(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024164479
(43)【公開日】2024-11-27
(54)【発明の名称】食品用品質改良剤、食品、および食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 29/00 20160101AFI20241120BHJP
A21D 2/18 20060101ALI20241120BHJP
A21D 2/36 20060101ALI20241120BHJP
A23L 7/109 20160101ALI20241120BHJP
【FI】
A23L29/00
A21D2/18
A21D2/36
A23L7/109 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023079979
(22)【出願日】2023-05-15
(71)【出願人】
【識別番号】300068030
【氏名又は名称】株式会社キミカ
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】笠原 文善
(72)【発明者】
【氏名】宮島 千尋
(72)【発明者】
【氏名】並木 友亮
(72)【発明者】
【氏名】湯本 彩香
(72)【発明者】
【氏名】森 結花
【テーマコード(参考)】
4B032
4B035
4B046
【Fターム(参考)】
4B032DB02
4B032DG02
4B032DK03
4B032DK12
4B032DK14
4B032DK15
4B032DK18
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4B032DL20
4B032DP08
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4B032DP40
4B035LC03
4B035LG21
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4B046LA01
4B046LC01
4B046LG15
4B046LG16
4B046LG34
(57)【要約】
【課題】良好な食感が得られ、小麦粉含有食品における小麦粉の使用量を低減することができる食品用品質改良剤、その食品用品質改良剤を用いた食品、食品の製造方法を提供する。
【解決手段】アルギン酸類と、キャッサバ粉および加工デンプンのうち少なくとも1つと、を含む、食品用品質改良剤、その食品用品質改良剤を用いた食品、および食品の製造方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルギン酸カルシウムと、アルギン酸エステルと、キャッサバ粉と、加工デンプンと、を含むことを特徴とする食品用品質改良剤。
【請求項2】
請求項1に記載の食品用品質改良剤であって、
前記加工デンプンが、アセチル化アジピン酸架橋デンプン、アセチル化リン酸架橋デンプン、アセチル化酸化デンプン、オクテニルコハク酸デンプンナトリウム、酢酸デンプン、酸化デンプン、ヒドロキシプロピルデンプン、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプン、リン酸モノエステル化リン酸架橋デンプン、リン酸化デンプン、および、リン酸架橋デンプンのうちの少なくとも1つであることを特徴とする食品用品質改良剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載の食品用品質改良剤であって、
前記食品用品質改良剤中の、前記アルギン酸カルシウムの配合割合が、0.01~99質量%の範囲であり、前記アルギン酸エステルの配合割合が、0.01~99質量%の範囲であり、前記キャッサバ粉の配合割合が、1~99質量%の範囲であり、前記加工デンプンの配合割合が、0.1~99質量%の範囲であることを特徴とする食品用品質改良剤。
【請求項4】
アルギン酸カルシウムと、アルギン酸エステルと、キャッサバ粉と、加工デンプンと、を含むことを特徴とする食品。
【請求項5】
請求項4に記載の食品であって、
さらに小麦粉を含むことを特徴とする食品。
【請求項6】
請求項5に記載の食品であって、
前記食品に含まれる前記アルギン酸カルシウム、前記アルギン酸エステル、前記キャッサバ粉、および前記加工デンプンの合計量:小麦粉の量が、0.1:99.9~99:1の範囲であることを特徴とする食品。
【請求項7】
請求項4または5に記載の食品であって、
前記加工デンプンが、アセチル化アジピン酸架橋デンプン、アセチル化リン酸架橋デンプン、アセチル化酸化デンプン、オクテニルコハク酸デンプンナトリウム、酢酸デンプン、酸化デンプン、ヒドロキシプロピルデンプン、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプン、リン酸モノエステル化リン酸架橋デンプン、リン酸化デンプン、および、リン酸架橋デンプンのうちの少なくとも1つであることを特徴とする食品。
【請求項8】
請求項4または5に記載の食品であって、
前記食品に含まれる前記アルギン酸カルシウム、前記アルギン酸エステル、前記キャッサバ粉、および前記加工デンプンの合計量に対する、前記アルギン酸カルシウムの配合割合が、0.01~99質量%の範囲であり、前記アルギン酸エステルの配合割合が、0.01~99質量%の範囲であり、前記キャッサバ粉の配合割合が、1~99質量%の範囲であり、前記加工デンプンの配合割合が、0.1~99質量%の範囲であることを特徴とする食品。
【請求項9】
請求項4または5に記載の食品であって、
前記食品が、パン製品または麺製品であることを特徴とする食品。
【請求項10】
アルギン酸カルシウムと、アルギン酸エステルと、キャッサバ粉と、加工デンプンと、を用いることを特徴とする食品の製造方法。
【請求項11】
請求項10に記載の食品の製造方法であって、
さらに小麦粉を用いることを特徴とする食品の製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載の食品の製造方法であって、
前記食品に含まれる前記アルギン酸カルシウム、前記アルギン酸エステル、前記キャッサバ粉、および前記加工デンプンの合計量:小麦粉の量が、0.1:99.9~99:1の範囲であることを特徴とする食品の製造方法。
【請求項13】
請求項10または11に記載の食品の製造方法であって、
前記加工デンプンが、アセチル化アジピン酸架橋デンプン、アセチル化リン酸架橋デンプン、アセチル化酸化デンプン、オクテニルコハク酸デンプンナトリウム、酢酸デンプン、酸化デンプン、ヒドロキシプロピルデンプン、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプン、リン酸モノエステル化リン酸架橋デンプン、リン酸化デンプン、および、リン酸架橋デンプンのうちの少なくとも1つであることを特徴とする食品の製造方法。
【請求項14】
請求項10または11に記載の食品の製造方法であって、
前記食品に含まれる前記アルギン酸カルシウム、前記アルギン酸エステル、前記キャッサバ粉、および前記加工デンプンの合計量に対する、前記アルギン酸カルシウムの配合割合が、0.01~99質量%の範囲であり、前記アルギン酸エステルの配合割合が、0.01~99質量%の範囲であり、前記キャッサバ粉の配合割合が、1~99質量%の範囲であり、前記加工デンプンの配合割合が、0.1~99質量%の範囲であることを特徴とする食品の製造方法。
【請求項15】
請求項10または11に記載の食品の製造方法であって、
前記食品が、パン製品または麺製品であることを特徴とする食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品用品質改良剤、その食品用品質改良剤を用いた食品、および、食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パン製品や麺製品などの小麦粉含有食品に用いられる小麦粉は、海外情勢、気候変動、人口増加などの、短期的、中長期的影響により価格の高騰、生産や供給の不足が懸念されている。そのため、小麦粉使用食品における小麦粉の代替や小麦粉の使用量の低減が検討されている。
【0003】
例えば、非特許文献1では、小麦粉の一部をキャッサバ粉で置き換えたパンの評価が行われ、置き換えるキャッサバ粉の量が多いほどテクスチャー(食感)を含む品質パラメータが低下することが報告されている。
【0004】
非特許文献2では、小麦粉の一部をキャッサバ粉で置き換えた場合、製パン性が低下することが報告されている。
【0005】
さらに、非特許文献3では、高メチル化ペクチンを利用したキャッサバ粉を含むパンの品質改良方法が報告されている。
【0006】
したがって、良好な食感が得られ、作業性を損なわず加工適性に優れ、小麦粉の使用量を低減することができる食品用品質改良剤が求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】A. M. Almazan, "Effect of Cassava Flour Variety and Concentration on Bread Loaf Quality", Cereal Chemistry, vol. 67, pp. 97-99, 1990.
