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特開2024-164534回転電機システムの制御装置及び制御プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024164534
(43)【公開日】2024-11-27
(54)【発明の名称】回転電機システムの制御装置及び制御プログラム
(51)【国際特許分類】
   H02P 27/06 20060101AFI20241120BHJP
【FI】
H02P27/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023080088
(22)【出願日】2023-05-15
(71)【出願人】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100125575
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100175134
【弁理士】
【氏名又は名称】北 裕介
(74)【代理人】
【識別番号】100207859
【弁理士】
【氏名又は名称】塩谷 尚人
(72)【発明者】
【氏名】鷲尾 翔
(72)【発明者】
【氏名】風岡 諒哉
(72)【発明者】
【氏名】橋爪 瞭弥
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505AA16
5H505BB10
5H505CC04
5H505DD08
5H505EE41
5H505EE49
5H505GG04
5H505HA09
5H505HB01
5H505JJ03
5H505LL22
5H505LL44
5H505PP01
(57)【要約】
【課題】回転電機システムにおいて効率良く創熱を行わせる。
【解決手段】回転電機システムは、多相のコイル11を有する回転電機10と、半導体スイッチング素子からなる複数のスイッチ21,22のオンオフにより各相の相電流を調整するインバータ20と、を備える。制御装置40は、インバータ20におけるスイッチ21,22のオンオフを制御する。制御装置40は、回転電機システムにおける創熱要求の有無を判定する判定部と、創熱要求があると判定された場合に、スイッチ21,22のターンオン時及びターンオフ時の少なくともいずれかの遷移時間が、創熱要求の無い場合に比べて長い時間となるようにスイッチ21,22を制御するスイッチ制御部と、を備える。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多相の巻線(11)を有する回転電機(10)と、半導体スイッチング素子からなる複数のスイッチ(21,22)のオンオフにより前記巻線における各相の相電流を調整するインバータ(20)と、を備える回転電機システムに適用され、前記インバータにおける前記スイッチのオンオフを制御する制御装置(40)であって、
前記回転電機システムにおける創熱要求の有無を判定する判定部と、
前記創熱要求があると判定された場合に、前記スイッチのターンオン時及びターンオフ時の少なくともいずれかの遷移時間が、前記創熱要求の無い場合に比べて長い時間となるように前記スイッチを制御するスイッチ制御部と、
を備える回転電機システムの制御装置。
【請求項2】
前記スイッチ制御部は、前記創熱要求があると判定された場合に、前記スイッチのターンオフ時においてターンオン時に比べて大きいスイッチング損失を生じさせる、請求項1に記載の回転電機システムの制御装置。
【請求項3】
前記スイッチ制御部は、前記創熱要求があると判定された場合において、前記スイッチのターンオン時の遷移時間を、前記創熱要求の無い場合と同じ時間とし、ターンオフに時の遷移時間を、前記創熱要求の無い場合に比べて長い時間とする、請求項1に記載の回転電機システムの制御装置。
【請求項4】
前記インバータは、前記スイッチとして、相ごとに直列接続されてなる上アームスイッチ(21)と下アームスイッチ(22)とを有するとともに、前記スイッチにおいて前記半導体スイッチング素子に逆並列に接続されたダイオード(23)を有しており、
前記スイッチ制御部は、いずれかの相の前記上アームスイッチをオンして前記巻線に相電流を流し、その後当該上アームスイッチをオフして相電流を還流させる際に、当該上アームスイッチと同相の前記下アームスイッチをオフ状態のままとして、当該下アームスイッチに並列の前記ダイオードを介して相電流を還流させる、請求項1に記載の回転電機システムの制御装置。
【請求項5】
前記インバータは、前記スイッチとして、相ごとに直列接続されてなる上アームスイッチ(21)と下アームスイッチ(22)とを有し、
前記上アームスイッチ及び前記下アームスイッチは、デッドタイムを挟んで交互にオンされるものとなっており、
前記スイッチ制御部は、前記創熱要求があると判定された場合において、前記創熱要求の無い場合に比べて前記デッドタイムを長くする、請求項1に記載の回転電機システムの制御装置。
【請求項6】
前記インバータにおいてPWMパルスにより前記スイッチのオンオフが制御される制御装置であり、
前記スイッチ制御部は、前記PWMパルスのオン時間が所定時間よりも短い場合に、スイッチング損失増大を実施しない、請求項1に記載の回転電機システムの制御装置。
【請求項7】
前記スイッチの温度であるスイッチ温度を取得する取得部を備え、
前記スイッチ制御部は、前記遷移時間を長くする損失増大期間を、前記スイッチ温度に基づいて設定する、請求項1に記載の回転電機システムの制御装置。
【請求項8】
前記創熱要求があると判定された場合において、前記回転電機の回転停止状態で、前記巻線の各相に正負両側で交流変化する相電流が流れるように電流制御を実施する電流制御部を備え、
前記スイッチ制御部は、前記電流制御部による電流制御の実施に際し、各相の前記スイッチにおける前記遷移時間を、前記創熱要求の無い場合に比べて長い時間となるように制御する、請求項1~7のいずれか1項に記載の回転電機システムの制御装置。
【請求項9】
前記電流制御部は、前記電流制御として、d軸電流及びq軸電流のうちd軸電流のみが流れる状態で、正負両側で交流変化する各相の相電流を制御する、請求項8に記載の回転電機システムの制御装置。
【請求項10】
前記スイッチ制御部は、前記巻線の各相に流れる相電流の大きさに基づいて、前記遷移時間を長くする損失増大期間を設定する、請求項8に記載の回転電機システムの制御装置。
【請求項11】
前記回転電機の回転がギア装置(51)のギアに伝達される構成となっており、
前記電流制御部は、前記回転電機に回転方向一方側のトルクを生じさせ、かつ当該トルクの絶対値が所定値を超えないように電流制御を実施する、請求項8に記載の回転電機システムの制御装置。
【請求項12】
前記回転電機は、移動体において移動のための動力源であり、
前記電流制御部の電流制御により前記回転電機の回転方向一方側へのトルクが生じる場合に、前記移動体の移動を抑制するブレーキを作動させるブレーキ指令部を備える、請求項11に記載の回転電機システムの制御装置。
【請求項13】
前記電流制御部は、前記回転電機の回転停止状態において、前記巻線の各相の相電流が全て所定の閾値以上となるように電流制御を実施する、請求項8に記載の回転電機システムの制御装置。
【請求項14】
多相の巻線(11)を有する回転電機(10)と、半導体スイッチング素子からなる複数のスイッチ(21,22)のオンオフにより前記巻線における各相の相電流を調整するインバータ(20)と、を備える回転電機システムに適用され、前記インバータにおける前記スイッチのオンオフを制御する制御装置により実行される制御プログラムであって、
前記回転電機システムにおける創熱要求の有無を判定する判定処理と、
前記創熱要求があると判定された場合に、前記スイッチのターンオン時及びターンオフ時の少なくともいずれかの遷移時間が、前記創熱要求の無い場合に比べて長い時間となるように前記スイッチを制御するスイッチ制御処理と、
を実行させる制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機システムの制御装置及び制御プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1に記載されているように、回転電機を構成する巻線とバッテリとを電気的に接続するインバータの制御装置が知られている。この制御装置では、バッテリが低温でありかつ回転電機が停止している場合において、インバータのスイッチング制御によりd軸電圧を印加してd軸電流を回転電機に流す放電制御と、放電制御に続いてd軸電圧を下げて回転電機のコイルから電気エネルギをバッテリに戻す充電制御とを交互に繰り返し行うこととしている。これにより、バッテリでジュール熱を発生させ、バッテリを昇温させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5849917号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、車両等においては、バッテリ昇温のための熱需要が考えられる他、車室内暖房など種々の熱需要があると考えられる。この場合、インバータの各スイッチで効果的に発熱を生じさせることで、種々の熱需要に対応することが可能となる。この点、インバータにおいて熱需要に応じて創熱(熱の発生)を行わせる技術として改善の余地があると考えられる。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、回転電機システムにおいて効率良く創熱を行わせることを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための手段は、
