(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024164494
(43)【公開日】2024-11-27
(54)【発明の名称】エンジン
(51)【国際特許分類】
F02B 53/00 20060101AFI20241120BHJP
【FI】
F02B53/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023080005
(22)【出願日】2023-05-15
(71)【出願人】
【識別番号】592173434
【氏名又は名称】株式会社日本ビデオセンター
(74)【代理人】
【識別番号】100090239
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 始
(74)【代理人】
【識別番号】100100859
【弁理士】
【氏名又は名称】有賀 昌也
(72)【発明者】
【氏名】近藤 忠美
(57)【要約】
【課題】従来のレシプロエンジンとロータリーエンジンの互いのメリットを残しつつ、両者のデメリットを無くし、コンパクトで高出力なエンジンを提供する。
【解決手段】エンジン10は、略円筒形状のロータハウジング11と、当該ロータハウジングの内周壁面に当接し、クランク13を中心に回転自在に構成された気筒ユニット14からなる。当該気筒ユニットは4本のシリンダ本体22を備えるシリンダブロック20Aからなり、当該シリンダ本体には、両端にピストンヘッド26を備えたピストン本体25が往復自在に嵌合されている。ロータハウジング側面には遊星歯車機構12が設けられ、クランクと同軸で回転する太陽歯車15に対して所定の減速比で回転する遊星歯車16を軸支する遊星キャリア17がシリンダブロックに固定されている。これにより、ピストン本体の往復運動はクランクの回転運動に変換されると共にシリンダブロックの回転運動に変換される。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下方向に沿って縦断面視したとき、等長の側面部の上下両端に、略半円形の上円部と下円部がそれぞれ連接形成される略長丸形状であって、前記側面部の中心を左右方向に貫通するクランクを備えた気筒ユニットと、
当該気筒ユニットの前記上円部と前記下円部がそれぞれ内周壁面に接する直径を備え、前記クランクを中心に前記気筒ユニットが回動自在に収納される略円筒形状のロータハウジングと、
前記クランクの軸心と同軸で回転する太陽歯車を有し、前記ロータハウジングの左右両側面のいずれか一方又は双方に配される遊星歯車機構とから構成され、
前記遊星歯車機構は、前記太陽歯車を中心に公転する複数個の遊星歯車と、当該遊星歯車を軸支すると共に前記気筒ユニットへ固定され、前記太陽歯車の回転運動に対して、所定の減速比で回転する遊星キャリアとを備え、
前記クランクが回動したとき、前記遊星歯車機構を介し、前記クランクの回転に従動して前記気筒ユニットが前記ロータハウジング内を回動するようにしたことを特徴とするエンジン。
【請求項2】
前記気筒ユニットは、シリンダ部と、当該シリンダ部内へ往復運動可能に収納されたピストン部とから構成され、
前記シリンダ部は、略円筒形状のシリンダ本体と、当該シリンダ本体の両端に連接形成される略半球状の燃焼室とから構成され、
前記シリンダ本体は、前記側面部内側に沿って配置され、周壁部中心を前記クランクが貫通するように形成され、
前記燃焼室は、前記上円部又は前記下円部の内側にそれぞれ配置され、
前記ピストン部は、略円柱形状のピストン本体と、当該ピストン本体の両端面に連接形成され、前記燃焼室とそれぞれ対向するピストンヘッドとから構成され、
前記ピストン本体は、周壁部中心に径方向に沿って所定の内径の貫通孔を有し、
当該貫通孔の内周壁面に沿って内歯車を形成し、当該内歯車と噛合する歯車と、当該歯車を先端にクランクピンで軸支し、基端に前記クランクを備えたクランクアームとを設け、
前記貫通孔の内径と略同径で、前記歯車と共に前記クランクピンで軸支された円盤状の偏心フリーロータを前記貫通孔内へ回動自在に嵌合して、
前記シリンダ本体内で前記ピストン本体が往復運動したとき、
前記内歯車に噛合する前記歯車が、前記内歯車内を周回して前記クランクアームを所定の方向へ回転させて、前記クランクを回動させると共に、
前記偏心フリーロータが前記貫通孔内を前記クランクアームの回転方向と相反する方向へ回動するようにしたことを特徴とする請求項1に記載のエンジン。
【請求項3】
前記内歯車の内径と前記歯車の直径の比が2対1であることを特徴とする請求項2に記載のエンジン。
【請求項4】
前記偏心フリーロータの軸心を、短径と長径の比が1対3となる位置に設けたことを特徴とする請求項2に記載のエンジン。
【請求項5】
前記燃焼室の反ピストンヘッド側の天井部の所定位置に、所定形状の第1吸気口、第1排気口及びスパークホールを設け、
前記ロータハウジングの周壁部に、前記第1吸気口と対向する所定形状の第2吸気口、前記第1排気口と対向する所定形状の第2排気口と、前記スパークホールと対向する点火プラグを設けて、
前記ロータハウジング内を回動する前記気筒ユニットの前記上円部と前記下円部が、前記ロータハウジングの内周壁面を摺動する場合に、
前記第1吸気口と前記第2吸気口が重なり合ってオーバーラップしたとき、前記第2吸気口へ吹き込まれた可燃性ガスが、前記第1吸気口を通じて前記燃焼室へ吸気され、
前記第1排気口と前記第2排気口が重なり合ってオーバーラップしたとき、前記燃焼室内の排気ガスが前記第1排気口を通じて、前記第2排気口から排気され、
前記スパークホールと前記点火プラグが重なり合ってオーバーラップしたとき、前記点火プラグから発した火花が前記スパークホールを通じて前記燃焼室内へ飛ぶようにしたことを特徴とする請求項1若しくは請求項2に記載のエンジン。
【請求項6】
前記気筒ユニットの前記シリンダ部が、所定の偶数本の前記シリンダ本体を備えるシリンダブロックから構成されていることを特徴とする請求項1若しくは請求項2に記載のエンジン。
【請求項7】
前記シリンダ本体にそれぞれ収納される前記ピストン本体は、隣り合う一方の前記ピストン本体の往復運動と他方の前記ピストン本体の往復運動とが、互いに相反する方向へ動くように構成されていることを特徴とする請求項6に記載のエンジン。
【請求項8】
前記シリンダブロックは、2本のシリンダ本体を備え、当該シリンダ本体にそれぞれ前記ピストン本体が収納されていることを特徴とする請求項6に記載のエンジン。
【請求項9】
前記シリンダブロックは、4本のシリンダ本体を備え、当該シリンダ本体にそれぞれ前記ピストン本体が収納されていることを特徴とする請求項6に記載のエンジン。
【請求項10】
前記気筒ユニットの前記シリンダ部が、少なくとも一本の前記シリンダ本体を備えるシリンダケースから構成されていることを特徴とする請求項1若しくは請求項2に記載のエンジン。
【請求項11】
前記シリンダケースを有する前記気筒ユニットを備えた前記ロータハウジングを所定個数並設して、一本の前記クランクで連結し、
隣り合う前記ロータハウジングにおいて、一の前記気筒ユニットに対し、他の前記気筒ユニットの位置が所定の位相分、進めて或いは遅らせて、配置されるようにしたことを特徴とする請求項10に記載のエンジン。
【請求項12】
前記ロータハウジングを3個並設し、隣り合う一の前記気筒ユニットに対し、他の前記気筒ユニットは、π/3位相が遅れている又は進んでいることを特徴とする請求項11に記載のエンジン。
【請求項13】
前記ロータハウジングを5個並設し、隣り合う一の前記気筒ユニットに対し、他の前記気筒ユニットは、π/5位相が遅れている又は進んでいることを特徴とする請求項11に記載のエンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、様々な形式のエンジンが発明され、開示されている。近年は、エンジンとモータを組み合わせたハイブリッド化が進み、エンジンのレイアウト又は設置スペースの関係上、より一層、コンパクトでハイパワーなエンジンが求められている。
