IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ スタンレー電気株式会社の特許一覧

特開2024-164495液晶素子の製造方法、液晶素子、照明装置、車両用灯具システム
<>
  • 特開-液晶素子の製造方法、液晶素子、照明装置、車両用灯具システム 図1
  • 特開-液晶素子の製造方法、液晶素子、照明装置、車両用灯具システム 図2
  • 特開-液晶素子の製造方法、液晶素子、照明装置、車両用灯具システム 図3
  • 特開-液晶素子の製造方法、液晶素子、照明装置、車両用灯具システム 図4
  • 特開-液晶素子の製造方法、液晶素子、照明装置、車両用灯具システム 図5
  • 特開-液晶素子の製造方法、液晶素子、照明装置、車両用灯具システム 図6
  • 特開-液晶素子の製造方法、液晶素子、照明装置、車両用灯具システム 図7
  • 特開-液晶素子の製造方法、液晶素子、照明装置、車両用灯具システム 図8
  • 特開-液晶素子の製造方法、液晶素子、照明装置、車両用灯具システム 図9
  • 特開-液晶素子の製造方法、液晶素子、照明装置、車両用灯具システム 図10
  • 特開-液晶素子の製造方法、液晶素子、照明装置、車両用灯具システム 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024164495
(43)【公開日】2024-11-27
(54)【発明の名称】液晶素子の製造方法、液晶素子、照明装置、車両用灯具システム
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/1337 20060101AFI20241120BHJP
   G02F 1/13 20060101ALI20241120BHJP
   G02F 1/1335 20060101ALI20241120BHJP
【FI】
G02F1/1337 530
G02F1/13 505
G02F1/1335 510
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023080006
(22)【出願日】2023-05-15
(71)【出願人】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001184
【氏名又は名称】弁理士法人むつきパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】都甲 康夫
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 里実
【テーマコード(参考)】
2H088
2H290
2H291
【Fターム(参考)】
2H088EA45
2H088FA09
2H088FA10
2H088GA02
2H088GA17
2H088HA03
2H088HA17
2H088HA18
2H088HA20
2H088HA21
2H088HA24
2H088HA28
2H088JA10
2H088KA27
2H088MA07
2H088MA20
2H290AA35
2H290AA37
2H290BA62
2H290BE03
2H290BF13
2H290BF52
2H290BF54
2H290CB33
2H291FA22X
2H291FA28Z
2H291FA29Z
2H291FA30X
2H291FA30Z
2H291FA36Z
2H291FA56X
2H291FA85Z
2H291FA86Z
2H291FA87Z
2H291GA08
2H291LA25
2H291LA26
2H291LA40
2H291MA20
2H291PA44
(57)【要約】      (修正有)
【課題】簡易な構成で複数の配向ドメインを有する液晶素子等を得ること。
【解決手段】一軸配向処理が行われた第1配向膜を有する第1基板を形成する第1工程と、一軸配向処理が行われた第2配向膜を有する第2基板を形成する第2工程と、光照射によって重合可能なモノマーを含む液晶材料を用いて前記第1配向膜と前記第2配向膜との間に液晶層を形成する第3工程と、前記液晶層の平面視において隣り合う第1領域と第2領域のうち少なくとも当該第1領域に対して電圧無印加又は閾値未満の電圧印加の状態にて、当該第1領域に対して光照射を行う第4工程と、を含む、液晶素子の製造方法である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一軸配向処理が行われた第1配向膜を有する第1基板を形成する第1工程と、
一軸配向処理が行われた第2配向膜を有する第2基板を形成する第2工程と、
光照射によって重合可能なモノマーを含む液晶材料を用いて前記第1配向膜と前記第2配向膜との間に液晶層を形成する第3工程と、
前記液晶層の平面視において隣り合う第1領域と第2領域のうち当該第1領域に対して電圧無印加又は閾値未満の電圧印加の状態にて光照射を行う第4工程と、を含む、
液晶素子の製造方法。
【請求項2】
前記第4工程の後に、前記液晶層の前記第1領域と前記第2領域の各々に対して前記閾値以上の電圧印加の状態にて、前記第1領域及び前記第2領域に対して光照射を行う第5工程、を更に含む、
請求項1に記載の液晶素子の製造方法。
【請求項3】
前記第3工程は、前記第1配向膜又は前記第2配向膜に前記液晶材料を滴下した後、前記第1配向膜と前記第2配向膜とが対向するように前記第1基板と前記第2基板とを貼り合わせることを含む、
請求項1に記載の液晶素子の製造方法。
【請求項4】
前記第3工程は、前記第1配向膜と前記第2配向膜とが対向するように前記第1基板と前記第2基板とを貼り合わせた後、前記第1配向膜と前記第2配向膜との間に前記液晶材料を真空注入することを含む、
請求項1に記載の液晶素子の製造方法。
【請求項5】
前記モノマーの光重合部はアクリレート又はメタクリレートであり、当該モノマーは、環部と末端基との間の少なくとも一方にフレキシブルな部位を有する、
