(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024164471
(43)【公開日】2024-11-27
(54)【発明の名称】電気化学セル
(51)【国際特許分類】
B01D 53/32 20060101AFI20241120BHJP
C01B 32/50 20170101ALI20241120BHJP
【FI】
B01D53/32
C01B32/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023079964
(22)【出願日】2023-05-15
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「グリーンイノベーション基金事業/CO2の分離回収等技術開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001472
【氏名又は名称】弁理士法人かいせい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】成瀬 淳一
(72)【発明者】
【氏名】飯島 剛
【テーマコード(参考)】
4G146
【Fターム(参考)】
4G146JA02
4G146JB04
(57)【要約】
【課題】CO
2吸着材として無機材料を用いた電気化学セルにおいて、CO
2を脱離させる際のエネルギを低減する。
【解決手段】CO
2含有ガスからCO
2を分離する電気化学セルであって、CO
2吸着材103bを含む作用極103と、対極105と、電解質107とを備える。作用極と対極との間に第1電圧が印加されることで、作用極はCO
2含有ガスに含まれるCO
2を吸着する。作用極と対極との間に第2電圧が印加されることで、作用極からCO
2が脱離される。CO
2吸着材は、MX
2-a、MX
2Y
1-b、MX
2-aY
1-b、M
2CおよびM
2C
1-dの少なくともいずれかである。ただし、Mは遷移金属であり、XはS、SeおよびTeのいずれかであり、YはXの一部を置換する元素であり、aは0<a<2の範囲内であり、bは0<b<1の範囲内であり、dは0<d<1の範囲内である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学反応によってCO2含有ガスからCO2を分離する電気化学セルであって、
CO2吸着材(103b)を含む作用極(103)と、対極(105)と、前記作用極および前記対極を覆う電解質(107)とを備え、
前記作用極と前記対極との間に第1電圧が印加されることで、前記対極から前記作用極に電子が供給され、前記作用極は前記CO2含有ガスに含まれるCO2を吸着し、前記作用極と前記対極との間に第2電圧が印加されることで、前記作用極から前記対極に電子が供給され、前記作用極からCO2が脱離され、
前記CO2吸着材は、MX2-a、MX2Y1-b、MX2-aY1-b、M2CおよびM2C1-dの少なくともいずれかである電気化学セル。
ただし、Mは遷移金属であり、XはS、SeおよびTeのいずれかであり、YはXの一部を置換する元素であり、aは0<a<2の範囲内であり、bは0<b<1の範囲内であり、dは0<d<1の範囲内である。
【請求項2】
前記CO2吸着材がMX2-a、MX2Y1-bおよびMX2-aY1-bの少なくともいずれかである場合、前記MはRe、Mo、Ti、Zr、Hf、V、Nb、TaおよびWのいずれかである請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項3】
前記CO2吸着材は、ReS2-a、ReS2N1-bおよびReS2-aN1-bの少なくともいずれかである請求項2に記載の電気化学セル。
【請求項4】
前記CO2吸着材がM2CおよびM2C1-dの少なくともいずれかである場合、前記MはMo、Ti、W、Nb、VおよびZrのいずれかである請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項5】
前記CO2吸着材は、Mo2Cである請求項4に記載の電気化学セル。
【請求項6】
前記電解質は、イオン液体である請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項7】
前記イオン液体は、非プロトン性である請求項6に記載の電気化学セル。
【請求項8】
前記CO2含有ガスに含まれるCO2は、CO2
・-、HCO3
-およびC2O4
2-の少なくともいずれかの状態で前記作用極に吸着される請求項1ないし7のいずれか1つに記載の電気化学セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CO2を吸着および脱離する電気化学セルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気化学反応によってCO2を含む混合ガスからCO2を吸着および脱離する電気化学セルが知られている。特許文献1には、CO2を吸着および脱離するCO2吸着材としてポリアントラキノンを用いた電気化学セルが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、CO2吸着材としてポリアントラキノンのような有機材料を用いる場合には、CO2吸着材の密度を大きくすることが困難であり、さらに有機化合物が電気化学セルから溶出するおそれがある。一方、CO2吸着材として無機材料を用いる場合には、CO2吸着材に吸着したCO2を脱離させる有効な触媒が報告されておらず、CO2の脱離エネルギが大きくなる。
【0005】