また、エンジンで使用される燃料についても、従来のガソリン若しくは軽油のみならず、エタノール等のアルコール系燃料、水素等の可燃性ガスといったものが使われつつある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のレシプロエンジン、ロータリーエンジン等のエンジンでは、小型化するにしてもコンロッドの長さ、ロータリー及びロータリーケースの大きさ等の限界があり、さらには、小型化すると出力を高くすることが非常に困難である。
また、レシプロエンジンの場合は、小型化するとストローク長を稼ぐことが難しくなり、ロングストローク化して燃焼効率を上げ、燃費を改善することが困難である。そして、ロータリーエンジンの場合は、シール性の問題があり、シール性を高くすると耐久性が低くなるといった問題がある。
【0005】
そこで本発明が解決しようとする課題は、従来のレシプロエンジンとロータリーエンジンの互いのメリットを残しつつ、両者のデメリットを無くし、コンパクトで高出力なエンジンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載のエンジンは、上下方向に沿って縦断面視したとき、等長の側面部の上下両端に、略半円形の上円部と下円部がそれぞれ連接形成される略長丸形状であって、前記側面部の中心を左右方向に貫通するクランクを備えた気筒ユニットと、
当該気筒ユニットの前記上円部と前記下円部がそれぞれ内周壁面に接する直径を備え、前記クランクを中心に前記気筒ユニットが回動自在に収納される略円筒形状のロータハウジングと、
前記クランクの軸心と同軸で回転する太陽歯車を有し、前記ロータハウジングの左右両側面のいずれか一方又は双方に配される遊星歯車機構とから構成され、
前記遊星歯車機構は、前記太陽歯車を中心に公転する複数個の遊星歯車と、当該遊星歯車を軸支すると共に前記気筒ユニットへ固定され、前記太陽歯車の回転運動に対して、所定の減速比で回転する遊星キャリアとを備え、
前記クランクが回動したとき、前記遊星歯車機構を介し、前記クランクの回転に従動して前記気筒ユニットが前記ロータハウジング内を回動するようにしたことを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載のエンジンは、請求項1に記載の発明において、前記気筒ユニットは、シリンダ部と、当該シリンダ部内へ往復運動可能に収納されたピストン部とから構成され、
前記シリンダ部は、略円筒形状のシリンダ本体と、当該シリンダ本体の両端に連接形成される略半球状の燃焼室とから構成され、
前記シリンダ本体は、前記側面部内側に沿って配置され、周壁部中心を前記クランクが貫通するように形成され、
前記燃焼室は、前記上円部又は前記下円部の内側にそれぞれ配置され、
前記ピストン部は、略円柱形状のピストン本体と、当該ピストン本体の両端面に連接形成され、前記燃焼室とそれぞれ対向するピストンヘッドとから構成され、
前記ピストン本体は、周壁部中心に径方向に沿って所定の内径の貫通孔を有し、
当該貫通孔の内周壁面に沿って内歯車を形成し、当該内歯車と噛合する歯車と、当該歯車を先端にクランクピンで軸支し、基端に前記クランクを備えたクランクアームとを設け、
前記貫通孔の内径と略同径で、前記歯車と共に前記クランクピンで軸支された円盤状の偏心フリーロータを前記貫通孔内へ回動自在に嵌合して、
前記シリンダ本体内で前記ピストン本体が往復運動したとき、
前記内歯車に噛合する前記歯車が、前記内歯車内を周回して前記クランクアームを所定の方向へ回転させて、前記クランクを回動させると共に、
前記偏心フリーロータが前記貫通孔内を前記クランクアームの回転方向と相反する方向へ回動するようにしたことを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載のエンジンは、請求項2に記載の発明において、前記内歯車の内径と前記歯車の直径の比が2対1であることを特徴とする。
【0009】
請求項4に記載のエンジンは、請求項2に記載の発明において、前記偏心フリーロータの軸心を、短径と長径の比が1対3となる位置に設けたことを特徴とする。
【0010】
請求項5に記載のエンジンは、請求項1若しくは請求項2に記載の発明において、前記燃焼室の反ピストンヘッド側の天井部の所定位置に、所定形状の第1吸気口、第1排気口及びスパークホールを設け、
前記ロータハウジングの周壁部に、前記第1吸気口と対向する所定形状の第2吸気口、前記第1排気口と対向する所定形状の第2排気口と、前記スパークホールと対向する点火プラグを設けて、
前記ロータハウジング内を回動する前記気筒ユニットの前記上円部と前記下円部が、前記ロータハウジングの内周壁面を摺動する場合に、
前記第1吸気口と前記第2吸気口が重なり合ってオーバーラップしたとき、前記第2吸気口へ吹き込まれた可燃性ガスが、前記第1吸気口を通じて前記燃焼室へ吸気され、
前記第1排気口と前記第2排気口が重なり合ってオーバーラップしたとき、前記燃焼室内の排気ガスが前記第1排気口を通じて、前記第2排気口から排気され、
前記スパークホールと前記点火プラグが重なり合ってオーバーラップしたとき、前記点火プラグから発した火花が前記スパークホールを通じて前記燃焼室内へ飛ぶようにしたことを特徴とする。
【0011】
請求項6に記載のエンジンは、請求項1若しくは請求項2に記載の発明において、前記気筒ユニットの前記シリンダ部が、所定の偶数本の前記シリンダ本体を備えるシリンダブロックから構成されていることを特徴とする。
【0012】
請求項7に記載のエンジンは、請求項6に記載の発明において、前記シリンダ本体にそれぞれ収納される前記ピストン本体は、隣り合う一方の前記ピストン本体の往復運動と他方の前記ピストン本体の往復運動とが、互いに相反する方向へ動くように構成されていることを特徴とする。
【0013】
請求項8に記載のエンジンは、請求項6に記載の発明において、前記シリンダブロックは、2本のシリンダ本体を備え、当該シリンダ本体にそれぞれ前記ピストン本体が収納されていることを特徴とする。
【0014】
請求項9に記載のエンジンは、請求項6に記載の発明において、前記シリンダブロックは、4本のシリンダ本体を備え、当該シリンダ本体にそれぞれ前記ピストン本体が収納されていることを特徴とする。
【0015】
請求項10に記載のエンジンは、請求項1若しくは請求項2に記載の発明において、前記気筒ユニットの前記シリンダ部が、少なくとも一本の前記シリンダ本体を備えるシリンダケースから構成されていることを特徴とする。
【0016】
請求項11に記載のエンジンは、請求項10に記載の発明において、前記シリンダケースを有する前記気筒ユニットを備えた前記ロータハウジングを所定個数並設して、一本の前記クランクで連結し、
隣り合う前記ロータハウジングにおいて、一の前記気筒ユニットに対し、他の前記気筒ユニットの位置が所定の位相分、進めて或いは遅らせて、配置されるようにしたことを特徴とする。
【0017】
請求項12に記載のエンジンは、請求項11に記載の発明において、前記ロータハウジングを3個並設し、隣り合う一の前記気筒ユニットに対し、他の前記気筒ユニットは、π/3位相が遅れている又は進んでいることを特徴とする。
【0018】
請求項13に記載のエンジンは、請求項11に記載の発明において、前記ロータハウジングを5個並設し、隣り合う一の前記気筒ユニットに対し、他の前記気筒ユニットは、π/5位相が遅れている又は進んでいることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係るエンジンによれば、縦断面視したとき、略長丸形状であって、中心にクランクを備えた気筒ユニットと、当該気筒ユニットが回動自在に収納される略円筒形状のロータハウジングと、クランクと同軸の太陽歯車を備える遊星歯車機構とから構成し、クランクが回動したとき、気筒ユニットが、クランク及び太陽歯車の回転に対して所定の減速比で、クランクの回転に従動してロータハウジング内を回動するようにした。
ここで、気筒ユニットは、シリンダ部と当該シリンダ部内へ往復運動可能に収納されるピストン部とから構成した。当該ピストン部は、略円柱形状のピストン本体の両端面にピストンヘッドを備え、またシリンダ部は、略円筒形状のシリンダ本体の両端にピストンヘッドと対向する燃料室を備えている。すなわち、気筒ユニットは、実質的に水平対向2気筒エンジンのように構成されている。