請求項1に記載の液晶素子の製造方法。
【請求項6】
前記モノマーの前記環部は、フッ素基を有する、
請求項1に記載の液晶素子の製造方法。
【請求項7】
前記モノマーの前記環部は、2環以上である、
請求項1に記載の液晶素子の製造方法。
【請求項8】
前記第1配向膜及び前記第2配向膜は、シロキサン系垂直配向膜である、
請求項1に記載の液晶素子の製造方法。
【請求項9】
前記液晶材料における前記ポリマーの濃度が0.3wt%以上である、
請求項1に記載の液晶素子の製造方法。
【請求項10】
請求項1に記載の製造方法によって製造される、液晶素子。
【請求項11】
前記液晶素子の前記液晶層は、前記第1領域において前記第1配向膜及び前記第2配向膜によって定まる方向とは逆方向にプレティルト角を発現し、前記第2領域において前記第1配向膜及び前記第2配向膜によって定まる方向と同方向にプレティルト角を発現する、
請求項10に記載の液晶素子。
【請求項12】
請求項10に記載の液晶素子と、
光源と、
前記光源から出射する光を集光して前記液晶素子へ入射させる光学部材と、
前記液晶素子を挟んで対向配置される一対の偏光板と、
を含む、照明装置。
【請求項13】
前記液晶素子の前記第1領域と前記第2領域のそれぞれに入射する光は、互いに異なる方向から入射する、
請求項12に記載の照明装置。
【請求項14】
請求項12に記載の照明装置を含んで構成される、車両用灯具システム。
【請求項15】
対向配置される第1基板及び第2基板と、
前記第1基板の前記第2基板と対向する側に配置された第1配向膜と、
前記第2基板の前記第1基板と対向する側に配置された第2配向膜と、
前記第1基板と前記第2基板との間に配置された液晶層と、
前記液晶層を囲んで前記第1基板と前記第2基板の間に配置されており、一部分を開口して構成された注入口を有するシール材と、
を含み、
前記第1配向膜と前記第2配向膜は、各々、一軸配向処理が施され、前記液晶層と接する面において一方向への配向規制力を有しており、
前記第1配向膜と前記液晶層との界面及び前記第2配向膜と前記液晶層との界面の各々には、光照射によって重合可能なモノマー若しくは当該モノマーが重合したポリマーが存在し、
前記液晶層は、平面視において第1領域と第2領域とを有し、
前記第1領域は、前記配向規制力の方向と逆方向にプレティルト角を有し、前記第2領域は、前記配向規制力の方向と同方向にプレティルト角を有する、
液晶素子。
【請求項16】
前記第1領域と前記第2領域において、前記第1の配向膜および前記第2の配向膜は、各々連続して形成され、前記配向規制力は各々同一方向である、請求項15の液晶素子。
【請求項17】
前記液晶層における前記ポリマーの濃度が0.3wt%以上である、請求項15または請求項16に記載の液晶素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、液晶素子の製造方法、液晶素子、照明装置、車両用灯具システムに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶素子の視角依存性を改善する手法の1つとして、視角特性の異なる複数の配向ドメインを用いる手法が知られている(例えば、特開昭63-106624号公報参照)。上記手法によれば、各ドメインによって視認方向を異ならせることが可能となり、全体として液晶素子の視角依存性が改善される。しかし、複数の配向ドメインを形成するためには、一般に製造プロセスが複雑化しやすいという点で改良の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭63-106624号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示に係る具体的態様は、簡易な構成で複数の配向ドメインを有する液晶素子等を提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
[1]本開示に係る一態様の液晶素子の製造方法は、(a)一軸配向処理が行われた第1配向膜を有する第1基板を形成する第1工程と、(b)一軸配向処理が行われた第2配向膜を有する第2基板を形成する第2工程と、(c)光照射によって重合可能なモノマーを含む液晶材料を用いて前記第1配向膜と前記第2配向膜との間に液晶層を形成する第3工程と、(d)前記液晶層の平面視において隣り合う第1領域と第2領域のうち当該第1領域に対して電圧無印加又は閾値未満の電圧印加の状態にて光照射を行う第4工程と、を含む、液晶素子の製造方法である。
[2]本開示に係る一態様の液晶素子は、前記[1]の製造方法によって製造される、液晶素子である。
[3]本開示に係る一態様の照明装置は、(a)前記[2]の液晶素子と、(b)光源と、(c)前記光源から出射する光を集光して前記液晶素子へ入射させる光学部材と、(d)前記液晶素子を挟んで対向配置される一対の偏光板と、を含む、照明装置である。
[4]本開示に係る一態様の車両用灯具システムは、前記[3]の照明装置を含んで構成される、車両用灯具システムである。
【0006】
上記構成によれば、簡易な構成で複数の配向ドメインを有する液晶素子とその製造方法並びにこれを備える照明装置、車両用灯具システムを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1(A)は、一実施形態の液晶素子の構成を示す模式的な断面図である。図1(B)は、液晶素子の構成を示す模式的な平面図である。
図2図2(A)は、液晶素子を第2基板側から見た模式的な平面図である。図2(B)は、垂直配向型の液晶素子を極角方向について±20°の方向を視認方向および逆視認方向として計測した電気光学特性を例示するグラフである。
図3図3(A)~図3(E)は、液晶素子を得るための製造方法の一例を説明するための図である。
図4図4(A)~図4(D)は、液晶素子を得るための製造方法の一例を説明するための図である。
図5図5は、RM剤の構造モデルを示す図である。