本発明は上記点に鑑み、CO2吸着材として無機材料を用いた電気化学セルにおいて、CO2を脱離させる際のエネルギを低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、電気化学反応によってCO2含有ガスからCO2を分離する電気化学セルであって、CO2吸着材(103b)を含む作用極(103)と、対極(105)と、作用極および対極を覆う電解質(107)とを備える。作用極と対極との間に第1電圧が印加されることで、対極から作用極に電子が供給され、作用極はCO2含有ガスに含まれるCO2を吸着し、作用極と対極との間に第2電圧が印加されることで、作用極から対極に電子が供給され、作用極からCO2が脱離される。CO2吸着材は、MX2-a、MX2Y1-b、MX2-aY1-b、M2CおよびM2C1-dの少なくともいずれかである。ただし、Mは遷移金属であり、XはS、SeおよびTeのいずれかであり、YはXの一部を置換する元素であり、aは0<a<2の範囲内であり、bは0<b<1の範囲内であり、dは0<d<1の範囲内である。
【0007】
本願発明では、CO2吸着材としてMX2-a、MX2Y1-b、MX2-aY1-b、M2CおよびM2C1-dの少なくともいずれかを用いることで、CO2含有ガスに含まれるCO2がCO2
・-、C2O4
2-、HCO3
-の少なくともいずれかに変換された状態で作用極に吸着される。CO2
・-、C2O4
2-、HCO3
-が作用極から脱離する際に、CO2吸着材がCO2への再変換を促進する触媒として作用する。この結果、CO2脱離に必要な電気エネルギを低減することができ、低エネルギでCO2を脱離することが可能となる。
【0008】
なお、上記各構成要素の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態に係る二酸化炭素回収システムを示す図である。
【
図3】二酸化炭素回収装置のCO
2回収モードとCO
2放出モードでの作動を説明するための図である。
【
図5】CO
2吸着材をラマン分析法で測定した結果を示す図である。
【
図6】CO
2吸着材をX線回折法で測定した結果を示す図である。
【
図7】CO
2吸着材をSEM-EDXで組成比分析した結果を示す図である。
【
図8】実施例および比較例のCO
2脱離電圧を示す図表である。
【
図9】実施例および比較例のCO
2脱離効率を示す図表である。
【
図10】第1実施例で負方向に電位掃引した際の電流と筐体内CO
2量を示す図である。
【
図11】第1実施例で正方向に電位掃引した際の電流と筐体内CO
2量を示す図である。
【
図12】第1実施例でCO
2の吸着と脱離をそれぞれ定電圧で行った際の筐体内CO
2量を示す図である。
【
図13】第1実施例で拡散反射赤外分光法によって作用極内のCO
2を検出した結果を示す図である。
【
図14】第1実施例で拡散反射赤外分光法によって作用極内のCO
2
・-、C
2O
4
2-、HCO
3
-を検出した結果を示す図である。
【
図15】第2実施例で負方向に電位掃引した際の電流と筐体内CO
2量を示す図である。
【
図16】第2実施例で正方向に電位掃引した際の電流と筐体内CO
2量を示す図である。
【
図17】第2実施例でCO
2の吸着と脱離をそれぞれ定電圧で行った際の筐体内CO
2量を示す図である。
【
図18】第3実施例で負方向に電位掃引した際の電流と筐体内CO
2量を示す図である。
【
図19】第3実施例で正方向に電位掃引した際の電流と筐体内CO
2量を示す図である。
【
図20】第3実施例でCO
2の吸着と脱離をそれぞれ定電圧で行った際の筐体内CO
2量を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。
図1に示すように、本実施形態の二酸化炭素回収システム10は、圧縮機11、二酸化炭素回収装置100、流路切替弁12、二酸化炭素利用装置13、制御装置14が設けられている。
【0011】
圧縮機11は、CO2含有ガスを二酸化炭素回収装置100に圧送する。CO2含有ガスは、CO2とCO2以外のガスを含有する混合ガスであり、例えば大気や内燃機関の排気ガス等を用いることができる。
【0012】
二酸化炭素回収装置100は、CO2含有ガスからCO2を分離して回収する装置である。二酸化炭素回収装置100は、CO2含有ガスからCO2が回収された後のCO2除去ガス、あるいはCO2含有ガスから回収したCO2を排出する。二酸化炭素回収装置100の構成については、後で詳細に説明する。
【0013】
流路切替弁12は、二酸化炭素回収装置100の排出ガスの流路を切り替える三方弁である。流路切替弁12は、二酸化炭素回収装置100からCO2除去ガスが排出される場合は、排出ガスの流路を大気側に切り替え、二酸化炭素回収装置100からCO2が排出される場合は、排出ガスの流路を二酸化炭素利用装置13側に切り替える。
【0014】
二酸化炭素利用装置13は、CO2を利用する装置である。二酸化炭素利用装置13としては、例えばCO2を貯蔵する貯蔵タンクやCO2を燃料に変換する変換装置を用いることができる。変換装置は、CO2をメタン等の炭化水素燃料に変換する装置を用いることができる。炭化水素燃料は、常温常圧で気体の燃料であってもよく、常温常圧で液体の燃料であってもよい。
【0015】
制御装置14は、CPU、ROMおよびRAM等を含む周知のマイクロコンピュータとその周辺回路から構成されている。制御装置14は、ROM内に記憶された制御プログラムに基づいて各種演算、処理を行い、各種制御対象機器の作動を制御する。本実施形態の制御装置14は、圧縮機11の作動制御、二酸化炭素回収装置100の作動制御、流路切替弁12の流路切替制御等を行う。
【0016】
次に、二酸化炭素回収装置100について
図2を用いて説明する。
図2に示すように、二酸化炭素回収装置100は、電気化学反応によってCO
2の吸着および脱離する電界吸脱着式の電気化学セル101が設けられている。電気化学セル101は、作用極側集電材102、作用極103、対極側集電材104、対極105、絶縁層106および電解質107を有している。作用極側集電材102、作用極103、対極側集電材104、対極105および絶縁層106は、積層して設けられている。
【0017】
電気化学セル101は、図示しない容器内に収容されるようにしてもよい。容器には、CO2含有ガスを容器内に流入させるガス流入口と、CO2除去ガスやCO2を容器内から流出させるガス流出口を設けることができる。
【0018】