また、シリンダ部が有する天井部の所定位置に、第1吸気口、第1排気口、スパークホールを設け、ロータハウジング側にそれらと対向する第2吸気口、第2排気口、点火プラグを設けた。そして、第1吸気口と第2吸気口、第1排気口と第2排気口、スパークホールと点火プラグが、ロータハウジング内で回転する気筒ユニットによって、それぞれオーバーラップしたとき、吸気工程、排気工程、また点火爆発工程を行わせるようにした。
これによって、従来のレシプロエンジンで用いられている吸気バルブと排気バルブ、及びそれらバルブをピストンの動きと連動させていたカム、カムギア、チェーン、ベルト等の駆動機構を省くことができる。さらに、気筒ユニットの両端面、すなわち、燃焼室の天井部をロータハウジングの内周壁面に当接摺動させていることから、従来のロータリーエンジンのようなロータ部の機密性を保つためのアペックスシール機構を省きつつ高気密性を長期間に亘って維持することができる。
加えて、気筒ユニットを構成するピストンユニットは、ピストン本体の両端面にピストンヘッドを連接形成し、当該ピストンヘッドがシリンダ両端面に連接形成した燃焼室と対向配置されるように構成した。当該ピストンヘッドが、互い違いに爆発燃焼する両燃焼室から互い違いに燃焼圧を受けるように構成されるので、気筒ユニット一つで従来のレシプロエンジン2気筒分の出力を取り出すことができ、従来のレシプロエンジンに係る2気筒分のスペースを気筒ユニット一つ分にまとめ、カム、バルブを省いてコンパクトに構成し、高い回転動力を取り出すことができる。
【0020】
また好ましくは、本発明に係るエンジンによれば、シリンダ部を所定の偶数本のシリンダ本体を備えるシリンダブロックとして構成した。そして、当該シリンダ本体に嵌合されるピストン本体について、互いに隣り合う一方のピストン本体の往復運動と他方のピストン本体の往復運動とが、互いに相反する方向へ動くように構成した。
これによって、隣り合うピストン本体は互いに振動を相殺し、シリンダブロックの振動を抑えることができるので、エンジンの振動を抑えることができる。
【0021】
さらに好ましくは、本発明に係るエンジンによれば、シリンダ部を少なくとも一本のシリンダ本体を備えるシリンダケースとして構成した。そして、クランクが同軸となるように気筒ユニットを備えたロータハウジングを所定個数並設して、隣り合うロータハウジングにおいて、一の気筒ユニットに対し、他の気筒ユニットの位置が所定の位相分、進めて或いは遅らせて配置されるように構成した。
これによって、ロータハウジング内で気筒ユニットが回動するとき、一の気筒ユニットの回転運動と当該気筒ユニットが備えるピストン部の往復運動に係る振動を、他の気筒ユニットの回転運動と当該気筒ユニットが備えるピストン部の往復運動に係る振動で相殺し、エンジン全体で見たとき、当該エンジンの振動を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】第1実施例に係るエンジンの外観構成の概略を示す側面図である。
【
図2】
図1におけるA-A線に沿った縦断面図であって、第1実施例に係るエンジンの一部構成の概略を示す断面図である。
【
図3】
図1におけるB-B線に沿った縦断面図であって、第1実施例に係るエンジンの一部構成の概略を示す断面図である。
【
図4】
図2又は
図3におけるC-C線に沿った縦断面図であって、第1実施例に係るエンジンを内部構成の概略を示す断面図である。
【
図5】第1実施例に係るエンジンに設けた気筒ユニットにおいて、ピストン部の動作例を示す説明図である。
【
図6】第1実施例に係るエンジンに設けた気筒ユニットに係るシリンダブロックの構成の概略を示す説明図である。
【
図7】第1実施例に係るエンジンのシリンダブロック内の一方のピストン部の位置を示す模式図である。
【
図8】第1実施例に係るエンジンのシリンダブロック内の他方のピストン部の位置を示す模式図である。
【
図9】第1実施例に係るエンジンの他の実施例に係るエンジンの内部構成の概略を示す断面図である。
【
図10】第2実施例に係るエンジンの外観構成の概略を示す側面図である。
【
図11】第2実施例に係るエンジンの構成の概略を示す斜視図である。
【
図12】第2実施例に係るエンジンの構成の概略を示す斜視図である。
【
図13】第2実施例に係るエンジンが有する気筒ユニットの構成の概略を示す斜視図である。
【
図14】第2実施例に係るエンジンのロータモジュール内の各ピストン部の位置を示す模式図である。
【
図15】第3実施例に係るエンジンの外観構成の概略を示す側面図である。
【
図16】第3実施例に係るエンジンのロータモジュール内の各ピストン部の位置を示す模式図である。
【
図17】第3実施例に係るエンジンの接続例を示す部分拡大図である。
【
図18】第4実施例に係るエンジンのロータモジュール内の各ピストン部の位置を示す模式図である。
【
図19】第5実施例に係るエンジンのロータモジュール内の各ピストン部の位置を示す模式図である。
【実施例0023】
本発明に係るエンジンの第1実施例を添付した図面にしたがって以下説明する。
図1は、本実施例に係るエンジンの構成の概略を示した説明図であり、
図2は、
図1におけるA-A線に沿った縦断面図、
図3は、
図1におけるB-B線に沿った縦断面図、
図4は、
図2及び
図3におけるC-C線に沿った縦断面図である。
【0024】
第1実施例に係るエンジン10は、
図1に示すように、ロータハウジング11と、当該ロータハウジング11の側方に設けた遊星歯車機構12とから構成され、ロータハウジング11の長手方向に沿った中心と遊星歯車12の中心を貫通するクランク13を有している。ロータハウジング11内には、
図3及び
図4に示すように気筒ユニット14が収納されている。
【0025】
ロータハウジング11は、
図3に示すように、
図1のB-B線に沿って上下方向に縦断面視したとき、気筒ユニット14の上円部14bと下円部14cが内周壁面11aに接する直径を備えている。ロータハウジング11内に収納された気筒ユニット14は、クランク13を中心として回動自在に構成されており、回転可能な気筒ユニット14にあわせて、ロータハウジング11は、
図1又は
図4に示すように、クランク13に沿って左右方向に伸びる略円筒体形状に形成されている。
【0026】
遊星歯車機構12は、
図1に示すように、ロータハウジング11の左側面側に配置されている。なお、遊星歯車機構12の位置は本実施例の例に限定されず、ロータハウジングの右側面側、又は双方に設けるようにしても良い。そして、遊星歯車機構12は、
図1に示したA-A線に沿って縦断面視した断面図である
図2に示すように、中心に配置された太陽歯車15と、当該太陽歯車15を囲むように配置された所定枚数の遊星歯車16と、当該遊星歯車16を軸支する遊星キャリア17と、各遊星歯車16と噛合する内歯車18から構成されている。
太陽歯車15は、クランク13の軸心と同軸に固定されており、クランク13の回転と共に回動するように構成されている。
遊星歯車16は、それぞれが太陽歯車15及び内歯車18と噛合し、当該太陽歯車15の周囲で自転すると共に、太陽歯車15の周囲を公転するように構成されている。
遊星キャリア17は、遊星歯車16を所定の間隔で軸支すると共に気筒ユニット14に固定されている。これによって、遊星歯車16の公転にしたがって、すなわち、クランク13と同軸で回転する太陽歯車15に対する遊星歯車16に係る所定の減速比にしたがって気筒ユニット14を回転させることができる。クランク13の回転に対して気筒ユニット14が回転する所定の比率については後述する。
内歯車18は、遊星歯車16を挟んで太陽歯車15と対向するように設けられ、遊星歯車16と噛合するように構成され、ロータハウジング11に固定されている。これによって、ロータハウジング11に対して気筒ユニット14をロータハウジング11内で回動させることができる。
【0027】
気筒ユニット14は、
図1に示したB-B線に沿って縦断面視した断面図である
図3に示すように、上下方向に沿って縦断面視したとき、等長となる側面部14a,14aの上下両端に略半円形状の上円部14bと下円部14cがそれぞれ連接された略長丸形状に形成されている。すなわち、気筒ユニット14の縦断面視構造は、いわゆる筒体の両端に半球部が連接形成されたカプセル剤形状に類似した形状に形成されている。そして、気筒ユニット14の中心には、