多相の巻線を有する回転電機と、半導体スイッチング素子からなる複数のスイッチのオンオフにより前記巻線における各相の相電流を調整するインバータと、を備える回転電機システムに適用され、前記インバータにおける前記スイッチのオンオフを制御する制御装置であって、
前記回転電機システムにおける創熱要求の有無を判定する判定部と、
前記創熱要求があると判定された場合に、前記スイッチのターンオン時及びターンオフ時の少なくともいずれかの遷移時間が、前記創熱要求の無い場合に比べて長い時間となるように前記スイッチを制御するスイッチ制御部と、
を備える。
【0007】
回転電機システムの創熱要求がある場合に、スイッチ(半導体スイッチング素子)のターンオン時及びターンオフ時の少なくともいずれかの遷移時間を、創熱要求の無い場合に比べて長い時間にするようにした。これにより、インバータの各スイッチにおいてスイッチング損失量の増加に伴う発熱を生じさせることができる。その結果、回転電機システムにおいて効率良く創熱を行わせることができる。
「創熱」とは、熱を発生させることを意味し、「創熱要求」とは、熱の発生を要求することを意味する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】回転電機システムの全体構成図。
図2】スイッチの駆動回路の構成を示す図。
図3】スイッチ電圧Vswとスイッチ電流Iswとの変化を示すタイムチャート。
図4】スイッチオン時における素子温度の上昇を示すタイムチャート。
図5】dq-UVW変換の処理を示す図。
図6】dq軸電流と各相の相電流との電流波形を示すタイムチャート。
図7】d軸通電による創熱制御を実施する際のスイッチングパターンを示す図。
図8】d軸通電による創熱制御を実施する際のスイッチングパターンを示す図。
図9】上下アームのスイッチにおけるゲート電圧の推移を示すタイムチャート。
図10】各相におけるゲート抵抗切り替えの制御の一例を示すタイムチャート。
図11】電気角と各相の電流比との関係を示す図。
図12】変調率が異なる3つ状態のスイッチング制御を示すタイムチャート。
図13】dq-UVW変換の処理を示す図。
図14】d軸通電による創熱制御を具体的に説明するためのタイムチャート。
図15】車両停車中の創熱制御の手順を示すフローチャート。
図16】車両走行中の創熱制御の手順を示すフローチャート。
図17】素子温度と損失増大期間の長さとの関係を示す図。
図18】ギア装置のギアの噛み合いを示す図。
図19】q軸トルクを生じさせる場合の各種パラメータの変化を示すタイムチャート。
図20】車両停車中の創熱制御の手順を示すフローチャート。
図21】上下アームのスイッチにおけるゲート電圧の推移を示すタイムチャート。
図22】創熱要求に応じてデッドタイムを変更する構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(第1実施形態)
以下、実施形態における回転電機システムについて、図面を参照しつつ説明する。本実施形態の回転電機システムは、電気自動車(BEV)やハイブリッド車(HEV)等の電動車両に搭載されている。
【0010】
図1に示すように、回転電機システムは、回転電機10と、電力変換器としてのインバータ20と、高圧電源であるバッテリ30と、制御装置40とを備えている。回転電機10は、ブラシレスの同期機であり、本実施形態では永久磁石同期機である。回転電機10は、図示しないロータと、ステータ巻線である3相(U相、V相、W相)のコイル11とを備えている。コイル11は、U相コイル、V相コイル及びW相コイルが星形結線されることで構成されている。回転電機10は、ロータの回転角(電気角)を検出する回転角センサ12と、コイル11に流れる各相の相電流を検出する相電流センサ13とを有している。相電流センサ13は、3相それぞれに設けられているとよい。ただし、3相のうち2相のみに相電流センサ13が設けられていてもよい。
【0011】
回転電機10は、車両の走行動力源として設けられており、ロータの回転により車輪が回転駆動されるものとなっている。本実施形態では、回転電機10のロータの回転がギア装置51の入力軸に伝達されるとともに、そのギア装置51の出力軸の回転が車軸52を介して車輪53に伝達されるようになっている。
【0012】
インバータ20は、相ごとに上アームスイッチ21と下アームスイッチ22との直列接続体を備えている。上アーム及び下アームの各スイッチ21,22は半導体スイッチング素子であり、例えばNチャネルMOSFETである。各スイッチ21,22において、高電位側の端子はドレインであり、低電位側の端子はソースである。各スイッチ21,22(半導体スイッチング素子)には、フリーホイールダイオードとしてダイオード23が逆並列に接続されている。各相において、上アームスイッチ21及び下アームスイッチ22の間の中間点は、回転電機10のコイル11の端点に接続されている。なお、半導体スイッチング素子はIGBT等であってもよい。
【0013】
各スイッチ21,22のゲートには駆動回路24が接続されており、駆動回路24は、制御装置40からの駆動指令に基づいてスイッチ21,22をオンオフする。駆動回路24には、上下アームの各スイッチ21,22の短絡が生じたことを検知する短絡検知部25が設けられている。短絡検知部25は、上下アームの短絡により過電流が流れたことを検知し、その過電流検知に伴いスイッチ21,22を強制遮断する。各スイッチ21,22には、半導体スイッチング素子の温度を検出する素子温度センサ26が設けられている。
【0014】
バッテリ30は、リチウムイオン蓄電池又はニッケル水素蓄電池等の二次電池である。バッテリ30は、例えば複数の電池セルの直列接続体を備える組電池である。バッテリ30の正極端子には、高電位側経路31を介して各相の上アームスイッチ21のドレインが接続されている。バッテリ30の負極端子には、低電位側経路32を介して各相の下アームスイッチ22のソースが接続されている。
【0015】
また、回転電機システムには、インバータ20及びバッテリ30にそれぞれ熱伝達部61,62が設けられており、それら各熱伝達部61,62は、配管等よりなる冷媒通路63により相互に接続されている。インバータ20側の熱伝達部61では、インバータ20の各スイッチ21,22と、冷媒通路63を流れる冷媒との間で熱伝達が行われる。また、バッテリ30側の熱伝達部62では、バッテリ30と、冷媒通路63を流れる冷媒との間で熱伝達が行われる。この場合、インバータ20とバッテリ30とで温度差が生じていれば、冷媒通路63を流れる冷媒を介してインバータ20とバッテリ30との間での熱の授受(熱交換)が行われる。なお、図示を省略しているが、冷媒通路63は冷媒を循環させる循環経路として設けられており、冷媒通路63には、冷媒を流通させるポンプや、ラジエータ等の放熱部が設けられている。
【0016】
制御装置40は、マイコンを主体として構成され、マイコンは、CPUを備えている。マイコンが提供する機能は、実体的なメモリ装置に記録されたソフトウェアおよびそれを実行するコンピュータ、ソフトウェアのみ、ハードウェアのみ、あるいはそれらの組合せによって提供することができる。例えば、マイコンがハードウェアである電子回路によって提供される場合、それは多数の論理回路を含むデジタル回路、又はアナログ回路によって提供することができる。例えば、マイコンは、自身が備える記憶部としての非遷移的実体的記録媒体(non-transitory tangible storage medium)に格納されたプログラムを実行する。プログラムには、各種演算処理のプログラムが含まれる。プログラムが実行されることにより、プログラムに対応する方法が実行される。記憶部は、例えば不揮発性メモリである。なお、記憶部に記憶されるプログラムは、OTA(Over The Air)等、インターネット等のネットワークを介して更新可能である。
【0017】
制御装置40には、上述した回転角センサ12、相電流センサ13、素子温度センサ26等、各種センサの検出信号が入力される。制御装置40は、回転電機10の制御量(例えばトルク)を指令値に制御すべく、入力された検出値に基づいて、インバータ20を構成する各スイッチ21,22のスイッチング制御を行う。この場合、周知のPWM制御手法を用いてPWMパルスが生成され、各スイッチ21,22がスイッチングされる。これにより、回転電機10のロータが回転し、車両を走行させることができる。
【0018】
制御装置40は、例えば車両走行時において、回転電機10の指令トルク等に基づいてd軸電流及びq軸電流の指令値を設定するとともに、回転角センサ12により検出された電気角θ(回転角)を取得する。また、それら電流指令値と電気角θとに基づいて、各相の相電流指令値を算出する。そして、相電流センサ13により検出された検出電流と相電流指令値とによる電流フィードバック制御により、インバータ20における各スイッチ21,22のスイッチング制御を実施する。
【0019】
リチウムイオン蓄電池等の二次電池からなるバッテリ30では、バッテリ温度が低温の場合に劣化が発生しやすく、それぞれに適した温度で利用されることが望ましい。そのため、バッテリ30が低温状態である場合にバッテリ温度を上昇させる処理が行われるとよい。また、車両においてはバッテリ昇温のための熱需要以外に、車室内の暖房等の熱需要があると考えられる。この点を鑑みて、本実施形態では、回転電機システムでの創熱を促す創熱要求が生じた場合、すなわち回転電機システムにおいて熱を発生させる要求が生じた場合に創熱制御を実施する構成としている。例えばバッテリ温度が低下している場合には、上位制御装置やその他外部装置から制御装置40に対して創熱要求が送信され、制御装置40により創熱制御が実施される。
【0020】
本実施形態では、創熱制御として、大別して2つの制御を行うこととしており、1つは、インバータ20の各スイッチ21,22のスイッチング損失増大による創熱制御であり、もう1つは、車両の走行停止時(回転電機10の回転停止時)において回転電機10にトルクを発生させないd軸電流を流すd軸通電による創熱制御である。以下に、これらの各創熱制御について詳しく説明する。まずはスイッチング損失増大による創熱制御について説明する。