二酸化炭素回収装置100は、電気化学セル101の電気化学反応によってCO2の吸着および脱離を行い、CO2含有ガスからCO2を分離して回収する。二酸化炭素回収装置100は、作用極103と対極105に所定の電圧を印加する電源108が設けられており、作用極103と対極105の電位差を変化させることができる。作用極103は負極であり、対極105は正極である。
【0019】
電気化学セル101は、作用極103と対極105の電位差を変化させることで、作用極103でCO2を回収するCO2回収モードと、作用極103からCO2を放出するCO2放出モードを切り替えて作動することができる。CO2回収モードは電気化学セル101を充電する充電モードであり、CO2放出モードは電気化学セル101を放電する放電モードである。
【0020】
CO2回収モードでは、作用極103と対極105の間に第1電圧V1が印加され、対極105から作用極103に電子が供給される。第1電圧V1では、作用極電位<対極電位となっている。第1電圧V1は、例えば0.5~2.0Vの範囲内とすることができる。
【0021】
CO2放出モードでは、作用極103と対極105の間に第2電圧V2が印加され、作用極103から対極105に電子が供給される。第2電圧V2は、第1電圧V1と異なる電圧である。第2電圧V2は、第1電圧V1より低い電圧であればよく、作用極電位と対極電位の大小関係は限定されない。つまり、CO2放出モードでは、作用極電位<対極電位でもよく、作用極電位=対極電位でもよく、作用極電位>対極電位でもよい。
【0022】
作用極側集電材102は、CO2を含んだCO2含有ガスが通過可能な孔を有する多孔質の導電性材料である。作用極側集電材102としては、例えば炭素質材料や金属材料を用いることができる。作用極側集電材102を構成する炭素質材料としては、例えばカーボン紙、炭素布、不織炭素マット、多孔質ガス拡散層(GDL)等を用いることができる。作用極側集電材102を構成する金属材料として、例えばAl、Ni、SUS等の金属をメッシュ状にした構造体を用いることができる。
【0023】
作用極103には、作用極基材103a、CO2吸着材103bが設けられている。作用極基材103aは、CO2吸着材103bを保持する導電性材料である。作用極基材103aとしては、例えばカーボンシートを用いることができる。CO2吸着材103bは、酸化還元反応によって電子の授受を行う活物質である。CO2吸着材103bは、電子を受け取ることでCO2を吸着し、電子を放出することで吸着していたCO2を脱離する。
【0024】
本実施形態では、CO2吸着材103bとしてMX2-a、MX2Y1-b、MX2-aY1-b、M2CおよびM2C1-dの少なくともいずれかを用いている。MX2-a、MX2Y1-b、MX2-aY1-bは、遷移金属ダイカルコゲナイドであり、M2CおよびM2C1-dは、「MXene」として知られる遷移金属炭化物である。
【0025】
遷移金属ダイカルコゲナイドは、遷移金属元素Mと2個のカルコゲナイド元素Xが結合した物質である。遷移金属ダイカルコゲナイドは、遷移金属層を2つのカルコゲン層が上下に挟む層状構造を有している。
【0026】
遷移金属ダイカルコゲナイドの遷移金属Mとしては、4族元素、5族元素、6族元素、7族元素を用いることができる。具体的には、遷移金属ダイカルコゲナイドの遷移金属元素Mとして、例えばRe、Mo、Ti、Zr、Hf、V、Nb、TaおよびWのいずれかを用いることができる。遷移金属ダイカルコゲナイドのカルコゲン元素Xとして、例えばS、Se、Teのいずれかを用いることができる。遷移金属ダイカルコゲナイドにおいて、YはXの一部を置換する元素であり、例えば窒素Nを用いることができる。本実施形態では、遷移金属ダイカルコゲナイドからなるCO2吸着材103bとして、ReS2-a、ReS2N1-bおよびReS2-aN1-bの少なくともいずれかを用いている。
【0027】
MX2-a、MX2-aY1-bは、結晶構造にカルコゲン原子Xの欠陥が含まれている。MX2Y1-bおよびMX2-aY1-bは、カルコゲン原子Xの一部が異元素Yで置換された結晶構造を備えている。MX2-aおよびMX2-aY1-bにおいて、aは0<a<2の範囲内である。MX2Y1-bおよびMX2-aY1-bにおいて、bは0<b<1の範囲内である。
【0028】
本実施形態の遷移金属ダイカルコゲナイドは、結晶構造にカルコゲン原子Xの欠陥あるいは異元素Yによるカルコゲン原子Xの置換の少なくともいずれかを含んでいる。これにより、本実施形態の遷移金属ダイカルコゲナイドは、局在電子をつくることができる。
【0029】
遷移金属炭化物は、層状化合物である。遷移金属炭化物の遷移金属Mとしては、4族元素、5族元素、6族元素を用いることができる。具体的には、遷移金属炭化物の遷移金属Mとしては、例えばMo、Ti、W、Nb、VおよびZrのいずれかを用いることができる。M2C1-dは、結晶構造に炭素原子Cの欠陥を含んでいる。M2C1-dにおいて、dは0<d<1の範囲内である。本実施形態では、遷移金属炭化物からなるCO2吸着材103bとしてMo2Cを用いている。
【0030】
本実施形態の電気化学セル101では、CO2吸着材103bとしてMX2-a、MX2Y1-b、MX2-aY1-b、M2CおよびM2C1-dの少なくともいずれかを用いることで、CO2がCO2
・-、C2O4
2-、HCO3
-の少なくともいずれかに変換された状態で作用極103に吸着される。CO2
・-、C2O4
2-、HCO3
-は作用極103から脱離する際に、CO2に変換される。本実施形態では、CO2がCO2
・-、C2O4
2-、HCO3
-の状態で作用極103に吸着されている。CO2
・-、C2O4
2-、HCO3
-が作用極103から脱離する際には、CO2吸着材がCO2への再変換を促進する触媒として作用し、低エネルギで作用極103から脱離させることができる。
【0031】