図1に示すように、左右方向に貫通するクランク13が配置されている。気筒ユニット14の内部構造については、後述する。
【0028】
このように構成した本実施例に係るエンジン10は、ロータハウジング11内を気筒ユニット14が、クランク13の回転数に対して遊星歯車機構12によって所定の減速比で減速された回転数で、クランク13の回転に従動して回転するように構成されている。
これによって、気筒ユニット14内で所定の回転動力を発生させた場合に、当該回転動力をクランク13から出力すると共に、気筒ユニット14の両端面14b,14cをロータハウジング11の内周壁面11aに沿って摺動させることができる。
すなわち、本実施例に係るエンジン10は、ロータハウジング11内で気筒ユニット14を回動させていることから、ケーシング内を略三角形状のロータが回転する従来のロータリーエンジンに類似した挙動を示すロータリーエンジンの新たな一態様であると本発明に係る発明者は確信するに至った。
さらに、本実施例に係るエンジン10によれば、当該エンジン10は従来のロータリーエンジンで機密性を保つために必要であったアペックスシール機構を必要としないことから、メンテナンスを容易にし、かつエンジン自体の寿命を長期化させることができる。
【0029】
続いて、気筒ユニット14の内部構造について、添付した図面にしたがって説明する。気筒ユニット14は、
図3に示すように、シリンダ部20と、当該シリンダ部20内に往復運動可能に収納されたピストン部21とから構成されている。
【0030】
シリンダ部20は、
図3に示すように、その内部が略円筒形状に形成されたシリンダ本体22と、当該シリンダ本体22の両端に連接形成された略半球状の燃焼室23,23とから構成されている。
シリンダ本体22の内径は、ピストン部21が往復運動可能に嵌合される径に構成されている。
燃焼室23は、
図3示すように、その天井部23a外側面がロータハウジング11の内周壁面11aへ摺動可能に当接し、天井部23a側がピストン部21の両端と対向するように形成されている。
【0031】
ピストン部21は、ピストン本体25に対して、クランク13のほか、内歯車30、歯車31、クランクアーム32、偏心フリーロータ33を組み付けて構成されている。
ピストン本体25は、略円柱状に形成され、両端にピストンヘッド26,26が連接形成され、周壁部中央の径方向に沿って所定の内径を備えた貫通孔27が形成されている。
内歯車30は、所定の内径を有し、ピストン本体25の貫通孔27へ嵌着されている。
歯車31は、内歯車30と噛合可能に構成されている。内歯車30と歯車31の直径の比は、2:1であることが好ましい。当該比で構成することによって、
図5に示すように、歯車31を内歯車30に沿って2周させたとき、歯車30を初期位置へ帰還させることができる。
クランクアーム32は、先端部が歯車31を軸支し、基端部がクランク13に固定されている。これによって、歯車31が内歯車30内を転動したとき、クランクアーム32がクランク13を中心に回動する。これによって、ピストン本体25がシリンダ本体22内で往復運動をしたとき、内歯車30と噛合する歯車31が内歯車30に沿って転動し、歯車31とクランクアーム32でリンクされたクランク13に回転運動を行わせることができる。ここで、
図3に示したクランクアーム32の回転方向を順方向とする。
【0032】
偏心フリーロータ33は、その直径が貫通孔27の内径と略同径に形成され、貫通孔27内へ回動自在に嵌合されている。これによって、ピストンヘッド26が強い圧力を受けてピストン本体25が往復運動するとき、当該圧力によって貫通孔27及び内歯車30が歪まないように当該貫通孔27を補強することができる。また、偏心フリーロータ33は、軸心の位置が当該偏心フリーロータ33の直径に対して1:3となる偏心した位置となっており、当該軸心は歯車31と共にクランクピンで軸支されている。これによって、
図5に示すように、偏心フリーロータ33は、歯車26の転動する方向、すなわち、クランクアーム32が回転していく順方向に対して逆方向へ回転し、クランクアーム32がクランク13を一周させたとき、偏心フリーロータ33は、
図5に示すように、クランク13と逆方向へ一回転するように構成されている。
【0033】
上記のように構成した気筒ユニット14の内部構造によれば、クランク13は、ピストン本体25の中央部から径方向に突出し、
図1又は
図4に示すように、シリンダ本体22の周壁部中央で径方向に沿って回転可能に嵌通されている。これによって、ピストン部21の往復運動によって回動するクランク13の回転動力をシリンダ部20外へ出力させることができる。また、ロータハウジング11は、その円筒体形状の軸が
図1及び
図4に示すように、クランク13の軸心と同一になるように構成されている。そのため、ピストン本体25は、ロータハウジング11の径方向に沿って往復運動することができ、
図5に示すように、一方のピストンヘッド26が、ロータハウジング11の内周壁面11aに向かってシリンダ本体22内の気体を燃焼室23方向へ押し出して、圧縮又は排気に係る工程を行っているとき、他方のピストンヘッド26が、クランク13に向かってシリンダ本体22内の気体を吸引して、吸気又は爆発に係る工程を行う、いわゆる水平対向2気筒エンジンのように動作させることができる。
【0034】
ここで、シリンダ内径(ボア)とピストンの往復距離(ストローク)の関係について、従来のレシプロエンジンは、シリンダ内でピストンが往復運動したとき、ピストンスカートとコンロッドが接触する等の制限によって、ストローク長が規制されていた。
一方、本実施例に係るピストン部21は、コンロッドを有しておらず、またピストン本体25の両端にピストンヘッド26,26が連接形成されていることから、
図3に示すように、ピストン本体25のストローク長さを任意に定めることができ、また、シリンダ本体22の大きさ及びピストン本体25の大きさに対して貫通孔27、すなわち、内歯車30と歯車31が占める径の比率を変えることで同様にストローク長さを任意に定めることができる。
さらに、本実施例に係るシリンダ部20は、シリンダ本体22の内径を大小自在に構成することができるので、容易にロングストローク化又はショートストローク化を図ることができ、たとえば、シリンダ本体22の長さに対して短いピストン本体25を組み合わせ、或いは、シリンダ本体22の内径を細くすると共に短いピストン本体25を組み合わせてロングストローク化を図り、高トルクで高燃費なエンジンを構成することができる。また、シリンダ本体22の長さに対して長いピストン本体25を組み合わせ、或いは、シリンダ本体22の内径を太くすると共に長いピストン本体25を組み合わせてショートストローク化を図り、高回転で高出力なエンジンを構成することができる。
このように、本実施例に係る気筒ユニット14は、エンジン10の使用目的に合わせて設計の自由度を高くすることができるように構成されている。
【0035】
上記の内部構造を備えた気筒ユニット14は、
図5に示すように、たとえば、4ストロークエンジンとして用いられる場合、一方の燃焼室23に対し、ピストンヘッド26が遠ざかる方向へ動くときは、可燃性ガスを吸気する吸気工程又は可燃性ガスが爆発する爆発工程が行われる。このとき、他方の燃焼室23では、ピストンヘッド26が当該他方の燃焼室23に近付く方向へ動くので、可燃性ガスを圧縮する工程又は可燃性ガスが爆発燃焼した後の排気ガスを排気する工程が行われる。このように、燃焼室23,23に対し、ピストンヘッド26,26が交互に吸気、圧縮、爆発(燃焼)、排気工程を行うように構成されている。特に爆発(燃焼)工程において瞬時に膨張する可燃性ガスの圧力をピストンヘッド26,26が交互に受けることによって、ピストン本体25が、シリンダ本体22内で往復運動することができる。
【0036】
ここで、可燃性ガスとは、霧状又は気化したガソリンと所定量の空気を所定の配合率で混ぜ合わせた混合気体、霧状にした軽油、霧状又は気化したエタノール、或いは水素ガス等の爆発可能又は燃焼可能なガス体をいう。本実施例においては、ガソリンを主体とした混合気体が好ましいが、これに限定されず、爆発又は燃焼可能な気体であれば良い。
