IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大成建設株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-水硬性組成物 図1
  • 特開-水硬性組成物 図2
  • 特開-水硬性組成物 図3
  • 特開-水硬性組成物 図4
  • 特開-水硬性組成物 図5
  • 特開-水硬性組成物 図6
  • 特開-水硬性組成物 図7
  • 特開-水硬性組成物 図8
  • 特開-水硬性組成物 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024164511
(43)【公開日】2024-11-27
(54)【発明の名称】水硬性組成物
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/08 20060101AFI20241120BHJP
   C04B 14/28 20060101ALI20241120BHJP
   C04B 22/06 20060101ALI20241120BHJP
   C04B 24/38 20060101ALI20241120BHJP
   C04B 24/18 20060101ALI20241120BHJP
   C04B 24/06 20060101ALI20241120BHJP
   B28B 1/30 20060101ALI20241120BHJP
【FI】
C04B28/08
C04B14/28
C04B22/06 Z
C04B24/38 D
C04B24/18 B
C04B24/06 A
B28B1/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023080043
(22)【出願日】2023-05-15
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 俊成
(72)【発明者】
【氏名】木ノ村 幸士
【テーマコード(参考)】
4G052
4G112
【Fターム(参考)】
4G052DA01
4G052DA03
4G052DA04
4G052DA08
4G052DB12
4G052DC06
4G112MA00
4G112PA10
4G112PB03
4G112PB17
4G112PB23
4G112PB40
4G112PC03
4G112PC08
4G112PC09
(57)【要約】
【課題】本発明は、経時保持性、表面の滑らかさ、積層性の全ての指標において優れた水硬性組成物、積層体、及び、積層体の製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明に係る水硬性組成物は、セメントを含まない水硬性組成物であって、高炉スラグ微粉末と、石灰石微粉末と、膨張材と、消石灰と、細骨材と、増粘用混和剤と、を含む。本発明に係る積層体は、前記水硬性組成物を積層させたものである。本発明に係る積層体の製造方法は、セメントを含まず、高炉スラグ微粉末と、石灰石微粉末と、膨張材と、消石灰と、細骨材と、遅延用混和剤と、増粘用混和剤と、を含む水硬性組成物を、材料押出方式の積層装置を使用して積層する工程を含む。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントを含まない水硬性組成物であって、
高炉スラグ微粉末と、石灰石微粉末と、膨張材と、消石灰と、細骨材と、増粘用混和剤と、を含むことを特徴とする水硬性組成物。
【請求項2】
加水から経時的に変化するベーンせん断抵抗値について、0.4~0.9kPaを満たす時間が60分以上であることを特徴とする請求項1に記載の水硬性組成物。
【請求項3】
水粉体比が30.0%以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の水硬性組成物。
【請求項4】
遅延用混和剤を含み、
前記高炉スラグ微粉末100質量部に対して、前記増粘用混和剤が0.035~0.060質量部であり、
前記高炉スラグ微粉末100質量部に対して、前記遅延用混和剤が0.700質量部以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の水硬性組成物。
【請求項5】
請求項1又は請求項2に記載の水硬性組成物を積層させたものであることを特徴とする積層体。
【請求項6】
