(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024164504
(43)【公開日】2024-11-27
(54)【発明の名称】転がり軸受、転がり軸受の製造方法、及び軸受装置
(51)【国際特許分類】
F16C 33/58 20060101AFI20241120BHJP
F16C 33/64 20060101ALI20241120BHJP
F16C 33/78 20060101ALI20241120BHJP
F16C 35/077 20060101ALI20241120BHJP
F16C 35/073 20060101ALI20241120BHJP
C23C 26/00 20060101ALI20241120BHJP
【FI】
F16C33/58
F16C33/64
F16C33/78 Z
F16C35/077
F16C35/073
C23C26/00 A
C23C26/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023080020
(22)【出願日】2023-05-15
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(72)【発明者】
【氏名】甲藤 智
【テーマコード(参考)】
3J117
3J216
3J701
4K044
【Fターム(参考)】
3J117AA01
3J117AA02
3J117CA04
3J117DB07
3J216AA02
3J216AA12
3J216BA19
3J216CB12
3J216EA02
3J216FA05
3J701AA02
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA62
3J701BA53
3J701BA54
3J701BA56
3J701DA05
3J701EA73
3J701EA78
3J701FA11
4K044AA02
4K044AB10
4K044BA17
4K044BA21
4K044BB01
4K044BC02
4K044CA16
4K044CA53
(57)【要約】
【課題】電食の発生を確実に抑制することができる転がり軸受、転がり軸受の製造方法、及び軸受装置を提供する。
【解決手段】転がり軸受1は、内輪2と、径方向における外側の外周面32、及び軸方向における一方の側の第1端面33を有する外輪3と、内輪2と外輪3との間に配置された複数の転動体4と、外周面32及び第1端面33上に連続的に形成された絶縁膜6と、を備える。外輪3には、第1端面33の内縁33aに沿って軸方向における他方の側に凹むように第1外輪段差部37が形成されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪と、
径方向における外側の外輪外周面、及び軸方向における一方の側の第1外輪端面を有する外輪と、
前記内輪と前記外輪との間に配置された複数の転動体と、
前記外輪外周面及び前記第1外輪端面上に連続的に形成された絶縁膜と、を備え、
前記外輪には、前記第1外輪端面の内縁に沿って前記軸方向における他方の側に凹むように第1外輪段差部が形成されている、転がり軸受。
【請求項2】
前記内輪は、前記軸方向における前記一方の側の第1内輪端面を有し、
前記内輪には、前記第1内輪端面の外縁に沿って前記軸方向における前記他方の側に凹むように第1内輪段差部が形成されている、請求項1に記載の転がり軸受。
【請求項3】
前記第1外輪段差部及び前記第1内輪段差部は、前記軸方向に垂直な底面、周方向に平行な外側側面、及び前記周方向に平行な内側側面によって画定されている、請求項2に記載の転がり軸受。
【請求項4】
前記外輪は、前記軸方向における前記他方の側の第2外輪端面を更に有し、
前記内輪は、前記軸方向における前記他方の側の第2内輪端面を更に有し、
前記絶縁膜は、前記外輪外周面、前記第1外輪端面及び前記第2外輪端面上に連続的に形成されており、
前記外輪には、前記第2外輪端面の内縁に沿って前記軸方向における前記一方の側に凹むように第2外輪段差部が形成されており、
前記内輪には、前記第2内輪端面の外縁に沿って前記軸方向における前記一方の側に凹むように第2内輪段差部が形成されている、請求項2に記載の転がり軸受。
【請求項5】
前記外輪外周面及び前記第1外輪端面には、ショットピーニング処理、化成処理、及びパルスレーザによる表面加工処理のうち、少なくとも一つの処理が施されている、請求項1に記載の転がり軸受。
