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特開2024-164536巻上機構、時計用ムーブメントおよび時計
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024164536
(43)【公開日】2024-11-27
(54)【発明の名称】巻上機構、時計用ムーブメントおよび時計
(51)【国際特許分類】
   G04B 5/14 20060101AFI20241120BHJP
【FI】
G04B5/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023080092
(22)【出願日】2023-05-15
(71)【出願人】
【識別番号】502366745
【氏名又は名称】セイコーウオッチ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】早川 和樹
(57)【要約】
【課題】ぜんまいの巻き上げ効率の向上を図ることができる巻上機構を提供する。
【解決手段】巻上機構27は、ぜんまいを巻き上げる際に一方向に回転されるラチェット歯車71と、多角形状のカム面61、および軸方向に延びる回転軸線Cを有し、回転錘と同期回転する多角形カム60と、多角形カム60が相対回転可能に挿通される窓84が形成され、窓84の壁面85の少なくとも一部がカム面61に摺接し、多角形カム60の回転によって軸方向に直交する第1方向に沿ってラチェット歯車71に接近離間する基部81と、基部81からラチェット歯車71側に延び、基部81がラチェット歯車71から離間する際にラチェット歯71aに係合する引き爪88を有する引きレバー82と、基部81からラチェット歯車71側に延び、基部81がラチェット歯車71に接近する際にラチェット歯71aに係合する押し爪89を有する押しレバー83と、を備える。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ぜんまいを巻き上げる際に一方向に回転されるラチェット歯車と、
多角形状のカム面、および軸方向に延びる回転軸線を有し、回転錘と同期回転する多角形カムと、
前記多角形カムが相対回転可能に挿通される窓が形成され、前記窓の壁面の少なくとも一部が前記カム面に摺接し、前記多角形カムの回転によって前記軸方向に直交する第1方向に沿って前記ラチェット歯車に接近離間する基部と、
前記基部から前記ラチェット歯車側に延び、前記基部が前記ラチェット歯車に接近する際に前記ラチェット歯車のラチェット歯を乗り越えるとともに、前記基部が前記ラチェット歯車から離間する際に前記ラチェット歯に係合する引き爪を有する引きレバーと、
前記基部から前記ラチェット歯車側に延び、前記基部が前記ラチェット歯車に接近する際に前記ラチェット歯に係合するとともに、前記基部が前記ラチェット歯車から離間する際に前記ラチェット歯を乗り越える押し爪を有する押しレバーと、
を備える巻上機構。
【請求項2】
前記壁面は、前記軸方向から見て前記第1方向に直交する第2方向に沿って延びるとともに前記多角形カムを挟むように形成され、前記カム面に摺接する一対の摺接面を有する、
請求項1に記載の巻上機構。
【請求項3】
前記カム面は、ルーローの多角形状に形成されている、
請求項2に記載の巻上機構。
【請求項4】
前記壁面は、前記第1方向に沿って延びるとともに前記多角形カムを挟むように形成され、前記カム面に摺接する一対の側面を有する、
請求項3に記載の巻上機構。
【請求項5】
前記壁面は、前記多角形カムに対して前記軸方向から見て前記第1方向に直交する第2方向の両側に設けられ、前記カム面に対して非接触とされた一対の側面を有する、
請求項1または請求項2に記載の巻上機構。
【請求項6】
前記回転錘の回転を減速または増速して前記多角形カムに伝達する伝達部をさらに備える請求項1または請求項2に記載の巻上機構。
【請求項7】
前記多角形カムの前記回転軸線は、前記軸方向から見て前記カム面をなす多角形の重心と一致する、
請求項1または請求項2に記載の巻上機構。
【請求項8】
前記多角形カムの前記回転軸線は、前記軸方向から見て前記カム面をなす多角形の重心に対し、前記多角形の一の辺寄りに偏心している、
請求項1または請求項2に記載の巻上機構。
【請求項9】
前記押しレバーは、前記基部が前記ラチェット歯車に接近する際に前記ラチェット歯車を前記ラチェット歯の1歯以上5歯以下に対応する角度回転させ、
前記引きレバーは、前記基部が前記ラチェット歯車に離間する際に前記ラチェット歯車を前記ラチェット歯の1歯以上5歯以下に対応する角度回転させる、
請求項1または請求項2に記載の巻上機構。
【請求項10】
請求項1に記載の巻上機構を備える時計用ムーブメント。
【請求項11】
請求項10に記載の時計用ムーブメントを備える時計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、巻上機構、時計用ムーブメントおよび時計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