【0021】
図2に、インバータ20におけるスイッチ21の駆動回路24の構成を示す。なおここでは、上アームスイッチ21について説明するが、下アームスイッチ22の駆動回路24も同様の構成となっている。
【0022】
駆動回路24は、制御装置40からの駆動指令が入力される駆動IC27を有しており、駆動IC27によりスイッチ21がオンオフされる。駆動IC27は、スイッチ21のゲートの充放電を制御するものであり、スイッチオン時には、電圧印加に伴うゲートの充電によりスイッチ21をターンオンさせる。また、スイッチオフ時には、ゲートの放電によりスイッチ21をターンオフさせる。
【0023】
駆動回路24は、スイッチ21がオフ状態からオン状態に遷移する際に要する遷移時間であるターンオン時間と、スイッチ21がオン状態からオフ状態に遷移する際に要する遷移時間であるターンオフ時間とを可変とする構成を有しており、これにより各スイッチ21でのスイッチング損失の調整が可能となっている。具体的には、駆動IC27とスイッチ21のゲートとの間に設けられるゲート抵抗を切り替えることで、半導体スイッチング素子のゲート充放電にかかる時間を調整し、ターンオン時間及びターンオフ時間を可変としている。本実施形態では、駆動IC27とスイッチ21のゲートとの間に、抵抗値が大小異なる第1ゲート抵抗28と第2ゲート抵抗29とが並列に接続されており、これらゲート抵抗28,29の切り替えにより、スイッチ21の充放電の時間(ターンオン時間、ターンオフ時間)が調整される。第2ゲート抵抗29は、第1ゲート抵抗28よりも抵抗値が大きい。第1ゲート抵抗28が通常時用のゲート抵抗に相当し、第2ゲート抵抗29が損失増大時用のゲート抵抗に相当する。
【0024】
図3は、スイッチ21において、ドレインソース間のスイッチ電圧Vswと、ドレインソース間に流れるスイッチ電流Iswとの変化を示すタイムチャートである。
【0025】
図3(a)は、通常時、すなわちスイッチング損失増大の制御を行わない場合のVsw、Iswの変化を示す。この場合、ターンオン時及びターンオフ時においてハッチングの領域がスイッチング損失を示す。
【0026】
図3(b)は、スイッチング損失増大の制御を行う場合において、ターンオン時間、ターンオフ時間をそれぞれ通常時よりも長くした際のVsw、Iswの変化を示す。この場合、ターンオン時及びターンオフ時においてスイッチング損失が大きくなり、スイッチ21での発熱量を増加させることができる。
【0027】
ただし、ターンオン時にスイッチング損失を増大させると、ターンオン開始後におけるスイッチ21での素子温度の上昇が急峻となる。そのため、上下アームの短絡異常が生じている場合において、その短絡異常が検知される前に過剰な発熱によりスイッチ21が過高温になり、発火の懸念が生じることが考えられる。すなわち、図4に示すように、実線で示すスイッチング損失増大時には、一点鎖線で示す通常時に比べて素子温度上昇の傾きが急峻となる。この場合、短絡検知に要する時間が経過するよりも前の時点で、素子温度が発火点を超えることが懸念される。
【0028】
そこで本実施形態では、図3(c)に示すように、ターンオン側での発熱を少なくし、かつターンオフ側での発熱を多くするべく、ターンオフ時間をターンオン時間に比べて長引かせるようにしている。これにより、スイッチ21のターンオフ時において、ターンオン時に比べて大きいスイッチング損失が生じる。
【0029】
図3(c)では、スイッチ21のターンオン時間を、スイッチング損失増大を行わない場合(創熱要求の無い場合)と同じ時間とするとともに、ターンオフ時間を、スイッチング損失増大を行わない場合(創熱要求の無い場合)に比べて長い時間としている。つまり、創熱要求に伴うスイッチング損失増大時には、ターンオン時に、通常時用の第1ゲート抵抗28を介してゲート充電を行わせる一方、ターンオフ時に、損失増大時用の第2ゲート抵抗29を介してゲート放電を行わせる。これにより、スイッチオン時において上下アームの短絡異常が検知された場合に、速やかな電流遮断が可能となっている。
【0030】
次に、d軸通電による創熱制御について説明する。
【0031】
回転電機10では、d軸及びq軸は仮想的な軸であり、d軸に流れるd軸電流Id及びq軸に流れるq軸電流Iqと、UVWの各相に流れる相電流Iu,Iv,Iwとは下記の(式1)により表される。(式1)において、θは回転電機10の電気角(回転角)である。
【0032】
【数1】
制御装置40は、回転電機10の電気角θと、d軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*とに基づいて、コイル11の各相の相電流指令値Iu*,Iv*,Iw*を設定し(電流設定部)、その相電流指令値Iu*,Iv*,Iw*により、各相に流れる相電流を制御する(電流制御部)。
【0033】
本実施形態では、車両走行が停止されている停車時において、回転電機10がトルクを発生させない状態、すなわち回転電機10が回転停止した状態で、コイル11の各相に電流を流し、回転電機システムでの創熱を促すようにしている。これによりバッテリ30が昇温される。具体的には、d軸電流Id及びq軸電流Iqのうちd軸電流だけが流れるようにインバータ20のスイッチング制御を行うことで、回転電機10においてトルク非発生の状態で各相の相電流を流すようにしている。この場合、制御装置40は、上記(式1)において、回転電機10の停止電気角を電気角θとし、かつd軸電流Id及びq軸電流Iqのうちq軸電流を0として、各相の相電流Iu,Iv,Iwを算出する。
【0034】
図5に、創熱制御を実施する際のdq-UVW変換の処理を示す。図5には、dq軸の電流指令値Id*,Iq*を、UVW各相の相電流指令値Iu*,Iv*,Iw*に変換する3相変換部71が示されている。3相変換部71には、d軸電流指令値Id*としてAsinφが入力されるとともに、q軸電流指令値Iq*として0が入力される。また、電気角θとして、回転停止状態の回転電機10の電気角θが入力される。「Asinφ」において、Aはd軸電流の振幅を規定する振幅指令値であり、φは所定角速度で変化する位相である。これにより、d軸電流指令値Id*は、例えば20Hz程度の周波数で変化する交流電流として設定される。この場合、d軸電流指令値Id*として、正負両側に交流変化する交流d軸電流が設定され、そのd軸電流指令値Id*(交流d軸電流)に基づいて、正負両側に交流変化する相電流指令値Iu*,Iv*,Iw*が算出される。
【0035】
図6は、dq軸電流と各相の相電流との電流波形を示すタイムチャートである。図6では、q軸電流Iqが0のまま保持された状態で、d軸電流Idが正負両側において正弦波状の波形で交流変化している。また、各相の相電流Iu,Iv,Iwは、それぞれ回転電機10の電気角θ(停止位置)に対応する振幅で交流変化している。相電流Iu,Iv,Iwがそれぞれ正負両側に交流変化する際、3相のうち1相で正の相電流が流れかつ残り2相で負の相電流が流れる状態と、3相のうち2相で正の相電流が流れかつ残り1相で負の相電流が流れる状態とが交互に切り替えられる。なおここでは、コイル11のU相コイル、V相コイル、W相コイルにおいて、反中性点の側から中性点の側へ流れる電流を正電流とし、その逆向きの電流を負電流としている。
【0036】
d軸通電による創熱制御を実施する際のスイッチングパターンの一例を、図7及び図8を用いて説明する。図7は、U相電流として正電流が流れ、かつV相電流及びW相電流として負電流が流れる際のスイッチングパターンを示し、図8は、V相電流及びW相電流として正電流が流れ、かつU相電流として負電流が流れる際のスイッチングパターンを示す。なおここでは、上アームにおける3相の各スイッチ21をスイッチ21U,21V,21Wとし、下アームにおける3相の各スイッチ22をスイッチ22U,22V,22Wとしている。
【0037】
図7(a)では、上アームにおいて、スイッチ21Uがオンされ、かつスイッチ21V,21Wがオフされるとともに、下アームにおいて、スイッチ22Uがオフされ、かつスイッチ22V,22Wがオンされている。これにより、バッテリ30からU相電流として正電流が流れ、かつV,W相電流として負電流が流れる。また、図7(a)の状態から引き続いて、図7(b)では、上アームにおいてスイッチ21Uがオフされることで全相のスイッチ21がオフされ、かつ下アームにおいて全相のスイッチ22がオンされている。これにより、各相の下アームスイッチ22とコイル11とを含む還流経路で電流が循環される。図7(a),(b)においては、U相の上下アームのスイッチ21U,22Uが交互にオンオフされ、そのスイッチングは、U相に正電流が流れる期間において所定周期で繰り返される。
【0038】
また、図8(a)では、上アームにおいて、スイッチ21V,21Wがオンされ、かつスイッチ21Uがオフされるとともに、下アームにおいて、スイッチ22V,21Wがオフされ、かつスイッチ22Uがオンされている。これにより、バッテリ30からV,W相電流として正電流が流れ、かつU相電流として負電流が流れる。また、図8(a)の状態から引き続いて、図8(b)では、上アームにおいてスイッチ21V,21Wがオフされることで全相のスイッチ21がオフされ、かつ下アームにおいて全相のスイッチ22がオンされている。これにより、各相の下アームスイッチ22とコイル11とを含む還流経路で電流が循環される。図8(a),(b)においては、V,W相の上アームのスイッチ21V,21Wと下アームのスイッチ22V,22Wとが交互にオンオフされ、そのスイッチングは、V,W相に正電流が流れる期間において所定周期で繰り返される。
【0039】