【非特許文献2】I. Defloor, M. Nys, and J. A. Delcour, "Wheat Starch, Cassava Starch, and Cassava Flour Impairment of the Breadmaking Potential of Wheat Flour", Cereal Chemistry, vol. 70, pp. 526-530, 1993.
【非特許文献3】Maria Eduardo, Ulf Svanberg, Jorge Oliveira, Lilia Ahrne, "Effect of Cassava Flour Characteristics on Properties of Cassava-Wheat-Maize Composite Bread Types", International Journal of Food Science, vol. 2013, Article ID 305407, 10 pages, 2013.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、良好な食感が得られ、小麦粉含有食品における小麦粉の使用量を低減することができる食品用品質改良剤、その食品用品質改良剤を用いた食品、食品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、アルギン酸カルシウムと、アルギン酸エステルと、キャッサバ粉と、加工デンプンと、を含む、食品用品質改良剤である。
【0010】
前記食品用品質改良剤において、前記加工デンプンが、アセチル化アジピン酸架橋デンプン、アセチル化リン酸架橋デンプン、アセチル化酸化デンプン、オクテニルコハク酸デンプンナトリウム、酢酸デンプン、酸化デンプン、ヒドロキシプロピルデンプン、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプン、リン酸モノエステル化リン酸架橋デンプン、リン酸化デンプン、および、リン酸架橋デンプンのうちの少なくとも1つであることが好ましい。
【0011】
前記食品用品質改良剤中の、前記アルギン酸カルシウムの配合割合が、0.01~99質量%の範囲であり、前記アルギン酸エステルの配合割合が、0.01~99質量%の範囲であり、前記キャッサバ粉の配合割合が、1~99質量%の範囲であり、前記加工デンプンの配合割合が、0.1~99質量%の範囲であることが好ましい。
【0012】
本発明は、アルギン酸カルシウムと、アルギン酸エステルと、キャッサバ粉と、加工デンプンと、を含む、食品である。
【0013】
前記食品において、さらに小麦粉を含むことが好ましい。
【0014】
前記食品に含まれる前記アルギン酸カルシウム、前記アルギン酸エステル、前記キャッサバ粉、および前記加工デンプンの合計量:小麦粉の量が、0.1:99.9~99:1の範囲であることが好ましい。
【0015】
前記食品において、前記加工デンプンが、アセチル化アジピン酸架橋デンプン、アセチル化リン酸架橋デンプン、アセチル化酸化デンプン、オクテニルコハク酸デンプンナトリウム、酢酸デンプン、酸化デンプン、ヒドロキシプロピルデンプン、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプン、リン酸モノエステル化リン酸架橋デンプン、リン酸化デンプン、および、リン酸架橋デンプンのうちの少なくとも1つであることが好ましい。
【0016】
前記食品に含まれる前記アルギン酸カルシウム、前記アルギン酸エステル、前記キャッサバ粉、および前記加工デンプンの合計量に対する、前記アルギン酸カルシウムの配合割合が、0.01~99質量%の範囲であり、前記アルギン酸エステルの配合割合が、0.01~99質量%の範囲であり、前記キャッサバ粉の配合割合が、1~99質量%の範囲であり、前記加工デンプンの配合割合が、0.1~99質量%の範囲であることが好ましい。
【0017】
前記食品が、パン製品または麺製品であることが好ましい。
【0018】
本発明は、アルギン酸カルシウムと、アルギン酸エステルと、キャッサバ粉と、加工デンプンと、を用いる、食品の製造方法である。
【0019】
前記食品の製造方法において、さらに小麦粉を用いることが好ましい。
【0020】
前記食品の製造方法において、前記食品に含まれる前記アルギン酸カルシウム、前記アルギン酸エステル、前記キャッサバ粉、および前記加工デンプンの合計量:小麦粉の量が、0.1:99.9~99:1の範囲であることが好ましい。
【0021】
前記食品の製造方法において、前記加工デンプンが、アセチル化アジピン酸架橋デンプン、アセチル化リン酸架橋デンプン、アセチル化酸化デンプン、オクテニルコハク酸デンプンナトリウム、酢酸デンプン、酸化デンプン、ヒドロキシプロピルデンプン、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプン、リン酸モノエステル化リン酸架橋デンプン、リン酸化デンプン、および、リン酸架橋デンプンのうちの少なくとも1つであることが好ましい。
【0022】
前記食品の製造方法において、前記食品に含まれる前記アルギン酸カルシウム、前記アルギン酸エステル、前記キャッサバ粉、および前記加工デンプンの合計量に対する、前記アルギン酸カルシウムの配合割合が、0.01~99質量%の範囲であり、前記アルギン酸エステルの配合割合が、0.01~99質量%の範囲であり、前記キャッサバ粉の配合割合が、1~99質量%の範囲であり、前記加工デンプンの配合割合が、0.1~99質量%の範囲であることが好ましい。
【0023】
前記食品の製造方法において、前記食品が、パン製品または麺製品であることが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によって、良好な食感を有し、小麦粉含有食品における小麦粉の使用量を低減することができる食品用品質改良剤、その食品用品質改良剤を用いた食品、食品の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】比較例1および実施例1における、パンに加えることのできる水の量を示すグラフである。
【