図6図6(A)~図6(C)は、非好適なRM剤の一例の化学式を示す図である。
図7図7は、逆プレティルトを得られる領域R1における配向膜へのラビング強度依存性についての評価結果を示す図である。
図8図8は、逆プレティルトを得られる領域R1における液晶層への電圧印加によるプレティルト角の変化についての評価結果を示す図である。
図9図9は、一実施形態の車両用灯具システムの構成を示す図である。
図10図10(A)は、車両用灯具システムにおける液晶素子の画素部の構成例を示す模式的な平面図である。図10(B)は、液晶素子における視認方向を説明するための模式的な平面図である。
図11図11(A)は、液晶素子に対する光の入射方向を模式的に示す図である。図11(B)は、液晶素子に対する光の入射範囲を説明するための模式的な平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1(A)は、一実施形態の液晶素子の構成を示す模式的な断面図である。また、図1(B)は、この液晶素子の構成を示す模式的な平面図である。図1(A)に示す断面図は、図1(B)に示すa-a線における断面に対応している。各図に示す液晶素子1は、対向配置された第1基板11および第2基板12、共通電極(対向電極)13、複数の画素電極14、配向膜15、16、液晶層17、シール材18を含んで構成されている。
【0009】
第1基板11および第2基板12は、それぞれ、例えば平面視において矩形状の基板であり、互いに対向して配置されている。各基板としては、例えばガラス基板、プラスチック基板等の透明基板を用いることができる。第1基板11と第2基板12の間には、例えば樹脂膜などからなる球状スペーサー(図示省略)が分散配置されており、それら球状スペーサーによって基板間隙が所望の大きさ(例えば数μm程度)に保たれている。なお、球状スペーサーに代えて、樹脂等からなる柱状体を第1基板11側若しくは第2基板12側に設け、それらをスペーサーとして用いてもよい。
【0010】
共通電極13は、第1基板11の第2基板12と対向する側に設けられている。これらの共通電極13は、例えばインジウム錫酸化物(ITO)などの透明導電膜を適宜パターニングすることによって構成されている。本実施形態では、領域R1と領域R2に渡って配置される1つの共通電極13が設けられているが、領域ごとに共通電極を設けてもよい。
【0011】
各画素電極14は、第2基板12の第1基板11と対向する側に設けられている。各画素電極14は、例えばインジウム錫酸化物(ITO)などの透明導電膜を適宜パターニングすることによって構成されている。各画素電極14と共通電極13の対向する部分のそれぞれにおいて画素部が構成される。
【0012】
配向膜(第1配向膜)15は、第1基板11の一面側において各共通電極13を覆うように設けられている。同様に、配向膜(第2配向膜)16は、第2基板12の一面側において各画素電極14を覆うように設けられている。各配向膜15、16としては、例えば液晶層17の配向状態を略垂直配向に規制する垂直配向膜が用いられる。各配向膜15、16にはラビング処理等の一軸配向処理が施されており、液晶層17の液晶分子の配向を規定する一方向への配向規制力を有している。各配向膜15、16への配向処理の方向は、例えば互い違い(アンチパラレル)となるように設定される。各配向膜15、16の素材としては特に限定はないが、例えばシロキサン系垂直配向膜などの無機配向膜を用いることも好ましい。各配向膜15、16は、材料やラビング条件により、後述する紫外線照射処理前において液晶層17の液晶分子に対して89.4°以上のプレティルト角を発現させるものであることが好ましい。
【0013】
液晶層17は、第1基板11と第2基板12の間に設けられている。本実施形態においては、誘電率異方性Δεが負であり、カイラル材を含み、流動性を有するネマティック液晶材料を用いて液晶層17が構成される。本実施形態の液晶層17は、電圧無印加時における液晶分子の配向方向が一方向に傾斜した状態となり、各基板面に対して90°未満の範囲内であって90°に近い値のプレティルト角を有する略垂直配向となるように設定されている。
【0014】
シール材18は、液晶層17を封止するためのものであり、第1基板11と第2基板12の間において液晶層17を囲んで配置されている。図1(B)に示すように、シール材18は、第1基板11と第2基板12の間において環状に設けられている。本実施形態では、液晶層17がODP法(液晶滴下法)によって形成されていることを想定しているためにシール材18には注入口が設けられていない。なお、液晶層17が真空注入法で形成される場合にはシール材18の一部に適宜注入口(開口部)が設けられ、注入口がエンドシール材によって封止される。
【0015】
ここで、本実施形態の液晶素子1は、シール材18に囲まれた内側である有効領域内において2つの領域R1、R2を有している。図1(B)に示すように、領域R1は、図中において左側の領域であり、領域R2は、図中において右側の領域である。本実施形態では、領域R1、R2のそれぞれにおいて液晶層17のプレティルト角が異なっている。具体的には、図1(A)において第1基板11の液晶層17と対向する面を基準(0°)として図中の時計回りにプレティルト角を定義したとすると、領域R1のプレティルト角は、90°よりも大きい値であって90°に近い値(例えば、90.5°)であり、領域R2のプレティルト角は、90°よりも小さい値であって90°に近い値(例えば、89.5°)である。すなわち、領域R1と領域R2では液晶層17の配向ドメインが異なっている。
【0016】