機械式時計では、動力源であるぜんまいを巻き上げる機構として、ぜんまいを巻き上げるべく一方向に回転されるラチェット歯車と、ラチェット歯車のラチェット歯に係合する引き爪および押し爪を備えた引きレバーおよび押しレバーを二又状に持つ爪レバーとを有する機構が知られている(例えば、下記特許文献1参照)。この種のラチェット歯車を有する巻上機構は、爪レバーの基部が偏心軸に嵌合されて偏心回転される際の偏心運動を引き爪および押し爪によるラチェット歯車の一方向回転に変換する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実公昭46-037024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の巻上機構では、偏心軸の1回転で爪レバーが1往復するだけなので、ラチェット歯車の回転効率が低く、ぜんまいの巻き上げ効率に改善の余地がある。
【0005】
そこで本発明は、ぜんまいの巻き上げ効率の向上を図ることができる巻上機構、並びにその巻上機構を備えた時計用ムーブメントおよび時計を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様に係る巻上機構は、ぜんまいを巻き上げる際に一方向に回転されるラチェット歯車と、多角形状のカム面、および軸方向に延びる回転軸線を有し、回転錘と同期回転する多角形カムと、前記多角形カムが相対回転可能に挿通される窓が形成され、前記窓の壁面の少なくとも一部が前記カム面に摺接し、前記多角形カムの回転によって前記軸方向に直交する第1方向に沿って前記ラチェット歯車に接近離間する基部と、前記基部から前記ラチェット歯車側に延び、前記基部が前記ラチェット歯車に接近する際に前記ラチェット歯車のラチェット歯を乗り越えるとともに、前記基部が前記ラチェット歯車から離間する際に前記ラチェット歯に係合する引き爪を有する引きレバーと、前記基部から前記ラチェット歯車側に延び、前記基部が前記ラチェット歯車に接近する際に前記ラチェット歯に係合するとともに、前記基部が前記ラチェット歯車から離間する際に前記ラチェット歯を乗り越える押し爪を有する押しレバーと、を備える。
【0007】
第1の態様によれば、基部がラチェット歯車に接近離間するように1往復する毎に、ラチェット歯に係合する引きレバーおよび押しレバーそれぞれが1往復し、ラチェット歯車を一方向に回転させてぜんまいを巻き上げる。ここで基部は、多角形カムが相対回転可能に挿通されて摺接する窓を有しているので、多角形カムが1回転する毎にカム面をなす多角形の頂点の数だけラチェット歯車に接近離間する。このため、従来の偏心軸の1回転で爪レバーが1往復だけする構成と比較して、ラチェット歯車の回転効率を向上させて、ぜんまいを効率よく巻き上げることができる。したがって、ぜんまいの巻き上げ効率の向上を図ることが可能な巻上機構を提供できる。
【0008】
ところで、巻上機構は、基部がラチェット歯車側に最も接近する状態、およびラチェット歯車から最も離間する状態に、回転錘の回転に応じて基部がラチェット歯車に接近離間しない死点を持つ。引きレバーおよび押しレバーは、死点を含む所定の動作範囲でラチェット歯車を一方向に回転させることができない。第1の態様によれば、従来の偏心軸の1回転で爪レバーが1往復だけする構成と比較して、回転錘の所定角度の回転に対して引きレバーおよび押しレバーを長距離動作させるので、死点周辺でラチェット歯車が回転しない回転錘の回転角度範囲を小さくすることができる。したがって、回転錘の微小な揺動でもぜんまいを巻き上げることが可能となる。
【0009】
本発明の第2の態様に係る巻上機構は、上記第1の態様に係る巻上機構において、前記壁面は、前記軸方向から見て前記第1方向に直交する第2方向に沿って延びるとともに前記多角形カムを挟むように形成され、前記カム面に摺接する一対の摺接面を有していてもよい。
【0010】
第2の態様によれば、一対の摺接面のうちラチェット歯車寄りの一方の摺接面にカム面の頂点が摺接して多角形カムの回転軸線から一方の摺接面を遠ざける際に基部をラチェット歯車に接近させ、他方の摺接面にカム面の頂点が摺接して多角形カムの回転軸線から他方の摺接面を遠ざける際に基部をラチェット歯車から離間させることができる。したがって、多角形カムを1回転させる毎に、カム面をなす多角形の頂点の数だけ基部をラチェット歯車に接近離間させることができる。
【0011】
本発明の第3の態様に係る巻上機構は、上記第2の態様に係る巻上機構において、前記カム面は、ルーローの多角形状に形成されていてもよい。
【0012】
第3の態様によれば、軸方向から見たカム面の差し渡しの幅と一対の摺接面の間隔とを一致させることで、多角形カムの位相によらず基部が多角形カムに対して第1方向に変位しない。これにより、多角形カムの回転に応じて基部をガタツキなくラチェット歯車に接近離間させることができる。したがって、回転錘の回転に応じてぜんまいをスムーズに巻き上げることができる。
【0013】
本発明の第4の態様に係る巻上機構は、上記第3の態様に係る巻上機構において、前記第1方向に沿って延びるとともに前記多角形カムを挟むように形成され、前記カム面に摺接する一対の側面を有していてもよい。
【0014】
第4の態様によれば、軸方向から見たカム面の差し渡しの幅と一対の側面の間隔とを一致させることで、多角形カムの位相によらず基部が多角形カムに対して第2方向に変位しない。これにより、多角形カムの回転に応じて基部をガタツキなく偏心回転させることができる。したがって、回転錘の回転に応じてぜんまいをよりスムーズに巻き上げることができる。
【0015】
本発明の第5の態様に係る巻上機構は、上記第1の態様から第3の態様のいずれかの態様に係る巻上機構において、前記壁面は、前記多角形カムに対して前記軸方向から見て前記第1方向に直交する第2方向の両側に設けられ、前記カム面に対して非接触とされた一対の側面を有していてもよい。
【0016】
第5の態様によれば、一対の側面がカム面に摺接する構成と比較して、窓の第2方向の寸法の公差を大きく設定することができる。したがって、巻上機構の生産性を向上させることができる。