特に近年注目されている水素ガスを用いた場合は、爆発(燃焼)工程において水分が生成され、従来のエンジンの場合は、燃焼室23,23内に水分が貯留されることによってウォーターハンマー等、シリンダ本体22内に水分が残留することによって重大な事故が発生するおそれがあった。しかしながら、本実施例に係るエンジン10の場合、気筒ユニット14を回転させた際の遠心力によって燃焼室23の天井部23aに形成した第1排気口及びロータハウジング11に形成した第2排気口から排気ガスと共に容易に排水することができ、これによって、シリンダ本体22内の残留水分による事故の発生を防止することができる。
【0037】
上記の構成を有する気筒ユニット14によれば、当該気筒ユニット14は、
図3又は
図5に示すように、シリンダ本体22の両端に連接形成された燃焼室23,23に対向して、ピストンヘッド26,26が動くように構成された、いわゆる、水平対向2気筒エンジンに似た構成を有している。しかしながら、従来のレシプロエンジンに係る水平対向2気筒エンジンとは異なり、気筒ユニット14は、シリンダ本体22内で1本のピストン本体25が往復運動を行い、当該ピストン本体25の周壁部中心に嵌通されたクランク13を回転させているので、従来のレシプロエンジンで使われている重いコンロッドを必要とせず、軽量化が可能である。さらには、クランクアーム32も貫通孔27内で軸支した歯車31を回す、いわば貫通孔27の半径よりも小さい径で回転し、コンロッドとクランクアームを連結させたリンク構造によって描かれる円よりも小径の円をクランクアーム32は描くことから、当該クランクアーム32を短縮させることができ、より軽量化を図ることができる。
【0038】
また、たとえば、4ストロークエンジンとして構成した場合を比較すると、従来のレシプロエンジンは、シリンダ本体22内でピストン本体25が2往復する間に一つの仕事が行われるのに対し、気筒ユニット14の場合は、両端のピストンヘッド26,26で互い違いに一つの仕事が行われることから、単純にピストンが2往復する間に従来の4ストロークエンジンに対して2倍の利得を得ることができる。
以上のことから、気筒ユニット14は、従来のレシプロエンジンと比べて軽量に構成し、かつ高出力を得ることができる。
【0039】
さらに、気筒ユニット14では、一方のピストンヘッド26で可燃性ガスが爆発又は燃焼によって膨張し、当該一方のピストンヘッド26側で上死点から下死点に向かう動きをするとき、
図5に示すように、他方のピストンヘッド26側では、下死点から上死点に向かう動きが行われることから、圧縮又は排気の工程が行われる。そのため、従来のレシプロエンジンのように爆発後の慣性でコンロッドとクランクアームを回して、排気、吸気、圧縮と行わせるのではなく、一方のピストンヘッド26側で可燃性ガスが燃焼又は爆発して膨張するときの圧力を、直接的に反対側にある他方のピストンヘッド26の動作をサポートするために使えるので、クランク13の回転効率を上げて、よりスムーズにエンジンを高回転まで回すことができる。加えて、ロングストローク化したとき、従来のレシプロエンジンの場合では高回転を得ることが困難であっても、可燃性ガスの膨張圧力を利用する気筒ユニット14の場合は、容易に高回転を得ることができ、燃費を改善すると共に高出力を得ることが期待できる。
【0040】
次に、気筒ユニット14の両端がロータハウジング11の内周壁面に当接している部分の構造について、添付した図面にしたがって説明する。
【0041】
気筒ユニット14側の構造は、
図3又は
図5に示し、上記したように、燃焼室23,23が、半球状或いは半球体を頂部から底面に向かって押し潰したような略半球体状の所定形状に形成されている。当該燃焼室の天井部23aには、
図6に示すように、スパークホール35、第1吸気口36、第1排気口37が、所定の位置に形成されている。
【0042】
ロータハウジング11側の構造は、
図1に示すように、スパークホール35と対向する位置にプラグホール40が、第1吸気口36と対向する位置に第2吸気口41が、第1排気口37と対向する位置に第2排気口42がそれぞれ形成されている。プラグホール40、第2吸気口41、及び第2排気口42を一組として、それらは
図1に示すように、ロータハウジング11の周壁に沿って所定間隔で複数組配置されている。これらプラグホール40等がロータハウジング11の周壁に配置される位置については、遊星歯車機構12によって減速されるクランク13に対する気筒ユニット14の回転比率によって異なる。この配置される位置の詳細については後述する。
【0043】
スパークホール35は、長穴形状に形成され、長手方向がクランク13に対して直交する方向に沿って配置されている。これによって、気筒ユニット14がクランク13を中心に回転したとき、スパークホール35が対向するロータハウジング11側の所定箇所に対して、当該スパークホール35を周期的な所定のタイミングで通過させることができる。
スパークホール35が対向するロータハウジング11側の所定箇所には、
図1に示すようにプラグホール40が形成されている。プラグホール40は、ロータハウジング11の周壁面の所定位置に、スパークホール35と互いに相対して対向するように複数個設けられている。
プラグホール40は、点火プラグ(図示略)を嵌着可能に構成されている。点火プラグは高電圧のスパークを発生可能な電極を有し、高電圧が印加されたとき、電極間に高温のスパークを発生するように構成されている。
そして、ロータハウジング11内で気筒ユニット14が回転して、点火プラグ上をスパークホール35が通過したタイミング、すなわち、点火プラグに対してスパークホール35がオーバーラップしているタイミングで点火プラグは発火してスパークを発するように構成されている。これによって、スパークがスパークホール35を通じて燃焼室内の可燃性ガスを爆発又は燃焼させることができる。
【0044】
なお、点火プラグの点火タイミングは、たとえば、クランク13の回転速度をセンサで検出し、当該回転速度を電子的に変換したパルス状の回転信号をパルス幅変調(PWM)制御等によって、気筒ユニット14の回転と同調させるように構成されている。このような公知の制御技術を用いることによって、クランク13の回転速度が変化した場合であってもそれに追随して点火タイミングを同調させることができる。さらに、スパークホール35の形状は図示した長穴形状に限定されず、ロータハウジング11側から回転している気筒ユニット14の燃焼室23,23に向かってスパークを飛ばせる形状であれば良く、或いは、スパークホール35に替えて、燃焼室23,23の天井部23aに電極を設けて、スパークを発生させるように構成しても良い。
【0045】
第1吸気口36は、可燃性ガスを燃焼室23,23内へ吸気可能に構成されている。第1排気口37は、爆発又は燃焼した可燃性ガスから形成された排気ガスを燃焼室23,23外へ排気可能に構成されている。第1吸気口36と第1排気口37の形状は、図示した略円形状に限定されず、スパークホール35と長手方向の向きを揃えた長穴形状としても良い。
これに対し、ロータハウジング11側には、第1吸気口36と対向するように第2吸気口41が形成され、第1排気口37と対向するように第2排気口42が形成されている。第2吸気口41と第2排気口42は、ロータハウジング11の周壁面に所定の間隔で複数個配置され、それぞれ第1吸気口36又は第1排気口37と互いに相対して対向するように設けられている。
【0046】
第2吸気口41は、
図1に示すように、ロータハウジング11の周方向に沿って長穴状に形成されている。これによって、気筒ユニット14がロータハウジング11内で回転して、第1吸気口36と第2吸気口41が重なり合い、気筒ユニット14側の第1吸気口36に対し、ロータハウジング11側の第2吸気口41がオーバーラップしたとき、気筒ユニット14の燃焼室23,23へ可燃性ガスを吸気させることができる。