作用極103には、導電助剤およびバインダが設けられていてもよい。導電助剤は、CO2吸着材103bへの導電路を形成する。導電助剤は、例えばカーボンナノチューブ、カーボンブラック、グラフェン等の炭素材料を用いることができる。バインダは、CO2吸着材103bを作用極基材103aに保持させることができ、かつ、導電性を有する材料であればよい。バインダとしては、導電性フィラーとしてAg等を含有するエポキシ樹脂やポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のフッ素樹脂等の導電性樹脂を用いることができる。
【0032】
対極側集電材104は、導電性材料である。対極側集電材104としては、上述した作用極側集電材102と同一の材料を用いることができる。
【0033】
対極極105には、対極側基材105a、対極活物質105bが設けられている。対極基材105aは、対極活物質105bを保持する導電性材料である。対極基材105aとしては、例えばカーボンシートを用いることができる。対極活物質105bは、作用極103との間で電子の授受を行う補助的な電気活性種である。
【0034】
対極活物質105bは、酸化還元反応によって電子の授受を行う活物質である。対極活物質105bとしては、例えば金属イオンの価数が変化することで、電子の授受を可能とする金属錯体を用いることができる。このような金属錯体としては、フェロセン、ニッケロセン、コバルトセン等のシクロペンタジエニル金属錯体、あるいはポルフィリン金属錯体等を挙げることができる。これらの金属錯体は、ポリマーでもモノマーでもよい。本実施形態では、対極活物質105bとして、ポリビニルフェロセンを用いている。フェロセンは、Feの価数が2価と3価に変化することで、電子の授受を行う。
【0035】
対極105には、導電助剤およびバインダが設けられていてもよい。対極105の導電助剤およびバインダcは、上述した作用極103の電助剤およびバインダと同一種類のものを用いることができる。
【0036】
絶縁層106は、作用極103と対極105の間に配置されており、作用極103と対極105を分離している。絶縁層106は、作用極103と対極105の物理的な接触を防いで電気的短絡を抑制するとともに、イオンを透過させる絶縁性イオン透過膜である。
【0037】
絶縁層106としては、セパレータ、あるいは空気等の気体層を用いることができる。本実施形態では、絶縁層106として多孔質体のセパレータを用いている。セパレータの材料は、セルロース膜やポリマー、ポリマーとセラミックの複合材料等からなるセパレータを用いることができる。
【0038】
作用極103と対極105の間には、イオン伝導性を有する電解質107が設けられている。電解質107は、絶縁層106を介して作用極103と対極105との間に設けられている。電解質107は、作用極103、対極105および絶縁層106を覆うように設けられている。
【0039】
本実施形態では、非プロトン性の電解質107を用いている。非プロトン性の電解質107は、プロトン(H+)を供与しない電解質である。このため、プロトン生成のために電解質107に電荷が移動することがなく、CO2吸着時における電流効率の低下を抑制できる。
【0040】
非プロトン性の電解質107としてはイオン液体を用いることができる。イオン液体は、常温常圧下で不揮発性を有する液体の塩である。電解質107としてイオン液体を用いる場合には、電気化学セル101からの溶出を防ぐために、イオン液体をゲル化してもよい。非プロトン性のイオン液体としては、[BMIM][TFSI]、[TMPA][TFSI]、[Pyrro][TFSI]、[BMIM][Tfb]、[EMIM][TFSI]等を用いることができる。
【0041】
本実施形態の非プロトン性イオン液体は、リチウムイオンやナトリウムイオンといった小さいイオンを含んでおらず、イオン液体のカチオンは作用極103と弱いイオンペアを作る。このため、作用極103に吸着されたCO2
・-、C2O4
2-、HCO3
-とイオン液体に含まれるカチオンとの相互作用を小さくすることができ、CO2の脱離電力を小さくすることができ、低エネルギでCO2を脱離することが可能となる。
【0042】
次に、本実施形態の二酸化炭素回収システム10の作動について説明する。
図3に示すように、二酸化炭素回収システム10は、CO
2回収モードとCO
2放出モードを交互に切り替えて作動する。二酸化炭素回収システム10の作動は、制御装置14によって制御される。
【0043】
まず、CO2回収モードについて説明する。CO2回収モードでは、圧縮機11が作動して二酸化炭素回収装置100にCO2含有ガスが供給される。二酸化炭素回収装置100では、作用極103と対極105の間に印加される電圧を第1電圧V1とする。これにより、対極105の電子供与と、作用極103の電子求引を同時に実現できる。
【0044】
対極105の対極活物質105bは電子を放出して酸化状態となり、対極105から作用極103に電子が供給される。作用極103のCO2吸着材103bは、電子を受け取ってCO2を吸着する。本実施形態では、CO2はCO2
・-、C2O4
2-、HCO3
-の少なくともいずれかに変換された状態で作用極103に吸着される。これにより、二酸化炭素回収装置100は、CO2含有ガスからCO2を回収することができる。
【0045】
CO2含有ガスは、二酸化炭素回収装置100でCO2を回収された後、CO2を含まないCO2除去ガスとして二酸化炭素回収装置100から排出される。流路切替弁12は、ガス流路を大気側に切り替えており、二酸化炭素回収装置100から排出されたCO2除去ガスは大気に排出される。
【0046】
次に、CO2放出モードについて説明する。CO2放出モードでは、圧縮機11が作動停止し、CO2回収装置100へのCO2含有ガスの供給が停止する。二酸化炭素回収装置100では、作用極103と対極105の間に印加される電圧を第2の電圧とする。これにより、作用極103のCO2吸着材103bによる電子供与と、対極105の電気活性補助材103bの電子求引を同時に実現できる。
【0047】
CO2吸着材103bは、CO2を脱離して放出する。CO2吸着材103bに吸着されていたCO2
・-、C2O4
2-、HCO3
-は、CO2に変換された状態で脱離する。
【0048】