また、本実施形態では、領域R1における視認方向21と領域R2における視認方向22は互いに逆方向となっている。図示の例では、領域R1の視認方向21は図中の右下方向へ向かう方向であり、領域R2の視認方向22は図中の左上方向へ向かう方向である。ここで、本実施形態における「視認方向」について説明する。図2(A)に液晶素子1を第2基板12側から見た平面図を模式的に示すように、第1基板11の配向膜15に対する配向処理方向23と第2基板12の配向膜16に対する配向処理方向24とがアンチパラレル配向である場合において、配向処理方向23と略一致する方向25が視認方向である。また、この方向25と逆方向26は逆視認方向である。
【0017】
図2(B)に、垂直配向型の液晶素子を極角方向について±20°の方向を視認方向および逆視認方向として計測した電気光学特性を例示する。例示のように、一般に視認方向と逆視認方向では透過率に差異を生じ、特にいわゆる中間調の電圧範囲でその傾向が顕著となる。例えば、印加電圧4Vの際の透過率を見ると、視認方向では32%程度であるのに対して逆視認方向では10%程度となる。つまり、換言すれば、液晶素子においては、視認方向ないしそれに近い方向から光を入射させた場合と、逆視認方向ないしそれに近い方向から光を入射させた場合で透過率特性が異なる。
【0018】
上記のように領域R1と領域R2でプレティルト角が異なり、それに伴い視認方向(並びに逆視認方向)も異なる液晶素子1を得るための製造方法の一例について図3(A)~図3(E)及び図4(A)~図4(D)を参照しながら説明する。
【0019】
図3(A)に示すように、第1基板11としての透明基板を用意し、その片側表面(向かい合う面)に共通電極13を形成し、更に配向膜15を形成する。また、図3(B)に示すように、第2基板12としての透明基板を用意し、その片側表面(向かい合う面)に各画素電極14を形成し、更に配向膜16を形成する。なお、各基板上にはTFTやカラーフィルタを形成しても構わない。
【0020】
ここでは各配向膜15、16として垂直配向膜をフレキソ印刷にて形成したが、インクジェットなどにより形成しても良い。配向膜形成後は所定の温度で熱処理を行い、更に一軸配向処理としてのラビング処理を行う。熱処理条件やラビング条件については特段限定がなく、公知の条件を適宜選択できる。これにより、一軸配向処理が行われた配向膜15を有する第1基板11と、同じく一軸配向処理が行われた配向膜16を有する第2基板12が形成される。
【0021】
次に、図3(C)に示すように、いずれかの基板(ここでは第1基板11)の片側表面にシール材18を印刷するとともに、ギャップコントロール剤を散布する。なお、ギャップコントロール剤の代わりに樹脂スペーサーを用いてもよい。
【0022】
次に、図3(D)に示すように、シール材18の内側にODF法を用いて液晶材料17aを滴下する。ここで、本実施形態における液晶材料としては、誘電率異方性が負の液晶材料であって、例えば0.3wt%以上のリアクティブメソゲン剤(以下、RM剤)が添加されたものを用いる。RM剤の濃度は、安定なプレティルト角を得るため、0.3wt%以上であることが好ましい。0.3wt%以上において安定なプレティルト角を得ることができる傾向は、種々のRM剤において確認でき、特定のRM剤の濃度を0.3wt%以上とすることにより、89.7°より傾いたプレティルト角を安定に得ることができた。
【0023】
その後、図3(E)に示すように、第1基板11と第2基板12を重ね合わせ、シール材18の焼成(プレス焼成)を行う。それにより、第1基板11の配向膜15と第2基板12の配向膜16の間に液晶層17が形成される。ここでは、液晶層17は、各配向膜15、16による配向規制力を受けて一様に配向する。
【0024】
なお、液晶層17の形成法については、上記のODF法ではなく真空注入法が用いられてもよいが、ODF法を用いたほうが液晶層17内でのRM剤の濃度分布がより均一となるので好ましい。真空注入法を用いる場合にはシール材18の一部に注入口を設けておき、第1基板11と第2基板12を重ね合われた後、注入口を用いて液晶材料17aの注入が行われる。その後、注入口はエンドシール材によって封止される。
【0025】
次に、図4(A)に示すように、領域R2に対応する範囲を遮光するマスクMを第1基板11側(もしくは第2基板12側)に配置し、このマスクMを配置した側から液晶層17に対して紫外線を照射する。すなわち、領域R1に対して選択的に紫外線を照射する。このとき、液晶層17には液晶層17に対して電圧を無印加とするか、電圧を印加したとしても閾値未満の電圧とする。また、紫外線の照射方向については不問である。例えば、斜め方向から照射する等の処置は特段不要であるし、平行光を用いる必要もない。なお、シール材18として紫外線硬化型のシール材を用いた場合には、本工程においてシール材18の硬化を兼ねてもよい。
【0026】
上記したように、液晶層17への紫外線照射時には液晶層に電圧を印加しないか、閾値電圧未満の電圧を印加することで、図4(B)に示すように、領域R1における液晶層17の液晶分子は、配向膜による配向規制力と逆の方向にプレティルトを有するようになる。すなわち、領域R1と領域R2は、それぞれ一様配向であるがその配向方向が異なる状態になる。つまり、2ドメイン配向の液晶素子1が得られる。なお、紫外線照射時に閾値電圧以上の電圧を印加した場合には、液晶分子を配向膜による配向規制力と逆の方向にプレティルトを有するよう反転させることはできない。
【0027】
領域R1におけるプレティルト角は配向膜に対するラビング強度への依存性が少なく、例えば90.2°~90.3°程度となる。領域R2におけるプレティルト角は配向膜に対するラビング強度に対する依存性があり、例えば88.6°~89.7°程度となる。
【0028】
また、液晶層17へ電圧無印加の状態で1回目の紫外線照射をした後に、液晶層17へ閾値電圧以上の電圧を印加した状態で2回目の紫外線照射をすることでプレティルト角をさらに調整することができる。具体的には、図4(C)に示すように、各画素電極14と共通電極13を用いて領域R1、R2の液晶層17に電圧を印加しながら、領域R1、R2の全体に液晶層17に紫外線を照射する。
【0029】