また、第2吸気口41には吸気ポート(図示略)を介してインテークマニホールド(図示略)が接続されている。これによって、吸気ポートから供給された可燃性ガスを、所定のタイミングで気筒ユニット14の第1吸気口36を介して、燃焼室23,23へ吸気することができる。インテークマニホールドのロータハウジング11近傍には、たとえば、燃焼室23,23側に向かって開くリードバルブ等の吸気逆流防止機構を設けても良い。これによって、第2吸気口41と第1吸気口36がオーバーラップしたとき、それら第2吸気口41と第1吸気口36に隣接して配置した第2排気口42と第1排気口37が連通して排気ガスが排出されている場合に、燃焼室23,23側から第2吸気口41側へ排気ガスが逆流して混入することを防止することができる。なお、吸気逆流防止機構は、リードバルブ等に限定されるものではなく、たとえば、可燃性ガスのガス圧を利用する等しても良い。
【0047】
第2排気口42は、
図1に示すように、ロータハウジング11の周方向に沿って長穴状に形成されている。これによって、気筒ユニット14がロータハウジング11内で回転して、第1排気口37と第2排気口42が重なり合い、気筒ユニット14側の第1排気口37に対し、ロータハウジング11側の第2排気口42がオーバーラップしたとき、気筒ユニット14の燃焼室23,23から排気ガスを排気させることができる。
また、第2排気口42には、排気ポート(図示略)を介してエキゾーストマニホールド(図示略)が接続されている。これによって、燃焼室で形成された排気ガスを、第1排気口37を介して、所定のタイミングで排気ポートへ排出することができる。エキゾーストマニホールドのロータハウジング近傍には、たとえば、エキゾーストマニホールド側に向かって開くリードバルブ等の排気逆流防止機構を設けても良い。これによって、第2排気口42と第1排気口37がオーバーラップしたとき、それら第2排気口42と第1排気口37に隣接した配置した第2吸気口41と第1吸気口36が連通して吸気されている場合に、第2排気口42側から燃焼室23,23側へ可燃性ガスが吸気され逆流して混入することを防止することができる。なお、排気逆流防止機構は、リードバルブ等に限定されるものではなく、たとえば、排気ガスのガス圧を利用する等しても良い。
【0048】
本実施例に係るエンジン10では、気筒ユニット14側の第1吸気口36と第1排気口37に対して、ロータハウジング11の周方向に沿って形成した第2吸気口41と第2排気口42が、ロータハウジング11内で気筒ユニット14が回動することによって、周期的にオーバーラップし、それぞれ所定のタイミングで吸排気工程を行うように構成した。
このように構成したことによって、従来のレシプロエンジンで必須であった吸気バルブ或いは排気バルブ及びそれらのバルブを開閉させるカム、クランクの回転とバルブの開閉をリンクさせるタイミングベルト、チェーン、カムギア等のリンク機構を省くことができる。そのため、本実施例に係るエンジン10は、部品点数を抑え、極めてコンパクトに構成することができる。
【0049】
さらには、従来のロータリーエンジンは、ペリトロコイド曲線に沿った繭形状のハウジングに、略三角形状のロータを納め、当該ロータの各頂点がハウジング内壁面に沿って動かすように構成されていたため、ロータ稜線とハウジング内壁面が触れる部分を密閉するアペックスシールと呼ばれるガスシールが必要であった。当該アペックスシールは、ハウジング内壁面と線接触していることからロータ内壁面に対して波状摩耗を起こし、密閉性また耐久性にデメリットがあった。
しかしながら、本実施例に係るエンジン10によれば、気筒ユニット14の燃焼室23,23の天井部23a外側面が、ロータハウジング11の内周壁面11aに沿って面接触で当接して摺動するように構成されている。そのため、本実施例に係るエンジン10は、従来のロータリーエンジンの如く従来のレシプロエンジンに対するたとえば、極めてコンパクトに構成できる等の優位な点を保持しながらも、従来のロータリーエンジンの欠点とされていた密閉性と耐久性を高く備えるものであり、ここに本発明に係る発明者は、従来のロータリーエンジンの「ロータリー」的概念を大きく超えた新たなロータリーエンジンを発明したと強く確信する。
【0050】
本実施例に係る気筒ユニット14のシリンダ部20は、
図6に示すように、4本のシリンダ本体22をその中心がクランク13と同軸となるように配し、さらには同一平面上に並設し、当該シリンダ本体22の両端にそれぞれ燃焼室23,23を備え、都合8つの燃焼室23を備えたシリンダブロック20Aとして構成されている。
したがって、本実施例に係るロータハウジング11は、
図1に示すように、シリンダブロック20Aの長さに合わせた略円筒体形状に形成されている。そして、当該ロータハウジング11の周壁面11aには、周方向に沿った長穴形状の第2吸気口41、第2排気口42が、シリンダブロック20Aに形成された第1吸気口36、第1排気口37とそれぞれ対向するように形成され、同周壁面11aの第2吸気口41と第2排気口42に挟まれた所定の位置に形成されたプラグホール40には、点火プラグ(図示略)が嵌着されている。
なお、シリンダブロック20Aは、
図6で示した断面視が角丸長方形状を呈する略平板状に限定されるものではなく、ロータハウジング11内を満たす略円柱状、ドラム形状であっても良い。
【0051】
ロータハウジング11内には、4本のシリンダ本体22を有する8気筒分の気筒ユニット14をまとめたシリンダブロック20Aとして回転可能に収納されている。そして、ロータハウジング11の内周壁面11aに対して気筒ユニット14の両端、すなわち、燃焼室23,23の天井部23a外側面が摺動可能に当接している。
そして、遊星歯車機構12は、
図1又は
図2に示すように、内歯車18がロータハウジング11の端面に固定され、クランク13と同軸で回転する太陽歯車15と内歯車18で挟持された遊星歯車16を介し、当該遊星歯車16を軸支する遊星キャリア17に固定されたシリンダブロック20Aを、ロータハウジング11内でクランク13の回転速度に対して所定の減速比で減速させた回転速度で回転させるように構成されている。
【0052】
上記のように、本実施例に係るエンジン10は、4本のシリンダ本体22の両端にそれぞれ燃焼室23,23が形成された、いわば、水平対向8気筒エンジンのように構成されている。本実施例に係るエンジンの動作について添付した図面にしたがって以下説明する。
【0053】
まず、本実施例に係るエンジン10の動作について、シリンダブロック20Aのうち、一本のシリンダ本体22と、当該シリンダ本体22に往復運動可能に収納されるピストン本体25の動作について説明する。
シリンダ本体22内で往復運動するピストン本体25は、当該往復運動を歯車31とクランクアーム32のリンク機構を介してクランク13の回転運動へ変換する。クランク13の回転運動は、遊星歯車機構12を介して所定の減速比率でシリンダブロック20Aをロータハウジング11内で回転させる。これによって、ピストン本体25は、その往復運動でクランク13を回転させると共に、シリンダブロック20Aを回転させることができる。
【0054】
ピストン本体25の往復運動は、
図5に示すように、シリンダ本体22内でピストン本体25が一方の燃焼室23と他方の燃焼室23間を移動する動作である。すなわち、当該往復運動は、ピストン本体25の一方に連接形成されたピストンヘッド26と対向する燃焼室23内で可燃性ガスを吸気する処理が行われたとき、ピストン本体25の他方に連接形成されたピストンヘッド26と対向する燃焼室23内では排気ガスが排気される処理を行わせることができる。このように、本実施例に係るピストン部21は、ピストン本体25の両端に連接形成したピストンヘッド26,26のうち、一方のピストンヘッド26がシリンダ本体22内でピストン本体25を押し下げる動作をしたとき、他方のピストンヘッド26がシリンダ本体22内でピストン本体25によって押し上げられる動作を行うように構成されている。
【0055】
このようなピストン本体25の往復運動は、当該ピストン本体25に設けた貫通孔27に配設した内歯車30をもまた往復運動させる。内歯車30が往復運動するとき、当該内歯車30と噛合する歯車31は、
図5に示すように内歯車30に沿って回動する。クランクアーム32は、先端で歯車31を軸支し、基端でクランク13に連結されていることから、歯車31の転動にしたがってクランクアーム32が貫通孔27内で回転したとき、クランク13が回動される。