【0017】
本発明の第6の態様に係る巻上機構は、上記第1の態様から第5の態様のいずれかの態様に係る巻上機構において、前記回転錘の回転を減速または増速して前記多角形カムに伝達する伝達部をさらに備えていてもよい。
【0018】
第6の態様によれば、回転錘を回転させる毎に多角形カムの位相を変化させることができる。これにより、死点における回転錘の位相が変化するので、本態様の巻上機構が搭載された時計において、どのような姿勢でも平均的にぜんまいが巻き上がる。したがって、時計のユーザの頻出姿勢によらずぜんまいを巻き上げることが可能な巻上機構とすることができる。また、ユーザの頻出姿勢に基づいて回転錘の位相と多角形カムの位相とを合わせて組み立てる必要がないので、巻上機構の生産性を向上させることができる。
【0019】
本発明の第7の態様に係る巻上機構は、上記第1の態様から第6の態様のいずれかの態様に係る巻上機構において、前記多角形カムの前記回転軸線は、前記軸方向から見て前記カム面をなす多角形の重心と一致していてもよい。
【0020】
第7の態様によれば、従来の偏心軸により爪レバーを揺動回転させる構成のように、偏心軸の位相と回転錘の位相とを合わせて組み立てる必要がないので、巻上機構の生産性を向上させることができる。
【0021】
本発明の第8の態様に係る巻上機構は、上記第1の態様から第6の態様のいずれかの態様に係る巻上機構において、前記多角形カムの前記回転軸線は、前記軸方向から見て前記カム面をなす多角形の重心に対し、前記多角形の一の辺寄りに偏心していてもよい。
【0022】
第8の態様によれば、軸方向から見てカム面の一の辺を対辺とする所定の頂点が基部の窓の壁面を押す際に、他の頂点が壁面を押す場合よりも長距離にわたって基部を変位させることができる。したがって、ラチェット歯車をより効率よく回転させることができる。
【0023】
本発明の第9の態様に係る巻上機構は、上記第1の態様から第8の態様のいずれかの態様に係る巻上機構において、前記押しレバーは、前記基部が前記ラチェット歯車に接近する際に前記ラチェット歯車を前記ラチェット歯の1歯以上5歯以下に対応する角度回転させ、前記引きレバーは、前記基部が前記ラチェット歯車に離間する際に前記ラチェット歯車を前記ラチェット歯の1歯以上5歯以下に対応する角度回転させてもよい。
【0024】
第9の態様によれば、回転錘の回転量とぜんまいの巻上量とのバランスを最適化することができる。
【0025】
本発明の第10の態様に係る時計用ムーブメントは、上記第1の態様から第9の態様のいずれかの態様に係る巻上機構を備える。
【0026】
第10の態様によれば、ぜんまいの巻き上げ効率の向上が図られた時計用ムーブメントを提供できる。
【0027】
本発明の第11の態様に係る時計は、上記第10の態様に係る時計用ムーブメントを備える。
【0028】
第11の態様によれば、ぜんまいが効率よく巻き上がる時計を提供できる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、ぜんまいの巻き上げ効率の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】実施形態の時計の外観図である。
図2】第1実施形態のムーブメントを表側から見た平面図である。
図3】第1実施形態のムーブメントの一部を示す平面図である。
図4】第1実施形態の巻上機構の一部を示す平面図である。
図5】第1実施形態の巻上機構の一部を裏側から見た背面図である。
図6】第1実施形態の多角形カムの回転角度と爪レバー体の基部との位置関係を示す図である。
図7】爪レバー体がラチェット歯車に接近する動きを示す平面図である。
図8】爪レバー体がラチェット歯車から離れる動きを示す平面図である。
図9】第2実施形態の巻上機構の一部を示す平面図である。
図10】第3実施形態の巻上機構の一部を示す平面図である。
図11】第4実施形態の巻上機構の一部を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお以下の説明では、同一または類似の機能を有する構成に同一の符号を付す。そして、それら構成の重複する説明は省略する場合がある。
【0032】
一般に、時計の駆動部分を含む機械体を「ムーブメント」と称する。このムーブメントに文字板、針を取り付けて、時計ケースの中に入れて完成品にした状態を時計の「コンプリート」と称する。針の回転軸線方向を軸方向と称する。軸方向のうち、時計の基板である地板からケース裏蓋側に向かう方向を表側、その反対側を裏側として説明する。
【0033】
図1は、実施形態の時計の外観図である。
図1に示すように、本実施形態の時計1のコンプリートは、時計ケース2内に、ムーブメント3(時計用ムーブメント)と、文字板4と、時針5、分針6および秒針7を含む指針と、を備えている。
【0034】
時計ケース2は、ケース本体10と、ケース裏蓋(不図示)と、カバーガラス11と、を備えている。ケース本体10の側面のうち、3時位置にはりゅうず15が設けられている。りゅうず15は、ケース本体10の外側からムーブメント3を操作するためのものである。りゅうず15は、ケース本体10内に挿通された巻真19に固定されている。
【0035】
[第1実施形態]
図2は、第1実施形態のムーブメントを表側から見た平面図である。なお図2では、後述する回転錘40の一部を仮想線で示している。