CO2吸着材103bから放出されたCO2は、CO2回収装置100から排出される。流路切替弁12は、ガス流路をCO2利用装置13側に切り替えており、CO2回収装置100から排出されたCO2はCO2利用装置13に供給される。
【0049】
以上説明した本実施形態では、作用極103のCO2吸着材103bとしてMX2-a、MX2Y1-b、MX2-aY1-b、M2CおよびM2C1-dの少なくともいずれかを用いている。このため、CO2回収モードにおいて、CO2含有ガスに含まれるCO2がCO2
・-、C2O4
2-、HCO3
-の少なくともいずれかに変換された状態で作用極103に吸着される。CO2
・-、C2O4
2-、HCO3
-が作用極103から脱離する際に、CO2吸着材がCO2への再変換を促進する触媒として作用し、CO2脱離に必要な電気エネルギを低減することができ、低エネルギでCO2を脱離することが可能となる。
【0050】
また、本実施形態では、電解質107として非プロトン性イオン液体を用いている。非プロトン性イオン液体は、リチウムイオンやナトリウムイオンといった小さいイオンを含んでいないため、作用極103に吸着されたCO2
・-、C2O4
2-、HCO3
-とイオン液体に含まれるカチオンとの相互作用を小さくすることができる。これにより、CO2の脱離電力を小さくすることができ、低エネルギでCO2を脱離することが可能となる。
【実施例0051】
次に、本発明の第1実施例、第2実施例、第3実施例について説明する。第1実施例は第1、第2比較例と共に説明し、第2実施例は第3、第4比較例と共に説明する。
図8は、第1~第3実施例と第1~第4比較例の脱離電位(脱離エネルギ)を示している。
図9は、第1~第3実施例と第1~第4比較例のCO
2脱離効率を示している。
【0052】
(第1実施例)
本発明の第1実施例について説明する。第1実施例の電気化学セル101では、CO2吸着材103bとしてReS1.64N0.27を用い、電解質107として[BMIM][TFSI]を用いている。第1比較例の電気化学セル101では、CO2吸着材103bにReS2を用い、電解質107として[BMIM][TFSI]を用いている。第2比較例の電気化学セル101では、CO2吸着材103bにカーボンブラックを用い、電解質107として[BMIM][TFSI]を用いている。
【0053】
第1実施例の作用極103の製造方法について説明する。第1実施例でCO2吸着材103bとして用いるReS1.64N0.27は、Re元素と結合しているS元素の欠陥と、N元素によるS元素の置換を含んだ遷移金属ダイカルコゲナイドである。
【0054】
まず、カーボンシート(東レ株式会社のH-060)をるつぼに入れて、大気中700℃で10分間加熱した。カーボンシートは、作用極基材103aとして用いられる。
【0055】
次に、過レニウム酸アンモニウムNH4ReO4(171mg)と、チオアセトアミドCH3CSNH2(336mg)と、尿素CO(NH2)2(518mg)を水に分散し、30分攪拌して分散液を生成した。
【0056】
次に、上記分散液とカーボンシートを密閉容器に入れて、200℃で20時間加熱した後、密閉容器からカーボンシートを取出し、水で洗浄した。これにより、カーボンシートの表面にReS1.64N0.27を生成することができ、第1実施例の作用極103を製造することができた。
【0057】
次に、第1比較例の作用極103の製造方法について説明する。第1比較例でCO2吸着材103bとして用いるReS2は、Re元素と結合しているS元素の欠陥と、N元素によるS元素の置換を含んでいない遷移金属ダイカルコゲナイドである。
【0058】
まず、カーボンシート(東レ株式会社のH-060)をるつぼに入れ、大気中700℃で10分間加熱した。
【0059】
次に、過レニウム酸ナトリウムNaReO4(174mg)と、硫化ナトリウム九水和物Na2S・9H2O(1076mg)を水に分散し、30分間攪拌して分散液を生成した。
【0060】
次に、上記分散液とカーボンシートを密閉容器に入れて、200℃で20時間加熱した後、密閉容器からカーボンシートを取出し、水で洗浄した。これにより、カーボンシートの表面にReS2を生成することができ、第1比較例の作用極103を製造することができた。
【0061】
図4は、上述の製造方法で製造したReS
1.64N
0.27のSEM画像である。上述の製造方法で製造したReS
2も、ReS
1.64N
0.27と同様の外観を示した。
図4の各SEM画像はそれぞれ分解能が異なっており、左側画像は100μm、中央画像は1μm、右側画像は100nmとなっている。
【0062】
図4の左側画像および中央画像に示すように、繊維状のカーボンシートの表面にReS
2が形成されている。ReS
2は、カーボンシートの表面に製膜された状態となっている。
図4の右側画像に示すように、ReS
2自体はフレーク状(花びら状)に形成されている。
【0063】
次に、上述した製造方法による生成物を解析した結果について説明する。
【0064】
図5は、上述した製造方法による生成物をラマン分光法で測定して得られたラマンスペクトルを示している。
図6は、上述した製造方法による生成物を生成物をX線回折法(XRD)で測定して得られたXRDスペクトルを示している。
図6では、カーボンのXRDスペクトルも示している。
図5に示すラマンスペクトルおよび
図6のXRDスペクトルでは、ReS
1.64N
0.27およびReS
2の特徴を示すスペクトルが得られた。
【0065】
図7は、上述した製造方法による生成物に対し、エネルギー分散型X線分光法(SEM-EDX)による組成比解析を行った結果を示している。SEM-EDXによる解析は、5点平均で行った。
図7に示すように、SEM-EDXによる解析の結果、上述した製造方法による生成物に含まれるRe、S、Nは、ReS
1.64N
0.27およびReS
2に対応する組成比が得られた。
【0066】
以上の分析結果から、上述した製造方法によってReS1.64N0.27およびReS2が生成されていることが確認できた。
【0067】
