(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024164502
(43)【公開日】2024-11-27
(54)【発明の名称】自動変速機の制御システム
(51)【国際特許分類】
F16H 61/04 20060101AFI20241120BHJP
F16H 61/08 20060101ALI20241120BHJP
【FI】
F16H61/04
F16H61/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023080014
(22)【出願日】2023-05-15
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和4年5月23日 ヨーロッパにおける車両販売による公開
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100059959
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162824
【弁理士】
【氏名又は名称】石崎 亮
(72)【発明者】
【氏名】土取 悠喜
(72)【発明者】
【氏名】笹原 学
(72)【発明者】
【氏名】山田 誠
(72)【発明者】
【氏名】大谷 正人
(72)【発明者】
【氏名】長山 茂
【テーマコード(参考)】
3J552
【Fターム(参考)】
3J552MA02
3J552NA01
3J552NB01
3J552PA02
3J552QA06C
3J552QA13C
3J552QA26A
3J552QB03
3J552QB05
3J552QB08
3J552RA02
3J552RA06
3J552SA03
3J552TB02
(57)【要約】
【課題】摩擦締結要素を解放するときに発生する加速度変動によるショックを抑制する。
【解決手段】
自動変速機の制御システムにおいて、自動変速機10は、複数の摩擦板103と、摩擦板同士を締結させる締結位置と摩擦板同士を解放させる解放位置との間で移動可能なピストン108と、ピストンを締結位置に設定するように油圧を付与する締結用油圧室109と、ピストンを解放位置に設定するように油圧を付与する解放用油圧室110と、を含む第2ブレーキBR2を有する。コントローラ50は、第2ブレーキを解放するときに、締結用油圧を上昇させるように締結用ソレノイド弁140を制御する第1制御と、この第1制御の後に、解放用油圧を上昇させるように解放用ソレノイド弁150を制御する第2制御と、この第2制御の後に、締結用油圧を下降させるように締結用ソレノイド弁を制御する第3制御と、を実行する。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動変速機の制御システムであって、
締結状態と解放状態とを取り得る摩擦締結要素を備える自動変速機であって、前記摩擦締結要素が、複数の摩擦板と、前記複数の摩擦板同士を締結させる締結位置と前記複数の摩擦板同士を解放させる解放位置との間で移動可能なピストンと、前記ピストンを前記締結位置に設定するように当該ピストンに油圧を付与するための締結用油圧室と、前記ピストンを前記解放位置に設定するように当該ピストンに油圧を付与するための解放用油圧室と、を備える、前記自動変速機と、
前記摩擦締結要素の前記締結用油圧室に付与する油圧を調整する第1油圧制御弁と、
前記摩擦締結要素の前記解放用油圧室に付与する油圧を調整する第2油圧制御弁と、
前記摩擦締結要素の締結状態と解放状態とを切り替えるように、前記第1及び第2油圧制御弁を制御するように構成されたコントローラと、
を有し、
前記コントローラは、締結状態にある前記摩擦締結要素を解放状態に切り替えるときに、
前記締結用油圧室に付与する油圧を上昇させるように前記第1油圧制御弁を制御する第1制御と、
前記第1制御の後に、前記解放用油圧室に付与する油圧を上昇させるように前記第2油圧制御弁を制御する第2制御と、
前記第2制御の後に、前記締結用油圧室に付与する油圧を下降させるように前記第1油圧制御弁を制御する第3制御と、
を実行するように構成されている、ことを特徴とする自動変速機の制御システム。
【請求項2】
前記第1油圧制御弁は、前記締結用油圧室に付与する油圧をリニアに調整可能な弁により構成され、前記第2油圧制御弁は、オンオフ弁により構成される、
請求項1に記載の自動変速機の制御システム。
【請求項3】
前記自動変速機は、
前記摩擦締結要素を第1摩擦締結要素とすると、当該第1摩擦締結要素とは別の第2摩擦締結要素を更に有し、
前記第1摩擦締結要素を締結し且つ前記第2摩擦締結要素を解放する第1変速段と、前記第1変速段と隣り合う変速段であって、前記第1摩擦締結要素を解放し且つ前記第2摩擦締結要素を締結する第2変速段と、を有し、
前記自動変速機の制御システムは、前記第2摩擦締結要素を締結させるように当該第2摩擦締結要素に付与する油圧を調整する第3油圧制御弁を更に有し、
前記コントローラは、
前記第1変速段から前記第2変速段に切り替えるときに、前記第1乃至第3制御に加えて、前記第2摩擦締結要素に付与する油圧を上昇させるように前記第3油圧制御弁を制御する第4制御を更に実行し、
前記第3制御と前記第4制御とを略同時に終了する、
ように構成されている、請求項1又は2に記載の自動変速機の制御システム。
【請求項4】
前記コントローラは、更に、前記第3制御と前記第4制御とを略同時に開始するように構成されている、
請求項3に記載の自動変速機の制御システム。
【請求項5】
前記摩擦締結要素は、前記締結用油圧室に油圧が付与されていないとき及び前記解放用油圧室に油圧が付与されていないときのいずれも、前記複数の摩擦板同士がゼロクリアランス状態となるように構成されている、
請求項1又は2に記載の自動変速機の制御システム。
【請求項6】
前記摩擦締結要素は、少なくとも車両を発進させるときに締結状態に切り替えられる、
請求項5に記載の自動変速機の制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦締結要素を有する自動変速機の制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両において、締結状態及び解放状態のいずれかを取り得る複数の摩擦締結要素を備え、これらのうちで締結させる摩擦締結要素を変えることにより複数の変速段を形成する自動変速機と、これら複数の摩擦締結要素のそれぞれに付与する油圧を調整する油圧制御弁と、複数の摩擦締結要素のそれぞれの締結状態と解放状態とを切り替えるように、油圧制御弁を制御するように構成されたコントローラと、を有するシステムが知られている。