【請求項6】
請求項1に記載の転がり軸受を製造するための方法であって、
前記内輪、前記外輪及び前記複数の転動体が組み合わされたユニットを用意する第1ステップと、
前記第1外輪段差部に対応する環状部を有するマスキング治具を用意する第2ステップと、
前記第1ステップ及び前記第2ステップの後に、前記第1外輪段差部に前記環状部を配置することにより、前記ユニットのうち前記径方向において前記第1外輪端面よりも内側に位置する部分を前記マスキング治具によって覆う第3ステップと、
前記第3ステップの後に、前記外輪外周面及び前記第1外輪端面上に前記絶縁膜を連続的に形成する第4ステップと、を備える、転がり軸受の製造方法。
【請求項7】
請求項1に記載の転がり軸受と、
前記外輪が嵌め合わされたハウジングと、を備え、
前記外輪は、前記外輪外周面と前記第1外輪端面との間の外輪面取り面を更に有し、
前記絶縁膜は、前記外輪外周面、前記第1外輪端面及び外輪面取り面上に連続的に形成されており、
前記ハウジングは、前記絶縁膜を介して前記外輪外周面と向かい合っているハウジング内周面、及び前記絶縁膜を介して前記第1外輪端面と向かい合っているハウジング端面を有し、
前記絶縁膜のうち前記外輪面取り面上に形成された部分は、前記ハウジング内周面と前記ハウジング端面との間の隅部から離間している、軸受装置。
【請求項8】
前記ハウジングには、前記ハウジング端面の内縁に沿って前記軸方向における前記一方の側に凹むようにハウジング段差部が形成されており、
前記軸方向から見た場合に、前記ハウジング端面の前記内縁は、前記第1外輪端面の前記内縁の外側に位置している、請求項7に記載の軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受、転がり軸受の製造方法、及び軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電食の発生を抑制するためにハウジングと外輪とを電気的に絶縁するように構成された転がり軸受として、径方向における外側の外周面、及び軸方向における一方の側の端面を有する外輪と、外輪の外周面及び端面に連続的に形成された絶縁膜と、を備える転がり軸受が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述したような転がり軸受では、外輪の外周面及び端面に絶縁膜が適切に形成されていないと、絶縁膜が剥離し、転がり軸受に電食が発生するおそれがある。
【0005】
そこで、本発明は、電食の発生を確実に抑制することができる転がり軸受、転がり軸受の製造方法、及び軸受装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の転がり軸受は、[1]「内輪と、径方向における外側の外輪外周面、及び軸方向における一方の側の第1外輪端面を有する外輪と、前記内輪と前記外輪との間に配置された複数の転動体と、前記外輪外周面及び前記第1外輪端面上に連続的に形成された絶縁膜と、を備え、前記外輪には、前記第1外輪端面の内縁に沿って前記軸方向における他方の側に凹むように第1外輪段差部が形成されている、転がり軸受」である。
【0007】
上記[1]に記載の転がり軸受では、外輪が、径方向における外側の外輪外周面、及び軸方向における一方の側の第1外輪端面を有しており、外輪に、第1外輪端面の内縁に沿って軸方向における他方の側に凹むように第1外輪段差部が形成されている。これにより、転がり軸受の製造時に、内輪、外輪及び複数の転動体が組み合わされたユニット、並びに、第1外輪段差部に対応する環状部を有するマスキング治具を用意し、第1外輪段差部に環状部を配置することにより、ユニットのうち径方向において第1外輪端面よりも内側に位置する部分をマスキング治具によって覆えば、外輪外周面及び第1外輪端面上に絶縁膜を効率良く且つ確実に形成することができる。よって、上記[1]に記載の転がり軸受によれば、電食の発生を確実に抑制することができる。
【0008】
本発明の転がり軸受は、[2]「前記内輪は、前記軸方向における前記一方の側の第1内輪端面を有し、前記内輪には、前記第1内輪端面の外縁に沿って前記軸方向における前記他方の側に凹むように第1内輪段差部が形成されている、上記[1]に記載の転がり軸受」であってもよい。当該[2]に記載の転がり軸受によれば、転がり軸受の製造時に、第1外輪段差部及び第1内輪段差部に対応する環状部を有するマスキング治具を用意し、第1外輪段差部及び第1内輪段差部に環状部を配置することにより、ユニットのうち径方向において第1外輪端面よりも内側に位置する部分をマスキング治具によって安定的に覆うことができる。したがって、外輪外周面及び第1外輪端面上に絶縁膜をより効率良く且つより確実に形成することができる。