図2に示すように、ムーブメント3は地板20を有している。地板20の巻真案内穴には、巻真19が組み込まれている。巻真19は、日付や時刻の修正に用いられる。巻真19は、その軸線回りに回転可能、かつ巻真19の軸線方向に移動可能とされている。巻真19の先端部(りゅうず15側とは反対側の端部)は、ムーブメント3に連係されている。
【0036】
地板20の表側には、表輪列25や、表輪列25の回転を制御する脱進調速機26、巻上機構27等が搭載されている。一方、地板20の裏側には、裏輪列等が搭載されている。表輪列25は、香箱車30、二番車、三番車および四番車(何れも不図示)を含んでいる。表輪列25のうち、四番車には秒針7が取り付けられている。二番車には、分針6が取り付けられている。
【0037】
香箱車30は、香箱真と、香箱真に取り付けられた香箱31と、香箱31内に収容されたぜんまいと、を有している。香箱真の軸方向の両端部は、地板20および一番受21に回転可能に支持されている。香箱31は、香箱真に軸方向に延びる軸線A回りに回転可能に支持されている。香箱31の香箱歯車32は、図示しない二番車に噛合されている。
【0038】
ぜんまいは、軸方向から見た平面視で渦巻状に巻回された平ひげである。ぜんまいの内側端部は、香箱真に接続されている。一方、ぜんまいの外側端部は、香箱31の内周面に接続されている。ぜんまいは、巻上機構27の作動によって香箱真が回転することで、巻き上げられる。香箱31は、ぜんまいが巻き解ける際の回転力(復元力)により、回転する。なお、ぜんまいの外側端部は、いわゆるスリッピングアタッチメントを介して香箱31の内周面に摺接する構成であっても構わない。
【0039】
上述した裏輪列は、図示しない筒車を含んでいる。筒車は、上述した二番車の回転に伴って12時間に1回転する。筒車には、時針5が取り付けられている。
【0040】
図3は、第1実施形態のムーブメントの一部を示す平面図である。なお図3では、回転錘40の一部、および後述する自動巻輪列受22を仮想線で示している。
図3に示すように、巻上機構27は、角穴車33と、図示しない手動巻輪列と、自動巻輪列35と、を備えている。
【0041】
角穴車33は、香箱車30と同軸上に配置されている。具体的に、角穴車33は、上述した香箱真のうち、一番受21に対して表側に位置する部分に固定されている。角穴車33は、A1方向に香箱真と一体で回転することにより香箱31に収容されたぜんまいを巻き上げる。なお、角穴車33の歯部33aには、A2方向への角穴車33の回転を規制するこはぜ37が係合している。
【0042】
手動巻輪列は、巻真19と角穴車33との間を接続している。手動巻輪列は、例えばつづみ車や、きち車、丸穴車等を有している。手動巻輪列は、りゅうず15を把持して巻真19を回転させたときの回転トルクを、角穴車33に伝達する。これにより、時計1のユーザは、香箱31に収容されたぜんまいを手動で巻き上げることができる。
【0043】
図3に示すように、自動巻輪列35は、いわゆるマジックレバー方式のものであって、例えばユーザの腕の動き等に応じてぜんまいを巻き上げる。自動巻輪列35は、回転錘40と、伝え車50と、多角形カム60(図4参照)と、ラチェット車70と、爪レバー体80と、を備えている。
【0044】
回転錘40は、一番受21の表側に配置されている。回転錘40は、軸線B回りの双方向に回動可能に構成されている。具体的に、回転錘40は、ボールベアリング41と、回転錘体42と、回転重錘43と、を有している。
【0045】
ボールベアリング41は、軸線Bと同軸上に配置されている。ボールベアリング41の内輪は、一番受21に固定されている。ボールベアリング41の外輪41aは、内輪との間で転動可能なボールを介して内輪に外挿されている。したがって、外輪41aは、内輪に対して軸方向に延びる軸線B回りに回転可能とされている。外輪41aの外周面には、回転錘かな44が形成されている。
【0046】
回転錘体42は、平面視で扇形に形成されている。回転錘体42の中央部は、外輪41aに外嵌されている。回転重錘43は、回転錘体42の外周部分に固定されている。
【0047】
伝え車50は、地板20および一番受21に支持されている。伝え車50は、軸方向に延びる回転軸線C回りの双方向に回転可能に構成されている。伝え車50は、伝え歯車51を有する。伝え歯車51は、回転錘かな44と噛み合っている。伝え歯車51の歯数は、回転錘かな44の歯数と相違する。本実施形態では、伝え歯車51の歯数は60で、回転錘かな44の歯数は70である。これにより、伝え歯車51は、回転錘かな44と協働して、回転錘40の回転を増速して多角形カム60に伝達する伝達部を構成する。なお伝え歯車51および回転錘かな44の歯数の関係は、上記構成に限定されず、伝え歯車51が1周する毎に伝え歯車51と噛み合う回転錘かな44の歯が異なる構成であればよい。
【0048】
図4は、第1実施形態の巻上機構の一部を示す平面図である。図5は、第1実施形態の巻上機構の一部を裏側から見た背面図である。
図4および図5に示すように、多角形カム60は、伝え歯車51の裏側に配置されている。多角形カム60は、回転軸線C回りを伝え歯車51と一体回転する。すなわち、多角形カム60は、回転錘40と同期回転する。多角形カム60は、回転軸線Cを囲む多角形状のカム面61を有する。カム面61は、平面視で定幅曲線の一種であるルーローの多角形状に形成されている。本実施形態では、カム面61は、平面視でルーローの三角形状に形成されている。以下の説明では、軸方向から見た場合にカム面61をなす多角形の頂点を単にカム面61の頂点62と称する。多角形カム60は、その回転軸線Cが平面視でカム面61をなす多角形(三角形)の重心と一致するように配置されている。カム面61は、その全体が平面視で伝え歯車51の外形線よりも内側に位置するように形成されている。