図2】比較例1および実施例1で得られたパンの凝集性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の実施の形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0027】
<食品用品質改良剤>
本実施形態に係る食品用品質改良剤は、アルギン酸カルシウムと、アルギン酸エステルと、キャッサバ粉と、加工デンプンと、を含む。
【0028】
本発明者らが検討したところ、アルギン酸カルシウムとアルギン酸エステルとキャッサバ粉と加工デンプンとを組み合わせて小麦粉含有食品などの食品に添加することによって、良好な食感が得られ、小麦粉の使用量を低減することができることを見出した。この食品用品質改良剤でパンや麺などの食品を製造する際に使用する小麦粉の一部または全部を置き換えることができるため、小麦粉の使用量を低減または代替することができる。また、この食品用品質改良剤は、単なる小麦粉の低減または代替に留まるものではなく、アルギン酸類の効果によって小麦粉以上の食感を付与することができる。これにより、小麦粉の生産や供給の不足の回避に寄与することができる。
【0029】
また、アルギン酸カルシウムとアルギン酸エステルとキャッサバ粉と加工デンプンとを組み合わせた食品用品質改良剤により小麦粉含有食品において小麦粉の一部を置き換えた場合でも小麦粉と同様の物性を示すことできる。アルギン酸カルシウムとアルギン酸エステルとキャッサバ粉と加工デンプンとを組み合わせた食品用品質改良剤により小麦粉含有食品において小麦粉の一部を置き換えた場合、小麦粉のみで製造する場合と比べて、水分を多く加えることができる。アルギン酸カルシウムとアルギン酸エステルとキャッサバ粉と加工デンプンとを組み合わせた食品用品質改良剤により小麦粉含有食品において小麦粉の一部を置き換えた場合、小麦粉のみで製造する場合と比べて、より強い弾力性を与えることができる。アルギン酸カルシウムとアルギン酸エステルとキャッサバ粉と加工デンプンとを組み合わせた食品用品質改良剤により小麦粉含有食品において小麦粉の一部を置き換えた場合、小麦粉のみで製造する場合と比べて、生地などのベタつきを抑制することができ、加工適性が向上する。
【0030】
アルギン酸は、コンブ、ワカメなどの褐藻類などに含まれる天然の食物繊維である。アルギン酸類は、古くから増粘剤や安定剤として食品添加物として利用されている。このような用途に利用されるアルギン酸類は、アルギン酸が遊離酸、ナトリウム塩またはエステル化された誘導体などの構造となっている。アルギン酸類は、JECFA(Joint FAO/WHO Expert Committee on Food Additives:FAO/WHO合同食品添加物専門家会議)においてグループADI(Acceptable Daily Intake:1日許容摂取量)を「not specified(1日許容摂取量を特定しない)」とされており(Thirty-ninth Report of the JECFA, Alginic acid and Its Ammonium, Calcium, Potassium and Sodium Salts, WHO Food Additives Series 30, WHO, Geneva1993.)、きわめて安全な食品添加物として認知されている。アルギン酸カルシウムは、日本国内においては平成18年に食品添加物として追加指定されている(平成18年厚生労働省令第195号、平成18年厚生労働省告示第662号)。
【0031】
アルギン酸は、生分解性の高分子多糖類であって、D-マンヌロン酸(M)とL-グルロン酸(G)という2種類のウロン酸が直鎖状に重合したポリマーである。より具体的には、D-マンヌロン酸のホモポリマー画分(MM画分)、L-グルロン酸のホモポリマー画分(GG画分)、およびD-マンヌロン酸とL-グルロン酸がランダムに配列した画分(MG画分)が任意に結合したブロック共重合体である。アルギン酸のD-マンヌロン酸とL-グルロン酸の構成比(M/G比)は、主に海藻などの由来となる生物の種類によって異なる。本実施形態において用いるアルギン酸類のM/G比は、特に制限はない。
【0032】
アルギン酸カルシウムは、アルギン酸のカルボキシル基にカルシウムイオンが結合した形の塩であり、水に対して不溶な塩である。アルギン酸カルシウムは、水にほとんど溶解せず、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウムなどの他のアルギン酸塩において顕著な物性である「粘性」はほとんど発現しない。このため、アルギン酸カルシウムは、食品添加物としての利用は可能であるとは考えられていたものの、食品への利用例は皆無であった。本発明者らの鋭意研究の結果、驚くべきことに、アルギン酸カルシウムを小麦粉含有食品などの食品の製造工程においてアルギン酸エステルとキャッサバ粉と加工デンプンと組み合わせて生地などに添加することによって、良好な食感を付与することができ、小麦粉の使用量を低減することができることが見出された。また、通常(例えば、穀粉100質量部に対して、水を50質量部以上70質量部未満)を上回る量の水を加えることが可能となることも見出された。また、小麦粉のみで製造する場合と比べて、より強い弾力性を与えることも見出された。さらに、アルギン酸カルシウムをアルギン酸エステルとキャッサバ粉と加工デンプンと組み合わせて添加した生地は、ほとんどべたつかないため、機械耐性に優れ、一般的な小麦粉含有食品の工程において使用される製造機器での扱いが良好であることも見出された。
【0033】
アルギン酸カルシウムは低分子であろうが高分子であろうが水に不溶の塩であるため、水に入れても粘性をほとんど示さない。本実施形態において用いるアルギン酸カルシウムをイオン交換反応でアルギン酸ナトリウムにした際の粘度は特に制限はないが、10%水溶液粘度が60mPa・s以上のものを用いることができる。さらに好ましくは10%水溶液粘度が1000mPa・s以上、より好ましくは1%水溶液粘度が100mPa・s以上のものを用いることができる。
【0034】