【0003】
また、近年では、上記のような摩擦締結要素において、複数の摩擦板と、摩擦板同士を締結させる締結位置と摩擦板同士を解放させる解放位置との間で移動可能なピストンと、ピストンを締結位置に設定するように当該ピストンに油圧を付与するための締結用油圧室と、ピストンを解放位置に設定するように当該ピストンに油圧を付与するための解放用油圧室と、を有するものが用いられている(例えば特許文献1及び2)。このような2つの油圧室を用いて、摩擦締結要素の滑らか且つ速やかな締結及び解放を行うことで、自動変速機の変速段の切り替え時のショック/違和感の抑制及び応答性の確保を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-207141号公報
【特許文献2】特開2020-175851号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述したような締結用油圧室及び解放用油圧室を備える摩擦締結要素を有する自動変速機では、所定の変速段に切り替えるべく当該摩擦締結要素を解放するときに、車両において加速度変動によるショックが発生する場合があった。これは、摩擦締結要素の解放時には、締結用油圧室の油圧を下降させる制御を行う一方で解放用油圧室の油圧を上昇させる制御を行うが、これらの制御がタイミング良く行われていなかったからである。より具体的には、締結用油圧室の油圧が下降しているとき又は下降した後に解放用油圧室の油圧が上昇することで、摩擦締結要素の伝達トルクが急変することにより、加速度変動によるショックが発生していた。
【0006】
本発明は、上述した従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、締結用油圧室及び解放用油圧室を備える摩擦締結要素を有する自動変速機の制御システムにおいて、摩擦締結要素を解放するときに発生する加速度変動によるショックを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明は、自動変速機の制御システムであって、締結状態と解放状態とを取り得る摩擦締結要素を備える自動変速機であって、この摩擦締結要素が、複数の摩擦板と、複数の摩擦板同士を締結させる締結位置と複数の摩擦板同士を解放させる解放位置との間で移動可能なピストンと、ピストンを締結位置に設定するように当該ピストンに油圧(締結用油圧)を付与するための締結用油圧室と、ピストンを解放位置に設定するように当該ピストンに油圧(解放用油圧)を付与するための解放用油圧室と、を備える、上記自動変速機と、摩擦締結要素の締結用油圧室に付与する油圧を調整する第1油圧制御弁と、摩擦締結要素の解放用油圧室に付与する油圧を調整する第2油圧制御弁と、摩擦締結要素の締結状態と解放状態とを切り替えるように、第1及び第2油圧制御弁を制御するように構成されたコントローラと、を有し、このコントローラは、締結状態にある摩擦締結要素を解放状態に切り替えるときに、締結用油圧室に付与する油圧を上昇させるように第1油圧制御弁を制御する第1制御と、第1制御の後に、解放用油圧室に付与する油圧を上昇させるように第2油圧制御弁を制御する第2制御と、第2制御の後に、締結用油圧室に付与する油圧を下降させるように第1油圧制御弁を制御する第3制御と、を実行するように構成されている、ことを特徴とする。
【0008】
このように構成された本発明では、コントローラは、摩擦締結要素を解放するときに、締結用油圧を上昇させるように第1油圧制御弁を制御する第1制御と、解放用油圧を上昇させるように第2油圧制御弁を制御する第2制御と、締結用油圧を下降させるように第1油圧制御弁を制御する第3制御と、を順に実行していく。このように、解放用油圧を上昇させる前に締結用油圧を一旦上昇させているので、解放用油圧の付与時に締結用油圧が解放用油圧に負けて摩擦締結要素が解放するのを確実に防ぐことができる。また、上記のように上昇させた締結用油圧を、解放用油圧を上昇させた後に下降させるので、解放用油圧の付与による摩擦締結要素の伝達トルクの急変(急降下)を抑制することができる。以上より、本発明によれば、摩擦締結要素を解放するときに、加速度変動によるショックを抑制することができる。
【0009】
本発明において、好ましくは、第1油圧制御弁は、締結用油圧室に付与する油圧をリニアに調整可能な弁により構成され、第2油圧制御弁は、オンオフ弁により構成される。
このように構成された本発明によれば、第3制御において締結用油圧を下降させるときに、第1油圧制御弁により締結用油圧を所望の変化率でリニアに下降させる制御を実現でき、摩擦締結要素を滑らか且つ速やかに解放することができる。よって、摩擦締結要素の解放時におけるショック抑制及び応答性を確保することが可能となる。このように、本発明では、油圧をリニアに調整可能な第1油圧制御弁を用いることで、摩擦締結要素の制御性を確保している。一方で、解放用油圧を調整する第2油圧制御弁についてはオンオフ弁にて構成しているので、摩擦締結要素の簡易な装置構成及び制御構成を実現できる。
【0010】
本発明において、好ましくは、自動変速機は、上記の摩擦締結要素を第1摩擦締結要素とすると、当該第1摩擦締結要素とは別の第2摩擦締結要素を更に有し、第1摩擦締結要素を締結し且つ第2摩擦締結要素を解放する第1変速段と、第1変速段と隣り合う変速段であって、第1摩擦締結要素を解放し且つ第2摩擦締結要素を締結する第2変速段と、を有し、自動変速機の制御システムは、第2摩擦締結要素を締結させるように当該第2摩擦締結要素に付与する油圧を調整する第3油圧制御弁を更に有し、コントローラは、第1変速段から第2変速段に切り替えるときに、第1乃至第3制御に加えて、第2摩擦締結要素に付与する油圧を上昇させるように第3油圧制御弁を制御する第4制御を更に実行し、第3制御と第4制御とを略同時に終了する、ように構成されている。
このように構成された本発明では、コントローラは、第1摩擦締結要素を解放するとき、具体的には第1変速段から第2変速段へと切り替えるときに、第1摩擦締結要素に対する第1乃至第3制御に加えて、第2摩擦締結要素に付与する油圧を上昇させる第4制御を更に実行し、第1摩擦締結要素に対する第3制御、つまり締結用油圧を下降させる第3制御と、第2摩擦締結要素に対する第4制御と、を略同時に終了するようにする。これにより、変速を滑らかに完了させることができる。
【0011】
本発明において、好ましくは、コントローラは、更に、第3制御と第4制御とを略同時に開始するように構成されている。