【0009】
本発明の転がり軸受は、[3]「前記第1外輪段差部及び前記第1内輪段差部は、前記軸方向に垂直な底面、周方向に平行な外側側面、及び前記周方向に平行な内側側面によって画定されている、上記[2]に記載の転がり軸受」であってもよい。当該[3]に記載の転がり軸受によれば、転がり軸受の製造時に、第1外輪段差部及び第1内輪段差部にマスキング治具の環状部を安定的に配置することができる。したがって、外輪外周面及び第1外輪端面上に絶縁膜をより効率良く且つより確実に形成することができる。
【0010】
本発明の転がり軸受は、[4]「前記外輪は、前記軸方向における前記他方の側の第2外輪端面を更に有し、前記内輪は、前記軸方向における前記他方の側の第2内輪端面を更に有し、前記絶縁膜は、前記外輪外周面、前記第1外輪端面及び前記第2外輪端面上に連続的に形成されており、前記外輪には、前記第2外輪端面の内縁に沿って前記軸方向における前記一方の側に凹むように第2外輪段差部が形成されており、前記内輪には、前記第2内輪端面の外縁に沿って前記軸方向における前記一方の側に凹むように第2内輪段差部が形成されている、上記[2]又は[3]に記載の転がり軸受」であってもよい。当該[4]に記載の転がり軸受によれば、転がり軸受の製造時に、第1外輪段差部及び第1内輪段差部に対応する環状部を有するマスキング治具を用意し、第1外輪段差部及び第1内輪段差部に環状部を配置することにより、ユニットのうち径方向において第1外輪端面よりも内側に位置する部分をマスキング治具によって安定的に覆うことができる。同様に、転がり軸受の製造時に、第2外輪段差部及び第2内輪段差部に対応する環状部を有するマスキング治具を用意し、第2外輪段差部及び第2内輪段差部に環状部を配置することにより、ユニットのうち径方向において第2外輪端面よりも内側に位置する部分をマスキング治具によって安定的に覆うことができる。したがって、外輪外周面、第1外輪端面及び第2外輪端面上に絶縁膜をより効率良く且つより確実に形成することができる。
【0011】
本発明の転がり軸受は、[5]「前記外輪外周面及び前記第1外輪端面には、ショットピーニング処理、化成処理、及びパルスレーザによる表面加工処理のうち、少なくとも一つの処理が施されている、上記[1]~[4]のいずれか一つに記載の転がり軸受」であってもよい。当該[5]に記載の転がり軸受によれば、転がり軸受の製造時に、上記少なくとも一つの処理によって、外輪外周面及び第1外輪端面を滑らかに接続することができると共に、外輪外周面及び第1外輪端面を粗面にすることができる。したがって、外輪外周面及び第1外輪端面から絶縁膜が剥離するのを確実に抑制することができる。
【0012】
本発明の転がり軸受の製造方法は、[6]「上記[1]~[5]のいずれか一つに記載の転がり軸受を製造するための方法であって、前記内輪、前記外輪及び前記複数の転動体が組み合わされたユニットを用意する第1ステップと、前記第1外輪段差部に対応する環状部を有するマスキング治具を用意する第2ステップと、前記第1ステップ及び前記第2ステップの後に、前記第1外輪段差部に前記環状部を配置することにより、前記ユニットのうち前記径方向において前記第1外輪端面よりも内側に位置する部分を前記マスキング治具によって覆う第3ステップと、前記第3ステップの後に、前記外輪外周面及び前記第1外輪端面上に前記絶縁膜を連続的に形成する第4ステップと、を備える、転がり軸受の製造方法」である。
【0013】
上記[6]に記載の転がり軸受の製造方法では、外輪の第1外輪段差部にマスキング治具の環状部が配置されることにより、ユニットのうち径方向において第1外輪端面よりも内側に位置する部分がマスキング治具によって覆われる。よって、上記[6]に記載の転がり軸受の製造方法によれば、外輪外周面及び第1外輪端面上に絶縁膜を効率良く且つ確実に形成することができる。
【0014】
本発明の軸受装置は、[7]「上記[1]~[5]のいずれか一つに記載の転がり軸受と、前記外輪が嵌め合わされたハウジングと、を備え、前記外輪は、前記外輪外周面と前記第1外輪端面との間の外輪面取り面を更に有し、前記絶縁膜は、前記外輪外周面、前記第1外輪端面及び外輪面取り面上に連続的に形成されており、前記ハウジングは、前記絶縁膜を介して前記外輪外周面と向かい合っているハウジング内周面、及び前記絶縁膜を介して前記第1外輪端面と向かい合っているハウジング端面を有し、前記絶縁膜のうち前記外輪面取り面上に形成された部分は、前記ハウジング内周面と前記ハウジング端面との間の隅部から離間している、軸受装置」である。