セメントを含まず、高炉スラグ微粉末と、石灰石微粉末と、膨張材と、消石灰と、細骨材と、遅延用混和剤と、増粘用混和剤と、を含む水硬性組成物を、材料押出方式の積層装置を使用して積層する工程を含むことを特徴とする積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水硬性組成物、水硬性組成物を積層させた積層体、及び、水硬性組成物を積層させた積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、建設業界では、CO排出量の削減を目的として、新しい材料や施工法の開発、改善に各社が取り組んでいる。
本出願人は、特許文献1に示すとおり、セメントの代わりに産業副産物である高炉スラグ微粉末を含有させた水硬性組成物を提案している。この水硬性組成物は、所定量の刺激剤を含有するとともに水酸化カルシウムの含有量を特定することによって、強度などの材料特性を確保しながら、セメント使用量の削減に伴うCO排出量の削減を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6137850号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、セメントを使用しない水硬性組成物(特許文献1参照)について鋭意検討した結果、3Dプリンティングによって品質の良い積層体を提供するために特に重要となる指標を洗い出した。具体的には、適切に積層可能な状態を材料が長時間保持できるかの指標である「経時保持性」、積層後の積層体における表面性状の指標である「表面の滑らかさ」、どれだけ高く積層できるかの指標である「積層性」の3点である。
そこで、本発明者らは、材料の組成を調整することによって、「経時保持性」、「表面の滑らかさ」、「積層性」の全ての指標において優れた水硬性組成物を創出したいと考えた。
【0005】
このような観点から、本発明は、経時保持性、表面の滑らかさ、積層性の全ての指標において優れた水硬性組成物、積層体、及び、積層体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題は、以下の手段により解決することができる。
本発明に係る水硬性組成物は、セメントを含まない水硬性組成物であって、高炉スラグ微粉末と、石灰石微粉末と、膨張材と、消石灰と、細骨材と、増粘用混和剤と、を含む。
本発明によれば、水硬性組成物は、組成を特定することによって、経時保持性、表面の滑らかさ、積層性の全ての指標において優れたものとなる。
本発明に係る水硬性組成物は、加水から経時的に変化するベーンせん断抵抗値について、0.4~0.9kPaを満たす時間が60分以上であるのが好ましい。また、本発明に係る水硬性組成物は、水粉体比が30.0%以下であるのが好ましい。また、本発明に係る水硬性組成物は、遅延用混和剤を含み、前記高炉スラグ微粉末100質量部に対して、前記増粘用混和剤が0.035~0.060質量部であり、前記高炉スラグ微粉末100質量部に対して、前記遅延用混和剤が0.700質量部以下であるのが好ましい。
本発明によれば、水硬性組成物は、より確実に、経時保持性、表面の滑らかさ、積層性の全ての指標において優れたものとなる。
本発明に係る積層体は、前記の水硬性組成物を積層させたものである。
本発明によれば、積層体は、経時保持性に優れた水硬性組成物を積層して製造されることによって、表面の滑らかと積層性に優れたものとなる。
本発明に係る積層体の製造方法は、セメントを含まず、高炉スラグ微粉末と、石灰石微粉末と、膨張材と、消石灰と、細骨材と、遅延用混和剤と、増粘用混和剤と、を含む水硬性組成物を、材料押出方式の積層装置を使用して積層する工程を含む。
本発明によれば、経時保持性に優れた水硬性組成物を積層することによって、表面の滑らかさと積層性に優れた積層体を製造することができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る水硬性組成物は、経時保持性、表面の滑らかさ、積層性の全ての指標において優れている。
本発明に係る積層体は、経時保持性に優れた水硬性組成物で積層され、表面の滑らかさと積層性に優れる。
本発明に係る積層体の製造方法は、経時保持性に優れた水硬性組成物を積層することによって、表面の滑らかさと積層性に優れた水硬性組成物を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】水硬性組成物のベーンせん断抵抗値の経時変化を示すグラフである。
図2】サンプル1の積層体の外観写真である。
図3】サンプル2の積層体の外観写真である。
図4】サンプル3の積層体の外観写真である。
図5】サンプル4の積層体の外観写真である。
図6】サンプル5の積層体の外観写真である。
図7】サンプル6の積層体の外観写真である。
図8】サンプル7の積層体の外観写真である。