このように構成された本発明によれば、変速の応答性を確保することができる。
【0012】
本発明において、好ましくは、摩擦締結要素は、締結用油圧室に油圧が付与されていないとき及び解放用油圧室に油圧が付与されていないときのいずれも、複数の摩擦板同士がゼロクリアランス状態となるように構成されている。
このように構成された本発明によれば、摩擦締結要素に油圧を付与していないときに複数の摩擦板がスリップ状態となっているので、この状態にある摩擦締結要素に油圧を付与することで、摩擦締結要素を速やかに締結することができる。よって、摩擦締結要素の締結時の応答性を確保することができる。
【0013】
本発明において、好ましくは、摩擦締結要素は、少なくとも車両を発進させるときに締結状態に切り替えられる。
上記のように油圧が付与されていないときにゼロクリアランス状態となる摩擦締結要素によれば、車両の発進時に、この摩擦締結要素をスリップ制御してから締結することで、滑らかな発進を精度良く実現することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、締結用油圧室及び解放用油圧室を備える摩擦締結要素を有する自動変速機の制御システムにおいて、摩擦締結要素を解放するときに発生する加速度変動によるショックを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態による自動変速機の制御システムが搭載された車両の概略構成図である。
【
図2】本発明の実施形態による自動変速機の概略構成図である。
【
図3】本発明の実施形態による自動変速機の摩擦締結要素の締結表である。
【
図4】本発明の実施形態による第2ブレーキ及び油圧制御弁の概略構成図である。
【
図5】本発明の実施形態による自動変速機の制御システムの電気的構成を示すブロック図である。
【
図7】本発明の実施形態に係る制御のタイムチャートである。
【
図8】本発明の実施形態に係る制御を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態による自動変速機の制御システムを説明する。
【0017】
[全体構成]
図1は、本実施形態による自動変速機の制御システムが搭載された車両の概略図である。
図1に示すように、車両1は、フロントエンジンリアドライブ式(FR式)の車両であって、駆動源としてのエンジン20が車両前側に配置されており、このエンジン20の車両後側には自動変速機10が配置されている。エンジン20の駆動力は、自動変速機10、プロペラシャフト70、ディファレンシャルギア71などの動力伝達経路を介して、後輪(駆動輪)60に伝達され、それにより、車両1が走行するようになっている。なお、本発明は、FR式の車両1への適用に限定されず、車両前側の駆動輪(前輪61)を駆動するフロントエンジンフロントドライブ式(FF式)の車両等、種々の車両に適用可能である。
【0018】
車両1における車室内には、シフトレバー30が配置されている。シフトレバー30は、自動変速機10のレンジ(シフトレンジ)を選択するものであり、このレンジとしては、「Pレンジ」(パーキングレンジ)、「Rレンジ」(後退レンジ)、「Nレンジ」(ニュートラルレンジ)、「Dレンジ」(ドライブレンジ)があり、車両1のドライバがシフトレバー30を操作して所望のレンジを選択する。なお、このようなレンジとして、自動変速機10をマニュアルモードに設定するための「Mレンジ」を加えてもよい。Dレンジ、Rレンジ及びMレンジは、走行レンジに相当し、Nレンジ及びPレンジは、非走行レンジに相当する。
【0019】
例えば、自動変速機10は、シフトバイワイヤ方式の自動変速機である。ドライバによるシフトレバー30の操作によって選択されたレンジは、図示しないセンサによって検出され、このセンサの検出結果に基づく電気信号が、コントローラ50に入力される。そして、上記電気信号に基づくコントローラ50からの出力信号によって、自動変速機10のシフトレンジが切り替えられる。
【0020】
[自動変速機の構成]
図2は、本実施形態による自動変速機10の概略構成図である。
図2に示すように、自動変速機10は、縦置き式の自動変速機であり、変速機ケース11と、エンジン20から変速機ケース11の内部に挿入された入力軸12と、変速機ケース11の内部から反駆動源側(図の右側)に突出された出力軸13と、を有している。入力軸12と出力軸13とは車両前後方向に沿った同一軸心上に配置されており、入力軸12が車両前側に位置し且つ出力軸13が車両後側に位置する縦置きの姿勢で自動変速機10が配設されている。このため、以下では、駆動源側(図の左側)のことを前側ということがあり、反駆動源側(図の右側)のことを後側ということがある。
【0021】
入力軸12及び出力軸13の軸心上には、第1、第2、第3、第4プラネタリギヤセット(以下、単に「ギヤセット」という)PG1、PG2、PG3、PG4が前側(駆動源側)から順に配設されている。
【0022】
変速機ケース11内における第1ギヤセットPG1の前側には第1クラッチCL1が配設され、第1クラッチCL1の前側には第2クラッチCL2が配設され、第2クラッチCL2の前側には第3クラッチCL3が配設されている。また、第3クラッチCL3の前側には第1ブレーキBR1が配設され、第3ギヤセットPG3の径方向の外側には第2ブレーキBR2が配設されている。このように、自動変速機10では、前側(駆動源側)から、第1ブレーキBR1、第3クラッチCL3、第2クラッチCL2、第1クラッチCL1、第2ブレーキBR2の順で軸方向に配設されている。なお、これら第1~第3クラッチCL1~CL3及び第1、第2ブレーキBR1、BR2は、摩擦締結要素に相当する。
【0023】
第1~第4ギヤセットPG1~PG4は、いずれも、キャリヤに支持されたピニオンがサンギヤとリングギヤに直接噛合するシングルピニオン型である。第1ギヤセットPG1は、回転要素として、第1サンギヤS1、第1リングギヤR1、及び第1キャリヤC1を有する。第2ギヤセットPG2は、回転要素として、第2サンギヤS2、第2リングギヤR2、及び第2キャリヤC2を有する。第3ギヤセットPG3は、回転要素として、第3サンギヤS3、第3リングギヤR3、及び第3キャリヤC3を有する。第4ギヤセットPG4は、回転要素として、第4サンギヤS4、第4リングギヤR4、及び第4キャリヤC4を有する。
【0024】