【0015】
上記[7]に記載の軸受装置では、絶縁膜のうち外輪面取り面上に形成された部分が、ハウジング内周面とハウジング端面との間の隅部から離間している。これにより、仮に絶縁膜が外輪面取り面において局所的に薄くなったとしても、ハウジングと外輪との電気的な絶縁を確保することができる。よって、上記[7]に記載の軸受装置によれば、転がり軸受における電食の発生を確実に抑制することができる。
【0016】
本発明の軸受装置は、[8]「前記ハウジングには、前記ハウジング端面の内縁に沿って前記軸方向における前記一方の側に凹むようにハウジング段差部が形成されており、前記軸方向から見た場合に、前記ハウジング端面の前記内縁は、前記第1外輪端面の前記内縁の外側に位置している、上記[7]に記載の軸受装置」であってもよい。当該[8]に記載の軸受装置によれば、仮に絶縁膜が第1外輪端面の内縁の近傍において局所的に薄くなったとしても、ハウジングと外輪との電気的な絶縁を確保することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、電食の発生を確実に抑制することができる転がり軸受、転がり軸受の製造方法、及び軸受装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図2】
図1に示される転がり軸受の一部分の断面図である。
【
図3】
図1に示される転がり軸受の製造時におけるユニット及びマスキング治具の断面図である。
【
図4】
図1に示される転がり軸受の製造時におけるユニット及びマスキング治具の断面図である。
【
図5】
図1に示される転がり軸受を備える軸受装置の一部分の断面図である。
【
図6】参考例の転がり軸受の製造方法におけるユニット及びマスキング治具の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
[転がり軸受の構成]
【0020】
図1に示されるように、転がり軸受1は、内輪2と、外輪3と、複数の転動体4と、保持器5と、絶縁膜6と、を備えている。以下、転がり軸受1の中心線Aに平行な方向を軸方向といい、中心線Aに垂直な方向を径方向といい、中心線Aに平行な方向から見た場合に中心線Aを中心とする円周に沿った方向を周方向という。
【0021】
内輪2は、外周面21、内周面22、第1端面(第1内輪端面)23、第2端面(第2内輪端面)24、第1面取り面25及び第2面取り面26を有している。外周面21は、径方向における外側の周面である。内周面22は、径方向における内側の周面である。第1端面23は、軸方向における一方の側の端面である。第2端面24は、軸方向における他方の側の端面である。第1面取り面25は、内周面22と第1端面23との間のR面取り面である。第2面取り面26は、内周面22と第2端面24との間のR面取り面である。外周面21には、軌道面21aが形成されている。内周面22は、例えば、軸(図示省略)と嵌め合わされる。
【0022】
外輪3は、径方向において内輪2の外側に配置されている。外輪3は、内周面31、外周面(外輪外周面)32、第1端面(第1外輪端面)33、第2端面(第2外輪端面)34、第1面取り面(外輪面取り面)35及び第2面取り面36を有している。内周面31は、径方向における内側の周面である。外周面32は、径方向における外側の周面である。第1端面33は、軸方向における一方の側の端面である。第2端面34は、軸方向における他方の側の端面である。第1面取り面35は、外周面32と第1端面33との間のR面取り面である。第2面取り面36は、外周面32と第2端面34との間のR面取り面である。内周面31には、軌道面31aが形成されている。外周面32は、例えば、ハウジング(図示省略)と嵌め合わされる。
【0023】
本実施形態では、外輪3の外周面32、第1端面33、第2端面34、第1面取り面35及び第2面取り面36に、ショットピーニング処理、化成処理、及びパルスレーザによる表面加工処理のうち、少なくとも一つの処理が施されている。ショットピーニング処理は、無数の鋼鉄又は非鉄金属の小さな球体を高速で加工物の表面に衝突させることによって、加工物の表面に凹凸を形成する処理である。化成処理は、例えば、リン酸塩系の溶液及びアルカリ水溶液等の溶液に加工物を浸漬させることによって、被膜を形成する処理である。パルスレーザによる表面加工処理は、例えば、フェムト秒レーザによる表面加工処理であって、加工物にパルスレーザを照射することによって、照射された部分をアブレーションして、加工物の表面に凹凸を形成する処理である。