【0049】
ラチェット車70は、一番受21と、一番受21よりも表側に配置された自動巻輪列受22と、に支持されている(図2および図3参照)。ラチェット車70は、軸方向に延びる軸線D回りに回転可能に構成されている。ラチェット車70は、ラチェット歯車71と、かな72と、を備える。かな72は、角穴車33と噛み合っている。ラチェット車70は、ぜんまいを巻き上げる際にD1方向に回転する。
【0050】
ラチェット歯車71は、かな72の表側に配置されている。ラチェット歯車71は、その外周に複数のラチェット歯71aを有する。ラチェット歯71aは、軸線D回りの周方向に等間隔で配置されている。ラチェット歯71aは、軸線Dを中心とする径方向の外向きに対してD2方向に傾斜した方向に先細っている。
【0051】
ここで、軸方向に直交する第1方向および第2方向を以下のように定義する。第1方向は、軸方向から見て回転軸線Cおよび軸線Dを通る直線の延在方向である。第2方向は、軸方向および第1方向に直交する方向である。
【0052】
爪レバー体80は、伝え歯車51の裏側に配置された基部81と、基部81からラチェット歯車71側に延びる引きレバー82および押しレバー83と、を備える。
【0053】
基部81は、その全体が軸方向から見て伝え歯車51に重なるように配置されている。基部81は、多角形カム60を囲うように配置されている。基部81には、多角形カム60が相対回転可能に挿通される窓84が形成されている。窓84の壁面85の少なくとも一部は、多角形カム60のカム面61に摺接する。窓84の壁面85は、全周にわたって軸方向に延びている。窓84の壁面85は、一対の摺接面86と、一対の側面87と、を有する。
【0054】
一対の摺接面86は、多角形カム60を第1方向の両側から挟むように形成されている。一対の摺接面86は、それぞれ第2方向に沿って延び、互いに平行に形成されている。一対の摺接面86の間隔は、多角形カム60のカム面61の差し渡しの幅と一致している。これにより、一対の摺接面86は、カム面61に常時摺接する。
【0055】
一対の側面87は、一対の摺接面86同士を接続する。一対の側面87は、多角形カム60に対して第2方向の両側に設けられている。一対の側面87は、第1方向に沿って延びるとともに多角形カムを第2方向の両側から挟むように形成されている。一対の側面87は、互いに平行に形成されている。一対の側面87の間隔は、多角形カム60のカム面61の差し渡しの幅と一致している。これにより、一対の側面87は、カム面61に常時摺接する。
【0056】
引きレバー82および押しレバー83は、ラチェット歯車71を軸方向に直交する方向で挟持するように配置されている。引きレバー82は、引き爪88を有する。引き爪88は、引きレバー82の先端の内側面に形成されている。引き爪88は、ラチェット歯車71側に突出し、ラチェット歯71aに接触している。引き爪88は、基部81がラチェット歯車71から離間する際にD1方向に沿って変位する。引き爪88は、軸線D側よりもD1方向に傾斜した方向に先細っている。押しレバー83は、押し爪89を有する。押し爪89は、押しレバー83の先端の内側面に形成されている。押し爪89は、ラチェット歯車71側に突出し、ラチェット歯71aに接触している。押し爪89は、基部81がラチェット歯71aに接近する際にD1方向に沿って変位する。押し爪89は、軸線D側よりもD1方向に傾斜した方向に先細っている。
【0057】
次に、上述した巻上機構27の動作について説明する。
ぜんまいの巻き上げ時の動作を説明する。
ユーザの腕の動き等に伴い、図3に示す回転錘40に外力が作用すると、回転錘40は軸線B回りの何れかの方向に回転する。回転錘40が回転すると、伝え車50が回転錘40の回転方向と逆方向に回転する。具体的に、回転錘40の回転トルクは、回転錘かな44を介して伝え歯車51に伝達される。伝え車50が回転すると、多角形カム60も伝え車50と一体回転する。
【0058】
ここで、爪レバー体80の基部81は、引きレバー82および押しレバー83がラチェット歯車71を挟持していることで、回転軸線Cの周りを回転することを規制されている。このため、伝え車50が回転すると、多角形カム60が基部81の窓84の壁面85に内接しながら基部81と相対回転する。多角形カム60が基部81に対して回転すると、基部81がカム面61の頂点62に押圧されて変位する。具体的に、カム面61の頂点62は、基部81の窓84の壁面85のうちラチェット歯車71側の摺接面86に摺接する際に基部81をラチェット歯車71側に押し、壁面85のうちラチェット歯車71の反対側の摺接面86に摺接する際に基部81をラチェット歯車71の反対側に押す。カム面61の頂点62は奇数個(本実施形態では3個)設けられているので、一方の摺接面86にカム面61の頂点62が近づくとき、他方の摺接面86からカム面61の頂点62が離れる。これにより、多角形カム60が回転すると、多角形カム60の回転方向によらず、基部81がラチェット歯車71に接近離間するように第1方向に沿って変位する。本実施形態では、多角形カム60は三角形状に形成されているので、多角形カム60が1回転する毎に、基部81は第1方向に沿って3往復する。基部81が第1方向に沿って変位すると、基部81に接続された引きレバー82および押しレバー83も一体に変位する。
【0059】
図6は、第1実施形態の多角形カムの回転角度と爪レバー体の基部との位置関係を示す図である。