そして、第1ギヤセットPG1は、第1サンギヤS1が軸方向に2分割されたダブルサンギヤ型である。すなわち、第1サンギヤS1は、軸方向の前側に配置された前側第1サンギヤS1aと、後側に配置された後側第1サンギヤS1bとを有している。これら一対の第1サンギヤS1a、S1bは、同じ歯数を有し、第1キャリヤC1に支持された同じピニオンに噛合しているため、これら第1サンギヤS1a、S1bの回転数は常に等しい。すなわち、前後一対の第1サンギヤS1a、S1bは、常に同じ速度で回転し、一方の回転が停止しているときは他方の回転も停止する。
【0025】
この自動変速機10においては、第1サンギヤS1(より詳しくは後側第1サンギヤS1b)と第4サンギヤS4とが常時連結され、第1リングギヤR1と第2サンギヤS2とが常時連結され、第2キャリヤC2と第4キャリヤC4とが常時連結され、第3キャリヤC3と第4リングギヤR4とが常時連結されている。入力軸12は第1キャリヤC1に常時連結され、出力軸13は第4キャリヤC4に常時連結されている。具体的に、入力軸12は、前後一対の第1サンギヤS1a、S1bの間を通る動力伝達部材18を介して第1キャリヤC1に連結されている。後側第1サンギヤS1bと第4サンギヤS4とは、動力伝達部材15を介して互いに連結されている。第4キャリヤC4と第2キャリヤC2とは、動力伝達部材16を介して互いに連結されている。
【0026】
第1クラッチCL1は、油圧制御弁(不図示)による油圧室への油圧の給排に応じてピストンが軸方向に進退駆動されることにより、締結状態と解放状態とが切り替えられることで、入力軸12及び第1キャリヤC1と、第3サンギヤS3とを断接する。第2クラッチCL2は、油圧制御弁による油圧室への油圧の給排に応じてピストンが軸方向に進退駆動されることにより、締結状態と解放状態とが切り替えられることで、第1リングギヤR1及び第2サンギヤS2と、第3サンギヤS3とを断接する。第3クラッチCL3は、油圧制御弁(不図示)による油圧室への油圧の給排に応じてピストンが軸方向に進退駆動されることにより、締結状態と解放状態とが切り替えられることで、第2リングギヤR2と第3サンギヤS3とを断接する。
【0027】
他方で、第1ブレーキBR1は、油圧制御弁(不図示)による油圧室への油圧の給排に応じてピストンが軸方向に進退駆動されることにより、締結状態と解放状態とが切り替えられることで、変速機ケース11と第1サンギヤS1(より詳しくは前側第1サンギヤS1a)とを断接する。第2ブレーキBR2は、油圧制御弁(不図示)による油圧室への油圧の給排に応じてピストンが軸方向に進退駆動されることにより、締結状態と解放状態とが切り替えられることで、変速機ケース11と第3リングギヤR3とを断接する。
【0028】
変速機ケース11は、第1ブレーキBR1と第3クラッチCL3との間の軸方向位置に、変速機ケース11の内周面11bから径方向内側に延びる環状の縦壁部W1を有するとともに、縦壁部W1の内周端から後方に延びる円筒状の円筒壁部W2を有している。円筒壁部W2は、動力伝達部材8の内周面に沿って同心状に延びるように形成されている。
【0029】
動力伝達部材8の径方向外側には、軸方向に並ぶ3つのハウジングが形成されており、これら3つのハウジングに、第1クラッチCL1、第2クラッチCL2、及び第3クラッチCL3の各ピストンがそれぞれ収容されている。
【0030】
縦壁部W1、円筒壁部W2、及び動力伝達部材8には、第1クラッチCL1、第2クラッチCL2、及び第3クラッチCL3の各油圧室にそれぞれ油圧を供給するための油路が形成されている。具体的に、縦壁部W1及び円筒壁部W2には油路aが形成され、動力伝達部材8には油路b、c、dが形成されている。そして、油路a及び油路bを通じて第1クラッチCL1の油圧室に油圧が供給され、油路a及び油路cを通じて第2クラッチCL2の油圧室に油圧が供給され、油路a及び油路dを通じて第3クラッチCL3の油圧室に油圧が供給される。なお、図示しないが、円筒壁部W2の外周面と動力伝達部材8の内周面との間における油路aと油路b、c、dとの連通部は、それぞれシールリングによりシールされている。
【0031】
第1ブレーキBR1のピストンは、縦壁部W1の前側に形成されたハウジングに収容されている。当該ハウジングにより区画された油圧室には、変速機ケース11の外側(バルブボディ)から油路eが直接に連通している。第2ブレーキBR2のピストンは、変速機ケース11の後部の内周面11bに嵌合されたハウジングに収容されている。当該ハウジングにより区画された油圧室には、変速機ケース11の外側(バルブボディ)から油路fが直接に連通している。
【0032】
次に、
図3を参照して、本実施形態による自動変速機10の摩擦締結要素の締結表について説明する。上述したような構成の自動変速機10によれば、
図3の締結表に示すように、5つの摩擦締結要素(第1~第3クラッチCL1~CL3及び第1、第2ブレーキBR1、BR2)の中の特定の3つの摩擦締結要素が選択的に締結されることにより、自動変速機10において前進1~8速及び後退速のいずれかの変速段が形成される。基本的には、これら複数の変速段において、車速に応じた変速段が選択されて適用される。
【0033】
具体的には、
図3に示すように、第3クラッチCL3、第1ブレーキBR1、及び第2ブレーキBR2が締結されたときに、後退速が形成される。第1クラッチCL1、第1ブレーキBR1、及び第2ブレーキBR2が締結されたときに、1速が形成される。第2クラッチCL2、第1ブレーキBR1、及び第2ブレーキBR2が締結されたときに、2速が形成される。第1クラッチCL1、第2クラッチCL2、及び第2ブレーキBR2が締結されたときに、3速が形成される。第2クラッチCL2、第3クラッチCL3、第2ブレーキBR2が締結されたときに、4速が形成される。第1クラッチCL1、第3クラッチCL3、及び第2ブレーキBR2が締結されたときに、5速が形成される。第1クラッチCL1、第2クラッチCL2、及び第3クラッチCL3が締結されたときに、6速が形成される。第1クラッチCL1、第3クラッチCL3、及び第1ブレーキBR1が締結されたときに、7速が形成される。第2クラッチCL2、第3クラッチCL3、及び第1ブレーキBR1が締結されたときに、8速が形成される。
【0034】
[第2ブレーキの構成]
次に、
図4を参照して、本実施形態による第2ブレーキBR2の構成について説明する。
図4は、本実施形態による第2ブレーキBR2及び当該第2ブレーキBR2を制御する油圧制御弁120についての概略構成図(部分的に断面図を示している)である。
【0035】