次に、第2比較例の作用極103の製造方法について説明する。第2比較例の電気化学セル101では、カーボンシート(東レ株式会社のH-060)にカーボンブラック(DENKA BLACK Li Li400)を担持させることで、作用極103を得ることができる。
【0068】
次に、第1実施例、第1、第2比較例の対極105の製造方法について説明する。
【0069】
まず、ポリビニルフェロセン(Nard社)の粉末30mgをN-メチル-2-ピロリドンに分散し、ホモジナイザーによる攪拌を20分間行った。ポリビニルフェロセンは対極活物質105bとして用いられる。
【0070】
続いて、上記分散系に多層CNTを30mg加えて、ホモジナイザーによる攪拌を30分間行った後、分散液をカーボンシート(東レ株式会社のH-060)に塗布して乾燥させた。カーボンシートは対極基材105aとして用いられ、多層CNTは作用極103の導電助剤として用いられる。これにより、対極活物質105bとしてポリビニルフェロセンを用いた対極105を得ることができた。
【0071】
第1実施例、第1、第2比較例の電気化学セル101では、作用極側集電材102および対極側集電材104としてSUSメッシュ材を用い、絶縁層106としてWhatman社製のセパレータを用いた。
【0072】
上記工程で得た作用極103、対極105と、絶縁層106を電解質107として用いられる[BMIM][TFSI]に浸し、作用極側集電材102、作用極103、絶縁層106、対極105、対極集電材104の順に積層した。これにより、第1実施例、第1、第2比較例の電気化学セル101を得ることができた。
【0073】
次に、第1実施例、第1、第2比較例の電気化学セル101でCO2吸脱着を行った場合の吸着開始電位および脱離開始電位と、脱離効率を測定した結果について説明する。
【0074】
吸着開始電位および脱離開始電位と、脱離効率の測定は、以下の手順で行った。測定対象の電気化学セルを筐体に入れ、O2/N2の混合気体を用いて筐体内をパージした後、CO2/O2の混合気体を導入し、CO2濃度を1200±200ppmに調整した。その後、筐体を密閉状態にして、電気化学測定を行った。
【0075】
電気化学測定には、ソーラトロン社製の電気化学測定装置1255WBを用いた。CO2吸着開始電位およびCO2脱離開始電位は、サイクリックボルタンメトリによって電位掃引して測定した。サイクリックボルタンメトリ測定では、電位範囲を-1.6V~1.0Vとして1mV/sで電位掃引した。CO2脱離効率は、電気化学セルに定電圧を印加してCO2の吸脱着を行った。
【0076】
CO2センサで筐体内のCO2量を測定することで、電気化学セルによるCO2回収量の測定を行った。本明細書では、電気化学セルを収容した筐体内のCO2量を「筐体内CO2量」としている。
【0077】
筐体内において、電気化学セルによるCO2吸着が行われると、筐体内CO2量が減少し、電気化学セルによるCO2脱離が行われると、筐体内CO2量が増加する。このため、筐体内CO2量の減少量は電気化学セルのCO2吸着量に対応し、筐体内CO2量の増加量は電気化学セルのCO2脱離量に対応している。
【0078】
CO2回収量は、電気化学セルで吸着されたCO2量である。筐体内CO2量の減少量はCO2回収量の増加量に対応し、筐体内CO2量の減少量はCO2回収量の増加量に対応している。
【0079】
図10、
図11は、第1実施例、第1、第2比較例の電気化学セル101に対し、サイクリックボルタンメトリ測定で電位掃引を行った場合の電流(mA)および筐体内CO
2量(μmol)の変化を示している。
図10、
図11において、上段は電位掃引した場合の電流変化を示すCV曲線であり、下段は電位掃引した場合の筐体内CO
2量の変化、つまり電気化学セルのCO
2吸着量の変化を示している。筐体内CO
2量の変化は、電気化学セルによるCO
2回収量の変化であり、電気化学セルのCO
2吸着量の変化またはCO
2脱離量の変化を意味している。
【0080】
図10は、電位を負方向に掃引した場合の電流と、筐体内CO
2量の変化、つまりCO
2回収量の変化を示しており、電位は図中の右から左に向かって変化する。
図10において、電流値が大きく変化する点に対応する電位が吸着開始電位である。
【0081】
図11は、電位を正方向に掃引した場合の電流と、筐体内CO
2量の変化、つまりCO
2回収量の変化を示しており、電位は図中の左から右に向かって変化する。
図11において、電流値が大きく変化する点に対応する電位が脱離開始電位である。
【0082】
図8、
図10に示すように、吸着開始電位は、第1実施例が-1.16Vであり、第1比較例が-1.12Vであり、第2比較例が-1.06Vであった。また、
図8、
図11に示すように、脱離開始電位は、第1実施例が-0.748Vであり、第1比較例が-0.622Vであり、第2比較例が-0.070Vであった。
【0083】
図8に示す脱離電圧は、吸着開始電位と脱離開始電位の電位差である。脱離電圧は、CO
2の脱離に必要な電気エネルギ(脱離エネルギ)である。
図8に示すように、脱離電圧は、第1実施例が0.41Vであり、第1比較例が0.50Vであり、第2比較例が0.99Vであった。第1実施例および第1比較例は、第2比較例に対して、低電圧でCO
2脱離が開始した。特に第1実施例は、低電圧でCO
2脱離を行うことができた。
【0084】
次に、第1実施例、第1、第2比較例の電気化学セル101のCO
2脱離効率を測定した結果について説明する。
図12は、第1実施例、第1、第2比較例の電気化学セル101に対し、一定の吸着電圧でCO
2吸着を行った後、一定の脱離電圧でCO
2脱離を行った場合の筐体内CO
2量を示している。吸着電圧は-1.5Vとし、脱離電圧は-0.3Vとし、吸着時間と脱離時間はそれぞれ30分間とした。
【0085】
図12に示すように、一定の吸着電圧(-1.5V)でCO
2吸着を行った場合、第1実施例、第1比較例および第2比較例のすべてで筐体内CO
2量が減少した。つまり、第1実施例、第1比較例および第2比較例のすべてでCO
2吸着が行われたと考えられる。
【0086】