【0024】
複数の転動体4は、内輪2と外輪3との間に配置されている。より具体的には、複数の転動体4は、内輪2の軌道面21aと外輪3の軌道面31aとの間に配置されている。本実施形態では、各転動体4は、ボールである。保持器5は、複数の転動体4を保持している。より具体的には、保持器5は、内輪2の軌道面21aと外輪3の軌道面31aとの間において各転動体4が転動自在となるように、複数の転動体4を保持している。
【0025】
絶縁膜6は、外輪3の外周面32、第1端面33、第2端面34、第1面取り面35及び第2面取り面36上に連続的に形成されている。つまり、絶縁膜6は、外輪3の外周面32、第1端面33、第2端面34、第1面取り面35及び第2面取り面36上に一体で形成されている。絶縁膜6の厚さは、5μm以上50μm以下である。絶縁膜6の厚さが5μm以上になると、電食の発生を抑制するのに必要な絶縁特性が確保される。絶縁膜6の厚さが50μm以上になると、電食の発生を抑制するのに必要な絶縁特性が最大の状態(飽和した状態)となる。ただし、絶縁膜6の厚さは、外周面32、第1端面33、第2端面34、第1面取り面35及び第2面取り面36上において一定である必要はなく、例えば、絶縁膜6のうち外周面32上に形成された部分の厚さが、絶縁膜6のうち第1端面33及び第2端面34上に形成された部分の厚さよりも大きくてもよい。本実施形態では、絶縁膜6の材料は、樹脂(例えば、エポキシ樹脂、ポリアミドイミド樹脂等)である。その場合、絶縁膜6は、樹脂を含む塗料の塗布及び当該塗料の乾燥によって形成される。
【0026】
図2に示されるように、内輪2には、第1内輪段差部27及び第2内輪段差部28が形成されている。第1内輪段差部27は、第1端面23の外縁23aに沿って軸方向における他方の側に凹むように形成されている。第1内輪段差部27は、軸方向に垂直な底面27a、及び周方向に平行な内側側面27bを有している。底面27aは、軸方向における一方の側に向いており、周方向に延在している。内側側面27bは、径方向における外側に向いており、周方向に延在している。第2内輪段差部28は、第2端面24の外縁24aに沿って軸方向における一方の側に凹むように形成されている。第2内輪段差部28は、軸方向に垂直な底面28a、及び周方向に平行な内側側面28bを有している。底面28aは、軸方向における他方の側に向いており、周方向に延在している。内側側面28bは、径方向における外側に向いており、周方向に延在している。
【0027】
外輪3には、第1外輪段差部37及び第2外輪段差部38が形成されている。第1外輪段差部37は、第1端面33の内縁33aに沿って軸方向における他方の側に凹むように形成されている。第1外輪段差部37は、軸方向に垂直な底面37a、及び周方向に平行な外側側面37bを有している。底面37aは、軸方向における一方の側に向いており、周方向に延在している。外側側面37bは、径方向における内側に向いており、周方向に延在している。第2外輪段差部38は、第2端面34の内縁34aに沿って軸方向における一方の側に凹むように形成されている。第2外輪段差部38は、軸方向に垂直な底面38a、及び周方向に平行な外側側面38bを有している。底面38aは、軸方向における他方の側に向いており、周方向に延在している。外側側面38bは、径方向における内側に向いており、周方向に延在している。
【0028】
第1外輪段差部37及び第1内輪段差部27は、軸方向に垂直な底面37a及び底面27a、周方向に平行な外側側面37b、並びに、周方向に平行な内側側面27bによって画定されている。第2外輪段差部38及び第2内輪段差部28は、軸方向に垂直な底面38a及び底面28a、周方向に平行な外側側面38b、並びに、周方向に平行な内側側面28bによって画定されている。底面27a,37aは、軸方向に垂直な同一平面上に位置している。底面28a,38aは、軸方向に垂直な同一平面上に位置している。軸方向における第2端面24,34と底面28a,38aとの距離は、軸方向における第1端面23,33と底面27a,37aとの距離に等しい。外側側面37b,38bは、周方向に平行な同一周面上に位置している。内側側面27b,28bは、周方向に平行な同一周面上に位置している。