図9】サンプル8の積層体の外観写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本実施形態に係る水硬性組成物、水硬性組成物を積層させた積層体、及び、水硬性組成物を積層させた積層体の製造方法について説明する。
[水硬性組成物]
本実施形態に係る水硬性組成物は、セメントを含まない水硬性組成物(いわゆるセメントゼロ型の組成物)であって、高炉スラグ微粉末と、石灰石微粉末と、膨張材と、消石灰と、細骨材と、増粘用混和剤と、を含み、更に、遅延用混和剤を含んでもよい。また、本実施形態に係る水硬性組成物は、ベーンせん断抵抗値が所定要件を満たすのが好ましく、水粉体比が所定値以下であるのが好ましい。
以下、各構成要件について詳細に説明する。
【0010】
(セメント)
本実施形態に係る水硬性組成物は、セメントを含まない。
ここで、セメントとは、詳細には、JISR5210:2009に規定されている各種ポルトランドセメントである。
水硬性組成物がセメントを含まないことによって、セメント製造時のCO排出量を削減することができる。また、水硬性組成物がセメントを含まないことによって、セメントを材料とした場合に発生する硬化後の「白華現象(炭酸カルシウムの析出)」の発生、及び、当該現象に基づく積層体の表面における「色むら」の発生を回避することができる。さらに、水硬性組成物がセメントを含まないことによって、セメントを材料とした場合に問題となる水和発熱に起因する「温度ひび割れ」の発生も回避することができる。
【0011】
(高炉スラグ微粉末)
高炉スラグ微粉末とは、高炉水砕スラグを乾燥・粉砕したもの、又は、これに石こうを添加したものであって、JISA6206:2013に規定されているものである。
水硬性組成物は、セメントを含まない代わりに、高炉スラグ微粉末を含むことによって、前記したセメント不使用の各メリットを享受しつつ、所望の効果(経時保持性、表面の滑らかさ、積層性の全ての指標において優れる)を発揮することができる。
(石灰石微粉末)
石灰石微粉末とは、炭酸カルシウムを主成分とし、石灰石を粉砕して粉末化したものである。
石灰石微粉末の含有量は、高炉スラグ微粉末100質量部に対して、例えば、5質量部以上、7質量部以上、10質量部以上であり、20質量部以下、15質量部以下、13質量部以下である。
【0012】
(膨張材)
膨張材とは、コンクリート又はモルタルを膨張させる作用のある混和材料であって、JISA6202:2017に規定されているものである。
膨張材の含有量は、高炉スラグ微粉末100質量部に対して、例えば、4質量部以上、7質量部以上、9質量部以上であり、25質量部以下、15質量部以下、13質量部以下である。
(消石灰)
消石灰とは、水酸化カルシウム(Ca(OH))である。
消石灰の含有量は、高炉スラグ微粉末100質量部に対して、例えば、4質量部以上、7質量部以上、9質量部以上であり、25質量部以下、15質量部以下、13質量部以下である。
【0013】
(細骨材)
細骨材としては、山砂、川砂、海砂、砕砂、硅砂、石灰砂などが挙げられ、JISA5005:2020に準拠したものである。
そして、細骨材の含有量は、高炉スラグ微粉末100質量部に対して、例えば、70質量部以上、80質量部以上、90質量部以上であり、180質量部以下、150質量部以下、130質量部以下である。
【0014】
(水、水粉体比)
本実施形態に係る超高強度コンクリートは、水を含有する。水の含有量は特に限定されないものの、水粉体比(W/P)は、例えば、15.0%以上、20.0%以上、25.0%以上であり、40.0%以下、35.0%以下、30.0%以下である。
なお、水としては、特に限定されず、水道水、スラッジ水などを用いることができる。
【0015】
(増粘用混和剤)
増粘用混和剤とは、粘性の向上を主たる目的として水硬性組成物に添加される混和剤である。そして、増粘用混和剤としては、例えば、セルロース系増粘剤、アクリル系増粘剤、バイオポリマー系増粘剤、グリコール系増粘剤などが挙げられ、これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
増粘用混和剤の含有量は、高炉スラグ微粉末100質量部に対して、0.033質量部以上、0.035質量部以上、0.039質量部以上が好ましい。増粘用混和剤の含有量が所定値以上であることによって、粘性不足に起因した経時保持性の悪化(さらには、表面の滑らかさの悪化)を確実に回避することができる。
増粘用混和剤の含有量は、高炉スラグ微粉末100質量部に対して、0.063質量部以下、0.060質量部以下、0.055質量部以下、0.050質量部以下が好ましい。増粘用混和剤の含有量が所定値以下であることによって、粘性過多に起因した経時保持性の悪化(さらには、表面の滑らかさの悪化)を確実に回避することができる。
【0016】
(遅延用混和剤)