図4に示すように、第2ブレーキBR2は、主に、変速機ケース11に結合されたハブ部材101と、第3ギヤセットPG3のリングギヤR3に結合された回転部材であるドラム部材102と、これらハブ部材101とドラム部材102との間に配置された複数の摩擦板103と、変速機ケース11に結合された外筒部104、底部105及び内筒部106によって形成されるシリンダ107に嵌合され、複数の摩擦板103同士を締結させる締結位置と複数の摩擦板103同士を解放させる解放位置との間で軸方向に移動可能なピストン108と、を有する。複数の摩擦板103同士が締結すると、第2ブレーキBR2が締結状態となり、複数の摩擦板103同士が解放すると、第2ブレーキBR2が解放状態となる。
【0036】
また、第2ブレーキBR2は、ピストン108を締結位置に設定するように当該ピストン108に油圧(締結用油圧)を付与するための締結用油圧室109と、ピストン108を解放位置に設定するように当該ピストン108に油圧(解放用油圧)を付与するための解放用油圧室110と、締結用油圧室109内に設けられ、ピストン108を解放位置から複数の摩擦板103がゼロクリアランス状態(換言すると複数の摩擦板103が互いに摺接(スリップ)した状態)となるゼロクリアランス位置まで締結方向に付勢するスプリング111と、を有する。このようなスプリング111によりピストン108が締結方向に付勢されることで、締結用油圧が付与されていないとき及び解放用油圧が付与されていないときのいずれも、複数の摩擦板103がゼロクリアランス状態となるようになっている。
【0037】
第2ブレーキBR2は、スプリング111によってゼロクリアランス位置まで付勢されたピストン108を、締結用油圧室109に締結用油圧を供給して締結位置まで移動させることで、締結するようになっている。また、このように締結位置にあるピストン108を、締結用油圧を排除して解放用油圧室110に解放用油圧を供給することで、ゼロクリアランス位置まで移動させ、そして、ピストン108をスプリング111の付勢力に抗して解放位置まで移動させることで、第2ブレーキBR2が解放するようになっている。
【0038】
このような第2ブレーキBR2は、車両1を発進させるときに、スリップ制御を行ってから、発進時の変速段を形成する他の摩擦締結要素を締結した後に締結される、つまり最後に締結される。この場合、第2ブレーキBR2においては、ピストン108を解放位置から複数の摩擦板103のゼロクリアランス位置までスプリング111によって付勢し(このときには複数の摩擦板103がスリップする)、そして、ピストン108を締結用油圧によってゼロクリアランス位置から締結位置まで移動させることで、複数の摩擦板103が締結されるようになっている。
なお、複数の摩擦板103がスプリング111によりゼロクリアランス状態となっているとき、つまりスリップ状態であるときに、第2ブレーキBR2によって伝達されるトルクを、以下では「ゼロタッチトルク」と呼ぶ。
【0039】
次に、
図4を更に参照しつつ、第2ブレーキBR2に付与する油圧を調整する油圧制御弁120について説明する。油圧制御弁120は、締結用油圧室109に付与する油圧(締結用油圧)を調整する締結用ソレノイド弁140と、解放用油圧室110に付与する油圧(解放用油圧)を調整する解放用ソレノイド弁150と、を有する。
【0040】
まず、締結用ソレノイド弁140は、締結用油圧室109に付与する油圧をリニアに調整可能な(換言すると弁の開度を連続的に変化可能な)、リニアソレノイド弁として構成されている。具体的には、締結用ソレノイド弁140は、オイルポンプ(不図示)からのオイルが油路141より供給され、このオイルを油路142より締結用油圧室109に供給する。また、締結用ソレノイド弁140は、締結用油圧室109内のオイルを油路143より排出(ドレン)する。
【0041】
続いて、解放用ソレノイド弁150は、油路151よりオイルが供給されるオンオフ弁としてのソレノイド弁152と、ソレノイド弁152からのオイルが油路153より供給されて動作するシフトバルブ154と、を有する。シフトバルブ154は、主に、複数のポート(代表的にはポートP1~P4)が設けられたケース154aと、ケース154a内に移動可能に収容された弁体154bと、弁体154bを移動させるためのオイルが供給される油圧室154cと、を有する。
【0042】
解放用ソレノイド弁150において、ソレノイド弁152がオンであるときには、オイルポンプ(不図示)からのオイルが、油路153及びポートP4よりシフトバルブ154に供給される。これにより、シフトバルブ154の油圧室154cにオイルが供給されて、シフトバルブ154の弁体154bに油圧が付与されることで、弁体154bがケース154a内において
図4における右側に配置される。この場合には、シフトバルブ154において、ポートP3が弁体154bにより塞がれる一方で、ポートP1とポートP2とが連通する(
図4においてシフトバルブ154中の実線参照)。これにより、オイルポンプ(不図示)からのオイルが、油路155、シフトバルブ154のポートP2、P1及び油路157を順に介して、解放用油圧室110へと供給される。
【0043】
これに対して、解放用ソレノイド弁150において、ソレノイド弁152がオフであるときには、オイルポンプ(不図示)からのオイルが、油路153よりシフトバルブ154に供給されない。そのため、シフトバルブ154の油圧室154cにオイルが供給されないので、弁体154bがケース154a内において
図4における左側に配置される。この場合には、シフトバルブ154において、ポートP2が弁体154bにより塞がれる一方で、ポートP1とポートP3とが連通する(
図4においてシフトバルブ154中の破線参照)。これにより、解放用油圧室110内のオイルが、油路157、シフトバルブ154のポートP1、ポートP3及び油路156を順に介して、排出されることとなる。
【0044】
以上述べたように、第2ブレーキBR2は、2つの締結用油圧室109及び解放用油圧室110を有しており、これら油圧室109、110に供給する油圧を制御することにより、締結と解放とが切り替えられるようになっている。他方で、他の摩擦締結要素(第1~第3クラッチCL1~CL3及び第1ブレーキBR1)は、基本的には、1つの油圧室(締結用油圧室に相当する)のみを有しており、締結時に当該油圧室に油圧が供給され、解放時に当該油圧室の油圧が排除されるようになっている。
【0045】
[電気的構成]
次に、
図5を参照して、本実施形態による自動変速機の制御システムの電気的構成について説明する。