上記の創熱制御では、交流d軸電流に基づき設定された各相の相電流指令値Iu*,Iv*,Iw*により、全相で相電流Iu,Iv,Iwが流れる。この場合、インバータ20では、全相においてスイッチング制御が行われることとなり、その全相のスイッチング制御に際してスイッチング損失増大の制御が併せて実施される。インバータ20において全相のスイッチ21,22でスイッチング損失増大が行われることにより、一部の相のみでスイッチング損失増大が行われる場合とは異なり各スイッチで発熱を分散させ、ひいては回転電機システムにおける創熱を効率良く行わせるものとしている。
【0040】
図7(b)、図8(b)に示すように、各相の下アームスイッチ22とコイル11とを含む経路で電流を循環させる際には、いずれかの相の下アームスイッチ22(図7(b)のスイッチ22U、図8(b)のスイッチ22V,22W)においてソースからドレインに向けて電流が流れるが、電流をダイオード23に流すことも可能になる。この場合、下アームスイッチ22をオンした状態で電流を流すと、導通損が低減されるため、ダイオード23の通電時よりも損失が減ることが考えられる。また、ダイオード23に電流が流れる場合には、下アームスイッチ22のオンオフによるスイッチング損失増大を見込むことができない。これらからすると、電流の循環時に下アームスイッチ22のソースからドレインへ電流が流れる場合には、下アームスイッチ22のオンオフによるスイッチング損失増大の制御を実施するメリットが得られないことがあると考えられる。
【0041】
この点を鑑み、いずれかの相において上アームスイッチ21をオンしてコイル11に相電流を流した後、上アームスイッチ21をオフして相電流を還流させる際には、その上アームスイッチ21と同相の下アームスイッチ22をオフ状態のままとして、その下アームスイッチ22に並列のダイオード23を介して相電流を還流させるようにするとよい。この場合、インバータ20の上下アームのスイッチ21,22のうち、オンオフによるスイッチング損失増大が見込める上アームスイッチ21のみでスイッチングが行われ、下アームスイッチ22ではスイッチングが行われないとよい。図7(b)では、スイッチ22Uのスイッチングが行われないことにより、U相下アームのダイオード23を介して電流が還流され、図8(b)では、スイッチ22V,22Wのスイッチングが行われないことにより、V,W相下アームのダイオード23を介して電流が還流される。
【0042】
図9には、上下アームのスイッチ21U,22Uにおけるゲート電圧の推移を示す。図9において、(a)は、通常時におけるスイッチ21U,22Uのゲート電圧の推移を示し、(b)は、スイッチング損失増大時におけるスイッチ21U,22Uのゲート電圧の推移を示す。図9(b)では、図9(a)に比べてスイッチ21U,22Uのターンオフ時間が長くなっており、スイッチ21U,22Uが同時にオンすることが懸念される(図のX)。つまり、上下アームのスイッチングでは、通常時においてターンオフに要する時間を見越してデッドタイムが設定されているが、ターンオフが遅れるとターンオフが完了する前にデッドタイムが経過してしまい、上下アームの短絡の懸念が生じる。
【0043】
これに対して、図9(c)では、上下アームのスイッチ21U,22Uのうち、上アームのスイッチ21Uのみがスイッチングされている。これにより、スイッチ21Uのターンオフ時間が通常時よりも長くなっていても(ターンオフが遅れていても)、上下アームでの短絡の発生が抑制される。
【0044】
また、各相の相電流をそれぞれ正負両側に交流変化させる際には、図6に示すように各相の相電流の振幅が一致しないため、相ごとに各スイッチ21,22の発熱量が異なり、結果として各相の素子温度が相違することが考えられる。そこで本実施形態では、各相における各スイッチ21,22の発熱量を合わせるべく、スイッチング損失増大を行う期間(ゲート抵抗値を大きくする期間)を相ごとに調整することとしている。
【0045】
図10には、各相におけるゲート抵抗切り替えの制御の一例を示す。図10では、各相の相電流がそれぞれ正負両側に交流変化する際において、U相電流の振幅が最も大きく、次いでV相電流、W相電流の順となっている。そのため、d軸通電による創熱制御では、各相のスイッチ21,22のうち、U相スイッチが最も高温になり、W相スイッチが最も低温になることが想定される。そこで本実施形態では、各相に流れる相電流の大きさに基づいて、スイッチング損失増大を行う損失増大期間を可変に設定することとしている。
【0046】
具体的には、制御装置40は、各相の相電流の振幅を検出又は推定により取得するとともに、各相の電流振幅の差に基づいて、各相においてゲート抵抗値を大きくする期間、すなわち損失増大期間を設定する。損失増大期間は、各相の相電流が交流変化する際の1周期のうち損失増大期間の割合を示す時間比率として設定されるとよい。図10では、各相の相電流の振幅がU相>V相>W相になっていることから、U相ではゲート抵抗値を大きくする期間(損失増大期間)を最も短くし、W相ではゲート抵抗値を大きくする期間(損失増大期間)を最も長くしている。
【0047】
制御装置40は、素子温度センサ26により検出された素子温度に基づいて、相ごとに、スイッチング損失増大を行う期間を設定してもよい。この場合、制御装置40は、各相のスイッチにおいて素子温度の目標値(目標温度)を設定するとともに、素子温度センサ26により検出された素子温度と目標温度との偏差に基づいて、スイッチング損失増大を行う期間、すなわちゲート抵抗値を大きくする期間を設定する。これにより、各相のスイッチ21,22を所望の温度に制御することができる。なお、上下アームの各スイッチ21,22のうち上アームのスイッチ21のみがスイッチングされる場合には、そのスイッチ21のみについて素子温度フィードバック制御により損失増大期間が設定されるとよい。
【0048】
上記のとおり素子温度フィードバック制御により損失増大期間が設定されることで、各相の相電流の振幅が相違していてもその相違による素子温度のばらつきを抑制することができる。
【0049】
また、dq軸電流と相電流との関係には電気角依存性があるため、回転電機10の電気角θによっては、一部の相に電流がほとんど流れないことがあり、これが各相の損失増大量に悪影響を及ぼすことが考えられる。つまり、上記(式1)により各相の相電流指令値Iu*,Iv*,Iw*が設定される場合において、回転停止状態の回転電機10の電気角θによっては、いずれかの相の相電流が0又は0付近の電流値となり、相どうしの発熱量の差が過剰に大きくなることが考えられる。そこで本実施形態では、回転電機10の電気角θとして、各相の相電流が全て所定の閾値以上となる電気角θを設定し(角度設定部)、その電気角θに基づいて、各相の相電流指令値Iu*,Iv*,Iw*を設定するものとしている。
【0050】
具体的には、図11に示すように電気角θに応じて各相の相電流の電流比が変化する場合において、d軸通電による創熱制御が行われる際の電気角θが、各相の電流比が閾値Th以上となる所定範囲Ra内の角度になっているとよい。なお、電流比は、コイル11に流れるトータル電流に対する各相の相電流の比率である。図11では、電気角θが30度、90度、150度、210度、270度、330度でいずれかの相の相電流が0となることから、それら各角度の近傍を除く範囲が所定範囲Raとして定められている。この場合、回転電機10の回転停止状態において回転角センサ12により検出された検出電気角θaが所定範囲Ra内に入っていなければ、回転電機10にトルクを生じさせ、所定範囲Ra内に入るように電気角θが操作されるとよい。
【0051】
また、車両走行中においては、回転電機10の運転状態の変化に伴いインバータ20における変調率が変化する。また、変調率の変化に伴い各スイッチ21,22の駆動デューティが変化する。ここで、変調率が大きい場合に、各スイッチ21,22の駆動パルス(PWMパルス)のオン時間が所定時間よりも短くなると、ターンオン時間やターンオフ時間を長引かせること、すなわちスイッチング損失増大の制御を実施することが困難になる。
【0052】
そこで本実施形態では、スイッチ21,22の駆動パルスのオン時間が所定時間よりも短い場合に、スイッチング損失増大による創熱制御を実施しないこととしている。図12は、変調率が異なる3つ状態のスイッチング制御を示すタイムチャートである。図12では、(c)の場合に駆動パルスのオン時間が所定時間よりも短くなるため、スイッチング損失増大を実施しないようにしている。なお、図12(c)の場合には、全期間を通じてスイッチング損失増大を実施しないようにしてもよいし、駆動パルスのオン時間が所定時間よりも短い期間のみスイッチング損失増大を実施しないようにしてもよい。
【0053】
ところで、車両の停車時(回転電機10の回転停止時)においてd軸通電による創熱制御を実施する場合に、制御装置40が認知している回転電機10の電気角と実際の電気角とが相違していると、意図しないq軸電流が流れてしまうことが考えられる。この場合、車両の停車中にもかかわらず回転電機10に不要なトルクが発生し、電気角のずれが累積的に増加することが考えられる。具体的には、図5に示す3相変換部71において、電気角θとして回転角センサ12の検出角度が入力される場合に、回転角センサ12の検出誤差が生じていると、制御装置40の認知角度と実際の電気角とが相違することになる。特に、車両停止状態では数deg程度の電気角誤差が生じていることが考えられる。この電気角誤算出により、回転電機10において不要な回転が生じることが懸念される。
【0054】
そこで本実施形態では、d軸通電による創熱制御の前段の制御として、回転電機10に直流d軸電流を流すことにより、回転電機10の電気角θを、制御装置40が認知している認知角度(指令角度α)とする位置合わせ制御を実施し、その位置合わせ制御の後に、交流d軸電流による創熱制御を実施することとしている。これにより、制御装置40が認知している電気角に対する実際の電気角の合わせ込みが行われ、実際の電気角が指令角度αであるという前提のもと、回転角センサ12の検出値を参照することなく、d軸電流を交流変化させる全相の創熱制御が実施される。