アルギン酸エステルは、アルギン酸のエステル化物であり、下記のような構造を有するアルギン酸類である。なお、ここではアルギン酸エステルの一例として、アルギン酸プロピレングリコールエステルの構造を示す。アルギン酸エステルは、アルギン酸を構成するウロン酸のカルボキシル基にプロピレングリコール等のアルコールがエステル結合したものであるが、全てのカルボキシル基がエステル化されていなくてもよく、未反応の遊離酸の部分や、ナトリウム塩、カルシウム塩の部分が残っていてもよい。エステル化されたカルボキシル基の比率(エステル化度)は必ずしも100に近い方が良いわけではなく、むしろアルギン酸塩として存在する部分がアルギン酸エステルの粘度や流動性などに様々な特長を与える要因となっている。
【0035】
【0036】
アルギン酸エステルとしては、アルギン酸と種々のアルコールとのエステルが挙げられ、それぞれに同様の効果が期待されるが、食品添加物の指定を受けているアルギン酸プロピレングリコールエステルが好ましい。
【0037】
アルギン酸エステルのエステル化度は、40~100%の範囲であることが好ましく、60~100%の範囲であることがより好ましい。アルギン酸エステルのエステル化度が40%未満であると、食品添加物公定書の規格外となり、60%未満であると、最終食品の膨らみや弾力性などのテクスチャーに影響を及ぼす場合がある。
【0038】
アルギン酸エステルの1重量%水溶液の20℃における粘度は、1~1000mPa・sの範囲であることが好ましく、5~500mPa・sの範囲であることがより好ましい。アルギン酸エステルの上記粘度が1mPa・s未満であると、品質改良効果が得られない場合があり、1000mPa・sを超えると、生地物性に影響を及ぼす可能性がある場合がある。
【0039】
アルギン酸エステルの市販品としては、アルギン酸プロピレングリコールエステルである「キミロイドHV」(エステル化度:75%以上、1重量%水溶液の20℃における粘度:150~250mPa・s、株式会社キミカ)、「キミロイドLV」(エステル化度:75%以上、1重量%水溶液の20℃における粘度:60~100mPa・s、株式会社キミカ)などを用いることができる。
【0040】
アルギン酸カルシウム、アルギン酸エステルの他に、アルギン酸類として、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸アンモニウムなどのうち、1種単独または2種以上を組み合わせて併用してもよい。
【0041】
キャッサバ粉は、キャッサバの根などの部分を乾燥させて粉状にしたものであり、デンプンや食物繊維を含む。キャッサバは、キントラノオ目トウダイグサ科イモノキ属に分類される芋の一種である。
【0042】
加工デンプンは、置換、架橋、分解などの方法によって、小麦、トウモロコシ(例えば、レギュラー、ワキシー、ハイアミロース)、馬鈴薯、甘藷、タピオカ(例えば、レギュラー、ワキシー)、米(例えば、もち、うるち)、豆(例えば、エンドウ、ソラマメ、緑豆)、くず、サゴなどの生デンプンを物理的処理(例えば、酵素、酸、アルカリ、焙焼、α化、湿熱、アニーリング、漂白)、または化学的処理(例えば、置換、架橋、分解)を加えて加工したものである。
【0043】
加工デンプンとしては、例えば、アセチル化アジピン酸架橋デンプン、アセチル化リン酸架橋デンプン、アセチル化酸化デンプン、オクテニルコハク酸デンプンナトリウム、酢酸デンプン、酸化デンプン、ヒドロキシプロピルデンプン、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプン、リン酸モノエステル化リン酸架橋デンプン、リン酸化デンプン、リン酸架橋デンプンなどが挙げられる。加工デンプンは、これらのうち、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのうち、生地物性や最終食品の食感の適性などの点から、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプンが好ましい。
【0044】
本実施形態に係る食品用品質改良剤においてアルギン酸カルシウムの配合割合は、食品用品質改良剤の全体の質量に対して、例えば、0.01~99質量%の範囲であり、0.1~99質量%の範囲であることが好ましく、0.1~50質量%の範囲であることがより好ましい。アルギン酸カルシウムの配合割合が食品用品質改良剤の全体の質量に対して0.01質量%未満であると、効果が得られない場合があり、99質量%を超えると、食味に影響を及ぼす場合がある。
【0045】
本実施形態に係る食品用品質改良剤においてアルギン酸エステルの配合割合は、食品用品質改良剤の全体の質量に対して、例えば、0.01~99質量%の範囲であり、0.1~99質量%の範囲であることが好ましく、0.1~50質量%の範囲であることがより好ましい。アルギン酸エステルの配合割合が食品用品質改良剤の全体の質量に対して0.01質量%未満であると、効果が得られない場合があり、99質量%を超えると、生地物性に影響を及ぼす場合がある。
【0046】
アルギン酸カルシウムとアルギン酸エステルの配合割合は質量比で、例えば、アルギン酸カルシウム:アルギン酸エステル=1:99~99:1の範囲であり、10:90~90:10の範囲であることが好ましい。アルギン酸カルシウム:アルギン酸エステル=1:99よりもアルギン酸カルシウムの量が少ないと、生地物性に影響を及ぼす場合があり、99:1よりもアルギン酸カルシウムの量が多いと、食味に影響を及ぼす場合がある。
【0047】
キャッサバ粉の配合割合は、食品用品質改良剤の全体の質量に対して、例えば、1~99質量%の範囲であり、1~90質量%の範囲であることが好ましく、10~90質量%の範囲であることがより好ましい。キャッサバ粉の配合割合が食品用品質改良剤の全体の質量に対して1質量%未満であると、効果が得られない場合があり、90質量%を超えると、最終食品の膨らみに影響を及ぼす場合がある。
【0048】
加工デンプンの配合割合は、食品用品質改良剤の全体の質量に対して、例えば、0.1~99質量%の範囲であり、1~99質量%の範囲であることが好ましく、1~90質量%の範囲であることがより好ましい。加工デンプンの配合割合が食品用品質改良剤の全体の質量に対して0.1質量%未満であると、効果が得られない場合があり、99質量%を超えると、生地物性や食感に影響を及ぼす場合がある。
【0049】
本実施形態に係る食品用品質改良剤は、アルギン酸カルシウム、アルギン酸エステルなどのアルギン酸類、キャッサバ粉、加工デンプンの他に、食品素材、食品添加物などの通常の食品に用いられる他の成分を含んでもよい。
【0050】