遅延用混和剤とは、凝結や硬化の遅延を主たる目的として水硬性組成物に添加される混和剤である。そして、遅延用混和剤としては、例えば、JISA6204:2011に遅延形として規定される減水剤、AE減水剤、高性能AE減水剤、流動化剤などが挙げられ、これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
遅延用混和剤の含有量は、高炉スラグ微粉末100質量部に対して、0.750質量部以下、0.700質量部以下、0.650質量部以下、0.600質量部以下が好ましい。遅延用混和剤の含有量が所定値以下であることによって、ベーンせん断抵抗値が低下し続けてしまい経時保持性が悪化する(さらには、積層性が悪化する)という事態を確実に回避することができる。
なお、遅延用混和剤の含有量の下限値は特に限定されず、高炉スラグ微粉末100質量部に対して、例えば、0.010質量部以上、0.030質量部以上、0.060質量部以上である。
【0017】
(ベーンせん断抵抗値:要件)
本実施形態に係る水硬性組成物のベーンせん断抵抗値について、図1を用いて説明する。
図1は、水硬性組成物のベーンせん断抵抗値の経時変化を示すグラフである。
水硬性組成物は、通常、水以外の材料を混練した後で加水することにより生成するが、図1に示すとおり、加水した後は、まず、ベーンせん断抵抗値が大きく低下し、その後、徐々にベーンせん断抵抗値が上昇する。
そして、水硬性組成物は、ベーンせん断抵抗値について、0.4~0.9kPaを満たす時間が60分以上であるのが好ましい。この要件を満たすことによって、水硬性組成物が、より確実に、経時保持性、表面の滑らかさ、積層性の全ての指標において優れたものとなる。
(ベーンせん断抵抗値:測定方法)
ベーンせん断抵抗値は、一般的なベーン試験機を用いて、地盤工学会基準(JGS 1411-012)の「原位置ベーンせん断試験方法」に規定の方法で測定することができる。
また、ベーンせん断抵抗値の測定の間隔は、加水から一定時間ごと(例えば3~12分ごと、好ましくは5~10分ごと)とすればよく、途中で変更してもよい。
【0018】
(用途)
本実施形態に係る水硬性組成物は、3Dプリントの材料として好適に使用することができるため、3Dプリント用(3Dプリンティング用)の材料とするのが好ましい。
また、一般的なコンクリートよりも粗骨材を含まないモルタルの方がセメントの占める割合が多い。よって、本実施形態に係る水硬性組成物は、モルタルであるのが好ましい。前記したセメント不使用の各メリット(特にCO排出量の削減)をより強く享受できるからである。
【0019】
(その他)
本実施形態に係る水硬性組成物は、本発明の所望の効果が阻害されない範囲において、モルタルに使用されている従来公知の材料(化学混和剤、繊維など)を適宜含有してもよい。
化学混和剤としては、前記した増粘用混和剤や遅延用混和剤のほかに、分離低減剤、空気量調整剤、収縮低減剤、凝結促進剤、消泡剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤、硬化促進剤などが挙げられる。化学混和剤はいずれか1種を単独で用いてもよく2種以上を組み合わせて用いてもよい。
繊維としては、金属繊維、有機繊維、または、有機繊維と金属繊維を混ぜ合わせた複合繊維などが挙げられる。金属繊維としては、鋼繊維、ステンレス繊維、チタン繊維、アルミニューム繊維などが挙げられる。また、有機繊維としては、ポリプロピレン繊維、ポリビニールアルコール繊維、アラミド繊維、ポリエチレン繊維、超高強力ポリエチレン繊維、ポリエチレンテレフタラート繊維、レーヨン繊維、ナイロン繊維、ポリ塩化ビニール繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、耐アルカリガラス繊維などが挙げられる。
【0020】
[積層体]
本実施形態に係る積層体は、前記した水硬性組成物を積層させたものであって、後記する積層体の製造方法によって製造される。
なお、本実施形態に係る積層体は、前記した経時保持性に優れた水硬性組成物を積層して製造されることから、表面の滑らかと積層性に優れたものとなる。
【0021】
[積層体の製造方法]
本実施形態に係る積層体の製造方法は、前記した水硬性組成物を、材料押出方式の積層装置を使用して積層する工程を含む。
材料押出方式の積層装置は、一般的な3Dプリンティング用の装置を使用すればよく、例えば、水硬性組成物を貯留するホッパー、水硬性組成物を所定箇所に排出するノズル、ホッパー内の水硬性組成物をノズルに移送する移送機構などで構成される装置を使用すればよい。
なお、本実施形態に係る積層体の製造方法では、加水から経時的に変化する水硬性組成物のベーンせん断抵抗値が、0.4~0.9kPaを満たす状態において、水硬性組成物の積層を実施するのが好ましい。