それにより、図4(D)に示すように、領域R1では1回目の紫外線照射によって得られた液晶層17の配向方向を維持しながら、印加する電圧の大きさにより、紫外線照射後に得られる液晶素子1における領域R1での液晶層17のプレティルト角の大きさを制御することができる。また、領域R2では各配向膜15、16によって得られた液晶層17の配向方向を維持しながら、印加する電圧の大きさにより、紫外線照射後に得られる液晶素子1における領域R2での液晶層17のプレティルト角の大きさを制御することができる。
【0030】
ここで、本実施形態では液晶材料に添加しておくRM剤として以下に説明するような条件を満たすものを用いる。それにより、上記のような製造方法を経て得られる液晶素子1において、互いにプレティルト角の異なる領域R1、R2を設けることが可能となる。
【0031】
本願発明者は、種々のRM剤について検討したところ、領域R1と領域R2で異なるプレティルト角を得られやすいRM剤の条件を以下の通りに見出した。図5に示した構造モデルを参照しながらその特徴を説明する。また、下記に示す特徴を有するRM剤として、例えば、2-Propenoic acid, 2-methyl-,2’-fluoro-4”-[3-[(2-methyl-1-oxo-2-propen-1-yl)oxy]propyl][1,1’:4’,1”-terphenyl]-4-yl ester(CAS登録番号:1299463-48-1)、2-Propenoic acid, 2-methyl-, 4”-[3-[(2-methyl-1-oxo-2-propen-1-yl)oxy]propyl][1,1’:4’,1”-terphenyl]-4-yl ester、2-Propenoic acid, 3-[4'-[(1-oxo-2-propen-1-yl)oxy][1,1’-biphenyl]-4-yl]propyl ester(CAS登録番号:1422344-81-7)、2-Propenoic acid, 3-[7-[(1-oxo-2-propen-1-yl)oxy]-2-phenanthrenyl]propyl ester(CAS登録番号:1422344-87-3)、および、2-Propenoic acid, 1,1'-(2’-fluoro[1,1’:4’,1”-terphenyl]-4,4"-diyl)ester(CAS登録番号:1422344-90-8)などが挙げられる。
【0032】
(特徴1)
末端基1、2のうち少なくとも一方はアクリレートやメタクリレートなどの光重合可能な部位である。末端基の他方はメチル基などのアルキル基でもよいが、末端基の両側ともに光重合可能な部位であることがより好ましい。なお、末端基の片側のみに光重合可能な部位を含むRM剤と両側に光重合可能な部位を含むRM剤とを混合して用いてもよい。
【0033】
(特徴2)
主骨格と各末端基1、2を接続する部位である接続部1、2のうち少なくとも一方は、アルキル鎖などのフレキシブルな部位である。すなわち、少なくとも一方の接続部は、分子式CxH2xにおいて、xが3以上、より好ましくはxが3以上で5以下のアルキル鎖であることが好ましい。また、一方(例えば接続部1)の末端基のxが3以上であれば、反対側(例えば接続部2)は主骨格と末端基が直接接続されていてもよい(すなわち、接続部2はなくてもよい)。
【0034】
(特徴3)
主骨格は、2環以上(より好ましくは3環以上)である。さらに、一部の水素がフッ素などに置換されていてもよいし、フッ素置換基などが導入されていてもよい。主骨格は、2環以上(より好ましくは3環以上)のベンゼン環であることがより好ましい。また、フッ素基等がベンゼン環の一部に付いていることも好ましい。具体的には、例えば、フェナントレン構造及びその一部水素がフッ素などの置換されたものや、ターフェニル構造、テルフェニル構造(ベンゼン環が2つ以上のもの)及びその一部水素がフッ素などに置換されたものが好ましい。
【0035】
他方、本願発明者は、領域R1と領域R2で異なるプレティルト角を得られないRM剤の条件を以下の通りに見出した。以下の条件に該当するRM剤の一例の化学式を図6(A)~図6(C)に示す。
【0036】
(特徴1)
左右対称な分子構造である
(特徴2)
フレキシブルな部位が存在しない
(特徴3)
フレキシブルな部位が存在した場合でも3環部(3つの接続した環を含む環状化合物の部位)もフレキシブルな部位であり、剛直な部位がない
(特徴4)
環部にフッ素基が存在しない(メチル基は存在する)
(特徴5)
緻密な重合体になりやすい
【0037】
上記した条件によるRM剤を用いて液晶素子1を製造することで、紫外線を照射された領域R1では配向処理方向(配向規制力の方向)と逆方向にプレティルト角が発生し、紫外線を照射されていない領域R2では配向処理方向(配向規制力の方向)と同方向にプレティルト角が発生する。そのため、複雑な製造工程を経なくても容易に2ドメイン配向を得ることができる。すなわち、紫外線照射の有無によって、液晶素子1の平面視において概ね半分の領域R1では逆プレティルトの状態、残りの概ね半分の領域R2では順プレティルトの状態を得ることができる。
【0038】
図7は、逆プレティルトを得られる領域R1における配向膜へのラビング強度依存性についての評価結果を示す図である。ここでは、配向膜としてシロキサン系無機配向膜を用い、配向膜へのラビング強度を3段階に設定した液晶素子1のサンプルを作製し、それぞれのプレティルト角を測定した。ラビング強度については主として押し込み量を変化させた。具体的には、一般的な強度である「中ラビング」と、これより押し込み量を大きくした「強ラビング」と、押し込み量を小さくした「弱ラビング」の3種類のラビング強度とした。
【0039】
図示のように、領域R1での紫外線(UV)照射前のプレティルト角はラビング強度に依存しており、ラビング強度が強いほどプレティルト角が90°に近かった。これに対して、紫外線照射後のプレティルト角は、照射前のプレティルト角によらず90.2°~90.3°に収まっていた。つまり、領域R1での紫外線照射後のプレティルト角はラビング条件にほとんど依存しないといえるので、液晶素子1の製造時のラビング条件に関するマージンを広くすることができる。