[転がり軸受の製造方法]
【0029】
上述した転がり軸受1を製造するための方法について説明する。まず、
図3に示されるように、内輪2、外輪3、複数の転動体4、及び保持器5が組み合わされたユニット1Aが用意される(第1ステップ)。その一方で、マスキング治具200が用意される(第2ステップ)。第1ステップ及び第2ステップは、どちらが先に実施されてもよいし(換言すれば、どちらが後に実施されてもよいし)、同時に実施されてもよい。
【0030】
マスキング治具200は、第1部分201と、第2部分202と、を備えている。第1部分201は、円柱状に形成されている。第2部分202は、第1部分201の径よりも小さい径を有する円柱状に形成されている。第1部分201及び第2部分202は、それぞれの高さ方向に並び且つそれぞれの中心線を一致させた状態で、一体で形成されている。第1部分201には、第1部分201における第2部分202とは反対側の底面に円柱状の凹部201aが形成されることにより、環状部203が設けられている。環状部203は、端面203a、内周面203b及び外周面203cを有している。
【0031】
環状部203は、第1外輪段差部37及び第1内輪段差部27にも、第2外輪段差部38及び第2内輪段差部28にも、対応している。より具体的には、環状部203は、第1外輪段差部37及び第1内輪段差部27に配置されることが可能である。環状部203が第1外輪段差部37及び第1内輪段差部27に配置された状態で、環状部203の端面203aが底面37a及び底面27aに接触し、環状部203の内周面203bが内側側面27bに接触し、環状部203の外周面203cが外側側面37bに接触する(
図2参照)。同様に、環状部203は、第2外輪段差部38及び第2内輪段差部28に配置されることが可能である。環状部203が第2外輪段差部38及び第2内輪段差部28に配置された状態で、環状部203の端面203aが底面38a及び底面28aに接触し、環状部203の内周面203bが内側側面28bに接触し、環状部203の外周面203cが外側側面38bに接触する(
図2参照)。
【0032】
第1ステップ及び第2ステップの後に、第1外輪段差部37及び第1内輪段差部27に一つのマスキング治具200の環状部203が配置される。これにより、ユニット1Aのうち径方向において外輪3の第1端面33よりも内側に位置する部分が、当該一つのマスキング治具200によって、軸方向における一方の側から覆われる(第3ステップ)。同様に、第2外輪段差部38及び第2内輪段差部28に別のマスキング治具200の環状部203が配置される。これにより、ユニット1Aのうち径方向において外輪3の第2端面34よりも内側に位置する部分が、当該別のマスキング治具200によって、軸方向における他方の側から覆われる(第3ステップ)。
【0033】
第3ステップの後に、
図4に示されるように、外輪3の外周面32、第1端面33、第2端面34、第1面取り面35及び第2面取り面36上に絶縁膜6が連続的に形成される(第4ステップ)。より具体的には、第1外輪段差部37及び第1内輪段差部27に一つのマスキング治具200の環状部203が配置され、且つ第2外輪段差部38及び第2内輪段差部28に別のマスキング治具200の環状部203が配置された状態で、外輪3の外周面32、第1端面33、第2端面34、第1面取り面35及び第2面取り面36に、樹脂を含む塗料が塗布され、当該塗料が乾燥させられる。以上により、転がり軸受1が得られる。
[軸受装置の構成]
【0034】
上述した転がり軸受1を備える軸受装置の構成について説明する。
図5に示されるように、軸受装置10は、転がり軸受1と、ハウジング100と、軸300と、を備えている。転がり軸受1の内輪2は、軸300と嵌め合わされている。転がり軸受1の外輪3は、ハウジング100と嵌め合わされている。
【0035】
ハウジング100は、内周面(ハウジング内周面)101及び端面(ハウジング端面)102を有している。内周面101は、周方向に平行な内周面であり、絶縁膜6を介して外輪3の外周面32と向かい合っている。端面102は、軸方向に垂直な端面であり、絶縁膜6を介して外輪3の第1端面33と向かい合っている。絶縁膜6のうち第1面取り面35上に形成された部分は、内周面101と端面102との間のハウジング100の隅部103から離間している。本実施形態では、隅部103は、内周面101と端面102との間のR面取り面である。中心線Aを含む断面において、隅部103の曲率半径は、第1面取り面35の曲率半径よりも小さい。