他の成分の含有量は、特に制限はないが、食品用品質改良剤の全体の質量に対して、例えば、0.01~98質量%の範囲であり、0.01~90質量%の範囲であることが好ましい。
【0051】
本実施形態に係る食品用品質改良剤は、例えば、アルギン酸カルシウムと、アルギン酸エステルと、キャッサバ粉と、加工デンプンとを混合することによって得られる。
【0052】
本実施形態に係る食品用品質改良剤の形態は特に制限されず、例えば、顆粒状、粉末状、固形状、液体状などのいずれの形態であってもよい。
【0053】
<食品>
本実施形態に係る食品は、上記食品用品質改良剤を含む食品である。すなわち、本実施形態に係る食品は、アルギン酸カルシウムと、アルギン酸エステルと、キャッサバ粉と、加工デンプンと、を含む食品である。
【0054】
食品としては、特に制限はないが、例えば、パン製品、麺製品、菓子製品、皮類製品などの穀粉含有食品などが挙げられる。これらのうち、パン製品、麺製品に好適に適用することができる。
【0055】
パン製品としては、パン製品であればよく特に制限はないが、例えば、食パン、菓子パン、フランスパン、食事パンなどが挙げられる。
【0056】
麺製品としては、麺類であればよく特に制限はないが、例えば、うどん、パスタ、中華麺、日本そばなどが挙げられる。麺製品の形態は、例えば、生麺、乾麺、茹で麺、蒸し麺、油揚げ麺、即席フライ麺、ノンフライ麺、LL麺、冷凍麺、調理麺、レンジ麺などである。
【0057】
穀粉含有食品に用いられる穀粉としては、麦、米、そば、ヒエ、アワ、とうもろこしなどの穀物を粉にしたものであり、特に制限はないが、例えば、小麦粉、大麦粉、ライ麦粉、米粉、オーツ粉、そば粉、ヒエ粉、アワ粉、とうもろこし粉などが挙げられる。穀粉は、これらのうち1種を用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0058】
穀粉としては、食感、風味および加工適性などが良好であるなどの点から、少なくとも小麦粉を用いることが好ましい。すなわち、本実施形態に係る食品は、アルギン酸カルシウムと、アルギン酸エステルと、キャッサバ粉と、加工デンプンと、さらに小麦粉を含む小麦粉含有食品であることが好ましい。
【0059】
食品に含まれるアルギン酸カルシウム、アルギン酸エステル、キャッサバ粉、および加工デンプンの合計量:小麦粉の量は、例えば、0.1:99.9~99:1の範囲であり、1:99~99:1の範囲であることが好ましく、10:90~99:1の範囲であることがより好ましい。0.1:99.9よりも小麦粉の量が多いと、効果が得られない場合があり、99:1よりも小麦粉の量が少ないと、最終食品の外観やテクスチャーに影響を与える場合がある。
【0060】
食品に含まれるアルギン酸カルシウム、アルギン酸エステル、キャッサバ粉、および加工デンプンの合計量に対するアルギン酸カルシウムの配合割合は、例えば、0.01~99質量%の範囲であり、0.1~99質量%の範囲であることが好ましく、0.1~90質量%の範囲であることがより好ましい。アルギン酸カルシウムの配合割合が上記合計量に対して0.01質量%未満であると、効果が得られない場合があり、99質量%を超えると、食味に影響を及ぼす場合がある。
【0061】
食品に含まれるアルギン酸カルシウム、アルギン酸エステル、キャッサバ粉、および加工デンプンの合計量に対するアルギン酸エステルの配合割合は、例えば、0.01~99質量%の範囲であり、0.1~99質量%の範囲であることが好ましく、0.1~90質量%の範囲であることがより好ましい。アルギン酸エステルの配合割合が上記合計量に対して0.01質量%未満であると、効果が得られない場合があり、99質量%を超えると、生地物性に影響を及ぼす場合がある。
【0062】
食品に含まれるアルギン酸カルシウムとアルギン酸エステルの配合割合は質量比で、例えば、アルギン酸カルシウム:アルギン酸エステル=1:99~99:1の範囲であり、10:90~90:10の範囲であることが好ましい。アルギン酸カルシウム:アルギン酸エステル=1:99よりもアルギン酸カルシウムの量が少ないと、生地物性に影響を及ぼす場合があり、99:1よりもアルギン酸カルシウムの量が多いと、食味に影響を及ぼす場合がある。
【0063】
食品に含まれるアルギン酸カルシウム、アルギン酸エステル、キャッサバ粉、および加工デンプンの合計量に対するキャッサバ粉の配合割合は、例えば、1~99質量%の範囲であり、1~90質量%の範囲であることが好ましく、10~90質量%の範囲であることがより好ましい。キャッサバ粉の配合割合が上記合計量に対して1質量%未満であると、効果が得られない場合があり、99質量%を超えると、最終食品の膨らみに影響を及ぼす場合がある。
【0064】
食品に含まれるアルギン酸カルシウム、アルギン酸エステル、キャッサバ粉、および加工デンプンの合計量に対する加工デンプンの配合割合は、例えば、0.1~99質量%の範囲であり、1~99質量%の範囲であることが好ましく、1~90質量%の範囲であることがより好ましい。加工デンプンの配合割合が上記合計量に対して0.1質量%未満であると、効果が得られない場合があり、99質量%を超えると、生地物性や食感に影響を及ぼす場合がある。
【0065】
食品がパン製品の場合、パン製品はパン製品用生地を作製して得られるが、パン製品用生地は、小麦粉などの穀粉と、水と、上記食品用品質改良剤と、を含む。すなわち、パン製品用生地は、アルギン酸カルシウムと、アルギン酸エステルと、キャッサバ粉と、加工デンプンと、小麦粉などの穀粉と、水と、を含む。
【0066】
水としては、特に制限はないが、例えば、水道水、純水などが挙げられる。
【0067】
パン製品用生地は、イースト(酵母)を含んでもよい。イーストによって、小麦粉などに含まれる糖が分解されて、炭酸ガスとアルコールが生成される。イーストとしては、特に制限はなく、例えば、インスタントドライイースト、生イースト、ドライイースト、天然酵母、液種など、通常パン製品の製造で用いられるものが挙げられる。イーストは、これらのうち1種を用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0068】