次に、一定の脱離電圧(-0.3V)でCO2脱離を行った場合、第1実施例および第1比較例では筐体内CO2量が顕著に増加したが、第2比較例では筐体内CO2量の増加が緩やかだった。つまり、第1実施例および第1比較例では、吸着したCO2を効率よく脱離でき、筐体内CO2量が顕著に増加したのに対し、第2比較例では、吸着したCO2を充分に脱離できず、筐体内CO2量の増加が緩やかになったと考えられる。
【0087】
ここで、第1実施例、第1比較例および第2比較例のCO
2脱離効率について説明する。CO
2脱離効率(%)は、CO
2脱離量をCO
2吸着量で除した値を百分率で表したものである。
図9に示すように、CO
2脱離効率は、第1実施例が112.3%であり、第1比較例が104.6%であり、第2比較例が45.8%であった。つまり、第1実施例および第1比較例は、第2比較例に対して、高いCO
2脱離効率を得ることができた。特に第1実施例は、高いCO
2脱離効率を得ることができた。
【0088】
次に、第1実施例でCO2吸着およびCO2脱離を行った場合の作用極103に存在するガス種について説明する。CO2吸着時は一定の吸着電圧(-1.5V)を電気化学セル101に印加し、CO2脱離時は一定の脱離電圧(-0.3V)を電気化学セル101に印加した。
【0089】
図13、
図14は、拡散反射赤外分光法(DRIFT法)によって、作用極内の電解液中および電解液とCO
2吸着材の界面のガスを検出した結果を示している。
図13と
図14では、波数の範囲が異なっている。
図13では、破線で挟まれた範囲はCO
2に対応している。
図14では、破線で挟まれた3つの範囲は、左からCO
2
・-、HCO
3
-、C
2O
4
2-のそれぞれに対応している。
【0090】
図13に示すように、一定の吸着電圧(-1.5V)を電気化学セル101に印加した場合に、CO
2に対応する波数におけるスペクトルの強度が減少した。一方、
図14に示すように、一定の吸着電圧(-1.5V)を電気化学セル101に印加した場合に、CO
2
・-、HCO
3
-およびC
2O
4
2-に対応するピークが確認できた。
【0091】
図13、
図14の解析結果から、CO
2吸着時には、CO
2が作用極103で吸着された後、別組成のCO
2
・-、HCO
3
-およびC
2O
4
2-に変換されていると考えられる。つまり、CO
2はCO
2
・-、HCO
3
-およびC
2O
4
2-の少なくともいずれかの状態で作用極103に吸着されていると考えられる。
【0092】
図13に示すように、一定の脱離電圧(-0.3V)を電気化学セル101に印加した場合に、CO
2に対応する波数のスペクトルが増大した。一方、
図14に示すように、一定の脱離電圧(-0.3V)を電気化学セル101に印加した場合に、CO
2
・-、HCO
3
-およびC
2O
4
2-に対応するピークが消失した。
【0093】
図13、
図14の解析結果から、CO
2脱離時には、作用極103に吸着されていたCO
2
・-、HCO
3
-およびC
2O
4
2-がCO
2に変換され、CO
2の状態で作用極103から脱離すると考えられる。
【0094】
(第2実施例)
次に、本発明の第2実施例について説明する。第2実施例、第3、第4比較例は、上述した第1実施例、第1、第2比較例に対し、電解質107として[TMPA][TFSI]を用いている点が異なっている。
【0095】
第2実施例ではCO2吸着材103bに用いられる遷移金属カルコゲナイドとしてReS1.64N0.27を用い、第3比較例ではCO2吸着材にReS2を用い、第4比較例ではCO2吸着材にカーボンブラックを用いた。
【0096】
次に、第2実施例、第3、第4比較例の電気化学セル101でCO2吸脱着を行った場合の吸着開始電位および脱離開始電位と、脱離効率を測定した結果について説明する。吸着開始電位および脱離開始電位と、脱離効率の測定は、上記第1実施例と同様の手順で行った。
【0097】
図15、
図16は、第2実施例、第3、第4比較例の電気化学セル101に対し、サイクリックボルタンメトリ測定で電位掃引を行った場合の電流(mA)および筐体内CO
2量(μmol)の変化を示している。
図15、
図16において、上段は電位掃引した場合の電流変化を示すCV曲線であり、下段は電位掃引した場合の筐体内CO
2量の変化を示している。
図15、
図16は、上記第1実施例で説明した
図10、
図11にそれぞれ対応している。
【0098】
図8、
図15に示すように、吸着開始電位は、第2実施例が-1.14Vであり、第3比較例が-1.17Vであり、第4比較例が-1.12Vであった。また、
図8、
図16に示すように、脱離開始電位は、第2実施例が-0.732Vであり、第2比較例が-0.370Vであり、第4比較例が0.137Vであった。
【0099】
図8に示すように、脱離電圧は、第2実施例が0.41Vであり、第3比較例が0.80Vであり、第4比較例が1.26Vであった。第2実施例は、第3、第4比較例に対して、低電圧でCO
2脱離が開始した。
【0100】
次に、第2実施例、第3、第4比較例の電気化学セル101のCO
2脱離効率を測定した結果について説明する。
図17は、第2実施例、第3、第4比較例の電気化学セル101に対し、一定の吸着電圧でCO
2吸着を行った後、一定の脱離電圧でCO
2脱離を行った場合の筐体内CO
2量を示している。吸着電圧は-1.5Vとし、脱離電圧は-0.5Vとし、吸着時間と脱離時間はそれぞれ30分間とした。
【0101】
図17に示すように、一定の吸着電圧(-1.5V)でCO
2吸着を行った場合、第2実施例、第3比較例および第4比較例のすべてで筐体内CO
2量が減少した。つまり、第2実施例、第3比較例および第4比較例のすべてでCO
2吸着が行われたと考えられる。
【0102】
次に、一定の脱離電圧(-0.5V)でCO2脱離を行った場合、第2実施例では筐体内CO2量が顕著に増加したが、第3、第4比較例では筐体内CO2量の増加が緩やかだった。つまり、第2実施例では、吸着したCO2を効率よく脱離でき、筐体内CO2量が顕著に増加したのに対し、第3、第4比較例では、吸着したCO2を充分に脱離できず、筐体内CO2量の増加が緩やかになったと考えられる。