【0036】
ハウジング100には、ハウジング段差部104が形成されている。ハウジング段差部104は、端面102の内縁102aに沿って軸方向における一方の側に凹むように形成されている。本実施形態では、ハウジング段差部104は、端面102の内縁102aを開口縁として軸方向における他方の側に開口する凹部である。軸方向から見た場合に、端面102の内縁102aは、外輪3の第1端面33の内縁33aの外側に位置している。
[作用及び効果]
【0037】
以上説明したように、転がり軸受1では、外輪3に第1外輪段差部37及び第2外輪段差部38が形成されており、内輪2に第1内輪段差部27及び第2内輪段差部28が形成されている。これにより、転がり軸受1の製造時に、内輪2、外輪3、複数の転動体4、及び保持器5が組み合わされたユニット1Aを用意し、第1外輪段差部37及び第1内輪段差部27に一つのマスキング治具200の環状部203を配置することにより、ユニット1Aのうち径方向において第1端面33よりも内側に位置する部分を当該一つのマスキング治具200によって安定的に覆うことができる。同様に、第2外輪段差部38及び第2内輪段差部28に別のマスキング治具200の環状部203を配置することにより、ユニット1Aのうち径方向において第2端面34よりも内側に位置する部分を当該別のマスキング治具200によって安定的に覆うことができる。したがって、外輪3の外周面32、第1端面33、第2端面34、第1面取り面35及び第2面取り面36上に絶縁膜6を効率良く且つ確実に形成することができる。よって、転がり軸受1によれば、電食の発生を確実に抑制することができる。
【0038】
転がり軸受1では、第1外輪段差部37及び第1内輪段差部27が、軸方向に垂直な底面37a及び底面27a、周方向に平行な外側側面37b、並びに、周方向に平行な内側側面27bによって画定されている。これにより、転がり軸受1の製造時に、第1外輪段差部37及び第1内輪段差部27に一つのマスキング治具200の環状部203をより安定的に配置することができる。同様に、第2外輪段差部38及び第2内輪段差部28が、軸方向に垂直な底面38a及び底面28a、周方向に平行な外側側面38b、並びに、周方向に平行な内側側面28bによって画定されている。これにより、転がり軸受1の製造時に、第2外輪段差部38及び第2内輪段差部28に別のマスキング治具200の環状部203をより安定的に配置することができる。したがって、外輪3の外周面32、第1端面33、第2端面34、第1面取り面35及び第2面取り面36上に絶縁膜6をより効率良く且つより確実に形成することができる。
【0039】
転がり軸受1では、外輪3の外周面32、第1端面33、第2端面34、第1面取り面35及び第2面取り面36に、ショットピーニング処理、化成処理、及びパルスレーザによる表面加工処理のうち、少なくとも一つの処理が施されている。これにより、転がり軸受1の製造時に、上記少なくとも一つの処理によって、外周面32、第1端面33、第2端面34、第1面取り面35及び第2面取り面36を滑らかに接続することができると共に、外周面32、第1端面33、第2端面34、第1面取り面35及び第2面取り面36を粗面にすることができる。したがって、外周面32、第1端面33、第2端面34、第1面取り面35及び第2面取り面36から絶縁膜6が剥離するのを確実に抑制することができる。
【0040】
転がり軸受1の製造方法では、第1外輪段差部37及び第1内輪段差部27に一つのマスキング治具200の環状部203が配置されることにより、ユニット1Aのうち径方向において第1端面33よりも内側に位置する部分が当該一つのマスキング治具200によって覆われる。同様に、第2外輪段差部38及び第2内輪段差部28に別のマスキング治具200の環状部203が配置されることにより、ユニット1Aのうち径方向において第2端面34よりも内側に位置する部分が当該別のマスキング治具200によって覆われる。よって、転がり軸受1の製造方法によれば、外輪3の外周面32、第1端面33、第2端面34、第1面取り面35及び第2面取り面36上に絶縁膜6を効率良く且つ確実に形成することができる。
【0041】
軸受装置10では、絶縁膜6のうち第1面取り面35上に形成された部分が、内周面101と端面102との間のハウジング100の隅部103から離間している。これにより、仮に絶縁膜6が第1面取り面35において局所的に薄くなったとしても、ハウジング100と外輪3との電気的な絶縁を確保することができる。よって、軸受装置10によれば、転がり軸受1における電食の発生を確実に抑制することができる。