【0040】
図8は、逆プレティルトを得られる領域R1における液晶層への電圧印加によるプレティルト角の変化についての評価結果を示す図である。ここでは、上記したラビング強度依存性における「中ラビング」の条件で作製した液晶素子1のサンプルを用いた。図示のように、紫外線照射前には約89.6°のプレティルト角であった。その後、1回目の紫外線照射として、液晶層17へは電圧無印加(ないし閾値未満の電圧印加)で6分間の紫外線照射を行うことで液晶層17の配向方向が反転し、プレティルト角は約90.2°となった。その後、2回目の紫外線照射として7分間の紫外線照射を行ったが、その際、液晶層17に20Vの電圧を印加した場合にはプレティルト角が約91.25°となり、電圧無印加(ないし閾値未満の電圧印加)とした場合にはプレティルト角が約90.3°となった。
【0041】
つまり、上記したように、2段階での紫外線照射を行い、その2回目において液晶層17に電圧を印加することでプレティルト角を制御できることが示された。なお、本例のように1回目の紫外線照射と2回目の紫外線照射は連続的に行われてもよいし、1回目を終えて2回目を行うまでの時間を空けてもよい。
【0042】
なお、始めの紫外線照射時から液晶層17に電圧を印加した場合には、液晶層17の配向方向が反転することはなく、配向膜15、16によって定まる配向方向にてプレティルト角の大きさを制御可能である。具体的には、紫外線照射時の印加電圧を大きくするほどプレティルト角を小さくすることができる。
【0043】
また、製造時のマスクMとして2分割以上のマスクを用いれば、液晶素子内の領域によってプレティルト角が各々異なる配向を実現可能である(配向方向は2方向)。領域によって異なるプレティルト角が得られることで、各々の領域の閾値電圧が異なることになるので、階調表示の実現や視角特性の更なる改善が可能となる。
【0044】
図9は、一実施形態の車両用灯具システムの構成を示す図である。図9に示す車両用灯具システムは、上記実施形態に係る液晶素子1と同構成の液晶素子を用いて構成されるものであり、車両用灯具(照明装置)101と、コントローラ102と、カメラ103を含んで構成されている。この車両用灯具システムは、カメラ103によって撮影される画像に基づいて自車両の周囲に存在する前方車両や歩行者の顔等の位置を検出し、前方車両等の位置を含む一定範囲を非照射範囲(減光領域)に設定し、それ以外の範囲を光照射範囲に設定して選択的な光照射を行うとともに、路面上へ種々形状の光照射を行うものである。
【0045】
車両用灯具101は、車両前部の所定位置に配置されており、車両前方を照明するための照射光を形成する。なお、車両用灯具101は、例えば車両前部の左右それぞれに1つずつ設けられるがここでは1つのみ図示する。
【0046】
コントローラ102は、車両用灯具101の光源110や液晶素子115の動作制御を行うものである。このコントローラ102は、例えばCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等を有するコンピュータシステムを用い、このコンピュータシステムにおいて所定の動作プログラムを実行させることによって実現される。本実施形態のコントローラ102は、運転席に設置されたライトスイッチ(図示せず)の操作状態に応じて光源110を点灯させるとともに、カメラ103によって検出される前方車両(対向車両、先行車両)、歩行者、道路標識、路上白線などの対象体に応じた配光パターンを設定し、この配光パターンに対応する像を形成するための制御信号を液晶素子115へ供給する。
【0047】
カメラ103は、自車両の前方空間を撮影して画像を生成し、この画像に対して所定の画像認識処理を行って上記した前方車両等の対象体の位置、範囲、大きさ、種別などを検出する。画像認識処理による検出結果は、カメラ103と接続されているコントローラ102へ供給される。カメラ103は、自車両の車室内の所定位置(例えば、フロントガラス上部)に設置されるか、または自車両の車室外の所定位置(例えば、フロントバンパー内)に設置される。車両に他の用途(例えば、自動ブレーキシステム等)のためのカメラが備わっている場合にはそのカメラを共用してもよい。
【0048】
なお、カメラ103における画像認識処理の機能をコントローラ102にて代替してもよい。その場合には、カメラ103は、生成した画像をコントローラ102へ出力、この画像に基づいてコントローラ102側で画像認識処理が行われる。あるいは、カメラ103から画像とそれに基づく画像認識処理の結果の双方がコントローラ2へ供給されてもよい。その場合に、コントローラ102は、カメラ103から得た画像を用いてさらに独自の画像認識処理を行ってもよい。
【0049】
図9に示す車両用灯具101は、光源110、リフレクタ111、113、偏光ビームスプリッタ112、1/4波長板114、液晶素子115、光学補償板116、偏光板117、投影レンズ118を含んで構成されている。これらの各要素は、例えば1つのハウジング(筐体)に収容されて一体化されている。また、光源110と液晶素子115は、それぞれコントローラ102と接続されている。
【0050】
光源110は、コントローラ102による制御を受けて光を放出する。この光源110は、例えばいくつかの白色LED(Light Emitting Diode)などの発光素子と駆動回路を含んで構成される。なお、光源110の構成はこれに限定されない。例えば、光源110としては、レーザ素子、さらには電球や放電灯など車両用灯具に一般的に使用されている光源が使用可能である。
【0051】
