求項7】
鋼板の成型に用いられるプレス金型であって、
金型の成型面は、粗面化された粗面領域を有し、
前記粗面領域は、粗面化前の成型面に相当する基準面より突出した凸部と、前記基準面より凹んだ凹部とを備え、かつ、前記凹部の平均深さが前記凸部の平均高さよりも大きい、プレス金型。
【請求項8】
前記粗面領域として、表面粗さRzが500μm以下で、凸部の平均高さが12μm以上である粗面領域を有する、請求項7に記載のプレス金型。
【請求項9】
前記粗面領域として、表面粗さRsmが150μm以上である粗面領域を有する、請求項7又は8に記載のプレス金型。
【請求項10】
前記鋼板の厚さは、1.5mm以下である請求項7又は8に記載のプレス金型。
【請求項11】
前記鋼板は、自動車用鋼板である請求項7又は8に記載のプレス金型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス金型の製造方法、及びプレス金型に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用鋼板の成型方法として、プレス成型が一般的に知られている。
プレス金型を用いて自動車用鋼板をプレス成型した場合、プレス成型された部材をプレス金型から離型した後に、成型品に生じるスプリングバック(弾性回復とも呼ばれる)に起因して、当該成型品に予期せぬ反りや変形が発生することがあり、問題視されている。
【0003】
そこで、弾性回復を低減する方法として、例えば、特許文献1には、第1成形面を有する第1成形型に第2成形面を有する第2成形型を相対移動させ、上記第1成形面と上記第2成形面との共働によって素材金属板を成形するプレス成形方法であって、上記第1成形面及び/又は上記第2成形面に線状突起部を設け、プレス成形の際に曲げ変形あるいは曲げ戻し変形を受けた部位に上記線状突起部を食い込ませて、プレス成形部材の板厚に応じた所定の形状の線状凹部を形成する、プレス成形方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001-087816号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の方法で成型品(プレス成型部材)を製造した場合、得られた成型品の線状凹部が形成された面と反対側の面に、うねりが発生する場合があることが見出された。
自動車用鋼板の外板面にうねりが発生すると、その成型品は、外観不良となる。
【0006】
図5は、うねりの発生原理を説明する図である。
図5に示すように、成形面に突起部が設けられた第1成形型(下金型)51と、成形面が平坦な第2成形型(上金型)52とを用いて、鋼板53をプレス成型した場合、得られた成型品55において、第1成形型51と対向する側の面55bと反対側の面(図中、上側の面)55aにうねり56が生じる場合がある。これは、プレス中の鋼板53に第1成形型51の線状突起部64が突き刺さることによって、鋼板53に内部応力が蓄積し、離型された際にその内部応力が解放されて、鋼板53の第2成形型52側の面にうねり56が生じたと考えられる。
【0007】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、スプリングバックに起因した反りや変形の発生を抑制しつつ、上述のうねりの発生を回避することができる、プレス金型の製造方法、及びプレス金型を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明のプレス金型の製造方法は、
鋼板の成型に用いられるプレス金型の成型面の一部に粗面領域を形成する粗面化工程を有し、
上記粗面化工程は、
粗面化前の成型面より突出した凸部と粗面化前の成型面より凹んだ凹部とを有する粗面領域を形成する工程であって、上記凹部の平均深さが上記凸部の平均高さよりも大きい粗面領域を形成する。
【0009】
上記プレス金型の製造方法は、成型面の一部に所定の凹凸形状の粗面領域を形成する。このようにして製造されたプレス金型を用いてプレス成型を行うことで、成型品におけるスプリングバックに起因した反りや変形の発生を抑制することができる。
上記プレス金型の製造方法は、凹部の平均深さが凸部の平均高さよりも大きい粗面領域を形成する。このようにして製造されたプレス金型を用いてプレス成型を行うことで、成型品におけるうねりの発生を抑制することができる。