イーストの含有量は、特に制限はなく、例えば、穀粉100質量部に対して、1~7質量部の範囲であり、2~5質量部の範囲であることが好ましい。イーストの含有量が穀粉100質量部に対して1質量部未満であると、未熟成の生地になる場合があり、7質量部を超えると、過熟成の生地になる場合がある。
【0069】
パン製品用生地は、穀粉、水、上記食品用品質改良剤、イーストの他に、塩類、糖類、油脂、全卵などの卵成分、乳成分などの通常パン製品の製造で使用される他の成分を含んでもよい。
【0070】
塩類としては、食塩、岩塩などが挙げられる。塩類は、これらのうち1種を用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0071】
塩類の含有量は、特に制限はなく、例えば、穀粉100質量部に対して、0.5~3質量部の範囲であり、0.8~2質量部の範囲であってもよい。
【0072】
糖類としては、砂糖、グルコース、液糖などが挙げられる。糖類は、これらのうち1種を用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0073】
糖類の含有量は、特に制限はなく、例えば、穀粉100質量部に対して、0~30質量部の範囲である。
【0074】
油脂としては、バター、マーガリン、ショートニング、ラード、菜種油、大豆油、オリーブ油などが挙げられる。油脂は、これらのうち1種を用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0075】
油脂の含有量は、特に制限はなく、例えば、穀粉100質量部に対して、2~15質量部の範囲である。
【0076】
卵成分としては、卵黄、卵白、全卵、粉末卵などが挙げられる。卵成分は、これらのうち1種を用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0077】
卵成分の含有量は、特に制限はなく、例えば、穀粉100質量部に対して、0~15質量部の範囲である。
【0078】
乳成分としては、脱脂粉乳、無糖練乳、加糖練乳、牛乳、粉乳などが挙げられる。乳成分は、これらのうち1種を用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0079】
乳成分の含有量は、特に制限はなく、例えば、穀粉100質量部に対して、0~15質量部の範囲である。
【0080】
食品が麺製品の場合、麺製品は麺製品用生地を作製して得られるが、麺製品用生地は、小麦粉などの穀粉と、水と、上記食品用品質改良剤と、を含む。すなわち、麺製品用生地は、アルギン酸カルシウムと、アルギン酸エステルと、キャッサバ粉と、加工デンプンと、小麦粉などの穀粉と、水と、を含む。
【0081】
麺製品用生地は、食塩、かんすいなどを含んでもよい。
【0082】
本実施形態に係る食品は、アルギン酸カルシウム、アルギン酸エステルなどのアルギン酸類、キャッサバ粉、加工デンプン、穀粉、水の他に、食品素材、食品添加物などの通常食品に含まれる他の成分を食品の種類に応じて含んでもよい。
【0083】
本実施形態に係る食品用品質改良剤は、例えば、下記に示す食品の製造方法において食品を製造する際に材料に添加すればよい。パン製品や麺製品の場合は、例えば、パン製品用生地や麺製品用生地の作製の際に材料に添加すればよい。
【0084】
本実施形態に係る食品は、良好な食感を有し、小麦粉含有食品における小麦粉の使用量が低減または代替された食品である。
【0085】
また、本実施形態に係る食品は、小麦粉のみを用いた場合と同様の物性を示す。また、穀粉として小麦粉のみを含む場合と比べて、水分の含有量を多くすることができる。また、穀粉として小麦粉のみを含む場合と比べて、より強い弾力性を有する。また、穀粉として小麦粉のみを含む場合と比べて、生地などのベタつきが抑制され、加工適性に優れる。
【0086】
<食品の製造方法>
本実施形態に係る食品は、上記食品用品質改良剤を用いて、製造される。すなわち、本実施形態に係る食品は、アルギン酸カルシウムと、アルギン酸エステルと、キャッサバ粉と、加工デンプンと、を用いて製造される。
【0087】
本実施形態に係る食品の製造方法は、例えば、小麦粉などの穀粉と、水と、上記食品用品質改良剤と、を用いて食品用生地を作製し、得られた食品用生地を用いて食品を作製する方法である。すなわち、本実施形態に係る食品の製造方法は、例えば、小麦粉などの穀粉と、水と、アルギン酸カルシウムと、アルギン酸エステルと、キャッサバ粉と、加工デンプンと、を用いて食品用生地を作製し、得られた食品用生地を用いて食品を作製する方法である。
【0088】
食品がパン製品の場合、パン製品用生地の製造方法は、例えば、穀粉と、水と、上記食品用品質改良剤と、を混合し、混捏することによってパン製品用生地を作製する混捏工程を含む。得られるパン製品用生地は、例えば、穀粉100質量部に対して、水を66~74質量部含む。
【0089】
混捏工程は、穀粉と、水と、を混合し、混捏することによって中種生地を作製する中種混捏工程と、中種に、追加の穀粉と、追加の水と、上記食品用品質改良剤と、を混合し、混捏することによってパン製品用生地を作製する本捏工程と、を含んでもよい。
【0090】
パン製品の作製方法は、例えば、上記のようにして得られたパン製品用生地を焼成する焼成工程を含む。すなわち、パン製品の作製方法は、例えば、穀粉と、水と、上記食品用品質改良剤と、を混合し、混捏することによってパン製品用生地を作製する混捏工程と、得られたパン製品用生地を焼成する焼成工程を含む。また、パン製品の作製方法は、穀粉と、水と、を混合し、混捏することによって中種生地を作製する中種混捏工程と、中種に、追加の穀粉と、追加の水と、上記食品用品質改良剤と、を混合し、混捏することによってパン製品用生地を作製する本捏工程と、得られたパン製品用生地を焼成する焼成工程を含んでもよい。
【0091】
混捏工程の後に、得られた生地を所定の条件で所定の量に分割する分割工程、分割した後の生地を丸めるため丸目工程、丸めた生地を所定の形状に成形する成形工程などを含んでもよい。混捏工程の後、中種混捏工程の後、本捏工程の後、分割工程の後、丸目工程の後、成形工程の後のうちの少なくともいずれかに、生地を所定の温度、所定の湿度で発酵させる発酵工程を含んでもよい。
【0092】
混捏工程、中種混捏工程、本捏工程、分割工程、丸目工程、成形工程の際の温度は、通常のパン製品の製造方法における温度とすればよく、特に制限はない。これらの工程の温度は、例えば、20~30℃とすればよい。