リフレクタ111は、光源110に対応づけて配置されており、光源110から放出される光を反射及び集光して偏光ビームスプリッタ112の方向へ導き、液晶素子115へ入射させる。リフレクタ111は、例えば楕円面状の反射面を有する反射鏡である。この場合、光源110は、リフレクタ111の反射面の焦点付近に配置することができる。なお、リフレクタ111に代えて集光のための光学部材として集光レンズを用いてもよい。
【0052】
偏光ビームスプリッタ112は、入射光のうち特定方向の偏光成分を透過し、これと直交方向の偏光成分を反射させる反射型偏光素子である。このような偏光ビームスプリッタ112としては、例えばワイヤーグリッド型偏光素子や多層膜偏光素子などを用いることができる。
【0053】
リフレクタ113は、偏光ビームスプリッタ112によって反射される光が入射し得る位置に設けられており、入射した光を偏光ビームスプリッタ112の方向へ反射させる。
【0054】
1/4波長板114は、偏光ビームスプリッタ112とリフレクタ113の間の光路上に配置されており、入射する光に位相差を与える。本実施形態では、偏光ビームスプリッタ112によって反射された光は、1/4波長板114を透過し、リフレクタ113で反射されて再度1/4波長板114を透過することで偏光方向が90°回転して偏光ビームスプリッタ112へ再入射する。それにより、再入射した光は偏光ビームスプリッタ112を透過することができるので光の利用効率が向上する。
【0055】
液晶素子115は、リフレクタ111、113のそれぞれにより反射及び集光された光が入射し得る位置に配置されている。液晶素子115は、互いに独立に制御可能な複数の画素部(光変調部)を備えている。本実施形態では、液晶素子115は、各画素部に駆動電圧を与えるためのドライバ(図示せず)を有している。ドライバは、コントローラ102から供給される制御信号に基づいて、液晶素子115に対して、各画素部を個別に駆動するための駆動電圧を与える。この液晶素子115は、上記した実施形態の液晶素子1と同じ構成を有している。
【0056】
光学補償板116は、液晶素子115を透過した光の位相差を補償し、偏光度を高めるためのものである。なお、光学補償板116は省略されてもよい。
【0057】
偏光板117は、液晶素子115の光出射側に配置されている。偏光ビームスプリッタ112、偏光板117とこれらの間に配置された液晶素子115によって、自車両の前方へ照射する光の配光パターンに対応した像が形成される。
【0058】
投影レンズ118は、リフレクタ111、113により反射及び集光され、液晶素子115、光学補償板116及び偏光板117を透過した光が入射し得る位置に配置されており、この入射した光を自車両の前方へ投影する。投影レンズ118は、その焦点が液晶素子115の液晶層の位置に対応するように配置されている。
【0059】
図10(A)は、車両用灯具システムにおける液晶素子の画素部の構成例を示す模式的な平面図である。また、図10(B)は、この液晶素子における視認方向を説明するための模式的な平面図である。図10(A)に示すように、液晶素子115は、複数の画素部からなる画素部群が領域R1と領域R2に設けられている。
【0060】
図10(B)に示すように、領域R1の視認方向21は、例えば図中の右下方向へ向かう方向であり、図中の左右方向に対して略45°の角度をなす。また、領域R2の視認方向22は、例えば図中の左上方向へ向かう方向であり、図中の左右方向に対して略45°の角度をなす。このように、領域R1、R2では視認方向が逆平行となっており、液晶層が領域R1、R2に対応して2ドメイン配向となっている。
【0061】
図11(A)は、液晶素子115に対する光の入射方向を模式的に示す図である。図11(A)では、液晶素子115をその上端側から見た様子が模式的に示されている。図11(A)に示すように本実施形態の車両用灯具システムでは、光源110から出射してリフレクタ111、113によって集光された光が液晶素子115に対して斜め方向から広角に入射する。具体的には、液晶素子115の領域R1に入射する光L1は、主に図中で右斜め方向へ向かって偏って進む光であり、他方で、液晶素子115の領域R2に入射する光L2は、主に図中で左斜め方向へ向かって偏って進む光である。
【0062】
このとき、仮に領域R1、R2がともに同じ視認方向を有していたとすると、投影像の明るさにムラを生じることになる。その理由は上記したように図2を参照して説明した通りであり、視認方向と逆視認方向で透過率差を生じるからである。これに対して、本実施形態では各領域R1、R2で視認方向を逆方向としていることから、このような投影像における明るさのムラを軽減することができる。
【0063】
図11(B)は、液晶素子115に対する光の入射範囲を説明するための模式的な平面図である。図11(B)に示すように、液晶素子115の画素部が配置された部分は概ね3つの領域S1、S2、S3に分けられる。中央の領域S2は、画素部全体の中央部分に対応しており、最大光度を得るために様々な方向から光が集められる領域である。この領域S2には、全体を平均すると左右均等に光が入射する。
【0064】
これに対して、図中左右の各領域S1、S3は、画素部全体の左側部分及び右側部分に対応しており、それぞれ上記のように右方向もしくは左方向から偏った光が入射する領域である。光の偏り具合と偏り方向は光学系の構成によるが、一般に、左右均等に光が入射するようにするのは困難である。これを換言すると、領域S1と領域S3では、好ましい視認方向が異なるといえる。
【0065】
そこで、本実施形態では、領域S1及び領域S2の図中左半分を合わせた領域(領域R1に対応)と、領域S3及び領域S2の図中右半分を合わせた領域(領域R2に対応)とで液晶層の配向方向が異なるようにしている。すなわち、領域S1及び領域S2の図中左半分を合わせた領域が上記した領域R1となり、領域S3及び領域S2の図中右半分を合わせた領域が上記した領域R2となるように液晶素子115を構成している。それにより、各領域で視認方向が異なる2ドメイン配向が実現され、各領域S1~S3のいずれにおいても透過光の明るさのムラを低減することができる。
【0066】