【0010】
(2)上記(1)のプレス金型の製造方法は、上記粗面領域として、表面粗さRzが500μm以下で、凸部の平均高さが12μm以上である粗面領域を形成する、ことが好ましい。
(3)上記(1)又は(2)のプレス金型の製造方法は、上記粗面領域として、表面粗さRsmが150μm以上である粗面領域を形成する、ことが好ましい。
(4)上記(1)~(3)のいずれかのプレス金型の製造方法において、上記粗面化工程は、レーザを用いて行う、ことが適している。
(5)上記(1)~(4)のいずれかのプレス金型の製造方法は、鋼板の厚さが1.5mm以下である場合に好適である。
(6)上記(1)~(5)のいずれかのプレス金型の製造方法は、鋼板が自動車用鋼板である場合に好適である。
【0011】
(7)本発明のプレス金型は、
鋼板の成型に用いられるプレス金型であって、
金型の成型面は、粗面化された粗面領域を有し、
上記粗面領域は、粗面化前の成型面に相当する基準面より突出した凸部と、上記基準面より凹んだ凹部とを備え、かつ、上記凹部の平均深さが上記凸部の平均高さよりも大きい。
【0012】
上記プレス金型は、成型面の一部に所定の凹凸形状の粗面領域を有する。このプレス金型を用いてプレス成型を行うことで、成型品におけるスプリングバックに起因した反りや変形の発生を抑制することができる。
上記プレス金型は、凹部の平均深さが凸部の平均高さよりも大きい粗面領域を有する。そのため、このプレス金型を用いてプレス成型を行うことで、成型品におけるうねりの発生を抑制することができる。
【0013】
(8)上記(7)のプレス金型は、上記粗面領域として、表面粗さRzが500μm以下で、凸部の平均高さが12μm以上である粗面領域を有する、ことが好ましい。
(9)上記(7)又は(8)のプレス金型は、上記粗面領域として、表面粗さRsmが150μm以上である粗面領域を有する、ことが好ましい。
(10)上記(7)~(9)のいずれかのプレス金型において、鋼板の厚さは1.5mm以下が好適である。
(11)上記(7)~(10)のいずれかのプレス金型においては、鋼板は、自動車用鋼板が好適である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、スプリングバックに起因した反りや変形が発生しにくく、かつ、うねりの発生も抑制された成型品を製造することが可能なプレス金型を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態に係るプレス金型の一例を模式的に示す図である。
図2図1のプレス金型における成型面の一部を模式的に示す図である。
図3】本発明の実施形態に係るプレス金型を用いて得られた成型品の表面状態を説明する図である。
図4】スプリングバック抑制効果の評価方法を示す図である。
図5】従来のプレス成型で発生するうねりの発生原理を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明の実施形態は下記の実施形態に限定されるものではない。
【0017】
(プレス金型)
図1は、本発明の実施形態に係るプレス金型の一例を模式的に示す図である。図2は、図1のプレス金型における成型面の一部を模式的に示す図である。
プレス金型10は、上面11aを成型面とする下金型11と、下面12aを成型面とする上金型12とを有する。
プレス金型10は、下金型11と上金型12との間に鋼板13を設置し、上金型12又は下金型11を反対側の金型に向かって移動させることにより、鋼板13をプレス成型することができる。
【0018】
下金型11の上面(成型面)11aは、粗面化された粗面領域22と、非粗面領域21とを有する。
粗面領域22は、例えばレーザ加工によって凹凸が形成されている。
粗面領域22と非粗面領域21の区分けは、例えば、目視観察、拡大鏡観察、顕微鏡観察等により行うことができる。
粗面領域22は、図2に示すように、粗面化前の成型面に相当する基準面(すなわち、非粗面領域21を粗面領域22に向かって平行に拡張した面)25より突出した凸部24と基準面25より凹んだ凹部23とを備える。
【0019】
粗面領域22において、凹部23の平均深さは凸部24の平均高さよりも大きい。粗面領域22がこのような凹凸形状を有する場合にうねりの発生を抑制することができる理由は、以下のとおりである。