図5に示すように、コントローラ50には、車速センサSN1、加速度センサSN2、油圧センサSN3からの信号が入力される。車速センサSN1は、車両1の速度(車速)を検出する。加速度センサSN2は、車両1の加速度を検出する。油圧センサSN3は、5つの摩擦締結要素(第1~第3クラッチCL1~CL3及び第1、第2ブレーキBR1、BR2)のそれぞれに適用される油圧を検出する。
【0046】
コントローラ50は、回路により構成されており、周知のマイクロコンピュータをベースとする制御器である。コントローラ50は、プログラムを実行する中央演算処理装置(Central Processing Unit:CPU)としての1以上のマイクロプロセッサ50aと、例えばRAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)により構成されてプログラム及びデータを格納するメモリ50bと、電気信号の入出力を行う入出力バス等を備えている。なお、コントローラ50は、例えばECU(Electronic Control Unit)やTCM(Transmission Control Module)により構成される。
【0047】
図5に示すように、コントローラ50は、主に、上述したセンサSN1~SN3からの信号に基づき、油圧制御弁120に制御信号を出力して第2ブレーキBR2に付与する油圧を制御することで、第2ブレーキBR2の締結状態と解放状態とを切り替えると共に、油圧制御弁160に制御信号を出力して第2クラッチCL2に付与する油圧を制御することで、第2クラッチCL2の締結状態と解放状態とを切り替える。より詳しくは、コントローラ50は、第2ブレーキBR2の締結状態と解放状態とを切り替えるべく、第2ブレーキBR2の締結用油圧室109に付与する油圧を調整するように、油圧制御弁120の締結用ソレノイド弁140の開度を制御すると共に、第2ブレーキBR2の解放用油圧室110に付与する油圧を調整するように、油圧制御弁120の解放用ソレノイド弁150(厳密にはソレノイド弁152であるが、解放用ソレノイド弁150を代表して示す。以下同様とする。)のオン/オフを制御する。
【0048】
このように、コントローラ50は、第2ブレーキBR2及び第2クラッチCL2のそれぞれの締結状態と解放状態とを切り替えるように、油圧制御弁120及び油圧制御弁160を制御することで、自動変速機10を所望の変速段(
図3参照)に設定する。例えば、コントローラ50は、第2ブレーキBR2が締結され且つ第2クラッチCL2が解放される5速から、第2ブレーキBR2が解放され且つ第2クラッチCL2が締結される6速へ切り替える場合(5速及び6速の両方とも第1、第3クラッチCL1、CL3が締結されている)、締結された第2ブレーキBR2を解放すると共に、解放された第2クラッチCL2を締結するように、油圧制御弁120及び油圧制御弁160を制御する。
【0049】
なお、
図5では、後述する本実施形態に係る制御に関係する代表的な第2ブレーキBR2及び第2クラッチCL2のみを図示している。しかしながら、コントローラ50は、第2ブレーキBR2及び第2クラッチCL2だけでなく、他の摩擦締結要素(第1、第3クラッチCL1、CL3及び第1ブレーキBR1)のそれぞれの締結状態と解放状態とを切り替えるように、これら摩擦締結要素のそれぞれに設けられた油圧制御弁を制御することで、自動変速機10の複数の変速段(
図3)を切り替える。
【0050】
ここで、第2ブレーキBR2は、本発明における「第1摩擦締結要素」に相当し、第2クラッチCL2は、本発明における「第2摩擦締結要素」に相当する。また、第2ブレーキBR2を制御するための油圧制御弁120の締結用ソレノイド弁140及び解放用ソレノイド弁150は、それぞれ、本発明における「第1油圧制御弁」及び「第2油圧制御弁」に相当し、第2クラッチCL2を制御するための油圧制御弁160は、本発明における「第3油圧制御弁」に相当する。
【0051】
[制御内容]
次に、本実施形態においてコントローラ50が実行する具体的な制御内容について説明する。ここでは、上述したような変速段を5速から6速へ切り替える状況を例に挙げて、第2ブレーキBR2を解放するように油圧制御弁120を制御し、且つ第2クラッチCL2を締結するように油圧制御弁160を制御する方法について説明する。
【0052】
本実施形態では、コントローラ50は、締結状態にある第2ブレーキBR2を解放状態に切り替えるときに、つまり変速段を5速から6速へ切り替えるときに、第2ブレーキBR2に対して、締結用油圧室109に付与する油圧を上昇させるように油圧制御弁120の締結用ソレノイド弁140を制御する第1制御と、この第1制御の後に、解放用油圧室110に付与する油圧を上昇させるように油圧制御弁120の解放用ソレノイド弁150を制御する第2制御と、この第2制御の後に、締結用油圧室109に付与する油圧を下降させるように締結用ソレノイド弁140を制御する第3制御と、を実行する。
【0053】
また、コントローラ50は、このような第2ブレーキBR2に対する第1乃至第3制御を行うときに、第2クラッチCL2に付与する油圧を上昇させるように油圧制御弁160を制御する第4制御を更に実行する。特に、コントローラ50は、第2ブレーキBR2に対する第3制御、つまり締結用油圧を下降させるように締結用ソレノイド弁140を制御する第3制御と、第2クラッチCL2に対する第4制御と、を略同時に開始すると共に略同時に終了するようにする。
【0054】
次に、
図6及び
図7を参照して、本実施形態に係る制御について、より具体的に説明する。ここでは、比較例に係る制御を挙げて、本実施形態に係る制御を説明する。
図6は、比較例に係る制御のタイムチャートであり、
図7は、本実施形態に係る制御のタイムチャートである。上述したように、本実施形態では、コントローラ50は、変速段を5速から6速へ切り替えるときに、第2ブレーキBR2に対して、締結用油圧を上昇させる制御(第1制御)、解放用油圧を上昇させる制御(第2制御)、締結用油圧を下降させる制御(第3制御)を順に行う。これ対して、比較例では、変速段を5速から6速へ切り替えるときに、第2ブレーキBR2に対して、本実施形態のような締結用油圧を上昇させる制御が行われずに、締結用油圧を下降させる制御が行われた後に、解放用油圧を上昇させる制御が行われる。
【0055】
まず、
図6を参照して、比較例に係る制御について説明する。
図6は、上から順に、変速要求、自動変速機10の入力軸12の回転数(AT入力回転数)、第2クラッチCL2の伝達トルク、第2ブレーキBR2の解放用ソレノイド弁150のオン/オフ、解放用油圧、締結用油圧、第2ブレーキBR2の伝達トルク、車両前後加速度、の時間変化を示している。比較例では、まず、時刻t11において、変速段を5速から6速へ切り替える変速要求が発せられ、この後の時刻t12より、第2クラッチCL2の伝達トルクが徐々に上昇するように油圧制御弁160が制御される。また、これと同時に、締結用油圧が徐々に下降するように締結用ソレノイド弁140が制御されて、第2ブレーキBR2の伝達トルクが徐々に下降していく。