なお、2ドメイン配向の具体的な実現方法については上記した方法やその組み合わせによる方法を用いることができる。すなわち、以下の2つの方法のいずれでもよい。
(a)領域R1、R2ともに電圧無印加(ないし閾値未満の電圧印加)にて領域R1に対して選択的に紫外線照射を行う方法
(b)前記aの後、さらに領域R1、R2ともに閾値以上の電圧を印加しながら領域R1、R2の全体に対して紫外線照射を行う方法
【0067】
以上のような実施形態によれば、簡易な構成で複数の配向ドメインを得ることが可能な液晶素子が提供される。また、その液晶素子を用いることで、投影像の明るさムラの軽減された車両用灯具及び車両用灯具システムを得ることができる。
【0068】
なお、本開示は上記した実施形態の内容に限定されるものではなく、本開示の要旨の範囲内において種々に変形して実施をすることが可能である。例えば、
【0069】
また、上記した実施形態では本開示に係る液晶素子を適用可能な照明装置の一例として車両用灯具を挙げ、それを適用したシステムの一例として車両用灯具システムを挙げていたが、本開示の液晶素子の適用範囲はこれに限定されず、種々の照明装置ないし同システムに本開示の液晶素子を適用することが可能である。
【0070】
本開示は、以下に付記する特徴を有する。
(付記1)
一軸配向処理が行われた第1配向膜を有する第1基板を形成する第1工程と、
一軸配向処理が行われた第2配向膜を有する第2基板を形成する第2工程と、
光照射によって重合可能なモノマーを含む液晶材料を用いて前記第1配向膜と前記第2配向膜との間に液晶層を形成する第3工程と、
前記液晶層の平面視において隣り合う第1領域と第2領域のうち当該第1領域に対して電圧無印加又は閾値未満の電圧印加の状態にて光照射を行う第4工程と、を含む、
液晶素子の製造方法。
(付記2)
前記第4工程の後に、前記液晶層の前記第1領域と前記第2領域の各々に対して前記閾値以上の電圧印加の状態にて、前記第1領域及び前記第2領域に対して光照射を行う第5工程、を更に含む、
付記1に記載の液晶素子の製造方法。
(付記3)
前記第3工程は、前記第1配向膜又は前記第2配向膜に前記液晶材料を滴下した後、前記第1配向膜と前記第2配向膜とが対向するように前記第1基板と前記第2基板とを貼り合わせることを含む、
付記1又は2に記載の液晶素子の製造方法。
(付記4)
前記第3工程は、前記第1配向膜と前記第2配向膜とが対向するように前記第1基板と前記第2基板とを貼り合わせた後、前記第1配向膜と前記第2配向膜との間に前記液晶材料を真空注入することを含む、
付記1又は2に記載の液晶素子の製造方法。
(付記5)
前記モノマーの光重合部はアクリレート又はメタクリレートであり、当該モノマーは、環部と末端基との間の少なくとも一方にフレキシブルな部位を有する、
付記1~4の何れかに記載の液晶素子の製造方法。
(付記6)
前記モノマーの前記環部は、フッ素基を有する、
付記1~5の何れかに記載の液晶素子の製造方法。
(付記7)
前記モノマーの前記環部は、2環以上である、
付記1~6の何れかに記載の液晶素子の製造方法。
(付記8)
前記第1配向膜及び前記第2配向膜は、シロキサン系垂直配向膜である、
付記1~7の何れかに記載の液晶素子の製造方法。
(付記9)
前記液晶材料における前記ポリマーの濃度が0.3wt%以上である、
付記1~8の何れかに記載の液晶素子の製造方法。
(付記10)
付記1~9の何れかに記載の製造方法によって製造される、液晶素子。
(付記11)
前記液晶素子の前記液晶層は、前記第1領域において前記第1配向膜及び前記第2配向膜によって定まる方向とは逆方向にプレティルト角を発現し、前記第2領域において前記第1配向膜及び前記第2配向膜によって定まる方向と同方向にプレティルト角を発現する、
付記10に記載の液晶素子。
(付記12)
付記10又は11に記載の液晶素子と、
光源と、
前記光源から出射する光を集光して前記液晶素子へ入射させる光学部材と、
前記液晶素子を挟んで対向配置される一対の偏光板と、
を含む、照明装置。
(付記13)
前記液晶素子の前記第1領域と前記第2領域のそれぞれに入射する光は、互いに異なる方向から入射する、
付記12に記載の照明装置。
(付記14)
付記12又は13に記載の照明装置を含んで構成される、車両用灯具システム。
(付記15)
対向配置される第1基板及び第2基板と、
前記第1基板の前記第2基板と対向する側に配置された第1配向膜と、
前記第2基板の前記第1基板と対向する側に配置された第2配向膜と、
前記第1基板と前記第2基板との間に配置された液晶層と、
前記液晶層を囲んで前記第1基板と前記第2基板の間に配置されており、一部分を開口して構成された注入口を有するシール材と、
を含み、
前記第1配向膜と前記第2配向膜は、各々、一軸配向処理が施され、前記液晶層と接する面において一方向への配向規制力を有しており、
前記第1配向膜と前記液晶層との界面及び前記第2配向膜と前記液晶層との界面の各々には、光照射によって重合可能なモノマー若しくは当該モノマーが重合したポリマーが存在し、
前記液晶層は、平面視において第1領域と第2領域とを有し、
前記第1領域は、前記配向規制力の方向と逆方向にプレティルト角を有し、前記第2領域は、前記配向規制力の方向と同方向にプレティルト角を有する、
液晶素子。
(付記16)
前記第1領域と前記第2領域において、前記第1の配向膜および前記第2の配向膜は、各々連続して形成され、前記配向規制力は各々同一方向である、
付記15の液晶素子。
(付記17)
前記液晶層における前記ポリマーの濃度が0.3wt%以上である、
付記15または付記16に記載の液晶素子。
【符号の説明】
【0071】
11:第1基板、12:第2基板、13:共通電極、14:画素電極、15、16:配向膜、17:液晶層、18:シール材、18a:注入口、19:エンドシール材、21:22:視認方向、R1、R2:領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11