【0020】
図3は、本発明の実施形態に係るプレス金型を用いて得られた成型品の表面状態を説明する図である。
本実施形態に係るプレス金型を用いて、プレス成型を行った場合、下金型11の凸部24が鋼板13に突き刺さった際に、下金型11と鋼板13との間には隙間Sが存在する。そのため、下金型11の凸部24が鋼板13に突き刺さった際に、凸部24が突き刺さった部分周辺の鋼板には、隙間Sに移動するように力が働く(図3中、矢印参照)。従って、本実施形態に係るプレス金型を用いた場合は、上金型側の表面にうねりが発生することを抑制することができ、その上金型側の面を自動車用鋼板の外板面とすることで、意匠性に優れた自動車用鋼板を得ることができる。
【0021】
基準面25は、粗面化前の成型面に相当するが、粗面化後においては、粗面領域22を断面視したときのうねり曲線から導くことができる。
上記うねり曲線は、例えば、JIS B 0601(2013)に基づいて、下記の手法で取得する。
まず、表面粗さ測定装置を用いて、非粗面領域と粗面領域の境界点を含む測定断面曲線を取得する。このとき、測定断面曲線の少なくとも一方の端部は、非粗面領域上に位置する。
次に、測定断面曲線にカットオフ値λs=8μmで輪郭曲線フィルタを適用して断面曲線を取得する。
その後、測定断面曲線にカットオフ値λc:2.5mm、λf:上限なしで輪郭曲線フィルタを適用してうねり曲線を取得する。
そして、取得した断面曲線とうねり曲線を、非粗面領域上に位置する端部が一致するように重ね合わせることで、うねり曲線を基準面の位置とみなすことができる。
なお、測定断面曲線からは、適切なカットオフ値λs、カットオフ値λcを適用することで、粗さ曲線を取得することもできる。
カットオフ値λs、カットオフ値λc、及びカットオフ値λfの数値は、JIS B 0633(2013)及びJIS B 0651(2013)に基づき、適宜設定すればよい。
【0022】
粗面領域22において、凸部24の平均高さは、12μm以上が好ましい。
この場合、スプリングバックの発生を抑制するのにより適している。
より好ましい上記凸部の平均高さは、26μm以上である。
上記凸部24の平均高さの好ましい上限は、60μmである。
【0023】
粗面領域22において、凹部23の平均深さ、及び凸部24の平均高さは、上述した方法で断面曲線とうねり曲線とを重ね合わせることで取得することができる。上記凹部23の平均深さは、うねり曲線より下側に凹んだ部分の深さの平均値である。凸部24の平均高さは、うねり曲線より上側に突出した部分の高さの平均値である。
【0024】
粗面領域22の表面粗さRzは、500μm以下が好ましい。
上記表面粗さRzは、JIS B 0601(2013)に規定される粗さパラメータの1つであり、最大高さと呼ばれる高さ方向のパラメータである。
上記表面粗さRzが500μm以下であると、プレス金型の凸部の変形を抑制することができる。
上記表面粗さRzの好ましい下限は、25μmである。
【0025】
粗面領域22の表面粗さRsmは、150μm以上が好ましい。
上記表面粗さRsmは、JIS B 0601(2013)に規定される粗さパラメータの1つである。
上記表面粗さRsmが150μm以上の場合、粗面領域22の凸部24が太く形成されるため、プレス成型時に凸部24が変形することを抑制することができる。
上記表面粗さRsmの好ましい上限は、500μmである。
【0026】
粗面領域22における、表面粗さRz、及び表面粗さRsmは、上述した手法で取得した粗さ曲線に基づいて算出する。
【0027】
非粗面領域21は、通常、表面粗さRaが1μm以下である。上記表面粗さRaは、JIS B 0601(2013)に規定される粗さパラメータの1つであり、算術平均粗さと呼ばれる高さ方向のパラメータである。また、非粗面領域21の表面粗さRz(JIS B 0601(2013))は、通常、10μm以下である。
非粗面領域21は、スプリングバックが発生しにくい領域や、スプリングバックが発生しても問題のない領域に設けられる。
非粗面領域21の表面粗さRa、及び表面粗さRzは、上記の通常の範囲内であれば特に限定されない。
【0028】
プレス金型10において、粗面領域22の凸部24のHRC(ロックウェル硬さ)は、52以上が好ましい。