【0055】
図13(a)は、位置合わせ制御を実施する際のdq-UVW変換の処理を示す図であり、図13(b)は、交流d軸電流による創熱制御を実施する際のdq-UVW変換の処理を示す図である。
【0056】
図13(a)に示すように、3相変換部71Aには、d軸電流指令値Id*としてA1が入力されるとともに、q軸電流指令値Iq*として0が入力される。また、電気角θとして、所定の指令角度αが入力される。指令角度αは、図11で説明したように、各相の総電流が所定の閾値以上となる角度(所定範囲Ra内の角度)である。3相変換部71Aは、d軸電流指令値Id*(=A1)と指令角度αとに基づいて、各相の相電流指令値Iu*,Iv*,Iw*を算出する。この場合、d軸電流指令値Id*は直流d軸電流であり、相電流指令値Iu*,Iv*,Iw*はそれぞれ直流の相電流として算出される。そして、位置合わせ制御の実施に際し、3相変換部71Aにて算出された相電流指令値Iu*,Iv*,Iw*により、各相の相電流が制御される。
【0057】
なお、3相変換部71Aにおける相電流指令値Iu*,Iv*,Iw*の算出処理が「第1設定処理」に相当し、その相電流指令値Iu*,Iv*,Iw*による位置合わせ制御が「第1電流制御」に相当する。
【0058】
また、図13(b)に示すように、3相変換部71Bには、d軸電流指令値Id*としてA2・sinφが入力されるとともに、q軸電流指令値Iq*として0が入力される。また、電気角θとして、3相変換部71Aと同様に所定の指令角度αが入力される。3相変換部71Bは、d軸電流指令値Id*として、正負両側に交流変化する交流d軸電流を用いて、正負両側に交流変化する相電流指令値Iu*,Iv*,Iw*を算出する。
【0059】
なお、3相変換部71Bにおける相電流指令値Iu*,Iv*,Iw*の算出処理が「第2設定処理」に相当し、その相電流指令値Iu*,Iv*,Iw*による創熱制御が「第2電流制御」に相当する。
【0060】
図13(a)に示す3相変換部71Aでは、直流d軸電流の絶対値の最大値をA1とし、図13(b)に示す3相変換部71Bでは、交流d軸電流の絶対値の最大値をA2としている。A1,A2は、d軸電流の振幅を規定する振幅指令値である。A1,A2はA1>A2の関係であるとよい。つまり、直流d軸電流の絶対値は、交流d軸電流の絶対値よりも大きい値であるとよい。この場合、創熱の要求量の大きさに基づいて、交流d軸電流を規定するためのA2が定められるとともに、A1が、A2よりも大きい値として定められているとよい。例えば、A2は、スイッチ21,22の素子温度に基づいて定められるものであるとよい。ただし、A1,A2はA1=A2であってもよい。
【0061】
図14は、図13に示す位置合わせ制御と、交流d軸電流による創熱制御とを具体的に説明するためのタイムチャートである。図14では、回転電機10のロータ角として、回転角センサ12により検出された検出電気角θa(センサ値)が破線で示され、回転電機10における実電気角θb(真値)が一点鎖線で示され、一定値である指令角度αが実線で示されている。本例では、実電気角θbに対して検出電気角θaが角度誤差を有するものとなっている。
【0062】
図14では、創熱要求に応じて期間T1で位置合わせ制御が実施される。具体的には、回転電機10の電気角θが指令角度αとされ、かつd軸電流指令値Id*として直流d軸電流が設定されるとともに、それら指令角度α及び直流d軸電流に基づいて算出された相電流指令値Iu*,Iv*,Iw*により、コイル11の各相の相電流が制御される。これにより、回転電機10の電気角が、制御装置40の認知角度である指令角度αに調整される。このとき、検出電気角θaが検出誤差を有していても、その検出誤差に影響を受けずに、回転電機10の電気角が所望の電気角に操作される。
【0063】
その後、期間T2では、交流d軸電流による創熱制御が実施される。具体的には、回転電機10の電気角θが指令角度αとされ、かつd軸電流指令値Id*として交流d軸電流が設定されるとともに、それら指令角度α及び交流d軸電流に基づいて算出された相電流指令値Iu*,Iv*,Iw*により、コイル11の各相の相電流が制御される。このとき、回転電機10の電気角が、事前の位置合わせ制御により調整された指令角度αに保持されたまま、コイル11において各相の通電が行われる。また、制御装置40の認知角度と実際の電気角とのずれが抑制されていることにより、意図しないq軸トルクが生じることが抑制され、回転電機10が回転停止状態で保持される。
【0064】
図15は、車両停車中における創熱制御の手順を示すフローチャートである。本処理は、車両の停車中である場合、例えば車両の電源スイッチ(IGスイッチ)がオフ状態である場合に、制御装置40により所定周期で繰り返し実行される。停車中には、創熱制御として、各スイッチ21,22のスイッチング損失増大による創熱制御と、回転電機10でトルクが生じないd軸通電による創熱制御とが行われる。
【0065】
図15において、ステップS11では、創熱要求が生じているか否かを判定する。例えば上位制御装置から創熱要求を受信していれば、ステップS11が肯定される。創熱要求が生じていれば、後続のステップS12に進み、創熱要求が生じていなければそのまま本処理を終了する。
【0066】
ステップS12では、インバータ20の制御モードをスイッチング損失増大モードとする。これにより、車両停車中において、インバータ20のスイッチング制御にてスイッチング損失増大の制御が適宜実施される。
【0067】
その後、ステップS13では、回転角センサ12により検出された検出電気角θaを取得する。続くステップS14では、検出電気角θaが、予め定めた所定範囲Ra内に入っているか否かを判定する。所定範囲Raは、コイル11の各相の相電流が全て所定の閾値以上となる電気角を規定した範囲である。ステップS14において、検出電気角θaが所定範囲Ra内に入っていればステップS15に進み、検出電気角θaが所定範囲Ra内に入っていなければステップS16に進む。
【0068】
ステップS15では、検出電気角θaを、d軸通電による創熱制御に用いる指令角度αとして設定する。また、ステップS16では、所定範囲Ra内の所定の電気角を指令角度αとして設定する。このとき、回転電機10のロータ角が過剰に大きく変化することを抑制すべく、検出電気角θaからの変更の幅が所定値以内となるようにして指令角度αが設定されるとよい。ステップS15,S16の処理により、各相に最低限の電流が流れることが保証される。
【0069】
その後、ステップS17,S18では、d軸電流指令値Id*として直流d軸電流を設定し、回転電機10の電気角を指令角度αに調整する位置合わせ制御を実施する。すなわち、ステップS17では、d軸電流指令値Id*をA1、q軸電流指令値Iq*を0とし、かつ電気角θを指令角度αとして、dq/UVW変換により相電流指令値Iu*,Iv*,Iw*を算出する。続くステップS18では、ステップS17で算出した相電流指令値Iu*,Iv*,Iw*に基づいて、各相のスイッチ21,22についてスイッチング制御を実施し、コイル11の各相に流れる相電流を制御する。
【0070】
なお、位置合わせ制御において直流d軸電流を流す場合には、各スイッチ21,22においてスイッチング損失増大の制御は行われない。
【0071】
その後、ステップS19~S21では、d軸電流指令値Id*として交流d軸電流を設定し、d軸通電による創熱制御を実施する。このとき、制御装置40は、スイッチング損失増大による創熱制御を併せて実施する。
【0072】
詳しくは、ステップS19では、d軸電流指令値Id*をA2・sinφ、q軸電流指令値Iq*を0とし、かつ電気角θを指令角度αとして、dq/UVW変換により相電流指令値Iu*,Iv*,Iw*を算出する。
【0073】
続くステップS20では、各相に流れる相電流の大きさに基づいて、スイッチング損失増大を行う損失増大期間を設定する。このとき、回転電機10の指令角度αに応じて各相の相電流の振幅が決まるため、その各相の電流振幅に基づいて、相ごとに損失増大期間を設定するとよい。これにより、例えば図10に示すように、ゲート抵抗値を大きくする期間(損失増大期間)が相ごとに設定される。
【0074】
その後、ステップS21では、ステップS19で算出した相電流指令値Iu*,Iv*,Iw*に基づいて、各相のスイッチ21,22についてスイッチング制御を実施し、コイル11の各相に流れる相電流を制御する。このとき、制御装置40は、スイッチング損失増大の制御として以下の各処理を実施する。
(1)インバータ20の駆動回路24において、各スイッチ21,22のゲート抵抗を損失増大時用のゲート抵抗に切り替えて、スイッチオンオフ時の遷移時間を長引かせる。このとき、ステップS20で設定した損失増大期間では、各スイッチ21,22のゲート抵抗を損失増大時用の第2ゲート抵抗29とし、損失増大期間以外では、各スイッチ21,22のゲート抵抗を通常時用の第1ゲート抵抗28とする。
(2)スイッチ21,22のオンオフ時に、ターンオフ時間をターンオン時間に比べて長い時間にする。このとき、ターンオン時間を、創熱要求の無い場合と同じ時間とし、ターンオフ時間を、創熱要求の無い場合に比べて長い時間にするとよい。
(3)インバータ20の上下アームのスイッチ21,22のうち、オンオフによるスイッチング損失増大が見込める上アームスイッチ21のみでスイッチングを行い、下アームスイッチ22ではスイッチングを行わない。
【0075】
なお、上記(2)に代えて、ターンオン時間及びターンオフ時間の両方を、創熱要求の無い場合に比べて長い時間にすることも可能である。また、上記(3)に代えて、インバータ20の上下アームの両スイッチ21,22でスイッチングを行わせることも可能である。