【0056】
一方、内歯車30内で歯車31が回動するとき、
図5に示すように、偏心フリーロータ33が歯車31とは逆方向に内歯車30が嵌合されている貫通孔27内を回転する。
ここで、ピストン本体25に比較的大きな貫通孔27を設けた結果、燃焼室23,23で可燃性ガスが爆発又は燃焼してピストンヘッド26,26へ交互に大きな力が加わったときに、ピストン本体25の中央部の強度が不足し、貫通孔27又は内歯車30のいずれか一方又は双方が歪むおそれがある。このようなおそれに対して、偏心フリーロータ33を貫通孔27内において回動自在に嵌合したことから、貫通孔27又は内歯車30が押しつぶされ、歪むことを防止することができる。
【0057】
次に、ピストン本体25の往復運動に係る4ストロークサイクルについて、添付した図面にしたがって説明する。
上記したように、ロータハウジング11に収納されているシリンダブロック20Aは、
図1に示すように、燃焼室23,23の天井部23a外側面がロータハウジング11の内周壁面11aに摺動可能に当接している。そのため、シリンダブロック20Aがロータハウジング11内で一回転したとき、ロータハウジング11の周壁部に複数個形成した第2吸気口41と燃焼室23の天井部23aに形成した第1吸気口36が、また同様にロータハウジング11側に複数個形成した第2排気口42と燃焼室側の第1排気口37が、何回か重なり合いオーバーラップするタイミングが周期的に発生する。
【0058】
第1吸気口36と第2吸気口41がオーバーラップしたとき、ロータハウジング11側から燃焼室23まで吸気口が連通して、燃焼室23へ可燃性ガスが送り込まれる。
また、第1排気口37と第2排気口42がオーバーラップしたとき、燃焼室23側からロータハウジング11まで排気口が連通して、燃焼室23から排気ガスが排出される。
ここで、一の燃焼室23とピストンヘッド26に注目すると、燃焼室23に対してピストンヘッド26は、吸気工程、圧縮工程、燃焼工程、排気工程を周期的に繰り返す処理を行うように構成されている。すなわち、本実施例に係るエンジン10は、以下、所定の可燃性ガスを燃料として動作する4ストロークエンジンとして説明する。
【0059】
吸気工程A1は、ピストンヘッド26が上死点から下死点に向かって動き、燃焼室23内及びピストンヘッド26側のシリンダ本体22内に負圧を発生させて可燃性ガスを吸い込む処理を行う工程である。
圧縮工程A2は、ピストンヘッド26が下死点から上死点に向かって動き、燃焼室23に向かって可燃性ガスを圧縮する処理を行う工程である。
燃焼工程A3は、燃焼室23内の可燃性ガスが爆発的に燃焼し、その圧力を以てピストンヘッド26を上死点から下死点に向かって押し下げる処理を行う工程である。
排気工程A4は、ピストンヘッド26が下死点から上死点に向かって動き、燃焼室23内及びピストンヘッド26側のシリンダ本体22内に満ちている排気ガスを燃焼室外へ排気する処理を行う工程である。
上記の各工程を順に繰り返すことによって、ピストンヘッド26の往復運動を貫通孔27内の内歯車30と噛合する歯車31の回転運動に変換し、クランクアーム32によるリンク機構を通じてクランク13の回転動力へ変換して出力することができる。
【0060】
そして、ピストン本体22の両端にピストンヘッド26,26が形成されていることから、一方のピストンヘッド26aが吸気工程A1に係る処理を行っているとき、他方のピストンヘッド26bは圧縮工程A2に係る処理を行い、続いて、一方のピストンヘッド26aが圧縮工程A2に係る処理を行っているとき、他方のピストンヘッド26bでは燃焼工程A3に係る処理が行われる。このようなピストン本体25の各工程を表1に示す。
【0061】
【0062】
表1に示したように、一方のピストンヘッド26aと他方のピストンヘッド26bは、互い違いに吸気工程A1、圧縮工程A2、燃焼工程A3、排気工程A4に係る処理が順次行われる。これによって、ピストン本体25は、
図5に示すように往復運動を行い、内歯車30と噛合して回動する歯車31とクランクアーム32を介してリンクしているクランク13が回動する。当該クランク13の回動は回転動力として出力されると共に、当該クランク13と同軸で回転する太陽歯車15によって、遊星歯車機構12を動作させ、遊星キャリア17に固定されているシリンダブロック20Aをロータハウジング11内で回動させる。
このとき、クランク13の回転速度とシリンダブロック20Aの回転速度を合わせると、当該シリンダブロック20Aは高速回転することとなる。この場合に、シリンダブロック20A及び当該シリンダブロック20Aに収納されているピストン本体25に強力な遠心力が加わることで、ピストン本体25にトラブルが発生するおそれがある。また、クランク13とシリンダブロック20Aが同期して回転すると、ロータハウジング11の周壁面に配置した点火プラグ、及び吸排気口41,42とシリンダブロック20Aに設けたスパークホール35、及び吸排気口36,37とを所定の周期的なタイミングでオーバーラップさせることが非常に困難となる。また、本実施例に係るエンジン10では、一方のピストンヘッド26aが上死点にあるとき、他方のピストンヘッド26bは下死点にあり、常に対極の動作を行うように構成されていることから、クランク13の回転に対してシリンダブロック20Aの回転を所定の減速比で回転させることが好ましい。
当該ピストン本体25の動作と遊星歯車機構12の減速比について、添付した図面にしたがって以下説明する。
【0063】
クランク13の回転運動は、遊星歯車機構12において太陽歯車15の回転運動となる。ここで、シリンダブロック20Aは遊星歯車機構12の遊星キャリア17に固定されていることから、シリンダブロック20Aは、遊星歯車機構12によってクランク13の角速度を所定の比率で減速した角速度で回転する。
図7~
図8は、遊星歯車機構12による太陽歯車15に対する遊星キャリア17の減速比と、4ストロークに係る各工程A1,A2,A3,A4との関係を模式的に示した説明図である。
図7又は
図8において、吸気工程A1、圧縮工程A2、燃焼工程A3、排気工程A4と表し、ピストンヘッド26,26の上死点をP1,P2,P3とする。
【0064】
図7は、上死点がP1,P2,P3の3点、その間に下死点が3点配置されている実施例を示したものである。隣り合う上死点と下死点間の位相は60度(π/3)に設定され、上死点P1から反時計回りに一周した場合6分割される。したがって、シリンダブロック20Aを一回転させる間にピストン本体25を上死点と下死点間で6ストロークさせることができる。
ここで、上死点P1をピストンヘッド26a側の吸気工程が始まる初期位置とする。
図7に示すように、シリンダブロック20Aが1周につき6ストローク分が割り振られており、4ストロークエンジンでは、クランク13を回転させるため、吸気工程A1、圧縮工程A2、燃焼工程A3、排気工程A4の4ストローク分が必須である。したがって、シリンダブロック20Aが1周するとき6ストローク行われ、エンジン10の動作で必要な4ストローク分の最小公倍数である12ストローク分、すなわち、4ストロークを3回繰り返し、一方でシリンダブロック20Aが2回転すると、ピストンヘッド26aは初期位置P1に帰還する。これにより、続けてピストンヘッド26aに最初の吸気工程A1を行わせることができる。
【0065】
一方、シリンダブロック20A一回転分に6ストローク、つまりピストン本体25が3往復することからクランク13が3回転したとき、シリンダブロック20Aは1周する。したがって、遊星歯車機構12の太陽歯車15、すなわちクランク13と、遊星歯車16と遊星キャリア17に固定されているシリンダブロック20Aの減速比率は3:1に定まる。
【0066】