【0056】
そして、時刻t13において、締結用油圧が0になり(つまり締結用油圧室109内のオイルが全て排出される)、、第2ブレーキBR2において複数の摩擦板103がスプリング111によりゼロクリアランス状態となるため、第2ブレーキBR2の伝達トルクが上述したゼロタッチトルクで維持される(矢印A11)。このように第2ブレーキBR2がゼロタッチトルクにて停滞すると、第2ブレーキBR2がインターロック側になるため、トルクの引き込みが強くなり、車両1の加速度波形が底状になる(矢印A12)。
【0057】
そして、第2ブレーキBR2がゼロタッチトルクにて停滞している時刻t14において、解放用ソレノイド弁150がオンにされて、解放用油圧が上昇することで、第2ブレーキBR2の伝達トルクが0(Nm)へと下降する(時刻t15)。この場合、第2ブレーキBR2の伝達トルクが急変するため(矢印A13)、第2ブレーキBR2及び第2クラッチCL2のそれぞれの解放及び締結のタイミング(掛け替えタイミング)やトルクダウンのタイミングが悪化することで、加速度変動によるショックが発生する(矢印A14)。
【0058】
続いて、
図7を参照して、本実施形態に係る制御について説明する。
図7も、
図6と同様に、上から順に、変速要求、AT入力回転数、第2クラッチCL2の伝達トルク、第2ブレーキBR2の解放用ソレノイド弁150のオン/オフ、解放用油圧、締結用油圧、第2ブレーキBR2の伝達トルク、車両前後加速度、の時間変化を示している。本実施形態では、コントローラ50は、変速段を5速から6速へ切り替える変速要求が発せられた時刻t21において、第2ブレーキBR2の締結用油圧を上昇させるように締結用ソレノイド弁140を制御することで、時刻t22以降、この上昇させた締結用油圧を維持する。これにより、第2ブレーキBR2に十分な締結用油圧を付与した状態に設定しておくことで、この後の解放用油圧の付与時に締結用油圧が解放用油圧に負けて第2ブレーキBR2が解放するのを確実に抑制するようにしている。
【0059】
そして、時刻t23において、コントローラ50は、解放用ソレノイド弁150をオンにし、第2ブレーキBR2の解放用油圧を上昇させる。この場合、上記のように上昇させた締結用油圧を維持しているため、解放用油圧を上昇させても、第2ブレーキBR2の伝達トルクが変化しない。この後、時刻t24において、コントローラ50は、第2クラッチCL2の伝達トルクが徐々に上昇するように油圧制御弁160を制御する。これと同時に、コントローラ50は、第2ブレーキBR2の締結用油圧を、ステップ状に僅かに下降させてから徐々に下降させるように(矢印A21)、締結用ソレノイド弁140を制御する。これにより、第2ブレーキBR2の伝達トルクが一定の変化率にて(つまりリニアに)徐々に0(Nm)に向かって下降していく(矢印A22)。この場合、比較例のように、第2ブレーキBR2の伝達トルクが、ゼロタッチトルクで停滞したり、0(Nm)に向かって急変したりすることはない(
図6中の矢印A11、A13)。したがって、本実施形態によれば、加速度変動によるショックが効果的に抑制されるのである(矢印A23)。
【0060】
なお、コントローラ50は、上述したような、油圧制御弁160を用いた第2クラッチCL2の伝達トルクを上昇させる制御と、締結用ソレノイド弁140を用いた第2ブレーキBR2の伝達トルクを下降させる制御と、を同時に終了させるようにする(時刻t25)。
【0061】
次に、
図8を参照して、本実施形態に係る制御(主に第2ブレーキBR2に対して行う制御)を示すフローチャートについて説明する。この制御は、コントローラ50内のマイクロプロセッサ50aによって、メモリ50bに記憶されたプログラムに基づき、所定の周期で繰り返し実行される。
【0062】
まず、ステップS10において、コントローラ50は、車両1内に設けられた各種センサからの信号などに対応する各種情報を取得する。具体的には、コントローラ50は、車速センサSN1によって検出された車速、加速度センサSN2によって検出された加速度、油圧センサSN3によって検出された油圧を少なくとも取得する。
【0063】
次いで、ステップS11において、コントローラ50は、自動変速機10の変速要求があるか否かを判定する。基本的には、自動変速機10の変速段は、車速に応じたものが適用されるようになっているため、コントローラ50は、ステップS10で取得された車速に基づき変速要求があるか否かを判定する。その結果、コントローラ50は、変速要求があると判定された場合(ステップS11:Yes)、ステップS12に進み、変速要求があると判定されなかった場合(ステップS11:No)、本制御に係るルーチンを抜ける。
【0064】
次いで、ステップS12において、コントローラ50は、自動変速機10を変速するために、締結状態にある第2ブレーキBR2を解放状態に切り替える要求があるか否かを判定する。典型的な例では、このように第2ブレーキBR2を切り替えるべき状況は、変速段を5速から6速へ切り替える状況となるので(
図3参照)、コントローラ50は、ステップS10で取得された車速に基づき、変速段を5速から6速へ切り替えるべきと判定した場合に、締結中の第2ブレーキBR2の解放要求があると判定する。こうして締結中の第2ブレーキBR2の解放要求があると判定された場合(ステップS12:Yes)、コントローラ50は、ステップS13に進む。これに対して、コントローラ50は、締結中の第2ブレーキBR2の解放要求があると判定されなかった場合(ステップS12:No)、本制御に係るルーチンを抜ける。
【0065】
次いで、ステップS13において、コントローラ50は、第2ブレーキBR2の締結用油圧を上昇させる指令を出す。具体的には、コントローラ50は、締結用油圧を上昇させるように、油圧制御弁120の締結用ソレノイド弁140を制御する。
【0066】
次いで、ステップS14において、コントローラ50は、ステップS13で上昇させた締結用油圧が事前に定められた所定値以上になったか否かを判定する。典型的な例では、コントローラ50は、締結用油圧が最大圧力(油圧システムのライン圧に相当する)になったか否かを判定する。その結果、コントローラ50は、締結用油圧が所定値以上になったと判定された場合(ステップS14:Yes)、ステップS15に進む。この場合、コントローラ50は、締結用油圧を所定値に維持する。これに対して、コントローラ50は、締結用油圧が所定値以上になったと判定されなかった場合(ステップS14:No)、ステップS13に戻る。この場合、コントローラ50は、締結用油圧が所定値以上になるまで、ステップS13、S14を繰り返す。