【0076】
図16は、車両走行中の創熱制御の手順を示すフローチャートである。本処理は、車両の走行中、例えば車両の電源スイッチ(IGスイッチ)がオン状態である場合に、制御装置40により所定周期で繰り返し実行される。車両走行中には、創熱制御として、各スイッチ21,22のスイッチング損失増大による創熱制御が行われる。
【0077】
図16において、ステップS31では、創熱要求が生じているか否かを判定する。例えば上位制御装置から創熱要求を受信していなければ、ステップS31を否定してステップS32に進む。ステップS32では、インバータ20の制御モードを通常モードとし、続くステップS33では、インバータ20のスイッチング制御として通常モードの制御を実施する。
【0078】
また、創熱要求が生じていれば、ステップS34に進む。ステップS34では、各スイッチ21,22をオンオフするPWMパルスのオン時間が所定時間THよりも長いか否かを判定する。そして、ステップS34が肯定されればステップS35に進み、ステップS34が否定されればステップS32に進む。このとき、ステップS34が否定されれば、すなわちPWMパルスのオン時間が所定時間THよりも短ければ、スイッチング損失増大が実施されないものとなっている。
【0079】
ステップS35では、インバータ20の制御モードをスイッチング損失増大モードとする。これにより、車両走行中において、インバータ20のスイッチング制御にてスイッチング損失増大の制御が適宜実施される。
【0080】
ステップS36では、素子温度センサ26により検出された素子温度(スイッチ温度)を取得し、続くステップS37では、素子温度に基づいて、スイッチング損失増大の制御を実施する損失増大期間を設定する。具体的には、例えば図17に示す関係を用いて損失増大期間が設定されるとよい。図17では、素子温度が低いほど、損失増大期間が長くなる関係が定められている。損失増大期間は、各相の相電流が交流変化する際の1周期のうち損失増大期間の割合を示す時間比率として設定されるとよい。損失増大期間は、相ごとに設定されるとよい。
【0081】
その後、ステップS38では、スイッチング損失増大による創熱制御として、以下の各処理を実施する。
・インバータ20の駆動回路24において、各スイッチ21,22のゲート抵抗を損失増大時用のゲート抵抗に切り替えて、スイッチオンオフ時の遷移時間を長引かせる。このとき、ステップS37で設定した損失増大期間では、各スイッチ21,22のゲート抵抗を損失増大時用の第2ゲート抵抗29とし、損失増大期間以外では、各スイッチ21,22のゲート抵抗を通常時用の第1ゲート抵抗28とする。
・スイッチ21,22のオンオフ時に、ターンオフ時間をターンオン時間に比べて長い時間にする。このとき、ターンオン時間を、創熱要求の無い場合と同じ時間とし、ターンオフ時間を、創熱要求の無い場合に比べて長い時間にするとよい。
・インバータ20の上下アームのスイッチ21,22のうち、オンオフによるスイッチング損失増大が見込める上アームスイッチ21のみでスイッチングを行い、下アームスイッチ22ではスイッチングを行わない。
【0082】
なお、ターンオン時間及びターンオフ時間の両方が、創熱要求の無い場合に比べて長い時間であってもよい。また、インバータ20の上下アームの両スイッチ21,22でスイッチングを行うようにしてもよい。
【0083】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の優れた効果が得られる。
【0084】
回転電機システムの創熱要求がある場合に、インバータ20においてスイッチ21,22(半導体スイッチング素子)のターンオン時及びターンオフ時の少なくともいずれかの遷移時間を、創熱要求の無い場合に比べて長い時間にするようにした。これにより、インバータ20の各スイッチ21,22においてスイッチング損失量の増加に伴う発熱を生じさせることができる。その結果、回転電機システムにおいて効率良く創熱を行わせることができる。
【0085】
スイッチング損失増大による創熱時には通常時に比べて素子温度の上昇が早まるため、仮にインバータ20で上下アームの短絡異常が生じる状況下では、スイッチオン時において短絡検知が行われる前に素子温度が過上昇することが懸念される。この点、スイッチ21,22のターンオフ時においてターンオン時に比べて大きいスイッチング損失を生じさせる構成としたため、ターンオン時間を相対的に短くすることができる。これにより、スイッチオン時において短絡検知前に素子温度が過上昇するといった不都合を抑制できる。
【0086】
インバータ20において上下アームの短絡異常が生じる状況下では、スイッチオン時に短絡検知した場合に速やかに電流遮断する必要がある。この点を鑑み、創熱要求がある場合において、スイッチ21,22のターンオン時間を、創熱要求の無い場合と同じ時間とし、ターンオフ時間を、創熱要求の無い場合に比べて長い時間とするようにした。この場合、ターンオン時のスイッチング損失増大が見込まれていないため、スイッチ21,22において、短絡検知の際に速やかな電流遮断を行わせることができる。
【0087】
d軸通電による創熱制御を実施する場合において、いずれかの相の上アームスイッチ21をオンして各相の相電流を流し、その後上アームスイッチ21をオフして相電流を還流させる際に、その上アームスイッチ21と同相の下アームスイッチ22をオフ状態のままとして、その下アームスイッチ22に並列のダイオードを23介して相電流を還流させる構成とした。この場合、下アームスイッチ22でスイッチング損失増大の制御が行われなくても、ダイオード23を電流が流れることによる発熱を見込むことができる。また、スイッチ21,22のオンオフの遷移時間が長くなっている構成では、上下アームの短絡の懸念があるが、上下アームのスイッチ21,22のうち上アームスイッチ21のみがスイッチングされる構成としたため、上下アームでの短絡の発生が抑制される。
【0088】
車両走行中には、車両走行状態に応じて駆動デューティが変化し、PWMパルスのオン時間が所定時間よりも短い状態になり得る。また、PWMパルスのオン時間が短い場合には、スイッチ21,22の遷移時間を長引かせることによる電流制御への影響が大きくなると考えられる。この点を鑑み、PWMパルスのオン時間が所定時間よりも短い場合には、スイッチング損失増大を実施しない構成とした。これにより、スイッチング損失増大による創熱制御が車両走行中の電流制御に悪影響を及ぼすことを抑制できる。
【0089】
スイッチ21,22の遷移時間(ターンオン時間、ターンオフ時間)を長くする期間、すなわちスイッチング損失増大を実施する期間を、半導体スイッチング素子の素子温度(スイッチ温度)に基づいて設定するようにした。これにより、スイッチング損失増大による創熱制御を実施する際において素子温度を適正に管理し、ひいては半導体スイッチング素子の劣化の抑制や過熱防止を図ることができる。
【0090】
回転電機10の回転停止状態(車両の停車状態)で、コイル11の各相に正負両側で交流変化する相電流が流れるように電流制御(交流d軸電流による創熱制御)を実施する構成では、コイル11の全相においてスイッチ21,22がオンオフされる。そして、この電流制御の実施に際し、スイッチング損失増大による創熱制御(各相のスイッチ21,22の遷移時間を長くした制御)を実施する構成とした。この場合、全相のスイッチ21,22でスイッチング損失を生じさせることが可能となり、一部の相のスイッチのみで発熱が生じるといった状況を解消できる。
【0091】
d軸通電による創熱制御に際し、各相の相電流をそれぞれ正負両側に交流変化させる場合には、各相において相電流の振幅が一致せず、相ごとに各スイッチ21,22の発熱量が異なることが考えられる。この点を鑑み、各相の相電流の大きさに基づいて、スイッチ21,22の遷移時間(ターンオン時間、ターンオフ時間)を長くする期間、すなわちスイッチング損失増大の制御を実施する期間を設定するようにした。具体的には、ゲート抵抗を大きくする期間の時間比率(損失増大用の第2ゲート抵抗29を用いる期間の時間比率)を相ごとに調整するようにした。これにより、各相の相電流の振幅が一致していなくても、各相のスイッチ21,22の発熱量の差を小さくすることができる。
【0092】
回転電機10の回転停止状態で、コイル11の各相に正負両側で交流変化する相電流が流れるように電流制御を実施する場合には、回転電機10の電気角θによっては、いずれかの相の相電流が0又は0付近の電流値となり(すなわち各相に流れる電流に偏りが生じ)、相どうしの発熱量の差が過剰に大きくなることが考えられる。この点、回転電機10の回転停止状態において、各相の相電流が全て所定の閾値以上となるように電流制御を実施する構成にしたため、いずれかの相に偏って電流が流れることを抑制でき、相どうしの発熱量の差が過剰に大きくなることを抑制できる。
【0093】
回転電機システムにおける創熱要求があると判定され、かつ回転電機10が回転停止状態である場合に、コイル11の各相に正負両側で交流変化する相電流を流すために、d軸電流指令値として交流d軸電流を設定し、その交流d軸電流に基づいて、相電流指令値を設定するようにした。この構成によれば、交流d軸電流に基づき設定された各相の相電流指令値により、全相で相電流が流れることとなり、インバータ20において全相のスイッチ21,22でスイッチング制御が行われる。そのため、全相のスイッチング動作により創熱が行われることになり、一部の相のみのスイッチング動作により創熱が行われる場合に比べてインバータ20での創熱量を増やすことができる。また、一部の相だけでスイッチング制御による創熱が行われる場合には、一部のスイッチ21が高温となることで創熱制御が制限されることが考えられるが、こうした不都合を抑制できる。その結果、回転電機システムにおいて効率良く創熱を行わせることができる。