【0103】
図9に示すように、CO
2脱離効率は、第2実施例が98.1%であり、第3比較例が18.7%であり、第4比較例が5.7%であった。第2実施例は、第3、第4比較例に対して、高いCO
2脱離効率を得ることができた。
【0104】
(第3実施例)
次に、本発明の第3実施例について説明する。第3実施例では、CO2吸着材103bに用いられる遷移金属炭化物としてMo2Cを用いている。電解質107は、上記第2実施例と同様、[TMPA][TFSI]を用いている。
【0105】
第3実施例の作用極103の製造方法について説明する。
【0106】
まず、多層CNT粉末(1g)とMoO3(3.43g)をセラミックボールと混合し、ボールミルを用いて3600rpmで36時間攪拌した。カーボンナノチューブは、作用極103の導電助剤として機能する。
【0107】
次に、Ar雰囲気において150℃で1時間加熱し、CNT粉末にMo2C粒子が担持されたMo2C-CNT粉末を得た。ボールミルからMo2C-CNT粉末を取出し、水で洗浄した。
【0108】
次に、Mo2C-CNT粉末20mgとPTFEを分散したエタノール溶液5μLをエタノール10mLに入れ、超音波分散を30分間行った。続いて、Mo2C-CNT分散液をカーボンシート(東レ株式会社のH-060)にスプレー塗布して、乾燥させた。これにより、カーボンシートの表面にMo2Cを生成することができ、第3実施例の作用極103を製造することができた。
【0109】
次に、第3実施例の電気化学セル101でCO2吸脱着を行った場合の吸着開始電位および脱離開始電位と、脱離効率を測定した結果について説明する。吸着開始電位および脱離開始電位と、脱離効率の測定は、上記第1実施例と同様の手順で行った。
【0110】
図18、
図19は、第3実施例の電気化学セル101に対し、サイクリックボルタンメトリ測定で電位掃引を行った場合の電流(mA)および筐体内CO
2量(μmol)の変化を示している。
図18、
図19において、上段は電位掃引した場合の電流変化を示すCV曲線であり、下段は電位掃引した場合の筐体内CO
2量の変化を示している。
図18、
図19は、上記第1実施例で説明した
図10、
図11にそれぞれ対応している。
【0111】
図8、
図18に示すように、第3実施例の吸着開始電位は-1.20Vであった。また、
図8、
図13に示すように、第3実施例の脱離開始電位は-0.545Vであった。
図8に示すように、第3実施例の脱離電圧は0.66Vであった。第3実施例は、第3、第4比較例に対して、低電圧でCO
2脱離が開始した。
【0112】
次に、第3実施例の電気化学セル101のCO
2脱離効率を測定した結果について説明する。
図20は、第3実施例の電気化学セル101に対し、一定の吸着電圧でCO
2吸着を行った後、一定の脱離電圧でCO
2脱離を行った場合の筐体内CO
2量を示している。吸着電圧は-1.5Vとし、脱離電圧は-0.5Vとし、吸着時間と脱離時間はそれぞれ30分間とした。
【0113】
図20に示すように、一定の吸着電圧(-1.5V)でCO
2吸着を行った場合、第3実施例では筐体内CO
2量が減少した。つまり、第3実施例ではCO
2吸着が行われたと考えられる。
【0114】
次に、一定の脱離電圧(-0.5V)でCO
2脱離を行った場合、第3実施例では筐体内CO
2量が顕著に増加した。つまり、第3実施例では、吸着したCO
2を効率よく脱離でき、筐体内CO
2量が顕著に増加したと考えられる。
図9に示すように、第3実施例のCO
2脱離効率は50.4%であった。第3実施例は、第3、第4比較例に対して、高いCO
2脱離効率を得ることができた。
【0115】
(他の実施形態)
本発明は上述の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、以下のように種々変形可能である。また、上記実施形態に開示された手段は、実施可能な範囲で適宜組み合わせてもよい。
【0116】
本明細書に開示された電気化学セルの特徴を以下の通り示す。
(項目1)
電気化学反応によってCO2含有ガスからCO2を分離する電気化学セルであって、
CO2吸着材(103b)を含む作用極(103)と、対極(105)と、前記作用極および前記対極を覆う電解質(107)とを備え、
前記作用極と前記対極との間に第1電圧が印加されることで、前記対極から前記作用極に電子が供給され、前記作用極は前記CO2含有ガスに含まれるCO2を吸着し、前記作用極と前記対極との間に第2電圧が印加されることで、前記作用極から前記対極に電子が供給され、前記作用極からCO2が脱離され、
前記CO2吸着材は、MX2-a、MX2Y1-b、MX2-aY1-b、M2CおよびM2C1-dの少なくともいずれかである電気化学セル。
【0117】
ただし、Mは遷移金属であり、XはS、SeおよびTeのいずれかであり、aは0<a<2の範囲内であり、bは0<b<1の範囲内であり、dは0<d<1の範囲内である。
(項目2)
前記CO2吸着材がMX2-a、MX2Y1-bおよびMX2-aY1-bの少なくともいずれかである場合、前記MはRe、Mo、Ti、Zr、Hf、V、Nb、TaおよびWのいずれかである項目1に記載の電気化学セル。
(項目3)
前記CO2吸着材は、ReS2-a、ReS2N1-bおよびReS2-aN1-bの少なくともいずれかである項目2に記載の電気化学セル。
(項目4)
前記CO2吸着材がM2CおよびM2C1-dの少なくともいずれかである場合、前記MはMo、Ti、W、Nb、VおよびZrのいずれかである項目1に記載の電気化学セル。
(項目5)
前記CO2吸着材は、Mo2Cである項目4に記載の電気化学セル。
(項目6)
前記電解質は、イオン液体である項目1ないし5のいずれか1つに記載の電気化学セル。
(項目7)
前記イオン液体は、非プロトン性である項目6に記載の電気化学セル。
(項目8)
前記CO2含有ガスに含まれるCO2は、CO2
・-、HCO3
-およびC2O4
2-の少なくともいずれかの状態で前記作用極に吸着される項目1ないし7のいずれか1つに記載の電気化学セル。