【0093】
発酵工程における発酵条件は、通常のパン製品の製造方法における発酵条件とすればよく、特に制限はない。発酵条件は、例えば、温度27~30℃、湿度65~85%、時間60~90分間とすればよい。
【0094】
焼成工程における焼成条件は、通常のパン製品の製造方法における焼成条件とすればよく、特に制限はない。焼成条件は、例えば、温度180~220℃、時間8~40分間とすればよい。
【0095】
食品が麺製品の場合、麺製品用生地の製造方法は、例えば、穀粉と、水と、上記食品用品質改良剤と、を混合し、混捏することによって麺製品用生地を作製する混捏工程を含む。得られる麺製品用生地は、例えば、穀粉100質量部に対して、水を45~50質量部含む。
【0096】
麺製品は、例えば、上記のようにして得られた麺製品用生地を、麺製造装置等を用いて圧延した後、所定の長さ、太さに切出して得ることができる。
【0097】
本実施形態に係る食品の製造方法において、一部の工程または全ての工程を手作りによって実施してもよいし、一部の工程または全ての工程を、製造機器を使用する機械製造によって実施してもよい。本実施形態に係る食品の製造方法においては、一部の工程または全ての工程を、製造機器を使用する機械製造によって実施することが可能となる。上述の通り、上記食品用品質改良剤を用いて得られる食品用生地または食品は、水を加えてもほとんどべたつかないため、機械耐性に優れ、一般的な製造工程において使用される製造機器での扱いが可能である。
【0098】
パン製品を製造するためのパン製造装置としては、通常パン製品の製造で使用されるパン製造装置を用いればよく、特に制限はない。パン製造装置としては、例えば、穀粉と水と上記食品用品質改良剤とその他必要な成分とを混合し、混捏して生地を作製するための混捏機と、生地を所定の温度、所定の湿度で発酵させるための発酵機と、得られた生地を所定の条件で所定の量に分割するための分割機と、分割した後の生地を丸めるための丸目機と、丸めた生地を所定の形状に成形するための成形機と、成形した生地を所定の温度で焼成するための焼成機と、を備える。
【0099】
麺製品を製造するための麺製造装置としては、通常麺製品の製造で使用される麺製造装置を用いればよく、特に制限はない。
【0100】
本実施形態に係る食品の製造方法は、良好な食感を有し、小麦粉含有食品における小麦粉の使用量が低減または代替された食品を得ることができる。
【0101】
また、本実施形態に係る食品の製造方法で得られる食品は、小麦粉のみを用いた場合と同様の物性を示す。また、本実施形態に係る食品の製造方法は、穀粉として小麦粉のみを含む場合と比べて、水分の含有量を多くすることができる。また、穀粉として小麦粉のみを含む場合と比べて、より強い弾力性を有する食品を得ることができる。また、穀粉として小麦粉のみを含む場合と比べて、生地などのベタつきが抑制され、加工適性に優れる。
【0102】
本明細書は、以下の実施形態を含む。
(1)アルギン酸カルシウムと、アルギン酸エステルと、キャッサバ粉と、加工デンプンと、を含む、食品用品質改良剤。
【0103】
(2)(1)に記載の食品用品質改良剤であって、
前記加工デンプンが、アセチル化アジピン酸架橋デンプン、アセチル化リン酸架橋デンプン、アセチル化酸化デンプン、オクテニルコハク酸デンプンナトリウム、酢酸デンプン、酸化デンプン、ヒドロキシプロピルデンプン、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプン、リン酸モノエステル化リン酸架橋デンプン、リン酸化デンプン、および、リン酸架橋デンプンのうちの少なくとも1つである、食品用品質改良剤。
【0104】
(3)(1)または(2)に記載の食品用品質改良剤であって、
前記食品用品質改良剤中の、前記アルギン酸カルシウムの配合割合が、0.01~99質量%の範囲であり、前記アルギン酸エステルの配合割合が、0.01~99質量%の範囲であり、前記キャッサバ粉の配合割合が、1~99質量%の範囲であり、前記加工デンプンの配合割合が、0.1~99質量%の範囲であることを特徴とする食品用品質改良剤。
【0105】
(4)アルギン酸カルシウムと、アルギン酸エステルと、キャッサバ粉と、加工デンプンと、を含む、食品。
【0106】
(5)(4)に記載の食品であって、
さらに小麦粉を含む、食品。
【0107】
(6)(5)に記載の食品であって、
前記食品に含まれる前記アルギン酸カルシウム、前記アルギン酸エステル、前記キャッサバ粉、および前記加工デンプンの合計量:小麦粉の量が、0.1:99.9~99:1の範囲である、食品。
【0108】
(7)(4)~(6)のいずれか1つに記載の食品であって、
前記加工デンプンが、アセチル化アジピン酸架橋デンプン、アセチル化リン酸架橋デンプン、アセチル化酸化デンプン、オクテニルコハク酸デンプンナトリウム、酢酸デンプン、酸化デンプン、ヒドロキシプロピルデンプン、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプン、リン酸モノエステル化リン酸架橋デンプン、リン酸化デンプン、および、リン酸架橋デンプンのうちの少なくとも1つである、食品。
【0109】
(8)(4)~(7)のいずれか1つに記載の食品であって、
前記食品に含まれる前記アルギン酸カルシウム、前記アルギン酸エステル、前記キャッサバ粉、および前記加工デンプンの合計量に対する、前記アルギン酸カルシウムの配合割合が、0.01~99質量%の範囲であり、前記アルギン酸エステルの配合割合が、0.01~99質量%の範囲であり、前記キャッサバ粉の配合割合が、1~99質量%の範囲であり、前記加工デンプンの配合割合が、0.1~99質量%の範囲である、食品。
【0110】
(9)(4)~(8)のいずれか1つに記載の食品であって、
前記食品が、パン製品または麺製品である、食品。
【0111】
(10)アルギン酸カルシウムと、アルギン酸エステルと、キャッサバ粉と、加工デンプンと、を用いる、食品の製造方法。
【0112】
(11)(10)に記載の食品の製造方法であって、
さらに小麦粉を用いる、食品の製造方法。
【0113】
(12)(11)に記載の食品の製造方法であって、