【0094】
創熱要求があり、かつ回転電機10が回転停止状態である場合に、回転電機10の電気角θである指令角度αとd軸電流指令値である直流d軸電流とに基づいて、各相の相電流指令値を設定し、その相電流指令値により相電流を制御するようにした。そして引き続き、指令角度α及び交流d軸電流に基づいて、各相の相電流指令値を設定し、その相電流指令値により相電流を制御するようにした。この場合、回転電機10の電気角θを制御装置40の認知角度(指令角度α)に固定した状態で、交流d軸電流を流して創熱を行わせることができる。これにより、d軸通電による創熱制御において、回転角センサ12の検出誤差に起因して回転電機10が意図せず回転するといった不都合を抑制することができる。
【0095】
直流d軸電流による位置合わせ制御を実施する際に、直流d軸電流の絶対値を、交流d軸電流の絶対値よりも大きい値とした。これにより、交流d軸電流による創熱制御に先立って行われる位置合わせ制御を適正に実施することができる。
【0096】
直流d軸電流による位置合わせ制御を実施する際に、指令角度αとして、コイル11の各相の相電流が全て所定の閾値以上となる電気角θを設定する構成とした。これにより、位置合わせ制御に引き続いて行われるd軸通電による創熱制御において、いずれかの相に偏って電流が流れることを抑制でき、相どうしの発熱量の差が過剰に大きくなることを抑制できる。
【0097】
直流d軸電流による位置合わせ制御では、一部の相でスイッチングが行われるため、スイッチング損失増大の制御を行う場合に、相ごとに発熱量のばらつきが生じることが懸念される。この点を鑑み、直流d軸電流による位置合わせ制御ではスイッチング損失増大の制御を行わず、交流d軸電流による創熱制御ではスイッチング損失増大の制御を行うようにした。これにより、位置合わせ制御の実施に際し、各相のスイッチで過剰な温度差が生じることを抑制できる。
【0098】
(第2実施形態)
図1に示す回転電機システムは、回転電機10のロータの回転がギア装置51を介して車軸52に伝達される構成を有する。回転電機10のロータの回転は、ギア装置51のギア(歯車)の噛み合いにより車軸側に伝達される。この場合、図18に示すように、ギアの噛み合いには、円滑な回転を実現するためにバックラッシという隙間が存在し、バックラッシの範囲内では回転電機10のロータが受ける抵抗が小さく、僅かなトルクでギアが回転し、歯打ち音が発生する。そのため、回転電機10の回転停止状態でd軸通電による創熱制御が実施される際に、微小トルクが正負両側に交互に生じると、ギア装置51において継続的に歯打ち音が生じることが懸念される。
【0099】
そこで本実施形態では、d軸通電による創熱制御の実施に際し、回転電機10の回転方向一方側のトルクを生じさせ、かつそのトルクの絶対値が所定値を超えないように電流制御を実施するものとしている。この場合、d軸電流により各相の交流電流を生成し、かつq軸電流によりトルクを制御するとよい。具体的には、制御装置40は、dq/UVW変換に際し、d軸電流指令値Id*をAsinφとするとともに、q軸電流指令値Iq*を下記(式2)により算出する。そして、それらd軸電流指令値Id*、q軸電流指令値Iq*に基づいて、相電流指令値Iu*,Iv*,Iw*を算出する。
【0100】
【数2】
なお、(式2)において、Toffsetは、回転電機10においてゼロ基準のトルクオフセット量であり、PNは回転電機10の極対数であり、Lqはq軸インダクタンスであり、Ldはd軸インダクタンスである。
【0101】
図19は、d軸通電による創熱制御において、q軸トルクを生じさせる場合のパラメータ変化を示すタイムチャートである。図19では、d軸電流及びq軸電流の設定に伴い各相の相電流が図示のごとく流れる。この場合、回転電機10のトルクが、0を跨がない状態で継続的に生成される。これにより、ギア装置51において、各ギアが回転方向一方側で歯当たりした状態で保持され、歯打ち音の発生が抑制される。
【0102】
また、位置合わせ制御の実施の際に、指令角度αとして、ギア装置51においてギアの歯当たりが生じる電気角を設定しておくとよい。具体的には、直流d軸電流による位置合わせ制御を行う際に、指令角度αを所定角度ずつ変更して位置合わせ制御を実施する。このとき、回転角センサ12の検出角度が、指令角度αの変更前と変更後との角度差に追従したものになっているか否かにより、変更後の指令角度αが、ギア装置51の歯当たりが生じる電気角であるか否かを判定するとよい。つまり、回転角センサ12の検出角度が、指令角度αの変更前と変更後との角度差に追従したものになっていれば、ギア装置51の歯当たりが生じていないとみなし、指令角度αを再び変更する。また、回転角センサ12の検出角度が、指令角度αの変更前と変更後との角度差に追従したものになっていなければ、ギア装置51の歯当たりが生じているとみなし、その指令角度αを、位置合わせ制御により位置合わせされた電気角θとする。
【0103】
なお、ギアの歯当たりが生じる電気角として設定された指令角度αが、各相の電流値が所定の閾値以上となる所定範囲Raから外れていることも考えられる。かかる場合には、回転電機10において回転方向逆側にトルクを生じさせ、ギアを逆側で歯当たりさせるようにするとよい。
【0104】
図20は、車両停車中における創熱制御の手順を示すフローチャートである。本処理は、上述した図15の処理に置き換えて制御装置40により実行されるとよい。
【0105】
図20において、ステップS41では、創熱要求が生じているか否かを判定する。例えば上位制御装置から創熱要求を受信していれば、ステップS41が肯定される。創熱要求が生じていれば、後続のステップS42に進み、創熱要求が生じていなければそのまま本処理を終了する。
【0106】
ステップS42では、インバータ20の制御モードをスイッチング損失増大モードとする。これにより、車両停車中において、インバータ20のスイッチング制御にてスイッチング損失増大の制御が適宜実施される。
【0107】
ステップS43では、車両において車輪の回転を阻止すべくブレーキ指令を出力する。車両においては、ブレーキ指令に従い例えば電動パーキングブレーキが作動されるとよい。
【0108】
その後、ステップS44,S45では、回転電機10の指令角度αを、ギア装置51においてギアの歯当たりが生じる電気角に設定する処理を行いつつ、直流d軸電流により回転電機10の電気角を指令角度αに調整する位置合わせ制御を実施する。
【0109】
具体的には、ステップS44では、d軸電流指令値Id*をA1、q軸電流指令値Iq*を0とし、かつ電気角θを指令角度αとして、dq/UVW変換により相電流指令値Iu*,Iv*,Iw*を算出する。続くステップS45では、ステップS44で算出した相電流指令値Iu*,Iv*,Iw*に基づいて、各相のスイッチ21,22についてスイッチング制御を実施し、コイル11の各相に流れる相電流を制御する。このとき、指令角度αを適宜変更し、位置合わせ制御において回転角センサ12の検出角度が追従変化していない場合に、変更後の指令角度αが、ギア装置51の歯当たりが生じる電気角であるものであると判定する。
【0110】
つまり、ステップS44,S45によれば、指令角度αが、ギア装置51においてギアの歯当たりが生じる電気角とされ、その指令角度αに基づいて、各相の相電流指令値Iu*,Iv*,Iw*が設定される。そして、その相電流指令値Iu*,Iv*,Iw*により相電流が制御される。
【0111】
その後、ステップS46,S47では、d軸電流指令値Id*として交流d軸電流を設定し、交流d軸電流による創熱制御を実施する。具体的には、ステップS46では、d軸電流指令値Id*をA2・sinφとし、q軸電流指令値Iq*を上記(式2)による算出値とする。そして、これらd軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*と、指令角度α(すなわち、ギアの歯当たりが生じる電気角として設定された指令角度α)とに基づいて、dq/UVW変換により相電流指令値Iu*,Iv*,Iw*を算出する。
【0112】
続くステップS47では、ステップS46で算出した相電流指令値Iu*,Iv*,Iw*に基づいて、各相のスイッチ21,22についてスイッチング制御を実施し、コイル11の各相に流れる相電流を制御する。このとき、制御装置40は、スイッチング損失増大の制御を併せて実施する。スイッチング損失増大の制御は、図15のステップS21と同様の制御が実施されればよい。略述すれば、下記の各処理が適宜実施される。
・インバータ20の駆動回路24において、各スイッチ21,22のゲート抵抗を損失増大時用のゲート抵抗に切り替えて、スイッチオンオフ時の遷移時間を長引かせる。
・スイッチ21,22のオンオフ時に、ターンオフ時間をターンオン時間に比べて長い時間にする。
・インバータ20の上下アームのスイッチ21,22のうち、オンオフによるスイッチング損失増大が見込める上アームスイッチ21のみでスイッチングを行い、下アームスイッチ22ではスイッチングを行わない。
【0113】
ステップS46,S47によれば、回転電機10に回転方向一方側のトルクを生じさせ、かつ当該トルクが所定値を超えない状態で、各相の相電流が制御される。
【0114】
以上第2実施形態によれば、第1実施形態における効果とは別に以下の効果を奏する。
【0115】
回転電機10のロータの回転がギア装置51に伝達される構成では、車両の停車状態(回転電機10の回転停止状態)で行われる電流制御に際し、僅かなトルクでロータが正逆方向に回転し、ギアの歯打ち音が発生することが考えられる。この点を鑑み、回転電機10の回転方向一方側へのトルクを生じさせ、かつそのトルクの絶対値が所定値を超えないように電流制御を実施するようにした。この場合、回転電機10のロータの回転が生じることを抑制しつつ、回転電機10のトルクが0を跨いで正負両側に変動することを抑制できる。これにより、ギア装置51において歯打ち音が継続的に生じることを抑制することができる。つまり、ギア装置51のギアにおいて特定方向の歯当たりを生じさせることより、微小トルクが正負両側に交互に生じることに起因してギア装置51の歯打ち音が生じるといった不都合を抑制できる。