この場合、凸部24の硬度が高いため、繰り返しプレス成型を行っても、凸部24の形状が変形することを抑制することができる。
【0029】
凸部24のHRCは、プレス成型される鋼板の引張強度が440MPaを超える場合、60以上が好ましい。
引張強度が高い鋼板をプレス成型する場合は、プレス成型時に凸部24の形状変形が発生しやすい。これに対して、上記HRCを60以上とすることで凸部24の形状変形を抑制しやすくなる。
【0030】
プレス金型10は、球状黒鉛鋳鉄、フレームハード鋼等の鋼材からなる。
そのため、上記HRCを達成するためには、例えば、焼入れ等を行えばよい。
【0031】
プレス金型10において、粗面領域22は、プレス成型時にスプリングバックが発生しやすく、かつスプリングバックが発生すると問題になる位置に設ければよい。
スプリングバックが発生すると問題になる位置には、例えば、自動車用鋼板においては、外板面や相手部材との接合面が該当する。
【0032】
プレス金型10の成型対象となる鋼板の厚さは特に限定されないが、鋼板の厚さが1.5mm以下である場合に、特にスプリングバックが発生しやすいため、このような厚さの鋼板に適用すると効果が大きい。より好ましくは、0.7mm以下である。鋼板の厚さの下限は、例えば、0.3mmである。
この範囲の厚さの鋼板としては、例えば、自動車用鋼板が挙げられる。
【0033】
<プレス金型の他の実施形態>
ここまで、説明したプレス金型は、下金型が粗面領域を有するものである。
一方、本発明の実施形態に係るプレス金型は、上金型が粗面領域を有するものであってもよい。
また、本発明の実施形態に係るプレス金型は、カム機構を有するプレス金型でもよい。
【0034】
(プレス金型の製造方法)
本発明の実施形態に係るプレス金型の製造方法は、プレス金型の成型面の一部に粗面領域を形成する粗面化工程を有する。
この粗面化工程では、粗面化前の成型面より突出した凸部と粗面化前の成型面より凹んだ凹部とを有する粗面領域を形成する。
【0035】
形成された粗面領域において、上記凹部の平均深さは、上記凸部の平均高さよりも大きくなっている。
そのため、本発明の実施形態で製造されたプレス金型を用いたプレス成型では、スプリングバックの発生を抑制しつつ、うねりの発生を回避することができる。
【0036】
上記粗面化工程では、例えば、プレス金型の成型面のレーザ光を照射するレーザ加工によって粗面領域を形成する。レーザ加工は、凹部の平均深さが凸部の平均高さよりも大きい凹凸形状を形成するのに適している。
【0037】
上記レーザ加工で使用するレーザは特に限定されず、鋼材の表面を粗面化できるレーザであれば使用できる。
上記レーザの具体例としては、例えば、半導体レーザ、YAGレーザ等の固体レーザ、ファイバーレーザ等が挙げられる。
また、レーザ光の照射条件も特に限定されないが、通常の溝切り加工と異なり、基準面よりも突出した凸部を形成する必要があるため、レーザ光の発振のタイミングや走査速度等を適切に調整して、凸部が形成されるように工夫する必要がある。
上記凸部の形成は、例えば、溶融池の湯流れを利用することで形成することができる。
【0038】
上記粗面化工程で形成する上記凸部の平均高さは、12μm以上が好ましい。
この場合、得られた金型は、スプリングバックを抑制するのに適している。
より好ましい上記凸部の平均高さは、26μm以上である。
上記凸部24の平均高さの好ましい上限は、60μmである。
【0039】
上記粗面化工程で形成された粗面領域における、表面粗さRzは、500μm以下が好ましい。この場合、プレス金型の凸部の変形を抑制することができる。
上記表面粗さRzの好ましい下限は、25μmである。
【0040】
上記粗面化工程で形成された粗面領域における、表面粗さRsmは、150μm以上が好ましい。この場合、凸部が太く形成されるため、プレス成型時に凸部24が変形しにくい。
上記表面粗さRsmの好ましい上限は、500μmである。
【0041】
上記表面粗さRz、及び上記表面粗さRsmは、既に説明した手法で取得することができる。
【0042】
本実施形態の製造方法において、粗面化工程前の成型面は、通常、表面粗さRa(JIS B 0601(2013))が1μm以下、表面粗さRz(JIS B 0601(2013))は、通常、10μm以下である。
本実施形態の製造方法で製造されたプレス金型は、粗面化処理されなかった領域が非粗面化領域となる。