ここで、図6に示すように、窓84の一方の摺接面86が回転軸線Cから最も遠ざかった状態を基準として、多角形カム60の回転角度を0°とする。多角形カム60の回転角度が0°のとき、カム面61の第1の頂点62Aが窓84の一方の摺接面86に接触し、カム面61のうち第1の頂点62Aの対辺に対応する湾曲面63Aが窓84の他方の摺接面86に接触している。多角形カム60が回転すると、カム面61の第1の頂点62Aが窓84の一方の摺接面86から離れるように変位するとともに、カム面61の第2の頂点62Bが窓84の他方の摺接面86に近付くように変位して窓84の他方の摺接面86を押す。これにより、窓84の一方の摺接面86が回転軸線Cに近づくとともに、窓84の他方の摺接面86が回転軸線Cから離れる。
【0060】
そして、多角形カム60の回転角度が60°になると、カム面61の第2の頂点62Bに押された窓84の他方の摺接面86が回転軸線Cから最も遠ざかった状態となる。この状態では、カム面61のうち第2の頂点62Bの対辺に対応する湾曲面63Bが窓84の一方の摺接面86に接触している。そして、多角形カム60がさらに回転すると、カム面61の第2の頂点62Bが窓84の他方の摺接面86から離れるように変位するとともに、カム面61の第3の頂点62Cが窓84の一方の摺接面86に近付くように変位して一方の摺接面86を押す。これにより、窓84の他方の摺接面86が回転軸線Cに近づくとともに、窓84の一方の摺接面86が回転軸線Cから離れる。そして、多角形カム60の回転角度が120°になると、基部81は多角形カム60の回転角度が0°の状態と同じ状態になる。このように、本実施形態では、多角形カム60が120°回転する毎に、基部81は第1方向に沿って1往復する。
【0061】
また、多角形カム60が回転すると、カム面61の頂点62は基部81の窓84の壁面85の一対の側面87を押す。これにより、多角形カム60が回転すると、多角形カム60の回転方向によらず、基部81がラチェット歯車71に第2方向に沿って変位する。よって、基部81は、回転軸線C回りを偏心回転する。
【0062】
図7は、爪レバー体がラチェット歯車に接近する動きを示す平面図である。なお図7では、動作前の爪レバー体80を仮想線で示している。
図7に示すように、基部81がラチェット歯車71に接近すると、引きレバー82の引き爪88がラチェット歯71aを乗り越える一方で、押しレバー83の押し爪89がラチェット歯71aに係合してラチェット歯車71を押す。これにより、基部81がラチェット歯車71に接近すると、ラチェット歯車71がD1方向に回転する。本実施形態では、押しレバー83は、基部81がラチェット歯車71に接近する際にラチェット歯車71をラチェット歯71aの1歯以上5歯以下、望ましくは2歯以上4歯以下に対応する角度回転させる。
【0063】
図8は、爪レバー体がラチェット歯車から離れる動きを示す平面図である。なお図8では、動作前の爪レバー体80を仮想線で示している。
また、図8に示すように、基部81がラチェット歯車71から離間すると、引きレバー82の引き爪88がラチェット歯71aに係合してラチェット歯車71を引く一方で、押しレバー83の押し爪89がラチェット歯71aを乗り越える。これにより、基部81がラチェット歯車71から離間すると、ラチェット歯車71がD1方向に回転する。本実施形態では、引きレバー82は、基部81がラチェット歯車71に離間する際にラチェット歯車71をラチェット歯71aの1歯以上5歯以下、望ましくは2歯以上4歯以下に対応する角度回転させる。
【0064】
以上により、ラチェット車70は、伝え車50の回転方向によらず、伝え車50の回転に連動して一方向(D1方向)に回転する。ラチェット車70がD1方向に回転すると、角穴車33がラチェット車70と逆方向(A1方向)に回転する。角穴車33が回転すると、香箱真が角穴車33とともに回転する。これにより、ぜんまいが巻き上げられる。
【0065】
以上に説明したように、本実施形態の巻上機構27およびムーブメント3は、多角形状のカム面61を有し、回転錘40と同期回転する多角形カム60と、多角形カム60が相対回転可能に挿通される窓84が形成され、窓84の壁面85の少なくとも一部がカム面61に摺接し、多角形カム60の回転によって軸方向に直交する第1方向に沿ってラチェット歯車71に接近離間する基部81を有する爪レバー体80と、を備える。この構成によれば、基部81がラチェット歯車71に接近離間するように1往復する毎に、ラチェット歯71aに係合する引きレバー82および押しレバー83それぞれが1往復し、ラチェット歯車71を一方向(D1方向)に回転させてぜんまいを巻き上げる。ここで基部81は、多角形カム60が相対回転可能に挿通されて摺接する窓84を有しているので、多角形カム60が1回転する毎にカム面61をなす多角形の頂点の数だけラチェット歯車71に接近離間する。このため、従来の偏心軸の1回転で爪レバーが1往復だけする構成と比較して、ラチェット歯車71の回転効率を向上させて、ぜんまいを効率よく巻き上げることができる。したがって、ぜんまいの巻き上げ効率の向上を図ることが可能な巻上機構27を提供できる。
【0066】
ところで、巻上機構27は、爪レバー体80の基部81がラチェット歯車71側に最も接近する状態、およびラチェット歯車71から最も離間する状態に、回転錘40の回転に応じて基部81がラチェット歯車71に接近離間しない死点を持つ。引きレバー82および押しレバー83は、死点を含む所定の動作範囲でラチェット歯車71を一方向(D1方向)に回転させることができない。本実施形態によれば、従来の偏心軸の1回転で爪レバーが1往復だけする構成と比較して、回転錘40の所定角度の回転に対して引きレバー82および押しレバー83を長距離動作させるので、死点周辺でラチェット歯車71が回転しない回転錘40の回転角度範囲を小さくすることができる。したがって、回転錘40の微小な揺動でもぜんまいを巻き上げることが可能となる。