【0116】
回転電機10の回転停止状態において、回転電機10に微小トルクを生じさせる場合に、車両の移動を抑制するブレーキを作動させるようにした。これにより、車両が意図せず移動するといった不都合を抑制できる。
【0117】
直流d軸電流による位置合わせ制御を行う際に、指令角度αとして、ギア装置51においてギアの歯当たりが生じる電気角を設定し、その指令角度αに基づいて、各相の相電流指令値Iu*,Iv*,Iw*を設定する構成とした。これにより、ギア装置51のギアにおいて特定方向に歯を押し当てた状態にすることができ、歯打ち音の発生を抑制できる。
【0118】
(他の実施形態)
上記実施形態を例えば次のように変更してもよい。
【0119】
・スイッチング損失増大の制御により各スイッチ21,22のターンオフ時間を長引かせる場合において、デッドタイムを通常時よりも長くする構成としてもよい。例えば、図21に実線で示すように、ターンオフ時間を通常時よりも長い時間にしている場合には、上下アームの各スイッチ21,22において実質的にオフ状態になるタイミングが遅れ、上下アームの短絡等の懸念が生じる。これに対し、図21に一点鎖線で示すように、ゲート信号をオフするタイミングを早め、taからtbに変更する。この場合、ゲート信号のオフタイミングを早めることにより、ターンオフ時間を長くした状態でも上下アームの短絡等が抑制されるものとなっている。図21では、通常時のデッドタイムがDTaであるのに対し、スイッチング損失増大時のデッドタイムがDTbとなっている。
【0120】
制御装置40は、スイッチング損失増大の制御としてターンオフ時間を長くする場合において、ターンオフ遅れに相当する分だけ、前もって各相の電圧指令値を下げておくフィードフォワード制御を実施するとよい。例えば、図22に示すように、補正指令部81を設け、創熱要求が生じた場合に、フィードフォワード補正項により各相の電圧指令値を減補正する構成とする。これにより、スイッチング損失増大時において好適にデッドタイムを長くすることができる。
【0121】
創熱要求があると判定された場合において、創熱要求の無い場合に比べてデッドタイムを長くすることで、スイッチング損失増大のためにスイッチのターンオフ時間が長くなっていても、上下アームの短絡を抑制することができる。
【0122】
・上記第1実施形態において、図15の創熱制御では、位置合わせ制御において直流d軸電流を流す場合(ステップS17,S18)に、スイッチング損失増大の制御を行わない構成としたが、これを変更し、位置合わせ制御において直流d軸電流を流す場合(ステップS17,S18)に、スイッチング損失増大の制御を行うよういしてもよい。
【0123】
・上記各実施形態では、インバータ20において、各スイッチ21,22のターンオン時間及びターンオフ時間の少なくともいずれかを可変とする構成(スイッチング損失増大の構成)として、各スイッチ21,22のゲート抵抗を切り替える制御を実施したが、これを変更してもよい。例えば、各スイッチ21,22のゲート印加電圧を可変とする構成としてもよい。制御装置40は、創熱要求が生じている場合に、ゲート電圧を、創熱制御が生じていない通常時よりも低い電圧とする。これにより、半導体スイッチング素子においてゲートの充放電に要する時間が長引き、スイッチング損失が増大される。
【0124】
・上記各実施形態では、d軸通電による創熱制御において、交流d軸電流として正弦波状のd軸電流を流す構成としたが、これを変更し、交流d軸電流として矩形波状のd軸電流を流す構成であってもよい。交流d軸電流は、一定時間ごとに正負両側に交互に流れるものであればよい。
【0125】
・本発明は、電動車両以外に、飛行体や船舶等、他の移動体に適用されるものであってもよい。また、定置式のシステムに適用されるものであってもよい。
【0126】
本開示に記載の制御部及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ以上の専用ハードウエア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウエア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【0127】
上述の実施形態から抽出される技術思想を以下に記載する。
[構成1]
多相の巻線(11)を有する回転電機(10)と、半導体スイッチング素子からなる複数のスイッチ(21,22)のオンオフにより前記巻線における各相の相電流を調整するインバータ(20)と、を備える回転電機システムに適用され、前記インバータにおける前記スイッチのオンオフを制御する制御装置(40)であって、
前記回転電機システムにおける創熱要求の有無を判定する判定部と、
前記創熱要求があると判定された場合に、前記スイッチのターンオン時及びターンオフ時の少なくともいずれかの遷移時間が、前記創熱要求の無い場合に比べて長い時間となるように前記スイッチを制御するスイッチ制御部と、
を備える回転電機システムの制御装置。
[構成2]
前記スイッチ制御部は、前記創熱要求があると判定された場合に、前記スイッチのターンオフ時においてターンオン時に比べて大きいスイッチング損失を生じさせる、構成1に記載の回転電機システムの制御装置。
[構成3]
前記スイッチ制御部は、前記創熱要求があると判定された場合において、前記スイッチのターンオン時の遷移時間を、前記創熱要求の無い場合と同じ時間とし、ターンオフに時の遷移時間を、前記創熱要求の無い場合に比べて長い時間とする、構成1又は2に記載の回転電機システムの制御装置。
[構成4]
前記インバータは、前記スイッチとして、相ごとに直列接続されてなる上アームスイッチ(21)と下アームスイッチ(22)とを有するとともに、前記スイッチにおいて前記半導体スイッチング素子に逆並列に接続されたダイオード(23)を有しており、
前記スイッチ制御部は、いずれかの相の前記上アームスイッチをオンして前記巻線に相電流を流し、その後当該上アームスイッチをオフして相電流を還流させる際に、当該上アームスイッチと同相の前記下アームスイッチをオフ状態のままとして、当該下アームスイッチに並列の前記ダイオードを介して相電流を還流させる、構成1~3のいずれか1つに記載の回転電機システムの制御装置。
[構成5]
前記インバータは、前記スイッチとして、相ごとに直列接続されてなる上アームスイッチ(21)と下アームスイッチ(22)とを有し、
前記上アームスイッチ及び前記下アームスイッチは、デッドタイムを挟んで交互にオンされるものとなっており、
前記スイッチ制御部は、前記創熱要求があると判定された場合において、前記創熱要求の無い場合に比べて前記デッドタイムを長くする、構成1~3のいずれか1つに記載の回転電機システムの制御装置。
[構成6]
前記インバータにおいてPWMパルスにより前記スイッチのオンオフが制御される制御装置であり、
前記スイッチ制御部は、前記PWMパルスのオン時間が所定時間よりも短い場合に、スイッチング損失増大を実施しない、構成1~5のいずれか1つに記載の回転電機システムの制御装置。
[構成7]
前記スイッチの温度であるスイッチ温度を取得する取得部を備え、
前記スイッチ制御部は、前記遷移時間を長くする損失増大期間を、前記スイッチ温度に基づいて設定する、構成1~6のいずれか1つに記載の回転電機システムの制御装置。
[構成8]
前記創熱要求があると判定された場合において、前記回転電機の回転停止状態で、前記巻線の各相に正負両側で交流変化する相電流が流れるように電流制御を実施する電流制御部を備え、
前記スイッチ制御部は、前記電流制御部による電流制御の実施に際し、各相の前記スイッチにおける前記遷移時間を、前記創熱要求の無い場合に比べて長い時間となるように制御する、構成1~7のいずれか1つに記載の回転電機システムの制御装置。
[構成9]
前記電流制御部は、前記電流制御として、d軸電流及びq軸電流のうちd軸電流のみが流れる状態で、正負両側で交流変化する各相の相電流を制御する、構成8に記載の回転電機システムの制御装置。
[構成10]
前記スイッチ制御部は、前記巻線の各相に流れる相電流の大きさに基づいて、前記遷移時間を長くする損失増大期間を設定する、構成8又は9に記載の回転電機システムの制御装置。
[構成11]
前記回転電機の回転がギア装置(51)のギアに伝達される構成となっており、
前記電流制御部は、前記回転電機に回転方向一方側のトルクを生じさせ、かつ当該トルクの絶対値が所定値を超えないように電流制御を実施する、構成8に記載の回転電機システムの制御装置。
[構成12]
前記回転電機は、移動体において移動のための動力源であり、
前記電流制御部の電流制御により前記回転電機の回転方向一方側へのトルクが生じる場合に、前記移動体の移動を抑制するブレーキを作動させるブレーキ指令部を備える、構成11に記載の回転電機システムの制御装置。
[構成13]
前記電流制御部は、前記回転電機の回転停止状態において、前記巻線の各相の相電流が全て所定の閾値以上となるように電流制御を実施する、構成8~12のいずれか1つに記載の回転電機システムの制御装置。
【符号の説明】
【0128】
10…回転電機、11…コイル、20…インバータ、21,22…スイッチ、40…制御装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図9
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図18
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