【0043】
上記プレス金型の製造方法は、プレス金型の成型面の一部に粗面領域を形成する粗面化工程を有する以外は、従来と同様の方法で行えばよい。
【0044】
(評価試験)
以下に、本発明の実施形態によるスプリングバック抑制効果を評価した。
この評価は、JSOL社製のシミュレーションソフト(商品名:JSTAMP)によるシミュレーションにて行った。
図4は、評価方法を説明する図である。
【0045】
(試験例1~5)
下記の条件で評価(シミュレーション)を行い、成型後のスプリングバック量(表1中では、単にバック量と記載)を算出した。
(1)評価サンプル
0.3mm、0.5mm、0.7mm、1.0mm、又は1.5mmの板厚を有し、くの字に折り曲げられた帯状の鋼板を評価サンプル33とした。ここで、折り曲げ角度θ(図4(a)参照)は、20°とした。
【0046】
(2)評価金型
折り曲げられた評価サンプル33を平板形状に成型するためのプレス金型を評価金型とした。この評価金型は、下金型31と上金型32からなり、下金型31の成型面31a、及び上金型32の成型面32aのそれぞれを成型面とするプレス金型である。
試験例1~5における評価金型は、下金型31及び上金型32のいずれの成型面31a、32aにも凹凸を形成していないものとして設定した。
【0047】
(3)スプリングバック量の評価
上記(1)の評価サンプル33を上記(2)の評価金型で平板形状に成型する(図4(b)参照)。その後、評価金型から離型し、離型後のスプリングバック量を算出した。
上記スプリングバック量は、図4(c)に示すように、評価サンプル33を折り曲げた際の内側面が下になるように成型後の評価サンプル(成型品)35を平坦面上に載置し、平坦面から評価サンプルの折り曲げ位置までの距離を距離Bとした。
結果を表1に示した。
【0048】
(4)うねりの有無
うねりの発生の有無は、評価サンプル35の上面をシミュレーション結果に基づいて可視化し、それを目視観察して判断した。
【0049】
(試験例6~15)
評価金型を変更した以外は、試験例1~5と同様の手法で、成型後のスプリングバック量を算出した。また、試験例1~5と同様の手法で、うねりの発生の有無も判断した。
評価金型としては、下金型31の成型面31a全体に粗面領域を形成したものを採用した。なお、シミュレーションでは、粗面領域を複数の突起が形成されたもので表し、それらの突起の高さ方向の一部にのみ鋼板が刺さるように調整することで、本発明の凸部と凹部とを再現した。つまり、粗面領域の突起の鋼板に刺さる部分を本発明の凸部とみなし、粗面領域の突起の鋼板に刺さらない部分を本発明の凹部とみなして実験を行った。
このとき、粗面領域における凹凸形状(凸部の高さ、Rsm、及びRz)は、表1に示した寸法とした。
【0050】
また、粗面領域を設けることによる効果を「◎」と「〇」と「△」とで評価した。
ここでは、粗面領域を設けた試験例6~15と、粗面領域を設けていない試験例1~5とで、同じ板厚の試験例同士を比較して、減少したスプリングバック量の割合を、低減率(%)として算出した。そして、低減率が70%以上の場合を「◎」、低減率が50%以上70%未満の場合を「〇」、上記以外でバック量が低減できた場合を「△」と評価した。
結果を表1に示した。
【0051】
【表1】
【0052】
表1に示した通り、本発明の実施形態に係るプレス金型を用いて、プレス成型を行うことによって、スプリングバックの発生を抑制できることが明らかとなった。
また、うねりの発生を回避できることも明らかになった。
なお、実機として、試験例10と同じ仕様のプレス金型を製造したところ、同様にスプリングバックの発生を抑制し、うねりの発生を回避できるという結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、自動車の製造分野等で好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0054】
10 プレス金型
11、31、51 下金型
11a 成型面(下金型の上面)
12、32、52 上金型
12a 成型面(上金型の下面)
13、53 鋼板
15 成型品
21 非粗面領域
22 粗面領域
23 凹部
24、64 凸部
25 基準面
33、35 評価サンプル
図1
図2
図3
図4
図5