【0067】
次いで、ステップS15において、コントローラ50は、第2ブレーキBR2に解放用油圧を付与する指令を出す。具体的には、コントローラ50は、解放用油圧を上昇させるように、油圧制御弁120の解放用ソレノイド弁150をオンにする制御を行う。
【0068】
次いで、ステップS16において、コントローラ50は、ステップS15を終了してから事前に定められた所定時間が経過したか否かを判定する。この所定時間は、締結用油圧の下降を開始させるべきタイミング(換言すると第2ブレーキBR2の伝達トルクを下降させるべきタイミング)に基づき定められている。コントローラ50は、所定時間が経過した判定された場合(ステップS16:Yes)、ステップS17に進み、所定時間が経過した判定されなかった場合(ステップS16:No)、ステップS16に戻る。後者の場合、コントローラ50は、所定時間が経過するまで、ステップS16を繰り返す。
【0069】
次いで、ステップS17において、コントローラ50は、締結用油圧を下降させる勾配(傾き、変化率)を算出する。具体的には、コントローラ50は、ドライバにショックを感じさせない程度の加速度勾配に基づき、第2ブレーキBR2の伝達トルクの下降勾配を算出し、この伝達トルクの勾配を実現するような締結用油圧の下降勾配を算出する。この場合、コントローラ50は、自動変速機10への入力トルク量に基づき、締結用油圧の下降勾配を算出するのが良い。
【0070】
次いで、ステップS18において、コントローラ50は、第2ブレーキBR2の締結用油圧を下降させる指令を出す。具体的には、コントローラ50は、締結用油圧をステップ状に僅かに下降させてから、締結用油圧をステップS17で算出された勾配に従って下降させるように、締結用ソレノイド弁140を制御する。
【0071】
[作用及び効果]
次に、本実施形態に係る自動変速機の制御システムの作用及び効果について説明する。本実施形態では、コントローラ50は、締結状態にある第2ブレーキBR2を解放状態に切り替えるときに、締結用油圧室109に付与する油圧を上昇させるように締結用ソレノイド弁140を制御する第1制御と、この第1制御の後に、解放用油圧室110に付与する油圧を上昇させるように解放用ソレノイド弁150を制御する第2制御と、この第2制御の後に、締結用油圧室109に付与する油圧を下降させるように締結用ソレノイド弁140を制御する第3制御と、を実行する。
【0072】
このような本実施形態では、解放用油圧を上昇させる前に締結用油圧を一旦上昇させているので、解放用油圧の付与時に締結用油圧が解放用油圧に負けて第2ブレーキBR2が解放するのを確実に防ぐことができる。また、本実施形態では、解放用油圧を上昇させた後に締結用油圧を下降させるので、解放用油圧の付与による第2ブレーキBR2の伝達トルクの急変(急降下)を抑制することができる。以上より、本実施形態によれば、第2ブレーキBR2を解放するときに、加速度変動によるショックを抑制することができる。
【0073】
また、本実施形態では、締結用ソレノイド弁140は、締結用油圧をリニアに調整可能な弁により構成され、解放用ソレノイド弁150は、オンオフ弁により構成されている。これにより、第3制御において締結用油圧を下降させるときに、締結用ソレノイド弁140により締結用油圧を所望の変化率でリニアに下降させる制御を実現でき、第2ブレーキBR2を滑らか且つ速やかに解放することができる。よって、第2ブレーキBR2の解放時におけるショック抑制及び応答性を確保することが可能となる。このように、本実施形態では、油圧をリニアに調整可能な締結用ソレノイド弁140を用いることで、第2ブレーキBR2の制御性を確保している。一方で、解放用油圧を調整する解放用ソレノイド弁150についてはオンオフ弁にて構成しているので、第2ブレーキBR2の簡易な装置構成及び制御構成を実現している。
【0074】
また、本実施形態では、コントローラ50は、第2ブレーキBR2を解放するとき、具体的には変速段を5速から6速へ切り替えるときに、上記の第2ブレーキBR2に対する第1乃至第3制御に加えて、第2クラッチCL2に付与する油圧を上昇させるように油圧制御弁160を制御する第4制御を更に実行し、第2ブレーキBR2に対する第3制御、つまり締結用油圧を下降させるように締結用ソレノイド弁140を制御する第3制御と、第2クラッチCL2に対する第4制御と、を略同時に終了するようにする。これにより、変速を滑らかに完了させることができる。
【0075】
また、本実施形態では、コントローラ50は、更に、第2ブレーキBR2に対する第3制御と第2クラッチCL2に対する第4制御とを略同時に開始するようにする。これにより、変速の応答性を確保することができる。
【0076】
また、本実施形態では、第2ブレーキBR2は、締結用油圧室109に油圧が付与されていないとき及び解放用油圧室110に油圧が付与されていないときのいずれも、複数の摩擦板103同士がゼロクリアランス状態となるように構成されている。これにより、第2ブレーキBR2に油圧を付与していないときに複数の摩擦板103がスリップ状態となっているので、この状態にある第2ブレーキBR2に油圧を付与することで、第2ブレーキBR2を速やかに締結することができる。よって、第2ブレーキBR2の締結時の応答性を確保することができる。
【0077】
また、本実施形態では、第2ブレーキBR2は、少なくとも車両1を発進させるときに締結状態に切り替えられる。上記のように油圧が付与されていないときにゼロクリアランス状態となる第2ブレーキBR2によれば、車両1の発進時に、この第2ブレーキBR2をスリップ制御してから締結することで、滑らかな発進を精度良く実現することができる。
【符号の説明】
【0078】
1 車両
10 自動変速機
20 エンジン
50 コントローラ
103 摩擦板
108 ピストン
109 締結用油圧室
110 解放用油圧室
120 油圧制御弁
140 締結用ソレノイド弁(第1油圧制御弁)
150 解放用ソレノイド弁(第2油圧制御弁)
152 ソレノイド弁
154 シフトバルブ
160 油圧制御弁(第3油圧制御弁)
BR1 第1ブレーキ
BR2 第2ブレーキ(第1摩擦締結要素)
CL1 第1クラッチ
CL2 第2クラッチ(第2摩擦締結要素)
CL2 第3クラッチ