前記食品に含まれる前記アルギン酸カルシウム、前記アルギン酸エステル、前記キャッサバ粉、および前記加工デンプンの合計量:小麦粉の量が、0.1:99.9~99:1の範囲であることを特徴とする食品の製造方法。
【0114】
(13)(10)~(12)のいずれか1つに記載の食品の製造方法であって、
前記加工デンプンが、アセチル化アジピン酸架橋デンプン、アセチル化リン酸架橋デンプン、アセチル化酸化デンプン、オクテニルコハク酸デンプンナトリウム、酢酸デンプン、酸化デンプン、ヒドロキシプロピルデンプン、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプン、リン酸モノエステル化リン酸架橋デンプン、リン酸化デンプン、および、リン酸架橋デンプンのうちの少なくとも1つである、食品の製造方法。
【0115】
(14)(10)~(13)のいずれか1つに記載の食品の製造方法であって、
前記食品に含まれる前記アルギン酸カルシウム、前記アルギン酸エステル、前記キャッサバ粉、および前記加工デンプンの合計量に対する、前記アルギン酸カルシウムの配合割合が、0.01~99質量%の範囲であり、前記アルギン酸エステルの配合割合が、0.01~99質量%の範囲であり、前記キャッサバ粉の配合割合が、1~99質量%の範囲であり、前記加工デンプンの配合割合が、0.1~99質量%の範囲である、食品の製造方法。
【0116】
(15)(10)~(14)のいずれか1つに記載の食品の製造方法であって、
前記食品が、パン製品または麺製品である、食品の製造方法。
【実施例0117】
以下、実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0118】
<実施例1、比較例1>
[食品用品質改良剤の調製]
アルギン酸類として、アルギン酸カルシウムおよびアルギン酸エステルと、キャッサバ粉と、加工デンプンとしてヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプンと、を表1に示す配合量(質量%)で配合して、実施例で用いる食品用品質改良剤とした。
【0119】
【0120】
[食パンの作製]
表2に示す配合量(質量%)で、小麦粉のみを使用した食パン(比較例1)と、小麦粉の30質量%を上記食品用品質改良剤で置き換えた食パン(実施例1)と、を下記方法によってそれぞれ作製した。なお、製パン改良剤としては、オリエンタル酵母工業株式会社のCオリエンタルフードを用いた。
【0121】
[食パンの作製方法]
(1)中種の各原料をミキサーに入れ、低速1分、高速2~3分ミキシングして中種を作製した。
(2)(1)の中種を、温度28℃、湿度75%で4時間発酵させた。
(3)本捏の原料を計りミキサーに入れた後、そこに(2)の発酵させた中種を加え、低速3分、中速4分ミキシングした。
(4)(3)で得た生地を、温度28℃、湿度75%で20分発酵させた。
(5)(4)の発酵させた生地を取り出し、200gずつ分割し丸め、温度28℃、湿度75%で20分発酵させた。
(6)(5)の発酵させた生地を取り出し、成型機(モルダー)に通し成形をし、2斤棒の食パン型に4個詰めた。その後、温度38℃、湿度80%で50~60分発酵させた。
(7)(6)の発酵させた成形生地を、上火200℃、下火200℃のオーブンで30~35分焼成した。
【0122】
【0123】
[食感の評価]
作製した食パンを4名のパネラーにより試食し、食パンの内相の食感を下記基準で評価した。結果を表3に示す。
【0124】
(評価基準)
A:しっとり,もっちりとしている
B:ややしっとりとしてもっちりとしている
C:普通
D:少しパサついている
E:パサついている
【0125】
【0126】
実施例1の食パンは、比較例1の食パンに比べて食感が良好であった。
【0127】
[加水量の比較]
比較例1のパンと実施例1のパンを水の量を変えながら製パンし、生地物性を損なわずに作業できる最大の水量(対粉質量%)を比較した。結果を
図1に示す。
【0128】
実施例1の食パンは、比較例1の食パンに比べて多くの量の水を加えることができた。
【0129】
[弾力性の評価]
テクスチャーアナライザー(Stable Micro Systems社製)で直径30mmのシリンダー型プランジャーを用い、プランジャー速度1mm/s、70%圧縮×2サイクルの条件で比較例1の食パンと実施例1の食パンの弾力性を評価した。
【0130】
凝集性は、食品に対して所定の負荷を連続2回加え、1回目に加えられたエネルギーと2回目に加えられたエネルギーとの比を指し、負荷がかかることによって、対象の食品がどれほど変形したかを表す指標である。固形食品を飲み込める状態にまで咀嚼するのに要するエネルギー、かたさ、凝集性、弾力性に関係するパラメータであり、本検討では凝集性の違いからパンの弾力性を評価した。結果を
図2に示す。
【0131】
この結果、実施例1の食パンの凝集性が比較例1の食パンより大きく、より大きな弾力性を示すことが確認された。
【0132】
<実施例2,3、比較例2,3>
小麦粉のみを使用した食パン(比較例2)と、小麦粉の30質量%を上記食品用品質改良剤で置き換えた食パン(実施例2)と、を上記方法によって同じ加水量(74質量%)でそれぞれ作製した。また、小麦粉のみを使用した食パン(比較例3)と、小麦粉の20質量%を上記食品用品質改良剤で置き換えた食パン(実施例3)と、を上記方法によって同じ加水量(74質量%)でそれぞれ作製した。
【0133】
[加工適性の評価]
作製した食パンの加工適性について、有資格(パン製造技能士)作業者1名によるパン製造のときの生地のべたつきの主観評価を下記基準で行った。実施例2、比較例2の結果を表4に、実施例3、比較例3の結果を表5に示す。
【0134】
(評価基準)
A:全くべた付かない
B:わずかにべた付くが良好
C:ややべたつく
D:べたつき、やや作業不良
E:非常にべたつき、作業不良
【0135】
【0136】
【0137】
実施例2の食パンは、比較例2の食パンに比べて加工適性が良好であった。また、実施例3の食パンは、比較例3の食パンに比べて加工適性が良好であった。
【0138】
このように実施例では、良好な食感が得られ、小麦粉含有食品における小麦粉の使用量を低減することができた。また、実施例では、小麦粉のみで製造する場合と比べて、水分を多く加えることができ、より強い弾力性を与えることができ、生地のベタつきを抑制し、加工適性が向上した。