【0067】
窓84の壁面85は、軸方向から見て第1方向に直交する第2方向に沿って延びるとともに多角形カム60を挟むように形成され、カム面61に摺接する一対の摺接面86を有する。この構成によれば、一対の摺接面86のうちラチェット歯車71寄りの一方の摺接面86にカム面61の頂点62が摺接して多角形カム60の回転軸線Cから一方の摺接面86を遠ざける際に基部81をラチェット歯車71に接近させることができる。また、他方の摺接面86にカム面61の頂点62が摺接して多角形カム60の回転軸線Cから他方の摺接面86を遠ざける際に基部81をラチェット歯車71から離間させることができる。したがって、多角形カム60を1回転させる毎に、カム面61をなす多角形の頂点の数だけ基部81をラチェット歯車71に接近離間させることができる。
【0068】
カム面61は、ルーローの多角形状に形成されている。この構成によれば、軸方向から見たカム面61の差し渡しの幅と一対の摺接面86の間隔とを一致させることで、多角形カム60の位相によらず基部81が多角形カム60に対して第1方向に変位しない。これにより、多角形カム60の回転に応じて基部81をガタツキなくラチェット歯車71に接近離間させることができる。したがって、回転錘40の回転に応じてぜんまいをスムーズに巻き上げることができる。
【0069】
特に本実施形態では、カム面61はルーローの三角形状に形成されている。この構成によれば、カム面が頂点を5以上有するルーローの多角形状に形成されている構成と比較して、軸方向から見たカム面の差し渡しの幅が一致する場合に、基部81を第1方向に変位させる距離を大きくすることができる。したがって、ラチェット歯車71の回転効率をより一層向上させることができる。
【0070】
窓84の壁面85は、第1方向に沿って延びるとともに多角形カム60を挟むように形成され、カム面61に摺接する一対の側面87を有する。この構成によれば、軸方向から見たカム面61の差し渡しの幅と一対の側面87の間隔とを一致させることで、多角形カム60の位相によらず基部81が多角形カム60に対して第2方向に変位しない。これにより、多角形カム60の回転に応じて基部81をガタツキなく偏心回転させることができる。したがって、回転錘40の回転に応じてぜんまいをよりスムーズに巻き上げることができる。
【0071】
回転錘40の回転を増速して多角形カム60に伝達する回転錘かな44および伝え歯車51を有する。この構成によれば、回転錘40を回転させる毎に多角形カム60の位相を変化させることができる。これにより、死点における回転錘40の位相が変化するので、本実施形態の巻上機構27が搭載された時計1において、どのような姿勢でも平均的にぜんまいが巻き上がる。したがって、時計1のユーザの頻出姿勢によらずぜんまいを巻き上げることが可能な巻上機構27とすることができる。また、ユーザの頻出姿勢に基づいて回転錘40の位相と多角形カム60の位相とを合わせて組み立てる必要がないので、巻上機構27の生産性を向上させることができる。
【0072】
多角形カム60の回転軸線Cは、軸方向から見てカム面61をなす多角形の重心と一致する。この構成によれば、従来の偏心軸により爪レバーを揺動回転させる構成のように、偏心軸の位相と回転錘の位相とを合わせて組み立てる必要がないので、巻上機構27の生産性を向上させることができる。
【0073】
押しレバー83は、基部81がラチェット歯車71に接近する際にラチェット歯車71をラチェット歯71aの1歯以上5歯以下に対応する角度回転させる。引きレバー82は、基部81がラチェット歯車71に離間する際にラチェット歯車71をラチェット歯71aの1歯以上5歯以下に対応する角度回転させる。この構成によれば、回転錘40の回転量とぜんまいの巻上量とのバランスを最適化することができる。
【0074】
そして、本実施形態の時計1は、上記のムーブメント3を有するので、ぜんまいが効率よく巻き上がる時計とすることができる。
【0075】
[第2実施形態]
次に、図9を参照して、第2実施形態について説明する。第1実施形態では、多角形カム60のカム面61が平面視でルーローの多角形状に形成されている。これに対して第2実施形態は、多角形カム160のカム面161が平面視で三角形状に形成されている点で、第1実施形態とは異なる。なお、以下で説明する以外の構成は、第1実施形態と同様である。
【0076】
図9は、第2実施形態の巻上機構の一部を示す平面図である。
図9に示すように、多角形カム160は、平面視で正三角形状に形成されたカム面161を有する。すなわち、カム面161は、軸方向から見て各頂点62の対辺が直線状に延びている。カム面161は、正三角形状に形成されている。カム面161の差し渡しの最大幅は、爪レバー体80の基部81の窓84の壁面85における一対の摺接面86の間隔と一致している。本実施形態では、第1実施形態と同様の効果を奏する。
【0077】
なお、第2実施形態では、カム面161の差し渡しの最大幅が一対の摺接面86の間隔と一致しているが、カム面161の差し渡しの最大幅が一対の摺接面86の間隔よりも小さくてもよい。この場合には、窓84の第1方向の寸法の公差を大きく設定することができる。したがって、巻上機構27の生産性を向上させることができる。
【0078】
[第3実施形態]