【0042】
軸受装置10では、ハウジング100に、端面102の内縁102aに沿って軸方向における一方の側に凹むようにハウジング段差部104が形成されており、軸方向から見た場合に、端面102の内縁102aが、外輪3の第1端面33の内縁33aの外側に位置している。これにより、仮に絶縁膜6が第1端面33の内縁33aの近傍において局所的に薄くなったとしても、ハウジング100と外輪3との電気的な絶縁を確保することができる。
[変形例]
【0043】
本発明は、上述した実施形態に限定されない。例えば、外輪3に第1外輪段差部37が形成されていれば、内輪2に第1内輪段差部27が形成されていなくてもよい。その場合には、第1外輪段差部37に対応する環状部203を有するマスキング治具200を用意し、第1外輪段差部37に当該マスキング治具200の環状部203を配置することにより、ユニット1Aのうち径方向において第1端面33よりも内側に位置する部分を当該マスキング治具200によって覆うことができる。同様に、外輪3に第2外輪段差部38が形成されていれば、内輪2に第2内輪段差部28が形成されていなくてもよい。その場合には、第2外輪段差部38に対応する環状部203を有するマスキング治具200を用意し、第2外輪段差部38に当該マスキング治具200の環状部203を配置することにより、ユニット1Aのうち径方向において第2端面34よりも内側に位置する部分を当該マスキング治具200によって覆うことができる。
【0044】
また、外輪3において、第1面取り面35は、R面取り面ではなくC面取り面であってもよい。或いは、外輪3において、外周面32と第1端面33とが直接的に交わっていてもよい。同様に、外輪3において、第2面取り面36は、R面取り面ではなくC面取り面であってもよい。或いは、外輪3において、外周面32と第2端面34とが直接的に交わっていてもよい。また、絶縁膜6は、少なくとも外輪3の外周面32及び第1端面33上に連続的に形成されていれば、外輪3の第2端面34上に形成されていなくてもよい。
【0045】
また、外輪3の外周面32、第1端面33、第2端面34、第1面取り面35及び第2面取り面36には、ショットピーニング処理、化成処理、及びパルスレーザによる表面加工処理のうち、少なくとも一つの処理が施されていなくてもよい。また、各転動体4は、ボール以外の転動体であってもよい。
[参考例]
【0046】
図6に示されるように、マスキング治具200は、外輪3及び内輪2に第1外輪段差部37及び第1内輪段差部27が形成されているか否かにかかわらず、環状部203が外輪3の第1端面33に接触するように形成されたものであってもよい。この場合にも、ユニット1Aのうち径方向において第1端面33の一部よりも内側に位置する部分をマスキング治具200によって覆うことができる。同様に、マスキング治具200は、外輪3及び内輪2に第2外輪段差部38及び第2内輪段差部28が形成されているか否かにかかわらず、環状部203が外輪3の第2端面34に接触するように形成されたものであってもよい。この場合にも、ユニット1Aのうち径方向において第2端面34の一部よりも内側に位置する部分をマスキング治具200によって覆うことができる。したがって、いずれの場合にも、外輪3の外周面32、第1端面33の一部、第2端面34の一部、第1面取り面35及び第2面取り面36上に絶縁膜6を効率良く且つ確実に形成することができる。なお、以上の場合には、ユニット1Aに対するマスキング治具200の位置を径方向において合わせるために、マスキング治具200に、内輪2と嵌まり合う部分が設けられていてもよい。
【符号の説明】
【0047】
1…転がり軸受、1A…ユニット、2…内輪、3…外輪、4…転動体、6…絶縁膜、10…軸受装置、23…第1端面(第1内輪端面)、23a…外縁、24…第2端面(第2内輪端面)、24a…外縁、27…第1内輪段差部、27a…底面、27b…内側側面、28…第2内輪段差部、32…外周面(外輪外周面)、33…第1端面(第1外輪端面)、33a…内縁、34…第2端面(第2外輪端面)、34a…内縁、35…第1面取り面(外輪面取り面)、37…第1外輪段差部、37a…底面、37b…外側側面、38…第2外輪段差部、100…ハウジング、101…内周面(ハウジング内周面)、102…端面(ハウジング端面)、102a…内縁、103…隅部、104…ハウジング段差部、200…マスキング治具、203…環状部。