また、一方のピストンヘッド26aはピストン本体25を挟んで他方のピストンヘッド26bの対極に配置されていることから、一方のピストンヘッド26aが上死点に位置しているとき、他方のピストンヘッド26bは必ず下死点に位置している。この両ピストンヘッド26a,26bの位置関係に対して、表1に示した一方のピストンヘッド26aと他方のピストンヘッド26bの各工程A1,A2,A3,A4を割り当てると、各上死点の点火順は、下記の表2に示したように、一方のピストンヘッド26aが上死点P1の初期位置から下死点へ向かって吸気工程を行うとき、対極にある他方のピストンヘッド26bは下死点から上死点P3へ向かって圧縮工程が行われ、当該上死点P3において点火順1回目で点火される。一方のピストンヘッド26aと他方のピストンヘッド26bで交互に3回ずつ、計6回点火させたとき、一方のピストンヘッド26aを初期位置P1へ帰還させることができる。
このときの一方のピストンヘッド26aと他方のピストンヘッド26bの各工程A1,A2,A3,A4をまとめたものが、表3である。
【0067】
【0068】
【0069】
本実施例に係るエンジン10では、
図7に示したピストン本体25の動作を、
図6に示したシリンダブロック20Aのシリンダ本体22aとシリンダ本体22dに行わせるように構成されている。
次に、シリンダ本体22bとシリンダ本体22cに係るピストン本体25の動作を
図8に示す。
図8に示したピストン本体25の位置によれば、シリンダ本体22a,22d内の一方のピストンヘッド26aが
図7に示した上死点P1の位置にあるとき、シリンダ本体22b,22c内の一方のピストンヘッド26aは
図8に示した上死点P1の位置にある。
このとき、シリンダ本体22a,22b,22c,22dへそれぞれ収納されているピストン本体25は、クランク13を共有していることから、
図7に示したピストン本体25の位置に対して、
図8に示したピストン本体25の位置は、
図7と
図8を重ね合わせると常に180度対称的な位置にある。そのため、シリンダブロック20A内で4本のピストン本体が往復運動を行ったとき、
図4に示すように、シリンダ本体22a,22d内のピストン本体25と、シリンダ本体22b,22c内のピストン本体25は、互いに相反する往復運動を行うように構成されている。これによって、一方のシリンダ本体22a,22dに収納されているピストン本体25の往復運動に係る振動を、他方のシリンダ本体22b,22cに収納されているピストン本体25の往復運動に係る反対位相の振動で相殺することができ、シリンダブロック20A全体として振動を抑制し、ロータハウジング11内でよりスムーズにシリンダブロック20Aを回転させることができる。
【0070】
さらに、本実施例に係るエンジン10のシリンダ部20を構成するシリンダブロック20Aでは、4本のピストン本体25を収納可能な4本のシリンダ本体22a,22b,22c,22dについて説明したが、他の実施例として、
図9に示すように、2本のシリンダ本体22e,22fを備えるシリンダブロック20Bを構成しても良い。この場合、一方のシリンダ本体22eに収納されているピストン本体25は、
図7に示すように動作し、他方のシリンダ本体22fに収納されているピストン本体25は、
図8に示すように動作するように構成する。これによって、2本のシリンダ本体22e,22fの両端に4つの燃焼室23,23を備えた、あたかも水平対向4気筒エンジンのように構成することができ、さらには、上記したように互いに相反する往復運動をするピストン本体25によって、シリンダブロック20Bの振動を抑制して、ロータハウジング11内でスムーズに回転させることができる。
【0071】
また、上記のようなシリンダ本体22を2本又は4本内包するシリンダブロック20A,20Bを備えた本実施例に係る気筒ユニット14に基づくと、シリンダブロック20A,20B内のシリンダ本数は2本又は4本の構成に限定されず、6本(12気筒)、8本(16気筒)、10本(20気筒)のように偶数本のシリンダを備えたシリンダブロックを有するエンジンとして構成することも容易である。この場合は、シリンダブロックとロータハウジングが長尺化して、エンジンが大型化することから、自動車用エンジンに限定されることなく、たとえば、船舶、プラントのボイラー等に使用するようにしても良い。
【0072】
本実施例に係るエンジン10によれば、ロータハウジング11内でシリンダブロック20A,20Bがクランク13に対して所定の減速比で回動し、シリンダ本体22a,22b,22c,22d,22e,22fに収納されたピストン本体25の往復運動をクランク13の回転運動へ変換し、回転動力として出力するように構成した。このとき、シリンダブロック20A,20Bで発生し得る振動を、当該シリンダブロック20A,20Bの各シリンダ本体22a,22b,22c,22d,22e,22fに収めた偶数本のピストン本体25を互いに相反する方向へ往復運動させて抑制するようにした。これによって、シリンダブロック20A,20Bを貫通するクランク13が歪まないようにして、当該シリンダブロック20A,20Bをロータハウジング11内で回動させることができ、さらにはエンジン10全体の振動を抑制し、騒音等を抑制することができる。
【0073】
さらに、本実施例に係るエンジン10によれば、可燃性を備えたガス体であれば燃料とすることができるため、従来のガソリン混合気体、霧状の軽油等に加え、水素ガス、バイオエタノール、メタンガス等も燃料とすることができる。特に燃焼後に水分が生成される水素ガス等の場合は、従来のエンジンの場合は、燃焼室内に水蒸気が充満し、燃焼室壁面或いはピストンヘッド端面で冷やされて水となった場合に、ウォーターハンマー等のトラブルが発生するおそれがあるが、本実施例に係るエンジン10によれば、気筒ユニット14に係るシリンダブロック20A,20Bを回動させていることから、燃焼室23の天井部23aに水分が溜まり、第1排気口37或いはスパークホール35から燃焼室23外へ排水することができ、燃焼室23内に水分が貯留することによるトラブルの発生を予防することができる。
【0074】
加えて、本実施例に係るエンジン10によれば、重量物のシリンダブロック20A,20Bをロータハウジング11内で回動させるように構成した。そのため、従来のエンジンのように、回転数が頻繁に変化するような使用方法よりも、一定の回転数を維持する使用方法が好ましい。この場合、公知のレンジエクステンダー、或いはシリーズハイブリッド用として発電機と組み合わせて最も効率の良い回転数を維持しながら発電し、発電された電力を用いてモータを回させることができる。このとき、エンジン10内の重量物であるシリンダブロック20A,20Bがクランク13を中心に回動することによって、当該シリンダブロック20A,20Bが、あたかもフライホイールのように動作する。そのため、シリンダブロック20A,20B自身の回転を安定させることができ、周期的な吸排気、燃焼タイミングを安定させることが出来るので、燃費を改善することができる。
第2実施例に係るロータモジュール11Aの基本的な構成は、第1実施例で説明したエンジン10と同様である。第1実施例に係るエンジン10と第2実施例に係るエンジン10Aとの相違点は、第1実施例に係るエンジン10の気筒ユニット14が、複数本のシリンダ本体22を内包するシリンダブロック20A又はシリンダブロック20Bから構成されているのに対して、第2実施例に係るエンジン10Aは、複数個のロータモジュール11Aから構成され、当該ロータモジュール11Aは、一本のシリンダ本体22を内包するシリンダケース20Cを備えた気筒ユニット14を有している点である。当該シリンダケース20Cが、円筒形のロータハウジング11に回転可能に収納され、遊星歯車機構12がクランク13の回転に対して所定の減速比でロータハウジング11内に収納したシリンダケース20Cを回転する態様は、第1実施例に説明したエンジン10と同様である。
本実施例に係るエンジン10Aによれば、従来、直列6気筒エンジンにおいて一列に並設されたシリンダが、互いに互いの慣性力と偶力を打ち消し合って振動を相殺する効果を3本のシリンダケース20Cで実現することができる。これによって、従来の直列6気筒エンジンと同様のメリットを有しながらも、当該直列6気筒エンジンよりもエンジンの前後長を短くし、エンジン全体をコンパクトに構成することができる。そのため、クランク13の長さを短くすると共に、シリンダ本体22内では対向配置されたピストンヘッド26a,26bの間のコンロッドを省略する気筒ユニット14の構成と併せて、従来の直列6気筒エンジンよりもコンパクトに構成されたエンジンをさらに軽量化することができる。