【実施例0022】
[材料]
実施例で使用した各サンプルの配合を表1に示すとともに、使用した各材料の詳細を表2に示した。
なお、表1に示す各サンプルは、セメントゼロ型の材料(3Dプリンタ用モルタル)である。
【0023】
【表1】
【0024】
【表2】
【0025】
[ベーンせん断抵抗値の測定方法]
表1に示す材料を混練した後、加水から経時変化するベーンせん断抵抗値を測定した。なお、詳細には、材料の混練は、ミキサ内において、以下の手順(1)~(6)で実施した。
(1)水以外の材料を3分間混練
(2)加水し、2分間混練
(3)かき落とし
(4)2分間混練
(5)5分間静置
(6)1分間混練
混練の後、引き続きミキサ内で材料を保管しつつ、以下の手順(7)と(8)とを繰り返してベーンせん断抵抗値を測定した。
(7)5分間静置
(8)2分攪拌した後、ベーンせん断抵抗値を測定
そして、材料のベーンせん断抵抗値が0.9kPa以下となった後は、材料を3Dプリンタのホッパーに投入し、適宜、ケレン棒で材料を突き、約10分ごとにベーンせん断抵抗値を測定した。
なお、ベーンせん断抵抗値の測定は、地盤工学会基準(JGS 1411-012)の「原位置ベーンせん断試験方法」に規定の方法で実施した。
【0026】
[積層方法]
各サンプルについて、前記のとおり、ベーンせん断抵抗値が0.9kPa以下になったタイミングで3Dプリンタのホッパーに投入した後に積層を開始し、約50~70分間、積層した。
なお、3Dプリンタは、材料押出(ME)方式の積層装置を用いた。
【0027】
[評価項目:経時保持性]
各サンプルについて、前記した測定方法でベーンせん断抵抗値を測定し、縦軸がベーンせん断抵抗値(kPa)であって、横軸が加水からの時間(分)であるグラフにプロットした。そして、各プロット間を直線でつなぎ、図1のようなグラフを作成した。
そして、各サンプルについて、ベーンせん断抵抗値が0.4~0.9kPaに該当する時間を導き出した。
なお、この時間が60分以上となる場合、「経時保持性に優れる(表中では○)」と評価した。
【0028】
[評価項目:表面の滑らかさ]
積層後の各サンプルについて、目視により積層体の表面の滑らかさを確認した。
積層体の表面において、がさつきやひび割れがほとんど確認できない場合、「表面の滑らかさに優れる(表中では○)」と評価した。
[評価項目:積層性]
積層後の各サンプルについて、積層体の高さを計測した。
積層体が40cm以上積層できた場合、「積層性に優れる(表中では○)」と評価した。
【0029】
[結果の検討]
図2~9は、サンプル1~8の外観写真である。
サンプル1~5は、水硬性組成物が本発明で規定する要件を満たしていたことから、経時保持性、表面の滑らかさ、積層性の全てに優れるとの結果が得られた。また、図2~6に示すとおり、積層体の表面が滑らかであって、高く積層できることも確認できた。
加えて、サンプル1~5は、セメントを含んでいなかったことから、外観が白色であった。その結果、サンプル1~5において、セメントを含有する材料を使用した場合に問題となる「白華現象」、及び、当該現象に基づく表面における「色むら」の発生は確認できなかった。
【0030】
一方、サンプル6は、ベーンせん断抵抗値が低下して0.4kPaを下回り、加水から100分経過しても0.4kPa以上に戻らなかった。おそらく、遅延用混和剤(超遅延剤)の含有量が多く、凝結が著しく遅延してしまったためと推察される。その結果、サンプル6は、経時保持性と積層性が優れないとの結果となった。なお、図7のサンプル6の外観写真からも、積層性に優れないことが明らかである。
また、サンプル7は、ベーンせん断抵抗値が低下して0.4kPaを下回った後、比較的早くベーンせん断抵抗値が上昇して0.9kPaを超えてしまい、0.4~0.9kPaを満たす時間が60分未満となった。おそらく、遅延用混和剤(超遅延剤)の含有量が少なく、増粘用混和剤(増粘剤)の含有量が多かったためと推察される。その結果、サンプル7は、経時保持性、表面の滑らかさが優れないとの結果となった。なお、図8のサンプル7の外観写真からも、表面の滑らかさに優れないことが明らかである。
また、サンプル8は、サンプル7と同様、ベーンせん断抵抗値が0.4~0.9kPaを満たす時間が60分未満となった。おそらく、増粘用混和剤(増粘剤)の含有量が少なかったためと推察される。その結果、サンプル8は、経時保持性、表面の滑らかさが優れないとの結果となった。なお、図9のサンプル8の外観写真からも、表面の滑らかさに優れないことが明らかである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9