次に、図10を参照して、第3実施形態について説明する。第1実施形態では、多角形カム60の回転軸線Cがカム面61をなす多角形の重心と一致している。これに対して第3実施形態は、多角形カム260の回転軸線Cがカム面61をなす多角形の重心Gに対してずれている点で、第1実施形態とは異なる。なお、以下で説明する以外の構成は、第1実施形態と同様である。
【0079】
図10は、第3実施形態の巻上機構の一部を示す平面図である。
図10に示すように、多角形カム260は、その回転軸線Cが平面視でカム面61をなす多角形(三角形)の重心Gに対し、前記多角形の一の辺寄りに偏心している。具体的に、多角形カム260の回転軸線Cは、軸方向から見てカム面61の前記重心Gと一の頂点62とを通る直線L上における、前記重心Gを挟んで一の頂点62とは反対側の位置を通っている。
【0080】
本実施形態では、第1実施形態と同様の効果を奏する。これに加え、本実施形態では、軸方向から見てカム面61の一の辺を対辺とする所定の頂点62が基部81の窓84の壁面85を押す際に、他の頂点62が壁面85を押す場合よりも長距離にわたって基部81を変位させることができる。したがって、ラチェット歯車71をより効率よく回転させることができる。
【0081】
なお、多角形カムの回転軸線Cは、前記直線Lに対してずれた位置を通っていてもよい。ただし、回転軸線Cは、軸方向から見て重心Gと他の頂点とを結ぶ線分上に位置しないことが望ましい。例えば、回転軸線Cは、軸方向から見てカム面61の一の辺寄り、かつ重心Gを中心として直線Lから両方向に30°ずつ広がる扇形の範囲内を通ることが望ましい。
【0082】
[第4実施形態]
次に、図11を参照して、第4実施形態について説明する。第1実施形態では、爪レバー体80の基部81における窓84が軸方向から見て正方形状に形成されている。これに対して第4実施形態は、爪レバー体380の基部381における窓384が軸方向から見て第2方向を長手方向とする長円形状に形成されている点で、第1実施形態とは異なる。なお、以下で説明する以外の構成は、第1実施形態と同様である。
【0083】
図11は、第4実施形態の巻上機構の一部を示す平面図である。
図11に示すように、爪レバー体380の基部381には、多角形カム60が相対回転可能に挿通される窓384が形成されている。窓384の壁面385は、第1実施形態の一対の側面87に代えて、一対の側面387を有する。
【0084】
一対の側面387は、一対の摺接面86同士を接続する。各側面387は、多角形カム60から離れるように、軸方向から見て第2方向の外側に窪む凹曲面状に形成されている。図示の例では、各側面387は、軸方向から見て円弧状に延びている。各側面387は、カム面61に対して常時非接触とされている。
【0085】
本実施形態では、第1実施形態と同様の効果を奏する。これに加え、本実施形態では、一対の側面がカム面61に摺接する構成と比較して、窓384の第2方向の寸法の公差を大きく設定することができる。したがって、巻上機構27の生産性を向上させることができる。
【0086】
なお、第4実施形態では窓384が長円形状に形成されているが、窓の形状は特に限定されず、例えば第2方向を長手方向とする長方形状に形成されていてもよい。
【0087】
なお、本発明は、図面を参照して説明した上述の実施形態に限定されるものではなく、その技術的範囲において様々な変形例が考えられる。
例えば、上記実施形態では、多角形カムが三角形状(ルーローの三角形状を含む)に形成されているが、多角形カムの形状はこれに限定されない。多角形カムは、頂点の数が奇数かつ5以上の多角形状(ルーローの多角形状を含む)に形成されていてもよい。
【0088】
上記実施形態では、伝え歯車51および回転錘かな44が回転錘40の回転を増速して多角形カムに伝達しているが、この構成に限定されない。すなわち、巻上機構は、回転錘40の回転を減速して多角形カムに伝達する伝達部を有していてもよい。ただし、回転錘40の回転が増速または減速して多角形カムに伝達される場合は、回転錘40が1回転する毎に多角形カムの位相が変化するように増速比または減速比が設定されることが望ましい。なお、巻上機構は、回転錘40の回転を等速で多角形カムに伝達する伝達部を有していてもよい。さらに、多角形カムは、回転錘40と一体回転するように形成されていてもよい。
【0089】
上記実施形態では、爪レバー体が第1方向に沿って1往復する毎に引きレバー82および押しレバー83のそれぞれがラチェット歯車71をラチェット歯71aの1歯以上5歯以下に対応する角度回転させているが、この構成に限定されず、爪レバー体が1往復する毎に回転するラチェット歯車の回転角度は特に限定されない。
【0090】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上述した各実施形態および各変形例を適宜組み合わせてもよい。例えば、第2実施形態または第3実施形態に、第4実施形態の爪レバー体の基部の形状を組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0091】
1…時計 3…ムーブメント(時計用ムーブメント) 27…巻上機構 40…回転錘 44…回転錘かな(伝達部) 51…伝え歯車(伝達部) 60,160,260…多角形カム 61,161…カム面 71…ラチェット歯車 71a…ラチェット歯 81,381…基部 82…引きレバー 83…押しレバー 84,384…窓 85,385…壁面 86…摺接面 87,387…側面 88…引き爪 89…押し爪 C…回転軸線 G…重心
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11